第三十四話  大乱戦 迫撃!トリプル・ドムーン!




 宇宙・・・・とあるスペースコロニー。
 ラグランジュ4付近。コロニー国家ソラリス本土。
つい数ヶ月前まで、宇宙最強勢力と呼ばれていた戦力は、DN社の猛攻によりがた減り。いまや本土周辺と地球のアヴェとユーラシアの辺り残すのみ・・・
 そして、そのユーラシア周辺・・・黒海の沿岸では、教会と呼ばれる組織がソラリスの下部組織である事がTDFによって察知されてしまい、中立を貫く事が出来なくなってしまった。加えて教会が行ってきた非人道的行為が明るみになり、民事のでも苦しい立場に立たされてしまった。
 以前のソラリスならば、圧倒的軍事力により、このぐらいの事態はどうって事は無かった。
だが、DN社の猛攻により、宇宙でのミリタリーバランスが覆されてしまった。
 これによりソラリスは、何が何でも黒海周辺を死守しなければ地上でもミリタリーバランスを一変されてしまう。
 TDFは、これを好機とし、地上における大反抗作戦を展開している。前大戦で失った戦力を徐々にではあるが回復させ、ここでソラリスの地上戦力を叩こうと言うのだ。
 さらにDN社やゴルディバス軍まで、それに呼応するような動きを見せている。
 誰がソラリスに代わり、ユーラシアの支配権を握るか・・・・その為に、めまぐるしい情報戦も行われている。

そして、TDFの反抗作戦が近い事を察知したソラリス最高統治機関・・・ガゼル法院は、地上での指揮をゲブラー総司令官、カーラン=ラムサスに命じた。
 そしてこれは前回の敗北の汚名を返上しろとの意味合いも強く、ラムサスは本土同様苦しい立場であった・・・
 「・・・失敗は許されない。今度失敗すれば俺は・・・・」
命令を受けたラムサスは、自室で自分に言い聞かせていた。謎のギアに敗れ・・・フェイのヴェルトールに敗れ・・・シャドーレッドのディクセンMK−Uにも敗れ去った。
 エリート中のエリートと呼ばれた自分が煮え湯を飲まされつづけていた。
これ以上の敗北は、自分の自尊心の喪失どころか、ガゼル法院から確実に見放される。そうなれば地上で拉致した地球居住者同様の扱いに・・・・
 「塵・・・・それだけは嫌だ!!」
 ラムサスは知らず知らず、恐怖に支配されている事に気づいていなかった。



 一方、同じ頃・・・・・ゴルディバス・宇宙悪魔帝国・銀河連合評議会の連合の本拠地。

 宇宙悪魔帝国の管轄基地がある、とある基地では幹部であるヒッサー将軍が、部下の高級士官達が提出したファイルを見て激昂していた。
 先々の作戦で最前線からの任務を解かれたヒッサー将軍。それゆえ最前線への任務は部下たちに任せきりなのだ。
 「ふざけるな!全く話にならないプランだ!」
ファイルを投げ吐き捨てた。
 「貴様達に最前線の任務を任せてから、目立った戦禍が現れた事があるか?」
 「恐れながら・・・それでは帝国の権威が・・・」
恐る恐る進言する士官の頬を、ヒッサーは思いきり引っ叩いた。
 「男子のメンツ!帝国の権威!それが傷つけられても我らが勝てば良いのだ!」
 既にプライドがズタズタに傷つけられているヒッサーである。これ以上メンツがどうこうという事は考えられなかった。とにかく勝利し、連合の中で、帝国の優位を勝ち取らなければならなかったからだ。
 「それにだ、各部隊に配属中の新型ビーストに、地球での戦闘に耐えるものがある筈だ!それをまわす事も考えろ!」
 「ははっ!」
士官達は、渋々ながら命にしたがった。これ以上何か言って、ヒッサーの機嫌を損なう事はしたくなかったからだ。
 「ド・ムーンを廻したか?三羽ガラスに?」
ヒッサーが尋ねると、士官の一人が「勿論です」と、答える。それを見てヒッサーはようやく満足げに頷く。
 「それでよい、それで。あとTDFの例の作戦行動についての諜報部からの連絡は?」
 「はっ!それは間違い無く。黒海周辺にスペースノア級を旗艦として、TDF艦隊が集結しているとの事!」
 「TDFめ・・・何処にそこまで戦力を隠していた・・・。」
宇宙悪魔帝国の方でも、TDFの反抗作戦を察知していた。こちらでもソラリスと教会の繋がりは解っていた。
 ただ、こちらとしても各方面での戦いがある為、むやみに戦力を割くわけにはいかなかった。
 そこで、TDFとソラリス軍が激突し、疲弊したところを狙うのだ。
 「全て、臨機応変にな・・・」

 最前線の任を解かれているヒッサーにとって、地球上の戦いに自ら出撃する事は出来なかった。そうでなくても各方面の戦いが不安定であったからだ。彼女にできる事と言えば、『帝国の黒い三羽ガラス』とあだ名される、直属の勇士たちを、自分の代わりに出撃させる事ぐらいであった・・・



ソラリスのラムサスが防衛の為に追い詰められ、宇宙悪魔帝国のヒッサーが権威復活の為に直属の部下を送りこむ・・・・。TDFにとって敵対勢力の幹部クラスが、切羽詰った状況に対し、ただ一人余裕ぶっこいている男がいた。
 その男はアンベルW。DN社最高幹部会の一人にして、DNAとは別系統の組織RNAの総統でもある。
 「そうか・・・シルビー、君ほどの人間がねぇ・・・」
アンベルWが連絡をとっているのは、彼がもっとも信頼する女性、最新鋭の第2世代型VRを中心とした部隊で、オンディーヌ隊と交戦したシルビー=ファング大尉だ。
 「はい・・・。申し訳ありません。予想以上の損耗率が。」
シルビーは言い訳一つせず答えた。既に肉体関係も持つに至っているこの男に、言い訳は無用だ。勿論、シルビー大尉が言い訳なぞするわけ無いが。
 「ですが、補給さえ頂ければTDFとの戦闘は継続可能です。」
 「補給はだすよ。けど・・・追撃は少し控えよう。君も聞いているだろう?TDFの反抗作戦は。」
軽い笑みを浮かべたまま、アンベルWはシルビーに言う。
 「なら、追撃はその後さ・・・。幾ら新鋭機だって、君の所の戦力で、TDFの主力艦隊と戦うのは美しくない。」
 「はぁ・・・」
 アンベルWはコンソールを叩き、黒海周辺のソラリス軍の地図を表示させる。それを見てアンベルWはしばらく考えていた。
 「シルビー。」
 「はい。なんでしょう?」
 「これを見て欲しい。恐らくこの地図の中心がソラリス軍の本拠だ。ゲブラーの総司令官カーラン=ラムサスだっけ?噂は聞いたことがある。彼はくエリートとしてのプライドを高すぎるぐらい持っている男だと言う。そんな男が、防衛線を張るとしたら、どんな作戦を思いつくと思う?」
 アンベルWはまるで、教師が小学校の生徒に質問するようにやさしく尋ねた。
 「はい。ここは教科書通り、こう・・・円周状に部隊を配置し、機動兵器ならびに地雷原等で防衛線を配置し、首尾を固めるのが得策かと。」
 アンベルは満足そうに頷く。
 「そうだ。それゆえ戦力を分散せざるを得ない。恐らく彼にはエレメンツと言うのかな?直属の部隊がいると聞く。恐らく最終防衛線の内側に、エレメンツを遊撃隊として配置していると思うね。どこの方面が突破されようとした場合に備えて、すぐにフォローに回れるように。」
 だが、すぐに自分の言った事を否定した。
 「だが、プライドの高い指揮官なら、こうはしない。恐らく何が何でも勝つ・・・という概念に凝り固まっていると私は考える。恐らく最初のうちは、先ほど言ったとおりの手を使うだろう。だが、戦っているうちに敵の戦力の投入具合から推測して、TDFの主力部隊・・・旗艦の位置はすぐに把握できるだろう。」
 アンベルはそこで不適な笑みを浮かべた。
 「エリートの彼が、地上でのミリタリーバランスを賭けているとはいえ、基地の防衛作戦なんて役割を与えられているんだ。相当に屈辱・・・または追い詰められていると思う。そこで、旗艦の位置が判明次第、エレメンツならびに、自分直属の部隊を使って、一気に打って出ると思うね。」
 「しかし、総統。そんな作戦ではリスクが・・・。」
シルビーの言葉に笑みを浮かべるアンベルW。
 「そう、リスクは大きい。殆ど無謀な賭けだ。だが彼はやる。ソラリスってのは、選民思想が強くてね。エリートの自分が汚らわしいTDFなぞに劣っている筈が無い。とか思ってるんだから。それが彼と私の差さ・・・。同じエリートで名家の生まれでも、私は実力のある者は、身分の差無く取り入れるが、彼はそうはしないだろうからね。」
 アンベルはそこで、初めてまじめな表情をシルビーに向けた。
 「シルビー、君はそこを突いてもらう。ソラリス軍の中心に動きが必ずある。中心の戦力が何処か一箇所に集中するような動きを見せたら、君達はその間隙を縫って、中央を強襲してもらう。」
 「了解です。総帥。」
シルビーはモニターの向こうにいる愛する男に礼を返した。




 黒海───その海原に、巨大な戦艦が身を浮かべていた。
スペースノア級2番艦『ハガネ』。今回の反抗作戦の旗艦であった・・・・
 「各隊の動きが遅れているな・・・作戦を早めたいと言うのに・・・テツヤ、集結を急がせろ。」
 ハガネ艦長、ダイテツ中佐が、隣にいる副官であるオノデラ大尉に向かって命をだす。
 「了解!オペレーター、各部隊に集結を急ぐようにと伝えろ!」
オノデラ大尉がオペレーターに指示を出す傍ら、別のオペレーターが書類を持ってきた。
 「艦長!空軍の偵察機からの報告書であります。」
書類を受け取ったダイテツ艦長は、驚きを隠せなかった。
 「む・・・宇宙悪魔帝国の戦艦が降りてきたと・・・」
 「その事でしたら、諜報部から確認済みですが?下手すれば三つ巴の戦いになりうるので、警戒を呼びかけていますが・・・」
 「いや・・・問題はその後だ。宇宙悪魔帝国の黒い三羽ガラスが新型ビーストで来た。先の大戦でワシを捕虜にしかけたヤツラだ・・・手ごわいぞ、これは・・・作戦を早めるしかないな。」
 その名を聞いて、オノデラ大尉が背筋を凍らせた。
 「く!黒い三羽ガラス!!あの三羽ガラスでありますか!?」
 「そうだ・・・お前も噂ぐらい聞いているだろう。三位一体の攻撃を得意とし、最小小隊単位の戦力で、一個大隊に匹敵すると言う。」
 艦長の言葉にオノデラ大尉は頷く。彼も各方面でその名は耳にしていたほどだ。
 「本来は、『黒い六羽ガラス』でしたが、先の大戦で3名が戦死・・・その仲間の穴を埋めるようにより攻撃が洗練されたと・・・」
 「そうだ。これは警戒レベルを進めろと伝えておけ。それと例の物は、オンディーヌ隊に届いたか?」
 「はい。量産型ディクセンの先行機と、ディクセンの強化パーツですね?それは間違い無く。」


 様々な思惑を絡ませつつ、策謀が渦巻く中、我らがオンディーヌ隊は、TDF本隊とは少々離れた海岸に船体を並べて浮かべていた。
 オンディーヌ隊旗艦ホワイトローズと、バルト所有のユグドラシル二世だ。なにしろバルト達は、この作戦に参加する為にわざわざ遠回りになる日本に立ち寄り、日本からの補給物資とレイカとジンを連れてきてくれたのだ。
 「ひでえな。ボロボロじゃん。」
 合流したバルトがホワイトローズの船体を見上げてそう言った。
ホワイトローズは、RNA・・・第2世代型VRの攻撃を受けて、やっとの事でこれを退ける事ができたのだ。それはその時に受けた傷であった。
 「そんなに強かったの?DN社の新型?」
エリィが、船外で作業中のリュウセイに尋ねた。彼はR−1で船体の溶接をやっていのだ。今は小休止と言うところ。
 「ああ・・・信じられないが、凄かった。旧型VRとは比べ物にならない位・・・」
 「強かったのね・・・」
 「かっこよかったんだ。特にサルペン准尉と戦ってた赤い奴・・・Rー1みたく変形してシャープなデザインでかっこいいんだ。」
 「・・・・・・」
エリィは、二の口が踏めず、黙ってその場を離れた。他にもやる事は幾らでもある。リュウセイの趣味に付き合ってばかりいられない。それに病み上がりのフェイの介護もある。
 そのフェイは、久しぶりに会ったジンやケイ達と拳を突き合わせて笑っていた。
 「よお!身体もういいのか!?」
ケイがフェイの肩を叩く。フェイは笑みを浮かべて頷く。
 「おかげさまでな!心配させたな。」
 「心配なんかしてねえよ!お前がアレぐらいでやられるとは思ってねえからな!」
 「言ってくれる!」
悪態を付きながらも笑いあう。その横では、別の意味で再会を喜び合う連中もいた。

 「・・・・・久しぶりだな」
ジン(注:ゲッP−Xの方)が、新たなメンバーとなったビリーに話掛けた。
 「ええ。」
 「・・・・今度、またやるか。」
 「いいですよ。勝てるとは思えませんが。」
 「ふ・・・」
と、言う会話。傍目で見ていたユナ達が、不思議な目で見ていた。

 「あれって、喧嘩売ってるのかな?駄目だよ、仲良くしなきゃぁ。」
ユナがぼやくと、リアは苦笑した。
 「彼らは、あれで仲が良いのよ。前、射撃訓練でジン君、彼に負けちゃったから、闘争心燃やしてるの。」
 「ふ〜ん。そういやビリー君、妹連れてたよね?その子何処?新しい御友達とは仲良くしたいから。」
 その問いには、エルナーが答える。
 「プリメーラちゃんですか?お父さんと一緒でしたよ。でもユナ、仲良くするのは良いですけど、あんまり深入りしちゃ駄目ですよ。」
 「なんで?」
 「彼女は、失語症なんです。今は大分回復してるみたいですけど、お父さんとビリー君以外はあまり心を開かないみたいなんですよ。」
 そう、ビリーの妹は目の前で母親が殺された事が要因で、失語症になってしまった。だがビリーの献身的介護と父親との再会により、徐々に回復しつつある。今は年が近いという事で、ユグドラシルでバルトの従妹であるマルーと、彼女のペット的存在であるチュチュという不思議な生物が面倒を見ているという。
 「ビリー君も大変だったんですよ。妹を養う為に、一時は自分を売ろうとした事もあったらしいですから・・・」
と、エルナー。エルナーは、ビリーの過去の辛さを理解して、ユナに精神的に成長してもらおうと話したのだが・・・
 「キャー♪」
と、頬を赤らめるだけであった・・・・


 「この機体は・・・・」
アヤは、ユグドラシルと共にホワイトローズにやってきた機体の中に、見慣れた機体があったので驚いていた。
それは、黒と赤で塗装されたヒュッケバイン。しかもただのヒュッケバインではない。RTX−011R・ヒュッケバインMK−V。三機建造されたヒュッケバインMK−Vの一機だ。
 「これは・・・あの人の・・・」
そう言って、船外作業中のリュウセイとライを呼ぶ。
 定石通り、カッコイイ!!と吼えるリュウセイを無視して、ライは何かに取り付かれたように、船内へと駆け出した。

 「・・・・以上、報告を終わります。」
ホワイトローズのブリッジで、サングラスの男が、ベイツ艦長とヴィレッタに報告を終えた所だ。
 「了解。ご苦労様・・・助かる。」
ヴィレッタが礼を言うと、サングラスの男はフ・・・と笑みを浮かべただけ。
 「・・・量産型ディクセンとディクセン用強化パーツ。そして・・・量産型ディアナ、確かに受領した。あとは貴重な情報を感謝する。」
 ベイツ艦長がそれだけ言うと、男はブリッジを去ろうとした。
 「・・・・会っていかないのか?」
ヴィレッタが男に向かって言う。
 「誰とだね?」
 男が微笑して尋ね返す。
 「・・・・言わなくても解るだろう?」
 男は少し黙った後口を開いた。
 「私は、レーツェル=ファインシュメッカーだ・・・。この船に知人は君以外にいない。」
 「そうか・・・」
ヴィレッタは少し残念そうな顔をした。それを見てレーツェルは微笑する。
 「そうだ・・・。匕首薙は何処にいる?友人から渡して欲しいと、預かり物がある。」


 ホワイトローズの甲板の外れで、木刀の素振りをしている人影があった。
額に汗して素振りを続けるのは匕首兄妹だ。その様子を長女の香田奈が、棒術用の棒を持って見守っていた。
 「398・・・399・・・400!!」
400を越したところで、将輝と薙は小休止する事にした。ふう〜と、一息つく。
 「う〜、やっぱお兄ぃじゃ駄目だぁ。」
薙が、甲板に寝転がりぼやく。その言葉に将輝ムッとする。
 「どう言う意味だよ・・・」
 「まんまよ、まんま!お兄ぃが先生じゃ、上達が遅いもの。」
 「なんだとォ!!」
将輝が薙を睨むが、童顔の将輝ではいまいち迫力が無い。
 「参式の斬艦刀を使いこなすには、剣の修行は必要不可欠って言ったのお前じゃねえか!!」
 そう、薙の搭乗する機体は、ゼンガー=ゾンボルト少佐(通称:親分)から譲り受けたグルンガスト参式というスーパーロボットである。
 参式は、斬艦刀という質量にモノを言わせる巨大な剣を得物として扱う為、その性能をいかん無く発揮する為には、剣の技術が必要不可欠であった。

 ゼンガー本人は、薩摩示現流の達人であるが故、何ら問題は無い。
だが、薙は日本拳法の心得はあるものの、剣に関しての心得は無いに等しい。だが日本拳法も元を辿れば柔術から発展した物。そして柔術は、徒手空拳だけでなく、剣術・武器全般に長ける。
 それゆえ、香田奈・将輝・薙の武道の師であり、母親であった、『故・匕首 三叉(あいくち さんさ)』は、子供達に徒手空拳以外にも、武器格闘・・・主に剣の修練は行わせた。
 だが、物事には得手不得手は存在する。
 長女の香田奈は、母親譲りの長身が幸いし、打撃系に関しては母親に匹敵する成長を見せた。だが武器に関しては不得手、人並以上に修養できたのは短刀術のみであった。
 長男の将輝は反対に、徒手空拳に至っては姉には及ばない。だが小柄な身体をカバーする為に、武器格闘は姉以上の才能を見せた。
 そして次女の薙は、早い時期に母親が亡くなってしまった為、姉兄より修練期間が短く、徒手空拳の修練は行っていたが、武器を使った修練は、指導を行える人材がいなかったことも含めて素人同然なのだ。

 余談だが、母親である三叉の技術を、全て受け継いだ人間がいない訳ではなかったのだが、その人材が師である三叉の後を追う様に、数ヶ月後に亡くなってしまっていたので、薙に武器を指導できる人間がいなくなってしまったのだ。

 そこで、仕方なく兄妹の中でも、武器格闘に長けた将輝が薙を指導していたのだが、薙は将輝を殆ど兄としてみていない為、修練にもやる気が起きないのである。
 「ねえ〜お姉ちゃんが教えてよ〜」
と、七尺ほどの棒を持った姉に尋ねる薙であったが、香田奈は首を横に振った。短刀術なら腕に覚えはある香田奈だが、剣の腕前なら将輝の方が上なのは、彼女は良く知っているからだ。
 それに、今の香田奈は棒術・・・否、槍術を修練しなくてはならないので、薙の修練には付き合ってあげられないのだ。
 「なんで、お姉ちゃんがヤリなんて覚えなくちゃならないの?」
 「R−ブースターのコアユニットの武装が槍なのよ。お姉ちゃん剣とか短刀とかなら扱えるけど、槍はそれほどじゃないから・・・ね?」
 そう言って申し訳なさそうに笑みを浮かべる香田奈。
 「なら、お兄ぃがR−ブースターに乗れば良いじゃない!お兄ぃなら槍も使えるでしょ!」
 「無茶言うなよ。隊長の命令で、R−ガーダーと、R−ブースターは俺と姉ちゃんが交互に乗るって事になってるから、どっちかに専念するわけにはいかないだろ!」
 そうヴィレッタの命令で、RーガーダーとR−ブースターは、互換性のあるシステムを組み込んである為、今だパイロットに合わせた調整がなされていない。そこでしばらくの間、将輝と香田奈で交互に乗りまわして、どちらが適しているか実戦で調べている最中なのだ。ゆえに二人には、両方の機体を乗りこなす事が要求され、トレーニング量がとても多いのだ。
それを聞いて、薙はぼやいた。
 「む〜!!オンディーヌ隊に剣の達人みたいな人いないの!?」

 「はっくしょん!」
ユグドラシルにいたシタン先生が軽いくしゃみをした。
 「おや?ヒュウガ、風邪か?」
近くにいたユグドラ副官であり旧友のシグルドがいたずらっぽく笑みを浮かべた。
 「そうかもしれません。医者の不養生ですかね?」




 それと同時刻・・・・地上に、宇宙悪魔帝国の戦艦が降り立った。
この艦は、TDFとソラリス地上軍が交戦を開始した直後に、不意打ちを浴びせる事が目的である。両者が疲弊したところで、こちらのビースト軍団で殲滅するのだ。
 宇宙悪魔帝国の輸送戦艦グリーンボカーンは、多くの小型ビーストと、ヒッサー将軍直属の部下、『黒い三羽ガラス』の新型ビースト、ド・ムーンを積んでいた。
 そして、ボカーンから、3機のド・ムーンが姿を現した。
 「ははは!まあわしらに任せておけいっ!なあ、ティガ、ダイナ?」
 『オウッ!!』
黒い3羽ガラスリーダー、ガイア大尉は豪快に笑っていた。




 「何故戻ってこられたのです?」
ブリッジから、格納庫へ戻ろうとする途中のレーツェルに向かって、ライは静かにそういった。
 「君を笑いにきた。そう答えれば君の気が済むのだろう?」
 「・・・・・もう一度聞きます。何故戻ってこられたのです?」
 あきらかに怒気が含まれたライの言葉。
 「カトライアの魂は、宇宙にはいなかった。それだけだ・・・」
それだけ言って立ち去ろうとするレーツェルに、ライはレーツェルの肩を掴んでいるのに内心驚いていた。いつもは感情を押し殺し、感情に走るリュウセイを押さえる役目の自分が感情に走っていたからだ。
 「男らしくないな!兄さん!そのサングラスを取るつもりは無いのか!?名乗った方がすっきりする!!」
 内心驚いていたのはレーツェルも同じだった。また逆に嬉しくもあった。この男が感情をあらわにする事が珍しかったからだ。
 「今の私は、レーツェル・ファインシュメッカーだ。それ以上でもそれ以下でもない。」
そう言って、肩に置かれたライの手をどかすレーツェル。
 「くっ!!」
 ライの拳が握られていた。すぐにでも『そんな奴、修正してやる!』と殴り散らしそうな様子だ。
だが、ライはそうはしなかった。ここでレーツェルを殴っても、何の解決にもならない。
 「・・・・・・若いな。」
レーツェルは、そう静かに呟き、その場を立ち去った。残されたライは『くおっ!!』と、言い知れぬ感情を込めて壁を殴っただけだった。


 ホワイトローズ格納庫、ユグドラシルが運んできた物資を運び込んでいた。そしてその運搬作業にて一悶着あった。
 「なんで・・・・」
 「なんで私が、こんな雑用を・・・・」
量産型ディアナのコクピットで、静は苛立っていた。ユグドラから降ろされた物資の入ったコンテナを、ホワイトローズの格納庫に移し替える作業をロボットで行っていたのだ。
 典型的お嬢様育ちの彼女にとって、このような肉体労働は、下の者がやることであって、自分に化せられた仕事ではない・・・と自覚していたからだ。
 「嫌なら、日本に帰る?」
いっしょに作業をしていたアムリッタのラファーガが、ディアナの肩を叩いた。
 「いえ・・・命令なら従います・・・。」
 そう言って、渋々コンテナを抱え上げる量産型ディアナ。
日本での事件の後、どうしてもレイカとジンに付いていく!と静が言い張ったのだ。そこで反抗作戦が終わるまで・・・と言う条件で、同行を許可されたのだ。
 量産化が既に進められているディクセンと異なり、量産型ディアナはまだTDFの正式の認可が下りていない機体である。そこで、この反抗作戦で実働データを収集すると同時に、TDF本隊に目通ししておくのだ。
 静も、軍の指揮下に入ると言う事と、作戦期間中のみという条件を飲み、レイカ達といっしょにやってきたのだ。書類上の名目は、量産型ディアナのテストパイロット言う事になっている。

 「ぶつぶつ言わずに働けよ。後がつかえてんだぜ。」
ぶっきらぼうに声をかけたのは、ゴッドリラーに搭乗するほむらだった。コンテナを一つ一つ運ぶ静に対して、ほむらは2つ3つ重ねてひょいひょいと持っていく。実に手際が良い。
 「・・・雑用に、慣れていらっしゃるのねぇ・・・」
精一杯の皮肉のつもりだったが、ほむらは、ニカッ!と笑みを浮かべて「まあな!」と言い返されてしまった。
ほむらが同世代で、進学校の生徒会長と言う事を聞いていた。この程度か・・・・レベルに見ていたらしいが、彼女が少尉待遇で、尚且つ伊集院財閥のバックアップ付きと聞かされ、愕然とした。
 そればかりか、日本でも有名な進学校やお嬢様学校の生徒が、多く乗艦し、それぞれ重要な役割を与えられていると言う事に、静はショックを隠し切れなかった。
 「ホラ、そこ!そこのコンテナは右舷に!トロイわよ。」
ディアナの足元から、ハンディマイクを持って偉そうに指示された。なんでも整備主任としてTDFじきじきにスカウトされた子らしい。静は文系なので、よくは知らないが科学技術分野で将来を嘱望されている逸材だとか。誰に対しても偉そうな態度を取るので、あまり好かれてはいないが、信頼はされているらしい。
 「紐尾とは喧嘩しない方が良いぞ。」
黒いロボットが声をかけた。キカイオーだ。レイカが最も注目していて、この部隊最強の呼び名も高いロボットだそうだ。操っているのは、これも同世代の少年。祖父と父親がロボット工学の世界的権威だったそうだが、本人はいたって普通のガキ大将的少年だ。
 「ま・・・アイツは陰湿な真似はしないが、どうどうと外装外される真似ぐらいはされるぞ。」
と、笑い飛ばしていた。粗暴そうな少年だが、静は仲良く出来そうな気がした。レイカも彼は気に入っているらしい。
 「ま・・・ブツブツ言うなよ。手足があって、器用な真似が出来る機械がこれだけあるんだぜ?有効利用しないとな!」
 「そうそう!物はつかいよう!」
 キカイオーのパイロット・・・ジュンペイにほむらが同意して笑っていた。
 「貴方がたはいいですわよ。私なんかコクピットの中で、こうですわよ!こう!」
と、言って腰を曲げ荷物を抱えるジェスチャーをする。量産型ディアナは搭乗者の動きをそのままトレースするので、静がいやがるのも無理は無い。
 

 そんなやり取りがある中、搬入された物資に、目を丸くしている人物がいた。ディクセンのパイロット、ハルマとナカトだ。
 「ディクセン用の強化パーツ!?」
 「正しくは、先行試作品の強化バックパックね。追尾レーザー砲と強化グレネード、レーザーライフルのアタッチメント・・・これに追加スラスターのセット。」
驚くハルマに、物資の目録を見ながらお嬢様軍団の一人、教養のエミリーが説明した。
 「それと、接近戦用のスパークガンと、ヘルファイアー・・・火炎放射器ね。補助兵装がナックルショットだけじゃ不安だったでしょ?」
 ホラ、あれがそうよ・・・と彼女が二人の背後を指差すと、振りかえった二人の背後にクレーンで運ばれるディクセン用の兵装の数々が・・・
 「ただ、どれも1セットずつしかなくて。強化バックパック・・・どっちにつける?1号機?2号機?」
 互いに顔を見合わせる二人。しばらく二人は考え込んだ後、ナカトが口を開いた。
 「エミリーさん。」
 「なに?」
 「その・・・強化バックパックで、ディクセンの機動力、どれくらい上がるんだ?」
 「機動力?火力じゃなくて?」
頷くナカト。ハルマは何を聞くんだ・・・と言う顔をしていたが、ハッ!と何かに感づいた。
 「ナカト・・・まさか・・・」
ハルマの呼びかけにナカトは頷いた。どうやらエミリーも気づいたらしい。少し黙った後口を開いた。
 「・・・正直言って、機動力の変化は殆ど無いわ。ただバックパックの重量分だけ、反応速度が鈍くなったと思うけど、身体で感じるほどの変化は無いと思う。追加スラスターのおかげで、地上戦におけるジャンプ力だけは確実にアップしてる。けど・・・」
 エミリーが何を言いたいのかは、ナカト・ハルマにも理解できた。
 「つまり・・・パワーアップしたのは火力とスラスターによるジャンプと加速力だけ・・・抜本的な機動力の強化には至ってない。そう言う事だよな?」
 エミリーは頷いた。
 「そう・・・。火力と直線的スピードだけで勝てる相手じゃないのは、ディクセンに乗ってる貴方達が一番理解してると思う。そうよね?」
 ナカトとハルマが、頭に浮かびあげている相手・・・・敵に強奪されたディクセン3号機の事だ。
敵に強奪されたディクセンは、恐るべき改造を施されていた。交戦記録からの推測に過ぎないが、機動性は30%増し、スラスターの推力は1・5倍。レーザーサーベルは中距離の間合い。そして最強の武器であるフィクサーキャノン至っては、2倍近い出力が確認されていた。
 TDF側でも、細かいマイナーチェンジは繰り返してはいるが、3号機のスペックには及びもしない。
 「ありがとう。バックパックは2号機につけてくれ。」
 「いいの?」
ナカトは黙って頷いた。付け焼刃のオプション程度で3号機に対抗できる保証が無い以上、バランスの取れた現状装備の方が、かえって有利かもしれないと、判断したのだろう。
 「解ったわナカト・・・。じゃあ、補助兵装は貴方が使ってちょうだい。」
ハルマの言葉にナカトは頷いた。それを見て、エミリーはディクセンを整備していたお嬢様軍団の一人、ハイスピード・セリカに声をかけた。ディクセンの肩に乗り、側頭部からバルカン砲の給弾作業していたセリカは、エミリーと言葉のやり取りを交わしている。セリカは「じゃあ1号機は通常装備のままだな?」と確認の言葉を放つと、エミリーは頷いた。

 「それにしても、今になって随分とディクセン用の補給が増えたなぁ。」
バルカン砲の補給を終えたセリカが、クレーンを操ってディクセン2号機へ強化バックパックの取り付け作業を行いつつ呟いた。
 「そりゃ、いよいよ量産体制が整ったからでしょ。ホラ・・・」
 ディクセン2号機のコクピット近くで、端末をいじっていたお嬢様軍団の一人、弓岡かえでが今しがた格納庫に運び困れてきたトレーラーを指差した。そのトレーラーには、ペールグリーンとデイトナグリーンと言ういかにも軍用を思わせる塗装を施されたディクセンが寝かされていた。
 そんな時、いきなり艦内アナウンスが流れた。
 『パイロット要員ならびに各班責任者は、直ちにブリッジに集合せよ!繰り返す・・・』


 「たったいま、本隊から通達があった。作戦の開始を早めるとの事だ。」
ベイツ艦長がブリッジに集まったメンバー達に、そう言った。
なんでも、ソラリスに続いて宇宙悪魔帝国・・・加えてDN社のVR部隊にまで動きがあったとの報告があったらしい。
 偵察部隊の報告によれば、ソラリス軍中枢を中心にして、宇宙悪魔帝国が右翼から。DN社が左翼に動きを見せているらしい。どうやらTDF本隊とソラリス軍が激突したところに横槍を入れるつもりなのだろう。
 「へえ・・・他のヤツラもココ(ユーラシア)狙ってんのか。」
ジュンペイが他人事のように言うと、「当然ね。」とサルペンが返す。
 ここ、黒海沿岸は地下資源が豊富で、コロニー国家であるソラリスにとっては、言わば資源の生命線なのだ。
 「そればかりか、ここを征すれば地球上でのミリタリーバランスはぐっと傾く。戦略的に見ても重要な拠点よ。他の連中だって欲しがるわよ。」
 サルペンがそう補足する。
 「で?俺達の役目は?」
 ジュンペイが尋ねると、モニターにソラリス軍基地周辺のマップが映し出され、シュミレーションゲームのようなコマが幾つも映っている。
 「本隊が作戦を早める事で、宇宙悪魔帝国ならびにDN社の部隊の襲撃タイミングを狂わせる。恐らく向こうもまだ準備が整っていないだろうからな。我々は、別働隊として本隊がソラリス軍に集中している間、DN社ならびに宇宙悪魔帝国に対して後方撹乱を行う。」
 「簡単に言えば、陽動作戦ね。」
サルペンが解りやすく説明した。
 「私達が、大暴れして敵の目をこっちに引きつけるのよ。ソラリス軍にして見れば、どっちが本隊か混乱させる事が出来るし、宇宙悪魔帝国やDN社に対しても、警戒が取りやすいわ。」
 「裏方みたいな仕事だぜぇ・・・」
りきがぼやくと、大地も同意した。
 「確かにねぇ。」
 「その代わり、派手に暴れられるわよ!」
サルペンがいたずらっぽく微笑むと、そうか!と二人も嬉しそうな顔をする。

 「けど、問題がありますよ。ホワイトローズは先のRNAとの戦闘で、コンディションが十分じゃありません。」
操舵手のイボンヌ少尉が進言した。
 「そうです。今の状態で陽動を行うのは、非常に困難です。」
オペレータのチェンミンも同意する。二人の意見は、艦長ならずとも解っていた。RNAの新型VRの戦闘力は凄まじく、ホワイトローズは少なからずダメージを受けていた。ユグドラから運ばれた物資により、修理は進んでいるものの、かなり不調である。特にメインエンジンの出力が不安定で、ここ数日安定しないのだ。
 「その件なんだが・・・現状のホワイトローズでは、作戦参加は困難だ。そこで・・・」
ヴィレッタは、モニターを切り替えた。
 「極少数の戦力を残し、こちらの戦力をユグドラシルに移乗させる。作戦はユグドラシルを持って参加する!」



 地上におけるソラリス戦力撃滅の為、オンディーヌ隊は、TDF本隊と合流するため黒海へと進撃した。
だが、先のRNAによる第2世代型VRとの戦闘により、損傷した母艦ホワイトローズが作戦行動が困難な為、戦力をユグドラシルに移乗させ、進撃。ホワイトローズは修理の為、その場に残った。
 大規模な反抗作戦の為、戦力を割けないオンディーヌ隊は、ホワイトローズに残した戦力は・・・・
 「僕達ぐらいか・・・」
パイロット待機室で、ナカトがつぶやいた。
 残した戦力は、ディクセン1号機(ナカト)、ワイズダック(ゴンザレス隊)、グルンガスト参式(薙)、エクスカリバー(ポリリーナ)そして・・・・
 「あれ・・・使いモンになるのか?」
リッキー一等兵が、待機室の窓から覗く格納庫で、最終調整を受けている緑色のディクセンを見てぼやいた。
 「俺が乗るんだ。大丈夫さ・・・」
ディクセンのマニュアルを読みながら、ライード曹長が答えた。
 以前、謎の真紅のギアにより、重傷を負ったライード曹長ではあったが、ようやく回復し、現場復帰したのだ。
 「大丈夫か?こないだまでフェイとベッドを並べてたんだろ?」
ゴンザレス軍曹が言うと、ライードは「ああ・・」と答えた。事実、彼は軍曹のいう通り、TDFハワイ基地で、負傷兵としてフェイと並んで寝込んでいたのだ。
 そして、復帰した彼にヴィレッタが、先行量産のディクセンのパイロットを命じたのだ。
ライード曹長は、元々候補であった為、操縦には何の問題も無い。この機体のパイロットにはうってつけの存在だった。



 ・・・・・闇の中、何かが静かに進んでいた。
巨大な物体・・・・3つの黒い影が不気味な光を宿し、ホワイトローズに近づいていた。
 「ふふふ・・・メインの任務は、母艦のヤツラに任せておけば良い。俺達の任務は、オンディーヌ隊の殲滅だ。」
黒い影・・・宇宙悪魔帝国の新型ビースト『ド・ムーン』が、静かにホワイトローズに忍び寄っていた。
 黒い三羽ガラスのリーダー、ガイア大尉は不適な笑みを浮かべていた。
ド・ムーン・・・正式名称『SM−09 ド・ムーン』。 それは、宇宙悪魔帝国が開発した新型ビースト。SM−06ザッキュンよりもパワー・装甲と全てにおいて上回っており、SM−07ギュフーも凌ぐ生産性を実現した優れた機体だ。
 特に機動性に優れており、小回りこそギュフーに劣る物の、そのスピードは量産型ビーストの中では、最速とも言われている。火器も強力なジャイアントバズーカと電熱剣を装備している。
 そして、このド・ムーンを操る黒い三羽ガラスは、宇宙悪魔帝国の中でも、チームプレイを得意とするエースパイロットたちだ。
 その実力は、前大戦においてTDF宇宙艦隊に多大な損害を与え、旗艦の艦長であった、ダイテツ・ミナセ中佐を、捕虜にしかける・・・・という戦果っぽい事を上げている。
 チームリーダーのガイア大尉をはじめとするティガ中尉、ダイナ中尉の三位一体攻撃は芸術的とまで詠われた。
ただ、本来は六人編成だったのだが、メンバーの半数が戦死してしまったと言う過去を持つ。

 余談だが、宇宙悪魔帝国には、ジャーク将軍や三羽ガラス以外にも、何人かこうしたエースが存在するらしい。

 漆黒の闇の中、突き進む3機のド・ムーン。だが、オンディーヌ隊も敵の接近に気づかないわけではない。ある程度の範囲に、小型の金属感知機をばら撒いていたのだ。
 そして、感知機は確実に役目を果たした。ホワイトローズの360度周囲にばら撒いた感知機の一つが、ド・ムーンの接近に気づき、信号を送ってきた。

 その信号を受け、ホワイトローズに警報が鳴り響く。
「何事だ?」
 艦長がチェンミンに尋ねる。部隊長であるヴィレッタが作戦に参加しているので、ベイツ艦長が直接指揮を取っていた。
 「敵です!2時の方向に3機!」
 「・・・こんな時に。総員第1戦闘配備!チェンミン君、識別は?」
 「はい・・・え〜と、解りません!データに無い機体ですが、宇宙悪魔帝国の識別を出しています。」
 「ザッキュンか?」
 「似た雰囲気はあるんですが、違います。ザッキュンにこんなスピード出せないし、ギュフーとか言う奴とも違うみたいです。」
 艦長は、その言葉にレイカが日本から持ってきた報告書を思い出していた。日本を襲ったビーストの中に高速機動をするタイプがあったことを思い出したのだ。
 「もしかすると、日本で確認された新型ビーストかも知れん。警戒を怠るな!ロボットは出せるだけ出せ!」


 ホワイトローズの、前部ハッチが開き、ナカトのディクセンが出撃する。そしてその後に緑色のディクセンが姿を現した。ライードの量産型ディクセンだ。その性能はS−サテライトこそ装備されていないが、その他の性能は試作のディクセンと遜色無い筈である。
 「俺一人でやれるか・・・?」
 「ようようライード!一人で大丈夫か?」
後ろからゴンザレス隊のワイズダックが呼びかけてきた。
 「元々、俺は候補だったんだぜ!大丈夫だよ!」
 「ハハハ!任せたぜ!」
 軽口を叩きながら2機のロボットはそれぞれ前方の森の中へ歩みを進めた。

 「・・・『相手を殺す術を持っている余裕の中で、抜かぬで勝つ事を見極めよ』か・・・どう言う意味なんだろう?」
 カタパルトに出た薙は、ふとそんな言葉を漏らした。
甲板で姉兄と剣の修練中に、一人の男が薙に話し掛けて来た。男の名はレーツェル・ファインシュメッカーと名乗った。そしてゼンガーの友人だと薙に告げ、一本の木刀を手渡した。
 薙が木刀を手に取ると、何か違和感があった。よく見てみるとそれは木刀ではなく、本物の日本刀・・・薙達の苗字通りの武器・・・匕首(あいくち)だった。
 レーツェルは、それはゼンガーの私物の一つで、修行時代に使っていた日本刀を匕首に直した物だ・・・と告げた。わざわざ日本刀を匕首にリメイクしたのは、薙の苗字が日本の刀剣と同じだった事を思い出したからだと言う。
 「これをゼンガーから君に手渡すようにと。そして・・・こうも彼は言っていた。」
それが、先ほど薙が漏らした言葉だった。薙は「?」と言う顔をした。言葉の意味がわからないのだ。「意味は?」とレーツェルに尋ねたが、彼は微笑して首を横に振った。
自分で悟れ・・・というんだろう。薙はそう解釈した。だが全然意味がわからない・・・・
 「あのレーツェルって人、ヒントぐらいくれても良いのに・・・。けど、結構ステキ人だったな♪一緒にくれた御弁当のサンドイッチは美味しいし♪」
 そう言ってコクピット内のバスケットから、簡単に食べれるサイズに切り分けられたサンドイッチを口に運んだ。
薙は知らなかった、レーツェルは料理の腕前はプロ以上だという事に・・・
 レーツェルは、別れ際にこうも告げた。
 「無事に作戦が終わったら、極東基地に今、ヒリュウ改という戦艦がある。そこにブルックリンという男がいる。彼と引き合わせてあげよう。彼はゼンガーの弟子とも言える存在だ。きっと君の力になる・・・」

 「ま・・・御守り代わりには丁度良いかな?お姉ちゃんやお兄ぃと違って、私そういうの持ってなかったし。」
そう言って匕首をシートの脇に固定し、薙は参式を出撃させた。手には通常の日本刀状態の斬艦刀を手にして。


 「こちらエクスカリバー!敵機を確認した!数は3、形式は不明だがザッキュン・ギュフーに類する機種と思われる!」
上空で哨戒中のポリリーナのエクスカリバーが、ホワイトローズに迫り来るド・ムーンを捉えた。周囲が森林地帯の為、周囲の状況が解り辛いのだ。状況によっては指揮管制機として稼動してもらう。
 エクスカリバーがド・ムーン目掛けて数発の照明弾を投下した。眩い閃光が周囲を明るく照らし出す。
 黒いボディーで闇夜に姿を隠していたド・ムーンの姿が明るみに照らし出される。

 「ちっ!見つかったか・・・」
ガイア大尉はコクピットの中でぼやいた。自分達も最後まで近づけるとは思っていなかった。が、予想よりも発見がやや遅い。先の戦闘で電子系が痛んでいるのかもしれない。
 「まあいい・・・ティガ!ダイナ!一気に攻めこむぞ!!」
3機のド・ムーンは侵攻スピード速めた。その腕に巨大なバズーカ砲を鈍く輝かせ。


 「左か!!」
ライードは、愛機となったディクセンのライフルを振りかざした。左のモニターにド・ムーンの黒い影が横切る。
 ライフルを乱射するが、かすりもしない。御返しとばかりにバズーカの砲弾が飛んできた。
 「くっ!!」
慌てて地に伏せるが、爆風に吹き飛ばされるディクセン。

 別のド・ムーンに目掛けてエクスカリバーが頭上からレーザーバルカンを浴びせる。だが足止めにすらならない。
 「ええい、うるさいハエめ!!」
鬱陶しいとばかりにバズーカを放つド・ムーン。だがエクスカリバーの方が明らかに足は速い。
 だが戦闘機並の性能を誇るエクスカリバーとはいえ、小回りが効かない。
 「しかし・・・あの型の戦闘機は知らんな・・・。戦闘爆撃機にしてはあの形は・・・」
 ガイアはぼやきつつ足を速める。だが瞬時に旋回してきてバルカン砲を浴びせる。
 「くっ・・・やるな得体の知れない戦闘機ぃ。」


 ホワイトローズのブリッジでは、各機が苦戦しているとしか報告出来なかった。
 「ディクセン1号機・量産機、グルンガスト、エクスカリバー、ワイズダック全機、苦戦してます。」
その言葉にチェンミンが泣きそうな声で報告する。
 「艦長!!」
 「大丈夫だ・・・。皆を信じろ・・・機関部の動きはどうだ?」
だが、相変わらずホワイトローズのエンジンは不調だ。
 「心配性だな・・・君は。」
艦長の言葉にチェンミンは頷いた。
 「そうかもしれません・・・・。ナカト、ライード、軍曹さん達、薙ちゃん、リアさん・・・頑張って・・・」

 だが健闘も空しく、全機ド・ムーンの力に押されていた。
 「あそこか!」
 ライードのフィクサーキャノンが火を吹く。だがド・ムーンの機動性はライードの射撃を易々と回避し、撃ち返してくる。ライードは伏せるのが精一杯だ。
 「なんてドジなんだ・・・俺は。敵の足を止める事すら出来やしない。」
 さらにド・ムーンの素早い攻撃の前に、ワイズダックは逆に足止めされている。機関砲で弾幕を張り近づけないようにするのが関の山だ。
 薙のグルンガストも懸命に突っかかりに行くが、機動性が違いすぎる。堅牢な装甲で攻撃に耐えているが何時まで持つか解らない。
 「このおっ!!」
闇雲に斬艦刀を振りまわすが、面白いようによけていく。薙が今まで体験した事の無いスピード戦法。下手に手を出せばバズーカが餌食となる。
 「速い・・・、新型めぇ・・・・」

唯一、五部に戦っているのがナカトのディクセンのみだ。
だが、敵もその事は解っているのか、ナカトを無視してホワイトローズに肉迫する。
 「新型め!先にホワイトローズをやるつもりか!!」
 その声とほぼ同時に、ホワイトローズの正面にバズーカの砲撃が走る。動く事がままならない艦では良い的だ。
 「主砲撃て!前部ミサイル水平発射!!」
艦長の激が飛び、艦砲とミサイルが放たれる。とにかく弾幕でも張らなければやられてしまう。

 「くそっ!コレ以上やらせるか!!」
ナカトのディクセンがジャンプし、空から飛び降りるようにド・ムーンに斬りかかる。
 ド・ムーンがバズーカを放つが、ナカトは小刻みにバーニアをふかし回避する。
 その動きにガイア大尉は、目を見開いた。
 「避けた!?俺の狙いを!!」
次々とバズーカを放つド・ムーンの砲撃をかいくぐり、ディクセンは頭部のバルカンを放つ。だが、相手の装甲が厚いのか効果が薄い。
 「バルカンが効かないのか!?」
だが、ディクセンの背後に爆炎が上がる。別のド・ムーンがホワイトローズを攻撃しているのだ。
 「しまった!ホワイトローズに!」
一瞬振り返ったナカト。その隙に正面のド・ムーンがバズーカを放つ!
 とっさにシールドで防ぐが、爆炎に包まれるディクセン・・・・
 

 「ふっ!TDFの新型ぁ、噂ほどでは無いわ!!」
ガイア大尉が口元を緩ませるが、瞬時に撤回させられた。爆炎の中からディクセンがサーベルを振りかざし飛んできたからだ。シールドが半分吹き飛ばされているものの、殆ど無傷だ。
 振りかざしたサーベルにバズーカを切断されてしまった。
冷や汗を流しつつ、慌てて機動性を生かし距離を取るド・ムーン。
 

 「みんな苦戦してる・・・ナカトさんばっかりに、相手させてちゃ駄目だ・・・。こうなったらスピードで勝負だ!!」
 薙は手元のコンソールを素早く叩いた。モニター上にグルンガストの全面図が表示された。
 「パターンS、オートマチックセット!グルンガスト分離!」
次の瞬間、グルンガストの身体が形を変え、分離した。頭部と肩部・背部の一部が変形し、戦闘機『Gラプター』へと姿を変えた。
 「このままむざむざやられるもんか!!」
Gラプターは高速で、ナカトのディクセンの後を追った。


 ガイア大尉は、ホワイトローズに攻撃をかけている2機の遼機に集結を呼びかけた。
 唯一苦戦するナカトのディクセンを先に叩こうと言うのだ。
 「あのパイロットぉ、只者じゃないぞ!ティガ!ダイナ!TDFの新型に、『ジェットでストリームな攻撃』をかけるぞ!!」
 ガイア大尉の呼びかけに、3機のド・ムーンは縦一列の陣形を取った。
電熱剣を抜き、まっすぐディクセンを睨みつける。
 「思ったよりも素早いぞ。いいな!」
 『オウ!!』

 「コイツ・・・来るのか・・・」
縦一列で迫り来るド・ムーンに対し、ナカトは冷や汗を流し身構えた。
 機動力を生かし、一直線にディクセンに迫るド・ムーン3機!!
 「わああああああ!!!!」

 一機目のド・ムーンが電熱剣を振り下ろす!瞬時に身を引き避けてこちらもサーベルを振りかざすが、既に眼前には2機目のド・ムーンのバズーカの砲口が!!
 「うっ!!」
 紙一重で伏せバズーカを避ける!だが上体を上げようとした瞬間、目の前には3機目ド・ムーンのバズーカ!!
 「うぅっ!!」
上体を下げたままバルカンを放ちつつ、サーベルを振り上げバズーカを両断する。だが、後ろに回ったド・ムーンがバズーカを放つ!とっさにジャンプし回避!!

 だが、その様子にガイア大尉は、笑みを浮かべた。相手は『ジェットでストリームな攻撃』を避けるのが精一杯の状態だ。
 「いけるぞ。もう一度『ジェットでストリームな攻撃』だ!」

 再度、縦一列陣形で突っ込むド・ムーン。
 身構えるディクセンの背後から、レーザーとミサイルが飛んできた。ナカトが後部モニターで確認すると、それは参式が分離したGラプターだ。
 「薙ちゃん!?援護に来てくれた!?」
 だが、すぐに頭を切り替えた。目の前にはド・ムーンがいたからだ。
 「くる!」
 攻撃に備え、ド・ムーンを睨みつけるナカト。だがそれが裏目に出た!
 ド・ムーンの胸部から、眩い光が放たれたのだ!
 「しまった!!」
一瞬遮られるナカトの視界。ジャンプしてかわそうとしたが、相手はそれを読んでいた!自分に合わせて、まるでバレーボールのブロックのように2機目のド・ムーンが飛び出してきたのだ。手にはバズーカが握られている!!
 「わあああああ!!!」
 ナカトは反射的に、中腰のような状態で一機目のド・ムーンを踏みつけた!!
 
 「ああ!?俺を踏み台にした!?」

 そのままサーベルを2機目のド・ムーンに突きたてるディクセン!だが目の前には3機目のド・ムーンが!!

 「この野郎!よくも!!」
3機目のド・ムーンのパイロット、ダイナ中尉が拳を振り上げた!勿論狙っているのはディクセン!!
 
 「スパイラルアタぁぁぁぁックっ!!!」
薙の大絶叫!Gラプターが3機目のド・ムーンに体当たりを敢行した。そのまま地面に叩きつけられるド・ムーン。
 致命傷ではないが、ナカトのディクセンを救う事は出来た。
 「やああああ!!!」
ナカトの絶叫に呼応し、サーベルが2機目のド・ムーンを両断した。

───ドカーン!!
 大爆発を起こすド・ムーン。その爆風の中、残された2機のド・ムーンが呆然とそれを見ていた。
 「ティガのド・ムーンがやられた・・・・」
 「『ジェットでストリームな攻撃』を破るとは・・・信じられん・・・」
拳を握り締めて悔しがるダイナ中尉。
 「うう・・・コスモスとジャスティスとレジェンドさえ、生きていてくれたら・・・・」
 「今更言ってもはじまらん。武器が無い・・・作戦を考え直さなければ・・・ならんな・・・」
歯を食いしばり、苦渋の想いで退却していく2機のド・ムーン。


 「敵機、退却していきます。追いますか?」
上空からド・ムーンが引き上げていく様子を見ていたポリリーナが、通信をいれた。
 「いや・・・いい。今の我々には追撃する余力は無い。機体の回収と補給を急がせろ。」
 艦長は、そう言って第一種戦闘態勢を解除した。
ほっと安堵の息をつくブリッジにおいて、艦長はブリッジから除く光景を遠目に見ていた。
 (そろそろか・・・・)
艦長の目線の先には、恐らく地上においてのミリタリーバランスを決する戦いが始まろうとしているのを見据えていた。



 次回予告

(ナレーション:タランス長嶋風で)
「ついにはじまった、大反抗作戦!!」
「TDF対ソラリスの大地上戦だ!」 
「空から宇宙悪魔帝国もやってきた!!」
「不意打ちを狙うDN社の影」
「これで、何処に傾くんだ?」
「そして追い詰められたラムラスの作戦の内容とは!!」 
「それは次回の御楽しみ!」
『守ってみせろ!地球を!!』

  次回も、ラファーガ&ディクセン合体攻撃がすげえぜ!  いくぜ!成層圏ミサイル一刀両断!! あれは『いい物』っぽいぞ!
  次回、サイバーロボット大戦、第三十五話『黒海の激闘!』
  乱戦の中、狂気に満ちた悪魔の兵器を叩き切れディクセン!!(←ここだけセラムン三石風)

  

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