ガンダムSUZAKU・第9章:絆
第9章


「潰れろォォォォォォォォォ!!!」
 巨大な光のカマ、ビーム・サイズを振りかざし、スザクのコックピットを狙うリュシフェル。
「くっ!」

    バシィッ!

 咄嗟に左腕のシールドを掲げるスザク。対ビームコーティングが施されたシールドに、刃の部分を形成しきれずビーム・サイズが蒸散した。
「チィッ、…さかしいんだよ!!」
 レイナードの舌打ちとともに、胸部のマシンキャノンを掃射する。が、それは着弾どころか、かすりもしなかった。
「何ッ!?」
 シールドでビーム・サイズを封じた次の瞬間、全てのスラスターをOFFにし、重力による自由落下のスピードを活かして、真下にかわしたのだ。
「……下に逃げるのは、考え付かなかっただろう!」
 すかさず翼状のスラスターを噴射させ、リュシフェルの真下を突っ切る。
「なッ…逃げるか、この野郎!」
 あわてて機体を反転させ飛び去ろうとするスザクを追うレイナード。しかし、加速度のほうはスザクが数段上だ。
「そうだ…来い。来るんなら、ボクのところへ来るんだ!」


 頭上の戦闘が遠ざかり、残ったのは地上にいるビャッコ、セイリュウの両機と、数十機と群がるハングドマンとなった。
「アイツは…」
 小さくなってゆくスザクの機影を見ながら、ヤァロンが呟く。
『ヤァロン!来るよ!』
 回線からパティの声が響く。もともとの目的…スザクを見失ったハングドマンが、今度はその標的を2機のガンダムに向けていた。
「チッ!」
 ハングドマンの1機がマシンガンのトリガーを引くよりも早く、セイリュウガンダムの左腕のテイルビュートが動力部を貫いた。とたんに糸の切れたマリオネットのように動きを止め、倒れるハングドマン。
『ヤァロン、やるぅ〜』
 パティが感嘆の声を上げる。その声を聞き流しながら、ヤァロンはリュシフェルと共に飛び去ったスザクの方向を眺めていた。
「……パトリシアと云ったな?何故アイツは一人で突っ走って行く? “仲間が必要だから”。アイツはそう云って俺を誘った筈だ。それがあの黒いMSを倒す為に一人で戦いに出た…。俺にはアイツの考えが解らない……」
 溜まっていた息を吐き出すかのようにヤァロンが言った。

    ガシィン!!
 そのセイリュウを狙っていたハングドマンをパティがレーザークローで叩きツブす。
『……答えになってないかもしれないけど』
 呟くように、パティが口を開く。
『タケルはね、護るために戦ってるんだ。それは例えば、自分自身だったり、友達だったり、居場所だったり……。前にちょっと聞いたことあるんだけど、タケルがあのガンダムに乗る前、大切な友達を目の前で失ったんだって。だから、自分の所為で他人(ヒト)が苦しむ所を見たくないから…無茶してでも、護ろうとするんだ。ヤァロンにも、そういう人、いない?』
「……」
 ヤァロンは何も答えなかった。
『……さっきヤァロンが言ってたこと、ちょっと賛成だな』
 ガトリング・ガンで一箇所に固まっていたMS群を掃射してから、パティが言った。
『一生懸命なんだよね、タケルって。ただ、ちょっと一生懸命過ぎるんだよね? ホントはタケルだってわかってるんだろうけどさ』

    バシィィィッ

 今度はセイリュウのヘッド・ビーム・ガンの閃光が、ハングドマン数体を貫いた。
「…?」
『……誰かを護ろうとする力って、本当強いのよね。あたしもそうだったから。NYで孤児院の子供たちや街の人たちを護るために戦ってた頃。確かにそれでも戦えてた。だけど、どうしても一人じゃ限界って言うのがあるんだよね。それで、ちょっと危なかった事もあったし。そんな時、タケルに出逢った。…タケルとの出逢いは、偶然かもしれない。それとも、必然かもしれない。でも、そんな事はどーでもいい。ただ、仲間だから。友達だから。大切な人だから…』
「…それでお前も、ヤツを護る為に戦う……?」
 パティがコックピットの中で大きく頷いた。
『そ。深く考える必要なんて無いよ。タケルが、ヤァロンやあたしを護って戦う。だったらあたし達も、タケルを護る為に戦う。…少なくとも今は、それで言いと思うンだ、あたしとしては』
 パティがそう言った頃には、もうハングドマンは、全機沈黙していた。ビームで焼かれた動力パイプから、煙が立ち上って行く。
「……不思議なヤツだな、お前も、タケルも」
 ため息と共にヤァロンが呟く。
『そっかな?』
「ああ、今まで俺が逢った人間の中では最高級にな」
『……どーも褒められてる感じがしないなぁ』
 む〜。と困ったような表情を見せるパティ。
「褒めてるさ」
 ヤァロンが苦笑する。
「…さて」
 改めて操縦桿をにぎりしめ、ヤァロンが2機のMSの飛び立った方角を見据えた。
『行くの?』
 パティが問いかける。
「…ああ。お節介な日本人の助太刀をしなきゃな」
『あたしも行くよ』
 ついていこうとするビャッコを、ヤァロンが制した。
「…無茶言うな。お前、先刻の戦いでも数回オーバーブーストを使っていただろう。今は機体のバランスを制御してるだけでも辛いんじゃないのか?」
『……』
 パティは答えなかった。立て続けに強いGをその身体に受け、既に疲労のピークに達していた事は、全身に滲む汗が物語っている。
「しばらくそこで休んでいろ。あの黒いMSは俺とタケルでケリをつける……!」
 そう言い残し、ヤァロンとセイリュウガンダムは森の奥へと姿を消した。


「くそっ……」
 一方、上空で戦うスザク…タケルは思わぬ苦戦を強いられていた。
 機動性はほぼ互角。だが、以前より明らかにリュシフェルの戦闘能力は上がっていた。
「ほらほらどーしたァ!! 面白くねぇぞ紅い奴ゥゥゥゥ!!!」
 ビーム・サイズを振りかざし、スザクに連撃を仕掛けるリュシフェル。
「まだだっ!」
 リュシフェルが今一度大鎌を振りかざし懐に飛込む。その隙を逃さず、零距離でビームレールガンを放った。

    バシィッ!

 しかしその攻撃も、機体に若干の裂傷を作っただけにとどまる。
「装甲だって上がってるんだよ。その程度の攻撃、どうって事ァねえのさ!!!」
 怯まず攻撃の手を休める事も無いレイナードの叫びがMS同士の接触を通じてスザクのコックピットに響いた。
「くぅ…。せめて、もう少し威力の高い武器があれば…」 「さぁて、遊びはもう終わりだ、そろそろ墜ちな、紅い奴よォォォッ!!!」
 万事休す!タケルが目を閉じたその瞬間だった。

    ガキィィィィン!!!

「なっ……!?」
 不可視の衝撃がリュシフェルの腹部を強打し、大きく機体を揺らせた。狼狽するレイナード。
「何だ、今の……」
 リュシフェルが弾き飛ばされた反対側を向き、衝撃をあたえた主を捜すタケル。コックピットのモニター越しに、長い龍の如き右腕を携えたセイリュウガンダムの姿があった。
「ヤァロン!?」
『どうやら無事みたいだな、タケル=レッカ!』
 伸ばした腕を戻しながら、ヤァロンがタケルに声をかける。
「どうしてここに…?」
 答える代わりに、戻したばかりの右腕をタケルのほうへ向け、ビームガンを放つ
「!」

    バシュゥゥッ!

 体勢を整えようとしたリュシフェルに追い討ちをかけるようにして二本の光の矢が新たな衝撃を加えた。
「ぐああああっ」
 右腕を発射態勢にしたまま、ヤァロンが呟いた。
「信じて…みたくなった…!お前の言う、“絆の力”と言う奴をな。…お前が俺を護ると言うなら、オレがお前を護ってやる。それが…絆の力と言うのなら!」
 その眼にまっすぐスザクを…そしてコックピットのタケルを映すヤァロン。目には見えない“絆”が互いの瞳をを通じて結ばれる。

「畜生ォッ! ナ・メ・や・が・ってェェェェェェェ!!!」
 突然、怒り心頭のレイナードの声が響く。いつの間にかリュシフェルの上体を起こし、その機体の腹部に光が集まる。

「墜・ち・ろ・やぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 レイナードの咆哮と共に腹部から巨大な光の帯…メガ粒子砲が放たれる。標的はセイリュウだ。…しかし大ぶりな攻撃。避けるのはたやすかった。
「遅いッ!」
『上等だァ……気が変わった。先にテメェから殺してやるよォ…!!!』
 低い声であからさまに殺意を向けるレイナード。リュシフェルのバーニアをフルにして、最大速度でセイリュウに突っ込む。
「やれるものなら…!」
 構えなおし臨戦体勢をとるセイリュウ。次の瞬間、ビーム・サイズの刃と龍の拳が重なる。
 否、紙一重で光の刃の軌道をずらし、柄を捉えた。これだけ間合いを詰められては、リュシフェルも上手く手を出せない。
 完全にタケルとスザクの事を失念したのか、単に頭に血がのぼっているだけなのか、怒髪天のレイナードは鍔迫り合いのまま森の中へと突っ込んで行った。
「ヤァロン……」


「ちっ…しぶてぇ野郎だ。大人しく潰れやがれ……!」
 いまだ鍔迫り合いを続けるリュシフェルとセイリュウ。リュシフェルが全てのバーニアを全開にし、ギリギリと攻める。
 森の木が二体のモビルスーツによってなぎ倒され、一筋の道が出来ていく。
「くっ…」
 今にも押し戻されそうなマニュピレータを必至にレバーを握り押さえるヤァロン。額には汗がにじみ、強く噛んだ唇からは血が滲んでいる。
 しかし、その顔は苦痛どころか、余裕綽々の笑みを浮かべていた。
 はるか上空にいる、スザクを…タケルをコックピット越しに見つめながら。
「さて…どうする、タケル?」


『…これでよし。首尾はどうだい? タケル君』
 一方上空では、イチタロウのファルコンからメガライフルを受け取るスザクの姿があった。
「エネルギーバイパス異常無し。発射機構、オールグリーン。…OKです」
『しかし、大丈夫なのかい? 相手の射程外から狙うといっても、今はあのガンダムに取り付いてる状態だ。いかな照準精度を上げても、限界が…』
「…大丈夫です。ヤァロンが、必ず何とかしてくれますから」
 イチタロウの言葉をさえぎって、タケルが言った。
 きっと、ではなく、必ず。
「…ボクは、ヤァロンを信じます」
『了解だ。…じゃ、僕も彼を信じよう。…幸運を祈るよ』
 そう言って、イチタロウはスザクのもとを離れた。


「…さてと」
 メガライフルのトリガーに手をかけながら、タケルは小さく息を吐いた。


「……ヤァロン、ボクはキミを信じる。だから…キミも僕を信じて!」




    ギリギリギリギリィィィィィ…


 鋼鉄のマニュピレータと、ビーム・サイズの柄が重なり合い、歪まんばかりの圧力が双方に加わる。
 いつの間にか、岩壁に押し付けられ、引きずられることはなくなったが、レイナードはバーニアを抑える気配も無く、推力により、少しずつセイリュウのボディが岩肌にめり込んでいく。
「…むぅ?」
 ヤァロンの視線が再びリュシフェルからスザクへと移る。
 先ほどとは違い、巨大な大砲のようなものを携えている。
「…狙い撃ちするのか? しかし、どうやって…?」
『…そろそろ飽きたなァ…』
 と、触れ合ったボディの振動がレイナードの言葉を伝える。
「!」
『テメェは紅いヤツを潰す前のオードブルってヤツだ。…死ねェッ!!!』
 不意にリュシフェルの腹部が発光を始める。メガ粒子砲の射出口がセイリュウのコックピットを狙っていた。
「……させるかっ!」
 一瞬のスキを突き、右拳をリュシフェルの腹部に突きつける。そのまま二門のビームガンが放たれ、メガ粒子砲へのエネルギー供給パイプを貫いた。
 あふれたエネルギーが、リュシフェルの脇腹で小規模の爆発を起こす。
『な、何ィィィィィ!!?』
 思わずバーニアを止め、うろたえるレイナード。それを見逃すヤァロンではなかった。
「せいぃぃぃぃぃっ!!!」

    ガシィィィィィィン!

 右脚で脚払いを喰らわせ、怯んだところに今一度右腕の竜頭がリュシフェルのボディを捉え、一瞬、空に浮かせる。
『畜生ッ!』
 悪態を吐きながらバーニアを吹かせ、一気に上昇する。
 元々リュシフェルは空戦向き、対するセイリュウは陸戦仕様。主砲は封じられたが、戦いのイニシアチブは自分にある。レイナードはそう確信した。

 …勿論、それが一対一の戦いなら、だが。

「今だ、タケルッ!!!」
 空を仰ぎ、ヤァロンが吼える。
『!』
 背後に気配を察し、レイナードが振り向く。
「ナイスフォロー、ヤァロン! …今後こそ、終わりだ」
 照準を定め、タケルがトリガーを引く。
「ソーラープラズマメガライフル、発射ァッ!!!」

    バシィィィィィィィッ!!!

『くっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!』
 その場で凍ったように動かなくなるリュシフェル。レイナードの咆哮が光に包まれる。

    ボムォォォォォォォ…

『はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……』
 爆風が晴れ、着弾点から半壊のリュシフェルが姿を現した。  コックピット内で肩で息をするレイナード。かろうじてコックピットへの直撃は免れたが、ほぼ半身をメガライフルの威力に持っていかれている。
『チィ…』
 小さく舌打ちをして、レイナードは残ったバーニアを吹かせる
『紅いヤツ…てめぇとの決着は今度に持ち越しだ。…今度こそ、てめぇをブチ殺してやるから覚悟しとけよ…』
 そう言い残し、リュシフェルは虚空のかなたへと姿を消した…
「タケル、逃がすなっ!」
 ヤァロンが叫ぶが、タケルは首を横に振った。
「今はいいよ。これでしばらくはあの黒いMSも来ないだろうし。…それよりヤァロンの方だよ。大丈夫、立てる?」
 地上に降り立ち、スザクのコックピットからタケルが柔らかな笑顔をヤァロンに向けた。


「…じゃ、一緒に来てくれるの?」
 パティがヤァロンの顔を覗き込むようにして言った。
「ああ。今回の戦いで、奴等が一筋縄では行かない連中だというのが理解できた。今までのように独りで戦ってはやはり限界がある。だが…」
「そうだよ。僕たちがいれば、限界は限界じゃなくなる。それが…」
「“絆の力”と、いう奴だろう?」
 ヤァロンがにやりと笑った。
「…うん」
 その言葉に、タケルは少し照れくさそうに、それでもしっかりとうなずく。
「…ルシード=キサラギ少佐。フェイ=ヤァロン、セイリュウガンダムとともに協力致します」
「うむ、協力を感謝する。よろしく頼むよ、ヤァロン君」
 がっしりと握手を交わすルシードとヤァロン。
「…ヤァロン」
 ふと、背後で女性の声がした。
「メイホァ…」
 ヤァロンの旅立ちを見守る集落の面々の中から、許婚であるメイホァが歩み寄ってきた。
「…無事に、戻ってきてね」
「…ああ」
「…必ず、よ」
「ああ、必ず」
 小さく言葉を交わす。そして、メイホァはおもむろに懐から一つの鈴を取り出した。
「…?」
 風に揺れたそれは、チリンともならなかった。中の玉が抜かれている、古びた小さな鈴だった。
「これを、私だと思って…」
 鈴に紐を通し、ヤァロンのおさげに結わえ付ける。
「…お守り…だから」
「…うん」
「…………」
「…泣くなよ」
「…泣いてなんか……ない…」
 そう言いながら嗚咽を抑えられないメイホァを、ヤァロンはおもむろに抱きしめた。
「……!」
「…必ず…必ず戻ってくるから。…この、無音の鈴に賭けて誓う」
「…」
 そして、二人はごく自然に唇を重ねた。
 互いの体温を確かめるかのように。

「…それじゃ」
「…はい」
「…留守を、頼む」
 小さくうなずくメイホァ。ヤァロンはくるりとガンブレッドの方を向いた。
「行こう」
 それだけ言って、ヤァロンはガンブレッドへと乗り込んだ。
 タケルとパティがそれに続く。
 新たな仲間の、新たな旅立ちを見守るかのように、満月がが森を白銀に染めていた……。

 To Be Continued…


次回予告(Byヤァロン)

タケルの見た“映像(ヴィジョン)”が示す4機のガンダム。残る1機を求め、ユーラシアを西へと進むガンブレッド。
しかし、またもアンノーンが眼前に迫り来る。慣れない海上の戦いに、苦戦するガンダムパイロット達…。
絶対絶命の危機。窮地の彼らを救う、巨大な影の正体とは…?
次回、超機動伝説ガンダムSUZAKU。第10章「巨神来たりて」
果て無き怒りに牙をむき、少年たちは伝説となる……


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