出動2回目

『Pia!カーネル中隊へようこそ☆(笑)』

前編


 「なぁ、リューン・・・・俺達これからどうなるんだろう?」
 ドインは落ち込んでいた。
 いきなり、共和国軍に打ち落とされ、捕虜になりかけていたところを全裸の中年に助けられた。
 それで、中年についていった先には一部の人間しか知らない帝国軍の秘密基地だった。
 そこで保護された。
 そこまでは良かった。
 その全裸の中年がこの基地の指令で、いきなり本国総司令部との間に問題を起こして、自分たちを引きぬいた。
 ドインは心配だった。
 「ドイン・・・大丈夫だぜ!なるようになれば良いさ!」
 既にリューンはこの基地が気に入ったようだ。
 ドインの苦悩は続きそうだ・・・。


 「ヨーシ!皆の衆!!これから新入り二人を紹介するぜ!!」
 カーネルの威勢の良い声が食堂にこだまする。
 この部隊の主なメンバーを集めての自己紹介が始まった。
 「ハッ!自分はリューン・マック少尉であります!」
 既にこの空気に馴染んだリューンの大きな声が食堂中に響いた。
 「ハッ!自分はドイン・ファスト少尉であります!」
 多少、乗り気ではないがとりあえず紹介だけはしておこうとドインも大きな声で自己紹介をした。
 パチパチパチ・・・。
 食堂中に新入り対する拍手が響く。
 「おーし!」
 二人の自己紹介以上に威勢の良いカーネルの声が響く。
 「今度は俺達が自己紹介する番だ!!まずは『キィ』君!!」
 カーネルが呼ぶと、天井の排気口からいきなり『明らかに怪しい布袋を被った男』が降りてきた。
 見た感じでは背の方は新米二人より低いが、闘士のような体格に視線が行く。
 しかし、それ以上に目を引くのは頭に被った『使い古された布袋』である。
 僅かに開いた布袋の覗き穴から彼の瞳らしきものが部屋の光を反射して光っている。
 不気味だ・・・・。
 「・・・・・。」
 キィと呼ばれた布袋の男は無口なのか黙ったままである。
 しかし、新米二人組には十分な威圧感があった。
 そんな事を気にすることなくカーネルはキィの肩を叩きながら言う。
 「コイツは、諜報員の『キィ・ドムツン』曹長だ!我が隊の優秀な諜報員だ!!」
 コクリ・・・。
 キィが頷いた、どうやらその通りのようだ。
 「彼に対して何か質問は?」
 カーネルが新米二人に話しかける。
 ドインは手を上げた。
 「おう!ドインどんな質問だ?」
 「何で?布袋を被っているんでしょうか?」
 見たままの質問だった、そしてカーネルは笑いながら答えた。
 「ガハハハハ!キィ君は恥ずかしがり屋だからなぁ!!」
 「(そーゆー問題かぁ!?)」
 前回と同じくドインの心の突っ込みはカーネルに届く事は無かった。
 しかし、キィは少し照れていたようだ。
 「(本当なのかー!?)」
 ツッコミ以外で二人には彼に対し質問する気力が失せた。
 「他に質問はねぇか??」
 カーネルは新米二人が質問するかどうか待った。
 「もう、特にねぇようだな。よし!キィ君!任務に戻っていいぞ!」
 キィはそう言われるとその場を離れていった、どうやら任務中だったらしい。
 「ぃよぉぅし!!次、ウェンディちゃん!!」
 「あいよっ!!」
 カーネルの大きな返事に答えるように整備服に身を包んだボブカットの女性が姿を現した。
 「そんじゃあ!自己紹介だ!!」
 カーネルが言うとウェンディは二人の方を向き大きな声で自己紹介を始めた。
 「あたいは、ここの専属の技術者で整備班班長の『ウェンディ・ウェンディ』だヨロシクな!民間人だから階級は無い!ここでは中尉待遇だ!!」
 リューンが手を上げ質問した。
 「あのー、民間人がなんでいるんですか?」
 そう言われてウェンディは答えた。
 「ああ、コイツに頼まれてな。」
 コイツと呼んだ人物に指を指す。
 間違いなくカーネルである。
 そしてカーネルが答える。
 「おう!ウェンディちゃんはここのゾイドを盗みに忍び込んできてな!見つかった時にはウェンディちゃんがここのゾイドを全て整備したんだぜ!しかも完璧にな!」
 「だから、あたいの腕を見込んでここに入れてもらったのさ!」
 ウェンディは威張ったように胸とポンッと叩きながら言った。
 「まあ、あんた等のゾイドは全て調整済みだ!いつでも乗りに来い!まっ、とりあえず仲良くやりましょうや!」
 そう言って、ウェンディの自己紹介が終わった。
 「おう!ミスター!!」
 カーネルにそう言われると、160cmぐらいの背の低い丸ハゲの老人が酒を飲みながら立ちあがった。
 「オイオイ・・・ミスター、また飲んでるのか?」
 カーネルが飽きれたように言う。
 しかし、ミスターはちっとも酔った様子は無い
 「うるさいのう・・・飲みたい時に飲む、それがワシなんだ。」
 上官であるカーネルにミスターは口答えしている。
 「(おお!歴戦の大物老兵か!?)」
 リューンは心を躍らされていた、彼にとって年を取っても戦いつづける兵士は憧れなのだ。
 そしてミスターの自己紹介が始まった。
 「おう!若いのワシが『ミスター・ドーナ』伍長じゃ!ここでは補給物資の搬送を受け持っておる!愛称は『ミスター』でええ、よろしくのう!!」
 ミスターに対して嬉しそうにリューンが質問をする。
 「ミスターは、軍に入隊して何年でありますか!?」
 「一年じゃ!」
 「え?」
 「だから、かれこれ一年目じゃ。」
 「・・・。」
 新米二人は声を失った。
 「まあ、ええわい、何か解からん事があったら聞きに来るがええ」
 そして、ミスターは自分の席に戻って行った。
 「次はヨシノちゃんだ。」
 カーネルが視線をヨシノに向ける。
 「お前等はもう知ってると思うが、一応紹介しとくぜ。ウチの医療班の班長だ。」
 ヨシノが席から立ちあがる。どう見ても自分達より年下で少女と呼んでいい容姿の女性だ。
 「ルーミ・ヨーシノ・ビーボーだ。怪我したら私んところへ来い。虫歯から末期ガンまで面倒見てやるぞ。」
 それだけ言ってヨシノは席につく。
 「言っておくが、ヨシノちゃんは、この基地で唯一俺と同階級の人間だ。上官だかんな〜、忘れんなよ〜。」
 カーネルがニタニタして言う。
 「はあ・・・」
 「了解。」
 二人は気の無い返事をした。
 「んで、次が俺だ!」
 カーネルが自分を親指で指差す。
 「俺がここの司令兼ゾイド部隊の中隊長のカーネル!カーネル・ヴリュッケンだ〜!!」
 いかにも、「自慢げ」に、この中年筋肉オヤジは自己紹介した。
 右手で笑顔でサムズアップ。
 「解かったか〜?」
 首を交互に新米少尉二人に向ける。笑顔から覗く白い歯がまぶしい。
 オッサン嬉しそう。
 二人の感想はそうだった・・・いやその場にいた全員の考えも同じだろう。
 「いや〜俺んトコにちょ〜ど、士官が足りなかったからよ!補充の兵、要請してたんだけどよ!イイ奴が来てくれたぜ!無理言って優秀な奴二人もゲットできるとは!」
 カーネルは、いやオッサン「してやったり!」という言葉が表情から読み取れる。よっぽどプロイツェンにイヤな事があったんだろうか・・・・
 「無理矢理じゃね〜か・・・・」
 リューンが心の中で呟く。決して口には出さないが・・・。
 「悲しいけど、あのオッサン上官なんだよね・・・・」
 表情を曇らせ、二人は呟く。
 そこで、食堂に金髪の長く美しい髪をなびかせた美人の女性士官が入ってきた。
 「あの人は・・・」
 二人はその女性に見覚えがあった。確かこの基地の副指令を勤める中尉だ。
 「あら?自己紹介の途中でしたか?」
 「おう!キミが最後だ。」
 いきなり、紳士風の口調になるオッサン。いかにもキザッぽい台詞に二人は感づいた。
 「(オッサン狙ってんな・・・)」
 そんな事は露知らず、中尉は二人に向けニッコリと微笑み敬礼した。
 「アタシがこの基地の副長。レイン・テリア中尉です。よろしく頼むわ、二人とも。」
 
(オネイチャン・・・アソボ・・・)
 「??よろしくお願いします・・・」
 すこし疑問系で敬礼するドイン。
 「どうした?」
 「いや・・・空耳かも知れないけど、中尉から何か聞えたような・・・」
 「そうか?」
 リューンも少し耳を済ます。
 「何も聞えないぜ。」
 
(オネイチャン・・・アソボ・・・)
 だが、ドインの耳には確かに聞えた。
 「変な奴だな?何も聞えないって・・・」
 だが───
 
(オネイチャン・・・アソボ・・・)
 「聞える・・・・」
 「だろ!」
 さらに耳を研ぎ澄ます二人。
 
(オネイチャン・・・アソボ・・・)
 「・・・・・・」
 「・・・・・(汗)」
 (オネイチャン・・アソボ・・・)
 二人の顔色が徐々に青くなっていく。
 
(オネイチャン・・・アソボ・・・)
 
「聞える〜!!変な声〜!!」
 二人の恐怖の叫び。
 「どうした?お前等?」
 カーネルが不思議そうに呼びかける。
 「ちゅ、中尉殿のまわりからへ、変な声が〜!!」
 「な〜んだ、それか。」
 カーネルはさも当然と言った表情。
 「気にすんな!それは中尉の・・・・」
 二人詰め寄る。
 「中尉の?」
 
「オーガノイドだ!」
 
「ちが〜う!!ぜ〜ったい、違う!!!」
 二人の見事なハーモニー。
 「お、オーガノイドっていうのは、白とか黒い色した二メートルくらいの恐竜型ゾイドの事でえ〜。」
 リューンが慌てて、近くにあった雑誌を手に取り見せる。
 「ホラ!こ〜ゆ〜のが、オーガノイドなんですよ〜!」
 雑誌には白いオーガノイドと少年、シールドライガーの写真が掲載されていた。
 「だから、コレがオーガノイドだろ?何言ってんだお前。」
 カーネルが写真を指差す、その先には・・・・
 
「写ってる!変なモノ!」
 そう、写真に写っている少年と、シールドライガーのちょうど真ん中辺りに、「白い少々ぼやけた人影」が写っていた。カーネルはコレをしめしたのだ。
 人これを、『心霊写真』という・・・・
 「すげえよな、共和国。オーガノイドの有効性をいち早く察知してんだからよ。」
 なんか違う。
 つまり、心霊写真の白い人影を「白いオーガノイド」と勘違いしているらしい・・・
 「こ、こっちは!こっちは!」
 必死に白いオーガノイドを指差すリューン。
 「ただの小型ゾイドだろ?ガキが連れてるにはちょうどイイんじゃねえの?」
 カーネルは平然と答える。
 「し、シールドライガーは!?」
 「ゾイドニ体も持ってるなんて贅沢なガキだぜ。」
 助けてくれ・・・このオッサンから・・・
 二人の心の叫び・・・・そう、決して届かない・・・叫び・・・

 



 後編
 
 「・・・・・・・・・」
 ドインは自分の初の愛機のコクピットで黙り込んだままであった。
 これからカーネル中隊に配属されてからの初陣だというのに、やたら静かである。
 今彼が乗っている機体は帝国軍の中でも最もスピードの出る陸戦強襲用ゾイド『サーベルタイガー』であった。
 「何であるんだ・・・・サーベルが・・・」
 言い間違えた訳ではない。自分の機体は『サーベルタイガー』であって『セイバータイガー』ではなかった。
 サーベルタイガー ───今は亡きゼネバス帝国、初の大型高速戦闘ゾイドである。ガイロス帝国のセイバータイガーはゼネバス帝国のサーベルタイガーを改修し、現行のテクノロジーでフラッシュアップした機体である。だが外見・武装・基本性能共に全く同じと言ってもいい機体である。違う点があるとすれば、頭部のキャノピー、つまり目の色が赤か緑かの差ぐらいである。改修したと言ってもガイロス帝国でも生産しやすいようにしただけのものである。

 
「違うんだな〜!これが。」
 ドインが格納庫で初めて、タイガーと対面した時、セイバータイガーですか?と尋ねた時にカーネルから発せられた言葉がそれだった。
 「これは整備の奴にはないしょだぞ。」
 そう言いカーネルは紙やすりでタイガーの塗装を一部はがした。
 「戦闘で擦ったとでも言っとけ。」
 そして塗装の下から現れたのは、上地より濃い赤で塗られた塗膜が現れ、そして・・・・
 「これは・・・・」
 下地にあらわれたもの・・・それは紛れも無く『ゼネバス帝国の国章』であった。
 「そのままにしとくと、クラシックコレクターに狙われるんでな。色だけ変えたんだわ。」
 まるで古車マニアのような台詞がカーネルの口から出てくる。
 「ほれ、もうすぐ出撃だ。はよ乗れ。」
 どのままコクピットにドインを押し込むカーネル。
 「・・・・・。こいつは・・・・」
 コクピットに押し込められたドインは目を疑った。目の前の計器類は最新のデジタルメーターではなく、ゼネバス帝国の当時のままの旧式かつ難解な古めかしい計器だった。
 「どうだ?モノに出来そうか?」
 カーネルは尋ねる。ドインは必死でコクピット周りをチェックする。士官学校で乗った事のあるヘルキャットも旧型だったが、こんな旧式の計器は見たことが無かった。なんとかかろうじて、理解できる程度だった。
 「やれそうだな。」
 カーネルは白い歯を見せてにやりと笑い、その場を離れようとした。
 「おっと、言い忘れた。金かけてレストアしたんだぞ〜。部品も全て純正だ!混じりっけなしのホ・ン・モ・ノ♪壊すなよ。」
 立ち去り自分のゾイドへ向かうカーネルを見てドインは一言。
 「・・・・マニアか、あのオッサン・・・」


 「・・・・・これは趣味だ。趣味の世界で生きてるんだ、あのオッサンは・・・・」
 ドインは決して口に出すことなく、心の中で呟く。
 「扱えるかな・・・この俺に。」
 旧型のサーベルタイガーの中で不安げにドインは呟く。気付けば、この隊に配属されられてきてから呟く事が多くなったと、自覚するドインだった。
 「どうだ?そいつは。」
 ドインのサーベルの隣に、帝国軍大型攻撃用ゾイド『レッドホーン』が現れる。しかも背中の火砲に大口径機関砲を追加された火力強化タイプだ。パイロットはリューンだ。
 「性能は悪くないが・・・扱いづらそうだ。旧型だしな・・・。お前のもレストアものか?」
 すると、リューンは少し黙った後、話しかけた。
 「モニター開け。ちょっと見せたいものがある・・・」
 「ああ・・・?」
 すぐにモニターを展開するドイン。するとモニターの中のリューンはためらいがちに、何かペンダントのようなものを見せた。
 「なんだそれ?」
 「よく見ろ・・・『シュバルツ家』の紋章がかたどってるだろう・・・」
 ドインは目を疑った。
 「何で、そんなものがあるんだよ!!」
 「コクピットの私物入れの中に入ってた・・・。あとこれを見ろ、この機体の搭乗記録だ。」
 モニターに、レッドホーンの記録が転送されてきた。一次一句漏らすことなくドインはそれを読んだ。そして・・・・絶句した。
 「搭乗者・・・・カール・リヒテン・シュバルツぅ〜??!!お前、シュバルツって言ったら!!」
 リューンは頷いた。
 「ああ・・・帝国きっての名門、シュバルツ家の跡取にして、将来を嘱望されている超エリートにして有能指揮官『シュバルツ少佐』だ。」
 「そんな方の機体がなんで?!」
 リューンは、暗い顔をして答えた。
 「この機体は本来、シュバルツ少佐の『ダークホーン』だったそうだ。」
 「何?ど〜ゆ〜事だ?」
 「実はな・・・・・大尉がな・・・」

 時は、数週間前・・・・・ドインとリューンがまだ士官学校にいた頃。共和国と帝国の国境付近『レッドリバー』と呼ばれる土地で、小規模ながら帝国と共和国の戦闘が行われたと言う。
 この戦闘は、停戦中にも関わらず合対峙していた両軍の中へ、一機のプテラスが帝国側へ攻撃を行った事で始まった。(後にこのプテラスは帝国に鹵獲されたものを帝国の強硬派(プロツェン派)が策謀した事と判明)
 この時の戦闘は、共和国側の傭兵が操った一機のシールドライガーの活躍によって大規模な戦いに発展することなく収集された。
 この時、帝国側の指揮を取っていたのがシュバルツ少佐である。少佐はこの時、黒く塗られた改良型のレッドホーン『ダークホーン』に乗っていた。
 この時、カーネルは『ある事情で』タオル一枚で共和国のコマンドウルフに追われていた。なんとか巻いたものの、あちこち走り回ったので、空腹で倒れそうであった。
 珍しく途方にくれるカーネルだったが、彼はそこで退却中の友軍のキャンプを発見した。
 「メシにありつける・・・・。おっ!ゾイドもわんさかありやがる!!」
 そしてカーネルは、キャンプに『密かに』潜り込んだ。友軍なのだからコソコソする必要は無いのだが、カーネルには『どうしても』隠密的にしなくてはならない事情があった。(まあ、その前にタオル一枚の怪しいオッサンに「友軍だ。」と言っても信用はされまいが・・・)
 まず、カーネルは物陰に潜み、指揮官用のテントから人がいなくなるのを待った。そして、護衛の兵が少し目を離した隙に潜り込む。
 「おおっ!メシがある!!上手い具合にゾイドの起動キーもな・・・」
 まるで盗人のような笑みを浮かべ、シュバルツ用に用意されていた夕食を食らい始めた。そして腹を満たしたカーネルが次にやる事は・・・・
 「金目のもの・・・・金目のもの・・・結構あるぜぇ〜!」
 シュバルツの私物をこれでもかと言うほど物色、近く似合った上級仕官用のマントを風呂敷代わりにして詰め込む。そして起動キーを掴んで、サヨウナラ・・・という所で、シュバルツがテントに戻ってきてしまい、見つかってしまった。
 「貴様!何者だ!」
 シュバルツが叫ぶのと同時にカーネルは右腕を後ろにして、悠々とシュバルツに近づく。顔には笑みが浮かんでいる。
 「貴様!姓名と所属を言え!!おとなしくしないと撃つぞ!」
 拳銃を抜き、カーネルに構えるシュバルツ。だが、カーネルは笑みを絶やさぬまま近づく。
 「この世で最も強力な気体とは解るかい?」
 「な・何を言っている!!」
 次の瞬間、カーネルは後ろに回していた右腕の手のひらを、目にも止まらぬ速さでシュバルツの顔面を「パン」と言う小さな音と共に軽く叩いた。
 鍛え上げた軍人のハズのシュバルツは、子供にもダメージを与えられないようなただ一発の貼り手に昏倒した。
 昏倒し倒れて動かないシュバルツに向けてカーネルは笑みを浮かべたまま言った。
 「答えは『おなら』、解った時にはもう遅い。」
 そう!カーネルが放ったのは、強力な『握りっ屁』だったのだ!!
 そしてシュバルツの私物を山と詰め込んだ風呂敷代わりのマントを背中に背負い、カーネルは静かに立ち去った。
 倒れたシュバルツに向けて最後に一言・・・
 「半日は起きあがれないぜぇ〜。修行が足りないぜ、お坊ちゃん。」
 そして同じ手で・・・・
 「ぐわっ!」
 「うおおお・・・」
 「ウッ・・・」
 「た・助け・・・」
 「やだ・・・死にたくな・・・」
 こう、数々の『友軍』の兵士達をなぎ倒して・・・・
 「あの坊ちゃん。いいゾイド乗ってんな〜。」
 シュバルツのダークホーンを見上げて一言。
 「貰おう。タクシー代わりに、丁度イイ。」
 こうして、カーネルの手にダークホーンが渡ったのです。めでたしめでたし・・・

 「めでたしじゃねえよ!!友軍からブン盗ってど〜すんだよ、あのオッサン!!」
 ドインは叫び頭を抱えた。
 「その後な・・・ばれないように色塗り替えたらしい・・」
 確かにリューンのゾイドは真っ赤だ。
 「それにしても大尉のゾイドは見たことが無いな・・・」
二人は先頭を進むカーネルのゾイドを見てそう言った。カーネルのゾイドは種別的には、恐竜型の黒い大型ゾイドだが、二人には見たことの無いゾイドだった。
 「あれは新型よ。」
 やたら火砲を満載装備したグスタフにのったウエンディが二人の会話に割り込む。
 「輸送機にあんな重装備いるのか?」
 大型火砲を三門も搭載したグスタフをみてドインは呟いた。
 「それはそうと・・・新型ですか?」
 リューンがウエンディに尋ねる。
 「ええ。最新型よ、プロイツェン閣下から直々に送られてきたゾイドで名前を『ジェノザウラー』っていうの。まあ、先行生産型だけどね。本当は、レイヴンって言うオーガノイド使いに渡す予定の機体らしいけど。」
 二人は驚いた。
 「閣下直々に!?どうして!!」
 ウエンディは顔をにやつかせた。
 「あいつはね、プロイツェンにちょっとしたコネがあってね〜。いや・・・?弱みかしら?まあ、そのレイヴンていう奴の為にデータ収集の意味もあるんだろうけど。」
 二人は顔を見合わせた。
 「閣下の弱み握ってる大尉!?あのオッサンなんなんだよ!!」
 「やっぱ!宇宙人だよ!!」
 ウエンディはさも当然と言った表情で言葉を返す。
 「七割あってるわ。大方。」
 「七割ぃ〜!!!」
二人は声をそろえて叫んだ!!
 「そう言うあたしだって、『グローバリーV号』のクルーの直系の子孫よ。」
 「いや・・・それは普通だけど・・・多分」
 「あのオッサンは・・・別の意味で・・・」
 謎は深まるばかりだっ!!

 やがて四機のゾイドは小高い崖の上にやってきた。真下には崖と崖に挟まれた狭い道があるだけだ。そこには傷ついた帝国軍の多くのゾイド部隊が退却中だった。
 「何であいつらが退却中か解るか?」
ジェノザウラーに乗ったカーネルが二人に尋ねる。
 「いえ・・・なぜですか?」
 ドインが尋ね返す。
 「プロイツェン派が共和国首都であるヘリックシティに攻め入ったと言うのは聞いてるな?」
 カーネルは珍しく真面目な顔をして言っていた。
 「はい。ですが、マウントオッサ要塞は陥落したものの、火山の噴火でゾイドのコンバットシステムがフリーズして戦闘不能になって、撤収せざるを得なくなったと言う話ですね。」
 ドインが答えるとカーネルは頷いた。
 「そうだ。徹底抗戦を唱えるプロイツェンに反して、新たに皇帝に就任したルドルフ殿下が、撤退を命じたせいでもある。」
 撤退中の部隊を見つめるカーネルの顔は今までにないくらい真剣な表情だった。
 「俺にやらせてくれりゃあ、ルドルフの意向なんか無視して三時間で陥落できるのによ・・・・」
 カーネルはボソッと言葉を漏らした
 「何か言いました?大尉。」
 「いや・・・何でも無い。それで俺達の任務だが、友軍の攻略部隊が撤収してるが、共和国側の戦闘停止命令はこの辺まで行き届いていない。」
 「つまり、命令の届いていない共和国部隊に撤退中の友軍が追撃を受ける危険性がある・・・と言うわけですね?」
 ドインが言うと、カーネルは答えに満足そうな顔をして頷いた。
 「つまり、俺達の今回の任務は・・・」
 「撤退中の友軍を助けるための支援作戦ですね!!」
 ドインが嬉しそうに声を上げる。だが・・・
 「違うな・・・」
 カーネルは首を横に振った。
 「それでは、共和国の追撃部隊の目を友軍からそらす為の陽動作戦ですか?」
 今度はリューンが言うがカーネルは頷かなかった。
 「それでは・・・どんな作戦なんですか?」
 すると、カーネルは自分達の立っている崖を指差した。
 「よく見ろ、俺達が立っているのは崖の上。」
 「はい・・・」
 「撤退中の部隊は、両脇を小高い崖に阻まれていて、自由に動けない。」
 カーネルは友軍の部隊を示して言う。
 「しかも、列車のように縦一列で行軍していて、前後にも動きづらい。」
 「そうですよね。こんな所共和国に襲われたら一たまりも無いですよね。」
 ドインは言う。まさに正論。
 「あっ!!そうか!!つまり、ここは友軍にとって最も危険な地点。」
 リューンが気付いたように拍手を打つ。カーネルは笑顔で頷いた。
 「解りましたよ大尉!!今回の任務はこの地点での友軍の護衛だったんですね!!この場所で自由に動けるのは我々だけですから!!」
 リューンの答えにカーネルは満足そうに頷いた。
 「その通りだ!!表向きはな・・・・」
 その瞬間!カーネルのジェノザウラーはいきなり前傾姿勢を取った!!ジェノザウラーの尻尾の装甲が次々開き、口の中から砲身が現れた!!
 これぞ!ジェノザウラー最強の武器『荷電粒子砲』の発射態勢である!!
 「た!大尉ぃ〜!!!なにやってるんですか〜!!」
 ドインが必死で叫ぶ。
 「少し静かにしろ。それと早く識別信号消せ!!気付かれるだろ。」
 「なんで?なんで?なんでェ〜!!!???相手は友軍ですよ〜!!」
 すっかり錯乱し取り乱すドイン。それを尻目にカーネルは荷電粒子砲を放った。
 「あ〜!!!撃ったぁ〜!!!!」
荷電粒子砲は隊列の先頭を進んでいたセイバータイガーと数機のヘルキャットを爆発四散させた。顔面蒼白になるドインとリューン。
 「よしっ!」
 ガッツポーズのカーネル。
 「よし!じゃね〜よ、オッサ〜ン!!味方撃ってなにすんだよ〜!!」
 すると、カーネルは静かに口を開いた。
 「最近な・・・ウチの基地、補給が絶え絶えでな〜。共和国侵攻とかで滅多に物資が来ないんだよ〜。」
 カーネルのジェノザウラーが悲しげに頭を左右に振る。
 「食い扶持も増えたし・・・指令ってのも大変なんだよ〜。やりくりが難しくて・・・」
 「そこでだ・・・。あいつ等はプロイツェン派の部隊。つまり、物資が来なくなったのはあいつ等のせい。」
 「まさか・・・・」
 カーネルはニヤリと白い歯を見せて微笑む。
 「そうだ。返してもらいに来ただけだ。だから気兼ねはいらんぞ。識別さえ消せば、夜盗なんかと間違えるだろう?問題無し!!」
 問題大有り・・・・だが、このオッサンには通じない。この男、プロイツェンの嫌がる事が大好きのようだ。
 「それに見ろ!あのアイアンコング!損傷も少ない!掘り出し物だぜぇ〜!!」
 次の瞬間、カーネルのジェノザウラーは崖から飛び降り、友軍に襲い掛かった。
 「うはははは!!!死にたくなかったら金目のモンと食料・弾薬・ゾイドは置いて行け〜!!」
 ジェノザウラーの戦闘力をフルに生かし、カーネルは次々と友軍を撃破して行く・・・
 「どうする?おまえ・・・」
 泣きそうな顔でドインがリューンを見つめる。
 「どうするって言ったって・・・・友軍だぜ・・・」
 その時、二人に向かって弾丸が飛んできた。友軍に見つかったのだ。識別信号を消していたので言い逃れはもうできない。
 「わあああ!!やけくそだぁ〜!!」
 「くそ〜!!隊長、こうなったら一生ついてくぜ〜!!そんで責任取れ〜!!」
 ドインのタイガー、リューンのレッドホーンは泣きながら崖を滑り降り武器を乱射した。
 もう・・・・二人は後戻りは出来ない・・・・
 「いってらっしゃ〜い!大漁期待してるよ〜!!」
 ウエンディの楽しげな声と共に三機のカーネル隊のゾイドは次々と友軍を血祭りにあげていった・・・・



 本日のカーネル中隊の成果・・・・・食料、数トン・弾薬、持っていけるだけ全部・ゾイド、ヘルキャット×3・イグアン×4・レッドホーン×3・セイバータイガー×1・アイアンコング×1・・・・以上。

 カーネル「初めてにしては大漁だぜ!!俺の目は確かだな!!」





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