なんて事無いことで世界は変わる。
 何て事のない道具一つで人の運命が大きく左右される事もあれば、何て事のない他人の言葉一つで人の生き方が変わる。
 何て事のないことで人の運命は変わる。
 何て事のない人の行動が命を奪い、何て事のない出会いで新たなる命を育む。

 世界や運命は、数多の分岐から生まれている。
 一人の天才から変わった世界、一人の愚者から変わった世界、一人の凡人から変わった世界。
 私達がいる世界もその数多の分岐から生まれた世界で生きているのだ。

 この物語は、少年にとっては何て事のない日常から生まれた非日常的な少女との出会いにより、数多の分岐に存在する自分を体感し、数奇な運命をたどり数多の出会いをする事となる少年と少女の物語。



 序章

「何処だ?ここは・・・」
男は、奇妙な空間にいた。
自分がいた世界ではない事は明らかだった、確か自分は境遇の違う仲間達と共に『かの地』へと送り込まれていた筈だった。
そして、彼が仲間達を影ながら支えていた筈だったが、気がつけばいつの間にか全く違う世界に立たされていた・・・いや、立たされているのかすら分からない。

「おい!誰かいないのか!?みんな!」
虚無の空間で『かの地』で出会うはずの人の名を叫んでも返事は無い。

「何なんだ?この世界は!?」
眼前に手をかざすが、手が『無い』。
感覚ではあるはずの手がないのだ、むしろ見えているのかどうかすら分からない。
光も無い、暗闇も無い、自分の姿も無い、方向感覚も無い『何も無い空間』
ただ、そこにあるのは恐らく『自分の意識のみ』だと理解するまで数分は掛かったと男は思う。
いや、この何も無い世界に時間が存在する事すら分からない。
「夢・・・なのか?」
彼が夢と理解しようとした時だった。

「(夢じゃないさ)」

何も無い空間で人の声が聞こえた・・・いや、声らしきイメージが感じ取れた。
「誰だ!?『ジェネレーションキル』か!?」
男は叫ぶ、本来の世界で彼が戦うべき組織の罠に掛かったのかもしれないと感じたのだ。
「(残念ながら、エアフレーンの物語は終了となってしまった。)」
またもや、同じイメージが感じ取れた。
「終了!?どういうことだ!?」
男は、何処にいるかも理解できないイメージへと叫ぶ。
「(だが、この物語は作り変えられている。全く別の物語へと・・・。)」
「物語が作り変えられる?全く別の!?何なんだ一体!?」
男は全く理解出来ない。
イメージが伝える意味が全く理解出来ない。
「(しかし、作り変えられても『お前の役目は変わらない』)」
しかし、イメージは男の意思とは関係なくイメージを伝えてきた。
「『役目は変わらない』・・・と言う事は、まさか!?」
男は、己の持つ正義感を冷静に思い出す。
(そうだ、俺は『かの地』へと旅たった時も自分の正義を必要としていたから、あの意思に呼応したんだ。)
男はイメージに向かい叫ぶ。
「俺の助けが必要な世界なのか!」
しかし、イメージの返事は違っていた。
「(いや、お前の向かう先の物語では『正義の味方として存在』だけしてくれれば良いんだ)」
イメージは少々、申し訳なさそうに答える。
「『正義の味方として存在』だけすれば良い!?」
(全く理解出来ない、正義の味方を必要とせずに『正義の味方として存在』と言う理由で送り込まれるなんて!)
その男の意思を感じ取ったかのように、イメージが伝わる。
「(すまない・・・正しくは、『その時』が来るまで正義の味方として存在欲しいのだ。これは我からの願いであり、お前への『侘び』でもある)」
「『侘び』!?侘びって・・・どういう事なんだ!?」
その質問にイメージは答える。
「(『エアフレーンの物語』で叶えてやれなかった『本当のお前の願い』に対する『侘び』)」
男はイメージが伝えた『本当のお前の願い』・・・と聞いた瞬間だった。
「あの時、俺は・・・。」
そう、男は思い出したのだ
「俺は『かの地』すなわち『エアフレーン』で・・・。」
男の意を決し口を開いた。
「分かった、その物語へ俺を送り込んでくれ。エアフレーンでの『本当の俺の願い』を叶えてくれるのであればな。」
『願いを叶える為に向かう』正義としては不純な理由だったと男は思った。
「(不純じゃないさ『人』として当然の願いだ。正義である以前にお前は人だ。)」
イメージは男の意思を読み取り、その意思が正義としてではなく人として正等性を伝える。
「そうだな・・・今回は素直にそうさせてもらうぜ。」
男は意を決した。
「(さあ、そろそろお前の新しい出番が始まる。頼んだぞガル・・・いや『シルバーナイト』!!)」
そのイメージに押されるように男の姿が形成されてゆく。
虚無の空間で骨格が形成され、内臓が形成され、筋組織が形成され、表皮が覆われ、たくましい青年本来の姿が形成されて行く。
そして、装甲を形成し白銀の戦士が姿を現す。
「おや、かなりデザインが違うな?」
だが、その姿は本来の姿とは異なっていた。
沈黙の後にシルバーナイトは理解した。
「・・・なるほどコレが『その物語』での姿と言うわけか、悪くないかもな。」
そう呟くとシルバーナイトは、いつの間にか形成された光に向かい歩み始める。
「(すまないが頼む・・・我がそう簡単に介入できない世界なのでな・・・。)」
歩み続けるシルバーナイトにイメージが伝わり、シルバーナイトはイメージに返事をする。
「ああ、任せておきな自慢じゃないが約束は必ず守る性質なんでな。」
そして、光が目の前まで来た時シルバーナイトは歩みを止めた。
「(どうした?)」
シルバーナイトにイメージが伝わる。
「いや・・・あんたの名前、まだ聞いてなかったな『誰』なんだ?」
その言葉にイメージはシルバーナイトに言葉ではなく脳内に直接答える。
「(・・・)」
「そうか・・・まあ、名前を聞いた所で顔が分からなけりゃ無意味だったな。」
シルバーナイトは仮面の下で笑みを浮かべていた。
「(いつか出会える時は、直感で分かると思うさ・・・。)」
「まあ、そのときを楽しみにしておくぜ。」
そう言って、シルバーナイトは光の中へと飛び込んだ。


そして、舞台は異世界岡山県倉敷市20××年3月15日へ・・・。