第三十七話 『ロボで登れ!バベルタワー! 謎の鋼鉄巨人!』




 「ここを飛んで登ったと言うのか? ロボットでか?」
大型潜水艦、ユグドラシル二世の甲板上から、ゴンザレス軍曹は目の前にそびえ立つ・・・そう、天にそびえ立つと言うに相応しい超巨大なタワーを見上げて言った。
 「妙な磁気嵐とジャミング・・・加えて強風に晒されて、航空機での接近が不可能なこのタワーを・・・」
 「まともな手段で、他にこのタワーに接近する方法は、殆ど無いって話なのにな・・・」
ゴンザレス軍曹の隣にいた、同じワイズダックパイロットの一人、トーマス伍長が暇そうに文庫本を読みながら何気なく呟いた。
 彼等の目の前に立つ、超巨大なタワー・・・・通称『バベルタワー』、神話に登場する「バベルの塔」の名を称して建てられたこの塔は、長い年月に晒されあちこちツタが茂り、錆が浮いていたが、それがオリジナルのバベルの塔らしい雰囲気を与えていた。
 「このバベルタワーは、元々連邦政府が建造していた静止衛星軌道まで届く『軌道エレベーター』計画の最大の名残だからな・・・」
 トーマス軍曹は、タワーに視線を移す事無く、まるでそんな物には興味が無い、と言わんばかりに、文庫本を読みながら淡々と言葉を続ける。
 「世界最大級の人口建造物の一つ、こう言ったモンは、テロなどの人為的災害に弱いからな。 倒れでもしたら、核兵器以上の災害が起きる・・・」

トーマス伍長の言葉は正解だ。 このバベルタワーは、本来は連邦政府による一大プロジェクトとして建造が勧められていた事業だった。
 静止衛星軌道まで届くエレベーターを建造し、宇宙と地上への物資の輸送を安価で簡便に行える施設として。ロケットやマスドライバーを使用する事無く、宇宙と地上を行き来する。 また、マイクロウェーブ等に頼る事無く、発電衛星などの太陽発電エネルギーを地上に送る事も出来る。 まさに宇宙開発の最前線基地。
 だが、連邦崩壊により計画は頓挫・・・。 国家予算以上の巨額の費用は水の泡となった。 しかし・・・建造途中で放棄された建造物を解体する費用も無い。 しかも下手に解体しようとして、事故でも起きたらトーマス軍曹の言葉通り、核兵器以上の災害が置きかねない。
 なにしろ、未完成とは言え、数百キロの高さを持つ構造物。 倒壊しようものなら、その被害は計り知れない。
 その為、国際協定でこのバベルタワー付近の航空機の往来を始め、一切の戦闘行為がいかなる理由があろうと禁止されていた。
 またバベルタワー自身にも、強力すぎるほどの自衛機能がもたらされていた。 人為的なテロ行為に非常に弱いという弱点を持つバベルタワーである。 その自衛能力は過剰すぎでも足りないくらいなのだ。
 まず、タワー内部には無数のガードトラップが施され、セキリュティも4重5重と幾重にも重なっている。また警備用の無人警備ロボも配備されている。
 外周にも、航空機の接近を数十キロ先から防ぐ為、電子機器を狂わせる妨害波や強制的にコースを変更させる飛行抑止ウイルスプログラム等が常時発信されているし、タワー外装にも最終防衛用としての自衛火器まで装備されている充実ぶりである。
 そして・・・これらの機能は、放棄された現在においても機能していた。 いや・・・その前に、安全面からして、機能していなければならないのだが。
 連邦の手を離れた現在でも、タワー自身の無人管理システムによって、機能自体は維持されていた。

 「そんな場所を飛んだ・・・。 妨害機能に溢れすぎた数百キロのタワーをな。」
 ゴンザレス軍曹はタワーを見上げて言った。だがその表情は別に不思議な事ではない・・・と言った感じだ。
 「ま、キカイオーの能力は、特別中の特別。 今更驚く事でもねぇか・・・」
 そう言ってゴンザレス軍曹は、煙草を取り出し咥えた。 まだ火は付けない。
 「あの、キカイオーならな・・・」
 そこでやっとゴンザレス軍曹はタバコに火をつけた。 タバコから流れる煙がなびいた。 ユグドラシルの甲板に立つワイズダックを壁にしても、強風にライターの風がかき消される程の強風が・・・
 
 ここは太平洋のある孤島。 赤道直下に建造されたバベルタワーが雲を付きぬけて立っている場所。




 黒海での戦いを終えたTDF艦隊は、黒海のソラリス拠点に必要最低限の制圧部隊だけを残し、傷ついた身体を癒す・・・修理と補給の為、そして次の作戦の為に、伊豆の極東基地に帰ってきていた。
 そこでオンディーヌ隊を待っていたのは、僅かな休息と・・・次の作戦の為に部隊を二分すると言う指示だった。
 「今回の作戦でソラリスの地上戦力は、ほぼ失われた。 まあ・・・旧南アメリカ大陸・・・つまりイグニスエリアに戦力が残っているが、もう攻勢に出るほどの力は無い。恐らく本土防衛が関の山と言った所だろう。」
 伊豆基地のミーティングルームで、TDFスペースノア級戦艦ハガネのオノデラ副長が、オンディーヌ隊のメンバーを前にして、マップを示しながら言った。
 「情報部と宇宙軍・・・と、言うより君達オンディーヌ隊の協力者か、リューディア艦隊の調べによりソラリス本土の戦力も激減したことが判明した。 原因は・・・DN社の第2世代型VRの大量投入と判明している。」
 その言葉に、サルペン准尉の顔が僅かに歪んだ。 黒海での作戦の直前にDN社の新興勢力、RNAの攻撃をやっとのことで退けたばかりだからだ。
 
 「その辺り(第2世代型VR)の事情は君達の方が詳しいだろうから省くとして、このソラリスの戦力が激減した、この機を狙い、ソラリス本土への直接攻撃を敢行する!」
 オノデラ副長の言葉に、ミーティングルーム全体がざわめいた。 ソラリス本土攻撃・・・宇宙でも最大勢力と呼ばれたソラリスを一気に叩き潰すのだ。
ソラリスを倒せば、少なくとも地球人同士の潰しあいは回避できる可能性が出てくる。 DN社は元々企業であるから、交渉次第では和平条約に持ちこめる可能性はある。 だが、ソラリスは元々選民思想が強く、今まで地球居住者だけでなく、同胞である筈の宇宙居住者にも牙を向き、非人道的行為を数多く行ってきた。 和解の道があるとは思えない。
 だからこそ、ソラリスを打倒する事で、その上でDN社と和解・・最悪でも休戦にさえ持ちこめれば、地球人同士で戦うと言う事は回避でき、ゴルディバスや宇宙悪魔帝国と言った外宇宙の勢力に専念出切る。
  「そして、ソラリス打倒の鍵となる情報を持ったシェバトの工作員が、前作戦の際に我々に接触してきた。」

シェバトとは、前述のバベルタワー建設に従事した人々の勢力で、軌道エレベーターの仲介ポイントも兼ねた、『浮遊都市計画エアリアルベース』に住む人達だ。
 エレベーター建設の為に連邦政府に雇われた多種様々な企業などが進出し、事業に従事していた。 だが連邦崩壊と共に事業主を一気に失った。
 金の切れ目が縁の切れ目・・・利益にならない事には、さっさと手を引く。 当然の事だ。 だがエアリアルベースにはそれが出来ない人々が多々存在していた。
 軌道エレベーターは、連邦政府が計画した事業。 そして・・・その頃の世界には『国境』と言うものは存在していなかった。
 だが、連邦崩壊に伴い、世界が再び『国境』を持つようになった為、エアリアルベースにいた人々は『帰属する国』を自分で決めなければならなかった。
 一部の企業たちは、会社の本拠がある地域や、業績がありそうな地域に移転したりしていたが、それは一部の人々だけだった。
 大半の人々は連邦崩壊による大戦で、帰るべき土地や故郷を失い、且つ連邦政府の戸籍さえも失った。 一夜にして流浪の民となってしまった。 その為、帰属すべき国すら見つけられない・・・と言う事態が発生していた。
 こうした政治的理由から事態を打開する為、エアリアルベースに住む人々は、エアリアルベースそのものを『国家』として独立させる事を選んだ。
 国家としては小規模で、かなり不安定だが、現状を考えると他に選択肢は無かった。
 エアリアルベースそのものが、一種のコロニーとして運用出来る事も、独立の道へ踏み込んだ理由であった。 そして軌道エレベーター建設で培った高い技術力を武器に、工業製品などを生産・販売する事で生き長らえていたのだ。

 「そして・・・彼等シェバトの代表である『ゼファー』女王が、我々と接触を求めているのだ。」
シェバトは、前述の理由から国内は不安定になりかねない。 そこで女王制を設け、女王を一種のシンボルとする事で、国内の安定を図っていたのだ。
 そして詳細は不明だが、ゼファー女王は昔からソラリスと対立しており、少ない国力でソラリスと戦いつづけていたらしい。 だが、凄まじい技術力を持っていようと所詮は流浪の民を束ねただけの小国家、表立ってソラリスと戦う力は無い。
 そうした背景から、シェバトは世界各地に工作員を派遣し、拉致された地球居住者を保護したりしながら、ソラリスと戦ってくれる協力者を探しつづけていたのだと言う。
 「それで選ばれたのが我々・・・って訳かい?」
サイモン少佐がメガネを直しながら尋ねるとオノデラ副長はうなづいた。 ゼファー女王もTDFがソラリスと戦っている事は知っていた。 だが、本当にTDFが真剣に世界の平和を願って戦っているのかどうか見極めに時間が掛かっていたらしい。
 「そりゃ当然だ・・・」
 リッキー一等兵が吐き捨てる様に言った。 自軍の勝利の為に民間人を虐殺するような作戦を立てる上官を知っている彼にとって、その話は理解できた。

 「だが・・・ようやく女王も、君達オンディーヌ隊の活躍を知って、ようやく重い腰を上げたそうだ。 まあ、君達が新に世界の平和を守ってると・・・判断されたのだろう。 ソラリス攻略の為の情報を受け取りに来て欲しいと。」
 情報を取りに来い・・・通信などで行わない事を見ると、よほど重要な情報なのだろう。 外部に知られてはマズイものと判断される。
 「本来ならば・・・・直接宇宙に出向き、TDF宇宙軍残存艦隊と合流し、ソラリス本土に進行したいところなのだが、この申し出を断わるわけにもいかない。そこでだ・・・」


 オノデラ副長の次の言葉はこうだ。 オンディーヌ隊を二つに分け、一方をシェバトと接触し情報を持ちかえる。もう一方は、宇宙に向かい、TDF宇宙軍残存艦隊ならびに『永遠のプリンセス号』を旗艦としたリューディア艦隊と合流。 ソラリス本土攻撃の為の橋頭堡確保ならびに、他勢力に関しての陽動を行うと言う事だ。
そして、割り振りはこうだ。 ホワイトローズ並びにユグドラシル二世の2艦は、そのまま地上に残り、シェバトとの接触ポイントに向かう。
 宇宙側は、この伊豆基地に駐留中の『ヒリュウ改』に、オンディーヌ隊の半分を搭載し宇宙に向かう。
これで決まった。
 そして・・・オンディーヌ隊のメンバーは、僅かな休息を取るとそれぞれに割り当てられた艦へ・・・

 まず、地上組だがユグドラシル二世のメインクルーはそのままと言う事で、フェイ・バルド・シタン・リコ・エリィ・ビリーのギア組。
 「ギアは宇宙じゃ使えないしな。」
バルドが苦笑する。 特に彼のブリガンディアは砂漠用のカスタマイズを施されている為、汎用性が低いのだ。
 「改造すれば出きるんですがね。特にエリィとビリーの機体は無改造でもいけますよ。」
と、シタンが言っていたが、フェイはごちゃごちゃとした改造を加えられるのが嫌なので苦笑した。

 次はジュンペイ・ポリン・ケイ・サイモン・アムリッタ・大地&空・ゴンザレス隊だ。 ケイ以外のメンバーが宇宙戦に不慣れと言う事もあるし、彼等の機体は陸・空戦を重視した機体が多い。 特にサイモンとアムリッタのラファーガは宇宙戦闘も可能だが、元々空軍のサイモンの力量は地上でこそ生きる。 ゴンザレス隊は宇宙では問題外。 ワイズダックは完全な陸戦兵器で、彼らも陸軍だ。
 それに半減したオンディーヌ隊の戦力を補う為にはキカイオーの超パワーは不可欠だ。
 「あれ?レイカさんは宇宙へ行くんですか?」
空が尋ねると、レイカは頷いた。 彼女は別けた部隊のチームリーダーとしての役割があるからだ。 それに宇宙に出た後、補給やリューディア艦隊などとも色々意見を交えておきたいとの事だ。

 キカイオーが地上に残ると言う事は、必然的にメカニック要員の結奈も残る事になる。そして結奈にライバル心を燃やす伊集院メイが作ったゴッドリラーを有するほむらも地上組を希望した。 スポンサーの要望で、ほむらには結奈を見張る役目を与えられていたのだ。 勿論これは、伊集院メイの個人的要望だが、義理人情に厚いほむらは律儀に受ける事にしていた。
 「俺にはメイからあんたの動向を見極めろってお願いされてんだ。 アンタの事は俺はどうでもいいけど、メイのライバルって事に興味がある。 一緒にいさせてもらうぜ。」
 と、ほむらが屈託の無い笑みを浮かべて言うと、結奈は・・・
 「好きになさい。」
と、一言。 だがほむらは「ああ、そうさせてもらうぜ!」とまた笑みを浮かべただけ。

 そして最後に・・・ゼファー女王との交渉もある事から、戦隊責任者のヴィレッタ。 すれば直属の部下であるアヤ・ライ・リュウセイも芋づる式に地上組と言う事になる。
 「と・・・言う事は、姉ちゃん、俺達も地上組か。」
将輝の言葉に香田奈は頷く。 そしてアヤの預かりになっている薙も同様である。

 そして残ったメンバー、ゲッP−Xのケイ・ジン・リキの3人とクイーンフェアリーのミオ。 ディクセン担当のナカト・ハルマ・ライード。 ディアナ17のレイカ。 バンガイオーのりき&まみ。 元SHBVDのサルペン以下5名(プロンガー・カンター・ステフォン・ハッター・カントス)。 お嬢様軍団(総勢20数名)。 最後にジン・サオトメと相方のサンタナ。 以上である。
 宇宙組が少ないように見えるが、ヒリュウ改にはPT部隊が配備されているし、宇宙で友軍艦隊と合流するので、戦力的にはこちらの方が多いのだ。

 「ではレフィーナ艦長! お願いします。 レイカさん、サルペン准尉、戦隊指揮を頼む。」
解れる間際、ヴィレッタがヒリュウ改艦長レフィーナ中佐に向けて敬礼する。 そしてレイカとサルペンも同様に・・・
 「レイカさん・・・御武運を。」
 静が手を差し出した。 彼女が量産型ディアナのパイロットとして同行が許されていたのは、黒海での作戦基間中だけ。 元々量産試作機のデータ収集と言う理由があった為に同行が許されていたのだ。これ以上のわがままは言えない。彼女はここでいったん御別れだ。 量産型ディアナの実働データ解析も含めて、伊豆の研究機関に戻る事になっていた。
 「ありがとう先輩。」
 レイカはがっちりと握り返し、ヒリュウ改に乗りこんでいった。




 「そろそろ小休止できる場所はないものかな・・・」
フェイがヴェルトールの手首に負荷がかかってる事から呟いた。 恐らく仲間達も同意見だろう。 背中のスラスターを吹かし、可能な限り手足に掛かる負担を軽減しているものの、やはりこの行動はロボットに取らせる行為ではない。
 「もうしばらくすれば、展望台のような場所がある。 そこまで辛抱しろ。」
ヴィレッタの声が聞こえる。 見ればヴェルトールの隣をR−GUNが同じように柱にしがみついている。 ヴェルトールやR−GUNだけではない。 オンディーヌ隊の大半のロボットたちが、バベルタワーにしがみつき、ロボットでロッククライミングしているのだ!!

 何故このような行為をしているかというと、シェバトとの接触ポイントは、このバベルタワーの頂上なのだ。
シェバトが、元々バベルタワー建設用の空中浮遊都市である事を考えれば、当然の事。
 だが、バベルタワーは前述した通り、航空機での接近は非常に危険。 そしてバベルタワー内部のエレベーター類は生きているが、ロボットを運搬できる超重量物用のエレベーターが、安全性の問題からか、厳重すぎるセキリュティに守られ、稼動する事が出来なかった。
 「こんな事なら、シェバトの工作員にパスコードを教えてもらえば良かったんじゃ・・・」
 誰かがそんな事を言っていたが、シェバトの工作員がエレベーターを稼動させようとすると、パスコードが改変させられていたのだ。 恐らくシェバトの上層部が、そこまでTDFを信用するのは危険と感じたようだ。 本当に信用たる存在なのか・・・・どうやら、これが最終関門の様だ。
 「つまり、自力で上がって、証明して見せろと?」
 リュウセイの言葉に全員が頷いた。 そして・・・前代未聞のロボットでのロッククライミングが始まった。

 このような事態を想定していなかったメンバーたちの為に、結奈は急遽、ロッククライミング用のプログラムを組み、各機体に持たせた。 何故ならばロッククライミングは、ただ岸壁を登ると言うスポーツだが、その技術は幾通りも存在し、その道の一流ならば、指一本で全体重を支える事が出切ると言う。
 それをロボットでやろうと言うのだ。 幸い、バベルタワー表面は完全な平面ではなく、継ぎ目や凸凹が多く存在する。 またロボットの手足に磁力を発生させ、磁石の吸着力を併用する事で、人間なみの登坂が可能なのだ。

 「お!見えたぞ。」
あれからどれだけ登っただろうか? 飛行できないと言うリスクを背負いつつ、原始的な登坂方法で垂直の壁を登るロボット軍団。 強風にあおられながらも、ヤモリの様にしがみつき、必死に登る・・・
 やがて目線の先にタワーからやたら張り出した展望台のような場所が見えた。 恐らく空中浮遊都市であるシェバトとのドッキングポートなのかもしれない。 中隊規模のロボット部隊が小休止するには、十分すぎる大きさだ。
 「やれやれ・・・一息つける・・・」
 リュウセイがふう・・・と息を吐く。 R−1が「よっこらしょ」と、ばかりに展望台のふちに手をかける。
 「おお〜い、早過ぎるぜみんな〜。」
 ジュンペイの声が聞こえた。 キカイオーはその重量の為か、他のロボット達よりも登坂速度が遅いのだ。 その証拠に、他のロボット達より遅れている。 なにしろ大きな足が災いして、足を凹凸に引っ掛けにくいのだ。
 「ゆっくりこいよ。」
リュウセイはそう言い、展望台に身を乗り上げる。 R−1が展望台に腰を落ちつけると同時に、ぞろぞろと他のロボット達が姿を見せる。 皆慣れないロッククライミングに、人もロボットもヘトヘトだ。
 「こんな所、敵に襲われたら一たまりも無いね・・・」
ファイアートマホークをザイル代わりにして登ってきたツインザムの大地がぼやいた。
 「大丈夫だ。 バベルタワー周辺での戦闘は国際協定で禁止されている。 この場所の戦闘は大規模な事故を引き起こす事は誰にでも解っている事だ。」
 ライがそう言った。 今回ライはR−2ではなく、アルブレードに搭乗していた。 R−2ではロックライミングは不可能だからだ。
 「そうそう。こんな所で戦闘しかけてくるとしたら、なりふりかまわねえバカだけよ。 ま・・・そんなバカいる訳ねえけどな。」
 ブリガンディアに搭乗したバルトが笑いながら言った。

が・・・、そんなバカは存在した。

 ドオン!ドオン!と、砲声が響く。 オンディーヌ隊が小休止している展望台に、突如、数発の砲弾が飛びこむ。
国際協定で一切の戦闘行為が禁止されている場所なので、油断したか・・・
 「な!? どこのバカだ! こんなトコで大型火器ぶっ放すバカは!!」
バカニ連発呼ばわりのバルト。 だがこの場合は彼の言葉が正しい。 バベルタワーは人災に弱い。事故が起きればどう言った被害が出るのかは誰もが解りきっている筈なのに。
 「どうやら・・・『なりふり構わないバカ』がいたみたいだぜ・・・」
ほむらがキッと、砲撃の出元を睨み指差した。 ゴッドリラーが示した先には、銀色の空中戦艦があり、そしてそこから金色の人型ロボットが剣を構えて浮いていた。
 「ラムサスか!!」
フェイが叫んだ。 確かにその金色のロボットは、ソラリス地上軍ゲブラー司令官専用ギア『ワイバーン』。そしてその搭乗者はゲブラー司令官『カーラン=ラムサス』その人である。
 「奴なら・・・確かに、なりふり構わないバカだ・・・」
バルトが苦笑しながら呟いた。 見れば、ラムサスのギアはふらふらしている。背中のスラスターの推力を利用して無理矢理浮いているらしい。
 無理も無い。タダでさえ気流が不安定な上に、飛行抑止の妨害電波の中を飛んでいるのだ。浮いていると言う事だけでも十二分に評価に値する。


 「見つけたぞ!! 貴様達だけはぁぁぁっ!!」
ラムサス絶叫。 金色の腕を振りかざせば、後方に浮いている空中戦艦からの砲撃が。
 「死ねっ!死ねっ! 貴様達はぁぁ!!」
 轟く砲声。 オンディーヌ隊のいる展望台に爆音と炎があがる・・・・

 「アイツ、ヤケになってやがる!!」
バルトが爆風から身を守りながら叫んだ。 どうやら国際協定を無視してまでオンディーヌ隊を潰したいらしい。
 「国際協定もあったもんじゃねえ!!」
ほむらがゴッドリラーの瞳からビームを放ち、応戦しながら毒つく。
 「でもこのままでは・・・」
アムリッタがガンポッドを乱射しつつ言う。 バベルタワーの規模からして、この程度の攻撃ならば、まだ持ちこたえられるだろう。 だが、無傷と言う訳には行かない。
 「落ちつけ! 良く見ろ、相手は一人だけだ。 後続を出そうとはしていない。」
サイモンが言うと、皆が「ああ・・・」と言う顔をした。 確かに砲撃をしているものの、出撃しているのはラムサス一人。 しかも砲撃は派手に見えるが被害を押さえる為か、威力の低い小口径の物を使用している。 落ちついて見れば威力も対した事は無い。 どうやら空中戦艦の砲手も、その辺は解っているようだ。
 「どうやら、この攻撃自体、ラムサス独断の物で部下は乗り気ではない様ですね。 やれやれ・・・」
シタンがふう・・・と一息ついて呆れた様に首を振った。 「昔はこんな男ではなかったんですが・・・」とも付け加えた。
 「でもよお!このままじゃ埒があかねえ。 一気にしとめるか!」
バルトがブリガンディアの鞭をパシッ!と、鳴らしラムサス向けて突っ込もうとした時であった。

 「ふ〜やれやれ。 やっと休憩できるぜぇ・・・」
気の抜けたセリフが聞こえてきた。 見ればようやく展望台にキカイオーが辿りついたようである。 「よっこらしょ」と、キカイオーが展望台に身を乗り出してくる。 が・・・
 「うん?」
ドオン!!──
 展望台に身を預けた瞬間のキカイオーを砲弾が襲った。 小威力なのでキカイオーにダメージは無い。だが、その衝撃力にキカイオーは展望台から危うく落ちそうになった。
 「あぶねえじゃねえか!!!ナニしやがる!!」
この出来事にジュンペイが切れた。 ただでさえ皆に遅れ、しかもなれない行動にイライラしていたのだ。 ここで落とされようものなら今までの苦労が水の泡だ。 そして・・・怒りの視線はラムサスに向けられた。 ラムサスのワイバーンの金色の姿は、ジュンペイの怒りの視線を集めるには目立ちすぎた。

 「このやろ〜!!」
キカイオーがわき目も振らず一直線に駆け出した。 一瞬の出来事なので、誰も静止する事が出来なかった。そして・・・
 ドッカ〜ン!! キカイオーは肩口からワイバーンにぶつかっていった。 強力過ぎるショルダータックル・・・キカイオータックルだ。
 だが、怒りのジュンペイには周りが見えていなかった。 他の皆が「ああ!!」と言う顔にまるで気付いていなかった。 キカイオーがタックルを敢行したワイバーンは『宙に浮いている』と言う事に・・・

 「あ? あ〜〜〜〜〜〜〜!!!」
重力には逆らえない。 キカイオーはまッ逆さまに落ちていく・・・

 『ジュンペェェェ!!!』
皆がとっさに駆け寄ろうとするが、もう遅い。 キカイオーは、背中のジェットを思いきり吹かしているが、気流が不安定な状況では姿勢を維持する事すら難しい。
 だが、タダでは済まないのがジュンペイであった。
 「テメエも道連れだっ!!」
 とっさの判断から、ラムサスのワイバーンの足を掴むキカイオー。 浮いているのが精一杯の状態のワイバーンがキカイオーを支えきれるわけも無く・・・・

 「ああ〜〜〜〜!!!」←ラムサスの悲鳴
一緒に落ちていく。

 「後で追いつく〜〜〜〜」
と、無線からジュンペイの声。 その声もだんだんと遠くなっていく。 皆が展望台のふちにかけより、下を見れば黒と金色の点が見る見る小さくなっていく光景があっただけ。
 「だ・・・大丈夫かな?ジュンペイさん・・・」
大地が冷や汗を流しながら呟いた。
 「・・・・幾らキカイオーでもこの高さじゃ・・・」
将輝が泣きそうな声を出す。 R−ガーダーの背中に貼りついているR−ブースターの香田奈も不安そうな顔をしている。 他の面々も同じような心境だろう。
 「キカイオーの頑強さに期待するしかない。」
そう言ったのはヴィレッタだ。 いつまでもキカイオーの安否を気遣ってはいられないといった風合いで、R−GUNの背中に装備されたハイ・ツインランチャーを空中戦艦に向けた。
 だが、R−GUNのランチャーは火を吹く事は無かった。 空中戦艦はラムサスがキカイオーと落ちていくのが見えると、すぐに攻撃を止め、降下を開始したのだ。

 「助かりましたね隊長。」
空が安堵するように言うが、ヴィレッタからは正反対の言葉が返ってきた。
 「マズイな。」
 「え?」
 「このまま降下すると、ユグドラシルと鉢合わせになる。 ラムサスが回収不能と判断したら報復手段としてユグドラシルを襲うかもしれない。」
 「そんな・・・」
だが十二分に考えられる事だった。 今のユグドラシルには護衛戦力はワイズダックしか残していないのだ。
対空戦闘力の低いワイズダックでは、空中戦艦と戦う事は難しい。
 「じゃあ、俺達が戻ります。」
R−ガーダーの将輝が飛び降りようとしたのを、ヴィレッタは止めた。 シェバトに付いたら何が起きるか解らない。 戦力の分散は避けたいらしい。
 「けど・・・」
だが、その心配は無用だった。

 なぜなら降下し始めた空中戦艦に無数の小型ミサイルが撃ち込まれたからだ。
突然のミサイル攻撃に、空中戦艦は炎を上げる。 勿論撃墜させるわけではない。 戦闘力を削ぐ事が目的だ。空中戦艦の上面に装備されている火器が一斉に沈黙する。 この気流の不安定の中、恐るべき命中精度だ。
 あれだけの深手を負えば、ワイズダックだけでもなんとか対処できるだろう。

 「誰だ? 今撃ったのは?」
リュウセイが辺りを見渡すが、この場にいるメンバーが放った物ではない事は明らかだった。 今のオンディーヌ隊のメンバーに、あれだけの小型ミサイルを搭載している機体は無い。
 「バルト・・・今のミサイル攻撃、見覚えないか? いや・・・『食らった事がある』と言った方が正しいか。」
 ヴェルトールに乗るフェイが隣いるバルトのブリガンディアを見てそう言った。
 「あ? ああ・・・憶えてるぜ。カラミティのミサイル攻撃とそっくりだ。 アレの命中精度も凄かった。」
フェイとバルトの言葉に将輝と香田奈も思い出した。
 「カラミティって・・・あの砂漠の地下にいた白いギアのこと!? あたしがラリアートで倒した・・・」
香田奈の言葉に、ラリアートってオイ・・・と、話の解らない他のメンバーが苦笑する。 
 「って事は・・・まさか・・・」
将輝が上を見上げた。 そして・・・予想通りの存在がそこにはいた。

 それは、太陽を背にして飛んでいた。
 巨大な二基のロケットエンジンを背負い、頑強さが自慢とばかりな分厚すぎる装甲を持つ大柄なボディ。まるでドラム缶を繋げたような太すぎる手足。そして表情が感じ取れない無機質な頭部。 濃紺の鉄の巨人がそこにはいた。
 そして背のロケットエンジンの上部から、小型ミサイルの発射管がゆっくりと閉じていく・・・
先ほどミサイル攻撃はコイツの仕業だ・・・。 誰もがそう確信した。

 「御待ちしていました。 貴方がたがTDFの生き残り・・・『オンディーヌ隊』の皆さんですね?」
屈強過ぎる濃紺の巨人から放たれた言葉は、全く似つかわしくない幼い少女の声だった。

 「カラミティじゃ・・・ない?」
フェイがそう言うと、バルトも頷いた。
 「あ?ああ・・・似てるが違うぜ。 色とか頭部とかがな・・・けど、見た目の雰囲気や武器はそっくりだぜ。」



 その頃、ジュンペイはラムサスのワイバーンともみ合いながら落下していた。
 「バカか貴様!」
 「おまえよりマシだ!!」
罵り合いながら、落下していく二機のロボット。 どちらかが地面の衝突の際、クッションにする為、上下を奪い合っていた。
 「貰った!!」
ワイバーンが下になった瞬間をジュンペイは狙った。 ワイバーンの足の裏にキカイオーの足の裏を合わせるように立った。
 キカイオーの全重量をワイバーンに預ける様な格好となった。

 「キカイオー!馬上誉れ落としぃぃぃっ!!」

ワイバーンの足の裏に立ったままジュンペイは叫んだ。
 「どうだ!ケイやシタン先生が教えてくれた技だ! キカイオーの全重量を貴様にくれてやる技だ!!」
 ジュンペイは勝利を確信した。 このまま地面なり海上と言う名のマットに叩きつければ、ワイバーンは一たまりも無いだろう。
 ゲッPのケイと、シタンが試した事は無いが知識として知っていた技をジュンペイに教えたらしい。 なんでも自分達の雰囲気にそぐわないから試す気にはなれなかったらしい。

 「これで貴様も終わりだ!!」
終着である海面が迫る! 勝利は目前だ! そのジュンペイに突然の衝撃が襲った。 いきなり落下速度が弱まったと思えば、急に落下が止められた。 
 「う!うわ!!」
突然の事にバランスを崩したキカイオーは、そのままワイバーンから離れ、海に突っ込んでいった。 そして・・・強大な水柱があがった。

 「意識はあるかな?」
 
ゆっくりと地上に降りたワイバーンが、落下の衝撃に揺れる海面をみながら呟いた。 コクピット内でラムサスは吹き出た鼻血を拭取った。
 「ダイレクトに海面に叩きつけられた君と・・・」
 そう言って、折れた長剣を見るラムサス。 根元近くから綺麗に折れていた。 次に後を振り返れば、タワーの壁面に真っ直ぐな一筋な傷跡が・・・そして傷跡の執着点にはワイバーンの長剣の刃が刺さっていた。
 「激突寸前でブレーキを掛けた私。 ふふふ・・・ハハハ!!」
あの状況下で、逆に冷静さを取り戻したラムサスの逆転勝ちといったところか? 揺れる海面に向け大笑いする。

 「つくづく汚れてやがる。」
──!!??
 その言葉に気付き、ラムサスが振りかえる事は無かった・・・否、出来なかった。 ワイバーンは装甲の薄い背後に強力な火砲の一撃を食らい吹き飛ばされた。
 「貴様は・・・この世に生かしちゃ置けないって言うのは・・・言い過ぎか?」
声の主・・・背後からワイバーンに向け火砲を放ったのはユグドラ護衛の任についていたワイズダックだった。 勝利に気を取られ、背後のワイズダックにラムサスは気付いていなかったのだ。
 まったく隙だらけのワイバーンに、ゴンザレス軍曹のチームは、躊躇無く火砲を放った。
 「よし・・・トドメだ。」
 『イエッサー!!』
 トドメの一撃を加えるべく倒れたワイバーンに向けるワイズダック。 だが、その場に雨が降った。 機銃弾と言う名の雨が・・・
 ゴンザレス軍曹達が頭上には、空中戦艦がラムサスを回収するために降りてきたらしい。 バババッ!!と、文字通りの雨あられの機銃掃射だ。 倒れたラムサスを回収させるまで、ワイズダックを近づけないつもりらしい。
 「結構やられてるな。 機銃ぐらいしか武器が残ってないらしいぜ軍曹。」
トーマス伍長の言葉にゴンザレスは「見りゃ解るといった」
 「軍曹。ヴィレッタ少佐から通信。 あの戦艦はかなり深手を負ってるらしい。対処は任せる・・・そうだ。」
通信士のヘルマン上等兵の言葉にゴンザレスは「無理をする事はねえ。」の一言でワイズダックを下がらせた。 『撃墜しろ』とは言われてはいないわけだから、下手に手出しして痛い目を見ることは無い。 それに今の自分達の任務は艦の護衛だ。

 やがて、空中戦艦はラムサスを回収すると、大急ぎでその場を離れていった。 危険が去った所で、ワイズダックはゆっくりと岸辺に近づいていった。 海に落ちたキカイオーを調べる為だ。
 「さて・・・生きてるかな?」
 まるで他人事の様に呟くトーマス伍長。 陸戦型と言っても、ワイズダックもある程度ならば水に浸かる事は出きる。 完全な潜水は勿論不可能だが。
 だが、ワイズダックは水に浸かる事は無かった。 その代わりに、新たに目の前で発生した水柱に海水のシャワーを浴びる羽目になったが。



 「カラミティ? それはおじいちゃんが造った『ゼプツェン』のプロトタイプです。」
紺色の巨人から放たれた幼い少女の声が少し驚いた様だ。

 「おじいちゃん・・・・じゃあ君は・・・あの洞窟の爺さんの・・?」
フェイの言葉に、濃紺の巨人がオンディーヌ隊の傍に降り立った。 見れば頭部に少女が捕まっていた。 フリフリのゴスロリ衣装を身に付け、髪をくるくるの縦ロールにした可愛らしい少女だ。 何故か額にゴーグルを付けていたが何故か似合う。 年の頃も12〜13歳と言った所か。
 「私はマリア。 マリア=バルタザールです。 このギアは『ゼプツェン』! ゼファー様の命により、皆様方を御迎えにきました!」


 次 回 予 告

 ついにシェバトに辿りついたオンディーヌ隊。 そこで対ソラリス攻略作戦の概要を知る!
 だが、情報をかぎつけたソラリスの魔の手がシェバトに迫る。 オンディーヌ隊分散配置!迎撃作戦開始だ!
 そこに現れる強力ギア『アハツェン』のジャミング攻撃が、オンディーヌ隊を襲う! 絶体絶命の危機!
 
 次回、サイバーロボット大戦 第三十八話 『父との絆! 合体攻撃グラヴィトンブレイザー!!(前編)』
 次回も合体技がすげえぜ!! 「幸せは犠牲無しで掴み取れる!」・・・マジ?


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