出動8回目 『新ゾイド受理!その名は・・・』



 前半

 「ひぇぇぇぇっ!!!」
 アームとリースの絶叫が響く。
 「たっ!すっ!けっ!てぇぇぇ!!」
 アームの鼻水・涙・唾液が不自然に真横を向いて垂れている・・・。
 リースは流石に理性を保っているのか、涙だけで留まっているが・・・時間の問題かもしれない。
 その絶叫から聞こえるのは、激走する二機の小型ゾイドだった・・・。
 そのゾイドの名は『ガンタイガー』・・・帝国軍が誇る小型ゾイドである。

 「なぁ・・・オッサン・・・。」
 かなり心配そうにドインが、隣でパンツ一丁で日光浴を楽しむカーネルに心配そうに言う・・・。
 「どぉした?あの二人が心配か?」
 カーネルは、恐怖を感じる二人を気にしないで言う。
 「いやさ・・・確かに、ゾイドの訓練させるには小型ゾイドは勉強しやすいとは思うんだけどさ・・・いきなり『ガンタイガー』は・・・キツいんじゃ・・・。」
 
 対市街地戦用超小型ゾイド『ガンタイガー』
 帝国軍が誇るゾイドの中では非常に小型で優れた加速性能を持っている・・・。
 最高速度は約270km/hと非常に早い・・・が。
 問題は・・・コクピットが無く、バイク型のシートで操作しなければならないのだ。
 用は、モンスターバイクを操れるほどの技量と体力が必要とされるのだ。
 そんな若葉マーク以前のアームとリースはモンスターバイク以上のモノを操作させられていた。
 勿論・・・当初、二人はそんな事を知らされていない為、ガンタイガーの速度に振りまわされていたのだ。
 せてめの救いはバイクよりは安定性がある事だけだ。
 


 ─ここから回想・・・。

 一応、ニカイドス島への移動手続きが終わるまでと、新型ゾイド受理に時間が掛かると聞かされたカーネルは、これを期にアームとリースの二人にゾイドの基礎操作訓練を提案した。
 勿論、戦力が必要とされるカーネルの部隊に配属されたからにはゾイドの扱いになれてもらわなければならないのは確かだった。
 それに、アームとリースの二人は自分達のいた世界で兵器を扱っていたので、その実力も調べる為でもあった・・・が。

 「んで・・・まずは訓練だ、コレに乗れい。」
 そう言ってカーネルが二人に見せたのが、現在いる基地で配備されているゾイド・・・そう、例の『ガンタイガー』であった。
 「でっけぇ猫・・・。」
 アームがガンタイガーを見たときの第一声だった。
 「こんなのでも、ヘルキャットより速・・・」
 そんな、アームの言葉にドインが注意したそうに言った瞬間だった。
 
 ─ビシッ!

 何も言わず、ドインの首筋に当身を食らわせ沈黙させるカーネル・・・。
 「どっ!ドインさん!?」
 いきなり、その場で沈黙するドインにリースが駆け寄ろうとした時・・・。
 「つべこべ言わずに『乗れ』・・・バイクに手足が生えた程度だ。」
 その一言にダマされたのが運の尽きだった・・・。


 ─回想終了・・・。

 「はぁーい、御疲れさん♪」
 ガンタイガーから解放され、ぐったりしている二人にウエンディがタオルを差し出す。
 「ありがとう・・・ありがとう・・・。」
 マジ泣き寸前のリースが顔をタオルで拭いながら、ウエンディに呟くように礼を何度も言う。
 「ぼ・・・防護服が無かったら死んでた・・・。」
 アームの顔面は蒼白だったが、戻していないだけ自分のタフさが実感できていた。
 そして、一段落ついた二人に日光浴を終えたカーネルが、こんがりボディを見せつけながら笑う。
 「よぉし!これで訓練終了!これで、どんなゾイドに乗っても怖くないぞ!!」
 「『怖くない』と言うか、『一生分の恐怖』を飢えつけられたような気がする・・・。」
 アームは言うが、リースは『トラウマ』を植え付けられそうな気分だった。
 「何言ってやがる、ガンタイガー以上に速いゾイドなんぞ大量にいるぜ。」
 カーネルの言う言葉に嘘はない、事実『ブレードライガー』等を代表するの高速型大型ゾイドは何種類も存在しているし、開発も進められているのだ。
 勿論、空専用ゾイドを除けば・・・の話である(空専用ゾイドは、もっと速い)
 「わかったよ・・・もう、文句は言わないよ・・・。」
 アームがあきらめた様に言う。
 「だが、安心しろガンタイガーの様にオープンなコクピットじゃないからな。」
 ドインが言った言葉に安堵する二人。
 そんな二人を引っ張り上げて、カーネルは嬉しそうに言う。
 「さあ・・・ゾイドを受理(もらい)に行くぞぉ!」
 今回のメインディッシュとも言える、二人の訓練を兼ねた『暇つぶし』が終わりオッサン期待の新型ゾイドの受理の時間が来たのだ。
 「えっ?あのゴリラ使うんじゃないの!?」
 リースがカーネルに言うが、オッサン上機嫌で聞いて無い。
 「ソレ以前に、あれは俺のアイアンコングだ・・・。」
 ・・・とドインが言いかけるが。
 「誰が『ドイン少尉(お前)のゾイド』と言った!!」
 オッサン、その辺はちゃんと聞いてた。
 「じゃあ、あのアイアンコングはどうするんですか?」
 ドインは不機嫌そうに言う。
 「新型受理したら、俺の基地に送り返すぞ。」
 オッサンは普通に言う。
 「えっ!!今度の任務は『最前線』っすよ!『最前線』!!あれぐらいの戦力が無いと死ぬ!!絶対死ぬ!!」
 血相変えて、ドインは取り乱す。
 「あんな高ぇ機体をおいそれと前線で使えるか。」
 「その為のゾイドなんですが・・・。」
 「お前が、俺のコレクション潰したの・・・わかってるんだろうな?」
 ドインの肩を叩いてニタリと笑うカーネル、サングラスの奥に光る目は笑っていなかった。
 「解りました、文句は言いません。」
 ドインは言うが、本心は「(あんな旧式を前線に持ちこんだ事自体が間違ってるんだ・・・。)」
 しかし、ソレは言葉では言えない事だった・・・。
 「まあ、安心しな・・・今回は俺とお前のゾイドに加えて、余計に2体も貰えるんだ文句は言うなよ。」
 カーネルは笑う。
 「了解・・・安心しました(何が起きるか解らない試作機で何を言うか・・・。)」
 この時、ドインは思った事を実行に移そうとした。 それは、カーネル直伝の偽造書類でノーマルでも良いからアイアンコングの1体でも貰うつもりだった。
 何が起きるか解らない試作機よりは、よほど信頼できる。
 「(最近・・・この手の事が上手くなったな・・・。)」
 そう、心の中で思うドインであった・・・。
 

 そして、ゾイド格納庫・・・。
 「お待たせ致しました、カーネル大尉!」
 そう言って、ゾイド担当の曹長がカーネル達に駆け寄る。
 「おう、待ってたぜ!泥まみれで悪いがガンタイガーを返しておくぜ。」
 「了解しました。清掃課にまわしておきますね。」
 そして、曹長はカーネル達が使うゾイドが保管されている格納庫へと案内した。
 「しかし・・・カーネル大尉・・・良ろしいのですか?このような武装で・・・兵器課の連中がぼやいてましたよ?」
 曹長の意見にカーネルはニタリと笑う。
 「構わん、原型が見えるよりは目立った方が良い。それに・・・俺は目立ちたがり屋だし、例の『ブロックス』ってのを付けて見たくてな。」
 「はぁ・・・(だから、兵器課の連中が不安がってたんだなァ・・・。)」
 物珍しそうに見る曹長。
 「しかし、気をつけてくださいよ・・・バスターキャノン2門にバスタークロー4基これだけでもかなりの負担になるかと・・・。」
 「バカヤロウ、その為に経験を積んだ俺のジェノザウラーのゾイドコアを移植してんだろうが。そのぐらいは腕でカバーしてやるぜ。」
 自身満々のカーネルだが、後ろではドインが・・・。
 「『ソレ』が不安なんだ・・・。」
 と、小言を漏らす。 兵器というものは信頼性が命・・・得体の知れないゾイドに得体の知れない武器を満載するカーネルの気が知れない・・・殆ど博打だ。
 オッサン、ギャンブルが嫌いな癖してこーゆー時だけいっぱしのギャンブラー顔。
 「ドインさん・・・苦労してるんですね。あの大尉の下で・・・。」
 不憫そうにドインに言うリース。
 「しかしね・・・人間とは怖い者・・・慣れていくもんだ・・・。」
 そう言った矢先だった・・・。
 「おう、ドイン。お前にはだな、この『グラビティーなんたら』と言う試作型が・・・。」
 そう言って、カーネルが指差した先にあったもの・・・だが。
 
 「あっ、あのゴリラだ。」
 アームが言う。
 「ん!?ゴリラ!?ご・・・ゴリラ!?」
 流石にカーネルもビビっている。 予定していたゾイドとは明らかに違うゾイドだった。
 そこには通常型のアイアンコングに強化バックパックと火器を追加した『アイアンコングMk-U』と呼ばれる大型ゾイドがあった・・・。
 「オーライ!オーライ!」と輸送兵がアイアンコングを搬入する声が響く・・・。
 「まて・・・何故アイアンコングMk-Uなんだ・・・・。」

 ─ペラペラペラ・・・。
 カーネル、慌てて書類を確認する。
 移送手続き書類
 搬入届書類
 (中略)
 カーネル用ゾイド書類
 アーム用(偽造)ゾイド書類
 リース用(偽造)ゾイド書類
 ドイン用(偽造)ゾイド書類
 以上・・・。
 
 カーネルには身に覚えの無い偽造書類が一つ紛れている。
 そう、カーネルでは無く『ドイン謹製の偽造書類』だったのだ.

 「んてめぇっ!!ドイン!!お前って奴は!!」
 怒るカーネルだが、ここではおおっぴらに言う訳にはいかなかった。
 流石に、ここでは耐えるオッサン。
 「ニタリ・・・。」
 初めてカーネルに『してやったり』の顔をするドインだった。
 「似た者同士ねェ・・・。」
 リースが言う。
 「なるほど・・・『慣れていく』ねぇ・・・。」
 アームもそう言う。 改めて、自分達がいる部隊が異色の部隊だった事を実感する二人であった。




 後半
 
 カーネルに騙されているとは知らずに、次々と格納庫に搬入されてくるゾイド達・・・。
 その数も『本来あるべき数』とは違い、カーネルの直筆の書類により台数が2台多い。
 その中で、異彩を放つのはやはりカーネルの扱う新型ゾイドだ。
 「ほうほう、アレが『バーサークフューラー』か・・・。」
 口元を『にやり』と緩ませ新型を見つめるオッサン。

 『バーサークフューラー』
 帝国軍が、ライガーゼロの兄弟機として開発された恐竜型の大型ゾイドである。
 格闘用大型クローと大型ビームキャノンを兼ね備えたバスタークローを2基装備し、口腔内に荷電粒子砲が装備されている。
 さらにライガーゼロ同様のチェンジングアーマーシステム(以下:CAS)を搭載されている・・・が。
 『ライガー以上の戦闘能力を有しているため・・・』と言う名目はあるものの、実状は戦争の激化に伴い、他の新型ゾイドへの開発を優先されているため、ライガーゼロのようなCASバリエーションの豊富さが無く『高速格闘戦用CAS:シュトゥルムユニット』ぐらいしか存在しない。
 
 「ってか、オッサン・・・なんか試作品とはいえ、図面とかなり違う姿してないんじゃない?」
 アームが『本来』のバーサークフューラーの図面と『カーネル』のバーサークフューラーと比べてカーネルに呟く。
 確かに、バスタークローや一部パーツを取っ払ってしまえば『別のゾイド』にしか見えない。
 そのアームの言葉に受け渡しを行っている技術士官の一人が一瞬ビクつき、冷汗がだくだく流れる。
 「(この、下士官小僧・・・余計な事言いやがって!!)」

 この技術士官は知っていた、このバーサークフューラーの実状を・・・。
 実は、生産工場での試作データを使用した初期生産が完了し、全機が各戦線への配備が決定した直後・・・。
 いきなりのカーネル用のバーサークフューラーの発注が掛かってしまったのだ!
 (発注命令を下したプロイツェン自身も、物持ちが良いカーネルのゾイドが短期間で大破するとは思ってもみなかったのだ)
 現在生産中の完成型ともいえる第2次生産には時間が掛かり間に合わないうえに、仮に間に合ったとしても、この第2次生産分は鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)への配備が確定しまっていた為、カーネル分の余裕がない。
 そして、出た結論がこうである。
 『余った予備部品と、足りない部品は現在開発中の新型ゾイドのパーツを流用しよう!』
 勿論、無茶は承知で生産部は開発部へ交渉して、可能な限りの使えるパーツを譲ってもらう。
 そして、その間に事情を受けた技術統括部は軍上層部へ連絡、上層部経由で発注先であるプロイツェン摂政へと報が知らされる。
 結果「奴には『試作品』だと伝えてある・・・構わん。」と言うプロイツェンの一言で、異例の余剰部品と試作部品によるゾイドのでっち上げが敢行されたのだ。
 運よく開発部の新型がバーサークフューラーの後継機であった為か、上手くパーツの流用が効いて組み立ては徹夜の突貫作業で行われた。
 不足していたゾイドコアは『経験を積んだコアが重要』と、いい加減な理由をこじつけて、大破したカーネルのジェノザウラーから半ば無理矢理流用。
 こうして、開発部の新型ゾイド開発(凱龍輝:仮名)は大幅に遅れさせる事となってしまうが、この世で唯一つのカーネル専用の(でっちあげ)バーサークフューラーが完成したのだ。
 だが・・・このバーサークフューラーは、新型流用が行われた為に本来には無い能力が備わってしまった。
 それは、『ブロックスとの合体能力』である。
 丁度、送り付けるのはガイロス帝国軍きっての物好きゾイド乗りのカーネル。
 試作品と言う名目で形になってりゃ問題は無い。
 そして、開発部は生産部に取り上げられた試作ゾイドの実働データは取りたい。
 そういえば、パイロットは何でも乗りこなす物好きゾイド乗りのカーネル・・・と言う事は予想もしないデータは取れるはず。
 「試作品なんで、噂のブロックスとの合体が出来ますよ!?」
 ・・・と言って、正規のパーツが記載されている発注書にブロックスパーツを出来る限り掲載した資料を添付してカーネルに送付。
 案の定、ブロックスパーツの追加もあり、その中に開発中の新型ゾイドに搭載予定のブロックスも含まれていた。
 こうなってしまえば、開発部は楽なもの・・・カーネルに渡してしばらく放っておけばその内に実働データが手に入るのだ。
 これは好都合、開発部にとっては願っても無い楽なデータ収集方法が見出せたのだ。
 流石に、兵器課の人間にはブロックスのリンクシステム等で手間取らせてしまったが、どうにか形にして現在に至るのだ。

 「(ココでバレたら、俺達の努力が無駄になってしまう!)」
 技術士官はこの場で、余計な事をのたまう下士官であるアームを絞め落として黙らせたいほどの衝動に駆られていた。
 しかし、そんな技術士官の焦りを余所にカーネルはご満悦。
 「そりゃそうだろう!何せ『俺様専用』だからな!!そうだな・・・『カーネルフューラー』ってところか!!」
 欲しいものが手に入った子供のように笑いながらカーネルフューラーのボディをバンバン叩く。
 どうやら、カーネルには『自分専用のカスタマイズが施されている』と思っているようであった。
 アームの意見を無視して嬉しそうなカーネルの様子を見て技術士官は安心した様子で、次のゾイドの説明を始める。

 「うわっ・・・赤いライオンだ・・・。」
 次に確認したゾイドを見てリースがそのインパクトに思わず声が出る。
 隣にいたウエンディもおもわず「あらまっ・・・ついに帝国でも実戦配備はじめたんだ。」と声が出ていた。
 唖然とする一同に技術士官が胸を張って説明を始める。
 「ええ、開発データを奪取した共和国に遅れをとりましたが・・・ついに実戦配備されることになりました。これこそが、我が帝国軍が完成させた『本物のライガーゼロ』であります。」

 『ライガーゼロ』・・・本来は帝国軍が捕獲した野生のゾイドを元に開発した次世代型とも言えるゾイドであったが、共和国軍のスパイによって実験機が奪取された。
 その為、共和国軍が先に完成させる事になり、帝国軍にとっては大きな脅威となる。
 過去の戦闘でカーネルの奪ったブレードライガーをボコボコにして、鬼神のような戦闘力でドインやリューンにちょっとしたトラウマを植えつけた曰く付きのライオン型ゾイドである。

 「ライオン型の高速戦闘型ゾイドはありがたいが、あまり良い印象が僕には無いなぁ・・・。」
 おもわず、ドインが過去の戦闘で愛機が『元サーベルタイガーだった物』にされた記憶が蘇る。
 隣にいたオッサンも、さっきまではしゃいでいたがゼロを見た瞬間に良い表情が出来なかった。
 「確かになぁ・・・コイツは欲しかったけど、考えてみりゃ・・・エミー(あいつ)が使った同型ゾイドだからなぁ・・・。」
 「何があったんだろう?」
 と思わずそのテンションの上下の激しいオッサンを見て首をかしげるアーム。
 そういうと、ウエンディがテンションが下がりまくりの二人を余所に、技術士官に尋ねる。
 「ねえ、やっぱアレ(CAS)はあるんでしょ?」
 そういうと、技術士官は書類をめくり説明を始める。
 「ええ、勿論ですとも!元々は我が軍のゾイドですから!CASは共和国が奪取した『イェーガー』『シュナイダー』『パンツァー』もありますが・・・共和国から奪われずに済んだ我が軍のCASがあります。」
 そう言って、技術士官の合図と共にライガーゼロの装甲が次々と外されて行く・・・。
 「『CAS』って?」
 聞きなれない単語にリースがウエンディに尋ねる。
 「『チェンジング・アーマー・システム』の略、ライガーゼロに備わってる能力で・・・あのように装甲を外して状況に応じた武装を変更できるってシロモノよ。」
 ウエンディがそう言っている間に、ライガーゼロは赤い装甲をから黒と青を基調とした装甲が取り付けられて行く。
 「あっ・・・カッコイイかも!」
 装甲が取り付け終わったライガーゼロの姿を見てリースが素直な感想を口にした。
 「そちらの少尉殿は御気に召しましたか・・・良かった!これが『CAS:イクス』であります。」
 カーネルやドインのライガーゼロへの風当たりが良くないために不安だった技術士官はリースの言葉で思わず笑顔になった。

 『ライガーゼロイクス』
 帝国軍製の本当のライガーゼロを素体に、ヘルキャットを遥かに凌駕するステルス性能を追求し、放電攻撃兵器エレクトロンドライバーを装備。
 現行のライガーゼロ用CASでは最高との呼び名も高いライガーゼロの装備である。

 「じゃあさ、カーネル大尉もドイン少尉もあんまり好きじゃないみたいだからさ、リースちゃんが乗りなよ。」
 ウエンディの突然の提案だったが、オッサンもドインも提案を飲んだ。
 「ちょっと待ってくれよ!俺だってゾイド乗るんだぜ!?」
 ウエンディの提案に反発するアーム。
 確かに、彼にもゾイドを与えられるのだから選ぶ権利はある・・・が。
 「下士官は黙ってろ♪」
 笑顔のリースの言葉にグウの根も出ないアーム・・・。
 「うう・・・。」
 「ボウズ、階級の差だ諦めな♪」
 機嫌を逆なでするように舐めきった態度でに、ニタニタ笑うカーネルがアームの肩を叩く。
 流石のオッサンの態度にアームは多少怒りを覚えたが、階級の都合であれば文句は言えない。
 「アーム君・・・大丈夫、残り物には福があるさ。」
 流石に哀れと思ったドインがアームにフォローを入れる。
 「ありがとうございます。ドイン少尉・・・アンタがいなかったら俺はこの部隊で・・・ゴミカスのヨォな待遇を強いられそうで・・・。」
 悔しがるアームの意見にドインは少し、同情していた。
 「(せめて、リューンやテリア中尉がいてくれりゃ・・・。)」
 少なくともテリア中尉だけでもいれば、カーネルの活動を抑制する事はできない。
 改めてそれを実感するドインであったが・・・アームにとっては、本当に残り物には福があった。
 「さて、最後になりましたが・・・必然的に、このゾイドがそこの下士官に与える事になるんですが・・・よろしいのですか?」
 最後のゾイドを説明する前に技術士官が不安そうにカーネルに尋ねる。
 「しょうがねぇさ、最終的にボウズが乗るゾイドになるんだ。」
 カーネル少し、諦めたように言う。
 本当は、カーネルはリースに乗せようと考えていた様だったが、ライガーゼロを気に入った手前「お嬢ちゃんのはこっち」なんて言うのも気が引けた。
 「そうですね、下士官の技量の無さをゾイドのスペックでフォローする・・・と言う事で考えておきますか。」
 先のアームのカーネルに対する突っ込みで不安にさせられた技術士官が見下したように言う。
 その意見にムッっとするアームだったが・・・。
 最後に搬入されたゾイドは、カーネルのバーサークフューラーと同様の体系をした薄い緑色の恐竜型ゾイドだった。
 しかし、一番目を引いたのはその背中に付いている『巨大な背ビレ』である。
 「うわっ・・・悪趣味な色・・・あたしライガー選んでて良かったぁ〜。」
 リースの本音を聞いてカーネルは、決心した。
 「ボウズ、コレが『お前のゾイド』だ・・・。」
 カーネルの言葉を聞き、アームは目の前にそびえる恐竜型ゾイドを見つめて呟く。
 「『俺の』・・・ゾイド・・・。」

 アームが与えられたゾイド・・・それは現時点では最強クラスの性能を誇る事となる恐竜型ゾイド。
 電子戦用ゾイド『ダークスパイナー』の試作機であった。
 
 
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