リツコの絵 新しい仕事 身体と自由の解放区
Top Page
English


サトウリツコ ―新作

シーラム・ギャラリーは日本人アーティスト、サトウリツコの第一回目 の個展を開催できることを誇りに思います。

ピカソとマチスが、それぞれの実子の幼少期に描いた絵を保管し、真剣 に研究したことは 一般によく知られています。
この二人の画家が発見したことは、子供たちが描くものには駄作がない ということです。
そして、非常にシンプルで、それでいて、時に思いもよらない唐突な方法で物語を織り成す、 そんな何ものにも染まっていない、幼少期の子供たちの能力でした。
二人の自由奔放な色使いからも解ることですが、彼等は子供たちの絵から絶大な影響を受け たのです。

この二人の画家が発見した描写方法は、パラドックス的になりますが、円熟期に達した、 自らの手法を遠ざけなければならないというものでした。
それでも、多くの画家たちが彼等を手本として追随し、作品中に子供のような無邪気さを、ふんだんに取り入れようと真摯に努力しているのです。
サトウリツコもまた、その例に漏れず、この巨匠たちを手本にしていると思われます。

サトウは、彼女の作品の中に多く登場させている男女のカップルの、卑猥になりがちな主題と、 限りなく無邪気な描写法を、キャンバス上 で戦わせています。
また、時に彼女が描く、憔悴しきった風貌の人物は、まるで果樹と太陽の光に彩られた田園詩的な世界に、突如押し入って来た不法侵入者ででもあるかのような印象を与えます。

この緊迫感は、古代ギリシャ神話のアポロニアンとディオニュシアンの拮抗にも似た、そんな情感を甦らせるのです。

現在、美術とも商業アート(漫画雑誌等)ともつかない、両者の特性を兼ね備えた作品と、 コンピューターで作られる画像とが、日本のアートの 入り口でもあり、その中心となって います。 その中でサトウの探求は、より古いタイプのイラストへ、特に子供達が描いた絵本のイラストへと逆行しています。
それは私達を、子供達のもつ無垢な芸術的制作の全体像へと、導いてくれると考えているものだからです。

(訳者注:アポロニアンは太陽神、アポロ派。ディオニュシアンは、別名バッカスと呼ばれた酒の神、ディオニューソス派。両者は対立していたとされる。)

シーラム・ギャラリー (ニューヨーク) 
ディレクター: ニコラス・バーグマン

訳:小林 邦夫(在ニューヨーク)