第三十話 「唸れ!覇王雷鳴斬! さらば聖霊機」
「チェンジッX−2!カモンッ!!」
ジンの声と共に、ゲッPーXが合体変形し、X−2に姿を変える。
激しい着水音を立てて、X−2が海中へ飛び込んだ。それにツインザムと二機のバルバスバウが続く。
「頼むぞ・・・・」
ホワイトローズのブリッジで艦長が水中に飛び込むX−2達を真剣な眼差しで見つめていた。
ここは太平洋上、ようやく行方不明であったフェイとエリィを発見したというのに・・・・。いや、こちらが発見されたというほうが正しい。
ブリッジのモニターにはゲッP達よりも早く水中に飛び込んだバルトのブリガンディアからの映像が映っている。
目の前には、数機の金魚型ギア・・・・そして一機の青いサメ型ギアがブリガンディアの前に立ちはだかっていた。
すぐにモニターに新しい機影が映し出された。ゲッPとツインザム達だ。それに続いて、ヴェルトールヴェルエルジュがゲッP達とは別の方向から現れた。やっと合流できたのだ。
通信から聞けば、なんでも漂流中に大型サルベージ船に救助されたらしい。しかもサルベージ船の船長の好意で、ヴェルトールとヴェルエルジュはある程度の水中戦装備を施してもらったらしい。
これは嬉しい事だった。なぜならオンディーヌ隊が保有するロボットの中で、水中戦に対応できるのはゲッP−Xだけだったからだ。
ツインザムはツインザム2になればなんとか水中でもつかえる程度、バルバスバウも似たようなものだ。生粋の水中専用の機体は無かった。
次いで水中に飛び込んだ機体が見えた。R−1とR−2、そしてR−ガーダーだ。汎用であるこの三機も水中でもある程度なら戦える。ただし使える装備はかなり限定されるが・・・・
もちろん他の機体も黙っているわけではない。ホワイトローズの甲板にはベルグドルやワイズダックが、ユグドラの甲板にはヘイムダルとシューティアがそれぞれ、魚雷の接近を防ぐために機銃やミサイルを放っていた。
空戦用の機体も海上から雷撃の迎撃にあたっている。
「こんな所でゲブラーの追撃を受けるとはな・・・・」
艦長がモニターを凝視しながら呟いた。
「カール・・・いやラムサスはしつこい男ですからね。少しばかり女々しいところもありましたから・・・」
通信機からユグドラのシグルドの声が聞こえてきた。シグルドとシタンは元ソラリスの士官で、ラムサスの同僚だったのだ。その分ラムサスの性格はよく知っている。
「君の昔の友人は、君達以外に友人はいなかったのかい?これだけしつこいと言う事は、相当根に持っているということじゃないか?」
艦長が冗談半分でシグルドに言った。するとシグルドはまじめな顔をして答えた。
「ありえますねベイツ艦長。私の記憶が正しければ、我々以外に友人はいなかったと記憶しています。」
「おいおい・・・さみしい男ね。」
シグルドの言葉を聞いていたイボンヌが苦笑した。
「ぐわっ!」
リュウセイのR−1が青いサメ型ギアの体当たりを浴び、海底に突っ伏した。R−1が倒れた衝撃で、海底にたまっている汚泥がもくもくとわきあがる。
「この・・・ガ○シャークもどきめっ!」
ぬかるみに足をとられながらも、立ち上がるR−1、右手にはナイフがしっかりと握られている。
「乗ってるのは○オブルーか?残りの奴も呼んでみろってんだ!!」
コールドメタルナイフを振りかざし、サメ型めがけて突進するR−1。だが水中ではR−1の機動力は半分以上落ちている。勢いが鈍い。
「ガ○ブルー・・・青っていうのはあってますね。」
R−1がナイフを叩きつけるより早くサメ型はR−1めがけて体当たりを浴びせる。再び突っ伏すR−1。
水中では音の伝わる速度は地上の3倍以上。すでに無線封鎖も解除している為、リュウセイの声は丸聞こえだ。
青いサメ型ギア・・・・『マリンバッシャー』の中でケルビナは呟いた。確かに彼女の服は青色だ。黒いセミロングの髪型と知的そうな雰囲気によく合っている。
「お前がガ○ブルー?じゃああたしは○オレッドか。」
数いる金魚型ギアの一機から、ドミニアが口を挟んだ。確かに彼女の服の上半身は、色こそ赤だがデザインはケルビナと同じだった。
「ったく、セラフィータがいたら喜びそうだぜ。」
ドミニアははき捨てるように言った。
彼女達は、ゲブラー総司令官ラムサスの直属の部下『エレメンツ』と呼ばれる親衛隊のようなものだ。
彼女達は、指令であるラムサスと共に、オンディーヌ隊追撃にきていたのだ。
そしてラムサス自ら金魚型ギア『ハイシャオ』に搭乗し、水中でオンディーヌ隊に襲い掛かっていたのだ。もちろん部下である彼女達も一緒だ。
ドミニアの本来の機体は『ブレードガッシュ』と呼ばれる剣主体の格闘用人型ギアだが、水中での使用には向かないので、このハイシャオを使用していた。ラムサスも同様の理由でハイシャオを使用しているのだが、シャドーレッドに大破させられたワイバーンが直っていないのも事実。
ケルビナの愛機マリンバッシャーは、サメ型と言う事もあり、水中戦主体の機体なので何の問題も無かった。
「畜生〜!!ガ○シャークっ!貴様にだけは絶対に負けねえ!!」
リュウセイが声をあげてマリンバッシャー目掛けて、怒鳴った。
「俺は勝つ〜!!」
R−1が今一度ナイフを構えて、マリンバッシャーに向かった。
この時・・・・目の前のマリンバッシャーに対して、怒りを覚えているリュウセイだったが、後に非常にケルビナやドミニア達を羨ましく思う事になろうとは、今のリュウセイには思いもしなかった・・・・
斬っ!!───
スーパー8の蛸足が、また二本ほど断ち切られた。スーパー8の目の前には巨大な斬艦刀が地面に刺さっていた。
「くそ〜外れた〜!頭を狙ったのに〜。」
薙は、斬艦刀と地面から引き剥がし、今一度構えた。これがグルンガスト参式の必殺武器『斬艦刀』である。
グルンガスト・・・・TDFのPT開発計画において、「超絶的能力を秘めたロボットならば、一機で戦況を覆すことができる」と言う事を事実を元に、軍が開発したスーパーロボットである。
グルンガストは軍内部では「Gシリーズ」と呼ばれ、ゲシュペンストの正式な後継であるヒュッケバイン・・・「Hシリーズ」とは違うコンセプトで建造されている。
Gシリーズは大まかに分けて3種類。「グルンガスト」「グルンガスト弐式」そして、「グルンガスト参式」である。
そのGシリーズの中で、最強の存在が、今、薙とアヤが搭乗している参式だ。
グルンガストの「計斗羅轟剣」、弐式の「計斗瞬獄剣」に順ずるのが、参式の「斬艦刀」だ。羅轟剣・瞬獄剣に比べ、長く太い・・・・その威力は、その名の通り、戦艦ですら斬りさくことが可能と言われている。
「今度こそ〜!!!」
参式は巨大な斬艦刀を振り上げ、スーパー8目掛けて横から叩きつけるように振り回す。だが、斬艦刀は空を切るばかり、斬艦刀の巨大さと参式のパワーに薙が振り回されているのだ。
「・・・くっ!メインの操縦系がGランダーに、いってる・・・。」
アヤが参式の下半身から毒付いた。
本来ならば、合体した時点でメイン操縦を自分のGホークに切り換えるべきだったのだ。R−3以外のPTを殆ど動かしたことの無いアヤだが、素人の薙よりはマシだ。
だが参式の上半身を構成するGランダーにパイロットが搭乗している為に、メインの操縦がGランダーに優先されているのだ。Gランダーのパイロットや操縦系に異常が起きない限り、操縦管制を切り替えることができない。グルンガストは意外と融通が利かないPTなのだ。
「龍虎王みたいにはいかないか・・・同じ参式なのに・・・」
だが、アヤは頭を切り換えた。ここでブツブツ言っても事態は進展しない。こうなったら最後まで薙にやってもらうほか無い。
「薙ちゃん!斬艦刀を戻して!ドリルナックル主体で戦うのよ!」
「あ・・・ハイ!」
薙は指示どおり斬艦刀を肩に戻し、参式にファイティングポーズを取らせた。
「でも、ブーストナックルを使ったら、参式は丸腰じゃあ・・・」
薙の不安はもっともだ。両腕を飛び道具にしてしまえば、参式は武器が使えない上に、格闘戦能力が落ちてしまう。
「大丈夫、武器はまだあるし、格闘戦ならキックや頭突きで!」
「頭突き・・・・」
その言葉に薙は少々不安になった。参式の上半身コクピットは頭部にあるからだ。
「それに!斬艦刀は口でも持てるっ!」
「くちぃぃぃ!?」
これには度肝を抜かれた。たしかに参式には人間のような口がある。そこに斬艦刀を咥えて振り回せと、アヤは言っているのだ。
「わいるど〜・・・」
そう言って、薙はスーパー8に殴りかかった。
「このっ!このっ!」
ほむら駆るゴッドリラーが、レイオードに殴りかかっている。だが調子のいいのは最初の奇襲だけだった。戦闘経験がゲームと、一般人との喧嘩程度しかないほむらでは、歴戦の勇士であるライルとは差がある。
「これでどうだっ!」
左のアッパーがレイオードに迫る。
「遅い。」
アッパーが空振りに終わった。ボクシングのスウェーバックのように上体を反らせ、ゴッドリラーのアッパーをよけるレイオード。
「確かに、フィールドを破るだけのパワーはあるようだな。だが、そんなイノシシ戦法で俺に勝てるのか?」
異世界アガルディア出身のライルが、なぜイノシシを知っているのかは別にして、レイオードに致命傷を負わせられるだけのパワーはゴッドリラーは間違い無く有している。
だがそのパワー一辺倒の攻撃では、機動力が高く格闘戦を得意とするレイオードに対して、無茶というもの。アッパーの空振りの隙を突いて殴り返されるゴッドリラー。
「ぐっ!畜生・・・つええ。コイツ、蟻人(ぎしん)帝国のメカ昆虫よりつええ。」
どうやら唇を切ったらしい。ほむらの口元から僅かに血が流れる。ほむらはそれを袖でぬぐう。
「ダメージは軽微なのだ!しっかりするのだ!」
通信機からメイの声が響く。
「敵の分析が終わったのだ!奴は剣による格闘戦が得意なのだ!」
「見りゃ解るぜ。」
ほむらが言うのも解る。目の前のレイオードは長剣を持っていたからだ。
「黙って聞くのだ!どうやら背中に強力なエネルギーコンバーターを有しているようなのだ。奴のフィールドもそこからエネルギーを得ているみたいなのだ。」
「それってつまり・・・・」
「奴の弱点は背中なのだ!背中の翼があんなに大きいのは、コンバーターを守る為の装甲も兼ねているからなのだ!!」
背中・・・・・確かにレイオードの背中には巨大な翼がある。飛行の為やビーム砲の砲身だけではない。コンバーターを守る為の装甲でもあるのだ。
装兵機や聖霊機は背中にコンバーターや機体の中枢を有する場合が多い。ゼ=オードとて例外ではない。その為、アガルディアの機体は背後から攻められることが最も苦手とするのだ。
「問題は・・・どうやって背後を攻めるかなのだ・・・・」
メイが呟いた。確かにライルほどの実力者が、そう簡単に背後を見せる訳は無い。
「俺に考えがある・・・」
ほむらはそう言って身構えた。それは自分が喧嘩するときに見せる我流の構えだった。
「なんだ?その構えは、隙だらけだぞ。」
ライルがバカにしたように薄ら笑いを浮かべる。
「お前をさっさと片付けて、リーボーフェンを仕留めなきゃならないんでな。」
レイオードの長剣『聖剣マーシュニクス』が輝いた。
「遊びは終わりだっ!」
次の瞬間、ゴッドリラーの目の前のレイオードは4体になった。
「死ね〜!!!」
ポリンの絶叫と共にボロンの鉄球がガムダに炸裂する。さしもの重量級のガムダも、流石にひるむ。だが、ガムダはボロンを見た瞬間から、手を出していない。いや・・・出せないのだ。
「お・・・お止め下さい!貴方の役目は・・・・」
アレクシムは必死に呼びかけようとするが、ポリンは聞く耳持たない。アレクシムはポリンを知っているようだったが、今のポリンそんな事しったこっちゃない。
今のポリンにとってアレクシムは、ジュンペイの気を引くための道具に過ぎないのだ。
「お前を片付ければジュンペイ君は、ポリンに感謝して、それから密接な二人の関係が〜」
ポリンの頭にやましい妄想がよぎる。その為には目の前のガムダを徹底的に叩きのめす必要がある。ボロンの腕と化したパワーショベルがガムダの胴をえぐった。
「すげえ・・・・。あのガムダが押されてる・・・」
片腕を失ったアシュクリーフの中でアークは、ボロンの戦闘力に感嘆していた。
アシュクリーフはTDFのPTでも最新鋭機に部類される。そのアシュクリーフの戦闘力はベースとなったゲシュペンストやRマシンの派生であるアルブレードを大きく上回る。
現在、アシュクリーフに匹敵する性能のPTは、同僚であるセレインのラーズグリーズとRマシンを除けば、北京基地に配備されている「スーパーアースゲイン」と「スイームルグS」の二種のみだ。
「スーパーロボットってのは・・・なんて強いんだ・・・」
アークは、ガムダに対して体当たりを浴びせているボロンを見て羨望の眼差しで見つめていた。
だがアークは勘違いをしている。ボロンは『スーパーロボット』ではなく、正確には『スーパー(ポンコツ)ロボット』だと言うことに・・・・。
ポリンの『魔法』によってボロンは民間建造物を強制連結してボディを構成している。その為、非常に重いが、頑強かつ、どんな劣悪な環境や扱いにも耐え切れるのだ。
「よし・・・援護を・・・」
アークは近くに落ちていたアルブレードのレールガンをアシュクリーフの残った腕に持たせると、よろよろと立ち上がろうとした。だが脚が損傷しているのか、力が入りきらず倒れそうになった。
ガシッ───倒れそうになったアシュクリーフを誰かが支えた。
そこには青と銀色の体を持った巨人がアシュクリーフに肩を貸していた。───ケイの変身したパルシオンだ。
「大丈夫ですか?ブルー少尉。」
パルシオンからアークを心配するように呼びかけられた。
──優しい声だ・・・・アークはそう感じた。
「だ・・・大丈夫です。助かります・・・」
アークが礼を言うとパルシオンは頷いた。そして目線をガムダと戦っているボロンへと映す。
「よし・・・アレクシムはやっぱりポリンには手出しできないようね・・・」
ケイはポリンが優勢なのを確認すると、他の場所に目を移した。少しばかり離れた場所で分身攻撃を仕掛けているレイオードに苦戦するゴッドリラーが見えた。
「よし・・・。ブルー少尉、動けるPTを集めて撤収してください。ここからは私達で・・・」
ケイはそう言って、近くにいたまだ動けるアルブレードにアシュクリーフを預けると、レイオードへ向かった。
「分身の術かよっ!」
ほむらは驚きつつも、我は失ってはいない。戦闘経験が皆無に等しい彼女にしては冷静だ。熱い性格だが取り乱すことは殆ど無い。むしろ分身攻撃を繰り出すレイオードの攻撃を楽しんでいるようにも見える。
リュウセイやジュンペイのような熱血系の人間に部類されるほむらだが、状況を把握するのは的確だ。これが入学早々、生徒会長に抜擢された理由なのかもしれない。ひびきの高校校長の強い推薦で抜擢されたと言うが、校長は人を見る目は確かなようだ。
「おい!伊集院っ!本体はどれだ!?」
ほむらが通信機に向かって怒鳴る。
「今分析中なのだ!むむむ・・・このトレーラーの機器では処理が遅いのだ。軍用の指揮管制車を持ってくれば良かったのだ・・・」
さらりと言うメイ。確かにそうかもしれない。だが、メイ自身もまさか実戦に投入するとは考えもしなかったに違いない。
(メイ様。指揮車は一両18億はしますが・・・)
と言う言葉を決して表に出さない咲之進であった・・・・
レイオードの分身攻撃に少しづつ傷ついていくゴッドリラー。このままではやられてしまう。
「本体はどれだ・・・・。漫画やアニメだと、影があったり・・・心眼とかで察するんだけどな。いや待て・・・質量のある残像だと陰はあるぞ・・・」
なら音で・・・・と言うことで瞳を閉じるほむら。レイオードの機動音から本体を探そうというのだ。
だが・・・・
「あ〜〜〜〜!!!わかんねええ!!!」
無理だった。武道の心得も何も無いほむらでは、そんな芸当できるわけない。
その様子に、笑みを浮かべるライル。
「万策尽きたか!もらった!!」
レイオードが長剣を振りかざし、ゴッドリラーに迫る!
カッ!!───レイオードに何か光が突き刺さった。攻撃を浴びひるむレイオード。
「誰だ!」
せっかくの止めを刺すチャンスを逃された怒りをぶつけるように振りかえるライル。するとそこにはパルシオンが両の手のひらを合わせて立っていた。
「貴様は・・・・。聞いたことがあるぞ、確かゴルディバス軍で『勇者』とまで言われていた戦士でありながら、ゴルディバスを裏切った二人がいると・・・。貴様がその一人だな?似たような奴をゴルディバスの城で見たことがある。」
淡々と話し掛けるライルに対し、パルシオンは頷いた。
「そこまで知っているなら、話は早い・・・。この星のことはこの星の人間が決める事・・・・。異星の者の我々が関与することではない・・・・」
「なら、何故貴様はTDFに力を貸す?それに俺は異世界アガルディアの人間だが、地球人であることには変わりないぞ。」
「そうね・・・貴方の言う通り。だけど、私と同じ異星の者が、この星の平和を乱そうと言うなら、私は同じ異星人として、それを許すわけにはいかない。そして・・・・私を『地球人』として受け入れてくれた人達の為にも、私は地球人の一人として貴方達を許すわけにはいかない!!」
するとライルはニヤリと笑った。
「宇宙人が地球人の真似事をするか・・・。笑わせるな!!」
そう叫び、レイオードがパルシオン目掛けて突進する。
「宇宙人が俺に勝てるかっ!」
突進するレイオードは再び4つに分身した。
「くたばれっ!」
4機のレイオードはまっすぐパルシオンに迫る。だがケイは冷静だ。
「なら・・・同じ地球人に貴方を倒していただきましょうか。」
そう言ってパルシオンは片腕を上げた。上げた腕には光のリングが発生した。パルシオンの光線技の変形・・・やつざき光輪『パルスレイ』だ。
パルシオンはパルスレイを投げた。光輪がレイオードに迫る。
「馬鹿か!そんなあてずっぽうが通用するか!」
だが、ライルは自分が迂闊だったことを思い知らされた。自分に迫る光輪が4つに分かれたのだ!
「なっ!?」
次の瞬間、4つのパルスレイは4機のレイオードに襲い掛かった。いや・・・三つのパルスレイはそのまま素通りし、残った一機のレイオードのフィールドにぶつかり、砕け散った。
だがそれだけで十分だった。何故なら・・・・
「うおおおおおお!!!!」
先程まで、ほぼKOに近い状態であったゴッドリラーが突っ込んできたのだ。ケイは最初からレイオードの分身を破るつもりだったのだ。分身さえなければゴッドリラーにも勝機はある。しかも今のレイオードはゴッドリラーに対し背を向けている。
「貴様、最初から!!」
ライルが慌てて振り向く。だが、そこにゴッドリラーの姿は無い。
「!?」
「会長キィィィィクッ!!!」
ほむらの絶叫と同時に、ゴッドリラーの跳び蹴りがレイオードの背中に炸裂した。火花と装甲を撒き散らすレイオード。
「ばかな・・・・何故・・・」
会長キック・・・・これは、ほむら自身が喧嘩でよく使う自分オリジナルの技だ。
子供の頃からヒーローものに憧れていたほむらが編み出した我流の跳び蹴りだが、威力は結構ある。
原理は、相手目掛けて突進するが、突然見当違いの方向へジャンプし、相手の死角から襲い掛かるというキックだ。
空手で言う「三角とび」に近い技だが、ほむらはこれを我流で編み出したのだ。
「な・・・・」
アガルティアのロボット共通の急所である背中を攻撃され、レイオードの動きが止まる。そればかりか背中から火花を上げ、翼の付け根の装甲が脱落し、コンバーターが露出している。
「チャンスよっ!」
ケイがほむらに呼びかける。だが、ほむらも言われるまでも無く右腕を高く掲げた。背中の半分づつのドリルが合わさり、右腕に装着された。そして物凄い勢いでドリルが回転する。
「うおおおおお!!!!」
ほむらは叫び突進する。右腕のドリルの回転がMAXに達し、その勢いで超重力場を発生!
「ブラックホールッ!ディメンジョォォォォンッ!!!」
重力場を帯びたドリルがレイオードの背中を直撃。その勢いは留まる事を知らず、レイオードの胸に風穴をあけた。
「そんな・・・そんなバカな!!この俺が・・」
次の瞬間、レイオードの姿が消えた。ゼ=オードの機体のみに装備された空間跳躍だ。
「オオオオっ!」
ほむらが意味不明の雄たけびを上げ、右腕を高々と天にかざした。
スーパー8の残された蛸足が鋭い矢のように参式に迫る。だが参式の強靭な装甲の前には歯が立たない。切っ先がつぶれて変形してしまっている。
ガシッ!!──参式が蛸足を何本かまとめて掴んだ。
「食らえええええ!!!!」
そのままジャイアントスイングよろしく振り回す参式。遠心力の効果により、スーパー8内部では、デビロット姫及びDrシュタインと地獄大師がコクピット内壁に押さえつけられていた。
「ぐ・・ぐるしいのじゃぁぁ・・・・」
「つ・・・ちゅぶれる・・・」
「・・・・」
そんな事はお構いなしに、回転速度を速める参式。そしてそのまま放り投げた。
「あ〜〜〜〜〜」
悲鳴を上げながら、放物線を描き、宙を舞うスーパー8。そしてそのまま見逃す薙ではない。
「ドリルブーストナックル!!!」
ドリルを装着した両腕が、落下中のスーパー8を貫く。もう容赦は無い。
ガシャァァァンッ──轟音を上げ、地面に叩きつけられるスーパー8。衝撃でデビロット達はコクピット内でガンガン頭をぶつけていた。
「い・・・痛いのじゃ・・・・」
「わたくしの、優秀な頭脳が・・・」
痛む頭を押さえながらデビロットはモニターを見た。するとそこに映る光景に、デビロットの血の気が消え去った。両腕を飛ばした参式は、肩から斬艦刀を展開すると、それを地面に突き立て、柄の部分を口で咥えたのだ。
「な!なんという・・・・」
口に斬艦刀を咥えた参式はそのまま走ってくる。どうやら両腕を再装着する手間も惜しいらしい。
「じ・・じ・・地獄大師!なんとかいたせ!このままでは!!わらわ達は・・・・」
「駄目です姫しゃま〜。もうスーパー8が動きましぇ〜ん!」
もう泣いている。
そして動けなくなったスーパー8目掛けて、参式は斬艦刀を咥えたままジャンプした!!
「いくわよ薙ちゃん!」
「ハイ!アヤさん!!」
ジャンプした参式は思いっきり首を横に向ける。斬艦刀を咥えている参式の口からギリギリという音が聞こえる。
「必殺!!」
アヤが叫んだ。
「斬艦刀!稲妻重力落としぃぃぃっ!!」
薙の絶叫に呼応して、斬艦刀は斜め上から、スーパー8を叩き切った。
斜めに寸断されたスーパー8は一瞬持ちこたえたかのように見えたが、数秒後には大爆発を起こした。
『やら〜れちゃった〜。悔しいな〜♪こん〜どこ〜そ〜勝ちましょう〜♪さ〜よお〜な〜ら〜♪』
黒焦げになったスーパー8の脱出ポッドの中からデビロット一味の歌声が響いた。そして同じように黒焦げにしてぼろぼろとなった三人は悔し涙を流しながら、宇宙へと去っていった。
「ちょっと、座りなさい。」
「好きで悪役やってるわけじゃない・・・」
「ばっかも〜んっ!」
真っ赤なちゃぶ台が、宙を舞い、ガムダは大爆発を起こした・・・・。
「みんな〜!応援ありがと〜♪」
勝どきを上げるポリン。アークが喝采を送っていた。
「やれやれ・・・・今回も被害が大きいな。」
北京に異動したビレット准将に代わって、極東基地の司令となっている山本司令長官は、被害報告を受けながら呟いた。
「アルブレード12機・・・スヴァンヒルド2機・・・そしてアシュクリーフ中破、ラーズグリーズ大破か・・・」
PTの被害は大きいが、基地施設の損害は予想したほど大きいものではないし、人的被害も少なかった。山本指令長官が一番安堵したのは、基地見学者である女子高生たちに負傷者がいないことだった。まさに不幸中の幸い。
「ゼンガー少佐の負傷が痛手だな・・・。部隊長が不在と言うのは辛い。それにPTの損失も・・・」
確かに部隊長が活動できないのは辛い。ゼンガーに次いで階級が高いのはアヤだが、アヤに有されている指揮権はSRXチームのみであるし、アヤはやがてオンディーヌ隊に配属されることが決まっている。
「となれば・・・」
そんな時、司令官室のドアがノックされた。
「入りたまえ。」
ハッ!と言う声と共に現れたのは、いかにも古残兵と思わせる雰囲気の男と坊主頭の男だった。
「御堂筋大尉、以下一名!到着いたしました!」
古残兵が背筋を伸ばして敬礼した。坊主頭の男もそれに習う。
「よく来てくれた、御堂筋大尉、北花田二等兵。」
「ハッ!」
「早速だが、君達には負傷したゼンガー少佐の後任士官が到着するまでの間、PT部隊の指揮を取ってもらいたい。」
「ハッ!光栄であります。」
御堂筋大尉は、はきはきした言葉使いで答えた。
「すぐに君達用のPTも用意させる。アルブレードかゲシュペンストがあてがわれると思うが・・・」
「お言葉ですが司令長官殿!我々には『64式ロボ』があります!司令長官殿のお手をわずわれる事はありません!」
「いや・・・しかし、大尉。64では・・・」
「大丈夫であります!」
山本長官の心配はもっともであった。64式ロボ・・・・連邦時代の中期(統合暦64年)に開発された人型陸戦用兵器である。
10サンチ特殊鉄鋼弾と榴弾ロケットを装備。必殺武器である荷電粒子ビーム(64ビーム)を有し、マッハ0.5で飛行するスーパーロボットだ。
だが、PTやVR全盛のこの時代では、『時代遅れ』と言われても仕方の無い存在であった。その戦闘力はVRはおろか、アヴェやキスレブで使用されている発掘ギアと五部かそれ以下か・・・とまで言われている。
鋼鉄の棺桶・・・・とまで陰口を叩く兵士までいるぐらいだ。だが御堂筋大尉と北花田二等兵は、今なお64式ロボを愛用しつづけ、軍内部でも『変わり者』として有名であった。
「わ・・・解った。よろしく頼んだぞ。」
山本長官は苦笑しながら、言う。その言葉に満足したのか、二人は敬礼して出ていった。
「ふう・・・・。後は・・・」
問題が一つ片付いたところで、山本長官は次の問題に取り掛かることにした。
「伊集院財閥と・・・女子中学生か・・・・。連絡を入れてみるか・・・」
山本長官は手元の受話器を取った。
「私だ。長距離通信を用意・・・。相手は、オンディーヌ隊のヴィレッタ=バディム少佐だ。」
格納庫には、傷ついたPTや聖霊機達が修理を受けていた。幸い基地の工場ブロックは無事であった為、修理はとどこうりなく進んでいた。
その中で、黙って立っている一機のスーパーロボット。ゴッドリラー。非常事態とは言え、民間人が戦闘用ロボを無断出動させたことは問題であった。
そして薙の事も・・・・
「アヤさん・・・・私・・・」
不安そうにアヤを見つめる薙。
「大丈夫。責任は私が持つから、貴方は何も心配しなくてもいいわ・・・」
アヤはそう言ったが、やはり薙は不安で仕方が無かった。
一方、伊集院メイと赤井ほむらの両名は平然としていた。パルシオンの手を借りたとはいえ、ゼ=オードを撃退し基地を守ったのだから誉められる事はあるだろうが、非難を受けるいわれは無い・・・・そんな感じだ。
そればかりか、PTや聖霊機ですら太刀打ちできなかったレイオードを倒した事で、いっそうゴッドリラーの優秀性を見せ付ける事もできた。またとない宣伝ができたのだ。
「良ければ、TDFも我が伊集院財閥が協力してやっても良いぞ。天宮や香坂のロボットがどれほども物かは知らないが、我がゴッドリラー程ではないのだ!さあ・・・買え!」
そう言って、またもやアークとセレインを困らせていた。
「・・・・我々に言われても・・・・」
困った顔で互いを見合わせるアークとセレイン。
「よし、買おう。」
『!?』
いきなり別の方向から声がかけられた。その場にいた全員が声のした方へ向くと、そこには山本司令長官が立っていた。
「そのゴッドリラーというロボット。我がTDFで購入しよう。よろしいか?」
山本司令はメイに向かって毅然とした態度で言った。
「や・・山本司令・・・よろしいんですか?」
アヤが不安そうに尋ねると、山本司令は頷いた。
「よし!売ったのだ!さすが司令。話が解るのだ。」
その声に呼応して、すかさず咲之進がアタッシュケースを取り出す。中を空けると購入契約書が入っている。
「ここにサインを・・・」
咲之進が山本司令に書類を出す。すると、司令は待ったをかけた。
「契約にいたって、我々の方からも条件があってね・・・」
「なんなのだ?」
「専属パイロットも契約内容に含まれているのかね?」
そう言って、近くにいたほむらに目線を向ける。
「我々は軍だ。機密保持の為、彼女を専属パイロットとして契約したい。そしてサポートシステムとして、君自身しいては伊集院財閥にTDFとの機密条約を結ぶ・・・。これが購入条件だ。」
「断れば?」
メイが山本司令をにらみつけるように言う。親子ほど年の離れた相手に対して決してひるんではいない。
「ゴッドリラーは危険物として軍が処分し、君達は軍刑務所・・・とまではいかないが今後の行動にTDFの管理が付くようになる。」
メイはしばらく考え込んだ後、ほむらの方へ向いた。
「お前はどうするのだ?」
ほむらはにっこり笑って答えた。
「やってやるよ。地球の平和を守るヒーローになれるんだからな。それに、お前の言う『勝ちたい女』って奴にも会ってみたいしな。」
それを聞いて山元司令は頷いた。
「契約成立だな。詳しい書類は後日送ろう。赤いほむら君、君は本日付でTDF独立遊撃部隊『オンディーヌ』に配属される。軍内部では少尉待遇だが、基本的に君は民間協力者であるので安心してほしい。」
そう言って、契約書にサインをはじめた。
そして次に目線を薙に移した。少しばかり怯える薙。それを見てアヤが前に出た。
「この子まで、TDFに入れる気ですか!?この度の参式の使用は私の独断です。全ての責任は私にあります。処罰なら私が受けます。」
アヤは訴えるように司令に詰め寄る。
「そうはいかない。グルンガスト参式はTDF最強のPTだ。それを一民間人が操縦したと言う事実は覆せない。」
「ですが!」
「それに、実は・・・・」
山本長官は、一枚の書類をアヤに見せた。そこにはグラフのようなものが書かれている。
「!!!???」
その書類を見てアヤは絶句した。グラフはアヤが良く知っているもの・・・・念動力の測定グラフだったのだ・・・
「Gランダーの計器から出力したものだ。間違い無い・・・彼女は念動力者・・・・君と同じ『サイコドライバー』の素質を持つ者だ。」
そしてその数値はアヤには劣るが、リュウセイに匹敵する数値を出していた。今になって考えて見れば参式を合体させたときに気づくべきだったのだ。
グルンガスト参式も、念動力によってフィールドを固定して合体するロボット・・・・。素人の薙が一発で合体に成功したのは、念動力のおかげだったのだ。
「これで・・・我々は彼女をますます手放すわけにはいかない・・・。R−マシン八号機の建造も順調だ・・・。上手くすれば彼女を八号機専属にして、イングラム少佐の遺した『最強のSRX』を・・・」
「やめてください!!」
アヤは言葉を遮った。
「これ以上、父やイングラム少佐の犠牲者を見たくありません!!」
悲しそうな顔でかぶりを振るアヤ。すると、アヤの服を薙が引っ張った。
「アヤさん・・・。わたし、やる。TDFに入って、お姉ちゃんやアヤさん達と一緒に戦うよ・・・」
「やめて!!貴方まで戦場に出たら、お姉さんやお兄さんがどんなに思うか・・・。ケンゾウ=コバヤシとイングラム=プリスケンの犠牲者は私達だけで十分よ!!」
薙の両肩を掴んで、訴えるアヤ。
「お願いよぉ・・・・」
薙を抱きしめて涙ながらに訴えるアヤ。それでも薙の決意は変わらない。
「やらせてやれ。」
アヤの肩を叩くものがいた。アヤが振り返るとそこには重傷のゼンガーがいた。
「ゼンガー少佐・・・」
アヤがゼンガーを見ると、全身包帯まみれで、右腕を吊り、両足はギブスが巻かれ、ロバートに車椅子を押されている痛々しい姿だった。
「お嬢ちゃんの決意は硬い。自分がやると言うなら、させてやればいい。薙・・・と言っていたな?」
ゼンガーが尋ねると、薙は頷いた。
「薙・・・、俺の参式を貸す。俺に代わって参式を使って地球を守れ。」
そう言ってゼンガーは、鍵のようなものを薙に手渡した。それはグルンガスト参式の起動キーだった。
「決まったな。では匕首薙君。君もオンディーヌ隊に配属となる。がんばってくれたまえ。」
「はい!」
その様子に、アヤは複雑な心境だった。それを見て山本司令は今度はアヤの方へ向いた。
「アヤ大尉。今から君に対する処罰を言い渡す。」
「はい・・・・」
「本日から、匕首薙少尉の身柄を君に預ける。君が責任を持って監督したまえ、いいな。」
山本司令は、微笑して言う。そこでアヤはようやく表情を明るくした。
「了解!」
そして笑顔を薙に向けた。
「御笑い種だな。」
帰還したアレクシムを待っていたのは、ジャーク将軍の、この一言だった。
「意気揚揚と出ていっておいて、返り討ちに合うとは。」
嘲笑するジャークに対し、悔しさしか出てこないアレクシム。しかも一緒だったライルは「貴様の口車にはもう乗らん。」と言って、レイオードの修理が済み次第、単独でやる・・・とまで言い出す始末だ。
「黙れ!敵の新型の出現と下請けの連中がしっかりやらなかったせいだ。そうでなければ今頃は・・・」
「いい訳は見苦しいぞ・・・。まっ・・・人のことは言えないですがね・・・」
部屋の中に、ハアハアと呼吸を荒げたフロイライン=Dが入ってきた。普段クールな彼女にしては珍しい光景だ。その周りを4体の女性型アンドロイドが取り囲んでいる。
少しふらふらしながら席につくと、スマートな長身の美女を思わせる紫色の髪をした女性型アンドロイドが寄り添い、フロイラインの汗を拭き、飲み物が入ったグラスを手渡す。
「ありがとう、鈴魔(リン・マオ)。四天機、下がっていいですよ。」
四天機と呼ばれた女性型アンドロイド達は頭を下げると姿を消した。
フロイラインはグラスの飲み物を一飲みすると、ようやく落ち着いたらしい。呼吸が普段どおりになっていた。
その珍しい光景にジャークが尋ねた。
「貴方にしては珍しい光景ですな。確かソラリス軍との交戦中だったと聞くが?ソラリスの猛反撃でもくらいましたかな?」
すると、フロイラン=Dはようやく口を開いた。
「・・・ソラリスの猛攻ならここまで苦戦しません。予想外の出来事でしてね・・・・。レストアが全て終了した六花戦を総動員して、なんとか退けた・・・と言うのが事実ですね。」
その様子に尋常ならぬ雰囲気をジャークもアレクシムも感じていた。激昂しやすい性格だが、普段クールなフロイラインが呼吸を乱すほどの事態・・・。普通ではない事は確かだ。
「ソラリス軍が・・・・宇宙ならびにコロニー戦力の7割を失いました。・・・・ソラリスとの戦闘中だった私達は運が良かった・・・。後退が遅れていれば、六花戦も危なかった・・・」
『なんだとっ!!?』
ジャークとアレクシムは同時に声をあげた。宇宙最大の勢力であるソラリスの戦力が、短期間で7割も失われる・・・確かに尋常ではない事態だ。
「対ソラリス装備でしたので・・・・真っ向勝負は不利と悟り、早々と後退したのが功を奏しました。今回ばかりは・・・本当に危なかった。」
自信家のフロイラインが、そこまで言うには、よほどの事だ。
「なんだ!一体何が起きたというのだ。」
アレクシムが詰め寄る。その顔は必死。
「DN社ですよ・・・・・。DN社の大侵攻作戦がついに・・・」
「DN社だと!一体やつら、何をしたんだ・・・」
驚くばかりのアレクシムに対して、ジャークが静かに口を開いた。
「フロイライン・・・まさか・・・・」
頷くフロイライン。
「その・・・まさかです・・・」
すると、アレクシムもやっと気づいたようだ。みるみる表情がこわばる。
「ついに・・・・量産体制が整ったと言うのか・・・。こうしてはおれん!幹部会議を召集だ!バグ=ナクにヒッサーとシャドーレッドを呼び出せ!今すぐにだっ!いや・・・幹部だけでは手におえない。下請けの連中も呼ぶ!いないよりマシだ。」
近くにあった受話器をひったくるように手に取ったアレクシムが怒鳴り散らしている。
そして30分もしない間に、会議室(だと思われる空間)に、アレクシム・ジャーク・ヒッサー・フロイライン=D・バグ=ナク、そして下請けを代表して、デビロット姫と地獄大師とDrシュタインが席についていた。
「え〜〜〜この度は、我々をも幹部会議に呼んでくださって、我が当主デスサタンに代わり、御礼を・・・」
地獄大師が揉み手で、頭を幹部たちに下げまくっている。
「社交事例はいい。緊急事態ゆえ呼んだまでだ。コロニー問題と合っては貴様等も関係があるのだからな。」
アレクシムが、冷たく言い放つ。
(くそ〜。ゴルディバスの直属の部下だからって、偉そうに〜。見ているのじゃ・・・今に引き摺り下ろしてやる・・・。)
と、心に誓うデビロット姫であった。
「それはそうと!シャドーレッドは何処に行った!時間はとっくに過ぎておるのに!」
アレクシムが怒鳴るのも解る。会議の時間を過ぎてもシャドーレッドは、姿をあらわさなかった。
数日後・・・・・・
富士の裾野・・・・・巽テクノドームの広大な敷地内を黒い巨人が歩いていた。・・・・キカイオーだ。
ガシャンッ───キカイオーの前に、突然一機のソルディファーが飛び出し、発砲してきた。
キカイオーは左の掌を開き、ソルディファーのライフル弾を弾いていく。そして背中のロケットを吹かし、距離を詰める。ソルディファーは距離をあけようと、後退する。そのスピードは速い。
「ロケットブロー!!」
キカイオーの両腕が飛び出し、ソルディファーに襲い掛かる。
だが、ロケットブローを射出した瞬間、左右、真横からもう二機のソルディファーが飛び出してきた。腕にはヒートブレードを構えている。両腕を飛ばしてしまったキカイオーは防御スタイルを取る事ができない。
ブゥゥゥンッ──ヒートブレードの鈍い音がキカイオーに響く。だがキカイオーは左右からの攻撃をジャンプして回避する。
「甘いっ!もらったぞ。」
ジャンプしたキカイオーの背後にもう一機のロボットがいた。ソルディファーに似ているが細部が異なる。ソルディファーの兄弟機『ノウルーズ』だ。パイロットであるエルリッヒ少尉がライフルの銃口をキカイオーに定めていた。
だが次の瞬間、ノウルーズは吹き飛ばされていた。そう・・・文字通り『吹き飛んだ』のだ。キカイオーの口部から物凄い勢いの風が噴出され、空中にいたノウルーズは何も対処できないまま風に煽られ吹き飛んだ。
「ぐうっ・・・」
受身も取れず、地面に落下したノウルーズ。コクピットのエルリッヒは衝撃に必死に耐えていたが、苦痛にうめいていた。
「よし・・・ジュンペイ君。演習は終わりだ。」
テクノドームのコントロールタワーから巽博士の声がした。キカイオーは頷く。
「や〜れやれ、圧倒的だねぇ〜。TDFきっての色男もキカイオーの前には形無しだねぇ〜」
緑色のPT『シグルーン』が、地面にめり込んだノウルーズを助け起こしていた。この機体はスヴァンヒルドの兄弟機だ。パイロットのリッシュ少尉が、エルリッヒをからかっていた。
「演習だからだ・・・・」
助けおこされたエルリッヒはそれだけしか言わなかった。
「どうだね?キカイオーの調子は。不備なところはないかね?」
巽博士がジュンペイに尋ねてきた。
「最高に調子がいいですよ!まったく問題ない!いや・・・以前よりパワーアップしたような感じだ。」
キカイオーの中でジュンペイは笑みを浮かべていた。
「ははは。大げさだな。確かに超次元機関の調査が進んで、出力を大幅に上げることが出来るようになったんだよ。まあ・・・これで完全出力の60%だがね。」
「これで60%!?さっすが巽博士のメンテは一品だ!紐尾の奴とは差があるぜ。」
「悪かったわね。」
突然、コクピットのモニターに紐尾結奈その人の顔が映し出された。
「げっ!!紐尾!」
見間違えようが無かった。知的で冷徹な表情と雰囲気、人を見下した態度。そして髪で隠れた片目。間違い無くオンディーヌ隊屈指の女子高生マッドサイエンティストがそこにいた。
「な・・・なんで、なんでお前が・・・ここにいるんだよ?お前、確かオンディーヌ隊は、まだアヴェにいた筈だろ!?」
確かにその通り、間違い無く数日前まで、オンディーヌ隊は太平洋上でラムサス率いる水中専用ギア部隊と戦っていたのだから。
「・・・フェイ君が重傷を負ってね。ヴェルトールも中破・・・・それから聖霊機が全機撃墜されたと聞いて、フェイ君の治療とヴェルトール並び聖霊機修理の為に・・・」
「お前が先行して帰ってきたのか?」
結奈は頷いた。それから詳しい話は巽博士から説明された。
太平洋上の戦いで、オンディーヌ隊はラムサス率いる水中用ギア部隊を撃破した。ゲッP−Xの力によるものだ。だが、この戦いの最後の最後で、ラムサスの金魚型ギアのやぶれかぶれの攻撃が、ヴェルトールを直撃し、フェイは重傷を負ってしまった。ホワイトローズならびにユグドラシルの設備では、完全にフェイを治療できず、出来うる限りの処置と延命治療を施し、医療設備の整ったTDFハワイ基地に移送する事になったのだ。
そこで、山本司令から、聖霊機が全機撃墜された事を聞き、技術者が不足している為に、結奈が先行して日本に戻る事になったのだ。
ちなみに、護衛と日本の天宮財閥に急を要する事態が発生した為、レイカも同行する事になった。ついでに・・・
「日本か・・・何か奴の情報が掴めるかもしれない。それに・・・久しぶりに牛丼が食いたい。」
と言って、ジン=サオトメも同行していた。
「俺がジン=サオトメだ。よろしくな。」
キカイオーの前にブロディアが現れ、右手を差し出した。
「こちらこそ、アンタのロボット・・・強そうだな。」
がっちりと握手を交わすキカイオーとブロディア。
巽テクノドーム食堂・・・・
そこには、牛丼をがっつくジンと、カツ丼をかきこむジュンペイがいた。どうやら二人とも丼物が好物らしい。
「バランスの悪い食事ね・・・」
その様子を、冷ややかに見つめる結奈。彼女は軍用の合成飲料を飲んでいた。彼女は栄養効率の悪い食事は殆ど取らないのだ。
「で?聖霊機は直ったのかよ?トウヤ達に黙って変な改造加えてないだろうな。」
「汚いわよ・・・」
食べながら喋るジュンペイ。飯粒が口から飛び散る。
「私を誰だと思い?全機、完璧に直したわ。ギアと聖霊機は似た部分があるから、そんなに手間取らなかったわ。」
あくまでも冷めた口調で話す結奈。そんな態度にジュンペイは、腹を立てるどころか笑っていた。
付き合いの中で、結奈の性格と言うものが解っていたからだ。
「ははは。そうか!さすが!トウヤの奴も喜ぶぜ。テストで乗ったら、知らない武器がついていた・・・とかにならなくてよ。」
ジュンペイの言葉にも結奈は、苦笑はしたが、腹は立てていなかった。結奈の方もジュンペイの性格がわかっているからだ。
だが・・・・それを理解できない人間もいた。
「なによ、あの冷徹女〜。ポリンのジュンペイ君と〜!!!!」
柱の隅から、ジュンペイと会話している結奈に膨大な嫉妬心をポリンは燃やしていた。
それと同じ事を考えている人間はもう一人いた。
「そんな・・・ジュンペイ君・・・。やっぱり・・・頭が良くて、一緒に戦える娘(こ)の方がいいの・・・・」
サオリである。ポリンとは反対側の柱からジュンペイを見つめていた。
「そうよね・・・・紐尾さんの方が、美人だし頭もいいし・・・スタイルだって・・・」
紐尾を見て、落ち込むサオリ。それに反して、ポリンはさらに燃え上がっている。
「おのれ〜!!あの冷血理系女〜!!ポリンの魔法で、地獄へぇ・・・」
ポリンが魔法のステッキを取り出し、今まさに魔法を繰り出そうとしたいたときであった!
ウォーン!ウォーン!!──
緊急事態を知らせる警報が鳴り響いた。その音に、その場にいた全員が素早く反応した。
「メインタワーへ急ぐぞ!」
カツ丼の丼を持ったまま、ジュンペイは走った。牛丼の丼持ったジンも・・・・
メインタワーには、既にエルリッヒ少尉とリッシュ少尉が来ていた。そしてモニターを絶句しながら見ていた。
「おお、ジュンペイ君。大変な事が起きた。」
「何が起きたんですか!巽博士!」
巽博士は、モニターを示した。するとそこにはTDF極東基地を襲っている赤い武者ロボットの姿が合った。
「あの・・・赤い奴は!!じっちゃんの仇の一人!」
ジュンペイはモニターの中でアルブレードを一刀両断している轟雷を見て叫んだ。
「他に敵は?」
エルリッヒ少尉が尋ねると、巽博士は、轟雷一機のみだと言った。
「たった一人で来るなんて・・・嘗めた野郎だぜ!」
「違うな・・・。あの手のタイプは集団戦闘を好まないタイプだ。一人の方が真価を発揮する・・・武人タイプの戦士だ。」
轟雷の戦いぶりを見てジンがそう判断した。
確かに、以前サルペンが轟雷と戦った時、他の兵士が介入できる余裕は合ったにもかかわらず、轟雷はサルペンとの一騎撃ちを行っていた。
サルペン機の接触回線によって、搭乗者であるシャドーレッドの事はジュンペイは知っていた。赤い覆面に背中に日本刀をしょい、甲冑を思わせる赤いボディスーツ。確かに武人を思わせる男だ。
「巽博士!俺、行きます!!」
ジュンペイが駆け出す。
「ジュンペイ君!一人では危険だ!」
「大丈夫!今のキカイオーは、前よりパワーアップしてるんだ!」
そう言って、部屋から駆け出していった。
「アイツ一人じゃ危ない・・・。俺も行こう。」
「ポリンも〜」
そしてジンとポリンも出ていってしまった。
そして、すぐさまキカイオーとブロディア・ボロンが出撃した。そしてその後を追うようにケイの変身したパルシオンが続く。
その様子を、巽博士はじっと見つめていた。
(シャドーレッド・・・・何故、直接このテクノドームに攻めてこない・・・。何か理由があるのか・・・?)
だが、結奈だけが残っていた。彼女はそのまま端末を借りて、何かプログラムを組んでいた。
「紐尾君?」
「今の状態で・・・キカイオーがあの赤い機体に勝てる確率は50%・・・これを急がなくては・・・」
それだけ言って、プログラムを組む。
「出力60%でも?」
巽博士は、親子ほど年の離れた少女に聞き返す。
「ええ・・・。以前の戦闘データから、キカイオーと轟雷には・・・・」
結奈は、そこから出そうになった言葉をとっさで止めた。仮説に過ぎないと思ってはいるが、結奈自身はほぼ間違い無いと思っている。
だが口に出すわけにはいかなかった。自分の説には絶対の自信があるが、巽博士の前でそれを言う訳にはいかない。
(サルペン機・・・・そして私自身から得たデータに間違い無ければ、キカイオーと轟雷は共通する部分が多すぎる・・・。外見はまったく違うが、表面的なものに過ぎない。恐らくフレームと動力ユニットはほぼ同じ・・・。)
轟雷はキカイオーの試作または兄弟機・・・・それが結奈が出した仮説だった。
だが、この仮説を巽博士に言う訳にはいかない。何故ゴルディバス軍のシャドーレッドがキカイオーとほぼ同じロボットを有しているのか・・・・。謎が多すぎる。
(その為には、轟雷を手に入れる。そして轟雷と五部に渡り合えるロボットはキカイオーのみ・・・急がなくては・・)
結奈は、端末を叩く手を早めた。
(真紅のギアに轟雷・・・・。素晴らしい力だわ・・・・この力さえあれば・・・)
結奈の周囲に闇のオーラがよぎり始めたのは、この辺りからであった。
「うわああああああ!!!」
アシュクリーフの頭部と両腕が切り落とされた。地面に力無く崩れるアシュクリーフ。
「つ・・・強い。強すぎる・・・・これが『赤い死神』・・・」
アークは目の前の赤い武者ロボットに完全に恐怖していた。
アークは脱出しようと、非常レバーを引く。爆発ボルトに点火し、ハッチが吹き飛んだ。身を乗り出すアークが見えたのか、轟雷から声が聞こえてきた。
「少年。戦いには確固たる信念が必要。」
それだけ言って、轟雷は大破したアシュクリーフに止めを刺さず、次の標的に挑んでいった。
「・・・・・負けた。」
アークは完全なる敗北感を感じていた。
「トウヤさん達まで、出てこなくても!」
R−3のコクピットでアヤは叫んだ。トウヤ達の聖霊機まで戦いに参加する・・・と言って、出撃してきたのだ。
「人手が足りないんだろ?」
聖霊機バルドックからクロビスの声がした。
「それに、相手がゴルディバスなら、私達にも関係が無いとは言えない。」
シィウチェンがR−3の肩を叩いた。
「仲間でしょ!一緒に戦おうよ!」
アイが屈託の無い笑顔を向ける。
「ありがとう。」
アヤは精一杯の感謝の意を述べた。
「敵は一機です。包囲して集中砲火を!」
アーサーが言うと、皆頷いた。
「薙ちゃん。いいかい?」
ロバートが参式の足元で薙に呼びかけていた。
「大丈夫!任せてください。」
モニターに映る薙は、PT用パイロットスーツを着ていた。
「リュウセイのお下がりで悪いがな・・・。一応クリーニングはしたけど・・」
「少し緩いですけど、大丈夫ですよ。匂いもしないし。」
その言葉に、ロバートは苦笑した。
「すぐに、君用のスーツは手配する。それまで我慢してくれ。それと、今の参式はパワー回路にリミッターをかけた。以前よりパワーは若干落ちたが、その分扱いやすくなっているはずだ。」
「了解!グルンガスト参式!いきますっ!」
「ほう・・・ぞろぞろと出てきたか。面白くなりそうだ。」
シャドーレッドは目の前に現れた聖霊機達や、R−3・グルンガスト参式・ゴッドリラー・ラーズグリーズ・64式ロボ・・・と言ったロボ軍団を見て、不適に微笑んだ。
聖霊機九機+PT3機にゴッドリラー&64式ロボ・・・これにスヴァンヒルドやアルブレードを加えれば、戦力差は30対1以上・・・・どこからこの余裕が出てくるのか・・・
シャドーレッドは、ふと外部音声をONにした。
「私は、ゴルディバス軍、最高幹部の一人シャドーレッド。」
「!?」
いきなりの流暢な日本語に皆驚いていた。まさか向こうからまるで日常会話のように話し掛けてきたのだ。
「そこに出ているのが、この基地の全ての戦力と見ていいかな?キカイオーが来るまでの繋ぎとしては十分だ。かかってくるがいい。」
挑戦的なシャドーレッドの態度に、腹を立てたものが数名いた。聖霊機デュッドセルドフのパイロットのフェインと、ゴッドリラーのほむらだ。
「貴様!ぬけぬけとっ!」
「バカにしてんのか〜!!」
ゴッドリラーが右手にドリルを、デュッドセルドフが高周波ランサーを構えて、突っ込んできた。
「よせっ!いくんじゃない!」
トウヤが叫んだが遅かった。正面の轟雷は刀を高々と掲げた。刀に稲妻がほとばしる。
「!?」
ほむらとフェインが気づいたときには遅かった。稲妻を帯びた刀が振り下ろされた。
「雷電斬覇っ!」
刀が大地に突き刺さると同時に、三条の稲妻がゴッドリラーとデュッドセルドフを襲う。
「ぐわっ!!」
「あああっ!」
あっという間だった。あっという間に二人がやられた。
「お次は?」
その言葉に答えるように、セレインのラーズグリーズとスヴァンヒルド小隊が一歩前に出た。全機、長距離砲を構えている。それにクロビスのバルドックも便乗する。バルドックの両肩に装備された長距離ビーム砲を構えている。
「ほう・・・大型火器の一斉射撃か・・・面白い。」
不適に微笑むシャドーレッド。そして一斉砲撃が轟雷を襲う。
リニアカノン・・・長距離砲・・・ミサイル・・・ビーム・・・あらゆる火器攻撃が轟雷に突き刺さる。
「!!」
クロビスが目を見張った。轟雷はバリアーに身を包み、砲撃を完全に防ぎきっていたのだ。
いきなり、轟雷が突進してきた。とっさの事でスヴァンヒルドやセレインは対処が出来なかった。轟雷の腕には両端に刃のついた薙刀を持っていた。
「しまっ・・・・」
クロビスの声は最後まで聞こえなかった。轟雷が薙刀をぶんぶん振り回し、次々とスヴァンヒルドやラーズグリーズをなぎ払う。クロビスのバルドックも同様だ。
「クロビス!!」
オーレリィが叫び、聖霊機パリカールが右手のライフルを轟雷に向ける。アーサーのドライデスも火器を轟雷に向けた。
「おそいっ!」
轟雷のショルダーキャノンの発射のほうが数秒早かった。それに出力も轟雷のほうが明らかに勝っている。吹き飛ばされるパリカールとドライデス。
「アイ!カスミ!クロビス達をリーボーフェンに!シィウチェンは二人を護衛してくれ!」
トウヤが剣を構えながら叫んだ。それに呼応するようにアヤも叫んだ。
「生き残ってるアルブレードは、聖霊機を支援しつつ後退!セレイン少尉達の回収急いで!」
「賢明な判断だ・・・さて、どうするか・・・」
シャドーレッドは後退していくアルブレードや聖霊機を見て呟いた。
「アヤ大尉。俺が突撃して時間を稼ぐ。援護してくれ。」
聖霊機ゼイフォンからトウヤがアヤに呼びかけた。
「悔しいけど・・・・、俺には時間稼ぎが精一杯みたいだ。」
トウヤの悔しそうな声を聞き、アヤにはトウヤの気持ちが痛いほど解った。
「時間稼ぎ・・・って、援軍でもくるんですか?」
参式の薙が尋ねた。
「キカイオーが・・・ジュンペイ君が来てくれる。それまでは・・・・」
すると薙は斬艦刀を取り出し、ゼイフォンの前に出た。
「そう言う事なら、参式の方が!心配しないで、そう簡単にはやられないです!」
確かに参式はTDF最強のPTだ。だが操る薙は・・・・
「よし・・・俺と彼女で突っ込む。二人掛りならなんとかなるかもしれない。」
トウヤが言うと、アヤは頷いた。だが・・・・それより早く飛び出した男がいた。
「待て待て待て!!新米兵士や民間人は下がっていなさい。」
御堂筋大尉の64式ロボが轟雷の前に立ちはだかった。
「み!御堂筋大尉、下がってください!64のかなう相手じゃ・・・」
だが聞く耳持たず、64は轟雷に攻撃を開始した。
「いくぞ。6・4ビ〜〜〜ムッ!」
64式ロボの胴から、「64」の文字のビームが放たれた。だが・・・・轟雷の分厚い装甲の前に意味をなさない。
「隊長!ビームが効きません。」
北花田二等兵が無傷の轟雷を見て言う。
「こうなったら、格闘戦しかないか!64パ〜ンチッ!」
両の腕を大車輪のごとく回転させ、轟雷に叩きつける。が・・・むなしく片腕が肩からもげてしまった。
「うう・・・・。こうなったら、64式ロボ最終必殺技!」
次の瞬間、64式の目と胸が輝いた。
「特攻じゃあ〜〜〜〜!!!」
轟雷に向かって突進する64式・・・
「ふん。」
太刀一閃───突っ込んできた64はカウンターでバラバラにされてしまった。
「余興は終わりかな?」
シャドーレッドがそう言うと同時に、ゼイフォンと参式が突っ込んできた。二機とも剣を持っている。
「私に剣で戦いを挑もうとはな・・・」
「やっとついたぜ!トウヤ!アヤ大尉!無事か?」
極東基地にキカイオーとブロディア・ボロン・パルシオンが到着した。キカイオーの前には、聖霊機ビシャールとオルベストの姿があった。
「じゅ・・・ジュンペイ君・・・」
アイが泣きそうな顔でキカイオーを見ている。
「どうした・・・なにがあったんだ!」
尋ね返すジュンペイに、カスミが半ば半狂乱で泣き叫んできた。
「ジュンペイ君!お願い!みんなを・・・トウヤちゃんを助けて!!!」
その尋常ではないカスミの様子に、ジュンペイはキカイオーを基地内に踏み入れた。
「!!!」
ジュンペイの目の前には、R−3・グルンガスト参式を除いて、ほぼ全滅したロボット達であった。そして轟雷がトウヤのゼイフォンを片手で持ち上げていた。ゼイフォンは既に力無く、いつ止めを刺されてもおかしくない状況だった。
「と・・・トウヤッ!!!」
ジュンペイが叫び、轟雷目掛けて突進した。その様子にシャドーレッドも気づいたようだ。
「トウヤを放せぇぇぇ!!!」
ジュンペイが大絶叫してキカイオーをジャンプさせた。
「トルネぇぇぇドッ!キィィィクッ!!」
空中でキカイオーの身体が回転し、強烈なダイビングキックが轟雷に迫る。
「やっと来たか・・・・」
シャドーレッドはゼイフォンを投げ捨てると、空中のキカイオー目掛けてショルダーキャノンを放った。
「くっ!」
トルネードキックを迎撃され、やむなく着地するキカイオー。
「ケイさんやポリン達は、トウヤ達を安全な場所に!」
ジュンペイが叫ぶとジンがすぐさま返答する。
「任せろ!お前は?」
「コイツは、俺が倒す・・・仲間を・・・友をこんな目に合わせたアイツは許せねえ・・・」
「ジュンペイ・・・・成長したな・・・・」
シャドーレッドはキカイオーを懐かしそうに、そして嬉しそうに見つめていた。
「友の為に、そこまで怒れるとは・・・立派になったな・・・。安心した、お前は一人じゃない・・・」
シャドーレッドの目に光るものが見えた。
「よし・・・かかって来いジュンペイ!」
シャドーレッドはそこで外部音声に切り換えた。
「ほう・・貴様にこの私と戦う度胸があるのか?超次元機関の秘密は、もはや貴様だけのものではないぞ。」
「!!!」
シャドーレッドのその発言に、モニターしていた全ての人間が驚愕していた。
「あいつが、超次元機関を持っているなら、キカイオーは負けるかも・・・」
テクノドームでモニターしていたサオリが言う。
「引くんだ、ジュンペイ君!」
巽博士はマイクを掴んで叫んだ。
「巽博士までキカイオーが負けるって言うんですか!?俺は戦います!キカイオーは無敵なんだ!」
そう言って、キカイオーは轟雷に殴りかかっていった。
それを見て、結奈がついに立ち上がった。
「紐尾さん?」
サオリが不思議そうに言う。
「出来たわ・・・・これならなんとか勝てるかもしれない。」
結奈はそれだけ言って、ディスクを持って、駆け出していった。
キカイオーが両腕で、轟雷の太刀を必死にガードしていた。どうやら超次元機関を搭載していると言うのは嘘ではないらしい。確実にキカイオーの装甲にダメージが蓄積されているからだ。
「くっ!ロケットブロー!」
右腕のロケットブローを発射した。
「遅い!」
やはり見切られてしまう。右腕はあらぬ方向に飛んでいく。
「よけて見せろ!!」
轟雷が太刀を振るう。太刀から衝撃波のようなものがキカイオーを襲う。射出した右腕を再装着して必死にこらえる。
「やられっぱなしじゃねえぞっ!」
腹部からキカイオーボンバーを発射するキカイオー。それに対して轟雷は大筒で対抗。
「いまだっ!キカイオーハリケーンッ!!」
キカイオーの口から物凄い勢いの轟風が吐き出される。轟雷は薙刀を回転させ同じように風を発生させ、相殺する。
「それで終わりか?キカイオー。」
轟雷が槍を構えて突進してくる。サルペンのライデンを串刺しにしたあの槍だ。
「死ぬがいいっ!」
切っ先がキカイオーに迫る。
「くそっ!負けてたまるか!」
ジュンペイはあえて避けず、首すれすれの部分で槍をかわすと、轟雷の懐に入る。
「キカイオーアッパー!!!」
猛烈なアッパーカットが轟雷の顎に炸裂する。そのまま空中に舞上がる轟雷。
「ヒートッ!ブレイザァァァ!!」
胸のブレストから熱戦が発射された。その狙いは空中に浮いた轟雷。
「なんのっ!」
轟雷負けじと肩からショルダーキャノンを発射。そのままビームによる押し合いになった。
光と光・・・・・ヒートブレイザーとショルダーキャノンの高エネルギー同士の力比べだ。
「ぐうううう・・・・負けるなキカイオー。」
「轟雷・・・・出力最大だ!」
ショルダーキャノンの出力が上がった。そのままヒートブレイザーを押し切る。
「そ・・・そんな!キカイオー!!」
奮闘むなしくショルダーキャノンがキカイオーに炸裂した。ふっ飛ばされるキカイオー。
「おかしい・・・・超次元機関に関しては轟雷のシステムは不完全・・・。完全体であるキカイオーがあれだけの出力しか出せないのは・・・解せん。」
シャドーレッドは、そう呟いた。まるでキカイオーに反撃してほしかったかのように・・・・
「くそ・・・・やっぱ60%でも勝てないのかよ・・・」
ジュンペイは外部スピーカーをONにしたままであった事を忘れていた。そのうめきが外に丸聞こえだ。
(60%だと!?それでは・・・キカイオーの超次元機関にリミッターをかけているのか・・・なるほどな・・巽博士・・・味な事をしてくれる)
そこで轟雷はキカイオーに背を向けた。
「不完全なキカイオーと戦っても意味は無い・・・。上手くすればと思ったが、やはり現状のままなんとかするしかないのか・・・」
そのまま立ち去ろうとする轟雷。
「に・・・逃げる!?くそ・・・そうはさせるか・・・」
よろよろと立ちあがるキカイオー。それに気づいたのか、轟雷が振り返る。
(まだやると言うのか・・・ジュンペイ。見事だ、私はお前を誇りに思うぞ・・・。だがまだお前を戦場に戻すわけにはいかん。時が来るまで、再び休んでいてもらう!)
轟雷は再び槍を取り出す。
(頭部と胴体以外で、修理に時間がかかる場所・・・腰部発電ユニット!そこを狙えばしばらくは動けん!)
槍がキカイオーに迫る!
「やられるっ!」
ジュンペイはとっさに目を閉じた。
「?」
一向に衝撃が襲ってこない。恐る恐る瞳をあけると、そこには信じられない光景が映っていた。
「ひ・・・紐尾・・・お前・・・」
轟雷の槍の餌食となったのは、キカイオーではなく、世界征服ロボだった。腹部を槍で貫かれ、そこからオイルが血液のように流れ落ちる。
「ばかやろう!なんで・・・」
とっさにロボを抱きかかえるキカイオー。
「・・・・勘違いしないで・・・・私の研究に、轟雷が必要だからよ・・・・。その為には対抗できるキカイオーを失うわけにはいかない・・・・」
火花の飛び散るロボのコクピットの中で結奈は苦笑していた。
「お前・・・可愛くねえな・・・嘘でもいいから俺の為・・・とか言ってくれないのがお前らしいよ。」
「・・・誰が貴方の為になんか・・・・それより手を出して・・・今からキカイオー用の補助プログラムを転送するわ。」
そう言ってロボの右手が動いた。キカイオーはそれをしっかりと掴む。
「今から転送するプログラムで・・・プログラムネーム『POW』で・・・十数秒だけ・・・キカイオーの攻撃力を1・5倍に引き上げる事が出来る・・・そうなれば・・・」
「そうなれば?」
「超次元機関の出力を・・・その時間だけ・・・90%まで・・・引き上げる事が・・・」
結奈は、そこで気を失った。だが結奈が気を失うと同時に、キカイオーの身体全体からオーラのようなものが走った。
「こ!これが・・・キカイオーの真の力!!」
ジュンペイはロボをゆっくりとその場に寝かせると、轟雷に立ちはだかった。
「行くぞ・・・シャドーレッドッ!!」
キカイオーの背中の主翼が消え、背中から何かが飛び出した。キカイオーはそれをがっちり掴んだ。
「覇王剣・・・」
「面白い・・・・一時的に超次元機関のリミッターを解除したか。」
轟雷は震える手で太刀を握りなおした。
「ならばこちらも全力を出さなければな・・・・」
轟雷のボディからもオーラが走った。
その異変に気づいたのは、リーボーフェンのブリッジで、戦いを見守っていたユミールであった。
「これは・・・次元交錯線が・・・・」
ユミールはすぐさまセンサーを働かせた。間違い無かった。極東基地上空の次元と空間のバランスが乱れ、空間が乱れていた。
「空間のバランスが・・・・次元の扉が開く・・・・」
だが、何故このような事態が起きたのだろう?眼下ではキカイオーと轟雷の激しい戦いが広がっている。空間の乱れは、キカイオーと轟雷を中心に起きている。
「二つの超次元機関の影響で・・・・次元の扉が開こうとしているの?」
ユミールの言葉に、ブリッジクルーが何かに気づいた。
「ユミールさん!この次元の扉を使って、アガルディアへ帰還できませんか!?」
可能性はある。実際、我々がこの世界に引き込まれたのはキカイオーが影響していると考えられたのなら・・・。
ユミールは決断した。
「これより!アガルディアへ帰還します!リーボーフェン起動!」
「なんだって!?アガルディアへ帰還する!?」
喜びの声をあげるクルー達をよそに、異を唱えるのはトウヤだった。
「ユミール!どう言う事だよ!外ではまだジュンペイが戦ってるんだぞ!」
回収されたゼイフォンのコクピットからトウヤはユミールに怒鳴った。
「トウヤ・・・気持ちは解ります。ですが・・・この気を逃せば、我々はいつ戻れるか・・・・」
悲しそうな表情のユミール。
「けど・・・けどよ・・・ジュンペイが・・・」
「俺の事なら気にするな!!」
いきなり通信にジュンペイが割り込んだ。轟雷と戦いの真っ最中だと言うのに・・・・・
「せっかくのチャンスなんだ!逃す訳にはいかねえだろ!」
「でも・・・・お前が・・・」
「トウヤ!心配すんな!俺は勝つ!お前はアガルディアでやる事を考えろ!」
「ジュンペイ・・・・ありがとう。」
トウヤとジュンペイの会話はそこで終わった。数秒後、戦艦リーボーフェンが浮上した。
「おりゃああ!!!」
キカイオーのタックルが轟雷の姿勢を崩した。そこをジュンペイは最後のチャンスと感じた。
「行くぞ!!」
覇王剣を轟雷に叩きつけ、轟雷を宙に浮かす。そこを狙って、キカイオーは何度も何度も斬りつけ、最後に思いっきりのけぞり、剣を構えたまま前方回転で斬りつけた!
「覇王!雷鳴斬!!!」
(見事だ・・・・。だがキカイオーはまだまだ不完全のようだ・・・・。私が生きているのがその証拠。また会おうジュンペイ。)
爆発した轟雷だが、中枢は生きていた。すぐさま転移し、姿を消した。
「逃げられたか・・・・。くそっ!」
破壊された轟雷の外装の残骸を眺めながらジュンペイは歯をかみ締めた。その上空をリーボーフェンが飛んでいく・・・・
「トウヤ・・・・あばよっ!元気でな・・・」
空の次元の扉に消えていくリーボーフェンに向けてキカイオーは手を振った。
「泣いてるの?トウヤちゃん・・・・」
窓に頭を押し付けているトウヤに向けてカスミが話し掛けた。見ればトウヤは目から涙を流しつづけていた。
「俺は・・・戻ってくる・・・。ゼ=オードとの決着を付けて・・・・もう一度、この世界に来る・・・絶対だ・・・」
「トウヤちゃん・・・」
「・・・必ず・・・必ず助けに来るからな・・・・ジュンペイ・・・・」
次回予告
アヴェでの戦いを一時終えたオンディーヌ隊は日本へ帰還する。だが事態は彼等に休息を与えることはなかった!
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次回、サイバーロボット大戦 第三十一話『強襲!第二世代!』にライダーキック!!
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