思い出のメロディ Act:2
想い出のメロディ/Act:2

 日曜日。俺は約束の時間30分も前に待ち合わせ場所に来ていた。
「ちょっち早く来すぎちゃったかな?…ま、いいか」
 それから2、3分もしないうちにみのりちゃんがやってきた」
「せんぱーい!」
「おう、こっちこっち!」
「ハァハァ…先輩早いね…って、私もか」
「はは。よっぽど楽しみにしてたみたいだな」
「うん!こんな風に遊びに行くのって、久しぶりだから」
「そっか、そりゃ良かった」
「それじゃ、行こう!」
「ああ!」
 ショッピング街…一人で行くにはすごく寂しいものがあるが、今日はみのりちゃんと一緒だし、楽しくなりそうだ。
「何処に行くんですか?」
「うーん、よくわかんないから、みのりちゃんに任せるよ」
「そうですか?それじゃ、ブティック行こ!みたい服あったから」

「みのりちゃん、見たい服って何?」
「えーっと、確かこのあたりに…あっ、これこれ!」
 見ると、みのりちゃんがワンピースを自分の体に合わせてはしゃいでいた。これからの季節に似合いそうな、う す黄緑の可愛らしいワンピースだ。
「どうかな…これ?」
「うん、似合ってる。可愛いじゃん」
「えっ、か、可愛いなんて…は、恥ずかしい事言わないでよぉ〜」
 ―――ホントなんだけどなァ……
「でも、褒められてイヤな気はしないな。ありがとね、先輩」
 にっこり笑顔で返すみのりちゃん。…やっぱし可愛い…かも。
「それじゃ、これ、買ってきますね」
「あぁ」
 そう言ってみのりちゃんはレジに向かって行った。
「……ああ〜ッ!!」
 ―――な、なんだぁっっ!!?
「ど、どしたのみのりちゃん?」
「せんぱいぃぃぃ………」
「な、何?」
「財布、忘れちゃった……」
「は?」
「どうしようぅぅぅ〜。これじゃこのワンピース買えないよぉ」
 ―――ははっ、しっかりしてると思ったケド、結構ドジなトコ、あるんだな…
「…しょーがないな。どれ」
 俺はみのりちゃんから、ワンピースを取って、レジに持って行った。
「これ、ください」
「ハイ、かしこまりました」
「えっ、先輩?」
「買ってやるよ、これ」
「わっ、悪いですよ。今日は諦めますから。財布忘れた私も悪いんだし」
「いいから、いいから。今日、俺の誘いを受けてくれた、そのお礼だよ」
「でも…」
「気にしないで、みのりちゃん…なっ」
「………はい。ありがとうございます、先輩」
「そんな、お礼なんていいって」
「ううん、言わせてっ。ホントに、ありがとう!」
「ハハハ…まいったな、こりゃ…」 そう言って、俺は照れ隠しに頭をコリコリ掻いた。

「うふふ…」
 みのりちゃんは、ワンピースを入れた紙袋を抱えてご機嫌の様子だ。よっぽど欲しかったのかな?
「さてと」
「え?」
「それじゃ今度は俺が取っておきの場所に、案内するよ」
「取っておきの……場所?」
「ああ。こっちこっち!!」
「あっ、ちょっ、先輩ッ!?」

「着いたよ、みのりちゃん」
「ハァ、ハァ…」
「あ、ゴメン。ちょっと急ぎすぎちゃったかな?」
「あの、先輩。手………」
「へっ?」
 ふと見ると、俺達は手をつないでいた。気付かないうちに、俺が手をつかんでたようだ。
「わあっ!ご、ゴメン!俺、そんなつもりじゃ……」
 とたんに胸のあたりがかあっと熱くなる。
「べ、別に…いいですケド……」
 みのりちゃんもこころなしか、顔を赤らめてるような感じだ。
「ところで、先輩の取っておきの場所って……」
 そう言ってみのりちゃんは、あたりを見まわした。
「海……?」
「ああ!ここが俺のとっときの場所なんだ。……何もないケド、いいトコだろ?」
「うん…風が気持ちよくって、イヤな事も全部ふっとんじゃいそう!」
 みのりちゃんは本当に気持ちよさそうな顔をしている。その表情がやけに綺麗に見えて、みのりちゃんが触れ たら壊れちまいそうなくらい繊細なガラス細工のように見えてきた……。
「先輩?」
 と、急にみのりちゃんに声をかけられ、俺は我に帰った。
「えっ、何?」
「どうしたんですか?ぼーっとしちゃって」
「えっ!いや、別に……」
 ―――みのりちゃんに見とれてて…なんて恥ずかしいコト言えるかっての!
「………あっ、その…先輩?」
 突然、みのりちゃんが思いついたように話しかけた。
「今日は、私みたいなコを誘ってくれて、本当に…」
 その言葉を、俺はさえぎった。
「おおっと、みのりちゃん。そのセリフは、もうちょっと待ってくれるかな?」
「えっ……?」
「んーと……ちょっとだけ、目を閉じて?」
「ハイ………」
 目を閉じるみのりちゃん。……って、まてよ?よくよく考えれば男と二人っきりで目ェつぶってくれるなんて、俺の 事、信じてくれてるのかな?
「時間だ。みのりちゃん、目、開けてみて」
「ん……。…うわぁ、綺麗!」
 みのりちゃんが目をキラキラさせて喜んでいる。その向こうには、大きな夕日が海の向こうに沈んでいるのが見 える。
「どう?俺がここを気に入ってる理由。ここから見える夕日が、何処のよりも最高〜にキレイだからなんだ」
「うん!………ホントに…綺麗…」
「ここって結構穴場でさ、ここの事知ってるの、多分学校でも俺ぐらいだと思うぜ」
「えっ、それじゃあ私なんかに教えちゃって…?」
「いいんだ。俺は、みのりちゃんに教えたかったから……」
「えっ……」
 途端にみのりちゃんの顔が赤くなる。
「なんか…嬉しいな……」
「えっ?」
「ううん、なんでも……」
 ―――今、何て言ったのかな?
「ふふ。それじゃ、改めて…」
「?」
「今日は、私の事誘ってくれて、本当にありがとう。スッゴク嬉しかった……」
「…なんか、そんなに感謝されるとは思わなかったよ。こっちこそ、俺なんかの誘いに乗ってくれて、どうもありがと うな」
「いえいえ!こんな風に遊びに行くの、ホントに久しぶりだったから…」
 と、急にみのりちゃんが寂しそうな表情を見せた。
「……私、今まで男の人と二人っきりでデートみたいなこと、した事なかったんです」
「へっ?…あの、『16番の先輩』とは?」
「あの先輩とは、虹野先輩と一緒にって、感じだったから……」
「そっか…。……じゃあさ、俺と一緒で、どうだった?」
「もう!さっきから言ってるじゃないですか。スッゴク楽しかったって」
 そう言って、みのりちゃんはまたいつもの笑顔に戻った。
「はは、ありがとう」
「本当ですよ」
「うん……・……」
 俺は軽く笑って、照れ隠しに頬を掻いた。
「さてと、それじゃそろそろ帰ろっか? 送ってくよ」
「はいっ」
 こうして、俺とみのりちゃんの初デート(?)は、無事終了したのだった……


 夏が来た。夏が過ぎて…そして秋が来た。
 ―――手抜きだな。…って、俺に言うな俺に!
 みのりちゃんとは、あの日以降も、時々デートしてたりする(受験生じゃねーのか、俺わっっ)。
 そんなある日……
「隼人、お前に面会者だぜ」 好雄が声をかけてきた。
「面会者?誰よ?」
「ま、それは会ってのお・た・の・し・み・さ!」
 女のコだな……もうコイツのパターン読めてきた。流石に3年も一緒にいりゃな……
 とにかく俺は、その面会者と会うべく廊下に出た。
「あ、明日真君ですか?」 と、水色の綺麗なショートヘアの女のコが話しかけてきた。
「ああ、そだけど。キミは?」
「あ、始めまして、サッカー部マネージャーの、虹野沙希です!……あ、もうマネージャーじゃなかったっけ」
「ああキミか、憧れの虹野先輩ってのは。みのりちゃんからよく聞いてるよ」
「あ、憧れだなんて…恥ずかしいなぁ、もう」
 そう言いながら、虹野さんは少し顔を赤らめる。確かに運動部のアイドルと言われることだけはあるなぁ。結構 可愛いや。
「で、俺に何の用かな?」
「あの、今日は、明日真君にお礼が言いたくて来たんです」
「お礼?」
 虹野さんはクスリと笑うと、小さくうなずいた。
「みのりちゃん、去年の文化祭の前頃から、なんかちょっと落ち込んでたみたいだったの。でも、あなたに逢ってから、 元気になったみたいで、笑顔も増えたの。本当に有難うございます」
 虹野さんは、そう言って頭を下げた。
「そ、そんな。俺は別に……」
「私はもう、マネージャーじゃなくなって、みのりちゃんともあまり合えなくなっちゃうかもしれない。あなたにこんなこ とを頼むのはどうかなっても思ったんだけど、みのりちゃんのこと、よろしくお願いしますね、明日真君」
「あ、えと、こ、こちらこそ」
虹野さんのお願いに、俺は戸惑いながらも快諾した。

 その日の放課後、俺は屋上に来ていた。
 別に誰かを待ってたわけじゃない。結構好きなんだ、ここ。
ギィ…
 扉が開く音がした。振り向くと、みのりちゃんが立っていた。
「みのりちゃん?どしたの?」
「明日真先輩を探してたの。 優美のお兄さんにここだって聞いたから……」
 ―――俺を、探してた……?
「そ、そうなんだ?」
「うん。……屋上、好きなの?」
「まあな。開放感、って言うのかな?何もない時は、いつもここにいるよ」
「そうなんだ…」
「うん」
「……あの、先輩」 すこしの沈黙の後、みのりちゃんが声をかけてきた。
「ん?」
「私ね、最近、少し変われたような気がするの。どこがって聞かれると、ちょっとわかんないケド、今までの私より、 少しだけ自分に正直になれた気がする」
「……みのりちゃん…」
「先輩のおかげだよ。『16番の先輩』のことで、私が悩んでた時、逃げちゃダメだって言ってくれた……。ホントに、 ありがとう」
 みのりちゃんは満面の笑顔で俺に笑いかけた。
「そんなこと……」
「ううん。そんなこと、あるよ。明日真先輩がいたから、私、強くなれた。もしあの時、明日真先輩の励ましがなか ったら、私、ずっと悩んでたと思うの。
悩んで、悩んで、ぐちゃぐちゃになってたかもしれない。……ありがとう、先輩」
ドキ……
 瞬間、俺の心臓が大きく打った。
「先輩?どうか…したんですか?」
 まるで俺の心を見透かしたかのように、みのりちゃんが問いかける。俺は、余計ドギマギして、
「な、ななな、何でも……ないよ…」 と、平常心を装って答えた
 ―――って、めちゃくちゃ不自然じゃん!
「!…………」
 みのりちゃんもなんとなく気付いたのか、途端に赤くなって黙り込んだ。
「……………」
 それにつられて俺も黙ってしまう。
「……あ、あの」
 沈黙を破ったのは、みのりちゃんだった。
「ん?」
「ハーモニカ、吹いてくれないかな?」
「えっ?」
「聞きたいの、あの曲。もう一度……」
 俺は無言でポケットからハーモニカを取り、あの曲――みのりちゃんに始めて会った時に聞かせた曲――を吹 き始めた。
「……」
 みのりちゃんは少しはにかんだ笑顔で曲を聴いていた。その笑顔に、少しドキドキしながら、俺はハーモニカを 吹きつづけた。
 演奏が終わった。三分ほどの曲が、今日はやけに長く感じたような気がした……
「みのりちゃん。終わった……よ」
「……」
しかし、みのりちゃんから返事はない。
「みのりちゃん?」
「…………」
見ると、みのりちゃんはスース―と可愛い寝息を立てていた。
「……み・の・り・ちゃ・ん」
 俺の声に、みのりちゃんは目を覚ました。
「あっ、ご、ゴメンナサイ!わ、私ったら……」
「いいよ、気にしないで。……疲れてたの?」
「ううん、そんな事ないケド……」
「けど?」
 みのりちゃんは少し照れくさそうに笑った。
「なんか先輩のハーモニカ、すごく優しいメロディで……安心できたって言うのかな?そしたら、急に眠くなっちゃっ て」
「みのりちゃん……」
「あっ、や、やっぱり迷惑だった!?」
「…そんなことないって。逆に不思議なぐらいだ」
「…?どうして…ですか?」
「……この曲さ、俺が中学2年ぐらいのときに作ったんだ。別に、聞かせる相手がいたわけじゃないケド。その頃、 俺にはスッゲェ仲のよかったダチがいてさ…。親友って言うのかな?…好雄もそだけど、アイツには、それ以上の ものがあった。……ちょっとヘンだけど、どっかでアイツに惚れてたのかもしれない…」
 みのりちゃんは首を横に振った。
「そんなことないよ。男の子が男の子に惚れるって、結構カッコイイと思うな」
「…フフ、サンキュ。……その頃はさ、正直な話女のコになんか全っ然興味なくってさ、よくアイツと、他の仲間連 れてバカやってたっけ……。ホント、アイツはいいヤツだった……」
「だった……?先輩。もしかしてその人……」
「ああ。中2の秋ごろだったか…。事故で死んじまった。……俺、滅多に人前では泣かなかったけど、出棺の時、 思わず大声で泣いちまった。なんでヒトってこんな簡単に死んじまうんだろう…? なんでヒトって、こんなに脆い んだろう…? そんな事考えてるうちに、逆に物悲しくなっちゃってさ。…気がついたら、頭ン中にこの曲が浮かん でた……」
「……ご、ごめんね。悲しいこと、聞いちゃって…」
 みのりちゃんは、本当にすまなそうに頭を下げた。
「いいよ。みのりちゃんが悪いわけじゃないし、それにさ。この曲を吹くたび、あいつの声が聞こえるんだ。…『いつ までたそがれてるつもりだよ?  “らしく”ないぜ』ってさ……」
「先輩……」
「それともう一つあるぜ。この曲があったおかげで、俺はみのりちゃんに出逢えた。……なんてね」
「…あは☆」
 みのりちゃんは照れ隠しに笑った。その笑顔を見ながら、俺はいつしか確信していた。
 …………俺は、みのりちゃんのことが……好きなんだ……。

「ただいまァ」
 家に帰ると、珍しく親父が早く帰ってきていた。
「隼人。ちょっと、こっちに来てくれるか?」
「いいケド…?」
 リビングに来た俺は、ソファに腰掛け、親父に話しかけた。
「で、なに?」
「実はな…家を引っ越すことになったんだ」
「はっ?…どう言う…?」
 ハッキリ言って俺は我が耳を疑っていた。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。引っ越すだなんて、そんないきなし……」
「転校の手続きは取ってある。引っ越すのは12月だが、堪忍してもらいたい」
「なに言ってんだよ、親父!勝手過ぎっぞ!! 俺は、今、この街がスゲェ気に入ってるんだ。高校入った時にココに 越してきて、まだ三年ほどしか経ってねェけど、でも!俺は……」
 ―――みのりちゃんがいるこの街を、離れるなんて出来っかよ!!!

<想い出のメロディ Act:2、終わり Act:3に続く>


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