第二十三話 『受け継いだ力・・・これは先輩の技だ!』
合体したツインザムは、腕のウエポンキャリアからトマホークを射出した。
「この前、ケイさんから教わった必殺技を受けてみろ!!」
大地はトマホークを握り締めて叫んだ。
「ファイヤートマホーク!ブ〜メランッ!!」
ツインザムはトマホークをアヴェ軍のギア部隊目掛けて投げた。名称どうり、放物線を描いてトマホークは数体のギアをなぎ払った。
「大地?いつ習ったのそんな技?」
「昨日、夕ご飯のときに。ゲッPとツインザムって共通する部分が多いから・・・って、教えてもらったんだ!」
そしてツインザムは白い戦艦の傍に着地した。すぐ近くに薄紫色のスマートなロボットがいた。背中のスタビライザーがまるでマントのように見えた。
「カスミさん!助けにきました。」
空はカスミが乗っている紫のロボットに呼びかけた。
「あ・・ありがとう・・・。」
「どうしたんですか?カスミさん?」
不審に思った空が尋ねる。
「なんで・・・そんなロボットに・・・?」
すると空は平然と言った。
「御互い様じゃないですか。カスミさんこそどうして?」
だが、そこへ黄色の細身のロボットが割りこんだ。
「お話中すまないが、今は戦闘に集中しな!」
「あ・・・。すみません、オレーリィさん。」
申し訳なさそうに誤るカスミ。
「アンタ、カスミの知り合いかい?助けに来たんなら、手伝いな。見た感じ強そうなんだし。」
「あ、ハイ!任せてください。」
空はそう答えた。大地がすかさず近づいてきたギアを一体切り裂く。
「え?援護してくださるんですか。」
ユミールは突然現れたツインザムに戸惑いながらも、通信を入れてきたヴィレッタに感謝していた。
「そうだ。そちらの艦に我が部隊のクルーの知人がパイロットをしているのを確認した。」
「カスミの事ですか?」
モニターに映るヴィレッタが頷いた。
「我々はTDF独立遊撃部隊オンディーヌ。私は部隊長のヴィレッタ=バディム少佐だ。これより援護に移る。」
「感謝します。私は戦艦『リーボーフェン』副長、『ユミール=エアル=クラシオ』です。我々に攻撃を仕掛けているのは貴方がたの敵対勢力と見ていいんですね。」
「飲みこみが早くて助かる。その通りだ、ユミール副長。後は任せてください。」
「了解しましたヴィレッタ少佐。協力に感謝します。」
そして、ホワイトローズから発進してきたロボット部隊は国境艦隊に攻撃を仕掛けた。
「ギアの数は少ない!戦艦を狙え!」
アルブレードのライが指示を飛ばす。言った通り、艦隊は戦艦の数は多いが、艦載機・・・ギアの数はそれ程多くなかった。落ち着いて対処すれば怖い相手ではない。
「了解だぜ!ヴァンダーカムの野郎は大艦巨砲主義だからな!」
ブリガンディアのバルトが叫んだ。足裏のホバーで砂上をすべるように疾走する。
「つまり、とりついてしまえば怖くないんですね?」
まみが尋ねた。
「そうだ!雑魚は構うな。戦艦を各個撃破だ!」
ライはアルブレードを走らせながら言った。その上を二機のラファーガとバイパーが飛び行く。
「よし!任せろ。いくぞアムリッタ!」
「了解、サイモン少佐!曹長ついてきて。」
二機のラファーガを援護するようにバイパーのプロンガーは頷いた。
「バカモノ!もっと良く狙え!砲撃手なにをしている!?」
旗艦のブリッジでヴァンダーカムは怒声を上げていた。先ほどまでの攻勢が嘘のように消え去り、突然のオンディーヌの介入で劣勢を強いられていたからだ。
「閣下・・・。このままでは・・・」
「おのれ〜!!」
ヴァンダーカムの目の前で配下の戦艦が次々と鎮められていく・・・。耐えがたい屈辱だ。
そして、また一隻にR−ガーダーが取りついているのをヴァンダーカムは苦々しい目で見ていた。
「沈めぇぇー!!」
一隻の陸上戦艦に取り付いたR−ガーダーは足のビーム砲を乱射していた。爆炎を上げる戦艦。
「これでもかぁぁ!!」
中々動きの止まらない戦艦に対して今度は胸の重金属弾まで放つ。無数の弾丸が戦艦を叩く。
「あらかた壊したのに、足が止まらない。結構頑丈なんだなあ・・・」
将輝がそう呟く。その時・・・
「しょうちゃん!右!!」
香田奈が叫んだ。生きていた戦艦の砲門の一つがR−ガーダーの方へ向いた!この距離では避けられない。焦る将輝!
ドオン!───砲が火を吹いた。まずい・・・将輝はそう感じた。だが・・・
「念動フィールド!!」
香田奈が叫んだ!とっさにフィールドを張り、砲弾のエネルギーを減衰させた。威力の減衰した砲弾などR−ガーダーの分厚い装甲の前では意味をなさない。ほっと一息つく将輝。
「この野郎・・・往生際の悪い・・・。いくぜねえちゃん!」
将輝の声にR−ガーダーの右腕が緑色に輝いた。
「T−LINK・ラリアートッ!!」
R−ガーダーの豪腕が艦橋目掛けて炸裂した。そこで大爆発を起こす戦艦!!
「へっ!ざまあみろ。やったぜねえちゃん!」
「え?ええ・・・そうね・・・」
「どうした姉ちゃん?元気無いな。」
心配そうに後部の香田奈を見る将輝。
「大丈夫・・・少し疲れただけ・・・」
「閣下!損耗率6割を超えました。小型艦艇は・・・全滅!中型艦艇以上もこれ以上は・・・」
副官がすがるような声を出した。ヴァンダーカムは身体を小刻みに震わせていた。
「く・・・・・!撤退する!!」
戦闘を終えたホワイトローズは、ユグドラシルと共に戦艦リーボーフェンの隣接して停泊した。
そして、会談の為ホワイトローズを訪れたリーボーフェンのクルーにカスミを見つけて空がはしゃいだ。
「やっぱりカスミさんだったんですね!」
空と大地がカスミに駆け寄ってきた。思わず顔に笑みが浮かぶ。
「空ちゃん・・・、それに大地君まで!御久しぶり・・・。良かった、知り合いに合えて・・・。」
思わず、涙ぐむカスミ。
「感動の再会の場面を邪魔してすまないが、よろしいかな?」
ヴィレッタがカスミに呼びかけた。
「あっ!スミマセン・・・。」
「では、こちらへどうぞ・・・・空君、大地君も同席してもらえるかな?」
「ハイ隊長。」
そしてヴィレッタに連れられて、リーボーフェンのクルーはホワイトローズの会議室へと向かった。
「アガルディア・・・ですか?」
会議室へ招かれたリーボーフェンのクルーの中で、副長のユミールが言った言葉にヴィレッタは反芻した。
「そうです。我々は貴方がたで言う『異世界』の住人なのです。」
「ですが、そちらのパイロットの面々は我々の世界の住人に見えるが?」
ライがトウヤ達パイロットを見て、そう述べた。するとその問いには知的そうな黒人男性が答えた。
「おっしゃる通りです。我々は原因は掴めていませんが、『因果律の崩壊』によって通常世界との関係を断ち切られているのです。」
「因果律の崩壊?」
ライが驚いたように言った。黒人男性は頷き言葉を続けた。
「ええ・・・簡単に言えば、元の世界に『最初から存在していなかった』事になってしまう所だったんです。」
その言葉をユミールが引き継ぐ。
「その通りなのです。ですから私の住むアガルディアに召喚し、その存在を維持しているのです。」
ユミールの言葉にライはただ頷くしかなかった。だがヴィレッタは事をまるで当たり前の事のように受け止めている表情をしていた。
「トウヤ達を地上に戻す事は簡単なのですが、まだ因果律の崩壊の原因がつかめていない以上、不用意に地上に出ることは出来ないのですが・・・・」
「何故か、戦艦ごと出てきてしまったと。」
ライがそう言うとユミールは頷いた。
「はい。ですが、トウヤ達が言うにはここが地球である事は間違い無いのですが、どうやら別の平行世界に打ち上げられてしまったらしいのです。」
「なぜそうと?」
尋ねるライにユミールは答えた。
「トウヤ達の・・・私達も地上の環境や情報はある程度解っていますが、私達の地上世界には『ロボット兵器』は存在していないんです。」
その言葉にライは何か確信を経たような顔をした。そして目線を同席している大地と空に向けた。
「成る程・・・・。これで解った、大地君。」
「ん?なにライさん。」
「君達に、俺が最初に出会った事を憶えてるか?あの雪山の事を・・・」
「憶えてるよ。モッチロン!あの時、途方にくれてた俺達を助けてくれたのはライさんだもん!」
ライは軽く頷き、二人と初めて出会った時を思い出していた。
ライが大地と空に出会ったのは、二ヶ月程前のことだ。中国北部の山間部で、形式不明のロボットとゴルディバス軍の戦闘が行われているのを、TDF北京支部が偶然キャッチした。
戦闘の規模が小さいものであったので、ライがまず偵察としてゲシュペンストMK−Uで出撃した。
そして現場に到着したライが最初に目にしたのは、ゴルディバス軍の幹部、アレクシム操るガムダの巨体であった。
ガムダの戦闘能力はかなり高いものがあった。事実、過去に撃破を試みたTDFのPTやVA部隊が全滅させられる事が何度もあった。
だが、その時は様子がおかしかった。あのガムダがたった一機のロボットに劣勢を強いられていたのだ。そしてライの目の前で、ガムダは赤いロボットの斧に切り裂かれ、白い雪山の中で赤い火柱をあげた。
その赤いロボットがツインザムだった。
「あの時は驚いた・・・・。まさかツインザムに乗っていたのが君達のような子供だったとは・・・」
ライは懐かしそうに呟いた。
ツインザムはガムダを倒した後、ただ呆然とその場に立っているだけであった。何か異常でも起きたのか?と、ライがしばらく様子をうかがっていたが、全く動く気配を見せなかった。
ライは危険を承知でツインザムに近づいた。するとツインザムがゲシュペンストの存在に気付いたのか、いきなり振り向いた。ゲシュペンストを敵機だと思ったのか、ツインザムは身構えた。
その時、ツインザムから声が発せられた。ライは耳を疑った。何故ならまだ幼い子供の声だったからだ。
「姉ちゃん!あそこにまだいるよ!」
ライは反射的に叫んだ。
「待ってくれ!ゴルディバスと戦っているのなら、俺は味方だ!」
その後、ライに連れられTDF北京支部へ到着したツインザムから二人の子供が降りてきた。それが大地と空だった。
聴取の際、二人は『ゴルディバスのせいで夢の中から出られなくなった』と答えていた。二人が言うには、ツインザムは自分達の夢の中に現れたロボットで、自分達は今も夢の中にいる・・・と。TDFの軍人達は最初は信じようとしなかったが、二人が乗っていたツインザムを調査して、考えを改めた。
何故ならツインザムはPTやVAとは異なる技術で造られており、しかもある程度の自己修復能力まで有していたからだ。このようなロボットは何処にも存在していなかった。
しかもツインザムには精神エネルギー変換装置とも言える機能が備わっており、大地と空以外操縦を受け付けず、二人が搭乗しないと、全システムが停止し、何の反応も示さなかった。
TDFは二人の話は事実だと判断した。それは丁度ライが極東本部のヴィレッタからの合流命令が発せられた頃であった。
そしてライは、二人の話通りゴルディバスが関わっている事を理由に、二人をヴィレッタの元へ連れて行く事にした。大地や空がライに懐いていたせいのあるのだが、あのまま北京に置いていては軍に利用されかねなかったからだ。
軍の非情なやり方は、ライは身を持って知っていたからだ。ツインザムを軍に兵器として利用されないために、ライはイングラムが遺した提唱を受け継ぐヴィレッタに、ツインザムを託すことにしたのであった。
ライにとってヴィレッタとはそれだけ信頼に足る人物であった。これもオンディーヌの構想を練り、R−ガーダーを始め、多くの地球防衛手段を遺した、イングラム=プリスケンの功績が大きいお陰でもあった。
「これでハッキリした。大地君と空ちゃんが元々現実だと言っていた世界はトウヤ君達が住んでいた世界だったんだな。」
ライはそう結論した。
「恐らく、トウヤ君達とは別の手段・・・・『夢の中』という手段を使ってこちらの世界に引き込まれたんだろう。」
「それって、やっぱりゴルディバスのせい?」
大地がライに尋ねた。頷くライ。
「じゃあ、カスミさん達が、こっちの世界に引き込まれたのもゴルディバスの仕業?」
空が尋ねた。その問いにはヴィレッタが答えた。
「半分はそうかもな・・・・。ゴルディバスは別次元からやってきた・・・と仮定されている。ゴルディバス軍の次元跳躍にでも干渉され、巻き込まれたのかもな。」
すると、ユミールが何かに気付いたような顔をした。
「もしかして・・・・」
「どうしました?」
ライが尋ねる。ユミールは恐る恐る答えた。
「実は、我々がアガルディアで敵対していた勢力・・・『ゼ=オード』と言うんですが、彼等も次元跳躍が可能なんです。」
「何ですって・・・」
ライが声を震わせた。ヴィレッタの片眉が動く。
「ゼ=オードは規模は小さいのですが強力な力を持っていまして、それは彼等が保有する五体の装兵機による物が大きく・・・そして・・・」
「その五体が次元跳躍が可能なのですね。」
ライの言葉にユミールは頷く。
「そして、もう一つ・・・、我々の世界アガルディアは歴史が地上ほど深くないのです。創生は4千年前とされているのです。」
ユミールは何か感じ取ったように言い続けた。
「4千年前、地球で魔王と三体の巨神が戦ったと言われています。その余波は地球を崩壊させるに十分な力であったと・・・。そしてそのエネルギーによる地球崩壊を避ける為、エネルギーの逃げ場としてアガルディアが造られたとされています。」
「その話が、この世界とどのような関係が?」
初めてトウヤが口を開いた。ユミールは言い出しにくそうに話を続けた。
「その・・・・魔王と三体の巨神・・・。彼等は宇宙・・・いえ宇宙の外、『別の宇宙』から来たとされているんです。」
その言葉にライは表情を変えた。
「ま・・・まさか・・・ゴルディバスが・・・、その魔王・・・」
その場にいた全員が(注:大地除く:話が理解できないから)絶句した。
「あくまでも私の推測に過ぎませんが、考えられない事ではありません。あなた方の言うゴルディバスに近い・・・又は同種の存在なのかもしれません。」
ユミールを始めリーボーフェンのクルーは何か、運命じみたものを感じていた。まさかこんな世界でアガルディア創生に関わっていたかもしれない存在に出くわす事になってしまったからだ。
すると、先程の黒人男性が何かに気付いたように口を開いた。
「よろしいでしょうか?ヴィレッタ少佐、貴方は先程、我々がこちらの世界に現れたのはゴルディバスが半分関っているとおっしゃいましたね。」
ヴィレッタは無言で頷いた。
「ではもう半分はなんですか?貴方は何か心当たりがあるようですが。」
するとヴィレッタは微笑した。
「察しがいいわね・・・。その通りよ。貴方名前は?」
「アーサー。『アーサー=ヌコモ』と言います。」
するとヴィレッタは椅子から立ちあがった。
「よろしい。お見せするわ・・・その残り半分の原因を・・・」
「キャ〜!!スゴ〜イ!」
ホワイトローズの格納庫で一人のショートカットの少女が騒いでいた。彼女の名は『セリカ=ラニアード=メスティナ』。リーボーフェンのメカニックチーフであり、装兵機の設計技師も行っているメカの天才であった。
「これがこの世界の装兵機・・・じゃなかった。ロボットなのね〜!!」
彼女は目を輝かせてオンディーヌ隊のロボットを見学していた。彼女にとって、ホワイトローズ格納庫はウインドーショッピングのようであった。
「セリカ様!あまりはしゃがれては危険です!」
セリカの傍に青いマントを羽織った青年であった。彼は『フェイン=ジン=バリオン』、新米だがれっきとした騎士であった。
「見てよ〜!あの青いの!凄くスマートでカッコイイ!」
彼女が示したのはVRテムジンだ。現在このテムジンはサルペン用としての改装作業が行われていた。
「みんな凄いのばっかり〜!参考になるなあ。」
セリカはすっかりオンディーヌ隊のロボットに魅了されていた。
「そうですか?俺にはどうも・・・、それにあそこの黒い奴、あまり好かないなあ・・・」
フェインが示したのはヴェルトールだった。バルト達と共に会談に参加する為(バルトが無理矢理連れてきた)こっちに来ていたのだ。その証拠に隣にはバルトのブリガンディアもあった。
セリカはヴェルトールを見上げた。
「これ・・・・何か、変な雰囲気がするな・・・見た目カッコイイけど・・」
そんな時、彼女の後ろにヴィレッタ達がやってきた。会談に参加しているメンバーも一緒だ。
「どうしたんですか?皆さんで見学?」
セリカの問いにトウヤが答えた。
「俺達がこの世界に連れてこられた原因の半分らしいものを見せてくれるらしいぜ。ここの隊長が。」
「これが・・・その原因の半分ですか・・・」
ユミールは呆然と言った。彼女の目の前には、修理中のキカイオーがあったからだ。
「このロボットがどうして・・・?」
するとヴィレッタはキカイオーの胸の辺りを指差して、キカイオーの超次元機関の事・・・・数時間前のポリンとの戦いの事を語り出した。
「!!」
驚愕するリーボーフェンのクルー。ヴィレッタはそれでも表情を変えない。恐らく前もってそう思っていたのだろう。
「じゃあ、俺達がこの世界に引っ張り込まれたのは、このロボットの心臓部が関係してるっていうのか?」
がっしりした体格の男がそう話した。彼は元ミラージュ戦闘機乗りの『クロビス=カミリオン』だ。
「そうだ・・・。キカイオーには事象に干渉できる。ゴルディバス軍の次元跳躍・ポリンの魔法、そして貴方達が敵対している組織の次元跳躍・・・これらが重なり、次元と空間のバランスが崩れ、御互い干渉しないはずが、キカイオーの超次元機関で一気に連結したのかもしれない。」
ヴィレッタはそう説明した。すると、金髪の女性『オーレリィ=パンダボアヌ』が口を開いた。
「じゃあ、コイツを使えば、あたし等はアガルディアに戻れるんじゃないのかい?」
「可能性はあるな。修理が終わればの話だが・・・」
クロビスがキカイオーを見上げてそう言った。
「じゃああたし達、このキカイオーってのが直らないとアガルディアに戻れないの?」
セーラー服の少女が喚く。彼女のパイロットの一人『天王寺亜衣(てんのうじ あい)』だ。
「そう言う事になるな・・・。又は同じような機能を持ったロボットがいない限り・・・。」
ライがそう結論づいた。落胆するアイ。
「貴方がたはこれからどうします?キカイオーの修理が終わるまで結構時間が掛かる。よろしければTDFの基地に連絡して保護処置を取りましょうか・・・」
ライの意見は正論であった。この世界の人間ではないリーボーフェンのクルーがうかつに動き回れば、余計な混乱を招きかねない。アガルディアへの帰還方法が確立するまで、TDFの基地で彼等を保護すると言うのが一番安全策と言える。
「そうですね・・・では、御言葉に甘えさせていただきます。」
ユミールはそう言った。自分達はイレギュラーな存在であるが故、混乱を招く事は避けたかったからだ。
「解りました。ですが、我々はこれからニサンという土地に向かわなければなりません。そこへ到着してからTDFの基地なり施設へ紹介させていただきます。」
ヴィレッタはそこでユミールと握手を交わした。
「何?香田奈中尉が倒れた!?。」
会談を終えブリッジに戻ってきたヴィレッタに、そんな報告がリュウセイから飛んできた。先程の国境艦隊との戦闘の後、R−ガーダーから降りた香田奈はそのまま意識を失い倒れてしまったのだ。
「それで、容態はどうなのだ?」
リュウセイに尋ねるヴィレッタ。
「シタン先生の診察によると、過労と極度の精神疲労だそうです。しばらく休めば問題無いらしいです。恐らく原因は先程の戦闘で行った念動フィールドによるT−LINKシステムによるものと・・・」
リュウセイはまるで自分の事のように暗い表情で報告した。なぜなら自分にも憶えがあったからだ。
「そうか・・・。しばらくR−ガーダーは使えないな。」
「将輝だけじゃ駄目なんですか?元々一人乗りですし単独でも問題無いですよ。」
するとヴィレッタはリュウセイを睨みつけた。背筋が凍るリュウセイ。
「システムが四分の一しか動かせない彼一人でどうしろと言うの?T−LINKシステムが無ければR−ガーダーは、頑丈さと馬鹿力しか取り柄の無い、ただのPTなのよ。」
リュウセイは思った。「そこまで言うか?」・・・・と。だがヴィレッタが怖いので口には出さなかった。
「彼を使い物に出きるか出来ないか、リュウセイ少尉、お前に任せる。」
「え?」
「念動力を鍛える訓練にでも付き合ってやれ・・・。少しでも念動力が高まれば彼も・・・」
ヴィレッタは微かに微笑んでそう言った。リュウセイはそれを見て、ぱっと表情を輝かせた。
「了解!」
リュウセイは笑顔で敬礼した。
「それで肝心の将輝はどうしているんだ?」
「訓練室で稽古に励んでいます。フェイ君や恵一が拳法に精通してるんで付き合ってもらってるらしいんです。」
「ぐはっ!」
フェイの掌打を浴び、将輝は訓練室の床の上を転げまわった。
「・・・まだまだ・・・。」
よろよろと立ちあがり、再び身構える将輝。それを見てフェイは構えを解いた。
「これぐらいにしよう。今のお前じゃ何度やっても同じだ。」
フェイの一言に将輝は怒った。
「何だと・・・。」
「それは俺も同意見だ。」
ケイ(注:ゲッP−Xの方)もフェイの意見に頷いた。
「怒るのは解る。だが事実だ。背も低い、体重も軽いお前じゃ、今のままではどうにもならないぞ。」
「俺がチビだから、拳法は向いてないと言いたいのか。」
「そうは言っていない。お前は運動神経も良いし、すじもいい。戦法を変えてみてはどうかと言ってるんだ。」
ケイの言葉にフェイも頷く。
「俺もそう思う。小兵のお前には一撃系の技は向いていない。その敏捷性を活かして、手数足数で攻める方法を取ってみたらどうだ?」
二人の意見は最もだった。背が低く、リーチも短い将輝では一撃必殺のような重爆技は難しい。だが、敏捷性を活かした連続技なら、将輝に適していた。
「それは、解ってる。俺だってそのような技の方が得意だ。あと、相手の力を利用する技も・・・」
将輝は呟くように言った。
「出きるんだったら、何故やらないんだ?俺にそれやってみせてみろ。」
フェイは今一度身構えた。将輝はやむなく身構えた。そして・・・・
「おおっ!!」
ケイは驚嘆した。将輝はフェイの蹴りを見事避け、懐に入ると同時にすばやい連続突きを見舞った。
「出きるじゃないか!!よし次を・・・」
フェイは感心して技を放った。フェイの正拳が将輝に迫る。だが、次の瞬間フェイの身体はうつぶせになっており、将輝はフェイに脇固めを決めていた。見事なサブミッションだ。
「お前凄いよ!これだけ出来て、何故重爆技にこだわるんだ?」
技を解かれたフェイが尋ねた。将輝は言い出しにくそうに答えた。
「R−ガーダーとの相性を考えていたんだ・・・。」
「あ・・・・。」
「そうか・・・」
二人には将輝の言いたい事が解った。将輝とR−ガーダーの性格はまるで正反対だったのだ。
身体の小さい将輝は敏捷性を活かした連続技や相手の力を利用した関節技や投げ技を得意とする。だが反対にR−ガーダーは、足が短い事を除けば、リーチも長くパワーもあった。動きが鈍いが、それを頑強さで補っている。得意技も豪快なパワーと重たい体・長いリーチを生かした肉弾戦だ。
つまり、将輝の得意分野がR−ガーダーでは、全然活かせないのだ。
「香田奈さんは、どうなんだ?」
ケイが話を反らすように言った。すると将輝は表情を曇らせた。
「姉ちゃんの得意技は、カウンターでの打撃・・・。俺はリーチが短いから無理だけど、姉ちゃん手足長いだろ?俺が肉迫しないと無理な距離を余裕で殴りこめる・・・あっ、姉ちゃん蹴りの方が得意だ・・・」
ケイは、まずい事聞いたな・・・という顔をしてフェイを見た。フェイもどう返して良いのかわからず苦笑するしかなかった。
しばらくして、将輝は格納庫に足を運んだ。目の前にはR−ガーダーの巨体があった。
「どうしたら、お前の力を生かしてやることができるんだろうな・・・・」
だがR−ガーダーは無言のままだ。将輝はいつも巻いているバンダナを外した。将輝の額が露になる、そこには小さいながらも火傷の跡があった。
「先輩なら・・・お前の能力を十二分に引き出してやれるかもな・・・。」
そう一人呟きながらバンダナを見た。将輝がいつも巻いているこのバンダナは、事故で亡くなった将輝の先輩のシャツを生地代わりに香田奈が作ったものだ。
将輝の額の火傷の跡を隠すためと、尊敬していた先輩の形見を兼ねて・・・・
「先輩・・・」
将輝は自然に涙が目尻に浮いてきた。将輝にとってそれだけ大事な人だったのだ。
「将輝君の先輩?」
「うわっ!!いたの!?」
将輝は突然呼びかけられ驚いた。そこにはユナとユーリィ・リュウセイと大地と空がいた。将輝は慌ててバンダナを巻いた。
「ああ・・・晩飯の時間だから呼びに来たんだが・・・。」
リュウセイが不思議な顔をして言った。
「あ・・え〜と・・うん行くよ。」
将輝はごまかすように足早に食堂へと向かった。不思議に思いながらもリュウセイ達も後をついていく。
「ねえねえ!将輝君の先輩ってどんな人?」
「あたしも聞きたいな。」
食堂の席についた将輝にユナと空が尋ねてきた。見ればリュウセイも興味があるような顔をしていた。
断る理由が見つからない将輝は渋々答える事にした。
「俺の先輩・・・姉ちゃんの元恋人で、俺ん家の道場で師範代務めるほどの実力者だった人だ・・・。」
「え〜!!香田奈さん、恋人いたの〜。」
ユナが驚く。頷く将輝。
「遠征試合に出発する日に空港の火災爆発事故で俺をかばって亡くなったがな・・・。いい人だった。強く、優しかった・・・それで決して気取った態度を取らない、いい先輩だった。警官になるのが夢だって、いつも言っていた・・・」
将輝は懐かしそうに言った。
「だから亡くなったと聞かされた時の姉ちゃんの顔、今でも忘れない・・・。滅多に涙を見せない姉ちゃんが、一晩中泣きはらしたんだぜ。」
その時ユナが何かに気付いた。
「もしかして、将輝君の暗所恐怖症って、その事故が原因?」
将輝は苦笑して頷いた。
「ああ・・・。思い出すだけでも泣きそうになるよ・・・」
「そんなに怖かったのか・・・」
リュウセイが呟いた。
「怖いよ・・・・気付いたら、瓦礫の中に閉じ込められて殆ど身動きが取れなかったんだ。炎と煙に囲まれて生きた心地がしなかった。助けを呼んでも誰も来てくれないし、頼りにしていた先輩がすぐ傍で俺をかばうようにして身体半分瓦礫に押しつぶされて死んでいたんだから・・・」
将輝は思い出すだけで怖いのか、体が微かに震えていた。将輝は泣きそうになるのをこらえて、席を立った。
「もういいのか?」
リュウセイがまだ料理が残ったトレーを見て言った。
「ああ・・・何か食欲が湧かなくて・・・姉ちゃんに病人食でも持っていこうかな?」
将輝は精一杯、笑顔を見せながら厨房の中へ入っていった。
黒い空間・・・・・虚空の中に人影が見えていた。一人ではない・・・・何人もいた。その中の一人はシャドーレッドだった。シャドーレッドは、誰かに話しかけていた。それは普段、この場では目にしない三人の男女であった。
「では、確かに・・・ゴルディバス様によろしく。」
桃色の髪をした美女はシャドーレッドから、何かディスクのような物を受け取り、頭を下げた。
「約束の商品は予定通りに・・・」
美女の言葉をシャドーレッドは途中で遮った。
「遠方からわざわざご足労くださったのは感謝しよう。だがシャール殿、これはあくまでも『取引』だと言う事をお忘れないよう。」
「それはゼ=オードの名にかけて必ず・・・・」
シャールと呼ばれた美女はそう答えた。
「情報では、貴方方に敵対していた勢力まで、こちらに来ていると言うが?」
シャドーレッドはそう言うと、シャールの傍にいた知的そうな男が答えた。
「予定通りですよ・・・。我々は元の世界に自由に帰る事が出来ますが、彼等にはできません。」
男は静かに言った。
「つまらねえな、ベルンスト。置き去り作戦かよ。」
ベルンストと呼ばれた男に声をかけたのは赤い髪をした目元を大きなサングラスで覆った男だった。
「ライル・・・。我々が欲しているのは『ライブレード』のみだ。無用な戦闘は避けたい。」
ライルと呼ばれた男はつまらなさそうに口を鳴らした。
「つまらねえ・・・一回ぐらいは手合わせしとかなくていいのかよ。」
するとベルンストはやれやれという顔をした。
「まあ一回ぐらいなら問題はないでしょう。彼等に『アガルディアに戻れない』という事を知らしめておいた方がよろしいでしょう。」
するとライルはにやりと笑った。そうこなくちゃな・・・という台詞を顔が語っていた。
「それに私も便乗させていただけないかな?」
いきなり声がかけられた。その場にいた全員が声のした方へ振り向くと、そこにはヒッサー将軍が立っていた。
「TDFには借りがある。それを返したい。それに私の汚名を返上するいいチャンスだ・・・。先程、新しい情報が入ってな・・・。キカイオーが敗北したらしい。」
「何だと!!」
珍しくシャドーレッドが声を上げた。驚くヒッサー将軍。
「貴様でも驚く事があるのだな・・・。ゴルディバスの『お嬢様』とやらの仕業らしいぞ・・・。」
「・・・そうか・・・」
シャドーレッドは珍しく考えこんだ。今まで見せた事の無い表情をしている。
「キカイオー抜きのTDFなど恐れるに足らず!それに完全な超次元機関を手に入れる千載一遇のチャンスなのでな。」
するとシャドーレッドは、顔を上げヒッサーを見た。
「私も同行しよう。そのアガルディアの聖霊機とやらに興味がある・・・。それに『EX』のテストも行いたい。」
「よかろう。好きにしろ・・・」
ヒッサーはそれだけ言って去って行った。そしてゼ=オードの三人も去って行った。空間にはシャドーレッドのみが残された。
「(ここで・・・他の陣営に超次元機関を渡すわけにはいかん・・・待っていろジュンペイ・・・)」
そして同時刻・・・アヴェ中央政庁、ファティマ城でラムサスは偵察兵の報告を受けた。
「なんだと!あの『究極の力』が敗れただと!!」
ラムサスに報告する兵士は間違い無い・・・と答えた。するとラムサスは顔に笑みを浮かべた。
「ミァン、ギア部隊の出撃はいつ頃可能になる?」
「はい。翌朝には・・・艦の被害が甚大で、しばらく航行は出来ませんが、ギア部隊での出撃は問題ありません。」
ミァンは事務的に淡々と答えた。するとラムサスは笑った。
「これはチャンスだ!!今こそ『究極の力』を手に入れるチャンス。あれさえ手に入れば何も恐れる物は無い!」
ラムサスは高らかに笑った。
「明朝、TDFに攻撃を仕掛ける!準備を行え!!」
「はっ!」
「(あれがあれば、誰も恐れる事は無い・・・。誰も俺を塵呼ばわりされる事は無いのだ・・・)」
厨房で将輝は粥を作っていた。鍋に火が灯り、コトコトと鍋が美味しそうな音を立てていた。
将輝は鍋を見つめながら考えていた。
「(どうすればいいんだ・・・。いまのままじゃダメなんだ・・・。こんな時、先輩ならどうしたろう・・・)」
「あ〜!それじゃダメアル〜。」
いきなり麗美が割りこんできた。将輝をどかし、鍋の火を弱める。
「火が強すぎるアルヨ。これじゃきちんとした御粥にならないヨ。」
「そ、そうなの?」
我に返った将輝が尋ねた。頷く麗美。
「なんでも強火でやればいいってもんじゃないアル。弱い火でも、時間かければ中心までしっかりと火が通るアル。」
「へえ〜。」
将輝は何気なく言った。そしてやがて粥が出来あがったので、将輝は病室へ向かった。
病室に入った将輝が見たのは、あちこちに包帯が巻かれたジュンペイだった。
「大丈夫か?」
将輝は何気なくジュンペイに尋ねた。
「大丈夫じゃね〜よ〜。オイ、コイツどうにかしてくれ〜。」
ジュンペイが示したのは、寄り添うように傍にいるポリンだった。
「ダメよ〜。ジュンペイ君。愛し合う二人はいつも一緒にいなきゃ〜。」
「愛してね〜!」
「御幸せに・・・・」
将輝はそれだけ言って、奥に言ってしまった。
「おい!しょうてる〜!!」
「あら〜ジュンペイ君。彼は気を利かしてくれたのよ〜。二人を御邪魔しちゃ悪いって・・・」
明らかに違うが、将輝はアベックを見ると、妙に腹が立つのだ。まあ自分がもてないせいもあるのだが・・・
将輝には彼女がいなかったからだ。勿論、将輝も年頃の少年であるが故、異性には興味はある。現に好きなった異性もいた。数ヶ月前、以前より気になっていた同級生に告白もした。
だが・・・・返ってきた返事は『ごめんなさい』であった。まあよくある事、将輝は断られた事にショックを感じてはいたが、これで受験に打ち込める・・・と考えた。前向きな思考である。
しかし・・・・その次の日、将輝を奈落の底へ叩き落す出来事が起きたのだ。将輝は昨日告白した同級生が友人と会話しているところを偶然聞いてしまったのであった。
その一部をお聞きください。
「昨日、私、3組の匕首君に告白られちゃった。」
「え〜!匕首にコクられたの?で、どうしたの?」
「勿論、断ったわよ。言っちゃ悪いけどあの人『シスコン』だもん。」
「ウソ!?アイツシスコンなの?」
「ほら、教育実習に来てる女子大生いるでしょ?あの一人が匕首君のお姉さんらしいのよ。」
「あ〜あの美人の。そう言えば苗字同じよね。似てな〜い!」
「なんか登校も下校も一緒だし、なんかベタベタしてたのよ。こないだ相合傘で帰ってたし。」
「それなら知ってる!先週の火曜日、実習生帰るときまでじっと待ってたらしいわよ!」
この会話を聞いた将輝は顔から血の気が引いた。そこまで知られていたのか・・・と。
だが、将輝の不幸はここからだった。
「それにアイツ、消防庁の試験受けるとか言ってたのよ。」
「うそ〜!ホント、冗談でしょ。匕首君、あたしより背が低いのに〜。」
「チビが何考えてるんだか。笑っちゃうわね!それにアイツ暗い所怖いらしいのよ。」
「あっ!それなら知ってる。結構有名よね、体育祭の準備で倉庫に入ったら、泣き出したってやつでしょ!」
「そうそう!友達が脅かそうとして、わざと扉閉めたのよね。そしたら本気で泣き出すんだから!」
「背は低い、暗い所怖い、おまけにシスコン。そんな人が本気でレスキューやるつもりなのかしら。」
「わらっちゃ〜う!!」
以上である。将輝はその場から逃げ出すように駆け出した。
そして傷心の将輝はその日、妹と伯父が呆れるくらい泣き喚いたと言う。
将輝は香田奈の病室へ入ってきた。しかし香田奈は意識を失ったままであった。
「すまねえ・・・ねえちゃん。俺さえしっかりしてれば・・・・」
ベッドに横になっている香田奈を見て将輝は無性に自分が情けなく感じてきた。姉は『自分に頼っても構わない』と言ってはくれていた。だが、その言葉に甘えていた将輝はしらずしらずに香田奈に負担をかけていたのかもしれない。
「くっ!」
将輝は御粥を手近な台の上に乗せると、そのまま無言で立ち去った。僅かに目に涙を乗せて・・・・
翌日、ホワイトローズ・リーボーフェン・ユグドラシルの三隻は聖地ニサンに到着した。
シグルドの計らいで、スクランブル要員は全てユグドラのメンバーが行ってくれると言うので、オンディーヌ隊のメンバー達は久々に休息を取ることにした。
バルトはフェイを連れて、マルーをニサン大聖堂へ連れて行った。その間、皆自由にニサンの街を散策していた。
そして、お嬢様軍団プラス大地・空は、知り合ったばかりのリーボーフェンの少女パイロットであるカスミとアイとで、バルトとの約束通り、ケーキショップで、シフォン・ニサーナをご馳走になっていた。
ちなみに支払いの為に同席していたシグルドとシタンが、表情を変えるほどの食いつきぶりであったと言う・・・(特にユーリィ)シグルドは財布の中身を丹念にチェックしていた・・・。
サイモンはゴンザレス隊やサルペンの部下達を引き連れ、ニサン唯一の酒場で騒いでいたりしていた。皆それぞれつかの間の休息を楽しんでいた。
その頃フェイは、マルーがせっかく大聖堂に来たのだから・・・・と、色々な芸術品を見せてもらっていた。
フェイは拳法をたしなむ傍ら、絵画を趣味としていたので古くからの芸術品には非情に興味があった。特にフェイが興味を持ったのは、二つの天使像と初代ニサン教母の肖像画であった。
その二つの天使像は、それぞれ片方しか翼が無かった。マルーが言うには、二人揃わないと空を飛べないらしい。つまりこの像は人間の信頼や協調性の大切さを物語っているらしい。
「人間は、一人じゃ生きていけない・・・。協調する事は大切だって・・・。だからこの像は肩翼なんだ。人間はそうしないと助け合う事をやめちゃうから・・・」
マルーの言葉がフェイには何故か心に響いていた。そして一番印象に残ったのは五百年前に描かれたとされる初代教母の肖像画だ。フェイには何故かその教母の顔に懐かしさと親近感を覚えていた。
「似ているな・・・・エリィに・・・」
「なに?そ〜いやそうだな・・・。なんかの偶然か?」
一緒にいたバルトもそう呟いた。肖像画のやさしい顔をした女性は、フェイのよく知るエリィに何故か似ていた・・・。
一方、将輝は鍛錬室で瞑想していた。座禅を組み、呼吸を整えていた。隣にはリュウセイも同席していた。将輝の念動力を少しでも高めようとしてリュウセイが誘ったのだ。ちなみにライも付き合っていた。何故かと言うと・・・
「寝るな。」
ゴツン───ライが左腕(義手)でリュウセイの頭をこづいた。はっ!と目を覚ますリュウセイ。
リュウセイは念を練るこのトレーニングの最中、よく寝てしまう事があった。この為ライがいつも付き合っているのだ。
「まったく・・・指導するお前がこの調子でどうする。」
「イングラム少佐みたいな事言うなよ〜。」
そのやりとりに将輝は思わず吹き出して尋ねた。
「その・・・イングラム少佐って人はどんな人なんです?名前は何度も聞きましたけど、そんなに凄い人なんですか。」
するとライは静かに答えた。
「そうか・・・君のスーツはイングラム少佐の物だったな。」
頷く将輝。
「ブカブカですけどね・・・」
「イングラム少佐・・・本名イングラム=プリスケン。TDFきってのエースパイロットでもあり、SRX計画を始め多くの地球防衛手段を計画した人物で、我々SRXチームの初代教官だった人だ。」
ライはイングラムの事を語り出した。イングラムはパイロットでもあったのだが、技術者としても優れた素質を持っていた。イングラムは迫り来る外敵から既存のPTでは太刀打ちできないと判断し、地球防衛の手段として『対地球外知的生命体用一撃必殺型PT』を設計。さらに様々な地球防衛組織・施設を提案。これらを建造するために、各企業体に協力を要請。TDF上層部に提案、そして受理され建造が開始された。これが『SRX』であった。
そして幾つかの戦いでSRXは予想以上の戦果を上げたが、イングラムにとってはテスト段階に過ぎなかった。SRXは強力な兵器であったが、いかんせん不安定で未成熟な部分が多くあった。次期開発計画を急がなくてはならなかった。
だが、ここでイングラムは人類に不信感を抱いてしまった。連邦崩壊である。イングラムも政府高官の腐敗ぶりにはほとほと呆れていたが、無能は無能なりに連邦の秩序は守っていた。連邦に対しての不信感による戦乱は幾つかあったが、まさか連邦を崩壊させるほどの戦乱に発展するとは思いもしなかったのだ。
「地球人の最大の敵が地球人自身だったとはな・・・」
イングラムはこの一言を残して、出撃・・・。そして帰ってこなった・・・。
後に大破したR−GUNパワードは発見されたものの、イングラム自身はどう捜索しても発見されなかった。そして捜索を続行する余力すらTDFには残されていなかったのだ。
「そうだったんですか・・・」
「その後を、ヴィレッタ少佐が引き継いだんだ。イングラムの意志は私が継ぐ・・・と言ってな。」
将輝は黙って、考えていた。
「(何て凄い人なんだろう・・・。俺は自分の事で手一杯なのに、そこまで広く物が見れるなんて・・・)」
将輝は拳を握り締めた。
「(俺も・・・俺もイングラム少佐のようになりたい・・・。そんな強い人に・・・)」
将輝は合ったことの無いイングラムに無性に憧れと尊敬を抱き始めていた。
そんな静寂を打ち破るようにして、鍛錬室にケイが飛びこんできた。顔には笑みが浮かんでいた。
「おい!将輝。お前にぴったりの技があったぞ!」
「??」
返答も聞かずに、ケイは、トレーニング用のダミー人形を部屋の隅から持ち出してきて、セッティングし始めた。その場にいた三人は、ただ呆然と見ているだけであった。
「見てろ。うちの家に伝わる技で、手数を活かした重爆技なんだよ!これならお前にぴったりだと思ってな!」
そう言ってケイは身構え、気合を入れ始めた。
「はああああああ!!!!!!」
ゆっくりと腹式呼吸し、丹田に力を込めるケイ。そしてカッ!と目を見開いた。その瞬間、将輝・リュウセイ・ライは度肝を抜かれた。
ビリビリビリィィィ!!!!───全身から気合が発せられたケイの上半身の衣服が弾かれたように破れ飛び散って行く!そして!!
「む、胸に七つの傷が!!」
リュウセイが叫んだ!確かにケイの胸には七つの傷跡があったのだ!そして、驚くのはこれからだった!!
「あ〜たたたたたたたたた!!!!!うあっちゃあぁぁ!!!北貯・爆裂拳。」
ケイの目にも止まらぬ速さの拳がダミー人形に炸裂していたっ!!驚くばかりの三人。
そして物凄い連打が終わり、ケイがダミー人形に向けて一言。
「お前はもう逝っている。」
「ひでぼっ!!」
何故かダミー人形から断末魔の声が発せられ、次の瞬間ダミー人形は内部から破裂したように爆発した。
「・・・・・すげえ・・・」
リュウセイにはそれだけしか言えなかった。そしてケイは将輝の方へ向いた。
「これがウチに伝わる、一子相伝の拳法『北貯神拳(ほくちょしんけん)』だ。」
自慢するようにケイが胸を張った。ライはぼそりと一言。
「どうして、それをゲッPに活かさないんだ・・・・・」
「!!!!」
絶句するケイ。どうやら今の今まで気付かなかったらしい。ただ呆然と口を開けて、固まっていた。
その時、艦内に警報が鳴り響いた。
「半舷休息じゃなかったのかよ!」
リュウセイがぼやいた。
「そんな事言ってる場合か!行くぞ三人とも!」
ライはそれだけ言って、駆け出していた。
「何が起きた。」
艦長がチェンミンに尋ねた。
「ユグドラシルから通信が入りまして、このニサン近辺で戦闘が行われているようなのです。」
「戦闘だと?何処と何処が戦っているんだ?」
「それが・・・ソラリスと宇宙悪魔帝国らしいのです。」
警報を聞きつけてパイロット達がブリッジに上がってきた。だが、いつもより明らかに人数が少ない。
「ん?ずいぶん少ないな・・・サイモン少佐やお嬢さん達の姿が見えないが?」
すると代表するようにサルペンが報告した。
「申し訳ありません。一部のメンバーが街から戻ってきていないのです。」
「仕方が無いな・・・・。オペレーター、状況は解るか?」
「偵察中のミロク小隊からの映像出ます。」
モニターには、ソラリスと宇宙悪魔帝国が戦っていた。激しい戦闘らしく、無数のギアやビーストの残骸が見えた。
「ソラリスがやや劣勢か・・・」
艦長はそう思った。ソラリスの方が、数は多いものの戦闘能力では宇宙悪魔帝国の方が上回っていた。モニターには宇宙悪魔帝国の戦艦『大空魔艦』もあった。やはり戦艦の有無は大きい。
「おい艦長!あれを見てくれ!!」
ユグドラシルからの通信で、バルトの声が響いた。
「どうしたのかね若君。」
「左の方!金色のギアと戦ってる奴だよ!ミロクの大将、そいつを集中して見せてくれ!」
『了解、若!』
偵察しているミロクのギアが目線を変えた。艦長は言われた通り見ると、そこには二枚の翼を生やしたスマートな金色のギアが何か、黒い人型のロボットと戦っていた。
金色のギアは持っている剣で、攻撃を受け止めるのがやっとのようであった。対して黒いロボットは動きがすばやく、中々姿を確認しずらい。持っている武器がビームサーベルのようなものぐらいしか解らなかった。
「若君。それに艦長、金色のギアは『ワイバーン』。ゲブラー指令ラムサスの専用機です。」
無線からシタンの声が聞こえてきた。
「ラムサスの専用機!?ほんとかよ!」
ユグドラシルのブリッジでバルトはシタンに尋ねた。頷くシタン。
「そうです。あれは私が設計した物ですからね・・・」
するとバルトは何かに気付いた。
「そうか!先生はシグと同じで、ソラリスの軍にいたんだよな。」
「そうですよ。シグルドとは仕官学校時代からの付き合いです。」
そこにフェイが割りこんだ。
「でも先生。ラムサスって奴、結構強かったぜ。俺とバルトで二人がかりで五分って感じだったのに・・・。それともあの金色が弱いとか?」
「そんな事はありませんよ。部品全てが特注のワンオフ機ですからね。分厚い装甲に、軽量級ギアに匹敵する機動力を生み出す特殊スラスター・・・。ソラリスの最新技術が導入され尽くした贅沢過ぎるギアです。弱いはずはないんですがね。」
「つまり・・・そんなギアでも太刀打ちできないくらい強い・・・と言う事か。」
ヴィレッタはそう結論づいた。恐らく正論。モニターの黒いロボットはラムサスのワイバーンを攻め立て続ける。劣勢は誰が見ても明らかだ。
「黒い方の機種は解るか?」
チェンミンに尋ねるヴィレッタ。だが、チェンミンは首を横に振った。
「そうか・・・」
「う〜ん。どんなロボットなんでしょう?一瞬でいいから動きが弱まれば・・・・」
黒いロボットをチェックしつづけているチェンミンはそう言った。だが、彼等は黒いロボットの正体を知らないほうが幸せであったかもしれない。何故ならば・・・・
ワイバーンが破れかぶれでバルカン砲を放った。少しでも牽制しようとでも言うのだろう。だが、無駄だった。黒いロボットはバルカンを無視して突っ込んできて、ビームサーベルを振りかざした。ワイバーンが必死で剣で受け止める。その瞬間だけ両者の動きが止まった・・・・。そしてそこに現れたロボットの正体に、オンディーヌ隊のメンバー全てが顔色を変えた。
「でぃ・・・ディクセン・・・。」
艦長が信じられないものでも見るかのような声を出した。モニターでラムサスのワイバーンを圧倒していたロボット。それは頭部こそ違っていたが、紛れも無くディクセンだった!!
「奪われた三号機だ・・・。でもディクセンにあそこまでの戦闘力が・・・?」
艦長が疑うようにチェンミンを見た。
「間違いありません。頭部以外、全てがディクセン三号機と同じ反応を示しています。ただ、機動力が通常の約30%増しですけど・・・」
「捕獲したディクセンを改造したと言うのか・・・・」
艦長の顔を冷たい物が伝った。
「閣下、退いて下さい。それ以上は無理です。」
ワイバーンのコクピットにミァンの声が響く。だがラムサスはひこうとはしない。
「こ、こんな奴に!おめおめと引き下がれるか!!」
必死に食い下がるラムサス。だが強がりはそこまでが限界であった。黒いディクセンのサーベルがワイバーンの左腕を切り落としたからだ。
「ふっ・・・意気込みは良し。だがその程度か、ソラリスのエリートもたかが知れているな。」
ディクセンに搭乗していたのはシャドーレッドだった。ヒッサー将軍とゼ=オードの連中とオンディーヌ隊を襲撃しようとしたところを、ラムサス率いるソラリスギア部隊と鉢合わせしてしまったのだ。
どうやらソラリスも目的は同じらしく。確認するや否や攻撃を仕掛けてきた。シャドーレッドにとっては、捕獲したディクセンを改造した機体『FX−004EX ディクセンEX(エクスペリメント)』のテストには丁度いい相手であった。
「よけれるか?」
ディクセンEXは武器をバズーカに持ち替え、ワイバーンに向けて放った。被弾し傷ついたワイバーンは回避する事もままならず、まともに食らってしまった。美しい金色の装甲が醜くゆがむ。
「所詮貴様はそこまでだな。」
シャドーレッドはラムサスに向けて言い放った。大気中なので外部音声を使えば相手に音声を送る事もできる。無論これはシャドーレッドとラムサスの実力差がハッキリしていたからこそ言える台詞であった。
「おのれぇぇぇ!!」
ラムサスは絶叫しながらEXに向けて突進した。残された右腕に剣を振りかざして・・・
「遅い!」
EXとワイバーンがすれ違った瞬間、勝負は決まった。EXはゆっくりとサーベルの電源を落とし、盾に納めた。その瞬間ワイバーンの両足が切り落とされていた。
「ふっ・・・ディクセン。悪くない機体だ。」
「ラムサスが負けた・・・・」
シグルドは、モニターに別のギアに回収され飛び去るワイバーンを見て、そう呟いた。
「ディクセンとか言いましたよね、あの黒い機体。」
シタンがシグルドに向けて話しかけた。
「恐るべき性能です。」
「総員!第一種戦闘配備!街に出ているメンバーを大至急呼び戻せ。」
ラムサスとシャドーレッドの戦いを見終えた艦長の第一声はそれだった。
そして、ニサンの東部10キロの地点を防衛ラインと定め、オンディーヌ隊で出られるメンバーは直ちに出撃した。
「・・・・行くぞ・・・」
R−ガーダーの目の前で将輝は意を決し乗りこんだ。今日は頼れる香田奈は乗ってはいない、始めての単独出撃だ。
「将輝・・・やれるのか?」
カタパルトに乗る直前、心配そうにリュウセイのグルンガストが寄り添ってきた。
「キカイオーが動けない今、一番防御力が高いのは俺だ。やってみせる・・・」
将輝はそう答え、出撃した。
「ファーランド少尉の禁固を解く。今は一人でも戦力は欲しい。」
ブリッジでヴィレッタはそう判断した。直ちにライードが独房のナカトの元へと向かった・・・・だが。
「こちらライード。ヴィレッタ隊長、大変です!」
「どうした?」
「実は・・・ナカトの奴が・・・・『新兵がよくかかる病気』になっちまいました!!」
モニターが独房内のナカトを映し出す。するとそこには、目がうつろでただ呆然としているナカトがあった。
「無理矢理でもいい。ディクセンに乗せろ。」
「荒療治ってわけですね。了解!」
そのままライードはナカトを抱えてハンガーへと走った。
「ユミールさん。我々はどうするんですか?」
カスミがユミールに尋ねた。どうする?と言うのは、リーボーフェンも戦闘に参加するのかどうかと言う事なのだ。ユミールは首を横に振った。
「いいえ、私達が出撃する理由はありません。ここはこちらの世界の方々にお任せして・・・」
「そうはいきそうにないみたいだぜ。」
ユミールの言葉をクロビスが遮った。モニターをじっと見ている。
「見てみろ。宇宙悪魔帝国とやらの陣営にゼ=オードの機体がいるぜ。」
クロビスが言った事は事実だった。モニターに映る宇宙悪魔帝国の陣営の中に一機だけ、ゼ=オードの機体がいたのだ。
「あれは・・・あの時聖地に襲撃を仕掛けてきた・・・!!」
トウヤが叫んだ。トウヤはアガルディアの聖地で、一度モニターに映る機体と戦って敗れかけたことがあったのだ。
「確か・・・レイオードとか言ってたよね。」
オーレリィが苦々しく、その機体を見つめていた。全体的に見てがっしりとした体躯をしている黒いロボットだが、長剣と背中の二枚の大きな翼のせいで、騎士的容姿をかもし出している機体であった。
「何で、ゼ=オードがこの世界に?」
アイが疑問を投げかける。
「これは・・・出撃して確かめるしかないな。」
トウヤはそう結論した。他のパイロット達も皆頷く。
「でも・・・あの時は、ライブレードがあったからなんとか退けられたけど・・・今の私達にライブレードは無いのよ。」
ユミールが心配そうに言った。
「でもやるしかない!ユミール、オンディーヌ隊の隊長さんに伝えてくれよ。俺達も出撃する・・・ってな!」
「出てきたな・・・TDFめ!今までの借りをまとめて返してくれる!」
大空魔艦のブリッジでヒッサー将軍は、眼前に現れたオンディーヌ隊を見て叫んだ。
「情報通り、キカイオーはいない・・・。キカイオー抜きのTDFなぞ蹴散らしてくれるわ!」
「あれが、この世界の兵器か・・・・。さっきの奴はてんで張り合いが無かったが、今度は楽しめそうだな。」
レイオードのコクピットでライルは顔をにやつかせた。
「ほう・・・リーボーフェンの連中も混じってるじゃないか。TDFとやらに協力でもしてるのか?まっ、どっちでもいいがな・・・。」
「やはり、キカイオーはいない。ここで超次元機関を渡すわけにはいかん。TDFよ、ふんばってみせろ!」
EXのコクピットでシャドーレッドは、そう心の中で叫んだ。
そして、ついに戦いが始まった!
「う、うう・・・・そんな・・・しょうちゃん一人で・・・」
詩織とジュンペイに支えられながら、意識を取り戻した香田奈はブリッジに上がってきて、そう言った。
「香田奈中尉、それにジュンペイ。怪我人は黙って寝ていろ。」
ヴィレッタはブリッジに上がってきた三人を振り返ろうともせず言い切った。
「で、でも・・・・あの子一人じゃ・・・」
その予想通り、モニターに映し出されていたR−ガーダーは大苦戦を強いられていた。
「うわああ!!」
R−ガーダーが地響きを上げて倒れた。レイオードの翼に装備された二門のビーム砲の直撃を浴びたのだ。
「将輝、もういい!下がるんだ!」
リュウセイが叫んだ。だが、R−ガーダーは立ちあがるとまっすぐ敵陣へと駆け出した。
「防御力じゃあ・・・R−ガーダーが一番上なんだ・・。キカイオーがいないなら、俺がみんなの壁にならなきゃ!」
走りながら胸の速射砲を放ちながら突き進むR−ガーダー。数体の小型ビーストをなぎ倒していたが頑張りは長くは続かなかった。
「ぐっ!!」
またしてもレイオードのビームを浴びるR−ガーダー。その攻撃で、肩と胸の装甲の一部が溶け出していた。
「そんな!マルエージング鋼の装甲が!地球最強の金属なんだぞ!」
信じられないものでも見たかのようにうろたえる将輝。だが、そんな事を言っている暇は無かった。次のビームが飛んできたのだ。
「念動フィールドっ!」
フィールドは確かに展開した。だが、将輝の力ではフィールドは薄すぎた・・・。幾らかは弱まったものの、フィールドを付きぬけるビーム。
「ううっ!!こらえてくれっ!R−ガーダー!!」
「くそっ!将輝を援護するっ!おい安藤、一緒に来てくれ!」
リュウセイは、近くにいた白くて肩幅の広い鎧を着込んだようなロボットに呼びかけた。この機体はトウヤの愛機である『聖霊機ゼイフォン』であった。
「おう!だけどよ、アンタ・・・。俺は安藤じゃなくて『風見』だぜ。」
「え?安藤じゃないのかお前・・・。喋るネコ連れてたし・・・方向音痴の安藤じゃないのか?」
「風見だ。それに俺は方向音痴じゃない。」
トウヤは少し怒ったように、リュウセイに告げた。困惑するリュウセイ。
「おかしい・・・安藤に見えるんだがな〜。ライ、お前どう思う?」
だが返事は返ってこなかった。
「粘るな・・・TDFめ。よし私自ら、奴等に引導を渡してやる。」
ヒッサー将軍はそう言い、マントを翻してどこかへ向かった。
そして数十秒後、それは起こった・・・・。大空魔艦に動きが起こったのだ。
「よし、行くぞ。」
その声と同時に、大空魔艦の胸部の艦載機出撃ハッチが開いた。そこから何かが覗いていた。
「オクトパス、パート1・パート2GO!」
アナウンスが響き、ハッチから両腕らしき物とロボットの下半身らしい物が射出された。
「パート3GO!」
次のアナウンスと同時に、大空魔艦の鬼のような顔をした艦橋の先だけが射出された。そして・・・
先程射出された、両腕パーツが艦橋に合体!そして次に下半身パーツが引き続き合体した!
最後に胴体から頭部が飛び出した。そこには大空魔艦の艦橋を胴体にして触手のような両手足を生やした人型ロボットが姿を現した。
「オトクパス!合体完了!」
ヒッサー将軍は高らかに叫んだ。これぞ、ヒッサー将軍専用のたこ型ビースト『オクトパス』であった!!
ヒッサー将軍はオクトパスを大地に立たせた。顔には笑みが浮かんでいた。
「ゼ=オードやシャドーレッドにばかりいい思いはさせん!オクトパスガイザー!!」
オクトパスの胴体から、光弾が発射された!
「うわあああ!!!」
オクトパスの攻撃をまともに食らったのは最前線にいたR−ガーダーであった。悲鳴を上げる将輝。一番前にいる事をいい事に、集中攻撃を受けていた。
「しょ!将輝ぅぅ!!」
リュウセイは叫んだ。援護に行きたいのはやまやまなのだが、小型ビーストとEXに阻まれて助けに行けないのだ。
「誰でもいい!将輝を援護してくれぇぇぇ!!」
リュウセイの悲痛な叫びが戦場に響いた。だが皆リュウセイと考えは同じであった。だが小型ビーストとEXが邪魔をする。
「邪魔だぁぁどけえぇ!!」
ケイ・ジン・リキが雄叫びを上げて小型ビーストをなぎ払う。だが数が多すぎて前に進めない。そればかりか大空魔艦から続々と小型ビーストが出てきていた。
「ジン!リキ!こうなったらシャイニングバードを使う!!」
「無茶だケイ!この状況では助走距離がたりないぞ!」
「せやケイヤ兄!それにシャイニングバードをつこうたら、ゲッPのエネルギーを使いきってまう!」
「くそっ!将輝を見殺しにするしか無いのかよ!!」
ケイはコンソールに拳を叩きつけた。
「くそう・・・これまでかよ・・・」
既に満身創痍に近い状態まで追いこまれたR−ガーダー。目の前にはオクトパスとレイオードがあざ笑うかのように立っている。さらに無数の小型ビーストが追い討ちをかけようとしている。
「やっぱり・・・俺一人じゃダメなのか・・・すまないな、R−ガーダー、お前の力を引き出してやれなくて・・・。姉ちゃん・・・先輩・・・・」
その時、将輝の脳裏に何かがよぎった。それは・・・
(お前は小兵だ。手数足数を活かしたらどうだ?・・・・)
(小さい火でも、時間をかければ、中心まで火が通るアル・・・・)
そして、数日前の姉の言葉を・・・
(お互いの足りない部分は補い合おうよ・・・)
最後に、浮かび上がったのは将輝が尊敬してやまなかった、先輩の姿であった。
「ある・・・・あるぜぇ!!俺にもまだ勝利の手段がぁ!!!」
将輝は吠えた!その声に呼応してか、R−ガーダーは雄雄しく立ちあがった。
「見せてやるぜ!R−ガーダーの力をっ!!」
その直後、R−ガーダーの足の裏から物凄い勢いで炎を吹き出した。そしてR−ガーダーは今まで見せた事の無いぐらい高く飛びあがった。
「あれは!」
敵に阻まれながらもライはR−ガーダーの異変に気付いた。
「緊急離脱用のロケットを蒸かしたのか・・・。でもどうする気なんだ・・・」
高く舞いあがったR−ガーダーは、ライの見ている前で、思いっきり腰と腕をひねった。
「食らえっ!総重量160.8t!!R−ガーダァァァ・タツマキィィィックッ!!」
R−ガーダーはまるでコマのように激しく回転し、足元の無数の小型ビーストをなぎ倒した。
ブリッジでその様子を見ていた香田奈は、胸を押さえた。そして胸の底が熱くなってきた。
「あ・・・あの技は・・・」
次にレイオードの前でR−ガーダーは両手にプラズマソードを構えていた。
「プラズマ・バスタードソードォォォ!!」
R−ガーダーのプラズマソードはゲシュペンストやヒュッケバインの物と原理は同じだが、出力が大きいのでかなり極太のプラズマソードになっているのだ。
「T−LINK開始!」
将輝の声にシステムが反応し、プラズマソードを念動フィールドが覆った。
「これなら、俺の弱い念動力でも十分な威力があるはずだぁ!」
念動フィールドでコーティングされたプラズマソードを二刀流でレイオードに振りかざすR−ガーダー。突然のR−ガーダーの変貌ぶりに、レイオードは僅かながら取り乱し、隙を見せてしまった。
そこを将輝は見逃さない。左腕のソードで、レイオードの長剣を弾き、右腕のソードでレイオードの胴を払った。
「ぐっ!なんなんだ・・・コイツの変りようは?」
胴の装甲を焼かれたランクは焦った。そこにR−ガーダーの次撃が迫る!
「食らえ!!T−LINKぅぅ!」
左腕のソードが再度、胴を焼く。
「さん!」
今度は右腕のソードで又も胴を斬る。
「れん!」
そして、二つのプラズマソードを上段に構えて一気に振り下ろした!
「だぁぁぁぁんっ!!!」
レイオードは致命傷は受けていないものの、前面を十文字に切り裂かれた!!
「くっ!やるな・・・撤退する!」
レイオードはすぐさま次元跳躍を使い、その場から消え去った。
「あ・・・あの技も・・・しょうちゃんが・・・あの人の技を・・・」
香田奈は目から涙をぽろぽろ流した。だがその顔は感激と嬉しさで一杯になっている顔だった。
この時ほど胸が熱く感じたのを、香田奈は数年ぶりに感じていた。
「次いくぜぇ!!」
将輝は間髪入れず、オクトパスに向けて駆け出した。両手には僅かながら念動フィールドの輝きがあった。
「く・・・くるなあ!!」
完全にR−ガーダーに気落とされたのか。ヒッサーは、闇雲にビームを撃ちまくっていた。
だが、R−ガーダーは避けない。まっすぐオクトパスに向けて突き進んでいた。
「オクトパス・ブレイザー!!」
オクトパスの胴体から赤と青色の光線が螺旋を描いてR−ガーダーに迫る。
「!」
だが、R−ガーダーは目立ったダメージは受けていない。どんどん距離を詰めてきていた。
「き、効いていないのかぁ!!」
「凄い・・・・まっすぐ走ってるように見えて、僅かな動きで攻撃をかわしているんだ。」
ブリッジでR−ガーダーの動きを観察していたチェンミンが呟いた。
「そうなのか。」
ヴィレッタが尋ねた。
「はい。しかも、避けきれない個所は打点をずらしてます。しかもそこに念動フィールドを張って、ダメージを最小限に押さえています。凄いですよ・・・」
それを聞いてヴィレッタは微笑した。
「やっと・・・自分の長所に気付いたな・・・。」
モニターではR−ガーダーは、ついにオクトパスを捉えていた。右腕のパンチがオクトパスに炸裂していた。
「R−ガーダー。お前の短所は俺が補ってやる。だから・・・」
今度は左腕のパンチを繰り出す。
「お前が、俺の短所を補ってくれ!」
海賊アジトで見せたラッシュパンチを今一度繰り出す!念動効果は弱いが確実にダメージを与えていた。
「行くぜ!R−ガーダー!!俺とお前のオリジナル技だ!」
将輝は叫んで、オクトパスを抱きしめた。ただの抱き締めではない。弱いながらも両腕には念動フィールドが張られていた。
「弱い火でも時間かければ、中まで火を通す事は出きるんだ!」
R−ガーダーはオクトパスを締め上げ続けた。さらに念動フィールドがさらにダメージを加える。
「T−LINKッ!ベアハッグだあぁぁぁ!」
将輝は叫びながらオクトパスを締め上げていた。メリメリという嫌な音を立ててオクトパスの装甲が一部溶けながら歪んでいく。
「こ!コイツ離せぇ!!」
ヒッサー将軍は叫んだが、R−ガーダーは手を緩めない。いっそう力を込める。そして・・・・
「だ、脱出する!!」
ヒッサー将軍はかろうじて動く頭部を切り離して脱出した。数秒後、オクトパスは圧解し、大爆発を起こした!
「やった・・・・。俺一人でもやれたんだ・・・」
そのすぐ後、R−ガーダーは沈黙した。ピクリとも動こうとしない。
「将輝どうした!!」
リュウセイが呼びかけるが返事が無い。慌てて回線を開くと、将輝はコクピット内で気を失っていた。
「ヤバイ・・・。このままじゃ戦艦と小型ビーストのいい的になっちまう。」
焦るリュウセイ。だが、それ以上の事が起きてしまった。沈黙したR−ガーダーの目の前に、いきなり巨大なロボットが姿を現したからだ。
「な、なんだぁ!ありゃぁ・・・」
リュウセイが驚くのも無理は無い。そのロボットは頭部がボディにめり込んだような身体をして、太くて長い腕、短いがどっしりとした脚部を有した超重量級の機体だった。大きさも半端ではない。R−ガーダーやグルンガストよりも大きかった。恐らく50m近い体躯を誇っているだろう。
「ライルがあれだけやられるとは・・・。まさかライブレード以外に我々ゼ=オードの機体にダメージを負わせられるロボットがあったとは・・・」
重量級ロボットから、落ち着いた男の声が聞こえてきた。男の名はベルンスト。ゼ=オードの一人であった。そしてこのロボットの名は『ガイオゾン』。ゼ=オードの機体の中でも、最大の体躯と重量・パワーを有する機体であった。
「あれも・・・ゼ=オードの機体なのか・・・。」
リュウセイの傍にいたトウヤが始めてみるガイオゾンの巨体に冷や汗を流した。トウヤ達はレイオード以外のゼ=オードの機体とは戦ったことがないのだ。
以前戦ったレイオードはライブレードがあって、初めて五分に渡り合えた程。レイオード以上の体躯を誇るガイオゾンにトウヤは恐怖に近い感情を憶えていた。
そしてガイオゾンはその巨大な手で、R−ガーダーを掴もうとしていた。全長30mのR−ガーダーもガイオゾンの前では大人と子供だ。
「しょ!将輝が危ない!くそっ!この一角だけでも崩れれば、助けに行けるのに・・・」
小型ビーストに阻まれ、前進できないリュウセイは拳を振るわせた。
その様子はホワイトローズのブリッジでも確認できていた。
「しょうちゃん・・・・。よしっ!」
香田奈はふらふらとした足取りでブリッジから立ち去った。それに気付いてかジュンペイも付いて行く。
「ジュンペイ君・・・?」
「助けに行くんだろ?手ぇ貸すぜ。俺だって寝てるだけじゃかっこつかねえし!」
香田奈は微笑して頷いた。
「我々に対抗できるロボットがあっては困るのですよ。」
ガイオゾンは腕から巨大な光線剣を輝かせた。
「抵抗しない相手を叩くのは趣味ではありませんが・・・。貴方は邪魔なのですよ、ライブレード並に脅威となり得る。」
そして光線剣が、R−ガーダーに迫ろうとした瞬間、それは起きた!
「ヒートブレイザー!!!」
いきなり膨大な熱戦がガイオゾンに向けて発せられた!!そしてその熱戦により小型ビースト軍団の包囲網の一角が消え去った。
「な?今のは・・・」
リュウセイが慌てて熱戦が放たれた方を向いた。そこには10/80に両脇を抱えられたボロボロのキカイオーがいたのだ!
「ジュンペイ!!」
リュウセイが呼びかけた。モニターに映るジュンペイは痛みをこらえながらも、笑顔を見せた。
「ボディはボロボロでもよぉ。超次元機関は無傷なんだぜ・・・。一角は崩した、香田奈さん!今だぜ!」
そしてホワイトローズのカタパルトから一機のロボットが飛び出し、キカイオーが崩した一角を突き進んで行った。そのロボットにリュウセイは面食らった。
「R−GUN!?」
「ライフル!ダブルファイアぁぁ!」
ガイオゾンに向けて、R−GUNはライフルを乱射する。その攻撃にひるんだガイオゾンは、R−ガーダーから手を離してしまった。
「T−LINK!ブ〜メランッ!」
二つのカタールソードを念動力で噛み合わせ、ガイオゾンに向けて放った。とっさに防御するガイオゾン。
「しょうちゃん!大丈夫!?」
その声で将輝は目を覚ました。
「ね、姉ちゃん?ねえちゃんがR−GUNに乗ってるのか?」
「そうよ!これしか乗れるの、無かったから・・・・。それにヒュッケバインや弐式じゃあ、こいつ一撃で倒せないから・・・」
香田奈の呼吸は少し荒い。はやり無理をしているのだ。
「一撃!?姉ちゃん・・・そんな事が・・・」
その言葉を聞いたリュウセイとライは目をひん剥いた。
「香田奈さん!止めろ!無茶だ!!」
ライが叫んだ。
「確かにR−GUNには一撃で倒せる武器はある!だが、プラスパーツ無しじゃあ!」
「射程距離と、命中率が悪いんでしょ・・・。大丈夫この距離なら・・・、それにあたしの身体、一撃しか持ちそうにしかないから・・・」
香田奈は既に目がかすんできていた。これ以上の戦闘には耐えられない。一撃でガイオゾンを倒さなければ後は無い。
「行くわよ・・・。R−GUN・モードチェンジ!!HTBキャノン!!」
次の瞬間、R−GUNは、全身から青白い火花を散らして変形して行った。そして、次の瞬間にはR−GUNは既に変形を完了し、巨大な銃へと変貌していた。これぞ、R−GUNの真の姿『ハイパートロニウムバスターキャノン』であった。
ただし、その絶大な威力の為にR−GUN単体では一回に一度しか発射できない。しかもプラスパーツなしでは砲身が構成されないため射程距離と命中率が落ちる。
だが、香田奈はそれを承知で行おうとしていた。だが・・・
「ね・狙いが・・・」
ターゲットが定まらない。目がかすんで、手元も震えている。この状態で放っても当るかどうか解らない。
「なら・・・いちかばちかで撃ってやる・・・。」
そう思った時、いきなり照準が固定された。香田奈が不思議に思って、見渡すと、R−ガーダーがしっかりとG−GUNのグリップを握っていた。
「へえ・・・手の規格合うのか・・・・。狙いは俺が付ける!姉ちゃんは引き金だけを引け!」
将輝は気丈に言い張った。すると、R−ガーダーの背中をグルンガストが支え、さらにR−GUNの本体をアルブレードが持ち上げるようにして支えていた。
「ボロボロのR−ガーダーだけじゃHTBキャノンの反動には耐えられないだろ?」
リュウセイがニヤリと笑う。
「俺達がしっかりと固定する!さあ!撃つんだ!」
ライが叫んだ。香田奈は力強く頷いた。
「了解・・・・行くわよ・・・。」
香田奈はトリガーに手をかけた。そしてリュウセイが叫んだ!
「行けぇぇ!!天上天下・一撃緊急砲!!」
R−GUNの銃口から眩い青い光が放たれた。そしてその光はガイオゾンを包んだ。
「こ!これほどの武器があるのか!!」
ベルンストはコクピットの中で驚愕した。どんどん焼かれていくガイオゾンの装甲。
「これ以上は持ちません。離脱!」
ガイオゾンもレイオードと同じように、次元跳躍で消え去った。その様子を大空魔艦で見ていたヒッサー将軍は顔色を変えた。
「ま!まさか・・・あれほどとは・・・。やむをえん!撤退する!」
ヒッサー将軍は状況の不利を悟り、撤退して行った。
「やはり、ヒッサーでは無理だったか。まあいい・・・これでしばらくは時間が稼げる。」
EXのコクピットでシャドーレッドはそう呟き去って行った。
「しょうちゃん・・・・」
ホワイトローズに戻ってきた将輝を真っ先に出迎えたのは香田奈だった。
疲労困憊でふらふらしながらも、将輝の前に立った。
「ねえちゃん。俺・・・」
がばっ!!──
香田奈は何も言わず将輝を抱き締めた。
「ね、ねえちゃん・・・ちょっと・・・」
「がんばったね・・・・。凄くがんばったね、しょうちゃん・・・。大好きよ。しょうちゃん大好き!!」
香田奈は涙を流しながら、将輝を抱き締め続けた。少し照れながらも、将輝は嬉しかった・・・・
次回予告
宇宙悪魔帝国を退け、ソラリスもダメージを負った。今こそアヴェ本土そのものをシャーカーンからソラリスから奪還するのだ!
と、意気込んでいるオンディーヌ隊。だが、ヴィレッタはそんなメンバー達にとんでもない命令を与えた。
それは・・・・
次回、サイバーロボット大戦 第二十四話 『オンディーヌ隊・聖地での休日』 たまにゃ〜休まなきゃ。
次回も、休日がすげえぜ! 今、将輝に大いなる危機が迫る!!