第十九話    「強襲!ゲブラー特務隊・立ちあがれ!ヴェルトール!」




 光学迷彩───それは艦体の表面に、特殊な鏡面効果や周囲の風景の色と同化させる事によって艦をまるで姿を消したかのように見せる特殊装備である。
 TDFの戦力は決して多くない。極東付近にしか戦力が無いのもご存知だろう。寄せ集めの流用部品で構成された改造艦ホワイトローズと言えど、貴重な戦力だ。
 地球の平和を守る・・・・と言う、崇高な使命を帯びたオンディーヌ隊。だが、その実情は各地を転戦するゲリラ的な戦いしか出来ないのが実情だ。遊撃部隊と言えば聞えは良いが、その実情は外宇宙からの侵略者の拠点を一つ一つ潰して行く小規模的な戦いしか出来ない。
 それゆえ、ただ一艦しかないホワイトローズを何が何でも存続させなければならない。その為には、『可能な限り』敵から攻撃を受けないようにするしかない。光学迷彩はそんな為の装備だった。
 良く言えば『隠密製の高いステルス艦』だが、悪く言えば『唯一のものを壊されない為の苦肉の策』とも言えなくない。
 その光学迷彩に身を包み、ホワイトローズはバルト達海賊アジトがあると言われる場所にやってきた。目の前の気高い一本杉がその入り口らしい。
 「では、いくとするか・・・。いくぞライディース少尉、ヴィレッタ少佐。」
 「はい。」
 「了解。」
 艦長は席を立ち、二人に呼びかけた。ライとヴィレッタが続く。そのヴィレッタの後を詩織が看護バックを持ってついて行く。ヴィレッタの傷は完治していないからだ。急所は外れていたとは言え、銃で撃たれた傷が1週間くらいで完治するわけない。だが会談ぐらいなら出来るまでに回復している。が、念の為に看護婦である詩織がついているのだ。ヴィレッタはオンディーヌ隊に無くてはならない人物だからだ。
 「サイモン少佐、サルペン准尉。後はよろしく頼む。」
 艦長は後を二人に任せるとブリッジを後にした。
 そして数分後・・・・ライと艦長を乗せたアルブレードと、ヴィレッタと詩織を乗せたR−GUNが海賊アジトの秘密の入り口に向かって飛んだ。

 「あたしも行きたかったな〜。」
 砂の中へ消えて行くアルブレードとR−GUNを見送りながらユナがぼやいた、彼女は好奇心旺盛なので、珍しいところが大好きなのだ。名残惜しそうに砂漠を見つめる。
 「遊びに行くんじゃないわよ。」
 サルペンが飽きれたように呟く。
 「大事な会談なんだから・・・解かってんの?第一、ユナ〜。貴方みんなが整備や解析作業で忙しいのに、何油売ってんの。」
 サルペンの声にユナは背中を丸めて呟いた。
 「だって・・・あたし機械はわかんないし・・・そ〜ゆ〜事はエルナーや結奈ちゃんに任せてるし!」
 「解析は!」
 サルペンがまるで、出来の悪い生徒に詰め寄る先生のように言う。
 「コンピューターは・・・機械以上にサッパリ・・・・アハハ・・・」
 「貴方に期待した私がバカだった・・・」
 サルペンはハア・・・と溜息を一つついた。
 「貴方、お嬢様でしょ?なんか特技無いの?」
 「歌と踊り〜・・・」
 「もういいわ・・・」
 飽きれるサルペン。だが、ユナのその能力が、後に多大な功績を上げる事にこの時誰も気付かなかった。

 その頃、ホワイトローズの中央電算室、つまりコンピュータールームではエリカが入手してきた宇宙悪魔帝国のデータの解析作業が進められていた。
 ホワイトローズのメインコンピューターはTDFの情報収集艦の物を流用して使用している。事に分析能力には長けているのだ。それをレイカを中心とする即席分析チームが組まれ、分析に当たっていた。
 解析チームは、レイカ・エリカ・エミリー・そしてハルマが担当していた。特にハルマはギュフーに敗れた事を挽回するかのように、頭に包帯を巻いたままで端末に向かって作業に追われていた。
 「どう?そっちは・・・」
 レイカが一息ついて他のメンバーに尋ねる。だが、エリカを初め三人は首を横に振った。
 「まだまだよ・・・地球の言葉に訳するだけで一苦労。なんて複雑なんだろう・・・」
 ハルマが手元にあるコーヒーを口にしながら答えた。他の二人も同様だ。
 「結構、手間取るわ。簡単にはいかないわね。」
 エリカが苦笑しながら言う。
 「一つ一つ、解きほぐして行くしかないのか・・・」
 レイカは、また端末に向かった。
 「紐尾さんが手伝ってくれれば、一番なんだけど・・・」
 レイカの言う通り、本当ならば、電脳技術にも優れた結奈が中心となるのが一番いい。だがそうはいかない訳があった。司令部襲撃で、傷ついたロボット達を修理する為だからだ。そしてもう一つ、重要な事があった・・・

 「キカイオーのパワーアップ!?」
 結奈は、珍しく声を挙げた。それ程の事なのだ。彼女の前には懇願するジュンペイの姿があった。
 「頼む!やってくれ!もうさっきみたいな無様な真似は晒したくないんだ!!」
 必死で頭を下げるジュンペイ。しかし結奈は良い顔をしない。
 「今のままでも、十分過ぎるほど敵には通用するわよ。」
 確かにその通りである。キカイオーの戦闘力はオンディーヌ隊の中でもトップである。事にパワーと防御力に関しては、ほぼ無敵である。
 「お前ならやれるんだろう?聞いたぜ、今のキカイオーの『超次元機関』は完全に覚醒してないって!」
 結奈は、溜息をついた。
 「アナタ・・・何でこの天才の私ともあろう者が、今まで超次元機関に手を出していなかったかお解かり?」
 ジュンペイは首を横に振る。
 「特別に教えてあげるわ。よく聞きなさい。超次元機関の能力は未だ未知数なの、もしここで安易に出力を全開にしてみなさい!この艦どころか、地球全体が吹き飛ぶわよ!!」
 ジュンペイは言葉を失った。まさかそこまで強力とは思っていなかったらしい。
 「巽博士の資料が正しいなら、超次元機関が完全に解明されるまでは、今まで通り出力を押さえておくしかないのよ。御分かり?」
 結奈はそう言いきると背を向けて去っていこうとした。やる事は山ほどあるからだ。
 「今、どのくらい押さえてるんだ?出力・・・」
 立ち去ろうとしている結奈にジュンペイがボソリと言った。
 「なあ、どうなんだよ・・・」
 結奈は背を向けたまま口を開いた。
 「推定の最大出力の六分の一よ・・・」
 「半分くらいにならないか?」
 結奈は無言で立ち去って行った。その姿にジュンペイは苦笑した。
 「悪い事聞いたな・・・じゃあな、キカイオー頼んだぜ。」
 ジュンペイは結奈とは反対方向に向かって歩き出そうとした。
 「半分は無理・・・。でも三分の一くらいなら、今の状態でも問題無いわ・・・」
 「!!」
 ジュンペイは振りかえった。見ると結奈はそれだけ言って去って行った。ジュンペイは結奈に向かって無言で頭を下げた。



 そこがどこなのかは解らない。ただ真っ暗な空間があるだけだった。その空間に、数人の男女が椅子に腰掛けていた。そしてその中央に一人の女性がひざまづいていた。その女性はオンディーヌ隊によって地上前線司令部を失ったヒッサー将軍であった。
 彼女は地上司令部損失についての責任を負われようとしていた。いわゆる査問である。
 ヒッサーの目の前には大型のモニターがあり、そこに緑色の顔をしたまるで鬼そのものを思わせる男が映っていた。この男こそ、『宇宙悪魔帝国』の首領『魔王デービン』であった。
 「ハイル・デービン!」
 ヒッサー将軍は片手を上げる忠誠のポーズを取る。
 「ヒッサーよ!この度の始末はなんだ!!日本地区の制圧に失敗続きの上、地上司令部まで失う始末!」
 表情は読み取れないが、デービンの口調には明らかに怒りが含まれていた。
 「申し訳ありません、デービン様。TDFが意外と手強く・・・」
 「言い分けはよい!」
 「ははっ。」
 ヒッサーは頭を深深と下げるしかなかった。
 「よいか!これ以上の失態を繰り返すようなら、貴様の命無いものと思え!」
 「ははっ!!」
 ヒッサーが頭を下げているのを確認したのか、デービンの目線はヒッサーの後方で座っている男に移った。
 その男は誰あろうバグ=ナクであった。
 「ナク監査官。第三者の目から見て今回の失態、どう思う。」
 デービンはナクに向かって言う。ナクはひざまづき口を開いた。
 「デービン様。この度の失態を私なりに分析した結果、TDFの部隊は今のところ統制があまり取れておりません。一機一機が途出した戦闘力を持っております故、自己主張が激しく、身勝手な行動が目立ちます。所詮寄り合い所帯の即席部隊に過ぎません。」
 「ヒッサーはそのような部隊に敗れたのか!」
 「はい。残念ながら・・・」
 口ではそう言いながら、ナクの顔は緩んでいた。
 「統制は取れていないにしろ、その戦闘力の凄まじさだけ途出しておりますので、まあヒッサー将軍が苦戦したのも無理は無いかと・・・」
 ナクの口調は明らかにヒッサーを愚弄していた。
 「その中には我々が最も欲する『究極の力』ことキカイオーも存在しております。」
 ナクは淡々と報告する。その内容に、査問会に参加している幹部達は黙って耳を傾けていた。その中でシャドーレッドのみ僅かに顔を動かした。
 「結局、成果無し・・・と、言う事ですか。」
 同席しているフロイライン=Dが呟く。するとナクはにやりと微笑む。
 「はい。ヒッサー将軍はですが・・・」
 その言葉に、同じくシャドーレッドが訪ねる。
 「ヒッサー将軍は・・・と言う事は、お主にはあるのか?成果が。」
 ナクは表情を変えず、一枚のディスクを取り出す。
 「はい。肝心の『ファティマの至宝』の情報は得られませんでしたが、この中には、TDFのロボットのデータが納められております。」
 「ほう・・・」
 「中には、不完全にしろキカイオーのデータも含まれております。このデータを基にすれば不完全ながらも『超次元機関』を・・・」
 その言葉に全員が目を見張った。超次元機関・・・・彼等にしてみれば、喉から手が出るほど欲しいものだ。
 「超次元機関・・・ファティマの至宝以上に、我々が欲するもの。それらを我々が使えるようになれば、ソラリスもDN社も敵ではない!!」
 フロイライン=Dが目を見張りながら言う。
 「調査の結果、現段階ではオリジナルの約62%の性能を発揮できる物が造れるかと・・・」
 ナクはあくまでも事務的口調で言う。
 「では、公平にコピーしたデータを皆さんの陣営にお送りしましょう。オリジナルはゴルディバス様へ献上しなくては。」
 「うむ。」
 「よかろう。」
 「わかりましたわ。」
 それぞれの陣営が納得したようである。
 それを見てナクは心の奥底で微笑んだ。
 (単純な奴らだ・・・・肝心な個所は数値を変えているのに・・・)
 ナクは続いて映像モニターを示した。
 「ご覧ください。私が今回得た、最高の成果です。」
 モニターにはハンガーに立ち尽くしている一機の人型兵器だった。
 「こ・こいつは!!」
 フロイラン=Dは目を見張った。そこに映し出されていたのは紛れも無くディクセン三号機だった。
 「私が捕獲したTDFの対自動機械群・・・・つまりゴルディバス軍対抗兵器『FX−004S・ディクセン』。その三号機です。」
 「なんと・・・・!!」
 フロイラインは、驚いていた。自分に苦渋を舐めさした忌々しいロボットが自分たちの軍門に下っていたのだから。
 「ディクセンの性能はフロイライン殿がよくご存知のはず。」
 フロイラインは黙って頷いた。
 「捕獲した際、少々頭部を損傷させましたが、ボディそのものは殆ど無傷。いかがですか?」
 ナクはあくまでも表情を変えずに言った。すると、いきなりヒッサーが立ちあがりナクの胸倉を掴んだ。
 「貴様!私の支援もせずにのうのうと新型機の捕獲を!!」
 だが、ナクは表情を変えない。
 「私はあの時、『おいとまする』と言ったはずですが?ディクセンは私が脱出する際に偶然、あくまでも偶然捕獲できたにすぎません。まあ、『予想外の戦果』というところです。」
 「くっ!」
 ヒッサーは憎たらしげにナクを突き放した。ナクは平然と乱れた服装を直す。
 その時、空間に突如立体モニターが現れ、そこに映った女性が厳しい口調で語り出した。
 「フロイライン様、緊急事態です!」
 「なんです。合同会議中ですよ・・・」
 フロイラインが叱責すると、女性は慌てて敬礼した。
 「も・申し訳ございません。」
 「それで、何なのです。緊急事態とは?」
 「は・はい!ソラリスの動きを察知しました。」
 その言葉に全員が目線がモニターに集まる。幹部中の幹部と呼ばれる面々に睨まれ、モニターの女性は少し怯えた様子を見せた。
 「なんだと?!いつもの定期捕獲船ではないのか?」
 シャドーレッドが言う。
 「はい、違います。ゲブラー特務隊の降下船です!まちがいありません。」
 一同は僅かながらざわめいた。
 「ゲブラーが動いたのか・・・降下予測地点は解るか?」
 「はい。アヴェ近郊ブレイダブリクかと・・・」
 その報告にフロイラインは呟いた。
 「アヴェ政庁に向かう気ね・・・・アヴェの事実上の支配者シャーカーンという男は器の小さい男と聞いている。」
 その言葉をシャドーレッドが引き継ぐ。
 「キスレブとの戦に勝つ為、ソラリスの協力を得ていると言うわけか・・・そしてその見返りは、奴らにとって貴重な労働力と、サンプルとしての実験材料たる地球居住者の提供と・・・」
 シャドーレッドはフロイラインへ振り向いた。フロイラインは頷く。
 「ファティマの至宝・・・」
 「ヒッサーがアヴェから撤退したのに感づいて、障害が無くなったのでこれを気に至宝を手にするためだろうな。」
 そこで二人の視線は再度ヒッサーへと向いた。ヒッサーはこの屈辱を顔をしかめて耐えた。
 「備えねばなるまい。ソラリスに・・・」
 シャドーレッドはそれだけ言って皆に背を向けた。
 「ナク監査官。捕獲したディクセン、使わせてもらうぞ。」
 ナクは頷いた。
 「解りました。轟雷は?」
 シャドーレッドは表情を変えず答えた。
 「修理ついでに改造を加える。それまでの繋ぎだ、ディクセンは。」
 それだけ答えてシャドーレッドは姿を消した。それを見てフロイラインはモニターの女性に呼びかけた。
 「我らもソラリスに備えますよ、六花戦の再生状況は?」
 モニターの女性は手もとの端末を見て答えた。
 「はい。『桜花』・『菊花』・『蘭花』・『椿花』のレストアは既に終了しています。残りニ体が現在約86%再生しております、今しばらく時間が掛かるかと・・・」
 「よろしい。作業を急がせなさい。再生できた物から順にソラリスの警戒に当たらせなさい。」
 そう言い、フロイラインも姿を消した。
 「では今回の査問はここまでと、言う事で・・・・」
 最後まで残っていたナクも姿を消した。空間に再び暗闇が戻る。その中でただ一人残されたヒッサーは怒りと屈辱に顔をゆがませていた。
 「くそっ!!」
 ヒッサーは床に自分の杖を叩きつけた・・・


 「ほう・・・なかなかの性能だな。」
 評議会の工場で捕獲したディクセンのコクピットでシャドーレッドはモニターに表示される数値を見て感心していた。
 捕獲されたディクセン三号機は損傷した頭部を外され、首無し状態でテストを受けていた。そしてそのテストパイロットは、「自ら乗り込む」と言ったシャドーレッドが行っていた。
 「ふむ、数値上は問題ない。TDFにしては見事な機体だ、素晴らしい。」
 シャドーレッドはすっかりディクセンにのめり込んでいた。それをナクは黙って見ていた。
 「ストレスチェック終了しました。いかがですか将軍、TDFの新型は?」
 評議会の整備員が訪ねる。
 「見事だ。これなら即実戦も可能だ。ただ、私が使うには幾つか改善点があるがな。」
 シャドーレッドは整備員達にディクセンの改善点を指示し始めた。その様子を黙って見ていたナクの頭に、ある不信な点がよぎった。
 (僅かな時間・・・しかもただアイドリングさせただけで、あそこまで解るものなのか?観察眼が鋭すぎるにも限度はある・・・。シャドーレッド、奴は技術者・・・いやロボット工学者としての才もあるのか?)
 ディクセンの改善プランを技術者達に伝えるシャドーレッドを見てナクは不審な点を拭い去れなかった。
 「各部のリミッターの精度を五割落とし、エンジンの出力を・・・」
 シャドーレッドの指示を整備員達は感心しながら聞いていた。
 「スラスターを背部、脚部に追加・・・それから・・・」
 「赤く塗りますか?」
 (始めてみた地球のメカをあそこまで的確に・・・普通なら考えられん・・・少し探りを入れてみるか・・・)
 ナクは静かにその場を去った。



 海賊アジトに招かれたヴィレッタ達がバルトの私室で会談を行っている最中、フェイとシタンは執事であるメイソン卿に食堂でお茶を振舞われていた。
 「いやはや、同じ年頃のお客人は珍しいとあって、若様のはしゃぐ事、はしゃぐ事。世が世なら若も王宮で賑やかに・・・。」
 「王宮?では、あのバルトと言う少年はファティマ王朝の?」
 シタンが訪ねる。
 「い、いえ・・・年寄りのお喋りがすぎましたかな、ははは・・・」
 メイソン卿は微笑する。
 「いえ、先程、TDFの戦闘艦に会談を行う時に、あの少年には気品がありましたからね・・・。」
 すると、メイソン卿はいきなり表情を輝かせた。
 「むむむ・・・!よくぞ言ってくださった!よろしいお話しましょう。あれこそ憎き宰相シャーカーンに殺された、誇り高きファティマ家の最後の忘れ形見『バルトロメイ=ファティマ殿下』でございます。

 同時刻・・・・バルト私室
 「ファティマ?!聞き覚えがあると思ったら、君があのエドバルト=ファティマ四世のご子息なのか!」
 ライが思わず声を上げる。
 バルトは黙って頷いた。

 「バルトロメイ王子は確か、反政府テロで行方不明と報じられたと聞いていますが・・・?」
 シタンがメイソン卿に尋ねる。メイソン卿は黙って頷いた。
 「はい、表向きには。ですが、真相は違うのです。若は、王亡き後アヴェの実権を握ったシャーカーンに幽閉されていたのです。それを我々がお救いしたのでございます。

 「どうして王位継承権を持つ貴方がレジスタンスとはいえ海賊行為を・・・?」
 ベイツ艦長が尋ねる。
 その問いには副官であるシグルトが答えた。
 「我々は、この地に落ち延びてからただ、若がご立派に成長なされることだけを望んでいました。」
 「王位の復権よりもですか?」
 ヴィレッタが言うと、シグルトは頷いた。
 「そうです。もちろん、いつの日にか再び復権を・・・と願っていなかったと言えば嘘になります。実際、その為の準備もしてまいりました。
 「その一端が海賊行為ですか・・・」
 ヴィレッタが呟くように言う。
 
 メイソン卿がシタンとフェイに向けて悲しげに語り出す。
 「はい。しかし、これには理由がありまして・・・アヴェ、キスレブ共に遺跡発掘に一意専心。その力は日増しに強大になってゆきました。加えて宇宙悪魔帝国やゴルディバスと言った地球外からの侵略まで・・・。」
 メイソン卿は一息ついてから話を続けた。
 「このままでは、同志達の助力を得て反乱を起こしたとしても、シャーカーンが掌握する近衛部隊によって鎮圧されるは必定。我等にも力が必要でした。ユグドラシルを使い遺跡発掘を試みたのですが、思うようになりませんでした。」

 シグルドが深刻そうな顔をして話を続ける。
 「もとより、遺跡発掘には多大な時間と人と資金が必要。いかに潜砂艦といえど砂中に埋もれる小さな遺跡を発見するのが関の山だったのです。」
 ライは頷いた。
 「それで海賊行為を・・・」
 「はい。遺跡技術はアヴェ、キスレブどちらの手に渡っても相手を制圧する戦力となります。両国間の軍事力の均衡をはかりつつ新たな戦力を削ぐ・・・という若の発案に賛同したのです。」

 シタンは茶を一口飲んでから口を開いた。
 「自ら遺跡を発掘するよりも横からかすめとる方が遥かに効率が良い・・・・という訳ですか。」
 その言葉にメイソン卿は悲しげに頷く。
 「無論、略奪という行為それ自体は許されないことなのでしょう。が、しかしアヴェをイグニスを、このままにしてはおけない・・・、と言うのは独善的でしょうか?」
 シタンは首を横に振った。
 「それについては私達外部の者がとやかく言うことではありません。ただ、お話を伺うに貴方達のやっておられる事は結果的に良き事となるのでしょう。ここの子供達を見れば分かりますよ。」
 シタンは、ユグドラシルからアジトに上陸する時、バルトを迎えに来た子供達の事を思い出して言った。
 このアジトには、戦闘員だけでなく、戦闘員の家族や子供。さらに戦災孤児たちが住んでいたからだ。それらの子供達をバルトたちは分け隔てなく愛していた。

 「先程、戦力が整いつつあると、おっしゃいなしたが、何故、事を実行に移さないのです?」
 ヴィレッタがバルト達に質問する。シグルドは顔を曇らせて口を開いた。
 「マルー様さえ、幽閉されていなければ、サイは投げられていたはずなのです。」
 「マルー様?」
 ヴィレッタは聞き覚えの無い人物の名を口にした。



 「それで、会談はどうなったんですか?彼等に協力するんですか?」
 艦に戻ってきたヴィレッタ達にサルペンは尋ねた。
 「とりあえず、今のところは保留だ。だが、協力するかはもう少し話し合わないと・・・」
 艦長はそう答えた。
 「大事な事だ、闇雲に安請け合いするわけにもいかない。」
 ヴィレッタはそう答えた。
 「アヴェとTDFの全面戦争だけは回避しなくては・・・」
 「それはそうと、彼等が我々に協力を申し込んだのは、アヴェ政府奪還だけなんですか?」
 サルペンの問いにヴィレッタは首を横に振った。
 「それだけじゃない。摂政シャーカーンに幽閉されている、ニサン法皇府の教母マルグレーテという方を救出するのにも協力して欲しいらしい。」
 「教母ねえ・・・そんなに大事な人なんですか?」
 サルペンが呟くとゴンザレス軍曹が割り込んだ。
 「それなら有名だ。正確には国家じゃなくて、宗教共同体みたいなもんだな。『ニサン正教』つー教えでな。まああまりデカイ団体じゃね〜んだが、崇拝者がスゲエ多くてよ。このご時世なのに・・・いや今だからこそ、救済を求めてくる奴らが多くいるんだ。」
 軍曹の解説に皆驚いていた。まさか宗教とは無縁そうなこの豪快かつ無骨な軍曹から宗教の話が出るとは思わなかったらしい。
 「詳しいな軍曹。それで?」
 サルペンが感心したように言う。
 「ああ・・・ここからは連邦崩壊前の話なんで、今はどうかは知れねえが『教母』ってのは、その中心人物なんだ。」
 「教祖みたいなもの?」
 サルペンが尋ねる。
 「いや、あくまでも中心人物で象徴みたいなもんだな。簡単に言えば司祭のスゲエ奴ってな感じだな。」
 「でも、なんでシャーカーンが、教母を幽閉してるんだ?」
 今度はサイモンが尋ねる。
 「ファティマの至宝だ。」
 ヴィレッタが言う。
 「至宝・・・?なにそれ?」
 ユナがすっとぼけた言葉を発する。すかさずリアがフォロー。
 「つまり、『宝物』。」
 
「宝物〜!?」
 ブリッジにいた過半数のメンバーがその言葉に反応した。敏感に・・・・
 「その至宝のありかを示す『ファティマの碧玉』という物の半分をそのマルガレーテが持っているらしい。」
 ヴィレッタはそう言った。
 「その宝物ってなに〜!!なんなんですか〜!!」
 ユナが期待を込めた眼差しでヴィレッタに詰め寄る。見れば大地やまみ、ジュンペイまでもが、瞳をうるませていた。
 「い・いや・・・そこまでは教えられていないんだが・・・何でも『危局を救う力』を封じた至宝らしい。」
 「ふ〜ん。なんかスゴイ武器なのかな?」
 ユナが呟く。
 「ロボットだったりして!」
 大地が何気に言ったその言葉を、ヴィレッタは真に受け取っていた。
 (ありえない話じゃない・・・ギアは発掘品だ・・・。その中でも伝説化されるほどの機体があっても不思議じゃない・・・)
 「それはともかく、あのフェイって言う青年は?どうしたんですか。」
 レイカが尋ねると、ライが答えた。
 「ああ・・・今はあのアジトにいる。バルト君がえらく彼に熱を入れていてね・・・」
 すると、ユナが顔を真っ赤にして目を輝かせた。
 「キャー!!男が男に猛烈アタック〜!!」
 「ちょっと違うぞ、それは・・・」
 すっかりと自分の世界に入ってるユナにライはそっと呟いた。


 一方、海賊アジトでは、会談を終えたバルトが食堂にいたフェイ達の元へやってきていた。
 「若、会談の方は終わられたのですか?」
 メイソン卿が尋ねる。
 「おう。さっきな。とりあえず好感触だぜ!」
 くったくの無い笑顔で答えるバルト。その顔は十代の若者そのものであった。
 「そうだ!特別にイイモンみせてやるぜ!」
 バルトはフェイの肩を叩いて手招きした。
 「いいもの・・・ですか?」
 シタンが不思議そうな顔で言う。
 「おう!至宝の正体だよ!!」
 「本当ですか。」
 「おう!古代の絵巻物の中にそれらしい描写があるんだ。」
 そう言い、強引にフェイを立ち上がらせるバルト。
 「作戦室に来てくれ、特別だからよ!!」
 まるでバルトは、子供が自慢のおもちゃを友達に見せびらかしたいような顔をしていた。
 そして一同が立ちあがり、食堂から離れようとした時、食堂の隅から呟くような声が聞こえてきた。
 「!?」
 一同が振り返るとそこには一人の・・・・?いや一頭のピンク色の『羊』がグラスを傾けていた。

 そして男はゆっくりとタバコに火をつけた。酒は一口も減っていない。
 その時、薄暗い奥の部屋から人があらわれた。足音が静かに近づいてくる。
 あの女だ。
 男はわざと視線を下へ向けた。
 「ひさしぶりね、来ると思っていたわ。」
 女はまるで男のしぐさを無視するかのように話しかけた。
 「俺はあの時のことを忘れたわけじゃないんだ。お前の事も許しちゃいない。」
 男は依然下を向いたままで言葉をかえした。
 「あなたはまだ、自分の本当の気持ちに気付いていないのよ。」
 「ここへ来たのがその証拠。」
 「世の中、甘くは無いわ。誰も一人でなんて生きていけない。あなた私に助けをもとめている。」
 「過去を売ったと呼ばれている、私みたいな人間にね。」
 「ちがう! ちがうんだ!」
 男はテーブルをたたき、立ちあがった。こぼれた酒が、そでを濡らす。
 「過去を売った女?それだけじゃないだろう?言ってやろうか、お前は!」

 「この後の展開が気になるんですが・・・・」
 シタンはピンクの羊を見ながらそう呟いた。
 「彼は?誰なんですか?」
 バルトは難しい顔をしてためらいがちに答えた。
 「キスレブとの国境近くで倒れていたの拾ったんだよ・・・当人は悪気は無いだろうが、話がながくてよ〜。」
 「ほお・・・名前は?」
 「確か・・・『モンゴメリー』とか言ってたな・・・子供達はモンゴメリーさん、と読んでるんだが・・・」
 羊は依然呟きをやめようとしなかったので、バルト達は無視してさっさと出ていった。

 「こいつは凄い!ここまでの設備は、そうあるもんじゃない。」
 作戦室にやってきたシタンは、感激しながら設備を見回していた。
 「へへへ、驚いたかい?これはみんなシグの奴が集めてくれた技術のお陰さ。」
 バルトは自慢げに言った。確かに作戦室の機材は、最新鋭とはいかないまでも、かなり高性能な物が揃えられていた。
 「おい、フェイ、モニターの上に立つんじゃねえ。見えねえだろ?よし。モニターに例のやつを。」
 床だと思って立っていた場所は、大型のスクリーンだった。
 そして床一面に古めかしい絵が映し出された。
 「これは・・・」
 「およそ、500年前の絵巻物。『総身に炎をまといて巨人との血の契約交わせし王』だ。500年前、俺のご先祖がこの巨人の力を借りてとんでもねえバケモノを退治したらしい。」
 「こんな昔の絵巻物がよく残っていましたね。この類の記録は、連邦崩壊の混乱期で失われたものと、思っていましたが。」
 シタンは感心していた。
 「普通はな。親父の遺品の中にあったんだ。ご先祖は後世の人間の為にコイツをどこかに眠らしたらしい。もっともその場所がどこなのかはわからない。だが、別の記録ではこの巨人を『ファティマの至宝』と呼んでいる。」
 バルトはそう言って絵の赤い巨人を見つめていた。
 「で、『碧玉』の方は?」
 シタンは何気なく言った。だが、バルトはその言葉に目を光らせた。
 「おいおい。あんたうまいな。ひょっとしてシャーカーンのスパイかなんかじゃねーの?」
 「い、いえ滅相も無い。私はただ知的好奇心から・・・。」
 シタンは笑いながら弁解した。すると、バルトはニッと笑顔を見せた。
 「冗談だよ。まあ、この事はTDFの連中にも話したんだが、碧玉は至宝を手に入れるためのカギ・・・みたいなものさ。」
 「カギ・・・ですか。とにかくそのカギをアヴェを乗っ取ったシャーカーンが狙っている・・・と。」
 バルトは頷いた。
 「ヤツだけじゃない。宇宙悪魔帝国やゴルディバス、ゲブラーの連中も碧玉を狙っているらしい。」
 すると、シタンはメガネを光らせてバルトの方へ向いた。
 「ゲブラー!?あのソラリスの特務部隊ですか!」
 「ああ、そうだ。」
 「だったらTDFの方々にこの事を知らせてあげるべきでは!彼等にとってもソラリスは敵でしょう。」
 バルトは首を横に振った。
 「話したさ・・・。だが、シャーカーンとソラリスが繋がっているという確証は少ないんだ。あくまでも噂程度・・・」
 それを聞いてシタンは表情を曇らせた。
 「そうですね・・・。確証も無いまま貴方達に協力すれば、TDFとアヴェの間で戦争が起きてしまう。そうなれば彼等の本拠である日本付近までアヴェが襲ってくる恐れがある・・・。しかもそこまでいかなくても、TDFは宣戦布告もしていない国に卑劣な奇襲を仕掛けた卑怯者・・・と地球圏全ての国家から罵られ立場が苦しくなる。」
 「慎重にならざるを得ないのさ。」
 「これは、一刻も早くマルグレーテ殿を助け出さなければなりませんね。」
 「だろ?マルーさえ、助け出しちまえば、今すぐは無理でもTDFの連中も俺達に協力しやすくなる。まあ救出前に協力してくれれば一番良いんだがな!」
 バルトはそう言って苦笑した。
 「それでだ。あんたらを助けたついでに一つ頼みがある。」
 「私達も彼女の救出に助成してくれ・・・ですね。」
 バルトは笑った。
 「察しがいいねえ!その通り。シグから聞いたけど成り行きとはいえキスレブとアヴェ両方から追われてるんだろう?どうだい?悪い話じゃないと思うが。」
 シタンは息一つついてから答えた。
 「一宿一飯の恩義もありますし、私でお役に立てる事でしたら何でもしますが・・・。フェイはどう思います?さっきから一言も喋ってないようですけど・・・。」
 「・・・。」
 フェイは黙ったままだ。
 「なあ、お前の力が欲しいんだよ。」
 バルトが詰め寄る。そしてフェイは体を震わせて、ようやく口を開いた。
 「なんでみんなで俺を戦わせたがるんだっ!」
 「お・おい・・・、どうしたってんだよ?いきなり。
 突然、激昂したフェイに驚きを隠せないバルト。
 「俺は今、それどころじゃないんだ!『力が欲しい』?俺にはそんなもんないんだよっ!なのに、お前も先生もあの男も、何故みんなで・・・。俺は考えなきゃいけないことだらけなんだ!あのギアの事や親父の事・・・。そんな事に付き合ってられる程俺は暇じゃない!!」
 「な、なんだあいつ?カンシャク持ちか?」
 「い、いえ、決してそう言うわけでは。すみません。矢継ぎ早に起こった事をまだ整理できていないのです。察してやってください。」
 突如の出来事に面食らったバルトに必死でシタンは弁明する。それくらいフェイの激昂は大きいものだった。
フェイはそのまま作戦室から出ていってしまった。呆気にとられる一同。

数十分後・・・・ユグドラシル甲板上にて、バルトはただうろついているだけのフェイを見つけた。
 「ちょっといいか?シタン先生から聞いたぜ、今までのお前の話。お前ちっとも話してくれなかったじゃね〜か。いや〜、大変だったんだなお前も。」
 「・・・・」
 「さっきはオ、オレが悪かった・・・、許してくれよな?」
 「・・・」
 フェイは黙ってバルトを見ているだけだ。だが、その目は明らかに鬱陶しさを映し出しているのが誰の目にも明らかである。今のフェイにとってバルトはやかましいだけの存在にしかない。
 「で、またあの話だけどよ・・・。」
 「断る。」
 フェイはバルトの話をその一言で閉めた。もうこれ以上話す事など無い・・・・そんな雰囲気だった。
 「何?」
 「俺はバルトみたいに戦いが好きじゃない。ギアにも行きがかり上、仕方なく乗っているだけだ。出来れば乗りたくない。そんなにあれが欲しければやるよ。」
 「俺が好きで戦っている・・・ってのか?」
 バルトの顔が怒りに満ちてきた。その反面、フェイはますます白けている。
 「そうだろ?どうみてもそうとしか思えない。戦いを楽しんでいるようにしか俺には見えない。」
 次の瞬間、バルトはフェイの胸倉を掴みかかった。だが、フェイは動じない。
 「聞き捨てならねえな。今のは。誰が好きで戦っているって?撤回しろよ。俺には好きとか嫌いとかじゃなく戦わなきゃいけない理由があるんだ。それをお前は・・・。」
 「俺には戦う理由なんかないんだよ!戦いたくもない!静かに暮らしていたいだけなんだ。なのに何故そうまでして俺をギアに乗せたがる!?何故そっとしておいてくれない!?」
 今度はフェイが掴み返す。感情を露にして怒鳴るフェイにバルトは圧倒されかかる。
 「だからそれはお前の腕を見込んで・・・」
 「俺は嫌なんだ!俺がギアに乗れば誰かが必ず傷つく。俺が戦えば誰かが必ず犠牲になる。もう誰も傷つけたくない!誰も犠牲にしたくないんだ!嫌なんだよ・・・・そういうの・・・」
 フェイはそこで表情を変え、掴んでいた手を離した。頑なに戦いを拒むフェイ、だが、次にバルトが発した言葉は彼の期待するような返答ではなかった。
 「ふん。目の前の現実から逃げ出したい気持ち、わからん訳じゃないがな・・・。お前、そんな事で遺された村の子供達が納得するとでも思ってんのか?」
 「・・・・」
 「ラハンでの一件なら聞いた。だからってお前、何もしないでいいのか?確かに直接的にはお前がギアに乗ったことでの出来事かもしれない。しかしな、たとえお前がギアに乗らなくても犠牲者は出てた・・・多分な。」
 バルトは言葉を続けた。
 「原因はお前じゃない。戦争・・・いや、そういったものを引き起こそうとする人間に原因があるんだ。だったらその原因を取り除かなきゃなんにもならねえだろ。原因を無くすために戦う・・・今は他にいい方法がないからそうするしかねえが、少なくとも俺はその為に戦ってる。別に好きで戦っている訳じゃない。お前が村の子供達に対して罪の意識を持っているのはわかる。けどな、その子供達に罪滅ぼしをしたいってならば、争いはなくさなきゃいけないんじゃないのか?お前にだって戦う理由があるんだよ。戦わなくちゃいけない理由がな。」
 バルトはフェイの目をじっと見つめていた。フェイは返す言葉が無い。
 「だが、その戦いを放棄してお前が逃げ回っている限り、村の子供達は絶対にお前を許しちゃくれねえ。それだけは覚えとけ。それと言っとくが、俺に協力出来ないことを逃げると言ってんじゃねーからな。別に協力してくれなくたっていい。これは俺自身の問題だからな。無理強いして、お前を巻き込みたくは無い。ただな、俺は、お前ほどの腕があればその現実と対決出来ると・・・罪滅ぼしが出来ると思ったんだがな・・・。悪かったな、手間取らせて。そういやメカニックがお前のギアの事で何か話があるらしい。顔ぐらい出しとけよ。」
 バルトはそう言い切り、背を向けて去って行った。
 「・・・・」
 フェイは暗い面持ちのまま、ギアの格納庫へ向かった・・・

 「おう!来てくれたか!待ってたぜ。」
 ギアの格納庫でヴェルトールを整備していた中年の整備員がフェイを見つけて声をかけた。
 「何か・・・」
 「ああ、実はな。コイツの中枢にど〜しても解らない部分があってな。一種のブラックボックスになってんだよ。まあ整備には差し障りが無いけどよ。お前さん何かしらねえか?」
 そう言われたものの、フェイにはさっぱり解らない。元よりヴェルトールに接して一週間も立っていないのだ。
 「いや・・・俺も解らないんだ。すまない・・・」
 その返答に整備員も残念がった。
 「そうか。まあ、機能に支障はねえからよ。バッチリ整備しとくぜ!」
 整備員はそう言って、またヴェルトールの整備を再開した。フェイは黙ったまま立つヴェルトールに向かって呼びかけた。
 「お前は・・・・俺に何をさせたいんだ・・・」
 ヴェルトールは黙ったまま、黒いボディを輝かせていた。

 「フェイ君!」
 ギアドックから立ち去ろうとしたフェイに声がかけられた。声の持ち主はユグドラシル副長のシグルトだった。隣にはシタンもいる。
 「シグルドに、先生・・・。何か用?」
 「少し話があるのだが。」
 「あ、ああ・・・」
 何故かフェイは断れなかった。フェイを見るシグルドの目が真剣そのものだったからだ。
 三人はギアドックを出て、ユグドラシル搭乗口近くまでやってきた。そこでシグルドは足を止めた。
 「あれを・・・」
 三人の視線の先にはユグドラの甲板上にバルトが一人で黄昏れている。バルトはただ呆然と何かを呟いていた。
 「なあ、親父・・・聞こえているか?俺、初めてフェイの瞳を見た時感じたんだ・・・。こいつは俺と一緒だ。こいつなら俺の気持ちを解ってくれるかもしれない・・・・てっ。でもあれは気のせいだったのかな?俺には自信が無いよ。親父の後を継ぐなら・・・、飾りでいるだけならまだしも、遺言を実行することなんか今の俺にはとても出来ない。マルーだって救い出せやしない。俺は奴に逃げているだけだなんて言ったけど、本当に逃げ出したいのは俺のほうなのかもな・・・」
 遠目にバルトを見つめながらシグルトは口を開いた。
 「若が君に謝っておいてくれとね。おかしいだろう?自分で謝ればいいのに。素直じゃないんだよ、若は・・・。」
 そう言うシグルトの顔は上司を気遣うと言うよりは、むしろ親兄弟が見守るような眼差しであった。
 「ああ見えても若は結構寂しがり屋でね。将輝君だったかな?あの大きなロボットに乗っていた彼。気がつかなかったかもしれないが、若は彼が『羨ましい』という目で見ていたよ。彼の傍にはいつもお姉さんやTDFの仲間達がいる事に・・・・。友人を求めているんだ・・・いつも。」
 そこでシグルドは目先をフェイに向けた。
 「だが、我々は彼の・・・若の友人にはなれない。否、我々がそのつもりでも彼はそう見ようとはしないだろう。それは若も解っているんだよ。」
 「何故・・・」
 フェイが呟くように言った。シグルドは即答した。
 「それは若の背負っているものの重さ故なんだ。あの若さでそれら全ての重荷を背負うのは辛い事だ。しかし若はそれに応えようとしているんだ、精一杯ね。」
 シグルドはまっすぐフェイを見つめた。フェイは視線をそらす事が出来ないでいた。
 「だから我々は若に付き従っているんだよ。別に王子だからとかそういうのではなくてね。フェイ君、きっと君も途方も無い重荷を背負っているんだろう。これは私からの勝手なお願いだが、若を助けてやってくれまいか?若は『好感触』と言っていたが、アヴェの背後関係が明らかにならない限りTDFの協力は得られない。君だけなんだ!」
 シグルドはいつのまにかフェイの両肩を掴んでいた。掴まれた肩にシグルドの熱い何かが伝わってくるのをフェイは感じていた。この男の言葉には偽りが無い・・・と。
 「若の重荷を背負ってくれ、というのではないんだ。若と何かを・・・君達にしか解らない何かを共有してやってはくれないか。お願いだ。」
 フェイはしばらく黙った後、両肩に乗ったシグルドの腕を下ろした。
 「ごめん。しばらく考えさせてくれないかな・・・・」
 今のフェイにはそれが精一杯の言葉だった。
 「ああ、もちろんそれは君の自由だ。まあ、どちらにしろ明日は早朝に出港を予定している。休息をとって疲れをとるといいだろう。上の居住区の寝室を使ってくれ。」
 立ち去るシグルド。シタンがそれについていく。
 「私はシグルドと話したいことがあるので先に休んでいてください。」
 フェイはそのまま無言のまま居住区へ行き、シグルドの用意してくれたベッドに倒れこむように横になった。
 「なんか・・・もうとても・・・疲れた・・・。」
 フェイはそのまま深い眠りへとついた。


 一方我らがオンディーヌ隊も、アヴェに来て最初の夜を迎えていた。
 ホワイトローズは念の為、そのまま光学迷彩を施したままその船体を休めていた・・・
 そして、その居住区。メンバー達は朝からの連戦に疲れきり、一部の者を除いて皆眠りについていた。
 「ぐ〜ぐ〜・・・」
 将輝は眠りについていた。もう身体は疲れきっていた。安らかな寝息を立てて眠っていた、ここまでは・・・
 「う〜ん・・・・」
 寝返りをうつ。すると、またしても何かに当たった。しかし今回は感触が妙に硬い。
 「・・・・なんだよ、変な感触だな〜」
 硬い感触が将輝を半分目覚めさせた。渋々隣のものを見る。今回は姉だと思わなかった、何故なら香田奈なら暖かくやわらかいからだ。
 「・・・・・ジュンペイ。」
 将輝の隣で寝ていた人物、それはオンディーヌ隊が誇る鋼鉄巨神キカイオーのパイロット、轟ジュンペイであった。薄い布製の青縦ジマパジャマでグーグー寝ていた。
 「なんでお前がここにいる。」
 将輝は安眠を邪魔されて不機嫌だった。片足でジュンペイをこずく。
 「お前、こんな所で寝んなよー。」
 「うっせ〜な〜・・・どこだってい〜じゃね〜か・・・」
 一向にベッドからどかないジュンペイを将輝は足でグリグリとこずき続ける。すると、ベッドの隅から何かが動いた。
 「やかましいな〜、今何時だよ?」
 ベッドの隅、つまりベッドの足元から同じように縦じまパジャマを着たケイが頭を掻いていた。
 「疲れてるんだから寝かせろ〜。」
 同じように反対側からは、浴衣のりきだ。寝起きの悪そうな顔をしている。おまけに部屋の備え付けられているソファーにはご丁寧に寝袋でスヤスヤ寝ているリュウセイが・・・・
 「お前ら・・・揃いもそろって・・・何、人の部屋で寝てんだよ!とっとと出てけぇ〜!!」
 将輝は怒鳴る。すると・・・・
 「それは俺の台詞だ。」
 背後から将輝に呼びかけられた声、それは個室の備え付けられているユニットバスから出てきた、バスローブ姿のサイモンだった。
 「ここは俺の部屋だ・・・・十数える間に出て行け・・・」
 静かにだが、明らかに怒りを含んだサイモンの声に全員速やかに出ていった。
 「まったく・・・・少尉お前もだ!」
 サイモンはリュウセイを寝ている寝袋ごと部屋から蹴り出した。あわれ・・・リュウセイ。

 「いや〜参った・・・」
 くあ〜・・・とあくびを一つして将輝は自分の個室に戻ってきた。何が原因で皆サイモンの部屋に集まっていたのかは・・・・謎だ。
 だが、この出来事以降、パイロット連中で集まる時は何故か決まって『サイモンの部屋』で行われる事となった。これも七不思議の一つであろう。
 さて将輝は、間違い無く自分の部屋に戻った。頭は半分寝ている、もそもそとベッドに入りこむ。
 「あ〜まいったね・・・」
 「どうしたの?・・・」
 「んん〜、間違えてサイモン少佐の部屋で寝てた・・・」
 「あそ〜、気をつけてね・・・ココ人多いんだから・・・」
 「そうする・・・。お休み〜・・・。」
 「お休み。」
────く〜く〜・・・
 安らかな寝息を立てる将輝。だが・・・
 「んん!?」
 半分寝ているとはいえ、半分は起きている。将輝は何か違和感を感じていた。
 「待て・・・俺はさっき、誰と話してたんだ?」
 将輝は恐る恐る自分の置かれている状況に気がつき始めていた。そう!何かが変だ。現に身体が少し重い。上半身が何かにがっちりと掴まれている。
 下半身もそうだ。何か暖かくて、すべすべした何かに押さえられている。将輝はそして全てを把握した。
 「姉ちゃん・・・・」
 首を横に向ける。柔らかくて暖かい、魅力あふれる双丘が将輝の眼前にある。さらにしなやかな腕が愛しい我が子を抱きしめる母親のようにがっちりと将輝の上半身を抱きしめている。最後に大人の女性の色気を感じさせる美しい脚が、悩ましげに将輝の両足にからみつき、下半身の自由を奪っていた。
 「どうして・・・・」
 将輝は悩んだ。何故だ・・・何故、姉がココにいる。何故俺の部屋で寝ている・・・と。恐らく当の本人以外に答えられる者はおるまい。
 将輝はかろうじて動く片手で姉の手から逃れようとした。しかし駄目だった・・・香田奈の腕はがっちりと将輝をホールドしており、いかにも『逃がさない』と言った感じである。
 「うう〜どうして・・・んん?」
 将輝はここでまた別の事に気がついた。おかしい・・・ベッドが広い・・・。個室に備え付けられているのは、普通のシングルベッドだ。全室同じのはずである。だが・・・
 「これ・・・・ダブルベッド・・・」
 将輝だけ特別に広いベッドを与えられたとは聞かない。おかしい、今朝までは確かにシングルであったハズなのに・・・
 「姉ちゃんの仕業か?」
 将輝はそうとしか考えられなかった。隣で心地よさそうに眠る姉を一瞬どつきたくなった。だが、次の瞬間にそんな将輝の考えは実行に移される事無く消え去った。
 「うぶっ!」
 香田奈の手に力が入ったようだ。将輝の身体は・・・特に顔は香田奈の柔らかい双丘にうずもられた。
 「・・・・・(涙)」
 (こんな所、誰にも見せられない)
 将輝は、暖かな温もりの中でそっと目を濡らした・・・



 何かが、海賊アジトを暗視スコープらしきもので見ていた。
 「正解。間違い無くやつらの巣だ。」
 円錐型の巨大な盾を両肩に装備した白いギアに乗った巨漢の男が呟いた。
 「意外にもろい岩盤だったな。もう少し手こずるかと思ったが・・・」
 背部にVの字型のパワーユニットを装備したギアからメガネの冷静そうな男が呟く。
 「ラムズ風情がいいとこ住んでるじゃねえか・・・」
 肩から金属製の触手を生やしたギアから、長髪の男が暗視カメラから映し出されるアジト内を見渡して呟いた。
 「こいつは、ブレイダブリクの施設より遥かにいい造りをしていやがる。どうやらここは先史文明の隠し砦が遺跡化したもんを改造して使ってるようだな。」
 メガネの男と同型のギアに乗った赤毛の髭面男がアジトを見てそう確証したようだ。
 「そんな事、どうでもいいじゃないか。まったく地上に降りての初仕事が抵抗勢力の本拠地襲撃とはね・・・。さっさと片付けちまおうよ。」
 無骨で強固なパワーアームを両腕に装備したギアから若い男がめんどくさそうに言う。
 彼等は、ソラリスの特務部隊『ゲブラー』。ソラリスのギアパイロットの中でも、上級エリートの集まりである。彼等はアヴェ政府からの要請で、抵抗組織の殲滅の為にソラリス本土から派遣されたのだ。
 エリートの彼等が普段、ラムズと蔑む地球居住者からの要請で動くのは不本意であるだろう。だが、今回の任務は本土からの命令でもあった。
 彼等は特殊な装備を使い、地中から掘り進んで地下からの直接的な奇襲を行う事になっている。
 「さてと・・・ギアはどこだ?こっちか?」
 触手ギア『ソードナイト』の男、ストラッキイが周りを見渡す。
 「右だ!ハンガーがある。」
 パワーユニットギア『ワイドナイツ』の一体からメガネの男ヘルムホルツが叫んだ。
 「見つけた〜」
 パワーアームギア『カップナイト』のフランツが嬉しそうに言う。彼等の眼前には海賊達の主力ギア『ディルムッド』がハンガーに並んでいた。
 無論、海賊達も馬鹿ではない。不意を付かれたものの、瞬時に臨戦体制をとる。アジト中に警報が鳴り響く。
 「ははっ!見なよ。やつら押すッ取り刀で駆けつけたみたいだよお。」
 フランツが馬鹿にしたかのように言う。
 「いいじゃないか。そうでなくてはわざわざ侵入した甲斐がない。」
 ストラッキイが不適に微笑む。
 「ようし!しゃしゃり出てくる障害物は各個に撃破だ!!」
 ランクの声と共に五機のギアは無数の量産型ギアを従えて、海賊達に襲い掛かった。


 「なんだ、今の衝撃・・・?」
 ベッドで寝ていたフェイは衝撃で目を覚ました。居住区から外に出てみると、アジト全体が騒ぎたっていた。
────ユグドラシルドックにギア侵入!ゲブラー特務部隊ギア5体、未確認の大型ギア一体と推定されます!全パイロットはギアハンガーへ!
 アジトに警報と非常放送が鳴り響く。フェイは理解した、ここが襲撃されているのだと・・・
 「非戦闘員はユグドラに非難するんだ!急げっ!!」
 「わ〜ん、怖いよ〜」
アジトは大パニックに陥っていた。落ち着いている者など誰もいない。あちこちから喧騒と子供達の悲鳴がこだまする。そこへ大慌てでシタンがフェイに駆け寄ってきた。
 「フェイ!早くヴェルトールにっ!!フェイ、若くん達が戦っているのですよ!貴方は何もしないのですか?関係ないとでも言うのですか!!」
 フェイは僅かに呟いた。それは将輝やバルト達に出会う前に出会った謎の仮面男グラーフの事を思い出していた。
 「俺は・・・俺は一体何者なんだ?あいつは・・・あの男は、俺の事を『神を滅ぼすもの』と呼んだ。そんな力は俺にはいらない・・・。おれの・・・ちから・・・おれの・・・居場所・・・」
 

 「何だと!バルト君たちのアジトが襲撃を受けているだと!!」
 突然の知らせに、ホワイトローズ全クルーが飛び起きた。全員、着替える間もなく寝間着のままブリッジに集まる。
 「間違いありません!地下から奇襲されたようです。」
 オペレーターが叫ぶ。だが、夜勤の彼女はクルー達の格好を見て怪訝な表情を崩せなかった。
 「着替えたらどうですか・・・」
 オペレータが呟く。正規軍ならすぐ着替えられるのだろうが、民間からの寄り合いも多いオンディーヌにそれは無理というもの。その様子に艦長は、自分はとりあえずズボンと上着だけ羽織ってきたのが馬鹿らしく思えてきた。
 「敵は何処だ!どこの勢力だ!」
 病院服のままのヴィレッタがオペレーターに尋ねる。オペレーターは即答した。
 「ゲブラーです!ソラリスの特務部隊ゲブラーに間違いありません!!」
 ソラリス・・・その言葉を聞いた瞬間、ヴィレッタは即断した。
 「相手がソラリスと解れば、躊躇する理由は何処にも無い!!」
 ヴィレッタは後ろに振り返りメンバー達に向かって叫んだ。
 「出撃だ!!バルト君達を援護する!!」
 「了解!!」
 メンバー達は威勢良く叫んだ。

 「姉ちゃん着替えるの早いな・・・」
 走りながらモタモタとパイロットスーツを着こむ将輝。伸縮性に富んだ素材とは言え、元々将輝用に合わされたスーツではない。後になって解ったのだが、以前これを着ていたのはイングラム少佐で、将輝より背が高く体格も良かった。身長170センチも無い将輝には、結構緩い。かなり着づらいのだ。
 一方、香田奈は警報が鳴ると同時に着替えていた。将輝の前では平然とあられもない格好をする香田奈だが、はやり他人の前であの格好をする勇気は無い。飛び起きるとすぐに、Yシャツとショーツを脱ぎ捨て、近くにあらかじめ用意したアンダースーツに着替えた。
 香田奈のスーツはヴィレッタの予備の物だが、幸い香田奈の体格は胸囲以外ヴィレッタと大差なかった。その為将輝に比べれば胸が多少きついだけで後はすんなりと着れるのだ。
 「早く、早く!」
 もたつく将輝をよそに、香田奈は既にR−ガーダーに乗り込んでいた。

 「え?ライデンは二機だけ・・・」
 ハンガーにやってきたサルペンは、整備員の言葉に拍子抜けした声を出した。
 「申し訳無いですが、昼間の戦闘で無傷なライデンは一機だけなんです。残る一機も応急修理が終わったばかりで・・・」
 サルペンはハンガーを見つめた。そこには無傷な青ライデンとつぎはぎの装甲をしたみすぼらしい黒ライデンが一機立っているだけだった。残りのライデンは昼間の戦闘の傷が癒えておらず、ガラクタ同然の姿をさらしていた。
 「・・・・・。私が204号機に。アイボリー軍曹、貴方が205号機に搭乗して。残りのみんなは悪いけど、艦の砲座について。」
 サルペンはそう決断した。小隊長が圧倒的に不足しているオンディーヌ隊にとって、自分は必要。特に今回のような特殊な任務なら尚の事。だが、205号機・・・青ライデンは大幅なチューンが施されていて扱いづらい。馴れていない者には指揮戦闘は不向き。そこで多少、調子が悪くとも通常型のライデンに搭乗しようと考えた。
 アイボリー軍曹はサルペンの部下の中で一番若い。まだ十代の少年兵である。それゆえ今だ未熟な点はあるものの、VRの操縦には抜群の才能を見せる。だから青ライデンのような特殊な機体には、経験より才能と順応性が求められる、若いアイボリーはまさに適任と言うわけだ。これがサルペンが彼を選抜した理由だった。
 「準備完了の機体から出撃!!」
 艦長の指示に、カタパルトから次々とロボットたちが出撃して行った。


 「一体何機のギアがいるんだっ!雑魚は一通り片付けたようだが!?」
 襲撃の報告を受けたバルトは部下達と共に直ちにギアを起動させ迎え撃った。ブリガンディアの足元には無数のソラリスギアが横たわっている。
 「少なくとも残り4・5体はいるかとっ!今までのとは性能もテクも段違いですっ!」
 部下の一人が叫ぶ。
 「っくそ〜!!」
 「若っ!来ますよっ!!」
 バルト達の目の前に触手ギア、ソードナイトが襲い掛かってきた・・・

 シタンはギアハンガーに来ていた。彼の目の前には緑色の人型ギアが立っていた。見た目からして量産型ではない。ワンオフのカスタム機だ。
 「メイソン卿、このギアは動くんですか?」
 シタンは近くにいたメイソンに話しかける。
 「は?はい、一応動く事は動きます。ですが・・・」
 メイソンは少し惑った。この緑色のギアは『ヘイムダル』。バルトのブリガンディアと同時に発掘された機体で、高性能なのだが、出力バランスが劣悪で使いこなせる者がおらず、何人ものテストパイロットが怪我をしていた。
 「よしっ!」
 シタンはそう言って、ヘイムダルのコクピットへ飛び込んだ。慌ててメイソンが叫ぶ。
 「いけませんっ!それは未だ整備中なのです。とても稼動できる状態では・・・。」
 メイソンの言葉が終わらないうちにメイソンの肩をシグルドが掴んだ。
 「いいんだ、メイソン卿。」
 「シグルド様っ!しかし、シタン様のような方では・・・?」
 シグルドは黙って首を横に振った。
 「いいんだ。奴ならば大丈夫。あれでも物足りないくらいかもしれない。」
 出撃して行くヘイムダルの背中を見送りながらシグルドはそう言った。
 「さて・・・。五年ぶりの実戦か・・・。体が憶えてくれていれば・・・」
 シタンはそう呟き、少しスロットルを強めに踏んだ。その瞬間、ヘイムダルは思いっきり足を踏み込み、必要以上の動作で腕が前に出た。
 「ほ!なかなかのじゃじゃ馬ぶり・・・ならしには丁度いいですね。気に入りましたよ。」
 シタンは口元を緩ませて、早速補足したシールドナイトに飛びげりを浴びせた。
 「い、イテぇじゃねえか!」
 いきなりの飛びげりに、驚いたシールドナイトのパイロット、ブロイアーが叫ぶ。
 「私の友人の痛みに比べれば、あなたの痛みなど・・・!!無抵抗な人々をなぶる貴方達のその姿勢、許すわけにはいきません。代わりに私がお相手しましょう。かかってきなさい!!」
 シタンが叫ぶと同時にヘイムダルは拳法の構えを取った。


 アジトの中を幼い姉弟が、走っていた。アジトのはずれに居たため避難が遅れた二人であった。
 懸命に逃げる二人だが、姉の方が足をつまづかせ転んだ。
 「!!おねえちゃん!」
 弟が駆け寄る。姉を助け起こそうとした瞬間、二人の頭上に影が差した。
 「どこへ行こうってんだい?」
 妖艶な声を発したのはカップナイトのパイロット、フランツだった。彼は美しい顔をにやつかせていた。
 幼い姉弟に一歩一歩じらすように近づくカップナイト。
 「や・やめて・・・」
 姉が泣きそうな声を出す。だが、その態度はますますフランツを快感へと導いていた。
 「けなげだねえ・・・・。さあて、君はどんな声でさえずってくれるのかなあ?」
 右腕のパワーアームを掲げ、今にも振り下ろそうとしている。
 「キャアアアア!!」
 姉が悲鳴を上げる。その時!!黒い影がカップナイトの目の前に現れた。そして強烈な掌底が突き出される。
 「ウっ!・・・なんだあ?」
 不意を付かれたフランツが目の前の黒い影を睨みつける。そこには紛れも無くヴェルトールが立っていた。
 「お前達は何故戦う!?」
 フェイの声だ。外部音声でその声はフランツにも届いていた。
 「こ、こいつ、何言ってやがる!?」
 ヴェルトールから発せられる声におののくフランツ。
 
「戦って何を得られる!?自分の居場所があるっていうのか!!」


 次回予告


 ゲブラーの卑劣な攻撃に、ついにフェイは立ちあがった!自分の居場所、自分の目的を探すため、フェイはバルトに協力する。
 そして我がオンディーヌも、アヴェにソラリスが関わってる事を理由に、ついにバルトと同盟を結んだ!いまこそニサン教母マルー救出の時!!
 救出作戦の陽動の為、アヴェの大武術大会にフェイが!ポリリーナが!麗美が参加する。唸れ必殺技!!
 そしてVRを失ったサルペン達の為に、レイカのスッゲー通販を申し込む!!

 次回 サイバーロボット大戦 第二十話『マルー救出!アヴェの大武術大会!』 に絶対見てくれよな!!
 次回も、通販がすげえぜ!  「送料・手数料は、全て○ャパ○ットが荷担します!(わ〜パチパチ)」



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