第二十話 「マルー救出! アヴェの大武術会!!」
「戦って何が得られる!?自分の居場所があるって言うのか!」
フランツのカップナイトに立ちはだかったフェイのヴェルトール。
「ここからいなくなれ!!」
ヴェルトールは掌打を何発もカップナイトに撃ちつける。
「ぐっ・・・調子にのるんじゃねえ!」
フランツは負けじとパワーアームを胴に見舞う。そして強力なアームでヴェルトールの胴体を握り締める。
「このまま、握りつぶしてやるぜ。」
フランツはゆがんだ笑みを浮かべて、パワーアームの力を増した。
「・・・・・」
だが、フェイは動じなかった。自由な両腕を構え手のひらの付け根同士を合わせる。そのポーズは以前ゲッPとツインザムがサンシャインを放つ時の動作とよく似ていた。
「指弾・・・・」
ヴェルトールの手に白い何かが集まりだしていた。そしてそれは球体の塊と化しカップナイトに襲いかかった。
「ぐわっ!」
白い塊を食らったカップナイトはよろめきヴェルトールからアームを離す。
指弾───それは、フェイの拳法の技をギアに応用した技だ。
簡単に言えば格闘ゲームでお馴染みの気孔波のようなものだ。フェイは拳法に用いる呼吸法を利用して手のひらから気孔で生み出された『気』の塊を放つ事が出来る。それを、ヴェルトールのエーテル反応炉に送りこみ、増幅した気の塊をヴェルトールの手から放ったのだ。
「ここから、出て行けぇぇぇ!!」
フェイは吠えた!大きく右足を振り上げ、カップナイトに叩きつける!!
ズガァァァン!!───
強烈な踵落としが、カップナイトの脳天に炸裂する!
「うわああ!」
フランツの悲鳴が響く。カップナイトは頭部がへしゃげ、肩が力を失い腕がだらしなくぶらがさる。そして全身から青白い火花を上げていた。
「このままでは・・・・撤退する!」
フランツは悔しそうにヴェルトールを睨みつけながら足早に去って行った。
「ビィィトォ・ソニックゥゥ!!」
ブリガンディアの二本の鞭がソードナイトに絡み付く。ソードナイトは動きが取れない。
「食らえ!!」
ブリガンディアはそのまま力に任せて絡みついたソードナイトを振りまわした。遠心力によって、カップナイトが高く持ちあげられる!
「落ちろぉぉ!!」
バルトの絶叫と共にソードナイトを地面に叩きつけた。轟音を上げ地面に突っ伏すソードナイト。
「くっ・・・撤退する。」
ストラッキイは奥歯をかみ締めながら後退して行った。
「くっそぉ〜手間とらせやがってぇ〜!」
バルトは悪態をつきながら次の相手へギアを走らせた。
「終わりです!」
シールドナイトの腹部にヘイムダルの右足のつま先が刺さっていた。
拳法で言うと水月を狙った足刀と言ったところだ。フェイと同様拳法を得意とするシタンは腕技を主とするフェイとは逆に足技を得意とする。
綺麗なフォームで技が決まっていた。まさに芸術のように・・・
「グッ・・・・・」
シールドナイトのブロイアーはまるで自分の腹が蹴られたように苦しんでいた。シールドナイトも腹部に穴が開き、どう見ても戦闘は無理そうだった。
「・・・・・」
ブロイアーは無言で撤退して行った。
「なまっているなぁ・・・。身体に染み付いたものと違って、後から体得したものだとやはり無理があるか。」
シタンは自分に言い聞かせるように言った。
「それにしても、これだけ攻撃しても倒れないところを見ると、彼等『例の物』をやっていますね。」
シタンはゲブラーの攻撃と打たれ強さから何か確信したようだ。バルトに通信を入れた。
「若くん!彼等は戦意昂揚剤を、『ドライブ』を打っています!なまじの攻撃では倒れませんよ!」
通信を聞いたバルトが口を鳴らした。
「マジかよ?どおりでネチネチとしつこい!クソッ、きりがねえっ!!」
バルトは悪態をついた。
ドライブ─── ソラリスで開発された昂精神薬で、人間の潜在能力を一時的に引き出す効果がある。
だが、過度の使用は人格崩壊を引き起こすと言う副作用も持っている為に、一部の兵士からは危険視されている。ゲブラー達はこれを使用していたのだ。
「どうやら苦戦しているようですね。」
ヘルムホルツが呟いた。
「どっちがだ?」
ランクが尋ねる。彼が乗っているワンドナイツの足元には、バルト達、海賊用のギアが何機も倒れていた。
「両方・・・・と言いたいところですが、我々ですね。切り札を出しますか?ランク。」
するとランクはにやりと笑った。
「いいねえ。さっさと終わらせようや。」
ランクは背後に待機している大型ギアと共にワンドナイツを前進させようとした・・・・だが、次の瞬間、ランクのワイドナイツの右腕が光と共に消え去った。
「なっ!なんだ!?」
ランク達は振りかえった。そこには・・・・・
「あっあいつらは・・・・!!」
「へえ〜、さすが出力を倍にしたヒートブレイザー。通常発射で片腕蒸発させたぜ。」
ジュンペイが嬉しそうに言った。見ればキカイオーを始めオンディーヌ隊のロボット達がランク達の背後に集合していた。
「次はあのデカイ奴だな。行くぜぇ・・・最大出力のヒートブレイザーを・・・」
ジュンペイは狙いを大型ギアに定めた。
「俺も便乗させてくれよ!試したい技があるんだ!!」
リュウセイのグルンガストがキカイオーに寄ってくる。
「キカイオーとグルンガストでさ、ダブル攻撃を・・・・。ファイナルビームとヒートブレイザーを同時に・・・」
『それは止めてくれ!!』
二人のコクピットにシグルドの声が響いた。どうやら慌てて通信を開いたようだ。
「なんでだよ。せっかく支援に来たのにさ。」
ジュンペイが口を尖らせる。
『そんな大火力の攻撃は避けてくれ!我々のアジトまでダメージを受ける!!』
「あ・・・・」
ジュンペイはやっと察した。確かにこんな場所で大火力の武器は使う事は出来ない。もし使えば、大惨事を引き起こすからだ。ここには敵だけでなく味方となるべきの人達や民間人も大勢いるのだ。
「じゃあどうすれば・・・」
ジュンペイは悩んだ。だが、解決策はすぐに出た。
「格闘戦しかないじゃない。」
答えたのは香田奈だ。その言葉に皆頷く。
「よし!火力の大きい武器の使用は厳禁だ。全機、格闘戦準備!!」
ライが全員に呼びかけた。見ればライのアルブレードは主武装であるレールガンを捨て、プラズマソードを握り締めていた。
「よっしゃあ!!」
メンバーから威勢のいい声が響いた。一部を除いて・・・・
「兄さん。私達どうします?」
「うお〜!なんでバンガイオーには格闘用の武器がねえんだ〜!!」
嘆くりき。そして同じような人物があと一人・・・
「・・・・・どうしようかな。」
青ライデンに乗ったアイボリー軍曹は悩んでいた。そして悲しげに肩のレーザーと携帯武器であるガトリングガンを見つめていた。こんな武装ではアジトを必要以上に傷つけてしまう。
「サルペン准尉、どうしましょうか?」
すると、尋ねるべきサルペンはいなかった。
「あれ?准尉?」
アイボリー軍曹はあちこち見渡す。だがサルペンの姿は見えない。
「准尉・・・。うわあ・・・」
彼は見た。サルペンがどうやって戦っていたかを・・・・
「ええ〜い!!」
サルペンはバズーカを逆手に持ち、ワイドナイツに殴りかかっていた。ああすればバズーカも立派な格闘用の武器と化す。
それを見て、りきが感激していた。
「あれだああ!!凄いぜえ!さすがサルペンさんでい!!まみ、俺達もあんな風にやるぜえ!!」
「暴発に気をつけてくださいね、兄さん。」
その言葉を聞いたか聞かずか、りきはバンガイオーのライフルを逆手に握り、早速ワイドナイツに殴りかかっていた。
「そうだよな・・・・ライフルの台尻って、大昔は格闘に使っていたんだよな。でもこれじゃあな・・・」
アイボリーはガトリングガンを今一度見た。これでは殴りかかる事など無理である。
だが、悩むアイボリーに救いの手を差し出す者がいた。結奈だ。
青ライデンの目の前には世界征服ロボが何かを持っていた。そしてそれをアイボリーに差し出した。それはライデンより巨大な斧であった。
「はい。」
結奈は斧をアイボリーの青ライデンに手渡した。
「はい。と言われても・・・・・、これってスイカ割りの時に使った奴じゃあ・・・」
「失礼ね。よく見なさい、ブースターがついているでしょ。これが私がライデン用にこんな事もあろうかと造っておいた、格闘戦用兵装『デス・ギガント』よ。」
確かに斧には加速力を増すためにか、二基の小型ブースターが取り付けられていた。
「あとこれよ。ライデン用の防御兵装『ボルト・ゴッチ』。」
今度は強固そうなトゲ付きの盾だ。両方装備すれば見てくれは凄く強そうには見えるだろう。
「205号機はね。通常型に比べてパワーは大きいけど防御は並。そこで、この私が205号機の性能をフル生かせる武装を開発したのよ!素晴らしいでしょう?」
「・・・・・・」
アイボリー軍曹は言い返せない。そうしている間に結奈はライデンからガトリングガンを取り上げ、斧と盾を持たしてしまった。
「美しいわ・・・・。ああ一枚の絵のよう!まさに芸術だわ!!」
確かに絵になる。無骨なライデンに巨大な斧と盾。似合う・・・・実用性があるかどうかは無視してだが・・・
「燃えたコクピットの中に、奇跡的に205号機の武装提案書が残っていたのよ・・・。素晴らしいものだったわ。そこで私は、これを亡くなったリットー大尉に栄位を込めて『リットー・スペシャル』と名づけたわ!」
結奈に何も言い返せないアイボリー軍曹。性能うんぬんを言われても結局使うのは自分なのだ。
「こいつは・・・ナンセンスだ・・・」
アイボリー軍曹にはそれだけしか言えなかった。
アジトでのゲブラー特務隊との戦いは佳境に入ろうとしていた。
ゲブラーが『切り札』と呼んだ大型ギア『シュピラーレ』台形のボディに短いが太い足、そして長い二本の腕を持った強襲用ギアとオンディーヌ隊、そしてブリガンディア&ヘイムダルが戦っていた。そこにヴェルトールが参戦する。
ヴェルトールの姿を見た時、バルトは目を輝かせた。
「やっぱお前っ!!」
フェイは即答した。
「そういうのは後にしようぜっ!このデカイのをっ!!」
ヴェルトールがシュピラーレに回しげりを見舞う。それを見てバルトは俄然闘志が沸いてきた。
「おうよっ!おいTDF!援護頼むぜっ!!」
ブリガンディアが激しい鞭捌きを見せる。嬉しくて仕方がないのだ。
「こいつらばかりにおいしいとこ持っていかれてたまるか!」
「同感!!」
ジュンペイとリュウセイはにやりと笑い、シュピラーレに殴りかかって行った。
「お久しぶりですね。まさかまた貴方と戦う事になるとはね。」
ヘルムホルツはビーム砲をR−ガーダーに乱射しながら嬉しそうに言った。
「久しぶり?俺はあんたなんか知らないぜ。」
将輝は少しばかり焦りながら言い返した。足のビーム砲が使えない為、必死に距離を詰めようと突進するR−ガーダー。だが、相手の方が身軽。どんどん距離を取られ、ビームを撃たれる。まあ分厚い装甲にはビームコートも施されているので、多少のビームはへっちゃらである。だが、無敵ではない。R−ガーダーは少しづつ傷ついていく。
「念動フィールド・・・」
見かねた香田奈がTーLINKシステムを発動させ念動フィールドを展開する。将輝ではシステムは四分の一しか発揮できないので、今回は香田奈がシステムの主導権を握っている。
「くっ!バリアーですか・・・。以前より手強くなってますね。」
ヘルムホルツは苦笑した。
「だから、あんたなんか知らないって言ってるだろ!」
R−ガーダーは頭部のバルカンを放つ。これぐらいの火器ならアジト内で使用しても支障は少ない。
「ご存知のはずですよ。前は極東本部でお会いしたはずですからね。」
その言葉に将輝と香田奈はハッとした。自分達をこの戦いに巻き込んだ張本人が目の前にいるのだから。
「あの時のソラリスの部隊はお前達か!!」
将輝は叫んだ。
「ええ、そうですよ。憶えておいででしたか?」
すると将輝の表情が変わった。みるみる怒りに満ち溢れてきている。
「お前達のせいで・・・・俺は・・・俺は・・・・」
「そうよ!私達死にかけたのよ!!」
香田奈が叫んだ。
「ほう?そうでしたか。いやそれはそれは・・・」
ヘルムホルツは平然と答える。が・・・・
「違う!!」
将輝はいきなり声を荒げた!一瞬、あまりの気迫にワイドナイツの動きが止まった。
「違う・・・違う・・・。お前のせいで俺は・・・・」
一瞬黙った後、将輝は絶叫した!
「ファーストキスを実の姉に奪われたんじゃ〜!!!」
「へっ?」
ヘルムホルツは一瞬耳を疑った。まさかそんな事で激怒していたとは思ってなかったらしい。
「!!隙ありっ!!」
一瞬動きの止まったワイドナイツを将輝は見逃さなかった。
ガシイッ!!─── R−ガーダーの右腕がワイドナイツを捉えた。
「俺の怒りを受け取れぇぇ!!」
将輝は、ワイドナイツを掴んだまま、そのまま壁に叩きつけた。
「ぐはっ!」
凄まじい衝撃に悲鳴を上げるヘルムホルツ。だが、彼の恐怖はここからが本番だった。
「なっ!・・・・」
彼が見たのは両腕に緑色の光を宿したR−ガーダーだった。
「ダブルT−LINKナックルゥ・・・・」
将輝はR−ガーダーを身構えさせた。今回放つT−LINKナックルは香田奈が念動フィールドを制御しているので威力は十二分にあるはずであった。
「オラオラオラオラオラオラオラァァ!!!!」
どこぞで聞いたような声を上げ、R−ガーダーの凄まじいラッシュパンチがワイドナイツに炸裂した!しかもT−LINKナックルで・・・
「とどめじゃあ!!T−LINKショルダァァァァ!!」
壁にめり込み半壊したワイドナイツにR−ガーダーは肩から突っ込んだ。なんでもT−LINK付ければ良いと言う問題ではないが、香田奈が気を回して肩に念動フィールド張らなかったら、只の体当たりにすぎないのだが・・・。将輝は頭に血が上ってそんな事は気付いてもいなかった。
「てっ・・・撤退する・・・・・」
奇跡的に『かろうじて』動くワイドナイツは機体を引きずるように去って行った。どうやらドライブのお陰で致命傷寸前で助かったらしい。
「うお〜!!」
将輝の勝利の雄叫びがコクピットに響いた。
一方、ランクのワイドナイツには、サルペンのライデンとバンガイオーが戦っていた。
二対一でサルペン達が有利に見えるが、ライデン・バンガイオーともに自慢の火器が使えない上に不慣れな格闘戦である。片腕を失っているとはいえ汎用タイプのワイドナイツとの戦いは苦しいものだった。
「このぉ・・・」
サルペンが相変わらずバズーカで殴りかかる。動きが鈍い上に大ぶり、攻撃が読まれやすい。それに今乗っているライデンは自分用に調整されたものではなく、しかも応急処置でなんとか動ける程度のものだった。
「おっと・・・遅いぜ、VR社の。」
ランクは片腕を失ってはいるものの余裕だった。ドライブの効果でもあるのだが、火器の使えないライデンなど怖くは無い。
「くたばりやがれい!!」
今度はバンガイオーがライフルで殴りかかるが、あっさりと避けられる。元々格闘戦は考慮されていないバンガイオー、しかもアジト内という狭い空間でせっかくの機動性も生かせない。苦戦だ。
「ちくしょ〜!!ちょこまかと〜!」
りきが頭をかきむしる。悔しいのだ。
「おらよ!」
隙を見てビームを放つワイドナイツ。向こうは火器を使うことに遠慮は無い。右足を撃ち抜かれるライデン。
「くっ・・・」
片膝を付き、動けなくなったライデンをかばうようにバンガイオーが前に出る。
「ふん。終わりだな、覚悟!」
ビーム砲をバンガイオーに合わせるワイドナイツ。だが・・・
「ちょっと待ったぁ!」
今は懐かしい『ちょっと待ったコール』がワイドナイツの後ろから響いてきた。
「なんだ?・・・・・・げっ!」
振りかえったランクは驚いた。そこには右腕に巨大な斧、左腕に強固な盾を装備した青ライデンが立っていた。
「サルペン准尉!助けに来ました。ここは僕に任せて!」
アイボリー軍曹のライデンが一歩一歩ワイドナイツに近づいてくる。思わず後ずさるワイドナイツ。青ライデンの装備に気落とされているのだ。
「なんて趣味的な装備・・・・」
サルペンは思わず声に出てしまった。まあ解らない事も無いが・・・・
「かっこいいぜぇ!あれこそ男の武器でい!」
誉めているのはりき一人・・・。まみは黙って成り行きを見ている事にしたらしい。
「くっ・・・。そんな装備、実戦で使えるものか!」
気を取り戻したランクはビームの矛先を青ライデンに変えて、乱射する。
「何の!」
アイボリー軍曹は盾を前面に構えて突進した。ビームは全て盾が弾いてくれている。どうやらビームコートが施されているようだ。
「行け・・・行けぇ!」
盾を構えたままがむしゃらに突っ込む青ライデン。元々青ライデンは力押しの戦法、いわゆる『ゴリ押し』を得意とする。アイボリーはそれを実践するかのように突進して行った。
「こ、こいつは・・・・」
ランクは青ざめた。撃っても撃っても、避けようとも逃げようともしない青ライデンに恐怖していた。
そして、それは恐怖はついに訪れた!青ライデンはもう斧の間合いに入っていた。
「ブッ潰すっ!!」
アイボリーは右手の斧を大きく振りかぶった。そして斧に装備された二基のブースターが火を吹いた!
ザッァァシャァァァン!!!─── 青ライデンのパワー、そして斧に装備されたブースターの加速力を加えたデス・ギガントの威力は想像を超えていた。ワイドナイツの頭から左半身を寸断していたからだ。
「だ、脱出する!!あんな無茶苦茶な奴相手にできるか!」
顔面蒼白になりながらランクは生き残った右半身を懸命に操りながら飛んで逃げて行った。
「はあ・・・はあ・・・やった・・・」
肩で息をしながらアイボリーは言った。だが彼は勝利は得たが心中は複雑だった。なぜなら・・・
「よくやったわ軍曹。見事ね。」
バンガイオーに肩を借りたサルペンがアイボリーを褒め称える。
「かっこよかったぜえ!まさに男よ!」
「お見事でしたわ!」
りきとまみもアイボリーを賞賛する。特にりきは、勇ましい活躍をまじかに見れた事に感激していた。
「サルペン准尉・・・・」
アイボリーは少々困った顔をしてサルペンに尋ねた。
「何かしら?」
「僕・・・少し野蛮でしたかねえ・・・?まるでリットー大尉みたいに・・・」
そのすぐ後、サルペンとまみの笑い声が響いた。
そしてシュピラーレとの戦いも佳境に差し掛かっていた。
「てやあぁぁ!」
ヴェルトールがシュピラーレを何度も蹴りつける。もうシュピラーレはダウン寸前だ。
「よし・・・トドメだ!」
ヴェルトールが次の技を繰り出そうと構えなおす。だが、それをリュウセイが制する。
「トドメは任せてくれ。もう君達は連戦でエネルギーが底を付きかけている筈だ!」
リュウセイの言葉は間違い無かった。ヴェルトールもブリガンディアも、もうエネルギーが殆ど無かった。
「ここは俺とキカイオーの合体技で!!」
すると、ジュンペイは怪訝な顔をした。
「お前、さっき火器は使うなって言われたろうが!」
グルンガストに詰め寄るキカイオー。だがリュウセイは笑みを浮かべた。
「違うんだよ・・・別の技がな・・・」
キカイオーに耳打ちするグルンガスト。
「ふんふん・・・おっそれはいい!やろうぜぇ!」
笑みを浮かべるジュンペイ。その様子を見てゲッPも寄ってくる。
「何やる気だ?お前等・・・」
「ああ、実はな・・・」
ゲッPに耳打ちするキカイオー。それを聞いてケイも笑みを浮かべた。
「一枚噛ませろ。」
ケイの一言に驚くジュンペイとリュウセイ。
「出きるのか?ゲッPに!?」
するとケイは頷いた。
「勿論だ。」
「決まりだな!!」
すると、グルンガスト・キカイオー・ゲッPーXがシュピラーレの前に横一列なって立ち塞がる。
「やるぞぉ!」
リュウセイがグルンガストの右腕を突き出す。
「飛び出せ、豪腕!」
ケイも同じくゲッPの右腕を突き出す。
「必殺の友情合体ぃぃぃ!!」
ジュンペイもキカイオーの右腕を突き出す。
『トリプル・ロケットブロォォォ!!!』
五人が一斉に叫び、グルンガスト・ゲッP・キカイオーのそれぞれの右腕が飛び出した!!
ズガァァァン!!───三つの拳はシュピラーレを貫いた。
「やったぜ!」
ケイが嬉しそうに笑顔を浮かべる。
「即席技にしては威力あったな!今度練習しようぜ!」
ジュンペイは戻ってきた右腕を装着しながら言った。一方リュウセイはというと・・・・
「恍惚の表情浮かべてるぞ・・・」
モニターでリュウセイの様子をうかがったサイモンが言った。
「失禁してるわね・・・後で洗って消毒しとかないと。」
結奈が不機嫌な表情を崩さない。
「鼻血吹いてるよ・・・」
ユナが心配そうに言う。
「ほっとけ、いつもの事だ。」
ライがしれっと言う。馴れたものだ。
「よっぽど嬉しかったのね・・・・」
レイカが失神したリュウセイを見て呟いた。
「ど〜するコイツ?」
ゴンザレス軍曹がパイルバンカーでグルンガストをつつく。
「しょうがない、みんなで運ぶか・・・」
ライードが苦笑して言う。その後、全員総出でグルンガストを運ぶハメになった・・・・
ギアから降りたフェイがバルトと向き合っていた。
「・・・・。あ・あ・あり・・・ありがとう・・・フェイ。」
バルトが照れながら礼を言う。
「バルト・・・。」
「ありがとう、フェイ君。君の加勢がなければ、今頃どうなっていたか。」
シグルドがフェイに頭を下げる。だが、フェイは少しうつむいたまま口を開く。
「俺・・・、まだ、自分が何をすればいいのか解らないんだ。」
「フェイ君・・・。」
シグルドが暗い表情をしている。
「バルトのしていることは私利私欲の為じゃない。TDFの連中だってそうだ。周囲の人々の幸せを願って自分の信じた道を歩んでいる。それに比べて俺は・・・」
フェイは暗い面持ちのままで言い続けた。まるで自分自身を責めているように・・・
「俺、自分の前には進むべき道がないと思っていた。でも、それは逃げているだけ。道は自分でみつけなきゃいけない。そうだよね先生?」
フェイは顔をシタンへ向けた。シタンは満足そうに頷いた。
「バルトが望んでいるのなら俺、協力するよ。今はそれしか出来ないから・・・。でも、その中で自分の進むべき道を見つけようと思うんだ。それにあんな恐ろしい連中をほっとけないよ。」
フェイはそこで初めて笑顔を見せた。
「ありがとう、フェイ君。」
シグルドが感謝の言葉を述べた。そしてバルトとフェイはそこでがっしりと握手を交わした。
「若〜!!」
そこへメイソン卿が息を切らせながら走ってきた。
「なんだよ爺。いいシーンなんだからよ!!邪魔すんな。」
その冗談にメイソン以外の全員が笑った。
「それどころではございません!先程TDFのヴィレッタ様から連絡が入りまして、我々に協力してくださるそうです!!」
メイソンの報告はバルトを驚かせると同時に喜ばせた。
「マジかよ!嘘じゃねえよな!?」
「まことでございます!アヴェの背後にソラリスが関わっているのが解った以上、共にソラリス打倒の為にこちらからも協力を・・・・と!!」
「よっしゃぁぁぁ!!運が向いてきたぜぇ!!今日は最良の日だぜ!ゲブラーに感謝するぜっ。」
バルトは冗談なのか本気なのか解らないような言葉を発した。ともかく燃えているには間違い無かった。
「待ってろよマルー!すぐにでも助けてやるからなぁ!!」
「バーチャロイドが使えない?」
ヴィレッタは不幸な報告を受けた。
絶好に燃えてるバルト達とは対照的に暗いニュースが格納庫から飛びこんできたのだ。それはオンディーヌ隊が保有しているバーチャロイド、ライデンが使えないという連絡であった。
「そんなに損傷が酷いのか?」
念の為、格納庫にやってきたヴィレッタは結奈に尋ねた。結奈は珍しくため息をついていた。
「ご覧の通りよ・・・・無傷なのは205号機のみ。あとはボロボロよ。」
ヴィレッタは、格納庫のライデン達を見渡した。確かに青ライデン以外皆ボロボロだ。とてもじゃないが使い物になりそうにない。
「なんとかならないんですか?ほら・・・前みたいに頭部新造したみたいに、天才なんでしょ?」
近くにいたアイボリー軍曹が尋ねる。だが、結奈は首を横に振った。
「あの時は、資材があったからよ・・・。とてもじゃないが、今の状態で全機元に戻すのは不可能よ。連戦で資材も底を付きかけているし・・・。」
結奈の意見は最もだ。いくら優秀なエンジニアである結奈でも資材無しでの修理など不可能だ。
「特に、156号機は、V=コンバーターそのものがやられているのよ。もう使えないわよ。」
その言葉にアイボリーは言葉を失った。156号機は自分の愛機であったからだ。しかも損傷していたのは、VRにとって命とも言えるV=コンバーターである。コンバーターを失ったVRは只の鉄の人形にすぎない。
「じゃあ156号機をバラして、他の機体を完全な状態に戻せないか?」
この話にプロンガー曹長が割りこんだ。彼のライデン=189号機も昼間の戦いでキカイオーの救出の為に損傷していたからだ。
結奈は携帯端末を取り出し、何かを打ち込んでいた。しばらくした後、結果が出たようだ。
「そうね・・・。156号機をパーツ取りに使っても・・・稼動状態に持ちこめるのは、二機ね。」
「二機!?205号機と合わせても三機かよ!」
プロンガーの悲痛な声が響いた。アイボリーなど泣きそうな顔をしている。
「なんとかならないのかよ〜。」
「無理ね。」
プロンガー&アイボリーの悲痛な懇願も結奈は冷静に受け止めていた。その様子をヴィレッタはじっと見つめていたが、すぐ黙ったままその場を離れた。
「ヴィレッタ隊長。」
立ち去ろうとしたヴィレッタを呼びとめる人物がいた、レイカだ。
「何か?」
ヴィレッタはレイカにそれだけ言った。
「行き先は通信室ですね?残念ですが、マオ・インダストリーにはVRの流通ルートは無いですよ。」
すると、ヴィレッタは軽く微笑んだ。
「そうね・・・。でも・・・」
レイカは頷いた。
「ええ、私なら・・・いえ私の家なら何とかなります。」
レイカの言葉にヴィレッタは真剣な眼差しを向けた。
「お世話をかけっぱなしね。貴方には・・・。」
「これもスポンサーの役目ですよ。それに貴方がいなかったらユナさん達やゲッPーXも我々に協力しなかった。礼を言うのは私のほうかも。」
そう言ってレイカは歩き出した。
「レイカさん。TDFハワイ基地はまだ何処の勢力の攻撃も受けていない。通信はそこを経由すればいい。私の名前を使ってもいいわ。」
ヴィレッタはそれだけ言って去って行った。レイカはそれを微笑しながら見送った。
そしてレイカはホワイトローズの通信室にやってきた。元々情報収集艦のコンピューターを流用しているホワイトローズは通信能力にも優れている。
「さて、始めますか・・・。レーザー通信用意っと・・・。」
レイカは現在のホワイトローズの停泊場所が海に近い事を感謝していた。ここからなら太平洋のハワイ基地へレーザーによる通信がやり易いからだ。
「・・・・繋がった。こちらTDF極東本部所属、特務部隊オンディーヌ旗艦ホワイトローズ。私はディアナ17のパイロット『天宮レイカ』・・・・。」
レイカの通信は一時間に及んだ。それほど重要な事らしかった。
「・・・そうですか!解りました。では六日後に・・・・。はい、わがままを聞いてくださって感謝します。」
レイカの通信はそこで終わった。
「ふう・・・」
レイカは一息ついてから通信室を出た。そこでユナと鉢合わせになった。
「あれ?レイカちゃん。通信室に何か用でも合ったの?」
すると、レイカは微笑んで答えた。
「ええ、ヴィレッタ隊長の命令でね。補給の手配と・・・」
「手配と?」
「ちょっとした、通販ね。」
ユグドラシルのドックではバルト達が慌しく出港準備に追われていた。
TDFの協力が得られた事で、戦力が充分になったのでいよいよマルー救出の為に行動を起こそうとしていたのだ。
アジトがゲブラーに発見された以上、一刻も早くここを離れなければならなかったのも理由の一つだ。話し合いの結果、最低限の人員のみ残し、残りは脱出させる事にした。
幸いユグドラシルは無傷であったので、出発次第ホワイトローズと合流し、アヴェに向かう予定であった。
「よし、出港だ。まずはTDFの連中と合流しなきゃな!」
「若、彼等は『オンディーヌ』という名前ですよ。いい加減に憶えてください。」
シグルドが言うとバルトは頭を掻いた。
「あ?そうだっけかな・・・。いや〜ややこしい部隊名だな。どんな意味なんだ?」
「確か・・・、旧西暦1939年に発表された戯曲の名前ですよ。1811年に書かれたメルヘン小説『ウインディーネ』を原作とする三幕劇ですよ。オンディーヌというのは、地・水・風・火の四大元素の精霊の中で、美しい姿を持つ事の出来た水の精の名前ですよ。」
シグロドはそうバルトに説明した。
「ふうん・・・。どんな話なんだ?」
「それはですね。ある老夫婦の養女として育てられた水の妖精が、凛々しい騎士に恋する話なんですよ。ですが妖精であるが故に愛しい人とは相容れない定めを背負っていまして。人間からも妖精からも迫害を受けてしまうんです。そして最後は愛しい人の命は消え、人間界にいた時の記憶を失ってしまうという悲しいお話です。」
シグルドはそう言った。
「その話なら私も知っていますよ。」
いつのまにか二人の後ろにシタンがいた。
「そう・・・。愛しながらも相容れることができず、苦しむんですよね。純粋無垢な心がいかに現実の人間の世界と相容れない・・・。見事に描かれたお話ですよ。」
するとバルトは、おおっ!と何かに感づいたように言った。
「じゃあTDFの連中は、今みたいに対立している連中・・・。つまり『相容れない』奴等と、出来る事なら分り合おうと考えてるのか!」
シグルドとシタンは頷いた。
「恐らくそうでしょう。アヴェにもソラリスにだって、戦いばかりを好む人間だけじゃないんですから。つまり、水の妖精が決して相容れることが出来なかった悲しみを彼等は、覆そうとしてるんですよ。」
シグルドはそう言った。
「だからこそ、協調しようと努力したが、無念な結果に終わった水の妖精の名前を部隊名にしたのでしょう。」
するとバルトはにやりと笑った。
「かっこいいじゃねえか・・・。俺達もそんなイカした名前が欲しいもんだな。さあ、出港だ!」
バルトの号令を受けて、ユグドラシルは住み慣れたアジトを後にした・・・。
アジトを離れたユグドラシルは、ホワイトローズと合流した後、アヴェ政庁から、少し離れた海岸線に停泊していた。ホワイトローズは岸壁近くにその船体を浮かべていたが、潜砂艦であるユグドラは浜辺に停泊していた。
彼等はここでマルー救出の為の作戦を練る為と、TDFからの補給を待っていたのだ。
アジトを離れて四日・・・。一応、偵察としてバルト・フェイ・シタンそしてお嬢様軍団がアヴェ中央政庁に潜り込んではいたが、具体的な救出プランは何一つ出ていなかった。
それに、頼みのTDFからの補給物資も今だ届いていない為、満足な戦闘行動も出来ずにいた。
「くそっ!どうすりゃいいんだ。」
バルトはホワイトローズの中央作戦室で苛立っていた。ぐずぐずしている暇は無いからだ。だが、具体的な救出プランが出ない以上うかつな行動も取れない。
「まあ若君、落ち着いて、今日の偵察に出ているリアさん達の報告を待ちましょう。」
シタンが言い聞かせるが、バルトの苛立ちは隠せない。
「まあ、我々もソラリスに関わっている奴の情報は欲しいしな・・・。」
ヴィレッタはいたって平然と言った。だが、そんな平静を崩すような報告が飛びこんできた。
「みんな、大変よ!!ソラリスが、ソラリスが!!」
作戦室に大慌てで少女が飛びこんできた。お嬢様軍団の一人『闘魂のマミ』だ。ソフトボールを得意とするお嬢様だ。今日は彼女が偵察に出ていたのだ。
「落ち着きなさい。ソラリスがどうしたの?」
ヴィレッタが叱責する。マミは呼吸を整えて、口を開いた。
「落ち着けないわよ隊長。さっきソラリスの・・・いえ!ゲブラーの司令官がアヴェ政庁にやってきたんです!」
『なんだってぇ!!』
その場にいた全員が度肝を抜かれた。
「そんな!レーダーには何も・・・」
ライが詰め寄った。もしそんな大人物がやってくるのなら降下船の反応が必ずあるからだ。
「巧妙なステルスと光学迷彩です。無理ありません。私達の頭上にいきなり現れたんですから。それで私達・・・。危険を承知でギリギリまで内部に潜入してみたんです。」
「危ない事しますね・・・。」
シタンが感心したように言った。
「そうしたら、間違い無くゲブラーの総司令官『カーラン=ラムサス』って男が、シャーカーンの招きを受けていたんです!」
「ラムサスですって!!」
シタンは声を荒げた。少し驚く全員。
「あ?スミマセンつい・・・。ラムサスですか・・・元エレメンツにしてゲブラーの全指揮権を持つ男・・・。」
シタンの言葉にシグルドも何かを考えているようだった。
「他には?何か掴めていないのかい。」
ライが尋ねる。
「はい。どうやら、そのラムサスという男はアヴェに発掘兵器を準備させていたらしいんです。具体的な事は全然・・・。」
マミが申し訳なさそうに答える。
「いや、それだけ掴めたなら上出来だ。他には?」
「はい。それとマルーさんの居場所がわかりました!ファティマ城の東の塔に幽閉されています。目的は解りませんがラムサスが接触したみたいです。」
すると、バルトはいきなりマミの手を握り締めた。
「ありがとうよ!!それだけ調べてくれたなんて・・・感謝する!」
バルトは本気で言っていた。困惑するマミ。
「照れちゃうな・・・・。でも今日はかなり気を使いましたよ・・・。」
バルトはそこでヴィレッタ達に向かって言った。
「こうなったら一刻の猶予もねえ!明日にでも突入しよう!」
「無茶だ・・・。補給も無い今のまま突入したら敵の思う壺だぞ・・・。」
冷淡に言い切るヴィレッタ。苛立つバルト。重苦しい空気が流れる中、新たな報告が飛びこんできた。
希望と言う名の・・・・
「来ました!隊長!!TDFの補給艦隊です!!」
会議室にリュウセイが飛びこんできた。顔には満面の笑みが浮かんでいる。ヴィレッタはそれを聞き、無言で立ちあがった。
「勝利のカギがついたのね・・・・」
ホワイトローズが浮かんでいる海面に同じように、超大型の飛行艇が何機も浮かんでいた。これぞ、レイカが依頼したTDFの誇る、補給艦隊であった。
「すっげえデカイ飛行機・・・。あれなら一杯物運んでこられるよね。」
甲板の上から大地は飛行艇群を眺めていた。早速、補給艦隊のクルーはホワイトローズに物資を運び込んでいた。
「なんか一杯、運び出してるけどなんだろう?」
大地が呆然と眺めている時、リュウセイが声をかけた。
「大地!格納庫に来てみろ!!すっげえ数の新型のロボット積み込んでるぜ!!」
「ロボット?」
「こ、こいつは・・・・・」
「凄い・・・」
サルペンとプロンガーは、補給物資と一緒に運ばれてきたある物に絶句していた。何と言ったらいいか解らないくらいの光景がサルペンの目の前にあった。
「サルペンさ〜ん。」
大地が呼びかけた。だが、返事は無い。不思議に思った大地が前を見るとそこにはとんでもない物があった。
「す、凄いや・・・」
一緒にいたリュウセイも言葉を失う。そこへ話を聞きつけたユナもやってきた。ユナも目の前の光景に驚きを隠せなかった。
「これが・・・レイカちゃんが言っていた通販・・・。」
皆の目の前にあった物・・・。それは二十体は超える数のバーチャロイドであった!
「ぜ、全タイプが揃ってる・・・。」
「しかも、小隊単位でな・・・」
サルペンは声がかすれかすれでしか出なかった。プロンガーも同様だ。二人の目の前にはVR社が開発した人型兵器バーチャロイド、全八タイプ、全てが揃えられていた。
「テムジン・・・ドルカス・・・ベルグドル・・・バルバスバウまである・・・」
サルペンはVR達を一つ一つ確かめながら言っていた。
「バイパーUにフェイェン・・・アファームド・・・予備のライデンまで。凄い、凄い取り揃えだ・・・」
「喜んでいただけたかしら?」
サルペンに声がかけられた。サルペンが振りかえるとそこには赤色の軍服を着た厳しそうな女性が立っていた。
「貴方は?」
女性は姿勢を正して敬礼した。
「申し送れました。私はTDF陸軍第四レプトス小隊隊長、『マリー=ミヤビ』少尉です。今回の補給艦隊護衛の任務についている者です。」
ミヤビ少尉はそう言った。慌ててサルペンとプロンガーも敬礼を返す。
「私はミミー=サルペン准尉。ここの副隊長をしています。この度は任務ご苦労でした。」
「自分は、ダッシュ=プロンガー曹長です。しかし、これだけの数のVRをどうやって・・・?」
すると、ミヤビ少尉は不思議な顔をした。
「ええ?天宮さんから聞いていないんですか?これは全て天宮さんが天宮財閥の子会社名義でVR社から購入した物ですよ。」
「購入!?」
サルペンは面食らった。そこに当の本人であるレイカがやってきた。
「ミヤビ少尉、今回は無理を言って申し訳ありませんでした。」
レイカはミヤビ少尉に頭を下げた。
「いえいえ、これくらいお安いご用ですよ!頭を上げてください。それに我々にはこの位の事しか出来ませんから・・・」
ミヤビ少尉はレイカに言った。それでやっとレイカは頭を上げた。そしてその頭をサルペンに向けた。
「サルペン准尉、これでどうかしら?とりあえず揃えるだけ揃えたけど。それと申し訳無いけどライデンだけは二機しか補充できなかったけどね。」
すると、サルペンは首を横に振った。そしてレイカの手を取った。
「充分よ。ありがとう・・・でもどうやってバーチャロイドをこんなに購入できたの?」
レイカは平然と答えた。
「VR社は元々企業でしょう?お金さえ出せばあっさりと売ってくれたわ。もちろん、直接私の家の名義で購入するのは危険だから、家が投資している別系統の子会社を通して買ったのよ。」
はあ〜・・・・と、その場にいた全員がレイカのセリフに溜息をついた。レイカは何をもってしてもまさしく正真正銘の『御令嬢』らしい。
「レイカさん・・・貴方本当に、凄いお嬢様ねえ・・・。高かったでしょ?これ(VR)・・・・」
サルペンがVRを指差して言った。するとレイカは首を横に振った。
「お父様が言うには、そんなに掛からなかった。と言ってましたわ。ディアナに比べたら安い物だって。それに大量購入だから、VR社も値引きしてくれたわ。なにか在庫処分セールみたいだった・・・と。」
レイカは何気なく言ったが、何故か目は真剣だった。その意味はサルペンはすぐに察した。
「レイカさん・・・VRの在庫処分セールと言ったわね。それってつまり・・・」
レイカは頷いた。
「ええ・・・。ヴィレッタ大尉がVR社に潜り込ませている諜報員の情報によると、月のVRプラントが最近稼動率を高めているらしいのよ。その証拠に二機とはいえ、ライデンが購入できた事と合わせて考えると・・・」
サルペンは確信した。
「VRAにいた頃、噂程度だったけど本当に開発・・・いえ量産体制に入ろうとしてるんだわ、『第二世代型VR』が・・・」
レイカも頷いた。
「その証拠も持ってこさせたわ・・・。ミヤビ少尉。」
レイカはミヤビ少尉へ目線を移した。ミヤビ少尉は頷いて無線に何か話しかけた。
すると、すぐに格納庫に新たなVRが何機か運び込まれてきた。それはVRテムジンに酷似した灰色のVRだった。
「あれは・・・」
サルペンが尋ねるとレイカは即答した。
「10/80(テンエイティ)・・・。テムジンをベースにした、VR社の次期主力量産型候補の機体・・。使い勝手はテムジンとそう変わらないハズよ。そして第二世代型VRの踏み台・・・・。」
レイカはそう言った。サルペンは黙って頷いた。そして理解した。何故レイカがこれだけの数のVRを購入したかを。それは、ただの補充の為ではない。来るべく次世代型VRとの戦闘をも考慮に入れての事なのだ。
恐らく次世代型のVRは現行のどの機体をも凌駕する性能を有しているに間違いない。そうなれば旧式化したVRで立ち向かうには『数』でしかない。その為にこれだけの数を購入したのだ。
そんな中、VRを補充したと聞きつけて続々とオンディーヌのメンバー達が格納庫に現れた。
「うわ〜凄いいっぱいあるな〜。」
将輝がVRを見渡して言った。
「ライデン以外にもこんなに種類があるのね・・・」
香田奈が感心したように言う。
そこで気を取り戻したリュウセイは、カメラ片手にVRをあれこれ撮影し始めた。
「うお〜!どれもカッコイイなぁ!みんな何て名前なんだろ?」
その言葉にサルペンは苦笑して、リュウセイに話しかけた。
「いいわよ。説明したげる。」
すると、リュウセイだけでなく大地やユナまでサルペンに寄ってきた。
「じゃあさ!あれ!あの朱色でハンマー持ってる奴!」
大地が指差したVRは確かに左腕がハンマーになっていた。
「あれは『ドルカス』。重VRの中で最も安定性が高くて、どの距離でも高い攻撃力と火力を持った機体。」
「あの紫色の奴は?足が無いけど。」
次に大地が尋ねたVRは足が無く、桶のような物が下半身になっていた。
「『バルバスバウ』、試作機ね。遠隔攻撃を得意とする機体で、水中戦にも対応できるのよ。」
「緑色の奴は?ライデンに似ているけど。」
今度は将輝が尋ねた。
「ああ『ベルグドル』よ。高価なライデンに代わって支援型として採用されたVR。重心が高いのが欠点だけど、全VRの中で最も火器の信頼性が高い機体でもあるのよ。」
「じゃあ、あの『いかにもっ軍人っ!』って感じのVRは?」
その問いにはプロンガー曹長が答えた。
「『アファームド』だ。格闘戦を重点的に開発されたVRで、短距離ダッシュはな、音速を超えるぜ。」
プロンガーはにやりと笑った。
「あの赤と紫のカッコイイ奴は?飛行機みたいな印象がするんだけど・・・」
将輝が次にしめしたのは、赤と紫に塗装されたスマートで航空機を思わせるVRだった。
「あれはな『バイパーU』。偵察機だ。さっき飛行機みたいって言ったな?飛べるぜコイツ。その為、装甲がペーパークラフトみたいなもんだがな。」
軽い口を叩いたが、プロンガーはバイパーUを見て、昔の仲間を思い出していた。
「(バイモルフ・・・バイパーを見ると、お前を思い出すよ。お前とは戦いたくねえ、頼むから現役に復帰するなよ)」
そんなプロンガーの心中も知らず、今度はユナが尋ねた。
「ねえねえ、曹長。あれガ○ダム?」
ユナが尋ねたVR・・・。それは白くスマートで、ビームライフルを持ち、緑色の目で頭部から二本のアンテナを生やしたVRだった。
「本当・・・。ガン○ムみたいだ。ディクセンより○ンダムに似てるな・・・」
将輝が平然と同意する。サルペンは慌てて解説し始めた。
「違う!ガンダ○じゃないの!あれは『テムジン』!全VRの中で最もバランスが取れていて、なおかつ秀でた所は無いけど落ち度も無い極めて優秀な機体なの!」
サルペンは必死で解説していた。すると、大地が口を開いた。
「なあ、ハルマさん呼んでこようよ。ディクセンと並べてさ、どっちがガ○ダムみたいか比べてみようよ。」
すると、サルペンは大地の両肩を掴んで言った。
「やめなさい。」
大地は黙って頷いた。
「そういやリュウセイ少尉、写真もう取らないんですか?」
香田奈が近くにいたリュウセイに尋ねた。するとリュウセイはまるで上の空で、ほほを赤く染めて、何か一点を見つめていた。
「??」
不思議に思った香田奈が近づくと、リュウセイは一言だけ口にした。
「可愛い・・・。なんて可愛いらしんだ。」
何を言っているのか不信に思った香田奈はリュウセイの目線の先を見た。するとそこには・・・・
「あらま。」
香田奈が見たのは、明らかに女性を・・・いや少女を模したVRが立っていた。
「サルペン准尉・・・。あれなんです?なんかの冗談ですか?」
香田奈が尋ねるとサルペンは、複雑な表情で話し出した。
「いえ、VR社の最新鋭機・・・。全VR中最高の機動力を誇るの・・・。名前は『フェイェン』。火力も申し分無くてね、VRAじゃあ人気の高い機体よ・・。」
サルペンの心中は複雑であったに違いない。今までのVRが明らかに軍用そのものの外観をしているのに、この機体だけが・・・何故!?と・・・
「そうか〜フェイェンちゃんって言うのか〜♪いや〜可愛いなぁ。ディアナやクイーンフェアリーと違って、何と言うか・・・未成熟な少女を思わせるんだよな〜♪あのおさげと、ミニスカートが何とも・・・♪」
すっかりリュウセイは自分の世界へ入っていた。おさげ(頭部アンテナ)とミニスカート(腰部装甲)が気に入ったらしい。香田奈は話しかける気が失せた。
「んん?」
将輝が何かに気付いた。それは艦の外に停泊している補給艦隊を護衛しているロボット達であった。明らかにPTやVRでもギアでもない機体が何機もあった。しかも皆同じ型だ。
「あのロボットなんだろう・・・。TDFにあんな細身のPTがあったのかな?」
将輝が何気なく呟く。すると、その疑問にいつのまにか姿を見せたライが答えた。補給物資の手続きに格納庫に降りてきていたのだ。
「あれは、VA(ヴァリアント・アーマー)だ。RF−004型・・・レプトスタイプだな。」
ライはそう言った。
「ヴァリアント・アーマー?なんですかそれは?」
「PT採用以前のTDFの主力兵器だ。旧式化してるが、まあPTが主力になってまだ数年だ。まだ立派に第一戦で戦えるがな。PTが行き届いていない地域やコロニー等に配備されている。それに工作部隊や特務部隊には汎用性と信頼性・整備性の良さから根強い人気があるんだ。」
ライは護衛についているレプトスを見ながらそう答えた。
「あれがレプトス・タイプといってVAの中では最も機動力が高く、汎用性も高い。特殊工作なんかにも向いてる機体なんだ。」
「ふ〜ん・・・。VAねぇ・・」
何気なく言った将輝だが、この後将輝と香田奈が出くわす事になる大事件に、あるVAが大きく関わってくる事を今は誰も知らない・・・・。
「補給はあと数時間で終了します。補充したVRのお陰でライデンの修理にも目途が立ちました。ただ・・損傷が思った以上に酷いので205号機以外のライデンはしばらく使えません。」
ライは作戦室のヴィレッタにそう報告した。
「そう・・。それまでサルペン准尉には別のVRで辛抱してもらうわね。」
「なら、補給が済み次第すぐにマルーの救出に行こうぜ!もう待っていられねえ!」
バルトが怒鳴るようにヴィレッタに話しかける。だがヴィレッタは黙ったままだ。
「若!落ち着いて。」
シグルドが押さえるが、バルトの苛立ちは頂点に達しようとしていた。が、その時、いちじんの風と共にいきなり作戦室に装甲を見に纏ったリアが姿を現した。
「うわっ!アンタどこから出てきた!?」
慌てるのはバルト一人だった。他のメンバーは平然としていた。まるで当たり前のように・・
「リアさんはテレポートが出きるのよ。ESPの一種ね、珍しい事も無い・・・」
ヴィレッタが平然と言いきった。それを聞いて困惑するバルト。
「俺は充分珍しいぞ・・・。その力でマルー助けてくれればいいのによぉ。」
「行った事の無い場所は無理よ。」
リアはそれだけ言って、目線をヴィレッタに向けた。
「隊長。救出作戦に都合のいいイベントを見つけてきたわ。」
ヴィレッタは目だけを動かした。
「どんな・・・イベントなの?」
「武道大会です。調べた結果、シャーカーンが自分の立場を国民に知らしめるための宣伝・・・と、言ったところね。どうやらラムサスとか言う男も観覧するみたいだし、使えないかしら・・・」
すると、口を開いたのはヴィレッタではなくシタンだった。
「それは使えますよ!そうですね、部隊の中から格闘技に優れたメンバーを選抜して、大会に出場させるんですよ。派手に暴れてもらってみんなの目をそこに釘付けにしておいて・・・・」
その後をシグルドが引き継いで話し出した。
「その隙に、お嬢さん達が探り当てた潜入ルートから救出部隊を送り込む・・・。いけるな。」
その提案にヴィレッタが初めて口を開いた。
「それで行こう。大会に参加させるのは、そうねフェイ君、リアさん・・・いえポリリーナで出てもらったほうが目立つわね。それと後一人ぐらい・・・」
すると、作戦室にまたもいきなり人が飛び込んできた。チャイナ服を着たお嬢様軍団の一人、『チャイナの麗美』だ。
「お待たせ〜!三時のお茶の時間ヨ〜!!」
「・・・貴方ね。」
「??」
ヴィレッタの一言の意味が解らず困惑する麗美であった・・・・
次回予告
マルー救出作戦始まる!!武道大会に出場する事となった三人の試合の行方はいかに!?
そして、ファティマ城に潜入したバルト達に、危機が迫る!出動だ!バーチャロイド『バイパーU』バルトのピンチを救え!!そしてフェイは謎の男に出会う、果たして奴は何者か?それは・・・・
『弾丸よりも速く!(嘘です)』 『力は機関車よりも強く(多分無理)』 『高いビルディングもひとっとび!(それならなんとか・・・)』 そうです『ワイズマン』は仕事の都合で忙しくて地球の平和を守れないのです!
『わっいっずっ、まあ〜ん♪(旧ミク○マンのCM風に)』
次回 サイバーロボット大戦 第二十一話『教母救出大作戦!そして再会・・・』に、次も長くなりそう!
次回も出場選手がすげえぜ!! 『ワイズマンごっこは、あまり面白くないから真似しちゃ駄目だぞ。』