ガンダムSUZAKU・第8章:仲間
第8章
仲間


 アンノーンMSの群れに、1機で挑むガンダムタイプ……。
「雑魚ども……冥府に行く準備はすんだか?」
 アンノーンを睨みつけながら、ヤァロンが一人呟く。
 その挑発に乗るかのように、1機のハングドマンがガンダムに襲いかかってきた。
「笑止ッ!!!」

    ガシィィィン!!

 ガンダムの鉄拳が頭部に突き刺さり、ハングドマンが倒れる。
「す…凄い」
 タケルは退避も忘れ、そのガンダムに見入っていた。

    ギュオォォォォ……

『タケル君っ!』
 と、上空から自分を呼ぶ声がしてタケルは上を向く。
「イチタロウさん!」
 イチタロウのファルコン1号機が低空飛行をしながらタケルの前に降りてきた。
「ガンブレッドが来た。早く乗って!」
「パティは?」
「アレンが乗せた。…行くぞ、掴まってろッ!」
 ファルコンが上昇し、ガンブレッドの方向へと飛んだ。


「タケル!準備はいいか!?」
 カタパルト前でダイゴが叫ぶ。ファルコン内でノーマルスーツに着替えたタケルがスザクの元へ走る。
「大丈夫、行けます!」
「メガライフルはどうする?」
「はずしてください。ここじゃ使えません」
 タケルの声に、アームがメガライフルをバックパックから離脱させた。
「よし、OKだ!」
「タケル、スザク行きます!!!」
「同じく!パティ出ます!!」


 一方、地上ではハングドマンを相手に、ヤァロンとガンダムが激しい肉弾戦を繰り広げていた。
「こぉぉ…ほぁた!!」
 まるで中国拳法のような滑らかな動きでレバーを動かし、突きで、蹴りで次々とハングドマンを粉砕して行く。
「その程度でっ!」
 今度は振り向きざまに背後のハングドマンに回し蹴りをくらわせる。

    ガシュッ!

 が、決まりすぎたのか、頭を飛ばしたガンダムの脚部が、勢いあまって空回りした。バランスを崩すガンダム。
「しまっ……」
 無論それを見逃すハングドマンではなかった。

    ジャキィ…

 マシンガンの銃口が、ガンダムのコックピットを捉える。
「ち…。万事休す…!」
 ヤァロンが目を閉じた。次の瞬間!

    バシュゥッ!!

 光の帯がハングドマンを貫き、たちまちハングドマンは爆発する。
「!?」
 驚いて上を見上げるヤァロン。全天周スクリーンに光の翼を携えたガンダム…ガンダムスザクが映っていた。
「ガン…ダム…?」
『大丈夫? ヤァロン!』
 と、コックピットの通信機に、聞き覚えのある声が飛びこんでくる。サイドスクリーンを見ると、そこにはタケルの姿があった。
「タケル…?」
『あたしもいるよっ』

    バキィッ!

 ハングドマンの側頭部を殴り飛ばし、ガンダムビャッコ…パティが現れた。
『ホラ。手、捕まって』
 ビャッコがガンダムの手を取り、起き上がらせる。
『…いくよ、パティ。一気にケリをつける!』


「二人とも。メガライフルは外してるから、一気に殲滅は出来ない。スザクは陸戦に対応してないし、パティとヤァロンが頼りだ。僕は上から援護する!」
『まっかしといて! 陸上戦ならあたしの出番だもんっ』
 言うがはやいか、ビャッコが脚を折り曲げ、ちょうど陸上のクラウチングスタートの格好を取った。

    バシィィィ…

 両手脚についたツメ状のパーツが電気を帯び、放電する。
「ガンダムビャッコ、マッハダッシュ・モードッ! 行っけえぇぇぇぇぇぇ!!!」
 パティの声と同時に、猛烈なスピードでビャッコがハングドマンに突っ込んで行く。
    ガシィ、バキィ、ドゴォ!

 ビャッコのツメがハングドマンを捉え、動力部を切り裂き、貫く。次々と爆炎をあげるハングドマン。
「そこっ、うかつなっ!」
 パティが討ちもらしたハングドマンを上空からスザクのビームレールガンが撃破していく。
「よぉ〜し、Last one!」
 パティが最後の1機に狙いを定める。回避体勢にはいるハングドマン。だが、もう遅かった。
「直撃させるっ!!!」

    バッキィィィィィィン!!!

 一瞬で懐に飛びこみ、ボディのド真ん中を貫いた。動力ケーブルを切り裂かれたハングドマンは、やがて動かなくなった。
「…やった!」
『えへ、やったね!…………はぅぅぅぅ…』
 ビシッとサムズアップを決めたパティだったが、次の瞬間パタッとパネルに突っ伏した。
「えっ。パ、パティ!!?」
 慌ててスザクを着陸させ、ビャッコのコックピットに跳び移るタケル。
「だ…だ、大丈夫!?」
 ビャッコのコックピットで狼狽するタケルの様子を、モニターの向こうでヤァロンが見つめていた…。


 戦いが終わり、ヤァロンは湖で泳いでいた。これは彼の日課のようなもので、長い時は終日水の中で精神と肉体の鍛錬をするのだ。
「…………」
 ヤァロンは湖の真ん中でぷかぷか浮きながら考え込んでいた。
 アンノーンのこと、タケルたちのこと、仲間になろうと誘われたこと……。
「!……」
 心の中で首を横に振るヤァロン。
「…そうだ、俺に仲間は要らない。今までも…これからも」

    「ヤァロン!」

「?」
 声に顔を向けると、崖の上にタケルの姿があった。
「あ。メイホァさんに聞いたら、ここだって言ってたから」
「…そ、そうか」
 少し視線をそらす。
「今からそっち行っていい?」
「……。かまわんが、そっちから入り口まで10分はかかるぞ」
「大丈夫、ここから行くから」
「ここからって…。! おい、ちょっと待…」
 ヤァロンが止めるのも聞かず、タケルは崖から湖めがけて飛び降りた。
 大きな水音と共に、水しぶきが柱のようにあがる。
 タケルが水の中に消え、湖に静寂が訪れる。…大きな波紋が過ぎ、沈黙が流れる。
「…タケル?」
 一向に浮上してこないタケルに、焦ったヤァロンが潜水しようとしたその時、
「ぷあっ」
「うお!?」
 今まさに水に顔をつけようとしたヤァロンに目の前にタケルの頭がぬっと現れた。
「あ、あはは…死ぬかと思った〜」
 表情を引きつらせながらタケルが口を開く。水にぬれた前髪が顔に張りつき、妙に間抜けだ。
「……。ま、まったく無茶をする…」
「あはははは…」
 苦笑しながら前髪をかきあげるタケル。
「…そういえば、あの白いガンダム…ビャッコだったか…。あのパイロットはどうした?」
 思い出したかのようにヤァロンが尋ねる。
「ああ、パティのこと? 戦艦(ふね)で休んでる。さっきの戦闘でけっこうダメージ受けちゃってね。機体もだけど、パイロットのほうが」
「?」
「さっきの戦闘で、ビャッコが猛スピードで敵に突っ込んでっただろ? あれ、相当なGがかかるんだって。本当は十数秒くらいしかタイムリミット設けてないらしいんだけど、今回は20秒以上使っちゃったから…。大丈夫だとは思うケドね、ちょっと心配」
 頭を掻きながらタケルが言った。
「…大切な……人なのか」
「ん…。うん。大切な人。…『仲間』だもん」
 仲間。
 ヤァロンの心に、その言葉が重くのしかかった。
「ね、ヤァロン?」
 ふと、タケルが声をかけた。
「ん?」
「メイホァさんって、どんな人?」
 唐突に尋ねられて、ヤァロンは少し狼狽した。
「メイホァ…? どんなって、あんなだが」
「あたた…。そーじゃなくてさ。ヤァロンから見て、どんな人なのかな〜って」
 そのタケルの言葉に、ヤァロンが宙を見つめ、呟くように言った。
「そうだな…。……精神(こころ)の拠所(よりどころ)、と言ったところか…」
 ぷかりと大の字になって水に浮くヤァロン。
「…俺は、代々この国の長(おさ)を護るために裏で暗躍していた戦士の家系だ。俺も、物心ついた頃から戦士としての訓練を受けていた。……フッ、もう護るべき君主もいないというのにな」
「…………」
「俺は戦うことでしか活の見出せなかった男だ。だが、そんな俺に潤いを与えてくれたのがメイホァだった……」
 ふとヤァロンは遠い目になった。
「メイホァも俺と同じく戦士の家系でな、長老同士の決めた許婚だったんだ。俺は正直、興味など無かったがな。所詮、政略結婚に過ぎんことぐらい解っていた事だからな。しかし、彼女は無条件に俺に接してくれた。荒んでいた俺の心を癒してくれた。同じ戦士の家系とか、許婚だからとか関係なしにだ。…そんな彼女の想いを、俺は死んでも裏切れん…。もはや護るべき君主はいないかもしれない。だが俺は、メイホァを護りたい。俺にとっての護るべき女(ひと)だから……」
「ヤァロン……」
 そこまで言って、ヤァロンはフッと笑った。
「……つまらん事を話してしまったな」
「そんなこと……」

    キュウゥゥゥゥ……

「!」
 上空で風を切る音がした。二人の見上げた先には…
「黒いMS…!“リュシフェル”かっ!?」
 タケルが空を睨む。
「くっ、性懲りも無く!…俺はセイリュウで出る。速いとこ避難しろ!」
 そう言ってヤァロンは湖に潜る。間もなく湖底からカメラ・アイを光らせ、セイリュウガンダムがその姿を現した。
「行くぞ、セイリュウ!」
 スラスターを噴射し、セイリュウがリュシフェルの飛んで行った先へと向かった。
「あのあたりって、確か村があったはず…! 僕も行かないと!」
 何とか湖岸に辿り着いたタケルは、崖の上に停めたファルコンの元に走った。


「ガンダムスザク、タケル行きますッ!!!」
「パティ、ビャッコ出ます!!」
 ガンブレッドのカタパルトから2機のガンダムが射出される。砂ぼこりが上がり、ビャッコが地面に降り立った。
「もう大丈夫なの、パティ?」
 上空からタケルが心配そうに訊く。
「だいじょーぶっ。かるくブラックアウトしただけだからさっ」
「…それは軽くって言わないんじゃ…。とにかく、無茶はしないでね」
 タケルがパネルのキィを叩く。サブモニターに索敵結果が表示された。
「……リュシフェル一体だけ?他にいないんですか?」
『ダメだ、確認できない。ミノフスキー粒子が濃すぎるんだ。引き続き索敵は続ける。タケルも辺りを気にしていてくれ』
 ジャッドの声が指示を出した。
「…了解ッ」
 シールドに装備されたビームレールガンを構え、出現するであろう敵を待ちうけるタケル。
 やがて、スザクのメインモニターにリュシフェルの姿が現れた。
『機体照合…TRMS−013“デス=エンジェル”!この間の黒いMSね…。タケル君、下手に攻撃するのは危険よ。なるべく迎撃体制を取って!』
 ガンブレッドからアヤカの声が伝える。
「…善処します」
 苦笑しながらタケルが答えた。


「見つけたぜ…赤いヤツ!!!」
 一方、黒いMS…“リュシフェル”のパイロット、レイナードもタケルとスザクの姿を見つけ、ほくそえんでいた。
「…出番だ。行け!」
 レイナードがそう言うと、地面から土のしぶきが上がった。巻きあがる土煙の中から、モノアイを鈍く光らせ、ハングドマンタイプがその姿を現した。
『何ッ!地面の中に隠れてやがったのか!!! “ハングドマン”タイプ…80!』
 スピーカーの向こうでジャッドの焦った声が聞こえた。
「…物量戦か……。パティ、ヤツらを村に近づけさせないで!」
『わかってるっ!!』
 その言葉と同時にビャッコが敵陣に突っ込む。

    ズガガガガガガッ

 と、ハングドマンが一斉にスザクに狙いを定め、マシンガンを掃射した。勿論、それを避けることの出来ないタケルとスザクではない。
「今更ッ!」
 砲弾の雨を紙一重で交わし、ビームレールガンで応戦する。
「ガラあきだよっ!!!」
 上空に集中するハングドマンを、パティがガトリング・ガンで沈黙させていく。
「あーもう多すぎ!!」
 パティが思わずボヤく。実際、いくらこちら側が戦力としては高いとしても、相手の数があまりにも多い。しかし、その80からなる敵が、全て標的をスザクにしている。ビャッコがすぐ近くに居るにもかかわらずだ。
「くそっ、いくらなんでも…」
 一瞬、スザクの動きが止まる。

「そこだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 その瞬間を逃さず、リュシフェルが最大速度で接近してきた。虚を突かれ、戦慄するタケル。
「しまっ……!」
「もらった、紅いヤツ!!!」
 リュシフェルのビーム・サイズがスザクのコックピットを捉えた…!

 To Be Continued…


次回予告(Byヤァロン)

リュシフェルの執拗な攻撃に反撃の糸口すら見出せずにいるタケル…。
自らのプライドと誇りをかざし、ヤァロンがリュシフェルに突貫して行くが……。
戦場に響くタケルの叫びに、ヤァロンの心は動くのか…?
次回、超機動伝説ガンダムSUZAKU。第9章「絆」
果て無き怒りに牙をむき、少年たちは伝説となる……


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