第三十六話 『黒海の決着 チチをもいだデュエル!!』
エールシュバリアー、ブランシュネージュ、ヤルダバオト、そして・・・ガルムレイド。
ダイテツ艦長のじきじき指名により集められたロボット達が、4機のソラリスギアを前に立ちはだかっていた。 全てはハガネをラムサスの元へ行かせる為・・・ ソラリス地上軍の最終防衛部隊とも言える親衛隊───エレメンツを前に一歩も引かない様相を見せている。
対するエレメンツも愛するラムサスに害を成そうというハガネをむざむざと行かせるわけにはいかない。 この邪魔な4機のロボット達を一刻も突破しなくてはならない。
「ドミニア・・・ここは一点突破で振りきりましょう。 我々の任務はラムサス閣下の脱出の時間を稼ぐ事です。」
サメ型ギア、マリンバッシャーに乗るエレメンツの参謀格であるケルビナが、もっともな発言をするが、他の3人にはそんな事は耳に入ってはいない。
「コイツらは、どうやら機動力に長けた連中ばかりだ。振りきれるとは思えん。」
翼竜型ギア、スカイギーンに乗るトロネが、目の前の4機を見てそう判断した。 確かに特機タイプであるガルムレイドを除けば、残りの3機はやたら機動性が良い。
「ラムズ(地球居住者)に、そんな優れた機体を開発できると思うのですか? 今はハガネを。」
偏見とも言える台詞をケルビナが言う。 だが彼女は言葉とは裏腹に、冷静に眼前の4機の性能を推測していた。 それにここ黒海での勝敗が決したのは、ただ単に物量だけではない事も解っている。 実際、彼女達が戦ったTDFの新型PTをはじめとしたロボット達は、非常に高い水準の完成度を誇っていた。
特にデイトナグリーンとペールグリーンで塗装された機体(量産型ディクセン)は、その中でも群を抜いていた。諜報部の調べに寄れば、対ゴルディバス用にと試作されていたものらしい。 また上司であるラムサスを一蹴したゴルディバス軍のシャドーレッドか言う幹部が乗っていた機体に良く似ていた。恐らくそれをベースにした量産機なのだろう。いよいよ量産体制が整いつつあるのだ。 勿論単機での性能を考えれば自分達のギアのほうが優れている。 が、それでもTDFのロボット達はそれに迫る力を持っていた。
ケルビナには、宇宙の本国の戦力が激減しているのも知っていた。 この黒海に応援が来なかった事が何よりの証拠。 加えてTDFのみならずDN社・・・RNAとか言う連中の第2世代型VRと言うロボットは、ケルビナが脅威を覚えるほどの力を持っていた。
本国の戦力がズタズタにされたのも、この新型VRの大量投入の為と聞いた。
「(もはや地上での勝敗は決した・・・)」
と、なれば本国の戦力が立て直しが難しい現状では、宇宙を主戦場にするしかない。宇宙でならば防衛用の守備隊と本土決戦用の艦隊がなんとか残っている。そこならば、まだ互角に戦える。 だが長引けば物量の面、そして対抗組織の多さから圧倒的に不利になる。何か一発逆転を図れる策でもない限り勝ちは薄い。
「(長期戦は出来ないと言う事ね・・・)」
そうでなければ、TDFならびにDN社と講和条約を図るなりしなければ、ソラリスは滅びる・・・
「(だが、我々の教義がそれを許さない・・・負けたか。)」
だがそれは自分からは決して口には出せない。 それを決めるのはソラリスの天帝であり、中央政府を牛耳るガゼル法院だ。 とにかく今は、愛するラムサスの元へ急ぐ事が最優先事項だ。
その為には、まず仲間3人をどうにかしなくては・・・
だが、その仲間3人は、目の前の4機のロボットと戦う気満々。 トロネが言ったとおり、機動力に優れている機体ばかり、突破できる可能性は薄い。 ここは誰かを脚止めに置き、残るメンバーで突破したい所だが。
「丁度4対4!!いくぞっ!!」
4人の中で唯一の人型ギア、ブレードガッシュに乗るドミニアが叫んだ。 残る二人もそれに同意している。
「・・・・」
こうなったドミニアは止められない。 ならば一刻も早く目の前の4機のロボットを倒し、ラムサスの元へ行くしかない。
「じゃあね!じゃあね!アタシがノコギリの奴!!」
ライオン型ギア、グランガオンに乗った一応リーダーのセラフィータが、ガルムレイドに目を向ける。 ロリ顔・巨乳・ウサミミ・ピンク色と、4拍子揃ったいかにも『大きなお友達』受けしそうな容姿に寄らず、その戦闘力は高い。 でなければエレメンツに抜擢されるわけが無い。
「では、私はオレンジ色の奴だ・・・」
翼竜型ギア、スカイギーンに乗るトロネが、ブランシュネージュを目標に定める。 一見見れば銀髪ツインテールだが、身体の多くをサイボーグ化している人間凶器。 だがいつもコンビを組むセラフィータのボケに対してのツッコミ役といったほうが適切。 その為にいつも悩まされているので、そのストレスからの身体的ダメージを回避する為にサイボーグになったのではないかと言う噂も・・・
「私はあの青い奴だっ!!」
ブレードガッシュが長剣を構えて、エールシュバリアーを睨みつけた。 搭乗者はドミニア。最もラムサスを盲目的に崇拝している。 本来のリーダーはセラフィータなのだが、いつのまにかリーダーの様に振舞っていて、それが自然と受け入れられている。 激情的な性格で、行動力もある。簡単に言えば『熱血系』。
「と、言う事は・・・私があのたけがみのついた機体ですね。」
ドミニアのマリンバッシャーが、ヤルダバオトに立ちはだかる様に対峙する。 彼女がエレメンツの中で、最も冷静沈着である。黒髪ショートで常に瞳を閉じている。彼女が目を閉じているのは、彼女が持つエーテル反応・・・俗に言う『気』や『オーラ』と(厳密には違うが)似たようなものが高すぎる為に、リミッター代わりに目を閉じているのである。
4機のギアがザッ・・・と横一列に並ぶ。 これがエレメンツ専用に開発された特注機──その性能は、並のギアやPT、VRを上回る。
そして、それを駆る彼女達4人も並のパイロットではない。 ソラリスでも精鋭中の精鋭で、僅か4人しか選ばれない総司令官直属の近衛兵である。
ちなみ彼女達は2代目にあたり、初代メンバーは、ソラリス現総司令官のラムサス・ユグドラシル副長のシグルド・ビリーの父ジェサイア・そしてヒュウガことシタンである。 このうち、と言うかラムサス以外の3人が、愛想尽かしてソラリス出てっちゃった為に解散・・・と、ビリーの父であり、シグルド&シタンの先輩でもあるジェシーは、酔っ払いながら言っていた・・・ので、本当にそうなのかは不明である。
あと、彼女達はそれぞれ色違いだが、上半身は共通の服装をしている。(下半身は個人の自由らしいので、ケルビナがロングブーツ。ドミニアがミニスカート。トロネがショートパンツ。セラフィータがショーツである)
そしてそれぞれ色分けされてるので、以前リュウセイがエレメンツ達を「ガ○レンジャー」と、言ったのも頷けるものがある。 そしてそれはギアにも反映されているので、余計にスーパー戦隊のメカニックっぽく見える。
それは、ブランシュネージュに乗るクリアーナ(通称:クリス)が・・・・
「うわ〜、戦隊ロボだぁ♪ レッド、ブルー、グリーン、ピンクと揃ってるよぉ♪」
と、言われている始末。
無邪気にはしゃぐクリスだが、急に口調が変わり・・・・
「イエローがいないじゃない。あ・・・あの翼竜型が少しイエローがかってるか。ねえクリス。」
するとまた口調が変わり・・・
「そうよね、もう一人の私!・・・じゃなかったリアナ!きっとカレーが好きなのよ!」
彼女が言う『もう一人の私』とは、彼女の別人格の事である。 彼女は過去の事故が原因で「クリス」と「リアナ」と言う二つの人格を有するのだ。 普段はおっとりして明るい性格のクリスだが、戦闘時には、強気の性格のリアナが表に出る。ブランシュネージュの操縦もリアナが受け持っている。
エールシュバリアーに乗る、義兄であるジョッシュは彼女がこうなった原因を知っているし、理解もある。 彼女達(?)の人格も上手く共栄している事から、ほとんど気にする事も無い。 が・・・・、彼女達(?)の事を知らない他のパイロットたちは、無線を封鎖していないので丸聞こえなので・・・・
「こわいよ!貴方の妹!」
と、怯えるガルムレイドのサブパイロットのアクア少尉。傍には一人で何かブツブツ言っているようにしか見えないからだ。 だが、パートナーであるヒューゴ少尉と、ヤルダバオトのパイロットであるフォルカ・アルバーグ(通称:フォルカ)は、全く気にしてはいない。
「2重人格なのか? まあ・・・能力に問題無いならいいんじゃないか。」
と、平静なヒューゴ少尉。
「戦闘に不備が無ければそれでいい。・・・・似たような者を知っている。別に不思議がる必要は無い。」
フォルカも冷静そのもの。取り合おうともしない。
「・・・私だけが変ってこと・・・? そうなの・・・?」
イマイチ釈然としないアクア少尉。だが、確かに二人の言う通りだ。 多重人格であろうとなかろうと、彼女は仲間なのだ。 それに今、ここでそんな事を気にしている余裕は無い。 目の前に敵がいるのだ。
「そ・・そうね。今は集中しないと。」
──ザッ!! と、こちらのロボットも、エレメンツに対峙するように横一列に並ぶ。 ある意味、格闘技などの団体戦にも似た光景であった。 各々がそれぞれ戦うべき相手を睨みつけていた。
だがこれから行われるのは試合ではない・・・・
「なんだか・・・団体戦みたい。」
アクア少尉が、緊張を和らげる為か軽い冗談を口にするが、他の4人は笑いはしなかった。
「これは試合ではない・・・」
冗談が通じないのかフォルカが感情の無い声で言う。 その言葉にヒューゴ少尉が頷いた。
──そんな時だった。 対峙するエレメンツギアが、外部音声で呼びかけてきた。
『聞こえているな!通信回線をオープンにしろ! 今の状況では無線封鎖も通信傍受も役には立たん!』
どうやら長剣を持った人型ギアが呼びかけている様だ。 4機とも応じる事にし、通信状態を解放した。
通信機から聞こえてきたのは、長剣を持ったギアから聞こえてきた声と同じ、若い女性の声だった。
「よくも我等エレメンツにたてつこうなぞ、いい度胸だな! 我らに戦いを挑んだ者の末路を知らんようだな。」
そう言って、周りを見ろ!と、言い放つ。 4機が周囲を見渡せば、そこにはエレメンツと交戦したと思われるロボットの残骸が散乱していた。 大半はPTやVA・AMと言ったTDFの機体だが、中には宇宙悪魔帝国の小型ビーストやRNAのVRサイファーの姿もあった。
「これを見ろ。」
長剣を持ったギアが、片手で各坐していた比較的損傷の軽いサイファーを持ち上げた。恐らく何らかの原因で動けなくなり、パイロットが機体を放棄した物だろう。エンジン・・・というかV=コンバーターがまだ動いているのが解る。
──バッ!と、サイファーを空中に放り投げると、手にした長剣を振りかざした。
ガシャンッ!!と、地上に落ちたサイファーは、胴と首が綺麗に切り離されていた。 他はどこも壊れていない。 これだけでかなりの技量があるか解る。 恐らく実力誇示のためのパフォーマンスだ。
「どうだ? 恐れを成したか?ラムズ(地球居住者)に、この様な芸当は出来まい。」
「その程度か?」
ドミニアのパフォーマンスに、フォルカが鼻で笑った。 「なんだと!」と激昂するドミニアをよそに、ヤルダバオトが先程のサイファーと同じようにスクラップと化しているド・ムーンの残骸を2つ持ってきた。 「?」と、不思議そうに見つめる他の連中をよそに、ヤルダバオトはド・ムーンを折り重ねる様に二つを重ね、そしてド・ムーン目掛けて、下段突きを見舞った!!
──!!??
全員が言葉を失った。 粉砕されたのは重ねてあるド・ムーンのうち下の奴だけで、上のド・ムーンはまったくの無傷であった。
「・・・」
無言でブレードガッシュを見るヤルダバオト。 その態度にドミニアは腹を立てた。何か挑発的な言葉を言われるよりこたえる。 「どうだ?」と、言っているようで、無性に腹が立つ。 挑発するつもりが逆に返されている・・・・それが悔しくて溜まらない。
───御互いのパフォーマンスは終わった。 どちらかとも解らず、両者の武器が火を放ったからだ。 こうなったら問答は無用。 8機のロボット達は、それぞれ対峙するべき相手に踊りかかっていった・・・
「撃てっ!撃てぇぇ!!」
地響きにも似たハガネの砲声が鳴り響く。 PT部隊の空爆にソラリス司令部の火器は半ば無力化されつつある。 ソラリス本陣に槍を突きつけたような様子で、ハガネの艦砲射撃が休み無く続く。
司令部の真正面に陣取り、その火力に物を言わせるハガネ。 本陣の防衛部隊と思われるソラリスギア部隊が攻撃を仕掛けてきているが、焼け石に水。ハガネの無数の防空火器に阻まれ、殆ど掃討射撃と言っても良い状態だ。 ハガネが撃ち漏らした奴は、直援のハガネ所属の3機のPT・・・ジャーダ少尉とガーネット曹長の量産型ゲシュペンストMK−U、そしてリオ伍長のヒュッケバイン009が確実にしとめる。
「目標の火器は半ば沈黙化しつつあります!!」
エイタ伍長が叫ぶ。 ハガネの砲撃とPTの空爆によって、すでにソラリス司令部は堀を失い始めた。 まだ幾つか対空火器が生きている様だが、空爆担当の二機のグルンガストとビルドラプターによって、その火線は急速に力を失い始めている。
「主砲、敵司令部正面!!出力は絞れぇいっ!! 内部への突入口を開く!!」
艦長のダイテツ艦長が突如叫んだ。 テツヤはすぐさま各セクションに通達する。
「艦首、トロニウムバスターキャノン用意!!出力30%!!目標、敵司令部正面っ!!」
ハガネの艦首が光に包まれる・・・スペースノア級弐番艦ハガネのみに装備された重金属粒子砲、通称『トロニウムバスターキャノン』。 原理自体はR−GUNのHTBキャノン(別称:天上天下一撃必殺砲)と、ほぼ同じだが出力は桁違い。
「撃てぇぇぇっ!!!」
ハガネの艦首から眩い光が放たれた。 バスターキャノンの直線状にいたソラリスギア達が、光の中に消え去っていく・・・・
出力30%と言えど、その威力は凄まじい。 光線が消え去った後は、大地が綺麗に半球状にえぐられ司令部のある基地外壁に、大穴を開けていた。
それが肉眼で確認できたとき、ダイテツ艦長が、カッ!!と目を見開き、叫んだ。
「突入班を!! 本艦はこの位置で固定!砲台として味方機の援護ならびに敵ギア部隊への掃討射撃を行うっ!!」
ダイテツの言葉に、テツヤは力強く頷いた。
「了解!!突入口確認っ!! 突入部隊発進っ!!」
ゴゴゴ・・・・と、ハガネの左右のPTカタパルトが動き出す。 既にスタンバイしていたPTをはじめとしたロボット達が動き出す。
「頼むぞ、ラミア中尉っ!!」
ハガネの艦橋のモニターに、ロングヘアーと緑色のレオタード姿が美しい若い女性の姿が映る。 PT部隊の隊長代理を務めるラミア中尉だ。 外にはカタパルトから、まるで天使のような姿をした弓を持ったピンク色の女性型のロボットの姿が。ラミア中尉の機体『アンジュルグ』だ。
「了解だ副長。 ラミア・ラヴレス、アンジュルグ出る。」
美しい羽を輝かせ、アンジュルグが飛び立つ。 そのすぐ後に、まるで口元から髭を伸ばしたような印象を与え、肘や膝、足首や肩が突起だらけの青い人型ロボットが。 いかにも格闘戦専用を思わせる。その証拠に何も火器を携帯していない。 火器が制限されやすい屋内では威力を発揮しそうだ。
「よっしゃ!アクセル・アルマー、ソウルゲイン出るぜっ!」
PT部隊の副長のアクセル中尉だ。 赤い髪と人当たりが良さそうな雰囲気で、仲間からの信頼も厚い男だ。
引き続き、姿を見せたのは先程のアンジュルグ、ソウルゲインによく似た機体が。
「マナミ・ハミル!」「アイシャ・リッジモンド!」 『スイームルグS!行きますっ!!』
いかにも育ちの良さを伺わせるお嬢様二人が乗った、翼を背負った赤い女性型ロボットが飛び立った。
「ブラッド・スカイウィンドっ!スーパーアースゲインでるぜっ!」
赤い髪と鋭い目つきの少年が叫び、青いロボットが飛び立った。
「ったく、はりきりすぎんなよお前等・・・カーツ・フォルネウス!ヴァイローズ出るっ!」
最後に紺色のロボットが飛び出した。 面持ちはソウルゲインとスーパーアースゲインと良く似ている。
似ているのも無理は無い。ソウルゲイン・ヴァイローズ・スーパーアースゲインそして、ラミア中尉とアクセル中尉が以前使っていたヴァイサーガは、全て『アースゲイン』と呼ばれる機体からの派生機だからだ。 これらの機体は近接格闘戦を前提に開発されている。 拳・足技・剣と戦闘スタイルは異なっても、基礎は同じなのだ。
同じように、アンジュルグとスイームルグSも基は同じ。 近接戦と機動力を重視している。 ただ、アンジュルグが弓と剣を主体に戦うに対し、アンジュルグはブーメランと内蔵兵器と言う違いはあるが。
五機のロボット達が、ハガネが開けた大穴から内部に突入していく・・・
突入班に彼等を選んだのはダイテツの判断だった。 屋内での戦闘は火器の使用がかなり制限され、近接武器も長物のは使いにくい。 そこで、動きが速く、近接格闘を主体にしたソウルゲイン達を選んだのだ。 装甲の分厚いソウルゲイン達が前面に立ち、アンジュルグとスイームルグがそれを支援すると言う形だ。
他のPTではこうはいかないし、グルンガストは、屋内では大きすぎて殆ど動けない事が予想される。 理想を言えばヤルダバオトやエールシュバリアーもいたほうが良いのだが、この際文句は言えない。現状の戦力でやるしかない。
「頼んだぞ・・・」
テツヤはまっすぐモニターを見つめていた。
「敵、人型機動兵器5機。基地内に侵入っ!!」
「防衛部隊、敵戦艦の掃討射撃を受け、壊滅状態です。」
「外壁損耗率6割を超えました。 対空火器も敵の空爆で沈黙しています!!」
ソラリス司令部の司令室では被害報告ばかりが飛び交っていた。 情況が好転している様子は全く無い。既に勝敗は決しているのだ。
「くそ・・・」
歯噛みするラムサス。
ラムサスには予想外だった。 TDFにこれだけの力が残っていたのかと・・・。 戦略的な視野で見れば、TDFの戦力は全盛期の半分にも満たない事は間違い無い。
既に地球連邦政府は瓦解し、TDFとは名ばかりで、実情は極東方面のみの国家の連合軍と言った方が良い。 極東方面の国家が、『とりあえずの』連合を組んでいるすぎない。
連邦崩壊と同時に、各国は連邦政府樹立前に逆戻り。 その時点でTDFは事実上崩壊した。 その際、TDFの軍備は解体されるべきであった。
だが、連邦が崩壊したと言う事は、昔のように他国からの侵攻に怯え、国土は自らの手で守らなければならないと言う事も意味する。 その為の戦力は必要であった。
だが極東方面の国家には、連邦政府に加盟していた為、DN社やアヴェにキスレブ、ソラリス、SF虎巣喪組のような特定の軍事力を保持していなかった。 むしろ連邦政府でありながら、独自の軍事力を持っていたDN社達が間違っているのだ。
否・・・ここは、連邦崩壊を予見し、着々と力を蓄えていた彼等の先見の鋭さを評価すべきかもしれない。 『備えあれば憂い無し』と言う事だ。
そこで、極東の国家首脳達は急遽会合を開き、TDFの残存戦力を吸収し、そのまま自分達の軍事力とする事としたのだ。 TDFに残された戦力が、全盛期に比べれば見る影も無い事が、無用なトラブルを避ける事となったのは皮肉な事だ。
だが、極東方面のみの軍事力とするには十分だ。 そして戦力の分配に関しては、極東の各国間で生じるトラブルを回避する為に、『極東連合』と言う、いわゆる極東方面のみの連合組織を作り上げた。旧西暦の国連に近いものと思って良いだろう。
そしてTDF残存戦力を全て、そこに属させたのだ。 「簡単に言えば連邦軍の『極東のみVer』だ。」と、ある国家の首脳が酒を飲みながら冗談半分に言っていたが、事実と思っていただいて良い。
これにより、極東の国家間同士で起きる軍事衝突を避け、極東の守りをわずらわしい手続き無しで行おうと言う試みだ。 連邦崩壊によって起きたトラブルは、国家の首脳達を少しだけ利口にしたようだ。
これは残されたTDFの兵士達にとっても幸いした。 属する国家の違いで戦友達が、明日は敵になるかも・・・と言う危機感を、僅かながら拭う事が出来たからだ。
勿論、全ての兵士が極東方面の出身者ばかりではない。 極東方面の出身で無い兵士には、軍を離れ生まれ故郷の軍に所属したりする者も多かった。
逆に、「いつか故郷を取り戻す」と言う使命感に燃えたり、「TDFを離れたくない」と言った兵士達は、そのまま極東方面の国家に属したりした。
明らかに極東方面の人種ではない人間が、今のTDFに所属しているのは、そういった理由だ。
そして極東方面のみに縮小されたとは言え、やる事は以前と変わらないことも兵士達を必要以上に混乱させない要因の一つとなったのだ。
そんな経緯ゆえか、本当ならば『極東連合軍』とでも言えば良いのだが、やる事は変わり無いので、『TDF』と今も名乗っている。 一応宇宙には極東国家に属するコロニーもあり、宇宙も管轄に入っているので、極東各国の首脳達も無理して名前を変える気も無いらしい。
これらの背景に、TDFの再建を支援する、マオ・インダストリー、イスルギ重工、天宮財閥、香坂財閥の影響力があった事は言うまでも無い。
特に、TDFの中でも、本作戦で後方撹乱を担当したオンディーヌ隊の設立には、故イングラム・プリスケン少佐と太いパイプを持っていた天宮・香坂の両財閥の力が強い。
「TDFめぇ・・・旧連邦の犬どもが、やってくれる・・・」
ラムサスがモニターを睨みながら呟いた。 モニターに映るハガネをまるで、親の仇でも見るような目で・・・
「陽動撹乱・・・強行突破に高高度迎撃・・・第3、第4勢力の介入・・・奇策に次ぐ奇策・・・ラムズ(地球居住者)どもめ・・・」
悲痛な被害報告が飛び交う中で、ラムサスはモニターを睨みつづけていた。 どっしりと構えている様だが、切り札の核攻撃は失敗し、精鋭であるエレメンツは足止めを食らってる・・・微かにだが足元が震えている。 このままでは脱出すらままならない。
司令室のモニターには、基地内部で大暴れするソウルゲインが見えた。 別のモニターには、出撃直前の予備兵力ギア部隊に、スイームルグとアンジュルグが雨の様にビームと光の矢を降らせる・・・
「第3動力室が敵機の攻撃で破壊されました! 火災発生!!」
半分死んだモニターには、ノイズに乱されながらも、動力炉に拳を叩きつけるスーパーアースゲインが。
「副発令所に敵機侵入!・・・いや、敵兵一名に・・・・制圧されました!!」
別のモニターには、武装した兵士達を黒髪の男が次々と蹴り倒す。 その背後にはヴァイローズの巨体が・・・
「防衛に廻せる部隊は無いのか!? 第二攻撃隊を呼び戻せっ!」
ラムサスの近くにいた士官が叫んでいるが、オペレーターは殆どが敗走中で、戦えないと言う。
敗走してきた部隊を再編成し、範囲を縮小させる事で守りを固める様に指示を出しているが、現在の戦況は既に掃討戦に移行しており、配送中の部隊も、各個撃破されるか、投降するなりしていた。 攻撃に出ていた部隊で司令部周辺に戻ってこられた部隊は、全体の3割程度だ。
しかも、司令部は現在ハガネの艦砲射撃とロボットによる内部攻撃を受け、壊滅に近い状態だ。 脱出の準備すら難しい。
「エレメンツは!?」
ラムサスが叫んだ。 一刻も早くエレメンツを呼び戻し脱出しなければ、このままでは司令部と運命を共にするか、TDFの捕虜になる事は明白。
捕虜になる事は、問題外だ。 そんな事なら死んだ方がマシかもしれない。 だが・・・ここで戦死する事は簡単だが、汚名を返上できないまま死ぬのはラムサスのプライドが許せなかった。 だが、ここで生き延びても恥の上塗り・・・・
つまり、死んでも生き延びてもラムサスのプライドはズタズタだ。 そればかりか司令官と言う立場を剥奪されても文句は言えまい。
がけっぷちどころか、すでに突き落とされたのだ・・・ 顔面蒼白の上、意識を失いそうになる。
パニックに陥りそうな自分を必死に自制し、ラムサスはたっぷり一分は考えた。
「・・・・・・」
結論は出た。 恥の上塗りになろうが、権限剥奪になろうが、生き延びる! そして汚名返上のチャンスを嘆願するしかない! ここで死んだら、無能司令官のまま死ぬ事になり、末代までの恥さらし・・・・それだけは考えたくなかった。
「本司令部を放棄する!!総員、第3ドックの空中戦艦に退避!! エレメンツも至急呼び戻せ!!」
開口一番にラムサスは駆け出していた。 部下たちが「残存戦力の撤収ルートは!?」 「残された兵達の指揮命令系統は!?」と言う反論を無視し、自分だけが一番に駆け出していた。 副官であるミァンと共に・・・・
こうなったら、後は酷い物だった。 司令部を放棄と聞いた途端に、指揮中枢が消滅したのだ。 司令部のラムサスの傍にいた兵士のみが我先にと、逃げ出したのだ。 殆ど脱走に近い状況だった。
総司令官が捕虜になる事だけは避けなければならないのは解る。 だが、少なくともその後の指揮系統を残していくべきではなかったのか・・・。 だが総崩れとなったソラリス軍に、その事を問える者は殆どいなくなっていた。
その事をTDFで、一番先に気付いたのは司令部の副発令所を制圧したカーツだった。 コンソールから流れる司令官(ラムサス)と思われる声は、彼を驚愕させると同時に、怒りを買った。
「味方見捨てて、側近だけとトンズラだとっ!? ふざけんな!!俺はこんな奴と戦っていたのか!!」
思わずコンソールを殴りつけた。 怒りが収まらないのか、何度も何度も殴りつけた後、冷静さを取り戻してきた。 ハアハア・・・と、息を整えると、突然足元に火花が散った。 銃弾が撃ちこまれたのだ・・・とっさにコンソールの陰に隠れる。 こっそり見れば、武装したソラリス兵が発令所の入り口に見を半身隠しながら、小銃を撃ちこんでいた。
「そこまえだ!TDF!大人しく出て来い!!」
その言葉からすると、彼等はラムサスの指示を聞いていない様だと、カーツは思った。 基地内は混乱していて、基地内とは言え指揮系統が正常に機能していないのだろう。 でなければ、撤退指示が出されたにも関わらず、こんな副発令所を取り戻そうとはしない。
「貴様の機体は、どうやら特機だな。 これをラムサス閣下に献上してやる!ありがたく思え!」
小隊長らしき兵が叫んだ。 こりゃビンゴだ・・・。カーツは先程の自分の考えが正しい事に確証が持てた。
「おい! そのラムサス閣下なら、お前達見捨てて逃げたぜ。聞いてないのか?」
わざとらしく大声で言った。
「ふ・・・ふざけるな!! ラムサス閣下がそのような事をなさるわけが無いだろう!!」
「なら、こいつ等にでも聞いてくれよ。 事実と言う事を。」
そう言ってカーツは、その発令所を制圧した時に蹴り倒したオペレーターを一人掴みあげ、自分の盾にした。
「撃つなっ!! 本当だっ! コイツの言っている事は事実だ!!」
カーツに掴まれたオペレーターは泣き叫びながら訴えた。
「ほ・・・本当なのか?」
兵たちは、明らかに声色を変えて尋ねた。
「嘘だったら、後で撃ってくれて構わない!! だが事実だ!ラムサス閣下は、側近だけ連れて第3ドックの空中戦艦へと逃げたんだ!」
すると、小銃を持った兵士達の何人かが銃を床に落とし、力無く崩れた。 どうやらよほどショックだった様だ。
「そ・・・そんなぁ・・・」
「だいたい、初めから勝ちの薄い戦いだったんだ!! それで核ミサイルまで使ったんだ!」
「俺達の仲間が撃ち落したがな。」
と、カーツは付け加えた。
すると、その場にいた兵達の幾つかは銃を捨てて逃げ出した。 そして発令所に残されたオペレーターと何人かの武装兵士が、カーツに泣きついてきた。
「ん?逃げないのか? 別に基地に自爆装置でも仕掛けられた訳でもないだろう?」
カーツが泣きついてきた兵士に問い掛けた。 だが兵士達は首を横にブンブン降った。
「それはないけど!この状況じゃあ、生きて第3ドックまで辿りつけるかどうかわかんねえし、空中戦艦に乗れるかどうかも解らない! 頼む!アンタの特機で逃がしてくれ!」
「降伏するのか?」
兵士達は頷き、その場で土下座までして訴えた。 選民思想の強いソラリス人のプライドも何もあったものではない。
「はあ・・・しょうがない。俺のヴァイローズで運んでやる。 コンテナか何かないか?おまえ等運ぶためによ。」
「この部屋の外に、基地内移動用のミニバスが・・・」
「よし、それで十分だ。 持ってこい。」
すると、武装兵士の幾つかが部屋の外に走った。 カーツはその後オペレーターの方を向いた。
「この発令所の機械はまだ使えるな? こいつで司令部全体にTDFへ投降するように呼びかけろ。お前たちのボスは逃げ出したからとな。俺達も出きるだけ血は流したく無い。」
は・・はいっ!と、オペレーターはすぐにコンソールに向き、通信を発信しはじめた。 その様子を見てカーツは勝ったな・・・と思い、ヴァイローズに戻ろうとした。 捕虜となった兵達を運ぶ為だ。
そんな時、背後に気配を感じ、廻し蹴りを放った。
「待ってください!!」
その言葉にカーツは蹴りを寸止めした。
「御見事。さすがTDFの特機のパイロットですな。」
そう答えたのは、武装兵士の一人だった。 が・・・なにやら様子がおかしい。
「私は『シェバト』の工作員です。 こんな時の為にソラリスに『草(スパイ・工作員・忍の者の事)』として忍んでおりました。」
「シェバトの草・・・。」
武装兵士は頷き、胸元から身分章を見せた。そこでカーツは振り上げた脚を下ろした。
「私を、TDF艦隊旗艦に連れて行って頂けませんか。 ソラリス本土攻略の為の情報を伝えなければなりません。」
「ソラリス攻略・・・だと?」
「はい。 それが我等の代表者『ゼファー』様の御意志です。 ようやくTDFに力を貸す事が出きると・・・」
「敵ギア部隊、ほぼ壊滅しました。 対空火器も無力化されています。」
ハガネのブリッジで、ほぼ掃討戦に移行していると言う報告が。 他の場所でもシロガネ以下の部隊によりほぼ沈黙化しているとの事だ。 各所で地上ソラリス軍は敗走を続けていると言う。
「よし・・・後は突入班の報告待ちですね艦長。」
テツヤは艦長を仰ぎ見た。
「うむ・・・。だが油断はするなよ。 まだ完全に勝敗が決していない。 肝心の総司令官ラムサスという男を倒したわけでもない。」
「はい。それと、傍受した通信・・・ラムサスが脱出したと言うのは事実でしょうか?」
「恐らく事実だろう。 敵の動きに明らかに混乱が見える。 指揮系統が消滅したようだな。」
「我々にとっては好都合ですが・・・」
テツヤの言葉を艦長がつなぐように口を開いた。
「・・・残された兵達にとっては悲惨だろう。 的確な指示を何一つ得られなくなったのだからな。 許せんな・・・兵たちをなんだと思っているのだ。」
「はい。 敗残兵にはできるだけ投降を呼びかけます。」
その言葉に艦長は頷いた。
「そうしてくれ・・・。あと、ラムサスはまだ脱出したとは思えん。 逃げるなら空しかない。機を見て動く筈だ。些細な兆候も見逃すな。」
「了解。各部隊へ通達! 総司令官ラムサスが脱出の準備に入っているとの情報あり、索敵の手を緩めるなと伝えろ!」
テツヤが無線に叫ぶ。 その指示をエイタが全部隊に広げる。
「それと、突入班にラムサス捜索を並行して行えと伝えろ。」
テツヤがエイタにそう告げると・・・それよりも早くエイタが振りかえる。
「突入班、カーツ少尉より通達! 敵基地副発令所を制圧!ラムサスは第3ドックへ逃亡したと! あと多数の投降者とシェバトの工作員を保護したと!」
その言葉に、艦長が片眉を動かす。
「シェバトの工作員だと・・?」
「はい。当艦へ保護を求めているとの事です。なんでも情報を提供したいと。」
この報告にテツヤが艦長を仰ぎ見る。
「どうします?艦長。」
「この状況では嘘とは思えん。 よし、カーツ少尉へ帰艦命令を出せ。投降者ならびに工作員を保護する。」
「了解! エイタ、カーツ少尉に帰艦命令! 歩兵第5小隊を左舷帰艦ハッチに待機させろ!」
「了解しました。 あ・・・報告補足!カーツ少尉がソラリス基地内の図面を投降者より入手したと、他の機体に転送します。」
「よし、突入班にラムサスが向かったとされるドックに向かえと指示を!」
エイタが通信機に向かって指示を出す。 その様子を見て、テツヤが艦長を見る。
「それにしても・・・シェバトの工作員がもぐりこんでいたとは・・・」
「とんだ拾い物・・・と言った所だな。 シェバト・・・旧連邦政府の一大事業『軌道エレベーター計画』の名残か・・・」
「放棄された、軌道エレベーターの仲介ポイントも兼ねた『浮遊都市計画・エアリアルベース』がまだ・・・」
シェバト・・・旧連邦政府崩壊によって、最も大きな影響受け、その後も孤立しながらもソラリスと対抗しつづけた勢力だ。
だが、国力と呼べるものは殆ど無く、高い技術力だけを武器に戦っていた・・・。 だが、結局は敗れ去り、旧連邦の事業の失敗策の烙印を押されたまま、忘れ去られた存在と化していた・・・
それが今だ存続していたのだ・・・・
「その事は後にしよう。」
「そうですね、艦長。 他の部隊の様子はどうなっている?」
「はい。ラムサス脱出と言う報告が飛び火したお陰で、攻撃は殆ど散発的になっています。 投降者も多く出ています、それらはシロガネが対応中です。」
「そうか・・・。オンディーヌ隊は?」
「残存勢力に投降を呼びかけつつ、こちらに合流すると言う事です。ユグドラシル二世は、黒海にて警戒待機するとの事です。」
よし・・・後はラムサスだな・・・と、テツヤは頷いた。 突入班の方も、流石に抵抗は殆ど無くなり、順調に第3ドックへ向かっているとの事だ。
そんな中、小型のバスを抱えたロボットが、基地の中から飛び出した。 ヴァイローズだ。先程報告に会った投降者と工作員を連れてきたのだ。
「ヴァイローズ確認! ヴァイローズ!左舷ハッチへ着艦せよ。」
通信機からは、カーツ少尉の「了解」と言う返事が聞こえた。 間が近いせいか、実にクリアーな通信状況だった。 この様子から察して、もう戦闘は殆ど行われていない事が伺えた。
「よし、残りの部隊に警戒レベルにいこ・・・」
と、テツヤが言いかけた時、エイタが叫んだ。
「艦長!まだ抵抗を続けている部隊が!!投降勧告に応じません!」
「どこの馬鹿だ!その部隊は!」
その報告にテツヤが声を荒げた。 既に勝敗は決したと言うのに、まだ戦いつづけるのは無意味過ぎる。
考えられる要因は二つ。 TDFに投降を良しとせず、自力での脱出を試み様と言う奴か、もしくは狂信的にソラリスに忠誠を誓っている奴かと言う事。
そして、この部隊は後者の方であった。 これは厄介である。確固たる信念を持った奴は、行動理念が善であろうと悪であろうと、とにかく強いからだ。
そして、この部隊はソラリスでも、最もラムサスへ強い忠誠心を持った部隊だった・・・・
その部隊の名は、エレメンツと言う・・・・
ガキィィィンッ!!──ブレードガッシュの長剣とエールシュバリアーのサイファーソードが重なり合う。 両者とも実剣なので擦れあう刃から火花が飛び散る。
「何故戦う!勝敗はついた!この戦いお前達の負けだぞ!」
接触回線どころか、既に無線はオープンだ。 自分の声は聞こえている筈なのだ。 なのに自分と対峙しているギアは、それでも、なお戦おうとする。
「お前達の司令官は逃げた!負けたと解っていて何故戦うんだ!」
ジョッシュは、必死に呼びかけた。 ここで彼女達が勝っても、得るものは何も無い。 既に負け勝負なのだ。 だが、返ってきた言葉はジョッシュを驚かせるものだった。
「ふざけるな! ラムサス閣下が我等を見捨てるわけが無い!そして、我等もラムサス閣下を見捨てたりはしない! ラムサス閣下が逃げると言うならば、我等は全力でそれをお助けするのみ!! そして!!」
そう言って、一度間合いを取りなおすと、思いっきり上段から踏みこんできた! 受け止めきれないと判断したジョッシュは、ホバーを利用して紙一重で回避し、右へ廻りこんだ。 そしてやはり間合いを開けると、サイファーソードを銃形態に変更してブレードガッシュに浴びせる。 無数の弾丸がブレードガッシュを襲うが、全て長剣によって弾かれる。
「まだ勝負はついていない!ラムサス閣下が負けを認めぬ限り、我等に負けは無い!」
「だが、逃げと言うのは負けを認めた事ではないのか!」
「黙れっ! ラムサス閣下に、まだ我等と言う手札がある! チェックメイトではない!」
「分の悪い賭けは、俺は嫌いだ!!」
その言葉は、他のエレメンツとジョッシュと共に足止めをしている仲間達にも伝わっていた。
「兄貴・・・賭け事きらいだからなぁ・・・」
リアナが苦笑すると、ヒューゴが「そうなのか?」と、尋ね返してきた。
「うん。イチかバチかの賭けなんて、そんな不確定要素の大きいもの信じないタチだから・・・。そのせいで、以前一度だけ会った事があるナンブ大尉と口喧嘩してた。」
その言葉にヒューゴは「ああ・・・」と、頷いた。なにか思い当たる節があるようだ。
「ナンブ大尉はギャンブラーだからなぁ・・・。けど、感情を露にしないナンブ大尉と喧嘩するなんて、よっぽど気が合わなかったんだろうなぁ。」
リムルはウン・・・と、だけ答えた。 無駄話はいつまでも出来ない。目の前に敵がいるのだ。
「このままでは埒があかない・・・」
ケルビナは、ヤルダバオトを相手にしながら思案していた。 目の前の敵は予想以上の実力の持ち主だ。 そしてロボットの性能もTDFが使っている並のPTとは段違いだ。 少しでも隙を見せればやられる・・・
幸いといって良いのか、近接格闘戦が主体の機体のようで、アウトレンジ用の武装は見受けられない。だが、高い機動力がそれらを十二分にカバーしている。ケルビナはヤルダバオトの間合いから逃れるのが精一杯だった。額に冷や汗が流れる・・・
「俺は手加減はしない・・・」
一瞬の油断だった。 神業とも言える素早さでヤルダバオトは一気に間合いを詰めてきた。 気付いた時にはヤルダバオトの肘打ちがマリンバッシャーの脇腹を襲った。
「くううっ・・・」
横からの衝撃に必死に耐えるケルビナ。 この短い時間で人型ではないマリンバッシャーの弱点を見極め、ついてきた。 脇腹から腹部がマリンバッシャーの急所だ。 脇から攻められ、しかも密着されれば鋭い牙も強靭な尾も使えない。質量と高速度を利用した体当たりも封じられた。 この気を逃すか・・・と、ばかりにマリンバッシャーの尾を脇で固め、無防備な脇腹にパンチをドカドカと繰り出すヤルダバオト。
「・・・っ!!」
ケルビナは一瞬だけ、その瞳を開けた。 彼女の封じられたエーテル力が一瞬解放される。 その瞬間、マリンバッシャーの全身が冷気で覆われる。
「むっ!!」
気配を感じ取ったフォルカは、マリンバッシャーが氷で覆われる寸前、ヤルダバオトを離れさせた。 あのまま密着していれば、確実に凍らされていただろう。 気配に敏感なフォルカでなければ、危ない所であった。
「・・・・これ以上、時間はかけられない・・・」
ケルビナは、氷より冷めた頭脳を回転させた。 このまま持久戦に持ちこまれれば、確実に負けは見えている。 例え目の前のヤルダバオト達を倒したとしても、激しく消耗する事は必至。そんな状態では味方と合流する前にTDF部隊に破れるだろう。
ならば、急いで勝負を決めるしかない。 彼女は冷静に敵戦力を分析する。
「目の前のタテガミ付きの近接戦闘能力は異常なまでに強い・・・、けどアウトレンジ用の武装は無い。 そしてドミニアが相手をしている青い機体も汎用性は高い様だが、遠距離武装は両肩のキャノンのみ・・・」
ブレードッガッシュとエールシュバリアーの、剣豪同士の一騎打ちに近い戦いを見て、そう判断した。
「あの青い機体のパイロットも並の技量ではない。ドミニアと互角に渡り合っているのが証拠。ならば・・・」
彼女は、マリンバッシャーを急発進させた。 加速をつけて一気に目の前のヤルダバオトに迫る。
「!」
マリンバッシャーの捨て身とも言える行動に、フォルカは物怖じ一つせず、大地を踏みしめ身構えた。 捨て身の体当たりならば、カウンターで一撃を決めるのみ。 だが、フォルカほどの実力者だとそんな見せ掛けに踊らされるわけは無い。 「何かある・・・」と勘繰る。その為か、ヤルダバオトは中国拳法にも似た構えを取った。 半身のみ前に出し、猫足立ち、そして脇を占め右腕を体の前に持ってくる・・・顔面をしっかりと半開きにした右手でガードする。 手のひらではなく、手の甲を前に向けているのが特徴だ。
フォルカが知っているのかどうかは知らないが、柔術などで刃物などを相手にしたときの構えに似ていた。 この場合フォルカがマリンバッシャーの牙を刃物としてみている証拠だ。
ガードすると同時に、攻撃を払える態勢だ。 イザとなれば左腕でカウンターを決める姿勢も崩していない。 まさに攻防一体の万全の態勢で待ち構えていた。
「・・・・」
迫り来るマリンバッシャーにヤルダバオトは待ち構えていた。 体当たりで来るのか、牙を使うのか、はたまた別の手段を・・・、どうこようとフォルカはじっと見据えているだけだ。
その瞬間、フォルカは我が目を疑った。 マリンバッシャーはヤルダバオトの目の前でいきなり姿を消したのだ! いや・・・物体が消える等という事はありえない。 フォルカはコンマ数秒でわれを取り戻す。 マリンバッシャーはまるでブーメランのような形に折り曲がっていた。 正確には、マリンバッシャーは思いっきり尾びれを真横に振ったのだ。 その動作による質量移動・・・マリンバッシャーはその質量移動でヤルダバオトの目の前から移動したのだ。瞬時の事ゆえ、フォルカにすら消えたと思えたのだ。
折れ曲がったマリンバッシャーは、ブーメランのような回転運動でヤルダバオトをやり過ごすと、そのままの態勢で近くにいたジョッシュのエールシュバリアーに襲いかかった。
「うわああああ!!!!」
サメ型ギア一体分の加速のついた質量を、不意打ち同然でぶつけられたのだから、ジョッシュにとってはたまった物ではない。 エールシュバリアーは、大きく跳ね飛ばされた。
「ケルビナ!!余計な真似をっ!!」
ドミニアが怒鳴るが、ケルビナはまだ目的を達したわけではない。 そのままの放物線を描きながら、ブーメランのような軌道でヤルダバオトに襲いかかる。 あまりの展開の早さにフォルカも防御がやっとだった。 エールシュバリアーほど派手ではないが、ヤルダバオトも跳ね飛ばされた。 必死に耐えるフォルカだが、先程跳ね飛ばされたエールシュバリアーにもつれ合う様に重なり合って倒れこんだ。
「いまっ!!」
これこそがケルビナが狙っていた瞬間だった。 動きの素早いエールシュバリアーとヤルダバオトがほぼ同一地点で動きを止めた。 彼女は目を開けると、持てるエーテル力をマリンバッシャーに注ぎ込む。
「しまっ・・・・」
ジョッシュとフォルカが狙いに気付いた時には遅かった。 マリンバッシャーから放たれた冷気のエーテルは、エールシュバリアーとヤルダバオトを飲みこむには十分すぎた。
「よし・・・」
ケルビナは再び目を閉じた。 やはり短時間でも目を開くのは体に負担をかける。 だが効果はあった。マリンバッシャーの目の前では巨大な氷柱の中に封じられたヤルダバオトとエールシュバリアーだった。
どうやら完全に氷付けにする事は不可能だったようだ。どうにか脱出しようとスラスターを吹かしたり、動かない手足を動かそうと懸命だ。 恐らく脱出されるだろう。だが時間は稼げる。
「今のうちです。 残りの2機さえ片付ければ・・・」
ドミニアはそこで、ようやくエレメンツらしい冷静さを取り戻した。ケルビナの狙いにここで気付いたからだ。
「ここはお前が正しいな。 心残りだが・・・あの特機とオレンジ色を片付けるぞっ!!」
ケルビナの狙い・・・それは、高い機動力と近接戦能力に長けたエールシュバリアーとヤルダバオトを封じる事にあった。 自分達の目的はラムサスの脱出の支援。 敵機を撃退する必要は無い。時間さえ稼げればそれでいいのだ。 足の速い先程の2機さえ封じてしまえば、残りは脚の早くない射撃用のブランシュネージュと、特機タイプのガルムレイドだ。 攻撃力には見張る物はあれど、機動力は前述の2機に比べ遅い。
自分達の機体は機動力と近接戦には自信がある。 ならば足の遅いガルムレイドを牛耳るのは簡単だ。 射撃型のブランシュネージュも、距離さえ詰めてしまえば怖い事は無い。
脅威だったエールシュバリアーとヤルダバオトさえ、封じれば勝機は十二分にある。
「トロネ!セラフィータ!2機は封じた、そいつ等を片付けるぞ!」
ドミニアの檄の元、エレメンツの4機は、ガルムレイドとブランシュネージュに襲いかかった。
「フォルカ・・・動けるか?」
冷気のあまり、噴射力が弱まりつつあるエールシュバリアーを操りつつ、ジョッシュはもがいていた。
「無理だな。腕さえ動けばどうにかなるが、現状では不可能だ。」
機体を小刻みに揺らすのがやっとのヤルダバオトの中で、フォルカは客観的に述べた。 少しでも動いていないと機体の関節が完全に凍結してしまう・・・。 敏捷性を命とするヤルダバオトにとって、今の状態はかなり危険なのだ・・・
「くそっ!このままじゃリアナ達が・・・」
あせるジョッシュ。 だが焦った所で事態が好転するわけではない。
「落ち着け・・・。とにかく今は、僅かでも動け。動きを止めたら助けに行けるものも助けに行けなくなる。」
フォルカはそう言いながら、動くと同時にヤルダバオトのタテガミから熱波を放出し始めた。とにかく今はこの氷の中から脱出する事だけを考える・・・
だが、あまり時間が無い事も自覚していた。 何故ならガルムレイドとブランシュネージュは、ここぞとばかりにエレメンツの猛襲を受けているからだ。
「ブラッディレイっ!!」
ガルムレイドの額から光線が放たれる。 並のPTなら一撃で倒せる威力を持つ破壊光線だが、当らなければ意味は無い。 そして、エレメンツのギアの機動力は、ガルムレイドを確実に上回っていた。
ガルムレイドは、近接格闘戦を主体に作られている。それはエレメンツのギアも同じだ。 だが決定的に違う事がある。 ガルムレイドの外装は分厚い為、機体重量はけっして軽い物ではない。その為、相手に肉迫して叩く。 これがコンセプトだ。 簡単に言ってしまえばプロレスや柔道と言った組み技系に近い距離で戦う。
だが、エレメンツは逆になるべく装甲を控え、スピードで相手を翻弄し叩く。 軽量級ボクサーのようなスタイルなのだ。 そして常に複数で戦う事を前提としている。 近接戦になった際、モノを言うのはパワーと重量。単機での軽量さと打たれ弱さをチームでカバーするのだ。
単機で戦う事を前提にしたガルムレイドとは全く逆なのだ。
ヒューゴにして見れば、これほど戦いにくい相手はいない。 ガルムレイドには、近接戦用の一定の距離を保って戦う武器は全くと言って無いのだ。
こうした場合、分厚い装甲を信じて懐に飛びこんで勝機を掴むのがガルムレイドの基本スタイルだが、エレメンツにはそんな教科書通りの手なぞ通用しない。 ガルムレイドを間合いに入らせないように、機動性を生かして距離を取る。
「くっ!!リアナさん!フォローを!!」
アクア少尉が、そう呼びかける。 リアナのブランシュネージュは、射撃型の機体で、近接型のエールシュバリアーとのコンビネーションを前提にされている。
この場合、その射撃兵装をガルムレイドの苦手な距離をカバーしてもらう為に使って・・・・と、アクア少尉は言いたかった。
だが無駄と気付いたのは、声を発した直後。 エレメンツもブランシュネージュの能力に気付いていた。 援護を送れない様に、ガルムレイドとは逆に距離を詰めてくる。 近接用の兵装の無いブランシュネージュにとっては苦手な相手だ。
しかし、これは無理の無い事だ。 機動力の高いエールシュバリアーだからこそブランシュネージュのフォローに廻れるのだ。また反対に、長距離兵装の乏しいエールシュバリアーを射程の長いブランシュネージュならカバーする事が出きる。
同じ近接戦タイプでも、動きの遅いガルムレイドでは全く違う。 その為御互いが上手く連携できないのだ。
それに元々スタンドプレー主体のガルムレイドと、同時開発の兄弟とも言える機体同士でコンビーネーションを前提としたブランシュネージュで、即席でコンビを組めと言うのが無理な話だ。
エレメンツの狙いは、まさにそこだった。 連携が取れないなら、互いに足を引っ張り合う。 そうなれば戦力は激減し楽に対処できると言うものだ。 そこを各個撃破すれば後は楽なもの。
元々コンビネーションを前提としていないもの同士、いいように翻弄されつづけていた。
「くっ!!」
ガルムレイドが、再度間合いを詰め様と踏みこむ。 だがそこに後ろから火線が走る。 ブランシュネージュを牽制していた翼竜型ギア、スカイギーンがエーテル光線を放ってきたのだ。 一瞬躊躇するガルムレイド。そこへ背後から物凄い衝撃が伝わってきた。 ライオン型ギア、グランガオンの体当たりをまともに食らったブランシュネージュが吹き飛ばされ、ガルムレイドに衝突したのだ。
ガルムレイドとブランシュネージュは折り重なった状態で、先ほど互いのデモンストレーション(?)に使用した、小型ビースト(ド・ムーン)とVR(首を失ったサイファー)等が散らばる残骸達の傍へ突っ込んだ。
「くそ・・・」
ヒューゴがくらくらする頭を押さえながら毒ついた。 このままでは傍らに散らばる残骸達の仲間入りを果たす事は間違い無い。
「敵は・・・かなり出きる奴ね・・・」
アクア少尉が、痛む身体を庇ういながら言った。 ヒューゴは言われるまでも無い・・・と言いかけたのを飲みこんだ。 通信から連中が親衛隊のような物と判断していたが、どうやら名前ばかりの連中では無いようだ。
僅かな時間で、こちらの戦力を正確に見ぬいた洞察力と、それを生かすチームプレー。敵ながら認めざるを得ない存在だ。
終始、ガルムレイドと間合いを開けていたのも、その弱点がわかっていたからだ。 教科書通りの有能な奴だ。
「ふ・・・、俺も年貢の納め時か・・・」
ヒューゴは軽く微笑んだ。
「何言ってるの!! 勝負はついていないわよ!!」
通信機からリアナの声が響いた。
「ここで諦めるなんて、ヒューゴ君らしくないわよ! 真のデュエリストは最後まで勝負を捨てないものよ!自分のデッキを・・・ガルムレイドを信じていないの!!」
そう言って、ブランシュネージュがよろよろと立ちあがった。 戦う意思を捨てていない証拠に両腕のヴェクターガンがキッ!と、エレメンツ達に向けている。
「アタシは諦めないっ!! 自分のデッキを・・・ブランシュネージュを信じてるから! そうよね!もう一人の私!」
「ええ!最後まで自分のデッキを信じて戦う!それが真のデュエリスト!」
そう言って立ちあがったブランシュネージュは、エレメンツを睨みつけた。
「エレメンツと言ったわよね。 貴方達がラムサスと言う人の手札なら・・・」
「私達の手札は、このブランシュネージュ!だから、手札は尽きていないっ!!サレンダー(降参)なんて文字は私達には無いっ!!」
その言葉に、ヒューゴは一時でも負けを認めた自分を恥じた。 そう・・・真のデュエリスト足る者、手札の尽きていないうちに諦めるなぞ言語道断! 真のデュエリストならば最後まで自分のデッキ・・・ヒューゴにとってはガルムレイドを信じるのみ!!
「そうだな、リアナ・・・。忘れる所だったぜ。 俺も諦めねえ!」
無駄な事を・・・と、ドミニアは笑みを浮かべた。 頼みのエールシュバリアーとヤルダバオトは未だ動けない。 よろよろと立ちあがった所で、満身創痍の機体で何ができるのだ。
「ふ・・・動きの止まった相手なぞ、的も同然! 一気にケリをつけてくれる!!」
次の瞬間、4機のエレメンツギアにオーラのような物が漂い始めた。 エレメンツそれぞれが持つエーテル力を集中しているのだ。
これが何を意味するのか、ヒューゴには解った。 額に冷や汗が流れる。
「やつら・・・エネルギーを溜めて、一気に勝負を決める気だ。」
マズイ・・・・満身創痍のガルムレイドでは、あんなモノ食らえばおしまいだ。 リムルのブランシュネージュも同じ事だろう。
・・・・どうする。 ヒューゴは数秒の間に頭をフル回転させた。 このままでは間違い無く2機ともどもやられる。 そればかりか、ここで自分がやられれば、動けないヤルダバオトやエールシュバリアーが次にやられる事は目に見えている。 いや・・・動けないヤルダバオト達を無視してハガネに向かうだろう。 そうなれば主力を敵基地攻略に戦力を割いているハガネには、護衛機が少ない。
ハガネがやられれば、今後のTDF全体の作戦にも支障が出る打撃を受ける事は間違い無い。
ここでエレメンツをどうにかしなければ非情にヤバイ。 せめて、リアナだけでも助けられれば、ブランシュネージュの火器でヤルダバオト達を助けられるかもしれない。 それ以前に足の遅いガルムレイドでは例え生き延びても、今の状態では足手まといになりかねない。
「!」
ヒューゴは決した。 エレメンツの攻撃態勢は整っている。すぐにでも4機の合体エーテル攻撃が飛んでくる。猶予は無い! 近くに落ちていたバーチャロイドの残骸を掴むと、それを盾代わりにし、立ちあがると同時にブランシュネージュの前に出た。
「ガルムレイドっ!! ブランシュネージュを・・・リアナを守れッ!!」
その行動は、同乗者であるアクア少尉どころか、リアナ、それに動けないフォルカとジョッシュをも驚愕させた。
「ヒューゴ君っ!!」
目を見開くリアナ。
「そんな事をすればガルムレイドが!!」
訴えるアクア。
「無茶はやめるんだっ!!」
ジョッシュの嘆願。
「やられるのは俺だけでいいっ!」
叫ぶフォルカ。
「おろかな奴めっ!!」
4機のエレメンツギアの合体攻撃が炸裂した。 火・水・風・大地の力を融合した4色の光線は得物を飲み込む大蛇の如く、牙をむいてガルムレイドに襲いかかった。
「きゃああああ!!」
リアナの悲鳴と言う名の絶叫が響く・・・
4色の光線は間違い無くガルムレイドを飲みこんだ。 爆炎と土ぼこりが周囲を覆い尽くす。 モクモクと立ちあがる煙と土ぼこり・・・ガルムレイドがそうなったかは、誰が言うまでも無い。
「あ・・あああ・・・」
ジョッシュが、呆然と声にならない音を漏らす。 短い付き合いとは言え、仲間を目の前で・・・しかも彼は自分の義妹を守る為に・・・
「くっ・・・」
フォルカが歯を食いしばる。 声には出さない。嘆きはしない。涙は流さない。 だが言い知れぬ感情が体を包んでいるのが実感できた。
「ハ! バカな奴め。 あんなのを守る為に。」
トロネが吐き捨てた。
「味方を生き延びさせる事を優先したと判断しましたか・・・」
ケルビナがあくまでも感情を感じさせずに言った。
「ははは!! やったぞ! 見たか、ラムサス閣下に歯向かう者がどうなるか、これで身に染みたろう!! ははは!」
愉快なのか、ドミニアが笑いつづけている。
「いい気分だ。 おい、セラフィータ、歌でも歌え!せめての手向けにな。」
それを聞くと、ジョッシュ達は親の仇でも見るかのような表情をエレメンツに向けた。
「え?いいの? じゃあ歌っちゃうよ! ミュージックスタートぉ♪」
セラフィータが、笑みを浮かべ歌い出そうとした。
だが瞬間に、その歌は聞こえてきた。
ちっちっちっち、おっぱ〜い♪
「?」
皆が驚く中、土煙の中から、いきなり得物に噛みつく牙を有した何かが飛び出した!!
そして、その牙つきの何かは、ドミニアのブレードガッシュの胸に噛みつき、胸部装甲を文字通り「もいだ」。
モゲ!もげもげもげもげ! チチをもげ〜♪
「ちっ、もぎがいの無い固いチチだぜ、バンビーナちゃんたちぃ♪」
「なにっ!!貴様は!」
そう言った瞬間、またしても不意をついた感じで、牙付きが飛んできた。 今度はスカイギーンの胸部を「もいだ」。 この攻撃により他の3機に比べ防御に劣るスカイギーンは行動不能に陥った。 胸から煙を上げ動かなくなるスカイギーン。
「む・・・胸が・・・」
動かなくなったスカイギーンの中で、トロネがまるで自分の胸をもがれたように蹲った。 彼女は身体をサイボーグ化している為に、神経機関をギアと繋がっている為だ。
「おいおい、そういう場合はボインていうんだぜ。 バンビーナちゃん♪」
まんまるちっちっち、三角おっぱ〜い♪
歌が続く中、土煙の中から、物凄い勢いで何かが飛び出した。
「!?」
ドミニアが気付いた時には、既に遅く、それは自分の眼前まできていた。既に自分の得物である長剣の間合いよりも近い、完全な近接戦のレンジだ。
肩と腰から炎を吐いているそれは・・・紛れも無いガルムレイドだった。
そして、ドミニアは知った。自分のギアの胸部装甲をもぎ、トロネのギアを倒した物の正体・・・それがガルムレイドの腕だったと言う事に。 そしてその牙のついた腕で、ガルムレイドはドミニアのギアの胸を鷲掴みにしていた。
「き・・・貴様・・・どうして・・・」
驚愕するドミニア。 信じられない、あの攻撃を食らい無事でいられるはずが無い。 だが、目の前のガルムレイドは傷ついてはいるものの、五体満足な姿だ。
「へっ! アレが助けてくれたのさ。」
そう言って、軽く首で後ろをしめすヒューゴ。 そしてしめした先には、首の無いVRの残骸が転がっていた。 ドミニアには見覚えがあった。パイロットだけが脱出し、まだエンジンが動いていたVRだ。 首が無いのはデモンストレーションに、自分が切り落としたからだ。
「バーチャロイドとか言う機体の残骸・・・?」
「そうだ。 バーチャロイドには『Vアーマー』って言う能力があってな。エンジンがニュートラル状態の時だけ、受けたダメージを緩和してくれる特殊効果さ!! 諜報部の情報に感謝しなきゃな!」
その言葉に、ヒューゴが無事だった事を喜ぶ以上に驚くリアナやジョッシュ達であった。
「エンジンがニュートラル状態・・? そうか!」
リアナが気付いたように声を上げた。
「そのVRは、パイロットがいなくなった後でも何らかの原因でエンジンが稼動したままになっていたんだ! それでニュートラル状態になって、Vアーマーが発動した!!」
リアナの言葉に、ヒューゴは不敵に微笑んだ。
「へっ! 俺がそう簡単に命を投げ出すと思っていたのかい? デュエリスト足る者、ちゃんと考えているんだぜ。」
「これが、ヒューゴ君のとっておきの『伏せカード』って訳ね。」
リアナが笑みを浮かべた。 だが余裕に見えるヒューゴの後ろでアクア少尉が苦い顔をしていた。
「偶然、近くにVRの残骸があっただけじゃない・・・。」
だが、スグに表情を崩して笑みを浮かべる。
「全く・・・いきあたりばったりのギャンブルデッキなんだから・・・」
と、声に出さない様に微笑んだ。
「さてと・・・お前さん、女にしては固い胸してたな。 せめてもうちょっとボイン娘になった方が良いんじゃないかな?」
その言葉に、ドミニアは顔を真っ赤にする。
「さて、講釈はこの辺で終りだ! お前さんのチチ、もがせてもらうぜ!!」
イグニッションっ!!───の声と共に、ガルムレイドの牙付きの拳が、ブレードガッシュの胸部に食らいついた。
「バーニングっ!!ちちもげブレイカぁぁぁっ!!」
そして真っ赤に燃えるガルムレイドの拳は、そのまま強引にブレードガッシュの胸部を「もいだ」。
爆炎を上げ、動かなくなるブレードガッシュ。 その様子にケルビナは瞬時に判断を下した。
「遺憾ながら撤退します!! セラフィータ、トロネを救出。その後遠隔操作でギアを強制離脱させます!!」
こうなっては、足止めどころではない。 遼機2機が行動不能になった今、数の上でも勝ち目は無い。 彼女は水のエーテルを使い、水蒸気の煙幕を張った。 急に周囲が霧に包まれる。
その隙を見逃さない。マリンバッシャーを急発進させると、氷のエーテルを使い大破したブレードガッシュを強引に連結させた。
「撤退しますよ。良いですね?」
その言葉に、ドミニアは黙って頷いた。 悔しそうに、グッと拳を握り締め、胸を押さえて・・・
一方、スカイギーンの回収に向かったセラフィータは、少々難儀していた。 大破したスカイギーンから、負傷したトロネを引き釣りだし、自分のグランガオンに連れこむのに時間が掛かっていた。
トロネはサイボーグである為、すぐに機体から切り離さないと、機体からのフィードバックで、システムを切るまで機体のダメージが痛覚として伝わるのだ。 また機械化された身体は、常人よりも重い為、体力に自信のあるセラフィータでも移動に苦労するのだ。
「うんしょうんしょ・・・トロネちゃん、おも〜い。」
グランガオンの背に乗せたスカイギーンから、トロネを引きだし、自分のコクピットまで移動にもたついている。 勿論、ケルビナほど迅速ではない為、その隙を逃すヒューゴではない。
「逃げる気か! アクア、後を頼むっ!!」
ええっ!?と、声を上げるアクアを無視し、ガルムレイドを飛び出すヒューゴ。 狙いはトロネを引きずるセラフィータだ。
ダダダッ!と駆けだし、グランガオンの元に走る。 既に視界にはセラフィータの後姿が。
「逃すか。捕まえてやるっ!!」
セラフィータには、背後から駆け寄るヒューゴに気付くのが遅すぎた。 既にヒューゴはレスリングのタックルよろしく、セラフィータに向けて飛びかかっていた!!
「そおれっ!捕まえた!」
ヴォインであった
ヒューゴの好み(?)の「ボイン」を超えた、「ヴォイン」であった。
「あ・・・いやん。そこは・・アハン・・・ボインよぉ〜」
敏感な部分をもぎ取る様に鷲掴みにされたセラフィータが、いつもと打って変わって色っぽい快感じみた声を上げる。
「あ・・・あははは・・・」
苦笑いするヒューゴ。流石に気まずい。 だが、ヒューゴの手はしっかりとセラフィータのボイン・・・否、ヴォインを掴んで放さない所に、敵兵を捕まえようとするヒューゴのプロの軍人としての気質が感じ取れた。
だが・・・
「この・・・・セクハラ野郎がっ!!」
セラフィータに引きずられていたトロネが、怒りの表情で立ちあがり、ヒューゴを睨みつけていた。
「お・・・落ち着いてくれよ、バンビーナちゃん・・・これは決して・・・セクハラではなく・・・」
だが、トロネは震える手で左腕を突き出す。 彼女の指先が変形し、そこには某サイボーグ戦士よろしく、銃口が・・・
「お前・・・私やドミニアの胸まで・・・」
「誤解だぁ!君達の胸は直接もいではいない!」
「セラフィータの胸は!!」
「もいでましたぁ。」
満面の笑み。 普段のヒューゴでは決して見せない満面の笑顔があった。
「しねっ!!!」
トロネの左指から弾丸がほとばしる。 慌てて・・・そして名残惜しそうに、セラフィータの胸から手を放すヒューゴ。
「しねっしねっ!! 死んでしまえっ!!」
彼女が片膝を付くと、また某サイボーグ戦士よろしくミサイルが顔を覗かせる。 ヒューゴの顔から血の気が消え去る。
次の瞬間、白煙を上げてミサイルが発射された。 そしてミサイルは全力疾走で逃げるヒューゴに向けて・・・
「・・・以上で報告終わります。」
ハガネのブリッジで、ダイテツはオペレーターからの報告を聞いていた。
「エレメンツを退けたが、ガルムレイドパイロット一名が負傷か・・・。」
「はい。ヒューゴ少尉は全治1ヶ月の重傷です。ですが、ガルムレイドの損傷は許容範囲内です。」
「了解した。」
ハガネと合流したリアナ達・・・
ハガネは結局、ラムサスには一歩及ばず逃げられた。 ラムサスが逃げ込んだドックに辿りついた、ブラッドのスーパーアスゲインであったが、すんでの所で空中戦艦のエンジンに火が入り、空中戦艦は白煙を上げ飛び出した。
ブースターを利用した脱出方法は、直接宇宙に脱出する事もできるが、弾道飛行により地球上の何処にでも移動可能だ。何処へ逃げたのかは追尾できるが、それは別の部隊に任せる事にした。 作戦の事後処理などやるべき事は色々あるからだ。
「作戦終了だ。全部隊に通達、戦闘態勢を解除、警戒態勢に移行しろ。」
ダイテツの声に、ハガネのブリッジに歓声が響いた。
黒海の戦いは終わった・・・
勿論、これで全ての決着が付いたわけではない。 だが、この戦いが今後の戦局に大きく左右する事は間違いが無い。
だが、前線で戦う兵士達にとっては、例え一瞬であっても勝利の美酒に酔いたい心境であった。
「そ・・・そんなに欲しければくれてやれば良いのです。 資源は十分に手に入れました。 もはや黒海には戦略的価値は・・・」
ラムサスは宇宙へ脱出しなかった。いや・・・できなかったと言っても良い。 途中でエレメンツを回収したものの、彼女達は予想以上に傷ついていた。 ギアも心も・・・
通信機の向こうに映るソラリス本国、総統府であるガゼル法院の視線が鋭い・・・。 宇宙に脱出できなかったのは「帰ってくるな」と、言われた同義の言葉を付きつけられたからだ。
前述のラムサスの言葉も、言い訳にすぎない。 黒海と言う戦略的地点を失った事の重圧と責任に押し潰れそうな自分を強がって支えているだけだ。
地上での勢力を大幅に削られたソラリスには、攻勢に出るだけの余力は無い。 その為、ガゼル法院はラムサスに見切りをつけたのかもしれない。
タダでさえ、他の勢力の猛攻でソラリスの士気はガタガタなのだから・・・・
通信を終えた後、ラムサスは自室で蹲っていた。
「お・・・俺が本国に送った資源とラムズ達の量を見ろ・・・ソラリスはあと10年は戦える・・・のに・・・」
過去の業績など、今やなんの意味も持たない事は解り切っていた。 だが口に出さなければ己を維持できそうになかった・・・
『屑・・・・』
ガゼル法院から投げかけられた言葉が、ラムサスを突き落としていた・・・・
次回予告
ソラリスの地上の勢力は激減した! 今こそ、ソラリスを打倒の時!! そして打倒の鍵は、放棄された軌道エレベーターに有り!
オンディーヌ隊は、二手に分かれ、地上と宇宙からソラリス打倒に旅立つ!! また、面子を潰されたラムサスは、その怒りの矛先をオンディーヌ隊に向ける!! 危うしオンディーヌ隊!!
そして!軌道エレベーター頂上で、オンディーヌ隊を待つ、あの強大な物体はなんだ!!
次回、サイバーロボット大戦 第三十七話 『ロボで登れ!バベルタワー! 謎の鋼鉄巨人!』 を、楽しみにネ。
次回も幼女とロボがすげえぜ!! オウオオー♪オウオオー♪あれーこそーはー♪ だーいてつじーん わ○せぶ〜ん♪
※「ゼプツェンは、自らの意思を持つギアである。 世界の平和を守る為に、巨大頭脳(?)ソラリスと戦うのだ。」
幼女M「ゼプツェン!パンチだ!!」 ゼ「まっ!」
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