第三十八話 『父との絆! 合体攻撃グラヴィトンブレイザー!!(前編)』
宇宙の闇に浮かぶ無数のスペースコロニー。 増えすぎた人口を地球が維持できなくなる為を防ぐ為に作られた人工の大地。
だが、宇宙への移民は新天地を求めて希望に沸き、自らの意思で地球を離れた物達ばかりではなかった。
中には政府の命により強制的に住み慣れた大地から追い出された者も少なくない。
そして・・・移民者達の過半数は、移民費用を政府からの借金・・・三代にわたる膨大なローンを背負わされ、しかもコロニー維持の為に多額の税をも押し付けられていた。
そんな政府からの下手な消費者金融よりも悪質とも言える借金地獄に移民者達は苦しめられていた。
そして、その生活苦からの怨み・妬みは当然の事として負の感情として湧き上がり、当然の事として政府への反発を生み出した。
そんな状態では、コロニーを独立国家として政府に認めさせるための運動も当然のように起きていた。
そして・・・統合宇宙歴197年の連邦政府崩壊により、宇宙コロニー達は、ついに悲願であった独立自治権を手にする事が出来た。 こうして移民者達はついに地球政府の奴縛から放たれたのだ。
移民者達は、この喜びと独立を永遠の物とするべく、『コロニー統合府』を設立。 コロニーのみの行政府を立ち上げる事によって、この独立を維持しようとしたのだ。
そして、その初代大統領には、かつて連邦政府の政治家でありながら、コロニー独立自治権運動のリーダーでもあった「ブライアン・ミッドグリッド」が就任。 その優れた政治手腕と平和主義者として一目置かれた彼の存在は大きく、コロニーの平和と独立は保たれたと思われていた。
だがコロニーの独立自治は、新たな問題を生み出す事にもなった。
コロニーの独立が成り、連邦政府が崩壊すると同時に、それまで帰属していた場所を失った者達が溢れ出したのだ。 そう言った帰属すべき場所を失った者達によるコロニー移民が急増した。
移民は全てが順調に行われたわけではない。 帰属すべき場所を失った『元・地球居住者』達は、現コロニー居住者達にとっては、『自分達が苦労して成し遂げた土地に、何の労もせずに入り込もうとしている厄介者』に過ぎなかったのだ。
当然の事ながら、先住移民者と元地球居住者たちの間で、トラブルは多発していた。 コロニー統合府はそれらに対し、コロニー内の治安維持に遁走する事になり、中にはコロニー統合府軍を治安出動させ鎮圧した事すらあった。
そんな中、先住移民者達にとって、地球に今まで住んでいたエリートどもが自分たちにへつらう姿を見せている姿に歓喜し、浮かれ喜ぶコロニーもあった。
それは、時代に逆行し選民思想が強く、人種差別すら奨励するコロニーであった。 彼らは元は地球でも選民思想や人種差別が大きい地域や貴族階級主義者達の末裔であった。 そんな彼らは自らの選民主義が通用しない連邦政府の平等主義の時代が非常に気に入らなかった。 人は協力し合う者ではなく、使う物として見ていた彼らには同族意識すら薄い。
そんな彼らにとって連邦崩壊による独立は非常に都合がよい物であった。 独立国家として認められるようになった彼らは、まさに先祖達がそして自分たちの心の奥底に閉じ込めていた思想と主義を蘇らせるにもってこいの状況だったからだ。
そして独立が成ると彼らは本性を露にした。 徹底的な人種差別と選民・居住者達を1等から3等までのランク付け・ランクに応じた生活環境と居住場所の厳守などetc・・・
そして・・・地球居住者や同胞である他のコロニー居住者ですら、同族として見なくなり徹底的な平等主義への反発・テロ・侵略・拉致・生体実験・・・・
彼らにして見れば「自分たちこそ本物の人間」であり、他の者達は家畜同然としか見なかった。
天帝と呼ばれる絶対者を頂点に抱き、『ガゼル法院』と呼ばれる最高統治機関による統治。 優れた超技術を用いた強大な軍事力・・・
そしてその力は、統合宇宙歴199年現在、地球圏最強とまで謡われるまでに膨れ上がった。
そんな彼等の住むコロニーを『神聖ソラリス帝国』と呼ぶ。
ソラリスの最高統治機関『ガゼル法院』。
その実体は、国会の議事堂のような場所で、政治家たちが集う場所ではない。
学校の体育館ほどの大きさの暗がりが広がる巨大な空間だ。 空間を包む内壁にはコンピューターの基盤のような・・・むしろそれと同じ様なもので包まれている。
そして、異様な空間の中央に、巨大な黒い球体が浮き、一定間隔でぐるぐると廻っていた。
その廻る球体から、何か映像が投射されていた。 空間に浮かぶ映像・・・それは全身を額と目を除く顔の全てを黒いローブで覆った老人。
その数・・・8。
この老人の立体映像こそ、ガゼル法院の正体であり、ソラリスを操つり統治していた者達であった。
立体映像から投射されている事から解るように彼らには実体は無い。 かと言って完全なコンピューターでもない。 彼らはかつては人間であり、その意識や感情をコンピュータ上のデータバンクとして保存しているのだ。
そのガゼル法院の面々(?)は、新たに報告された事案に対して苛立ちと怒りを覚えていた。
ゲブラー総司令官であるラムサスが逃げかえってきた上に、TDFとシェバトの接触を許したからである。
現在、ソラリスにはある計画が進んでおり、その準備が整う前に、TDFをはじめとした各勢力の攻め込まれるわけにはいかなかったからだ。
ただでさえ、宇宙最強と呼ばれた軍事力は今や見る影も無い。 原因はDN社の新興勢力『RNA』。 DN社の幹部の一人、アンベルWによって組織されたこのRNAが有する『第二世代型VR』の力は、ソラリスが有する主力兵器『ギア・アーサー』を凌ぎ、ゴルディバス軍を頂点に置く異星人連合すら退けたのだ。
TDFへの時間稼ぎとシェバトへの接触を断つためと派遣したラムサスは返り討ちに合い、役に立たなかった。
こうなっては次の手を打つしかない・・・・
ガゼル法院のコンピューターと化した老人・・・『元老』と呼ばれる彼らは議論を重ねていた。
「我等の憑代の型、合わなければ意味がない」
「シェバトごと葬り去るか?」
「『アニムス』はどうする?」
「他にもある・・・」
「シェバトのゲート、どう処理する?あれがある限り侵入できぬぞ」
「なに、アハツェンの重力子砲で空間の歪みを補正すればよいだけのこと」
「アハツェン?出せるのか」
「再教育は済んだ。いけるよ・・・」
「人体への影響は?」
「調整済みの、71式降下兵ならば問題ない」
「それは楽しみだ」
8人の元老達は笑っているようなそぶりを見せた。 議論が終わると同時に映像の投射も終わり、空間にはコンピューターが放つメーターランプの輝きと機械音のみが響いた・・・
「ここがシェバト・・・・『エアリアルベース計画』の生き残りか・・・」
空中浮遊都市シェバトへ辿りついたオンディーヌ隊。 指定されたロボットの格納位置にR-ガーダーを移動させながら、そこから見える光景に将輝は軽い驚きを隠せなかった。 地上数千メートルに達するこんな場所に、都市が存在している等信じられなかったからだ。
ソラリス所属の重量級ギア『ゼプツェン』とその操縦者『マリア・バルタザール』と呼ばれる少女に導かれ、オンディーヌ隊がやってきた場所・・・
ソラリスに匹敵する技術力を持ちながら、国力の乏しさから攻勢に出る事が出来なかった彼らシェバト。 果たしてこんな所に、ソラリスを打倒する情報を持っているのか・・・?
将輝はそんな事を考えながら、案内されるがままR−ガーダーを降りた。 この格納場所はシェバトの中心部。浮遊都市は昔流行ったアダムスキー型UFOを思い浮かべてくれれば解り易いだろう。 そんなUFOのような形をしている。 中心のシャフト部を軸にして幾重もの階層が連なっている。
格納場所は、重要ポイントらしくその中心シャフト部に設置されていた。 戦力が乏しいシェバトにとっては機動兵器1機も御宝なのだろう。
「私はゼプツェンの整備がありますので、先に女王の間に行って下さい。」
マリアと名乗った少女は、ロボットから降りたオンディーヌ隊の面々をシャフト中心部のエレベーターへと案内すると、そのまま引き返していった。 将輝はそのエレベーターから見られる光景に軽い感動を覚えた。 そこから見える光景はここが空中であると言う事を忘れ去れるのに十分な町並みを見せていた。 この遥か上空で何十年も生きてきた人々の命の力を感じていた。
通行の途中でシェバトの人々達の話も聞く事が出来た将輝は、一人の老人が語った言葉が頭に残った。
『昨日の涙を、明日の笑顔に変えるところ』
完全な自由独立国家としたシェバト。 元々は軌道エレベーター建設の為の場所・・・未来への希望に満ちた場所であったのだ。
エレベーターを降り、市街地に出た一行。 そこから見える光景はコロニーに近い感じがした。 だが外壁に近い居住区の一部が戦闘による物と思われる行為によって破損していた。
少しばかりの寄り道だ・・・とばかりに、破損したブロックを見に行けば、かつて幸せな家庭が築かれていたであろう一軒家の廃墟。 鉄壁な首尾が施されているシェバトとはいえ無敵ではないのだ。
その中に壊れかけたオモチャの木馬があった。 シタンが触ると軽く動き出した。
「この部屋の子供たちは、どんな明日を夢みていたのでしょうか・・・」
悲しげに呟くシタンに、傍にいたビリーが拳を握り締めた。 女性っぽい美しい顔の彼の表情が怒りに満ちる。
「なんでこんなことが続くんだ?」
「終わりは・・・終わりはないから・・・。戦いと、人の憎しみには・・・」
声をかけたのは先ほどの巨大ギアに乗っていたマリアだった。 彼女が言うにはこの家は修復せず、あえてそのまま残しているのだと言う。戦いの・・・戦争の悲惨さを忘れない様にと・・・
そろそろ女王の間に・・・と言うマリアの言葉に一行はその場を離れるが、将輝は最後までこの部屋が気になっていた。
「俺は・・・こんな部屋から人を助けることを目指していた・・・。 先輩が死んだ所と同じようなこんな場所から・・」
そう言って強く拳を握り締めた。 その将輝を香田奈が後からそっと抱きしめて囁いた。
「そうだね・・・じゃあもうこんな思いをさせない為にもこんな戦争終わらせなきゃね・・・」
「うん・・・行こうか・・・」
シェバトの中央シャフトよりやや離れた場所にそれはあった。 シェバトの中央コントロールブロックを拡張・改造して作られた『王宮』が。
見かけは確かに中世の王宮を思わせるデザインなのだが、中身はそこいらの軍司令部にも引け劣らない整然とした近代的なシステムが整えられた建物だった。
中世的に見えるのは見掛けだけ、廊下や壁、そこいらに立っている調度品全てが中世的な外観をしたハイテク素材が用いられていた。
古い物に見せかけているのも、ごく閉鎖的なこのシェバトの女王制と言う古めかしい内政システムを維持するに役に立っていると言う。
女王の間に行くまでにマリアにこの王宮を案内してもらい、シェバトの各部署のいる人々の話を聞くことによって色々な事が解った。 それはオンディーヌ隊が特に欲していたソラリスに関する『情報』と言う意味でも大きい成果だった。
連邦崩壊の直後に起きた大戦により、世界はまた旧西暦のような強国が支配する時代に逆戻りしたのは知ってのとおりだが、ソラリスはそれに伴いより大きな支配を目指す為、先史文明を復活・利用したのだ。
コロニー国家であったソラリスが強く地上支配を求め、地球居住者を同族扱いしなかったのは、かつて自分たちの始祖が住んでいた地域に眠る先史文明を独占・秘匿する為だ。 これが今のアヴェ=イグニスエリアに値するそうだ。 そのソラリスの始祖は太古に「ガゼルの法院」という12人の長老を中心に強大な軍事力で世界を支配してた。
しかしそんな支配に対して他の国家が立ちあがり、反逆ののろしが上がり、大きな戦争が起こった。
長い戦いが続き、降着状態に陥った両陣営に突如第三の敵が現れた。
その第三勢力は『ディアボロス』という謎の軍団で、皮肉にもこのディアボロスによって、人間同士の戦いは終止符を打たれた
。
記録によると「強大無比、恐れも情けももたぬ、死の天使たち」と呼ばれ、この星の全てを根絶やしにしようとした恐るべき軍団であったそうだ。
絶滅寸前の人間をディアボロスから救ったのが、神の知恵によって創られた巨人・・・<ギア・バーラー>と呼ばれる鉄巨人だったそうだ。
ロニ・ファティマと言う青年が操る巨人や仲間の若者たちが戦って、ディアボロス軍団の中心たる存在を倒したと言う 。
<ギア・バーラー>・・・それは全てのギアを超越する存在。今もアヴェ王家の秘宝としてイグニスに眠ると言われている 。 イグニスエリアを支配するアヴェの摂政シャーカーンが躍起になって発掘に力を入れているが今だ見つかってはいない。
大戦後、生き残った人々は世界を復興させた・・・
だが、こうした太古の先史文明の歴史を殆どの人々は知らない・・・。それは、ソラリスの始祖が頑なに封印し、人々の記憶からそれを消し去ったからだと言う。
ソラリス人達はそれらを発掘した後、復活させたのだ。 かつて地上全てを支配したほどの力を持つ自分たちの始祖の力を得ようとしたわけだが、現在は逆に自分達のルーツに影で支配されていることになっているという・・・
現在のソラリスを統治しているガゼル法院が必死で探してるのは、神の知恵によって創られた12の『アニマの器』と言う先史文明が残した謎の物体。 そのアニマの器とギアが融合変化した状態を『ギア・バーラー』と呼ぶというのだ。
「融合変化!? ギア・バーラーは、発掘されているギア・アーサーのオリジナルではなかったの!?」
シェバトの情報統括担当に情報を聞かされ、驚きの声をあげたのは意外にも紐尾結奈であった。
オンディーヌ隊の主任技術者兼メカニックとして、数多くのロボットに触れている彼女にとっては予想外の事実だった様だ。
「それは半分正しくて半分謝った解釈です。 ギア・バーラーは確かに現在発掘されているギア・アーサーのオリジナルと言うべき物ですが、似ているのは外見だけで似て非なる物なのです。」
結奈は今まで幾つかのギア・アーサーを見て・触れ、調べた結果、『粗悪な改造車』と言う結論を出していた。 主動力であるスレイブジェネレーターはへたって全盛期の50%も出せていない。 外装に関してはありあわせの物で代用して見かけだけ立派にしているだけ、下手な走り屋や暴走族が使っている違法改造や下品なエアロパーツで飾り立てたような物。
フェイやバルトが使っているギアとて、比較的保存状態のよかった物をベースに既存の技術でオリジナルに『近い』状態に仕上げているだけ・・・と踏んでいた。
例外的に、エリィやビリー・リコのギアはソラリスによって制作されたオリジナルに極力近い言わば『レプリカ』だと思っていたらしいので、結奈は軽いショックを受けた様だ。
「・・・発掘ギア・アーサーが粗悪な改造車で、ソラリス製ギア・アーサーがレーサーレプリカ、ギア・バーラーはオリジナルの新古車と考えていたけど・・・」
「レースのためだけに作られた市販を考えないフォーミラーカーですね。」
アニマの器は前述の通り全部で12。 人間の脊椎に似た形をしており、機動兵器のリアクターとして使用する事によって超絶的な力を発揮するという。 『ルベン』『ナフタリ』『シメオン』『ディナ』『ダン』etc・・・と名付けられているらしく、係員が最後に『アシェル』と言った時、かすかにシタンの表情が動いた。
だが、何故そんな物が機動兵器のリアクターとして使用できて、そんな力を発揮できるのかはソラリス側でも把握している人間は殆どいないと言う。 太古の記録に人型機動兵器に使用したと言う記録が残っているだけだったと言う事から、そのまま模倣したのではないか?と、言われている。
「多分・・・元々『知っていた』のかもしれませんね・・・アニマの器自身が人型兵器と重なり合う様に・・・」
結奈ではなくシタンがそう呟いた。 その時、シタンは何かを確かめる様に自身の眼鏡に触っていた。
「(アシェル・・・アニマの器・・・懐かしい響きがしますね。 なにかこう・・・記憶が蘇ってくるような感じがしますよ・・・。そうですね・・・その言葉を聞くと、妹の事を思い出すような・・・)」
シタンの表情が少し変わった事に気付いたのか、フェイが話かけた。
「あれ?先生、何か考え込んじゃって、どうしたんだい?」
「いえね・・・ふと妹の事を思い出しましてね。」
「妹? 先生、妹がいたんだ。どんな人なんだい」
「ははは・・・私と違って芯のしっかりして頭のいい自慢の妹ですよ。 いつもふらふらしてて半年として同じ仕事が続かなかった私にいつも飽きれてましてね、『ダメな兄貴』と小言を言われてばかりでしたよ。」
「ああ!確か良い所の企業に就職して、主任になってるんだよな。」
フェイが思い出した様に笑みを浮かべて言うとシタンも笑みを浮かべて頷いた。
「そうなんですよ。 半年以上も家に帰ってこないし、帰って来れば先輩からのプレゼントだったって言う眼鏡を外してましたよ。」
「俺は眼鏡外している所しか見てないけど、眼鏡かけてたんだ。似合う感じは確かにしたよ。」
──ッ!?
その時になって二人の会話は止まった。 何故だ?何故シタンの妹の事をラハン村から出た事の無いフェイが知っている? シタンが半年と同じ仕事が続かない?少なくともシタンは3年は医者をしている。
それ以前にシタンに妹がいたのか? シタンはソラリスにいた時に両親と死別していて、他に兄弟はいなかったはず。 それなのにフェイとシタンが『存在していない』筈のシタンの妹の話題が出るのだ!?
「先生・・・妹さんの名前、言えるかい・・・?」
「フェイこそ・・・まるで出会った事があるような口ぶりでしたよ・・・言えるんじゃないんですか?」
自分たちの発した言葉に茫然となる二人・・・。 そして二人が同じにシタンの妹の名を口にしそうになったとき・・・
「二人ともどうしたの? ほら・・・フェイも先生も行くわよ。 全く・・・シオンの事で随分と盛りあがってたみたいだけど。」
半ば呆れ気味にエリィが言い、二人に背を向けた。 平然とエリィの口から出た名前に二人はまるでキツネにばかされたような顔をして、『なんでエリィが知ってるんだ!?』と同時に思った。
「フェイ・・・今の事は別の機会にでも話し合うことにしましょう・・・彼女・・・エリィを含めて。」
シタンの言葉にフェイは黙って頷いた。
さらに話を聞くと、アニマの器はいくつか発見されているものの、残りはどこかに埋まったままだと言う。 またその融合も、相応しい「同調者」がいないと起こらないそうだ。
「凄い・・・実に興味深いわ・・・」
ギア・バーラーに関する情報に、何か言い知れぬ不気味な笑みを浮かべる結菜に気づいた者はいなかった。 しかし情報担当が最後に「古の記録によるとアニマの器は『人と無生物が融合するため』のもの」・・・と言う言葉を結菜は耳に入れなかった・・・
さらにオンディーヌ一向は、次いでシェバトの研究セクションに案内された。 女王に会う前に、ソラリス攻略の為の情報を少しでも提供したいからとの事だ。 隊長のヴィレッタに続いてアヤとライが携帯端末を持って研究セクションに通された。 軍機にあたるものがあるのでは?と、ライが心配したが、研究セクションの担当者は「女王から全面的にTDFに協力するように仰せつかっていますので」と言う返事が。 それだけ信頼されているのか。
「これは、裏切れないわね。 裏切ったりでもしたら報復が怖そうね。」
と、ヴィレッタは軽く笑みを浮かべていたが、アヤとライは笑っていなかった。
通された研究セクションでは、文字通りさまざまな研究が行われている。 大学の研究室を大きくしたような雰囲気を与えていた。 最近では対ソラリスに的を絞り、遺伝子操作・生体兵器や武器の解析に重点が行われているらしい。
「生体兵器?」
ライの言葉に研究員の一人がうなづいて、研究セクションに隣接した小型の機動兵器ハンガーに案内してくれた。 そこにはソラリスギアだけでなく、さまざまな機動兵器が置いてあったが、研究員が示したのはTDFやコロニー統合軍でも比較的良く使われている機動兵器、VA(ヴァリアント・アーマー)であった。
「このVAは、1年前にコロニー統合軍が極秘開発してテスト中に事故を起こした物をソラリスが鹵獲、研究用にしていた機体です。」
そのVAは水色の外装を持ち、全体を曲面で構成された機体であった。 航空機のような二枚の主翼を背中に、猛禽類のような爪状の足首。両肩に中口径のビームキャノンまで装備されていた。
「<UVA−01 ヘリオン>・・・です。 ソラリスに潜入させてました工作員が奪取して来ました。」
「これと、生体兵器にどんな関係が?」
「この機体は完成していれば、生体兵器・・・もしくは生体エネルギーで稼動する無人機となる予定だったそうです。 そこにソラリスが目をつけたわけです。」
研究員の話によると、このヘリオンと言うVAは、コロニー統合軍でも軍部の一派が独断で開発していたらしい。 コロニー統合軍(以降:C統合軍)は、人間の精神力を物理エネルギーに変換・増幅する技術を研究中であった。 そしてこのヘリオンはその雛型となるべく開発されたVAであった。
また搭乗者とVAを直接神経接続することで、生体エネルギーを効率よく活用し、また操縦桿やペダルと言った操縦法ではなく搭乗者とVAが文字通り『一体化』することで極限の反応速度を得ようとしたのだ。
機体に残されたデータによると、C統合軍のサイボーグ兵士が被験者となり、テストを行っていたが、予想以上の生体エネルギーに機体が暴走してしまい、模擬戦の相手を務めていたVA一個小隊を壊滅させてしまったという。
そして制御を失い、漂流していたところをソラリスに回収されてしまったということである。
シェバトの工作員がソラリスに潜入した際、すでにデータを取り終えたのか、破棄処分寸前であった所を奪取してきたのだと言う。
「一年前・・・? C統合軍のサイボーグ兵士!!」
アヤが何かに気づいたように表情を変えた。 彼女は以前、仲間の一人であるVAパイロットのジン=サオトメが、サイボーグ兵士を探していると言うのを思い出した。
「もしかして・・・。 そのサイボーグ兵士というのは・・・」
アヤは携帯端末に以前、ジンから見せられたサイボーグ兵士の写真をコピーしていた。 彼から何か情報を掴めたら・・・という理由から。 アヤは写真を研究員に見せた。
「いえ・・・あ、その写真の人物か不明ですが、搭乗者は『シェイド』と言うサイボーグとなっていました。」
その言葉にアヤはそして今一度ヘリオンと呼ばれるVAを見た。
「そう・・・コレに乗っていたの」
「それで、そのシェイド・・・サイボーグ兵士は今何処に?」
何でもソラリスに回収されたときにいっしょに捕虜になっている可能性が高いと。 ヘリオンを奪取して来た工作員も搭乗者であったサイボーグ兵士の安否までは解らないが、生体実験や人体実験を日常茶飯事のように行っているソラリスならば、サイボーグは格好の研究資料だろうとの事だからと言っていた。
「彼を・・・ジンをウチに引き止めておく理由ができたわね。」
ヴィレッタはそう言って、担当者からの情報集を続けた。 そして、その内容はヴィレッタはある程度予想していたらしく平素そのものだったが、アヤとライはあまりの事に表情を曇らせた。
その内容とは、地上はソラリスの実験室・・・地球居住者は素材としてしか見られていないことであった。 遺伝子操作、異種交配、思想制御・・・そうやって生体データ、戦闘データを集めてるのだという。
でもそれだけではなく、先ほど話題になった『アニマの器』と同調できる優れた生体を作り出すことももくろんでいるというのだ。
「どういうこと? 同調者ってのはさっき聞いたけど、作り出すって・・・」
アヤが怪訝な顔をすると、ヴィレッタは平然と口を開く。
「簡単なことよ。 ソラリスが躍起になって探しているギア・バーラー。躍起になるくらいだから恐らく凄まじい兵器なんでしょう。 だけどパイロット・・・同調者がいなければ役に立たない。 だから人工的に同調者を作り出そうとしてるんでしょうね。 人体実験や生体兵器なんかもその為・・・いやその過程で生み出されたものかもしれない。 自分たち以外を人間としてみないと言う思想のソラリスならではね。」
くっ・・・と、アヤは拳を握り締める。 解っていたはずなのに怒りが湧き上がる。彼女にとっては戦う為だけに利用される存在を数多く知っていた。・・・・彼女自身がそうであったように。
だが、アヤ自身は身体になんらか人為的操作を加えられたわけではない。 だがソラリスと言う連中は平気でそれをやる・・・。 もちろんソラリスすべてがそういった訳ではない。 憎むべきはソラリス人ではない。 それをやらせているガゼル法院だ。
「倒すべきはガゼル法院・・・こいつ等さえ何とかすれば、少なくとも地球人同士で争うことはなくなる・・・」
アヤはそう心に結びつけた。 一時の感情にとらわれていただけでは戦いには勝てない事をしっているからだ。
そしてもう一つ、重要な事が解った。 何故ソラリスに対し、イグニスエリアの人々がバルトの様な地下組織以外は、易々とソラリスの軍門に下っていたり、拉致されていたという事である。
ヴィレッタ達は、ソラリスの圧倒的な軍事力のためと思っていた。 もちろんそれは間違いではない。 だがもっと根本的な原因があったのだ。
「刻印(リミッター)?」
聴きなれない言葉に、ヴィレッタは思わず聞き返してしまった。 担当者は頷き資料を見せながら説明してくれた。
<刻印(リミッター)>とは、ソラリスが作り出した能力抑制処理で、これによってイグニスエリアの人々は本来の能力を抑え込まれているらしい。
それだけならば大きな支障はないらしい。人間と言うものは身体能力に抑制機能が組み込まれているのは当たり前のこと。 そして何らかの危機的・突発的状況において人間の抑制機能は解除され、人間本来の機能が100%発揮されることは科学的に実証されている。
「俗に言う『火事場のクソ力』ってやつね。 ケイ達ゲッP−Xチームが謎のギアと戦ったとき、ゲッP−Xが一時的にだけど、考えられない位のパワーを発揮した記録がある。 それよ。」
ヴィレッタの言葉にライが頷いた。 確かに通常のパワー数値が95であったゲッP−Xが、その時だけ7000までパワーを上げたという記録が残っていた。
「その火事場のクソ力が封印される・・・か。 ゲッP−Xにしてみれば天敵のような処理ね。 ケイのパワーの源みたいなものが抑えられるなんて。」
ヴィレッタの言葉にアヤの脳裏には、パワーが足りず、いつもの技のキレがなく苦戦するゲッP−Xが浮かび苦笑していたが、シェバトの担当者は笑っていなかった。
「それだけで済めばいいんですけどね。 その・・・火事場のクソ力ですか? そんな生易しいものじゃないんです。 確かにその火事場のクソ力の抑制もあるんですけど、もっと恐ろしい事があるんです。」
そして担当者から放たれた言葉に、アヤもそうだが、いつも冷静なヴィレッタさえわずかに表情を変えたほど恐ろしいものだった。
刻印(リミッター)の真の目的は、その名の通り、人間本来の能力を抑制しているだけではない。 真の狙いは地球居住者・・・主にイグニスエリアの人々がソラリスの管理から離れ反乱を防ぐための物だと言う。 しかもソラリスに対する記憶も封印されているという。 これを遺伝子レベルで組み込まれているためだというのだ!
つまり、これを施された人々は、火事場のクソ力を使えないばかりか、ソラリスには無条件に平伏し、絶対服従。
またソラリスの始祖たちが持っていた高度な先史文明の記憶も遺伝子レベルで消去されているため、バルトのように遺跡から先祖の兵器を発掘して使用とする事も困難になってしまうのだ。 『元よりそんなものは存在してない』と遺伝子に受け付けられているからだ。 発見して初めて「ああ、こんなものがあったのか」と・・・。
さらに恐ろしいのは、その刻印(リミッター)の処理の仕方だ。 拉致され注射や薬物によって強制的に処置が行われる事もだが、ソラリスから輸出されている食品や薬品にすらそれらの刻印(リミッター)を組み込んだものが地上に流出しているというのだ。
つまり、イグニスエリアを初めとしてソラリスと流通のある地域の食品や薬品は殆どが刻印(リミッター)を組み込み/維持する為のプログラムが含まれているといっても良い。
「で・・・では!?我々もその影響を受けていると!? 少なくとも私はイグニスエリアの人間ではないが、イグニスエリアでの食品を口にしてしまっています!」
アヤが驚愕して詰め寄った。 もし刻印(リミッター)が話通りの能力を持っているのなら、今後ソラリスと戦えなくなってしまう可能性が濃厚だ。
「その辺りは確証はもてませんが大丈夫と思われます。 少なくとも貴方がたはソラリスの影響をそんなに受けていないはずです。 食品や薬品を通じて摂取した刻印(リミッター)は定期的に維持しなければ影響が出にくいのです。」
どうも食品だけの場合だと、長期的に維持しなければ影響が出ないという事でアヤはひとまず安心した。 だが自分達は良くても、イグニスエリア出身のフェイやバルトはかなり影響を受けている可能性があった。
「どうにか・・・できないのか? その刻印(リミッター)から人々を解放する方法は・・・」
ヴィレッタの不安を担当者は「あります」と答えた。
「刻印(リミッター)から人々を解放する方法はあります。 ナノテクノロジーを使うんです。」
「ナノテクノロジー・・・・だと?」
ナノテクノロジー・・・・・それは1mmの百万分の一の微小機械を利用した技術だ。 本来は外科手術不可能な病の治療や、遺伝子疾患等の治療に使われているが、建設や軍事と様々な分野に転用可能な凄まじい力を秘めた技術だ。
例えば、オンディーヌ隊のメンバーの一人、レイカの操るディアナ17の外装にも使われている。 外装表面にWAX状に塗りこまれたナノマシンで、ディアナの外装は軽症程度であればナノマシンが損傷箇所を埋め、自己修復してしまうのだ。
「ここシェバトには3賢者と呼ばれる分子工学の権威が在籍しておられたのです。 あの方達ならば・・・」
話によると、シェバトには、3賢者と呼ばれる天才科学者が在籍していたらしい。 だが彼らは度重なる戦争に人間に嫌気が差し、人知れず姿を消してしまったということだ。
現在はその3賢者が残したデータを基に刻印(リミッター)の解除法を研究中で、あと一歩の所まで迫っているという。
「ソラリスにとって、刻印(リミッター)を解除されることは死活問題のはずです。 ですから解除できる可能性を持った我々は目の上のたんこぶ。 だから我々はソラリスから身を隠して研究せざるを得なかったのです。」
「なるほど・・・だから、ソラリスと表立って戦える我々に協力してくれる訳になった・・・か。確かに今の地球圏にソラリスと喧嘩売ってる連中でシェバトと目的が一致しているのは我々だけですもんね。」
アヤが苦笑する。 幾らシェバトが刻印(リミッター)を解除する手段があったとしても、シェバトだけの力ではソラリスと戦っても返り討ちに合うことは目に見えている。 だからこそ、戦う力を持ちながらも真から協力してくれる存在を探していたのだ。 そしてTDFオンディーヌ隊は見事選ばれたわけだ。
「ええ。ソラリスは刻印(リミッター)に関することは優先事項のようで、その刻印(リミッター)の効果を予防または大きく緩和させてしまう食品もあるそうなんですが、その食品の輸出ルートを妨害したり、法外な値で非合法手段を用いて買い占めているらしいんです。」
「予防効果がある食品!?」
「ええ、イグニスエリア以外の地域やコロニーでは、まだ比較的手に入るはずです。 貴方がたに影響が出てないのは、その食品を口にしていたことがあったからもしれません。」
「そんな食品・・・口にしたかな? どんな食べ物なの?」
「シェバトを含めイグニスエリアでは入手が困難なので詳しくは解りません。 ただ・・・果実のようです。コロニー産の。」
「コロニー産の果物・・・確かにウチの艦の食料庫にもあったけど・・・どの辺のコロニーなんでしょ?」
とりあえず、刻印の影響は今すぐ・・・と言う訳ではないらしい。 ヴィレッタは数少ない情報からホワイトローズに積み込んであるコロニー産の果実を乗組員全員に摂取することを命じた。
「しかし、そんな刻印(リミッター)か。 いったい誰がそんなことを実行したんだ。」
「カレルレン・・・その男がすべての元凶です。」
ヴィレッタの言葉に担当者が苦々しくある男の名前を出した。 シェバトの人間にとっては怒りの対象なのか、口に出すのも怒りが舞う人物のようだ。
「奴は裏切り者なんです! 3賢者のお一人、メルキオール様より分子工学を学んだ弟子の一人なのに! 我々を裏切ってソラリスについた!! この刻印(リミッター)も奴の仕業なんです!」
担当者はまず、戦うための戦力を殆ど持たない今のシェバト本土を守るのは、『障壁(ゲート)』と呼ばれる空間湾曲装置を使ったバリアーだと言う事を教えてくれた。
この障壁(ゲート)のおかげで、シェバトは外敵からの進入を100%ではないが、かろうじて防いでいたわけだ。
そしてこの技術はシェバト独自のもので、他の勢力・・・ゴルディバス軍を筆頭とした異星人連合はともかく、地球人には無い技術だと言う。
カレルレンは、ナノテクノロジーだけでなく、この障壁(ゲート)の技術をも奪ってソラリスに身を投じたと言うのだ。
そしてソラリス本土も同様の障壁(ゲート)で守られているのだと言う。
「それじゃ!ソラリス本土攻略のために先行したTDF艦隊は! それじゃ入り込めないじゃない!」
アヤが声を荒げた。 シェバトには同様の技術がある為、少数の工作員を送り込むことはできた。 だがそれが精一杯なのだと言う。 シェバトの女王ゼファーが伝えようとしていたソラリス攻略とはまさにこの事ではなかろうか。
カレルレンは、真意は不明だがシェバトにかなりの私怨を持っており、ナノテクノロジーや障壁(ゲート)の技術を手土産にソラリスに下った。
ソラリスに潜入させた工作員達の決死の潜入調査によると、ソラリスは10年単位・・・もしくはそれ以上かもしれない壮大な計画を進行中で、カレルレンはその計画の中心的人物だそうだ。
「壮大な計画?」
「はい。ソラリスでは『M計画』と呼ばれているそうです。 それがどんな計画なのか・・・そこまでは掴めていません。 ただ、カレルレンはその『M計画』の詳細を知ったためにソラリスに下ったと言われています。」
そして、カレルレンはソラリスでもかなり高い地位にいるとの事である。 現在のソラリスを支配している『ガゼル法院』と言う首脳部は、全て先史文明から発掘したソラリス人達の始祖をコンピューターとして復活させたものらしいのだが、その復活させたのもカレルレンらしい。
「では・・・そのカレルレンと言う男が今のソラリスの支配者か・・・影の。」
ヴィレッタの言葉に担当者は頷いた。 表向きは天帝と呼ばれる存在が頂点らしいのだが、今の情報が確かならば、天帝はお飾り・・・民衆を従わせるためのシンボルでしかない。 本質的なものはガゼル法院とカレルレンだ。
「だが・・・ソラリスは何故、今までシェバトを放置してきたんだ? せいぜい小競り合い程度に留めて、やろうと思えばすぐにでもシェバトを殲滅できるのに。」
ライがそう担当者に告げた。 その通りなのだ。だが、返答はヴィレッタの口から放たれた。
「カレルレンはシェバトに対して私怨を持っていると言ったわね? だとしたら、恐らくシェバトを孤立させていたのかもね。」
「孤立!?」
「考えればわかる事。 シェバトを世界と分断して封じ込め、孤立させるために、あえてソラリスはシェバトの障壁(ゲート)の存在を許してきたのではない?」
ありえます・・・と、ライは頷いた。 私怨の深さは下手な野心よりも強力だ。 ライ自身が実家や父親や実兄に対する感情のように。 カレルレンの憎しみはそこまで深いのだ。
それ以上のことは女王にお聞きください・・・と、担当者は話を終え、ヴィレッタに「また何か解りましたら連絡します」と言ってくれた。 ヴィレッタ達は礼を言って研究セクションを後にした。
「目標は決まりましたね少佐。」
「ええ。 ソラリスで倒すべきは天帝ではない。 ガゼル法院とカレルレン。」
ヴィレッタが研究セクションで話を聞いている間、フェイ達ユグドラクルーは、一人の老女に出会った。
フェイト一目見るなり、「カーンの息子か」と言ったのだ。 記憶を失い身寄りがいたことすら解らないフェイにとっては初めて聞く父親の名前であった。 『ウォン・カーン』それがフェイの父親の名前だと言う。
フェイの父カーンは、シェバトの武術指南であると同時に工作員でもある為、女王の任務で地上に降りたまま行方知れずだと言う。 だがフェイには自分に肉親がいた・・・と言う喜びの感情が浮かんでいた。
そして、老女はとある伝承を教えてくれた。 ソラリスに関わる情報として。
それは昔話の類ではない・・・
かつて人々は天空の楽園「マハノン」にいた。神に守られて死ぬこともない真の楽園。しかしある日、人は禁断の園にあった『ラジェル』という二対の木の実を食べて知恵と力を手に入れた。 そのことが神に知れ、怒った神は人間を楽園から追放された。追放された人間は12の『魂<アニマ>の器』を創って神に反逆した。 マハノンは戦火に包まれた。やがて怒った神はわずかの義人を残して人間を滅ぼした。 が、そのとき神も傷を負ったので、長い眠りについた。
そして伝承は語る・・・義人の子供達が地上に満ちた時、神は再び眠りから覚め、子らに救いの手を差し伸べる・・・と。
ソラリスのガゼルの法院は、その『アニマの器』と神の眠るとされる地『マハノン』を必死に探していると言う。
「マハノン・・・・いったい何のことなんだ・・・?」
その言葉に何か深いものを感じるフェイであった。
そしてマリアとゼプツェンの話も聞けた。 ゼプツェンはソラリスとは無関係ではなかった。
マリアは3年前、祖父であるに連れられて、ゼプツェンとともにシェバトへ来た。 祖父は、一人ソラリスに乗り込み、捕われていたニコラ博士とマリア親子を助けようとした。 しかし、マリアは救出できたものの、ニコラ博士は助け出すことができなかった。そして未だにニコラの消息は不明と言う。 恐らくソラリスに捕まったままなのであろう。 マリアの父親は、脳神経機械学の権威で、ソラリスにとっては利用価値のある人材だから、すぐに命の危険は無いだろうが、それがいつまで続くか・・・。
彼女は今ではシェバトの守り神と呼ばれている。でも、ゼプツェンに乗り、果敢に戦うといっても実際はまだ13歳の少女・・・。 それに本当はソラリスに捕われの父親が心配で仕方ないだろうに、シェバトを頑張って守っているのだ。どうも、祖父から、シェバトをでてはいけないと言いつかっているらしい。そうでもしなければ、すぐにでもゼプツェンで乗り込んでいくだろう・・・あの子は・・・と老女は言った。
様々な思いと情報を得て、いよいよ女王の謁見することに・・・。緊張と好奇心を抑えながらフェイたちが謁見の間にやってくる直前・・・
「遅いぞ。 どこで油を売っていた?」
そうフェイ達に呼びかけたのは、仮面を被った謎の男・・・フェイが武術大会やギアバトリングの試合の前で様々な助言をしてくれたり、技を教えてくれたワイズマンが立っていた。
「な・・・ワイズマン!? アンタ・・・ここ(シェバト)の人間だったのか?」
驚くフェイにワイズマンは頷いた。 「うん?あの仮面のお嬢さんはいないようだな。」と当たり前のように言う。 やはり器がでかい。
「さあ、女王がお待ちだ。 私が話すことは後で良いだろう。行くがいい。」
そう言って後ろを押すようにフェイ達を謁見の間に通した。 そして、謁見の間に入り、玉座に座る女性を見てフェイたちは一瞬声を失った。 小国とはいえ一国の女王である。さぞかし威厳のある方なのだろうと想像していた。 だが玉座に座る人物は、女性と言うのも躊躇われる程の幼い容姿・・・先ほどのマリアと同世代ほどにしか見えない姿であった。 女王と言うよりもお姫様と言ったほうがしっくりくる人物だった。
「ゼファー女王様。 TDFのオンディーヌ隊の皆様とフェイさん達をお連れしました。」
マリアが女王に頭を垂れて報告する。 「ご苦労でしたマリア。」と言う女王が発した声は年相応には感じられない威厳と落ち着きに満ちた声。 一瞬我を失っていた面々はすぐに片膝をついた。 幼く見えてもその体から発せられるオーラのようなものは確かに女王を感じさせた。
「よくぞまいられました。私がこのシェバトの女王ゼファーです。」
女王の挨拶に、皆を代表してヴィレッタがすぐに返礼する。
「お目にかかれて光栄です女王。 我々はTDF、極東方面軍極東基地所属、独立遊撃部隊『オンディーヌ』。 自分は部隊長ヴィレッタ・バディム少佐です。」
「顔を上げてくださいヴィレッタ少佐。 貴方方のことはワイズマンから良く聞いております。」
「ワイズマンから!? じゃあやっぱりワイズマンはココの!?」
思わずフェイが身を乗り出したので、シタンが「フェイ、身を慎みなさい」と注意するが意に介さず。 だが女王は気を該した様子はまるで見せず、頷いた。
「ええ。 私達は連邦崩壊の大戦からも後、ソラリスに抵抗を続けてきました・・・。 ワイズマンには『ある男』を追うように指示していました。 そして、誰かシェバトに協力してくれる存在があれば・・・とも。」
「そして・・・我々を選んだ・・・と?」
ヴィレッタが言うと女王は頷いた。 今のシェバトにソラリスと表立って戦う力は無い。 その為選ばれたのがオンディーヌ隊であったと言う。
「『ある男』とは?」
「今は言えません。ですが・・・時が来れば・・・貴方がたが協力してくださると言うのであれば、おのずと解るでしょう。」
「女王。我々にとってもソラリスは倒すべき敵だ。 ソラリスを倒せば、少なくとも地球人同士で争う事は回避できる可能性は大いにある。」
可能性といったのはバーチャロイドを有するDN社が休戦に応じなかった事を意識してだ。 だが聡明なDN社が今の情勢で、地球人同士が争う愚かさに気づいていないわけが無い。 少なくともDN社はソラリスを敵視し、ソラリスの宇宙勢力を一掃してしまっている。
「我々がここへ来たのは、貴方がソラリス本土攻略のための情報を提供してくれるからとの事。 その一部はここへ来るまでの間に確かに頂きました。 だが肝心な部分がまだ。それは我々と軍事協定を結んでから・・・と言うことと解釈してよろしいか?」
ヴィレッタの言葉に女王は頷き、「その通りです」と答えた。
「ならば、我々TDFはシェバトと協力して・・・」
「待ってくれ! 俺はお前達を信用できない!!」
ヴィレッタの声をさえぎったのはフェイだ。 ヴィレッタを押しのけて女王の前に立つ。
「お前達はソラリスを倒してどうする? 倒した後は自分達がこのシェバトの科学力で新たな支配体制を作るつもりか!?」
声を荒立てて感情をむき出しに叫ぶフェイ。 フェイの言うこともにも一理ある。 シェバトの科学力は現在の地球圏では屈指のものがある。 いくら衰退し国力が小さいと言っても、それは今の話だ。
ソラリスを倒すと言うことは、そのままシェバトがソラリスの国力を乗っ取ると思っているのだろう。 ソラリスがいなくなれば、地球人同士で争う事は回避できる。 そうなれば地球人たちは、ゴルディバス軍などの異星人勢力にその力を費やすこととなる。 勝つにしても負けるにしても地球人達は国力を消耗し戦力を大幅に浪費する。
となれば、ソラリスの国力を吸収したシェバトの勢力は侮れないものになる。 宇宙人との戦いで疲弊したTDFやDN社とも互角以上に戦うことなど造作も無いだろう。
「そうなれば事態は何も変わらない! そうなれば人々が自由を得るなど出来はしない! その支配権をめぐって延々と戦いが続くだけだ!」
普段ならば、フェイに対しメンバーの誰かが反対意見を言うところだ。 だが皆黙っている。フェイの言葉に共感することがあるからだ。
確かに例えソラリスを倒し、宇宙人を倒してその後どうなる? 外敵を失った地球人が今度は地球圏の支配をめぐって新たな争いを生むことは予想できた。
それがTDFなのかDN社なのかシェバトなのかは解らない。 人は愚かな存在・・・いつも戦いを求める存在だから・・・
不穏な空気が流れる中、最初に言葉を発したのは意外にも女王であった。 だがその言葉はフェイに対する怒りの言葉でもなければ、あきらめの言葉でもなかった。 まるで教師が生徒に優しく諭すような言葉で・・・
「信じられないのだったら、ソラリスを倒して独立を勝ち取った後にもう一度判断すればよい・・・」
それだけであった。 フェイは「少し考えさせてくれ」と言って部屋を出て行った。 そしてフェイに同調するようにバルトやシタン、エリィ、ビリー、リコのユグドラシルクルーも後に付いていった。
フェイたちが出て行った後でヴィレッタが、「我々TDFは協力する」と言った。そしてヴィレッタは「フェイたちは必ず協力してくれる。 口ではああ言っても彼の心は決心している。」と・・・
「少し一人になりたい」と、言ってフェイはただぶらぶらとシェバトの中をうろついていた。 ここ数ヶ月戦い尽くめ、一月ほど負傷での療養期間はあったが、荒んだ心を落ち着けるために一人の時間が欲しかった。
シェバトの中を散策していると、ピンク色のウサギともネズミともつかない妙な生物が多数戯れている。言うならば「直立二足歩行するピンク色の耳のでかいハムスター」。
「そういやユグドラでマルーが連れてたぬいぐるみ・・・いやチュチュとか言ったか、アイツもあいつらの仲間か・・・」
「彼らはウィーキー族。 ソラリスの遺伝子操作で造られた生物だ。」
突然フェイに声をかけたのはワイズマンだった。 気配を感じさせずにフェイのそばに立っていた。
「アンタか。」
「彼らは人間並の知能を持っている。その為人間同様のコミニケーションも可能だ。 先史文明を復活させる折に実験目的で作られた悲しい存在だがな。 同族意識が強く、ある意味我々よりも人間らしい。」
「何が言いたいんだ。」
怪訝な顔をするフェイにワイズマンは、静かに答えた。
「同じ地球人という同族意識すら薄いソラリスと、遺伝子操作で生まれながらも仲間思いな彼ら。 どっちが人間らしいかな・・・とな。」
「はっきり言ったらどうだ?俺にシェバトに協力しろと!地球人同士の諍いの元であるソラリスを倒せと!」
返答代わりにワイズマンの拳が飛んできた。 フェイは放たれた拳を右手で払うと、カウンターで左手で嘗底を放つ! だがその嘗打もワイズマンはがっちり片方の拳でガードしていた。
「前にも言った。武道家の拳は己の遺志を伝える手段と。 お前の拳は既に答えを出している! ならば・・・正直に生きろ! シェバトと共に行け!」
「!!」
「目標地点を確認できました。 シェバトです。」
「よし。目標はシェバトの障壁(ゲート)のジェネレーターだ。 首尾は?」
「問題ありません。 4基のジェネレーターの位置は確認済みです。ただ今のシェバトには・・・」
「あのTDFの連中がいる・・・か? 安心しろ、奴らは今戦力を半分に別けている。おまけにラムサス閣下の手によって、あのキカイオーとか言うふざけたロボットも今は太平洋の底だ。」
「あの鋼鉄巨神が!? それはありがたい!あいつさえいなければ!!」
「ふ・・・今のは聞かなかった事にしてやる。 さあ行くぞ!」
ソラリスの中でも、ラムサスの直属の部下エレメンツ。 その一人ドミニアはステルス輸送機の中で己の獲物である剣の感触を確かめながら、輸送機に同乗しているソラリスの工作部隊に呼びかけた。 彼女はこれからシェバトに対し、潜入工作を行おうとしているのだ。
(キカイオーさえいなければ・・・か。 確かにな・・・だが今は!)
「女王大変です!何者かが障壁(ゲート)の発生器を爆破した模様! 障壁(ゲート)の出力70%に低下! このままでは敵に侵入されてしまいます!!」
女王の間に、シェバト兵士があわてて飛び込み叫んだ。 その顔は真っ青だ。障壁(ゲート)はシェバトにとっては最終防衛線と同意義。 それが破られるとシェバトの運命は風前の灯だ。
「緊急警報発令! ジェネレーターに護衛をまわしなさい! これは前菜に過ぎません!」
女王の指示に兵士はあわてて部屋を飛び出していく、すぐさまシェバト中に警報が鳴り響く。
「女王・・・これが前菜と言うことは・・・次はメインディッシュが来ますね。そのメニューは・・・」
「障壁(ゲート)のエネルギーの供給源である4基のジェネレーターの破壊です。」
バアン───その時、謁見の間の扉が威勢よく開けられた。 ヴィレッタがそこを見ると、決心を固めたフェイたちの姿があった。
「女王。そしてヴィレッタ隊長・・・。俺は・・・俺達はシェバトに協力する。 そしてソラリスを倒す!」
次回予告
ついに始まるシェバト攻防戦三部作!! はたしてオンディーヌ隊はシェバトを守りきれるか!
そして現れる謎の侵入者! 敵の口から語られるゼプツェンの呪われた秘密とは!?
敵の襲撃にオンディーヌ隊は5隊に分かれて迎撃だ!
次回、サイバーロボット大戦 第三十九話『父との絆!合体攻撃グラヴィトンブレイザー!(中篇)』
次回も長くなりそうなんですげえぜ!