第三十五話   『黒海の激闘!』




 

戦局の劣勢状態から十数ヶ月後のこの日、TDFは黒海に於ける反抗作戦を開始する。
目的はユーラシア大陸黒海沿岸のソラリス軍基地を壊滅させ、地球からの鉱物資源の打ち上げを断ち、地球居住者の拉致を阻止する事そして・・・地上からソラリス戦力の過半数を討ち滅ぼす為であった。
TDFはこの作戦に貴重な残存兵力のおよそ半数近くを投入した。
 主力には、量産型PTである『アルブレード』に『ゲシュペンストMk−U』、そして量産体制が整い出したヒュッケバインMk−Uの量産タイプ、イスルギ重工製の機動兵器である『リオン』シリーズ。これに加え『10/80』と言った汎用廉価VR。すでに時代遅れとなりつつあるVA『ゲイツ』。さらに次期主力PT候補とされる『スーパーアースゲイン』『スイームルグS』と言った機体に加え、『エール・シュバリアー』と『ブランシュネージュ』と言った汎用探査機動兵器。『ガルムレイド』と言う別系統のプロジェクトで立ち上げた特機タイプの試作機。『ヤルダバオト』と言った機密扱いの正体不明な得体の知れない特機まで投入する所を見て、戦力と言う戦力を各方面から掻き集めてきたのが見て取れる。
 さらに今回は対ゴルディバス用として試作されていたディクセンタイプの特務機兵と称される機体の量産タイプのデビュー戦でもある。
デイトナグリーンとペールグリーンで塗装された機体がPTやVAに混じって立つ姿は、他の機体とは違う輝きを放ち、初陣を待つ若武者の様相を見せていた。

 そして、この作戦の移動司令部である旗艦、修復を終えたスペースノア級壱番艦『シロガネ』。弐番艦『ハガネ』。これにそしてかつての戦争で鹵獲またはレストアしたDC製の陸上戦艦を幾つも並んでいる。
 ハガネのブリッジから周囲を見下ろせば、人型機動兵器や特機以外にも戦車や戦闘機、自走砲などが無数に並び、壮観な光景を映し出す。
 この光景を前にして誰もがTDFの勝利を確信しようとしていた。負けるわけにはいかない。ここの戦力が敗北する事は、地球上でのTDFはまた劣勢に立たされてしまい、ようやく回復の兆しを見せた各方面の動きが乱れるのは確実。
 なんとしても勝たねばならなかった。

 この一大反抗作戦を可能としたのは、ソラリス地上攻撃司令官カーラン・ラムサスの失態にあった。
 ソラリスを支配するゲブラーの末席であるラムサスは、ここ数ヶ月において、大敗続き。アヴェ首都をTDF・海賊合同によるクーデターを阻止したものの、首都の守備隊の7割を失い、教母であるマルーも奪回された。また国境を守る部隊も壊滅させられ、陸軍・空軍ともにズタズタに。
 またキスレブを影で支配していた教会が、もともと自分達ソラリスの下部組織であった筈なのに反乱を企てており、これに国境守備隊を失った事を加えて、キスレブ側に大きな隙を与え、進撃を許す。キスレブのこれ以上の侵攻を食い止める為に行ったキスレブ首都への爆弾戦艦投下作戦も失敗した。
 ・・・・つまり連敗続き
 あまつさえ、大きな局には影響しなかったとはいえ、司令官である自分が、ゴルディバス軍の幹部とは言え前線指揮官に過ぎないシャドーレッドにボコボコされた。
 これによってソラリス地上攻撃軍は士気が低下。加えて宇宙でDN社の第2世代型VR投入による大攻勢により、ソラリス本国の戦力の過半数を失い、ソラリス本国と地上の補給どころか連絡網さえまともに機能しなくなり指揮系統が混乱、TDFの動きに対応出来なかったのである。
 もはやソラリスには、表立って攻勢に出られるだけの戦力は残っていなかった。元々コロニー国家であった為、国力は乏しい。その為の地上支配であった。
 だが地上の各方面で、TDFが、DN社が、ゴルディバス軍が、敵対していた組織全てが戦力回復・新兵器投入・増援到着などで一気にソラリスを押し返してきたのだ。
 選民思想を強く持つソラリス人達にとっては、他の種族は『自分達に劣る』とされていた為に、他の勢力と手を組んで共同戦線を張るという軍事同盟と言う物は考えられなかった。『連携』と言う物を強く持つTDFや、元々企業である為、『利益』を何より優先するDN社等と手を組むことは自分達の教義が許さない。
 元々地上の人間に対してあくどい事を続けてきたのだ。DN社もTDFも同じ地球人として同志として意識は薄い。 それがソラリスの敗退を招いていたのだ。
 ここで負ければ、ソラリスの地上での勝敗は決定的になる。 そればかりか本国には攻勢に出られる戦力も無い。ラムサスにはその重圧が重くのしかかる事になる。
 そして・・・この戦いは、それだけではない。

 虎視眈々とチャンスを狙っている他の勢力が、これがチャンスと一気にここ黒海周辺に戦力を集結させ始めたのだ。

 TDF艦隊は戦力を二つに割き、旗艦ハガネをメインとする主力艦隊は地中海からエーゲ海を経由し、旧東ヨーロッパ南部のボスボラス海峡付近に集結し、ドナウ川近郊から進撃する事になっている。そしてもう一方の艦隊はアドリア海に待機しており旧ユーゴスラビアから進撃。つまりソラリス側からしてみれば南東と南西からドナウ川を挟んだ形で挟撃という形になる。
 TDF側からして見れば、撃ち漏らしたとしても、この地域の中心を連ねるカルパティア山脈が壁となり陸路での脱出は不可能。ソラリス軍が逃げるとすれば空路か宇宙しかない。どのみち彼等は地上からの撤退を余儀なくされるはずである。

 さらにTDF艦隊の動きに呼応して、宇宙悪魔帝国が一個大隊の戦力を降ろしている。
 TDF・ソラリス軍に比べれば数の上では圧倒的に少ないが、大型ビーストの戦闘力はTDFの一個大隊に相当する。横槍を入れるには十分な戦力だ。
 彼等はTDFの反対側・・・北西の方角、旧プラハ付近から進撃をしている。恐らくTDFとソラリスが衝突し、消耗した所を狙うのだろう。

 そして・・・第2世代型VRをメインとしたDN社の新興勢力RNAが、カルパティア山脈北を流れるブーグ川の北部、北東の位置、旧ベラルーシに待機していた。高速空戦型VRサイファーを中核としたRNAきってのエース、『薔薇の3姉妹』の一人、シルビー=ファング大尉率いる部隊だ。彼女等ならばカルパティア山脈なぞ障害にすらならない。
 目的は、宇宙悪魔帝国とさほど代わり無いだろう。ただ機動性に長けたRNAならば、まっさきに制空権を得る事が出きるだろう。 そうなれば一気に空路で強力な第2世代型VR部隊を空輸し、強襲をかける事は容易い。油断できない存在だ。

 TDF、宇宙悪魔帝国、DN社・・・否、RNAが、打倒ソラリスを狙い、牙を研ぎ澄ましている。 何処が勝ってもソラリスは大打撃を受ける。逆を言えば、ここさえ乗り切ればソラリスにもまだ勝機はある。各勢力ともに戦力の過半数、もしくは精鋭を集めているからだ。コレを叩けば他勢力は戦力の回復には多大な時間を必要とするし、展開によっては戦力の起て直しさえ不可能なまでに叩きのめす事が出きる。
 ここに地上でのミリタリーバランスを賭けた大決戦が起ころうとしていた!!



 「よっくもまあ・・・ここまで掻き集めたもんだ。TDFにまだこんだけ戦力があったとはねぇ・・・」
 TDF艦ハガネのパイロット控え室に、褐色の肌の男がガムをクチャクチャ噛みながら、窓の外を見てぼやいた。
 「旧型機や鹵獲機。試作機に探査機・・・おまけに正体不明の特機まで・・・まさに在庫一斉処分セールね。」
 やたら露出の大きい服装をした女性が屈託の無い笑みを浮かべ、珈琲を飲んでいた。
 「まあ、そう言うな。何時の世にも貧乏所帯にはこうしたセールは嬉しいだろ?」
 男が笑いながら肩を寄せてきた。女性の方も「まあね」とまんざらではなさそうに笑っている。
 「ジャーダ、ガーネット・・・そろそろ準備した方が・・・」
フリフリのゴシックロリータ系の服装をした可愛らしい少女が、二人に話しかけてきた。 おずおずと話しかけてきたのは照れの為か、顔を赤らめている。
 「おう。もうそんな時間か!んじゃ準備すっか!ラティーニ!ガーネット!」
ジャーダと呼ばれた男は、ラティーニと呼ばれたゴスロリ少女と、肩を寄せていたガーネットと呼ぶ女性の肩を叩いた。遠慮が無い所から見て、付き合いの長さが見て取れた。
 「おい!アンタ達も準備したほうがいいぜ。そろそろ時間だってよ。」
ジャーダは、控え室にいた別のパイロット達にも声をかけた。 一人は長身の青年で、ずっと壁に持たれかかり、眠っているのか考えてるのか知らないが目をつぶっている。
 また二組の男女のペアがおり、黒い水着のような服装をした女性と、革のジャケットを羽織った青年が、それぞれのパートナーの思しき男女に声をかけた。
 そしてパートナーらしき男女は机を挟んで睨み合っており、手に何か数枚のカードを手にし、机に並べた同種のカードを何か言い合いながら差し出したり、引っくり返したりしている。

 「俺のターン!ドロー! ・・・・カードを二枚伏せ、『炎っぽい剣士』を召喚!攻撃表示だ!」
青いジャケットを着た赤い髪の男が机の上にカードを二枚裏返しに置き、なにやら剣士のイラストの描かれたカードを置いた。
 「む〜・・・・」
赤い髪の男は「さあどうだ!?」と言う表情を、向いに座る袖の無いシャツを着た長髪の少女に見せた。どうやらカードゲームにいそしんでいたようだ。
 「甘いよ。リバースカードオープン!魔法カード『竜巻』!伏せカードは全て手札に戻る!」
 その宣言に赤い髪の男はあちゃ〜と頭を抱えた。反対に少女はしてやったりと笑みを浮かべ、机に置いた白い装束の魔術師が描かれたイラストのカードを指し示す。
 「私のターン!『ホワイトマジシャン』で、『炎っぽい剣士』を攻撃!・・・・『炎っぽい剣士』を撃破!」
 すると男は「ちくしょ〜」と、髪を掻き毟る。
 「私の勝ちね、○之内く・・・じゃなかった、ヒューゴくん。」
 長髪の少女は勝ち誇った笑みを浮かべる。
 「ま・・・まだだ!遊○・・・じゃなかった、リム!俺は、真のデュエリストっぽくなるまで、決してあきらめねえ!俺のターン!ドロー!」
 「それでこそヒューゴ君!そうでなきゃ、預かった『充血した黒龍』のカードも悲しむ!」
リムと呼ばれた少女が満足そうな笑みを浮かべると、対戦相手であるヒューゴと言われた男は、引いたカードを見て軽く笑みを浮かべた。
 「来たぜぇ・・・俺のキーカードが!ここで勝負を決めるぜリムッ!!」
男はキッと表情を固める。
 「俺はリバースカードを3枚!いくぜ!コイツを・・・・」
その時、カードを出そうとした瞬間、ヒューゴの積まれたカードの束に女性の手が置かれた。カードの束・・・山札に手を置く事は、カードゲームの世界では「サレンダ(降参)」とされている。
 「はいはい、そこまでね。集合掛かったわよ、パイロットはブリーフィングルームに集合。」
まるで、言う事を聞かないクラスメートに言いくるめるクラス委員長のような口調で、黒い水着のようなスーツを着た女性が言った。ヒューゴのパートナー・・・アクア・ケントルム少尉だ。
 「そうか・・・リム、勝負は御預けだな。行くぞアクア。」
そう言って、ヒューゴは散らかしたカードを手早く片付けると、足早にその場を去った。 おちゃらけているように見えて、私事と公事はきっちり区別する・・・ヒューゴも軍人だからだ。
 だが相手にしていたリムはつまらない顔をする。 ぷ〜とむくれている。彼女は民間からの出向なのだから仕方がないが。
 「いいトラップ仕掛け様と思ってたのに・・・」
そう言いながら、自分の手札を目にやる。そんな彼女の肩を革ジャンを着た青年が叩いた。
 「ホラ・・・行くぞ。遊びは作戦終了後まで御預けだ。」
 「遊びじゃないもん・・・・デュエルは真剣勝負だもん・・・」
と、むくれている。

 「ジョッシュ・・・リムル、急げ。コレからはじまるのは命の取り合いなんだぞ・・・」
壁に持たれかかっていた長髪の青年が、軽く声をかけて部屋から出ていった。
 「お兄ちゃん・・・あの人くら〜い。」
 「失礼な事言うなって。 でもまあ・・・無愛想だよな。」
ジョッシュと呼ばれた革ジャンの青年は、長髪の青年を見て同意した。 確かに暗い。最初から出会った時から、人を近づけまいとする雰囲気がある男だったのが印象的だった。
 名前をフォルカ・・・『フォルカ=アルバーグ』と言って、TDFでも極秘扱いの特機のパイロットだ。乗っている特機自体もなにか得体の知れない物がある。ダイテツ艦長が、今回の作戦の為に何処からか連れてきた人材と機体と言う事は詳しい事は知らされていない。
 まあ、ジョッシュとリムの機体にも似たような得体の知れないシステムが組み込まれているから人のことは言えた義理ではないが・・・。それでももうちょっと打ち解けてくれればな・・・ジョッシュはそう思っていた。
 「まあいいさ・・・・行くぞ。」
 「あ!待ってよおにいちゃ〜ん!」


 「以上で報告を終わるますですわ。」
 「了解した。そちらもナンブ君がいない間頑張ってくれたな。 辛いだろうが引き続きハガネのPT部隊の指揮を取ってくれ。」
 「了解したでございます。」
薄いグリーンの髪をなびかせ、あきらかに妙な口調の女性の会話に全く動じる事のないダイテツ艦長。慣れたものである、彼女以外にも個性の強い兵士が大勢いるので、彼女の口調程度珍しくもなんともないのだろう。咎める様子もない。
 「相変わらず・・・ラミア中尉の口調は変ですよね。」
ハガネのオペレーター、エイタ=ナダカ伍長が、副長であるオノデラ大尉にそっと告げ口する。
 ブリッジからグリーンの髪の女性・・・ラミア中尉の姿が消えたのを確認してから言う所を見て彼の小心ぶりが伺えた。
 「まあな・・・。アレでも結構腕はたつんだ。ナンブ大尉の代理務められるパイロットって事だけ評価しろ。」
 「何をコソコソ言っておる。テツヤ、PT部隊の編成は整ったのか?我が艦のPTの戦力状況はどうなっている!」
 「あ!はい!今出します!!」
艦長に一括され、慌てて編成表をブリッジのメインモニターに表示する。

 「機体コード、アサルト1はラミア=ラヴレス中尉。アサルト2はアクセル=アルマー中尉です。両中尉とも前日の戦闘でヴァイサーガが損傷し、修理が間に合わない為、研究施設に保管してあったアンジュルグとソウルゲインを代替機と使用します。」
 「大丈夫なんですか!?その機体・・・確か、スーパーアースゲインとスイームルグSのメンテナンス用に使ってた奴でしょ?」
エイタ伍長が心配そうな声を上げた。ダイテツ艦長は異論を言わず、じっとオノデラ大尉を見るだけだ。
 「オーバーホールの状態は良い様ですし、駆動系は新品に取り替えてあります。稼動には問題ありません。」
オノデラ大尉の報告にダイテツ艦長は黙って頷き、続けろと言った。 オノデラ大尉を信頼している証拠だ。オノデラが大丈夫と言っているなら大丈夫と解っているからだ。
 「アサルト3はイルムガルト=カザハラ中尉、グルンガスト壱式。アサルト4、クスハ=ミズハ曹長のグルンガスト弐式。」
モニターにはTDFの特機の代表格であるグルンガストの姿があった。しかも二機。
 「アサルト5以下、リオ=メイロン伍長のヒュッケバイン009。ジャーダ=ベネルディ少尉とガーネット=サンディ曹長がゲシュペンストMK−U。ラティーニ=スゥボータ曹長のビルドラプターです。」
 続いてモニターには濃いブルーで塗装されたTDF主力機ゲシュペンストが。隣には緑色で塗装されたヒュッケバイン。そして白いPT・・・見た感じがリュウセイのR−1に良く似ている。機体名をビルドラプターと言い、R−1のプロトタイプとも言える機体だ。T−LINKシステムこそ無く、構造的に脆い所を持つが、その他の性能はR−1に引けを取らない。
 「ブラッド=スカイウィンド少尉のスーパーアースゲイン。カーツ=フォルネウス少尉のヴァイローズ。マナミ=ハミル少尉とアイシャ=リッジモンド少尉のスイームルグS・・・」
 当初からラミアとアクセルと行動を共にしていた特機が映し出される。第2世代型VRから受けた傷も治っている。
 「そして・・・・今回の作戦において、我が艦の切り札ですか?艦長・・・」
 オノデラ大尉がモニターに映し出された新たな機体を見て、そう言うとダイテツ艦長は黙って頷いた。試作機や探査機が何の約に立つ・・・しかも得たいの知れない物まで・・・と、陰口を叩かれつつも、ダイテツ艦長が強引に参加させた機体達が映っていた。
 確かに、どこまでやれるのかは解らない。だが少しでも戦力になりそうなものはなんでも使う。そういって自分の意見を押し通したのだ。
 「ジョシュア=ラドクリフ君とクリアーナ=リムスカヤさんでしたっけ?一応少尉待遇って事になってますが・・・あと、フォルカ=アルバーグさんですか?艦長が何処からか引きぬいてきた逸材って・・・」
 エイタ伍長がモニターに映る、機体を見て言った。その言葉にダイテツ艦長が頷いた。
 「ウム。あの男はやるぞ・・・。あとヒューゴ=メディオ少尉とアクア=ケントルム少尉だ。この特機もなかなかだぞ。」
モニターには、やたらいかつい赤と青で塗装された特機があった。肩が張っていてまるで牙のようなモールドが掘られ、膝には回転ノコギリまで付いている。これがヒューゴとアクアのガルムレイドだ。
 そしてやや細身の青と白で塗装されたPTに似た雰囲気の機体が、ジョシュアのエールシュバリアー。その隣には黄色と白で塗装され、エールシュバリアーに似た機体がある、特徴的なのは両腕部が剣のような鋭い切っ先を持つ砲塔と化している点だ。これがクリアーナのブランシュネージュ。
 最後の特機は、まるで獅子舞のような長い髪をなびかせ、全身から異様な雰囲気をかもし出す鬼のような機体。フォルカのヤルダバオトだ。周囲のスタッフから「得体が知れない」と良く言われている。

 「各機とも駆動状態は良好。問題はありません。」
 「よし。第一戦闘配備、スタンバらせておけ。 よし・・・ソラリスを潰しに行くぞっ!!エンジン始動!第1戦速!各艦にも打電しろ!作戦開始だ!」
 「了解!!エンジン始動!!ハガネ浮上します!」
オノデラ大尉が艦の各セクションに通達をきびきびと出す。いよいよ動き出すのだ。
 「行くぞテツヤ!ワシ等は直接敵主力部隊、ならびに中心を叩くぞ!!」
 「了解っ!!」
 ハガネの船体が宙に浮かぶ・・・・それに呼応し、各TDF陸上戦艦を中心にしたTDF艦隊が動き出し、その頭上をTDF主力戦闘機F−28メッサーが隊列を成して飛んでいく。中にはリオンタイプのAMの姿も見える。TDF空軍の主力機だ。
 「さあて・・・どう出てくるか・・・」
ダイテツ艦長は目の前のモニターを凝視ながら呟いた。


 「TDF艦隊動き出しました。偵察部隊の情報通り、南東のハガネが旗艦と見えます。南西部の艦隊も呼応して動き始めました。」
オペレーターの言葉にDN社のVR部隊の一派、RNAのシルビー=ファング大尉は、珈琲を飲む手を止めた。
 TDF艦隊から見て、カルパティア山脈を挟んで北東に位置する旧ベラルーシ。ここにRNAのVR部隊が待機していた。
前線の簡易司令部として設けられた大型指揮キャリアからの通信に、彼女は耳を傾けた。
 「思ったよりも速い・・・。TDFめ、えらく動きが良いじゃないの。指揮官はダイテツ=ミナセね・・・。」
彼女は、待機している部隊全てに号令をかけた。
 「VR部隊をスタンバイさせなさい!何時でも出られる様に! 偵察部隊には監視を続ける様に!この戦い戦況を見定めたものが勝つ!状況の変化は逐次報告させて!どんな些細な事でもね!」
 彼女はそう言って指示を出すと、愛機である赤い戦闘機・・・高機動可変型機体サイファーへと向かった。彼女のサイファーは、高機動性汎用型射撃強化型機体フェアー・ビアンカと称され、特に機首・・・人型形態時には右腕に装備されたクライチェク・ミューラーと言うランチャーは、通常機に比べ2倍以上の攻撃力を持つ。
 彼女はヘルメットを被り、コクピット内で部下の報告を聞き漏らさない様に待機していた。 勿論偵察部隊からの映像を貰う事も忘れない。
 目の前のモニターには、まるでシュミレーションゲームのような図面が映し出されている。DN社の通信技術はずば抜けて優れている、偵察部隊からの映像をリアルタイムで、2Dグラフィックで変換する事なぞ訳は無い。
 こう言った通信技術の卓越さがDN社が、宇宙でのソラリス本国を打ち破った一因でも合った。
 「宇宙悪魔帝国はまだ動かない・・・。ま・・・今は前哨戦と言った所かしら・・・」
彼女は狭苦しいコクピットの中で、改めて部下に珈琲を持ってくるように命じた。 戦いは始まったばかり・・・慌てては事を仕損じる。彼女は部下が持ってきたストロー付きのプラスチック製のカップを受け取った。
 「・・・・お茶を飲む余裕ぐらい無きゃね・・・」
 サイファーのコクピットに珈琲の香りが満ちた。



 一方、ソラリス中央司令部では、オペレーター達が各方面の戦況を逐次報告していた。
 南東及び南西からのニ方向からの進撃、自分達の背後にはカルパティア山脈がある為、背後からの進撃はありえない。その分正面に集中して守りを固める事は出きるが、突破されたら終わりと言う事も示している。
 どのみち、ソラリス地上部隊には守って守って守りきるぐらいしか手は無い。一応、遊撃戦力としてエレメンツを待機させてはいるが、エレメンツの規模はたかが一個小隊。戦力的には中隊クラスを誇っているとはいえ、数が無いのは事実。
 その為、ソラリス側は地雷原を多数設置し、また自動判別型の誘導爆雷等の人手が無くてもそれなりに効果をあげる事が出きるトラップを幾重にも広げていた。 これは人的資源を可能な限り温存する為の苦肉の策とも言えなくもない。勿論、人道と言う事もあるだろうが、何時終わるかも解らぬこの戦いに対して、わずかでも兵士たちの士気を落とさない為の配慮でも会った。
 加えて、手持ちのギア部隊にはいくらかの改良を施した部隊を編成してあった。アヴェの国境守備隊が使用していたギアの中に、人型から歩行戦車へと変形する機体が幾つかあり、それらの主砲を要塞攻略などに用いられる間接砲に乗せ変えてあった。それらを防御用として用い様と言うのだ。艦船の主砲以上の射程距離を持つ間接砲にギアの機動力を加えるのだ。これは動きの鈍いTDF陸上艦隊には脅威となるハズであった。
幸いといって良いのか、ソラリス軍には空戦型ギアも多くある。制空権も完全に奪われたわけではない。地の利はこちらにある・・・少なくともラムサスはそう思っていた。
 「敵の第一陣さえ防ぎきれば勝てる!汚らしいラムズ(地球居住者)どもに、ここを攻略できうるはずは無い!各員の努力期待する!」
 司令部でマイクを握り締め、熱弁を振るうラムサスであった。表情こそ出してはいなかったが、内心は焦りと狼狽が現れているのを、司令部のカンの鋭い者は気づいていた。
 ここで負ければ降格は確実。下手すりゃ懲罰+免職・・・がけっぷちに立たされているのは明白。
 ラムサスの演説を横に、幾つかの部隊指揮官達は、密かにTDFやRNAに内通しようと考える者や、頃合を見計らって戦線を脱出し様と考える者もいる。
 察しの良い指揮官ならば、本国に戦力が無くなった時点で、ソラリスは敗れる・・・と結論づいていた。ならば命を無駄にする事は無い。トンズラ決めこむのも、再起を図る為に力を温存するのも今のうち・・・ そういった動きが密かにラムサスの知らぬ所で動いていた。 
 残念な事に、ラムサスには直属のエレメンツ以外には、人望が薄い・・・・と、言わざるを得ない状況にまで追いこまれていたのだ。
そして、この事がこの戦いで決定付けられた時に、彼に狂気に近い決断・・・否、ヤケを起こさせるのだ。
 「ラムサス様!南西部のTDF艦隊に動きがありました!我が方の第3陸戦大隊が大きな損害を受けています。」
 「なに!?映像は出せるか?」
オペレーターからの報告に、ラムサスはすぐに指示を出す。司令部のモニターには南西部の最前線の画像が送られてくる。 そこにはラムサスも知っている人型の機動兵器達が、ギア部隊をなぎ払いながら進撃している姿であった。ややノイズがかっているのは光学兵器による電子障害の為だろう。それでもラムサスの目にははっきり映っていた・・・黒いボディに胸には金色のエンブレム・・・また青いボディに真っ赤な翼が・・・
 「オンディーヌ隊とか言ったか・・・TDFの特殊戦力ばかり集めた奴ら・・・」
 ラムサスの表情が怒りに包まれる。握られた拳が微かに震えている・・・・
 彼の目にはモニター内で、ギア部隊をまるで赤子でもあしらう様に蹂躙していくスーパーロボット達・・・キカイオーやゲッP−Xの姿しか映っていなかった。
 「ヤツラが主力か!!第8機甲大隊を廻せっ!!一気に叩き潰してやるんだっ!!」
 軍人とは悲しいものだ・・・・たとえそれが間違っている指示と気づいていても、上官の言葉は絶対。例え白でも、上官が黒と言えば黒なのだ・・・。少しでも戦略・・・否戦術レベルでも齧った事がある人間ならば、これが陽動である事は気づいているだろう。
 だが、がけっぷちに立たされ頭に血が上ったラムサスには、そんな事すら解らない。 オペレーターは自分の意見を押し殺し、各部隊に指示を伝える事しか出来なかった。



 「うわ〜すげえ数。まだいるのかよぉ・・・」
軍のエースパイロットと呼ばれる人々の撃墜スコアを恐らく全て書き直してしまうほどの、兵器を葬り去ったキカイオーの中から、ジュンペイのうんざりする声が聞こえてきた。その右手には今しがた倒したばかりのギアの頭部が握られている。
 「もう、ニ・三十機は落としたと思ってるんだがなぁ・・・」
 このぐらいのギアならばキカイオーの敵ではない。加えてキカイオーは日本でのフルメンテナンスを終えたばかりで、すこぶる調子が良い。これしきの相手は慣らし運転程度だ。
だが、まるでアリが巣穴から這い出てくるように現れる敵の物量の前に、ウンザリしてきたのだ。加えて自分の体力の消耗も・・・・
 戦闘が始まってから、何時間も経っている。タダでさえ居住性の悪いキカイオーのコクピットの中に閉じ込められているのだ。一度艦に戻って一休みしたかった。
 「弱音を吐くな!ダイテツ艦長達の艦隊は、これよりもっと多くの敵と戦ってるんだぞ!」
鎌で近くにいたギア一個小隊をなぎ払いながらゲッP−Xのケイから叱責が飛ぶ。
 「解ってるけどよぉ・・・ちと多すぎ。」
 ケイ自身もジュンペイの気持ちは解っていた。キカイオーもそうだがゲッPのコクピットもこの上なく狭い。作戦が始まって数時間・・・体力には自信のある自分でもきついものがある。
 しかし愚痴をこぼそうが、弾薬・エネルギーが底をつくまで帰還は認められていないのだ。しかもオンディーヌ隊に与えられた任務は後方撹乱。 とにかく相手の注意をこっちに引きつける必要がある。 休みたければエネルギーを食う強力な武器を無駄撃ちするしかない。
 「ヒィィトッブレイザぁぁぁぁ!!」
喉元枯らす勢いでジュンペイの絶叫が響き、キカイオーのブレストから熱線が放たれる。キカイオーに襲いかかろうとしたギア部隊・・・恐らく十数機はいただろう、瞬く間に消え去った。
 
 「あ・・・あいつが鋼鉄巨神・・・」
ソラリス軍主力歩兵型ギア「ホワイトナイト」の小隊の1機が、友軍を消し去った張本人を見て青ざめた。思わずあとずさる。
 「あれがかよ・・・DN社の傭兵部隊たった1機で壊滅させたって言う・・・」
 ホワイトナイト達に不安が過り始めた。明かにうろたえているのが見て取れた。
───ガシャンッ  わざと足音大きく鳴らし、キカイオーがホワイトナイト達の前に一歩前に出る。
 
 「ちょっと、イライラしてるからよぉ・・・やるんなら容赦しねぇぞ・・・」
指を鳴らす仕草を見せながらキカイオーが前に出る。キカイオーが一歩前に出るたびに、ホワイトナイト達が2歩下がる。
 「き!貴様等!いけっ!相手は一機だぞっ!」
 小隊長らしき兵が檄を飛ばすが、効果はまるで無い。そればかりか兵たちは今にも白旗揚げそうな雰囲気だ。
 「こ!小汚いラムズ(地球居住者)どもが造ったハリボテに恐れるなっ!あんな物は子供番組の猿真似だっ!ラムサス閣下に恥かしいと思わんのか!」
 小隊長は必死に檄を飛ばす。だが兵たちはキカイオーに恐れを成して動けない。
 「う!うわあああ!ラムサス閣下ばんざーい!天帝様!我に力をー!」
半ばやけくそ気味に一機のホワイトナイトが槍を構えて飛び出した。恐らく新兵なのかもしれない。純真にソラリスの教義を崇拝する純な性格なのかもしれない。 若くそして青いながらも、恐怖をこらえ、若さと信仰だけを武器に飛び出した勇敢な若者・・・彼もまたソラリスの政治体制の被害者なのかもしれない。 だが・・・・・
 「うるせえっ!!」
──バシンッ!! キカイオーが軽く右手を払っただけで、そのホワイトナイトは吹っ飛んだ。 純真な思いも、このイラついた鋼鉄巨神の前には無力だった。そのホワイトナイトは近くの岩場に頭から突っ込み動かなくった。

 「ジュンペイの奴・・・そ〜と〜イラついてるな。一度帰還させて一休みさせたほうがいいかもしれんな。敵さんが気の毒だ。」
空からサイモンのラファーガがキカイオーの様子を見て、そう言った。 上空からだとただ闇雲に・・・と、言うよりあちこちに当り散らす様に闘っているキカイオーが見て取れる。
 敵の部隊が怖がって近づかないでいるのが良く判る。 陽動には都合が良いが、敵が逃げては意味が無い。 サイモンはユグラドシル二世に通信をいれる。
 「ユグドラU、聞こえるか? こちらサイモン。敵がキレたキカイオーを怖がって近づいてこない。悪いがジュンペイを一度帰還させてくれ。」
 『了解しました。キカイオーに帰艦指示を出します。サイモン少佐は大丈夫ですか?』
オペレーターが尋ね返す。
 「そっちでもモニターしてるんだろ?推進剤残量47%、もうちょいしたら補給に帰艦する。俺の好物を用意しておいてくれ。」
 『はい。バナナですね。』

 
 「そろそろ・・・良い感じかしら?」
モニターで戦況を観察していたシルビー大尉は、口にしていたカップをコクピット内のダストボックスに投げ込んだ。
 「待機している全機に通達!15分後に第一小隊より順次出撃準備。別命あるまですぐに動ける様にしておきなさい。」
 そう言うと同時に愛機であるサイファーの計器をチェックをする。メインエンジンの暖気は既に終了し、V=コンバーターの出力も安定している。
 「司令部、現在の戦況はモニター通りね?変わった動きは無い?」
 「はい。現在、戦況に変化があったほどの変化はありません。当初の予定通り、ソラリス軍はTDFの陽動部隊と思われる地点に戦力を集中させています。」
その返答にシルビーはモニターを見つめながら考えていた。
 「陽動?そうか・・・」
 シルビーはそう思った。何故なら主力にしては確かに戦況を見ても、攻撃能力は他の地点にいる部隊に比べ突出してずば抜けている。だが数にして見れば2個中隊規模。大きく見積もって大隊規模ではない。
 「!?」
 シルビーは何かに気付いた。すぐさまマイクを手に取る。
 「その部隊にハガネは?TDF旗艦と呼ばれるスペースノア級は確認できる?」
 「いえ。後方の海岸線に母艦と思われる巨大潜水艦は確認できますが、スペースノア級は確認できません。」
 「ではTDF主力艦隊にハガネは!!」
直ちに確認します!と言うオペレーターの声。 数秒後に返答があった。
 「存在しません!!TDF主力艦隊にスペースノア級はシロガネの一艦だけです!」
 「!!!!」
 シルビーは目を見張った。数秒後には無線機に叫んでいた。
 「シロガネも囮だ!!付近に不用意に移動する艦艇を探せ!」
 すぐに返答があった。 それは形式不明の特機と人型兵器、そして少数のPTを随行した艦が一隻だけまるで、アメフト選手のフットワークを思わせる巧みな操艦で、かいくぐる様にしてゴールに向けて突進していた。この場合ゴールはソラリス本陣!
 「シルビー大尉これは・・・」
 オペレーターの声は無視してシルビーは呟いた。
 「まるでアメリカンフットボールね・・・。他の部隊はハガネを進ませるための防御・・・俊足選手に全てをかけるか・・・」
 だがシルビーはニヤッと笑みを浮かべた。 ハガネが進む為の進路はすべてTDF部隊が死守している。すなわちソラリス本陣までの道は開けている。
 「命令変更!第3から第6までのサイファーは対地上攻撃装備で出る!!換装の済んだ機体から順次発進させよ!サイファー出撃後、進路確保後に空輸キャリアでアファームド部隊を発進させろ!それと、予備機のサイファーが2機有ったわね?あれに撮影用装備を施しておけ。」
 「はっ!記録用ですか?」
 「我が方の戦いぶりを放送するのよ。戦時物のコンテンツは売上げがいいのよ。」
その後、RNAのサイファー部隊が赤い翼を輝かせ戦場に向かった。

 だが、同じ事に気付いたのはRNAだけではない。 同時刻に宇宙悪魔帝国の部隊も展開し始めたのだ。大型のビーストがソラリス・TDF見境無いし無差別攻撃しつつ、ソラリス本陣を目指すのは、固体戦闘力の差をまざまざと見せ付けられる物であった。
 さらに、小型ビーストも新鋭機「SM−09ドムーン」を中心とした新型機で構成され、物量でもソラリスを押し始めていた。
 ソラリスギアの性能は、決してPTや小型ビーストに劣る物ではない。タイプによっては明かに上回る性能の機種も存在する。
だが、防戦が精一杯の状態で士気も低下している。なにより本国からの補給や増援が途絶えがちで、絶対的に数が足りない。 優秀な機体が2・3機あっても、物量の前では意味を成さない。
 加えてソラリス軍は、TDF・RNA(DN社)・宇宙悪魔帝国と3者を相手にしなければならない。互いに敵対している組織同士ゆえ、連携は見られないが、互いを利用するような形で戦術を立てている。 物量に劣り、増援の望めないソラリス軍は劣勢に立たされていた。


 「あんなのと戦うってのかよぉ・・・」
ソラリスギア小隊の一機が、目の前に迫り来る宇宙悪魔帝国の陸上戦艦型大型ビーストと、それに随伴するドムーンやギュフーの部隊を見てうろたえていた。 既に弾薬は底を付きかけており、槍も鋭さを失いかけていた。増援は来ない、補給に戻るのも命がけ・・・泣きたくなってきた。
 「小隊長・・・撤退しましょう・・・勝ち目無いですよ・・・」
 兵士の一人が涙目で訴えてきた。小隊長は言われるまでも無い・・・と頷いた。 
 「司令部・・・撤退命令を・・・」
小隊長が通信を開きかけたその時、小隊長は見た。赤い翼の戦闘機の一団が、左翼から飛んでくるのを。 援軍とは思えなかった。ソラリス軍にはあんな戦闘機は存在していないし、明らかに技術体系が違いすぎている。 決定付けたのは背部に見えた家庭用ゲーム機器にそっくりなデバイスユニット・・・・VRだ。
 小隊長は、通信を開くまでも無く、撤退を指示した。部下たちもそれに素直に応じた。 敵前逃亡と言われても仕方の無い行為だが、気にしなかった。 この時点で彼らにはソラリスの敗北が決定的になったような気がした。

 「南西部の艦隊が増援を要請しています!」
 「第3機工大隊、撤退を要請しています!」
 「第2防衛ライン突破されました!」
 「第1から第5までのギア部隊損耗率33%突破!」
ソラリス本陣に飛んでくる報告は悲痛な物ばかりであった。 事態は少しも好転していない。防衛ラインさえ死守すれば勝てる!と言い放ったラムサスであったが、まさかこのような劣勢を強いられるとは考えもしなかった。
 地上居住者と言うのは、人種的にもソラリス人に劣っていて、とても我々に逆らえるような人種ではないと自負していた。勿論、ソラリスの教義でもあるのだが、自分に自信のあったラムサスには、考えられない事態であった。
 「ええい・・・役立たずどもが・・・」
思わず歯噛みする。プライドの高さ、エリートとしての高潔さゆえか、客観的に戦局が見えない者の悲しさ・・・。ここまで陥っても自分のミスに気付かないでいる。
 そうでなくとも、最初から勝ち目の薄かった戦いである。 もしこれが宇宙悪魔帝国のシャドーレッドならば、戦力差を吟味し防衛陣を縮小するなりして戦うだろう。 RNAのアンベルWならば、利益を優先する為に勝ち目が無いと悟れば、被害を最小限に食い止め、戦力を温存する為の脱出作戦に切りかえる等、様々な対処を試みるだろう。
 だが悪い意味でのプライドの高いラムサスにはそれができない。 ソラリスの教義としてもそうだが、落ちぶれると言う事に人一倍恐怖を感じる彼には、前述の二人ほどの柔軟さは無い。
 彼我の戦力差は、既に決定的なものに近づきつつある。このままではそう遠くない時間に本陣に攻め込まれる事は確実だった。
 「このままでは・・・」
 敗北する事への恐怖が頭を過り始めていた時、彼の心の水面に波紋を広げる一石を投じる報告が投げ込まれた。
 「閣下!! TDFのスペースノア級がまっすぐこちらに突進してきています!! このままでは15分後には確実に敵艦の射程圏内に!!」
 その言葉に、司令部中がざわめき始めた。 参謀らしき将校がモニターに映せ!と命じると、そこにはこちらに向けて、殆ど無傷のスペースノア級戦艦、ハガネが識別不可能な特機やPTを随伴してこちらに突進しているではないか・・・
 「は!ハガネだ!!」 「あのスペースノア級か!?」 「無傷じゃねえかよ・・・」 「やべえぞ・・・アレの艦首って確か・・・」
 司令部中の兵士達がざわめき始めた。 無理も無い。連邦崩壊の大戦で遅れは取ったものの、その戦闘力の凄まじさは地球圏に噂されている。 特に艦長たる『ダイテツ=ミナセ』中佐の大胆な戦法と相俟って、敵対組織でさえ敬意を払う、一種の英雄となっている。
 「くぅぅぅっ!!」
まさに苦虫を噛み潰したような表情とは、こう言うものだ・・・と手本を見せるような表情のラムサス。 彼でさえハガネの戦闘力は知っている。 
 「エレメンツはどうした!! ハガネの迎撃に向かわせろ!!」
 「ムリです!現在最終防衛ライン間際で、RNAのVR部隊と交戦中!ハガネの進路上へ向かうには時間が!」
 「ぐぅぅっ!!」
噛み締める口から血が流れる・・・。このままでは敗北は確実。ハガネの艦首トロニウムバスターキャノンを本陣に向けて打ちこまれたら・・・それでこの基地は終わりだ。 
 「それだけは・・・・それだけはぁぁぁ!!」
まるで気がふれたのではないかという形相と叫びを上げ、ラムサスは司令用のコンソールを叩き、ポケットにあったキーをコンソールの一角に突っ込んだ。
 「!?」
 次の瞬間、司令室中に緊急警報が鳴り響く。 モニターには『特AAA』クラスの機密コードが解除された事を知らせる表示が記されていた。 それは司令室に勤務する全ての兵士が何が起きたのか理解すると同時に青ざめた。
 「フフフ・・・汚らしいTDFごときに、俺をどうにかできると思うなよ・・・」
ラムサスはマイクを掴み、全域周波数で、この戦場にいる全ての存在に叫んだ。 それはこの場にいる全ての人々を驚愕させる悪魔の叫びであった。

 「ハガネ艦長ダイテツ・ミナセ!!またこの戦場にいる全ての敵対組織に通告する!!今すぐ、この戦場を離れろ!!さもなくば、核ミサイルを発射する!!」


 「な!核ミサイルだと!!」
潜水艦ユグドラシル二世のブリッジで、シグルドは驚愕し叫んだ。
 「カール!!貴様狂ったか!!国際条約違反だぞ!! 貴様には人間の心はないのかっ!!」
かつての親友の暴挙とも言える言葉に、シグルドは一つしかない瞳をひん剥いた。
 「ミァンか・・・・奴がカールを変えたのか・・・」
 ブリッジに同席していた顔に大きな傷のある男ジェシー・・・シグルドとシタンのソラリス時代の先輩が、キッと、軽く歯噛みしながらモニターを睨んでいた。


 「核ミサイルですって!?」
さしものシルビー大尉も、この言葉には目をむいた。 正気のさたではない・・・・この場で核を使えばどんな被害が出るか予想できない人物ではあるまい。 例え小規模の戦術級核ミサイルであっても、自分が統治する地区を放射能と死の灰で汚染しては全く意味が無くなってしまうではないか。 しかもこんな至近距離で撃てば敵は確かに葬れるだろう・・・多数の味方をも巻き込んでの話になるが・・・
 そもそも今の時代に、大気圏内で核兵器を使おうと言うのが考えられない行為なのだ。
 「しかし・・・万が一と言う事も・・・」
 せっかく、ハガネの開けた進路を使って本陣近くまで攻め入ったという所で、ラムサス秘蔵のエレメンツとか言う親衛隊のような部隊に行く手を阻まれている。 秘蔵っ子に相応しく小隊規模のくせに腕も良いし、使ってる機体の性能もずば抜けている。こちらにも少なくない被害が出ている。 そうこう考えているうちに、部下のサイファーの一機が撃墜された。爆砕はしなかったものの、不時着して動きそうにも無い、パイロットがほうほうの手合いで這い出してきている。
 「くっ・・・仕方が無い、一端引くぞ!」
 このままサイファー部隊を浪費してしまえば、後続のアファームドを積載した空輸キャリアの進路を確保する存在がいなくなってしまう。 今ここで貴重な第2世代VR部隊を失うわけにはいかない。 仮に核が発射されたら高機動のサイファーはともかく、動きの遅い空輸キャリアでは逃げられない。
 「TDFがなんとかするか、ラムサスって男が正気を保っていられるかどうか期待しましょう。」
 そう言い残してシルビー達のサイファー部隊は、その場を引き上げていった。


 「あれ?帰っちゃうよ、あの赤い奴。」
ライオン型ギア『グランガオン』の中でエレメンツの一人、セラフィータはふしぎそうな顔でサイファーを見送っていた。
 「なんにしろ、良いタイミングだ。本陣の直援に廻るぞ。急げ!!」
大型の剣を装備したギア『ブレードガッシュ』に搭乗するドミニアは、スグに機体を進ませた。 彼女はエレメンツの中で最もラムサスを崇拝している。ラムサスのピンチとあらば、どんな危険な戦場へをも駆け出せる盲目的な忠を示している。
 「そりゃそうと・・・さっきの核ミサイル撃つって、本気か?」
翼竜型ギア『スカイギーン』に搭乗するトロネが、話しかけた。 ラムサスを崇拝しているとはいえ彼女もソラリスの優秀な兵士の一人だ。この場での核ミサイル使用の無謀さは解っているつもりだ。
 「脅しですよ・・・。さっ・・・先を急ぎましょう。」
サメ型ギア・・・以前の戦いでリュウセイにガ○レンジャー呼ばわりされたケルビナは静かに呟いた。


 「艦長!! どうします!!」
ハガネ副長、テツヤ=オノデラが訴えるような目でダイテツ艦長を見た。 だがダイテツは一言「行け」と口を開いただけであった。
 「え!?正気ですか艦長!!核ミサイルを撃つと言っているんですよ!!」
 だがダイテツ艦長はそれ以上何も言わず、黙ってテツヤを見ているだけだ。
 「・・・・」
テツヤは数秒黙り込んだ後、「解りました。前進します。」と答え、前を見た。
 「エイタ!!ハガネ最大船速だ!!」
 「ええ!!??」と言う表情のエイタも了解!答え、ハガネを構わず前進させた。 核ミサイルと撃つと言う勧告を無視し、前進を続けるハガネを見て、ハガネと並進しているPT部隊も、意図を読み取った様に前進を続けた。
 彼等にはわかっていた。自分の占領地でしかも大気圏内で核兵器を使用しようと言う、しかも味方をも巻きこみかねない凶行を行おうとしている奴に屈してはならないと言う事に。

 だが、その行動は理性を半ば失いかけたラムサスにとっては火に油を注ぐ結果となってしまった。
「核ミサイルを発射せよっ!!」
 ソラリス軍のオペレーター達は、完全に頭に血が上ったラムサスに逆らう事は出来なかった。今のラムサスに逆らう事は、我が身に関わる事と、本能的に察したからだ。
 「・・・・・」
 震える手でオペレーターは最終安全装置を解除した。そして準備が終了した事をラムサスに告げた。 それを聞き、ラムサスは引きつった笑顔を見せてコンソールに向けて右腕を振り上げた。

 「死ねっ!!薄汚いラムズ(地球居住者)どもっ!!」
 半ば理性を失いかけたラムサスの狂気の腕が、コンソールの厳重に封がされたスイッチを叩き潰さんとばかりに振り下ろされた・・・


 「シグルド副長!! ソラリス本陣より高熱源体の発射を確認!!先程の勧告からして、核弾頭搭載の巡航型ミサイルと思われます!!」
 ユグドラシル二世のオペレーターが悲痛な声で報告する。 
 「くっ・・・。カールめ・・・士官学校時代の人間味は既に失われたか・・・」
 俯き、表情を曇らせるシグルド。だがすぐに顔を上げた。 今に悔やんでも事態は好転しない。 既に核ミサイルは放たれてしまったのだ。
 「着弾までの時間は!?」
 「はい!この手のミサイルは、一度大気圏外まで上昇してから、目標地点に向かって着弾するタイプですから・・・・この距離なら5分も無いですよ!!」
 「迎撃は!?何とかできないのか!!」
 「無理ですよ!!当艦には、そんな長距離迎撃ミサイルなんて積まれてないのは副長もご存知の筈でしょ!グングニルミサイル(バルトミサイルの正式名称)は前に若が使ってしまいましたし・・・せいぜいAMM(対ミサイル用ミサイル)程度ですよ! ・・・シロガネとハガネにならあるかもしれませんが、距離が近すぎて例え迎撃できても爆発の余波で、相当な被害が・・・」
 ──ダンッ!! シグルドは拳をコンソールに叩きつけた。 万事休すか──

 「方法ならあるぜ。」
突然、無線に飛びこんできた声──補給の為にユグドラに帰艦していたサイモン少佐の声だった。
 「ようは、着弾前にミサイルから弾頭部分を切り離して、爆発させなきゃいいんだ。そうすりゃ被害は最小限度に押さえられる。」
 確かに正論だった。だが、そんな事誰がどうやって出切ると言うのだ──と、ユグドラのブリッジがざわめいた
 「時間が無い。手短に言う。俺のラファーガに非常用のロケットを装着。これにハルマのディクセン乗っければ可能だ。」
サイモン少佐の提案はこうだ。 ファイター形態のラファーガに非常用の固体燃料ロケットブースターを装着。その上にハルマのディクセンを載せて、一気に成層圏近くまで上昇。 そこでディクセンに装備された強化バックパックの推力を利用し接近。弾頭部分をレーザーサーベルで切り落とそうと言うのだ。
 かなり困難な策であったが、これしか手が無かった。 以前、リュウセイが未完のR−1で弾道ミサイルを迎撃した事があったが、今回は相手が核ミサイルなので爆発させるわけにはいかなかった。 また推力ならR−ブースターの方が圧倒的に上なのだが、将輝・香田奈の技量では疑問があった。 それ以前にR−ブースターは推力は大きいが、機体が重たい為に目標の高度まで上昇するには時間が掛かりすぎるのだ。
 「だが、ラファーガとディクセンなら軽いからな。その心配は無い。」

──結論は出た。
 サイモンが提案して僅か2分後には、ユグドラシルの電磁カタパルトから、赤いディクセンを乗せたラファーガが飛び立った。


 「艦長!迎撃機発進しました!!」
テツヤがダイテツ艦長に報告すると、艦長は「ウム」と頷いた。
 「よし、テツヤ!ミサイルは彼等に任せる!! 我々は一気に攻め込むぞ!!」
 「了解!! エイタ!ハガネ突撃だ!突っ込めぇ!!」
 「了解!!」
テツヤの声に答えるかのようにハガネが突進する。 随伴するPT部隊が「道を開けろ!!」とばかりに、群がるギア部隊をなぎ払う。
 「PT部隊は温存せねばならん!テツヤ、PTならびに各機を上部甲板上に上げろ!雑魚には構うな!!フォーメーション、『レッドホーク!!』」
 「了解!フォーメーション、『レッドホーク』!!」
 その指示に、露払い役のPT達がハガネに飛び乗る。 それを確認すると同時にハガネはエンジンの推力を上げ、突き進んだ。 ダイテツ艦長は間近まで迫ったソラリス本陣に向けて戦法を変えた。 雑魚には構わず、一気に本陣まで突っ込むのだ。
防衛の為に立ちはだかるソラリスギア部隊を半ば跳ね飛ばす様に、体当たりで撃退するハガネ。
これが、鷹の様に一気に敵陣に襲いかかる戦法!『フォーメーション・レッドホーク』だ!!!


 「うわっ!バケモノ戦艦だ!!」 「ぎゃあああ!!」
 ソラリスギア部隊を体当たりで弾き飛ばすハガネ!それはまるで重量級のアメフト選手が己の身体のみを頼りに、ゴールを目指す姿を彷彿とさせる。
 「おうりゃああ、袋叩きだ!!」 「うおおおお!!」
いけいけゴーゴーと、テツヤが檄を飛ばす。既に吹っ切れたのか、やたらとテンション高い。 火器温存の為か、頑強な艦体を頼りに体当たりのみで猛進!
 「戦艦ってこんな使い方もあったんだ・・・」
甲板上のブランシュネージュのクリアーナが感心していたが、「普通、戦艦はこういう使い方はしない」と、エールシュバリアーのジョッシュがすかさず突っ込む・・・



 「は!ハガネが来た!!」
ソラリス本陣の司令部でオペレーターが悲鳴を上げた。 体当たりでギア部隊を跳ね飛ばすハガネに恐怖すら感じている。 他の兵士達も心境は同じような物だろう。 だがラムサスだけは違っていた、狂気にも似た笑みを浮かべている。
 「だがもう遅いわ!地を焼く、天の雷(いかずち)は既に放たれたのだ!!」
正気を失いかけているラムサスが叫んだ。 いまさらハガネが突っ込んできたところで何が出来る・・・と顔が語っている。 だがそれは友軍すら巻き込む狂気の策だと言う事に気付いていない・・・
 だが・・・・
 「司令!!ミサイルに熱源体接近!!」
 「なに!?」
物凄い形相で、モニターに出せ!!と叫ぶラムサス。 そこで彼が見たのは、オレンジ色の戦闘機に軍馬にまたがった戦士の様に、光り輝く剣を構えた赤いロボットの姿であった。
 そして・・・その赤いロボットは、色こそ違っていたが、以前ラムサスを軽く一蹴したシャドーレッドが乗っていたロボットに酷似していた。
 「ま・まさか・・・」
ラムサスが一瞬うろたえた。 シャドーレッドと言うゴルディバス軍の幹部に弄ばれた記憶が蘇る・・・・
 「い・・・今さ・・・ら、お・・おそいわ」
それは『恐怖と敗北』と言う感情に襲われたラムサスの精一杯の強がり・・・・



 「見えたぞ!ハルマ!!」
サイモンが叫んだ。 既にミサイルは肉眼で確認できる距離にある。 あと数秒もしないうちに手が届く。 ラファーガの背中のディクセンがレーザーサーベルを構える。
 「落ち着いていけ。お前なら出来る!ディクセンを信じろ!」
 「は・・はい!少佐!!」
ハルマが震える手を必死にこらえようとする。無理も無い、こんなミッションは今まで士官学校の訓練はおろか、教本や講義にも無い。
だが、やらねばならない。 ここで自分がしくじれば、友軍を含めてこの場は大きすぎる被害を受ける。 それに敵味方関係無巻きこむ、こんな行為を許すわけにもいかない。
 だがしくじったとしてもハルマを責めるものはおるまい。 なぜならしくじると言う事は爆心地に近い自分の死を意味するからだ。 生き残る為にもやるしかない。
 サブモニターに核ミサイルの見取り図がでる。 正確なものではないがないよりマシだ。 ハルマはおおよその見当をつけ、メインモニターの遮光機能を全開にした。
 「熱反応と爆発物反応をサーチ・・・ええい!考えない!直感で行くしかっ!!」
「ハルマぁっ!!」
 ミサイル接近!!と、サイモンが叫んだ。 もうミサイルは目の前!!ハルマは覚悟を決める間もなくラファーガの背を蹴った!

 「たぁぁぁっ!!!」
バックパックの推力を全開にし、ディクセンは青空に赤い身体を躍らせた。
 思ったよりも大きい・・・。 上段に構えたレーザーサーベルで踊りかかる瞬間そう感じ、恐怖と成功するのか・・・と不安が過る。 そしてどこを斬れば・・・とコンマ数秒にも満たない時間で迷いが生まれそうになった。
──ピキイイイン!!
 極限的に追いこまれたハルマの額に白い稲妻が過る! 狂気の火はここだ・・・と、ハルマは直感的に感じ取った。
 「ここだぁぁぁぁぁっ!!!」
迷いは無い。自分とディクセンを信じるだけ・・・・ハルマはミサイル先端のやや後方に、光の剣を振り下ろした。
 


 「み・・・ミサイルの爆発を確認・・・・ですが、核反応ならびに放射線反応無し・・・」
ソラリス司令部で、オペレーターが安堵したように報告する。 その報告にラムサスが『なんだとォっ!』と、信じられないような表情で詰め寄った。
 「どう言う事だっ!!爆発したのに核反応が無いと言う事はどう言う事だっ!!」
オペレーターの胸倉を掴み、叫ぶ。その顔には怒りと恐怖に包まれている。
 「お・・・恐らく、弾頭部分と起爆装置を切り離されたのではないかと・・・爆発したのはミサイル部分だけであって・・・肝心の核弾頭は・・」
ラムサスは、そこで急に力を失い、オペレーターを解放した。掴んでいた両手が力無く垂れ下がるのを感じた・・・・
 オペレーターの報告は間違い無いだろう。 恐らく先程の赤いロボットがソレをやったのだ。 あの極限状態でミサイルから弾頭のみを切り落とすと言う離れ業を・・・・
 核反応が無いと言うのが、確固たる証拠だ。 核弾頭には強固な装甲と安全装置が施されている。弾頭部分が地上に落下しようが、爆発はしない。 それ以前に起爆装置を失った時点で、完全に無力化されている。
 カクンッ──床に膝から崩れ落ちるラムサス。 身体が小刻みに震えているのは誰が見ても明らかだ。
 「ハガネ接近!!」
別のオペレーターが叫ぶ。重い頭を上げるとメインモニターにはハガネがこちらに突進してくる姿が・・・。 ラムサスにはそのハガネが、自分を貫く矢に見えた。
 「終わった・・・・」
ラムサスは呟くと同時に駆け出していた。脱力しかかった身体を懸命に動かした・・・迫り来る『恐怖』と『敗北』から逃れる為に・・・
 「脱出する!! エレメンツにハガネの進行を阻止させろ!!時間をかせぐんだっ!」
部下たちには、その言葉が負け犬の遠吠えにしか聞こえなかった。


 核ミサイル迎撃成功の報告は、TDF全軍に報告されるまでも無く伝わった。
着弾時間を過ぎても弾道ミサイルクラスの核反応が起きずに爆発が確認され、さらに切り落とされたと見られる弾頭部分がシロガネ傘下のPT部隊が回収したとの報告。 また両腕と強化バックパックを失いながらも、英雄の凱旋飛行のように、誇らしげにラファーガの背に乗った赤いディクセンが降下してきたからだ。

 勢いに乗るTDFは進軍を続行。 シロガネ以下の艦体が移動を開始した。 既にハガネはソラリス本陣にトドメをさせる距離にある。もうあとは残存戦力の掃討戦に移行しつつあった。
 オンディーヌ隊は掃討戦に移行しつつあるとの情報により、一時ユグドラに帰艦。 補給作業終了後、他勢力への警戒に入る予定だったが、その必要は無くなりつつあった。
 まず、流れはTDFにある・・・と悟ったのか、RNAが横槍を入れるまでも無く撤退を開始した。 戦力を残しているのに何故・・・と思われたが、制空権を得る為のサイファー部隊を多く失った為と思われる。元々企業であるゆえ、これ異常の戦闘行為はリスクが多すぎると感じたのだろう。 陸戦用のアファームド部隊を出撃させるまでも無く引き上げていった。 それに戦力さえ温存しておけば、またいつでも攻撃できる。 利口な連中だ・・・

 若干、宇宙悪魔帝国が攻撃を続けていたが、RNAの撤退後、同じように引き上げていった。 戦力的には申し分無かったが、いかんせん数が無かった為と思われる。
 戦力を広範囲に広げすぎた為に、戦力が分散しきり、そこを各個撃破された為だ。 やはりこの地域を攻めるには数が少なすぎた・・・
僅かに残っていた小型ビーストも、シロガネ傘下のPT・AM部隊が掃討しつつあった。

 RNA・宇宙悪魔帝国の両陣営に言える事は、ソラリス本陣をハガネに先に押さえられてしまった為だろう。 横槍を入れると言う企みは見事失敗したと言う事だ。 どちらにしろこの戦い、勝敗は決した。



 しかし、ここで予期せぬアクシデントが起きた。 核ミサイル迎撃の成功を知るや否や、ソラリス本陣にトドメを刺すと思われたハガネが進行を妨げられていた。
 ──エレメンツ   ラムサス直轄の親衛隊。 規模は一個小隊ながらも、その戦闘力は中隊に匹敵する。
 4機の精鋭ギア部隊によってハガネは脚止めを余儀なくされた。 勿論エレメンツの目的はハガネの撃墜ではない。 ラムサスが脱出する時間を稼ぐ為だ。

 「脚止めなぞ生ぬるい!撃墜する気で行くぞっ!!」
長剣を持ったギア・・・ブレードガッシュのドミニアが叫んだ。 愛するラムサスの為なら命すら捨てられる者達。その為士気は異常に高い。
 「撃墜できれば・・・理想ですけど、命令は脚止めですよ」
 サメ型ギア・・・マリンバッシャーのケルビナは静かに言う。
 「準備が完了次第、最大速度で離脱・・・了解している。」
翼竜型ギア・・・スカイギーンのトロネは呟く。
 「よーし!がんばっちゃおう♪」
ライオン型ギア・・・グランガオンのセラフィータがはしゃぐ。
 4機のギアは、巧みな連携で、ハガネを攻めていく・・・ラムサスの為に・・・


 「くっ・・・・もう、そこまで見えてるのに!!」
テツヤが歯を食いしばる。 目の前のエレメンツ4機の為にハガネは少しづつ傷ついていく。 目的が脚止めと言う事は戦い方から理解できた。 ゴールを目の前にしての脚踏み・・・テツヤは「なんとしても振りきれっ!」と叫ぶが、敵は手強い・・・
 そんな時だった。 ハガネに肉迫する長剣を持ったギアに青い機体が体当たりを敢行!そのまま地上に押し倒した。
「ジョッシュ君!」
 テツヤが叫んだ。 ブレードガッシュに体当たりしたのはジョッシュのエールシュバリアーだった。 手にしたサイファーソードでブレードガッシュの剣を押さえこみ、動きを封じている。
 
 「たかが一機!! みんな蹴散らせ!!」
ドミニアは自分を押し倒している青い機体を憎たらしげに睨みながら叫んでいた。
 だが、応援が来る事は無かった。 接触回線からか・・・青い機体のパイロットの含み笑いのような声が聞こえた。
 「無駄だぜ・・・周りを見てみろ。」
 青い機体のパイロットは、聞こえているのかそう言った。 ドミニアは首を動かした・・・そこにはエレメンツの仲間達が見た事も無いロボット達に押さえこまれていた。
 脚止めを脚止めする為の脚止め・・・・マリンバッシャーにたてがみをつけた機体・・・フォルカのヤルダバオトが。 スカイギーンにオレンジ色の機体・・・クリアーナのブランシュネージュ。 グランガオンにヒューゴとアクアのガルムレイドが・・・
 それぞれ一騎討ちの様相を見せていた・・・
 「今です!!」
ジョッシュの一言で、テツヤは全て理解した。 「エイタ行けッ!」の言葉が・・・。 直後ハガネが移動を再開した。

 「貴様らぁぁっ!!!」
ドミニアの叫びをジョッシュは不敵な笑みを浮かべているだけだ。
 「ボールキャリアーを進ませるのが、ブロッカーの役目だ。 こう言う作戦をアメフトで『ブラスト』って言うんだ。短距離を突っ込むのを目的としたな・・・」
 「戦争はアメフトじゃないっ!!」
ドミニアのブレードガッシュがエールシュバリアーとつばぜり合いのまま、立ちあがり叫んだ。 負けじとジョッシュも押し返す。
 「ふ・・・確かにな。じゃあカードゲームに例えようか? 『敵のモンスターの攻撃に際し、罠カードと特殊効果で、壁モンスターを特殊召喚した』とでも言えばいいか?」
 「ふざけるなっ!閣下を・・・やらせはしないっ!」


 ジョッシュ達がエレメンツを脚止めしている隙に、ハガネはソラリス本陣に鼻頭を付きつけていた。 もうここまで来たらあとはやるだけだ! テツヤは右腕を振り上げて叫んだ。
 「各PT攻撃開始!!」
 ハガネから次々に艦載PTが発進! グルンガストが、弐式が、ビルドラプターが、それぞれ空爆用装備を取りつけ、空から空爆を開始する! 空爆と言ってもPTには手がある。航空機用の爆弾を空から野球のボールよろしく投げつける。
 爆弾を抱えられるだけ抱えたPTとグルンガストがソラリス基地の防衛火器を黙らせる為と、突入口探索の為に空から攻める攻める。
次々と炎を上げる敵本陣。 抵抗する火器も沈黙しつつある・・・・狙うなら今だ! テツヤはここだ!とばかりに叫んだ。
 「全砲門開けっ!!」
ハガネの砲塔が一斉に1箇所に集中する。 無数の大砲が出番を待ちかねたように輝く。
 「撃てッ!撃てーッ!!」
PTの空爆に続いて、ハガネの砲塔が唸りを上げる!! 戦艦とはこう言うものだ!と、言わんばかりの集中砲火!!

 「うわーっ!!」
ハガネ部隊の空爆に続いての艦砲射撃に、脱出準備中のラムサスは思わず絶叫する。 その砲声一つ一つがラムサスを追いこんでいった・・・



 次回予告


     黒海での勝敗は決した。 だが!ラムサスを守らんとするエレメンツの猛攻が、ジョッシュを!クリアーナを!フォルカを!ヒューゴを襲う!! 果たして彼等に勝ち目はあるのか!?
     そして、ハガネは!オンディーヌ隊は!ラムサスを倒す事が出来るのか!? 

 次回、サイバーロボット大戦、第三十六話 『黒海の決着 チチをもいだデュエル!!』に、変な意味でご期待ください!
 次回も、デュエルがすげえぜ!! 「これってもしかして・・・トラップ!?」



 
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