出動三回目
『「宿敵」と書いて、「捨てた女」と読む』
前編
月明かりの中、一機のゾイドが走っていた。青いライオン型ゾイド・・・共和国の高速戦闘ゾイド。だがシールドライガーではなかった。
『ブレードライガー』・・・後に『バン=フライハイト』なる少年の愛機となるゾイドだ。
シールドライガーに『オーガノイドシステム』を実験的に組み込んだ結果、数段パワーアップしたゾイドだ。
バン少年が、ここから数週間後にレイヴンと名乗る少年のジェノザウラーによって大破させられたにも関わらず、シールドライガーがオーガノイドの力で進化した姿と全く同じモノであった。
共和国軍は偶然的に、そして機械的に進化を促進したのである。
勿論、バン少年のライガーに比べれば純粋かつ完全なオーガノイドシステムを積み込んでいない、このライガーの方が性能的には劣る。
だが、このライガーを操っているパイロットはオーガノイドの有無など関係無いぐらいの技量を持っていた。
共和国きってのエリートで、凄腕高速戦闘ゾイドパイロット。共和国首都防衛部隊所属、独立治安維持部隊副隊長『エミー=テュウシバ』少佐。
若干28歳にして治安維持部隊の副長の彼女は、共和国でも『別の意味』で有名なエースパイロットである。
別名 『捨てられた復讐の女』。
彼女は、ある男に復讐を誓う、怒りと悲しみのエースであった。
「カーネル・・・絶対殺す!!!」
彼女はこの新型ライガーを駆り、闇夜を駆けた!!
そして翌日、ガイロス帝国首都ガイガロス・・・・・
その首都に帝国軍総司令部。その一室に男はいた。
ガイロス帝国摂政、『ギュンター=プロツェン』元帥。
ガイロス帝国皇帝が、病床のため帝政を行えないが為、事実上帝国の頂点に立つ男であった。
数日前までは・・・・
現在は、先代皇帝の孫であるルドルフが皇帝を引き継ぎ帝政を行っている。プロイツェンはその後見人又は補佐官のような立場であった。
「くそっ・・・」
プロイツェンは何気に憎たらしげに呟いた。現在の立場が面白くないからだ。
何故なら、後一歩と言うところで共和国を攻め落とす事が出来たからだ。だが、民衆そして国の平和を望むルドルフは停戦を命じた。プロイツェンにはそれが面白くなかった。
「この惑星Zそのもの全てを掌握する・・・」それがプロイツェンの野望であった。
今までその為に、利用できるものは何でも利用し、昇進にはやる士官や金にしがみつく盗賊団等を上手く使い、準備していた。だが、ルドルフが邪魔であった。いくら帝国元帥とは言え、所詮は宮仕えの身。国そのものの実権はルドルフにあった。
その為、秘密裏に調整を急がしている『D』も今のままでは張子の虎に過ぎない。どうにかしてルドルフを亡き者にし、帝国の実権を握らねばならなかった。
数日前、盗賊団に関わりを持つ部下の一人を、町の場末の酒場に呼び出して、ある計画を立てていた。
その計画こそ、ルドルフ暗殺である。捕獲した共和国のゾイドを何機か部下に託しており、宮殿のパトロールが手薄になったところで、共和国の仕業に見せかけて暗殺する・・・という手はずになっている。
勿論この事は、極秘であり一部の部下にしか知らしていない。
「今日が私にとって記念すべき日になるな・・・」
さっきとは打って変わって顔を僅かにほころばせるプロイツェン。今日がその予定の日なのだ。そんな時、部屋がノックされた。
「なんだ?」
プロイツェンは尋ねた。すると、扉の向こうから男の声が聞こえてきた。
「お食事のお時間です。」
「入れ。」
プロイツェンはふと、時計に目をやる。時間は正午、丁度昼食時だ。
「昼食をお持ちしました。」
給仕の格好をした男は大きなカートを押して部屋に入ってきた。カートには巨大な皿が幾つも並べられており銀色の大きなドーム状の蓋がしてあった。
「准将はどうした?」
プロイツェンは給仕に尋ねる。食事の時はいつも補佐官である准将がそばにいるからだ。それが今日に至っては姿を見せていない。
「申し訳ありません。ワタクシは存じません・・・」
給仕はそう答え、テーブルに食事を並べ出した。それを見てプロイツェンは近くにいた護衛の兵士を部屋から出した。
部屋はプロイツェンと給仕の二人きりになった。
「何のつもりだ?カーネル。」
プロイツェンは給仕に向かって怒りにも似た声を発した。
「何の事でしょう?ワタクシは一介の給仕にすぎません・・・」
「とぼけるな。そんな立派な体格・・・そして!!」
プロイツェンは声を荒げた。
「下半身がビキニパンツ一丁の給仕が何処にいる!!」
プロイツェンの言葉は事実だった。給仕の男は上は給仕の格好だが、下半身はピチピチのビキニパンツだけであった!!
「ばれたか〜。」
給仕の男は被っていた帽子を取り、給仕の服を脱ぎさった。
そこにはビキニパンツ一丁の筋肉オヤジ、我らが(?)カーネルの姿がっ!!
「久しぶりだね〜プロ公。」
プロイツェンに笑顔で接するカーネル。白い歯がまぶしい・・・
「何のようだ?お前は私が嫌いなはずだろう。」
反して思いっきり不機嫌なプロイツェン。
「まあまあ〜。お前と俺の仲じゃねえか?昔あんなにベットの中で可愛がってやったのに。」
プロイツェン、無言で拳銃を撃つ。
「マト○クスッ!」
と、言って、リンボーダンススタイルでかわすカーネル。
「たちの悪い冗談は嫌いでな・・・」
「俺は大好きだぁ〜!!」
笑顔を絶やさないカーネル。反してプロイツェンはますます不機嫌になる。
「で、今日は何のようでここに来た。お前が冗談だけ言いに来るのなら、軍の通信でよくやっているだろう?」
「あ?解った?」
頭を掻くカーネル。
「情報部が言っていたぞ。わたし宛に『ば〜か』とか『でこっぱち』とか送っている奴がいるとな・・・」
「『確定ハゲ』もいれとけ。知ってるぜ、3ミリ後退だってな。は・え・ぎ・わ♪」
プロイツェン、又も撃つ!「柔軟体操っ!」と言いまたしてもかわすカーネル。
「誰のせいだ・・・・誰の・・・」
思わず腹を押さえるプロイツェン。意外と気にするタイプのようである。
「胃潰瘍か?」
笑顔で尋ねるカーネル。見ればプロイツェン用の昼食のワインをラッパ飲みしている。
「イイ酒だな♪さ〜すが元帥ともなると違うね〜♪お土産に・・・っと。」
パンツから袋をいくつか取りだしワインを詰めるカーネル。
「ところで、本題を言え!私は忙しいんだ。」
「忙しいって、ルドルフ暗殺か?」
「!!」
プロイツェンの表情が変わった。対してカーネルは笑顔のまま。
「どこで知った。」
鋭い目つきでカーネルに尋ねるプロイツェン。
「俺の諜報員は優秀でね。まあ俺も言ってみればアンタの派閥の人間だ、アンタの考えくらいわかるよ。もう一本もらうぜ。」
カーネルは、さらにもう一本氷に漬けてある冷えたワインを手に取った。
ポンッ!───と、口でコルクを抜き、ワインを口に流し込むカーネル。
「どうだ?俺にやらせる気は無いか。ガキの暗殺なんて楽なもんだ。」
カーネルは口調を変えず言い放った。
「断る。お前の事だ、どうせ暗殺なんかせず、誘拐して私宛に身代金でも要求する気なんだろう。」
「あ、どきっ・・・解った?」
プロイツェンの言葉は図星だったようだ。苦笑するカーネル。
「既に準備は終わっている。お前ごときが口出しする問題ではない。今日はもう帰れ。」
プロイツェンはカーネルに背を向けた。
「昔のよしみで今日の事は不問としておいてやる。さっさと出て行け。」
「ちぇ〜・・・イイ金づるになると思ったのに・・・」
つまらなさそうに顔を尖らせるカーネル。以前プロイツェンは背を向けたままだ。
「あっそうだ!お前に忘れ物を届けに来てやったんだ!忘れるところだったぜ〜。」
ふいに笑顔で言うカーネル。
「忘れ物?」
振り向くプロイツェン。すると、カーネルは食事の載ったカートを指差していた。
「何なんだ?昼食ならもういらんぞ。」
すると、カーネルは『見せた事も無い』ようなまぶしい笑顔を見せた。
「まあまあ!今日の昼食は、『美少年の裸盛り』と『黒いゾイドの姿煮』だぜっ!!」
カーネルは満面の笑みでカートの上の蓋を外した。そして、そこに載っていたものを見てプロイツェンは絶句した!!
「!!!!!」
さしものプロイツェンも言葉を失い、目を疑った!!
皿に載せられた巨大な皿には『手足を紐で結ばれ、猿轡をかまされた素っ裸のレイヴン』に季節野菜とローストビーフ等が盛られていた!!
そしてもう一つは、巨大なスープ鍋に『すっかり煮詰められ、ぐったりしたオーガノイド・シャドー』であった!!
「こないだ、共和国との国境近くで見つけたんだ。聞けば、お前のところに世話になってる奴って言うから保護してやったんだが、こいつら言う事聞かなくてよ〜。」
淡々と説明するカーネル。
「・・・・・」
開いた口がふさがらないプロイツェン。よほどの事でも動じないプロイツェンもこればかりはショックが大きいようだ。
「いくら言ってもおとなしくならねえからウチの若いのが怪我しちまってよ〜。しょうがねえから・・・」
「何をした・・・」
プロイツェンはこの一言だけ口に出来た。カーネルは『待ってました』とばかりに答えた。
「食った。」
「・・・・・・」
「見れば中々の美少年♪俺の妙技『男絞め』の前に敢え無く落ちたぜっ!その後、頂いた訳だ。」
「・・・・・シャドーは・・・」
微かにプロイツェンは発した。カーネルは勿論笑顔♪
「こいつは少々、てこずった。だがな、ウチの美人の副長見るなり怯え出してな、その後ウチの開発品『ゾイドホイホイ』でおとなしくさせた。」
カーネルは煮詰められたシャドーを見て言った。
「それとさ〜、プロ公。この黒いゾイド何食うんだ?色々試したけど、納豆食わねんだよ?干物とか、ギョーザやレバニラも食わなくてさ〜。しょうがねえからゾイド用の栄養剤だけしかやってねんだけど、おい?聞いてるか?」
放心状態のプロイツェン。珍しく口が開いたままだ。
「それじゃあ帰るわ。あっこれ、請求書ね♪こいつ等の飯代と運送費。レドラー動かすのもただじゃねえからな〜」
すると、プロイツェンの部屋に物凄い風が入ってきた。窓の外に低空でレドラーが待機して縄梯子を下ろしていたのだ。
「じゃあな〜。ちゃんと払えよ?ウチも苦しいんだからな。」
そう言い窓の外にぶら下がっている縄梯子に飛びつかまるカーネル。
「バイバ〜イ♪」
笑顔で飛び去ろうとするカーネル。そしてプロイツェンはようやく気を取り戻した。
「あんたが放心するところを初めてみたよ・・・・あんたも人間なんだな。」
なんとか猿轡を自力で解いたレイヴンはプロイツェンに向けてそれだけ言った。正気に返ったプロイツェンも言い返す。
「お前こそ、かなりやられたようだな?」
「バンの事かい?」
「ごまかすな・・・。あの男にだ。」
レイヴンはその言葉に怒りを露にした。
「こんな屈辱と辱めを受けたのは初めてだ!!バン並に危険な男だ!奴は!!」
その様子にプロイツェンは静かに頷いた。
「そうだな・・・だが、奴がいなければ私の計画が進められなかったのも事実だ。今は利用できる・・・少しくらい耐えろ。」
「あの男は何なんだ!?それに奴の部下もそうだ!シャドーが一撃でやられるなんて!」
レイヴン回想・・・・・カーネルの基地にての出来事♪
「ぐわあ!!」
「電磁ネット持ってこ〜い!!」
暴れるシャドーにてんてこ舞いの基地の兵士達。
「おとなしくなんね〜な〜。あの黒いの。」
カーネルは他人事のように呟く。本心ならば自分がやればすぐにかたがつくのだが、今は無理だった。
何故なら今のカーネルは全裸でレイヴンを抱きしめていたからだ。
「ああ・・・美少年の感触♪さいこ〜・・・」
オイルと汗でテカテカ光る自慢の肉体で、暴れるレイヴンをおとなしくさせるために、己の肉体を使って動きを封じていたのだ。
「大尉は、友軍の人間と部下、そして子供には手を出さないんじゃなかったですか?」
一人の兵士が平然とレイヴンを抱きしめているカーネルに尋ねる。カーネルは男女問わず手を出すのが早い事でも有名だった。
だがポリシーはあった。それは、「友軍の兵士と部下、子供には手を出さない」ことだ。
「美少年は別♪」
オッサン即答。どうやらレイヴンが気に入ったらしい。全然離そうとしない。
そのレイヴンをオッサンから助け出そうとシャドーが大暴れしているのだ。
「大尉!!こいつかなり強暴ですよ!」
唸り声を上げて暴れるシャドーにさしものカーネルの部下たちもてこずる。そんな時、副長のテリア中尉が現れた。
「あら?賑やかですけどどうしました?」
呑気に尋ねるテリア。するとシャドーの目線がテリアに向いた。
「中尉!危ない!!」
兵士の一人が叫んだ。だが遅い、シャドーが牙をむいてテリアに襲いかかった!
「!!」
誰もが中尉はシャドーの餌食となった・・・・そう思った。だが、事態はそうはならなかった。シャドーはテリアを眼前に捕らえているにも関わらず、一向に飛びかからない。そればかりか腰が引けて、明らかに怯えていた。
そして一発。これが決め手になった♪
シャドーの目と耳に残ったもの・・・・・
(ボクタチガ・・・・オーガノイドダ・・・・)
(ソウダヨネ・・・・)
(オネイチャン・・・・)
複数
以前より増えている
何かが
何かが・・・・・
怯えるわ・・・・シャドーならずも・・・・誰だって・・・・
シャドー卒倒
「今だ!ゾイドホイホイ使え!!」
兵士達は野生ゾイド捕獲用の粘着シートでシャドーを封じる。
「どうしたのかしら?この黒いゾイド・・・」
平然と呟くテリア中尉・・・・知らぬは幸せ・・・なのかも知れない・・・
回想終了
「そんな事があったのか?オーガノイドをな・・・」
プロイツェンは感心したように言った。
「それより、奴をこのまま黙って返すのかい?」
レイヴンは憎しみを込めた言葉で言う。プロイツェンは一瞬だけ顔をにやつかせた。
「勿論、ただ返すわけはないよ・・・」
「皆さん、僕はドイン少尉です。今僕は、特命でレドラーの操縦をやってます。何故かって?それはカーネル隊長と共に、あのレイヴンっていう少年と黒いオーガノイド(大尉はそうとは思ってないらしいですけど)のガイガロスへの移送任務です。」
レドラーの操縦桿を握るドインの手は震え、顔は真っ青・・・
「移送だけって聞いたのに・・・・まさかねえ・・・・」
ドインは後方をえらく気にしながら操縦している。下方にも気を払っていた。
「皆さん・・・・遠慮の無い攻撃って怖いですね。とくに味方の・・・・」
ドインの操縦するレドラーはガイガロス首都防衛部隊の攻撃を受けていた。勿論実弾・・・・。演習ではない、本気です・・・
「味方から攻撃受けるのって怖いですよ・・・・反逆者にでもなった気分ですよ・・・」
この攻撃は勿論プロイツェンが差し向けたもの。やはり頭にきているようだ。ちなみにオッサン、縄梯子にぶら下がったまま。パンツ一丁でね。
「おい!新米、もっと飛ばせ。追いつかれるぞ〜。」
楽しんでいる。オッサンは楽しんでいた。
飛び交う銃弾やレーザーを腕を振り、足を曲げ、そしてケツを振って見事な回避行動を取っている。まるでダンスでも踊ってるかのように・・・・
しかし、やはり人間。予想外の出来事は起きるもの・・・・レーザーが一発、かすめる。
「うわああああああ!!!」
オッサン絶叫。怪我したわけじゃない。かすったレーザーで火傷したわけでもない。
はらり・・・・・何かがオッサンから剥がれ落ちる。
ビキニパンツが
オッサンまた全裸
「俺のお気に入りがぁ〜!!」
そういう問題ではない。
その時、一機のレドラーがドインのレドラーに隣接しようとしていた。レドラーの主翼は鋭利な刃物。どうやら格闘戦をしかけようとしているらしい。
「まずい・・・・」
ドインは額から冷たいものが流れ落ちるのを感じていた。実戦経験は数回にすぎない新米でレドラーに不慣れなドインでは逃げ切れるかどうかすら怪しいもの。
「くっ!」
防衛部隊のレドラーが近づいてくる。ドインは距離を取ろうとレドラーを上昇させた。
「うおうっ!あぶね〜♪」
ぶら下がってるオッサンが眼前のレドラーを見て嬉しそうに慌てる。すると、いきなり眼前のレドラーが失速し、落ちて行った・・・・。俗に言う墜落である。
「落ちた?どうしたんだあのレドラー?」
墜落して行くレドラーを不思議そうに見ているドイン。
「とにかくチャンスだ!今のうちに・・・」
ドインはレドラーにオーバーブーストをかけ、その場から全速力で離脱した。
「皆さん。ドイン少尉です。とんでもない事になりました。帝国の一大事です。」
命からがら基地に辿りついたカーネルとドインは、それからとんでもない事実を聞かされることになった。
帝国司令部の情報部から緊急事態が告げられたのだ。
カーネル達が大騒ぎをおこした直後、冗談抜きにとんでもない事態が起きたのだ!!
ルドルフ陛下誘拐さる!
「どうやら、何者かが防衛部隊の隙を見てルドルフ陛下を誘拐したようなのです。これは一大事です。」
ドインの表情は暗い。帝国の一大事だからではない。
「僕思ったんですけど、陛下のいらっしゃる城にそう簡単に共和国なり盗賊なりが侵入できるものなのでしょうか?警護団がしっかりガードしているのに・・・・」
ドインは冷や汗が出てきた。
「僕とオッサンを追撃に出た防衛部隊って、警護団も含まれるんですよね・・・・」
ドインは泣きそうな顔をしていた。
「ひょっとしたら、僕とオッサンが大騒ぎ起こした隙をつかれたんじゃあないかって・・・」
「つまりですね・・・オッサンが大騒ぎ起こしたせいで、警護団がいなくなったんじゃあないかって事ですよ・・・」
ドインのこの言葉はほぼ事実だった。ガイガロスの守備隊の大半がカーネルのレドラー攻撃に出払っていたらしい・・・・。
「それと、これはあまり大局に影響しない事なんですけど、僕達に格闘戦を仕掛けようとして接近してきたレドラー。あれなんでいきなり墜落したか解りました。あのレドラーのパイロット女性だったんだそうです・・・」
ドインの言いたい事はこうだ。接近してきたレドラーのパイロットは見たのだ。
何を?決まっている。
全裸のオッサン
しかもね。パイロットが黙示した時、カーネルは・・・・
しってかしらずか・・・ポーズとってた・・・・。
墜落するわな・・・・そりゃあ・・・・
「そして、ルドルフ陛下誘拐を知った時のオッサンの一言が、耳から離れないんですよ・・・」
カーネルの一言♪
「チッ!先越された!!」
後編
ドインは、司令部が発したルドルフ捜索の指令の為にサーベルタイガーで偵察をかねた捜索活動を行っていた。
ルドルフ陛下が誘拐されてから、既に十日以上過ぎている。なんとか皇帝即位の期日までには発見・保護しなければならなかった。誘拐にはゾイドを使った盗賊団の存在も思慮に入れられていた。その為捜索とは言え危険がつきまとう任務であった。
だが、ドインは嬉しかった。危険がつきまとうとはいえ、『正規でまともな』任務を与えられたのが何より嬉しかった。彼は人一倍張り切っていた。
カーネルも珍しくこの任務には乗り気だった。司令部からの指令を受けると真っ先に捜索隊を組織し、『何が何でも探し出せぇ〜!』と息巻いていた。
「オッサンやっと軍人としてやる気になったのか・・・・」
とドインは感心していたが、勿論カーネルには『裏の考え』があったのは言うまでも無い。
裏の考えとは・・・・・
ここでおさらいしておこう。
カーネルは嫌われているとはいえ、立派なプロイツェンの派閥の人間である。
よって、カーネルは、プロイツェンの部下なのだ。
つまり、プロイツェンの考えに従って動かなくてはならない。
プロイツェンが仕事を行いやすいように。
プロイツェンの野望の手助けをするのが部下の役目。
プロイツェンの野望・・・・帝国の頂点に立ち、惑星Zを制する事。
野望には、ルドルフが邪魔。
よって捜索にかこつけて、正規部隊より早く見つけられれば、暗殺しやすい。
そしてルドルフに成り代わり帝国の頂点に立つ。
つまりカーネルは、そうしなくてはならない。
普通はね・・・
だけどカーネルは、プロイツェンが大嫌い。プロイツェンの嫌がる事が大好き♪
カーネルの裏の考えとは・・・・
「いち早くルドルフを見つけて・・・・プロイツェンから身代金ふんだくることじゃあ〜い♪」
オッサンの考えそうな事
そうとは知らず、ドインはあちこちを聞きこみ大地を駆けていた。
可哀想な人・・・・・
「んん?救難信号、友軍のものだ・・・・」
ドインは偵察の途中で計器に友軍の救難信号をキャッチした。そんなに離れてはいないドインはタイガーを信号の発する地点へ走らせた。そしてそこでドインが見たものは・・・・
「なっ!何てことだ・・・・」
ドインが見たのは、荒野に散らばる帝国軍ゾイドの無数の残骸だった。ざっと数えても小型ゾイドが十機以上確認できた。
「ひどいもんだ・・・・いくらイグアンやモルガばかりとはいえ、十機以上のゾイドが・・・共和国の部隊でも入りこんでいたのか?」
よく見ればいくつかのゾイドは切り裂かれたような痕が幾つか確認できた。
「鋭利な刃物で斬られたって感じだな・・・共和国にこんな武器持ったゾイドはいたかな・・・」
自分の記憶する共和国のゾイドにこんな攻撃が出来るゾイドは存在しなかった。
「刃物を持ったゾイドと言えば、ダブルソーダかガイザックあたりだがあれはハサミだからな・・・」
そう、ハサミではこうも一直線に切り裂けない。
「帝国のゾイドで考えるなら・・・・レドラーのレーザーブレードだけど、空戦ゾイドが地べたを這うモルガを切り裂けるわけないしなあ・・・」
考えても考えても答えは出ない。ドインは考えるのを止め、救難信号を発しているゾイドを探した。
「いた!あれだ。」
ドインは発見した。それは既に半壊したレッドホーンだった。この部隊を指揮していた指揮官機らしかったが、機体のあちこちに切り刻まれた跡がはっきりと残っていた。
「大丈夫か!しっかりしろ!!」
ドインはタイガーから飛び降り、レッドホーンのコクピットを開いた。だがそこにはぐったりした兵士が息も絶え絶えにコンソールに突っ伏していた。
「しっかりしろ!何があったんだ!?」
ドインは兵士に問い掛ける。兵士は途切れ途切れに口を開いた。
「あ、青い・・・・見た事の・・・無い・・・・ライガー・・・・」
「ライガー!?ライガーにやられたのか!?」
兵士は今にも事切れそうなか細い声で話を続けた。
「たった・・・一機の・・・ライ・・ガーに・・・、あれは・・・バン・・・フライハイトに・・・間違い・・・ない・・。」
ドインはその言葉に目を見張った。
「たった一機のライガーに!しかも・・・バン=フライハイトだと!?あの共和国のオーガノイド使いか!」
返答は無かった。兵士は完全に気を失っていた。
ドインはすぐにタイガーの通信機で救援を呼んだ。
「・・・・はいそうです。場所は先ほど報告した通りの場所です。他にも何人か負傷兵はいますので早めにお願いします。」
無線で話している相手はカーネルではなくテリア中尉だ。
『了解したわ。貴方は出来うる限りの応急処置をお願い。』
「了解です。」
『それと、その部隊は間違い無くライガーに襲われたのね?』
「喋れる兵士が何人かいましたが彼等は、ライガーで間違い無い。と言っています。」
『そう・・・解ったわ。それにしてもバン=フライハイトとはね。考えられなくも無いわね。』
テリアが息を一つ付いた。(確実に間違ってはいるが)同じオーガノイド使いとして、彼女もバンには興味があったからだ。
『バン=フライハイトなら共和国製のゾイドに乗っていても帝国領内には易々入れるものね。』
テリアの言っている事は間違い無かった。バンは共和国に雇われた『傭兵』ではあるものの、身分上は『民間人』だからだ。正規の手続きさえ行えば、帝国領内に入る事など容易だからた。
「はい。しかも噂ではバン=フライハイトは、オーガノイドの力で進化したライガーに乗っているとの未確認情報も入っています。彼等が見た未確認ライガーも恐らくそれではないかと。」
ドインはそう報告した。テリアは頷き、そこで通信を終えた。
だが、その通信を傍受している者がいた。
その戦場跡からさして遠くない岩陰にそれは潜んでいた。
一機のライガーが・・・
「この私がバン=フライハイト?笑わせてくれるわね・・・・」
ライガーのコクピットでドインの通信を傍受していたエミー少佐は軽く微笑んだ。
彼女は、ここ最近の帝国の情勢を探るため、共和国より潜り込んでいたのだ。勿論新型のブレードライガーの実戦データを収集する意味合いも含めてだが・・・
だが、治安維持部隊の彼女が何故こんな特殊部隊や諜報部隊の真似事をしてるのかは、後で語ることにしよう。
「でも・・・これは使えるわねえ♪よし!」
彼女は暗号伝聞を友軍に送り出した。そしてその内容は・・・・・
「ええと、増援要請・・・・コマンドウルフ一機にグスタフ一機・・・っと。それと塗装を・・・・」
そして場所はカーネルの基地。
カーネルはテリアからドインの目撃した事を報告していた。
「・・・以上です。なおその部隊の負傷兵はすぐに友軍の基地へ搬送しておきました。」
「ごくろ〜さん。ん〜新型のライガーか・・・・どんなんだろ?」
カーネルはそう呟いた。
「目撃情報によると、鋭利な刃物を装備しているとの事です。・・・・大尉、欲しいんですか?」
テリアはカーネルの考えを呼んだかのように言った。カーネルは頷く。
「やっぱり・・・・この間、ゴジュラス捕獲し損ねた事をまだ根に持っていたんですか?」
「だってよ・・・カッコイイじゃん!ゴジュラス・・・・」
カーネルはまるで欲しかったおもちゃを買ってもらえなかった子供のような顔をしていた。
「ウチ(ガイロス帝国)のなんかゴリラだぜ・・・・ゴジュラスのほうが絶対カッコイイよな〜。ライガーだってカッコイイし・・・」
「子供ですか、貴方は!何でも欲しがらないの!」
母親のように叱るテリア。それを無視して、カーネルは床に寝転び、駄々をこねだした。
「うわあ〜ん!ゴジュラスがほしんだ!ライガーがほし〜んだ〜!!」
オッサン子供じみてる。
「だってさ!ハーマン君も、バン君ももってんだぜ〜。持ってないの俺だけじゃん!!」
「帝国の軍人は誰も持ってません!この間捕獲したコマンドウルフで我慢しなさい!」
するとオッサン、いきなり静かになる。
「コマンドウルフにはいい思い出がねえんだよ・・・」
オッサンどうやら、以前追いかけられた事を根に持っているらしい。
「あんときゃ〜死ぬかと思った・・・・真後ろでコマンドウルフが秒単位で噛み付こうと口ガチガチ鳴らしていたんだぜ。」
そう言ってカーネルは立ちあがって上着を脱ぐ。
「ここ見ろ、背中の火傷の跡。解るか?」
テリアに背中を見せる。小さいながらもオッサンの背中には火傷の跡があった。
「コマンドウルフの電磁牙(エレクトロファング)ですね。」
テリアは言った。オッサン頷く。
「飛び散った火花でな・・・・。冗談抜きで怖かったぜぇ〜。」
テリアは思った。こんな人でも怖いものがあるのね・・・・と。
余談だが、カーネルの苦手な物は他にもある。カーネルは意外に博打が弱い。つまりオッサンギャンブルが嫌い。そして肉体派にしては珍しく、オッサン、アスパラガスが食べられない。
カーネルにとってコマンドウルフは、ギャンブルとアスパラガス以上に苦手なのだ。
「まあ、相手がバン=フライハイトなら相手にとって不測はねえな。来週辺りに俺も捜索に出てみるか。」
オッサンどうやら、本気でライガーを捕獲するつもりでいるらしい。
「まあ気をつけてやってくださいね。でもその前に・・・・」
テリアはそこでカーネルに向けて書類を突き出した。本国に送る重要な書類の数々だ。
「宿題。明日までにやっておきなさい。いいですね!!」
カーネルは思いっきり嫌な顔をした。
「ええ〜!!先生こんなに〜!ひどいよ〜。TV見れないよ〜。」
「宿題終わったらTV見せてあげます。それとNO・27の書類、二時まで仕上げないとオヤツ抜きですからね!」
カーネルは涙目になった。
「酷いよママン!今日は大好きなホットケーキの日じゃないか!」
「だったら早くやりなさい!ちゃんとやらないと先生(プロイツェン)に言いつけますよ!」
「あの先生嫌いだ〜。すぐ僕ばかり悪者にするんだもん!」
オッサンますます子供じみてくる・・・・。
そして涙を流し、鼻水を垂らして書類に打ち込むオッサンであった・・・・
「早くしないと、『熱涙戦隊漢マン(ねつるいせんたい おとこまん)』が始まっちゃうよ〜!」
熱涙戦隊漢マン───ガイロス帝国で最も人気のある子供番組。五人の男らしい漢達が侵略宇宙人ナンパラーから惑星Zを守るため、熱涙戦隊となって戦う物語。
カーネルはこの番組の大ファンであり毎週欠かさず見ている。たとえそれが作戦会議中であろうが、最前線であろうが・・・・・
ちなみにカーネルは領収書をプロイツェン宛にして、給料の三分の一を『漢マングッズ』に当てている。
一番のお気に入り───DX超合金・熱涙合体『地震雷火事親父ロボ』
「わ、わたしは〜荒野の〜運び屋さん〜♪」
明らかにへたくそな歌声を乗せて赤紫色のグスタフが荒野を走っていた。そしてその荷台には二機のゾイドが載せられていた。
一機はブレードライガー、そして二機目は装甲を黒に近い濃い灰色で塗られたコマンドウルフだ。
「へたくそな歌ねえ・・・もっと上手く歌えないの伍長?今の貴方は『運び屋ムンベイ』なのよ。」
グスタフの後部座席で寝転んでいた女性がグスタフを操縦している男に話しかけた。
「少佐・・・お言葉ですが、自分は整備兵であって軍楽隊ではありません。歌など専門外です。」
グスタフを操縦している伍長と呼ばれた男は言い返す。
「まあ・・・形だけ演じてればいいんだよ伍長・・・。そうでしょ少佐?」
頭に赤いバンダナを巻き、片目にスコープ付きの眼帯をつけた若い男がさらりと言う。
「そうよ。解ってるじゃない中尉・・じゃなかった『アーバイン』。」
「しかし少佐。こんな事で帝国の目を騙せるんですか?わたし不安ですよ・・・」
少佐と同じく後部座席にいた若い女性が尋ねる。すると少佐は軽く笑った。
「大丈夫よ曹長。今帝国領内で共和国のゾイド乗りまわしているのってバン=フライハイトご一行様くらいなんだから、主要幹線さけて通れば問題無いわ。だから曹長、貴方は安心して『フィーネ』ちゃんしてなさい。」
「了解です。テュウシバ少佐・・・いえ『バン=フライハイト』殿。」
この妙な一行は、共和国の治安維持部隊でブレードライガーのデータ収集の為に帝国内に潜入していたエミー少佐が増援として呼びこんだ部下達であった。
少佐はデータ収集と他に、最近不穏な動きのある帝国の内情を探るため、特命で潜入していた。
不穏な動きとは、先の帝国軍の共和国侵攻とそれに反してのルドルフによる急な戦闘停止命令の矛盾さを共和国上層部が感じ取り、調査と内情把握のためエミー少佐を送りこんだのだ。
しかし何故治安維持部隊である少佐が、この任務に選ばれたかというと・・・・
『彼女は、ガイロス帝国に詳しい。』 『なぜなら以前交際していた男性が帝国仕官だった』等の実例があったからだ。
彼女の交際していた帝国仕官とは・・・・・我等が愛する(?)オッサン『カーネル=ヴリュッケン』その人であったからだ!
彼女は交際中はカーネルがまさか、敵国の仕官だったとはまるで気づいていなかったらしい。
そしてオッサンは交際中、あまりにも少佐の前ではデレデレしていたのか、自分の知る限りの『帝国の内情・実情』を酒に任せてベラベラ喋っていたらしい。
だが、ここで予想だにしない出来事が起きる。順調に交際は進み、婚約寸前までいった二人だったが・・・・
ある日、少佐の部屋に招かれたカーネル。だがそこでオッサンは、エミーが共和国の仕官であることを知る。
さしものオッサンも、まさか相手が共和国の仕官だとは知らなかったらしく、彼女の身分を知ったときビビリまくったそうだ・・・
そしてその翌日、少佐がベッドから目覚めると、自分の隣にも部屋の何処にもにもオッサンの姿は無く、少佐の部屋から現金・預金通帳・貴金属などの金目のもの等が失われており、『さよなら・・・そしてごちそうさま』と書かれていたメモ用紙を残してカーネルはエミーの元から消えた。
もうこうなったら後は簡単に予想がつくだろう。彼女は怒りの鬼と化した・・・・
その後で彼女はカーネルが帝国軍の兵士である事を知り、ますますその怒りの度合いを強めた。
「ころ〜おすっ!!!」
彼女は怨念に燃え、復讐の機会を待った。だが、首都の治安維持部隊であるゆえ首都を離れる事が出来ず、日々を悶々と過ごしていた。
それゆえ、レッドリバーで交戦状態になったと、報告を受けると上司に無断でコマンドウルフで出撃し、さらにプロイツェン派の侵攻の際はシールドライガーで出撃したが、侵攻部隊にカーネルはいなかった。
そんな時に上層部からこの任務を聞かされたときは
「絶好のチャンス到来!!」
と闘志を燃やした。
さらに、危険が伴うと言う事で、確実に情報を持ちかえるためにスピードと防御力に優れた新型機であるブレードライガーが与えられた。
そして内情を探るために帝国に潜入したものの、単独行動ではやはり限界はある。隠密行動を取るには単独の方が効率はいいのだが、ゾイドを利用しての長期ともなると単独ではつらいものがある。
そこで少佐は撃破した帝国部隊が自分を『バン=フライハイト』と間違えた事を利用し、増援の部下たちをそれぞれ、『フィーネ』(部下で一番色白の女性下士官)・『ムンベイ』(褐色の肌の少年整備兵)・『アーバイン』(背格好が似ている中尉)としたのだ。
さらに増援で持ってこさせたグスタフとコマンドウルフをそれぞれ塗りなおして偽装とした。コマンドウルフはアーバインのものとは違い標準装備のままだが、砲塔の違いなど傍目には解らない。こうしてエミー少佐はまんまとバン達に成りすまして行動していた。
「さてと・・・ゾイドイブ(情報&カーネル)探しといきますか。」
エミー少佐は何気なくバンらしい台詞を呟いた。
「・・・・・暇だ。」
オッサンの一言。
ルドルフが行方不明になったてら、二週間近く立とうとしていた頃、カーネルは主だったメンバー全員引き連れて荒野を調査していた。
「調査任務なんて俺の性に合わないんだよな〜」
ジェノザウラーのコクピットでエロ本読みながらカーネルはぼやいていた。
「隊長!さぼらないでくださいよ〜。」
サーベルタイガーのドインが言う。
「これは本国からの直接命令なんですよ!」
ドインはタイガーのセンサーを活用しながら地質を調査していた。
「どうせプロ公の差し金だろ〜?やる気しねえな〜。それに他の部隊もいるんだし、そいつ等に任せてかえろ〜ぜ。」
そう、今回は珍しく他の部隊との合同任務なのだ。だがオッサンやる気なさげ。そこでテリアが口を挟む。
「あら今回の任務は大尉にとって重要かもしれないですよ?」
「なんで〜?」
カーネルがうざったそうにテリアへ聞き返す。
「この場所はですね。ほんの数日前、バン=フライハイトのライガーがどうやら進化した場所であるらしいんですよ。」
その言葉にカーネルは表情を変えた。
「本当か!?」
「ええ、ですから何か残留している何かが残っていれば・・・」
「おお!!そりゃ重要だ!」
カーネルは目を輝かして、まるで子供が宝捜しでもするかのような表情で仕事を始めた。
そんなカーネルをよそにリューンはドインに通信を入れた。
「進化したライガーか・・・どんなんだろうな?」
「俺が知る限りは・・・鋭利な刃物を装備してるらしいぜ。」
「刃物?」
リューンは首を傾げた。
「ああ・・・俺が見つけた部隊のゾイドがな、綺麗に斬られていたんだよ。そうだな・・・」
ドインはそこで首をあちこちに見回す。
「おっ!」
ドインは少し遠くにいる作業中のイグアンを見つけた。
「例えばだ、あそこにいるイグアンがな・・・・」
ドインはイグアンを指差す。
「こう・・・綺麗に、横一文字に・・・」
その時、指差していたイグアンの上半身が『ずれた』。
「スパッ・・と、切り裂かれたような・・・」
次には、イグアンの上半身と下半身が完全に分かれていた。そしてイグアンの上半身は地面に落ちた。
「あんな感じか?」
リューンは切り裂かれたイグアンを示す。ドインは頷く。
「そうそう!あんな感じ。・・・・てっ・・・おい・・・」
ドインとリューンの顔に冷たいものが流れた。何故なら彼等の目には、わき腹に金色に輝く長い刃を装備したライガーが映っていたからだ。
「でぇぇたぁぁぁぁぁぁ〜!!!」
まるで幽霊でも見たかのごとく二人は絶叫した。手足が震え涙が流れそうになっていた。
「でた〜!でた〜!進化したライガーだあ〜!!」
ドイン絶叫。サーベルタイガーは既に逃げ腰。
「ば、バン=フライハイトだあ〜!共和国の青い奴だあ〜!オーガノイド使いだあ〜!!」
リューンも絶叫。レッドホーンはもう退却姿勢に入っている。
「チッ!見つかった!情報収集も終わってこれから共和国に帰ろうって時に・・・」
エミー少佐は舌打ちして呟いた。彼女はバンに成りすましていたお陰で、大きなトラブルもなく帝国の内情を探る事が出来た。
だが、彼女にとってカーネルに復讐を果たせなかった事が悔やまれるが、ここは任務優先。こうして共和国への帰路につこうとしていたとき、偶然帝国の部隊に接触してしまった。
勿論、バン=フライハイトとしてやり過ごそうと考えていたが、どうやら帝国の狙いがバンにあることに切り替わっていたらしいのを思いだし、応戦したのだ。
「本物のバンにはルドルフ誘拐の容疑がかけられていたんだっけ・・・・」
後悔してももう遅い。彼女は連絡される前に殲滅しようと攻撃を仕掛けた。
そして一機のイグアンを切り裂いたところで、別の大型ゾイド二機がこちらを見て逃げ腰になっているのに気付いた。
「??。どうしたのかしら・・・。もしかしてビビッてるのかも・・・」
大正解
「なら本隊に連絡される前に叩く!中尉援護して。」
「了解!」
ライガーとウルフがドインとリューンに迫る!!
「く、くるなあ〜!!」
涙目で機関砲を乱射するリューン。だが、ライガーは易々と弾幕を交わしブレードを構えて突進してくる。
「くるなよ!くるなあ〜!!ドイン助けてくれ!!」
機関砲を乱射しながら半狂乱で後退しているリューンのレッドホーン。だがライガーとレッドホーンではスピードに差がありすぎた。
「ドイン!ドイン!どうしたんだよ!?助けてくれ!!・・・・うわー!!」
スパーン!!
ライガーのブレードがリューンのレッドホーンの背中を切り裂く。致命傷ではないが、武装の九割を背中に装備しているレッドホーンはこれで、丸腰同然にされた。
「た、助けて・・・・死にたくねえよ・・・ドインどうしたんだよぉ・・・」
だが、彼は親友が助けにこれなかった訳を知った。
「嘘だろ・・・性能は俺達の方が上なのに・・・」
リューンが呆然と呟いた。彼の目に映っていたのは、黒いコマンドウルフに喉元を噛み付かれ動かなくなっているサーベルタイガーであった。
「ドイン・・・・。これが、バン=フライハイトの実力なのか・・・・。そしてあれが傭兵アーバイン・・・」
リューンは完全に戦意を失った。完全に血の気が引いている。
「勝てるわけ無い・・・・勝てるはずねえよ・・・。」
すると、次の瞬間、リューンのレッドホーンは何かに弾き飛ばされた。
「うわああー!」
リューンの悲鳴。横倒しになるレッドホーン。
「一体何が・・・?・・・ヒッ!」
リューンは恐怖に怯えた。彼の横倒しになったレッドホーンにライガーが上に圧し掛かり、牙を剥いていたからだ。
「トドメ刺す気だ・・・。助けて!誰か助けてくれ〜!カーネル大尉!助けて〜!!」
リューンは泣き叫んでいた。すると、今まさに食いつこうとしていたライガーの牙が止まった。
「どうしたんだ?」
『このレッドホーンのパイロット。いまカーネルと言ったな?』
レッドホーンのコクピットに女の声が響いた。
『どうなんだ!カーネルと言ったな?どうなんだ。返答次第では助けてやるぞ。』
地獄に仏とはまさにこの事、リューンは何の疑問も沸かずに答えた。
「はい、そうです!間違いなく言いました。カーネル大尉と!!」
『お前は奴の部下か?』
「そうです!バン=フライハイトさん!」
バンは男だと言うのに、まだ女の声と言う事に気付かないリューン。恐怖で頭が回らないのだろう。
『解った・・・・』
そう言いエミー少佐はわき腹のブレードをレッドホーンのコクピットに突きつけた。
「おに〜悪魔〜!助けてくれるって言ったじゃんか〜!」
そんなリューンを無視してエミー少佐は、外部音声で呼びかけた。
「カーネル!カーネル=ヴリュッケン!!聞こえているだろう!?キサマの部下は私の手中にある!出て来い!」
エミー少佐の声が聞こえたのか、二機のジェノザウラーが姿を見せた。
「部下の命が惜しかったら、私と一対一で戦え!」
エミー少佐は呼びかけ続ける。それに呼応してか黒いジェノザウラーが前に出る。
「俺がカーネルだ。俺の指名料は高いぜバン=フライハイト。」
カーネルは珍しくやる気満々であった。この時のオッサンの頭にあったのは・・・・
「あれが新型ライガー。やっぱカッコイイぜぇ・・・・。欲しい!是非とも欲しい!」
これである。やっぱり子供じみてる。
「共和国のオーガノイド使いに新型ライガーと戦えるとはねえ・・・。俺もついてるぜ。」
カーネルは顔をにやつかせる。この時のオッサンは本気だ。
「一対一なら部下を解放するんだな?」
カーネルはライガーに呼びかけた。
「勿論だ。だがその前にお前に言いたい事がある!」
ライガーのパイロットはカーネルに向かって怒鳴った。次にライガーのキャノピーが開いた。
「おっ!決闘の前に姿を見せるとは中々男気のある奴!おもしれえ、俺も!」
カーネルも同じようにジェノザウラーのコクピットハッチを開ける。罠とも何とも思っていないらしい。
だが、次の瞬間。オッサン姿を見せた事にえらく後悔する事となった。
「げっ!!」
カーネルは珍しく声を上げた。何故なら、ライガーのコクピットにいた人物は噂に名高いバン=フライハイト少年ではなく、どっからどうみても二十代後半の女性がいたからだ。
しかもその人物の素顔を見た瞬間、カーネルの顔から血の気が引いた。
「お久しぶりね〜・・・カーネル・・・。」
エミー少佐はひくついた笑顔でカーネルに呼びかけた。次の瞬間、エミー少佐は無造作に拳銃を取りだし発砲した。
「ひええっ!」
弾丸はカーネルの足元で兆弾する。オッサン完全に青ざめている。
「今のは挨拶♪今度は当てる・・・」
するとカーネルは目にも止まらぬ早業でジェノザウラーのコクピットに飛びこみハッチを閉じた。
そして一言♪
「リューン少尉。許してくれ・・・・」
ジェノザウラーは後ろを向き、全速力で逃げ出した。
「逃すかぁ〜!!」
ライガーに戻ったエミー少佐は、全速力で後を追う!!既にリューンの事など頭に無い。小破したレッドホーンを無視して駆け出す。
「私の青春!財産!思いで!エリートとしての栄光!そして私の身体!全て踏みにじった罪!万死に値する!」
スピードではジェノザウラーはブレードライガーに適わない。オッサンの背後にライガーが迫る!
「ブレード!オープンッ!!」
ライガーのわき腹に金色に輝くブレードが、ジェノザウラーの背中の砲塔を切り裂く!!
「うわっ!しまった。」
オッサンうめく。そして目の前には自分を追い越し、対峙するライガー!
「逃さない・・・・。ゾイドバトルだっ!!」
次回、激戦必至!! オッサン対捨てた女!!