第十五話 「般若のギア・・・記憶を失った男」
「お前達に聞きたい事がある。」
ヴィレッタは目の前の踵兄弟に拳銃をつきつけて言った。
「助けてくださ〜い・・・」
「命だけは、ご勘弁を〜・・・」
ヴィレッタに向かって土下座して命乞いする踵兄弟。
「お前等の知っている事全て話せ・・・そうすれば助けてやる。」
ヴィレッタは冷たく言う。そして刺すような視線に、二人は泣きながら話し出した。
「話します!話します〜!ジャーク将軍は赤い機体じゃないとダダこねます!ヒッサー将軍のバストはDです!昨日夕食は、石狩鍋です〜!私は三日間カレー食べてます〜!」
「・・・・・・・」
───ガ〜ン!ガ〜ン!
ヴィレッタは無言で数発撃った。勿論威嚇だが・・・。だがこの二人にはかなり効いたようだ。
「わ〜ごめんなさい!一昨日借りたビデオ、延滞料金払ってませ〜ん!!」
埒があかない。
「お前達は何処から来たのだ。」
ヴィレッタが尋ねる。
「わ〜!本星からです〜!その後は一週間程前にアヴェからここに来たんです〜!!」
ヴィレッタの顔つきが変わった。
「アヴェだと!」
「はい、そ〜です!ゴルディバス軍との合同前線司令部があるところからです〜!!」
ヴィレッタは突き詰めた。
「アヴェの何処だ!!」
拳銃を更に撃ち、喋らせる。
「はい〜!『ダジル』という砂漠の町の近くです〜!」
ヴィレッタは拳銃をおろした。そしてR−ガンのハッチを閉じると何処とも無く去っていった。
「助かった〜・・・」
北海道の広い原野で踵兄弟はお互いを抱きしめ泣きながら安堵した。
「隊長!何処へ行かれていたんですか!!」
艦に戻るなりヴィレッタを向かえたのはライと詩織だった。ライは血相を変えて心配していた。詩織は相変わらずいつもの表情のままヴィレッタの体を調べていた。
「なんとか〜・・・大丈夫の〜・・・ようですね〜。お部屋に〜・・・戻って〜・・・下さいますかぁ〜・・・?」
「それは後だ!ライ!宇宙悪魔帝国とゴルディバスの地球での本拠が解かった・・・」
「何ですって!!」
ライが驚く。
「アヴェだ。奴等はアヴェの砂漠地帯・・・ダジル近郊にいる。」
ヴィレッタは、やはり無理が祟ったのか、肩で息をしていた。
「解かりました。後は我々に任せて、休んでください隊長。詩織君、隊長を頼んだぞ。」
「は〜い〜。」
詩織は看護婦スタイルから装甲に変身すると、ヴィレッタをストレッチャーに載せた。そして看護婦に戻りヴィレッタを医務室へと運んで行った。
「隊長抱える為だけに変身したのか?」
ライは詩織を見てそう思った。
「アヴェへ行く?」
ブリッジにメンバーをブリーフィングルーム(元、客船の大会議室)へ集めたライは単刀直入に言った。
その言葉に反論する者が出た。サイモンだ。
「待ってくれ、確かにアヴェに行けば、地球上でのゴルディバスや宇宙悪魔帝国の勢力を衰えさせる事は出来るかもしれない。だが、今度はアヴェの軍に狙われる事になりかねない!」
サイモンの言っている事は正しい。だが、ライは言った。
「確かに言う通りだ。だが、ここで奴等の勢力をこれ以上増やさせる訳にはいかない。」
その言葉にハルマが同意する。
「そうね。それにアヴェだってゴルディバスや宇宙悪魔帝国の侵攻を受けている筈よ、しかも向こうはそれに加えてキスレブまで相手にしてる。私達を相手にする余力は無いんじゃないの?」
ジンがそこで口を挟んだ。
「上手くいけば、共同戦線と言う事でアヴェの協力を得られるかもしれん。」
「まっ、なんにせよ、行って見ない事には解からんな。」
ゴンザレスが言う。皆頷く。
「決まりだな・・・艦長!」
ライが艦長へ振り向く。艦長は強く頷いた。
「よし!進路転進、宇宙ロボット研究所で補給後、我が艦はアヴェへと向かう!」
そして、一度、宇宙ロボット研究所に戻ったホワイトローズはそこで各補給物資と、増援としてゲッP−X支援用ロボット『クイーンフェアリー』と同パイロット『呉石ミオ』を仲間に加え、一路アヴェへと飛んだ・・・
「へえ〜ミオちゃんて、呉石博士のお孫さんなんか〜」
クイーンフェアリーの足元でリキが言う。見ればゲッP−Xチーム全員集合だ。
ケイ達と似たデザインのピンクのパイロットスーツを着て、胸元に大きな赤いリボンが特徴的だ。髪はショートで顔にそばかすが出ているが、可愛らしい少女だ。とてもあの呉石博士の孫とは思えない。
「へ〜マブイ女じゃん。」
ケイが明らかに時代錯誤の言葉を発する。でも仕方が無い、だってケイは明らかに70年代風の男だからだ・・・・
「どうです?ミオさん。アヴェに着いたら夕日の浮かぶ砂漠を見ながら素敵な一時でも過ごしませんか?」
明らかにナンパ口調でジンが迫る。
「あ〜ジン!おまはん、抜け駆けするんやないで〜!」
リキが割り込む。その様子にミオは笑う。
「面白い人達・・・」
そしてその後ろ・・・・クイーンフェアリーに工具持って張りついている者がいた。結奈だ。
結奈は呉石博士から貰った手引書片手に、早速整備に取りかかっていた。
「ふん・・・中々面白い機体ね・・・そう、戦闘支援が目的の機体なの・・・・この部分は・・・へえ、エネルギー補給装置・・・面白い、戦闘中でもエネルギーを補給出来る様、光に変換する機能が・・・使えるわね・・」
クイーンフェアリーは、ゲッP−Xの支援機である。大量のエネルギーを消費するゲッP−Xに何処でもエネルギーを補給するのが任務である。
頭部はゲッP−Xに似ているが、体全体は女性を思わせるデザインであり、背中には蝶のような羽がついていた。
「このエネルギーを光に変換して放出する機能・・・使えるわね。改造によっては・・・そうね、液体燃料以外で稼動している機体になら、ゲッP以外にも補給活動が・・・」
もう結奈は改造プランを携帯端末に打ちこんでいた。
「極寒の地の次は砂漠か〜」
コタツを片付けながらジュンペイが言った。大地は待機室の(何故かある)押入れから扇風機を取り出している。リュウセイはりきと一緒にダンボール箱から大量の団扇を取り出していた。
「お前等・・・何やってんだ?」
サイモンが尋ねる。
「いや、次は砂漠でしょ、暑くなりそうだからその準備!」
「・・・・・」
サイモンは黙ったままであった。そこへナカトが入ってきた。何やら大きな衣装ケースを抱えている。
「みんな、香田奈さんが浴衣作ってくれたぞ!全員分あるからな〜。」
ナカトが衣装ケースの蓋を開けた。そこには様々な浴衣がぎっしりと詰まっていた。
「お〜!やっぱ、夏は浴衣だよな〜!!香田奈さん、気がきくぜ〜!!」
リュウセイが嬉しそうに浴衣を手にとって言う。
「サイモン少佐のは黄色の浴衣ですよ!」
ナカトがサイモンに浴衣を手渡す。困惑するサイモン。さらにアービンが入ってきた。
「皆さん、ここでしたか!レイカさんからの伝言を伝えます。本日19:00より第三甲板で、『花火』をやるとの事です!」
その言葉にサイモン以外全員が喜んだ。
「おお!い〜じゃねえか!」
「花火は江戸の華でぇい!」
りきが物凄くうれしそうに言う。
「いいのか?・・・こんなんで・・・」
そう言いつつも、浴衣のデザインが少し気に入ったサイモンだった・・・
「香田奈さん、縫い物お上手なんですね。」
女性陣の浴衣を縫っている香田奈を見て空が尋ねる。
「そう?昔からやってるから、お母さんが死んでからずっと・・・。しょうちゃんとかの破れた所、繕ったり、妹がいるんだけど、その子の服作ったり・・・色々とね。」
「うちと同じですね・・・うちもおかあちゃんが死んでからずっと大地の面倒みてきたし・・・」
空が呟く。
「ごめんなさい!こんな話して!」
空が謝る。だが香田奈はにっこりと笑っていた。
「いいわよ、気にしないで。貴方も大変ね、やんちゃな弟持つと!」
「はいっ!」
空も笑った。
そして夜・・・・太平洋上を、ホワイトローズはゆっくりと進んでいた。静かな海だった。だが、第三甲板だけは明るく楽しかった。
太平洋の夜空に次々に花火が打ち上がる。綺麗な光の芸術が夜空に描かれていた。
ちなみに打ち上げているのは・・・・ワイズダック。しかも無人制御、ミサイル発射菅から打ち出している。
そして各々、香田奈の仕立てた物や自前の浴衣を着て、花火を魅入っていたり、手持ちの小さな花火で遊んだりしていた。
「どうだ、新兵。たまにはこんな時があってもいいだろう?しかも目の保養になる。」
トーマスが隣のアービンに言う。目の保養とは浴衣姿の女性陣だ。殆どがお嬢様軍団だが、十分絵になる。数は少ないがアムリッタやサルペン、香田奈といった『大人の女性』までいるから、これ以上は贅沢だ。
「はいっ!でも・・・」
「でも、何だ?」
「どうして我々は、焼き鳥焼いてるんですか?」
アービンとトーマスは鉢巻を頭に締めて焼き鳥を焼いていた。炭火を団扇で仰ぐトーマスは、意外に様になっている。
「嫌いか?こうゆうのは。」
「いいえ!」
「なら、いいじゃないか。」
それ以上の言葉は無かった。
「これでどうだ、軍曹?」
「う〜む・・・曹長やるな・・」
ゴンザレスはビール片手にサルペンの部下である中年の下士官『ダッシュ=プロンガー』曹長と将棋をうっていた。お互い年が近いせいか、妙にウマが合うらしい。
「あれ?ユナさ〜ん。ユーリィのスイカは何処ですかぁ?」
花火を見ていたユナにユーリィが話し掛ける。どうやら持参していた筈の食べ物にスイカが無いらしい。
「スイカ?」
近くにいたサルペンが話し掛ける。今回サルペンは髪を縛っておらず、金髪のロングヘアーをなびかせていた。
「ええ、スイカです。あれならステフォン君に頼んだから、もう持ってくると思うんだけど?」
ユナが辺りを見渡す。すると、発進口から青いライデンが歩いてきた。以前リットーが乗っていたライデンだ。
「あっ!来た!」
「ユーリィのスイカですぅ〜!」
ユーリィがライデンに向けて手を振る。青ライデンはゆっくりとこっちに来る。
「げっ!!」
サルペンは思わず、そう言ってしまった。何故なら青ライデンが持っていたのは直径約6〜7mはある、超巨大スイカだったからだ。しかも青ライデンは左手に巨大な斧を持っていた。
「ユナさん!持ってきましたよ〜!すいか〜!!」
ライデンのコクピットから白人の美少年が姿を見せた。サルペンの部下の中で恐らく一番美形だと思われる少年兵『ステフォン=アイボリー』軍曹だ。
「よ〜く冷えてますよ!ライデンの冷却システム使いましたから〜」
そう言い青ライデンは甲板に超巨大スイカを置いた。
「お〜!!あれは、俺の故郷の名産『宇宙スイカ』じゃねぇかぁ!!」
りきが嬉しそうにスイカを見る。隣にいたまみも同じように嬉しそうだ。
「う、宇宙スイカ?」
サルペンが尋ねる。りきは笑顔で答える。
「おうよ!宇宙で一番高価な果実『宇宙フルーツ』の中でも一番たけぇ、宇宙スイカだぁ!!」
「そ、そうなの・・・」
サルペンは唖然としていた。そしてもう一度スイカに目をやる。
「(あんなのを・・・SF虎巣喪組は密輸してるの・・・)」
サルペンは心の中でそう思った。
「みんなも良かったら、一緒に食べるですぅ!」
珍しくユーリィが食べ物を独占しない言葉を発した。やはり楽しい空気を壊したくないのであろう。それを聞いて、青ライデンが斧を振りかぶる。
「それじゃあ、切りますよ〜」
ステフォンが言う。
「甲板まで切るなよ〜」
ゴンザレスが笑いながら言った。その言葉にニッコリと微笑んで青ライデンはスイカに斧を振り下ろした。
「よろしいんですか?隊長・・・」
医務室の窓から甲板を見ているヴィレッタに向かってライが静かに言った。
「こんな遮蔽物も何も無い場所であまり目立つことは、自粛すべきなのでは?」
ライの言葉にヴィレッタは目線をライに移して言った。
「ライ・・・お前はこのような事は嫌いか?」
「いいえ。」
ヴィレッタはベットに深く体を任せて言った。
「アヴェに行けば、戦闘はますます激化する・・・今まで以上にな・・・」
「だから、このような事を許可されたのですか?」
ヴィレッタはもう一度、甲板に目をやった。青ライデンが斧を器用に使い、スイカを切っていた。そのスイカを美味そうに頬張る将輝。種をその将輝に向かって飛ばすジュンペイ。だが、当てられたのはケイ。怒ってジュンペイを追いまわすケイ。笑うメンバー。
「今のうちだけは、せめてこの位の娯楽を・・・」
ヴィレッタは悲しげに呟いた。
数日後の早朝・・・・ホワイトローズはアヴェにたどり着いた。メンバー達はブリッジに集まり、眼下に広がる景色を見ていた。
「砂漠って聞いてたのに、山と森ばっかりだな。」
将輝が呟く。
「この辺りはアヴェでも辺境に位置している。この山を越えた辺りが砂漠だ。」
ライが言った。
アヴェ・・・・旧南アメリカ大陸と呼ばれていた土地だ。旧西暦まで巨大な国力と軍事力を有していたが、連邦政府発足と共にその国力は弱まり、そして連邦崩壊後は開発のし過ぎで砂漠化が進み、国土の四分の一が砂漠化していた。
連邦崩壊後、一部強硬派により、旧王族や上流階級といった者達が勢力を強め、古くからあった、王政を復活させた。さらに国力は衰えていたとはいえ、その広大な土地から古代遺跡が数多く見つかっており、そこから発見された機動兵器『ギア』を戦力として使用していた。
「現在の国王は、数年前までアメリカ連邦の元上位院議員『エドバルト=ファティマ』のはずだ。彼は穏健派として有名で国民に人気が合った。」
ライが簡単にアヴェの事を語る。
「国王として、祭り上げるには丁度言い人材だったのよ・・・」
話を引き継いだのはサルペンだった。
「今はどうかは知らないけどね・・・」
サルペンがはき捨てるように言った。
「何はともかく、アヴェの情勢に関して情報が少ない。偵察を出して情報を得よう。」
ライが言う。
「よし、観測手。この辺りで我が艦が着陸できそうな平地はあるか?」
「東に村落と思われる場所がありますね・・・その近くに僅かながら平地があります。」
艦長はその報告に頷いた。
「よし、イボンヌ君。ホワイトローズをそこに停泊させてくれ。」
「了解。」
そしてホワイトローズはその場所にやってきた・・・が!
「村だよな・・・」
リュウセイが眼下に広がる光景を見て、愕然と呟いた。
確かにそこは村だった。数は多くないが民家が、畑が、家畜をいれておく柵が、小川を渡る小さな橋が・・それらが殆ど壊れていた。そして焼けた跡になっていた。観測手が『平地』と確認したのは、まるで爆弾でも投下された跡のようになっていた、放射線状に広がった爆発跡だった。
「酷い・・・こんな小さな村まで・・・」
香田奈が目を潤ませた。見ればゴンザレス軍曹とレイカが、手で簡単に十字架を作って眼を閉じた。
「まだ、新しいな・・・事が起こって、ニ・三日と言った所だな・・・」
サイモンが冷静に言う。
「みんな!見ろ!ギアだ!ギアの残骸だ!」
ケイがいきなり叫んだ。すると村には多数のギアの残骸が転がっていた。
「こいつ等の仕業か?」
ジンが呟く。
「何にせよ、まずは調査と偵察だ。降りよう・・・」
ライが言う。そしてホワイトローズは村だった場所に着陸した。
村に降り立った一行は、村中をくまなく捜索したが、結局生存者を見つけることは出来なかった。
「誰もいないな・・・」
ジュンペイが言う。一緒にいたレイカも頷く。
「生存者は村を捨てたのかもしれないわね・・・」
「そうだな・・・」
そのジュンペイ達にりきとまみが走ってきた。
「向こうにも誰もいねぇ!」
「完全にもぬけの殻ですわ。」
りきとまみの報告に肩を落とすジュンペイ。
「ちくしょう、誰かいないのかよ!」
ジュンペイは足元の石を蹴った。
その頃・・・
「もうチョット持ち上げて〜!」
お嬢様軍団の一人、エミリア=フェアチャイルド、別名『教養のエミリー』が将輝と香田奈の乗るR−ガーダーに向けて、指示を出す。
R−ガーダーは残骸と化したギアを持ち上げていた。半分地面にめり込んだような機体もあり、調査が難しかった。
「これは〜アヴェ軍のギアじゃありませんね。装甲やエーテル反応炉が上等過ぎます。」
エミリーが半壊したギアを見て言う。
「この機体は、ソラリスのものですね。機体コードがありました。」
「本当か!」
ライが詰め寄る。エミリーは眼鏡を輝かせて頷いた。
「ソラリス?こっちのはキスレブ軍のギアだったわ。」
結奈がライとエミリーの方へ歩いてきた。ユナも一緒だ。背後にはライデンが二機いる。
「そっちはキスレブの機体?アヴェの領地でか?」
ライが頭を悩ませた。
「どう言う事なんだ・・・」
ライは少し考えてから、森の方へ視線を向けた。
「残るは、この辺りを捜索している連中が何かつかんでくれればいいんだが・・・・」
森の中には、少女がいた。まだ幼女といっていい年齢の女の子だ。
少女は迷っていた。薄暗い森の中を・・・
何故だろう・・・さっきまで母とそして村の人達と一緒だったのに・・・
泣きそうになる。だが、森は何も変わらない。
しばらく歩いていると、森の中でも比較的視野のひらけた場所に出てきた。
自分の背後の茂みで何かが動いた。母だろうか?だが、予想は裏切られた・・・
「!!」
少女は声にならない叫びを上げた。足が震えて動かない。目の前にいたのは自分の大きさの十倍はある巨大な生物だった。
それは古代の恐竜『T−REX』に酷似した生物。巨大竜『ランカー』だった。性格は獰猛、そして肉食。
ランカーはその巨大な口を開き、少女に襲いかかってきた。
少女は何も出来なかった。目の前にランカーが迫る。もう終わりだ・・・少女はそう思い、眼を閉じる。
「・・・・・」
だが、一向にランカーが襲いかかってこない。もう死んでしまったから?だが、まだ生きている。少女は勇気を出して目を開けた。
「!!」
ランカーの動きが止まっていた。いや・・止められていた。ランカーの口に三本の巨大な鉄の爪が押し込められていたからだ。
「くう・・・コイツはなんなんだ!!」
アービンがきつく操縦桿を握り締めながら言った。
「怪獣か?」
薄ら笑いしながらトーマスが言う。
「アヴェの特産品だろ〜!!」
リッキーが叫ぶ。
ワイズダックはランカーの口に押し込んだ左手を更に押し込む。そして右腕のパイルバンカーを棍棒のようにランカーへ叩きつける。
一瞬、ランカーが後ずさる。口から左腕が抜ける。
「逃がすかい!」
リッキーが叫びながら、機銃を放つ。着弾はしたものの表皮が厚くて効果が薄い。
「怪獣に通常兵器が効かないってのは本当らしいな。」
トーマスが苦笑いする。接近して爪とパイルバンカーでランカーの動きを押さえる。
「今だ!キミ!早く逃げるんだ!!」
トーマスが外部音声で少女に向かって叫ぶ。
「早く!急ぐんだ!!」
アービンも叫ぶ。少女は理解したのか、駆け足で森の中へ走って行った。
「いいぞ!おもいっきりやれい!」
ゴンザレスが激を飛ばす。
「イエッサー!!」
一斉に声を挙げる。
「食らえ!」
パイルバンカーをランカーの脇腹へと突き刺す。もだえ苦しむランカー。
「よ〜し!今だ!」
動けないランカーを左手の爪で掴むと、そのまま力任せに放り投げた。
「全砲門開けー!!」
投げたランカーに向け、標準を合わせるワイズダック。
「はっしゃぁぁー!!」
ワイズダックの全ての火器がランカーへ襲いかかる。
爆発・・・・ランカーは肉片も残さず爆発消滅した。
ワイズダックは怪獣に勝利したのだ。
「各員、被害状況を知らせよ!」
ゴンザレスが言う。
「イエッサー!!」
ランカーを倒したゴンザレス達は、通信兵のヘルマンを残し、ワイズダックから降りてきた。
そして襲われていた少女に話しかけた。
「君、この辺りに住んでいるのかい?」
アービンが尋ねると、少女は頷いた。
「チョコレート食うか?」
ゴンザレスが少女にチョコレートを手渡す。少女は少し笑った。
「・・・ありがとう・・・」
小さな声で呟くようにお礼を言った。
すると、森の中から何かの気配をゴンザレス達は感じた。新兵のアービン以外の三人が腰の拳銃に手をやるが、現われたのは栗色の髪をした、美しい女性だった。
「ん?」
少女がアービンのズボンを引っ張る。
「母さんか?」
ゴンザレスが尋ねると、少女は頷いた。
「すっげえ美人の母さんだな。旦那がうらやましいぜ!」
リッキーがこちらに近づいてくる女性を見て言った。
「親御さんかい?」
ゴンザレスが女性に話し掛ける。女性は頷いた。アービンから手を離し、少女が女性の元へ走った。
「ああ・・ミドリ・・・無事で。」
女性はしっかりと我が子を抱きしめた。そして、女性はゴンザレスの方に向き、頭を下げた。
「貴方方がミドリを助けてくださったのですね?ありがとうございます。私は『ユイ=ウズキ』。この近くに住んでいた者です。この子は娘の『ミドリ=ウズキ』。」
ユイと名乗った女性に向かってトーマスが話しかけた。
「住んでいた?」
ユイは頷いた。そこでゴンザレスがトーマスを押しのけて話かけた。
「わしらはTDFのモンだが、アヴェに来たばかりで、右も左も解からん。詳しく話を聞かせてくれんか?」
「それで、その奥さんの話によると、あの村にギアが現われたのは単なる偶然だそうです。」
艦に戻ったトーマスがライに報告する。
「そうか・・・」
「なんでも村が壊滅したのは、墜落した黒いギアに村の青年が乗り込んで、それを暴走させたらしい。」
ライは黙ってトーマスの報告を聞いていた。そこにサルペンが割り込む。
「それで、その青年は?黒いギアなんて村の残骸からは無かったわよ。」
トーマスは報告を続ける。
「青年は村を壊滅させた事に責任を感じて出ていったそうです。」
「ギアは?」
「その奥さんの旦那が、小型の輸送ヘリを持っていたそうなのでそれでギアを運んで、青年の後を追ったらしいです。そして生き残った村民は、疎開先へ向かう途中だと言う事です。」
トーマスが報告を終えた。ライは少し思案したのち、口を開いた。
「今のところ、その事件は我々には、あまり関係が無いな。」
サルペンもその意見には頷く。
「よし!予定通り、そのダジルという町に向かおう。」
こうしてホワイトローズは、廃墟と化した村を後にした・・・
「ディクセン!いきま〜す!」
ナカトのディクセンが発進した。眼前にはダジルの街が見える。高機動性を誇るディクセンがまず偵察に向かった。機動性重視の機体でもエルラインでは大きく目立つ。バンガイオーには隠密性の高い装備は無い。ラファーガでも良かったのだが、アヴェには飛行能力を持った機動兵器は旧西暦の旧型戦闘機くらいしかない、それゆえ飛んでいけばかなり目立つのだ。へたをすれば、宇宙悪魔帝国やゴルディバスと誤認されて迎撃させるやもしれない。
そこで汎用性に長けて機動性も高いディクセンが選ばれたのだ。
「ディクセン!出ます!」
続けてハルマの赤いディクセンも続く。今回はバズーカでは無く正規のレーザーライフルを装備している。
「これより、ダジル近辺を偵察開始します。」
ナカトの声がブリッジに響く。
「よし、総員第二種戦闘配置で待機。情報収集班は?」
艦長がオペレーターに尋ねる。
「現在、リーアベルト以下六名が準備に取りかかっています。」
「ですから〜、ここは砂漠の国ですから、それなりの格好をしなければ、目立って任務に差し支えが出ます。」
お嬢様軍団が、服を着替えていた。服装の事を言っているのは、その一人白鳥美紀、別名『銀幕のミキ』だ。演劇を得意とするお嬢様で、特技は変装を駆使しての『食い逃げ』・・・・である。
だが、演技に関しては天才的な能力を持っていた。つまり、彼女の指導の元『砂漠の民』らしい格好に着替えているのだ。
「ミキからブリッジへ、準備完了。これより情報収集にいってきま〜す。」
その頃、偵察中のディクセン二機は、砂漠の中を歩いていた。
「それらしい反応はないな・・」
「地下基地なのかもしれないわよ。」
ナカトとハルマが砂漠を探索していたが、前線司令部など影も形も無い。
「この辺りじゃないのかしら・・・・」
ハルマのディクセンが場所を変えようと向きを変えた瞬間、地中から何かが飛び出してきた!
「なっ!」
次の瞬間、ハルマのディクセンの左足が膝から下がちぎれ飛んだ。
「あああ!」
片足を失った、ハルマのディクセンが横倒しになる。
「何だ!?一体・・・」
ナカトのディクセンが呆然と呟く。そしてそれは砂の中から姿を現した。
「ザッキュン・・・・?いや違う。似てるが・・・新型かとでも言うのか・・・」
ナカトのディクセンの前に現われたのは、ザッキュンに似た機体だったが色も装備している武器もまるで違う。
「来た!」
新型の右腕から何かが飛んで来た。剣でも斧でもない、ナカトはとっさに左腕のシールドを構えた。だが、その瞬間ディクセンの全身に衝撃が走った。
「うわあああ!!」
ナカトが悲鳴を上げた。コクピット中の計器がショートする。新型が放ったのは電気のムチだったのだ。銃でも剣でもない間合いから放たれる攻撃にナカトは、なすすべなくやられていた。
「こ、こいつザッキュンなんかじゃない・・・パワーもスピードも、全然違う。」
計器がショートし動けなくなったディクセンの中でナカトは呟いた。
この機体は宇宙悪魔帝国の新型ビースト『ギュフー』。地上戦を重視して開発された局地戦用ビーストだった。
「はっはっはっ!ザッキュンとは違うのだよ!ザッキュンとは!」
ギュフーのパイロットは高らかに笑った。さらに背後から陸戦用のザッキュンが二機も現われた。
「ズロースはワシと青い奴を!コスンは倒れた赤い奴を拿捕しろ!」
ギュフーの中年パイロットが部下二人に指示を出す。
「はい、リャル大尉!」
「了解しました。」
三機の宇宙ビーストがディクセンに近づいてくる。ナカトのディクセンは伝送系がショートし、何の反応も示さない。ハルマのほうは片足がやられて立つ事も出来ない。人型兵器にとって足は地上では唯一の移動手段だからだ。しかも倒れた衝撃で左肩が損傷し、左腕が思うように動かない。
「ふっ・・・偵察中にTDFの新型にお目にかかれるとはな。ワシもついている・・・」
「くそっ!動け!ディクセン!動けよー!!」
闇雲に操縦桿を動かすナカト。だが、ディクセンは反応しない。モニターも完全に死んでいた。伝送系がやられているので無線で助けも呼べない。
「くっ!」
ナカトは緊急用のレバーを引いた。爆発ボルトが点火し、ハッチが吹飛ぶ。すると自分の眼前にはギュフーとザッキュンが迫っていた。思わず腰の拳銃を抜いたが、そんなものが通じるとは思っていない。
「ここまでなのかよ・・・」
もはや機体を捨てるしかないと、ナカトは悟った。
だが、ナカトは目を見張った。ザッキュンの背後に黒い何かが、立っていたのだ。砂煙でよく見えないが、ディクセンと変わりない大きさの人型ロボットらしかった。
ギュフーもザッキュンも気付いたのか、一斉に振りかえる。だが、そこまでだった。
いきなり、二機のザッキュンの頭部が吹飛んだ。よく見れば、黒い何かが掌底を放ったのだ!
ギュフーが、ムチを放った。だが、黒い物体はまるで人間のような軽やかな動きでムチを避ける。そして態勢を低く取り、ギュフーの懐へと入る。
「早い・・・」
ナカトは呆然と呟いた。その黒い物体はギュフーの胴体に向けて突きを放つ。一発・・二発・・三発と、次々と掌底が炸裂する。
やがてギュフーはそのまま地面へ突っ伏し、二度と動く事は無かった。
「強い・・・」
呆然とするナカト。そしてようやく砂煙が収まってきた。黒い物体の全貌が明らかになってきた。
「・・・ギア・・・なのか?」
目の前に現われたのは、黒い人型ギアだった。だが、ナカトは疑問に思った。ギアにこんな滑らかな動きができるのだろうか?と・・・
そのギアは、大きさはディクセンと差は無い。全身が黒く、背中に二機のスラスターウイングらしき物が付いている以外は、すっきりとしたスマートな体系のギアだった。特徴らしきものと言えば顔だった。全体が銀色で、目はヒュッケバインのような鋭い黄色の目、そしてまるで般若を思わせる造形だった。
「こいつは一体・・・?」
「おおっとっ!そこまでだぜ!キスレブの新型ぁ!」
黒いギアとディクセンに向けて、若い声がこだまする。見ればいつのまにか、赤いギアがそこに立っていた。ギュフーのようにムチを持ち、ギアのくせに顔に眼帯をつけた機体だった。
「仲間を見捨てて、自分だけ脱出とは感心しねえな!」
赤いギアは黒いギアに向けて指差した。
「とっとと、ソイツを置いて、帰りなっ!」
その赤いギアに対して黒いギアは身構えもせずに、言った。
「待ってくれ!俺は敵じゃない!」
次回予告
謎の黒いギア「ヴェルトール」片目の赤いギア「ブリガンディア」この二機の正体は?
ディクセン救出の為、砂漠を走るR−ガーダーに流砂が襲いかかる!果たして匕首姉弟は?!
そして!ついに発見したゴルディバスと宇宙悪魔帝国の前線司令部!襲い来る新型宇宙ビースト!
さらに、謎の地下迷宮!今ここで、将輝最大の危機が訪れる!!
次回、サイバーロボット大戦 第十六話『熱砂の激闘!強襲、前線基地!』に、レディーファイトッ!
次回も、地下迷宮にすげえぜ! 「暗いよトコダメなんだよ〜」