英語のトリビア
2002年米国ドリームワークス作品に「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」という映画がある。天才詐欺師と言われた実在の人物,フランク・W・アバグネイルをモデルにした映画だ。主演はレオナルド・ディカプリオ。詐欺師を追う警察が,父親に彼の居場所をたずねる。その時,父親が口にした言葉が,この"I won't give up my son!"である。「give up = あきらめる」としか知らなかったら,父親の思いは理解できない。この父親は警察に向かって,こう言っているのだ。「息子を警察なんかに引き渡すつもりはない。」
『論語』子路第十三に次のような話がある。
葉公が孔子に語って言った。「私の国の村に,身のもちかたが正直な者がいる。彼の父親が,羊を盗ん
だ。すると彼は,父の犯罪を証言した」。
孔子は言った。「わが国の村の正直者は,これと違います。父
は子のために罪を隠し,子は父のために罪を隠します。正直さはその中にあります」。
父が子を警察に売ったり,子が父を警察に売ったりするようなのは,本当の親子関係ではない――孔子はこう言っているのだ。
2004年5月頃,『The School of Rock』という米国映画コメディーを見た。他に観るものがなかったので時間つぶしに観たという程度だったのだが,これが意外におもしろかった。特にアメリカの有名私立小学校の置かれている状態,PTAと校長や教員と校長との関係がよくわかった。映画のあらすじはこうだ――中年太りをしただらしないロックン・ローラーがひょんなことから有名私立小学校の代理教員になりすまし,子供たちに授業をすることになる。しかし授業そっちのけで,校長先生がいなくなるとロックの練習ばかり。だが,やがて彼が無資格の教員であることが発覚する。彼が首になる寸前,彼の率いる子供たちのロックバンド"The School of Rock" が大評判となってしまう――。
この映画のはじまりで,主人公が自分の作ったロックバンドから追い出される場面がある。激昂した彼は,人差し指・中指・薬指の三本を立てて見せながら "Read between the lines!" と叫ぶ。もちろん,文字通り「行間を読め」という意味ではない。中指一本を立てて見せる例のジェスチャーはあまりにも卑猥なので,三本指を見せて人差し指と薬指の間の指,すなわち中指を読み取れ(つまり,クソッタレということ)というのだ。この婉曲表現を私は面白いと思った。
このことを知り合いのアメリカ人に話すと,その類のものは他にもたくさんあるといって,彼の体験談を教えてくれた。――彼が高校生のとき,授業中に生徒の悪ふざけが度を越すと,年配の先生はおもむろに「中指一本」で眼鏡を押し上げながら,"Let me adjust my glasses..." といったそうだ。もちろん,ずり下がった眼鏡をもとにもどすというのは口実で,「中指一本」が立てられていることが重要だったのだ。
先生は中指一本を立てて"F__k you!" と叫びたいのをがまんして,ワンランク落とした表現をしたのである。
先日(2004年7月),ある人が Sidney Sheldon の "The Naked Face (Warrner Books, 1970)"を読んでいて,次のような場面に遭遇した。
(1) She [Carol, black ex-whore] wanted her Dr Stevens [psychoanalist, who had hired Carol as his receptionist] to be proud of her. She would have done anything for him.... And now here were these two mothers [referring to the two male detectives] from the Homicide Squad wanting to see him. (p. 25)(2) McGreavy[the senior detective] was studying her. "You look familiar," he said. She wasn't deceived. The mother was on a fishing expedition. "You know what they say," replied Carol. "We all look alike." (p. 26)
Carol が二人の刑事を指して心の中で "these two mothers"と言ったり、年長のほうの刑事を指して"the mother"と言っているのはどうしてかという疑問が生じ,私に質問のメールをくれたのである。
確かに,男性に対して "mother" とは異様に思えるかもしれない。実は"mother" ではなく,"motherfucker" といいたいのである。しかしそれではあまりにも露骨なので,「寸止め」して "mother" で済ませているわけだ。The Dictionary of American Slang (Quill,2001)には,
"n. fr. black A despicable person; =motherfucker"とある。(以上のことは英語の語法FAQのコーナーの37番にも記載)
(名詞) (しばしば黒人英語) 下劣な奴 (=motherfucker)
夏の補習の導入に使おうと,インターネットにある「ハリー・ポッターと賢者の石」のシナリオを数行ほどダウンロードした。タイトルには "Harry Potter and the Sorcerer's Stone" とあった。ところが,書店でうずたかく積まれている本のタイトルを何気なく見ると,こちらには"Harry Potter and the Philosopher's Stone" とある。真偽のほどはわからないが,インターネット上にある情報によると,「原作者のローリングは最初, Philosopher's Stone としていたのが,アメリカ英語では philosopher には『哲学者,賢人』の意味しかなく,『魔法使い』というニュアンスが入っていない。そこで出版社とローリングが相談の上,アメリカ版では Sorcerer's Stone に変えたのだという。なお,映画でこの Philosopher's Stone というセリフが出てくるシーンはすべて,役者が両方のセリフでいっているものを撮っている」とのことだ。ただ,不思議なことに,LDOCEには philosopher's stone の意味として,
an imaginary substance that was thought in the past to have the power to change any other metal into goldとあるのは当然のだとしても,米国のWebster's Encyclopedic Unabridged Dictionary(1994)にも philosopher's stone という項目があり,そこにも
an imaginary substance or preparation believed capable of transmuting baser metals into gold or silver, and of prolonging life.という説明がある。英米いずれの辞書にも記載されているのにわざわざ言い換える必要があったのかなという疑問もわく。