第三十九話 『父との絆! 合体攻撃グラヴィトンブレイザー!!(中編)』



 緊急事態である。 ここでシェバトが失われれば、TDFはソラリス本土攻略に計り知れない損害を受けることは間違いない。 そして数少ない協力者さえ失ってしまう。 それだけは防がねばならない。
 だが事態は深刻なレベルに達しようとしていた。 兵の報告によれば、進入者たちは、徐々にシェバトの防衛隊の前に数を減らしつつあるが、17格納庫に向かっているようだ。17格納庫と聞いて、マリアが顔色を変えた。そこにはゼプツェンがあるからだ。 侵入者の目的はゼプツェンの奪取。
 「いきます!ゼプツェンは渡せません!」
 そう言ってマリアは単独でドックへ駆け出そうとした。だがゼファーは鋭い声で呼び止める。
 「ゼプツェンのいないお前に何が出来ると言うのですか!」
 「・・・・」
確かにゼファーの言うとおりだ。 マリア自身の強さはゼプツェンあってこそのもの。 彼女自身は普通の13歳の少女に過ぎないのだ。 最たる戦闘力は望めない。
 「それなら、我々の何人かが同行しよう。それなら問題ないだろう?」
そう言ったヴィレッタは自らが拳銃を手にしつつ装備をチェックしていた。 どうやら言いだしっぺの自分自らが出向くようだ。
 「敵は少数での潜入工作部隊のようだ。 恐らく我々を受け入れてきた隙を狙ってシェバトのセキリティを突破してきたようだ。 生半可な腕ではあるまい。 マリアの警護は軍関係もしくは白兵戦に秀でた者に限定する。」
 「あの・・・出来れば何人かこちらに残っていただきたいのですが・・・」
言い出しにくそうにシェバトの兵士がヴィレッタに呼びかけた。
 「防衛に人員を割いてしまっていて・・・女王の警護に白兵に秀でた方を残しておいて頂きたいのです。」
人員不足のシェバトにはこういう事態もありうるのです・・・と、申し訳に言う兵士にヴィレッタは快くOKした。

 そして現在のメンバーの中には、白兵戦に長けた者という事で、マリアにはフェイとバルト。そしてヴィレッタにライ、それに将輝と香田奈という事になった。
 残りのメンバーで軍関係はアヤ・リュウセイ・サイモン・アムリッタがいるが、それでは女王の警護側が弱体化する恐れがあると言うことで残ってもらった。 それにリュウセイはともかく、アヤはパイロットとデスクワーク中心なので足を引っ張りかねないのだ。 こうなると白兵に秀でたゴンザレス隊やジン=サオトメ、お嬢様軍団がいないのがつらい。
 結果、白兵に秀でた残りのユグドラクルー、シタン・エリィ・ビリー・リコを女王側の警護に置き、残りのメンバーは万一の場合に備えロボットで待機する事となった。 特にシェバトは空中都市。空中戦が予想されるのでサイモンとアムリッタの空軍組は必須だ。
 待機組はゼプツェン格納庫とは別ルートでロボットを置かせてもらっている予備格納庫に急ぐ。
 そしてマリア警護組は、ゼプツェンの17格納庫へと急ぐ為、装備を身につけた。 将輝は慣れない防弾服を着込むのに手間取った。身体が小さいため、サイズが合うのがなかったので適当なサイズを着込むしかなかったのだ。
 その反面、ヴィレッタは慣れたものだ。数秒足らずで黒い防弾服を着込み、銃器をチェックした後散弾銃の直撃にも耐えるチタンフレーム製の薄紫色のゴーグルを装着していた。
 「おや・・・隊長の防弾服は正規の奴とは少し違うな?」
 動きづらくなる・・・と言う理由からTDFの装備品である防弾服を着るのを拒否したバルトが、ヴィレッタの服装を見て言った。 確かにライや将輝が着ている物とは少し違う。 全体的にすっきりしているが、両手足や肩にはごつごつとした防護が図られている。 おまけに黒いロングコート付だ。 防弾服とアンダースーツがダークグレーと黒なので、全体的に真っ黒な印象を受ける。 重そうな大型のハンドガンを持ったその姿は軍の部隊長というよりは、警察や公安組織の特殊チームを思わせるイメージだ。
 「私専用の特注品よ。 新型の光学迷彩で姿も消せるから、敵に対して奇襲になりえる。」
そう言うと、バルトたちの目の前でヴィレッタの姿が陽炎のように揺らいだと思うと、完全にその姿が消えた。
 ?!・・・と、驚くバルト。 だが次の瞬間には、バルトの首の後ろ・・・ちょうど脊椎のあたりに触れられる感触がした。 ブウン・・・と電子音のような音がしたと思うと、バルトの脊椎に指を押し当てているヴィレッタの姿があった。 姿を消し、気配を感じさせずにバルトの背後に移動したのだ。
 「すげえなソレ・・・まるで幽霊にでも出くわしたみたいだぜ。」
 バルトの言葉に、フ・・・と苦笑するヴィレッタ。
 「そう囁くのよ。私のゴーストが・・・」
 
 「え?隊長何か言いました?」
将輝が尋ねると、ヴィレッタは「別に・・・」とだけ答え、「さあ時間がない。行くぞ。」とマリアを連れ駆け出した。
 「了解『少佐!』」
バルトの言葉に、ヴィレッタは何も言い返さなかった。



 「く・・・場馴れはしていないようだが、結構訓練が出来ているな。」
 シェバトの防衛用の障壁を維持するジェネレーターの子機を破壊したドミニア率いるソラリス潜入工作部隊は、シェバトの兵士達に追われながら撤退中であった。
 シェバトの兵士はドミニアの言うとおり実戦経験が少ないせいか、大きな障害とは成りえなかった。 だがその分訓練に費やす時間が多いのか、射撃と格闘に関しては一人前だった。 こちらが少数で来たせいもあるのであろうか、潜入してきた兵士で残っているのは、ドミニアただ一人にまでなっていた。
 「だが・・・その分何も気にせずに脱出できるがな・・・。」
 彼女は、狭く曲りくねった迷路のような通路を巧みに利用して、兵士達をかく乱させながら駆け抜けていた。 しかしこれも時間の問題である。 何せ地の利は向こうにある。およそ追い詰められるのは目に見えている。 そうなる前に脱出口に移動しなければ・・・
 「いたぞ!あそこだ!」
 ドミニアの視界に兵士が写る。その数・・・ざっと5名。倒せない数ではないが、足止めを食らって合流されるのはつらい。
 「く・・・予想よりも早い」
 彼女は、瞬時に判断した。 目の前の兵士を獲物の剣で一閃して駆け抜けた。 飛び散る血や打ち倒される兵士には目もくれない。この程度の光景など彼女にとってはホラー映画のショッキングシーン以下だ。 そのまま彼女は、目の前にある通用口に飛び込んだ。
 「む・・・ずいぶん広いな。」
彼女が飛び込んだ空間は薄暗く幾つかの非常灯が灯っている以外は殆ど光はない。 ただその空間はやたら縦広い。まるで原子力発電所の煙突並だ。 縦に広いといったが横幅も軽々軟式の野球場並はある。
 「まるで・・・・」
 彼女はここに似た雰囲気の場所を知っている。 そう・・・ソラリスの軍事基地のギアハンガー。アレにそっくりな雰囲気なのだ。
 「にしては横幅がない・・・・そうか。」
 ニヤっと笑みを浮かべ、彼女は携帯ライトをつける。 個人が携行するライトでも軍用である家庭用とは雲泥の差があるライトでもこの巨大な空間全てを照らせる力はない。 だが彼女はその光の先にあるものを見て口元を緩める。
 「はやりな。」
 ただの巨大な空間でないことは、この部屋に入ってすぐに解った。暗がりで全体は見えなくともそこから発せられる圧倒的な存在感は隠せない。
 「ついている・・・・」
 彼女の目の前には20mを越す鉄の人型があったからだ。
 「侵入者はどこ!?」
 うん?・・・彼女の下方、この空間の下辺りから少女の声がした。 声色からかなり焦りが感じ取れた。
彼女が視線を向けると、そこには見知らぬ一人の少女が。 年の頃は12〜13と言ったところまだ幼い。 何の意味があるのかは知らないが、額にゴーグルを載せているのが特徴的だ。
 「ほほう・・・」
 彼女は面白そうにつぶやいた。 その少女に数人の男女がついていたからだ。そのうち二人は顔見知りだ。 今まで幾度も刃を交えた相手であるフェイとバルトがいたからだ。 彼女は笑みを浮かべ声をかける事にした。


 「またお前達か。 毎度毎度ご苦労なことだな。」
 17格納庫へ辿り着いたフェイ達が最初に目と耳にしたのは、今は無事な姿のゼプツェンと、聞き慣れた敵の女性の声。
 「ドミニア!」
 フェイが声が発せられた方向へ向く。 その視線の先にはゼプツェンの頭部に降り立つ女性の姿。 ソラリスの地上軍総司令官カーラン・ラムサスの親衛隊。 エレメンツの一人ドミニアの姿。 その赤いコスチュームの女は、今まで何度も戦った相手だ。
 「まさか逃げ込んだ先でゼプツェンに出くわすとはな。
   こいつ(ゼプツェン)はもらっていくぞ。 元々こいつは我々ソラリスのものだからな。」
 「そいつは渡せないな!」
 フェイが一歩前に出て叫ぶと、バルトが鞭を構え、将輝が警戒杖(長い棒)を引き伸ばせば、香田奈はスタンロッドのスイッチを入れる。
 「それに貴様には聞きたいことが山とある。 簡単に帰すわけにはいかないな。」
 ライが拳銃を構えドミニアに狙いをつける。
 「力づく止めるか。 やれるものならやってみろ。
  ・・・・・ん?」
ドミニアがこちらと一戦交えると思ったが、こちらを見て何かに感づいたようだ。 だが視線はフェイやバルトではない。
 「そこにいるガキは・・・。 おいお前ニコラの娘か?」
 「たしかに私はニコラの娘。 『マリア・バルタザール』です。それがどうかしましたか!?」
大事なゼプツェンに乗られ、おまえ+ガキ呼ばわり・・・マリアの表情は憮然としている。
 「そうか。 おまえがニコラが身を挺して逃した愛娘ってわけか・・・・」
そういうと、ドミニアは少し考えるそぶりをした後、にやりと笑みを浮かべた。
 「おい小娘。 面白い話を聞かせてやろうか?
  そうだな・・・ゼプツェンの呪われた秘密と言うののは、どうだ?」
 「・・・・・それは、どういう意味です?」
 「さあ、どういう意味かな。話を聞きゃあおのずと解るよ・・・」

 そしてドミニアの『面白い話』がはじまった。 だがその内容は決して面白いものではなかった。 それはまさしく呪われた秘密にふさわしい内容だった・・・・

 「この何年というもの、うち(ソラリス)の科学者どもは、より進化したギアを生み出すための研究に血道をあげてきた。
  どんなにすぐれたパイロットでも、人である以上、どうしてもマシンとのインターフェイスで時間差・誤差は生じる。
  そこで目をつけられたのがお前の親父ニコラさ。 ニコラは脳神経機械学の天才で、な。
   連中はニコラに人が人であることを超えられる道を模索させた・・・。 人と機械の一体化によって。
  つまり生きた人間の脳とギアをダイレクトに接続。 新たな生命、最強の生体兵器を生み出そうってわけさ。 技術的にはさほど珍しくはないだろう? 脳と機械をつなぐ方式は旧西暦からあったことだ。 電脳化って言うやつか。 実際そうしたインターフェイスはコロニー統合軍にもTDFにもDN社にもある。」

 確かにその通りだ。 例えばTDF・・・Rマシンに使用されているT−LINKシステムは人間の脳波・・・念動力に呼応して動く。間接的にロボットと人体をつないでいるといってよい。 DN社のバーチャロイドも人間の脳波をV=コンバーターを通じてパイロットと繋いでいる。
 またコロニー統合軍のサイボーグ兵士。 身体の各所を機械化することでより機動兵器との直接接続を密接にしている。

  「まさに夢見たいな話だ。 ニコラがいなかったらば、な。 しかしあの天才は、その夢物語を現実のものにしちまった・・・。
   ただの電脳化とはレベルが違う。 生きた人間から生きた脳を取り出し、ギアと連結させたんだ。 つまりだ、人間から生身の身体を引き剥がし、ギアという機械の身体に移し変えたんだ。」

 「うそです! 父さんがそんな酷い事するわけが!!」
マリアが血相を変えて叫ぶが、あきらかに動揺しているのは目に見えた。 だがドミニアは首を横に振って話を続けた。
 「本当さ・・・。 私は嘘はつかないよマリア。 これは事実だ。
  あんたの立派なお父様は、人と機械の融合に成功し、地上居住者にとって地獄の門を開けちまったのさ。」

 「・・・・・」
言葉を失うマリア。 だが気丈にも目だけはドミニアを睨み付けていた。 それをあえて面白そうに見るドミニア。
 「地獄の門・・・?どういう意味だ?」
 言葉を失ったマリアに代わり、ライが呼びかける。 その左手・・・義手が微かに震えていた。彼の腕も一種の人と機械といえるからだ。
 「簡単さ。 イグニスエリアでの戦争。キスレブのバトリングによって得られた各種のデータを加え、拉致したラムズ(地球居住者)を素体に実験材料として利用された。
  そうして生み出されたのが、ヒト型特殊変異体『ウェルス(死霊)』だ。」

 「ウェルス(死霊)だと! ウェルスは地球居住者を利用した生体兵器だというのか!?」
 ライが叫ぶ。 ウェルスという2m程の人型の異形。 仲間であるビリーという少年がウェルスを退治すること本職にしていたことは、実兄であるレーツェルから聞いていた。 まさかその正体が生体兵器・・・しかも拉致した地球居住者を使った・・・。

 「ソラリスで創られたウェルスは地上でテストされる。
  基準に合格したウェルス(死霊)だけが解体、再構成され生まれ変わる。 ギアの中枢制御回路として・・・ロボットの一部となって・・・・。」
 そしてドミニアは冷たい笑みを浮かべ、マリアに見下すような視線をあげ、トドメの一撃を放った。
 「すべて、おまえの親父の偉大な研究の成果だよ。
   その人機融合ギアの試作機が・・・このゼプツェンだ。
    つまり、ゼプツェンは星の数ほどの地球居住者どもの犠牲があって、はじめて完成をみたってわけなのさ。」
 
 かくんっ・・・・マリアがひざを折り崩れかけた。 倒れかけたマリアを香田奈がとっさに支えるが、彼女の身体にはまるで力が入っていなかった。
 その光景が面白いのかドミニアは追い討ちを加えるべく、口を開いた。
 「そして、ゼプツェンの神経回路には・・・・」

 「そのくらいにしといちゃどうだい、ドミニア?」
とつじょこの場にはいない第3者の声・・・太い男の声がした。 「誰だっ!?」とドミニアが周囲を見渡すと、ドミニアが入ってきた場所とは反対側の通用口に、シタンとシグルドのソラリス時代の先輩であり、ビリーの父親であるジェサイアがライフルを構えて立っていた。
 「どうして女ってのはこうもおしゃべりなんだろうな? いらねえことまでペラペラとしゃべりくりやがって。 まったく・・・・」
 ジェサイアを見た瞬間、ドミニアの顔色が変わった。 マリア達を見ているとはまるで違う、相手を自分と五部の立場と認めた視線を。
 「ジェサイア!? 次期ゲブラー総司令官とされていた男がこんなところでなにを!」
その口ぶりから、ドミニアはジェサイアの事を知っているらしい。 ラムサスとゲブラーの指令の座を争っていたとされている男なのだから、ラムサスの部下であるドミニアが知っていても不思議ではない。
 「そう熱くなりなさんなって。 美容に悪いぜドミニア。
  大人にゃ大人の事情ってものがあるのよ。 ガキには解らないだろうがな?」

 「その通りだ。」
 ドミニアは不意に背後から声をかけられ背筋が寒くなるのを感じた。 首筋に冷たい物が当たっている・・・・正体はすぐに解った拳銃だ。
 しまった・・・・ジェサイアに気をとられ背後の気配に気がつかなかったとは。 抵抗するのは無意味だ。チャンスを見て反撃するしかない。 ゆっくりと両手を挙げる。
 ドミニアが両手を挙げたのを確認すると、ブウン・・・と電子音がしたと同時に髪の短い黒い服とコートに身を包んだ女性が姿を現した。 ヴィレッタだ。先ほどから姿を見せなかったのはこの機をうかがっていたのだろう。 さきほどの光学迷彩をりようして。
 「今日のところはおとなしく引き下がれば見逃してやっても良い。 色々と立て込んでいるのでな・・・
  それにこのゼプツェンはマリアでなければ動かせない。 それぐらいはお前達のほうが詳しいはずだろう? それとも、ジェネレーターの子機が破壊が目的のお前達に、この機体を持ち帰る準備がしてあるのか?」
 残念ながらない。 ドミニアはここは要求を呑むしかないと、頷いた。
 それに今回の任務はジェネレーターの子機の破壊だ。 すでに任務は達成した。これ以上は無意味だ。
 「ふん・・・バカどもめ。 パーティーはこれからだ。せいぜい粋がるがいい!
      それじゃマリア。 今日はこの辺でな。楽しいダンスパーティーをな!」
 そういってドミニアは、ゼプツェンの足元にある外部ハッチから飛び出していった。 爆弾や発信機を仕掛ける余裕はない。 ヴィレッタとジェサイアの両者から銃でマークされていたからだ。
 とにかく、ヴィレッタたちもマリアとゼプツェンを守ると言う任務は果たしたわけだが・・・・

 「・・・・父さん。」
 よろよろと立ち上がったマリアは今一度ゼプツェンを見た。 物言わぬ鉄の巨人は今まで自分を守り、人々を守ってくれた守護神であり、離れ離れになった父親との絆であった筈なのに、今では恨みと怒りで汚れてしまった邪悪の魔神像のような映っていた・・・・
 「なあマリア。あんな奴のいうことなんて気にするなよ。」
 心配してフェイが声をかけたが、マリアは黙ったままゼプツェンを見ているだけだった・・・・

そのとき、格納庫中に照明が灯り、警報が鳴り響いた。 その様子にジェサイアが「どうやら今回の主賓の登場のようだぜ。 上に上がろうぜ。」と・・・
 皆頷いた。
 「だがいやな予感がするぜ・・・。」
そういって逸早くジェサイアがエレベータールームに駆け込み、皆それに続いた。 だが最後までマリアだけがその場に残っていてゼプツェンを見つめていた。
 「ゼプツェン・・・」


 女王の間に戻ったフェイ達は、すぐにブリーフィングを開いた。 女王の間の壁や天井はそれそのものがスクリーンと化す事ができ、状況をすばやく確認することが出来るのだ。
 既に警護組や待機組も集まっており、ソラリスに事情に詳しいシタンを中心にブリーフィングが行われようとしていた。 しかしなぜかこの場所に、バルトの従妹であるマルーのぬいぐるみのふりをしていた遺伝子操作によって生まれた怪生物(?)チュチュまで在籍しているのがフェイには気になった。
 「既にこちら(シェバト)に、ソラリスのギア部隊が接近中です。 連中の狙いはこちらの障壁(ゲート)・ジェネレーター4基の破壊と見ていいでしょう。
  ドミニアの破壊工作で出力の弱まっている今、一気にケリをつけてしまうつもりなのかもしれません。
  既にシェバトの迎撃部隊が出撃しましたが、どこまで持ちこたえられるか・・・。 シェバト部隊は実戦経験が決して多くないですからね。 無意味な犠牲は極力出したくありません。」
 「解ってるよ先生。 俺達が出よう。 乗りかかった船だ。それにここの人たちをみすみす危険にさらすわけにはいかない。」
 フェイの言葉に皆が頷いた。
 
 「よし!ではこれから作戦を説明する。」
 ヴィレッタが指揮棒を持って、スクリーンに現在の状況を映し出させた。
 「先ほどもいったが敵の狙いはシェバトのバリアー発生器、4つのジェネレーター親機だ。 ジェネレーターの位置はこの中心部から放射線状に離れた外縁部の・・・・この4ヶ所。」
 モニターにシェバトの全体図が映し出される。 アダムスキー型UFOに似た形をしている空中都市シェバト。 その外縁部は土星の輪のようにリング状になっている。 その外縁リングにジェネレーターは設置され、それぞれ東西南北に一箇所づつにある。
 「シェバトの偵察部隊によると、敵は4部隊に別れ、それぞれジェネレーターを目指していると言うことです。
  この4部隊に関しては、シェバト偵察隊やこちらかが得たデータである程度戦力は解るのですが・・・」
 シタンがヴィレッタとともにスクリーンに表示されている敵を見てそう言っているが・・・
 「実はこれらの部隊の後方に正体不明の巨大ギアが一機ひかえているのです。」
 「正体不明の巨大ギア?」
フェイがたずねると、女王がスクリーンに表示してくれた。 そこには真っ赤な装甲に身を包んだ一機のギアが映っていた。 ソレを見たマリアが思わず声を上げた
 「アハツェン!!」

 「アハツェン?」
 「父さんが設計したゼプツェンの兄弟機です・・・。まさか完成していたなんて・・・」
兄弟機・・・確かに全体のシルエットは酷似している。 ただ違う点を上げれば、全体のカラーリングと右腕に折りたたみ式の大口径砲を装備している事だろう。 ゼプツェンをより攻撃型にしたような印象を与える。
 「父さんはゼプツェンを最後にもうギアは作らないって、設計図を燃やしたはずなのに・・・どうして・・・」


 「聞こえるか!シェバトの人間ども!」

 突如外部スピーカーでアハツェンから呼びかけられた。 それは限りなく肉声に近い男の声だった。 その声にマリアは目を見開く。
 「こ・・・この声は!!」

 「面白いねずみどもがそこへ逃げ込んだらしいな? アハツェンのテストにはちょうど良い。 邪魔なシェバトもろとも叩き潰してやる。 さあ出てくるがいい私のかわいいモルモット達よ!」

 「と・・・父さんの声。」
 「落ち着きなさいマリア! アレにニコラ博士が乗っているとは限りません。」
女王の言葉に、皆頷く。
 「初歩的な罠だ。 君の動揺を誘うな・・・。」
ライの言葉にリュウセイが頷いた。
 「ああ・・・間違いねえ。 俺達も以前似たような罠を食らったことが有る。」
 「でも・・・でも・・・あれは父さんの・・・」
 「マリア! 貴方は戦う前から敗れるつもりですか! 憎いソラリスに!」
女王の声に押し黙るマリア。 そのきまづい空気を察して、シタンが「さあ、敵は待ってくれませんよ。すぐに行動しないと」と呼びかけた。

 グズグズはしていられない。 敵はそこまで来ているのだ。 シェバトを守るためにもオンディーヌ隊はすぐに行動を起こした。
 敵はアハツェンを後方に待機させ、4部隊に分かれて攻め込もうとしている。 狙いは先ほども述べたバリアーの発生用ジェネレーター。
 そこで部隊を五つに別けて対処することとなった。
 精神的に不安定なマリアをジェネレーター防衛に置くわけには行かないと判断したシタンは、フェイと自分(シタン)を女王の間にマリアと共に待機させ、アハツェンが動くときに備えた。
 アハツェンがどのような能力を持っているギアか解らない為、兄弟機であるゼプツェンなら対抗できると判断してのことだ。 もちろん攻守共にバランスの取れたヴェルトールとヘイムダルも。
 そしてバランスタイプという事で、リュウセイのR−1と緊急時に備えて攻撃力の高いツインザムVも待機してもらった。
 これには、マリアと年齢の近い空と大地ならば、マリアが暴走したときに押さえが利く・・・とのヴィレッタの考えだった。


 「第1ジェネレーター準備完了。 いつでもいいです!」
第1ジェネレーターは、エリィが指揮するチームが待機していた。
 この場所に迫る敵は、シェバト制圧の為の歩兵部隊と、それを護衛する小型ギア3機による制圧部隊。 突破された場合最も厄介な相手だ。 そこで、点ではなく面で攻撃でき、且つ対人攻撃も出来るメンバーでなくてはならない。
 そこで、手段のためならば対人攻撃も躊躇が無いポリンのボロンを中核とし、それを抑えるためにケイのパルシオン。 そしてエアッド(遠隔攻撃システム=ファ○ネル)による制圧射撃が可能なエリィのヴェルエルジュである。
 勿論この人選にも意味がある。 エリィはソラリス士官。かつての同胞に銃を向けることになる。 だがそれはポリンとケイも同じことだ。
 子供ゆえか罪悪感が少ないポリンはともかく、ケイはれっきとした元ゴルディバス軍である。 その彼女は既に迷いを振り切って同胞に刃を向けている。
 そのケイに、迷いを振り切るための何かを感じ取れるかもしれないと、ヴィレッタがエリィをこのチームに配したのである。
 「ポリンの魔法で地獄にいけ〜!」と、意気揚々のボロンを横目に、エリィは隣に立つ青色の巨人・・・パルシオンに呼びかけた。
 「ケイさん・・・。 貴方はかつての同胞に刃を向けることに躊躇いはないのですか・・・?」
 その問いにパルシオンはゆっくりと頷いた。 「どうして・・・?」とエリィにパルシオンは微笑んだようなそぶりを見せた。
 「この星が好きなのよ。 それだけ・・・・」
 「それだけって! それだけの理由で全てを捨てられるんですか!」
 「理由としては十分すぎると思うけど? 貴方だって、先ほど女王に言われたじゃない。『親や友人を敵に回すことになる。 生半可な覚悟では仲間の生死にも関わる』って・・・
 それを考えたら、貴方もそれだけの理由があるんじゃなくて?私は・・・この星が好き・・・それが理由よ。」
 「私の理由・・・・」
エリィ自身の離反の理由と覚悟・・・ケイほど漠然したものではない。 だが・・・何か見えたような気がした。
 「来たわね〜!! 地獄の水先案内人! 愛の魔法使いポリンちゃんの力を見せてあげる〜!」
彼女達の目線の先には、小型ギアから無数の歩兵がこちらに向けて駆け出してくるのが見えた。
 「もう・・・後戻りは出来ないっ!」
 ヴェルエルジュの腰部スカートアーマーから、無数のエアッドが飛び出した。


 「第2ジェネレーター配置完了! どこからでもいいぞ!」
第2ジェネレーターには、サイモンとバルトとライが待機していた。
 この場に迫る敵機の数は6。 ホワイトナイトと呼ばれる機体で、ソラリス軍ではごく一般的な白兵戦型の汎用ギア。
 このギアは汎用性と機動力に目を見張るものはあるが、それ以外はいたって平凡。 この場に配置されている3人の技量を持ってすれば苦戦するような相手ではないはず。
 ただし数がこちらの倍である。 長期戦は不利だ。 早期で決着をつける必要がある。 そこでより機動力に長けたラファーガをアタッカーとし、加速力に長け間合いの広いブリガンディアを近接援護に、火力に長けたR−2が後ろから援護するというチームを組んだ。
 ライはここシェバトに上がる際はアルブレードを使っていたが、防衛の為と女王がユグドラシルをシェバトへ上げる際に一緒にR−2を運び込んでくれたのだ。
 「フォーメーションを確認するぞ。 敵機が見えたら即効で仕掛ける。手順は解ってるな?」
サイモンが後ろ振り返りながら、呼びかければブリガンディアとR−2の首が縦に動いた。 二人とも指揮官としての器がある以前に、立派な戦士である。 いちいち子供のようにあれだこれだと一から十まで伝えなくとも十二分にやれる。
 「俺が最初に敵機に肉薄すると同時に、王子様が仕掛ける。 ライ、お前はゴールキーパーだ。俺達がピンチだからって、持ち場は慣れるんじゃないぞ。」
 「皆まで言うなよ。 わ〜ってるって!」
 バルトが手をひらひらさせて軽口をたたくが、ライは「了解」と応えただけだ。 その様子にサイモンはふ・・・と口元を緩めただけだ。
 その時、センサーに反応があった。 情報どおり数は6。 いよいよここに仕掛けてくるのだ。
その刹那にサイモンとバルトの顔が引き締まる。 おちゃらけて見えても、修羅場を潜り抜けてきた歴戦の勇士だ。 気持ちの切り替えは速い。
 「いくぞっ!」


 「第3ジェネレーター配置完了よ。 さっさと来なさ・・・
 「さあ〜きやがれ! ソラリスのメカ怪獣! 俺様が相手になってやるぜ!」
 「ちょっと、通信に割り込まないでくれる?」
 「うるせえぞ小娘ども!」
 「・・・・・・・・俺泣きたい。」
 「我慢するの!お兄ぃ!」
 「全員黙りなさい。」
この第3ジェネレーターに配置されていたのは、紐尾結奈と赤城ほむら、そしてユグドラクルーのリコ。それに将輝と薙という一見して統制が取れそうに無いメンバーだった。
 指揮官としてヴィレッタが付いていなければ、ばらばらになってまるで効果を上げられない事は見え見えかもしれない。
 だが、この人選にも意味は有る。 情報ならばこの第3ジェネレーターに迫る敵部隊は、支援のホワイトナイト6機を含めた大型ギア3機による大部隊だったからだ。
 しかも敵の大型ギアは、通常攻撃タイプではなく、こちらの動きを阻害するような攻撃妨害機能が装備された特殊攻撃タイプという。
 そこで、相手が小細工で繰るならば、こちらは力で押してやればよい・・・という事になり、このメンバーということになった。
 リコのシューティア・ほむらのゴッドリラー・将輝のR−ガーダー・薙のグルンガスト参式。これらの機体はパワー重視の攻撃を得意とする。まさにうってつけの存在だった。
 そして紐尾結奈をメンバーに加えたのは、相手が未確認の特殊な攻撃をもつからだ。 科学や技術に強い彼女を連れてゆけば危険を回避できるかもしれない考えてのことだ。
 だがこの面子では統制が取れない。 そこでいざと言う時には一撃必滅の力を持つR−GUNを操るヴィレッタが指揮を執れば解決できた。
 「前衛はシューティア・ゴッドリラー・Rガーダー! グルンガスト参式と世界制服ロボはそれぞれ各機を援護! 雑魚は全て私が引き受ける。 お前達は大型ギアのみに専念しろ!」
 ヴィレッタの指示が飛ぶ。 素直な薙はすんなりヴィレッタの指示通り後方を下がり、最後方に待機しているR−GUNの前で待機する。 結奈もそれに習う。 これもヴィレッタが、各人の性格と能力を考えてのことだ。
 将輝はともかく、リコとほむらは認めた相手の言うことしか聞かない節が有る。 それにこの二人はチームプレーというものが苦手だ。 協調と言うものは十二分に理解しているだろうが、既に完成されている人格は、他人の意見を受け入れがたいものだ。
 ならば、各人の長所を活かせるようにしてやれば良い。 結果としてチームとしては結果が出る。
 そしてこの采配は正解と出た。 彼らの目の前に情報どおり、40mはあろうかという巨大なオケラ型ギアが姿を現した。 ヴィレッタはR−GUNの背部のハイツインランチャーを連射し、護衛の雑魚を足止めする。 その隙にシューティア・ゴッドリラー・Rガーダーが突っ込んだ。
 こう言った力押し的な戦法には最適任の連中だ。
 「よし・・・いける。」


 「こちら第4ジェネレーター! 配置完了。別命あるまで待機します」
この場に配置されたのは、アヤに香田奈、ビリーとアムリッタである。
 情報どおりなら、この場に迫り来る敵機はホワイトナイト3機と大型ギア1機である。 数の上では互角だが、内容に差があった。
 だが、この場に来る大型ギアは第3ジェネレーターのタイプとは異なり、特殊な機能を持たない直接攻撃型の機体らしい。
 だがその分、パワーと装甲には自信が有る。 ゆえにこの場は機動力に長けアウトレンジで相手を叩ける機体がチョイスされたわけだ。
 「香田奈さん、R−BUSTERは、小回りが利かない。 今回はコアトルーパーのみで?」
アヤが尋ねると、香田奈はR−BUSTERを変形させた。 普段はコアトルーパーがうつぶせに寝そべるような状態が基本なのに、今回は垂直に立てた状態になっていた。
 主翼が折りたたまれ、ブースターユニットの両端に装備されている念動レーザーキャノンが前に倒れ正面を向く。 そしてコアトルーパーがまるで椅子にでも座っているような状態になる。 これがR−BUSTER地上戦モードである。
 「あ・・・それがあったんだ。 それじゃ後ろから支援よろしく。」
アヤの言葉に香田奈は頷く。 この形態はホバー推進による移動で念動レーザーキャノンのメインとした移動砲台とも言うべき形態だ。 今回のような防衛戦闘向きと言えるだろう。 勿論接近されるともろい一面があるが、そこはコアトルーパー単独で使えばいいだけのことだ。
 そうしている間に、アヤ達の前に40mはあろうというハサミムシ型大型ギアが姿を現す。 前足の爪と牙がメインの武器のようだ。
 だが巨体の反面動きが鈍い。 それを護衛のホワイトナイトで補うつもりなのだろう。
アヤは瞬時に判断を下した。
 「ビリー君のレンマーツォは左のホワイトナイト! アムリッタ中尉は右のを! 香田奈さんは遠距離射撃で大型ギアを足止め! 中央のホワイトナイトは私がしとめる。 ホワイトナイト撃破後は、相手との距離を保って! 距離さえつめなければ勝てる!」



 女王の間で、戦況を見守っていたフェイ達であったが、時間が流れるにつれて勝利を確信しつつあった。
 第1ジェネレーターの歩兵部隊は、ボロンの傍若無人な攻撃とヴェルエルジュのエアッド掃射により沈黙した。
 第2ジェネレーターのホワイトナイト小隊は、ラファーガのミサイル攻撃を受け装甲をずたずたにされた後、ブリガンディアの鞭により破壊された。
 第3ジェネレーターの戦いも終わった。 3機の大型ギアは、敵の動きを鈍らせるジェル状の粘液を飛ばす攻撃をかけて来たが、それすら問題にしないように、一機はシューティアに持ち上げられた後、シェバトの外へ放り投げられ、2機目は粘液でゴッドリラーの動きを封じようとしたものの、ドリルの回転によりあえなく突破され、そのままドリルで貫かれた。 3機目はR−ガーダーの体当たりにより破壊。
 第4ジェネレーターの大型ギアとの戦いは意外に早く決着が付いた。 護衛のホワイトナイトを落とされた大型ギアは、動きのすばやいラファーガとレンマーツォの動きについてこれず、2機のバルカン砲の一斉射撃をモロに浴びたところを、トドメとばかりにR−BUSTERとR−3の念動レーザーキャノンに貫かれ爆発四散した。

 「やったぞみんな! ジェネレーターは4期とも無事だ!!」
シェバト攻撃のために放たれた敵部隊を全て撃墜し、防衛に成功した喜びに女王の間でフェイ達は喝采を上げていた。
 「さて残りは・・・」
 ジェサイアが別モニターに目をやる。そこには赤いギア・・・アハツェンが浮かんでいる。 向こうも今の状況は解っているだろう。 味方が全滅した今となってはたった一機で何が出来るのか・・・と、軽く考えることは出来なかった。
 何故ならば、アハツェンは味方が全滅することすら想定していたような口ぶりでこちらに呼びかけてきたからだ。
 
 「やるではないか。 ならば・・・これの実験台になってもらおうか?」
 ガコン・・・・アハツェンの胸部装甲の中心が左右に開き、中から何か機械が顔を除かせている。 何らかの武器か・・・?
 カッ!! まるで電子レンジの加熱する光に似た光線がアハツェンの胸から放たれた。 直接的な攻撃力はないようだが、その広範囲に放出された光波はシェバト中を多い尽くした。
 「い!今のは!?」
シタンが叫んだ。 いやな予感がする・・・
 「今のはアハツェンの新兵器、対機動兵器用のサイコ・ジャマーだ!!」
 アハツェンから勝ち誇ったような言葉が飛び出る。 「ジャマー・・・何かの妨害機能か?」とリュウセイが呟いた刹那、それは起こった。
 「な!なんだ!ブリガンディアがうごかねえ!!」
第2ジェネレーターの防衛についていたバルトが悲鳴に近い声を上げた。 モニターを見れば、バルトのブリガンディアだけではない、同じ第2ジェネレーターにいたサイモンのラファーガ、ライのR−2もひざを折り、その場に崩れるように倒れこんでいる。
 「こ・・・こっちもダメ!ヴェルエルジュが・・・」
エリィが泣きそうな声を出す。 
 続いて、他の場所にいるメンバーも同様だ。 第3、第4ジェネレーターにいた全てのロボット達が倒れている。 皆動く気配がまったくない。
 「くそっ!動け!動くんだよっ!」
ほむらがゴッドリラーの操縦桿を闇雲にガチャガチャ動かすがゴッドリラーは反応しない。
 「うるさいわね。 落ち着きなさい。通信システムは生きているところを見ると・・・・操縦系? いや・・・操縦桿は一応反応するから、メーンコンピューターから各動力部への神経伝達系・・・ね。」
 冷静なのは紐尾結奈だ。 彼女は世界征服ロボの中で冷静にこの状況を分析していた。
 「おい!紐尾!どういうことだよ解るように言えっ!」
ほむらの言葉に「うっとうしい・・・」とばかりに顔をしかめる結奈であったが、仕方無しげに答えた。

 「いいこと? これは一種のジャミング・・・妨害電波の一種と考えていいわ。 その妨害電波でロボットの神経回路を麻痺させているのよ。 心配しなくてもいいわ。 あのクラスの機動兵器から放たれたんですから、一時的なものよ。 30分もあれば自力で復旧できるレベルよ。」
 結奈はそう言いながら計器をいじっていた。 いくら一時的とはいえ自分に醜態をさらさせたアハツェンを憎たらしげに睨みながらも、復旧できるかどうか調べていた。
 「30分だと!? それだけあれば・・・」
 サイモンがモニターからアハツェンを睨みつけながら吐き捨てるように言った。

 「それだけあれば、貴様らをシェバトごと葬るには十分だ。」
アハツェンが笑ったようなそぶりを見せた。
 「人間とは、なんと不完全で愚かな生命であることか・・・・。
        お前達に偉大なる生命の強さを見せてやろう!!」
右腕の大口径砲を振りかざし叫ぶアハツェン。
 「人の知恵と、鋼の強さをそなえたこのアハツェンの力を、な。」

 「まずいな・・・このままじゃ手も足も出ない。」
フェイがこぶしを握り締める。 恐らく今の状況では待機状態のヴェルトールもR−1もツインザムも同様に動けない。 このままでは万事休すだ。
 「いや・・・そうとも限りませんよ。 見てください。」
 倒れ動けなくなったオンディーヌ隊のロボット達を見下すように大口径砲を構えたアハツェンに、いきなり虹色の光線が放たれた。
 
 「むっ!?」
 光線を回避したアハツェンだが、間髪入れず「死ねぇぇっ!」と、巨大な鉄球が振り下ろされようとしていた!
 「なんとオッ!」
ガシィッ!! 振り下ろされた鉄球を両手でがっしり受け止める。アハツェン。 見ればガスタンクのボディに様々な民間建造物が連結された不恰好なロボットがアハツェンに向けて左手を振り下ろしていた。 鉄球の持ち主はこのロボットだった。
 「でかい図体の割には、いい動きするわね〜この自意識過剰ロボ!」
 「ほう・・・?ジャマーが効かないとは、いったいどんな原理で動いているのやら・・・実に興味深い。」
 不恰好なロボット・・・ポリンのボロンは、元々民間建造物をポリンの魔法で強制連結させて作られているロボットである。 その為通常のロボットのような回路やコンピューターは存在しておらず、その為にジャマーの効果を受け付けずに行動できたのだ。
 「ポリンちゃん! 空中戦は不利よ!シェバトのセンターブロック頭頂部へ引き摺り下ろすの!」
女性の声が響く。 アハツェンがボロンの鉄球を受け止めている間に、青色の巨人がアハツェンを後ろから羽交い絞めにする。 ケイが変身したパルシオンだ。
 「こいつもジャマーの支配下から逃れているのか!?さっきの光線はコイツか!」
前後をボロンとパルシオンに抑えられては、さしものアハツェンも分が悪い。 不自由な姿勢のままシェバトの頭頂部へ引き摺り下ろされた。
 パルシオンは生きた鎧。 その為ボロン同様、機械的構造を持たないのでジャマーの影響を受けることはない。 羽交い絞めにしたアハツェンを頭頂部に叩きつけた後、馬乗りになって殴りつけるパルシオン。

 「いいぞ! そのままやっちまえ!!」
フェイが激を飛ばす。 モニターの中ではアハツェンは成す術無くパルシオンに殴られ続けている。
 「このままなら勝てるぜ先生!」
フェイが期待した顔でシタンを見るが、シタンの顔は険しい。 またジェサイアやゼファー女王の顔も・・・
 「そう上手くいけばいいんですが・・・」



 次回予告

 シェバト攻防戦もいよいよ次でラスト!! 果たして守りきれるのかオンディーヌ隊!!
 ソラリスの新型ギア『アハツェン』の力は予想以上!! 窮地のオンディーヌ隊を救うあのピンク色の影は何だ!!
 次回、サイバーロボット大戦 第四十話 『父との絆!合体攻撃グラヴィトンブレイザー!!(後編)』
 次回もゼプツェンって、ドイツ語で『17』って意味なんだよで、すげえぜ!!