後編
さて、あれからアレクシムの後をついて行った私だったが、今は何故か喫茶店でフルーツパフェなどをつついている。
そして何故か目の前にアレクシムが・・・
「なんであんたがここにいるのよ!」
アレクシムが私に怒鳴った。
「えっ? 偶然じゃないんですか?」
「あのね、じゃあなんで私の目の前に座るのよ!」
「そんなの私の勝手です〜」
そう言ってスパ−ンを口にすべりこませる私。
「アレクさん、コーヒー飲むんですね?」
ああ言った悪の組織の幹部ともなると、何を食べるのだろうと期待したのだが、なんてことはなく、普通のコーヒーである。しかもブラック。
「そーよ、だいたいはコーヒーよ」
「やっぱり、お茶くみの人とかいるんですか?」
「事務所ではね」
事務所!? 私はクリームを吐き出しそうになる衝動をすんでで止めた。
「私はコーヒー、ヒッサーは梅昆布茶、ジャークはチャイ(インドのお茶)フロイラインDはアロエジュース、んでシャドーレッドが・・・」
私はふむふむとアレクシムに身を寄せる。何かみんな平凡で変な感じ・・・でもアレだ、あの赤い覆面の変な人なら、何か生き血とか・・・
「ちるみる」
ぶっ!
私は思わず吹き出してしまった。あの顔でちるみる・・・
「またはマミーしか飲まないわね」
ぶっ!?
「汚いわねぇ・・・」
「ぶははははははははは、だって・・・だってぇ、あはははははは!!!!!」
私はツボに入ってしまい、お腹を抱えて笑い出してしまう。止めようと思っても止められない。
「アイツ専用に箱買いしてあんのよ」
や、やめてぇぇぇ!!!
私は声にならない悲鳴を上げる。
「そうそう後ね、アイツの胸のポケットには、いつも・・・」
アレクシムはとどめとばかりに口を開いた。
「グリコが1ダース」
「ちょっと大丈夫?」
あの後、15分ほど大笑いしたあげく、酸素不足で死にそうになったので、今、アレクシムが私の背中をさすってくれている。
「はぁ・・・はあっ・・・なんとか落ちついた・・・」
「ちるみる」
「ぶっ」
なんてやりとりを繰り返しているうちに、すっかりアレクシムとなじんでしまった。この人、少なくとも紐緒さんとかよりは良い人だと思う。
「そういや、いつものあの格好、寒くないんですか?」
いつもの格好というのは、アレクシムの帽子とブリーフだけの変態ちっくなアレである。
「いつもは肌が緑っぽいでしょ? アレで完全防備になってんのよ」
「地は肌色なんですね」
多分、東洋人(笑)
「あたりまえよ、あんた私の事なんだと思ってんのよ」
悪の変態幹部。と即座に答えたかったが、さすがにやめた。
「あはは・・・えーっと、恥ずかしくないんですか?」
「仕事だしねぇ・・・ヒッサーなんて、普段は地味よ〜、眼鏡とかかけて。子供が一人いて、亭主は死んじゃったんだって・・・親子2人生きてく為には、こんな仕事でもしなきゃねぇ」
なんかもうノリがどっかのホステスなんですけど・・・
「ヒッサーって、すっぴんだと誰か分からないのよね。でもいい子よ」
「な、仲とかいいんですか?」
普段見てると、仲とか悪そうだけど・・・
「あの子とはね。たまに作ってくる差し入れの肉じゃがとかおいしいのよ」
・・・肉じゃが・・・なんだろう・・・オンディーヌの人達よりずっと普通だ・・・
そのあと、『ジャークはトイレが長い』とか『フロイラインDの部屋には熊のヌイグルミがところせましと置いてある』とか、実りの全然ないが、何か面白い話を延々と聞かせてくれた。
「私は脱サラだし」
「はっ!?」
「前は貿易会社に勤めてたのよ」
うはぁ・・・普通だ・・・
「そしたら、実は滅亡した王国の王の末裔だったのよ」
「はあ・・・」
「仕方ないんで、会社やめて、カミさんと娘連れて・・・」
「お、奥さんがいらっしゃる!?」
オカマなのに!?
「そうよ、写真見る?」
そう言って内ポケットから出した写真には、奥さんと子供さん(娘2人)が仲むつまじく写っていた。背景からするに伊勢神宮のようだ。
驚いたのは奥さん美人。そして娘さん達も奥さんに似て、器量良しである。後は七三分けで黒ぶち眼鏡のアレクシム・・・
やばい・・・突っ込む所だらけだ・・・
「そう言えば、ここ最近は活動してないですよね? ゴルディバス軍」
私は写真を返して、聞いてみた。
「社員旅行でね、伊豆の方に3泊4日」
うはあっ!? そう来たか! でもなんで伊豆なんだろう・・・
「よかったわよ温泉。んで私は、使ってない有給を処理しろって仰せでね」
有給とかあるのね・・・でもゴルディバス軍の面々が伊豆の温泉旅館で、温泉につかったり、宴会している図は、さすがに想像できない・・・
「あと、ね・・・結婚記念日が今日なのよ」
「誰の!?」
「私のよ。結婚10年目・・・宝石ってのもアレだしねぇ・・・」
いい夫だなぁ・・・近頃のオヤジに見習わせてやりたい・・・
「そうだ、ちょうどいいわ」
「へっ?」
さて、喫茶店を出た私は今、デパートの2階、婦人服売り場にいる。
あの後、女性の好みは女性に、あんた付き合いなさいという展開になり、アレクシムと女性用の服を見ている。
「カミさんは、あんたより・・・そういや、あんたの名前は?」
あっ、そういや自己紹介してないや。
「チェンミンです。ブライトの娘じゃありません」
「誰よブライトって?」
「知りません? 弾幕薄いぞ、なにやってんの〜って・・・」
「何それ?」
「いや・・・いいんです別に」
「あ、そう、うちのカミさんはあんたより少し背が高いくらいね。んで胸がもう少し大きくて、腰がしまってるの」
うあ、なんかムカツク。のろけかよ。とか思ったが、さっきの写真見てる限りでは、かなりのないすばでぃ〜、だ。
「じゃあ、ドレスとかの方がいいですかね?」
「うちのカミさん、そう言うのあんまし着ないからね、だからたまにはね」
さっき聞いてたら、薔薇の花束を予約してあるらしい。かなりの愛妻家のようだ。しかし奥さん、普段ご主人がどんな格好で何してるのか知ってるのだろうか?
「着物とかどうです?」
「それもいいかも。うちのカミさんはなんでも着こなすから・・・」
うちのカミさんて、あんたはコロンボか! とか言うツッコミも入れたかったが、さすがにやめておいた。
「ありがと、助かったわ」
夕方。黒いドレスのしまってある箱を抱えたアレクシムが私にお礼を言った。
「いえいえ、早く帰ってあげてください」
多分、食卓には奥さんのお手製のご馳走が、テーブルに所狭しと並べてあるんだろうななどと思いつつ、私はアレクシムに手を振る。
「そうね・・・でも勘違いしないでね、戦場であったら容赦はしないからね」
アレクシムはそう言って、私に背を向けた。
瞬間、私の腕の通信機からエマージェンシーコールが届いた。
『チェンミン、聞こえる?』
通信機を開くと、画面にケイさんの顔が現れる。
「あれ? 何かあったんですか?」
『あなたのいる街のすぐ近くに、ゴルディバス軍のガムダが現れたわ』
・・・ガムダ?
「ガムダって・・・」
『ゴルディバス軍のアレクシムと言う幹部の操る巨人要塞よ』
・・・もしかして・・・
『急いで退避してね。もう切るわよ、エマージェンシーコールだからこれ以上はつなげられないの。アムリッタ中尉と合流して、合流場所は座礁28・…』
ケイさんは合流座標だけ言うと、通信を切った。
そして私の目の前に、ビルをなぎ倒しながら歩いてくる、巨人宮殿ガムダの姿が・・・
そうか・・・巨人宮殿・・・あそこがおうちか!?
違うよアレクさん! 早く帰れとは言ったけど、家ごと来なくても!
そして私の背後から、キカイオー、バンガイオー、グルンガストが飛んで行った。
「あっ・・・」
一瞬のうちにタコ殴りにされて行くガムダ。
ダメだよアレクさん! そんな防御も出来ない、ファイナナルアタックカモンマシンじゃ・・・
そして、ほどなくして、巨人宮殿ガムダは、轟音とともに大爆発を起こした。
「アレクさぁー−−−−−−ん!!!!」
夕日の照らす中、私は空に向かって叫んだ。
「休日はどうだった? チェンミン」
ケイさんが私に話しかけて来た。
あの後、近くの交番で迷子になって泣きべそをかいていたアムリッタさんとともに回収され、次の日は自分の部屋を片付けて、私の休日は終った。
「そうですねぇ・・・面白かったと言うか何と言うか・・・」
「?、それじゃ、またしばらくがんばってね、はい」
ケイさんが私に通信機を渡す。これで私の休日は完全に終わりとなった。
今回の休日で、悟った事がある。それは・・・
「敵も味方も変な人ばっかり」
合唱。
終り。