第四十話 『父との絆! 合体攻撃グラヴィトンブレイザー!!(後編)』
「ふ・・・反応速度がアハツェンと互角だと? そうか・・・貴様も人機融合の類か・・・」
パルシオンに殴り続けられながらもアハツェンは冷静だった。 殴られつつもきちんとガードしているし、この短い間にパルシオンを分析していたのだ。
「どうりで運動性はアハツェンより上だと解析が出るわけだ・・・。 どうやら人機融合と言うことに関してはそちらの方が一枚上手のようだな? だがな・・・」
ガシィッ!!──アハツェンの右腕がパルシオンの首を掴んだ。
「パワーと装甲ではこちらが上よ! 掴んでしまえばこちらの勝ちだ!!」
そのままパルシオンの首を掴んだまま立ち上がるアハツェン。 装甲にややダメージが見られるが、目立った外傷は無い。 恐るべき装甲だ。
そして、そのままパルシオンを掴んだまま、ボロンめがけて投げつけた。 パルシオンそのものを武器として投げつけられたのだ。 耐久力に自信の有るボロンもたまったものではない。
「ああああ!!!」
「きゃわわわわ!!」
悲鳴を上げるケイとポリン。 しかもボロンはそのボディの基礎となったガスタンクの丸さが災いして、そのままゴロゴロと転がってゆく。
「ポリンちゃん!?」
転がってゆくボロンがシェバトの頭頂部から転げ落ちようとした。 シェバトの高度は数千メートル。 いくら頑丈なボロンでも、ここから落ちればひとたまりも無い。
ガシッ!──転げ落ちる寸前のボロンをパルシオンが掴みとめた! シェバト外縁から宙ぶらりんの状態をパルシオンが右手一本で支えていた。 だがそれが精一杯の状態だ。
「ふ・・・お前達はそこで仲間がシェバトごと葬られるのを見ているがいい!」
トドメを刺すよりも屈辱を与えたほうが面白いと考えたのだろう。 パルシオンとボロンを無視してシェバトに目標を変更しなおす。
「まずいな・・・。 他の連中が動けるようになるまで15分以上はある・・・。」
万事休すか・・・。 フェイがこぶしを握り締める。 あせりは禁物とはいえ、この状況では・・・
「そうとも言えませんよ。 あのアハツェンはゼプツェンの兄弟機。 ならばゼプツェンなら、あのジャマーに対する機能があってもおかしくありません。」
シタンの言葉にその場にいた全員がマリアのほうへ向く。 だがマリアは後ろを向き俯き何も応えようとしない。
「お聞きなさいマリア。 他のロボットがうごけないとなれば、お前とゼプツェンが頼みの綱です。
お前には酷ですが・・・どうするかは貴方で決めなさい。」
女王の言葉にもマリアは答えない。 当然と言えば当然だ。 最愛の・・・実の父が乗っているかもしれないギアと戦えと言っているのだから。 わずか13歳の少女に即決を求めるのは酷過ぎる。 だが事態はそんなことは関係なく進んでいく。
「それにさ・・・。 あそこにいるロボット・・・あんなふうになっちゃったんなら、もうお前の父ちゃんでもなんでもないんじゃ・・・」
その場にいる大地が言うと、マリアが大地をにらみつけた。
「やめて!知った風な口を聞かないで!!」
マリアの叫びに一瞬、ひるんだ大地だが負けずに言い返す。
「な・・・なんだよ・・・本当じゃんか! じゃあさ!お前の父ちゃんはあんな風に物を壊したり、みんなを酷い目にあわすのか! 悪いことをしたらしかったりすんのがとうちゃんかあちゃんの役目だろ! おれの死んだかあちゃんは、悪いことしたら目いっぱい怒るんだぞ!」
大地の言葉にマリアは、はっ!として次の言葉が出てこなくなった。
「もしあれがお前のとうちゃんなら、お前がしかってやればいいじゃんか! どうしてしないんだよ!! 俺は・・・俺と姉ちゃんは叱って欲しくても、もうかあちゃんいないんだぞ!」
いつしか大地は泣いていた。 ウッウッウ・・・と涙で張らせた顔をゴシゴシこすっていた。 その大地の肩にリュウセイがぽんと手を置いた。
「マリア・・・俺は親父を亡くした。 だがよ・・・死んだ親父のことはしっかり覚えてる。 親父はどんなことがあっても俺やお袋を悲しませたり困らせたことは、死んだとき以外一度もねえ。」
リュウセイはしゃがみこみ、マリアと同じ目線で話しかけた。
「俺はお前の親父がどんな人間かはしらねえ。 だがよ、お前がそんなに思うぐらいなら、お前の親父も立派な誇れる親父なんだろう? なら・・・その誇れる親父が、あそこにいる悪いやつと思えるのか?」
リュウセイの言葉にマリアは目線をそらし俯いてしまった。
「たとえ・・・たとえそうでも・・・・わたしには・・・ごめんなさい。」
その様子に大地が「お前っ!!」と手を振り上げて駆け寄ろうとしたのをリュウセイがとめる。
「やめろ大地!やめるんだ!!」
「だけどよリュウセイさん! こいつ・・・コイツ!!」
だがマリアは応えない・・・・
「しゃあねえな。 ま、腹を決めるか。」
ジェサイアが諦めたような軽口を叩いたときだった。
「チュチュがいくでチュよ。」
その声の主は、バルトの従姉妹、マルーが連れていた怪生物(?)、ソラリスが生体兵器制作ならびに先史文明復活の際に、実験目的で復活繁殖させられた先史文明次代に存在していた生物『ウィーキー族』。 言うなれば『直立二足歩行する耳のでかいピンク色のハムスター』のチュチュであった。
チュチュの突然の発言に皆が驚いた。
「何を言ってるのチュチュ!!」
「だってこのままじゃみんなやられちゃうでチュよ。
へっちゃらでチュよ。 ちゃんと守り神様が見てくれているでチュ。」
チュチュの言う守り神・・・・チュチュ達ウィーキー族が存在していた先史文明の時代。 ウィーキー族が外敵からの進攻により一度滅亡の危機に瀕したと言う。
だがウィーキー族の神が力を与え、一部のウィーキー族は巨大化し、外敵を打ち滅ぼしたと言う。
ソラリスによって、現代に蘇った少数のウィーキー族は破棄処分寸前のところをシェバトに助けられたが、シェバトの救出が及ばなかった者達は、チュチュのようにぬいぐるみ等に擬態することによってソラリスより脱出、世界各地に潜伏していると言う。
そんな現代世界には居場所が無いと言ってもよいウィーキー族だが、彼らは守り神の存在を信じ、今の世を生きてきたと言う。
彼らのたくましさの一因にはそれも影響しているのかもしれない。
「チュチュ行くでチュ。」
そう言って、女王の間から飛び出していくチュチュ。 走るというより跳ね転がる・・・といった感じだが、そのスピードはえらく速かった。 もしかしたらソラリスから脱出できたのも、あのスピードが影響しているのかも・・・と、フェイは思った。
「チュチュ!!」
呼び止めてももう遅い。 マリアはたまらず後を追うため駆け出した。 自分が決断力が無いばかりに、あんなマスコット的なチュチュまで危険な戦場へ向かわせたことが耐えられなかったからだ。
「ハハハ!!意外と頑丈だな。」
動けなくなったオンディーヌ隊のロボットたちを一方的に痛めつけるアハツェン。 頑丈とか言いながらわざと小威力の火器ばかり使用しているのが嫌味ったらしかった。
「安心しろ。 完全には破壊せん。お前達のロボットはいい研究材料だからな。 行動不能にした後、回収して新たなギアを制作するためのサンプルにしてやる。嬉しいだろ?」
そう言いながら、足元に横たわるR−2を蹴飛ばす。 中にいるライはたまったものではない。
「TDFのパーソナルトルーパー・・・・む?面白いエネルギー反応を見せているな。 どれ・・・」
そう言って動かないR−2を片手で持ち上げるアハツェン。 何かじっくりと観察しているようなそぶりを見せている。 恐らくR−2の動力源であるトロニウムエンジンの事を言っているのだろう。 SRXに合体した際、R−2は出力系をつかさどる胴体部を構成する。 そこにアハツェンの興味がいったのだろう。
「これは面白い。 ぜひもって帰るべきだな。 だが・・・パイロットはいらんな。 見れば初歩的な人機融合ではないか・・・」
ライの左手のことを言っているのだろう。
「パイロット、聞こえているか? どうだ、ソラリスに来ないか?この機体を手土産にすれば決して悪いようにはしないぞ。 それにそんなチャチな義手ではなく、もっと完全に機械の身体を与えてやれるぞ?」
だが・・・ライの返答は決まっていた。
「断る! 俺の義手は自分に対しての戒めだ。 それにR−2のシートは俺のものだ。貴様にはわたせん! 人間を・・・人間を古臭い家柄だ、家系だ、選民だ、などで物のように選別するソラリスなどにはな!」
ライはブランシュタイン家という名家の生まれ。 だが家柄やプライド、メンツにこだわり、手段のためならば愛する妻さえ手をかける・・・そんな古い体質はライがもっとも忌み嫌うものであった。 だが、その言葉はアハツェンの怒りを買う。 R−2を握り締めているアハツェンの手に力が入る。 メキメキという音と共にR−2の頭部がひび割れていく。
「この状態でそこまでほざくとはな。 いい話だったのにな。 まあいい、パイロットだけ殺して機体はいただくぞ。」
「やめるでチュ!!」
その場に割ってはいる声。 アハツェンが声の主を探す・・・・いた。 シェバトの頭頂部に大きさ1mほどのピンク色のふさふさした毛をした妙な生物。
「だめよチュチュ! いけない!」
頭頂部そばの展望台からマリアがチュチュに向かって叫ぶ。 だがチュチュはR−2を捕まえたままのアハツェンの足元にまで入り込んでしまっている。 いつ踏み潰されてもおかしくない状況だ。
「大丈夫でチュよマリアしゃん。 まかせてくださいでチュ!」
「なんだ・・・。この天文学的に知能の低そうな下等生物は・・・?」
アハツェンの言葉にチュチュは気分を害したようだ。 ぴょこぴょこと跳ね回り反論。
「失礼しちゃうでチュねぇ。 下等生物じゃないでチュ。 チュチュでチュよ。」
そういった後、チュチュは大きく息を吸い込んだ後、両腕を羽根のように上下に動かし叫んだ。
「さあ、ほいじゃあ行くでチュよ、ワル玉しゃん!
このチュチュしゃまが、お空の向こうへちゅらり〜んと、ぶっ飛ばしてやるでチュから、カクゴするでチュよお!!」
次の瞬間、チュチュの身体からピンク色の陽炎のようなものが揺らぎ始め、その中でチュチュの身体に異変が起こっていた。
両腕の上下運動は変わる事は無いものの、徐々に・・・徐々にチュチュの身体がムクムクと膨らんでいった・・・
「な・・・何が・・・?」
状況を見守るしかないフェイ達も呆然とチュチュの異変を見ていることしか出来なかった。 ピンク色の陽炎の中で膨らむチュチュ・・・
否! 膨らんでいるのではない。 チュチュそのものが大きく巨大化しているのだ。 そして・・・十数秒と経たない間に、チュチュの身体はアハツェンと殆ど同じ大きさまでに至っていた。
「うきゃっ、やったでチュ〜。 でかでか変身できまチュた〜!」
その大きさは17〜8m。 十二分にアハツェンと渡り合える大きさだ。 その姿に全員が目を見張る。
「さあ、ライしゃんを放すでチュよ。 話によるとあーるちゅ〜(R−2と言いたいらしい)には、トロチュウムエンジン(トロニウムエンジンと言いたいらしい)って言うお寿司にすると美味チュそうな名前のエンジンがチュんであるから、渡せないでチュ〜!」
そう言ってアハツェンの返答を待たずに突っ込むチュチュ。 いきなり右手を振りかざしアハツェンの顔を引っぱたくと、突然後ろを向きそのままヒップアタック!!
同サイズならば、機械と生物では運動力・質量ともに生物のほうが上。 チュチュのヒップアタックを浴び、アハツェンが仰向けに転倒。 その勢いでR−2を手放してしまった。 アハツェンより重いチュチュ一体分の運動エネルギーは、そのままアハツェンを倒すだけには飽き足らず、R−2まで跳ね飛ばしてしまった。 そのままシェバトの外縁まで跳ね飛ばされていくR−2。
「このままでは・・・」
滑り落ちていくR−2。 外縁部まであとわずか・・・だが動けないR−2に成す術なし。 そのまま落ちていくと思われた・・・・が。
がくんっ! 外縁から放り出され地上まで真っ逆さま・・・であったライだが、急激なショックに周りを見渡した。
「ギリギリセ〜フ〜」
ライがモニターを確認すれば、パルシオンに片手で支えられているボロンが目一杯右腕を伸ばし、R−2を捕まえてくれていた。
「ありがとう。助かった。」
「お礼はプリンアラモードでね。」
ポリンの言葉に口元が緩むライ。
「それより・・・かなり重いんだけど・・・」
ボロンとR−2二体分の質量を支えているパルシオンが苦笑しながらこらえていた。
「低級な下等生物の割にはよくやるな。」
アハツェンがなかばチュチュを認めるような台詞を放つ。 R−2を跳ね飛ばしてから、チュチュとアハツェンは五部の戦いをしていたのだ。
ちょこまか動くチュチュにアハツェンは火器の狙いがつけられず、自慢の大口径砲を封じられたと同じだった。 反応速度の速さと運動性でチュチュと戦うしかなかった。
だが、質量と運動性の差からなかなかチュチュに有効な打撃を与えられなかった。 おまけに組み合いでもしたらチュチュの体毛が抜け、関節に入り込んで動きが妨げられるのだ。
また、この体毛が強固な鎧の役割を果たし、機銃弾程度ならば十二分に防ぎきり、肉体まで弾丸が到達しないのだ。
「下等生物じゃないでチュ。チュチュでチュよ。 負け惜しみはやめるでチュ。あやまるならいまのうちでチュよ。」
優位に立ってると思い込み、調子に乗るチュチュ。 だが彼女には解っていなかった。 確かに運動力・質量はチュチュのほうが上だ。 だがパワーと装甲では向こうのほうが明らかに上なのだ。
チュチュの攻撃は、分厚い装甲にさえぎられ対した威力は与えていないのだ。 質量を生かしたヒップアタックで跳ね飛ばし、内部に衝撃を与えてもそこはアハツェン、十分に許容範囲内と判断していた。
つまり・・・両者共に相手に有効打を与えていないのだ。 ここまでは・・・
「ばかめ・・・・しねっ!!」
調子に乗って動きを止めたチュチュの隙を狙って、アハツェンが右手の大口径砲を放つ。 ドォン!!という轟音ととも発射された砲弾はチュチュの胴体に命中した。
「あいたたた・・・・痛かったでチュ〜。」
と泣き、痛むおなかをさするチュチュ。 巨大化したチュチュの耐久力はアハツェンの砲撃すら耐え得る力があったのだ。 しかし致命傷ではないがおなかを押さえ泣くチュチュ。 誰が見ても戦闘の続行は不可能だった。
「なるほど・・・。おまえ、先史文明時代の巨大生物だな・・・
ランカー(恐竜に酷似した生物)の幼体・・・・じゃないな。
学術名ドデスカチュチュポリン(知能レベル:天文学的に低い)か! ソラリスが実験目的で復活させたやつの生き残りか。
しかし・・・遺伝子操作で小型軽量化されていたはずだが・・・。 シェバトの賢者どもにリミッターを外されていたヤツか。
面白い・・・。 モルモットとして再確認すべき生体だ。 いろいろと実験してやろう!」
痛みが引かず今だうずくまって動けないチュチュを面白そうに眺め、何か考えているようなアハツェン。 マリアは展望台からそれを見ていることしか出来ない。
そして・・・・女王の間で見ていたフェイ達も・・・。
「チュチュがやられた・・・もうどうすることもできないのか!?」
フェイが悔しがりモニターを睨む。 そのフェイの気持ちは皆痛いほど解っていた。 だがジャマーの影響下にある以上、こちらにはどうしようもなかった。 せめて・・・マリアがゼプツェンを出しくれれれば・・・
そんな時だった。 兵士の一人が女王の間に飛び込んできた。 その兵士はシェバトの対空レーダー監視員だった。
「女王!大変です!」
「落ち着きなさい。 何が起きたのです?」
「あ・・はい! 地上から・・・地上からものすごいスピードでこちらに向け、上昇してくる飛行物体をレーダーが確認しました!!」
「なんですって!?」
それはシェバトの人間には信じられないことだった。 シェバトの有るバベルタワーは、気流が不安定で並の飛行物体が飛行することは不可能なのだ。 また人的災害に弱いということもあり、飛行抑止のためジャミングまで放出しているのだ。 ソラリスの連中のようにシェバトと同系列のテクノロジーでも持ってない限り、飛行物体での接近は不可能なのだ。
「敵の増援か!?」
フェイが尋ねると兵士は「解りません」と答えた。
「なにせ・・・計測不明で、しかも解析不能のエネルギーの反応を示している物体です。 解っているのは数が1という事だけです。」
「計測も解析も出来ない未知のエネルギー反応? いったい・・・」
怪訝な顔の女王とは打って変わって、フェイ達は「まさか・・・」「いや絶対そうだぜ」「確かに彼しか考えられません」と言い合っていた。
「心当たりがあるのですか?」
女王の問いにリュウセイが笑みを浮かべた。
「援軍到着だ! しかもとてつもないヤツだ!」
「さて・・・破壊ついでに持ち帰るものが多くなりそうだな。 どれ輸送部隊でも手配するか・・・」
いまだ動けないオンディーヌ隊とチュチュを見て、アハツェンが値踏みするように見渡して言った。 機械の身体となっても未知への探求は失われていないようだ。
「どれ、持ち帰りやすいようにコンパクトにするか。」
ガコン・・・右手の大口径砲を構えたときであった。
「!? なんだ!この反応は!?
・・・・・・・・・計測不能!? そんな・・・まったくの未知!? いかん処理が追いつかん!このアハツェンの解析能力が及ばないだと!? なんだ!この反応は!?」
突然アハツェンが動きを止め周りをあわただしく見渡し始めた。 まるで何かを探しているように・・・
そして・・・それは現れた。
「キカイオー参ッ上ぉぉぉっ!!」
バシュっ!!と、雲をつきぬけ、シェバトの頭頂部へ姿を現した解析不能のエネルギーの持ち主。 これこそ、このロボットこそ、オンディーヌ隊最強戦力の呼び名も高い、鋼鉄巨神キカイオーの勇姿であった!!
「いや〜、ここまで飛んでくるの大変だったぜ。 半日以上掛っちまった。 あれ?なんでみんな寝てるんだ?」
頭頂部に降り立つキカイオー。 乗っているジュンペイは、何事かと周囲を見渡す。
「お前・・・キカイオー動けるのか? いや・・・それよかどうやって飛んできたんだ!?」
ちょうど足元に倒れてるバルトが呼びかけた。 このシェバトに通ずるバベルタワーは、シェバト・ソラリス系の技術を持っていないと飛行不可能と言うのに・・・
「ああ・・・それなんだけどよ。 ラムサスと一緒に海ン中落っこちた後、『もうめんどくせえ!』って、飛んだら、普通に飛べたんだよ。 多少時間掛ったけどさ。」
「め・・・めんどくさい・・・それだけでの理由で飛んできた・・・飛んだ・・・あのロボットは一体・・・」
女王が何か訴えるようにフェイたちを見つめた。 それに対してリュウセイは満面の笑みを浮かべた。
「ウチの最強ロボだぜ! キカイオーに小難しい理屈や仕掛けは通じないんだよ。」
「そんな・・・」と言葉を失う女王。 だがシタンが眼鏡を押さえながら「それが・・・あのキカイオーというロボットの強さなんですよ」とだけ答えた。
「それよか、なんかずいぶんピンチみたいだけどさ。 どうした?」
ジュンペイがあまりにも平然と言うので、バルトは多少怒りを感じながらも、今このシェバトがソラリスの新型ギアに襲われてピンチな事、その新型ギア『アハツェン』の妨害装置によって、ロボットがパルシオンとボロン以外はみんな動けないと言うことを伝えた。
「そうか。よし解った。 後は俺に任せておきな。」
ジュンペイはそう答えると、まずは片腕一本でボロンとR−2を支えているパルシオンを助けることにした。 目の前に立つアハツェンをまるでいないかのように無視して、アハツェンの前を横切り、外縁部で苦しんでいるパルシオンの元へ歩んだ。
「な!? ・・・・・貴様、私を無視するか・・・」
機械と化していても怒りは感じるようだ。 アハツェンが自分に背を向け、パルシオンに手を貸してボロンとR−2を引き上げるキカイオーに向け、大口径砲を構えた。
「うかつに敵に背を向けるかっ!!」
ドオン・・・・アハツェンの放った砲弾がキカイオーに迫る! だがキカイオーは振り向きもせず、砲弾が飛んでくるほうに腕を向けただけだ。
ドカァァン!!──激しい爆発音はした・・・。 だがアハツェンは自分の目を疑った。 アハツェンの砲弾をキカイオーは片手で、しかも手のひらだけで防ぎぎったのだ。
「あぶね〜じゃねえか。 なにすんだよ!」
「き・・・貴様、私を何だと思ってる。 ・・・・しかし、恐るべき耐久力・・・。」
「何って仲間助けるのが先だろ! お前の相手はそれからだ!」
そう言って、ボロンとR−2を引きずり上げたキカイオー
「ああ・・・ジュンペイ君、やっぱりポリンのことを・・・」
「だあ〜!! 勘違いすんじゃねえ! お前が落ちたらライまで落ちるから仕方なくだなぁ・・・」
「もう、てれちゃってぇ。」
「てれてねえ!」
バスンバスン!! いい加減堪忍袋の尾が切れたのか、大口径砲を撃ちまくるアハツェン。 これにはキカイオーは無事でも、他の皆は溜まったものではない。
「ケイさんとポリンは他のみんなを頼む! あの新型は俺が相手をする!!」
「解ったわ、ジュンペイ君!」
「ポリン!ちゃんとケイさんの言うこと聞けよ!」
「む〜・・・・。 ジュンペイ君が言うなら・・・」
しぶしぶ了承するポリン。 不承不承ながら動けないR−2を右手のパワーショベルで引きずっていく。
「さて!俺様が相手になってやる! よくも仲間を酷い目に合わせたな!! 覚悟しやがれ!!」
「解析不能の未知のエネルギー・・・。 アハツェンの砲撃を易々受け止める頑強さ・・・。 サイコジャマーを寄せ付けない防御システム・・・。 実に素晴らしいぞ。 その力何としてもいただく!」
「やれるもんならやってみろ! キカイオーは無敵なんだっ!!」
バッ!!と、両者は真正面から相撲のように立ち会った。 ガッシャアアアアンと両者肩から相手にぶつかっていく。 だが両者とも飛ばされない。 そのまま組み合い力比べとなる。
「やるじゃねえか! キカイオーのタックルを真正面から受け止めて吹き飛ばなかったのは、お前が初めてだ!!」
「お褒めに預かり光栄だ。 このロボット・・・キカイオーとかいったな。 データにあったぞ。鋼鉄巨神の異名を持つ『史上最強のロボット』と称されるほどとな!」
キカイオーと力比べをしながらアハツェンは喜んでいるような口ぶりだ。
「ますます欲しくなったぞ。 そのシステム!じっくり分析した後アハツェンに組み込んでくれる。」
「じっちゃんのキカイオーは最強だ! 貴様なんかにキカイオーが解るのものか!」
「すごい・・・・アハツェンと五部以上に渡り合えるなんて・・・・」
展望台でマリアは一人、キカイオーとアハツェンの戦いを見つめていた。
すごい・・・なんてすごいロボットなんだろう・・・と、大きさ・体格共にアハツェンよりも劣るのにまったく力負けしていない。 そればかりか強力なアハツェンの火器が殆ど通用していないのも。
それよりもマリアが感じたのは、キカイオーの戦う姿から感じられる気迫というか、闘志というべきものだった。 どんな相手に対しても真っ向からぶつかり合う。 相手がどんな策を講じてもひるまず恐れず、正々堂々と真っ向勝負。
どうしてアハツェンのように色々なシステムを積んだ未知数の相手にああも恐れも感じず戦えるのだろう・・・と。
怖くは無いのだろうか? 怖気づくことは無いのだろうか? 未知の敵と戦うことに不安は無いのだろうか? そんな事ばかりが頭をよぎる。
「どうして・・・ああも戦えるの・・・?」
「それは、彼が・・・ジュンペイ君がキカイオーを信じているからです。」
いつの間にか、マリアのいる展望台にシタンとリュウセイが来ていた。
「キカイオーを信じている?」
シタンは頷いた。
「ジュンペイ君の戦うときの口癖は・・・『キカイオーは無敵だ!』なんですよ・・・そうでしたね?リュウセイ少尉。」
「ああ、いっつも言ってるぜ。 俺のキカイオーは無敵だ!とかじっちゃんの作ったキカイオーは最強だぜ!とかな。」
「・・・・・」
「マリア。 ジュンペイ君は、事故で両親を失っているそうです。 そしてただ一人の肉親であったお爺さんもゴルディバス軍の攻撃で亡くなられたそうです。 そのお爺さんがジュンペイ君に遺したのが、あのキカイオーなんです。」
黙ったままキカイオーを見つめるマリア。 自分と似たような境遇・・・それでもマリアには動く気にはなれなかった。 それを察してかシタンは言葉を続けた。
「ジュンペイ君にとっては、キカイオーは家族と同じなんです。 その家族を信じているからこそ、ああも果敢に戦えるんです。 キカイオーが最強の名を轟かせているのは、何もキカイオーの性能だけではない。 ジュンペイ君が心の底からキカイオーを信じているからこそ、キカイオーはその力を思う存分引き出しているから強いんです。 それは、貴方も同じ・・・違いますか?」
「ゼプツェン・・・私の家族・・・信じる・・・」
「お姉ちゃん・・・」
ふいにマリアのスカートが軽く引っ張られた。 見ればそこには4〜5歳の幼い女の子がいた。
その女の子は、この場にいるシタンの一人娘『ミドリ・ウズキ』である。
フェイとシタンが住み慣れた村を離れる際に、母親と一緒にこのシェバトへ避難していたのだ。
「み!ミドリちゃん! ダメよこんな所に来ちゃ!!」
「そうですよミドリ! すぐに・・・いや、私が・・・」
シタンが愛する娘をこんな戦場にいさせるべきではないと、ミドリを抱え上げようとしたとき、ミドリはマリアに向かって口を開いた。
「・・・呼んでる・・・お父さん。」
「え?」
マリアはその言葉にキカイオーと戦っているアハツェンの方を向いたが、ミドリは首を横に振っている。
「ううん。 違う・・・。 あそこにいるの怖いほうじゃない・・・」
マリアはその言葉に感づいた。 父親が呼んでいる・・・しかしアハツェンではない・・・と、なれば導き出される答えはひとつしかない。
「ゼプツェン・・・・」
マリアは、駆け出した。 自分の持てる限り走って。 その行き先は・・・・あそこしかない!!
「ゼプツェン!!」
マリアがやってきた場所・・・・第17格納庫。 そうゼプツェンでしかない。
「ごめんなさい・・・。 遅くなって。
行きましょう・・・・。 ソラリスの・・・ソラリスの敵が待ってる!!」
彼女の呼びかけにこたえるように、物言わぬ鉄の巨人の目が輝いた。 まるで「その言葉を待っていた」と、言わんばかりに。
「ゼプツェン発進!!」
ボオオオ!!と、豪快なロケットエンジンの咆哮を響かせ、ゼプツェンは宙を舞う。
「キカイオーハリケーン!!」
キカイオーの顔から猛烈な風が吐き出される。さしものアハツェンも、風に舞い上げられ、シェバトから放り出されそうになる。
「やるな。 そうでなくては奪い取りがいが無いというもの・・・・うん?」
アハツェンが何かに感づいた。 こちらに向けて機動兵器が飛んでくる・・・。 TDFの増援か?いまだサイコジャマーの効果は生きているからそれはありえない。 ならば・・・
「む・・・ゼプツェン。 マリアか。」
そこに現れたのは、マリア操るゼプツェン。 同じ者によって作られた兄弟ギア同士が合い対峙する・・・。 確かに色と右腕の武装の有無さえなければ、同じギアといっても差し支えないほど良く似ている。
「そうです。 わたしがマリア・バルタザールです。 アハツェン・・・あなたは・・・?」
ゼプツェンは通常のギアやロボットとは異なりコクピットは存在しない。 ゼプツェンはマリアの音声認識と脳波によってコントロールされるからだ。 だからマリアはゼプツェンの頭部に乗っかり、突起の一部に掴まっている。 その為アハツェンからはマリアの姿は良く見えるはずだ。
「無論私だ。ニコラだよ! 見なさいマリア、私の研究の成果を!!」
まるで誇るかのように自慢げに口走るアハツェン。 その口調にマリアは一種の嫌悪感のようなものを感じた。
「巨大で力強く、永遠の輝きを持つこの身体を!
もう老いも、死も無い。 私は新たな生命・・・新たな種として生まれ変わったのだ。」
「わたしは・・・・。 わたしは人として生きて頃のとうさんが好きだった・・・・。
やさしそうに微笑んで・・・いつも・・・いつまでも傍にいて欲しかった・・・。」
マリアは悲しげにアハツェンを見つめながら言った。 そして、心の中で「違う・・・これは父さんじゃない・・・こんなのあの微笑んでくれていた父さんじゃない」と、呟いた。
「マリア・・・。お前は私の娘だ。 なら人間のバカさ加減は知っているだろう?
そんな人間どもと一緒に滅びることはない。 さあ一緒に来なさい。
私と一緒に、新たな歴史の1ページを築こうじゃないか。 今度こそ一緒だ・・・
こんどこそ永遠に傍にいてあげるよ・・・マリア。」
優しげにマリアに言葉を放つアハツェン。 だがその言葉に人間としての温かみがまるで感じられないことは、その場にいいる全員が感じていた。
「ロケットブロー!!」
ヒュンッ!! アハツェンの眼前を高速で何かが横切った。 当てるつもりは無い。あくまでも威嚇に放った一撃だ。 だが十分に敵意だけは感じ取れた。
カシャン!! 飛び出したそれは、キカイオーの右腕に戻った。 キカイオーの武器の一つ、下腕を発射するロケットブローだ。
「抜かしてんじゃねえぞ! このメカ親父!!」
キカイオーが、ジュンペイがドスドスと大またでまるで啖呵をきるように叫んだ。
「何が永遠の身体だ! 何が一緒にいてやるよだ! ふざけんじゃねえぞ! 調子のいいことほざいてんじゃねえぞ!」
「黙れ! 親子の間に他人が口を挟むな!!」
アハツェンが怒鳴り返すが、ジュンペイは絶対譲らない。
「いいや!挟ませて貰うね! アンタ!本当に娘のためを思ってるのか! あんた達親子の複雑な事情は俺にはわからねえ! だがな!見てみろ!あんたの娘の顔を! 娘にあんな顔させてまで、アンタ人間であることを捨てたのか!!」
キカイオーがゼプツェンの頭部を指差す。 そこには悲しげに・・・だが精一杯微笑むマリアの表情があった。
「俺には、あんたの娘がどんな事情があるのかは解らないし、理解も出来ない。 だがよ!あの子が今、どんな気持ちでいるのだけは解る! そんなロボットに成り果ててまでも、気持ちの無い言葉を投げかけられても・・・アンタに・・・父親に会えて嬉しいんだ。 だから、悲しいのを無理してまでああやって微笑んでいるんだろ!!
アンタ・・・・心まで機械になっちまったのかよ!!」
ジュンペイの魂の言葉に、アハツェンが一瞬よろめいた。 なにかしら頭を押さえているようにも見えた。
だが、アハツェンはすぐに体勢を取り戻し、ゼプツェンの方へ向いた。
「マリア・・・あんな奴の言葉に心を惑わされてはいけない。 さあ・・・今度こそ一緒にいてお前を守ってあげるよ・・・」
そう言ってゼプツェンの手をとろうとしたとき、
バシンッ!!──ゼプツェンは差し出された手をはじき、身構えた。 まるで「お前の言う通りにはならないっ!!」と、言わんばかりに。
「ゼプツェン!?」
マリアはこの行動に対し驚いていた。 アハツェンの言葉に一瞬だが、心を揺り動かされかけていた。 だがジュンペイの言葉とゼプツェンのこの反応に、自分を取り戻した。
「ゼプツェン・・・貴様、創造主たるこの私に逆らうというのか?
アハツェンの言葉には明らかに怒りのニュアンスが含まれていた。 だがゼプツェンはエンジンの音をまるで叫び声のように轟かせ、迎撃体制をとっている。
「ゼプツェン・・・これは!?」
「みろ!マリアとかいったなお前。 お前の心はどうかわかんねえが、お前のロボットは拒絶してるみたいだぜ。 へへ・・・お前以上にこのロボットはお前の気持ちがわかってるんじゃねえか!」
ゼプツェンの肩にキカイオーが手を乗せた。 コクピットではジュンペイが笑みを浮かべている。 ゼプツェンはそれに答えるかのように、キカイオーの手を握った。
「お!お前のロボットは、俺を仲間って認めてくれたようだぜ。 よし行こうじゃねえか!」
「あ・・・ハイ!!」
「おのれ・・・私にはむかうか。 ならばニコラの偉大さ。アハツェンの強大さを思い知らせてやる!!」
アハツェンの言葉にマリアは確信した。
「貴方は・・・父さんじゃない。 貴方は倒すべき敵だ・・・。
ゼプツェン! そいつをやっつけろー!!」
「うおおおお!!」
「わああああ!!」
重量級のロボット同士のぶつかり合い。 生半可な迫力ではない。 昨今のロボット・・・人型機動兵器同士の戦闘は、射撃兵装によるアウトレンジでの打ち合いで、集団戦闘が主流だ。
だが前時代的な肉弾戦は、戦いの原初を奮い起こされるイメージがあった。 そしてここシェバトのセンターブロック頭頂部では、肉体ではなく機械と機械が身体をぶつけ合うという近代戦闘を無視した『どつき合い』とでも言うべき戦いが繰り広げられていた。
「くらえっ!!」
キカイオーが助走をつけて肩口から思いっきりアハツェンにぶつかれば、「なんの!!」とアハツェンが相撲のぶつかり稽古の如く受け止める。
そのままキカイオーを捕まえ投げ飛ばそうとすれば、ゼプツェンが両手を組み、横から振りかぶり叩きつけてくる!!
「キカイオーキィィィクッ!!」
ゼプツェンのハンマーパンチに倒れこんだアハツェンにキカイオーが飛び蹴りを放つが、アハツェンは背中のロケットを目一杯吹かし、強引に立ち上がると、そのままの勢いに任せて頭からキカイオーにぶつかってきた。
「ガハっ!!」
ギア一体分の質量は想像を絶する。 いくらキカイオーとはいえ、衝撃は中のジュンペイに伝わる。 まるでジュンペイは自分が腹に何かをぶつけられたような感覚がした。
「ゼプツェン!ミサイルだ!」
マリアの激に、ゼプツェンの両腕を前に突き出す。 ゼプツェンの指先は小型ミサイルの発射口になっており、そこから赤と白に塗り別けられた小型ミサイルが顔を覗かせている。
シュバシュバっ!!と、ミサイルが発射されるが、同じものはアハツェンにもある。 同じ武器で打ち返され、効果が無い。
「はあはあ・・・このままじゃ」
キカイオーの助勢があるとはいえ、同じ武器、同じ能力を持つアハツェン相手に有効打を与えられない。 「こうなったら一か八かで、全てのミサイルとレーザー光線をまとめて浴びせて・・・」
(マリア!マリア!聞こえるか!)
「え!?父さん。 父さんの声?」
戦いのさなか突然聞こえる父親の声。 戦いという極限状況で疲労が生んだ幻聴か? いや・・・それは無い。 だって確実にその声はマリアの耳に届いているのだから。
『マリア・・・聞こえるか!今から、遠隔操作でそちらのグラヴィトン砲の封印を外すぞ。 それで私を倒すんだ!!』
「お父さん!? 正気に戻ったの?」
それはマリアにとっては信じられないほど嬉しいこと。 だが父親の言葉はそれを一瞬にして覆す言葉であったことも事実だった。
「だめ!グラヴィトン砲はお父さんが、その破壊力ゆえに自ら封印したのではないですか! そんなものを使ったらお父さんが!!」
「構わん!撃てっ! ニコラはもういない・・・」
そう言う父の声は悲しげだった。 その声が聞こえているのか。キカイオーも攻撃の手を止めた。
「ソラリスの洗脳を受ける前にアハツェンにはゼプツェンに共鳴して作動する良心回路を組み込んでおいた。
このメッセージは、そこからのものだ。 それに戦闘中にそちらのゼプツェンに私のデータは全て転送した。
身体は失っても、心はゼプツェン、いやマリア、お前と共にある。 これからもずっとな。」
その言葉は、マリアの心に響いた。 だが身近らの手で父親を撃つ等彼女に出来るはずも無い。
『そこのロボット・・・キカイオーだったな。 思い出したよ・・・『超次元機関』、轟ゲンゾウ博士によって提案された、まったく新しい動力機関だったな・・・』
「アンタ・・・じっちゃんを知ってるのか!?」
すると微笑むような・・・そんな温かみのある声が返ってきた。 それはさきほどアハツェンから放たれた冷たい人間らしさが感じ取れない言葉とは正反対の人間の言葉が・・・
『専門は違っていたけどな・・・尊敬していたよ。 轟博士は名前は門外の私にまで響いていたよ。 そうか・・・君は轟博士のお孫さんか。 最後に尊敬すべき人の肉親と話せて嬉しかったよ・・・』
「だ!ダメだ!じっちゃんを!じっちゃんを尊敬してたアンタを死なせるわけにはいかない! アンタはあの子の父親なんだろう!? だったら死んじゃダメだ! アンタが死んだら娘は一人ぼっちになっちゃうじゃねえか!俺みたいに!!」
ジュンペイの叫びに、ニコラは笑ったように暖かい言葉を返してきた。 それはマリアが好きだった父親の笑顔の声だったのかもしれない。
『うん? そうか君はご両親を・・・。でも君にはそのキカイオーがある。それは君にとってお爺さんそのものだ・・・違うかい? それはマリアも同じだ。私の心はゼプツェンに残る・・・だからマリア・・・お前は決して一人じゃない・・・』
ガコン・・・鈍い音がした。 ジュンペイが振り返ると、ゼプツェンの胸部装甲が展開し、そこから何か機械のようなものが覗いている。 それが先ほど言っていたグラヴィトン砲・・・か?
「え!?ゼプツェン! 勝手に・・・制御を受け付けない? お父さんが動かしているの!
やめて!撃たせないでぇぇっ!!」
マリアが涙ながらに叫ぶ。 だがゼプツェンは止まらない。 動きを止めたアハツェン向け、照準を定めるように身構えている。
『さあ!撃つんだ! そして二度とこんな悲劇を起こさせないためにも!犠牲は私で終わらせなくてはならない!!』
「嫌ァァァっ! 撃ちたくない!撃ちたくないよお父さん!! お父さんを犠牲にしてまで・・・犠牲にしてまで・・・」
『撃つんだマリア。 悲しいがこれが現実だ! 平和を・・・幸せを勝ち取るために犠牲が必要なのなら、私がその礎になる!! そして・・・お前は、お前達は、犠牲なしで幸せを勝ち取る世界を築くんだ!!』
そういうと今度は悲しげな声が聞こえてきた。 だが悲しみの中にありながらも精一杯微笑んでいるような声がしてきた。
『私には・・・それが出来なかった・・・。だから次の世代であるお前に託すんだ・・・頼む・・・』
ガシャン・・・身構えたゼプツェンの横にキカイオーが立った。
「マリア・・・だったな。 お前一人につらい思いはさせねえ。 動けない仲間達に変わって俺がお前の重荷を半分背負ってやる。」
するとキカイオーの胸のエンブレムが輝き始めた。
「お前の親父の思いを無駄にしちゃダメだ・・・。」
その様子に、安堵したような声が聞こえてきた。
『ありがとう・・・娘を頼むよ。 それと・・・名前を聞かせてくれないか?轟博士のお孫さん・・・』
「轟ジュンペイだ。」
『!? 轟ジュンペイ!まさか・・・君の父親の名前は!?』
「え?轟マモルだけど・・・父さんを知ってるのか!?」
『詳しくは知らない・・・お爺さんのゲンゾウ博士に告ぐ天才だとは聞いている。 そうか・・・良く聞くんだジュンペイ君! 君の父親である轟マモル博士は生きている!』
「何だって!! 父さんが!」
予想も出来ない言葉にジュンペイは目を見張って驚いた。 まさか・・・事故で死んだと思われていた父親が生きていようとは・・・
『ソラリスにいた頃に、政府の高官達が話をしているのを耳にしたんだ。 ゴルディバス軍もソラリスと同じように、自分達に利用できる優秀な科学者を拉致していたんだ。 その中に轟マモルという人物が存在していると。』
「じゃあ父さんはゴルディバス軍に!?」
『間違いない。轟博士の拉致計画はソラリスでもあったんだ。 そこをゴルディバスに先を越された・・・と言っているのを確かに聞いた。 拉致計画に君を人質にするというプランもあったからね。 それで君の名前を聞いて思い出したんだ!』
「とうさんが生きてる・・・・」
ジュンペイの心に熱いものが流れた・・・父親が生きている・・・天涯孤独の身と思っていた自分に父親が生きている・・・
『私が知っているのはそのぐらいだ・・・さあ頼む。そろそろアハツェンのフェイルセーフが働き始める頃だ・・・急げ!』
「ありがとう・・・マリアの父さん・・・じゃあ、いくよ・・」
ジュンペイが隣にいるマリアを見た。 マリアはただただ涙をぽろぽろ流しながら頷いただけだ。
ガシャン・・・二体の鉄の巨人が、赤い悲しい巨人の前に立ちはだかった。 そして二体の巨人の胸に光が輝く・・・・・
「ヒィィ・・・ト・・・ブレイザぁぁぁぁっ!!」
「グラヴィトン砲・・・はっしゃあああああ!!!」
ゼプツェンの胸から放たれた輝きは、アハツェンのボディをカン!カン!カン!と何かを叩くような音を立てて小さく押し潰されていった。
これがグラヴィトン砲。 重力子による物体の圧縮縮小によっていかなる物体をも押しつぶし破壊する、理論上絶対防御不可能の破壊兵器である。
そして、キカイオーの胸から放たれた熱戦は、見るも無残に圧縮破壊されたアハツェンのボディを、まるで火葬の如く焼き尽くした・・・
「うわあああああああ!!!!」
マリアはそこに泣き突っ伏した。 目からは涙がとめどなく流れ、慟哭はいつまでも消えることはなかった。
(マリア・・・私の心はゼプツェンと・・・お前と共にある・・・)
シェバトでの戦いは終わった。 その後アハツェン撃破後すぐにオンディーヌ隊のロボットたちはまるで何事もなかったかのように復旧した。
アハツェン撃破が確認されたのか、後方に待機していたソラリス軍はすぐに後退を始めた。戦況の不利を悟ったのであろう。 少なくともしばらくはシェバトが襲われることはあるまい・・・と女王は言っていた。
「マリア・・・つらい思いをさせてしまったようですが、よく頑張りましたね。」
「いえ・・・。 ですが私は戦います。 父の死を無駄にしないためにも・・・」
戦いが終わって、一同は女王の間に集まり今後のことを話し合っていた。 そしてマリアは、「もうじっとしていられないんです!私も戦わせてください!」と訴え、女王の頼みと言うこともあり、ユグドラシルにしてその身柄を預ける事になった。
そして・・・オンディーヌ隊が最も求めていたソラリス本土攻略の情報も得る事が出来た。
「前にも説明しましたが、ソラリスの本土コロニーは、このシェバトと同様の障壁(ゲート)が存在します。 ただしソラリスのそれはわがシェバトのものとは規模が違いすぎるほど強力なものです。」
確かにそうであろう。 全長50kmのコロニー一つを全てカバーするほどのバリアーである。 その力生半可なものではあるまい。
「その守備は鉄壁と言ってもよいでしょう。 恐らく力押しで突破するのはかなり困難と思われます。」
「では、ソラリス本土の攻略には、シェバトをソラリス部隊が襲ったように、少数の潜入部隊でジェネレーターを破壊する等の作戦が必要になると?」
女王の言葉にアヤが尋ねると、女王は首を横に振った。
「ほんの少数で潜入する程度であれば、そんなことをしなくても潜入は可能です。現に我々の工作員はそうやって潜入させています。 ですがソラリス本土は、そうはいかないのです。 本土内にジェネレーターが存在していないのです。」
「それはどうして?」
アヤの言葉に答えたのはサイモンだ。
「考えても見ろ。コロニー一つをカバーするバリアーだぞ。 シェバトみたいに基地クラスの大きさなジェネレーターの大きさならば大したことはない。 だがよ、コロニークラスをカバーする為には相当の大きさのジェネレーターが必要になるぞ? そんなものコロニーの中に建設できるのか? 第一、太陽発電や核融合を併用しても、コロニー中に大規模な電力不足が起きて生活できないぞ。」
その意見は正論だ。 コロニーと言う限られた空間の中にあって、大型のジェネレーター建設は非効率極まりない。
「と、なると・・・障壁(ゲート)のエネルギーは外部から得ていると?」
アヤの言葉に頷く女王。
「その通りです。 少佐のお話の通り、障壁(ゲート)の維持には莫大なエネルギーを必要とします。 そこで、ソラリスは付近にある小惑星や宇宙要塞を利用しているのです。」
「宇宙要塞!?」
初めて聴く言葉であったが考えられなくもなかった。いや・・・あって当然だろう。 恐らく本土防衛用の最終拠点なのではないだろうか?
ソラリスは本土コロニー郡の周囲に浮かぶ小惑星や宇宙基地に、障壁(ゲート)の維持のためのジェネレーターを建設。 そこからマイクロウェーブを利用してエネルギーを送信、本土のゲート維持に用いているのだと女王は説明してくれた。
そして・・・ジェネレーターの設置場所は全部で3箇所。 そこさえ叩けば、ソラリス本土は無防備な姿を晒す事になり、TDFにしてみれば本土攻略のための足掛かりも得られる。まさに一石二鳥。
協議の結果方針は決まった。 オンディーヌ隊はソラリス本土攻略の為、宇宙を目指す。 そしてソラリスの障壁(ゲート)突破のために3箇所のソラリス拠点の攻撃と言うことになった。
この情報を直ちにTDF本部ならびに先遣艦隊に連絡。 情報を受け取ったTDF先遣艦隊は、ソラリス攻略目標を混乱させるために一部の艦艇を陽動とし、残りの艦隊を障壁破壊のために向かわせることになった。
だがこれだけでは戦力的に不安があるため、ヴィレッタ達も宇宙に上がることになった。
「そこでバルト。 貴方の船、ユグドラシルに飛行ユニットと大気圏外用の改修作業を施します。 その間に艦載機ならびに各ロボットも宙間戦用装備をお願いします。」
女王の計らいに喜ぶバルト。
「おお!やったぜ! これでユグドラは空飛べるばかりか、宇宙もいけるのか! こりゃご機嫌だぜ! よおし改修作業終了の進水式は盛大にやろうぜ!」
「あ!知ってる! 確か船の先にシャンパンぶつけるんだよね!」
大地の言葉にバルトが頷いた。
「おうよ!よっしゃシグ、いいシャンパン用意しておいてくれよ!!」
バルトがユグドラシル副長であるシグルドにそう言うと、彼は頷いて了承した。
「若、それは確かに。 ですがその際艦長たる者が、だらしない格好でいるわけにはいきませんね。」
その言葉にうろたえるバルト。
「つまり・・・身だしなみを整えていただく必要があるということですよ若。」
「風呂に入れと?」
「ええ。 さあブリーフィングも終了したことですし、折角ですからシェバトの浴場をお借りしましょうかね?」
そう言って、シグルドは意地の悪い笑みを浮かべてバルトを引っ張って部屋を出て行った。
「アイツ・・・風呂嫌いだったのか・・・」
リュウセイがぼやくとフェイが頷いた。
「ああ、ほっておくと3・4日は風呂に入らない。」
フェイの言葉に空が大地を見た。
「大地みたいね。」
「姉ちゃん!俺は最近はちゃんと入ってるよ!」
「それなら、バルトと裸の付き合いって奴をやるか!」
フェイが言うと男性陣が笑って頷いた。
シェバトは閉鎖的な空間のため、人がストレスを感じることが比較的高い。 その為気持ちをリラックスさせるための設備は比較的整っている。
シェバト王宮に造られた大型浴場もその一つである。 普段は水資源節約のため・・・と使用を制限しているが、今回はシェバト防衛と言うオンディーヌ隊への感謝の意味もこめ特別に使用が許可されていた。
「うわ〜広いプールみたい。」
浴場に入った空はその広さ、中世の王族風の高級なつくりにすっかりはしゃいでいた。
「シェバトは閉鎖的空間ですから、ここはめったに使われないんですよ。」
マリアがそう言うと、アヤが表情を曇らせた。
「あの・・・いいの? 水は貴重なんでしょう・・・私達のために無理させちゃって・・・」
「いえ、いいんですよ。 皆さんにはシェバトを守ってもらった御礼もあるんですし。」
「そう言う事なら、思う存分満喫させてもらいましょうかね?」
「そーそー!! 楽しもうぜ!」
アムリッタが、鼻歌混じりで浴槽へ向かう。だがその前にほむらが助走をつけて思い切り飛び込み、先に入っていた結奈がまともにお湯を被り睨みつけられた。
「確かに・・・・ユグドラシルのシャワールームじゃゆっくり出来ないものね・・・」
エリィが湯船に裸身をたたえて、くつろぐ。
「え?そうなんですか?」
空の言葉に、香田奈がこっそり耳打ちした。
「これ・・・マルーには内緒よ。 実はね・・・エリィさんがシャワー浴びてるところにね、バルト君とフェイ君がこっそり覗きに行って・・・シグルドさんに思いっきり怒られてたのよ。」
「え〜!! そうなんですか!!」
そんな女性陣が華やいだ雰囲気の中、男性陣もゆっくりと入浴を楽しんでいた。
・・・・・一部を除いて
「シグ〜勘弁してくれよ〜」
「いけません若! まったくほっといたら一週間は入浴しないのですから!」
そんな二人のやり取りに、皆は笑っている。
「シグ〜、シャンプーはやだなぁ・・・」
シグルドに頭からお湯を被せられ、さあシャンプー!という所で、またしてもバルトが駄々こねる。
「仕方ありませんね。 こんな時は・・・」
ごそごそとユグドラシルから持ってきた入浴用の道具から何かを取り出すシグルド。
「ゲッP−Xシャンプー!!」
シグルドが取り出したのは、ディフォルメされたゲッP−Xの形をしたシャンプー容器だった。 どうやら日本に駐留していた時にシグルドが、ゲッP−Xの基地である宇宙ロボット研究所から譲られた物を持ってきたらしい。
(ちなみに宇宙ロボット研究所では、この他にもゲッP−Xグッズを販売している。例:ゲッPアイス)
「目に入っても、痛くないんですよ若〜!」
そう言って自らシャンプー容器を取り、左目にどばどば掛ける。
「ほんとだ〜!!」
真似してバルトも右目にどばどば掛ける。 実際痛くないようだが。二人とも涙も同じくらい流している。
「お前ら・・・一つしか残ってないんだから大事にしろよ・・・」
フェイが二人を見て呟くように言う。 確かにバルトもシグルドも事故で片目を失い、それ以来眼帯を愛用しているというのに・・・
「バカ一族・・・・」
ビリーが聞こえないように呟くが、その思いは皆一緒だったかもしれない・・・
「これならシャンプーも大好きですね、若。」
「ソース味もあるのか!」
バルトの手には色違いのシャンプー容器があり、そこには『しょうゆ味』と『ソース味』と表記されていた・・・
「シグルド・・・・変わりましたね・・・」
と、こっそり呟くシタンであった。
次回予告
バベルタワーでの戦いを終えた地上組オンディーヌ隊。 一方、ヒリュウ改で宇宙に行ったもう片方のメンバーはどうしていたか!
ソラリス本土攻略を果たすため、リューディア艦隊と合流だ。 いざTDF宇宙要塞ツクヨミへ!!
そこに現れる謎の女性型人型兵器郡! そして強大な力持つ可変VA襲来!
果たして、オンディーヌ隊宇宙組はこの窮地を切り抜けられるのか!
次回、サイバーロボット大戦、第四十一話 「謎のサイボーグ!」にカツモクせよ!
次回もVAがすげえぜ!!