「……おはよ、タケル」
ぼやけた視界の中でパティの声がする。タケルは目をこすると、ベッドからもぞもぞと体を出した。
「…どのくらい寝てた?」
タケルの問いに、少し思い出すような仕草をすると、
「んっとね、2日ほど…かな?」
と答えた。
「本当!?」
「うん。…大変だったんだよ?あれから」
“リュシフェル”なる謎の黒いアンノーンを撃退したタケルは、ガンブレッドに乗りこんだとたんに倒れ、そのまま熟睡してしまったのだ。
「…ごめんね、心配かけて」
「…ううん」
パティは首を横に振った。
「タケルが大丈夫ならいいよ。とにかく今は、少しでも体を休めてて」
「いや、もう充分休んだよ。じゃ、艦長やチーフたちにも顔見せに行くから」
パティが頷くと、タケルはベッドから降り、部屋を後にした。
「タケル、もういいのか?」
ルシードが声をかける。
「ええ。心配かけて、すみません」
「いや、君に負担をかけているのは私達だよ。こちらこそ、すまないことをした」
その言葉に、慌てて手を振るタケル。
「そんなっ…。あ、そう言えば僕たちは今何処へ向かっているんですか?」
「今私達が向かっているのは、中国・コンロン山脈の奥地よ」
ルシードに代って、奥から出てきたアヤカが説明する。
「中国?」
「ええ、3機目のガンダムタイプの情報が手に入ったから」
そう言って、アヤカはモニターに画像を映し出した。
岩場に、巨大な人影が立っているのが解る。
「これは半年前の画像。そして、これは3ヶ月程前のものよ」
画像が切り替わる。今度は水辺で“アンノーン”と交戦している。
「場所、随分違いますね?」
タケルの言葉に、ルシードも頷く。
「あぁ。どうやらこのMSとパイロットは、世界中を回って“アンノーン”を殲滅しているらしいんだ」
「そうなんですか?」
「ええ、本当よ。実際各地からも目撃情報があるわ。パティのように一箇所に留まっていないから今まで所在が掴めなかったのよ」
アヤカが続き、さらに新しい画像を見せる。
「これはつい3日前、軍上層部が入手したものよ。これ以後、このMSはこの場を動いていないことが判っているわ。つまり、コンロン山脈付近ね。この辺りは少数民族の村が多く点在してるの。恐らくは、その村の何処かにあると考えられるわ」
「なるほど……」
「というわけで、もう4、50分ほどで目的地に到着する予定だ。それまでもうすこし体を休めておくんだ」
そのルシードの言葉に、タケルは首を横に振った。
「いえ、もう体は充分休ませてます。これ以上休んだら鈍っちゃいますよ」
「そうか? それならいいんだが…」
ルシードがいつものごとく頭を掻く。
「じゃ僕、格納庫まで行ってきますね。ダイゴチーフにも心配かけちゃいましたし」
「ああ、行ってくるといい」
タケルが格納庫に到着すると、ダイゴたちは作業の真っ最中だった。
「ダイゴチーフ…」
声をかけると、ダイゴは満面の笑みで迎えてくれた。
「よぉ! 体はもういいのか?」
「ええ、おかげさまで。…そっちはどうですか?」
「なんとかメドはたったな。スザクもビャッコも万全だ。いつ敵さんが来ても大丈夫だぜ!」
ダイゴが太い腕を見せつけるようにかかげ、サムズアップをくりだした。
「あ、それと…」
イチタロウが続く。
「ソーラープラズマメガライフルもちょっと改良しておいたよ。まぁ、かなりクセのある武装だからてこずったけどね」
「改良?」
首を傾げるタケル。
「メガライフルは、ただでさえ重武装だろ? マジシャンタイプならともかくデス=エンジェル……リュシフェルだっけ? あの機動力についていくには、メガライフルを装備したままじゃ重たすぎるんだよ。そこで、ちょっと砲身いじって着脱出来るようにしたんだ。これだけでも、随分変わるはずだよ」
「もちろん、メガライフル自体も強化してるぜ。なんだかんだいって戦力の要だしな」
「ありがとうございます!」
「なぁに、俺らにゃこれっくらいしかできねぇからな」
ダイゴが白い歯を見せる。と、ガンブレッドが振動しながら高度を下げはじめた。
「ん、目的地に着いたか?」
「じゃ、僕ブリッジに戻ります」
「おう」
「着いたんですか? ルシード艦長」
頷くルシード。
「ま、と言っても山の中にこの艦はそうそう降ろせられないからな。ふもとギリギリに降ろしたんだ。ここから、目撃情報があった村までは歩いて行く事になるな」
「じゃあ、僕が行ってもいいですか?」
「…うむ、こちらとしても助かるが…体は良いのか?」
相変わらず心配性のルシードだ。
「大丈夫ですって」
「……ねっ、あたしも行っていいかな?」
と、ブリッジのドアーが開き、パティがひょっこり顔を出した。
「パティ?」
「3機目のガンダムと、そのパイロットに会いに行くんでしょ? あたしも興味あるんだ。一緒に行こ、タケル♪」
にこにこしながら、タケルの腕をつかむパティ。
「…いいですか?僕は構わないですけど……」
「構わないよ。行ってくるといい」
「あは、やったね!」
ルシードの言葉に、パティはグッとサムズアップを繰り出した。
ガンブレッドから降りたタケルとパティは、山奥へと足を進めた。
「でも、まだいたんだね、少数民族って」
「まぁね。東アジア圏は、過去そんなに戦場になってないってのもあるだろうけどね」
そんな事を話しながら、二人は地図を頼りに奥へと行く。
仮に迷ったとしても、通信機を持っているし、最悪ガンブレッドに来てもらう事も出来る。
やがて、あたりに水の音がしてきた。
「何処かに、水場でもあるのかな?」
パティが誰ともなしに呟く。
ふと、タケルが足を止めた。道沿いの崖から下を覗く。
そこは大きな湖だった。その岸に、青年が一人立っている。
「すみませーーん!」
タケルが声をかけると、青年は頭をこちらに向けた。
「この辺りに、村はありませんか?」
「村になにか用か?」
青年が逆に問う。
「人を捜してるんです」
パティが代わって答えた。
「判った。少しそこで待っていろ」
そう言うと、青年は踵を返し、草むらに消えた。
「「?」」
二人が首をかしげていると、30秒もしないうちに傍の草むらがゆれ、青年が姿を現した。
「は、早い……」
「? 何をしている。案内するからついて来い」
タケルたちは、青年の案内にしたがった。
「…日本人か?」
前を向いたまま青年が聞いてきた。
「あ、うん。僕は日本人だ」
「あたしはアメリカ人よ」
「…そうか」
しばしの沈黙。
「……タケル=レッカ」
その沈黙をタケルが破る。
「?」
「僕の名前」
「あたしはパトリシア=ウィンディ。パティでいいよっ」
「君の名前は?」
タケルの問いかけに、彼は少し戸惑ったが
「…飛 牙龍(フェイ=ヤァロン)」
と答えた。
「村は近いの?」
パティが聞く。
「10分とかからん。スグに着く」
後ろを振り向きもせずに、青年…ヤァロンが答える。
「……ねぇ、なんか無愛想な人だね?」
ふと、小声でパティがタケルに話しかける。
「…長い事外界から遠ざかってるとこなんだろうね。他の国の人間が珍しいんじゃない?」
それから、二人ともなんとなく無口になっていった。
3人とも、黙ったまま樹海を歩いて行く。
「……着いたぞ」
ヤァロンの声がして、二人は前を見た。一瞬、眩しい光が視界をさえぎる。やがて目が慣れると、そこは少し開けた村だった。
「……あっ、ヤァロン兄ちゃんが帰ってきた!」
村の子供がヤァロンを見つけて声を上げた。その声に家々から村人が出てくる。
「おお、帰ったか」
「今度は何処まで行って来ていたのだ?」
「しばらく留まるのか?」
とくちぐちに村人がヤァロンに問い掛ける。
「すまんが、客人を連れてきた。俺の家に案内したい」
ヤァロンは村人たちにそう言って、タケルに目で合図をした。
「あ、うん……」
タケルとパティは村人の視線を受けながら、ヤァロンについて行った。
「お帰りなさい、ヤァロン」
ヤァロンの家に着くと、一人の女性が出迎えた。
「あぁ、今帰った」
姉か妹かと思ったタケルだったが、それはすぐに否定された。
「……俺の許婚だ」
「い、許婚ェ!!?」
思わず驚くタケル。
「…魅花(メイホァ)といいます」
「あ、どうも……」
目でメイホァを見送り、ヤァロンが尋ねた。
「それで、人を捜していると聞いたが……?」
「あ、うん。それが……」
・
・
・
「…MS?」
ヤァロンが眉をひそめてこちらを見た。
「えぇ。まず、この辺りにあるという話。そして、僕たちはそのパイロットを捜してるんだ……」
タケルの言葉を聞くと、ヤァロンは少し視線を下に落としてから、ゆっくりと口を開いた。
「……“ガンダム”、か?」
「えっ、なぜ、それを……!?」
すると、ヤァロンはさらに声のトーンを落として言った。
「…俺がパイロットだ」
「嘘ぉっ!!?」
今度はパティが驚いた。
「5年ほど前か……。さっき俺がいたあの湖の中で見つけた。ちょうどその頃から訳の判らんMSが攻撃をしていたからな、俺は“そいつ”を駆って戦っていた」
「驚いた……まさかあたしより前に戦ってた人がいたなんて……」
それはタケルも同じだった。自分が小学生のころには既に戦っていた事もそうだ。
そして、以前アヤカが2年前から確認されていたと言っていたが、それ以前にも既に“アンノーン”がいたと言う事にもだ。
「それで、タケルと言ったか……?」
「?」
ふと、ヤァロンがタケルのほうを向いた。
「お前の“捜し人”は恐らく俺だろうが、俺に一体何の用がある?」
「あ、そうだ」
今の今まで忘れていたのか、タケルが素っ頓狂な声を上げる。
「えっと…フェイ…さん?」
「…ヤァロンでいい」
「あ。じゃぁ、ヤァロン。僕と……僕たちと一緒に来てほしい」
「…どういうことだ?」
怪訝な表情をするヤァロン。パティが話を続ける。
「あたしたちも、アナタと同じくガンダムパイロットよ。今は訳あって連合軍と行動しているの」
「それで、ぜひヤァロンにも一緒に戦って欲しいんだ。君のガンダムと」
タケルは熱いまなざしでヤァロンに語りかけた。ヤァロンは目を閉じると、重く口を開いた。
「……断る」
「そんな……!」
パティが立ち上がって声をあげた。
「俺はいままで一人で戦ってきた。それが俺の戦い方であり、“戦士”としての俺のプライドなんだ。
悪いが、俺の事は忘れてくれ……!」
ガタン
椅子を派手に動かし、ヤァロンは足早に部屋を出ていった。
「……なんだかなぁ…」
パティがつぶやく。
「…しょうがないよ。人それぞれだもの。彼には彼の生き方がある。僕たちはそれを否定する権利なんかないさ」
タケルがパティをなだめるように声をかけた。
「でも、いくらプライドって言ったってさぁ、一人じゃ戦うにも限界があるよ」
「だからさ、僕たちは彼をサポートする形で一緒に戦えばいいんだ。それだったら……」
「……ごめんなさいね」
ふと、奥の部屋から一人の女性が出てきた。
「あ、えっと……メイホァさん?」
女性…メイホァはくすっと笑ってヤァロンが出ていった先に目をやった。
「彼の家は、代々続く戦士の家系なの。とくに彼はその思い入れが強くてね…。初めてMSに乗った時、『これであいつらを潰すことが出来る』とか言っていきまいてたわ。彼にとって、一人で戦うことが、彼が彼であることを保てる唯一の方法なの。戦士が不用となってしまった現代において……ね」
と、メイホァは目を伏せた。
「本当は…無茶な事はして欲しくないの。親に決められた許婚だけど、私は彼を愛しているし、もしそれでも彼が戦うというのなら、誰かが彼の力になって欲しい。……一人で戦うのは、限度があるわ」
「メイホァさん……」
タケルはメイホァの肩にそっと手を置いた。
「大丈夫です。彼は、ヤァロンはきっと解ってくれます。だって、あなたがそれだけ彼を大事に思っているんだから」
メイホァにニッと笑いかけるタケル。と、その時だった。
ドガァァァァン!!!
「なっ!」
外から爆音が轟き、空気が渦を巻いて村を吹きぬけた。
「敵かッ!!!」
家を飛び出すタケルとパティ。と、樹海をつっきって、重火器に見を固めた“アンノーン”機が現れた。
「“ハングドマン”タイプ? 今更…?」
ダダダダダダッ!!
「うわっ!」
マシンガンの掃射に遭い、吹き飛ばされるタケル。
「タケルッ!」
「い、今までの“ハングドマン”とは違う…!
ガンブレッド! こちらタケル! 緊急事態発生、至急来てくださいッ!!」
咄嗟に通信機に連絡を入れる。
「連絡ついた?」
「なんとか……。みなさん、避難してください! ミノフスキー粒子が戦闘濃度に散布されてますッ!!!」
村人たちを逃がし、タケルたちは改めて“アンノーン”MSを見た。
「あれ、前にあたしが闘ったヤツだよね?」
「だけど、今までとはちょっと違わないか?」
たしかに、過去にタケルたちが戦った“ハングドマン”タイプとは若干武装が異なっている。
「戦闘用に特化してるってワケか……」
ゴゴゴゴゴ……
「!」
突然、地響きがした。森からギャアギャアと鳥の群れが飛び出す。
「なに、何か出るの?」
「あ、アレ!!!」
タケルの指差す方向に、巨大なシルエットがぬっと姿を現した。
「……ガ…ン…ダム…?」
そのガンダムタイプらしき影は右腕をハングドマンに向けると、その右腕は突然光を発した。
ガガァン!!
刹那、ハングドマンが爆発を起こした。爆煙の中から姿を見せたのはまさしくガンダムであった。
「……ヤァロン…なのか…?」
ガンダムのカメラ・アイが宣戦を布告するかのように鈍く光った。
To Be Continued…
“セイリュウガンダム”とともにアンノーンを撃破するタケルたち。
ともに戦おうと言うタケル。それを否定するヤァロン。
そのさなか、またもあの黒い翼を携えたMSがタケルを倒す為に疾走する……。
次回、超機動伝説ガンダムSUZAKU。第8章「仲間」
果て無き怒りに牙をむき、少年たちは伝説となる……