「でーれー興味深いもんが見つかった。」
「この装備・この技術・常識はずれもえーところの逸品。」
「じゃけどな、わしはコレを知っとる気がする。」
「たぶんけーは・・・。」
第4話『襲来!メタルス檜山蟹!!』
3月27日金曜日
倉敷市白楽町にある『倉敷商工会議場ビル』
そこは、様々な企業等が研修や講義を行う会議場である。
商工会議場2階の大型会議室では、午前9時よりある講習が行われていた。
『3月度・対獣装備装甲機民間企業向け講習会』
それは、国で制定された『怪獣退治民間委託法』によって怪獣・怪物退治が民間企業への委託となった為に害虫駆除業者のABA(アンチビーストアーマー)正式名称『対獣装備装甲機』の操作及び、それに伴う法令についてを学ぶ為の定期講習会である。
この講習会を6時間受け、それについての非常に簡単は筆記テストを行い70点以上の点数を取れれば講習完了となり初めて県内のみに限りABAの操作が許されるのだ。
但し、通常の車両操作などの講習とは異なり、人員が不足しがちな民間企業も多数存在している為、特例として市から企業関係者として認められれば年齢制限を受けること無い。
その為、空一がいる神山防獣においては家族全員と従業員全員は修了証を所持している。
なお、県外でのABAを運用する際は修了証は認められておらず、県外での運用に『全国規格用対獣装備装甲機操縦免許証』が必要となる。
ちなみに、神山防獣で『全国規格用対獣装備装甲機操縦免許証』を取得しているのは、真空・レイセン・空一の三名のみ。
そして、その講習を受けていたのはと言うと・・・。
午後16時半、商工会議場ビル1階の飲食フロアのレストランで空一とレイセンはテーブル席でジュースを飲んでいた。
「もう、そろそろ終わる頃だね。」
レイセンはレストランに備え付けられた掛け時計に目をやると時間は講習会の講習時間が修了し、筆記テストもそろそろ終わるであろう時間へと差し掛かっていた。
しかし、空一はレイセンの言葉を気にすることなく少々焦った様子である。
「どうしたんですか?空一君、妙に落ち着きが無いじゃないか。」
その言葉に、空一はレイセンに向かって言う。
「いや、そうじゃないですか!どうやって企業関係者として認めさせるつもりなんですか!?」
その空一の意見にレイセンは忘れていたかのように頬をポリポリ掻きながら答える。
「ああ・・・それなんですがね、実は奥様の・・・。」
そうレイセンが言いかけた瞬間に空一の背後から大きな声が聞こえる。
「おにいちゃーん!レイセンさーん!」
元気の良い新子の声だ。
「ああ、待ってましたよ。講習はどうでしたか?」
新子は二人の座るテーブル席に駆け寄ると、戸惑うことなく空一の隣に座ると、空一の腕を掴む。
「あのな、掴むなって言ってるだろ?」
出会ってから5日間、だいたいこの調子で続いている空一は、そろそろ慣れてきていたが腕を掴まれるのだけは慣れてはいなかった。
「いーじゃん♪いーじゃん♪」
新子も新子でこの調子で楽しんでいる。
そして、空一は「はぁ・・・」とため息をついてから言う。
「んで、新子・・・講習はどうだったんだ・・・と言うより、企業関係者でもないし『戸籍が無い』じゃなかったのか?」
すると、ポケットからラミネート加工を施されたカードを取り出して胸を張る。
「えっへん!この通り!ちゃーんと合格したもんね♪」
その答えを聞いた空一は「まじかよ!?」と言って新子の持つ修了証を取り上げると、即座に氏名が記入されている欄を見る。
『岡山県対獣装備装甲機講習修了証』
『氏名:新子・キャンサール』
空一は目を疑った、はじめて見た新子の『苗字』
名前しかないはずの新子に『キャンサール』と言う見た事も聞いた事も無い『苗字』
「な・・・なんで、お前に苗字があるんだ?聞いた事なかったけど?」
それについての質問はレイセンが答える。
「あ、さっきの話の続きなんですが、奥様の依頼でボクの国で戸籍の手続きをしたんだ。」
「へ?戸籍の手続き?」
「いやぁ・・・実はね、跡継ぎがいない親戚がいたんで、その養子縁組として登録してもらってたんだよ。」
「でも、そんな1日で養子縁組の手続きなんて・・・。」
しかし、レイセンは笑顔で答える。
「ああ、新子ちゃんが神山家(ウチ)に来た翌日の朝からすぐに依頼されたからね。それにボクの国では手続きの審査は早いし。」
空一は呆気に取られていた。
己の母親の手際のよさに・・・。
「そうか・・・俺がダークナイトに怯えながら寝ていた時、通りで珍しくレイセンさんがウチのリビングに招かれていると思ったら・・・。」
「それに、ボクもこの神山防獣の関係者だし、新子ちゃんはボクの親戚に当たるから、半ば強引なやり方だったけど企業関係者になるね。」
「じゃあ・・・聞きましょうか、新子(コイツ)が養子縁組になるまでの経緯を。」
半ばヤケになって空一は言う。
「それは、ですね・・・。」
レイセンが語った内容は『長く綿密に作り上げられたフィション』であった・・・。
勿論、キャンサールの家名を持つ人からちゃんと許可を得ているとはいえ、当事者以外の人間が聞いたら、まず納得できる『現実味のあるフィクション』であった。
「大学部の講義中に書き上げたにしては良く出来てるでしょ?作文用紙2100枚に及ぶ感動巨編!」
胸を張るレイセン。
一部、学生として多少問題のある発言があるが・・・。
「んで、要約するとね『家族で旅行先の事故で両親が死んで、天涯孤独の身となったあたしを、レイセンさんのご親戚の方が引き取ってくれた』って事、国籍もエアフレーンに帰化していることになるのよん。」
新子は胸を張って、空一に言う。
しかし、空一は多少考えた後、思い出したかのようにレイセンたちに言う。
「レイセンさん、さっきの内容・・・先月読ませてもらった、近所に住んでるドインさんの小説の一部パクってない?」
その一言にレイセンは一瞬凍りつくと、笑って言う。
「いやぁ・・・ボクは基本的に創作が苦手でねぇ・・・。」
「まあ・・・確かこの内容は、作家のドインさんが若年層に流行のラノベ(ライトノベル)を意識して書いた創作小説だったけど『ネタに詰まってお蔵入りになった』から外部に出る事はないだろうけど・・・。」
「大丈夫『一部使わせて』って、ドインさんには許可もらってるから。」
「良く許可下りましたね・・・。」
「ええ、新子ちゃんの詳しい事を除いて事情を説明したら・・・そりゃもう、ドインさんも乗り気になって『マジか!?よっしゃ、使え!!その内容で、その子の養子縁組に関しての国の審査が通ればフィクションじゃなくなる!』って。」
「ドインさん(あの人)はノンフィクション作家だからなぁ・・・フィクションが事実になってしまえば『ノン』になるわけだ。それにその小説が『ひさしぶりのお倉入り』で執筆が上手く進まないとか言ってブルー入ってたからなぁ・・・。」
「うん、審査も通ったんでコレで彼も自信が付きますよ。」
なんか、国を騙して人助けをしているような感覚の空一ではあったが『人助け』と言うことで区切っておくことにした。
「お礼を持っていかないとね・・・そういえば、近くに『おはぎ屋』さんがあったなぁ・・・。」
そう言って、空一が席を離れようとした時だった・・・。
「あら?新子ちゃん、この人達の関係者だったの?」
その声と共に現れたのは、赤色のスポーツタイプの色眼鏡をつけた巨乳の女性であった。
「あ、なみおねーさんだ!」
新子はそう言って嬉しそうに駆け寄るが、空一は戸惑い素直に近づけなかった、レイセンに至っては近づこうともしなかった。
「あれ?レイセンさん、どうしたの?」
軽くため息をついて、席を立つレイセンの顔はいつもの明るい雰囲気ではなかった。
そして・・・。
「新子ちゃん、空一くん・・・少し席を外してもらえますか?」
その雰囲気に押された新子と空一は素直に頷き、レストランを後にする。
それを見送るとレイセンは、目の笑っていない営業スマイルで口を開いた。
「いやぁ・・・こりゃどうも。」
その頃、レストランから出た空一達は地下駐車場へ向かっていた。
「ねぇ・・・レイセンさんはどうしたの?表情は変わってないけどあのオーラは普通じゃなかったよ?」
歩きながら新子が空一に訪ねると、空一は空一で気まずそうに答える。
「悪い、お前には教えてなかったな・・・あの巨乳女は『音野奈美(おとのなみ)』って言ってな、あの女がいるって事は・・・。」
そう言いながら地下駐車場のドアを開けた先に青年はいた。
恐らく社用車と思われる車体にもたれていた。
その背は高く、スリムな体系。
顔も目つきは悪いが俳優向けのハンサムで、頭部に犬耳を立てている獣人の青年である。
そして、ドアの音に反応したのかコチラを見ている。
「あん?なんだ空一じゃねえか?」
人を軽視したようにそう言うと、犬耳獣人の青年は空一達にゆっくりと歩み寄り始めた。
「はぁ・・・やっぱりいたか・・・『ナル』」
ため息をつき呆れた様に空一はナルに言う。
その一言がナルには癪に障ったのか空一に因縁をつけてくる。
「なんだと!?『やっぱり』ってどういう意味だ!?」
空一は、明らかにソレには慣れたように言う。
「簡単じゃないか、さっき1階のレストランで音野さんに会ったからさ・・・あの女いたら絶対お前が近くいる証拠じゃないか。」
そんな状況下で、新子は不思議そうに空一の袖を引っ張ってると空一に尋ね始めた。
「ねぇ、この目つきの悪い犬耳さん誰?」
「ああっ!?誰が『犬耳』だっ!」
気安く『犬耳』と言われたのも癪に障ったのか、今度は新子にまで因縁をつけようとする。
流石に、ナルの因縁付けが怖いのか新子は空一の後ろに隠れる。
しかし、空一はナルからの因縁付けも『安心しろ、いつもの事だ』・・・と、新子に言う。
「コイツの名前は『ナル・スターズ』・・・そして、さっきの『音野奈美』はな・・・。」
そう言い掛けた時に、駐車場に男女の話し声が聞こえてきた、会社の関係者同士の会話だが内容は『酷い』ようだ。
「まあ、貴方がお勤めのような弱小企業ではABAの担当者が少ないですからお辛いですわね。」
「はっはっはっ、こちらは少数でも切り盛りできますし、御社のように無駄にABA人員を持っていては意味がありませんから。」
「ああ、それで少数で切り盛りした結果、担当人員枯渇で新子ちゃんみたいな子にまで危険なABAの講習をさせているのですね御可愛そうに。」
「これは一本とられましたね。何分ウチの場合は必須事項ですので。そういえば奈美さんも、ABAの講習を受けておられたようですが・・・スターズに就職してから未だにお持ちではなかったのですか?」
「いえいえ、私の場合は『修了証更新』で受けただけですわ。ですが、御社のような会社でABAで働かせるなんて新子ちゃんが可愛そうですわ・・・結構な技術を持っていそうですので勿体無い。」
「おや?先ほど『危険なABA』と仰っていて、ヘッドハンティングですか?」
「私は、この子の技量を評価していますわ『安全かつ安心で信頼性の高い我が社のABA』ならば、新子ちゃんを御社の『ストレートに危険なABA』なんかに乗せたりするものですか。」
その会話は某逆転弁護士と某逆転検事の会話を酷くバージョンUPしたものであった。
お互いの放つ一言一言を粗探ししてはツッコミ。
突っ込まれた方も、突っ込み内容の一言一言を粗探ししてはツッコミ返し。
内容を聞けば聞くほど酷くなる。
─『水と油』
レイセンと奈美の関係はその一言で事足りるほどのものである。
地下駐車場は険悪なムードで包まれる。
そして、二つのグループが一つに交わり。
即座に『レイセン・空一』VS『奈美・ナル』の新たなるグループを形成する。
ちなみに、この関係について詳しくない新子は別枠化。
独特の雰囲気が辺りに漂い、迂闊に近づいたり話しかけるのも難しそうな雰囲気の険悪な会話が再開されていた。
「うわー、何だろう?近寄りがたーい・・・。」
新子は思わず呟いてしまう。
「ボクも、コレだけはカンベンして欲しいんだよなぁ・・・関係者として・・・。」
いつの間にか新子の隣には、ナルと同じ犬耳の獣人の10歳ぐらいの少年がいた。
「あっ、スーラ君。奈美おねーさんと一緒受講してたと言うことは、もしかして関係者なの?」
スーラと呼ばれた少年は申し訳なさそうに軽く頭を下げると、残念そうに口を開く。
「うん・・・だって、兄ちゃんだもんアレ・・・。」
そう言ってスーラが指をさした先にいた人物。
『アレ』=『ナル』である。
地獄耳なのかナルはスーラに『アレ』と呼ばれた途端に近づいてきた。
「スーラ!兄貴を『アレ』呼ばわりすんじゃねぇ!!」
「はいはい・・・わかったよわかったよ。」
流石に弟だけの事はある、スーラはナルの悪態には慣れており軽くあしらっている。
ソレを見たレイセンは『しめた!』と言った表情で言う。
「あれ?スーラ君、君も講習受けに来てたのかい?」
レイセンに声を掛けられたスーラは頷くと素直に修了証を見せる。
その瞬間、レイセンはニタリと笑みを浮かべるとナルと奈美に言う。
「なるほど・・・『新子ちゃんみたいな子』までもABAに乗せないといけないとは・・・御社もでしたか・・・大変ですなぁ・・・。」
その瞬間、ナルは冷や汗を掻きはじめる。
「す・・・スーラがいきなり講習を受けたいと言いやがるからよ!!奈美ねえちゃんのついでに受けさせてやったのさ!!」
ナルはしどろもどろな感覚で反論(言い訳)をはじめる。
しかし、スーラは・・・。
「え?そうだったっけ?ボクは別に何モガッ!」
言いかけた瞬間に奈美が手で口を押さえる。
だが、このフォローは既に遅かった、スーラの『え?そうだったっけ?』の一言だけでレイセンと空一には十分だった。
即座にナルが『バカだな!お前が言った事じゃないか!』・・・とか、何かと言いつくろうとするが墓穴を掘りまくるにはあまりにも簡単すぎた。
そのナルの醜態はスーラは呆れ、奈美はその姿を見て楽しんできるようにも見えた。
ある意味、ナルには味方らしい味方はいないようにも見える、その光景にレイセン達は哀れんだ目で見ていた。
しかし、そんな地下駐車場に二種類の携帯の着信音が響く。
レイセンと奈美はお互いに背を向け合いポケットの中にある携帯電話を取り出し通話ボタンを押す。
『ハイ、お待たせいたしました。』
切り替わりが速い二人の一声がシンクロする。
そして、ほぼ同じタイミングで通話が終了するとレイセンは空一達を、奈美はナルたちの方を向き同じタイミングで口を開く。
『仕事です。』
丁度その頃『喫茶ハーネス』では・・・。
カウンター席で、コーヒーを啜る羊の角を生やした甚兵姿の獣人男性がいた。
勿論、カウンターの向こうにはハーネスがグラスを丁寧に磨いていた。
そして、男が口を開く。
「ねえ、ハーネスさん・・・匿名でもいいから、そろそろ貴方の組織のネタを使わせてくれません?」
しかし、ハーネスは無言で首を横に振る。
「もう組織は無いんだし!いいじゃないですかぁ〜。」
ハーネスは優しくグラスをしまうと、男に向かい言う。
「・・・ダメ。」
「所属組織は違えど元悪の幹部同士じゃないですか。」
「失礼な、君の所属していた『悪の組織のアクノス』とは違って、私の所属していた『アノ空の会』は『環境団体』だよ『環境団体』。」
「『環境団体』っても単純に割り振れば『テロリスト』じゃないですか。」
「環境破壊を黙認する企業に対して実力行使を行ってただけ。他には迷惑を掛けてないよ。」
「一緒じゃないですか。お願いですから!名前は伏せますから!この通り!!この『ドイン・ドッチナン』!!・・・いや!元アクノスの大幹部『キョー・テイン』たっての願いでございます!!」
「あっ・・・そんな事言うなら、2か月分も溜まったアパートの家賃収めてから言ってよね。」
「うっ・・・。」
思わず、ドインは言葉を詰まらせる。
この男・・・ドイン・ドッチナン(34)は『現ノンフィクション作家』で『元秘密結社アクノス幹部キョー・テイン』であった。
かつては、中国地方を中心に暗躍していた秘密結社アクノスの大幹部であったが、秘密結社自然消滅事件の煽りを受け組織が倒産してしまう。
企業倒産の為、退職金は無く。
悪の組織と言う、特殊な職場だっただけに国からの失業保険すら申請が通らなかった。
アルバイトをこなしながら、その悲しい事実を元に書き続けたコラム『悪の組織崩壊:第二シーズンはやってこない』が月刊誌に掲載される事となる。
ソレを契機に作家へと転向したドインは、かつて秘密結社で活躍していた頃を基にしたノンフィクション作家として活躍している。
主な出版物は『民明出版:100万円からはじめる悪の組織』『東方出版:生物系怪人と機械系怪人との共生問題』『東方出版:大幹部でも出来る戦闘員へのケア』
住まいは失業状態のドインともう一人の元アクノス幹部を哀れんだハーネスが個人で保有しているアパートを貸している。
ちなみに、ドインはハーネスが正義の味方ダークナイトであることを知らない。
知っているのは『アノ空の会』に所属していた頃のハーネスである。
しかし、彼の印税生活だと通常の生活に支障は無いはず。
なのに家賃の停滞がたまに起きる理由は後日語られる事になる。
ソレはさておき、舞台は神山防獣へと移る。
「んで・・・レイセンさん、今回の仕事ってのは?」
神山防獣の会議室で空一が口を開く。
「そのことについては、奥様が説明してくださるそうです。」
レイセンはいつも以上に深刻そうな表情で、星美に目で合図をする。
そして、星美は空一たちの前に立ち書類を読み上げ始める。
「はい、今回の県からの緊急依頼は・・・これより午後19時までに水島港へ向かい『檜山蟹』の足止めに向かいます。なお『足止め』ではありますが、駆除が可能であれば実行してください。」
『足止め』『駆除』に関しては、そこにいた者(新子を除く)は全て理解できたが腑に落ちない言葉があった。
「お母さまぁ〜、なぁ〜ぜぇ〜『檜山蟹』なんですかぁ〜?」
スローモーな言葉ではあるが水美の言葉に新子以外の皆が頷いた。
そして、空一の隣にいる新子は空一の方をつつき、たずねる。
「ねえ?なんでみんな不思議そうな顔してるの?」
「ああ、そうかお前は知らなかったよな・・・『檜山蟹』ってのは広島にしか発生しない特殊な怪獣だ。だが・・・広島には檜山蟹等の海生型怪獣を一手に受け持つ業者があるはずだが・・・。」
空一がそういうと、星美はその言葉を聞き取り答える。
「ええ、空一の言う通りね。本来『檜山蟹』は広島県の『特産』とも言える怪獣。そして、その海生型怪獣を相手にする企業『横川マリンガード』があるのですが、本日午後13時ごろに広島県からの依頼を受け、海上自衛隊と連携して駆除に当たったそうですが、駆除に廻された5機の大型ABA『マリンガードナー』の全てが『大破』・・・従業員及び、自衛隊員を含めて重軽傷者40名以上の被害を被ったそうです。」
その言葉に、皆の顔が青ざめた。
「マジかよ・・・。」
そう言った地平の表情も険しい。
そして、星美はさらに険しい表情で言う。
「被害はそれだけではありません。午後15時ごろには呉港を襲撃し、市民にも死者はいないものの重軽傷者多数。予め集結していた陸上自衛隊の攻撃で何とか上陸は避けたものの、航空自衛隊の偵察機による情報によると、現在は午後16時ごろは糸崎港を素通り・・・17時には、『しまなみ海道』の一部を破壊して・・・午後19時ごろには水島港に現れる可能性が濃厚となっています。なお、しまなみ海道が一部が破壊された為に広島から四国への通行が分断されました。今後の経済的影響は甚大になるものとなります。」
星美が資料を読み上げた後、続いてレイセンが新しい資料を読み始めた。
「今回の私達が相手をするのは檜山蟹の新種と判断されます。このまま放置してしまえば、船舶だけでなく瀬戸大橋や明石海峡大橋もしくは神戸淡路鳴門自動車道などが分断される恐れもあります。この映像を見てください。」
─レイセンが彼らに見せた映像は想像をはるかに超えるものであった。
本来は全長8mぐらいの檜山蟹なのだが、その体躯は想像を超えたものであった。
全長は30mと推測され、今までに観測されていた檜山蟹の最大12mを遥かに超え、その戦闘能力もマリンガードナーが使用していた『対檜山蟹甲殻貫通槍』を弾き、政府の認可が必要な薬品型装備『対檜山蟹用硫酸弾』ですら受け付けなかったのだ。
勿論、その驚異的な装甲の為に戦車砲も受け付けてはいなかった。
一番皆の目を引いたのは口部から発射された『泡』である、高濃度に圧縮された酸素を含んだ無数の泡を吐き出し接触した対象物を破壊する『天然の酸素魚雷』であった。
この『天然酸素魚雷』で大半のマリンガードと海自と陸自の保有するABAを葬っていた。
「・・・以上が、海上自衛隊から送られてきた資料です。通常の檜山蟹の亜種と判断、ソレに伴い『メタルス檜山蟹』と呼称いたします。我々の目的は水島港で待ち伏せている陸上自衛隊と連携して、増援の海上自衛隊と呉港で被害を受け部隊再編された海上自衛隊と陸上自衛隊の対策部隊が来るまで『足止め』を行ってください。勿論『可能であれば駆除』することも認められています。」
資料を読み終えたレイセンの表情は真剣そのものだ。
気がつけば、周りの反応は辛そうであった。
空一もそうだが、地平の表情ですら険しかった。
その表情を察した星美はレイセンに追加の資料を手渡した。
レイセンはそのまま資料を読み始める。
報酬について:
今回の『足止めに作戦』ついては協力業者への生命に関る為、参加した協力業者は危険と感じられた時点で『自己の判断で撤退を許可』。
撤退した場合でも、予め契約した報酬を無条件で出すものである。
「みなさん、この場合は逃げても構いません。危険と判断されたらすぐに逃げてください。それでもちゃんと報酬は出ますからね。」
レイセンがそういうと、空一達の表情は多少和らぐ。
恐らく皆は『死守せよ!』と言うような依頼と感じていたのだろう。
しかし流石にレイセンは次の内容は読めなかった・・・。
「(コレは読めないな・・・。)」
補足:
参加業者が決定的な攻撃で駆除に成功した場合は『駆除成功報酬』と駆除に成功したメタルス檜山蟹の『50パーセントを駆除成功業者に提供する』ものとします。
「(タダでさえ、生命に関るんだから成功報酬とかの話をして無理をさせるわけにはいかない・・・。)」
神山防獣は基本的に安定黒字ではあるが、給料面や整備費用はギリギリの切り詰め状態である。
空一は取り分け責任感が強いだけに多少の無理をやりかねない。
レイセンにとってはソレが一番の心配事であった。
「空一!頑張ろうね!あたしも頑張って支援するから!!」
空一の隣で新子は両の手を握り締め、決意を露わにする。
本人の目は真剣だ。
「バカ・・・お前は留守番だ。」
空一は新子の頭をぽんぽんと叩く。
「む〜っ!ちゃんと修了証持ってるもん!空神号のシュミレーションやってるんだよ!予備機で出る事もできるんだから!!」
新子は膨れて反論するが、空一は「そうじゃない」といった表情で新子に言う。
「あのなぁ、この依頼はどう考えても素人向けじゃない。修了証取りたての新人のお前じゃ今は無理だから留守番を・・・」
─バン!
その会話にわって入るようにドアを開き、明らかにここ数日の衛生状態がよろしくない状態の真空がズカズカ入って来て新子の前に立って言う。
「その通り!新子ちゃんは、ここにいてくれんと困るんじゃ!」
「もう!お義父さままで酷いっ!!」
真空の一言で新子はさらに機嫌を損ねてしまう。
「安心してくれ、空一達たー後で合流できるようにしてやるからちーと待っててくれんか?(空一達とは後で合流できるようにしてやるから少し待っててくれないか?)」
「・・・はっ・・・はい・・・。」
真空のその眼鏡の下にある嬉しそうな瞳に新子は押されつつも頷いた。
そして、レイセンは「コホン」と軽い咳払いして会議室のメンバーに伝える。
「では、新子ちゃんはコチラで待機して、実動メンバーは村正自動車修理工場の出張メンバーと合流しつつ水島港へと向かいます!」
『ハイッ!!』
会議室に先ほどとは違い活気ある返事が返るのであった。
続く!
さあ、次は水島港でメタルス檜山蟹との決戦だ!
果たして、足止めは何処まで成功するのか!?
そして、真空は何をたくらんでいるのか!?
第5話『岡山最強のABA!!』