出動6回目『怪奇、テリア中尉の実力!!』
前半
「ストライクゥ!レェーザァークゥロォー!!!(CV:櫻井風に)」
雄叫びと共に、白き一陣の風が弧を描く様に黄色く光るグラデーションを描く。
「っう!キャー!!」
ソレに合わせたかのようにオッサンの絶叫が響く・・・。
─グゥワガキャーン!!!
黄色い光に触れた瞬間、カーネルが乗っていたボロボロのブレードライガーが細かい破片を撒き散らしながら宙を舞う・・・。
「ちぃっ!!乗ってなかったか!!」
恐らく、ライガー越しに振れた瞬間に感じたのであろう、カーネルが乗っていない事に気が付いたエミー少佐の声が外部スピーカーを通して露骨に聞こえる。
「オッサン・・・もしかして、あのライガーのパイロットは・・・あの時の・・・。」
ドインがカタカタ顎を鳴らしながら後部座席で蹲るカーネルに話しかける。
「バカッ!後ろ振り向くな、俺は居ないと思え・・・とにかく逃げろ!!サーベルタイガーじゃ、あの新型に絶対勝てないぞ!!」
何時になく弱気なカーネルの発言に、新型ライガーのパイロットが持つ実力を身を持って体感しているドインは、その意見に返事をするまでも無く同意・・・そのまま全速力で逃げ始めた・・・。
「全速力!!ブースターユニットが焦げて使い物にならなくなるまで逃げます!!とにかく逃げます!死にたくないから!!」
涙・鼻水・叫んだ拍子で撒き散らした唾液ですら拭う暇すら無い・・・見栄も階分も関係無い、半狂乱の男二人を乗せたタイガーはひたすら逃げる。
「早く!1秒でも良いから早く逃げろ!!脱兎のごとく!!!」
滝の様に涙を流すカーネルの激が飛ぶ!
「へひぃ!へぇい!!」
言葉にならない返事を返すドイン・・・。
だが・・・帝国屈指の機動力を誇るサーベルタイガーといえど、やはり『御当時品』はっきり言えば『骨董品』扱いの『旧型』・・・。
しかも、コレはカーネルが趣味でレストアした逸品とはいえ、各部には老朽化している事には間違いは無い。
その為、武装とブースターユニットは従来の既製品に頼らざるをえない。
ましてや、エミー少佐の乗るピッチピチの新型『ライガーゼロ』のような『高機動格闘戦型』から、そう容易く逃げられる筈はなかった。
ただし、エミー少佐にも逃げるカーネル達に有効打は与える事はできなかった。
「レーザークローっ!!!」
そう、彼女の操るライガーゼロには遠距離兵器は搭載されていなかったのだ。
先行生産型のため、標準装備の2連装砲とテールガンは装備されていなかったのだ。
唯一の武装は四肢に設けられた『ストライクレーザークロー』と『強靭な牙』のみであった。
その為、例え距離を詰め様としても全速力で逃げるタイガーには攻撃が外れるか、かすめる程度しか出来なかったのだ。
「ちいっ!逃げ足だけは速い!!」
攻撃が当らないエミー少佐が苛立ちを募らせはじめてたのだが、彼女に絶好の好機が訪れたのだった。
─ガキィッン!!
「うおぉっ!!何だぁ!?」
全速力で逃げるタイガーの脚に朽ちたゾイドの残骸が引っ掛かったのだ。
─ズシャァァァ!!!
大量の土煙を上げながらカーネルとドインを乗せたタイガーが勢い良く横転する。
「オッサン・・・生きてる?」
ドインが後ろのカーネルに話しかける。
しかし、後部座席にはカーネルが居なかった・・・。
タイガーが横転した拍子でキャノピーが開き、カーネルは放り出された様だったのだ・・・。
「オッサ・・・・」
ドインが、そう言いかけた瞬間だった・・・。
彼が全てを言いきる前にサーベルタイガーは轟音とともに、あのブレードライガーの様に宙に舞った・・・。
「ちぃっ!抜け殻か!!」
エミー少佐がタイガーにレーザークローを叩きつけた後に言い放つ。
─ドドドーン!!
腹部に大きな爪痕を付けられ、宙を舞うサーベルタイガーが、無残に地面へと衝突する。
「やべぇ・・・殺される・・・アイツは殺す気だ・・・。」
全身を土塗れにしたカーネルが、その光景を見て呟く・・・。
─ギラリ・・・。
恐らく、彼女の持つ『カーネルセンサー』が反応したのであろう、ライガーゼロの瞳がカーネルを睨むかのように光る。
「みぃーつけた♪」
のそりのそりとカーネルに歩み寄るライガーゼロ・・・。
しかし、カーネルは放り出された拍子で全身が動けないでいた。
普段のカーネルには、このぐらいは問題は無いだろうが、今の彼は尋問のダメージと脱獄による疲労と猛烈な尿意で動けないでいたのだ。
「くっ・・・来るな!今、来ると俺のウルトラザウルスから黄金色に輝く荷電粒子砲が暴発してしまうぞ!!」
カーネルの言葉にエミー少佐は、耳を傾ける筈が無い。
「じゃあ・・・暴発する前に殺してあげるわ♪」
エミー少佐、絶好のチャンス・・・。
ライガーゼロが右前足を大きく振りかざす。
『ストライクレーザークロー』
ライガーゼロに装備された主力武装、その威力は大型ゾイドですらなぎ倒す。
光を帯び、大きく開かれた鋼鉄の爪がカーネルを狙う。
どんなに常人を凌駕した肉体を誇るカーネルでも、逃げる事は不可能だろう・・・。
「ミンチにしてあげるわ・・・覚悟!!」
エミー少佐が勝利を確信した時だった!!
「大尉!伏せてください!!」
大音量のスピーカー音と共にカーネルとライガーゼロの間に一閃の光が走る。
常人離れした反射神経でカーネルは伏せ、エミー少佐はバックステップでその場から間合いを取った。
「いぃーやぁーん♪」
セクシー女優の様にポーズを決め、叫ぶカーネル。
彼をかすめる光の熱と突風で、お気に入りのビキニパンツが徐々に破れていく・・・。
案の定、オッサン全裸帰還確定!よかったね♪
「何者ッ!?」
絶好のチャンスを逃したエミー少佐は、閃光を放った先に怒気に満ちた声で叫ぶ。
そこにいたのは、真紅に染まった先行型試作型ジェノブレイカー・・・『ジェノグラップラー』を駆るカーネル中隊副隊長『レイン・テリア』中尉であった。
「そこまでです!ここは既に帝国領内!これ以上の侵攻は・・・この私が許しません!!」
テリア中尉のジェノグラップラーが咆哮する。
さあ!戦いだ!!(ナレーション:政宗風に)
後半
「ドイン・・・生きてるかー!」
リューンのレッドホーンが大破したサーベルタイガーに隣接してドインの生死を確認するリューン。
「生きてる・・・生きてる・・・こんなに嬉しい事は無い・・・。」
アレだけの攻撃を受けていながら、擦り傷程度で済んだドインが涙を流して喜んでいる。
だが、その結果・・・レアゾイドでもある『サーベルタイガー』はスクラップ同然・・・ゾイドコアが無事なだけありがたい状態だった。
「うっわー、治すよりも買った方が安くつきそうだな・・・。」
サーベルタイガーの哀れな姿を見て、リューンは呟いた。
「変わりのゾイド・・・無いだろうなァ・・・。」
ドインがサーベルタイガーの状態を見て、改めて自分のゾイドが受けたダメージに呆然としながら呟いた。
「ほら、そこの二人!サーベルタイガー牽引するからさっさと準備しなよ!」
呆然とする二人の後ろからグスタフに乗ったウエンディがスピーカー越しに呼びかける。
ドインとリューンがレッドホーンに牽引ワイヤーを繋ぎ、サーベルタイガーの引っ張っても大丈夫そうな部分に引っ掛け、牽引準備をした時だった。
「二人とも、見て・・・我等が副隊長の戦いが拝めるわよ。」
ウエンディが嬉しそうな顔をしながら重労働にいそしむ二人に呼びかける。
「マジ!?」
リューンが驚いた顔をした。
「相手は最新型だぞ!!」
その身を持ってライガーゼロの実力を知っているドインがその光景に驚きを隠せない。
確かに、ドイン達は知らないだろうが、エミー少佐の乗るライガーゼロは先行試作型である。
が・・・作られた時期から見ると、比較的ライガーゼロの方が新型ではある。
「まあまあ、本当は戦わない人が実力を見せるんだ・・・拝ませて貰おうよ。」
ウエンディは、これからはじまるエミー少佐がどんな戦い方をするのか楽しみにな眼差しで戦況を見つめた。
「大尉は、この場から退避してください。ここは、私が対処致します!」
テリア中尉は素っ裸で、ヒーローの登場を待ち焦がれたような顔をしているカーネルに伝えた。
「おう!頼んだぞ!!俺は逃げる!」
そう言うと、カーネルは全裸でグスタフへ走り出した。
股間の頼もしいモノを揺らしながら・・・。
「させるか!!」
エミー少佐が、カーネルに照準を定めたが・・・。
「そうはいきません!!」
すぐに、ライガーゼロの視界にジェノグラップラーが立ちはだかる。
「ちぃ!!ジャマだ!!!」
ライガーゼロの牙がジェノグラップラーに襲いかかる。
「その程度!!」
その瞬間、ジェノグラップラーの全身を淡い光が包み込み、ライガーゼロの攻撃を防ぐ。
「何!?エネルギーフィールド!!」
後に『ジェノブレイカー』と呼ばれる、最新型ゾイドにはジェノザウラーには無い強力なエネルギーフィールドが展開できる様になっているのだ。
「どうも・・・貴方のゾイドには射撃兵装が施されていないみたいですね・・・。」
今までのエミー少佐の戦法から、テリア中尉は感づいた。
そして、更にテリア中尉はエミー少佐に言った。
「付け加えると・・・そのゾイドは、貴方用に調整されていませんね・・・動きにムラがあります。恐らく・・・追跡任務の為に急いだんでしょうね。手身近にあったゾイドを使った・・・と、言った感じでしょうね?」
テリア中尉の言った通り、エミー少佐はカーネルの脱獄後、彼女も留置所から抜けだしたのだ。
勿論、テリア中尉の言う通り、メカドックにあったライガーゼロを持ち出し・・・現在に至るのだ。
「素晴らしい・・・洞察能力ね・・・。貴方、何故そこまでしてあの男を守る?」
テリア中尉に感心しながら、エミー少佐は尋ねる。
「私は、大尉に恩義があります。故に私は闘うのです!」
テリア中尉は、そう言うとジェノグラップラーに装備された大型シザーアームを展開させ、本格的な格闘による戦闘態勢を取る。
「御互い、格闘戦重視のゾイド!全力で貴方を潰します!御覚悟願います!!」
背面部のスラスターを噴射させてジェノグラップラーが、ライガーゼロへと一気に間合いを取り始めた.
大空を飛翔する翼竜型ゾイド『ストームソーダ』がガイロスの空を移動をしている。
その下では『グスタフ』と『コマンドウルフ』が地上を移動していた。
「ちくしょー!なんで俺達がこんな目にあうんだよ!!聞いてるのか!?ヒタチ少尉!!」
ストームソーダのパイロット『ダン・エプソン中尉』がコマンドウルフのパイロットである『ケイン・ヒタチ少尉』に通信が入が、ヒタチ少尉はご機嫌斜めな顔で返信する。
「中尉!何度も言わせないでください!ここは既にガイロスの領域なんですから迂闊な通信は控えてください!タダでさえ『バン・フライハイト』のチームには航空戦力は存在しないんですから!」
彼等のゾイドの編成は以前、エミー少佐が行った『偽装バン・フライハイト御一行作戦』で使用したグスタフ・コマンドウルフと備品一式であったが・・・。
「ですが・・・ヒタチ少尉・・・何故自分が女物の衣装を着なければいけないんですか・・・。」
グスタフのパイロット『キャノン・ブライト曹長』が自分の格好に情けなさを隠せない表情でヒタチ中尉呟く。
「仕方ないよ・・・曹長・・・。」
ヒタチ少尉の格好もラフな格好な上に眼帯を付けていたのだ・・。
今回は彼等の上官であるエミー少佐の保護が任務の為、パイロットは前回の様にその場で『背格好や性別が同じ』と、言う理由で採用した下士官達ではなく、エミー少佐の部下で編成されていた。
その為か、背格好も性別も全く一致しない状態で無理矢理コスプレをされていたようなものであった・・・。
「耐えようよ・・・、エミー少佐とシャープ大佐の処分が1階級の降格処分とボク達の部隊その物が左遷と言う形になっただけでも・・・。」
疲れた顔をしたヒタチ少佐は言う。
「やっぱ・・・来月からの給料にも確実に響きますよね・・・。」
キャノン曹長の呟きと辛そうな顔がヒタチ少尉にはきつかった・・・。
「ゴメン、その話はマジで止めて・・・。」
ヒタチ少尉がそう言った時だった。
「んっ・・・?レーダーに反応が!エプソン中尉!この先にライガーゼロが交戦中の模様です!急行してください!僕達も急ぎます!!」
「了解!我等が御姫様を迎えに行ってくるぜ!!」
エプソン中尉がそう言うと、ストームソーダはブーストを吹かし目標の座標へと飛んでいった。
「キャノン曹長!先行します。」
「了解であります!!」
コマンドウルフが大地を駆け、ストームソーダの後を追いはじめた。
「でやぁ!!!」
エミー少佐の叫びと共にライガーゼロの輝く爪がテリア中尉のジェノグラップラーに炸裂するも、エネルギーフィールドによって弾かれ、ジェノグラップラーにはダメージが全く与えられなかった。
「なんて強固なフィールドなのよ!!」
御互いに格闘戦重視のゾイドとはいえ、強力なフィールドが発生できる事と大型シザーアームによるミドルレンジからの攻撃も可能なジェノグラップラーの方が優勢なのが第三者の目から見ても明らかだった。
しかも、ジェノグラップラーの光学系兵装が出力20パーセント程の荷電粒子砲のみ。
エネルギーの消費量が非常に少ない為、エネルギーの殆どをフィールドに回す事も可能なのだ。
さらに、テリア中尉の技量もあってか、ライガーの攻撃が当る寸前で発生させているのでエネルギーの消費の無駄を省いていた。
エミー少佐とは2階級も違うが技量の差は大きかった。
「マジですげぇ・・・テリア中尉って、こんなにスゴイ人なんだ・・・。」
その光景を目の当たりにしたドインの口から言葉が漏れる。
普段はデスクワークをこなす彼女の姿しか知らないドインとリューンには衝撃的な光景だった。
しかも、自分達とは次元が違うレベルであることも・・・。
その光景を見つめるドインを尻目に、ウエンディが乗るグズタフのレーダーに警告音が鳴る。
「マズイ・・・敵の増援!?」
レーダー反応を見たウエンディが毒気ついた・・・。
「こちらの戦力は、私のグスタフとリューンのレッドホーン・・・そして、交戦中の中尉のジェノグラップラー・・・。何てこと!航空戦力があるじゃない!!」
ディスプレイから映し出された、共和国軍の増援データは『ストームソーダ×1・コマンドウルフ×1・グスタフ×1』
レッドホーンはコマンドウルフの相手が出来るとしても、厄介なのはストームソーダだった。
対空兵器に乏しい現在の戦力では相手にするのは難しい・・・。
ウエンディの扱うグスタフには対空砲は装備されているが、ホエールキング等の対大型航空型ゾイド用の為、高速で飛行するストームソーダを相手にするのは非常に困難な話だ。
そして、ウエンディにはもう一つ気になる反応があったのだ・・・。
「グスタフから牽引されているコンテナから発せられる武器反応・・・もしや・・・。」
ウエンディは即座に、リューンへ通信を送る。
「リューン!増援で来るグスタフの急いで対処して!!今はあんたに頼むしかないの!!」
ウエンディからの通信を受け、リューンのレッドホーンが牽引ワイヤーを外して動き出す。
「しかし、グスタフよりも取り巻きのゾイドを優先した方が・・・。」
リューンがウエンディへと通信をするが、ウエンディはリューンには『グスタフを狙え』と強く返信が返ってきた。
「しかし・・・このスピードで、間に合うのか!?」
リューンに焦りの表情が見え隠れする・・・。
レッドホーンのスピードは速くは無い・・・恐らくギリギリのラインでグスタフの増援を阻止できるかどうかの瀬戸際だった。
「(しかし、前衛のコマンドウルフとストームソーダが厄介だ・・・。どうするよ・・・・俺・・・。)」
─『1対3』
リューンの脳裏にこの不利な文字が浮かぶ。
「(この時点で、全開で戦えるのは自分しかいない・・・。しかし、この状況を打破できるのか?)」
不安混じりにレッドホーンが増援部隊へと駆けて行く。
「(私の記憶が正しければ・・・あのコンテナは恐らく・・・あの白いライガーの・・・。)」
ウエンディの記憶に、ある設計図を見た記憶が頭の中でフラッシュバックする。
カーネルが帝国の技術部から貰ってきた(奪ってきたとも言う)資料の中で見た事のあるゾイドと同じ形状だった事を・・・。
「(急いでよリューン少尉・・・貴方が今、一番重要な任務を任されているんだから!!)」
ウエンディの額から冷たい汗が流れる・・・。
「なあ・・・真剣な顔で通信している所悪いが・・・パンツ無い?」
その場の緊張感を一気に砕く、全裸のカーネルが呟く。
「あんたはコレでもつけてなさい!!!」
・・・と言ってカーネル顔にスーパーの買い物袋を叩きつける。
「しょーがねーなー・・・。」
しぶしぶ、カーネルは買い物袋の底を2箇所破き、脚が通せる様に穴をあける。
そして、買い物袋を履くと、買い物袋の持ち手の部分を肩に引っ掛ける。
「キツイなァ・・・蒸れるぞ・・・こりゃ・・・。」
パッと見はアマレスのユニフォームに似ているが・・・。
ビニールがカーネルの肌にピッタリ張り付いて、動くたびにナイロン特有の『ワシャワシャ』と言う音が鳴る。
付け加えるならば・・・股間の形がハッキリした部分に真っ赤な文字で買い物袋に描かれていた『安さ爆発!!』が一番目立つ。
見るに耐えない上に非常識極まりないコスチュームが、廻りの緊張感を一気に崩壊させる。
「ちぃっ!!手強い!!」
戦況が一向に打破できず、押され気味のエミー少佐の声がコクピット中に響く。
その時だった・・・。
「敵のレッドホーンに動きが?」
彼女が不意に見た方向にいたはずのレッドホーンが妙な動きを見せていた。
「確か奴は・・・一度交戦している筈だから、こちらに来るはずは無いわよね・・・まさか!!」
そう思ったエミー少佐はライガーゼロを攻撃重視から回避重視の行動へ変更し、注意しながらレーダーの索敵範囲を広げた。
「やっぱり!ダン君達が来てる!!」
そう言って、エミー少佐はジェノグラップラーとの距離を取ると、一気に増援部隊の方向へを走り始めた。
「待ちなさい!」
テリア中尉はいきなり離脱し始めたライガーを追撃するが、そこは流石に脚の速さには定評のあるライガータイプ。
ジェノグラップラーとの距離は次第に離れて行く・・・。
「マズイ!!」
ウエンディの脳裏に最悪のシナリオが作り上げられる。
明らかにライガーゼロのスピードは、現在ココにいるゾイドの中で圧倒的に上。
レッドホーンの到達時間では到底間に合わないのが目に見えていた。
「このままでは・・・。」
焦り始めたウエンディの後ろから、非常識な格好をしたオッサンがそっけなく言う。
「なあ、おやつない?」
「泥でも食ってろ!!」
ウエンディは怒鳴って答えた。
「ヨッシャ!!増援部隊が見えたぜ!!攻撃開始だァ!!」
リューンが叫ぶと、レッドホーンの背面に装備された大型ガトリング砲が回転をはじめる・・・が!
「邪魔だァァァァ!!!」
─グゥワキィーン!!!
怒声と共にリューンのレッドホーンは戦闘開始寸前の所で背後からのエミー少佐のライガーゼロの攻撃で大きく宙を舞う。
「あぁぁぁぁぁぁ!!」
リューンの泣き声と共にドインのサーベルタイガー同様、レッドホーンが大きく音を立てて地面に叩きつけられた。
勝利の雄叫びを上げるライガーゼロの廻りに増援部隊がやってくる。
「少佐!御迎えに参りました!」
ダン中尉の通信が入るが、エミー少佐は無視して通信を入れる。
「キャノン曹長!『CAS』は持ってきているのね!?」
エミー少佐の大声の通信に恐る恐るキャノン曹長は答える。
「え・・・ええ、少佐が乗っておられるライガーを積載していたグスタフをそのまま持ってきていますので・・・。」
「そのまま『CAS』の『イェーガー』への換装をして頂戴!今すぐに!!」
「しかし・・・ライガーゼロは無事なんですし・・・帰還命令も出ているんですよ!」
「このままじゃ私のプライドが許さないわ!!」
「・・・ハイ」
エミー少佐の権限とインパクトに押され、キャノン曹長はグスタフが牽引していたコンテナを解放する。
「『CAS』発動!!チェンジ!『イェーガー』!!」
「リューン中尉!無事ですか!?」
大破したリューンのレッドホーンに通信が入る。
「ええ・・・なんとかですが動くのが精一杯みたいです。申し訳ないであります・・・。」
生きている事に安心しているリューンの返事が返る。
「なんて酷い事を・・・。」
テリア中尉の視界に入ったレッドホーンの姿を見て呟いた瞬間だった・・・。
「次は貴方の番よ!!」
スピーカー越しに大きな声が響く。
「あのライガー乗りの声!!」
エミー少佐の声と判断した瞬間・・・。
─ザンッ!!
一陣の風がすれ違った瞬間、ジェノグラップラーに装備された右のシザーアームが横一文字に切り裂かれる。
「何っ!?」
テリア中尉の目の前にいたゾイドは、見た目こそはさっきまで戦ったライガータイプのゾイドとほぼ同じだったが、装甲が全く別のものとなっていた。
─『CAS(チェンジング・アーマー・システム)』
戦況に応じて、装備をフル換装する。
その為、わざわざ多種多様なゾイドを用意する必要も無いのだ。
ライガーゼロ1体で多目的に任務をこなす事が出来る、ライガーゼロにとって最大のシステムである。
「ライガーゼロイェーガーが貴様のゾイドの相手よ!!そこに転がる雑魚のゾイド同様にスクラップにしてやるわ!!」
笑みを浮かべたエミー少佐がテリア中尉へ通信を入れる。
「『雑魚』!?『雑魚』ですって!?帝国には『雑魚』なんていません!!一人一人が優秀で志の高い軍人なのです!!」
その瞬間、エミー少佐の言葉に怒りを憶えたエリア中尉のジェノグラップラーに異変が起き始めた。
─ゴォォォォォォ・・・。
突然、真昼の空に暗雲が立ち込め、太陽の光を遮断する。
─ビュゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!
穏やかだった風が突風と化し、廻りの草木が大きく揺れ始める。
「なんだ!?敵の新兵器!?」
エミー少佐の周りにいる増援部隊一堂が、突然環境の変化から動揺する。
「こんな脅しが通用するか!!」
エミー少佐は臆することなくテリア中尉のゾイドへと突進する・・・が!!
「(遊ボウヨ・・・。)」
エミー少佐の通信機器に子供の声が入る。
「なっ・・・何!?」
流石のエミー少佐も妙な通信に困惑する。
「(姉チャン・・・遊ンデモ良イヨネ・・・。)」
今度は、うめくような子供の声がスピーカーから聞こえる。
「あのゾイド!何か特殊な装備を!?」
「オーガノイドシステム発動!!」
テリア中尉が叫ぶと、ジェノグラップラーの内部から何か無数の『青白い影のような物』が発せられる。
スピードは無いが、ユラユラと浮かび周囲にいたゾイドに貼り付いては染み込んでいく・・・。
次の瞬間・・・。
「ぎゃあぁぁぁぁぁ!おばあちゃんが!!!おばあちゃんがあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ダン中尉の絶叫が響き、そのままストームソーダは不時着・・・。
「ごめんなさい!!ごめんなさいいいいい!!だから!だからぁぁぁぁぁぁ!!」
次はキャノン曹長のグスタフが不可思議な動きをし始めた後、小刻みに揺れていた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!染み込んでくる!!ボクに『何か』が染み込んでくるぅぅぅぅぅ!!!」
エミー少佐の後ろでケイン少尉が叫ぶとのコマンドウルフが直立のままで横倒しになると、妙な痙攣を起こしている。
「ちょっと!?ダン!キャノン!ケイン!どうしたのよ!?」
廻りの不可解な状況に困惑するエミー少佐・・・。
そんな彼女にもオーガノイド(?)の力が及びはじめた・・・。
「(・・・ダーレダ?)」
いきなり、子供の声がしたとたんにエミー少佐の視界が『子供の手のような冷たい何か』によって防がれた。
「ひっ!!だっ誰!?誰なの!?」
エミー少佐は混乱しながら視界を防ぐ何かを振り払おうとするが、強い力で振り払えない。
「(ウフフフフフフフ・・・知リタイ?)」
その瞬間、エミー少佐の視界から遮る物が無くなった。
視界が晴れると、エミー少佐はスグに背後を確認したが、そこには誰もいなかった・・・。
その時・・・。
「(オ姉チャン・・・ココダヨ・・・オ姉チャン・・・)」
また、あの子供の声が耳に入る・・・。
そして、エミー少佐が恐る恐るシートの足元を見ると・・・そこには・・・。
「イヤァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」
「ハッ!!」
ベッドから、飛び起きたエミー少佐・・・。
廻りを確認すると、そこは共和国軍の国境警備隊の医務室だった・・・。
「夢?」
ありえない夢を見たと思ったエミー少佐は思った・・・。
「目が覚めましたか。」
常駐している看護婦がエミー少佐に話しかける。
「大変でしたねエミー『大尉』・・・2日も寝ていたんですよ。」
「そうか・・・私は降格されていたんだっけ・・・。」
『大尉』と呼ばれた瞬間、エミーは降格された事実を知るが気にするほどではなかった。
「全員無事保護されていますからご安心してくださいね。」
看護婦が笑顔で仲間の無事をエミー大尉に伝える。
「そう・・・でも、妙な夢を見たわ・・・。」
「夢?」
看護婦が首を傾げるが、エミー大尉は「気にしないで」と言って、ガレージへと足を運んだのだった。
「あんな事・・・起きるわけ無いじゃない・・・。」
・・・と呟いた時に、自分が乗ったライガーゼロが目に入った時だった・・・。
「ん?」
エミー大尉はライガーゼロの爪の部分に妙なペイントが施されていた事に気が付いた・・・。
それは血文字で描かれた『マタアソボウ』と言う文字だった・・・。
続く
整備員A「おーい!大尉が倒れたぞー!!誰か手を貸し手くれー!!」