第二十一話   「教母救出大作戦! そして再会・・・・」




  話は数時間前に遡る。光学迷彩により、人知れず現れたゲブラー艦。それにはゲブラー総司令官『カーラン=ラムサス』と直属の部下達、ゲブラーのエリート部隊『エレメンツ』が乗っていた。
 ラムサスはソラリス本国の命により、ある任務を帯びてアヴェへと降り立った。
 「警戒態勢解除。ただちに補修作業、及び補給作業にかかれ。」
 艦のブリッジでラムサスは部下達に指示を出す。カーラン=ラムサス・・・見た目には意外と若い男であった。白髪の美青年であった。年も三十と言ったところだ。
 補修作業が必要なのはここに来る過程で、アヴェと戦争状態にあったキスレブの地上艦隊と交戦していたからだ。
 「閣下、シャーカーン殿とヴァンダーカム将軍が出迎えに見えていますわ。」
 副官である、紫の髪の美女が言う。口調に感情が感じられない、事務的に話している。美人だが冷たい印象がぬぐえない感じが見えている。彼女はラムサスの副官であり、秘書的な立場の女『ミァン』である。
 「ふん、最悪の歓迎だな。」
 ラムサスはつまらなさそうに言った。
 「所詮、地球居住者ですもの。仕方ありませんわね。」
あくまでも感情の無い声でミァンは言う。
 「ミァンおりるぞ」
 「はい。閣下。」
艦から降りたラムサスを出迎えたのは、今のアヴェを納めるアヴェ宰相『シャーカーン』と国境艦隊司令官ヴァンダーカムであった。
 シャーカーンは早速ラムサスに駆け寄ってきた。バルトの父親を亡き者にしアヴェの実権を奪った独裁者もさしものラムサスの前では腰が低い。卑屈にラムサスに語り掛けた。
 「さすがはラムサス指令。着任早々、見事なお手並みでした。我が方でてこずっていたキスレブ前衛艦隊をものの数日で・・・。いや恐れ入ります。」
 すると、ラムサスは目の前の卑屈な中年に刺すような視線を向けた。
 「キサマ。あの程度の戦力に今の今までてこずっていたとは・・。着任早々恥をかかせてくれる。」
 「お言葉ですが閣下。奴等、あれでなかなか粘りまして・・・」
 言葉をかえしたのは剥げ頭の大男、艦隊指令のヴァンダーカムだ。実はラムサス着任以前のアヴェにおけるソラリスの駐留部隊の指令だったのだが、昔ながらの大艦巨砲主義に凝り固まった男で、PTやVA・VR・ギアといったロボットによる機動兵器を嫌っていた為、兵器の進歩についていけず失態を繰り返していた為、失脚。国境艦隊の指令にまで落ちぶれていた男だ。
 「特に新たにキスレブに配備された新型の機動力侮り難く、ちょこまかとよく動きまする。おかげで我がキファインゼルの主砲の狙いが定まらず・・・、いや狙いさえ定まりますれば、あのような小物の集団なぞ・・・」
 「愚か者!!」
 ヴァンダーカムの言葉は、ラムサスの一言で遮られてしまった。どの世でも言い訳は聞くに耐えない。
 「大艦巨砲も相手を選べ!何事も力押しで解決できると思うから失敗するのだ。キサマの脳は筋肉で出来ているようだな。」
 「閣下!」
 「もういい、下がれ。キサマには宇宙で我々と取引をしている組織から譲られた新兵器をくれてやる。そいつを使って、少しは本国に貢献しろ!」
 そう言いきり足を速めるラムサス。その様子にシャーカーンが必死で食い下がる。
 「明日は我が国の建国記念日。観艦式の後には通例の大武会の催しも・・・」
 すると、ラムサスは聞く耳持たず・・・と言った態度で、シャーカーンの言葉をさえぎり自分の用件を述べた。
 「報告にあった例の件、どうなっている?」
 「は?ああ、遺跡から発掘された五百年前の機動兵器ですな。あれならば『教会』の手によって改修済みでして、観艦式の日にはお披露目できるかと・・・」
 するとラムサスはおもいっきり不機嫌な顔をした。どうやら用件が違うらしい。
 「そのような玩具はヴァンダーカムにでも与えておけ。そうだ・・・譲られた新兵器の一つをそいつに組み込んでおけ、少しはマシになる。」
 「はあ・・・」
 「私が言っているのは『ファティマの碧玉』のことだ。」
 「それでしたら、既に片割れの紋章を手中にしております。ただ残り半分のありかを未だに吐きませぬ。いや、これがなかなか強情な娘でして・・・。」
 ラムサスはシャーカーンを刺すように睨んだ。
 「よもや、手荒な真似はしていないだろうな?」
 「当然でございます。閣下がそのような愚劣な行為をお嫌いなのは、重々承知いたしておりますゆえ。」
 「その少女、たしかニサンの教母といったな。この上か?」
 ラムサスは目線を天井に向けた。
 「はい。東塔に。」
 「ミァン。『器』の可能性はあるのか?」
 ラムサスはミァンの方へ向く。するとミァンは小型の携帯端末を叩き出し、何かデータを見ていた。
 「はい。未だ反応は出ておりません。何か強固な障壁があるようです。しかし五百年前の記録からもこの地に存在する事は間違いありません。恐らくは保存状態も良好かと。」
 ミァンの報告に少し黙り込んだラムサスは、足早に歩き出した。
 「・・・会おう。私が直接聞きただす。ミァン、同席しろ。」
 「はい。」


 「私達が得られた情報はここまででして・・・」
 作戦室に集まったメンバー達に説明していたのはマミだ。リアを筆頭に数人のお嬢様軍団が先日現れたゲブラー艦がアヴェ政庁に入ったのを疑問に思い、危険を承知でギリギリまで潜入して情報収集をしていたのだ。勿論マミもその一人だったのだ。
 「話から推測するとマルーさんは、無事のようだな。」
 ライはそう判断した。
 「ああ・・・シャーカーンの狙いは至宝だからな。マルーには手ぇ出してないはずだ。」
バルトはそう言った。
 「では予定通り・・・」
 シタンが全員を見渡した。オンディーヌ隊のメンバーは皆緊張した面持ちであった。
何故なら本格的な作戦行動をとるのは初めてなのだから。
 「全員、時計合わせ。十分後に作戦を開始する!」
 皆頷いた。いつもうるさい大地やりきも真剣そのものの面持ちだ。
 「・・・・作戦開始!!」
 ヴィレッタが叫ぶと、全員が散って行った。ヴィレッタはホワイトローズのブリッジに陣取りマイクを構えた。
 「オンディーヌ隊ならびにユグドラシルの総員に告ぐ!これより教母奪還作戦、作戦名『カーニバル』を開始する!!」

 「プロンガー曹長!今回は救出がメインです、交戦はなるべく避けてください!」
 オペレーターのチェンミンからVRのコクピットに座ったプロンガーに注意を促す。
 「了解した!出撃準備!」
 ホワイトローズのハンガーから一機のVRが動き出した。赤い軽量級VR・・・『バイパーU』だ。
───バイパーU、発進。バイパーU、発進。リニアカタパルトスタンバイ。
 格納庫にアナウンスが響く。プロンガーはバイパーをカタパルトに向けて歩かせる。
 「カタパルトスタンバイ!」
バイパーの足元で射出要員が叫ぶ。カタパルトには、飛行機が空母から射出するような発進台がバイパーの足元に来る。
 プロンガーはバイパーの足を射出台に乗せる。
 「プロンガー!バイパーU、発進!!」
 プロンガーの声と同時に射出台が走り、乗ったバイパーは加速される。そして踏みきりの所で、バイパーはスキージャンプの要領で、飛び出した。

 大空に舞ったバイパーのコクピットでプロンガーは周囲を見渡した。近くにギアも陸上戦艦の様子も無い。
 「こちらプロンガー。周囲に敵影無し、ドルカス・ツインザムを発進させてくれ。」
 プロンガーの報告を受け取ったヴィレッタはすぐに次の指示を出した。
 「ドルカス及びツインザム発進準備!」
 その指示を受け取った格納庫では、次の発進準備が行われていた。ツインザムが分離状態で左と中央のカタパルトに乗っている。そしてその隣の右カタパルトには重VRドルカスが発進を待っていた。
 「大地!大事な作戦なんだからヘマすんじゃないわよ!」
 空が大地に激を飛ばす。
 「解ってるよ姉ちゃん。あ〜あ〜、何で俺がこんな役目なんだろう?もっとカッコイイ役目がいいのにな〜。」
 大地がぼやく。今回彼に与えられた任務は実に地味なのだ。
 「ぼやかないの!」
 そんな大地を見てシタンが大地に通信を入れた。
 「大地君。今回君の役目は地味ですけど重要な任務なんですよ、君が失敗したら作戦が駄目になってしまうほど重要なんです。」
 「・・・シタン先生がそう言うなら、そうなんだけどさ〜。」
 「この作戦が成功したら、ニサンで『シフォン・ニサーナ』をご馳走しますよ、大地君。」
 「シタン先生、その何とかニサーナってナニ?」
 すると、シタンはにっこりと笑った。
 「このイグニスで一番美味しいケーキですよ。ニサンに行けば、他にも美味しいお菓子が一杯ありますから、作戦が成功すれば、好きなだけご馳走してあげますよ♪」
 すると、そのセリフにバルトも便乗した。
 「おおよ、大地!シフォン・ニサーナはマルーも大好物なんだ。作戦が終われば、俺がシフォン・ニサーナを山ほど食わせてやる!」
 大地はそこで満面の笑みを浮かべた。
 「ホント!?ホントに!?」
 「好きなだけ食わしてやるさ。」
すると、無線に何者かが割りこんだ。
 「あたしも〜!!」
 「わ、わたくしも〜!」
 「わたしもね〜!!」
 「ユーリィもです〜!!」
以下省略。つまりお嬢様軍団。
 バルトは一瞬、呆気に取られたがすぐに気を取り戻して笑った。
 「OK!作戦終了後は、ニサンでみんなにケーキをおごるぜ!!」
 その言葉にお嬢様軍団から歓声が沸いた。だが、バルトはこの時に言った言葉を後で凄く後悔する事になる。
 「よし!発進だ!!」
 ヴィレッタが指示を出す。カタパルトからツインザムとドルカスが発進する。
 「チェンジ!クロスフォーム!!ツインザム2!!」
 空中で大地と空の機体は合体しツインザム2が姿を現す。
 「突撃〜!」
 空の声と共にツインザムの手首はドリルと化し、ツインザムは地中潜行を始めた。
 「こちらカントス軍曹!ドルカス、ツインザムに続きます。」
 サルペン准尉の部下の一人、カントス軍曹の操るドルカスがツインザムの掘った穴に入り込む。
 よく見ればドルカスの左腕がいつものハンマーではなくパワーショベルのバケットのようになっていた。これは今回の任務の為にドルカスのアームオプションの一つに変更したのだ。
 「トンネル作戦開始〜!」
 今回のツインザムとドルカスの任務・・・・トンネル掘り。
 もう戦闘というより土木工事の様相を見せている。
 「ツインザム及びドルカス、順調に地中を潜航中。予定通りなら時間通りに目標に到達できるはずです。」
 「後続のドルカスを引き続き準備させておきなさい。よし、陽動班ならびに潜入班出動!」
 ヴィレッタの号令にワイズダックとアファームドが発進した。目的地はファティマ城だ。

 「久しぶりの白兵戦だ。腕が鳴るぜ!」
 ナイフを見つめながらリッキーが楽しそうに言う。
 「ふふ・・・戦車兵が白兵戦をやるハメになるとはな。」
 トーマスも機関銃の調整をしながら呟く。
 「怖いか?新兵。」
 ゴンザレスがアービンに尋ねる。見ればアービンは少し緊張していた。
 「だ、大丈夫であります。サー!」
 「その意気だ。頼むぞ。」
 ゴンザレスが不敵に微笑む。だが、その直後・・・
 「も〜!乗りごごち悪いッたらありゃしない〜!」
舞の悲鳴にも似た声が、ワイズダックの頭上から聞こえてきた。
 「また、あのお嬢様かい・・・」
 トーマスが呆れたように呟く。
 潜入と陽動を行う人間全てをワイズダックの頭の上に載せているのだ。只でさえ居住性の劣悪なワイズダック、頭上ともなれば、それは筆舌に耐えられないものであろう。
 「あたし吐きそう・・・・」
 ユナが思わず口を押さえる。
 「もう少しです。がんばって!」
 アファームドから激励の言葉が飛ぶ。搭乗者はサルペンの部下の一人ハッター軍曹だ。
 そして吐き気と振動に耐えながら、一向はファティマ城下へやってきた。
 「お気をつけて!」
 ハッター軍曹は一向を敬礼して見送った。彼の役目は、隠したワイズダックの護衛と陽動部隊の退路を確保する事。その為、砂漠でも動きのとりやすいアファームドを持ってきていたのだ。

 「さて、これからが本番だ!頼むぜフェイ。それとみんな!」
 バルトはフェイをじっと見つめて言った。
 「では、始めましょう!」
 シタンの言葉で全員は散って行った。

 大武会の受付にやってきたのはフェイ・ポリリーナとなったリア、そしてチャイナの麗美とシタンである。
 「さて、皆さん。あまりあっさり倒してはいけませんよ。大会が盛り上がればそれだけ若君達も侵入しやすくなるというものですから。それから、偽名で登録しておいた方が危険が少なくていいでしょう。」
 シタンの言葉に三人は頷いた。
 「ところで、バルト達、潜入班はエリカ7とゴンザレス軍曹達だよね?他のみんなはどうすんだ。なんか他の役目でもあるのかい?」
 フェイがシタンに尋ねる。ワイズダックにはエリカ7以外のお嬢様達やりきとまみ、ハルマやレイカ達も乗っていたからだ。すると、シタンは微笑んだ。
 「貴方達の支援作戦ですよ。大会が盛り上がるように・・・。オンディーヌ隊は男性より女性のほうが多いのを上手く使ったんです。」
 「??」
 フェイは疑問に思いながらも受付を行う事にした。

丁度その頃・・・・。大武会の裏門付近では、なにやら不審な一団が門の中へ入ろうとしてた
 「止まれ!ここからは関係者以外立ち入り禁止だ!」
衛兵が、門に入ろうとしている一団を呼びとめる。すると、一団の先頭にいた二人の若い男が衛兵に近づいてきた。
 「お仕事ご苦労様です。ワタクシ、チアリーディングチーム『オンディーヌ』と申します。あっワタクシ、マネージャーのサイモンです。どうぞ宜しく。そして彼がチーム監督のハナテ。」
 二人の男が頭を下げ、名刺を渡す。
 「ああ!応援団の方々でしたか。どうぞどうぞ!どうりで可愛らしいお嬢さんたちが揃ってるはずだ。」
 衛兵は十人以上いる美少女達に鼻の下を伸ばしていた。皆おそろいの水色のチアガールの格好をしている。
 「それでは・・・。ではバイト諸君、荷物運んでくれ。」
 「う〜す。」
 すると、作業服を着た数人の男達が大きな箱を抱えていた。
 「では〜。」
こうして妙なチアリーディングチームは会場へと入っていった。

 「上手くいったなジン君。」
 「そうですね、サイモン少佐。」
 二人は顔を見合わせて微笑していた。他のお嬢様軍団やレイカやハルマの役目とはチアガールに扮して、試合を盛り上げるためであった。女性陣が多いオンディーヌだからできる技だ。ちなみに提案者はサイモン。
 「・・・・・少佐。私もこの格好をする必要があるんですか?」
 「それは私も同意する。」
 異論を上げたのはアムリッタとサルペンだ。十代が多いオンディーヌ隊の女性陣においてこの二人は二十代、明らかに他のメンバーとは不釣合い。
 「しょうがねえだろ・・・。お前のラファーガはまだ修理中だし、サルペン准尉のVRは指揮官用の改造が終わってない。」
 サイモンはそう言い切った。
 「それに、二人ともなかなか似合うぞ。」
───バキッ! サイモンは殴られた。いわゆるセクハラになるから文句は言えない。
 「じゃ〜みんな始めるか〜。」
 気を取りなおして、ジンが指示を出す。
 「ふ〜くわばらくわばら・・・」
 殴られたサイモンを見て、作業服姿のリュウセイとりきが呟いた。二人は雑用係のバイトに扮しているのだ。


 「なんでや〜!!なんでジンだけ、チアガールの陽動担当なんや〜!」
 リキが格納庫で嘆いていた。ゲッP・キカイオー・R−ガーダーの三機は作戦のためまだホワイトローズに待機していた。
 「ケイヤ兄!そうはおもわへんか!?不公平や〜。わいもみんなのチアガール姿を見たかったで・・・」
 「まあ嘆くなリキ。これも作戦のためだ。それにジンじゃなきゃ、チア監督になりきれないだろ?」
 ケイが慰めるように言う。
 「そうですよ、リキさん。だから今回はジンさんに代わって私がゲッP−Xに乗ってるんですから。」
 そう言ったのはミオだ。ジン不在のためミオが代わって二号機に乗っていた。
 「まあ、ジンよりミオちゃんに乗ってもろうとる方が、わいは嬉しいがな。」
 「そうだな。男ばかりじゃむさくるしいぜ。けどミオのチアガール姿も見たかったな。」
 ケイとリキのジョークにミオは笑った。そして隣のR−ガーダーでも、その会話は聞いていた。
 「しょうちゃん、私のチアガール姿見たかった?」
 香田奈が将輝に冗談混じりで問い掛ける。
 「別に・・・・。どんな格好してても、ねえちゃんはねえちゃんだろ。それにいつも・・・・。」
 「いつもなに?」
 将輝は、「いつも夜・・・」と言いそうになったのをこらえた。
 「何でもねえよ!」
 そしてその隣のキカイオー。
 「うお〜!女っけねえよ〜!!俺は〜!!」
 一人嘆くジュンペイ。
 「私語は慎んでくれ、もうじき我々も出撃するぞ。」
 アルブレードのライが注意を促す。


 その頃、大武会の控え室にフェイとリア、麗美はいた。三人ともそれぞれ本名は名乗らず、フェイが『流浪の拳法家』、リアはそのまま『お嬢様仮面ポリリーナ』、麗美は『チャイナの麗美』と登録した。
 そして三人とも楽勝で予選を突破し、本選が始まるのを待っていた。
 「腕が鳴るアルヨ〜!本選はつわものぞろいだとイイネ!」
 麗美の言葉にフェイは苦笑した。彼女は予選を最短スピードで突破したのだ。まあ普通の人間に元暗黒お嬢様が倒せるわけは無いが・・・
 「油断は禁物よ。私達は三人の内誰か一人でも決勝まで行かないと。」
 リアが二人に呼びかける。
 「ああ・・・少しでも試合を長引かせないと。」
 フェイはそう言って周りの選手を見渡した。するとフェイは本選に進む選手の中に、とんでもない人物を発見してしまった。
 「だ、ダン・・・。ダンじゃないか!どうしてここに・・・。」
 フェイがダンと呼んだのは、小学生くらいの少年だった。
 「知り合い?」
 リアが尋ねる。
 「ああ・・・。俺が住んでいた村の子で、俺の知り合いの弟だ。」
 するとダンと呼ばれた少年はフェイを睨みながら口を開いた。
 「お前のせいで姉ちゃんは・・・村のみんなは・・・」
 ダンは怒りと恨みを込めた表情をフェイに向けている。
 「お前を許さねえ!ぶっ殺してやる!!」
 「ダン・・・。」
 その時、控室にアナウンスが流れた。
────出場選手の皆様。まもなく開会となります、入場の準備をお願いします。
 「ラハン村のみんなの仇だ!観客の目の前でメッタメタのギッタギタにしてやるからな!!」
 ダンはそう叫んで出ていってしまった。
 「ダン・・・・」
 声をかけようとしたリアだが、その前にリア同様仮面をつけたマントの男に先を越されてしまった。
 「お主、ラハン村の出身か?」
 「??」
 「お主とあの少年なにやら訳ありのようだが・・・」
 フェイは仮面の男に突っかかった。
 「なんだよ!そんな事あんたには関係ないだろうが!!」
 「ふふふ・・・」
 仮面の男は臆すことなく、仮面の奥で微かに笑った。
 「なにがおかしい!」
 「いやなに。お主があの少年に対し、どのように戦うか非常に興味があるのでな・・・。」
 仮面の男はそう言ってフェイの傍から離れた。
 「まあ・・・楽しみにしているぞ。『フェイ』」
 「!!」
 その一言にフェイはおろか、リアと麗美まで目をむいた。
 「あの男、何故俺の名前を・・・?本名で登録はしていないのに・・・」
 仮面の男は黙って控室から出ようとしたのを、静かにリアが呼びとめた。
 「貴方、彼の事ずいぶんと詳しいようね。回りくどい事しないで正直に話したらどう?」
 「お嬢さん。推理小説は、犯人を知ることより、犯人の動機や推理する過程を楽しむものだ・・・。」
 仮面の男の言葉にリアは微笑した。
 「そうね・・・。じゃあ貴方はさしずめ『容疑は十分だけど証拠を巧妙に隠した犯人』かしら?」
 仮面の男も微笑したように肩を震わせた。
 「ふふふ・・・証拠を見つけられるかね?時効まで逃げ切るかもしれないぞ・・・」
 「捜査は『足』で行うものよ。逃がしはしない・・・。」
 すると、仮面の男は本選の組み合わせ表に目をやった。
 「順調に行けば、準決勝で君と当るな・・・。その『足』に注意しよう・・・。犯人は激しく抵抗するかもな。」
 「手錠をかけてあげるわ。」
 仮面の男とリアの会話はそこで終わった。仮面の男はそのまま出ていってしまった。



 「さて、俺達も行動開始といくか!」
ファティマ城下に入っていたバルト達も行動を開始しようとしていた。
 「ええ、一刻を争うもの。」
 エリカが全員に向かって言う。
 「しかし・・・・・本当にここから行くのか?」
 バルトは怪訝な表情を見せた。彼の足元には大きな井戸があった。これはファティマ城下を流れる地下水脈を利用した、人工の地下水路だ。ファティマ城、そして城下町の水道という訳だ。
 「そうよ?何言ってるの。下水道じゃないから中は綺麗よ。」
 エリカが平然と言う。
 「それはそうだけどよぉ・・・・。お前等飛べるんだろ?空から侵入するとか無いわけ?」
渋るバルト。
 「飛んだら、レーダーに引っ掛かるし、目立つでしょ?さあいくわよ!」
 そう言い切りエリカ達は装甲を身に纏い、持っていた剣で井戸の鉄柵を破壊した。
 「お嬢様がよくこんな所入る気になるなぁ・・・」
 バルトがそう渋りながら飛びこんだ。
 「貴方だって王子でしょう!」
 エリカが続く。そして続々とエリカ7が飛びこむ。最後にゴンザレス達。
 

 その頃、大武会の会場では、ファティマ城のバルコニーから宰相シャーカーンが大会前の演説を行っていた。
 内容は、キスレブや宇宙悪魔帝国との戦闘に対しての戦意昂揚の為のものだった。
 そして己がアヴェの支配者である事を強調するようなものであった。
 フェイやリア達はそれをうんざりしながら聞いていた。
 「あいつも宇宙のダニの一人だな!」
 観客席にいたりきがそう呟いた。
 「・・・・・よって!ここに大武会を開催する!!」
 シャーカーンの演説がそこで終わったようだ。歓声が沸きあがる。
 その様子に満足そうな表情を浮かべるシャーカーン。
 バルコニーから下がるとそこにラムサスとミァンが姿を見せた。
 「おおっ!ラムサス閣下、お待ちしておりましたぞ。どうぞこちらへ。」
 だが、ラムサスはふん、と一瞥した。
 「あいにく、キサマの酔狂に付き合っている程暇ではないのだがな。」
 「これは手厳しい。閣下はこのような催しはお嫌いでしたか?」
 「興味が無い。」
 だが、意外にもそこへ声をかけるものがいたミァンだ。
 「よいではないですか閣下。シャーカーン殿もああ言っておられることですし。」
 珍しくミァンが言葉を続ける。
 「それに、私武術と言う物に興味がありますの。せっかくの機会ですから・・・」
 ミァンの言葉にラムサスはつまらなさそうに、立ち去った。
 「ふんっ。勝手にしろ。」
 結局、ミァン一人で大武会を見物する事になった。
 「どうですミァン殿。楽しめそうですか?」
 シャーカーンがミァンにごますりするような声をかける。珍しくミァンは感情の入った声を出した。
 「ええ・・・、楽しめそうです。」
 ミァンは妖艶な顔をして微笑んだ。
 ミァンの目線の先では、ついに大武会の本選が始まろうとしていた・・・・


 『これより第一試合を行います!流浪の拳法家対助太刀頭巾』
 フェイがリングに上がる。相手は古めかしい日本頭巾を被った侍だ。
リングに立ったフェイを見てミァンが一言だけ言った。
 「まあ・・・素敵な子・・・」
 妖艶な目でフェイを見つめていた。
ミァンの目線に気付くことなくフェイはリング上の相手を睨んでいた。
 
 「いくぞっ!」
フェイお得意の掌打が、助太刀頭巾の顎にヒットする。
 「ひと〜つ。」
 「てりゃあぁ!」
フェイの回しげりが、助太刀頭巾の側頭部に炸裂!
 「ふた〜つ。」
 「うおりゃあ!」
強烈な頭突きが顔面に浴びせられる!
 「み〜つっ!」
 フェイは助太刀頭巾に戦慄を覚えた。
 「これだけ浴びせても動じないのか!!」
だが次の瞬間・・・・
 「一件落着!」
───バタッ
 頭巾は前のめりのぶっ倒れた。
 『勝負あり!勝者、流浪の拳法家!!』
 「やっぱり、効いていたのか・・・・」
いまいち勝った気がしないフェイであった・・・

 「お・応援する間も無かったね・・・・」
 チアガール姿のユナが呟く。それにうんうんと同意する他の女性陣。
 「ま、まあ・・・第四試合は麗美さんの出番だから、そこで応援しましょう。」
 アムリッタが気を取りなおすように言った。

 そして迎えた第四試合・・・・。
 『GO!GO!麗美っ!フレッ!フレッ!レ・イ・ミ〜!!』
 チアガール姿のオンディーヌ隊女性陣の応援が始まった。観客の目はどちらかと言うとこっちに向いていた・・・

麗美の相手はアヴェの兵士であった。身体は2m以上ありお嬢様軍団の中では平均的な身長の麗美と比べれば大人と子供の差があった。
 「へっ!嬢ちゃん、怪我しねえうちに帰ったらどうだ?」
 大男の下品な声が麗美を不機嫌にさせる。
 「それはこっちのセリフある!」
 『始めっ!』
 その声と共に麗美は仕掛けた。
 「なっ!?はええ・・・」
 大男が技を繰り出す隙も与えず、麗美のローキックが炸裂していた。
 「ぐうっ・・・」
大男の姿勢が崩れた。リングに片膝を付く大男。
 「フッ・・・」
 麗美はにやりと笑った。これで身長差のハンデは無い。おもいっきり右足を振り上げた。
 「!!」
 大男はそこで何が起こったのか、解らなかった。ただ解るのは、自分の側頭部に相手の右足が炸裂した事だけであった。
 『勝負あり!勝者チャイナの麗美!』
試合会場から歓声が上がった。

 『キャ〜!麗美が勝ったぁ〜!バンザイ・バンザイ!レ・イ・ミ〜!!』
 チアガール軍団の激しい勝利のダンスを麗美は苦笑しながら見ていた。
 「もうちょっと綺麗なフォームで出来ないのカネ〜・・・・」
 言われた通り、女性陣の応援は華やかだが、フォームがバラバラ・・・・まあ即席だから仕方ないけどね。

 そして第一戦最後の試合、ポリリーナの試合が始まった。
 リング上ではすでに対戦者であるアヴェで有名な薬剤師であった。
 少女ながら、様々な薬品や実験に使う虫類を使った攻撃は強力で毎年行われているこの大武会の常連であった。
 しかし、肝心の相手であるポリリーナの姿がリング上に無かった。
 「どうしたんだろう・・・・ポリリーナ様。」
 ユナが心配そうにリングを見つめる。一向に現れないポリリーナに観客はおろか対戦者までもが苛立ち始めていた。
 「成る程・・・・、いい手ね。」
 アムリッタが呟いた。
 「相手をじらすだけじらして、正確な判断を失わせる。さすがね・・・」
 アムリッタはそう言ったが、隣にいたサルペンは反論した。
 「それだけじゃないと思う。リュウセイ少尉とりき君がいないでしょう?準備に入ったのね。」
 「準備?」

その頃リング裏・・・・
 「急げ!急げ!」
 何かを必死に籠に詰めているりき。その隣でリュウセイは即席のスポットライトを準備していた。
 「よし、俺のほうはもう終わる!」
 リュウセイはスポットライトをいつでも使えるようにしていた。
そして、その時は来た・・・・

 観客と対戦者の苛立ちが最高点に達し、審判が試合放棄とみなそうとしている時それは起こった!
 「ははは!ははは!!」
 会場中に若い女性の声が響いた。そしていきなりリングのコーナーポストの傍にタキシードに着替えたリュウセイとりきが立っていた。
 「??」
 皆が疑問の顔で二人を見ていた。それをよそにりきがコーナーポストの最上段に黒いマントを被せた。
 そしてリュウセイがコーナーにスポットライトを当てる。すると・・・
 「か弱き花に迫る黒い影・・・・けれど、この私が散らせはしない!」
 りきがマントをはぐった!するとそこにはコーナポストに立ったポリリーナの姿が!!
 「お嬢様仮面ポリリーナ!愛と共にここに参上!」
 そして後ろからリュウセイとりきが籠に入った造花のバラをばら撒く。
───うおおおお!!
 観客席から、どっと歓声が響く。そしてリュウセイとりきが一礼して引き上げる。見事な盛り上げぶりである。
 「きゃ〜!!ポリリーナ様ぁ〜♪好きにしてぇ〜♪」
 目をハートにしてユナが過激なセリフを平気ではく。もうユナの目にはポリリーナしか映っていない。
 
 「待たせたわね。始めましょうか?」
 挑発的なセリフを対戦者に叩きつけるポリリーナ。会場の湧き具合から見て既に試合の主導権はポリリーナが握っていつ事は誰の目にも明らかだ。
 「おのれ〜!!」
 激怒した薬剤師が何本もの注射器をポリリーナに投げつけた。だが、彼女の攻撃はそこで終わりであった。
 「とうっ。」
 床の体操選手真っ青の空中回転捻り入りのジャンプで軽くかわすポリリーナ。その華麗な動きに誰もが見入られる。
 「何っ!?」
 気付いた時には薬剤師の背後にポリリーナが立っていた。そして愛用の武器である高性能バトン『バッキンボー』を取り出す。
 「うっ・・・」
 振りかえった薬剤師の鼻頭にバッキンボーが付きつけられていた。薬剤師はゆっくりと両手を上げた。降参したのだ。
 『勝負あり!勝者お嬢様仮面ポリリーナ!』
 ポリリーナに対して二度目の歓声が響く。
 だが、ポリリーナの視線は観客達ではなく控室の入り口近くに立っている仮面の男に向けられていた。



 そしてその頃バルト達潜入班は、地下水道を泳ぎきり、ファティマ城最下層に辿りついていた。
 地下水門の番をしていた老人は、突然現れたバルト達に驚いていたが、侵入者がバルトと聞き一転して笑みを浮かべ、何も無かった事にしてくれた。
 この老人はバルトが王子で合った時からの知り合いで、幼少の頃のバルトを覚えていてくれたのだ。
 「若!このおいぼれ爺には、応援する事すら出来ませんが、どうぞシャーカーンめを打ち倒してくだされ!」
 「おう!任せてくれよ!」
 バルトは老人に威勢のいい声をかけて、エリカ7とゴンザレス隊と共にファティマ城へ進入していった。


 大武会ではフェイ達三人は順調にコマを進め、準々決勝へと入ろうとしていた。
 早くもフェイが準決勝への切符を手にしようとしていた。相手は子供達のヒーロー『嫁入り仮面』だ。
 「んとうっ!」
 軽い身のこなしと、鮮やかな技にフェイは苦戦していたが、フェイは確実に技を決めていた。
 「あ〜!嫁入り仮面〜!がんばれぇ!!」
 りきが思わず嫁入り仮面を応援していた。彼にとって嫁入り仮面はナウクリアマンに次いで憧れのヒーローなのだ。
 「よ、嫁入り仮面〜!やっぱ二号じゃねぇと、勝てねぇのかぁ〜!」
 そこへフェイの蹴りが決まった。リングに倒れる嫁入り仮面。
 『勝負あり!流浪の拳法家!!』
非常にも嫁入り仮面の敗北は決定した。
 「くそう!おやっさんに特訓してもらわなければ!」
 そう言って嫁入り仮面はバイクにまたがって去って行った・・・・

 
 「いい具合に警備は手薄だな・・・・」
 バルトはファティマ城に潜入してそう呟いた。フェイ達の陽動作戦が上手くいっている証拠だ。
 「だが、どれくらい時間が稼げるか解らん。急がねばな・・・」
 ゴンザレス軍曹が衛兵を一人絞め落としながら言った。
 「同感ですわ。」
 エリカの足元には機関銃を持った兵士が何人も倒れていた。
 「よし向こうだ!!」
 バルト達は階段で二回に上がった。


 「麗美がやられた・・・・」
 リングの上の様子を信じられないものでも見るかのようにポリリーナが呟いた。
だが、事実リングの上に倒れていたのはチャイナの麗美だ。そして打ち倒したのは例の仮面の男だった。
 『勝負あり!勝者ワイズマン!』
 審判が勝ち名乗りを上げた。ワイズマンと呼ばれた男は勝ち誇ろうともせず、控室に戻ってきた。
 「お嬢さん・・・貴方が次勝てば、私と当る。楽しみだ・・・」
 ワイズマンはそれだけ言って、ポリリーナの前から消えた。


 「あそこの塔だ!急げ!」
 ゴンザレス達を先頭にバルト達はファティマ城内を駆けまわっていた。
 「止まれ!衛兵がいる。」
 物陰に隠れてゴンザレスはそう言った。
 「畜生・・・あと少しなのに・・・」
 バルトは歯軋りをした。その様子にゴンザレスは三人の部下を見た。
 「よし・・・わし等が囮になって注意を引く。お嬢さんたちは兄ちゃんの援護をしてやってくれ!行くぞ、野郎ども!」
 「イエッサー!!」
 「すまねえ軍曹・・・」
 バルトがゴンザレスに頭を下げた。それにゴンザレスはバルトの肩に手を乗せて笑った。
 「気にするな。考えればわし等が一番楽な役割だ。しっかりやれよ。」
そう言い切った後、軍曹達四人は衛兵たちにわざと見つかるようにして反対側へ駆けた。


 「でた〜!!ジョー=力石お得意の『両手ぶらり・ノーガード戦法』だ〜!!」
 観客席からそんな声が飛びこんできた。ポリリーナが対戦している相手は、アヴェで随一の人気を誇るミュージシャン『ジョー=力石』であった。彼は芸能活動だけでなく、手広い商売も行っている。さらに賞金稼ぎとしても有名であった。
 そんな男がポリリーナの準々決勝の相手であった。準決勝でワイズマンと戦うには、この男をどうしても倒さなくてはならなかった。
 「どうだ・・・ポリリーナさんとやら、俺の両手ぶらりは?打ち込める物なら打ちこんでこいよ。」
 ジョーの腕はだらしなく垂れていた。この戦法は相手に対してカウンターを狙うための戦法で、うかつに打ち込んではカウンターの餌食となる。
 「どうだ?どうする・・・」
 ジョーは挑発的にポリリーナをじらしていた。だが当のポリリーナは平然としていた。
 「いいの?じゃあ・・・」
ポリリーナは大きく振りかぶった。その態勢にジョーは笑みを浮かべた。カウンターを決めるつもりだ。
 「ミルキーアタック!!」
 「へっ?」
───グボッ!!
 鈍い音を立てて、ジョーの腹に何かがめり込んでいた。それはポリリーナの武器、バッキンボーが変形した猫型ロボット『ミルキー』だった。
 いくらカウンター狙いとは言え、飛び道具はどうしようもない。ノーガードが災いしてジョーは失神してしまった。


 「ここは私達が囮になるわ!」
 エリカの申し出にバルトは困惑した。
 「大丈夫。私達なら、いざという時は飛んで逃げられる。さあ行くわよ!」
 「はい!エリカ様!」
飛び出したエリカ7に衛兵達は向かって行った。マルーが幽閉されている塔は目の前だ。
 「すまねえ!恩にきるぜ。待ってろよマルー!」
 バルトは塔の中に飛び込んで行った。


 「どうして戦わない!フェイ!なんでかかってこない!」
 準決勝のフェイの相手はダンだった。村を滅ぼし、多くの村民やダンの姉、姉の婚約者の命をヴェルトールの暴走によって奪ってしまったフェイには、ダンと戦う事など出来なかったのだ。
 「くそっ!こんなんじゃ姉ちゃんもティモシーも浮かばれねえや!この勝負はお預けだ!」
 そう言ってダンはフェイに向かって何か着物を投げた。それはダンの姉が結婚式で着る筈であった花嫁衣裳であった。
 「その時までそいつを預ける!それを見て罪の重さに苦しめ!」
 「ダン・・・俺は・・・」
 「うるさい!お前のいいわけなんて聞きたくねえや!」
 ダンはそのままいずこかヘ去って行った。そして試合はダンの試合放棄となり、フェイの決勝進出が決まった。

 そして次の準決勝、いよいよポリリーナとワイズマンの試合が始まった。
 「私が勝ったら、フェイ君のことで知ってる事、全部話してもらうわ。」
 ポリリーナは身構えて言った。
 「では私が勝ったら、君のバラを一本貰おうかな?」
 その言葉にポリリーナは一瞬だが驚いた。
 「(読まれてる・・・・)」
 ポリリーナの顔に冷たい物が流れる。隠し武器として胸元に薔薇手裏剣を入れているのを読まれていたのだ。
 「(姑息な手段は通じない・・・・正攻法で攻める)」
 先に動いたのはポリリーナであった。バッキンボーを構えてワイズマンに向けて目にも止まらぬ早さで連続突きを繰り出した。
 「なかなかやるね・・・」
 ワイズマンは、ポリリーナの突きを全て紙一重で交わしている。
 「それはどうも・・・でもっ!」
 突きの途中でポリリーナは瞬時に手首を返した。バッキンボーの矛先がワイズマンの首筋に迫る!
パシィィィーン!───
 乾いた音ともにバッキンボーが宙に舞っていた。ワイズマンはポリリーナの手を読み、ポリリーナの右手首を手刀で叩き落していたのだ。
 そして宙に飛んだバッキンボーが手に戻った。ワイズマンの手に・・・・
 「!!」
 ワイズマンはバッキンボーをポリリーナの顔面に突きつけた。
 「私の勝ちだな。」
 「くっ・・・」
 だが、ポリリーナはあきらめなかった。
 「ミルキー!!」
 ポリリーナが叫ぶと同時にバッキンボーは猫型ロボへ姿を変えていた。それに一瞬ひるむワイズマン。
 「今だ!」
 その瞬間ポリリーナはその場でバク転した。しかし只のバク転ではない、強烈な威力を持つ回転キック、サマーソルトキックだ。
 「やった!?」
 この起死回生の一撃をまともに浴びて立っていられるわけが・・・・、ポリリーナはそう考えていた。だが、予想は裏切られていた。ワイズマンは数歩だけ後ろに下がった程度のダメージしか帯びていなかった。
 「そんな!」
 ポリリーナは愕然とした。だがワイズマンはいたってそのままだ。
 「確かに強力な技だ。まともに食らえば私とて危なかった・・・。だが私は瞬時に身体を反らし、打点をずらした。」
 ワイズマンは平然と言いきった。リングに両膝を付くポリリーナ。レベルが違いすぎていたのだ。
 「・・・・」
 「お嬢さん、君はいい素質を持っている。鍛錬を重ねれば私を追い越す事など雑作も無いだろう。経験の差が出たな。」
 ポリリーナは無言で胸元から一本の薔薇手裏剣を取り出し、ワイズマンに差し出した。敗北を見とめた証であった。
 「預かっておこう・・・。縁があればまた手合わせしよう。」
 「その時は負けない!!」
 『勝者!ワイズマン!』
 試合会場に歓声が響いた。

 「あ〜!ポリリーナ様、負けちゃったぁ〜!!」
 ユナが悲しそうに声を上げる。
 「やるわね、あの男・・・」
 サルペンが呟いた。その言葉にレイカも頷く。
 「ええ・・・只者じゃない。決勝はあの男とフェイ君か・・・」
 するとレイカは表情を一変させて、皆の方へ向いた。
 「さあ!次が最後よ!はりきっていきましょう!!」


 決勝戦が始まった・・・。フェイとワイズマンが戦っていた。いや違う、フェイが一方的にワイズマンを攻めたてていたのだ。
 だが、ワイズマンはポリリーナ戦で見せた鮮やかな回避でフェイの攻撃を全て避けるか、きっちりと防御していた。
あまりの防戦一方のワイズマンに観客から罵声が飛んでいた。だが、それを無視してワイズマンがフェイに語りかけた。
 「お主、その技をどこで覚えた。」
 「どこだっていいじゃないか!さあ、ちゃんと戦ってくれ!」
 「ふむ。お主は何故戦う?自分のためか?他人のためか?」
フェイの攻撃を易々と受け止めながらワイズマンは言った。
 「戦うにはそれなりの理由があろう?」
 「そんな事アンタには関係無いだろう!」
渾身の正拳突きを片手で受け止めるワイズマン。
 「目的も無く戦っているのか?」
 「うるさい!それを探している最中だっ!」
 今度は回しげりを放つ、しかし僅かに身体を反らして避けるワイズマン。完璧な防御術だ。
 「・・・・やめておけ、お主には見つけられん。お主は前を見ているつもりで、実は足元しか見ておらん。それでは何も見えてこない。」
 「そんな事!アンタに解るわけ無いだろう!!」
 フェイはそう言い、今一度正拳を繰り出す。するとワイズマンも正拳を出した!衝突する二つの正拳。
 「解るさ。こうやって拳を交える事によってな。武道家とは不器用でな、拳を交える事でしか語り合う事ができんのよ。」
 「黙れっ!」
 フェイは拳を引き、今度は得意の掌打を突いた。すると今度は避けずにわざと掌打を腹に食らうワイズマン。だが何のダメージも与えていないようであった。
 「ぬるい拳だ。そんな拳では何も語れん。まあ、見かけは大分たくましくなったようだがな。」
 「??」
 「よくも、あの怪我から回復したものだ、フェイ・・・」
 ワイズマンの仮面の隙間から覗く瞳がフェイにはやけに懐かしく感じていた。
 「あんた・・・まさか・・・」
 するとワイズマンはいきなりフェイに背を向けた。
 「審判!私は試合放棄する。フェイ・・・また会おう。さらばだ!」
ワイズマンはそのまま走り去って行った。結果的にフェイの優勝が決まった。だがフェイにはそんな事は心中に無かった。
 「ワイズマン・・・・」



 「フェイ君勝ったね。これからどうするの?」
 ユナがサルペンに尋ねた。するとサルペンは携帯無線機を取り出した。
 「予定より少し早まったわ。ツインザムとドルカスは今何処にいるの?」
 すると無線機からホワイトローズにいるチェンミンの声が聞こえてきた。
 「大丈夫です。もう真下にいます。三十秒後にはキカイオー・ゲッP−X・R−ガーダー・アルブレード全機突入できます。」
 「了解したわ。こっちも引き上げる。」
 サルペンはそこで通信を切った。
 「ここは大騒ぎになるわよ〜。全員撤収!!」
 サルペンは女性陣に呼びかけた。


 「!!若ぁ!」
 マルーは自室にいきなり飛びこんできた青年に驚きより感動を覚えていた。その青年は間違い無くバルトであった。
 「マルー帰るぞ!」
 バルトは久しぶりに合う従姉妹に笑顔で呼びかけた。
 「手間かけさせやがって!脱出するぞ。ついて来い。」
 「うん!」
 マルーはソファーにあるピンク色の人形を手にとってバルトの後を追った。だが・・・
 「くそっ!ゲブラーか!」
バルト達二人の目の前に、事もあろうにラムサスとミァンが姿を現したのだ。

 「騒がしいと思ったが、やはりネズミが紛れ込んでいたか。」
ラムサスは冷ややかな視線でバルトを見ていた。
 「なんだとテメエ!何モンだ!!」
 「威勢の良さだけは買えるが、ネズミに名乗る名を持ってはいない。さあ、マルー殿を渡してもらおうか。大切な客人なのでな」
 バルトはマルーを後ろに下がらせて鞭を構えた。
 「月並みだがな!渡せと言われて渡す奴が何処にいるっ!ざけんじゃねえぞっ!おっさん!」
 りきが聞いたら、涙を流して感激するような『男のセリフ』をバルトは吐いた。するとラムサスではなくミァンが口を開いた。
 「その子を本当に守りたいなら投降なさい。バルトロメイ王子。」
 「ほぉ?俺の事知ってるのか。あんたみたいな美人に名前を知られてるってのも悪くねえな。」
 明らかに皮肉っぽいセリフを吐く。バルトにとって確かにミァンは美人だが感情が感じられない人間は嫌いだった。
 「シャーカーンとの間で色々あったようだけど、悪いようにはしないわ。まあ我々には『どちらでもいいこと』なのよ。」
 「しゃらくせぇ!嬉しい申し出だが聞けないね。俺にとっちゃ『どっちもよくない』んでね!」
 するとラムサスが携えていた剣を抜いた。
 「・・・では決まりだな。」
 バルトも鞭を構えなおす。
 「マルー!隠れてろ!」

 その頃、ファティマ場内では・・・・
 「軍曹!このままじゃやばいぜ!」
 トーマスが機関銃のマガジンを交換しながら言う。彼等ゴンザレス隊は追いつめられていた。
 「畜生・・・・」
 アービンが憎たらしげに呟く。
 「あきらめんじゃねえ!」
 リッキーが機関銃を乱射しながら叫んだ。するとヘルマンが無線に向かって何か頷いていた。それを見てゴンザレスがニヤッと笑った。
 「援軍到着だな・・・」
すると、ゴンザレス隊がいる近辺で地震が起きた。振動は徐々に激しくなってくる。そして・・・
 「お待たせ!」
 床の下からツインザム2が姿を現した。突然のツインザムの出現に兵士達は皆驚いて散って行った。
 「あれ?エリカさん達は?」
 上半身だけ地上に出したツインザムがきょろきょろと周りを見渡す。すると、騒ぎを聞きつけてエリカ7がツインザムの元へ飛んできた。
 「ここよ・・・。とりあえずバルト君達の援護にいかなきゃ・・・」
 エリカは発信機を取り出してバルトの所在を確認しようとした。


 ラムサスの攻撃をバルトはなんとかしのいでいたが、2対1で分が悪い。劣勢は誰が見ても明らかだ。
 「バルトぉー!!」
 突然、フェイがラムサスとバルトの間に飛びこんできた。驚くバルト。それをよそにラムサスにローキックを浴びせるフェイ。
 「大丈夫か!?バルト。」
 「助かったぜ、フェイ!どうしてここに?」
 「表彰の授与と記念品贈呈の為に城に招かれたんだ。」
 するとラムサスはフェイの登場に何か驚いている様子を見せた。
 「フェイだと・・・?」
 それに気付かずフェイはバルトに怒鳴った。
 「何やってんだよ。とっくに脱出したものと思ってたら、下じゃあツインザムが足止めしてるから変だと思って・・・」
 「うるせい!こいつらに邪魔されて身動き取れなかったんだよ!」
 そんなやりとりを聞いていないのか、ラムサスの脳裏には、何かが浮かんでいた。
 「この男の構えに体術・・・・あの時の・・・・」
 ラムサスは昔、生身でギア小隊を壊滅させた男を思い出していた。その男がフェイと同じ構えをしていたのだ。
 ラムサスには、その時小隊長を務めていた。思い出したくない悪夢が蘇る・・・。フェイとその男が重なって見える。
 その刹那、フェイが飛びかかってきた。ラムサスの懐に潜り込み、何度も掌打を叩きつける。
 「くっ!」
ラムサスもこの攻撃にはひるんだ。その瞬間、隠れていたマルーが飛び出した。
 「後はボクに任せて!!」
 マルーは何か呪文のような言葉を唱えた。すると・・・・
 「ね、ネズミ?」
部屋のあちこちから大量のネズミがラムサス達に押し寄せてきた。
 「今だ!!」
 間髪入れず、フェイとバルト・マルーの三人は駆け出し、手近のエレベーターに飛び乗った。
 やっとネズミの大群から開放されたラムサスは駆け寄ってきた兵士に怒鳴った。
 「警備兵!今後昼夜問わず、警備を倍に増やせ!」
 ラムサスの脳裏には悪夢が蘇っていた。
 「奴なのか・・・。もし奴ならば・・・俺は・・・・塵・・・」


 「うははは!!ぶっ壊せ〜!!」
 ファティマ城の地下・・・・。ゲブラーの戦闘艦が格納されているドックでジュンペイが嬉しそうな声をあげていた。
 「ヒート・ブレイザー!!」
 キカイオーの攻撃が地下のソラリス用の施設を破壊していた。その横ではゲッP−XがX−3に変形して、腕の大砲を撃ちまくっていた。
 「遠慮はいらんで〜!ここはぶっ壊しても、上のお城には影響無いんやからな〜!」
リキが無遠慮な声を上げていた。
 「そ〜いう事だ!」
 将輝も便乗するかのように足のビーム砲を乱射する。さらに腕に装備されていたが、今まで使う機会の無かった火炎放射器までフルに使っていた。
 「なるべく時間を稼いでくれ!コイツからデータを抜き取るまでは!」
 ライのアルブレードがソラリス艦に張りついて、外壁の一部から艦のシステムに侵入、データを抜き出していた。
 そしてアルブレードの傍には二機のドルカスが護衛していた。
 「まさか、地下から侵入されたとは思ってもいなかったでしょうね!」
 ゲッPに乗っているミオが言う。
 「ドリルの勝利や!」
 この一向は、ツインザムとドルカスが掘ったトンネルを通って、地下からファティマ城に侵入したのだ。目的は潜入班の撤収の為。もう一つは地下に納められているソラリス艦からのデータ収集&破壊。そして追撃部隊を出されないための地下ドック破壊である。
 この戦法は、数日前、ゲブラーがバルト達海賊アジトを襲撃した時に使った手だ。ヴィレッタはそれを利用する形でこの作戦を立てた。
 その時、いきなり各機にツインザムから通信が入った。
 「こちら空!発信機の反応見たら、バルトさん達地下に行っちゃったみたいなんです!」
 「なんだと!?」
ライが声を上げた。
 「こっちもこれ以上長引くと、一般の市民さんにも飛び火しかねません。軍曹さん達やエリカさんを連れて脱出します。」
 「解った!それは我々で対処する!」
 そうは言ったものの、ライにはどう対処していいのか考えもつかなかった。


 そしてその当のフェイ達はというと、ファティマ城地下のソラリス駐留基地のある一室に匿われていた。
 匿った人物、それはフェイのよく知る人物。フェイがオンディーヌやバルトに出会う前に知り合ったソラリスの女性仕官『エレハイム=ヴァンホーテン』通称エリィであった。彼女は謝って地下基地に入りこんでしまったフェイ達を何故か匿ってくれたのだ。
 「フェイ、なんでお前がゲブラーの仕官と面識があるんだよ?」
 怪訝な表情を浮かべるバルト。
 「どこで知り合ったか知らないが、こいつはゲブラーの仕官だぞ?どうなってんだよ。」
 すると、エリィは静かに頷いた。黙ってみていれば赤茶色のロングヘアーが似合う色白の美人だが、バルトはゲブラーと言う事で信用していない。
 「そうよ。ソラリス帝室特設外務庁・・・・通称ゲブラー。イグニス突入三課少尉。」
そしてエリィはためらいがちに言葉を続けた。
 「そして、キスレブの軍事工場に潜入・・・新型ギアのテストヘッドとして使われていたギアを奪取、帰還途中で追撃を受けて、あなたの村に不時着したのも・・・」
 悲しそうに言い続けた。
 「私が村に不時着したせいで、あんな事になったなんて・・・言えないわよ・・・。」
 すると、フェイが静かにエリィの肩に手を置いた。
 「知っていたさ。森であった時、シタン先生と話してたじゃないか、聞いたんだ。その時・・・」
 フェイとエリィが初めて出会ったのは、フェイがヴェルトールを暴走させた翌日の事であった。村を出たフェイが途中の森で、偶然迷い込んだエリィを助けたのだ。その後ヴェルトールを運んできたシタンと合流し、シタンがエリィと同じソラリス出身と言うこともあり、シタンに事情を説明して夜陰にまぎれてフェイの元から去ったのだ。
 「あの事は忘れてくれ。エリィはエリィで必死だったんだからな。」
 フェイの一言にエリイは少しだけ表情を和らげた。
 「フェイ・・・、なぜ彼等と?」
 エリィはバルトのほうへ向き言った。
 「俺はバルト達に協力してるんだ。幽閉されていたそこのマルーを助ける為に。」
 フェイはマルーに視線を向けて言った。
 「そう・・・・」
 エリィはそう言ってドアを開けた。
 「ここから脱出したいんでしょう?今なら混乱してるから、ギアの射出口から抜け出せるわ。」
 「素直に信じると思っているのか?」
 バルトはエリィを睨んだ。だがそれをマルー制した。
 「待ってよ若。この人、そんなに悪い人じゃないよ。助けてくれるって言うのなら助けてもらおうよ。」
 マルーの真摯な目に戸惑うバルト。助けを求めるような顔でフェイを見る。
 「フェイ。お前はどうなんだよ?」
 「俺の考えは決まっている。」
 そう言ってエリィを見つめる。
 「か〜っ!!ったく、しらねえぞ!どうなっても!」
バルトは半ばあきらめたように頭を掻いた。
 そして一向はエリィに誘導されるまま、ギアハンガーにやってきた。幸いなのかどうなのか解らないが、ギアハンガーはまだオンディーヌ隊の攻撃にあっていなかった。射出口の先には青い空が見える。どうやら地下から外へ直接出られるような構造になっているようだ。
 エリィはそこでフェイに1枚のメモ帳を手渡した。
 「汎用型のギアの起動用暗証番号。そのコードで起動できるから・・・」
 それを手渡してエリィは背を向けた。
 「私が出来るのはここまで。後は貴方達の運次第・・・」
 「よしっ!行くぞフェイ。フェイ?」
 バルトが近くのギアに乗りこもうとフェイに呼びかけるがフェイはエリィの方を向いていた。
 「エリィ!一緒に行こう!!」
 「!?」
 エリィはフェイの言葉に驚いて振りかえった。
 「お前はこんなところにいるべき人間じゃないんだ!」
 「フェイ・・・ありがとう、でも無理。私は・・・軍人なのよ。私には私の居場所があるの。一緒に行くことなんて出来ない。」
 エリィはまた背を向けた。
 「フェイ、今度会うときは・・・私達、敵同士ね。」
 そしてエリィはそのまま駆け去ってしまった。
 「エリィ・・・」


同時刻・・・・上空を警戒していたプロンガーのバイパーUは何かに気がついた。
 「この反応は・・・若様とフェイ君が俺の傍にいるのか!?」
 バイパーのコクピットにはフェイとバルトの発信機の反応がしていたからだ。プロンガーはすかさず通信を開いた。
 「ライディース少尉!こちらプロンガー!二人の居場所を突きとめた。一番近いのは俺だ!これから救出に向かう!」

 通信を受け取ったライはすぐに答えた。
 「了解した!頼むぞ曹長!!こっちもすぐにかたを付ける。」
 ライはデータの収集を急いだ。そしてドックを破壊しているキカイオー達に指示を出す。
 「あと二分間だけ粘ってくれ!」

 
 ラムサスはフェイ達に逃げられた事に激怒していた。足早にギアハンガーに向かっていた。
 「逃すものか・・・。ミァン!私のワイバーンの起動を急がせろ!追撃に移る。ついでに地下で暴れているTDFの連中も、皆殺しにしてやる!」
 ワイバーンとはラムサス専用のギアの事である。ラムサスは自ら追撃を行うつもりなのだ。
 だが、ミァンはいつものように平然と答えた。
 「現在、全てのギアの出動は不可能です。」
 「なんだと!!何故だ!!」
 「ハイ・・・それは・・・」

それは・・・・
 「S!L!C!ダァァァイブッ!!」
ドッカーン───!!!
 プロンガーのバイパーUがギアハンガーに殆ど特攻まがいの突撃を敢行したのだ。装甲の薄いバイパーだが、エネルギーフィールドに身を包む事によりそれをカバー。通常は飛行時の空力安定性確保のフィールドだが、出力を限界まで上げれば、レイ○ナーのV−M○Xのごとく突撃攻撃が出来るのだ。
 プロンガーは、対空迎撃を振りきってバルト達に接近するためこれを行ったのだ。
 「おっ!いたな。急げ!」
 フェイ達はいきなり突っ込んできたバイパーUに面食らっていた。ギアに乗りこむ事すら忘れている。
 「ほ〜、そいつを奪取して逃げるつもりだったのか。いい手だ。ほれ、俺に掴まれ。」
 「ああ・・・。曹長無茶やるな・・・」
フェイが呆然と言った。フェイ達は奪ったギアを起動させると、バイパーの手を握った。
 「艦までひとっとびだぜ!おっとそうだ・・・」
 プロンガーは、腕のバルカン砲をギアハンガーに向けた。
 「追撃部隊なんか来られたら厄介だしな。」
そう言いバルカン砲をハンガー中に撃ちまくるバイパーU。慌てて止めるフェイ。
 「待ってくれ!曹長。そこには彼女が・・・エリィがいるんだ!」
 するとプロンガーは銃撃を止めた。
 「彼女〜?お前ソラリスに彼女がいたのか!やるな〜。解った、これぐらいにしておこう。」
 プロンガーはにやりと笑って攻撃を止めた。フェイが彼女と言ったのを恋人か何かと勘違いしたらしい。
 「よしっ!帰るぞ。」
 そしてバイパーUは両手に奪ったギアを掴んで大空に舞った・・・・

 「よし!集められるだけ集めた!我々も撤収するぞ!!」
 データを盗んだライが叫んだ。
 「よし!帰りはわいの出番や。」
 りきがそう言い、X−3の両腕をドリルに変える。すぐさま地中潜行を始めるゲッP。
 「全機撤収!」
ライの号令で急いでゲッPの掘った穴に飛びこむ各機。ジュンペイは黙ってソラリス艦を見ていた。そして・・・
 「どうせ最後だ。しばらく動かせないように・・・」
 ジュンペイはヒートブレイザーを放った。ソラリス艦後部に命中し爆発を起こした。
 「よし!あれだけ壊せば動けないだろ。あばよ。」
 そしてキカイオーもトンネルに潜り姿を消した・・・。


 「・・・・以上です。」
 「おのれ!TDFめっ!!」
 ラムサスは怒りが頂点に達しようとしていた。その時一人の兵士が駆けより、ラムサスに耳打ちした。
 「・・・・何!?ヒュウガが・・・・解った・・・」
ラムサスは表情を変えた。幾分怒りが静まったようだ。
 「・・・・奴め、今頃何を・・・」


 「ね〜、おじさん・・・じゃなかった。曹長、もっと高く飛べないの〜?」
 マルーがプロンガーに向けて言う。ギア一つぶら下げたバイパーはいつもの半分のスピードも高度も出せていなかった。
 「すまんなお嬢ちゃん。なにぶん重くてな、お嬢ちゃんのせいかな?」
 「あ〜ボクそんなに重くないよ〜。」
 プロンガーのジョークに頬を膨らますマルー。それを見てバルトが笑う。
 「あ〜若まで。もういいよ〜だ。」
 「わりい、わりい。まあ無事で良かった、ニサンについたら好物を食わしてやるぞ。」
 するとマルーは表情を輝かせて笑った。
 「本当!ケーキ食べさせてくれるの!?」
 「本当だ!約束だからな!曹長にも食わしてやるぜ。」
 するとプロンガーも笑った。
 「サンキュー。だが俺は甘い物より酒がいいんだがな?」
 「え〜とね。ニサンには、ケーキ作る時にワインやブランデーをよく使うから、曹長はそれを飲んだら?」
 「ブランデーか・・・。たまにはいいかもな!よし、そいつを奢ってもらおうか若様?」
 バルトは笑顔で頷いた。
 「いいぜ!樽ごと飲ませてやるよ!!」
 四人はそこで大きな声で笑った。そしてバイパーUの目の前にはもうホワイトローズとユグドラシルが見えていた。いち早く引き上げたメンバー達が大声を上げて甲板から手を振っている。
 「よし!今夜の晩飯は作戦成功を祝って盛大にいこうぜ!!」
 バルトは満面の笑顔で言った。



次回予告

 君達に更新情報を公開しよう!!
 ついに我等が鋼鉄巨神が破れた!超次元機関が全く通用しない、未知なる力を秘めたあのロボットはなんだ!?
 特異点を防ぐ為、やってきたあの少女の心理とは?
 そして少女の持つ力は、とんでもないイレギュラーを呼び寄せてしまった!特異点とは何の事なのだ!?

 次回サイバーロボット大戦 第二十二話 『魔法少女と聖霊機』に最終融合、承認!!
 次回も魔法がすげえぜ!  これが敗北のカギだっ!・・・・・・・『ちゃぶ台』




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