夏が来た。夏が過ぎて…そして秋が来た。
―――手抜きだな。…って、俺に言うな俺に!
みのりちゃんとは、あの日以降も、時々デートしてたりする(受験生じゃねーのか、俺わっっ)。
そんなある日……
「隼人、お前に面会者だぜ」 好雄が声をかけてきた。
「面会者?誰よ?」
「ま、それは会ってのお・た・の・し・み・さ!」
女のコだな……もうコイツのパターン読めてきた。流石に3年も一緒にいりゃな……
とにかく俺は、その面会者と会うべく廊下に出た。
「あ、明日真君ですか?」 と、水色の綺麗なショートヘアの女のコが話しかけてきた。
「ああ、そだけど。キミは?」
「あ、始めまして、サッカー部マネージャーの、虹野沙希です!……あ、もうマネージャーじゃなかったっけ」
「ああキミか、憧れの虹野先輩ってのは。みのりちゃんからよく聞いてるよ」
「あ、憧れだなんて…恥ずかしいなぁ、もう」
そう言いながら、虹野さんは少し顔を赤らめる。確かに運動部のアイドルと言われることだけはあるなぁ。結構
可愛いや。
「で、俺に何の用かな?」
「あの、今日は、明日真君にお礼が言いたくて来たんです」
「お礼?」
虹野さんはクスリと笑うと、小さくうなずいた。
「みのりちゃん、去年の文化祭の前頃から、なんかちょっと落ち込んでたみたいだったの。でも、あなたに逢ってから、
元気になったみたいで、笑顔も増えたの。本当に有難うございます」
虹野さんは、そう言って頭を下げた。
「そ、そんな。俺は別に……」
「私はもう、マネージャーじゃなくなって、みのりちゃんともあまり合えなくなっちゃうかもしれない。あなたにこんなこ
とを頼むのはどうかなっても思ったんだけど、みのりちゃんのこと、よろしくお願いしますね、明日真君」
「あ、えと、こ、こちらこそ」
虹野さんのお願いに、俺は戸惑いながらも快諾した。
その日の放課後、俺は屋上に来ていた。
別に誰かを待ってたわけじゃない。結構好きなんだ、ここ。
ギィ…
扉が開く音がした。振り向くと、みのりちゃんが立っていた。
「みのりちゃん?どしたの?」
「明日真先輩を探してたの。 優美のお兄さんにここだって聞いたから……」
―――俺を、探してた……?
「そ、そうなんだ?」
「うん。……屋上、好きなの?」
「まあな。開放感、って言うのかな?何もない時は、いつもここにいるよ」
「そうなんだ…」
「うん」
「……あの、先輩」 すこしの沈黙の後、みのりちゃんが声をかけてきた。
「ん?」
「私ね、最近、少し変われたような気がするの。どこがって聞かれると、ちょっとわかんないケド、今までの私より、
少しだけ自分に正直になれた気がする」
「……みのりちゃん…」
「先輩のおかげだよ。『16番の先輩』のことで、私が悩んでた時、逃げちゃダメだって言ってくれた……。ホントに、
ありがとう」
みのりちゃんは満面の笑顔で俺に笑いかけた。
「そんなこと……」
「ううん。そんなこと、あるよ。明日真先輩がいたから、私、強くなれた。もしあの時、明日真先輩の励ましがなか
ったら、私、ずっと悩んでたと思うの。
悩んで、悩んで、ぐちゃぐちゃになってたかもしれない。……ありがとう、先輩」
ドキ……
瞬間、俺の心臓が大きく打った。
「先輩?どうか…したんですか?」
まるで俺の心を見透かしたかのように、みのりちゃんが問いかける。俺は、余計ドギマギして、
「な、ななな、何でも……ないよ…」 と、平常心を装って答えた
―――って、めちゃくちゃ不自然じゃん!
「!…………」
みのりちゃんもなんとなく気付いたのか、途端に赤くなって黙り込んだ。
「……………」
それにつられて俺も黙ってしまう。
「……あ、あの」
沈黙を破ったのは、みのりちゃんだった。
「ん?」
「ハーモニカ、吹いてくれないかな?」
「えっ?」
「聞きたいの、あの曲。もう一度……」
俺は無言でポケットからハーモニカを取り、あの曲――みのりちゃんに始めて会った時に聞かせた曲――を吹
き始めた。
「……」
みのりちゃんは少しはにかんだ笑顔で曲を聴いていた。その笑顔に、少しドキドキしながら、俺はハーモニカを
吹きつづけた。
演奏が終わった。三分ほどの曲が、今日はやけに長く感じたような気がした……
「みのりちゃん。終わった……よ」
「……」
しかし、みのりちゃんから返事はない。
「みのりちゃん?」
「…………」
見ると、みのりちゃんはスース―と可愛い寝息を立てていた。
「……み・の・り・ちゃ・ん」
俺の声に、みのりちゃんは目を覚ました。
「あっ、ご、ゴメンナサイ!わ、私ったら……」
「いいよ、気にしないで。……疲れてたの?」
「ううん、そんな事ないケド……」
「けど?」
みのりちゃんは少し照れくさそうに笑った。
「なんか先輩のハーモニカ、すごく優しいメロディで……安心できたって言うのかな?そしたら、急に眠くなっちゃっ
て」
「みのりちゃん……」
「あっ、や、やっぱり迷惑だった!?」
「…そんなことないって。逆に不思議なぐらいだ」
「…?どうして…ですか?」
「……この曲さ、俺が中学2年ぐらいのときに作ったんだ。別に、聞かせる相手がいたわけじゃないケド。その頃、
俺にはスッゲェ仲のよかったダチがいてさ…。親友って言うのかな?…好雄もそだけど、アイツには、それ以上の
ものがあった。……ちょっとヘンだけど、どっかでアイツに惚れてたのかもしれない…」
みのりちゃんは首を横に振った。
「そんなことないよ。男の子が男の子に惚れるって、結構カッコイイと思うな」
「…フフ、サンキュ。……その頃はさ、正直な話女のコになんか全っ然興味なくってさ、よくアイツと、他の仲間連
れてバカやってたっけ……。ホント、アイツはいいヤツだった……」
「だった……?先輩。もしかしてその人……」
「ああ。中2の秋ごろだったか…。事故で死んじまった。……俺、滅多に人前では泣かなかったけど、出棺の時、
思わず大声で泣いちまった。なんでヒトってこんな簡単に死んじまうんだろう…? なんでヒトって、こんなに脆い
んだろう…? そんな事考えてるうちに、逆に物悲しくなっちゃってさ。…気がついたら、頭ン中にこの曲が浮かん
でた……」
「……ご、ごめんね。悲しいこと、聞いちゃって…」
みのりちゃんは、本当にすまなそうに頭を下げた。
「いいよ。みのりちゃんが悪いわけじゃないし、それにさ。この曲を吹くたび、あいつの声が聞こえるんだ。…『いつ
までたそがれてるつもりだよ?
“らしく”ないぜ』ってさ……」
「先輩……」
「それともう一つあるぜ。この曲があったおかげで、俺はみのりちゃんに出逢えた。……なんてね」
「…あは☆」
みのりちゃんは照れ隠しに笑った。その笑顔を見ながら、俺はいつしか確信していた。
…………俺は、みのりちゃんのことが……好きなんだ……。
「ただいまァ」
家に帰ると、珍しく親父が早く帰ってきていた。
「隼人。ちょっと、こっちに来てくれるか?」
「いいケド…?」
リビングに来た俺は、ソファに腰掛け、親父に話しかけた。
「で、なに?」
「実はな…家を引っ越すことになったんだ」
「はっ?…どう言う…?」
ハッキリ言って俺は我が耳を疑っていた。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。引っ越すだなんて、そんないきなし……」
「転校の手続きは取ってある。引っ越すのは12月だが、堪忍してもらいたい」
「なに言ってんだよ、親父!勝手過ぎっぞ!! 俺は、今、この街がスゲェ気に入ってるんだ。高校入った時にココに
越してきて、まだ三年ほどしか経ってねェけど、でも!俺は……」
―――みのりちゃんがいるこの街を、離れるなんて出来っかよ!!!
<想い出のメロディ Act:2、終わり Act:3に続く>