第二十七話 「バトリングチャンプの正体 恐怖の戦艦落し!!」
「キスレブ首都の原子炉に、爆弾戦艦ヘヒトを落す!?」
ファティマ城の地下・・・・、ゲブラーの本隊の作戦会議室で告げられた作戦の内容にエリィは絶句した。
「そうだ・・・前回のTDFとの戦闘で、地上での我々の戦力は大きく削られている。それがキスレブとのミリタリーバランスを崩してしまった。」
司令官であるラムサスは平然と言いきった。
爆弾戦艦ヘヒト・・・・・、全長189m・全備重量56020tを誇る、ゲブラーの巨大『特攻自爆』用戦艦である。
目的はただ一つ、目標地点への特攻自爆。勿論無人制御の遠隔操作艦で、言ってみれば空中戦艦の戦闘力を持った投下爆弾だ。
これに勝る爆弾兵器は核兵器しかない。コロニー落しの小型版と言ったところだ。しかも命中率、信頼性共に高い。まさに体当たり専門兵器だ。
しかも原子炉にぶつければ、威力は倍増、計り知れない破壊を生む事になる。
「この攻撃により、キスレブ首都を粛清。このイグニスエリアにおける我々ゲブラーの優位性を示すのだ。」
ラムサスは、俄然やる気のようだ。確かに、TDFや今までのキスレブ軍における戦いでゲブラーの戦力は全盛期に比べて、かなり落ちている。
こう言った、大量虐殺兵器の投入もやむを得ないのかもしれない。だが、エリィはどうもやる気になれない。
軍の命令は絶対だ。軍人・・・しかも士官である自分は、上からの命令には逆らえない。
だが人間として納得はいかなかった。確かに戦いを終わらせるには有効な手段かもしれないが、一般人を巻き込み、しかも放射能汚染を引き起こす、この非人道的作戦は納得がいかない。
「ヘヒトの護衛には、エレハイム少尉。貴方達の部隊にやってもらうわ。」
ミァンが相変わらず、冷たく冷めた目でエリィを指名する。エリィはただ、「了解」としか答えられなかった。
「よろしいですか?ラムサス閣下。」
ラムサスの私室でミァンがラムサスに問いかけてきた。
「なんだ?言ってみろ。」
「ヘヒトを使用するのは、時期が早いのではないでしょうか。」
その問いにラムサスは、首を横に振った。
「いや・・・、我々の戦力はTDFのせいで、がた減りだ。しかも本国からの通信によると、TDFのPT部隊が勢力を盛り返しているらしい。」
その言葉にミァンは「そうですか・・・」と答えた。あまり興味なさそうに・・・・
「我々が保有するギアに匹敵するパーソナルトルーパー・・・。情報部によると、何処かの企業や財閥がTDFに出資しているらしい。」
「物珍しい企業ですね。勢力が衰えていたTDFに出資して、見返りが来るのでしょうか?・・・DN社ですかね?TDFの部隊にバーチャロイドがいましたし・・・」
ミァンは、オンディーヌ隊がバーチャロイドを所有していた所から推測したのだろう。
「いや・・・違うな。どうやら別の企業らしいが、その正体は掴めていない。だが、マオ=インダストリー以外でTDFに協力できるほどの企業となれば限られてくる・・・。」
どうやらソラリスの方でも、レイカの天宮財閥やお嬢様軍団の事までは知られていないらしい。
だが、そんな事は今のラムサスにはどうでもいい事だ。今は目の前のキスレブを叩く事が先決なのだ。
「今度こそ、俺の実力を・・・・」
ラムサスは自分に言い聞かせるように呟いた。
「ご苦労様です!マリー少尉!」
輸送部隊の兵士の一人が、赤い軍服を着た女性に敬礼した。女性はマリー=ミヤビ少尉。以前、オンディーヌ隊に補給物資を輸送した部隊の護衛責任者だ。
ここは、TDFハワイ基地。太平洋の丁度中心に位置する場所だ。アメリカ大陸がイグニスエリアと呼ばれ、アヴェとキスレブに統治されてからは、ハワイはアメリカの領地ではなくなっていた。
ここは数少ない、瓦解した連邦政府管轄の土地なのだ。それゆえTDFの海洋基地の要でもある。
キスレブと睨み合いを続けているアヴェは、ハワイまで攻める余力は無く。瞬間転送技術を持つ、ゴルディバス・宇宙悪魔帝国・評議会連合は、攻める前に地上での拠点を失った。
ここを狙うとすればDN社ぐらいなもの。オーストラリアに地上での拠点を持つDN社にとっては、地上侵攻の要であるこの基地は是非とも欲しい筈である。
したがってこの基地には、対VRを想定したPT&VA部隊が多数配備されていた。
現在は、DN社は地上では、南太平洋諸国と、インド洋経由でアフリカ大陸を中心に戦線を広げており、極東には手を出していなかった。恐らくラムサスがいう通り、勢力を盛り返し始めたTDFを警戒しての事だろう。
対抗組織が少ないアフリカ戦線を狙ったのは賢明といえる。
そのハワイ基地では、TDFの戦力の中心ともいえるオンディーヌ隊に、新たな物資を運ぶ為の準備が行なわれていた。
何機もの巨大な飛行艇に、人型の機体が積み込まれていた。それも三機・・・・。レプトスタイプのVAが飛行艇をがっちりガードしていた。それだけ重要な機体らしい。
「ようやく直ったのか・・・・・Rマシンが・・・」
マリーが飛行艇に積まれている機体を見ていった。一機目の機体は、細身で全体的にすっきりとした印象を与える。どちらかと言うとヒュッケバインに近いデザインだ。ヒュッケバインと違う点を上げるとすればカラーリングだ。白を基調にして青や赤・・・トリコロールカラーで塗装されていた。
二機目は、対照的に重量感に溢れる機体だ。一機目が人間のように二つの目を有しているのに対して、こちらの機体は横に細く伸びたゴーグルのようになっている。足も短く太い・・・ホバークラフトが採用されているようだ。
塗装は青を中心にしている。武装も、大型のライフルと両腕にヒュッケバインよりも大型のビームチャクラムが印象的だ。
「R−1とR−2・・・パワード装備が間に合わなかったのが悔やまれるな。」
この機体は、SRX計画によって生み出されたPT・・・・。対異星人用に開発された機体で、SRX計画の中心となる機体だ。
EOT・・・・エクストラ・オーバーテクノロジーをふんだんに使用された機体だ。そしてこれらが、リュウセイとライの本来の機体なのだ。
「ついに完成したか・・・・七号機・・・」
マリーは最後に搬入されて行く機体を見て呟いた。
「R−ガーダーと同期に開発されていた物が、ここまで遅れるとはな・・・・。この機体が役に立てばいいのだが・・・」
マリーは巨大な四枚の主翼を持った、異形のPTを見て祈るように呟いた。
「マリー少尉!!緊急入電であります!!」
一人の兵士が、携帯端末を持って駆け寄ってきた。その顔は必死だ。よほど重要な事なのだろう。
「どうした?何があったんだ。報告しろ。」
マリーが詰め寄ると、兵士は背筋をただし、携帯端末をマリーに差し出す。
「以前、オンディーヌ隊から伝送されたゲブラー艦からのデータの一部の解析が終了した結果、ゲブラーの作戦の一つが判明したのであります!」
兵士の言葉を受け、マリーは端末のディスプレイに目をやる。するとマリーの表情が変った。その顔は驚愕に満ちている。
「全長189mの爆弾戦艦!?こんなものが・・・」
「はい。その通りであります。しかもゲブラーは、これをキスレブ首都近郊の原子力発電所に投下させる作戦を予定しているらしいのです!」
兵士の報告を補足するように、マリーは端末の情報を凝視していた。間違い無くゲブラーは、そのような作戦を計画している。しかもこれは地上侵攻作戦の一部に過ぎないと言うのだ。
「ソラリスめ・・・・。何という事を・・・・。」
拳を握り締め、マリーは情報を睨んでいた。もし情報通りなら、こんな非人道的な作戦、実行させるわけにはいかない。
だが、次の瞬間、マリーの脳裏に、何かが浮かんできた。それはオンディーヌ隊から送られてくる定時連絡や様々な戦闘経過報告だ。マリーはそれらを思い出していたのだ。
「ちょっと待て・・・・、我々が今回物資を送るのは、ゲブラーとの正面衝突による物資や装備の浪費の為だ。Rマシンの補充は、たまたま今回の補給に間に合ったからに過ぎない・・・」
マリーの頭の中で、様々な考えが浮かんでは、消え。消えては浮かんで行く・・・・。そして彼女は結論に辿りついた。
「報告通りなら、アヴェの戦力はソラリス・・・つまりゲブラーを加える事で、キスレブとの均衡を保っていた・・・」
その通り、アヴェ軍のみの戦力では、キスレブには太刀打ちできない。ソラリスの戦力を加えて初めて五分以上に戦ってこれたのだ。
「今回の戦闘で、ゲブラーはその戦力を随分失った・・・。増援を要請しようにも、衛星軌道上はプリンセス号と千代丸さん達の部隊が睨みを効かせている・・・。よっぽどの大軍でなければ突破は無理・・・」
そう、地球の衛星軌道上には、プリンセス=ミラージュ率いる巨大戦艦『永遠のプリンセス号』と、神楽千代丸率いるVA部隊が待機しており、可能な限り、地球への降下作戦を防いでいる。物質転送技術を持つゴルディバスや宇宙悪魔帝国ならいず知らず、ソラリスやDN社の地球降下は、大軍でなければ難しい。
「そうなれば・・・・キスレブとアヴェのミリタリーバランスは、キスレブに傾く・・・。そうなればゲブラーもキスレブに同じ位のダメージを・・・いや、それ以上の打撃を与えなければ・・・・!!!」
そこでマリーの表情は変った。明らかに何かに感づいた表情だ。
「積みこみ急げ!!事態は一刻を争う!!急ぐんだ!!」
マリーの突然の大声に、兵士達は驚いたが、その険しい表情から察したらしい。各部署のチーフクラスが部下達に作業を早めるように、激を飛ばす。
「伝令!」
マリーが叫ぶと、一人の通信兵が駆け寄ってきた。兵士が敬礼して、マリーに指示を請うと、マリーはこれまでにない真剣な表情で、口絵を開いた。
「オンディーヌ隊に、緊急連絡!ゲブラーの爆弾戦艦、キスレブ首都近郊の原子炉に投下させる用意があると!!」
場所はキスレブD区画に・・・・
ジン=サオトメの試合を見てから、フェイのバトリングに対する姿勢が明らかに変化していた。
明らかに各下と見える相手にも、手を抜く事無く、全力でぶつかっていた。そして、機体の優劣に関わらず、己の技量を磨く事を忘れなかった。
そして時間が空けば、ちょくちょくジンの元へ足を運び、互いの体術を競い合い腕を磨いていた。
御互いの武道家として、通じる事があるのだろう。フェイとジンは拳を交わらせる事により、いつのまにか友情を深めていった。
そして、フェイは予選リーグを突破し、決勝への切符を手に入れた。
「とうとう先を越されたな。やるからには優勝しろよ、それで身の潔白を証明するんだ。」
いつものようにジンと組手をしていたフェイにジンは、そう言った。ジンは、ブロディアの左腕の修理が予想以上に時間がかかってしまった為に、実力があるにも関わらず、今だ予選リーグに甘んじていた。
「ああ。そのつもりだ。負けてやるつもりは無い。」
フェイの強気なセリフにジンはにやりと笑った。
その様子を香田奈は、じっと見つめていた。
「拳でわかりあう友情か・・・・。なんとなく解るな・・・・」
香田奈も武道の心得はある。実力はフェイやジンに及ばない物の、格闘技者としての心は解るつもりだった。実際、亡くなった恋人がそうだったように・・・・
恋人の事を思い出して、香田奈は心に寂しさを感じた。いつもなら将輝が傍にいる、孤独を感じたことは無い。だが今の彼女は一人だった。
「今日は・・・もう休もう・・・・」
香田奈は悲しげに呟いて、宿舎に戻って行った。
そして、フェイは決勝リーグを突き進み、いよいよ王者であるキングへの挑戦権を得た。決勝の切符を手にして僅か一日半であった。これはバトリング界でも異例のスピードであった。
決勝に進んでからというもの、フェイに対する廻りのバトラー達の反応は、当初より明らかに変わっていた。
最初の頃はフェイの事を疎ましく思っていた連中も、すっかりなりを潜め、手出しどころか口を出すものすら現れなくなっていた。
「力が順序・・・・。力の差が身分の証」
それが、D区画でのバトラー達の掟。そして、フェイとジン=サオトメが友情を深めていたのも理由の一つだ。
コロニー格闘技のチャンプ・・・・、そんな男に喧嘩を売れる度胸の持ち主など、存在していなかった。・・・・・ただ一人を除いて・・・
D区画の唯一の酒場・・・・、バトラー達の食堂も兼ねているその場所の二階に男の部屋はあった。
多段式ベッドが連なっているだけの、D区画囚人用宿舎に比べれば、天と地ほどの差がある部屋だった。この部屋は、バトラーキングのみに居住を許された、キング専用の個室であった。
現在の主は、数日前フェイに、洗礼の儀式を強要し、フェイを破った男・・・・そう、『キング』と呼ばれた男が住んでいた。
キングの本名は、『リカルド=バンデラス』。通称『リコ』。
リコは、配下のバトラーからフェイが決勝に進んできた事を知らされた。
「そうか・・・奴がな。・・・・ふっ、面白い・・・」
リコはそれだけ言い、口元をほころばせた。彼の予想では決勝で自分と五分に渡り合えるのは、噂のジン=サオトメだけかと思っていたからだ。
リコは、配下達を下がらせると、何かを思い出すようにつぶやいた。
「奴が相手か・・・・。もし俺が敗れるような事があったら・・・その時が、決行の時だ・・・・」
自分自身に言い聞かせるように、呟く。それが三年間もバトラーキングの座にいる理由だからだ。
太平洋上を、数機のVAに護衛されながら、TDFの輸送機が進んでいた。
輸送機のスピードはそれほど速くない。重い搭載物のせいだ。それゆえ機動性が低く、敵からは格好の獲物だ。その為に護衛が必要なのだ。
スカイブルーに塗装された細身のVA・・・・レプトスが輸送機に平送するように飛んでいる。先頭を飛行しているのは、勿論護衛部隊隊長のマリー=ミヤビ少尉だ。
「急がなくては・・・・、早くこの事をオンディーヌ隊に知らせなくては・・・」
心の中で焦りながら、マリーはレプトスを飛行させていた。そんな時、コクピットの通信機から輸送機のパイロットの声が聞こえてきた。
勿論、通信を傍受されないよう、レプトスと輸送機の間には、簡単に切り離せる通信用ワイヤーで繋がっている。
「少尉!前方、潜水艦の反応をキャッチ!!こちらに向けて浮上してきます!!」
パイロットの声に、マリーは瞬時にレプトスのセンサーを稼動させた。レプトスはすぐに情報をマリーに伝える。
確かに、自分達の進行方向の海中に潜水艦の反応がある。問題は、その潜水艦がどこの所属であると言う事だ。
「潜水艦の所属は解るか!」
マリーがパイロットに聞くが、パイロットは「所属不明!」と答えた。そして「接触まで、あと30秒」とも付け足した。
マリーは通信用ワイヤーを切り離し、無線封鎖を解除した。もし、敵ならば輸送機をやられるわけにはいかない。
だが一抹の不安がマリーの脳裏をよぎった。自分のレプトスは、水中戦を考慮されていない。勿論戦えない事は無いのだが、水中で潜水艦と五部に戦える保証はない。
そしてついに潜水艦が浮上してきた。大きい・・・・400m近い巨大な潜水艦がその姿を現した。
「く・・・・、どうする・・・・」
マリーが次の判断を考えている最中に、それは起きた。
潜水艦のハッチの一部が開き、そこから青色で塗装された人型兵器・・・・ロボットが姿を現した。
あまりの無防備さに、マリーは一瞬罠かと思ったが、青いロボットを見て驚愕した。そのロボットは彼女が所属する組織・・・TDFの機体だったからだ。
「グルンガスト弐式!?」
リコとの試合を明日に控えたフェイは、ギアハンガーでヴェルトールの整備に余念が無かった。勿論サポートとして、シタンがハードウエア。香田奈がソフトウエアの整備を行なっていた。
少しでも早くリコと戦う為に、連戦を重ねたせいか、ヴェルトールは結構疲弊していた。その為の部品調達は、ハマーが担当していた。だが・・・・
「この程度なのか?」
ハマーが調達してきたギア用の部品を見て、フェイは落胆していた。
「そうでヤンス。これがここ(D区画)で手に入る最高級の部品でヤンスよ。アニキ。」
そうは言うものの、その部品は最高級とは言い難い物だった。
「こんな劣悪な物が・・・・。キングの奴もこれと同じような状態なのか?」
尋ねるフェイ。ハマーは首を横に振った。
「いや、バトラーキングは委員会から直接部品や資材を優先的に供与されるでヤンス。」
その事は、シタンと香田奈は前もって知っていた。バトリングは表向きは国家的娯楽だが、裏では新型ギア開発の為のデータ収集なのだ。キングに供与される部品とて、特権ではなく試作品のテストの意味合いが強い。
だが、いくら試作品とは言え、今のフェイが手にしている部品とは精度が違う事は明らかだ。
「ううむ・・・・。どうするか・・・」
悩むフェイ。
「先生・・・隠してあるR−ガーダーやヘイムダルのパーツ外して持ってきます?」
香田奈がシタンにそう進言した時であった。
「その必要はないぞ、お嬢さん!」
ギアハンガーに声が響いた。その声が誰の物であるかフェイには解った。ギアハンガーの天井を見上げると、そこに仮面の男、ワイズマンが立っていた。
「甘い!甘いぞフェイ!お前はまだ機体の優劣だけで勝敗が決まると思っているのか!」
ワイズマンはそう言って、フェイ達の元へ飛び降りてきた。
「貴様が幾ら高性能な機体に乗りこもうと、奴には勝てん!」
フェイを指差すワイズマン。
「なんだと!!だから、自分の技量を磨いて、全力で・・・・」
フェイの言葉が終わらないうちに、ワイズマンは襲いかかってきた。強烈な掌打がフェイを襲う。
「ぐはっ!」
「貴様には、口で言っても解らん。己が拳で答えるがいい!!」
フェイは口元を拭うと、ワイズマンを睨みつけた。
「上等だ・・・。今日こそ、アンタを・・・」
アヴェ聖地ニサン・・・・・
謎の真紅のギアの攻撃により小破したホワイトローズは、ようやく修理を終え、艦載のロボット達も一部を除いて、なんとか動ける状態に戻っていた。
そんな中、ハワイ支部から爆弾戦艦の情報を受けたオンディーヌ隊は、直ちにアヴェ政庁へ一部のお嬢様軍団を調査に向かわせた。
そして・・・・
「あれが爆弾戦艦・・・・」
アヴェ政庁へ潜入したお嬢さま軍団の一人、銀幕のミキは空を見上げて度肝を抜かれた。
空に巨大な空中戦艦が、今まさに飛び立とうとしていたからだ。
「冗談じゃないわよ。あんな巨大な物原子炉になんて落されたら・・・・」
一緒に潜入していた、ストライカー・ルイの額に冷たい物が流れ落ちる。
「護衛がびっしりついてる・・・。マズイ、ゲッPもバンガイオーも修理が終わってない今のあたし達じゃあ・・・」
「とにかく、戻りましょう!あの巨体なら、そう速く飛べない筈よ!」
二人は、急いでホワイトローズへと駆けた。
一方、キスレブD区画では、フェイとワイズマンの戦いが続いていた。
見た目では、明らかにフェイが不利であった。実力はワイズマンの方が上だからだ。
「・・・・」
二人の戦いを見ていた香田奈が、何かに気付いた。
「どうしました?」
シタンが、不思議に思い尋ねた。
「いえ・・・・。凄い戦いようなんですけど、あの二人の間には、憎しみや怒りと言った感情が伝わってこないんですよ。」
「確かに・・・。凄まじい勢いですけど、何と言うか・・・『さわやかさ』を感じますね。」
シタンの言葉に香田奈は頷いた。
「ええ、そうなんです。まるで、師匠が弟子に実戦を通して稽古をつけているという感じが・・・。そう、『実戦稽古』のような雰囲気なんですよ。」
そう言っている間に、ワイズマンは高くジャンプし、空中で身構える。
「受けてみろ!」
ワイズマンが叫んだ。すると、ワイズマンの両腕から、気孔弾が発射された。しかも一発ではない。何発も何発も・・・まるで機関銃のように気孔弾が連射される。
「くっ!!」
必死に防御するフェイ。雨のような気孔弾を耐えぬいたフェイは、着地したワイズマンをキッと見据える。
「どうだ。貴様の気孔とは比べ物にならんだろう?」
ワイズマンの言葉にフェイは、すかさず言い返す。
「それぐらい、俺だって出来る!!」
そう叫び、フェイはワイズマンと同じように高くジャンプし、空中で空いてを見据えた。
「食らえっ!!」
フェイも両腕から気孔弾を連射する。その光景は、先ほどワイズマンが放った技とまったく同じだった。
「!!」
フェイの気孔弾の攻撃をワイズマンは、しっかりと防御していた。
「くっ!防御のやり方も心得てるって訳か・・・・」
悔しそうに呟くフェイ。だがそこでワイズマンは構えをといた。
「!?」
驚くフェイをよそに、ワイズマンは満足そうに頷いた。
「風の拳・・・『超武技・風剄(ちょうぶぎ・ふうけい)』しかと見せてもらったぞ、フェイ。」
「え・・・・・!?」
「その技があれば、明日の試合、遅れをとる事はないだろう・・・・では!」
ワイズマンはそれだけ言って、また姿を消してしまった。
「ワイズマン・・・アンタは・・」
そしてフェイと同じ事は、香田奈も感じていた。
「やっぱり・・・・実戦稽古だったんだ・・・・」
「やりましたねアニキ!!これなら勝てるッス!」
ハマーが笑顔を浮かべて寄って来た。
「ふ・・・、フェイ。試合を前に、いい経験が出来ましたね。」
シタンも明るい笑顔で話しかけている。
「ああ・・・、勝ってやるさ!」
「・・・・・・・・・」
にこやかに談笑しているフェイ達を見て、香田奈は黙って、ヴェルトールのシステム調整を再開した。
「・・・・」
心に寂しさを感じながら、調整を続ける香田奈の目には、うっすら涙がにじんでいた。共に戦う仲間と言えど、フェイやシタンのように昔からの間柄ではないし、ハマーのように図々しさは、自分は持ってない。
所詮、一人なのかな・・・・と感じつつ、黙々と作業を続けた。
アヴェの上空を、巨大な空中戦艦が、突き進んでいた。爆弾戦艦ヘヒトだ。
その廻りを、何機ものソラリスギアががっちりと護衛している。その中で白い女性型ギアの姿もある。エリィの愛機、ヴェルエルジュだ。
エリィは、後方のモニターで再度ヘヒトの姿を再確認した。巨大かつ、言い知れぬ恐怖感を持った姿がそこにはあった。
「予定通りなら、明後日の夕方にはキスレブ総統府か・・・・」
ヘヒトの飛行速度は、決して速くない。この巨大さなら無理も無い話だ。ギアだけなら一日あればつくだろう。だが、今回はヘヒトの護衛である。
移動速度もヘヒトに合わせなくてはならない。
「エリィ・・・本当にこれでいいの・・・」
キスレブD区画・・・・職員用宿舎
D区画の囚人たちを管理する職員達は、ここで寝泊りしていた。
勿論、医師と看護婦という立場で潜入したシタンと香田奈もここを利用していた。
「ん・・・・くふっ・・・・」
香田奈は自分に割り当てられた個室のベッドの中にいた。
「んん・・・・くぅぅ・・」
ベッドの中で、香田奈は、自分の胸と下腹部を刺激していた。
「くうっ!」
香田奈は果てた。敏感な場所を自分で刺激して、己を慰めていのだ。
「・・・・・・・・・何やってるんだろう・・・・私・・・」
果てた後、言い知れぬ嫌悪感が現れた。
「寂しい・・・・寂しいんだね・・・私・・・」
香田奈は、近くにおいてあったバンダナを手に取った。
「・・・長船さん・・・しょうちゃん・・・うう・・・」
バンダナを抱き締めるようにして、うずくまった。
「寂しいよぉ・・・・私、寂しいよぉ・・・・うう・・・しょうちゃん・・・」
翌日、バトリング試合会場にヴェルトールが立っていた。そして目の前に、深いグリーンで塗装されたギアが仁王立ちしていた。
リコの愛機・・・・バトリングチャンプにして三年間もキングの名を守ってきた男の機体・・・・『シューティア』がヴェルトールを睨んでいた。
パワー重視の肉弾戦ファイタータイプか・・・・。とフェイは判断した。そしてその推測は間違ってはいない。
円柱状の頭部・・・顔面は緩やかな曲線を描いているが、扁平顔に近い。真正面から相手を見据える事を考えているのだろう。細長い二つの目が、黄色い輝きを放っている。しかも側頭部に機銃口が見える。
胴体が短く小さい割には、両手足は太く、そして長い。恐らく肉弾戦の際を考慮した設計のようだ。右手首は普通の五本指だが、強固そうなメリケンサックをつけている。反対の左手首は鋭い三本の爪だ。
両足のかかとには大型のタイヤがあった。重そうな重量とは裏腹に、以外と小回りが効くのかもしれない。
一番目を引くのは、背中の円柱状のバックパックだ。まるで昔の打ち上げロケットをそのまま背中につけたような感じだ。いや・・・そうなのかも知れない。
「・・・・・勝つ!絶対に!」
フェイは闘志を漲らせていた。それに呼応するようにヴェルトールの周囲になにかオーラのようなものが浮かんでいた。
その様子をリコは、面白そうに見つめていた。
「お前とやれる事を、感謝しなくてはな!久しぶりに熱くなれそうだ!」
カーンッ!!───ゴングが鳴った。
「うおおおおおお!!!」
フェイは吠えながら、シューティアに向かって行った。
「フェイ君・・・・勝てるかな・・・」
香田奈が不安そうに呟く。
「大丈夫!アイツは勝てる!!」
いつのまにか、香田奈とシタンの隣に、ジンとサンタナが来ていた。
「アイツは・・・フェイは、この数日でかなり強くなった!俺が保証する!」
ジンが言うとかなり説得力があった。確かに僅か数日で、フェイの格闘技者としての技量は上がっているだろう。コロニー格闘技チャンプであるジンが言うのだから、間違い無いのかもしれない。
戦いが始まった。吠えていたフェイが、いきなり動きを止めた。その場に立ち止まり、ユサユサと身体を上下に揺らしていた。立ち技系の構えだ。
対してシューティアは、肘を曲げ、上体を低くして静かに近づいてくる。組み技系の構えだ。
そして・・・・ニ機の制空権が触れ合った瞬間、お互いに右のローキックが放たれた。だが、御互い左足の膝でがっちりと防御している!
そして、目にも止まらぬ早さでシューティアの両腕が動いた。瞬時にヴェルトールの両肩を掴み、一瞬ヴェルトールの両腕を封じる!
「!?」
フェイが気付いた時には、シューティアの頭突きがヴェルトールの頭部に炸裂していた。端麗な造詣のヴェルトールの顔面に亀裂が走る。
そして、シューティアが次にヴェルトールの首を掴もうとした瞬間、フェイはヴェルトールをバク転させ逃れ、1度間合いを開く。
「やるな、アンタ。」
フェイがにやりと笑ってリコに呼びかけた。
「ほんの挨拶だ。」
リコも笑みを浮かべて言葉を返す。嬉しいのだ、自分と五分に渡り合える存在がいる事に・・・
シューティアの右の前蹴り!そして右の正拳!ギリギリで避けるヴェルトールに、左の膝蹴りが襲う!両腕でとっさに防御するヴェルトール!だが、そこへ右の肘打ちがヴェルトールの背中を襲う!その衝撃で背中のスラスターが歪む。
だが、すぐに態勢を戻し、強烈な頭突きをシューティアに見舞う!その攻撃で、シューティアのガードが空き、胴体が一瞬がら空きになる。
フェイはそれを見逃さない。剥き出しになった胴体に、連続の正拳突き!!だが効果が薄い、シューティアの装甲は対衝撃性に優れているのだ。
「くっ・・・なら!!」
フェイは正拳から貫手に切り替え、右手を突き出す。だが、その右腕をシューティアが掴んだ。そしてそのまま投げ飛ばそうとする。
「!!」
とっさに、ヴェルトールの左の貫手がシューティアのわき腹に突き刺し、投げを阻止する。
「ぬうっ!」
ひるむリコ。その隙にヴェルトールがシューティアに体を預け、そのまま背中のスラスターを全開にする。
ヴェルトールの全開推力に押され、シューティアはそのまま壁に叩きつけられた。背中のロケットが歪む。
ハアハアと息を荒げるフェイは、トドメとばかりに、今一度貫手を突き出そうとする。だが!!
「!!!」
フェイは驚愕した。今まで爪だと思っていたシューティアの左手首がドリルへと姿を変えたのだ!!爪は実はドリルを展開した状態だったのだ。そのドリルをヴェルトールへと突き出す!!
「くっ!!」
とっさに間合いを開くフェイ。だが、右肩を少し削られてしまった。間合いを開くのが遅ければ、右腕ごと持っていかれたかもしれない。
「なんのっ!」
間合いを開いたヴェルトールは前蹴りをシューティアへ繰り出す。
防御はしたが、勢いが強く、シューティアは仰向けに転倒。フェイはそこへ落下式の飛び膝蹴りを浴びせる!!
「やったか!?」
だが!逆にシューティアはヴェルトールの足を掴み、そのまま逆関節を決める!!
火花を上げるヴェルトールの左足!フェイは右足でシューティアの顔面を蹴り脱出。
「・・・・・・・凄い・・・」
香田奈には、それだけしか言えなかった。
今まで、数多くのロボット同士の戦闘を見てきた香田奈だが、ロボットがまるで人間のような突きや関節技を決める格闘は見た事無かった。
「・・・なんて凄いんだろう・・・」
「フェイとか言ったな・・・・・。どうした息が上がってるぜ。」
リコが笑みを浮かべながら、話しかけた。
「へへ・・・、嬉しくてね・・・。嫌々バトリングやってたけどさ、あんたみたいな強い奴と戦えるのは、拳法家として嬉しくなってきてね・・・」
フェイは、知らず知らず、笑みを浮かべていた。格闘技者としての喜びが浮き出てきたのかもしれない。
今のフェイには、自由の身になることなぞ、どうでもよくなってきた。ただ、全力以上に戦える相手がいる事に楽しんでいるのだ。
「さあ!これからが本番だ!!」
「その通りだな。」
会話が終わると同時に、シューティアが回し蹴りを放ってきた。左のミドルキックがヴェルトールの脇を襲う!
だが、フェイは避けない!あえて受け、シューティアの左足を掴んだ!
「せいいいいっ!!」
シューティアの左足を掴んだまま、シューティアの体を支えている右足の膝目掛けて、踏みつけるように蹴りを突き出す!!
その衝撃でシューティアの態勢が崩れると、ジャンプして左の足で、シューティアの頭を締める!そして足で首を締めたまま、転がるように足投げを浴びせる。
さらに、シューティアの足に、本来なら腕に浴びせるべき技である「腕肘十字固め」をなんと、足に決める!!
「!!」
だが、ロックが不充分であった。リコはシューティアの体を捻り、脱出。双方とも、またしても間合いを1度開きなおす。
リコはフェイを睨んだ。
「お前っ!俺に関節技を仕掛けたな!!」
するとフェイはゼエゼエ言いながらも、微笑みながら答えた。
「覚えるとな・・・・すぐ使いたくなるんだ・・・」
構えを直しながら、フェイは考えていた。
(右足と左足・・・・、これで状況は五分・・・)
「おおおおおおおおお!!!!!!」
「うおおおおおおおお!!!!!!」
フェイとリコ、二人は気合を発する声を上げ・・・・いや吠え、常人では視認する事すら難しいほどの連激を繰り出す!!
無節操に殴り合ってるだけに見えるが、二人は互いの攻撃を避けるか、防ぐか、見極めていた。その数多くの攻撃の中で、どの攻撃が本命なのかを、探しているのだ。
バキッ!!──
ヴェルトールの右のローキックが、シューティアの足に炸裂した。一瞬、防御が解けるシューティア。
「ここだ!!」
トドメっ!とばかりに正拳をシューティアの顔面目掛けて放つヴェルトール。だが!シューティアはしゃがんだ!!
「しまった!乗せられた!!」
フェイが叫んだ!だがもう遅い。シューティアの頭上を通り過ぎるヴェルトールの右腕。その瞬間、ヴェルトールはまるで無防備だ。
ガシィィッ!!──
ヴェルトールのボディをがっちりと掴むシューティア。組み技になった際、懐の深いシューティアの方が圧倒的有利なのだ。がっちり掴んだまま、ヴェルトールを持ち上げるシューティア。
「トルネードっ!Dッ!!」
リコが叫んだ。
かかとのタイヤを利用して、猛烈に回転するシューティア。そして回転力と、自分の豪腕を生かして、ヴェルトールを高々と空中へ放り投げたのだ!!
「だめっ!あんなのを食らったら終わりよ!」
香田奈が悲痛そうに叫んだ。だがジンは、平然と見つめていた。
「そう、騒ぐもんじゃない。大丈夫だ。」
「どこから、そんな余裕が・・・」
香田奈には、ジンの平静さが、何処から来ているのか不思議でならなかった。
一方、放り投げられたフェイは・・・・・
「このまま地面に落下すれば、終わりだ・・・どうすれば・・・」
その時、フェイの脳裏に夕べの出来事が浮かんだ・・・・。そう!ワイズマンとの戦いを・・・
「そうだ・・・、俺にはまだ、あの技があった!」
やがて、最大高度まで達したヴェルトールは、そのまま地上目掛けて落下し始めた。地上ではシューティアが勝利を確信したかのように、空を見上げている。もしかしたら、無防備な落下中に、更なる攻撃を仕掛ける気なのかもしれない。
「ジャンプする手間が省けたぜっ!」
フェイはスラスターを小刻みに吹かし、ヴェルトールの態勢を取り戻した。だが、落下中は無防備である事は変わりない。
フェイは、地上のシューティアを見据え、呼吸を整えた。シューティアはヴェルトールが態勢を取り戻した事を予想して身構えていた。落下と同時に仕掛ける気だ。
「いくぞっ!超武技・・・・・」
ヴェルトールの両腕に、白い光が集まって行く・・・・
「風剄!!とりゃあああ!!」
両腕から、白い気孔弾が雨のようにシューティアに襲いかかる!強固な筈のシューティアの装甲がどんどん歪んでいく。
やがて、シューティアは全身から火花を上げ始めた。体の動きも鈍い。フェイはこれが最後のチャンスと確信した。
「とどめだっ!!」
空中落下の勢いを加えた、強烈なキックがシューティアに炸裂した。
シューティアはそのまま弾き飛ばされ、動かなくなった。
「勝った・・・・・。勝ったぞぉぉ!!!」
フェイは吠えた。この瞬間、新しいバトリングチャンプが誕生した・・・・・
「間違いありません!爆弾戦艦は、このままですと明日にはキスレブに到着します!!」
チェンミンが、モニターに表示されたデータを見て叫んだ。
お嬢様軍団の報告と、ハワイから送られてきたデータを見て、艦長は悩んだ。
「くそっ!ソラリスめ!ゲッPさえ動けば・・・」
ケイが悔しそうに拳を握り締めていた。今だ、ゲッP−Xは修理が完了しておらず、動けないのだ。
「ホワイトローズで追撃できないんですか?」
空が艦長に尋ねる。ツインザムも修理が終わっていないのだ。
「無理だ・・・、ホワイトローズの大気圏内飛行速度では、間に合わない。それに・・・・」
艦長の言葉をサルペンが代って答えた。
「今の私達には、空戦用の機体が・・・」
そう・・・今のオンディーヌ隊には、空中で戦える機体が少なすぎるのだ。確かにゲッP−Xやバンガイオーならば、空中戦艦を破壊する事も、護衛のギア部隊も相手にする事が出きるだろう。
だが、その二機は今は動けない。
「今の我々の使える空中戦が可能な機体は?」
サルペンがチェンミンに尋ねる。
「はい。サイモン少佐とアムリッタ中尉のラファーガとバイパーU。それにレイカさんのディアナ17とミオさんのクイーンフェアリーです。」
チェンミンがそう報告すると、艦長は悩んだ。
「使えるバイパーは何機だ?」
「二機です。」
「全部で六機か・・・・」
艦長は、考えていたが、この戦力ではとてもじゃないが、ギア部隊を突破して、空中戦艦を撃破する事など難しい。
「航続距離も問題ですよ。ラファーガとバイパーの航続距離じゃあ、キスレブまで飛べても戦うだけの燃料が・・・」
チェンミンが補足するように言う。クイーンフェアリーに搭載されている給油装置だけでは、とてもじゃないが全然足りない。
「空中給油できる機体が、必要か・・・・」
そこにリアが進言した。
「私のエクスカリバーに給油装置を積んではどうでしょうか?」
エクスカリバーとは、リア用の宇宙クルーザーだ。民間機ではあるものの、チューンナップとある種の改造によって、軍用機に匹敵する機動力を有している。勿論航続距離も長く、微々たる物だが火器も装備されている。
「それは、いいアイデアだ。早速紐尾くんに命じて、作業に当らせよう。あとは・・・」
「攻撃力ですね。」
ヴィレッタの言葉に、艦長は頷いた。
そう・・・このメンバーでは、機動力には問題無いが、空中戦艦を撃破出来るだけの攻撃力があるとは言い難い。
恐らく、ディアナとバイパーが中心に戦う事になるだろうが、決定的に火力不足だ。
「どうすれば・・・・・、急がないと取り返しのつかない事態に・・・」
そんな時であった。ブリッジに通信が入った。
「R−1・・・・・おい、ライ!R−1があるぜ!!」
通信を入れてきたのは、TDF補給部隊のマリー少尉だった。今回の消耗に対しての物資を運んできたのだ。
そして、その中には、リュウセイの愛機・・・パーソナルトルーパー、R−1が存在していた。
「ああ・・・それにR−2もな・・・プラスパーツが無いのが惜しいがな。」
そして、ライの愛機であるR−2も存在していた。
「んん?あれは・・・・」
ライは運び込まれてきた物資の中で、目を引くものがあった。それは二門の長距離砲だった。そしてその長距離砲はハンガーに待機しているR−GUNへと運ばれていた。
「R−GUN用のプラスパーツか。これでR−GUNも空が飛べる。」
そう、R−GUNはプラスパーツを装着する事により、『R−GUNパワード』となり、武装に長距離砲「ハイ・ツインランチャー」が加わり、飛行が可能となるのだ。
「これなら、いけるかもしれない・・・」
リュウセイはそう感じていた。そんな時、さらに一機のPTが搬入されてきた。それは・・・
「グルンガスト弐式?こんな時にか?」
リュウセイが不思議に思うのも当然だ。R−1やR−2が配備された今になって、量産型の弐式を新たに配備するのに意味があるのかと・・・
「予備機・・・・パーツ取り用か?」
ライがそう言った時、何かに気付いた。この弐式に見覚えがあると・・・・
ライは弐式に近づき、観察をはじめた。その弐式は真新しい物ではなく、何度も使用されているのがはっきり解った。
「リュウセイ・・・・、もしかしてこの弐式は・・・・」
ライに言われて、リュウセイも弐式を観察し始めた。するとリュウセイは気付いた。
「ライ・・・・この弐式。俺が・・・俺が使ってた奴だよ・・・」
するとライは頷いた。
「そして・・・この弐式を最後に使ったのは・・・・」
するとリュウセイは目を見開いた。全身が総毛立ちしていた。
「アイツだ・・・・。じゃあ・・・じゃあ・・・」
そして、補給の報告をヴィレッタはマリーから受けていた。
「七号機・・・・ついに完成したのか・・・・・」
マリーは頷いた。
「はい・・・・R−マシン七号機。空戦用にして、大火力、大推力を有した多目的パーソナルトルーパー・・・」
その言葉を聞いて、ブリッジ中に僅かながら希望が見え出していた。マリーが持ってきたスペック通りなら、今の状況を打破するのに、これほど適した機体は無い。
「ありがとうマリー少尉。いいものを持ってきてくれた。」
艦長が、マリーに向かって礼を言う。
「ところで、その七号機は何処に?」
チェンミンが尋ねた。何故なら、格納庫から搬入したと言う報告がまだ無いからだ。
するとマリーは同席していた部下を呼んだ。すると部下は何かを持っていた。
「それは・・・・」
ヴィレッタが口を開いた。それは、イングラム少佐用のパイロットスーツとヘルメットだった。
「なぜそれが、君達が!?」
艦長が驚きの声を上げる。
「実は・・・・貴方がたより早く、「彼」と合流しまして・・・」
マリーは言い出しにくそうに言った。
「物資の中に「彼」と匕首中尉用の新しいパイロットスーツがありまして、そして我々から爆弾戦艦の事を聞くと・・・」
「新しいスーツに着替えて、七号機で飛び出して行った・・・・という訳か?」
ヴィレッタが言うと、マリーは頷いた。
「無事だったんだ・・・・」
チェンミンが嬉しそうな声を上げた。
「格納庫に通達!エクスカリバーの作業を急がせろ!」
ヴィレッタは通信機をいきなり掴んで怒鳴った。そして次にリュウセイを呼び出した。ヴィレッタの怒声に恐怖を感じたのか、リュウセイは五分と掛からず姿を現した。
「エクスカリバーの作業が終わり次第、キスレブに向かうぞ!リュウセイ少尉、お前もR−1で来いっ!」
「了解!!」
リュウセイはヴィレッタの眼光に恐怖を感じながら敬礼した。
「うおおおおおおお!!!!」
アヴェの空を何かが、物凄いスピードで飛んでいた。行き先はキスレブだ。
「うう・・・・システムが俺にあってねえ・・・・しょうがねえか・・・」
「彼」は、そう苦笑しながら、操縦管を握っていた。
「待ってろよ・・・・待ってろよ、姉ちゃん!今俺が行くからなぁぁ!!」
彼はマリーから、香田奈がキスレブに向かった事を聞いていた。それを聞くといてもたまらず、七号機に飛び乗ったのだ。
「今行くぞぉ・・・。この『R−ブースター』で!!」
次回予告
キスレブ首都に、爆弾戦艦が迫る!!果たして間に合うのかオンディーヌ隊。
非人道的作戦に、エリィは何を思う。卑劣なソラリスにジン=サオトメが怒る!飛び出せ常識はずれ必殺技!!
そして、香田奈の・・・姉の危機についに現れる、R−マシン七号機!!撃てっ!念動壱式砲!!
次回 サイバーロボット大戦 第二十八話 『飛べっ!R−ブースター』にT−LINKクロォォスッ!
次回も、合体がすげえぜ! 「合体だぁ!」 「合体・・・・ぽっ」 「止めろ!思い出す!!」