第三十一話 「強襲!第二世代!」




 TDFの戦力は、オンディーヌ隊だけではない。
 極東方面には、まだ戦力はあるのだ。そして、天宮や香坂財閥と言った出資者のおかげで、TDFは戦力を回復しつつあった。
 東アジア近辺・・・・・キスレブやソラリスに関りを持っているといわれる『教会』と呼ばれる組織、発掘ギアの修復や採掘権を独占的に有している。
 だが、その組織は表面的には中立を保っており、今だその確証や正体が掴めていない。
 中立地帯では、基本的に戦闘はご法度である。だが、そんな事もお構いなしに、戦闘を繰り広げていた。

 「ぐわっ!」
地響きを立てて、ブラッドのスーパーアースゲインが荒野に仰向けに倒れた。
 「ブラッド!!」
カーツのヴァイローズが駆け寄ろうとするが、次々と飛んでくるグレネードが行く手を阻む。
 「畜生・・・まだまだ・・・」
よろよろと立ちあがるスーパーアースゲイン。目の前の機体を恨むように睨み付けた。もともと目つきの悪いブラッドだが、にらみつけると凄みが増す。
 「こんな中立地帯まで侵攻してきやがって・・・・」
 スーパーアースゲインの右の正拳が、目の前の機体に向かって突き出される。
 「は!はええ・・・」
その機体は、紙一重で正拳を回避すると、お返しとばかりに右肘を叩きつけてきた。肘に仕込まれたビームトンファーがスーパーアースゲインを吹き飛ばす。
 「ぐう・・・・」
 そして、その機体はトドメとばかりにジャンプした。
(ヤベエ・・・・)
ブラッドは冷や汗が流れ落ちるのを感じていた。ジャンプした機体は、滑り降りるようにスーパーアースゲイン目掛けて、跳び蹴りを放ってきた。俗世間では
『ライダーキック』といわれる蹴りだ。
 ブラッドは死を予感した。

 
「光刃閃!!」
キックを放ってきた機体に向かって、ヴァイローズに似た機体が鋭い太刀で、その機体を叩き切った。
爆発を背に受けて、スーパーアースゲインを庇うように降り立つ機体。
 「アクセル中尉!」
ブラッドが思わず声をあげた。スーパーアースゲインの前には、マントを構えた機体・・・・『ヴァイサーガ』が立っていた。
 「大丈夫か?ブラッド。」
アクセルはブラッドに呼びかけた。
 「はい・・・なんとか・・・」
 立ちあがるスーパーアースゲイン。
 「これ以上は無理だ。ここから撤退するぞ!ラミア!!」
アクセルは自分と同じ、もう一機のヴァイサーガに呼びかけた。
 「何だでございますですの?」
いたって調子の狂う返答が帰ってきたが、アクセルは気にしない。
 「撤退する!これ以上は危険なんだな・・・これが。」
 「了解だでございますです。」
ラミアのヴァイサーガが、マントに身を包みながら後方へ突進する。
 「私とカーツで、突破口を開く!マナミ達はブラッドを援護だでございます!」
 「了解です、中尉。」
背中に翼をしょった女性型の機体『スイームルグS』から少女の声で返答があった。
 スイームルグSはスーパーアースゲインを抱きかかえ、移動をはじめた。
 「ブラッド!しっかりなさって!」
 「貴方、それでも武道家ですの!」
スイームルグSから、二人の少女の声がブラッドに呼びかける。
 「すまねえ・・・畜生、あんな奴に・・・」
 「泣き言は後なんだな!俺がしんがりを努める!」
アクセルが後退していく仲間を守るように立つ。勿論マントで防御姿勢をとっている事も忘れない。
 (正直・・・・こんなに苦戦するとは思わなかったんだな・・・これが・・・)
 自分たちに迫る、迷彩塗装を施した軍人を思わすロボット達に、冷や汗を流すアクセル。タイプは2種類だけだが、その戦闘力はあなどれない。
 どうやら同型の機体だが、武装が違う。片方は機関銃を二丁拳銃で装備し、肘にビームトンファーを備えている。接近戦タイプだ。
 もう片方は、右肩にロケットランチャーを装備し、左腕にグレネードランチャーがあった。腰には鈍く光るナイフ・・・火力強化タイプらしい。
 どちらも、小回りが効く上に、移動速度も速い。このヴァイサーガですら追い抜くスピードだ。
 (ナンブ大尉のアルトでも・・・やばいかも・・・。くそっ!DN社の新型・・・・予想以上なんだな・・・)
 アクセルは逃げ切れるかどうかの確証が持てなかった。最悪でも可能な限り踏みとどまり、ブラッド達が退却する時間を稼がなくては・・・・
 目の前には、接近戦タイプが音速を超えるスピードで突っ込んでくる。接触まで数秒も無いだろう。そのコンマ数秒の間でアクセルは判断を下した。腰に下げている太刀を構えた。カウンターで一気に斬る!これしかない・・・
 接近戦タイプのビームトンファーが輝く・・・・。ヴァイサーガは太刀を抜いた。



 「へえ・・・じゃあユグドラの連中は、ハワイにとどまっているのか。」
久々の日本・・・・。極東基地に戻ってきたホワイトローズのブリッジで、ジュンペイはゲッPチームから事情を説明されていた。
 「ああ・・・フェイの治療の為にな。そこで面白い奴と知り合ったぞ。教会のエトーン(贖罪官)で、ビリーって言うガンマンの司祭だ。」
 ケイが嬉しそうに言う。その横でジンが苦笑していた。
 「ガンマンの司祭?なんだそりゃ?」
 「死霊(ウエルス)っちゅう、まあ簡単に言えば悪霊退治屋や。ソイツになジンの奴、射撃訓練で負けたんや。」
 リキがニヤニヤしてジンの方へ向く。
 「へえ〜。オンディーヌきっての射撃屋のジンを負かすとは。すげえじゃん。」
その言葉にジンは黙っていた。結構悔しいらしい。
 「ソイツのおかげで、教会の薬品を手配してもろうてな。フェイの奴助かったんや。」
 「そうか・・・。じゃあ何か礼をしなきゃなんねえな。」
 そこへリアが割り込んだ。
 「彼なら、近いうちに日本へ来るわよ。なんでも、この近くに死霊が出たらしいのよ。それの退治の為に。」
 「そうか。ならその時に礼を用意しとこう。ジンもリターンマッチが出来そうだな?」
わざと意地悪そうにジンを見るケイ。ジンはフン・・・と言ってそっぽを向いてしまった。
 「移動にユグドラに同乗させてもらうらしいわよ。バルト君がお礼も兼ねて・・・。とか言って。」
 リアはそれだけ言って、ブリッジへ向かった。
 「フェイが元気になったら、また手合わせがしたいぜ!」
ケイは、楽しそうに言った。


 「3機そろったな!」
極東基地の格納庫で、リュウセイが目の前の機体を見上げていた。彼の目の前には、SRX計画によって生み出された念動マシン3機が黙って立っていた。
 「これに、プラスパーツがあればいつでもSRXに合体できるぜ!」
嬉しそうに声をあげるリュウセイ。念動マシン・・・・Rマシンは、R−1・R−2・R−3はそれぞれプラスパーツと呼ばれる増加装備を施すことで、一撃必殺型PT『SRX』へと合体が可能となるのだ。
 それは、リュウセイが憧れるスーパーロボットそのものであった。
 「今のままじゃ、合体できないの?」
リュウセイと一緒にいた大地が話し掛けた。隣にはりきとユナもいる。
 「・・・・・分析結果からして、今のまま合体したら、両手足が無いですね。それと頭部がR−1のまま・・・と言うのは防御面で不安が残ります。」
 ユナの肩の上辺りで浮いているエルナーがそう判断した。
 「お!さっすが英知のエルナー。分析早いじゃん。そ〜なんだよ。R−2のプラスパーツが両腕、R−3のプラスパーツが両足なんだよ。」
 「頭は?」
 ユナが尋ねると、リュウセイはR−1のシールドをしめした。
 「・・・なるほど、シールドが頭部パーツになるんですね。」
エルナーの答えにリュウセイは笑顔で頷いた。
 「じゃあ、プラスパーツってのがねえと、合体できねえんだな?残念だぜえ・・・」
りきが残念そうに呟いた。リュウセイも頷いて同意する。
 「じゃあ・・・代わりの手足付けるってのはどうかな?エルラインも合体ロボだから、エルラインの手足付けるとか!」
 ユナが笑顔で提案する。エルラインは頭部と胴体を構成するエルナーに、サポートアンドロイド三体が両手足を構成して合体するのだ。
 つまり、ユナはプラスパーツの代わりにサポートアンドロイドをSRXに合体させようと言うのだ。
 「出来るわけありませんっ!大きさが違いすぎます!それに規格が何から何まで違うんです!無茶を言わないで下さい!」
 エルナーが怒鳴った。
 「・・・それに問題は、それだけでは無いようですよ。」
エルナーが何か分析して言った。
 「・・・・装甲の強度に課題があるようですね。ヴィレッタ隊長にデータを見せてもらった事があるんですが、疲労が溜まってるようですよ。」
 その言葉に、りきが驚いた。
 「ロボットも疲れが出るのか!?」
 「・・・出ますよ。」
 「んじゃあ・・・風呂に入れたり、肩揉んだりしてやったりしねえといけねえんだな・・・」
その言葉に、エルナーは地上に落ちそうになった。
 ユナとリュウセイの頭に、風呂に浸かるSRXの姿が浮かんだ・・・・
 「その前に、SRXが入れる風呂場作らないと。SRXって50mもあるからな・・・」
リュウセイが進言する。
 「ツインザムで穴掘って、温泉みたいにすればいいんだよ!」
大地が嬉しそうに言った。リュウセイやりきが、「なるほど!」という顔をしていた。

 「・・・・・金属疲労・・・・と言うんです・・・。」
エルナーが感情を押し殺しながら、説明した。エルナーが辛抱強く言うには、エルナーは以前、ヴィレッタからデータを見せてもらっていた。SRXの装甲は、『ゾル=オリハルコニウム』と言うEOT(エクストラ・オーバー・テクノロジー)金属を使用していた。
 非常に頑強で、柔軟性に富んだ素材ではあるが、それでもSRXの強大なパワーと、リュウセイとアヤの念動力に耐え切れない事が判明していた。
 常時、装甲を取り替えれば問題は無いのだが、ゾル=オリハルコニウムの精製には時間と費用が掛かり、しかも詳しい精製方法を知るイングラム=プリスケンは、TDFにはもういない・・・・。
 TDFに残されているオリハルコニウムは、ごく僅か。SRXの装甲は、現在R−1・R−2・R−3・R−GUNに使用されている分しか残されていないのだ。

 「じゃあ、合体できても・・・・」
ユナが尋ねると、エルナーではなくリュウセイが頷いた。
 「今のままじゃ、10回ぐらいしか合体できないんだよ・・・ロバートとライがそう言っていた・・・。」
10回・・・・それがSRXの整備を担当していた技師、ロバート=オオミヤの出した結論だった。多少の無理は効くが、SRXの寿命を縮めてしまう・・・。
 イングラムから全権を引き継いだヴィレッタさえ、詳しい精製方法は知らない・・・。
 「SRXの装甲を・・・いやSRXの機体その物を保護する物が必要・・・と言うわけ。それが・・・」
リュウセイはそう言って、R−マシンの隣に立っている機体に目を移した。・・・R−ガーダーとR−ブースターがあった。
 「あの二機が、SRXの延命処置と安全装置なのさ・・・」
 「ふうん・・・あの二機も合体するんだ。何処にくっつくの?」
大地が尋ねると、リュウセイは頭を悩ませた。
 「R−ブースターが背中らしいんだが、R−ガーダーは・・・・何処だろう?」
リュウセイはゴリラのような体格のロボットが、どうやってSRXに合体するのか知らされていなかった。

 「そりゃそうと・・・・、あのロボット何?」
ユナがR−ガーダーの傍にあった大型のロボットを示す。
 「あれは・・・参式だ。グルンガスト参式。なんでもアヤと一緒に編入してくる機体だ。」
 「アヤって人は、リュウセイさんやライさん達のリーダーだよね?じゃあ、また新しい人が入るんだ。」
大地が言うとリュウセイは頷いた。
 「参式のパイロットってどんな人だろう?」
ユナが呟く。
 「ゴツくて、漢(おとこ)らしいロボットだぜ!屈強な戦士・・・ライードの兄貴やゴンザレス軍曹みたいな奴だぜ!きっと!」
りきが断言するように言う。だが・・・
 「将輝さんと香田奈さんの妹さんですよ。13歳らしいです。」
エルナーが言うと、全員ずっこけた。



マウントポジション───それは、解りやすく言うと、倒れた相手に馬乗りになると言う態勢である。
 この態勢には利点がある。相手に馬乗りになる事で、最たるダメージを負わずに相手に攻撃を加えることが出来る。
 相手は寝そべった状態のうえに、敵が自分のボディの上に乗っている為、腰の入ったパンチが撃てず、しかも蹴りも封じられているからである。
 反対に攻撃する方は、相手を滅多打ちにできるし、相手のガードも崩しやすい。子供の喧嘩のように見えるが、実に合理的で有効なスタイルなのだ。実際の総合格闘技の試合によく用いられるスタイルとしても有名である。

 「ばかっ!ヘンタイッ!シスコンッ!」
薙の腰の入ったマウントポジションからのパンチが将輝を滅多打ちにしていた。馬乗りの態勢を実際やるとどうなるか・・・・と言うお手本がそこにあった。
 「このぉぉ・・・・馬鹿アニキッ!!」
薙の渾身の一撃が将輝を捕らえた。薙の左拳が将輝の鼻血で赤く染まる。
 「ぎ・・・ぎぶ・・あっぷ・・・」
 将輝が降参の意思表示を示すと、薙はようやく馬乗りの態勢を解いた。
 「ふんっ!」
鼻息も荒く、薙が怒りに燃えた目で、倒れている将輝を見下していた。
 「お兄ぃが、シスコンでお姉ちゃん子だって事は・・・・解ってるけど・・・・今日と言う今日は愛想が尽きたわぁぁぁ!!」
 怒りがおさまらないのか、左の手刀を将輝の腹にぶち込んだ。
 「!!」
 強烈な一撃を食らい、のたうち苦しむ将輝。
 「トドメを刺してやる・・・・・」
左の拳を強く握り、狙いを定める薙。
 「な・・・薙ちゃん・・・もう・・・やめて・・・」
オロオロしながらうろたえる香田奈。
 「お姉ちゃんは黙ってて!だいたいお姉ちゃんが甘やかすから、こんな風になるんでしょ!」
 香田奈に一喝して、構える薙。
 「叔父さんが言ってたわよ!『香田奈は将輝を甘やかせすぎだって』、あたし情けなくってぇぇぇ・・・」
若干13歳の薙が、22歳の香田奈より年上に見える。
 「この馬鹿兄貴放り出して、あたしがR−ガーダーに乗るっ!参式はゼンガー少佐に返せばいい!」
 構えが定まった。後はやるだけ・・・の態勢に薙は入った。
 「薙ちゃん・・・本当にもうやめて・・・・お願い・・・」
将輝を庇うように薙の前に出る香田奈。
 「う・・・・」
 香田奈の必死な態度と、ウルウルとした瞳にたじろぐ薙。
 「解った・・・・。お姉ちゃんに免じて許してあげる。」
ようやく構えを解く薙。
 「・・・・お姉ちゃん。お兄ぃ介抱する前に、服・・・着てよね・・・。」
 「後じゃ駄目?」
 「今着て・・・・」
香田奈の現在の格好・・・・裸体にバスタオル巻いただけ・・・の状態であった。ちなみに将輝は普段着だが・・・着替えの途中だった。

 薙は、久しぶりに香田奈に再会できる事を喜び、ホワイトローズが極東基地に到着すると、一番先に乗艦許可を貰い、香田奈の部屋に駆け込んだのだ。場所はアヤから聞いていたので迷いはしなかった。
 だが、ここでアヤは薙に、香田奈が将輝と相部屋と言う事を伝えるのを忘れていた・・・・
 喜びいさんで、部屋の中に入って、薙が最初に目にしたのは、着替え途中の将輝だった。
 「ん?・・・・お前、薙か!どうしたんだよ!?こんな所に!」
薙より将輝の方が驚いていた。
 「それに、お前のそのジャケット・・・SRXチームの・・・」
将輝は着替え途中という事も忘れて、薙の登場と格好に驚いていた。ここまでなら、まだ事態は大きくならずに済んだのだが・・・・
 「どしたの?しょうちゃん・・・。騒がしいけど・・・」
部屋のバスルームから香田奈がひょっこり顔を出したのが、不幸であった。
 「・・・・・・・・」
薙が見たもの・・・・・着替え中の兄・・・全裸の姉・・・・しかも二人が同じ部屋にいる・・・・。
 薙の頭の中に、すさまじい光景が瞬時に浮かび上がった。しかも部屋を見れば、ベッドのサイズがデカイ・・・・
 薙の感情が怒りと嘆き、そして憎しみ・・・・ありとあらゆる負の感情に支配された。
そして・・・感情の赴くままに行動・・・。その矛先は将輝に向けられた。


 「いってえ・・・・俺が何したってんだよぉ・・・」
 打撲を冷やしながら将輝が嘆いていた。
 「紛らわしい事するからよ。相部屋なら相部屋って最初から言ってよね。しかも・・・ま〜だ暗所恐怖症が直ってなかったとは・・・情けない。」
 薙は、反省の色も見せず、悪態をつく。
 「うるせえ・・・。怖いモンは怖いんだよ・・・」
 「そういや、中学卒業するまで、停電なんかで夜真っ暗になった時、添い寝してもらわなかったら、眠れなかったもんね、お兄ぃ。」
 わざと意地悪そうに言う薙。将輝の顔が真っ赤に染まる。
 「今もそうなの?まったく・・・さっさとお姉ちゃんを解放してあげたら?」
 「・・・ったく可愛くねえ妹・・・。あのベッドサイズにしたのは姉ちゃんだよ・・・」
 「あら?そうなの?まっ・・・・変な事しなけりゃ別にいいけど。間違いだけは起こさないでよ。」
 「するかっ!!」
将輝怒鳴る。その会話を聞きながら着替えている香田奈は、頭の中で謝っていた。
 (ごめん・・・)
決して口には出せなかった。香田奈は心の中で謝っていた。


 「・・新たに、アヤ大尉と匕首薙か・・・。それと赤井ほむら・・・・予想外の増援だな。」
通信室で、モニターに映る男性と、ヴィレッタは対話していた。他には誰もいない。他の人間に悟られたくないように極秘に行っているようだ。
 「ええ・・・予想外です。ですが許容範囲内よ。」
 「そうだな・・・。こちらでも手を打っておいた。伊集院が口外する事は無いだろう・・・」
 ヴィレッタはモニターの男性に軽く頭を下げた。
 「面倒をかけるわね・・・。」
 「構わない・・・・。こちらが『影』になっていることを知られてはいないな?」
 「ええ・・・知っているのは、レイカさんとリアさんだけよ。」
男性は、その言葉に頷いた。
 「・・・それと、八号機は建造が順調だ。『ノーザンライツ』もテスト段階までこぎつけた。量産タイプのディクセンの生産も問題無い・・・。」
 ヴィレッタは頷いた。
 「それと・・・ソラリスの勢力が急に衰えたと言う情報を掴んだ。ここ一週間ほどで、七割以上の戦力を失っている。本国コロニーとその空域以外の戦力は、殆ど失われたと考えていいだろう。」
 ヴィレッタの眉が動いた。
 「何ですって・・・ソラリスが・・・」
 「DN社だ。ついに量産態勢が整ったらしい。それに関してと思われるが、DN社内で大規模な派閥抗争が起きたと言う・・・・。エクセレンからの情報だ。間違いは無い。」
 「そう・・・ナンブからは、何か無い?」
 「キョウスケからは、どうやらDN社内で新たに部隊が新設されたという報告がある。しかもDNAとは別系統の派閥からの・・・」
 「DN社内で、内戦でも起こすつもり・・・?」
ヴィレッタには考えも出来なかった。だがキョウスケやエクセレンという信頼できる部下からの情報だ。間違いはない。
 「どうやら活発に行動しているのは、別系統の派閥の部隊らしい。月のDN社のプラントが活発だ。下手をすれば、宇宙での勢力はDN社一色に染まる事も考えられる。」
 頷くヴィレッタ。

 「それと・・・直接関係がないが、バーチャロイドの第一者『プラジナー博士』が、行方不明らしい。それに関する極秘情報も手に入れた。」
 「極秘情報?」
 「どうやら博士は『自我意識を有するVR』を開発していたそうだ。コードネームは『オリジナル・フェイエン』。」
 「自我意識!?バーチャロイドが自分の意思や感情を持っているというの!?」
流石にこれにはヴィレッタも驚いた。ただの月の遺跡を利用した高性能な戦闘用人型兵器であるバーチャロイドが自らの意思や感情を有していると言うのだ。
 「全てのバーチャロイドに感情や意思が備わっているらしい。だが、通常のVRはリミッターをかけられている為、それが表面化する事は無い。リミッターを解除しても、人間のように言葉を発したり・・・と言う事は無いらしい。ただ・・搭乗者には逆らったり、暴走したりするらしいが・・・。」
 「以前からバーチャロイドの学習能力が優れていると思っていたが・・・・自我意識のおかげだったんですね。」
男性は頷いた。
 「背部の家庭用ゲーム機器に酷似した部分・・・『V=コンバーター』・・・。色々秘密がありそうですね。」
 「話を戻すが、そのオリジナル・フェイエンというVRは、自らの感情を有し、人語を理解する事も、言葉として発する事も出来る・・・。」
 「まるで、人間そのものですね・・・・」
 「ああ・・・。そのオリジナル・フェイエンと言うVRも、博士の失踪に呼応するように消息が掴めなくなっているらしい。現在配備されているフェイエンは、オリジナルの外観を真似たレプリカらしいがな・・・。まあ・・・頭の片隅にでもいれておいてくれ。」
 男性の言葉にヴェレッタは軽く頷いた。
 「・・・・それでは、本題に入ろう。」
男性は、ヴィレッタに指示を出し始めた・・・・



───アジア戦線
 TDF特殊機械連隊所属、第1PT試験遊撃部隊。通称『ナンブ隊』
試作・評価試験機を中心としたPTの遊撃部隊である。その目的は、試作機や評価試験機の実戦及び実地での運用データを収集する事である。
 だがその実情は、高性能な新型PTを有しての、アジア戦線を転戦する助っ人専門・・・または便利屋のような部隊として運用されている。
 現在、部隊長である『キョウスケ=ナンブ大尉』は、特務により不在であり、部隊のナンバー3であった『ラミア=ラヴレス中尉』が代行している。
 そして、DN社の部隊から命からがら後退に成功したラミア達は、拠点である超大型輸送機で、傷ついた愛機を休ませていた。

 「派手にやりましたな。」
 隙も無くタキシードを着こんだ初老の紳士が、目の前のスーパーアースゲインとヴァイサーガを見て、ほっほっほと微笑しながら言った。
 ブラッドのSアースゲインは全身被弾だらけ、アクセルのヴァイサーガは左腕が肘から先が無く、足元に転がっている左腕が握っていた剣も折れていた。
 「しかし・・・アクセル中尉は、几帳面な方ですな。もげ落ちた左腕を拾って帰るとは。修理がしやすくて助かりますな。」
 またしても軽く笑いながら、さっそく修理に取り掛かろうとしていた。
 「すんません・・・よろしく〜。」
アクセルが初老の紳士に苦笑しながら頭を下げた。
 「・・・・これからどうするんですの?中尉・・・」
マナミ=ハミル少尉がアクセルに尋ねてきた。彼女はTDFの出資者のご令嬢だが、かなり腕の立つパイロットで、親戚の少女アイシャと共にスイームルグSで、戦っていた。
 「どうすんのかな〜?ナンブ大尉もブロウニング大尉もいないし・・・・PTはボロボロ・・。」
楽観的にいいのける。どんな時にも、楽天的なのがアクセルの長所だ。
 「救援でも要請しますかな?撤退しようにも、DN社に制空権押さえられてるしさ・・・」
そう言って、空を見上げた。ここからでは見えないが、この地域の制空権はDN社の新型VRに、完全に押さえられていた。
 「可変VRとはね・・・。新型ぞろいか・・・DN社・・・」
撤退ルートを確保しようと、飛び立った量産型グルンガスト弐式の小隊が、可変型VRの猛攻の前に全滅した。
 しかも新型VRの侵攻速度は早く、この輸送機の場所まで侵攻してくるのは時間の問題だろう。残されているPTで輸送機を死守しつつ、撤退するのはかなり難しい。敵VRの性能の高さは予想以上だ。
 「予想到達時刻は、48時間・・・。幸運の女神付きでな。」
ヴァイローズのパイロットであるカーツが、思いっきり不機嫌な顔で言った。
 「今・・・電算室で調べてきた。48時間で、俺達の運命が決まるって訳だ。」
 吐き捨てるように言い放つカーツ。半ば諦めムードが漂っている。
 「・・・・そりゃそうと、医務室で寝てるブラッドはともかくとして、隊長代理は何処に行ったんだ?」
カーツが周りを見渡すが、ラミアの姿は見えない。
 「通信室。救援を要請してるんだな。」
アクセルが笑顔で答えた。

 「・・・・現状は、報告通りだでございます。48時間・・・それ以上は持ちこたえられないのだです。」
通信室で、北京基地に向けて救援を要請するラミア。こんな時でも、変な口調は変わらない。
 「Sアースゲイン破損ならびにパイロット負傷・・・・ヴァイサーガ一号機小破。現戦力では輸送機防衛が限界なのでございますの。」
 モニターに映る、北京基地の将校が不可思議な顔をしながら応対していた。どうやらラミアの調子の狂う言葉に慣れていないのだろう。
 「大至急、救援を要請いたしやがるでございます。」



───月
 月面都市の中心部・・・・DN社本社ビル
 その近辺に存在する高層マンション。DN社社員用の社宅や寮といった所だ。
マンションの一室。妻帯者用の2DKの部屋・・・・
 ガシャン・・・重い金属製の玄関の扉が開いた。ビジネススーツを着た男が入ってきた。
 「おかえりなさ〜い、ダーリン♪」
男が言葉を発するより早く、エプロン姿の金髪の女性が甘い声を出した。
 「・・・その言い方はやめろといっただろう・・・ただいま。」
 男は照れ隠し気味に答えた。その様子に女性はにっこりと微笑む。
 「ご飯にする?それともお風呂?・・・・それとも〜」
意地悪そうに寄り添ってくる女性。男はそのままの表情で言葉を返す。
 「連絡が先だ・・・・。新しい情報が入った。」
 「解ったわ・・・」
 傍目から見れば、新婚夫婦がいちゃついてるとしか見えない光景だが、その目は真剣その物だった。
男は部屋の中に入ると、オーディオに偽装した通信装置を動かし始めた。
 「・・・こちらキョウスケ=ナンブ大尉。・・・新しい情報が入った。暗号通信VXー005・・・」

 仲の良い新婚夫婦に見えるこの二人は、DN社の社員ではない。DN社に潜入しているTDFの軍人であった。
キョウケ=ナンブとエクセル=ブロウニング・・・・。アクセルやラミア達の上官だ。上層部の特命によりDN社に情報収集の為に潜入していたのだ。
 当初は、ラミアとアクセルが潜入する予定だったのだが、夫婦としてDN社に潜り込む方が、気づかれにくい・・・という事になったので、恋人同士であったキョウスケとエクセレンが潜入していた。

 「・・・以上。通信を終わる。」
キョウスケは必要な情報を、詳しくだが簡潔にまとめて報告した。その時間は、僅か数十秒。DN社は通信ネットワークを専門とする。長時間の通信は危険だ。
 長くなりそうな情報は、隠してあるPTから通信を行うことにしている。
 「ふう・・・・あの人も人使いが荒いわね〜。・・・現状維持も大変なのに〜」
エクセレンが、食事の準備をしながらぼやいた。あの人というのは、通信をいれた人物について言っているのだ。
 「・・・そうか。お前は楽しんでいるようにも見えるが・・・」
キョウスケが、堅苦しいビジネススーツを脱ぎながら言う。
 「あ?解る?やっぱり。」
舌を出して微笑するエクセレン。その様子にキョウスケは口元を緩ませた。キョウスケもまんざらでは無いらしい。部隊にいた頃は激務に囲まれて、なかなか二人きりの時間が持てなかったからだ。
 任務とは言え、やはり二人きりと言うのは嬉しい物だ。
 「ねえ〜、いっそのこのまま、DN社にとどまらない?それで〜新婚生活をエンジョイするの〜♪」
エクセレンが甘えた声を出してくる。とんでもない冗談だが、キョウスケはあえてのった。
 「・・・悪くないかもな。DN社の整備士としての仕事にも慣れて来たしな・・・。給料も悪くない。」
 「うふふ・・・子供は何人欲しい?キョウスケぇ〜。」
 悪乗りするエクセレン。さすがにキョウスケも苦笑したが、答えることにした。
 「お前は何人欲しいんだ?確かに安産型の体形だしな。」
 「もうっ!」
 怒るエクセレンを見て、キョウスケは笑った。



 補給と整備を終えたホワイトローズは、一部のメンバーを除き、アジア戦線へと向かっていた。
一部のメンバーと言うのは、レイカとジン=サオトメの事だ。この二人がいない事は痛手だが、新たに数機のロボットが参戦しているし、キカイオーも復活した。メンバー達は負ける気がしなかった。
 「今回の任務は、アジア戦線での友軍の救出だ。」
ヴィレッタは、そう説明した。
 敵の新型の大量投入によって、友軍の部隊が全滅の危機に瀕していると言うのだ。今回の任務は彼等を救出し、可能であれば敵新型兵器の殲滅にある。
 「敵新型の性能は予想以上らしい。各員、気を引き締めて欲しい。」
ヴィレッタの説明中に、サイモンが手を上げた。
 「敵の勢力は?新型ってのは、一体何なんだ?」
 「DN社だ。新型というのは・・・」
その言葉にサルペンが、はっとした。
 「ま!まさか!」
頷くヴィレッタ。
 「そうだ・・・・。敵の新型とは、
『第2世代型バーチャロイド』だ。」



 ホワイトローズの格納庫で、サルペンは目の前の赤いテムジンを見上げていた。
 「第2世代型・・・こんなに早く相手をする事になろうなんてね・・・。恐らく第8プラントの息が掛かった連中かもしれない・・・」
 第8プラント・・・その名の通り、VRを建造する八番目のプラント(工場)の事だ。サルペンがまだDNAに所属していた頃、不穏な活動を噂されていたのが第8プラントで、DN社最高幹部『アンベルW』の派閥のセクションだった。
 アンベルW・・・・本名、ディフューズ=アルフレート=ド=アンベル=フォース。通称アンベルW。
DN社内で、最近になって(サルペンが所属していた頃)、頭角を現してきた若手幹部だ。主にバーチャロイドの開発・生産を担うプラントの実権を握っておりDN社内の最高幹部会でも強い発言力を持つ。野心家としても知られており、紳士たる態度と容姿に隠された冷酷さを知る者は多い。
 サルペンはDNA所属であった為、彼の派閥ではないが、以前ある作戦行動にアンベルWが介入し、彼の指揮下で働いた事もあったので、くせものと言う事は知っていた。

 「第2世代型・・・・勝てるのか・・・?現行のVRで・・・」
目の前のテムジンは、第1世代型VRの中でも、最も汎用性に優れた機体だが、パワーに関しては一歩劣っている事は拭い切れない事実。
 第2世代型の前で、何処まで通用するか・・・・。その不安が彼女の脳裏を流れている。
 「サルペン准尉!」
黙ってテムジンを見上げているサルペンに声がかけられた。彼女が振り向くと、そこにはお嬢様軍団の一人、教養のエミリーが駆け寄ってきた。
 「どうかして?」
 「はい。准尉用のライデンの修理が終わったんで、知らせに来たんです。」
 その言葉に、サルペンは心の中で「よし・・・」と言った。ライデンなら、何とかなるかもしれない・・・・。僅かな希望が彼女の胸の中に宿った。
 ・・・・・だが、そんな僅かな希望すら打ち砕かれてしまった。


 「弾幕を絶やすな!ラファーガとバイパーだけでは無理だ!空戦可能な機体は、艦の護衛に回せっ!」
艦長がチェンミンに向かって大声をあげる。その顔は必死だ。
 「了解!リュウセイ少尉、ゲッPチームは艦の護衛にあたってください!敵を近づけないで!」
オペレートするチェンミンの顔も必死だ。ブリッジから覗く空には、無数の赤い戦闘機が雨のようにビームバルカンを放ってきていたのだ。
 「・・・装甲は薄いようだが・・・・」
 赤い戦闘機達とドッグファイトを行っているラファーガのサイモンが一機撃墜したが、冷汗の落ちを防げなかった。
 「スピードが、桁違いに凄まじい。」
 前進翼を有し、安定性と引き換えに空間機動性を追及しているラファーガに反し、この赤い戦闘機はオーソドックスな後進翼を有し、そのスピードはラファーガとは比べ物にならないぐらい速い。
 「だがな・・・・飛行機で、俺に勝つつもりかい?」
サイモンはニヤリと笑みを浮かべた。ターゲットサイトには既に赤い戦闘機がレンジに何機か入っている。
 「くらえっ!」
 ラファーガの翼下パイロンから、白線を描きながらマイクロミサイルが発射された。スピードで負けても機動性はこちらの方が上だ。この距離からのミサイル攻撃、高速タイプの戦闘機に回避は難しい。
 「お前さん達もミサイルぐらい積んでおくんだな。」
 撃墜を確信したサイモンが自慢げに口走る。事実、既にミサイルの斜線上に戦闘機はいる。回避はまず不可能だ。
───ドカン
 ミサイルが爆発した。だが、戦闘機に命中した訳ではない。迎撃されたのだ。ラファーガが放ったミサイルは全て迎撃されていたのだ。
 「そんな馬鹿な!戦闘機があの体勢でどうやって!?」
 サイモンの疑問はビームバルカンと共に答えられた。ラファーガに向かいビームバルカンが飛びこむ。サイモンはとっさにファイター形態から対弾性の高いソルジャー(人型)形態に変形する。急な変形によって、機体周囲の空気の流れが乱れ、ラファーガに強烈なエアブレーキが掛かり、ラファーガは失速していく。勿論、回避も兼ねての行動だ。
 「奴も・・・可変タイプか・・・」
サイモンの目の前で、赤い戦闘機は姿を変え、細身で鋭利な刃物のように鋭い直線的な装甲を持つ人型兵器へと姿を変えていた。
 その時、サイモンは見た。戦闘機から変形した赤い機体の背中にあるオレンジ色の渦巻きマーキングが施された白い正方形の物体を・・・
 「あれは!?家庭用ゲーム機器!・・・に、似た装置・・・と言う事はコイツら!」
 確信を得たように、サイモンは目を見開いた。
 「こちらサイモン!やつらは戦闘機じゃない!やつらは・・・やつらはバーチャロイドだ!!」


 地上から砲撃を行っているロボット達に向け、一機の真紅の戦闘機が突っ込んできた。
 「気づくのが遅すぎましたね。サルペン准尉。」
指揮官機らしい真紅の戦闘機がサルペンのライデン目掛けて突進してきた。しかもやたらなれなれしく話しかけてきている。
 「この回線を知っていると言うことは!」
 サルペンのライデンが空中から迫り来る戦闘機にフラットランチャーを差し向けた。勿論すぐに発砲する気は無い。脅しだ。
 向こうも、脅しと言う事は解っているようだ。サルペンのライデンから少し距離を置いた地点に、人型に変形して着地した。サイモンが見た機体と同じだが、右腕に大型の折り畳み式ナイフのような武器を携えていた。
 「お久しぶりですね、ミミー=サルペン准尉。まさかこんな僻地の戦場で貴方と再開できるなんて。」
パイロットは女性のようだ。落ちついた雰囲気を思わせる大人の女性の声だ。
 「『207』とマーキングされたライデンを見て、もしや・・・と思いましたが、はやり貴方で間違い無かった・・・。生きておいでだったんですね。」
 丁寧な言葉使いだが、明らかにサルペンを嘲笑している言い方だ。
 「おかげさまでね。新しい職場は結構気に入っているわ。『シルビー=ファング』中尉。」
思いきり皮肉を込めて言い返すサルペン。
 「それが噂に名高い、次世代バーチャロイド?結構な物ね。」
 シルビーと呼ばれた女性中尉は微かに口元を緩ませた。
 「そうですよ。第2世代型・・・私の乗機が、バイパーUの流れを組む『高機動可変機体サイファー』です。」

 高機動可変機体サイファー
バイパーUをベースに開発が進められていたVRだ。DN社の第6プラントが中心に開発が進められ、DN社が誇る新システム『ハイブリッドV=コンバーター』の開発に成功してこそ得られたVRだ。
 可変システムの導入により、トランスポーターなどの地上支援システム無しに、長距離間の行軍、そして高速移動が可能となったのだ。

 「ご丁寧な説明どーも。んで、DNAきってのエース『薔薇の三姉妹』のリーダーで、アンベルWの秘書官の貴方が、どうしてこんな僻地に?」
 「ええ、我々・・・DN社は、第2世代型VRの量産体制が整いましたので、実戦テストですよ。ここアジア戦線は、TDFの新型PTの前に膠着状態が続いていましたので。」
 事務的に語るシルビーに、軽い腹立ちを隠せないサルペン。
 「・・・それで、貴方が陣頭指揮に?ご苦労様ね。」
そこでサルペンは、ランチャーを構えた。
 「お話はこのぐらいでいいかしら?昔から貴方とアンベルWには、私・・・気に入らなかったのよ。」
 「それは奇遇ですね。私もですよ。」
 会話が終わると同時に、両者は発砲した。ライデンのランチャーは軽々と回避され、サイファーのビームバルカンはライデンの分厚い装甲には通じていない。
 「空中での機動性はいいみたいだけど、地上ではそうでもないみたいね!」
バイパーUの流れを組む・・・と言う事から、機動力重視のVRと言うのは一目瞭然。だがその機動性は空中での話だ。空力重視のデザインがそれを物語っている。その為に地上速度は空中移動速度ほどではない。(それでも、かなり素早いのだが)
 素早い事は素早いが、捕らえられないほどのスピードではない。動きをある程度予測してランチャーを立て続けに発砲する。
 向こうもそれは解っていた。早々に自分の得意なフィールドに戻る。すなわち空へ・・・・
 空中のサイファーの胸が輝く。サルペンは察した。バイパーUにも同じ武器がある。胸部からのホーミングビームだ。次世代機なら威力も向上しているだろう・・・サルペンは回避行動を取る。
 シルビーはそこで口元を緩ませた。サイファーの胸部から光が放たれた・・・。だがそれはバイパーUのような一本の光線ではなかった。まるでサルペンのライデンを包み込むようにして数本の光の矢が放たれたのだ。
 「拡散ビーム!?」
 ビームはライデンを包み込むように襲いかかった。サルペンは被弾の衝撃に歯を食いしばって耐えた。


 
 「サルペン准尉が危ない!」
 R−WING形態で、サイファーの飛行形態と戦っていたリュウセイがサルペンの危機に気づく。
 「リュウセイ少尉!行ってあげて!」
リュウセイの耳に香田奈の声が響いた。見ればR−ガーダーとR−ブースターは合体して戦っていた。
 「ここは、私達だけで十分!そうね・・・・しょうちゃん!貴方も行きなさい!」
 「へっ?」
 将輝が声をあげると同じに、R−ガーダーの背中からR−ブースターが分離した。
 「よし!軽くなった!」
 香田奈はそう言って、R−ブースターを駆り、空中に群がるサイファーに挑んでいった。
 「・・・・・・おれ・・・重りかよ・・・・ええい!いくぞ!」
 R−ガーダーとR−1はサルペンの支援の為に駆け出した。


 「軍曹!装甲がもたないっ!」
トーマスが悲痛な声をあげる。ワイズダックの装甲は見るからにボロボロだ。
 「各部のモーターが悲鳴を上げています!」
 アービンの声にゴンザレスが怒鳴る。
 「バカヤロウ!悲鳴はお前だけで十分だ!しっかり前見やがれ!」
 「・・・畜生、なんて力だ。」
リッキーが歯を食いしばる。彼等のワイズダックは、迷彩塗装を施したVRと組み合っていたのだ。
 「肘の武器を使わせるな!それと放すんじゃねえぞ!機動性は向こうの方が上だ!」
 「イエッサー!!」
 ギリギリと関節が軋み合う音が聞こえる。パワー勝負に自信のあるワイズダックと五部に組み合っている・・・。新型VRの性能は予想以上だ。
ズ・・・・───どうやらパワーだけならワイズダックの方が一枚上手だったらしい。VRの足元がわだちを作って後づさる。
 「よし!そのまま押し切れぃ!」
 「イエッサー!」
 両者とも純粋な陸戦使用。どうやらパワーでの勝負はワイズダックに旗があがったようだ。ゴンザレス軍曹達は勝ちを確信した。このまま押し切り、アイアンクローで完全にねじ伏せれば勝利は貰った。
 だが、そこでVRは予想もしない動きに出た。なんと!左足だけで全重を支え出したのだ。そして浮いた右足を思いっきり振り上げたのだ!
サッカーボールキック───文字通りボールを蹴飛ばすようにワイズダックを蹴り上げたのだ。ボールのように蹴り飛ばされるワイズダック。
 「うわああああ!!!」
アービン達が悲鳴を上げた。

 次々とミサイルとグレネードが襲いかかる。爆炎がR−1の行方を阻む。
 「サルペン准尉の所に行かせないつもりか!」
装甲の分厚いR−ガーダーがR−1の盾となっているが、向こうは火力だけではなく、機動性も高い。接近しようにも、間合いを詰めさせてくれない。
 「俺が囮になる。その隙にコイツラを突破して、サルペン准尉の元に!」
 将輝がずいっと前に出る。将輝では弱い念動フィールドだが、分厚い装甲と併用すれば、かなりの防御力が期待できる。
 「よし・・・頼むぜ。」
 リュウセイの言葉に、R−ガーダーの首が頷いた。そして、R−ガーダーが敵VRの中へ突進する。狙い通りVR達の火線はR−ガーダーに集中する。その隙を狙い、R−1が猛ダッシュを仕掛けた。目線の先にはサイファーと戦って苦戦中のサルペンだ。
 オンディーヌ隊には、小隊長クラスの人間が圧倒的に不足している。ここでサルペンを失うわけにはいかない。

 「!!」
 一機のVRがR−1の接近に気がついた。R−1目掛けて肩に装備されたミサイルを放ってくる。だが全速力で失踪するR−1には当たらない。それが解ったのか、そのVRはミサイル攻撃を止め、R−1目掛けて駆け出してきた。
 「うわ!はええ!」
 火力強化型とは思えないスピードで接近してくるVR。リュウセイは異を決し、ナイフを抜いた。
 「コールドッ!メタルナイーフッ!」
接近してくるVR目掛けてナイフを突き出すR−1、だが向こうも腰からナイフを抜いて対抗する。
ナイフとナイフのつばぜり合い。刃先と刃先が音を立てて火花が飛び散る。
 「くっ・・・・」
リュウセイは空いた左腕で腰に下げているリボルバーを取り、至近距離で発砲した。弾丸がVRの装甲を叩く。向こうもこれには面食らったのか、一度間合いを開く。
 「そうはさせるか!いくぜっ!」
R−1は右の拳を握り締めた。緑色の輝きが拳が包む。T−LINKナックルの発動だ。
 だが、リュウセイはナックルを放つのが数秒遅かった。VRの右腕にメリケンサックのようなものが輝いていたのだ。そしてR−1目掛けて、突進力を加えたパンチを放ってきたのだ。そのパンチは、俗世間では
『ライダーパンチ』と呼ばれるパンチだ。
 「VRが、ライダーパンチだと!」
 R−1のT−LINKナックルとライダーパンチがコンマ数秒後、交錯した・・・・


 「いかがですか?我が『RNA』が誇る新型VR、『アファームド・ザ・バトラー』。そして火力を強化した『アファームド・ザ・ストライカー』は?」
 シルビーが自社製品を自慢するように語り掛けた。
 「バトラーは、旧型アファームドの格闘線能力をさらに高め、ストライカーはアファームドが本来持つ機動性や防御力を落とす事無く、火力を向上させました。」
 「RNA・・・?DNAじゃないの・・・」
傷だらけのライデンから、サルペンが訪ね返す。
 「ええ・・・・DN社内で、我が愛するアンベルWが直接指揮を下す、DNAとは別系統の戦闘部隊・・・それが
『RNA』ですわ。」



 次回予告


 新型VRに、大苦戦のオンディーヌ隊!果たして勝機はあるのか!?
 一方、日本に残ったレイカとジン=サオトメ。天宮財閥が進める極秘プロジェクト!その計画の最中、日本にもRNAが誇る新型VRの魔の手が迫る!迫り来る新型VRサイファー!RNAのエース「薔薇の三姉妹」の二人が恐怖を呼びこむ!
  ひょんな事から、極秘計画を知ってしまったレイカの学校の先輩『天王院静』。彼女が見つめる先にはジン=サオトメが!?
 次回、サイバーロボット大戦第三十二話 「出動!量産型ディアナ17!」に、お嬢様ファイトだっ!
 次回もプライドがすげえぜ。  「出た!魔のX攻撃!!+α」



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