第二十六話  「オンディーヌ隊、聖地での休日」




  香田奈は、走っていた。病院の廊下を・・・・・
 『空港で爆発事故が起き、将輝がそれに巻き込まれた』という知らせを学校から受けたからだ。
 香田奈は、嫌な予感が頭の中をよぎっていた。空港にいたのは将輝だけではない。香田奈が愛した『あの人』も・・・
 そう・・・自分がこの世に生を受けて、身内以外で初めて心から愛した人が・・・・
 初めて・・・・心も身体も許した、愛した人が・・・・
 香田奈がやってきた病院は、野戦病院の様相を見せていた。あちこちに怪我人がうめいていた。
 それが、事故の凄まじさを語っていた。香田奈は胸騒ぎを押さえられなかった。
 やがて、集中治療室の入り口近くで香田奈は父と小学生の妹を見つけた。父の表情は、母が亡くなった時と同じ位暗かった。
 「お父さん・・・・しょうちゃんとあの人は・・・」
 香田奈はゆっくりと父に尋ねた。父は香田奈をまっすぐ見つめ、肩に手を置いた。
 「香田奈・・・・心して聞いてくれ・・・・」
父の目は本気だった。真剣そのものであった。
 「将は、軽度の火傷と打撲ですんだ・・・。」
その言葉に香田奈はホッした反面、すぐに次の不安が襲ってきた。
 「しょうちゃんは・・・って事は・・・・。お父さん!あの人は!長船さんは!!どうなったの!!」
香田奈は父の肩を掴んで揺さぶった。既に目は涙目だ。
 「備前君は・・・・将をかばって・・・・」
 父はそれ以上言葉を発せられなかった。言葉が詰まってしまった。
 「そんな・・・・嘘よ・・・。嘘でしょ、お父さん・・・・。」
身体中が震え、涙が溢れてきた。
 「お父さん・・・・嘘だと言ってよぉ・・・・。」
そんな時、レスキューの制服を着た男が数人、香田奈達に寄ってきた。
 「あの・・・Bウイングにいた少年達のご家族ですか?」
 レスキューの人間に尋ねられ、父は頷いた。
 「そうでしたか・・・。あの区画唯一の生存者が彼でしたので・・・・」
 「うちの息子だけだったのかい?」
 「はい。あの区画は・・・・。」
 「息子が助かったのは奇跡かな?」
 「いいえ・・・。もう一人の少年のおかげですよ。我々はその少年の遺体を霊安室に移したのをご報告に来たんです。」
 そして香田奈と父はレスキューの人間と病院の人間に連れられて霊安室に案内された。
 香田奈は見た・・・・。霊安室に寝かされた遺体の一つが間違い無く、自分が愛した人である事と言う事に・・・
 「お・・・長船さん・・・・」
 香田奈は震える手で顔にかけられている布をめくった。そこには黙ったまま目を閉じている男がいた。そして香田奈はシーツがかけられている身体を見た。男の身体は左半身が無かった。
 「我々が発見した時には既に事切れていました・・・。彼が息子さんをかばわなかったら、息子さんも同じ運命を、辿っていたかもしれません・・・。立派な少年ですよ・・・。」
 レスキューの人間はそれだけ言うと、一礼して出ていった。部屋には香田奈と父が残された。
 
「お・・・長船さぁぁん・・・・。う・・ううう・・・・」
 「うわああああああああ!!!!」

香田奈は泣いた。心の底から、泣いた。母親が亡くなった時以上に泣いた。
 
「どうしてぇぇ!!ああああ!!!」
泣いた・・・・。香田奈は涙が枯れても泣き続けた・・・・。

 数日後・・・・。葬儀が行われた。シトシトと小雨が降る日に、香田奈は彼に別れを告げられた。
 葬儀には、将輝も参列していた。将輝は今だ火傷が直らず、頭に包帯を巻いたままの痛々しい姿であったが、将輝の心はそれ以上に痛んでいた。
 「先輩・・・・。俺の為に・・・・」
 将輝は悔やんだ。悔やんで悔やんで悔やみまくった。だが、いくら悔やんでも死んだ人間は決して帰ってこない。
 葬儀を終え、自宅に戻ってきた香田奈は自室から一歩も外に出なかった。涙で腫らした顔を将輝や妹に見せたくなかった。
 香田奈の脳裏には、彼との思い出がよぎっていた・・・・。
 初めてのデートの事・・・・
 彼の試合を応援に行った時のこと・・・・
 彼のバイクの後ろに乗ったこと・・・・
 将来の夢を語り合った事・・・・
 初めてのキスのこと・・・・
 そして、彼とひとつになった時のこと・・・・
香田奈はそれらを思い出してまた泣いた。
 匕首香田奈・・・17歳の冬の出来事であった・・・・。



 「長船さん・・・」
 香田奈はそこで目が覚めた。
 「夢・・・・。そうか・・・昨日しょうちゃんが、あの人の技を・・・・」
 香田奈は思い出していた。昨日将輝は、初めて一人で出撃し、香田奈が愛した人物・・・将輝の先輩が得意としていた技で見事勝利を治めた事を。
 「がんばったよね・・・・しょうちゃん・・・。」
 香田奈は隣で眠る将輝の頭をいとおしそうに撫でた。将輝の寝顔は安心しきった安らいだ顔であった。自分に抱きつくように眠っていたが、香田奈は気にならなかった。
 香田奈と将輝が同室なのは、ヴィレッタの命令であった。
 これは二人のコンビネーションを高める目的も兼ねている。二人と同じように、多人数で操縦するロボットは他にも多くある。
 それゆえ、ヴィレッタはそのようなロボットのパイロット達には相部屋を指示していた。勿論、コンビネーションが確立していれば、すぐに相部屋は解消していた。ゲッPチームや大地と空、りきやまみ達などである。
 ただ、将輝と香田奈の場合は、他のメンバーよりも実戦経験が少なく、元々単座であったR−ガーダーを無理矢理複座に改造して運用しているため、コンビネーションが確立していない。
 だから未だに相部屋なのだ。ちなみに自ら進んで相部屋を申し出ている人間もいる。(ユナとユーリィ)
 しかしダブルベッドを指定したのは香田奈であるが・・・・
 「部屋が狭くなるから。」
この一言で、シングル二つからダブルに変更されたのだ。ちなみにヴィレッタは異を唱えなかった。

 「しょうちゃん・・・・。」
 香田奈は将輝を抱き締めながら今一度瞳を閉じた。まだ起床には時間が早すぎるからだ。
 暗所恐怖症である将輝が、夜こうして安心して眠っているのも香田奈の影響が大きい。
将輝は、一人だと僅かでも明かりが無いと眠れないのだ。これは事故で瓦礫に閉じ込められた事が将輝のトラウマになっている為。
 その事も踏まえて、香田奈は一緒に眠るようにしているのだ。香田奈が一緒だと、将輝は安心できるのか暗闇でも安心して眠る事が出来た。過保護とは思うが、香田奈には、どうしても将輝を突き放せない理由があった。
 それが、将輝の精神面での成長を阻害している事に香田奈は気付いていなかった。

 将輝の方も、香田奈に甘え続けている訳ではない。確かに暗所恐怖症ではあるが、徐々に克服しつつある。第一、将輝は姉との相部屋を快く思っていない。出来る事なら個室にしてほしいと考えていた。日本を離れて数日間は個室だったのだが、地下鍾乳洞の戦いでのT−LINKナックル不発の報告を受けたヴィレッタがコンビネーション再開発の為・・・と言い相部屋にさせられたのだ。
 自立心を育てる為にも、将輝は姉の力に頼らないように務めてきた。しかし、今の将輝には香田奈抜きでは苦戦は必至。昨日の戦闘がその証拠だ。
 今の将輝にはまだ補助が必要なのだ。
 「しょうちゃん、一人で寝るの怖いんじゃない?」
 香田奈の言葉がこれである。からかっているのか、本気なのかは解らない。将輝にとっては、ありがた迷惑である。
 だが・・・。最初は距離を取って眠ってはいたが、姉のほうが抱きつく。これならまだ良い。しかし日数を重ねる連れて将輝も馴れて来たのか、朝気づけば自分の方が姉に抱きついていた・・・という事態も起きていたのだ。馴れという物は恐ろしい・・・と将輝はその時感じた。しかもその時、右手がしっかりと、香田奈の胸を掴んでいた・・・・。
 きまずい顔で香田奈を見る将輝。だが香田奈はにっこりと微笑み一言。
 「しょうちゃんのH♪」
 「・・・・・・(汗)」
 「あの人以外触らせた事ないんだからね。あ・・・でも五年ぶりに少し気持ち良かった・・・。」
将輝は香田奈が先輩と関係を持っていた事は知っていた。でも・・・・
 「もう・・・しょうちゃんだけにサービスしちゃおうかな?」
 何故か妖艶な笑みを浮かべる香田奈。将輝は身の危険を感じ取り、その日はいつもより早く起床した。
 「チッ!」
 何故か残念がる姉の言葉に将輝は何か恐怖に似たものを確かに感じていた。



 起床後・・・・、オンディーヌ隊のメンバーは朝食を取っていた。ホワイトローズの食事は簡単に言えば軍用のレーション食のような物。だが形式は軍のものに準じていたが、内容は段違い。
 「ここに配属されてから、メシが美味いよな。」
 ゴンザレス隊、トーマス伍長の一言。
 士官候補生であったナカトやハルマ、士官であるサイモンやサルペン達とは違い、一兵卒に過ぎない下士官以下のトーマスでさえ士官クラスの食事を与えられていた。
 これは、形式上正規軍扱いのオンディーヌが、民間からの寄り合い所帯が多いせいである。
正規の軍人であるサイモンやサルペンとは違い、ジュンペイやユナは言ってみれば『善意の協力者』である。
 しかも民間人の大半は・・・・『お嬢様』。大事なスポンサーである彼女達に、軍の粗末な食事をさせる訳にもいかず、その為、食事は戦闘時や非常時以外は、結構良い物を食す事ができた。
 その朝食時に艦内アナウンスが流れた。
 「パイロット要員並びに各部署責任者は朝食後、AM8:00までにブリッジに集合せよ。繰り返す・・・・」
 「なんだろうな・・・」
 トーマスが呟いた。
 「いよいよアヴェ奪還作戦の打ち合わせでもやるんじゃないか?」
 リッキーがそう結論づいた。
だが、メンバー達を待っていたのは予想だにしないヴィレッタの言葉であった。

 
「休暇〜!?」
全員の一斉に出た言葉であった。
 「そうだ。先日の戦いで各ロボットがかなり傷ついている。本来なら、アヴェ・ソラリス・宇宙悪魔帝国が手を負っている今が攻めこむ千載一遇のチャンスなのだが・・・・」
 ヴィレッタはそこでモニターのスイッチを入れた。モニターには傷だらけのロボット達であった。
 キカイオーは今だ動けず、R−ガーダーは装甲の痛みが激しい。他のロボットも無傷とは言えない。
 「バーチャロイドは予備機があるが、他の機体はそうはいかない。そこで機体修理とキカイオー抜きでのアヴェ攻略作戦の首尾を練るため、今から48時間の休暇を皆に与える。以上だ。」
 ヴィレッタはそれだけ言って、ブリッジから出ていってしまった。その後をライとレイカが付いて行く。恐らく作戦を練るためであろう。
 「・・・・・・休暇か・・・・。」
 将輝はボソリと呟いた。



 「48の活人技の一つ!!風鈴華山(ふうりんかざん)!!」
 甲板上でケイがリキに技を仕掛けていた。
 「速きこと、風邪のごとく!」
 すばやいフットワークでリキの回りをすばやく駆け巡る。
 「涼しくなること鈴のごとく!!」
 まるで鈴が鳴っているかのような軽やかなタップダンスのような足音をたてる。
 「美しいこと華のごとく!!」
 動きを止め、華麗なポーズを取る。
 「そして動かざる事山のごとし〜!!」
 最後に関節技を決めるケイ。
 「ま・・・参ったで。ケイヤ兄い。」
 関節を決められたリキが声を上げる。
パチパチパチ──
 フェイ・麗美が拍手をする。この四人は休暇を言い渡されてから、すぐに甲板で御互いの体術を披露し合っていたのだ。
 「これが俺の48の活人技の一つだ。他にも52の固め技とか、ゲリラ式の射撃術なんかがある。」
 「すごいな。北貯神拳以外にも技を持っていたなんて。」
フェイが感心していた。
 「北貯神拳は打撃が中心だからな。投げ技を主体にした48の活人技は必要なのさ。ハワイにいる師匠から教わったのさ。」
 「他にはどんな技があるノ?」
麗美が目を輝かして尋ねる。
 「あとは、『マッスルバスター』とか『マッスルドライバー』・・・『肉の垂れ幕』。あと二人で無いと出来ない『筋肉ドッキング』なんかがあるな。」
 「一番強力なのは?」
 フェイが尋ねた。
 「まだ、習得できていないんだが三大奥義の一つ『筋肉スパーク』かな?」
 「それじゃあ頑張らないとな!俺もまだ未熟な技が幾つかあるし・・・」
 「そうアル!」
 「せやな。」
四人は笑いながら、また組み手をはじめた。

 「だから・・・・、なんでそれをゲッPに活かさないんだ?」
 艦内をぶらりと歩いていた将輝は、ケイの技を見てそう呟いた。
 「する事無いし・・・娯楽室にでも行ってみようかな・・・」
将輝は娯楽室へと足を運んだ。

 「ねえ〜ジャンプキャンセルってどうやるの〜?」
 お嬢様軍団の一人「ミズノ=ヨーコ」が声を上げた。
 「両レバーを内側に倒すのよ。あ〜!!やられた〜!!」
 ヨーコに助言を出したお嬢様「弓岡かえで」が声を上げた。彼女の目の前ではモニターが、『YOU・LOSE』を表示しており、彼女が操っていたVRバイパーUが爆炎を上げて崩れていた。
 「ふふふ・・・五人抜きですわ。」
 反対側のモニターでは、緑色のVRベルグドルが勝利のポーズを取っていた。
 お嬢様の一人『お花のマリ』が口元を押さえて笑っていた。
 「じゃあ・・・これでVRの遠隔操縦パイロットの一人はマリで決まりね。」
お嬢様の一人『高貴な沙雪華』が何か集計表のようなものを取っていた。
 「今のは無しよ〜。ヨーコに助言出したのが、隙になって〜!」
 「だめよ。ルールはルール。負けた人はオペレーター業務の練習ね。」
 「皆さん何やってるんですか?」
娯楽室を訪れた将輝が見たのは、一部の人間を除いてゲーム筐体に群がっているお嬢様軍団であった。
 「ああ・・・これ?VRの遠隔操縦のパイロットを決めてるのよ。」
沙雪華が答えた。
 「遠隔操縦?」
 すると、将輝は思い出していた。バーチャロイドは直接乗りこんで操縦する方法と、動作パターンが制限されるが離れた場所から操作できる遠隔操作ができることに。
 「それで、四人までが遠隔操縦できるから、メンバーを選抜してるの。」
 「はあ・・・。でもこれ、ゲームじゃあ・・・・」
将輝がそう言って、筐体を指差した。確かにバケットタイプのシートに大型モニター。そして二本のレバーにボタンが片方に二つづつ、計四つしか付いていない。明かにゲーム筐体だ。
 「あら知らないの?これ外見はゲーム筐体だけど、VR社の正式なVRシュミレーターと遠隔操作システム兼ねてるのよ。」
 沙雪華の何気なく言った台詞に将輝は面食らった。
 「本当に!?」
 「ええ、そうよ。今のところパイロットは、私とマリ、それとセリカね。」
 「へえ・・・。他の人達は?」
 将輝は更に尋ねる。
 「とりあえず、アレフチーナと姫がソナーオペレータに。通常のオペレータにミキとマミとルイがそれぞれ交代で。」
 「適材なのかな・・・・?」
将輝は他にも、情報班にエミリーにアレフチーナ。他のメンバーも白兵戦要員とかメカニック補佐、炊事担当等など色々この休暇を機に決めていたらしい。そして・・・
 「ふふふ・・・最後の切符は私ですわね。」
 どうやらVRの最後の一人が決まったらしい。『お茶の佳華』が笑みを浮かべていた。和服でよく操作できたな・・・・。と将輝は心の中で呟いた。
 「う〜負けた・・・。」
ヨーコが拳を握り締めて悔しがっていた。
 「それじゃあヨーコはオペレーターね。」
沙雪華は集計表に書きこんでいた。
 「ええと・・・私がフェイエン。セリカがドルカス。マリと佳華がベルグドルで申請しとくわよ。」
 「10/80じゃないの?」
将輝が割りこむ。沙雪華はさも当然という表情をしていた。
 「あんな安物を私達に操らせる気?貴方。」
 「安物・・・・・・」
 将輝は何か10/80が気の毒に感じた。


 「では、ファティマ城制圧は、ユグドラのクルーが行うのね?」
作戦室でレイカがシグルドに尋ねる。頷くシグルド。
 「はい。ユグドラシルでギリギリまで接近し、そこから正面からファティマ城に制圧班を乗り込ませます。」
シグルドはそう答えた。
 「オンディーヌ隊の方々は国境艦隊を叩いていただければ・・・・十分な陽動にもなります。」
 「国境艦隊を叩けば、ゲブラーも動く・・・いや動かざる得ない。しかも国境艦隊がダメージを受ければキスレブの艦隊も動く・・・」
 ライは目の前の3Dマップを見つめながら話した。
 ホワイトローズの作戦室中央の床には巨大なモニターがあり、そこからアヴェ国境付近の地形が表示されていた。
そして、まるでシュミレーションゲームのような五角形のヘクスとアヴェの艦隊がアイコンで示されていた。
 「先の戦闘で、アヴェ国境艦隊はダメージを受けて艦隊戦力が20%減しています。そのため、中央艦隊の戦力の一部を・・・」
 シグルドがコンソールを操作する。モニターではアヴェの中央艦隊のアイコンの一部が移動し、国境艦隊へと移動していた。
 「その補充として回されています。ここで更に国境艦隊にダメージを負わせる事が出来れば・・・・」
 「中央の戦力が国境へと回ってくる・・・・。そうすれば中央の戦力はがた減り・・・と言うわけね。」
レイカが不敵な笑みを浮かべる。
 「国境艦隊が壊滅的・・・とまでいかないが、かなりのダメージを負えばキスレブが黙ってはいないもの・・・」
頷くシグルド。
 「キスレブが国境艦隊の戦力が減ったと知れば、攻勢に出るのは当然。シャーカーンも慌てて中央の戦力を国境に回すでしょうね。恐らくゲブラーも含めてね・・・」
 同席していたシタンが口を挟む。
 「その隙を狙って、ファティマ城に我々が突入し、制圧。今の軍部や政府にもシャーカーンの体制に不満を抱いている者はいるはずです。中央制圧を知れば、きっと立ちあがってくれる筈です。」
 シタンがそう述べると作戦室にいた全員が頷いた。
 「と、なると、焦点は国境艦隊を攻めるための戦力だな・・・。」
ライがホワイトローズとユグドラシルのアイコンを表示させ見つめていた。
 「キカイオー抜きは痛いな・・・・。単純計算ではキカイオーの戦闘力は一個艦隊に相当するからな・・・」
ライの言葉は真実であった。作戦を立てる際に、味方の戦力を計算した結果、キカイオーにはそれだけの戦闘力があることが判明していた。
 「ゲッP−Xとバンガイオーを中心に戦力を組み立てるしかないですね。」
レイカはそう述べ、ヴィレッタを見つめた。
 「リーボーフェンの方々を戦力に出来ないんですか?」
その問いにヴィレッタは首を横に振った。
 「彼等の敵対組織であるゼ=オード。それと協力関係にあると思われる宇宙悪魔帝国及びゴルディバス・・・。ソラリス及びアヴェとは接点が無い。参加させる訳にはいかない。それに・・・」
 「それに?」
 「彼等には、キカイオーを日本に運んでもらうつもりでいる。」
その言葉に全員が驚きの表情を崩さなかった。
 「日本へ?修理のためですか?」
シグルドが尋ねる。ヴィレッタは頷き口を開いた。
 「そうだ・・・。リーボーフェンは日本のTDF施設で保護するように通達してある。そして行くついでにキカイオーを巽テクノドームへ運んでもらう。護衛にパルシオンとボロンをつけてな。」
 「・・・・懸命な判断です隊長。」
 「あたしもそれには賛成・・・」
ライとレイカはヴィレッタの考えに異を唱えなかった。むしろ賞賛していた。ホワイトローズの設備ではキカイオーを完全に修復できない以上、キカイオーは足手まといにしかならない。
 そして、イレギュラーであるリーボーフェンを参戦させる訳にもいかない。そこで彼等の保護とキカイオーの修理をかねて日本へ送る事にしたのだ。
 護衛にボロンを付けたのはポリンの性格と目的を考えての事だ。あのポリンの事である、ジュンペイと離れるのを嫌がるのは目に見えている。ならばいっその事、常時ジュンペイの眼の届く場所に置いておけば良いのだ。
 スパイとしても考えられるポリンをオンディーヌ隊から遠ざける事も出来る。さらにパルシオンを監視役としてつけさせておけば、万が一の事態にも冷静に対処できるからである。
 「リーボーフェンのユミール副長にはもう話を通してある。明日にでも日本へ向かってもらおうと思っている。」
 「日本は大丈夫なんですか?」
ライがヴィレッタに尋ねる。何故ならキカイオーが日本へ向かったと知れば、敵対勢力が日本へ攻め入る危険性が十二分に考えられる。
 「通信によると、アルブレードの量産が順調らしい。それとアルブレード以外のPTシリーズの量産体制が整いつつある。」
 「アルブレード以外のPT?」
ライが首を傾げた。ライにはRシリーズ・ヒュッケバイン・グルンガスト・ゲシュペンスト以外のPTなぞ聞いた事が無かったからである。
 「アースゲイン・スイームルグとソルデファー・スヴァンヒルドの4種がね・・・」
 「聞いた事があります。たしかグルンガスト参式と同期に開発されたPTですね?」
ヴィレッタは頷いた。
 「この非常事態に政府が重い腰を上げてね。まあレイカさんの力が大きいんだけど、アルブレード以上の性能を持つこの4タイプの量産が決定したのよ。」
そう言ってヴィレッタはレイカの方へ向いた。レイカはにっこりと微笑む。
 「早ければ、来月には初期型がロールアウトする予定だ。それに北京で修理と再調整中のRマシンもじきに動けるようになるらしい。そして七号機も完成直前だ・・・」
 「七号機が!?それは頼もしい。」
 ライは驚嘆した。シグルドとシタンは何の事か解らず、黙っているままだ。
 「他にも量産体制に入ろうとしているロボットは幾つかある。それに日本の企業の幾つかがTDFに売り込みを始めているらしい。」
 「レイカさんや他のお嬢様達以外の所がですか?」
頷くヴィレッタ。
 「そのような事だから日本は大丈夫だろう。問題は現在の戦力だ。」
 オンディーヌの部隊表を見つめるヴィレッタ。やはり、キカイオー・ボロン・パルシオンが抜けるのは痛い。
 「それでは、ユグドラの戦力をそちらに回しましょう。キカイオーまでは行きませんが十二分に役立つはずです。」
シグルドが進言した。
 「よろしいのですか?」
ライが尋ねる。
 「こちらの作戦は、白兵戦がメインです。ユグドラの護衛くらいの戦力を残すだけで十分ですよ。ミロク小隊をそちらに提供します。」
シグルドはそう言った。そこへシタンが割りこむ。
 「私は制圧班の方へ回りますので、その代わりにフェイもそちらに送りましょう。ヴェルトールなら十二分な戦力なると思えますが?」
 「そうですね。彼が加わるなら頼もしい。」
ライがそう答える。
 「では・・・次はどのようなルートで攻めるか・・・・」
ヴィレッタ達は更に込み入った話に入った。



 「どうだね、そのEXの調子は?」
ゴルディバス軍の本拠で、ディクセンEXの調整を行っていたシャドーレッドに声がかけられた。バグ=ナクだ。
 「悪くない機体だ。何か用か。」
シャドーレッドはそれだけ答え、調整作業を続けていた。
 「いやね・・・・。轟雷の修理がもうじき終わるのでね。その報告に・・・・。」
 「そうか。」
相変わらずシャドーレッドはナクに顔を合わせようともせず調整作業を行う。まるでナクのことなど眼中にないように・・・
 「それと・・・最強の矛が製作に難航しているのでね、何かアドバイスを頂けると嬉しいな・・・と。」
その台詞にシャドーレッドは片方の眉を動かした。
 「『R−B』か・・・。私は技術者ではないぞ・・・。」
 「そうでしたね・・・・。機械にお詳しいので何か解ると思ったのですが。仕方がありません、フロイライン殿にでも助言を頂きますかな?失礼。」
 ナクはそれだけ言って立ち去って行った。その後姿をシャドーレッドは気配を悟られないような目線で見つめていた。
 「あの男・・・・。何を考えている・・・・。」

 立ち去ったナクも表情は変えていないが、心中は苦笑していた。
 「やはり、あの程度ではボロは出さんか・・・。まっ、あれくらいでボロを出すような男では無いとは解っていたがな。」
 ナクは僅かな笑みを浮かべた。面白くて仕方が無いのだ、今の状況が。
 「まったくここは、退屈しない。TDFとは大違いだ、面白すぎる・・・。」
 雰囲気を楽しんでいるのだ、この男は・・・・
 「楽しい。実に楽しい。戦闘が無くともここの空気は私を楽しませる・・・。歌でも歌いたい気分だ・・・」



───場所は宇宙
 ここ地球に最も近いコロニー群で、激しい戦闘が行われていた。
 「第三小隊壊滅!!」
 「六小隊!左翼の小型兵器の掃討に当れ!八小隊はバックアップ!!」
 永遠のプリンセス号のブリッジに幾度も無く報告が飛び交う。
 「食いとめるのです!!これ以上、地球にソラリスを降下させる訳にはいきません!」
永遠のプリンセス号艦長、『プリンセス=ミラージュ』の声がブリッジ中に響いた。
 激しい艦砲射撃が、地球降下を目指すソラリスの戦艦達をなぎ払う。
 無数の美しい光の線が走るたび、爆発と閃光が走る。
 「第二小隊の10/80隊は、ソラリス艦載機迎撃に向かってください。」
 ミラージュの指示が飛ぶと、プリンセス号から灰色のVRが飛び出していった。
 「四小隊!あと二分、艦隊の動きを牽制してください。二分後に主砲を発射します。」
 『了解!』
 すぐに復唱が帰ってきた。緑色のVA『ゲイツ』がソラリス艦隊に突撃戦を仕掛けようとしていた。
 「10/80部隊は、ゲイツ隊の進路を確保!2分間だけ持ちこたえてください!」
ソラリス艦隊の前面を防御するギア部隊に、長距離ビームライフルを装備した10/80が激しい援護攻撃を仕掛ける。その援護を受けて、数機のゲイツがギアをすり抜け、ソラリス艦へ直接攻撃を仕掛けていた。
 「うりゃあ!!」
 ゲイツのパイロットが吠える。右腕のシールドの先に球体のプラズマが迸る!!
 「一騎当千!!」
 ゲイツのプラズマ攻撃がソラリス艦に炸裂する。青白い火花を散らすソラリス艦。
 「こちらプリンセス号!主砲発射準備完了!全機、射軸上から退避してください。」
 その時、ゲイツのコクピットにミラージュの声が木霊する。ゲイツのパイロットはにやりと笑って、全速力で退避する。
その様子をモニターで確認したミラージュは声を上げた。
 「主砲発射!目標、ソラリス艦隊!!」
その指示に従って、プリンセス号の中央艦首が二又に割れ、その間に火花が飛び散る。
 
「うてぇ!!」
プリンセス号の艦首から、凄まじいビームの濁流が放出された。そしてソラリスの艦隊はその濁流に飲みこまれ消えて行った。
 「敵艦隊全滅を確認・・・・。状況を警戒シフトに移行します。」
ミラージュはふう・・・と一息をついた。

 「お疲れさまでした、千代丸さん。」
ミラージュはブリッジに上がってきた少年・・・・、そう少年としか言いようの無い年齢の男に声をかけた。
 「いえ、そちらこそお疲れです。」
 千代丸と呼ばれた少年は、ミラージュに笑顔で言葉を返す。
少年の名は『神楽千代丸(かぐら ちよまる)』。古の侍のように髷を結い、ゆったりとした和服を着こんだ美少年だ。その後ろに付き従うように2m以上ある大男が金棒を持って立っていた。まるで牛若丸と弁慶のように。
 「ここ最近のソラリスの動きが多いですね。何かあるのでしょうか?」
千代丸はミラージュに尋ねた。
 「解りません・・・。ただ地球に降下しようとする部隊が少ないのが気になります。」
 「ですな。」
 ミラージュの言葉に大男が答えた。
 「若、地球からの連絡は?」
 「レイカさんからの定時連絡以外は何も・・・。キカイオーが敗れてから目だった動きは無いようですね。」
 千代丸はそれだけ答えた。
 「何にしても・・・・。プリンセス号だけの戦力では、敵の地球降下を防ぐだけで精一杯。残りのリューディア艦の改装作業と艦載機の増産を急がない事には、攻勢にも出られない。」
 その言葉に大男とミラージュは頷いた。そんな時、ブリッジに通信が入った。
通信を開くと、モニターに金色の冠を被り、同じ金色の装飾をつけたローブを着た女性が映し出された。
 「リューディアさん。」
千代丸がそう言った。この女性がリューディア。リューディア艦隊の総司令にして女王でもある。ユナの頼もしい先輩とも言える存在の女性。
 「そちらでも戦闘があったようなので、通信を入れましたがどうでしょうか?」
 「こちらは既にカタがつきました。そちらでも戦闘が?」
リューディアは頷く。
 「ええ・・・。移送作業中に宇宙悪魔帝国と評議会の襲撃に遭いましたが、幸い『ツクヨミ』は無事です。所在地も知られてはいません。」
 その言葉を聞いて、千代丸達はホッと胸を撫で下ろした。
 「パルシオンが・・・・カイ君が頑張ってくれたお陰でね。」
 そう・・・・パルシオンは一人ではない。もう一人のパルシオン、カイは宇宙でリューディアと行動を友にしているのだ。
 「ツクヨミは・・・・資源衛星サードムーンは、宇宙での我々の生命線。何としても敵に悟られるわけにはいきません。」
千代丸は力を入れてそう断言した。頷く一同。

 資源衛星サードムーン・・・・・。連邦政府崩壊直前に地球圏へ運び込まれた小惑星であった。
 本来は貴重なレアメタル採掘の為の資源惑星であったのだが、そのあまりの巨大さと、岩盤の強固さを利用してTDFの宇宙基地として利用される事となった。
 だが、建設途中で連邦が崩壊し、基地建設も途中で放棄され、そのまま放置されていたのだ。
それを、レイカの家・・・雨宮財閥が極秘裏にヴィレッタを通じて回収。雨宮財閥を始め、お嬢様軍団が属する企業体が出資する事により軍事基地として完成させた。
 これはヴィレッタとレイカが来るべき宇宙での戦いを想定し、拠点となる場所を欲している為であった。
そして、敵や他の企業や政府の目を欺くため、『ツクヨミ』というコードネームで呼称されていた。
 リューディア艦やプリンセス号の改装作業やゲイツタイプのVAの生産はここで行われているのだ。

 「リューディアさん。改装作業は後どのくらいかかりそうですか?」
千代丸が尋ねる。
 「早くても、全て終わるのに後二ヶ月はかかりますね。それにVAの増産も同じ位・・・・」
 リューディアの報告に千代丸は顔を曇らせた。
 「でも、ディクセンの量産タイプが生産ラインに乗りました。遅くても来週には初期型が完成します。」
 「それが唯一の救いか・・・・。」
大男が呟いた。
 「そうですね鉄山。地上にいる方々を宇宙に来て頂く事になるかもしれませんね・・・・」
 千代丸はそう言い、別のモニターを見た。そこには未完成ではあるが、緑色に塗装された無数のディクセンが並んでいた・・・・



 舞台は地上に戻る・・・・・
 休暇を言い渡されたオンディーヌ隊は、夕食後の一時を過ごしていた。
その中で・・・・・
 「わははははは!!!」
 大声を上げて笑っている男がいた。ゴンザレス隊のリッキーだ。ビールジョッキ片手にすっかり出来あがっていた。
 「騒がしい奴だ。」
 傍目にトーマスが苦笑しながらジョッキを口へ運ぶ。
 「おい、新兵も飲め!」
 「は・・・はい。」
酒に任せてアービンに絡むリッキー。嫌々ながらジョッキを口へ運ぶ。ホワイトローズの食堂は一部ビヤガーデン又は酒保の様相を見せていた。
 「大人ってお酒好きなんだな・・・・」
大地が呆れたように呟く。
 「俺のコロニーじゃあ、酒を酌み交わすのは友情の証なんだぜぇ。」
りきが大地にそう説明する。
 りきに、そう言われて、大地は解るような気がした。グラスを交わすゴンザレスとプロンガー曹長が実に楽しそうに見えたからだ。
 「俺達もやってみるか。」
大地は笑いながら、りきのコップにコーラを注いだ。にやりと笑うりき。
 「いいねえ!!」
りきは笑顔で大地のコップにもコーラを注ぐ。

 「ふっ・・・・」
大地とりきのその様子にアムリッタが微笑した。何か幼稚だが、実に楽しそうに見えたからだ。
 「それに比べて・・・・」
アムリッタは表情を変え、目線を変えた。その先には所構わず女性クルーを口説きにかかっているサイモンの姿があった。
 「はあ・・・・あの人は・・・」
付き合いの長いアムリッタでさえ、時々サイモンの行動には解らない所が多い。丁度、操舵手のイボンヌ少尉にあしらわれた所であった。
 「ふっ・・・これでアウトですね、少佐。」
 イボンヌにあしらわれ、渋々一人でテーブルにつくサイモン。オンディーヌ隊は男性より女性のほうが数は多いが、その大半は未成年者だ。サイモンの射程距離には入っていない。あの様子だとサルペンにも相手にされていないに違いない。
 「やれやれ・・・・仕方ないな、付き合ってあげるか・・・」
アムリッタは苦笑してサイモンの元へ行こうとした時、サイモンがメガネを輝かせた。彼の目線の先には香田奈と将輝がいたからだ。
 サイモンは急に立ちあがり、近くにいたサルペンの部下であるハッター軍曹とカントス軍曹に向かってポケットから何かを取り出し、二人に手渡した。
 アムリッタにはすぐに解った。サイモンは軍曹達に現金・・・紙幣を何枚か手渡したのだ。そして二人の軍曹はにやりと笑い席を立った。
 そしてサイモンはすぐに行動に出た。
 アムリッタには何をやる気なのか理解できた。今度は香田奈を口説くつもりなのだ。その為に邪魔な将輝を軍曹達に押さえておくように指示したのだ。
 「全く・・・・」
 アムリッタは呆れた。そしてサイモンの口車に乗せられてか、香田奈はグラスを口に運んでいた。勿論将輝は軍曹に押さえられている。
 
 「!!」
 軍曹達に取り留めの無い話に付き合わされて、うんざりしていた将輝がふと気付いた時には遅かった。将輝が見たのは琥珀色の液体を口に何杯も運んでいる姉の姿であった。
 「わ〜!軍曹はめたな〜!!」
 声を上げて軍曹に怒鳴る将輝。それを見て流石に良心が痛むカントス軍曹。将輝とは親子ほど年が離れているからだ。ハッター軍曹も同様だ。年は二十代後半だが、規律に生真面目な男だからだ。
 「す・・・すまん。サイモン少佐がな・・・」
カントス軍曹が苦笑しながら誤る。
 「そんな事、言ってるんじゃないんだよ!!姉ちゃんに酒飲ますなんてぇぇ!!」
 将輝の慌てようから、軍曹達は何か不穏な物を感じた。
 「な・・・なんですか!何があるんですか!」
ハッター軍曹が必死な顔をして詰め寄る。
 将輝は今一度、目線を姉に移す。すると香田奈は顔を赤く染め軽く微笑んでいた。それを見て将輝は青ざめる。
 「終わりだ・・・・・。シタン先生か詩織さん呼んでいた方がいいかも・・・・」

 「そろそろかな・・・・」
飲みすぎてフラフラしかけた香田奈を見てサイモンがにやりと笑った。
 「・・・・ちょっと・・・・久しぶりに・・・・飲みすぎたかな・・・・」
香田奈が呟く。それを聞いてサイモンは勝利を確信した。
 「なら、もう休んだ方がいい・・・。部屋まで送ろう・・・。」
そう言って、香田奈の肩を掴んだ瞬間。
パシ〜〜〜ンっ!───
 乾いた音を立ててサイモンが後方へ吹き飛んだ。そして床に叩きつけられそのままリッキーとアービンの元へ突っ込んだ。
 「・・・・・・・・・」
その場にいた全員が何が起きたのか解らなかった。だが、時間が経つにつれてようやく理解できた。香田奈の裏拳一発でサイモンが吹き飛んだ事に・・・・
 「ああ〜〜!!終わりだぁ〜〜〜!!」
将輝が頭を抱えてしゃがみこんだ。身体が震えている。

 「な・・・なんなんだ!?一体?」
カントス軍曹が慌てふためく。
 「姉ちゃんは・・・・お酒飲むと・・・・手加減抜きで襲いかかるんだ・・・・」
将輝が泣きそうな声で言った。それを聞き、カントス軍曹は青ざめた。
 「あ・・・あの実力で、ですか・・・?」
 カントス軍曹が尋ねた。将輝は震えながら頷いた。裏拳一発でサイモンをあそこまで吹き飛ばした香田奈の実力・・・。隣のハッター軍曹も顔色を変えた。
 そうとは知らず、せっかくのいい気分を台無しにされたリッキーが香田奈に突っかかろうとしていた。

 「せっかく、いい気分だったのによォ!どうしてくれんだァ〜、中尉殿ォ・・・・」
酔っている為か、フラフラしながら香田奈へ詰め寄るリッキー。そして香田奈の胸倉を掴む。
 「どうしてくれんだァ?」
だが、次の瞬間、リッキーは嗚咽を上げてしゃがみこんだ。香田奈の拳がリッキーの腹に炸裂していたからだ。
 「誰が・・・わたしに触れていいと言った・・・・」
 「!?」
気丈に顔を上げるリッキー。だが彼はこのまましゃがみこんでいた方が幸せだったかもしれない・・・
 「私に触れていいのは・・・・あの人だけよぉぉ!!」
リッキーの右頬に香田奈の回し蹴りが炸裂!そのまま横に吹き飛ぶリッキー。
 「男ってのは・・・・どいつもコイツも・・・・」
香田奈の次の標的は、フラフラと立ち上がったサイモンであった。
 「少佐!危ない!!」
アムリッタが叫んだが、もう遅かった・・・・
ビシッ!!───
 ビシッ!!───
  ビシッ!!───

ロー・ミドル・ハイと綺麗な連続回し蹴りがサイモンに炸裂する。大きく足を上げていた為にスカートの中が見え隠れしていたが、その場にいた全員、そんな物は目に入らなかった。
 サイモンのやられようが・・・・そして香田奈の攻めがあまりにも決まりすぎていたからだ。
 「ふむ・・・いい攻めだ。参考になるな。」
フェイが感心したように呟く。
 「明日試してみるヨロシ。」
麗美が同意する。
 「なるほど・・・・ああやればハイキックの威力が増すわけだな。うむ・・・いい勉強になる。」
ケイが軽く手足を動かし、攻めを真似ていた。
 「・・・・・どうでもいいけど・・・・誰か止めないんですか?」
アービンが不安げに言う。するとゴンザレスがアービンの肩に手を置いた。
 「心配するな。もうケリがつく。担架用意しておけ。」
 「い・・・イエッサー!」
アービンは慌てて担架を取りに走った。そしてゴンザレスが言った通り、最後の一撃が放たれようとしていた。
 
 「ふんっ!」
ドシュッ!──
 鈍い音を立てて、右の抜き手がサイモンの腹に刺さっていた。
ドサッ
 サイモンはその場に突っ伏した。メガネが悲しい音を立てて床に落ちた。
 「わ・・・私にぃ〜〜」
香田奈はかなり酔っているのか、言葉も上手く話せていない。フラフラしている所を将輝が支える。
 「ね・・・姉ちゃん・・・・」
 「う〜〜・・・・」
だらしなく将輝にもたれかかる香田奈。
 「将輝君。被害が広がらないように、もう香田奈さんは部屋に連れて行った方がいいんじゃないか?」
フェイが進言する。将輝は頷いた。
 「そうします・・・・。少佐達には明日、俺の方から謝りますんで・・・」
将輝はサイモンを担架に乗せているアムリッタにそう言ったが、アムリッタは首を横に振った。
 「いいわよ・・・。この人には、いい薬よ。気にしないで。」
 「はあ・・・」
将輝はそう言って、香田奈を抱えながら食堂から出て行った。
 「おお・・・。久しぶりにいいケンカが見れたぜぇ。」
りきが興奮したように言った。それを聞いてゴンザレスが笑った。
 「解るのか?」
 「火事と喧嘩は江戸の華でぇい!!」
りきの台詞にゴンザレスは大声で笑った。それを尻目にアービンから聞きつけてやってきたシタンは、サイモンとリッキーを介抱していた。
 「派手にやりましたねぇ・・・・。明後日の作戦に支障がでなきゃいいんですけど。」
シタンはリッキーの打撲を冷やしながら呟いた。


 「よいしょっと・・・・」
将輝はやっと自室に戻ってきた。そして香田奈をベッドへ寝かせた。香田奈は力が抜けたようにベッドの上に仰向けになっていた。
 「やれやれ・・・」
 将輝は額の汗を拭った。するとベッドの上の香田奈が手招きしていた。
 「ねえ〜〜〜しょうちゃ〜〜ん・・・」
 苦笑しながら近づく将輝。
 「なんだよ・・・・」
 「もう寝るから〜〜、服脱がせてぇ〜〜。熱くて、キツイのぉ〜〜」
将輝はハア・・・と溜息一つついて頷いた。いつもの姉の姿は微塵も無いだらしなさだ。
 「酒飲むとこうだからな・・・・」
苦笑しながら、香田奈の衣服を脱がしにかかる将輝。いつものSRXチームのジャケットを脱がし、タートルネックの服とスカートを脱がした後、将輝はハッと手を止めた。
 「・・・・・ブラも・・・外すんだよな・・・」
目の前には下着のみの姉がいる。顔が赤く染まり、心臓が高鳴る。
 「・・・・・ええい!何考えてんだ!!実の姉弟だぞ!!そんな事あるか!!」
ブンブンと頭を左右に振り、姉の背に手を伸ばす。ところが・・・・
 「あれ?あれ?留め具が無い!?」
幾ら背中をまさぐっても止め具が見つからない。すると将輝の脳裏に何かが浮かんだ。
 「ひょっとして・・・・」
 将輝は震える手で香田奈の双丘の中央に手をやった・・・・
パチン──
 軽い音を立てて止め具は外れた。フロントホックだったのだ・・・・。目の前で露になる香田奈の胸。ドギマギする将輝。
 「え・・え〜とぉ・・・。Yシャツはぁ・・・・」
将輝はなるべく見ないように、目線を反らしながら香田奈の寝間着代わりのYシャツを着せた。
 「よく考えたら・・・・、このYシャツも先輩のなんだよな・・・」
将輝の先輩は、かなり背の高い人物で肩幅も広かった。故に既に先輩の年齢を超えた香田奈でも着用は出来たのだ。
 少し感傷に浸った将輝だが、香田奈をベッドに寝かし終えると、自分も服を脱ぎ出した。そしてTシャツとブリーフだけになると、姉を起こさないように隅からもそもそとベッドに入りこんだ。
 「ふう・・・・御休み〜」
将輝は、そのまま瞳を閉じた。だが・・・・お話はこれで終わりではなかったのだ・・・・。

 「ん・・・んん・・・・重い・・・・」
将輝は寝苦しさを感じていた。何か自分の上に何か乗っているような、そんな重さを・・・・
 「うう・・・!?」
将輝は目を明けた。そして彼の瞳に写ったのは信じられないものであった!!

 「
ん〜ふふ〜ふ〜♪
将輝の眼前にいたのは、何やら得体の知れない妖艶な笑みを浮かべた実の姉であった。
 「ね・・・姉ちゃん・・・?」
恐怖を感じていた。将輝は恐怖を感じていた。目の前の姉の目が獲物を狙う肉食獣の目をしていたのだ。
 「しょうちゃんね〜。実はぁ・・・、久しぶりにお酒飲んだせいか・・・・身体が熱くってぇ・・・・」
 香田奈はそう言って左腕と下半身で将輝の体をしっかり押さえながら、右手でYシャツのボタンを外す。
 「それに・・・・。あの人の事思い出したら・・・・、なんか・・・寂しくなってぇ・・・」
Yシャツを脱ぎ捨てると、将輝に覆い被さった。
 「うっ!酒くさっ・・・・。姉ちゃん、まだ酔って・・・・ウブッ」
それ以上、言葉は口に出来なかった。自分の唇が香田奈の唇によって塞がれたからだ。
 「ぷはあ・・・・。しょうちゃんも・・・寂しいんでしょ?しょうちゃんぐらいの年頃の男の子だと・・・」
 やっと唇を離したらと思ったら、その口からいつもの姉からは想像も出来ない過激な台詞が飛び出す。
 「当然の悩みが生じるわよねえ・・・・。」
 「あ・・・・あ・・・・、ね・・・姉ちゃん!?」
既に将輝はヘビに睨まれたカエルも同然だ。ただ困惑し、何も対処できないでいた。
 「お姉ちゃんが・・・解決して・・・ア・ゲ・ル♪」
妖艶な顔をして、舌なめずりする香田奈。将輝はもう動けない。
 「しょうちゃん・・・・覚悟ぉ♪」
次の瞬間、香田奈は将輝に襲いかかった。
 「
や〜〜め〜〜て〜〜〜!!!・・・・・・・・あっ・・・」


 その将輝の悲鳴を聞きつける者は、誰もいなかった。ちなみに右隣のリュウセイは・・・・
 「うるせえな〜。何騒いでんだ?まっいっか・・・・ぐお〜。」

 左隣のライ。
・・・・・不在。現在、作戦室にて打ち合わせ中。

 向かいの部屋は・・・・・ジュンペイ。
現在、医務室にて療養中。

以上、将輝の危機に対して感じ取った人間は誰一人としていなかったのだ・・・・合掌。



 翌朝・・・・
 「う・・う〜ん!よく寝たぁ〜!」
香田奈は目を覚ますと、思いっきり伸びをした。なにやら気分が良かった。いつになくスッキリした気分であった。
 「今日もお休みだったけ・・・。天気もいいし、何かいいことありそう!」
窓から挿し込む朝日が眩しかった。いつになく清々しい気分だった。ここまでは・・・・
 「あれ?わたし・・・・なんで裸なの?えっ!?なんで何も着てないのよ!?」
 香田奈は自分が全裸である事に気づいた。いつもはYシャツは着ているはずなのに。
 「なんで・・・てっ・・・しょうちゃん?」
香田奈は気付いた。隣の弟が自分と同じように全裸で、しかも手足を抱えてうずくまり、シクシクと泣いているのに。
 「しょ・・・しょうちゃん?どうしたの・・・?」
すると、将輝は泣きながら答えた。
 「う・・・・うう・・・ね、姉ちゃんのケダモノ・・・・」
 本気で泣いていた。将輝は本気で泣いていたのだ。
 「え?ええ!?」

 とりあえず香田奈はシャワーを浴びた後、服を着て部屋を出た。将輝は、そうとうショッキングな事があったのか泣いたままであった。
 「医務室で精神安定剤でも・・・・」
 そのつもりで医務室へ向かって歩いていたら・・・
 「香田奈の姉ちゃん!昨日はスゲエもん見せてくれてありがとうよ!」
通りがかったりきが、そう言ってきた。
 「?」
次はフェイが・・・
 「夕べは素晴らしいものを見せて頂いた!是非今度、ご教授してくれ!あの足技素晴らしい!」
 「あ・・・ありがとう・・・。考えておくね・・・。」
香田奈はそれだけしか答えられなかった。
 そして医務室に来れば・・・・・
 「す!すまなかったぁぁ!!もう許してくれ!!」
必死で懇願するリッキーと・・・・
 「ゴメン!!許してくれ!頼む!」
 と、泣き顔で許しを請うサイモンであった。

 
「一体・・・・・私、何やったのよ・・・・」
ただ、困惑するばかりの香田奈であった。知らぬは幸せなのかもしれない・・・・・




 次回予告


 衝撃的な(?)休暇を終え、ついにオンディーヌはアヴェ解放の為アヴェ軍国境艦隊との決戦に挑む!
 果たしてキカイオー・ボロン・パルシオン不在のオンディーヌ隊に勝機はあるのか!?
 そして、ファティマ城へ進撃するバルトに、信じられない出来事が!!
 そしてフェイは、激戦の最中、エリィと再会する。迫り来る新型ギア『ヴェルエルジュ』!恐怖のオールレンジ攻撃がヴェルトールを襲う!
 そして姿を現した謎の男グラーフ。奴の拳が戦場に戦慄を持ちこむ!そして現れる謎の真紅のギア・・・・。
 
 次回、サイバーロボット大戦 第二十五話 『殺意の権化!オンディーヌ隊全滅!?』に覚悟完了!!
 次回も、冗談抜きですげえぜ!! 「シャイニングバードッ!クラッァァァァシュッ!!」




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