ガガガガガガッ……
と、突然ブリッジがゆれた。
「な、なんだぁ?」
「地震か!?」
「アホ、ここ空中だぞ」
動揺するブリッジクルー。と、ブリッジの通信機が鳴り出した。
「こちらブリッジ」
『艦長か、こちら機関室だ。ヤベェことになった』
回線を開くと、ダイゴが慌てた口調でまくし立てた。
「どうしたんだ、ダイゴチーフ?」
『エンジンの調子がおかしい。どーも出力が不安定なんだ』
「お、おいおい。シャイアンのドックで整備したばかりだろう……」
『あん時かなり急がせたからなァ…。結構負担かけてたんだな、こりゃ』
「まいったなァ……」
『ま、この艦自体旧式を無理やり使ってるって感じだからなァ。慢性的なモンもあんだろーがよ』
「…直せそうですか?」
心配そうにタケルが聞く。
『出来ねェこたぁねーが…。シャイアンから資材も取り寄せなきゃならねェし、丸1日はかかるぜ』
「そうですか…」
『まァ、心配すンなやタケル。これからイチタロウ達に資材取りにいかすからよ。なぁに、たった1日の辛抱だって』
「……」
『さァて、これから忙しくなるぜ。じゃ、いったん切るぞ』
そういって、通信が途絶えた。
「……まいったなァ」
頭を掻きながら、ルシードがボヤく。
「1日お預けか……」
「…まぁ、しかたないさ。…大丈夫、急がなくたってMSは逃げやしないよ」
「……」
ため息を漏らすタケル。2機目のガンダムのことで頭がいっぱいのようだ。
「と、言うわけだ。ジャッド、近くに降ろしてくれ」
「了解」
ガンブレッドが砂漠の上に着陸し、しばらく経った。
「…………」
格納庫で慌ただしく動く整備班の面々を見ながら、タケルはファルコンの上でため息をついていた。
「ん?」
と、それに気付いたダイゴが近づく。
「何やってんだ、タケルよぉ?」
「あ、ダイゴチーフ」
「あぁっと、チョット待て。当ててやろうか……」
「は、はぁ…」
少し考え込む振りを見せるダイゴ。やがて…
「解った。NYにあるハズの2機目のMSに会いたくてウズウズしてる……って、とこか?」
「…!」
「へっへへ〜。図星だな」
ダイゴがにやりと笑う。
「ま、解らんでもねーがな。俺だって、目と鼻の先にゃMSがあるってのに、行けねェ自分が…ってな」
「ダイゴチーフ……」
一瞬、二人の間に沈黙が走る。二人の意思が通じたのか、同時にサムズアップを繰り出す。その間、わずか0.3秒。
「ようっし、ちょっと待っとれぃ!」
と、言うがはやいか通信機に飛びつく。
「ルシード艦長!」
『ん。どうした、ダイゴチーフ?』
モニタ画面にルシードの姿が現れる。
「唐突で悪いが、これからタケルをNYに行かそうと思う。艦長の意見を聞きてェ」
『そりゃまた唐突だな……』
「お願いします艦長! 僕、どうしても行きたいんです」
『うーむ……』
『あら、行かせてあげても良いんじゃないですか?艦長』
と、画面にアヤカが現れた。
「アヤカ中尉……」
『いや、しかしアヤカ中尉。アンノーンもいつ出るか解らない状況下で……』
『たとえ出てきたとしても、今のガンブレッドじゃ“敵”の標的になるだけです。ガンダムスザクを切り離せば、最悪ガンブレッドだけでも守れます。…タケル君には悪いけどね』
「いえ、それぐらい大丈夫ですよ。確かに現状を考えれば、スザクは離して置いたほうが良いかもしれませんね。…“敵”の目的がスザクだったら……ですけど」
と、口をつぐんでいたルシードが口を開いた。
『……まぁ、いいだろう。確かに、今ガンブレッドが動かんこの状況で、万一スザクを失うわけにもいかんからな』
「艦長……」
『ただし、ちゃんと無事に帰還しろよ。こっちも修理が済み次第、NYに向かう』
「了解ッ!」
『…と、いうわけだ。ダイゴチーフ、頼むぞ』
「ういうい。努力してみるさ」
「コール・スザク、スタンディング・バイ」
かくしてタケルは、スザクとともにNYへ向かうことになった。
『タケル、いくらMSがあるらしいからって、スザクでそのまんま近付きすぎンなよ。パニックになっちまうからな』
「解ってます。近くの岩場にでも隠しときますよ」
『ん。よぉし、行ってきな』
「ガンダムスザク、行きますっ!」
タケルの言葉とともに、スザクがカタパルトから射出された。
バックパックの特殊バーニアから光の翼が飛び出し、一気に高度と距離を稼ぐ。
「チェンジングシステム、ファイアバード・モード」
スザクを戦闘機形態に変形させ、自動操縦に切り替える。
「……さてと、これで30分もあればニューヨークシティーに着くね……」
その時だ。
ガガガガガァン!
「うわぁッ!!?」
突如後ろから攻撃を受けるスザク。
「アンノーン……ハングドマンタイプか!」
180°旋回するスザクの前に4体のハングドマンがライフルの銃口をむけていた。
「や、やばい……!」
と、またハングドマンがライフルを放つ。
「くっ!」
それをかわすタケル。
「…やらなきゃ、こっちが殺られちゃうんだ!」
バシュウッ!
レールビームガンがハングドマンのボディを貫き、一挙に2体を撃破する。
「よしっ!」
さらに攻撃を加えるタケル。レールビームガンの銃口が残りのハングドマンを捉える。
「このおッ!」
レバーのトリガーを引くのと同時に、二本の光の帯が放たれ、MSを破壊する。
戦闘開始からわずか40秒。タケルは無事、ハングドマンを撃破した。
「な、なんなんだ。いきなり……?」
しかし、それを考える余裕も無く……
ズガアァン!!!
「なッ……うわあぁぁぁぁぁぁっ!!!」
突然の背後からの攻撃。なす術もなく、スザクはきりもみしながら砂漠に墜ちて行った……。
砂漠の広がる地平線に夕陽が迫る頃、その荒野をひとり走っていく少女がいた。
「ふぅ…。今日はこんな所かな……?」
白…と言っても、砂ぼこりや汗でドロドロなつなぎを身にまとい、その手に握られたリュックの中には、ハングドマンや他のアンノーン型MSがつかっていたであろうバルカンやライフルの薬莢(やっきょう)の残骸で詰っている。
「それにしても、コンな物集めさせて何を調べるのかなぁ?……ま、コレぐらいでも結構な額にはなるから、こっちとしてはありがたいんだけど…ね。…さてと、チョットあの岩陰で休んでから戻ろっと」
少女がその岩陰に近付いた。と、少女の目が何かを見つける。
「……?」
恐る恐る近付いてみる。人影……少年が砂地に横たわっている。
「き、きゃいぃ〜〜〜〜!!!大丈夫ですかッ!!!」
夢を見ていた。「カスミ……」
見覚えのある風景…。見覚えのある日常……。
僕…猛が、いつも見ていた空間だ。
僕の横には、幼稚園からいつも一緒の幼なじみ……香澄がいて…
いつでも、僕のこと「猛ちゃん」なんて呼んでて……
僕は「高校生にもなって『猛ちゃん』は勘弁してよ」って言っても、香澄は「だって…」って言い訳してる。
僕は照れながら、笑う。香澄も…笑う。
あ……。
ダメだ。そっちに行っちゃ……
僕は、知っている。
そっちに行っちゃ、ダメなんだ……!
突然、一つ目で茶褐色の躰をした人型の巨大な機械が現れる。その人型の手にしたライフルが、香澄に照準を合わせる。
「ダメだ!」僕は喉の張り裂けるほどの大声で叫ぶ。そっちに…そっちに行っちゃ、ダメなのに…
ライフルが火を吹く。その爆風に巻き込まれ、消えて行く香澄……
「香澄…香澄!何処に行ったんだ!返事してくれよ、香澄ッ!」
一方、そのころ。
スザクの墜落したポイントから十数キロほど離れたガンブレッドでは、一向に連絡の無いタケルにクルーも動揺を隠せずにいた。
「ジャッド、タケルは見つかったか?」
ルシードが問う。が、ジャッドは首を横に振る。
「ダーメだ。ここいらへん、砂嵐の通り道だし、ミノフスキー粒子の濃度も高い。こいつァ、見つけるのはちいとホネっすね」
「ミノフスキー粒子……」
「あ、大丈夫ですよ。戦闘濃度にまではいたってねぇっスから」
「そうか……」
ミノフスキー粒子は、旧宇宙世紀時代以前に発見されたもので、レーダー機器類を無効にしてしまう効力を持つ。かつては、MSのビーム兵器などに用いられていたが、現在でも厄介なものには変わらない。
「まいったなぁ……」
「…まいったなぁ……」
ルシードの言葉がうつったのか、スザクのコックピットでタケルがボヤく。
「どしたのー? …故障?」
岩の下から、パティが声をかける。と、タケルがコックピットから降りて来る。
「解らない…。通信機が使えないんだ。連絡が取れない…」
タケルがそう言うと、パティは少し困ったような顔をして言った。
「しょうがないの。元々この地域って砂嵐が多くて。ミノフスキー粒子も他に比べて少し濃度が高いしね」
「そっか……」
「それで、他は大丈夫なの?ちゃんと飛べる?」
「あ、うん。特に異常は無いみたい。……送ってくよ。チョット狭いケド」
タケルの申し出に、パティは首を横に振った。
「ううん、いーよいーよ。ここらへん、あたしの庭みたいなものだし。3時間ほど歩けばスグつくもの」
「そうもいかないだろ?もう日も暮れるし。体、冷やしちゃうよ?」
その言葉に、パティは少し考えるような仕草をしてみせた。そして
「…それじゃ、お言葉に甘えさせてもらおうかなっ♪」
「えっ?それじゃパティはニューヨークシティーからあそこまで毎日歩いてきてたの?」
「うん。あそこは旧宇宙世紀時代にはよくMSがドンパチやっててね、その弾薬の残骸とか、時々MSの破片を拾ってお金に換えてるの。コレで結構稼げるんだ」
砂ぼこりで汚れた顔をほころばせながら、鉄くずの入ったリュックを掲げる。
「へぇ……。でも…」
「?」
「よく日焼けしないね?」
そうなのだ。砂ぼこりで汚れているとは言え、その下の肌は綺麗な乳白色をしている。
「うん。ちゃんと塗ってるもん、日焼け止め」
……あっさり。
「そ、そーなんだ……」
「あ、着いたよ。タケル」
パティがそう言うと、なるほど眼前に街の灯が見えてきた。
「じゃ、ここらへんに降ろすよ」
タケルはスザクを飛行形態のまま街から見えないように着陸させた。
「あーっ、ママお姉ちゃんだ〜」
「ママお姉ちゃんが帰ってきたよぉ〜!!」
街に入り、中心部まで来ると、突然甲高い子供の声がした。
「あ、パルにリリィ!あなたたちまだ起きてたの?」
パティがその声のほうへ駆け寄る。暗がりの向こうから男の子と女の子が現れる。
「ん?ねぇ、ママお姉ちゃん。そこのおにーちゃん、だあれ?」
女の子のほうがタケルに気付く。
「ああ。この人がね、あたしを送ってくれたの」
「へぇ……。あ、ママお姉ちゃんね、ときどきさばくでまいごになっちゃって、かえるのつぎのひになっちゃうこともあるんだ。おくってくれてありがと、お兄ちゃん」
男の子が、ぺこりと頭を下げる。
「え?ああ、どういたしまして」
「あ、リリィ。それじゃちょっと行って来るね。これ、あとでパルに神父様のトコへ持って行かせて」
と、パティが小走りに暗闇に消えて行った。
「あれ、パティ?」
あわてて辺りを見まわすタケル。しかし、パティの姿は無い。
「何処行ったんだろう…。……ん?」
タケルの視界の端に、小さく光るものがあった。
「なんだろ、これ……ロザリオ?」
それは水晶で作られた小さなロザリオだった。
「あ、それママお姉ちゃんのだ〜」
パティのリュックを持った女の子がそのロザリオを見て声をあげた。
「ママお姉ちゃ…パティの?」
「うん!」
女の子は大きくうなずく。
「で、パティは今何処にいるの?」
「あっちだよ」
と、こんどは男の子の方が口を開く。指差した方向は、確かにパティが走り去った方向だ。
「ママお姉ちゃん、いつも外からかえってくるとあっちに行くんだ」
「ふ〜ん。じゃ、これちょっと届けに行って来るよ。じゃ、ね」
そう言ってタケルは男の子の指差した方向へと向かった。やがて見えなくなると、男の子と女の子は、顔を見合わせ、小さくクスリと笑いあった。
「…うーん。あっちって言われたのはいいけど、何処にいるんだろうパティ?」
タケルは、迷っていた。
もっとも、見知らぬ土地なんだから迷って当然と言えば当然なのだが。
「……?」
ふと、タケルは右手方向の路地裏からの風を感じた。
「パティ……?」
タケルは、何かに導かれるように路地の奥に進んだ。
うすぐらい中、ぼんやりとした月明りを頼りに歩く。
チャプ……
「ん…?」
水音がしたような気がして、タケルは振り向いた。
闇に目がなれると、そこは小さな泉のようなところだった。
「あ……」
パティがいた。
泉の中に、ぼんやりとパティの姿が浮かんでいる。
「パティ……」
「ふぇ…?」
一瞬目が合い、沈黙。だが、それも長くは続かなかった。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
そう、パティは水浴び中だったのだ。もちろん、一糸まとわぬ姿で。
「わ、わわわっ…!」
顔を真っ赤にして、タケルも慌てて物陰に隠れる。
「タ、タケル……なの?」
体が見えないように縮こまってタケルのいた方向へ声をかけるパティ。
「ご、ごめん!見ちゃうつもりなかったんだけど……その…」
「へ?」
「こ、これっ…」
タケルは、なるべくパティの方を見ないようにして手を伸ばし、ロザリオを見せた。
「それ……」
「これ、パティの…だろ?落ちてたから…それで、あの子達に聞いて、ここだって……」
「あの子達って……」
と、パティは合点がいったかのようにうなづいた。
「リリィとパルね……。まったくあの子達ったら!」
「ご、ごめん……」
「んーん。タケルは悪くないよ。こっちこそゴメン。説明しておけばよかったね。
タケル。ちょっとそれ、預かってて。スグ着替えるから」
「う、うん……」
「リリィ、パル!」
教会まで来たタケルとパティ。パティは早速まだ起きていた二人に大声をあげた。
「ごめんなさ〜い!」
「ごめんじゃな〜い!!!」
いまが真夜中なのにも関わらず、大声を発しながら二人を追っかけまわしている。
「わたたた…」
と、男の子の方がタケルの後ろに隠れた。女の子もそれに続く。
「タケルそこどいて。まったく、今日と言う今日は……」
顔を真っ赤にして、肩で息をするパティ。もはや、すでに目的を失っているようだ。
「ま、まぁまぁ。知らずに行っちゃった僕も悪いんだし……。ここは…ね」
タケルがなだめると、パティもようやく落ち着いてきた。
「…。しょうがないなぁ。じゃ、今日はタケルに免じて許してあげるケド。次やったらおやつ抜きだぞっ」
「えぇ〜!?」
「『えぇ〜!?』じゃないのっ。解った?」
「はぁ〜い…」
「おやおや、二人ともまだ起きていたのですか?」
突然声がした。見ると黒い服の男が立っている。
「あ、神父様っ」
パティの声に、神父様と呼ばれた男は笑顔で答える。
「お帰りなさい、パティ。帰りが遅いので心配していたのですよ」
「神父様……?」
「おや、見なれない顔ですね、もしや、旅のお方ですか?」
と、タケルに気付いた神父が声をかける。
「え?ええ、まぁ……」
「うん。そこの砂漠で知り合って、ここまで送ってもらっちゃったんだ」
「それはそれは……娘がお世話になりまして。私はあちらにある教会に住んでいます、ルドルフと申します。
さぁ、そとで立ち話もなんですし、教会へどうぞ」
「あ、は…はい」
「ほらほら、リリィとパルも行くよ」
「「はぁい」」
「…では、タケル君は連合軍と行動をともにしていると…?」
「はい…。ちょっとワケありで…」
タケルは小さくうなづいた。
「それで、ニューヨークシティーへはなぜ……」
「それは、ガンダ……」
「え?」
「あ、いや、なんでもないです……」
慌てて話をそらすタケル。MSの存在しないはずの現代で、下手なことは言えない。
「そういえば、仲間の方達とは連絡が取れないのですか?」
「えぇ、周りがアレじゃぁ」
「あぁ、そうでしたね。…それでは、今夜はここに泊まると良いでしょう」
ルドルフはにこっり笑ってすすめた。
「あ、それじゃあたし、寝床の用意しとくね」
そう言ってパティは二階へと上がって行った。
「……いい子、ですね」
「…ええ。何があっても明るくて、孤児たちの面倒も良く見てくれてます」
「孤児…なんですか?さっきの子達も?」
「ええ。この教会は、孤児院もかねているんですよ。彼女たっての希望で、3年ほど前から」
「へぇ…」
「ただ……」
と、ルドルフが苦笑しながら言う。
「?」
「男手一つで育てたせいか、どうもじゃじゃ馬に育ってしまって……」
「男手って…ルドルフ神父、奥さんはいらっしゃらないんですか?」
タケルが怪訝な顔をする。
「え?ええ、まぁ…。独身なもので……」
「独身?パティ、娘さんなんじゃ……?」
「あ。いえ、何でも…ありません」
「?」
「タケル、準備出来たよっ!」
と、階上からパティが顔を出してきた。
「うん。ありがと、パティ」
「食べ物とか、用意できなかったけど…いい?」
「うん。食べることより、今はゆっくり寝たいよ。日本を出てから、一睡もしてなかったから…」
「そぅ、解った。…ゴメンね」
そう言って、パティはすまなそうに手を顔の前に出した。
「ふふ。いいって」
「あ、あと部屋。パル達と相部屋だけど、みんなもう寝ちゃってるから、起こさないようにね」
「うん、解ったよ。…それじゃ、おやすみ」
「さぁ、寝ようか……ん?」
床に入り、寝ようとしたタケルの服を小さな手が引っ張った。振り向くと、見なれた顔がそこにある。
「おにぃちゃん、今日ここで寝るんだ?」
「あ、うん、そうだよ。…パルくん……だったっけ?」
「うん。……へへ」
「ん?」
「どうだった、ママお姉ちゃんのは・だ・か?」
少しいたずらっぽく微笑みながら、パルが言う。
「なッ、ちょ、ちょっと…!何を言い出すんだよ……」
赤くなりながらタケルが小さく叫ぶ。
「へへへ…見たんだ?」
「み、見てない…よ」
目をそらすタケル。こう言うことに免疫がないのか、耳まで真っ赤になっている。
「あのね、ママお姉ちゃんってね“きやせ”するタイプなんだって。どうだった?」
「いや、だから見てないって……。暗がりでなにも見えなかったんだから」
反論するタケル。もっとも、暗がりだったのは本当だが。
「どーかなぁ…。ま、いいや。ねぇねぇ、おにぃちゃん。名前、なんて言ったっけ?」
「タケル。タケル=レッカだよ」
「じゃぁ、タケルにぃちゃん。ママお姉ちゃんのこと、どーおもう?」
と、いきなり核心をついてくるパル。たちまちタケルの顔がまた真っ赤になる。
「ど、どどど、どう想うって…?」
「あははは!」
「こぉら!アンタ達、いつまで起きてるの!!?」
と、ドア越しにパティの大声が響いた。
「わぁっ、ママお姉ちゃんだ!……タケルおにぃちゃん、また明日ね」
布団を頭からかぶり、パルは小さく目くばせした。
夜が明け、タケルが目を覚ますと、すでに部屋には誰もいなかった。
「あ。おはよ、タケル」
階段を降りると、パティが神父服に身を包み、子供達に朝食を配っていた。
「おはよう、パティ。……ところで、この子達みんな…?」
「うん。この孤児院の子達よ。今、38人ぐらいいるかな?」
「そんなに…?アメリカの事情は授業で習ってたけど、ここまでとは思わなかったよ……」
改めて、タケルは旧時代の戦争が招いた現状を目の当たりにして驚いていた。
「ここだけじゃないの。アメリカだけでも孤児は100万人はいるわ。全世界で言ったら、想像もつかない」
「……。でもさ」
「?」
「みんな、いい顔してるね」
タケルの言葉通り、ここにいる孤児たちは、みんな笑顔にあふれている。
「うん!」
と、入り口のほうからルドルフがやって来た。
「おはようございます、タケル君。良く眠れましたか?」
「あ、おはようございますルドルフ神父。ええ、良く眠れましたよ」
「それは良かった。……パティ。タケル君に朝食をお願いします」
「解ってるって。はいタケル、栄養満点、パティ印のおいしいスープだぞっ」
満面の笑みを浮かべながら、パティがスープの入った皿をタケルに出す。それを受け取ろうとしたその時
ドガァァァァン
突然、爆音が轟き、パティの手からスープ皿が落ちてこなごなに砕けた。
「きゃあっ」
「パ、パティ!大丈夫?」
バランスを崩し、倒れかけたパティの体を、受けとめるタケル。
「う、うん。あたしは大丈夫。でもスープが…」
「気にしないで。キミが無事なだけでも良かったよ。…ゴメン、ちょっと行かなきゃ」
タケルは、パティの体を起こすと教会を出た。
「ちょっ、タケル!?」
「スグ戻るから!そのときはスープ、よろしくね!!」
街を出たタケルは岩場の影に隠してあったスザクのコックピットに飛び乗った。
「コール・スザク、スタンディング・バイ!!」
少し振動した後、スザクは飛行形態のまま離陸する。旋回すると、眼前に見覚えのある機影が見えた。
「“アンノーン”!ハングドマンタイプと……この間の新型か!?」
ハングドマンの空戦型が7機、陸戦型が5機、前回苦戦した紫色の新型機が15機もいる。
ライフルを構え、ニューヨークシティの中枢へ向け、執拗に攻撃を仕掛けている。
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」
ファイアバード・モードで敵の中に突っ込むタケル。ひるんだアンノーンが一気に旋回する。
「チェンジング・システム、モビルスーツ・モード」
スザクがMS形態へとその姿を変える。カメラアイが鋭く光り、アンノーンを捉える。
「よしっ、いくぞ。ビーム・サーベルで蹴散らしてやるッ」
だが……
サブモニタには“―SYSTEM ERROR―”としか表示されない。
「何っ!!?」
ビーム・サーベルだけではない。グレネードランチャ、レールビームガン、バルカン砲すら使えない。
「使えるのは…ソーラープラズマメガライフルだけか……。だけど…」
ソーラープラズマライフルは、その強大な威力ゆえに、撃った後の反動が激しい。さらに攻撃範囲が広いとは言え、機動性の高いアンノーン相手ではかわされる可能性もあるのだ。
「くそっ、やって見るか…。ソーラプラズマライフル、スタンバイ!」
しかし、たのみの綱でさえも…
バシィッ!
「くぅっ!」
突然砲身から放電現象が起こる。昨日の戦闘でメガライフルの制御システムもいかれてしまったようだ。
と、アンノーン機が標的をスザクに向け、発砲してきた。
「うわぁっ!…くそっ、どうすれば…………!」
To Be Continued…
武器を封じられ、なす術のないガンダムスザク。
絶体絶命の危機!そのとき、砂ぼこりの中から現れた白い巨大な影。タケルの目に映ったその正体とは?
次回、超機動伝説ガンダムSUZAKU。第5章「コンビネーション」
哀しみの涙を爪で拭い去り、少年達は伝説となる……