ブウゥウウウン……
「?」
と、タケルは艦が振動していることに気づいた。
「移動してる?…何処へ?」
「後何キロだ?」
ルシードが操舵手に問う。
「後240キロです」
「シャイアンシティーまであと2時間程か…」
彼が言う“シャイアンシティー”とはかつて地球連邦軍の基地があった場所だ。現在でも地球・コロニー連合軍の主要都市として機能している。と言っても、まだこの付近は過去の戦争の傷痕を色濃く残しており、小さなスラム街が点在している。もっとも、それが軍の基地のカムフラージュになっているのも事実ではあるが。
「いいんですか?恐らくタケル君はまだこの艦内に……」
「仕方が無いだろう。この艦だって万能じゃない。補給は必要だ」
「なら日本でも出来たはずでしょう?」
「日本に軍の基地があったらそんな苦労は無いさ。これでも一番近い場所を選んだつもりだ。このクラスの艦が入るドックも少ないしな…」
軍事レベルが旧宇宙世紀以前まで下がった現在では、戦艦ドックも少なくなっているのだ。
「しかし…」
「今は仕方のないことだ。“アンノーン”の正体や、その目的も解らん現状では、戦力は少しでも多いほうがいい。タケル君には悪いが……」
ルシードがふと声の調子を落とす。彼も無関係の人間、しかも子供を巻き込んだ事に負い目を感じているのだろう。
「まもなく、アメリカ上空にさしかかります」
操舵手の声が聞こえる。
「了解した」
その時だ。
ドガアアァン!!
「うわっ、何事だ!?」
「右舷に被弾!損害不明!!」
突然、襲撃を受ける戦艦。
「ルシード艦長!四時の方向にMSらしき反応を確認!」
「照合しろ!」
「……ア、“アンノーン”ですっ!!!」
「何ッ!!?」
ガガガァン!!!
「左舷被弾!」
「七時方向、“アンノーン”型MS確認!」
モニターをチェックする。確かに先ほど日本でタケルとスザクにより撃破された人型と同タイプのMSが戦艦を狙っている。
「か、各砲座、弾幕を張れっ!全艦全速前進!!“アンノーン”を我が艦に近付けるなッ!!」
一方、タケルのいる格納庫にも“アンノーン”の破壊活動による振動が伝わっていた。
「な、何が起こったんだ!?」
二人しかいなかった格納庫に、途端に人が増える。
「整備班、全員揃ったか!?」
「はいっ」
「“ファルコン”出撃準備だ、パイロット各員、乗りこめッ」
「了解っ」
人手不足からか、整備員の内の数人が“ファルコン”と呼ばれた戦闘機に乗りこむ。
「ファルコン‐1、出撃します」
「ファルコン‐2、行きます!」
「ファルコン‐3、同じくっ」
3機の戦闘機がハッチから飛び出す。
「パイロット各員に告ぐ。初の“アンノーン”との実戦だ。気を抜いてたら落とされるぞッ!」
チーフだろうか、一人の青年が無線機片手にがなりたてている。
「……“アンノーン”…」
タケルの口から声が漏れる。今は思い出したくも無い名前だ……。
ガァンッ!
まだ“アンノーン”による攻撃は止まない。
チーフが降りたと同時に、タケルがコックピットにすべりこむ。その瞬間、システムが機動し、スザクが動き始めた。
ギュイィィィン……
ハッチが開き、スザクがカタパルトに立ちあがる。
ガクゥン…
“アンノーン”機がライフルをファルコンに向ける。
ダダダダダダダッ!
「!?」
ファルコン3機は、艦に戻った。
ギュイィィン
その内の一体が、ビーム・サーベルを掲げ、スザクに迫ってきた。
rrr…
スザクの通信機が鳴る。
ギュイィィィィン…
バックパックの翼型パーツから光が走り、再び飛翔するガンダムスザク。
ヴゥゥゥゥン!
その内の1機がスザクに迫る。ビーム・サーベルが唸りをあげてスザクを襲う。
ギュイィィィン…
「ソーラーエネルギー、MAX120%!ターゲット捕捉、照準セット!
To Be Continued…
タケルの脳裏に浮かんだ、4体のMS。その謎を確かめる暇も無く、新たな“アンノーン”がシャイアン基地を襲う。
「くっ……」
タケルは唇をかみ締め、ただ立っていることしか出来なかった…………。
『こちら、チーフ!ファルコンチーム、現状知らせ!』無線機からチーフの声が響く。
「こちらファルコン‐1。“アンノーン”機は8体!これより敵を誘導し、艦から引き離します」
『解った、死ぬなよッ』
「了解! …こちらファルコン‐1。聞いたか?これより“アンノーン”機を誘導する。俺達は戦闘機だが、3機で攻撃すれば、“アンノーン”機を破壊する事は可能だ。1機づつ確実に撃破していくぞ!」
『こちらファルコン‐2、了解!』
『ファルコン‐3、了解ッ!!』
3機のファルコンが旋回し、“アンノーン”MSを射程に捉えた。
「作戦、スタート!」
ブリッジでは、慌ただしくクルーの面々が動いていた。
「艦内状況!どうだッ!?」
「右舷、左舷とも被弾。損害軽微。小規模の火災が発生している程度です」
「了解!!」
ルシードの声もいつにも増して荒々しくなっている。元来柔和な性格な彼だが、一般人を戦闘に巻き込む事を極端に嫌う為、必死になっているのだ。
「くそっ、このままでは狙い撃ちだ……。せめてガンダムスザクが戦線に出せれば……」
しかし、パイロットであるタケルは行方不明だ。しかし、仮に発見し、戦闘を強要しても、拒否されてしまうだろう。もどかしさがルシードの体を支配する。
「どうすれば……」
ルシードが額の汗を拭っていると、通信アラームが鳴る。回線を開くと、そこは格納庫だった。
『ルシード艦長!俺がガンダムスザクに乗るっ!』
整備班チーフがガンダムスザクに乗る事を提案してきた。
「何っ。無茶をするな!今お前をなくす訳にはいかない!!」
『心配しなさんな、艦長。これでも昔MSシミュレーターを自分でつくって遊んでたぐらいのMSマニアだった俺だ。すぐに自分の手足にして見せるさ!』
「しかし…!」
『パイロットのいねぇMSなんざただの人形だ!俺は黙ってみてるのが嫌いな性分なんだよ!だいいち、俺の故郷を奴らに踏みにじられてたまるかってんだ……!』
「……」
その言葉に、ルシードは彼がスラム出身だった事を思い出した。
『とにかくだ! 艦長がなんと言おうと、俺は出る。コレ以上奴らの好き勝手にはさせねぇよ!!!』
その言葉に反応したのは、ルシードだけではなかった。場に居合わせたタケルもまた、チーフの言葉に心を動かされていた。
((僕は、何のために戦った…? 自分の為……いや、それもあるけど…違う。カスミの仇…ううん、それだけじゃない…。……僕は、何の為に………))
「くそっ、何だコイツ!?なんで動かねえンだ!!?」
その自問は、チーフの大声でかき消される。スザクの格納スペースを見ると、コックピットでチーフが悪戦苦闘している。
「このっ、動け、動けこの野郎!!おめーが動かなきゃ、何も始まらねーだろーが!!!
俺にもう一度、あの悪夢を見せる気なのか、コンチクショー!!!」
タケルはもう躊躇をするのは止めた。理屈ではなく、義務感でもなく、タケルは自分の意思でスザクに乗る事を決意していた。
「あのっ!」
「……ん、MSのパイロット…。おまえ、何処行ってたんだ…!?」
「その話は後です!スザクから降りて!僕が乗ります!!」
「バッキャロー!テメーみたいな腰ヌケが乗っても返り討ちにあうのがオチだ!どーせさっきの戦闘もまぐれだったんだろーがよ!!!」
「とにかく降りてください!確かにさっきはまぐれだったのかもしれない。だけど今は違う!スザクは僕を必要としている。僕がスザクに乗って、あいつらと戦う!!!」
タケルは腹のそこから叫んでいた。恐怖よりも何よりも、何かがタケルを突き動かしていた。
「……」
「……」
一瞬の沈黙、やがて…
「…わかったよ。そんなに乗りたきゃとっとと乗りな!どーせ動かねえんだからよ」
「有難う!」
「な、何いッ!!!」
驚くチーフ。それはそうだ。さっきまでいくら試しても動かなかったスザクが動き始めたのだから。
「ハッチを開けてください。ガンダムスザク、出ますッ」
「わ、解った!」
「ガンダムスザク、行きますッ!!!」
大きなうなりを上げ、スザクが戦艦から射出された。
「くっ……」
ファルコンの1号機のパイロットが小さく舌打ちする。
「なんて化けモンだ。対艦ミサイル10発全弾命中してるんだぞ……!」
ファルコン2号機のパイロットも戦慄を感じていた。
「い、いったん引こう、このままじゃ、俺達落とされちまうぞ!!」
3号機のパイロットに至っては、やや錯乱状態だ。
「くぅ、万事休すか……」
撃墜を覚悟したその瞬間…
数発の弾丸が“アンノーン”を直撃し、撃墜した。
「あ、あれは…MS!」
弾丸の来た方向をみると、真紅のボディに光の翼を携えたMS…ガンダムスザクの勇姿がそこにはあった。
「大丈夫ですかっ」
『ああ、我々は大丈夫だ。すまない』
「早く退避して下さい。あとは僕に任せて!」
『解った!』
「よし……」
タケルは改めて“アンノーン”と対峙した。
機体そのものは以前倒したものと同タイプだが、背中にコンバータのような者を装備し、空中に浮いている。
「くっ!」
瞬時に腕に装備されたシールドで防御するタケル。だが、力負けして地面に叩きつけられてしまう。
「うわぁっ!」
タケルは後ろを見た。スラム街だ。
「く…このおっ!!!」
スラスターを噴射し、間一髪のところでスラム街への直撃を防ぐ。
スザクの頭の後ろで、スラムの住人だろうか、一人の少女がぺたんと座りこんでいる。
「そこの女の子!大丈夫か!!?」
通じるはずは無いのに、日本語で叫ぶタケル。
「……」
と、通じたのか大きくうなずく少女。
「はやく逃げるんだ!」
そういうと、少女は町の中心へ向かって逃げた。
『ガンダムスザク、聞こえるかッ』
ルシードの声だ。
「は…はいっ」
『な……タケル君、どうして!?』
「すみません艦長、勝手に出撃して。でも僕、決めたんです」
『…………』
「僕はもう逃げない。僕は、みんなの居場所を、みんなの笑顔を、みんなの“心”を守るために戦います!もう二度と、僕や、チーフのような人を作らない為にッ!!!」
「あのヤロー…」
格納庫で一人呟くチーフ。
『…タケル君……』
「……ワガママですみません」
『解った。協力を感謝する』
通信が切れる。タケルは息を大きく吸った。
「…行くぞッ!!」
グレネード・ランチャを左手に装備し、アンノーンを追う。
「いたッ!」
スザクのスクリーンにアンノーン機が現れる。8機だ。
「このっ、抵抗するなッ!」
スザクのグレネード・ランチャが火を吹き、アンノーンの頭部を直撃する。たちまち爆発を起こすアンノーン。
「…当たれッ!!」
続けざまにグレネード弾を放つ。一気に3体のアンノーンを撃破する。
「あと…4機!」
弾の切れたグレネード・ランチャを収納し、ビーム・サーベルを装備しなおす。
「落ちろぉッ」
腹部を両断し、2機撃破。あと2機だ。
と、その2機がスラムの方向へ飛んで行く。
「ま、まさか!」
タケルの予感は的中した。アンノーンがライフルを装備し、照準をスラムへ向けているのだ。
「しまった!」
このままでは、アンノーンによってスラムが攻撃されてしまう。しかし、グレネード・ランチャは弾切れ、ビーム・サーベルで切りこむにも、間に合わない。
「くそっ、こうなったら……」
タケルは、ソーラープラズマメガライフルをスタンバイした。
「本当はあまり使いたくないけど…」
ソーラープラズマメガライフル、発射ァ!!!」
巨大な閃光が2体のMSを包み、次の瞬間、その2体は地上に存在しなかった。
その刹那、タケルの脳裏に、またもあの四体のシルエットが浮かんだのだった……。
「さて……」
戦闘が終わり、タケルは再びブリッジに来ていた。
「…処罰はいくらでも受けます」
「いや、君は軍属ではない。それに、あのMSは君にしか扱えんようだからな、今回は不問だ」
「……」
無言になるタケル。
「しかし、君はこれからどうするのだ?君さえよければ日本にかえすが……?」
「…僕には両親もいませんし、学校に戻ってもみんなの迷惑になるだろうし……。すこし、考えさせてくれませんか?」
「あ、ああ…わかった。答えが決まるまで、ここにいるといい。…アヤカ中尉。部屋に案内してやってくれないか?」
「はい。…こっちよ、タケル君」
「はい……」
タケルはアヤカと共にブリッジを出た。
次回予告(Byタケル)
スザクと共にある、4体のMSの正体は……。
次回、「超機動伝説ガンダムSUZAKU」第3章「四機のガンダム」
生命の翼を天に広げ、少年達は伝説となる……
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