「あの子の調査結果を先生から聞いた時は嫌な気持ちでいっぱいでした。」

 「子供に妙な術式を施しているなんて、人としての感性を疑いますよ。」

 「唯一の救いは、彼女が解放され、心のよりどころを見つけ出せそうな事・・・ですね。」



 
第03話『新子の秘密?』

 この洞窟の先の地下施設で保護したんですっ!」
 その嫌な空気を感じ始めた空一はレイセンに訴える。
 「解ってますよ。タダでさえ空一君があんな姿だったし、あの洞窟も人工物反応でてたんで不思議はないですからね。」
 レイセンはスグに信じてくれたが、水美と地平は「まっ・・・そーゆー事にしておきますか(悪笑)」といった表情をしていた。
 「兄貴の言う事が信じられねぇのかっ!!」
 真顔で叫ぶ空一に地平達は普通のそぶりに戻り「わかってるよ!」と笑飛ばす。
 「あいつら、兄貴からかって楽しんでんじゃねぇっての。」
 そんな険しい表情の空一を見て新子はクスクスと笑っていた。
 「そういえば、空一君この子は誰なんだい?」
 レイセンの一言に新子は振り向き笑顔で答えた。
 「あたしの名は『新子』!それと・・・。」
 そう言って、新子は恥ずかしそうに空一の手をぎゅっと握る。
 「彼の事が大好きなんですが・・・。」
 その一言で一気に周りにいた全員が凍りついた。
 特に空一に至っては、照れるとか嬉しがるとかではなく青ざめた表情で凍り付いていた。

 ついでに地平と水美はドン引き。


 ─4時間後・・・。
 舞台は打って変わって『株式会社神山防獣』
 「おう、調査結果が出たで。」
 そう言って研究室から出てきたのは神山防獣の対策装備開発研究長『神山真空(かみやままくう)』神山家の大黒柱である。
 一応、機械・生物・医療に精通した岡山弁丸出しの男である。
 「どうでしたか?先生・・・。」
 レイセンが真空に駆け寄る。
 「調査の結果じゃけどな・・・ちーと待ってろ」
 真空はそう言って、レイセンを制止させる。
 「はぁーい♪それじゃ、私と一緒にあちらへいきましょうねぇー♪」
 そういった矢先に研究室から笑顔で出てきたのは、真空の妻『神山星美(かみやまほしみ)』に連れられて、水美のお下がりの服を着た新子と一緒に出てきたと思うとそのまま事務所へと足を運んでいってしまった。
 「奥様・・・随分と新子ちゃんの事気に入ってますね。」
 「せーはまあ、念願の娘・・・とゆーか長男坊の嫁(の予定)が来たんだ、嬉しゅーもなるわ。」
 「あ・・・もう、奥様は確定のつもりなんですね。」
 「空一と7つ歳の差なんてんは、この際、星美にゃー関係ねーからな。」
 「『7つ歳の差』・・・と言うことは、あの子の年齢はわかったんですか?」
 「ああ、知能指数や身体の発育状態と骨の成長状態から見て間違いなく8〜10歳だな。」
 そういって、真空はレイセンに調査結果の資料を手渡す。
 「何々、血液型は『AB型』身長は133cmで体重は『本人の希望により伏せる』と・・・後は未通で初潮はまだ無しって・・・余計な事まで書いてますね。」
 「星美のやつは『残念だわ!孫の顔はまだ見れんのね!』って言うてたな。」
 「いや、奥様は気が早すぎませんか・・・。」
 「しかしな・・・星美の事だ、いらんことをしそうできょーてーな。(よけいな事をしそうで怖いな)」
 「まあ・・・この状況下で一番嬉しい反応をしたのは奥様でしたね、そういえば。」
 多少、あきれた表情でレイセンが書類に目を通していると、ある項目に目が止まった。
 「先生・・・コレは何なんですか!?この備考欄にある『遺伝子単位に細工あり』って!!」
 信じられないと言った表情をしたレイセンが真空に問う。
 その反応に真空も表情を曇らせた。
 「せーか、あの子自身も理解しょーらんようじゃけど、間違いなく『改造手術』を受けてるで。」
 「あんな幼い子供に改造手術!?」
 「ああ、人間性を疑いとうなるよ。現段階の調査では高度な技術で構成されたナノマシンを遺伝子単位で組み込まれてる。」
 「先生、私は許せません。研究者として・・・いや人間としてこのような行いをした人物が!」
 レイセンの手がプルプルと震えていた。
 「レイセンさんの言うとおり、俺も新子にそんな事をした奴が許せない。」
 そう言いながら空一が研究室から出てきた。
 「おう、ロリコン長男。よーよー出てきたか。(ようやく出てきたか)」
 真空の言葉に『ムッ』とする空一。
 「うるせぇ!第一、あの子が勝手に決めたことじゃねぇか!俺には関係ねぇしロリコンじゃねぇ!」
 「まあまあ、空一君抑えて抑えて・・・。」
 いつもの険悪なムードを抑えるようにレイセンが空一をなだめる。
 しかし、真空は呟いた。
 「関係は・・・『ある』。」
 「え?」
 「聞いた所によると、おめーは確か『バッタの改造人間に変身しとった』と言うてたよな。ソレが新子ちゃんに組み込まれとったナノマシンが関係しとる。」
 そう言って、真空は空一に診断書を渡す。
 受け取った空一が自分の身体調査を見るが結果は・・・。


 その頃、新子は星美に連れられ神山防獣の食堂で事務員の女性陣と共に食事を楽しんでいた。
 「空一達も気が利かないわねぇ、帰るまでマーさん(真空の事)の用事ばかりで新子ちゃんに食事出さないなんて。」
 星美はそう言いながら、お茶を汲んで食事をしている新子の前の出す。
 「あ・・・ありがとうございます。でも、こんなに良くしてくれてるだけでも十分嬉しいです星美さん。」
 礼儀正しく、新子が言うと星美は嬉しそうに答える。
 「まあ♪『星美さん』じゃなくて、そのうち私は貴方の『姑』になるんだから『お母様』で良いわよん♪」
 既に星美の中では、空一の嫁として確立されていた。
 「あ・・・はい!お母様♪」
 「あーん♪嬉しいわぁん♪女の子は水美しかいないから嬉し過ぎるわぁ♪」
 新子にそういわれると星美は頬を染め身体をくねらせるが、周りの反応は・・・。
 「(いや・・・水美ちゃんは男の子ですよ・・・社長・・・。)」
 事務職員の女性陣全員が同じことを頭の中で考えたが、口に出さないのはエチケットである。
 「そういえば、新子ちゃん!空一君の何処がよかったのよ!?」
 そう言って女性事務員の一人が新子と星美の会話に割ってはいる。
 「えっとね。」
 突然の質問に新子は少し考えて、顔を赤くしながら答える。
 「空一お兄ちゃんが『必ず外の世界を見せてやる』って助けてくれた事と・・・ゴニョゴニョ・・・」
 そういうと新子は恥ずかしそうになり、後の言葉は声が小さすぎて聞き取れない。
 が・・・周りの女性陣は『何!?何!?』と興味津々と問いとめる。
 観念した顔を赤くした新子は意を決し口を開いた。
 「全部・・・見られたから・・・身体・・・。」
 そういうと、新子は完全に赤面状態でうつむいたままになってしまった。
 その言葉を聴いた、女性陣は全員。
 「キャー♪空一君!大っ胆っ!」
 「コレは責任取らないといけないわよね♪」
 「凄いわね、たった数時間で女の子一人を虜にしちゃうなんて。」
 とか言いたい放題の状態で盛り上がる。
 「他に何かされなかったの!?」
 テンションが上がった事務員がまた凄い事を聞き出し始めた。
 流石に新子も言いにくいのか、星美に耳打ちをする。
 ソレを聞いた星美は「わぉ♪」と言って口を手で軽く押させる。
 「社長!新子ちゃんはなんと!?」
 星美は『ムッフー♪』と笑みを浮かべて口を開いた。
 「『そのままギュッて抱きしめられた』って♪」
 その一言で女性陣のテンションは一気に上昇し話が盛り上がって行った。


 『身体異常無し』
 空一の診察結果だった。
 「どういうこった?俺は改造人間にされていたはずだ。」
 診察結果に空一は首を傾げていた。
 「空一君には悪いですが、どう見てもあの姿は改造人間特有の術式による姿に間違いありませんよ。」
 レイセンも真空に意見をする・・・が、真空は言う。
 「じゃけど、実際におめーの身体は健全そのもんじゃ・・・や、ロリコンとゆーこたー健全たー言いがたいか・・・。」
 真空の言葉に空一は『ムッ』と顔をしかめる。
 その険悪な空気には流石のレイセンも苦笑いしかない。
 しかし、真空はお構い無しに話し続ける。
 「報告書は読ませてもろーたが、空一が洞窟へ落ちたとき多少の打ち身や壁に接触したときに擦り傷が多数あったそうじゃな。」
 そう言われると、空一は頷く。
 「しかしだ・・・実際に調べた所だと、報告書にあった外傷は治っとった、綺麗さっぱりと・・・。」
 思い出したように空一は改めて自分の腕を調べてみるが、その腕にあったはずの擦り傷は傷跡ごと消えていた。
 「あ・・・本当だ、何でだ?」
 「じゃけん、その新子ちゃんに仕込まれたナノマシンが影響しとるんじゃ。」
 『ナノマシンの影響?』
 二人は口をそろえて言う。
 「そうじゃ、詳しい事は調査中じゃけど、遺伝子単位で組み込まれたナノマシンがたぶんおめーに作用したんじゃろうな。」
 さらに真空は胸ポケットにしまっていたファンシー玩具っぽいペンを取り出して言う。
 「現段階では、そのナノマシンが起動して・・・このペンが受信、おめーになんらかの影響を与えたみたいだな、実際にこのペンにゃー受信機のような役目しかもっていねーようじゃけんな。」
 「では、そのナノマシンが作用して空一君が変身したと?」
 レイセンが資料を読みながら言う。
 真空はニタリと笑みを浮かべて答える。
 「ああ、催眠術で空一から詳しゅー聞きでーてみたが『秘密結社アクノス』なんざ数年前に倒産して現存しょーらん筈なのになん故か・・・改造人間にされた空一がゆーにゃー『倒産の事実が無い』とゆー点が気になった。」
 「倒産の事実が無い?」
 空一とレイセンは妙な感覚だった。
 「そうじゃ『はあ(もう)一人の空一の世界』では・・・な。」
 「もう一人の俺?じゃあ、あの妙にリアルな記憶が俺の頭の中に入り込んだのは、その『別世界の俺』ってことなのか?」
 空一がそういうと、真空はさらに言う。
 「ここからはわしの推測ではあるが、たぶんは新子ちゃんのナノマシンが起動すると、このペンを仲介しておめーを別世界に存在するおめーに変えてしまうんじゃろうと思っとる。」
 そしてレイセンは『はっ』と気がついたように真空に訪ねる。
 「もしかして、よくSFとかに使われる『並列世界』とかいうやつですか?」
 その言葉を聞いて空一も思い出したようにレイセンに言う。
 「確か・・・この世界はいくつもの分岐で形成されているってやつだったっけ?」
 そして、レイセンは少し考えていう。
 「・・・と言うことは先生、あの改造人間になった空一君はもしかして・・・。」
 レイセンの言葉に真空はうなづいて言う。
 「そうじゃ、たぶんは『秘密結社自然消滅事件が発生しなかった世界の空一』に変身したんじゃろうな、しかも駆除先の地下施設はアクノスの改造人間研究施設じゃったからこそ、簡単に脱出も出来たんじゃろう。あと、ソレに合わせて肉体の傷も回復されたんじゃろうな。」
 そういわれて空一は言う。
 「それじゃあ、新子を改造したのは『アクノス』なのか?」
 空一の質問に真空は言う。
 「まあ、結果は施設の探索をしてもろーとる井原におる奴らの報告次第だな。第一報ではアクノスとの関連性は低そうじゃからな。」


 一方・・・現在、井原にあった地下施設を探索中の方々は。
 「意外に広いと思ってたけど敷地的にはスーパーぐらいの大きさしかなかったみたいね。」
 そう言ったのは神山防獣と提携している『村正自動車修理工場』の長女『村正彩(むさまささい)』である。
 真空から知らせを受けて、妹と他の従業員を引き連れて残留組の地平や水美と共に地下施設の探査を行っていた。
 「お姉ちゃん。スーパーぐらいの敷地だけど倉庫はスーパー並じゃなかったみたいよ。」
 そう言ったのは地平たちを引き連れた妹の『村正宮乃(むらまさくない)』だった。
 「あら、本当?見たところそんな施設があるようには見えなかったけど。」
 彩がそういうと、地平が言う。
 「ああ、どうやら隠し扉みたいなのがあったんだ。水美が見つけてくれなかったら恐らく忘れ去られたままだったな。」
 「まあ、水美ちゃん大手柄じゃなぁい♪」
 「いえいえ〜、くー兄ぃがあの子(新子)と遭遇した場所を〜、じっ〜くり調べてたらぁ〜見つけちゃいましたぁ〜。」
 水美は少しテレながら頭をポリポリ掻いていた。
 「それで、倉庫には何が?」
 彩の言葉に宮乃は真剣な表情で言う。
 「今、ウチの技術者チームが調べてるんだけど、トンでもないシロモノが出てきたみたい。」
 「とんでもない・・・シロモノ?」


 「あれ?引越し業者?」
 空一が見かけたのは、見慣れないトラックが何かを搬送し終えた時だった。
 そのトラックの運転手らしき人間は、星美に『ご利用ありがとうございます!』と一礼するとトラックに乗り込み神山防獣の敷地から離れていってしまった。
 ちなみに、敷地内には神山防獣事務所兼研究所・大型格納庫・神山ファミリー宅・社員寮が存在する。
 余談ではあるが、レイセンはアルバイトなのだが特例で社員寮に住んでいる。
 「母さん、何?あのトラックは。」
 空一の言葉に気がついた星美は当たり前のように答えた。
 「あら?『何』って、家具に決まってるじゃない♪」
 空一は頭をかしげた。
 「家具って、今年は新入社員の予定はないんだろ?それに仮に来たとしても社員寮の空きはないはず・・・」
 「まあまあ、母さんについてきなさい♪」
 そう言って、星美は空一の手をつかんで自宅へと入っていった。
 『神山家自宅2階』主に6つの部屋で構成されており、内の4部屋は真空&星美・空一・地平・水美の個室で編成されている。
 残りの2部屋は故人である真空の父『神山天地(かみやまあまち)』が使用していた部屋と空一部屋の隣にある現在物置状態である空き部屋がある。
 しかし、それは数分前までの話。
 既に空一の知っている部屋の編成情報は星美の手によって最新のものへとアップデートされていた。

 『新子』

 空一の隣にあった物置と化していた部屋のドアに書かれた表札があった。
 「母さん、コレは・・・一体、何の冗談?」
 そう呟いた空一は既に冷や汗をかいていた。
 しかし、星美はそんな空一を尻目に普通に答える。
 「冗談なんてするわけないじゃい。新子ちゃ〜ん♪入るわよ〜♪」
 そう言って、星美はドアを開け空一と一緒に部屋に入り込む。
 『あ・・・。』
 お互い向かい合った状態で新子と空一の声がシンクロする。
 空一の目に映ったのは、いつも見慣れた物置同然の部屋が綺麗に整った女の子向けの部屋に様変わりしていた光景ではなく。
 着替え途中で下着だけの新子の姿だった。
 お互いに言葉が出ない。
 「んもう、空一ったら♪ノックもしないで乙女の部屋に入るなんて♪」
 星美は『あらあら』といった感じで嬉しそうな表情を見せながら言う。
 「母さんだろ!勝手に入り込ませたのは!!」
 思わず目をそらし真っ赤な顔で星美に怒鳴る空一。
 「空一の・・・エッチ」
 上着で上半身を隠し顔を真っ赤にした新子が空一に呟く。
 その言葉に気がついた空一は新子に背を向けて言う。
 「すまない・・・だが、さっさと服は着てくれ。」
 「あ・・・ゴメン、スグに着るね。」
 そう言って、新子はいそいそと服を着替えをはじめた。
 「さあさ、乙女の着替え中に部屋に入ったままなんてマナー違反よ♪」
 「母さん・・・自分が原因作ってて、ソレはないよ・・・。」
 半分呆れた状態で空一は、そそくさと部屋を出てドアを閉めた。
 そして、そのままドア越しに空一は星美に言う。
 「母さん、もしかして本気でその子を?」
 「当然よ、どうやら記憶も戸籍も無いみたいだし保護者がいない以上、私達がこの子を助けてあげないと。それにね、仮に施設とかに預けたとしても・・・貴方も解るでしょ?研究施設で眠ってたと言うことは。」
 星美の言う事は最もだった、研究施設で眠っていた人間が施設に預けられたら・・・。
 特に記憶・戸籍が無いとなれば好都合だ。
 研究材料として、どんな仕打ちをされるかわかったものではない。
 「(確かに、不憫だよな・・・。)」
 「それにあなたとの相部屋には、まだ早いと思っちゃったから♪」
 「母さん・・・それだけはカンベンしてくれ・・・。」
 もしも、相部屋なんかにされていたらと思うと・・・空一にとっては相部屋回避だけは救いと思うしかなかった。

 ─ガチャ
 
 空一がうなだれていた時に、新子の部屋のドアが開いた。
 「空一♪おまたせー♪」
 水美のお古から、新品の赤いセーラー服へ着替えた新子が空一に駆け寄り彼の腕に抱きつく。
 「うーん、私の見立てに狂いは無かったわね♪」
 星美はご満悦。
 「抱きつくな!」
 空一はかなりの困惑気味。
 「空一、これからもヨロシクね♪」
 とりあえず、新子の笑顔と母の意向もあり同居は認めざる終えない空一だった。
 「・・・ああ、解ったよろしくな。」
 『仕方ない』と言った表情で新子に返事をする。
 「それじゃ、これから母さんはちょっとだけ忙しくなるから気分転換にハーネスさんとこまで行ってきたら?地平たちも、そろそろ戻ってきそうだし先に行ってきなさい。」
 「はぁーい♪ねぇ、空一ハーネスさんのところへ連れてって♪」
 元気に返事をした新子はまた空一の腕にしがみつき、空一を引っ張ってゆく。
 「解った!解ったから!引っ張るな!しがみ付くな!とりあえず、お前は年下なんだ『空一』って呼び捨てにしないでくれ。」
 「えー。」
 新子、少々不満気味な返事だったが少々考えて・・・。
 「じゃぁ『くーにいちゃん』!」
 「水美とかぶる」
 「『空兄』!」
 「地平と同じだ。」
 「えーと・・・じゃぁねぇ・・・」
 そう言い合いながら二人は自宅を後にしていった。


 丁度その頃、村正自動車修理工場チームと井原調査チームが戻ってきていた。
 「星美おば様、ただ今戻りました!空一は何処にいます?」
 井原戻ってきた宮乃は出迎えてくれていた星美を見つけるや否や話かけた。
 「お帰り宮乃ちゃん、空一ならハーネスさんの所に行ったわよ。地平たちも行ってらっしゃい。」
 『はぁーい♪』
 そう言って、宮乃・地平・水美はその場を後にしていった。
 「『空一』『空一』って・・・そろそろ、宮乃もお年頃なんだなぁ将輝(しょうてる)君がアレだから空一君に乗り換えるつもりかしら。」
 宮乃達の姿が見えなくなった間際に彩が言う。
 「そういう彩ちゃんも、まだ忘れられないの?」
 星美は書類を眺めつつ、気にした様に彩にたずねる。
 その言葉に彩は、多少寂しそうな表情をする。
 「吹っ切れた・・・と言えば嘘になりますよね。それに、私の場合は片想いでしたし、香多奈さんには敵いませんでしたから。でも、その人はもう・・・。」
 「そうよねぇ・・・確か事故で将君を庇って亡くなられたのよね。」
 「今は、宮乃がうらやましい時もあります。」
 「あら、その宮乃ちゃんも早くしないといけないかもよ?」
 「え?星美さんどういうことですか?」
 彩の問いに星美は『ムッフー!』と笑みを浮かべるのだった。
 星美の笑顔に不思議なものを感じる彩であった。
 「よう、彩ちゃん。戻ってきたのかい?」
 そう言って事務所の出入り口から出てきたのは真空とレイセンであった。
 「ただ今戻りました。おじさま、レイセンさん。」
 彩が真空に軽く頭を下げると、後ろにいたレイセンも声をかける。
 「やあ、彩さん。今回はお疲れでしたね。」
 レイセンも彩に軽く頭を下げる。
 「では、おじさま早速なんですが、先ほどおばさまにお渡ししました報告書を見てください。」
 「おう。」
 真空は星美から報告書を受け取り軽く目を通すと、あるページで止まって震え始めた。
 「レイセン君、今日は残業じゃ。」
 「え?」
 「残業確定じゃ、なんなら出張手当も出す・・・せーから星美。」
 「はい。」
 「すまねーが、大型トラックのレンタルを速攻で手配してくれ。」
 「解ったわ、残業が出来る人や寮住まいの人員もまわした方が良いみたいね。」
 既に報告書に目を通していた星美は、察したように手配の準備をするために事務所へ駆け込んだ。
 「彩ちゃん、わりーがそっちの人員も貸してはくれんか?」
 真空がそう言うと、彩は笑みを浮かべて返事をする。
 「ええ、おじさまがそう言うと思って、実は既に数名を施設に残して準備をしていますわ。」
 その返事で真空はゲラゲラと笑い出す。
 「よし!彩ちゃん!レイセン君!さっさと来い!!面白くなってきた!!」
 そう言って、真空は彩と共に神山防獣号の駐車場へと駆けて行った。
 「ああ、待ってくださいよ!先生〜!」
 レイセンは一歩出遅れて駐車場へと駆けて行った。


 「社長、レンタルトラックの方はOKですよ。」
 事務所で受付の職員が星美に報告をする。
 「はい、ありがとう。みんな!これから忙しくなるから頑張ってくださいね!」
 『はーい!』
 事務所にいる人員全員が大きく返事をすると、星美は笑顔で大きくうなづいた。

 ─ガロロロロロッ!

 丁度、事務所の外から神山防獣号が走り出した音が聞こえた。
 「それじゃ、整備員一同はこれからリースセンターからトラックが来たらすぐに作業に向かってちょうだい!今日の夜食は豪華にしておきますからね♪」
 星美の声が聞こえると、整備員や所員一同の士気が一気に上がるのであった。


 「・・・んで?先生?聞いてます?一体資料に何があったんですか?」
 神山防獣号を運転する真空は有頂天状態で、レイセンの質問には耳に入っていなかった。
 「はい、報告書のコピー。」
 彩は、神山防獣号の中に常設されたパソコンのプリンターからプリントアウトされた報告書をレイセンに手渡す。
 「ありがとう。」
 そう言って、彩から受け取った報告書にレイセンが目を通し始める。
 「地下施設に・・・規格外の巨大ABA!?」
 「そうなのよ、宮乃達が見つけたらしくて、大型格納庫で半分解体・・・もしくは建造中とも考えられるABAらしきロボットがあったのよ。」
 「新子ちゃんといい、ABAらしきロボットといい・・・誰があんな施設を?」
 レイセンがそう呟くと、真空がいきなり口を開き始めた。
 「ソレをけーから調べに行くんだ、わしは是非ともこの目で見てみたい!全高28mの大型ABAを!」




 次回予告
 この世界には悪の組織が存在している!
 勿論、それに対抗する為にヒーローも存在している!
 ついにヒーローが登場だ!
 次回、3.5話『子供の味方!ダークナイト見っ参っ!』

 ─続く!