第三十三話 「萌える波動 エモーショナルハートアタック!」




  グッ・・・・───静は右の拳を握り締めた。それをリアルタイムでディアナは同調してくれている。まるで量産ディアナの腕が自分の腕であるかのような錯覚すら覚えた。
 「何やってるんですか!すぐに降りてください!」
通信機から研究員が必死な顔をして叫んでいる。静は必死になる理由は解っていた。素人同然の自分に何ができるのか・・・・または管理責任を問われる・・・と言ったところが妥当だろう。だがこの場合は無視する事にした。今は極東基地を救う事が最優先事項だからだ。
 「無茶ですよ!ソイツ(量産型)は、試作タイプで何が起きるのか解らないんですよ!しかも貴方が・・」
 「誰でも動かせるようには作ってあるんでしょう?言っていたじゃありませんか、コストよりも操作性を優先したと。」
職員は口篭もった。確かにそのようには作ってある。と言うよりは、その為に作った機体なのだ。
 「燃料は入ってますわね。武器は?」
まるで刑事が犯人に尋問するような強い口調で静は所員に言った。
 「ビームボーガンとビームブレード・・・」
 「これね?」
近くにおいてあった弓矢型の武器を手に取った。整備は済んでいるらしくすぐにでも使えるとの事だ。他の武装は全て内装しているとの事だ。
 「使い方は?」
 「右腕の・・・」
 こうね?と、右の二の腕に接続ジョイントらしき部分に装着した。軽く腕を振ってみる、支障は無い。攻撃時には手首に移動する仕掛けになっている。
 メイン武装は肘のビームブレードらしい。TDFのR−1とDN社のテムジンの技術が入っている為、格闘にも射撃にも使える万能兵器らしい。
 これは、R−1のリボルバーとテムジンのビームライフルの技術を応用した物だ。
 「他には?」
 「バスタードレス・・・」
そう言って、後ろを指差した。静が振り向くとそこには非常に薄い素材で出来たドレスのような物があった。勿論サイズはディアナに合った巨大な物だ。
 「着付けの方が欲しいところですわね・・・」
そう呟きながら、バスタードレスを着こむ量産ディアナ。静はこう言ったドレスの着用には慣れていたが、普段はメイドなどに手伝ってもらいながら着こむ為、一人で着るのには手間が掛かった。
 「よし・・・・」
悪戦苦闘しながらドレスを着用し終えると、モニターに装着完了の表示が出た。続いて一つのスイッチが点滅し始めた。静がスイッチを押すと、今まで半透明だったドレスに通電し、透明になった。遠目から見ればドレスを着ている事さえ解らないだろう。
 「で?出口は?」
すると、天井が開いた。薄暗い格納庫内に日の光がさしこむ。
 「なるほど。」
微笑して両足に力を入れる。自分の想像どおりならレイカのディアナと同じ位の力はあるはず・・・。ディアナの戦い方は良く見ている。ジャンプ力は有る筈だ。
 「では、いってまいります!レイカさんには伝えておいて頂けます?コレをお借りしますと。」
 その言葉が終わると同時に、量産ディアナは空に消えていた。


 「レフトアーム破損!くっ!・・・」
エクサランスの左腕の二の腕から先が消えていた。だがこれで済んだの幸いだ。避けるのが遅ければ左腕ごと持っていかれたかもしれない。
 「このおっ!!」
 背中の大口径砲を放ったが、火線は空しく空を切るだけ。お返しとばかりにバルカン砲の正射がくる。エクサランスガンナーの装甲は、各シリーズの中でも厚い方だが、これだけ浴びせられるとさすがに持たない。鮮やかな緑色のボディーが弾痕と煤で汚れていた。
 頭部の機銃とガトリングガンで懐に飛びこまれるのを防ぐので精一杯だ。
 「ラウル!右ッ!!」
通信機からラージの声が響いた。慌てて振り向いた時には遅かった。真っ赤に塗装されたヴァイパーが低空飛行でこちらに突っ込んできていた!機関砲を向けたが向こうの方が早かった。ミサイルを地表ギリギリの所で放ってきた!
 「ガイダンスマインッ!!」
とっさにこちらもミサイルを放った。エクサランスガンナーの背中から3発のミサイルが射出されたが、遅すぎた。こちらのミサイルが迎撃するより速くヴァイパーのミサイルはエクサランスを直撃した。
 「ぐはっ!!」
凄まじい衝撃にラウルは悲鳴を上げた。コクピットがガンガン揺さぶられる。ミサイルの直撃で正面装甲が殆どオシャカになったと表示される。
 ペッ───ラウルは口から血で汚れた何かを吐き出した。先程の衝撃で折れた奥歯だ。これで済んだのはエクサランスガンナーの装甲が分厚いからだ。軽量級のフライヤーやコスモドライバーでは胴体が破壊されてもおかしくないダメージだ。
 だがラウルには、僅かながら策があった。
それは先程放った3発のミサイル。ガンナーから放たれたミサイルは何故かヴァイパーの射線上から姿を消している。ラウルは口元に僅かながら笑みを浮かべた。


 デボラ中尉の目の前で、緑色の機体が無様に転げまわっていた。こちらのミサイルの直撃を受けた胴体から煙を吹いているものの、ボディーそのものは何とか耐えきっている。そうとう分厚い装甲らしい。
 こちらがミサイルを放った直後に、迎撃ミサイルらしき物を放ったが遅すぎたようだ。こちらのミサイルの射線に入る前に直撃していたからだ。
 「遅い男ねぇ。長持ちするけど遅すぎるのはダメぇ。こっちのペースにあわしてくれなきゃぁ〜」
 そうぼやいた瞬間、彼女は本能的に何かを察した。
 「!?」
何が起きたのかは解らない。だが回避が遅ければ確実にやられていた。右から激しい衝撃が彼女を襲った。すぐにダメージをチェックする。右の主翼が一部損壊したらしい。機動力が僅かに落ちたが飛べない事は無い。
 「イイモノ持ってるじゃない・・・。ズンッと来たわよぉ響くじゃない・・・」

 彼女を襲ったのは、先程エクサランスが放ったミサイルだ。だが、ただのミサイルではない。エクサランスガンナーのミサイルは地中潜行ミサイルとも言える代物で、先端にドリルが装備されている。射出されると、一度地中に潜行し、目標近くで地面から飛び出すのだ。ラウルが狙っていたのはこれだったのだ。
 「いいわねぇ・・・鈍くてカタイだけの男かと思えば、女を喜ばせるだけのモノ持ってるじゃない・・・けど!」
デボラ中尉の目付きが変わった。急旋回しターゲットを再び定める。
 「女の体を傷つけるのは、良くないわよぉ!女の秘所はデリケートなのよおっ!」
 彼女の中で何かが切れた。よろよろと起ちあがるエクサランス目掛けて残りのミサイルやクラスターを残らず放つ!
 あちこち損傷したエクサランスに避ける術は無い。必死に機銃を放つが焼け石に水だった。この攻撃でガトリングガンを持った右腕が吹き飛ばされ、背中の主砲も片方が折れてしまった。止めとばかりにヴァイパーが急接近してくる。頭部の機銃を放ち僅かな抵抗を見せるエクサランスだが無意味だった。
ドォォォンッ!!!───ぶつかる寸前まで急接近しすれ違う。その後凄まじい衝撃が来た!音速を超えるヴァイパーのソニックブームを直接叩きつけられたのだ。エクサランスの強靭な装甲がひび割れ、左足の膝から下がもげ落ちた。
横倒しになるエクサランス。これでエクサランスは動く事も出来ない。それを確認してかデボラ中尉は恍惚の表情。無様な姿をさらすエクサランスにエクスタシーを感じているのだ。下半身が愛液に濡れる。
 「いいわぁぁ・・・くるぅぅ・・・」
陶酔感に浸るデボラ中尉。唇から生々しい声が漏れる。
 動けなくなったエクサランスにはもう用はない。彼女に言わせれば不能の男は興味は無いと言ったところだ。
目先を行動不能のヒリュウ改に向ける。爆装は殆ど使いきってしまっているが、主武装のバルカン砲とビームのエネルギーはたっぷりと残っている。それに気に入らないが同僚のジェニファー中尉のヴァイパーは殆ど爆装を使用していない。少々の増援が来ようとも戦える自信はある。それに、ここでヒリュウ改を沈めればRNA内での自分の地位も上がるというもの、薔薇の三姉妹のリーダーであるシルビーすら超えられるかもしれない。
 「くふふ・・・」
 微笑を浮かべバルカン砲をヒリュウ改の砲塔に叩き込んだ。



 「あ・・・」
 ゲーム機器が乱雑する部屋の中で、少女は声を出した。
 「V=コンバーターの反応・・・・バーチャロイドがいるんだ。」
 そう言って立ち上がった。それを尻目に少年二人・・・タクとノブが慌てて部屋の中からゲームやら漫画やらをスポーツバックに積め込んでいた。極東基地に奇襲が仕掛けられた事で、付近の民間人に避難命令が発令されたのだ。
 「また・・・戦ってるんだ。懲りないなあ・・・」
彼女───フェイ=エンは本能的にVRの活動を捉えることが出きる。彼女に言わせれば全てのVRには意思があり、普段それはV=コンバーターの中に隠れているとの事だ。そしてVRとパイロットの同調率が高いほどVRは、高い戦闘力を発揮するらしい。だが機械的にVRを強化しすぎる事は、VRその物の自我を無視すると言う事になるらしい。その為彼女には、不都合な改造が施されたり自分の意思とそぐわない行動を取らされているVRの『悲鳴』のような物が聞こえるらしい。
 それはVRと意思を疎通する事ができる彼女にとって辛い事であった。彼女曰く『パパが私をプラントから逃げるようにした理由の一つ』らしい。
 「どしたのフェイちゃん。」
タクがぼー、と立っているフェイ=エンに呼びかけた。
 「うん、またVRが暴れてるみたいなの。」
 「え〜!!もしかしたら、フェイちゃん捕まえに来たんじゃないの!?」
 「そうかもしれない。アタシちょっと行ってくるね♪」
そう言って彼女は、通信回線のつながったゲームモニーターの前に立った。
 次の瞬間、彼女の体に電気信号のような物が駆け巡ると、彼女の体はそのままデジタルデータ化し、TVモニターの中へ消えていった。
 「いつ見ても・・・スゴイ光景だよなぁ。」
モニターの中に姿を消したフェイの姿にタクは呆然と呟いた。
 「まあな・・・。自分の体を自由にデータ化して、現実世界と電脳世界を行き来できるなんてよぉ。オマケに姿や大きさまで変えられるんだからな。並のVRじゃねえよ、フェイちゃんは。」

 そう・・・フェイ=エン。彼女は人間ではない。バーチャロイドの生みの親であるDN社のリリン=プラジナー博士が生み出したバーチャロイドであった。
 だが、ただのVRと彼女はある意味違っていた。TDFのPTやソラリスのギア・アーサーと同じく、人型兵器であるはずのVR。だが彼女には自我意識が存在した。
 従来のVRとは比べ物にならないくらいの高性能V=コンバーターを装備し、通常のロボット形態から人間形態へと自分自身を相互変換能力を有していた。
 人間形態のとき、バリバリ煎餅が食べれたのもこの為である。勿論エネルギー補給の為もあるのだが、精神的要素が大きいらしいが・・・
 彼女の脅威的な能力に目をつけたDN社がほうっておく筈が無い。だが生みの親であるプラジナー博士とほぼ同時期に彼女はDN社を脱走。自分を逃がしたプラジナー博士を「パパ」と称し、逃亡劇(とは言っても彼女にとっては、過酷な物ではないらしい)の中でプラジナー博士を探しつづけていたのである。
 ノブとタクは逃亡中の傍らで知り合い(彼等のゲーム中に紛れ込んだ)、1年近く彼等の世話になっていたのだ。
 大雑把で移り気な性格にしては、同じVRが酷い目に合っているのは、目をつぶれないらしく、時々DN社の追撃に姿を現しては騒動を起こしているらしい。
 そして、今回も同様に・・・・




 「あたれッ!!」
セレインの叫びと同時にラーズグリーズの両肩の砲塔が火を吹いた。二門の火線が宇宙悪魔帝国の陸上戦艦を貫いた。
 目の前で爆発炎上する陸上戦艦。周りには遼機のスヴァンヒルドや宇宙ビーストの残骸が散らばっている。セレインのラーズグリーズ以外まともに立っている機体は一機も無い。加えてラーズグリーズは左腕を失っており、装甲もずたずたで動くのが不思議なぐらいだ。
 「・・・こちらセレイン小隊・・・。敵部隊の殲滅に成功・・・残念だけど、ブルー・・・貴方のえ・・援護には行けそうもな・・・」
 セレインはそこで意識を失った。額から赤いものが流れ、セレインの端麗な顔に一本のラインを描いた。
 だが、そのセレインの通信をブルーは聞く事は無かった。
ブルーのアシュクリーフはそのとき、宇宙悪魔帝国の新型機と折り重なるように倒れていた。アシュクリーフは各部から火花を上げ、五体はかろうじて無事な程度・・・・
が・・・セレインの通信が途切れると同時に、新型機の胴体を貫いていたアシュクリーフのビームソードの光が消えた。


 同時刻、レイカとジンのコンビは、最後の宇宙悪魔帝国の一陣にトドメをさそうとしていた。
陸上戦艦の無数の弾幕も強力な主砲も、機動性の高いディアナとブロディアの前ではかすりもしない。むしろ小回りの効く無数の小型ビーストのほうが手ごわい相手だった。
幸い、こちらの一群にはブルーが相手をしていた新型機はいない。小型ビーストも過半数がザッキュンだ。ギュフーも混じっているがそれ程数は多くない。これぐらいならば並のPT部隊ならいざ知らず、百戦錬磨のレイカとジンの敵ではない。
 「どおおおおりゃああああ!!!」
陸上戦艦の横っ腹目掛けてブロディアが肩から突っ込んできた。スパイクのついた強烈なショルダータックルにブロディアの10倍以上はあろうかという陸上戦艦が揺さぶられた。
 「フルメタルチャージっ!!!」
さらに追い討ちを浴びせるようにブロディアの全身がエネルギーに包まれ、そのまま体当たりを浴びせる。
 これはVA特有のシステムで『サイバーEX』と呼称される機能。エネルギー供給ユニット内で加圧した高密度エネルギーをメインジェネレーターに送りこみ、爆発的な機動力を得るシステムである。
 VAの機体設定次第でによって様々に応用可能だが、今放った技は『ギガクラッシュ』と呼ばれるエネルギーフィールド発生機能を応用したもの。
 サイバーEXとしては単純だが、それだけに信頼性が高く威力も大きい。

 ブロディアの体当たりを浴びた陸上戦艦は、もはや撃沈寸前まで破壊されていた。あちこちから炎を上げ、航行自体が不可能になりつつある。
 「はっ!」
レイカのディアナが高く飛びあがった。止めを刺すのはレイカの役目だ。
 高々と振り上げられたディアナの両腕に光が宿る。そして・・・・光はそのまま巨大な光球へと変貌していった。
 「エメラルド!ティアぁぁぁ!!」
 ディアナの両腕から生み出された巨大な光の球が、陸上戦艦目掛けて投げつけられた。

 ジンは、輝く光球に陸上戦艦が青い炎に包まれるのを見た。空電によって凄まじい磁気が発生し、ブロディアのモニターが一瞬遮られたが不安には思わなかった。なぜなら次の瞬間巨大な爆発音を聞いたからだ。

 「よし・・・終わった。」
 ジンはコクピットの中で一息ついた。だがすぐに身体に緊張を呼び戻す。終わったのはこの区域だけだ。まだ敵は存在している。
 通信は聞いていた。TDF極東基地にDN社のバーチャロイドが襲撃している事に。
 「行くぞ。余計な時間は取りたくない。」
だが返事は返ってこない。そればかりかディアナが小刻みに震えているようにも見える。
 「どうした?」
 「・・・・・天王院先輩が・・・」
 「お前の知り合いがどうしたんだ?」
 「・・・・試作の量産機で出撃しました・・・TDF基地を救う為・・・」
レイカの顔面から血の気が消えていた。そしてすぐさまディアナの身体が動いた。ジンも言われるまでも無くブロディアを続かせた。
 「何を考えてるんだ!お前の知り合いは!!」
バーニアを吹かし、跳躍するブロディアの中でジンは叫んだ。素人に何が出来るのかと・・・
 「先輩・・・あれで正義感の強い方ですから・・・」
レイカはそれ以上口にしなかった。ここで議論しても始まらない。一刻も速く極東基地に向かわなくては。手遅れになる前に。
 「量産機のスペックと、お前の知り合いの運動神経に賭けるしかないな。体育の成績はいい方か?」
それだけで何か出来るとは思えなかったが、何もないよりマシだと思う。ジンはそう感じていた。
 「学校の成績は、私よりいい筈ですけど・・・・体育の方までは・・・」
 「希望は・・・量産機の性能か。」
ジンはそれだけ言ってブロディアのスラスターの推力を強めた。今は急ぐしかない。



 対空機銃を撃ちまくるヒリュウ改だが、行動不能のうえ、敵の動きが素早すぎた。近づけさせないだけで手一杯・・・いや、取り付きはされていないものの、かなりの至近距離でミサイルを撃ちこまれている。いくらヒリュウ改の装甲が頑強でも、もちはしない。
 レフィーナは、各部署から飛び交う被害報告を悲痛な思いで聞きていた。恐らくこのままではヒリュウ改は5分と保ちはしないだろう。頼みの増援は望めず、エクサランスも倒れた。
 キッ!と唇をかみ締め、決意を固めた。退艦命令を出す。それしかない。
 ここで艦を失うと言う事は、今後のTDFの作戦展開に大きな障害が出る事は間違いない。事はヒリュウ改だけではない。ハッチが開放不可能と言う事は、ヒリュウ改の中にあるPT部隊や、ソラリス打倒の切り札的存在であるジガンスクードも失う事になるからだ。
 この事でレフィーナは免職を免れないだろう。それで済めばまだマシかもしれない。ヒリュウ改を失いジガンスクードを失う事で、徐々に戦力回復しているとはいえTDFの戦力が大幅に削られる事は間違いないからだ。
それによって、宇宙での反抗作戦が大幅に遅れ、下手をすれば建て直しが不可能になるかもしれない。
 マイナス的思考ばかりがレフィーナの頭を過る。だが、ここは人命優先。PTや艦は再建できるが人間はそうではない。
 両肩を震わせるレフィーナをじっと副長であるショーン少佐は、黙って背後から見つめていた。これからレフィーナが口に使用と言う言葉がわかっていたからだ。
 そして、レフィーナが口にするより速く、ショーンが言葉を発していた。
 「全艦に通達!総員!退艦準備!遺憾ながら本艦を放棄します!!」
副長の言葉にレフィーナが驚いて振り返った。
 「副長!」
 だが、副長はレフィーナの発言を無言で制した。この場は私が・・・・。と言う事だ。
 「なお!この命令は、ヒリュウ改副長ショーン=ウェブリーに独断によるものです。艦長及びその他クルーには一切関与していないものとする。」
 そう言って艦内マイクを下ろした副長に向けてレフィーナが何故・・・と言う表情をしていた。
 「貴方は若い。未来があります。私の首一つで艦内のクルー全員の命が救えるなら安いもんですよ。」
そう言ってほっほっほ・・・と微笑する副長。レフィーナは俯いたまま、「ありがとう・・・」としか言えなかった。
 「さ・・・速く。この艦は、もう持ちそうにないですからね。」
 

 「おや・・・?」
デボラ中尉は、ヒリュウ改からの攻撃がなにやら機械的になってきたのを感じた。どうやら機銃をオートに切り替えて撃ってきている。人間の手から離れた射撃だ。
 「そう・・・そう言う事ね・・・」
 デボラ中尉は舌を舐めた。人間の手から離れたと言う事は、艦内の人間が退艦を始めたと言う事だ。
 「勝った・・・。さ・・・ラストスパートを・・・あたしをイカせてよぉぉぉ!!」
ヒリュウ改にトドメを刺すべく、ビームのエネルギーを充填し始めるヴァイパー。狙うはブリッジ!


 「艦長!間もなく退艦完了です。」
ブリッジオペレーターであるユン伍長が報告する。それを聞いてレフィーナは頷いた。細かく状況を聞けば、PT格納庫の方では、なんとかPTとジガンスクードを持ち出せないかと苦闘しているらしいが、レフィーナが「PTとジガンスクードを放棄する。」と言ったので渋々準備に取り掛かったらしい。恐らくカチーナ中尉辺りが最後まで粘っているのだろうは簡単に予想がついた。
 「では、貴方達も・・・・」
 レフィーナがオペレーター達に声をかけた瞬間・・・・
 「艦長!!」
ユン伍長の叫びは、殆ど悲鳴に近かった。コンマ数秒でレフィーナも理解できた。それはブリッジ目掛けてビーム砲の砲塔を輝かせるヴァイパー!!
 「伏せて!!」
だが無駄な事は解っていたが、叫ばざるを得なかった。レフィーナは目をつぶった。


 「イクぅぅぅぅっ!!!」
デボラ中尉の眼前には、自分のヴァイパーの姿におびえるヒリュウ改のクルー達。皆血相を変えたり泣き出しそうになっている。無駄な事に逃げ出そうと腰を浮かす奴もいる。そんな惨めな姿がデボラ中尉には、全身を駆け巡るエクスタシー。自分の秘所はもうびしょびしょだ。陶酔感に完全に酔っている。
 ここでブリッジにビームを撃ち込み、炎を上げるヒリュウ改を想像するだけで、男のモノで貫かれるぐらいの快感だ。
 デボラはビームのトリガーに指をかけた。


 「・・・・・・・・・・」
レフィーナは目を閉じたまま最後の瞬間を待っていた。だがその瞬間は一向に訪れなかった。
 「??」
 恐る恐る瞳を開ける・・・。するとそこにはブリッジの眼前にいるべきヴァイパーがいない。
そして、ヴァイパーの要るべき場所にいたのはこちらに背を向けて宙に浮いている一機ロボットだった。
 「な・・・・」


 予期せぬ方向からの攻撃・・・・どうやら蹴飛ばされたらしい。地面すれすれで態勢を立て直したデボラ中尉は我が目を疑った。
 「なに!?あのロボットは!!」
 同じくデボラ中尉を援護していたジェニファー中尉も目を見開いていた。
ヒリュウ改のブリッジを守るように、一機の女性型ロボットが立ちはだかっていた。


バッ!!───女性型ロボットが胸を張ると、一瞬背中に蝶の羽のようなものが輝く。恐らくエネルギーバリアーの一種と思われた。
 「その赤い戦艦の乗組員の方!こちら量産型ディアナ17!援護しますわ、今のうちに退艦を!」
そのロボットから放たれた声にレフィーナは目を見張った。
 「量産型・・・・ディア・・ナ?レイカさんの・・・?」
 「詳しい事は後ですわ!とにかく退艦を!もしかして脱出口が壊れているとかして!?」
 ロボットからは若い女性・・・いや少女と呼んでいいほどの年齢の声だ。恐らく自分とそう変わらない年齢だろう。
 「その・・・あの・・・」
困惑するレフィーナに代わって、副長がマイクを取った。
 「こちらヒリュウ改、私は副長のショーン少佐です。当艦の中には、今後の作戦に絶対必要なロボットが多数艦載されているんです。ハッチが損傷してそれらのロボットを避難させることができないんです!できれば、この艦を守って欲しい!!最低でも格納庫さえ無事なら!!」
 ショーンの言葉にロボットから了解したと返事がきた。ヒリュウ改を守るように身構えた。
 「あの・・・ロボット・・・量産型ディアナと言いましたよね・・・」
レフィーナはショーンに向かってつぶやくように言った。
 「ええ、確かに。オンディーヌ隊にいる天宮レイカさんのロボットの・・・量産タイプでしょうかね?名前どおり・・・」
 「いつのまに完成していたんでしょう・・・量産計画はディクセンだけだった筈じゃ・・・」
確かに、TDFの次期主力機として、PT以外に量産計画が進められていたのはディクセンのみ。対ゴルディバス軍用に開発されていたとはいえ、ディクセンはコピーがし易い構造しているから、量産計画が立ちあがったのだ。
 まさかディアナ17まで量産化がされていたとは、実情を知らされていないレフィーナが驚くのは無理も無い。
 「とにかく・・・・なんとかなるかもしれませんね。ディアナは機動性に長けたロボット・・・。敵のVRに対抗できるかもしれない。」
 確かに副長の言う事は間違い無い。エクサランスがほぼ為す術無くやられたのは、機動性の低い砲戦仕様だったからだ。五部以上の機動性を持つディアナならば・・・
 「おや・・・?」
だが、ショーンは少し目を疑った。確かにヴァイパーと戦うディアナの機動性は高い、動きも実に滑らかだ。だがどこかがおかしい。何と言うか・・・戦い慣れしていないのかと言えばいいのか・・・


 「うん?」
当のディアナと戦っているデボラ中尉とジェニファー中尉も、なんとなく気づき始めていた。
 「お姉様ぁ・・・コイツ・・・変ですよぉ・・・なんか動きがぁ・・・」
 「イライラするから黙ってな!解ってるよそんな事!」
怒鳴り散らすデボラ中尉、確かにおかしい。機体の機動性、高い運動性は確かに認める。だが何かおかしい。武器の構え方、身のこなし・・・まるで素人だ。何かおかしい・・・
 「よし・・・ジェニファー、アンタ対地ミサイル一発アイツに撃ってみな。」
 「あ?はあい。」
ジェニファーのヴァイパーから対地ミサイルが一発発射された。ミサイルはまっすぐ量産型ディアナに向かう。
 「やっぱり!コイツ素人だ!脅かしやがって!!」
デボラはそう確信した。何故なら追尾ミサイルでもないミサイルに対して、大回りすぎるほどの回避行動をとったからだ。安全策を取ったにしては、動きが大きすぎる。
 「デカイ口叩きやがってぇ・・・。バラの三姉妹に対して、素人がぁ!!」
デボラは、激怒してバルカン砲を乱射する。相手は防ぐのが精一杯なのか、必死にこの乱射に耐えているだけだった。


 そしてヒリュウ改のレフィーナが、ディアナとパイロットが素人と知ったのもほぼ同時だった。
どうりで動きに素人臭さがあると思えば・・・・
 「なんですって!!あのパイロットはレイカさんのご友人が乗ってるんですか!?」
ヒリュウ改にそう、レイカから通信があった。
 「ええ!そちらの危機を知って・・・・。」
 レイカの表情からも必死さが伺えた。レイカもつい先程聞かされたばかりなのだ。
 「とにかく!私とジンさんがそちらに向かってます!パイロット・・・天王院先輩に逃げてと伝えてください!!」
 「解りました!どれくらいで、こちらに!?」
 「15分・・・いえ!なんとか10分で!」
 


 「逃げろですって?クス・・・・逃げれるならとっくに逃げてますわ。」
 静はコクピットの中で不適に微笑む。余裕があっての事ではない。切羽詰ったギリギリの状態なのだ。泣くのが無理なら笑うしかない。
 勢いで啖呵を切ったものの、実戦がこれほどの物とは・・・・。そして敵であるヴァイパーの性能もさる事ながら、パイロットの腕も並ではない。
 「なら・・・レイカさんがくるまで、時間稼ぎぐらいさせて頂きますわ!!」
 迫り来るヴァイパー目掛けて、腰のウエポンラックから手投げ弾を放り投げる。直線加速は凄まじいが、小回りの効かないヴァイパーの進路上に向かって投げつけた。
 爆発と同時に、シャボン玉のような物がヴァイパーの進路を阻む。これはディアナ17の武装の一つ『シャボンランチャー』をグレネード化したものだ。
 突如進路上に現れたシャボン玉に突っ込むヴァイパー。グレネードだと思って加速したのがまずかった。VRにも似たような武装があるので、同じような物と考えてしまったらしい。
 爆発に巻き込まれ、動きが鈍るところへ右腕を振りかざす量産型ディアナ。
 「くらえっ!!」
 右腕に装備された弓形の武器から、光線が放たれた。これはディアナ17の『エンジェルアロー』を簡略化し、一種のビームガンとした物だ。
 量産型ディアナの武装は、レイカのディアナの武装を使いやすい武器化したものだ。これも量産化についてどんな人間でも使えるようにとの配慮だ。その分、オリジナルよりは威力の面で劣る事は明らかだが。
 バキッ!!──静の放ったビームがヴァイパーの正面機首の装甲に亀裂を走らせた。静はそれを見逃さなかった。
 やれる───相手の装甲は薄い!!静は次々とビームを放った。次々と突き刺さるビーム光。爆音と煙に覆われるヴァイパー。
 そして、次の瞬間、爆発音が聞こえた。そして自分まで飛び散ってくる破片。ピンク色に近い赤い破片・・・間違い無くヴァイパーの破片だ。
 「やった!!」
思わず歓声を上げる静。だが!!
 「な!?」
煙の中から、凄まじい勢いで何かが突っ込んできた。それはHDDディスプレイに酷似した頭部を持つ人型のロボット!右腕に輝く何かが見える・・・・ビームソード!!それぐらいの武器の類は静でもわかる。
ブウンッ!!──空を切る音が聞こえた。  危なかった・・・・とっさに間合いを広げなければ、胴体を両断されていた。静の額に冷たい物が流れる。
 「けど・・・どうして・・・倒したと思ったのに・・・」
 「天王院さん!貴方が破壊したのは、相手の外装だけよ!!」
レフィーナが叫んだ。なるほど・・・確かに相手のロボットには先程の戦闘機らしい面影が残っている。恐らくこの機体は飛行機型の外装を取り付ける事によって、航空機並の空戦能力を得る事ができるのだろう。
 どうやら相手は相当頭にきているらしい。手にしたビームソードをブンブン振り回している。
 「天王院さん!逃げて!人型になった事で接近戦が可能になってるわ!」
 「接近戦?上等ですわ。それに・・・」
 「それに?」
 静は肘を振り上げた。腕に装備されたビームブレードは、銃としてだけでなく、格闘に用いる事もできる。
 「この機体は、当初から格闘戦を想定して開発されてます!!」
両肘にビームブレードを輝かせ、静はヴァイパーに突っ込んでいった。
 静には勝算は無いに等しかったたが、格闘戦に持ち込む事で、それが見えてきた。
量産型ディアナは、ディアナ17同様、パイロットの動きをダイレクトにトレースする。すなわち人間同様の動きが可能となる。これは人型兵器にとって、格闘戦においてスピード・反応速度・臨機応変さにおいて有利となる。火器を利用した射撃戦と異なり、格闘戦はロボットの動作プログラムによって左右される事が多いからだ。
 レバーやペダルの操作の間接的な操縦に比べ、高い技術を必要しないだけ、静には向いていると言えよう。
現に、相手のビームソードの攻撃はほぼ偶然とは言え、回避はできた。
 「・・・確かに、強い相手に間違いですけど・・・」
肘のビームブレードを輝かせ、相手との距離を詰めようと疾走する量産型ディアナ。相手の機動力が高いとは言え追いつけないスピードではない。
 「力の届かない相手じゃない!!」
右のビームブレードを展開し、身構える・・・・フェンシングの構えを。
 ビームソードを振りかざし、突っ込んでくるヴァイパー。静は上体を落とし、全神経を集中する。
次の瞬間、二つの光の刃は交錯した。


 「・・・ウル。・・・・ラ・・ウル・・・・返事をしてください!ラウル!」
半壊したエクサランスのコクピットにラージの声が途切れ途切れに聞こえてきた。
 気を失っていたラウルは、この声で我に返った。
 「・・・う・・・ラージか?」
 「ラウル!気がついたんですね!大丈夫ですか!?」
 ラージの声にラウルは自分の身体には異常は無い事を伝えた。だがエクサランスは右足以外の四肢を失い、装甲もめちゃくちゃだ。
 「はは・・・ざまあねえや。あちこちやられて身動き取れねえ。」
 苦笑するしかないラウル。幸い頭部のアージェントファイターは無事だとの事だが・・・
 「今、脱出するのは危険です。それより、少しでいい!ガンナーは動けますか?」
 「這うぐらいなら・・・。けど、どうして?」
 ラージが言うには今の状況は、量産型ディアナとVR二機が戦っているが、とてもじゃないが量産型ディアナだけでは支えきれない。
 支援したくてもヒリュウ改の艦載機は出撃ハッチが損傷し、加えて攻撃による瓦礫で開かず出撃できない。
 「いいですか?今から座標を転送します。その場所までなんとか・・・。そこでストライカーフレームを射出します。」
 なんでもラージとミズホのいるハンガーに、PTや予備の武器を発射するカタパルトがあるというのだ。そこからエクサランスの陸戦フレームを撃ち出すというのだ。
 構造上と今の基地の状況から鑑みて、撃ち出す角度が限られるので這ってでも移動して欲しいとの事だ。
 「おい!ちょっと待て!陸戦用のストライカーじゃ、どうしようもないだろ!?」
 確かに、空戦用のフライヤーが使えないから、砲戦用ガンナーで出撃したのだ。ここで陸戦用のストライカーで戦っても・・・・
 「いえ、敵のVRの一機はディアナの攻撃で、空戦用の外装を失ったそうです。ですから・・・」
そこまで言えば後はラウルでも解った。その空戦装備を失ったVRは自分が相手をすればいいのだ。空戦装備さえ無ければストライカーでも勝機はある。
 「よし・・・この座標で、ガンナーを切り離せばいいんだな?」
 「ええ、そこでストライカーに空中換装します!その後・・・・」
ラージのプランをしっかりと頭に叩き込むラウル。
 「よし・・・いくぞ!」
 両腕を失い、片足も失ったエクサランス。右腕は二の腕から先が無いが、壊れた上腕を地面に叩きつけるようにうちつけ、無事な片足を器用に使いながら、地面を這う。
 その姿は決して御世辞にもかっこいいとは言えない姿であったが、ラウルは真剣だった。
とにかく今は、ラージが示した場所まで移動しなくては・・・


 「お姉様ぁ、さっきやっつけたロボットが動いてますけど、どうしましょう?」
デボラ中尉の支援に徹していたジェニファー中尉のヴァイパーから通信が入った。彼女の目には地面をはいずるエクサランスの姿が。
 「ほっとけ!今はコイツよ!!せっかくイイとこだったのに邪魔してくれてぇっ!   女にハジかかすなんてイイ度胸じゃない!!」
 「あちらも女性っぽいですけどぉ・・・」
 「アタシは、レズの趣味は無いのっ!お前は黙ってろ!」
 くすん・・・・と、目に涙を浮かべるジェニファー中尉。デボラ中尉が黙れと言うなら黙るしかない。けど彼女も一人の人間だ。こうまで言われてただ黙るのも面白くない。
彼女は、「お姉様の好きにしてください」とぷ〜とむくれて、そのまま空を旋回することにした。支援なんてしてやるもんか、弾が勿体無い。と言うわけだ。それに彼女のヴァイパーは戦術偵察がメインで、デボラ中尉のヴァイパーほど弾薬が詰まれていないのだ。

 そんな時だった。

 「なに?何が起きたの!?」
突如、ジェニファー中尉のコクピットに警報が鳴り響く。彼女はモニターを凝視すると、そこには彼女達『薔薇の三姉妹』に与えられた「本来の任務」の反応が出たからだ。
 「V=コンバーターの転移反応!?この波長は!!」
先程までの弱弱しいイメージを微塵も感じさせない口調でジェニファー中尉は計器を操作する。
 「転移反応増大・・・来る!どこから実体化する!?」
ヴァイパーのセンサーのフル稼動させ探る。もう彼女の頭にはデボラ中尉もヒリュウ改も消えている。何があろうとこちらが最優先事項だ。
 バチッ───
 基地施設内に散らばったアルブレードやゲシュペンストの残骸。その一つ・・・ゲシュペンストの頭部カメラから火花が散る・・・・
 そして、そのカメラからまるで映写機のように、一人の少女の姿が浮かび上がった。誰あろう、先程まで少年達の部屋で煎餅をむさぼっていたフェイ=エンそのものだ・・・・
 陽炎のように揺らぐ少女の姿が、徐々に巨大化していく・・・・それに呼応してか、少女の姿はロボットのような姿に変わっていく・・・・
 その姿は、今この基地に攻撃をかけているヴァイパーに良く似ていた・・・・そうVRだ。

 「じゃんじゃじゃ〜ん!!フェイちゃん只今参上〜♪」
少女の姿は完全に消え去り、その場にはピンク色の身長18mのVRが立っていた。そして、年の頃・・・14・5歳と言ったところの少女の声が基地内に響いた。


 「な・・・・・何あれ・・・・」
 ヒリュウ改のブリッジで、レフィーナは思わず口に出していた。今の状況にはあまりにも似つかわしくない登場だった。

 「な・・・敵の増援!?」
 静の反応は、もう少し冷静だった。フェイ=エンの姿が今時分が相手をしているヴァイパーに似ているところから、そう判断したのだ。
だが、その相手のヴァイパーは・・・・

 「お・・・オリジナル・・・フェイ=エン・・・コイツが・・・」
デボラ中尉は、先程までの激昂ぶりはどこへやら・・・・突如現れたフェイ=エンに完全に気を取られていた。話には聞いていたが、現物を見るのは初めてなのだ。
 そして相方のジェニファー中尉は、コクピット内でコンソールを叩きまくっていた。オリジナル・フェイ=エンの出現をRNA本隊へと連絡。そして出現に伴うデータの収集。それらが彼女の本来の仕事。
 「このV=コンバーター反応・・・虚数空間からの転移・・・間違いない!オリジナル・フェイ=エン!!」
 ジェニファー中尉の目はもうフェイ=エンしか見ていない。
 「お姉様!捕獲します!ご用意を!!」
ジェニファー中尉の声に、デボラ中尉は無言で頷いた。何だかんだ言っても、彼女もプロの軍人である。性癖に問題はあるものの、任務を忘れる事は無い。
 「了解!βフォーメーションでいく!電磁ネット、用意してる?」
 「準備OKです。」
二機のヴァイパーは、静のディアナを無視して、フェイ=エンに向かって疾走する!!


 「よし・・・なんだか知らないが、今がチャンスです!ラウルっ!!」
 二機のヴァイパーの注意がフェイ=エンに変ったのは、今のエクサランスにとっては幸運だった。この機に作戦が実行できる。
 「ラージ!ガンナーが射線上に来たわ!!」
ミズホが叫んだ。既にPT用カタパルトにはストライカーフレームが乗っている。今がチャンスだ。
 「ストライカー射出っ!!」
ラージがカタパルトの発射ボタンを叩いた。次の瞬間、カタパルトから凄まじい勢いでストライカーフレームが発射された。
 「ラウル!受け取って!!」

 「来た!!」
こちら目掛けてストライカーフレームが飛んでくる・・・。ラウルはすぐさま大破したガンナーフレームから頭部を切り離す。
 白い白煙を上げ、ガンナーフレームから飛び出すエクサランスの頭部。エクサランスは頭部自体がコクピット兼脱出装置なのだ。
 「タイミングはバッチリだ。流石ラージ!俺が女なら惚れてるぜ!」
 冗談混じりに顔を緩めるラウル。射出した頭部に絶妙のタイミングでストライカーフレームが突っ込んでくる。
そして、頭部とストライカーフレームが空中で重なった。次の瞬間には、右腕に強固なクローアームを装備した赤いロボットが存在していた。
 エクサランス陸戦形態「エクサランス・ストライカー」だ。
 「クラッシャーアームッ!!」
エクサランスは、その巨大な右腕を突き出し、突進した。

 
 「うん・・・チッ、あの不能・・・またあがこうっての?」
クラッシャーアームを突き出したエクサランスがヴァイパー目掛けて突っ込んでくる。直線的加速力は対した物だが、あの巨体と右腕では小回りは聞かない事は明白だ。ヴァイパーにはたやすく回避できる。
本来の任務の邪魔をするうるさい虫でしかない。
 回避した後、後ろからビームを撃ちこめば・・・と、デボラ中尉は考えていた。そんな彼女の思惑は露知らず、エクサランスは突っ込んでくる。
 「うるさいわねぇ・・・不能は用は無いってぇ・・・・何度言えば・・・」
デボラ中尉は、突っ込んでくるエクサランスを紙一重で回避できるように身構えた。今はコイツに構っているヒマは無い。今の目標はあくまでもフェイ=エンだ。
 だが・・・・
 凄まじい勢いで突っ込んできたエクサランスは、ヴァイパーの前を素通りした。ヴァイパーが回避したわけではない。まるではじめからヴァイパーには眼中に無いように・・・
 「どこ狙ってンの?バカぁ?」
 素通りしたエクサランスを無視して、ジェニファー中尉のヴァイパーとフォーメーションを組みなおす。だがエクサランスのねらいは別にあった。

 「狙ったのは、お前らじゃねえ・・・・ココだああああっ!!」
エクサランスのクラッシャーアームの先端が、摩擦熱によって赤熱化した。
 「ギガントアームッ!!」
 彼が狙ったのは、デボラ中尉のヴァイパーでもジェニファー中尉でもない。彼の目の前にはヒリュウ改の横腹があった。

 「!?  まさか!不能が狙ったのは!?」
デボラ中尉は、今になってエクサランスの本当のねらいに気が付いた。だがもう遅い。
エクサランスのアームが、ヒリュウ改の横腹に炸裂した!その威力はヒリュウ改のPTハッチを塞いでいる瓦礫を吹き飛ばすには十分過ぎた。


 「VRのパイロット。ランチェスターの法則はご存知?」
レフィーナがマイクを取って勝ち誇ったように言った。そこには先程までの弱気な顔を見られない。勝利を確信した者の顔があった。
 「兵法に例えても良いわね。」
 量産型ディアナから静の声がした。必死さが抜け、どこか余裕が現れた声だ。
 レフィーナと静の豹変さを表す証拠。それは土煙が立つヒリュウ改の横腹から現れた。
ギギギ・・・・・と重い響きを上げ、歪んだヒリュウ改のハッチを力づくでこじ開ける巨大な腕・・・・
 「ランチェスターの法則なら、敵が2なら、こちらは4で戦うべき・・・」
レフィーナがそう言うと同時に、歪んだハッチが開き、そこから赤い巨体が姿を現す・・・・
 「兵法で言うなら、3倍の6ですわね・・・・」
ズシン・・・・と、地響きを上げ、70mを越す巨体が日の光にさらされた・・・・
 
 
 「コ!コイツは!!」
 デボラ中尉が驚嘆した。彼女の目に、TDF初期に開発され、『最強の盾』と称された鉄壁の守りと轟力を誇るスーパーロボット、『ジガンスクード』の姿があった。
 この機体こそが、ヒリュウ改がTDF極東基地に運ばれた最大の理由だ。ヒリュウ改とジガンスクードを持って宇宙に上がり、戦力の激減したソラリスを討つ事が、彼らの本来の任務なのだ。

 「形勢だいぎゃくて〜ん!」
屈強なジガンスクードから陽気な声が響いた。年の頃は十代後半と言ったところ。
 「さあさあ、そこのVRの御姉さんがた、痛い目にあいたくなかったら、とっとこ帰れよな〜。」
 ジガンスクードが両腕の巨大なシールドをガチガチ合わせて、前へと歩み寄る。
 「強気ね。まあ・・・解るけど。」
女性の声で苦笑しつつ現れたのは、濃い紫色で塗装されたPT、ビルトシュバイン。パイロットはSRXチームのライの従姉妹であるレオナだ。今は亡きイングラム=プリスケンより譲られた機体である。
 「さて・・・・」
ガシャンッ──と、ビルドシュバインは手にしたライアットガンのバレルをスライドさせると、その銃口を二機のヴァイパーに向けた。
 「投降するなら今のうちですわ。」

 
 「誰が投降なぞ・・・・」
 デボラ中尉がそう言いかけたが、ジガンの後ろから次々にPTが現れる。ブリッドの搭乗するヒュッケバインMK−U・・・・カチーナ中尉たちのヒリュウ改に艦載されているゲシュペンスト部隊が姿を現す。
機動力では、どの機体をも圧倒するヴァイパーと言えど、70mを越すジガンスクードを越すジガンスクードに対して有効打を与えられるかどうか不安が過る。
 それに先程の戦闘で爆装を殆ど使いきってしまっている。この数のPTを相手にするには武器が無い。

 ジリ・・・・PT部隊&ジガンスクード&量産型ディアナ&エクサランスの複合部隊が一歩前に出れば、デボラ中尉のヴァイパーが一歩下がる。
 完全に向こうのペースだ。


 「ねえ・・・・みんなどうして戦う事しか考えないの?」

 緊迫する戦場の中に、そんな声が響いた。

 「どうして傷つけ合う事しかしないの?世の中には他に沢山楽しい事があるのに、どうしてみんな戦う事しかしないの?」

 その場にいる皆が辺りを見渡す。この声はどこから発せられているのかと。無邪気さが残る少女の声で。
そして、その声の元に、ようやく気が付いた。
 それは、一機のピンク色のVRから発せられた事と言う事に・・・・

 「もしかして・・・・貴方がしゃべったの!?」
 静が震える手でピンク色のVRを指差した。
 「そうよ。人を指差さないでよね、失礼しちゃう!プンプン!」

 その瞬間、その場のあちこちから、悲鳴に似た声が響いた。
 「ば!VRがしゃべったぁ〜〜!!」
 「ロボットが話してる〜!!」
 「嘘だ!そんなバカな事が!!」

 と、そんな声が響き渡る中で、ピンク色のVR・・・・フェイ=エンは彼らの中央へ陣取るようにジャンプした。
 「戦いなんてつまらない事やめようよ!アタシの歌を聴いてぇ〜♪」
 次の瞬間、フェイ=エンの身体が金色に輝いた。
そして、彼女・・・フェイ=エンの胸部装甲がまばゆいピンク色の輝きを放った。美しく幻想的な光景だった。静はおろかデボラ中尉のヴァイパーまで見とれているような・・・そんな雰囲気が辺りを支配した。

 そして・・・・彼女が歌い出した。金とピンクの輝きをまとい・・・・・
歌自体は、なにやらアニソンのような歌だったが、静の胸になにか・・・感情が込み上げてくる感じがした。
いや・・・静だけではない。その場にいた全員が戦いを忘れ、彼女の歌に聞き入っていた。
 ガシャン───デボラ中尉のヴァイパーの手から銃が落ちた。そればかりか、まるでVRがフェイ=エンに見とれて惚けているようにぼ〜と、突っ立っているのだ。
 それはヴァイパーだけではない。レオナのビルドシュバインも、エクサランスも、ジガンも。あまつさえ、強きで飛ばすカチーナ中尉ですら、ただただ彼女の歌に聞き入って惚けたように頬を赤らめているのだ。
 今の状態を、現代風に表現するならば、その場にいる人間&ロボット達が『萌え萌え〜』としているのだ。


 やがて、歌は終わった。
 彼らの目の前から、フェイ=エンは何時の間にか姿を消していた。その場にいた全員の心に『萌え』っとした印象を残して・・・・
 
 その場にいたロボット全てが、戦闘意欲を失っていた。まるでロボット自体がフェイ=エンの歌に感銘したように・・・
 すると、デボラ中尉のヴァイパーがふらふらと空に浮かび上がった。遼機であるジェニファー中尉のヴァイパーもである。
 そして2機のヴァイパーは、目線の定まらないような印象で、南の方へと飛び去ってしまった。


 「間に合って!!」
レイカとジンは祈るような思いで極東基地へ飛んでいた。
 「レーダーに反応!?」
二人の目の前に、二機のVRが飛んできた。レイカはとっさに身構えたが、ジンが制した。
 「待て!様子がおかしい!」
 ジンの言うとおりだった。やがて二機のヴァイパーは、目の前のディアナとブロディアなど眼中に無いように、二人の前を素通りして飛び去っていった。
 「一体何が・・・・・」
やがて極東基地に到着したレイカとジンが見たのは、まるで戦闘意欲を失い惚けているロボット達と損傷したヒリュウ改であった。

 「一体・・・何が起きたの?」
 レイカは、近くにいた赤い色のゲシュペンストを揺さぶってみた。カチーナ中尉のゲシュペンストだ。
 「何が、何が起きたんですか!!」
ゲシュペンストを揺さぶったが、パイロットであるカチーナは惚けていて口を開こうとはしなかった。
 レイカは、一番心配した静の元へと駆け寄った。量産型ディアナの外見には大きな損傷は無かった。だが案の定、コクピット内で静はカチーナ中尉同様、惚けていた。
 「先輩!天王院先輩!大丈夫ですか!しっかりしてください!」
 レイカの声が聞こえたのか、静は小さく口を開き、呟くようにいった。
 「・・・・・ダメなんです。」
 「え!?」
 
「・・・・あの歌を聴くと・・・みんなメロメロになってしまうんです。」




 旧中東地区・・・・黒海沿岸に、巨大な戦艦が停泊していた。海上にその巨体を浮かべているものの、戦闘時には浮上し、空中を行く宇宙戦艦である。
 この艦は、TDFが誇る対異星人戦闘用に開発されたスペースノア級万能戦闘母艦の二番艦。
 TDFは、この艦を『ハガネ』と呼んだ。
そして、ここ黒海にはハガネを旗艦としてTDF戦闘艦や輸送機が集結を急いでいるところであった。

 TDFは、開戦初期に失った戦力を徐々ににではあるが再建を果たしつつあったのだ。勿論地球連邦政府が瓦解した今となっては、その戦力が復活したとしても、全盛期の五分の一にも満たない戦力でもあってもだ。
 この戦力回復は、度重なる異星勢力の侵攻や、ソラリスといった人種差別を奨励するような非人道的勢力のやり口に、ようやく各国や企業体が重い腰を上げ、本気で地球防衛に目を向けたからだ。
 その背景にはオンディーヌ隊の活躍や、天宮財閥や香坂財閥の協力があればこそではある。

 そのハガネの艦長室には二人の男がいた。白く使いこんだ軍服に身を包んだ白髪で初老の大男がいた。艦長の『ダイテツ=ミナセ』である。
 彼は歴戦の勇士で決断力にも長けた優秀な軍人であった。がっちりとした体格だが、還暦に近づいたので流石に体力の衰えを感じるが、いまだに立派に前線で戦える。
 そしてもう一人は副長の『テツヤ=オノデラ』大尉だ。若干29歳で、経験不足ながらも優秀な男だ。
ダイテツ艦長は今しがた極東基地から転送されてきた報告書を読んで、笑みを浮かべていた。
 「ほほう。謎の美少女VRとな。一曲歌ってVR二機を退けたそうだ。」
 「はあ・・・・」
 「とにかくだ。極東基地は無事。ヒリュウ改も修理可能だ・・・・作戦に支障は無い。こちらは、オンディーヌ隊の到着と、彼からの報告を待つだけだ。」
 そう言ってパイプタバコを口にくわえるダイテツ艦長。
 「オンディーヌ隊は、無事合流できるようで良かったです。DN社の新型・・・・第2世代型は強敵だったそうで。」
テツヤはそう言った。彼の手には先程とは別の報告書があった。
 先遣隊として派遣していた新型PTを中心とする、ラミア=ラヴレス中尉の部隊の救出に向かったオンディーヌ隊は、苦闘の末にDN社の新部隊・・・RNAと言う連中を何とか退ける事は出来たらしい。
報告書には、極東基地を襲ったヴァイパーと良く似た機体の事も記してあった。
 そして、現在こちらにラミア中尉の部隊と共に合流を急いでいると言う。

 何故ならば、TDFは地上における大反抗作戦を展開しようとしていたからだ

 ここ黒海周辺は、『教会』と呼ばれる勢力が幅を利かせている地域であった。彼らは基本的には中立を宣言している物の、その背景には黒い物がうごめていた。
 そして、教会は背後でキスレブや地元ゲリラに武器を供給し、戦乱を長引かせたり、この地区で発掘されるギアの採掘権を牛耳っていた。
 TDF諜報部は、長い時間をかけ教会を調査していた。そして教会そのものがソラリスの末端組織であるという確証を掴んだのである。
 宇宙最大の勢力であったソラリス。旧アメリカ大陸の半分を支配下に置くアヴェも実質上はソラリスの支配下にあるといっても良い。
 そしてアヴェと敵対しているキスレブにも武器を供給し戦乱を長引かせ、かつ地球に済む人達を無作為に拉致していると言う。
 女子供問わず、強引に拉致。加えていたずらに戦火を広げているそのやり口は当然許せる筈も無い。
そして、中立を宣言している教会が、ソラリスの一波であると言う事は、地球の半数近くがソラリスに制圧されていると言っても良いだろう。
 だが、DN社の侵攻によりソラリスは宇宙における戦力の七割を失った。DN社が虎視眈々とチャンスを狙っていたのだ。
 宇宙における支配力を弱められたソラリスが生き残る為には、地上の支配力強化が必然である。だがそれを黙って見逃すTDFではない。
 オンディーヌ隊によるアヴェ開放こそ失敗に終わったものの、教会がソラリスと関わりがあると解れば、地上における勢力を一気に塗り替える事が出来る。
 そうすれば地上に残されたソラリスの戦力はアヴェに残された分だけだ。そうなれば当面の相手はDN社とゴルディバス軍だけとなる。

 「9割がた確証は得ているんだ。ソラリスと教会が繋がっていると言う確かな証拠さえ得られれば、すぐにでも作戦を実行する。」
 ダイテツ艦長はそう言い、席を離れ窓の外を見た。そこからは輸送機から降ろされる多くのPTやVA、そして数こそ少ない物の、デイトナグリーンとモスグリーンの2色で塗り分けられたディクセンが・・・
 「オンディーヌ隊にアレを送る予定だ。」
 「アレは・・・ディクセンですか?」
 「そうだ。先行量産・・・・量産型ディクセンの初期ロットだ。彼らなら使いこなせるだろう。」
そう言って静かに窓の外を眺めるダイテツ艦長。
 「しかし・・・・ソラリスと教会の確証を掴むと言っても、誰が潜入しているんですか?」
テツヤ大尉の言葉にダイテツはニヤリと笑みを浮かべた。
 「優秀な男だ。トロンベの名を持つな・・・・」



 その確証は最悪の形で実証できた。

ハワイ近海で、ソラリスのエリート部隊ゲブラーと戦闘状態に陥ったオンディーヌ隊。そしてその戦闘によりフェイは負傷、ヴェルトール小破と言う自体に陥った。
 直ちにユグドラシルならびにTDFハワイ基地にて処置が行われたが、フェイの傷は思ったよりも深く、油断のならない状態であった。
 そんな状況を救ってくれた人物がいた。
 名前は「ビリー・リー・ブラック」。少女のような面持ちの美少年で、教会に属する神父でありながら悪霊退治を生業とするガンマンでもあった。
 彼の口利きで、教会の医療物資を分けてもらった御陰で、フェイの身体は安心して全快へと向かっていた。
そして、ハワイ近海に悪霊が出没すると言うので御礼代わりにバルト達ユグドラのクルーが協力したのだ。
 だが身の危機を感じた悪霊達は巨大合体し、ビリー達に襲い掛かってきた。
そんな彼らを、黒いPT・・・・ヒュッケバインMK−Vが救ってくれた。圧倒的強さで合体悪霊を打ち倒すヒュッケバイン。それに乗っていたのは「レーツェル=ファインシュメッカー」と名乗るTDFの軍人だった。

 そして、仕事の完了を報告に、教会の本部へ赴いたビリーとレーツェル、そしてユグドラのクルー達が見たのは、無残に殺害されたビリーの同僚達であった。
 そして教会の本部地下で、ビリー達はとんでもない物を見つけてしまった。普段は封印されていた筈の地下には、とてつもない近代テクノロジーで埋め尽くされた科学設備があったのだ。
 ユグドラのクルーに加わっていたエリィは一目で気づいた。これらはソラリスの機械だと・・・・
調べて見ると、恐るべき実態が明らかになった。
 それはソラリス語で書かれた暗号文。エリィが解読すると、「教会」はソラリスの元老会議ガゼルが管理する、ソラリスの下部組織だったのだ!
 数年前、連邦政府崩壊による大戦があった。終戦後、ソラリスは地球の人間が侵攻して来るのを危惧し、その監視の為の組織として「教会」を作った。その「教会」をさらに管理するのが、「ガゼルの法院」と呼ばれるソラリスの最高統治機関。
 そして彼らが遺跡を独占し、発掘されたものも、人も、多くがソラリスに運ばれていたのだ・・・。拉致された人々とは、「教会」に救済を求めてやってきた人々だったのだ!
 その事実にビリーは大きなショックを受けた。冷静なのはレーツェルだけだ。何故ならレーツェルの目的こそソラリスと教会の結びつきを調べる事だったからだ。

 だが、一体だれが「教会」の人々を殺したのだ?・・・と、シタンが「第44次サルベージ計画」というデータを発見する。それは、数年前にはじまったこの計画だけが、ソラリスとリンクしていない唯一のものだった。ところで「第44次サルベージ計画」とは。4000年前に海底に沈んだ都市文明ゼボイムの発掘調査。出てきたのは生物兵器や反応兵器・・・。要するに「教会」はソラリスから離反して世界を支配したかったのだ。そしてそれを知ったソラリスが「教会」を襲撃したのだろう。それに、百回を超える試掘によって「教会」はやっとその都市区画の中枢部の存在を確信したらしい。そして中枢部の発掘は目前。
 かわいそうなのはビリーだ。「今まで、僕の信じてきたものは一体なんだったんだ?」と・・・・

 だが、そこへ一人の男が駆けつける。顔に大きな傷跡を残す屈強な男。男の名はジェシー。ビリーの実の父親で、数年間失踪していたのだ。
 そこでビリーにとってショッキングなことを教えます。同僚の一部がソラリスの工作員で、なんと、あの司教の配下だというのです!ジェシーは、司教が「教会」の人間すべてを消去するって情報を聞いてすっとんできたのだ。
 ウソだ!と言うビリーに、前もってある程度確証を得ていたレーツェルはその通りだ、と告げる。堕落した聖職者と罪人を断罪して悔い改めさせるのが使命らしい。
 真犯人であり諸悪の根源でもある司教を追って、ビリー達は発掘現場へ!
だが、一足遅く、司教とそれに合流したソラリスの親衛隊エレメンツによって、発掘兵器を持ち去られてしまった。
 なんとか奪い返そうと後を追うビリー達に、司教が巨大ギアで襲い掛かってきた。
 精神エネルギー変換システムの試作タイプを内蔵する、司教の巨大ギアはいわゆる『負の感情』によってバリアーに身を包んでおり、ビリーのギア「レンマーツォ」のバルカン砲も、ヒュッケバインのフォトンライフルもまるで通じなかった。
 だがそこへ!
 「ビリーコイツを使えっ!!」
一体の小型の人型ギアが飛来した。それはビリーの父、ジェシーが搭乗するギア『バントライン』。
それは変形し、ギア用の銃に変形する機能を有した機体だったのだ。
 だがそれはパイロットが直接弾頭に乗る・・・これならストーンの憎悪の負の感情パワーに勝てるかも・・・。でも、それは非常に危険なことでもある。何故ならジェサイアが直接そのパワーに触れることになるから。それでも、ジェサイアは、自分のギアとビリーのギアの合体攻撃なら障壁を突き破れる、と。
 「そんな・・・撃てない。撃てないよ!!」
と嘆くビリー。だが!
 「捏造された信仰なんてものは、もろい人の心を補償するためにできたシステムに過ぎない・・・。そして、本当の神や信仰は他人から与えられるものではなく自分の中に見出すものだ。」
 その言葉がビリーの胸に突き刺さる。そしてそれに呼応するように黒いヒュッケバインが話し掛けた。
 「ビリー君。『語らざるもの、表現されえざるもの、それが神じゃないのか?"神は応えないもの"なんだ』」
 「そうだ。「教会」の教えが作り物だったとしても、お前が真剣に人を助けようとした信仰心はまやかしではない。神はすでに、おまえ自身の中にいる・・・。」
 ビリーの心は決まった。
 
「うわああああ!!父さあああああんっ!!」
涙と絶叫を上げながら、ビリーは引き金をひき、その弾頭は悪しき巨大ギアを貫いた。

 戦いが終わり、発掘兵器はソラリスに奪われたものの、母親と同僚達の仇を討ったビリーは、海原に浮かぶユグドラシルの甲板上に立っていた。
 そして・・・・ガーンガーン・・・と、慰霊の空砲を海に向かって放っていた。
 「・・・・・父さん・・・・」

 「いや〜死ぬかと思ったよ!」
ひょっこり出てくるビリーの親父。
 そしてその場にいたビリーとレーツェル除く全員がこう言ったと言う。
 
「死ねよ!!」




 次回予告

  トロンベ兄さんの情報により、大反抗作戦がはじまる!オンディーヌ隊はTDF本隊と合流だ。いざ!総力戦!
だが!そこに待っていたのはソラリスだけではなかった!この機を狙いRNAが!宇宙悪魔帝国が!
 三つ巴ならぬ四つ巴の戦いが始まろうとしていた。大乱戦必死!
 そして、宇宙悪魔帝国のエース『黒い三羽ガラス』がオンディーヌ隊を襲う!!

 次回、サイバーロボット大戦 第三十四話「大乱戦 迫撃!トリプル・ドムーン!」
 次回も三位一体がすげえぜ!  「ああ!?俺を踏み台にしようとした?」



戻る