第三十二話 「出撃!量産型ディアナ17!」
「フェイちゃん、お茶入ったよ〜」
狭く小汚い部屋の中に3人の少年少女がいた。
一人は寝そべり煎餅をむさぼりながらTVを見ている少女。年は14〜15歳ぐらいだろうか。二つに分けた髪型が可愛らしい色白の美少女と言っても通用する容姿だ。
その少女に湯呑みに入った日本茶を差し出しているのは、さえない感じのする男子高校生だ。そしてもう一人はパソコンのモニターに食い入る様に見入っていた。見れば手元は二本のレバーが付いたゲーム用の操縦桿を操作していた。部屋のあちこちにはゲーム関連の雑誌やゲームパッドやソフトなどが散らばっていた。
傍目から見れば、ゲームマニアらしき高校生の部屋に友達が上がりこんで好きにしていると言った感じだ。
「ん〜、ありがと〜ノブ。」
フェイと呼ばれた少女は湯呑みを受け取けとった。
「ああ・・・今更通信対戦のバーチャロンとはね。」
フェイはそう言ってもう一人の少年の方を向いた。目線の先には少年が、「うおおお!」とか「だあああ!」とか言いながらゲームに白熱していた。
「タクって、よく飽きないわよねえ・・・」
「こいつ!さっきから飛んでばっか!!」
タクと呼ばれた少年は、対戦相手の戦い方に不満なのか、愚痴を漏らしていた。
「フェイ=エンだからねえ・・・・」
ノブの言葉にフェイは苦笑した。
「レプリカだからね・・・・あ、やられてる。」
フェイは最初の「レプリカ」と言う言葉をやたら強調して言った。そうこう言っている間にタクが操るゲームのVRは爆炎を上げて各座した。
「だぁぁぁ!!」
やられたのが不満なのか、頭をかきむしるタク。その様子にノブが苦笑する。
「師匠、再チャレンジします?」
ノブがタクの事を師匠と呼んだ。二人は同い年で友人同士だが、ゲームが不得手なノブはタクからゲームの修練を受けていたのでこう呼んでいた。
「もういい!さっきから対戦者コイツばっかなんだから!」
不満げに声をあげるタク。
「最近は対戦者探すのも一苦労よね〜」
フェイの言葉にノブが頷いた。
「バーチャロンより、バーニングPTの方がこの辺(極東)じゃあ人気高いからねぇ。」
そんな時、外のほうから軽い地響きのようなものが伝わってきた。距離が十二分に離れているせいか、気にするほどの事ではない。
「演習かな?」
ノブが平然と言った。空襲警報は発令されていないし、サイレンの音も聞こえていない。
「極東基地でしょ〜?あの旧型ばっかの。良くやるわよねぇ〜。」
フェイがそう言って何枚目かの煎餅に噛み付いた。振動より、若干TVの画面が乱れた事の方に不満を漏らすような口調だ。
「旧型?そうだよね、フェイちゃんに比べたらPTって旧型だよね。」
ノブが笑みを浮かべる。その言葉にフェイは「そりゃそうよ」と答え、TVの歌番組に見入っていた。
TVでは『一条久美子』と名乗るアイドル歌手が、GEOが開発したレスキュー用巨大ロボ、<ディダクティ3号機>の上で歌っているところであった。
「久美子ちゃんかぁ〜、GEOっていい歌手持ってるよね〜。」
ノブがTVに目をやり声を漏らした。その言葉にフェイが「あたしの方が上手いわよ。」と、言いのけた。
言うだけのことはある、フェイはかなり歌が上手いのだ。プロでも通用するだろうと、ノブは思っていた。
「最近、ユナちゃん見ないし。今はやっぱGEOだろ。」
タクも同意する。フェイは面白くないのかチャンネルを変えてしまった。TVには変わって大手重工が開発した、自立型家政婦ロボットのCMが流れており、人工衛星とリンクした多機能型で茶色の髪をした美少女型と、廉価量産性を追及した緑色の髪の女子中〜小学生ぐらいのロボットが広告されていた。
それを見てタクが一言。
「最近、こう言うメイド型多いよな。高性能そうだしよ。」
その言葉にフェイはまたもやムスっとする。
「あたしの方が凄いわよ。情報だって、あたしの方がダイレクトに持ってこれるでしょ。『フェイちゃんニュース』って。」
そう言ってからまたもチャンネルを変える。TVには自動車メーカーが開発した新型消防車がどうとか・・と、自動車関連のニュースを伝えていた。
「赤い車っていいわよね・・・」
フェイは何気なくそう呟いた。
TDF極東基地の広大な敷地内に、巨大な赤い物体があった。
鋭く伸びた艦首、巨大な5枚の主翼・・・・その全長は500m以上と言う巨大な赤い戦艦がそこにあったのだ。
その赤い戦艦を眺めながら基地職員の何人かが話し合っていた。
「まさか、この基地に『ヒリュウ改』が来るとはよぉ・・」
「これで、この基地の守りは大丈夫だよな?」
「ば〜か。宇宙の奴らが増援求めてるから、ヴィレッタ少佐達の部隊を宇宙に上げる為に来たんだよ。」
「あれ?じゃあ、あの実験機のは?」
「ああ・・・エクサランスって奴か?あれは関係ねえよ、こないだと一緒、ただの売りこみ。」
等と、職員達は雑談を交わしていた。
<ヒリュウ改>───それは、人類初の外宇宙探査航行艦『ヒリュウ』を改造した戦艦だ。
宇宙開発公社とマオ=インダストリーで建造されたこの艦は、テスト航海中、地球外知的生命体の攻撃を受けて中破。そこで対異星人戦闘用の戦艦として大改修を受けた。
そして幾多の戦いを潜り抜け、殆ど戦力を失ったTDFが保有する貴重な戦闘艦として現在に至っている。
TDF宇宙軍が壊滅した際、偶然にもアステロイドベルト基地でオーバーホール中であった事が幸いしてか、ゴルディバス軍や宇宙悪魔帝国、ソラリスと言った敵対勢力からかろうじて守る事ができた。
そして、戦力回復に伴い極秘裏に北京基地に移送されていたのだが、DN社の進撃によってソラリスが大打撃を受けた今、宇宙での勢力図を塗り替えるために、貴重なヒリュウ改を投入する事にしたのだ。
ヒリュウ改とその艦載機であるスーパーロボット『ジガンスクード』を持って、ソラリスを打倒する事が、オンディーヌ隊に新たに与えられた任務であった。
「近々、アジアのほうでも大反抗作戦を予定してるって話だぜ。」
「ああ・・・知ってる。それの尖兵となる予定だったのが、ナンブ大尉の部隊だろ?今、ヴィレッタ少佐達が救援に行ってるらしいな、大丈夫かよ?」
「シロガネは壊れちまったし、クロガネを旗艦にする予定らしいぜ。」
「へえ〜」
そんな雑談も、激しい轟音に中止せざるを得なくなった。
職員達が轟音の正体を探ろうと音のした方向へ向くと、そこには赤い色の一機のロボットが2機のゲシュペンストと戦っていた。
「ホラ・・・・あれが例の実験機。」
「意外と強いじゃねえか。こりゃ採用されるかもな。」
赤いロボットは、職員達が驚くほどの運動性を見せ、2対1というハンディがありながらも、緑と赤色のゲシュペンストを圧倒していた。
「すまないな、レフィーナ中佐。せっかく来てもらったと言うのに肝心のオンディーヌ隊が不在で。」
山本指令は自分の娘ほど歳の離れた女性に軽く頭を下げた。
「仕方ありませんわ。DN社の新型・・・・予想以上だというんですから・・・」
白い軍帽を被った女性・・・・と言うか少女に近い容姿を彼女はかもし出している。
彼女は、『レフィーナ=エンフィールド』。階級は中佐で、若干19歳でヒリュウ改の艦長に抜擢された逸材である。
歳こそ若いが、艦のクルーから絶大な信頼を受けている。
「現在、我々TDFは、大規模な反抗作戦を予定している。ソラリスの勢力が衰えた今、これを気に一気にソラリスを殲滅する。さらに地上でもクロガネとハガネを持ってして極東方面奪還作戦を準備している。」
山本長官はレフィーナに向かって静かに・・・かつ熱く語っている。レフィーナも真剣な眼差しで聞いている。
「この広大なユーラシア大陸。ここを侵攻してきたDN社やソラリスから奪還し、地上でのミリタリーバランスを一変させる。」
世界地図をしめしながら語る山本長官。
「この辺りは『教会』のテリトリーですよね。ソラリスと繋がりがあると噂されている・・・」
レフィーナが言うと山本長官は頷いた。
「そうだ。現在、諜報部で裏打ちを急いでいる。ソラリスと繋がりがあると解り次第、DN社ともども殲滅する。イグニス方面は後回しにしても、ソラリスの戦力を大きく削れる・・・」
「そこに、我々ヒリュウ改が、オンディーヌ隊とミラージュ艦隊、そしてジガンスクードで・・・ソラリス本土を・・・ですね。」
「そうだ。これが成功すれば当面の敵はDN社とゴルディバス軍に限定できる。」
山本長官とレフィーナはそのまま世界地図を黙って見ていた。だがその静寂を振動と轟音が打ち消した。
山本長官が窓から外を見て、苦笑した。
「対したものだ・・・。これはヴィレッタ少佐が戻ってき次第、仮採用決定だな・・・。」
そう言って机から書類の束を取り出して、何やら書きこみ始めた。
「それが、契約書ですか?」
「ああ・・・そうだ。こんなご時世だ。少しでも戦力になりそうな機体はいくらでも欲しい・・・」
そう言って、書類に何やら書いている山本長官から視線を外してレフィーナは再び窓の外を見た。赤く塗装されたゲシュペンストが再び赤い機体に挑みかかっていく・・・・
「カチーナ中尉があそこまでやられるなんて、模擬戦とは言え凄い機体・・・」
そこで山本長官が書いている書類をちらっと見るレフィーナ。
「あれが、エクサランス・・・・」
レフィーナが赤い機体を見て呟いた。そして部屋の片隅に視線を移した。そこには山本長官のほかにももう一人、人間がいた。
「いかがですか?レイカさん、エクサランスは?」
そう、その人物はヴィレッタと並んで、オンディーヌ隊の中心的人物である天宮レイカがソファーに腰掛け静かに外を眺めていた。
レイカはいつものパイロットスーツではなく、薄紫色の女学校の制服を着ていた。
「そうですね・・・。あの汎用性は十二分に売り物になります。」
レイカはそう言って席を立った。
「山本長官、では私はこれで・・・」
「ああ、すまなかったね。例の件だが、私からジン君に伝えておこう。」
「お願いします。」
レイカは山本に軽く頭を下げると部屋を出ていった。
「長官、例の件とは?」
レフィーナが聞いてくると、山本は書類の手を止め「機密ゆえ話せない。」と答えた。ただ、「ジン=サオトメ君の力が必要になることだ。」とだけ教え、また書類にペンを走らせた。
「どちくしょ〜!やっぱコイツ(ゲシュペンストmk−U)じゃ限界かよ!」
ヒリュウ改所属のPTパイロット、『カチーナ=タラスク』中尉は声をあげてヘルメットを床に叩きつけた。先程のエクサランスとの模擬戦で赤いゲシュペンストに乗っていた女性パイロットだ。
「中尉、実験機の評価試験ですよ。そんなに気にすることは・・・」
緑色のゲシュペンストに乗っていたラッセル曹長がなだめるが、まったくもって聞いていない。
カチーナ中尉の腕前は決して悪くは無い。そればかりかエースと言ってもいい腕だ。だが、エクサランスの性能はカチーナのゲシュペンストを圧倒していた。
模擬戦の最後、起死回生のプラズマ兵器ジェットマグナムを放ったカチーナだが、エクサランスの強固な右腕『クラッシャーアーム』の前には意味をなさなかった。
「おい!もう一回だ!ブルックリン!お前のヒュッケバイン貸せ!」
カチーナ中尉は近くにいた金髪の少年・・・同じヒリュウ改のブルックリン=ラックフィールドに声をかけた。彼の愛機はヒュッケバインMK−Uでゲシュペンストより明らかに高性能だ。
「む!無理ですよ中尉。俺のMK−UはT−LINKシステム装備型ですから・・・。あっ!ゼンガー隊長の見舞いに行ってきます!」
そう言って、その場を逃げるように駆け出したブルックリン。彼は過去『ATXチーム』という部隊に所属しており、ゼンガーの部下だったのだ。
「くそ・・・、レオナ!タスク!お前達の・・・」
カチーナは別のパイロット達に視線を移した。そこには金髪の女性とバンダナを巻いた少年がいた。金髪の女性はレオナ=ガーシュタイン。階級は少尉。SRXチームのライの従姉妹で、『PTX−005ビルドシュバイン』のパイロットだ。
もう一人はタスク=シングウジ。元整備兵で階級は伍長。そして彼こそスーパーロボット『ジガンスクード』のパイロットである。
「残念ですが、私のビルドシュバインは整備中で。」
レオナはそう言って、さらりとかわしてしまった。ビルドシュバイン・・・・ゲシュペンストとヒュッケバインの中間に値するPTで、R−GUNが建造されるまでイングラム=プリスケンの愛機だった機体だ。レオナはそれを譲り受けて使用していた。
「タスクぅ〜。」
カチーナがタスクを睨んだ。全長70.3m重量451.9tを誇るジガンスクード。操縦系はPTと同一規格に改装されている為、PTパイロットなら搭乗可能なのをカチーナは知っていた。
「あ、ああ・・・・。あ!そうだジガン、テスラドライブのメンテが済んでないんですよ!いや〜残念だったなぁ〜」
と、上手く逃げた。
「くそっ!」
面白くないカチーナ。彼女は試作PTのテストパイロットを熱望しており、少しでも強力な機体に憧れているのだ。以前、レフィーナにRTX−009ヒュッケバインMK−Tの搭乗を希望したが、「丁寧に」断られた過去があった。
そればかりか、次期主力候補とされているアースゲイン・スイームルグ・ソルデファー・スヴァンヒルドの4タイプのテストパイロットにも選ばれなかった。
「あたしにも新型さえあれば・・・・」
そう呟いて、離れた場所で整備を受けているエクサランスを見つめた。
「やりましたよラウル!ミズホ!仮採用決定です!」
整備を受けているエクサランスの元に眼鏡をかけた青年が息を荒げて駆け込んで来た。彼はラージ=モントーヤ。このエクサランスのエンジン開発/研究担当だ。典型的な科学者タイプの青年で、エネルギーマニアでもある。
「本当!?やったね!」
オレンジ色の作業服に身を包んだ少女がはしゃいだ。彼女はミズホ=サイキ。エクサランスのフレーム開発/整備担当だ。
「ええ、今アジア方面に出ている、なんでも・・・ヴィレッタ隊長とか言う人の部隊が帰還次第、正式採用もありうるって、山本指令からの御達しです!」
「やりいっ!これで時流エンジンの研究予算も・・・」
「ええ、なんとかなりそうです。」
黒いパイロットスーツを着た青年がガッツポーズを挙げた。彼はラウル=グレーデン。エクサランスのテストパイロットだ。そして時流エンジンとはエクサランスのメイン動力である。彼らは「エクサランスプロジェクト」と言うものを立ち上げ、時流エンジンをメインとした研究を進めるために、その研究予算獲得に、時流エンジン搭載型戦闘兵器を開発。それがエクサランス。この機体をTDFに売りんでいたのだ。
こうした民間からの売り込みを積極的に迎えているのは、今のTDFには少しでも強力な機体が必要だったからだ。
既に時代遅れになりつつあるゲシュペンストMK−U。優れたコストパフォーマンスを誇るが戦闘力に疑問が多いアルブレード。
コストパフォーマンスの高く、なお戦闘能力が高い機体が必要だったのだ。そう、VRやギア・アーサーのような機体が・・・
エクサランスの足元で喝采を挙げている三人を静かに見つめながらリムジンに乗りこむ人影があった。
「出して。」
その人物の一言に、リムジンは基地の外へ走り出していった。そのリムジンが門の前まで来ると、兵士が大きく敬礼してゲートを開けた。どれだけの地位の人間が乗っているのだろう。
「エクサランス・・・・、優れた機体だけど、あれでもまだ足りない。」
リムジンの後部座席でその人物は呟いた。その人物は・・・・レイカだった。
「あれじゃ勝てない・・・。今の我々が欲しいのは単機で強い機体じゃない・・・・」
レイカは自分の鞄から何枚かの書類を取り出して、それを見た。書類の一枚には人型のロボットの三面図が描かれていた。
「量産計画・・・・私達が勝つためには、大量に投入できる量産機が・・・・」
図面を見つめながらレイカは呟いた。そして目線を運転手に移した。
「今日は、学校とその他の用件はキャンセルします。このまま研究所へ向かってください。」
その言葉に運転手は「かしこまりました、お嬢様。」とだけ答え、進路を変えた。
「ウザイ、ウザイ、ウザイったら、ありゃしなぁぁいっ!」
太平洋上空、2機の赤い戦闘機が飛んでいる。その一機から、ややヒステリー気味の声をあげる女性の声。
「なんであたしが探索任務なんかやらされるのよぉぉ!シルビーの奴は今ごろ、派手にやってるっていうのにぃぃっ!」
RNA所属、デボラ=バイト中尉は、改造VR『RVR−40/540TGS TGS−VIPER(ヴァイパー)”エヴリン”』を駆る、RNAきってのエース部隊『薔薇の三姉妹』の一人であった。
戦闘機に見えるこの機体も、特殊なチューニングが施されたヴァイパーUに、対地攻撃用の爆装と高速飛行用の主翼ユニットを装着された、半可変VRであった。
第二世代型VRが量産体制に入ったDN社であったが、地上に完全に配備するだけの数はまだ出揃っていない。故に一部の部隊では今だ第一世代のVRを使用している部隊も多い。
「お姉さまぁ〜。そろそろTDFの領空に入りますので〜、大声出さないほうが〜。」
無遠慮な直接回線がデボラ中尉のVRに入り込んできた。隣を飛んでいる同じ部隊の半可変VRからだ。コクピットのモニターに黒髪の小娘が映る。
薔薇の三姉妹の一人、ジェニファー=ポイズン中尉だ。デボラ中尉は、ジェニファーの事を「トロイ娘」と感じていた。何でこんなトロイ奴が、DNAの精鋭である薔薇の三姉妹に居るのか解らない。
「今回は〜、CIS転移の反応があった日本地区での偵察なんですから〜、気をつけないとぉ・・・」
「そんな事解ってるわよ!!」
ヒステリー気味に大声を出すデボラ中尉に、モニターの中でビクッと身体をすぼめるジェニファー中尉。
「日本に、オリジナル・フェイエンのVコンバーター反応が検知されたんで、それを探索!もしくは捕獲でしょ!解ってるわよ!」
「だったら・・・怒らなくてもぉ・・・お姉さま・・・怖い。・・・クスン。」
瞳を潤ませるジェニファー中尉。デボラ中尉は「もう解った」と言わんばかりにモニターを切って音声のみに切り替えた。
「・・・ったく、ウザイ娘。・・・あたしが言いたいのは、こんな任務になんであたしが・・・って事よ。」
そう言って、隣のVRをチラッと見た。同じ赤いヴァイパー。ジェニファー中尉のVRは『RVR−40/540TGR TGA−VIPER』で型番は同じだが、ジェニファー中尉のヴァイパーは『TGS−VIPER”シャルロッテ”』と言い、母体となったヴァイパーの運用概念である戦術/強行偵察を継承している。それゆえデボラ中尉の『エヴリン』より非常に高い情報収集能力が実装されている。
「ですからぁ・・・あたし達が選ばれたのはぁ、情報収集能力と素早い機動が可能だからですよぉ・・。何かあってもこのVRなら、すぐ逃げてこられるからぁ・・クスン。」
「メソメソすんな!だから、探索はお前がメインで、あたしはお前のバックアップと護衛だろ!」
「そうですぅ・・お姉さま、解ってくれたんですねぇ・・・。情報によると、日本は強いロボットがいっぱいいるって言うし・・・」
「!!」
強いロボット。その言葉がデボラ中尉の本能に火をつけた。偏執的攻撃性からエクスタシーを感じるデボラ中尉は、なにより戦う事が好きでたまらなかった。
敵を倒す。その時にデボラ中尉の性欲は満たされる。
「ジェニファー、って事はTDFのPT部隊とも一線交えるかもしれないって事よね?」
「え?ええ・・・でもぉ、今回の任務は探索ですから、ステルスモードに切り替えて、なるべく見つからない様に・・・ホラ、あたし達のVRって、普通に飛んでれば飛行機にしか見えないし・・・」
「予想外の事態は起こるものよねぇ?」
デボラ中尉は舌なめずりをした。思わず口元に笑みがこぼれる。
「それに・・・裏切り者のサルペンがいるって言うオンディーヌ隊は、今シルビーが相手にしてるみたいだし・・対した戦力が要るといいんだけど。」
その言葉が終わらないうちにデボラ中尉はスロットルを踏み込んだ。飛行するヴァイパーの速度が上がった。
「お?お姉さま?ま・・待ってくださぁぁい!」
「何!?サオトメ君が行方不明!?」
レイカの用件の事で、ジンに話をしようと思い、PTハンガーに足を運んだ山本長官が知ったのは、ジンが三日も前から外出したきり帰ってきてないとの事だ。
PTハンガーには彼の愛機であるブロディアは置きっぱなしであるし、パートナーと専属メカニックであるサンタナとメイシャも基地内にはいたが、ジンの行方を知らないとの事だ。
「アイツ・・・一度出かけたら、なかなか帰ってこないんスよ。また情報集めでしょうねぇ。」
サンタナはそう言ってブロディアの整備を続けていた。
ジンが何者かの行方を探しているのは知っていた。ヴィレッタからの願いでTDFの方でもジンの探している人物の捜索は行ってはいたが、一向に情報が無かった。
「何かあったら、連絡は・・しねえなアイツは・・・」
苦笑するサンタナ。そう言って、コクピット周りを整備し始める。すると、急に顔色を変えた。
「長官さん・・・・ジンの奴、連絡しないんじゃない・・・出来ないみたいだ・・・。」
「何?どういう事だね?」
サンタナは顔を真っ青にして、コクピットから何かを取り出した。それは紺色のがま口であった。
「ジンの奴・・・・財布忘れてる・・・となると・・・アイツ三日も・・・」
山本長官は、近くにあった内線を素早く手にとって叫んだ。
「諜報部!緊急事態だ!ジン=サオトメ君を探して保護しろ!最優先事項だ!」
私立鳳凰学園───小中高大と一貫したエスカレーター式の女学校で、お嬢様学園としても有名で、その生徒は著名人・大手企業の取締役/重役・弁護士・医者・政財界の子息達が通うエリート校であった。
それゆえ、問題も多い。そして今ここで・・・・
「は!放しなさい!人を呼びますよ!」
薄紫色の制服に身を包んだ縦ロールでいかにも気の強そうな女生徒が、数人の男達に囲まれていた。近くには運転手と思われる初老の老人が倒れていた。
「へへへ・・・そうはいかねえな。」
大柄な男が女生徒の手を掴みながらニヤリと笑みを浮かべていた。
「俺たちゃ、あんたんとこの社長にはヒデエ目に合わされたんでなぁ。」
「そうそう、お嬢様には恨みはねえが、あんたの父親のせいで俺達は仕事を失ったんだ。」
「そ、それは、貴方達が会社の規約を無視して、不正な事を・・・」
すると、言葉が終わらないうちに男が掴む力を強めた。女生徒の顔に苦痛の色が見える。
「うるせえっ!だからよ、アンタをダシにしてだな・・・」
すると男達は下品な笑みを浮かべた。
「ま・・・金のほかに色々楽しませてもらおうと思ってよ・・・」
「け!汚らわしい!放しなさいっ!」
女生徒が何とか振りほどこうとするが、力が違いすぎる。
「へっ!さあ・・・こっちに来てもらおうか。」
「くっ!・・・」
男達が女生徒を止めてある車に運び込もうと、身体を掴み挙げた。
(誰か・・・・助けて・・・)
「へへへ・・・楽しませてもらおうかな?」
「待てぇいっ!!」
男達に女生徒がさらわれる寸前、突如声が響き渡った。男達が声の発生源を探そうとキョロキョロと周りを見渡す。
「あ!あそこ!」
一人の男が、指差した。すると学校の壁の上に背中に日本刀を背負った男が立っていた。そう、ジン=サオトメだ!
「か弱き婦女子を男が数人掛りで拉致しようとするとは・・・しかも自らの行いに逆恨みの行動とは・・・貴様ら、悪党だな!」
壁の上に立っていたジンはビシッと指を突きつけた。
「あ・悪党だと?当たり前じゃねえか。何言ってんだコイツ?」
すると、ジンは壁から飛び降り男達を睨みつけた。
「そうか・・・ならば・・・容赦はせんっ!」
次の瞬間、目の前からジンの姿が消えた。男達が慌てる最中、女生徒を掴んでいた男の身体が宙に浮いていた。
「!?」
驚く暇も無かった。男の身体が地面に叩きつけられると、同時にジンは女生徒を抱きかかえていた。
「怪我は無いか?」
「あ・・・?ハイ。」
ぽ〜、とジンに見惚れていた女生徒は返事をするのが一瞬遅れた。
ジンは女生徒を地面にゆっくり下ろしてやると、凶器を持って襲い掛かってくる男達に向けて駆け出した。
「サオトメドリルキィィィクッ!!」
「サオトメアッパァァァァッ!」
と、熱い拳が次々と男達に炸裂していく。それはほんの数秒の出来事だった。
「う・・うわぁぁ・・た、助けてくれぇ・・・」
男達は泣きながら痛む身体を引きずって逃げ出していった。
「あ、ありがとうございました。何とお礼を言っていいやら・・・」
女生徒は深深と頭を下げた。それを気にせずにジンは倒れている運転手に活を入れてやっていた。
「わたくし、天王院 静(しずか)と申します。貴方のお名前は・・・」
「俺は、ジン=サオトメ。」
すると、ジンは胸元をまさぐって一枚の写真を取り出した。それはジンが探している男の写真だった。
「すまないが、この男を知っているか?」
「いいえ・・・申し訳無いですが・・・」
「そうか・・・」
そう言ってジンは立ち去ろうとした。が・・・・
「??」
ジンは急に立ちくらみを起こし、その場に倒れてしまった。
「ど!どういたしましたの!?」
駆け寄る静に、ジンは弱弱しい声を出した。
「は・・腹が減った・・・。三日も飲まず食わずで・・・」
「ええ!?」
「ぎゅ、牛丼が・・食い・・たい・・・」
「え?ぎゅう?なんですの?」
だが、ジンが答える事は出来なかった。あまりの空腹に意識が飛んでしまったのだ。
「ジンさ〜ん!」
「っあれ?おかしいなぁ・・・」
ヒリュウ改のブリッジオペレーター、ユン=ヒョジン伍長はレーダーサイトに異常を見つけた。
「いかがしました?」
計器をあちこちいじりまわしているユン伍長の様子を見て、初老の紳士が話し掛けてきた。ヒリュウ改の副長であるショーン=ウェブリー少佐だ。
「ああ・・・副長。それが今、ちらっとレーダーに反応があったんですけど、すぐに消えちゃって・・・」
ユン伍長が言うには、レーダーがほんの僅かの間何かに反応したような気がしたのだ。ところが改めて調べてみると、どこにも反応は無い。
「それは奇妙ですねぇ・・・。敵対勢力の強行偵察と言う事もありえますね。基地の方でも反応が無かったどうか連絡してみましょう。」
ショーン副長は、確認するため基地へ連絡をいれようとその場を離れた。
実際、TDF極東基地でも、同様の反応があったというが、詳細は不明だと言う。このとき、既に日本領空内に2機の高性能VRが潜入している事には気づいてもいなかった。
鳳凰学園調理実習室
流石、お嬢様学校の実習室。その辺のレストラン顔負けの設備が整っている。この部屋では普段、女生徒達が和気藹々(わきあいあい)と、授業に励んでいるのであろう。まあ、お嬢様ゆえ、中には包丁すら握った事がないという生徒もいるであろうが。
そして、今、その部屋の中にいるのは本学校の生徒一人と、お嬢様学校にはまったくと言って似つかわしくない、白いプロテクター付きの服を着た日本刀を背負った粗暴そうな男であった。
「・・・・・・」
男はジン=サオトメであった。彼はわき目も振らず、目の前の皿に盛られた不恰好なお握りの山に食らいついていた。
流石に三日も何も食べていない断食の上、先ほどの乱闘でジンの体力は尽きかけていた。ただのお握りと味噌汁と漬物・・・と言った簡単な食事でも今のジンにとっては非常にありがたかった。
その様子を、静は黙って見ていた。だが、お嬢様と粗暴そうな男の組み合わせ・・・・実習室の部屋の外から、他の生徒たちが不思議そうな眼差しで見ていた。
「天王院先輩が・・・・」
「どうして、あんな汚らしい男を?」
「それより、部外者を学園内に入れて、先生方は何か言う事は無いんですの?」
と、ざわざわ。
勿論、生粋のお嬢様学校に部外者を入れるなど言語道断。だが、静の両親はこの学園に多くの寄付を寄せており、それゆえ静の発言力は学園内でも高い。加えてジンが恩人だと言う事で強引に連れこんだのだ。
「あ・・私、あの男性、知っていますわ。」
「え?誰ですの?」
「確か、コロニー格闘技の覇者で、VAバトルのチャンプですわ。」
「すごい・・・、でもそんな方がどうして天王院先輩と?」
そんなお喋りを無視して、ジンの食事は終わりを告げようとしていた。ポリ・・・と最後の沢庵の一切れを口に放り込むと、湯呑みの日本茶で流し込み、パンッ!と両手を合わせた。
「ごちそうさん。」
「お粗末さまでしたわ。」
と、静も一礼。その時、ジンは静の指がバンソウコウだらけなのに気づいた。
「アンタが食事を・・・?」
「え?ああ・・・調理実習の余り物ですわ。ほほほ・・・」
と、手を隠して軽く微笑んだ。
「ご馳走になった。それと、もう一つ頼みがある。電話を借りられるか?何日も連絡してないんでな。」
「電話ですか?ええ・・・どうぞ。」
静かはそう言って、自分の携帯電話を差し出した。ジンは「すまない」と一言言ってから電話を掛けだし、しばし問答していた。
その様子を黙ってみていた静であったが・・・
「・・・そうか、了解した。レイカの用件で・・・解った、今から向かう。」
その会話に静は顔色を変えた。
「レイカ!?まさか・・・」
ジンは電話を切ると、形態を静に返した。
「ありがとう。それとアンタ、天宮財閥の伊豆工場の場所を知ってるか?」
「天宮財閥!?ジンさん、貴方、天宮レイカさんのお知り合いで?」
その言葉にジンは軽く驚いた。
「なんだ、レイカの奴を知ってるのか?」
「知らないも何も、レイカさんはこの学校の生徒ですわ!」
話を聞けば、ジンはレイカからの依頼で、仕事を頼まれているとの事だった。本当なら自分の用件が軽く片付いたところでレイカの元へ向かう予定だった。
ところが、ジンは財布を忘れている事に後になって気づいた。その為、連絡をいれる事も食事を取る事も出来なかった。しかも殆ど知らない土地であったために迷ってしまい、偶然この学校のそばまでさまよっていたとの事だった。
ジンにすれば、修業中の身であるため、少々迷ったり2〜3日断食をしたところでどうと言う事は無い。いよいよの事態には何とかする用意もあったらしい。
「じゃあ、どうして、『用意』を使わなかったんですの?」
「まだ、許容範囲内だったからだ。ま・・・あの騒ぎは予想外だったけどな。」
そう苦笑して、立ち上がった。
「世話になったな。俺はそのレイカの依頼を受けに行く。」
そう背を向けたジンに向かって静は、待ったをかけた。
「お送りしますわ。道も知らないようですし、どうせタクシー代も無いんでしょう?それではレイカさんに失礼ですわ。」
静はそう言って、部屋の外にいる女生徒を一人呼んだ。
「マキさん。申し訳無いですが、後片付けをお願いいたしますわ。それと先生方には今日は早退するとお伝え願います。」
そう言って足早にジンと一緒に部屋の外へ出ていってしまった。
「え?ちょっと、せんぱ〜い。」
極東基地のPTハンガーに、何機ものエクサランスが運び込まれてきた。正確にはエクサランスのボディのみであるが。
エクサランスは頭部コクピットが独立して飛行ユニットとしても機能するように開発されている。そして用途に応じてボディ(エクサランスフレーム)を換装するのだ。
頭部が独立して飛行機に変形するシステムはPTにもあるが、現在そのシステムを装備しているのは、RTX−010ヒュッケバインMK−Uのみ。
その為、ヒュッケバインMK−Uのパイロットであるブリッド少尉が、興味深々で眺めていた。
「ええと・・・今のところは、ダイバーとコスモドライバーが使えないんですね?」
ラージが書類をチェックしながらミズホに聞いていた。
「はい。フライヤーはもうすぐ整備が終わりますし、ガンナーならすぐにでも使えますよ。」
「なら、午後の模擬戦には間に合いそうですね。次の相手は、ええと・・・ガーシュタイン少尉のビルトシュバインと言うPTです。この機体なら量産型のゲシュペンストより、いいデータが取れると思いますよ。」
ラージの言葉にラウルが頷いた。
「その機体なら知ってる。コスト高騰で量産化が見送られたPTだ。」
そこでラウルはにやりと笑みを浮かべた。
「つまり・・・それだけ高性能って事だ。さっきの機体よりウェイトもありそうだし・・・申し分無い相手だぜ。」
「調子に乗りすぎて、壊さないでよ。フライヤーは意外に繊細なんだから・・・」
ミズホの言葉にラウルは苦笑して頷いた。
「解ってるよ。整備が終わり次第、システムを立ち上げてテストだ。」
「おっ!あれは・・・」
ハンガー内に次々に運び込まれていくエクサランスのフレーム。それをじっと見ている目があった。
基地の上空・・・・ゆっくりと上空を旋回しながら基地を見つめていたのは、RNAのデボラ中尉のヴァイパーであった。
「すご・・・。30mクラスの機体じゃない!背中の推進器が凄く大きい・・・新型のPTかぁ!」
望遠カメラでハンガー内へ運び込まれていくエクサランスのフレームを見てデボラ中尉は驚嘆の声を上げた。
「しかも、行方不明だってされてたヒリュウ改まで!・・うっ・・ウフフ・・・」
デボラ中尉の目がみるみる獲物を狙う女豹へと・・・否、これから男とベッドを共にするような売女の目へと変貌していった。
「お、お姉さま?今回の目的は・・・オリジナル・フェイエンでぇ・・・」
ジェニファー中尉が、弱弱しく本来の任務の事を口に出す。
「黙れっ!さっきからこの辺ぐるぐる廻ってんのに、全然反応なんて無いじゃない!」
「でしたらぁ・・・もう帰りましょうよぉ・・・。命令違反するとぉ・・・総帥に怒られますよぉ・・・」
ジェニファー中尉の言葉に一瞬、ムッとするデボラ中尉。彼女にしてみれば、これから寝るべき男を前に御預けを食うと同じ事だった。このままでは高揚とした気分と濡れてきた秘所をどう慰めていいのか・・・。
だが、次の瞬間彼女はニヤリと笑みを浮かべた。そしてジェニファーのバイパーのセンサーに突然、デボラ中尉のバイパーのステルスモードが解除されたことが知らされた。
「お!お姉さまぁ!?」
突如の事に困惑するジェニファー中尉。それをよそにデボラ注意のバイパーが急降下を始めた。VRはPTやギアとは違い、鋭角的なボディ形状をしており、さらにメタリックかつ透明感のある反射塗装が施されている。ステルスモードを解除したところでも、レーダーに掛かりにくいのだ。さらに戦術偵察機の意味合いの強いバイパーはそれが更に高い。
「あら?ステルスモードが不調みたい。いっけなぁい!TDFに補足されちゃう。」
と、わざとらしい声を上げる。台詞も棒読みだ。その反面表情は実に楽しげ。
「仕方ないから、こっちから仕掛けるわよ。それに、ヒリュウ改と新型PTを叩けば総帥も喜ぶわよ。」
と、眼下に広がるTDF基地目掛けて一直線に飛んでいくバイパー。
「ああん!こんなんじゃぁ、あたしも行くしかないじゃない!総帥に怒られちゃうよぉ!」
半ば半泣き状態でやむなくデボラ中尉のバイパーの後を追うジェニファー中尉。
「さて・・・どんな声で泣いてくれるかしら?」
と、急降下するバイパーの中でデボラ中尉は唇を舐めた。
静の高級車の後部座席でジンは隣に座る静の話を聞いて軽く驚いていた。
それは、学友であるレイカがディアナ17のパイロットである事を静が知っていたからだ。
レイカがディアナ17のパイロットである事は、TDFと一部の天宮財閥の関係者しか知らない機密事項であることだった。
だが、静は以前、旧友と共にゴルディバス軍に襲われた時があった。だがそこへディアナ17が救出に駆けつけ事無きを得た。その時、レイカがディアナ17に乗り込む所を偶然見てしまったとの事だ。
静はレイカには何かしら事情があるに違いないと感じ、この事は自分の胸のうちにしまっておくことにした。
ところが、最近になってゴルディバス軍やDN社、ソラリスなどの侵攻が激しくなるに連れてレイカが学校を休む事が多くなり、最近はまったくと言って姿を見せていない事や、新聞やニュースでTDFのPT部隊や各研究所が開発したスーパーロボット達とディアナ17が行動を共にしている事から、レイカはTDFに協力しているものと考えていた。
自分の胸にしまっておくべき秘密なのだが、以前助けられた事の負い目やレイカへの心配から、どうしてもレイカの行動を知りたくなってきていた。そこへ、このジン=サオトメが現れた。
「なるほど・・・、ではレイカさんは、その『オンディーヌ隊』という部隊に所属しているんですのね?」
「ああそうだ。実質的なナンバー2だ。部隊長のヴィレッタ少佐に次いで俺達の中心的人物でもある。」
ジンはそう言うと、「さすがレイカさんですわ・・・」と、感心していた。
「それで、貴方とレイカさんのご関係は・・・」
「関係?そうだな・・・仲間ってだけだ。特に親しいわけじゃない。」
その言葉に静はなぜかほっとした。ジンは何故そんな事を聞いたのかさっぱり解らない。そのうちに車は伊豆にある天宮財閥の研究所へやってきた。
「止まれ!」
正面玄関で、警備員が車を静止させた。車の窓を空けてジンが顔を出し、「ジン=サオトメだが」と言うと警備員は敬礼した。
「ご苦労様です。御話は伺っています、中へどうぞ。」
ジンはここで車を降りて、一人で行くつもりだったのだが、警備員が関係者と勘違いしたのか、車ごとどうぞ・・・と言うので、そのまま行ってしまった。
研究所の入り口で、数人の白衣を着た技術者らしき人物が迎えに出ていた。
「御待ちしていました。レイカお嬢様は中で御待ちです。どうぞ。」
「レイカさんが!?」
ジンよりも静の方が先に声を出していた。そしてジンより先に研究所の中へ入ってしまった。
「・・・・・なんで、アイツまで?」
と、感じたジンだが、気にせず中に入ることにした。
研究所の一室に案内されたジンと静。そこにはモニターに食い入る様に見つめている技術者たちと、レイカがいた。
「レイカお嬢様。ジン=サオトメさんをお連れしました。」
「そう。ありが・・・って!なんで天王院先輩まで来てるの!?」
部屋の中に入ってきた人物に流石のレイカも驚いた。
「え?ジン=サオトメさんのご関係者じゃないんですか?一緒に車に乗ってたんで、つい・・・」
と、所員。
「違うわよ・・・ああ、もう・・・極秘事項なのに・・・」
レイカは、あちゃ〜と顔を押さえた。だが、もう遅い。静の目線はレイカより、部屋の窓から覗く巨大な格納庫のような空間にくぎ付けになっていた。
「これは・・・ロボット・・・。」
静が呆然と呟いた。静の目線の先には数体の身長18m近くの人型ロボット達が並んでいる光景が・・・
TDFが採用しているゲシュペンストやアルブレード。DN社の主力兵器VR・・・。更にソラリスが使用しているギア・アーサーまであった。
「凄い・・・」
「各所から譲り受けたり、買い取ったり、捕獲した機体を研究用に使ってるんです。新型機の開発のために・・」
レイカが覚悟を決めた様に、半ば諦めがちに話し出した。
「あ、あのロボットは・・・」
静が思わず声に出していた。それは、他のロボット達とは明らかに系統が違っていた。
しかも、他のロボット達が研究用に使われたのか、装甲や四肢が取り外されているのが多々ある中で、完全な姿をしていたからだ。加えて何人もの技術者や整備員達が張りつき、入念なチェックが行われている事から、重要な機体だと言う事が解る。
加えて特徴的なのが全体のフォルムだった。外観自体は他のロボットと遜色無いが、どちらかと言うと・・・女性的な印象を与えるのだ。白と緑色と言う塗装は除いても、頭部からまるで髪のように垂れ下がった部分はポニーテールにしか見えない。
「何か・・・レイカさんのロボットに、似た雰囲気が・・・」
静が呟くと、レイカは頷いた。
「ご明察です天王院先輩。このロボットは、私のディアナ17の量産型です。」
量産型ディアナ17──────それは、レイカが来るべきゴルディバス軍との総力戦に備えて開発を進めていたロボットであった。
ディアナは優れたロボットである事は明白である。だが所詮は一機。その活動には限界はある。いくら強くても一人だけで強大なゴルディバス軍と戦いつづける事は不可能だ。そう・・・数をそろえる事が必要だった。
当初、主力量産機として期待されたアルブレードが、現在の敵対勢力に対抗できるだけの性能を有していなかった事もあり、レイカとヴィレッタは、PTとは別に機体を量産する事に決めた。
頭数だけを揃えるならば、今だ生産ラインのある旧型VAゲイツを。DN社から10/80を大量に購入すれば良い。実際、宇宙でのオンディーヌ隊の支援組織が使用しているのはこれらの機体だ。
だが、ゲイツや10/80だけでは限界がある。そこでレイカが、自らの愛機であるディアナ17を量産する事を提案したのだ。
高いポテンシャルを秘めたディアナの量産案は、先だって試案されていたディクセンの量産化と並行して直ちに実行される事となったのだ。
だが、量産化を前提に設計されたディクセンとは違い、ディアナはワンオフ機の意味合いが強く、そのまま量産化する事は不可能に近かった。
そこで天宮財閥は、PTやバーチャロイドのノウハウが手に入った事により、これらの長所をディアナに組みこみ量産化に向けて再設計。「誰でも扱えるディアナ17」を目的に開発を開始した。
「それが、この『量産型ディアナ17・ダイアナ』です。」
研究室にいた所員がそう説明した。
「しかし、量産機と言っても、かなり高額な機体なんですよ。コスト削減より操縦性に重点を置いて設計しましたから。」
そして、現在ここにある機体は、最終試作型とでも言うべき機体で、テストが終わり次第、次に量産試作機を建造予定だと言う。
「なるほど、でもレイカさんのディアナに比べて、随分と機械的なデザインですわね。」
静は量産機を見てそう思った。レイカのディアナは無表情ではあるものの、人間そのもの造詣で、フォルムもグラマーな女性そのものの体系だからだ。
それに比べて量産機は、兵器膳としたデザインだ。女性的なフォルムはあるものの、どちらかと言うとPTやVRに近い容姿だ。これも量産化のためだろうか?
「TDFやDN社の技術を入れましたからねぇ・・・」
所員が苦笑して答えた。なるほど、その為に外見上のデザインが異なっているはずである。
「ところで・・・、俺が呼ばれた理由は?」
部屋に通されてからじっと黙っていたジンが口を開いた。本来のゲストは静ではなく、このジンなのだ。
「ジンさん、貴方を呼んだ理由は、量産機のデータ収集に協力して欲しいからよ。」
レイカがジンに向かってそう言った。
「データ収集?」
「そう。ディアナはパイロットの動作をそのままモーショントレースする方式を採用してるの。その為、量産機の動作システムのテストに貴方の協力が必要なの。」
「どうして俺なんだ?」
するとレイカは笑みを浮かべて答えた。
「貴方が格闘技のプロだからよ。本当ならフェイ君と二人でやってほしかったんだけどね。格闘のプロの動きにも追従し、尚且つその運動データを量産機に組みこみたいわけ。どう?やってくれる?」
レイカの言葉にジンはしばらく黙った後、口を開いた。
「いいだろう。協力しよう。」
「ありがとう。勿論報酬は払うわよ。」
するとジンは首を横に振った。
「修行中の身だ、金は要らん。」
するとレイカは笑みを浮かべて何か紙の束を取り出して、ジンに差し出した。
「では、コレを。前金代わりに取っておいて。」
レイカが差し出した紙束・・・・ジンはそれの表紙を見た。
『牛丼大盛りサービス券』
「報酬には申し分無い。」
「契約成立ね。」
レイカはにっこりと笑みを浮かべた。
数時間後・・・・
TDF極東基地のハンガーでは、午後の模擬戦に備えてエクサランスが最終調整を終えようとしていた。
「よし・・・これでフライヤーはOKっと・・・」
ミズホがスパナ片手に一息ついていた。そこにラウルとラージがやってきた。ラウルは既にパイロットスーツの着替えを終えている。
「二人とも、フライヤーOKよ。」
ミズホが笑みを浮かべて言うとラウルは頷いた。
「よし、これでフライヤーとガンナーはすぐ使えるか。」
「ええ、後日の試験に合わせてダイバーも調整してます。」
「ふうん。いいよねぇエクちゃんは〜」
エクサランスの3人に向けていきなり嘲笑的な声が浴びせられた。ラウル達が声の方を向けば、そこには午前中の模擬戦の相手だったゲシュペンストのパイロット───カチーナ中尉とラッセル曹長がいた。
「いつでも新品のおべべが着れて、まるで着せ替え人形かい。」
明らかにカチーナ中尉の挑発的言動だ。隣にいるラッセル曹長が、何か言っているが聞いていない。明らかにラウル達3人に向けて悪態をついている。
「なんだと!」
「よすんです!ラウル!」
カチーナ中尉の挑発的態度にラウルが食って掛かろうとするのを、ラージとミズホが必死に止めている。
「あたしはなあ、何年も前から第一線張ってるのに、時代遅れになってるゲシュペンストをだましだまし使ってんだ。あんたらみたいな民間が売りこみに来ても、そんな機体、前線に来る頃には戦争終わってんだよ。」
「中尉・・・言い過ぎですよ。」
ラッセル中尉が仲裁に入るがラウルもカチーナの耳には入っていない。お互いをにらみ合っている。
「へっ!模擬戦に負けたからってだけで、こんな口叩く様じゃあTDFの士官もたかがしれてんな。当て馬は当て馬らしくしてなっ!」
ラウルも負けじと言い返す。当て馬・・・と言われたのがよほど頭に来たのか、カチーナがラウルの胸倉を掴む。ラッセル曹長とラージが間に入って互いを仲裁しているが、馬の耳に念仏の様だ。いつ殴り合いが始まってもおかしくない状況だ。
「なにをしておるかっ!」
その場に突然怒声が響く。ラウル達が声のした方向を向けば、そこにはいかつい顔をした中年の男が立っていた。ゼンガーの後任の戦闘指揮官である御堂筋大尉が負傷入院したために、新たに部隊長として召集されたカイ=キタムラ少佐だ。
「タラスク中尉!民間人相手に八つ当たりとは情けないっ!恥を知らんかっ!」
「しかし・・・少佐!こいつらは・・」
「黙れっ!民間人相手に喧嘩している暇があるなら、PTの整備でもしとれっ!」
「了解・・・」
カイ少佐の一喝が効いたのか、カチーナ中尉は渋々格納庫から出ていった。その後をなだめる様にラッセル曹長が付いて行く。
「すまないな・・・。普段は気のいい奴なんだが、気が強すぎてな・・・」
「いえ・・・」
今だ納まり切らないラウルに変わってミズホが答えた。
「それに、アイツは試作機のテストパイロット志望でな、君達の機体が羨ましかったんだろう・・・」
カイ少佐の話が終わらないうちに突如!何の脈略も無しにTDF極東基地に警報が鳴り響いた。
「な!なんだ!?敵襲か?」
警報はヒリュウ改のブリッジでも鳴り響いていた。
「なんの事態です!?」
ショーン副長がオぺレーターに尋ねた。
「はい!宇宙悪魔帝国の巨大ビースト軍団が突如現れました!どうやら三つの部隊に分れて、日本に向かっています!」
「なんですと!?」
極東基地の司令室では警報とオペレーター達の悲鳴に近い声が響き渡っていた。
「宇宙悪魔帝国の巨大ビーストが時間差で侵攻中!第一陣は平塚!二陣は千葉!そして・・・三陣は・・・東京です!」
次々と飛び交う悲痛な報告に山本指令は歯を噛み締めた。
「くっ!オンディーヌ隊がまだ戻ってきていない所を狙われたか・・・。だが、TDFをなめるなよ。各方面に部隊を出撃させろ!」
「山本指令!!」
司令室にレフィーナ艦長が飛び込んできた。山本指令は視線を移すとレフィーナは頷いた。
「すまんな。ヒリュウ改に、緊急出撃を要請する!」
「了解です!」
「緊急事態!?」
格納庫で模擬戦の準備を終えようとしていたラウルは、基地職員からそう伝えられた。突如、宇宙悪魔帝国の襲撃に戦闘配置だと言う事だ。模擬戦も当然中止。エクサランスは格納庫に退避させておけとの事だ。
「ちっ・・・しょうがねえなぁ。ミズホ、ラージ、他のフレーム急いで退避させておこうぜ。」
「そうですね。こんな事態ですから・・・」
ラージはそう言って待機中のフライヤーフレームへ近づこうとした。
「あ・・・あの赤い戦艦出撃するんだ。」
格納庫のハッチから、ヒリュウ改がエンジンを吹かし始めているのが見えたので、ミズホが声を上げた。
そんな時だった。
ラウルは最初何が起きたのか理解できなかった。ただ物凄い爆音が響き、爆風に身体が吹き飛ばされる。側にいたミズホをとっさに抱えるのがやっとだった。
「な・・・なにが・・?」
ラウルは所々痛む身体をゆすって立ち上がった。別に大きな怪我は無い、身体を打ったが大事無い。抱えていたミズホも無傷に近い。
「ミズホ!大丈夫か!」
「う・・・・だい・・じょうぶみたい・・ありがと、ラウル。」
ミズホもよろよろと立ち上がると、ラージは?と尋ねてきた。すると当の本人から声が帰ってきた。メガネが割れたらしく素顔を見せていたラージは、周りがよく見えないが大丈夫と答え、ふらふらしながら二人の元へ寄ってきた。
「いったい、何が起きたって言うんだ・・・」
「見て!赤い戦艦が!!」
ミズホが殆ど悲鳴に近い声を上げた。
「なっ!!」
爆炎からかすかに覗く隙間から、それは見えた。TDFの誇る戦艦、ヒリュウ改が後部から炎を上げていたのだ。
「後部エンジンブロック、火災発生!」
「テスラドライブ被弾!離陸不可能です!」
ヒリュウ改のブリッジでオペレーターが悲痛な声を上げた。
「隔壁閉鎖!消火作業急いで!」
副長がすぐに各部署に指示をだす。突如の事でも決して我を忘れないのが、副長の長所であった。
「やられましたね・・・。まさか、あんな機体がこんなに近くにいたとは・・・」
副長がレフィーナに言うと、レフィーナは無言で頷いた。
「ええ・・・、生きてる対空砲は迎撃!PT出撃できます?」
「駄目です!先ほどの攻撃でハッチが!それに最終発艦デッキがドックの瓦礫に塞がれて開きません!艦載機出撃不可です!」
オペレーターの報告は相当の痛手だった。ヒリュウ改に艦載しているPTやジガンスクードが出撃不可能では、殆ど抵抗のしようが無い。
「く・・・。まさか・・・こんな時にDN社のVRがいるなんて・・・」
そう、出撃間際のヒリュウ改を襲ったものの正体。それはRNAの薔薇の三姉妹のうち二人・・・デボラ中尉とジェニファー中尉のヴァイパーによるものであった。
「くうぅぅぅんっ!いいねえ!濡れるねえ!」
男に秘所を愛撫されたと同等のエクスタシーがデボラ中尉を襲った。急降下からのクラスターボム。ステルス製の高いヴァイパーはヒリュウ改のセンサーをも掻い潜った。殆ど不意打ち同然の空爆にヒリュウ改の後部から爆炎が上がる。
ドックから飛ぶ事も出来ず、瓦礫に覆われてPTも出撃できない。細かい機銃が飛んできているが、このヴァイパーの機動性の前にはかすりもしない。
そのまま急降下からのSLCダイブ!吹き飛ぶヒリュウ改の砲塔。さらに広がる衝撃波に装甲に亀裂が走る!
「はぁぁぁんっ!イイっ!」
圧倒的な攻め立てにより、デボラ中尉は陶酔感に酔っている。それでも、機銃掃射を巧みにに回避しているのは彼女の操縦センスとヴァイパーの性能に他ならない。旧型ヴァイパーの改造機とは言え、彼女のVRの性能は第2世代機であるサイファーの量産タイプを上回っている。
「おっ、来たね。地べたを這いまわるしか能の無い、電気冷蔵庫(PTの事らしい)の群れが。」
デボラの目線の先には、極東基地から出撃してきたPT部隊だ。だがアルブレードと量産型ゲシュペンストによる部隊だ。先ほど見かけた30mクラスの機体の姿は見えない。
「まあ、いいか。さあ!あたしを感じさせてよぉぉ!」
「くそっ!相手はたった2機だぞ!」
そうは言うものの、改造ヴァイパーの性能は第2世代VRとほぼ同程度に迫っている。宇宙悪魔帝国の襲撃に、配備されている部隊を分散させてしまいこちらには満足な戦力が残っていないのだ。
(なんと言う事だ!こんな最悪のタイミングでDN社の機体が攻めこんできていたとは!宇宙悪魔帝国の襲撃にソルディファーとスヴァンヒルドを出撃させた後になって・・・。せめてゼンガー少佐が動ければ、零式が残っているのに!)
「各方面の動きはどうだ!今からでもセレイン少尉かブルー少尉を呼び戻せないのか!?」
「駄目です!平塚方面のスヴァンヒルド部隊も、東京のソルディファー部隊も苦戦中です!とてもじゃありませんが・・・」
その報告に、山本長官は拳を握り締めた。こうしている間にヒリュウ改は痛めつづけられ、PT部隊も成す術無くやられつづけている。
「くっ!天宮財閥に連絡を取れ!それと・・・ラウル君達に繋げ!」
極東基地からの連絡は直ちに伊豆の研究施設にいるレイカの元へ伝えられた。
「なんですって!解ったわ、千葉の宇宙悪魔帝国の部隊には私が行くと伝えて!」
所員にそう言うと同時にレイカは駆け出していた。
「何があった?」
研究室の量産型ディアナの擬似コクピットからジンが呼びかけた。
「今、TDF基地から連絡があって、宇宙悪魔帝国とDN社に関東各地が襲撃されてるのよ!」
「お前が行くところを見ると、さぞ苦戦している様だな。よし、俺も行こう。」
ジンはそう言って、擬似コクピットから出てくるとレイカと一緒に駆け出した。
「レイカさん。ジンさん。がんばって。」
まだ研究室にいた静が声をかけると、二人は「ハイ!」「おう」とそれぞれ笑みを浮かべて飛び出していった。そして研究室には、数人の技術者と静が残された。
ザッ!───二人は研究所の外に出ると、それぞれ顔を見合わせて頷いた。
そしてレイカがキッ!と空を睨むと、レイカの背後に黒い影が下りた・・・・ディアナ17だ。
そして、ジンが同じように空を睨むと、右手を高々と掲げ指を鳴らした。
パチンッ!───
「出ろぉぉぉっ!ブロぉディアぁぁぁぁっ!!!」
すると、近くの川の中から腕組みしたブロディアが姿を現した。
「私達は千葉の宇宙悪魔帝国に向かうわよ。」
搭乗を終えたレイカが隣のジンに呼びかけた。
「おう!」
その直後、2機は瞬く間に戦場に飛び立っていった。
一方、TDF基地では、ラウルがエクサランスに乗りこもうとしていた。
「無茶ですよ!エクサランスはトラブル出しもまだなんですよ!そんな機体で出たってリスクが多すぎる!」
ラージが必死に止めているが、ラウルはかまわずエクサランスの頭部に乗りこもうとしていた。
「でもよ!今の状況じゃあ、出るしかないだろ!」
「しかし!さっきの攻撃でフライヤーが!陸戦用のフレームでどうやって戦う気ですか!?」
そこに、近くのスピーカーから山本長官の声が響いた。
「ラウル君達、そこにいるな?すまないが君達の力を借りたい。情けないが基地のPTではあのVRに歯が立たない。くわえてヒリュウ改のハッチがやられて艦載機が出撃できない!増援が来るまででいい、エクサランスに緊急出撃を要請する!」
その要請にラージが舌打ちをした。何を考えているんだ・・・と。だが、ラウルは当たり前の様にエクサランスに乗りこんでしまった。
「ラウル!ああ・・もう!!仕方ない、ミズホ!ガンナーを!相手は空戦機です。フライヤーが使えないなら、ガンナーしかありません。」
「ええ!?飛んでる相手にガンナーで?・・・・まあストライカーよりマシかなぁ。」
「いっくぅぅぅっ!イッちゃうぅぅぅ!」
叫ぶ。濡れる。悶える。眼下に広がる破壊されるPT。燃えているヒリュウ改。下半身の穴という穴から液体がこぼれる。
デボラ中尉にとって、戦場、そして圧倒的破壊行為は性行為と同意語なのだ。身体中にエクスタシーが駆け巡る。
性的快感に陶酔しているデボラ中尉。だがそのヴァイパーの目線の先にPTとは違う反応を示す機体が姿を現した。緑色の頑強そうなボディに腕には六連装の機関砲を持ち、背中には二門の大口径長距離砲を背負っている。デボラにはすぐにわかった。大きさが30mクラスだ。先ほど見た新型機!
「やっと出てきたねぇ。でもぉ砲戦用であたしの相手ができる?はやすぎる男は嫌いだけど、鈍い男はもっと嫌いよ。」
地面に向けて急降下。そのまま緑色の機体に向けて機銃掃射!向こうも機関砲を放って来ているが、真上にいるヴァイパーにはかすりもしない。機銃弾がガンガンと音を立てて砲戦型の装甲を叩く。
「あら、かた〜い♪いいわねぇカタイ方が喜ばれるって解ってるじゃない♪」
機銃掃射に耐えぬいた砲戦型を見てデボラ中尉は唇をなめた。
「ちっ!速い・・・・フライヤーが使えないのは痛いぜ・・・」
緑色の砲戦型・・・・エクサランスガンナー。砲撃戦主体の重武装フレームだ。空戦用のフライヤーフレームが先ほどの奇襲で損傷したため、やむなくガンナーで出撃したラウルだったが、機動力に差がありすぎた。
だが陸戦用のストライカー・海戦用のダイバーでは空の相手に無力に近いのは明らか。ガンナーの長距離火器で、対空砲火を浴びせるしか手が無かった。
「応援が来るまでって言うけどよぉ・・・。それまで持つかぁ・・」
ラウルの額に冷たいものが流れた。
「セレイン少尉!3番機がやられました!」
「見れば解る!」
追加増産され新たに配備されたセレイン率いるスヴァンヒルド部隊は平塚で宇宙悪魔帝国の陸上戦艦が中心のビースト軍団に苦戦していた。
地方の基地から増援のAM(アーマードモジュール)部隊を要請したものの一向にやってくる気配は無い。
「(恐らく・・・・何処も手一杯で、向こうが増援がほしいぐらいなんだろう・・・)」
セレインはそう考えながら、目の前に突っ込んできたギュフーをキャノンで撃ちぬいた。
「退くな・・・なんとしても倒せ!」
「そんな無茶な・・・」
ブルーは部下に聞こえない様に呟いた。こちらも状況は似たようなものだ。セレインの部隊に比べてブルーの部隊は機動力はあっても火力には欠ける。耐久性の高い宇宙悪魔帝国のビーストの攻撃は回避はたやすくても有効打を与えにくかった。
「おまけにこっちには新型っぽいのが、いやがるんだぞ!」
ブルーは、愛機アシュクリーフに向かってバズーカ砲弾を放ってきた黒い小型ビーストを見て冷汗を流していた。
極東基地の司令室で、山本長官は拳を握り締めつづけていた。
横浜のビースト軍団には、ディアナとブロディアが辿り着いたものの、他の地点では明らかに劣勢は拭い去れない。特にここ極東基地はたった2機のVRに守備隊は全滅間近。迎え撃っている機体でさえ実験機で、登場しているのは民間人。いつまで持つか解らない状況だ。
「他の基地の機体は回せないのか!PTでもVAでも・・・伊豆のAM部隊は!」
「伊豆基地から返答!横浜方面にリオン部隊を回していて増援は出せないとの事です!」
「くっ!このままでは、ここは全滅するぞ・・・」
戦力が足りない・・・・・。ヒリュウ改のPT部隊かジガンスクードさえ出撃できれば、この状況を打破できると言うのに・・・
そして、その様子は天宮財閥の研究所でも・・・・
「戦力が足りない!?」
静は研究員達からそれを聞かされた。
「ええ!特に極東基地が・・・・このままじゃ・・」
「レイカさんは、なにをやっていますの!」
「お嬢様は、ジンさんと横浜の部隊に・・・・」
「でしたら、ここのロボットで出撃すれば!」
静のセリフに研究員はため息をついた。
「無茶を・・・。ここにあるのは研究用で、実戦には使えませんよ。まあ・・・あの量産タイプのディアナなら・・・」
「じゃあ、それで!」
「パイロットがいませんよ・・・。いくら誰にでも動かせるように設計したものの・・・肝心のテストパイロットはジンさんなんですよ。」
研究員はそう言って、その場を離れた。万が一のことを考えて、貴重なデータや機材を避難させる作業に追われていたのだ。
「くっ!」
静は歯を噛み締めた。何も出来ない自分が悔しすぎた。
そんな静を無視して、研究員達が機材を運び出している。静はここにいても邪魔になる・・・と、その場を離れようとした。
そんな時であった。静は機材の片隅にビニールに梱包された「ソレ」に気がついた。
「これは・・・・」
気になって手にとって見た。それは色こそ少し違うものの、レイカがディアナに搭乗している時に着用しているそれと変わらない物であった。
静は瞬間的に感じ取った。これは量産型ディアナのパイロットスーツなのだ。
「・・・・・」
パイロットスーツを手にしたまま格納庫を見た。そこには量産型ディアナがある・・・・。設計通りなら誰にでも動かせるはず・・・・
うんっ!───強く頷いた。レイカに出来て自分に出来ないはずが無い。学校の成績ですらレイカよりは上なのだ。それにレイカの力になりたかった。
静は辺りを見渡した。研究員たちは退避作業で忙しく、静になど目もやっていない。静は部屋を出ると近くにあった女子更衣室に飛びこんだ。どうやら研究員用の更衣室らしく、幸い誰も部屋の中にいなかった上に空いたロッカーが幾つかあった。
静は手早く衣服を脱ぎさると、パイロットスーツの梱包を解く。着用方はダイバースーツのようなものだった。多少手間取ったが意外と簡単に着用できた。
「本当に・・・レイカさんのと同じような物ですわね・・・型が新しい分、こちらの方が伝達率が上・・・みたいですわね。」
スーツと一緒に梱包してあったマニュアルをざっと見てそう呟いた。プロテクターやコクピット接続の為の装置が取りつけられている他は、ボディのラインがはっきり解るデザインだ。少し恥ずかしいが気にしている暇は無い。
着替えを終えた静は格納庫に走った。職員達は退避作業中なのか、格納庫までの間、一人もすれ違わなかった。
「・・・・・・」
静は、頭上を見上げた。そこには量産型ディアナがある。引き返すなら今だ・・・止めるなら今のうち・・・・
だが静は首を横に強く振った。ディアナの足元の昇降機に捕まると一気にコクピットまで昇った・・・・
「おい・・・・ダイアナが起動信号を出したぞ。あれも退避させるのか?」
最初に気づいた研究員が仲間に呼びかけた。管制の方の計器に格納庫にあるディアナが起動したのを不審に思ったのだ。
「いや・・・そんな話は聞いてないぞ。地下に搬送用のデッキでも壊れたか?確かめてみる。」
研究員は作業を中断し、モニターを入れ、計器を確かめた。そして・・・・度肝を抜かれた。
「なっ!!!!!????」
「??」
あまりに同僚が驚くので、もう一人もモニターを覗きこんだ。そして自分も声を出していた。何故なら量産型ディアナのコクピットで、レイカの友人である少女がパイロットスーツを着こんでディアナを動かしていたのだから。
「起動完了・・・・よし・・・行きますわよ!」
静はディアナのコクピットで拳を握り締めた。するとディアナも同じように拳を握り締める。ディアナは搭乗者の動きを正確にトレースするモーションダイレクト方式を採用しているのだ。
「量産型ディアナ出撃します!ハッチをあけてくださいまし!」
次回予告
静お嬢様、ついに出撃!量産型ディアナは果たして極東基地を救えるのか!?
そして、導かれる様に謎の少女が大変身! 歌うぞ!響け!愛のメロディー!!これでDNAも萌え萌えだ!
さらに新たな仲間ビリーは、信じていたものの正体を知る!うなる銃弾は夢想を貫き、真実の愛を知る!
次回、サイバーロボット大戦第三十三話 「萌える波動 エモーショナルハートアタック!」に、響け!その魂!
次回も、電脳少女がすげえぜ! 「歌って♪踊れるVRってアタシぐら〜い?」