出動5回目『オッサン帰還と+αっぽいの』


 前編


 ヘリック共和国軍首都の中央基地の独房・・・。
 だが、独房でも要注意人物などに適用される特殊な物だった。
 床はしっかりと固められた特殊コンクリート・・・壁と天井は特殊強化ガラスで包まれた・・・巨大な箱と言えば簡単だろうか。
 その特殊独房の中には、簡素なデスクと椅子とベッド・・・隅には簡易型のトイレがある・・・。
 だが、その中にあるのはそれらだけではない・・・その中で一際目立つのは、引き締まった強靭な肉体を持つ中年男こと『カーネル』がいる事であろう。
 前回、独房に移されたのだが一応のエミー少佐の意見も取り入れ、このような特殊な牢屋へと移送されたのだ。
 そして、そのカーネルを監視する警備兵が2人・・・。
 デスクに腰を掛け、紙に何かを書いているカーネルを見つめ警戒する警備兵。
 「十数部隊・・・殆どが全滅らしい・・・。」
 「ゾイド以外でも素手でも何人もの共和国軍人を・・・。」
 「武術か何かを使うのか?」
 「何でも『ガス』を使うとか・・・。」
 「ガス?」
 「毒ガスか何かを隠し持って使ったらしい・・・。」
 「どうやって?」
 「俺も、ぶっちゃけありえないとは思うけど」
 「あの身体で、毒ガスか・・・バケモノだな・・・。」
 「大丈夫なのかな?ガラス張りのこんな牢屋で・・・。」
 「技術部から取り寄せたカノントータスのキャノピーにも使われる強化ガラスだ、人間には通用しないさ。」
 そんな警備員の会話が進む中、カーネルがデスクの上にペンを置き警備兵の方へ顔を向けた。
 「君達・・・。」
 カーネルが警備兵にそう話しかけると、椅子から降り少しづつ警備兵のいる壁の方へ近づいていった。
 「一つ、質問しよう・・・この世で最も強力な毒ガスが何かわかるかな?」
 そう言うと、コンコンと特殊強化ガラスを叩くカーネル。
 「止まれ!!」
 カーネルの動きに不安を感じた警備兵が、カーネルに向い拳銃を向ける。
 しかし、カーネルは不適に笑う。
 「ハハハ・・・特殊強化ガラス越しに拳銃を向けてどうする?」
 警備兵は無意識に構えたものの、カーネルの言う通りだった。
 「しかし・・・俺にとってはタダの窓ガラスに過ぎねェがな!」
 そう言って、カーネルは後ろを向くとズボンとパンツを下ろし、尻を特殊強化ガラスへとくっ付ける。
 ─ピタッ・・・。
 見たくも無いオッサンの生尻が特殊強化ガラスに密着する。
 「例え、対ゾイド用大型ライフルの直撃にも耐える。この特殊強化ガラス・・・。」
 ─ぐぐぐっ・・・。
 オッサンの生尻が力強く特殊強化ガラスに必要以上に密着し始める。
 「ほんの1箇所だけ、極限の真空を作る・・・すると不思議・・・。」
 「離れろ!カーネル!!」
 カーネルの妙な行動に警備兵は拳銃を向け威嚇する。
 例え、それが銃弾が貫通しない特殊強化ガラス越しだと解っていても。
 しかし、カーネルはそんな威嚇も気にせず、尻を思いっきりガラスに密着させる。
 「まるで、窓ガラスのヨォに・・・。」
 そう言った瞬間だった。
 「フゥンッ!!!」
 そんなカーネルの掛け声と共に、腰を思いっきり前へと突き出した瞬間だった・・・。
 
 ─ボコッ・・・。
 
 何と言う事でしょう、特殊強化ガラスに穴がいたのだ・・・。
 
 ─ビシビシビシ!!!
 
 穴のあいた壁全体にひびが入り始めた。
 「ねぇ?」
 カーネルがそう言った瞬間、壁が轟音と共に完全に崩壊したのだった。
 「!!!!!」
 拳銃を向けているものの、目の前の信じられない状況に焦りを隠せない警備兵。
 「今なら、当るぜ♪」
 カーネルの一言に警備兵は銃を構えなおした瞬間だった。

 ─ドサッ!!

 銃に気を取られた瞬間だった、警備兵の一人は既にカーネルによって昏倒されていたのだった。
 そして、気が付いた瞬間・・・カーネルは警備兵の後ろにいた。
 「あ・・・さっきの答えなんだが『おなら』だよ・・・。」
 そう言った瞬間・・・。

 ─ドズッ!!!

 カーネルの鍛えぬかれた豪腕から繰り出された強烈な拳の浣腸が警備兵の肛門を直撃する!!
 「ゴハァ!!!」
 想像絶する衝撃と共に、昏倒する警備兵・・・。
 「さて・・・帰るか・・・。」
 そう言うと、カーネルは脱走をはじめたのだ。


 そして、数分後の事・・・。


 共和国中央基地全体に警報が鳴り響く・・・。
 「ハーマン大尉!申し上げます!あのカーネルという帝国軍兵士が脱走しました!!」
 共和国の兵士が司令室にいるハーマン大尉に連絡を入れる。
 「なんだと!?あの特殊強化ガラスの牢屋を一体どうやって!?」
 まさか、尻で真空を作り壁を破壊したなんてハーマン大尉には想像もつかないだろう。
 「急いで追撃隊と捜索隊を出せ!司令部から脱走した等と共和国の威信に関わる!絶対に逃がすな!!」
 「了解しました!」
 兵士の返事と共に、周りがあわただしく動き始めた。
 「ハーマン大尉!」
 司令室に、一人の兵士が入ってきてハーマン大尉の前で敬礼する。
 「何だ!?手短に頼む!!」
 そう言うと、兵士はハーマン大尉に手紙を渡す。
 「何だコレは?」
 ハーマン大尉が兵士に質問する。
 「脱走した、牢屋からハーマン大尉宛の手紙が見つかったので御渡ししに来ました!」
 「何だと!?」
 その手紙の内容とはこうだった・・・。

 「(ハーマン大尉、君と君の母上のお陰で助かった。しかし、私は帝国軍人・・・ここから脱走する事を許していただきたい。いずれまた会う機会があるだろう・・・その時には先日の御礼をさせてくれ。)」
 
 「何と言う男だ・・・。」
 ハーマン大尉がそう呟くと兵士が話し始めた。
 「ハーマン大尉、申し訳ないが・・・今は手持ちが無いんでな。」
 「何!?」
 ハーマン大尉がそう言った瞬間だった。

 ─ドスッ!

 ハーマン大尉の腹部に兵士の強烈なボディブローが炸裂した。
 そう・・・その兵士こそカーネルだったのだ。
 「今回は恩を仇で変えさせてもらうぜ、近い将来ちゃんとした形で昨日の礼を返してやるからな。」
 そう言って、カーネルは気を失ったハーマンをそっと椅子の上に座らせると、通信機を手に持ち、基地全体へと通達できる様にスイッチを入れ、豪快に叫んだ。
 「共和国軍諸君ッ!!世話になったッ!!カーネル大尉は!たった今から帝国本土へと向かう!!解るかね諸君!!俺は・・・お家に帰りたいのだよっ!!!」
 そのカーネルの強い声が基地全体に響き渡る。
 
 「はじまったか・・・だから言ったんだ・・・。」
 独房で外の状況を見つめるエミー少佐。
 その顔は、全てを知っていたような覚めた顔だった。
 「(司令室からの通信だ!急げ!今なら包囲できる!!)」
 そう言った慌てる兵士達の声が廊下中に響き渡る。
 「もう遅いわ・・・。」
 エミー少佐はそう言って、独房内に備え付けているベッドへ腰をかけたのだった。



 ─オッサン脱走から数分後・・・。


 「さーて、そろそろ・・・ゾイドでも乗って逃げるか・・・。」
 脱走中に食堂にでも寄ったのであろう、フライドチキンをほおばるカーネルがゾイド格納庫をうろついていた。
 慌てる様子もなく、ゾイドを吟味するカーネル・・・。
 「どれにした物か・・・。」
 そう言った矢先だった。
 「そこまでだ!カーネル!大人しくしてもらおう!!!」
 カーネルの背後で多数の兵士が銃を構えて警告をした。
 「うおっ!なんでバレたんだ!?変装は万全だった筈!!」
 驚くカーネルだったが、兵士は言う。
 「当たり前だ!ズボンも履かずに基地内をうろつく共和国軍人がどこにいる!!」
 兵士の言う通りだった。
 カーネルの変装は『上半身のみ共和国の軍服』で『下半身はビキニパンツ一丁』だったのだ。
 「畜生!バレちゃしょうがねェや!!」
 そう言ってカーネルはル○ン三世よろしく銃弾をかわしながら軽快に走り出し、一気に追ってを引き放して行く。
 そして、走りつづけるカーネルの目に止まった物が格納庫にはあった。
 「おっ!!あのゾイドは!!!」
 カーネルの目に映った物・・・それはエミー少佐の扱う『ブレードライガー』だった・・・。





 後編

 オッサンの脱走さらに2日が経過した帝国軍山岳支部・・・。
 「ふあ〜!!」
 警備室で大きくあくびをするリューン。
 「こらこら、不謹慎だぞ。」
 それを注意するドイン。
 しかし、リューンは退屈そうにドインに言う。
 「だってよぉ、監視カメラとレーダー相手ににらめっこなんざ、あきちまってよぉ・・・。」
 しかし、生真面目なドインは言う。
 「仕方ないだろう、交代で基地内外の監視任務も重要な任務なんだ。」
 カーネルがいないお陰で、真面目に仕事に従事できるドインは士官学校時代のTOPクラスの生真面目ぶりを発揮していた。
 「ったくよぅ・・・オッサンもオッサンだ・・・もう2週間ぐらい帰ってきてないんだぜ?」
 リューンがそう言った矢先だった。
 「大尉でしたら、もう少ししたら帰って来るですぅ。」
 妙に可愛らしい声が監視室に響く。
 「え?」
 ドインとリューンのふたりが声の主を探すも見つからなかったが、天井の排気口から紙切れが二人の目の前にヒラリヒラリと落ちてきた。
 「なんだこれ?」
 そう言って、リューンは紙を拾って見ると・・・。
 『カーネル大尉、北北西100キロメートル先の地点で基地に向い帰還中♪』
 ・・・と書かれたメモだった、わかりやすくレーダーの索敵範囲を広げるだけで軽く割り出せるような場所まで書かれていた。
 しかし、二人にはそのメモ書きの内容よりも気になることがあった・・・。
 「なあ・・・ドイン・・・もしかしてあの声って・・・ドムツ・・・。」
 リューンが『もしや?』と言った感じでドインに尋ねるが・・・。
 「言うな!あの非常に解りやすいメモ書きを書いた主が誰かなんて言うんじゃない!!」
 ドインは、そこに起きた事実を否定した・・・と言うより『否定したがっていた』
 「ああ・・・そうだな、それがいい・・・。」
 リューンも認めたくなかったのだろう・・・自分を納得させていた。
 「そんじゃま・・・迎えに行くとしようか・・・。」
 そう言って、二人は警備を他の兵士に任せて警備室を後にした。
 
 「あら、大尉が帰ってくるのですね?」
 自室で書類をまとめていたテリア中尉はドインからの通信を受けていた。
 「わかりました。私も行きますからゾイドの準備をよろしくお願いしますね。」
 そう言うと、テリア中尉は部屋を出ようとしたときだった・・・。
 「(イッテラッシャイ・・・オネイチャン・・・。イッテラッシャイ・・・オネイチャン・・・。イッテラッシャイ・・・オネイチャン・・・。)」
 彼女以外いないはずの部屋から無数の声が静かにする・・・。
 「じゃあ・・・後の書類をお願いしますね♪」
 笑顔でテリア中尉が誰もいない部屋に言うと、彼女の机にあるペンが宙を舞いデスクワークをこなし始めた・・・。
 ・・・人それを『ポルターガイスト現象』とも言う。



 そして、テリア中尉のジェノグラップラー(先行型ジェノブレイカー)・ドイン少尉のサーベルタイガーリベンジ・リューン少尉のレッドホーンスマッシュが隊列を組み、ドムツン曹長が指定した場所まで向かっていた。
 「嗚呼・・・これが俺が望んだ軍隊の姿だ・・・。」
 多分、今回が一番まともに感じたのであろう、瞳を潤ませ感動するドイン。
 「おや?」
 リューンのレッドホーンのレーダーに反応があった。
 「テリア中尉、合流予定地点に反応がありました。」
 リューン少尉がテリア中尉に通信する。
 「リューン少尉、識別はどうですか?」
 テリア中尉から指示を受け識別を調べるリューン少尉。
 「こりゃ・・・共和国のライガータイプと同じ反応ですよ・・・。」
 リューン少尉の言葉にドイン少尉が言う。
 「・・・罠?」
 テリア中尉もその意見に頷いて言う。
 「ドムツン曹長は確実な情報しか伝えませんが・・・大尉を囮に使った罠と考えても良いでしょう。」
 「では、テリア中尉!私がサーベルタイガーで先行して様子を見ます。」
 ドイン少尉の提案に頷いたテリア中尉。
 「わかりました、決して危険な真似はしないでください。」
 「了解!」
 そう言って、ドイン少尉はサーベルタイガーを走らせた。
 
 そして、先行したドイン少尉が肉眼で確認した物は・・・。
 傷だらけのブレードライガーだった・・・。
 「テリア中尉、かなり損傷が激しい様ですが・・・あのゾイドは以前、自分達を苦しめた新型のライガーです。」
 ドイン少尉がテリア中尉に通信をする。
 その時だった・・・。
 ─ピピピピピッ!
 サーベルータイガーに気が付いたのか通信機に、あのライガーからの通信が届いたのだ。
 「テリア中尉!あのライガーから通信要請が!」
 ドイン少尉が少し慌てた様にテリア中尉に通信する。
 「落ち着いて、ドイン少尉・・・通信を受けてみてください・・・もしも、妖しいと思った場合『発砲』を許可します。」
 冷静なテリア中尉の命令にドインは落ち着いて『了解』と答え、ライガーからの通信をひらいた。
 「こちらガイロス帝国第13.5独立部隊テリア中隊!」
 相当、オッサンの名前を出したくなかったのだろう『現在』の隊長であるテリア中尉の名前で所属を言う。
 そして、返信が返ってきた。
 「ああ、俺!俺だよ俺!俺俺俺!」
 明かにオッサンの声だった・・・。
 そして、ドイン少尉は・・・・。
 「テリア中尉、コレは罠です!これより発砲します!」
 ─ズドドドド!!!
 何かに取り憑かれるように遠慮無く、発砲するドイン。
 勢い良くサーベルタイガーの背部に装備されたキャノン砲が火を吹く。
 「アキャァー!!」
 通信越しにオッサンの絶叫が響く。
 「(今のうちに始末して、この部隊状態を維持しなくては!!)」
 ドイン少尉の脳裏に部隊の平穏を願う誠意ある願いが過る。
 「やめてー!コレは罠じゃナーイ!!」
 オッサンの絶叫が響くが、ドインに遠慮は無い。
 「何処の世界にゾイドの通信で『俺俺詐欺』まがいの通信をする輩が何処にいる!」
 ドイン少尉の怒りにも近い怒声が響く・・・。
 「おい!ドイン!お前何をやっているんだ!?」
 リューン少尉の通信が入るが、返ってきたのはドインの独り言にも近い言葉だった・・・。
 「今のうちに・・・この部隊の平和の為に・・・みんなの明日の為に・・・!!!」
 
 「テリア中尉!ドイン少尉の様子がおかしいです!!急ぎましょう!!」
 「ええ、私の軽率な判断でドイン少尉を危険な目に会わせるわけには行きません!!」
 二人がそう言うと、全速力でドイン少尉の元へと向かった。
 
 「殺(や)らなきゃ・・・殺らなきゃ・・・。」
 ドイン少尉の呟きながら新型ライガーに向かって砲撃しつづけていた時だった・・・。
 「殺す気か!!」
 ドイン少尉の真横でカーネルの怒声が響く。
 どのように脱出したかは解らないが、カーネルはドインのいるサーベルタイガーのキャノピー越しに怒鳴る。
 「ハッ!!!・・・俺は・・・一体・・・何を!?」
 カーネルの怒声に我に返るドイン少尉。
 「何をじゃねぇよ!!せっかくの新型がダメになるところだったじゃねぇか!!」
 オッサン、怒る所が違う。
 「失礼しました!どうも、敵の催眠兵器に引っかかった様です!」
 適当な言い訳を言うドイン少尉。
 「そうだったのか!」
 オッサン鵜呑み、ドイン助かる。
 「それよりも、あのライガーを持って逃げるぞ!!」
 カーネルが急かす様にドイン少尉に言う。
 「え?・・・どう言う事ですか!ここは帝国領内ですよ!?追っ手なんて!!」
 境界線に近いものの、ここは帝国領内である。
 追っ手が来る筈は無い。
 だが・・・その追っ手は既に来ていたのだった。
 そう・・・カーネルの天敵『エミー少佐』が白い新型ライガーに乗って・・・・。


 続く!!