第十四話 「極寒の罠!うなれ六甲山おろし!」
「何ぃ!捕虜が俺達の指揮するだと〜!!」
消火活動を行っているゴンザレス隊のリッキーが叫んだ。
だがそれは紛れも無く事実だった。現に結奈とユナの二人、そして作業用のアルブレードが赤いライデンの指揮に従って動いていた。
「何考えてんだ!ウチの隊長さんはよ〜!!」
リッキーが頭を抱える。
「考えなんて解からんさ・・・。俺達は今、格納庫の火を消すことが最優先だろう?」
トーマスがリッキーを諭すように言う。
「そう・・・だな・・・」
元々考えるのが苦手なリッキーは、考えるのを止め消火を続けた。そこに一機のライデンが現われた。
「ステフォン=アイボリー軍曹であります!サルペン准尉の命により、これより消火活動に入ります!下がってください!」
アイボリー軍曹のライデンが炎の上がる格納庫の前に立ち、バズーカを構えた。
「消火弾!発射!!」
ライデンのバズーカから、次々と砲弾が発射される。今回は通常弾ではなく、火災用の消化弾だ。
連続して撃ち込まれる消化弾により、格納庫の火災は確実に収まっていった。
「よし・・・とどめだ。」
アイボリーはライデンの腰のラックから手投げ弾を取り出した。
「いけっ!液化窒素弾!!」
アイボリーのライデンは液化窒素が凝縮充填された手投げ弾をサイドスローで投げた。地を滑るながら手投げ弾は格納庫内で爆発した。たちまち鎮火する格納庫。
「今です!皆さん機体に乗り込んでください!」
アイボリーが叫ぶ。言われるまでも無く、パイロットたちは鎮火した格納庫へ走った。
その頃、サルペンの赤ライデンとシャドーレッドの武者ロボット『轟雷』がお互いを牽制し合いながら対峙していた。
お互いパイロットの技量は解からない・・・・だが、両者の機体とも重量級である事、そして装備している武器から全く正反対の攻撃性能を有している事は解かっていた。
巨大な二基のレーザー砲、大ぶりなビームガン、大型の手投げ弾。それが赤ライデンの装備、遠距離戦を重点にしている。
対して轟雷は巨大な太刀、肩に大型エネルギーキャノン、そしてプラズマをほとばしらせるバリアー。接近戦を得意とする機体。
つまり、距離を開ければライデンが、詰めれば轟雷が、圧倒的有利に立てるのである。共通しているのはお互い装甲が厚く、そして『赤い』事である。
ライデン、轟雷共に攻めない。厚い装甲に覆われた両者に小手先の手は通じないからだ。互いに一定の距離を保ったままにらみ合っていた。
そして戦端は赤ライデンが開いた。痺れを切らしたサルペンがフラットランチャーを轟雷目掛けて発射したのだ。
「ふん。」
轟雷がしゃがみ込みバリアーを張る。バリアーに阻まれる二本のビーム光。
「避けて見せろ!」
今度は轟雷が仕掛ける。轟雷が太刀をニ、三回振る。ただの素振りではない、振られた太刀から衝撃波のような物がライデンを襲う。
「くっ!」
避けそこない衝撃波を食らう赤ライデン。だが致命傷ではない、厚いライデンの装甲が守っていた。
「このっ!!」
サルペンはレーザーを放った。二本の光線がシャドーレッドを襲う。
「遅いな。」
易々とかわす轟雷。お返しとばかりに、ショルダーキャノンを放ってきた。避けそこない、転倒する赤ライデン。
「こうなったら・・・」
サルペンはライデンを突進させた。ムチャな行為だとは解かっていた。だが、スピードの遅いライデンには轟雷の攻撃を受ける事は出来ても、避ける事は出来ない。いちかばちかで突っ込んだ。
「捨て身の攻撃・・・おろかな。」
一直線に突っ込んでくる赤ライデンを見てニヤリと笑うシャドーレッド。今一度ショルダーキャノンを構える。
「沈め!」
キャノンを放つ轟雷。だが眼前に赤ライデンはいなかった。
「何!どこだ!!」
シャドーレッドがモニターを見渡す。轟雷のコクピットに敵機を知らせる警報が鳴る。
「上か!!」
轟雷の頭上に太陽を背に、ライデンがジャンプしていた。
「くらえっ!赤い奴!!」
自分も赤いくせに、サルペンは叫んだ。肩からもう一度レーザーを空中で放つ。
「馬鹿め!同じ手を。」
先ほどの攻撃でライデンのレーザーの射角は読んでいた。シャドーレッドは轟雷を左にジャンプさせた。
「何!?」
轟雷はレーザーの攻撃を受けた。まっすぐ飛んでくるはずのレーザーが斜めに飛んできたのだ。威力は弱いものの、直撃を受け怯む轟雷。
サルペンはレーザーを拡散照射に切り替えていたのだ。ライデンのレーザーは、強力だがまっすぐにしか飛ばない通常モードと、威力を押さえ、四方向へ飛ばす事が出きる拡散照射に切りかえる事が出来るのだ。
「今だ!!」
サルペンはライデンの背部バーニアを全開にして、怯んだ轟雷目掛けてライデンを体当たりさせた。空中で激突する二機の赤いロボット!
そして轟音を上げ、地面に激突する!凄まじい衝撃がサルペンとシャドーレッドを襲う。
「何て奴だ!」
シャドーレッドは轟雷の上に覆い被さっているライデンを引き剥がそうと、轟雷の腕を動かす。だが、いくら押しても引いてもライデンはガッチリと轟雷を掴んで離さない。
「ええい!」
轟雷は何処からともなく槍を取り出した。そしてライデンの腹部へ突き刺す!全身から火花を散らすライデンだが、それでも離さない。そればかりか反対に槍を自ら体内へ押し込んでいた。
「ふふふ・・これで離れられないでしょう?名づけて『ハラキリ・ストーカー戦法』なんてね・・・」
サルペンは火花の散るコクピットでニヤリと笑った。
「この距離なら素人でも外さない・・・・終わりよ!!」
すでにチャージは終わっていた。肩のレーザー砲を開く・・・そして一撃必至の零距離レーザーが轟雷を襲う!!
「ぬわぁぁ!!」
レーザーが轟雷を貫く!轟雷の強靭な装甲に穴が開く。しかも前面の装甲が焼け爛れている。シャドーレッドが今まで受けた事の無いダメージだ。
「なんというロボットだ!!」
シャドーレッドはかろうじて動く轟雷の右腕に太刀を握らせ、轟雷を激しく回転させた。
「旋風斬刻!!」
轟雷の必殺技の一つだ。激しく回転し相手を切り刻む技だ。だが今回は取りついたライデンを振り払う為に使用している。思惑通りライデンは引き剥がされようとしている。
「まだだぁ!!」
強力な遠心力に襲われるサルペンだが、彼女はライデンの腹に刺さった槍を引きぬくと、それを轟雷に突き刺した!
「くうっ!しつこい奴め!!」
回転を止めた轟雷。まだ、赤いライデンはしがみついている。シャドーレッドは太刀でライデンの両腕を断ち切った。切断された個所からオイルが血飛沫のように飛び散る。
「私にここまでダメージを与えたのはお前が始めてだ。褒美だ・・死ぬがいい!」
轟雷が太刀を構える。だが、両腕を失ったライデンは臆することなく対峙する。
「まだ・・・肩は無事よ・・・」
ライデンはレーザー照射口を開く。お互い満身創痍でにらみ合う。
「そこまでだ!!シャドーレッド!!」
両者の間に腕が飛んで来た。キカイオーのロケットブローだ。二人は腕が飛んで来た方を向く。そこにはキカイオーを始めR−ガーダーやディアナ、バンガイオー達が立っていた。
「増援到着か・・・これでは勝負にならんな・・・撤退する!」
轟雷はバリアーを張って去っていった。
「待てッ!!じっちゃんの仇め〜!!」
ジュンペイが空に向かって叫ぶ。だが、空にはもう両足を失った黒いラファーガがいるだけだ。
「VR社の傭兵がTDFについたのか・・・面白くなりそうだな・・・」
ナクは静かに呟いた。そしてR−ガーダーを見つめていた。
「貴方達を倒すにはこの『最強の矛』でなくては無理そうですね・・・またお会いしましょう。」
ナクは一枚のディスクを見つめて言った。
次の瞬間には、もう黒いラファーガはもういなかった。
数時間後・・・・火災の鎮火したTDF本部からホワイトローズは発進した。進路を東北へ向けて・・・
そしてそのブリッジでは、負傷し未だ意識を戻さないヴィレッタに代わり、ライが皆を仕切っていた。ブリッジに集められた面々は皆、ライを見ていた。
「よ〜しブリーフィングを始める!負傷中のヴィレッタ隊長に代わって、この私『ライディース=ブランシュタイン』少尉が取り仕切らせてもらう。」
ライがメンバー全員の前で言った。
「まだ、宇宙ロボット研究所所属のロボット『ゲッP−X』が合流していないが、ここで全員の配置を報告させてもらう。」
ライが次々にメンバーの配置や役割を伝えて行く。皆真剣に聞いていた。
「まず、我々はTDFから自由行動と多目的作戦を許可されているが、ある事をはっきりさせたい!いいか!我々TDF独立遊撃部隊『オンディーヌ』は、あくまでも『地球圏の平和』を守る為の部隊だ!その事を忘れるな!!」
ライが叫ぶ。
「つまり、この地球にはびこるダニどもをぶちのめすんだなぁ!まかせとけぇい!」
りきが勇ましく言う。
「ちょっと、違う気がする・・・」
空が呟く。
ライは咳払いを一つして話を続ける。
「まず我がオンディーヌ隊の隊長だが皆知っての通り、ヴィレッタ少佐が勤める。だが、少佐は負傷中のため指揮が取れない。そこで、艦全体に関してはベイツ大佐に一任し、部隊に関してはこの私が隊長代理を務める。」
ライの言葉に皆頷く。
「そして、副隊長にはミミー=サルペン准尉にお願いする。」
ライの横にサルペンが現われる。赤いVR社のパイロットスーツではなく、VRAの軍服を着ていた。サルペンの登場に一部の者はざわめいた。当然の反応だ、彼女はTDFを攻撃した『敵』であり『捕虜』だったからだ。だが、ライは話を続けた。
「驚くのは無理は無い。だが、彼女達は既にVR社から解雇された身だ。つまり『フリーの傭兵』という立場になったのだ。」
ライの言葉は事実だった。数週間前・・・ヴィレッタは条約に従い、捕虜であるサルペン達の尋問していた。そしてヴィレッタは、彼女達の身柄と引き換えに何か情報を得られないかと思い、VRAへ通信を入れ、交渉した。だが、VRAの返答は想像を絶する物だった。
「その者達は既に『死亡』している。交渉などない。・・・捕獲したVR?たかが大破したライデン七機、くれてやる。好きに使え・・・以上だ。」
VRAは、サルペン達傭兵部隊をただの部品としか見ていないような態度だった。考えてみれば、金で雇われた兵士に重要な情報など与える筈も無い。交渉など無駄なことだ、しかも捕虜の扱いに関しては、旧西暦から多少は改善されつつあるが、傭兵にはそれが適用されない。つまりどんな扱いをしようが構わない、と言う事だ。
ヴィレッタはVRAに潜入させている諜報員からも、同じ報告を受けた。裏づけは取れた。この事をサルペンに告げると彼女は激怒した。戦歴の長い中年の下士官は『当然だな・・・』と言っていたが、その他の若い下士官たちは、VRAに見捨てられた・・・と言って嘆いていた。
サルペン達はVR社から抹消された存在と化した。つまり彼女達を拘束する意味も無くなった。傭兵である彼女達からは大した情報も得られず、搭乗しているVRも大破している。このまま解放しても何の影響も無い。だが、ヴィレッタは彼女達をこのまま解放する気は無かった。何故なら彼女達の戦闘技能を高く評価していたのだ。『このまま、野に放すのは惜しい』と・・・
そんな時、ライから報告を受けた。熱望していた天才技術者『紐尾結奈』の引きぬきに成功したと。
ヴィレッタは、早速結奈に拿捕したライデンの修復を命じた。結奈は快く了承した。彼女も謎の機関である『V=コンバーター』に興味があったからだ。
ヴィレッタの思惑を知ってか知らずか、中年の下士官を尋問中、その下士官はヴィレッタに話を持ちかけてきた。『我々を雇わないか?』と・・・。
ヴィレッタにとって願っても無い言葉だった。一応極秘にT−LINKシステムを使い、真偽の方を探ってみたが下士官に腹黒い箇所は見られなかった。そしてヴィレッタはこの事を、指揮官であるサルペンに告げ、様子を見た。ヴィレッタに良い印象を持っていなかったサルペンだが、極東での戸籍や市民権を条件に、つまり『亡命』を約束させた上で、了承した。
「VRAに復讐してやる!!我々を見捨てた事を後悔させてやる!!」
こうしてサルペン達、元SHBVDの六人は七機のライデンと共に、戦列に加わる事になったのだ。
「と・・言う訳だ。依存は無いな?」
ライが事の経緯を説明すると、一応納得はしてくれたようだ。
「では我々オンディーヌは、これより北海道へ向かう!」
ライが言うと、ハルマが手を上げた。
「何故、北海道へ?」
ライは答えた。
「先ほど、宇宙ロボット研究所へ民間から通報があったらしい・・・」
回想・・・・北海道のとある農村。
その村は凍っていた・・・・。文字通り『凍っていた』のだ・・・家も車も、そして人や動物も・・・・
宇宙悪魔帝国の新兵器による『北海道氷河期作戦』に実験に使われたのだ。生き延びていた村人達は、途方に暮れていた。
村人達は、長老の家に集まり相談していた。
「くそう・・・なにもかも凍っちまった。」
「こりゃあ、宇宙悪魔帝国の仕業だ・・・」
村人達は、長老に弱々しく話しかける。
「このままじゃあ、今年の冬は越せねえだよ・・・」
「爺様。どうするだよ・・・」
「どうするよ〜・・・」
それまで黙って眼を閉じていた長老が目を開き、言った。
「ゲッP−Xを呼ぶだ!」
続けて言う。
「すぐに、電話してみるだ・・・・」
───宇宙ロボット研究所
黒いダイヤル式の電話機が鳴る。呉石博士はすぐに受話器を取る。
「なに!北海道に氷河期じゃと!解かった〜、すぐ行く!」
有言即実行!呉石博士はゲッP−Xチームに呼びかけた。
「ゲッP−X出動じゃ!!」
すぐに三機のメカが北海道に向け飛び立った。
回想終了・・・・
「と、言う訳で我々も北海道に向かう。これから打って出る我々にとって敵の情報は欲しい!宇宙悪魔帝国の前線基地を叩き、奴等から情報を得る。そしてこの日本から外敵を完全に追い出す!」
ライが激を飛ばす。こうしてホワイトローズは北海道へと向かった。
その頃、ゲッP−Xは北海道で激戦を繰り広げていた。無数の小型ビーストを蹴散らし、そして大型翼竜型爆撃ビーストと戦っていた。
「チェェェンジ!Xー1!レッツゴー!」
ケイが叫び、空戦形態のX−1に変形合体し、翼竜ビーストを迎え撃つ!両腕のビームを連射しつつ接近!そこで手持ち武器である鎌を抜く。
「くらえっ!!」
鋭い鎌が翼竜ビーストを切り裂く!爆発する翼竜ビースト。そして一息つく暇も無く、コクピットに警報が鳴り響く!『危険!大型ビースト接近中!』と・・・。そして現われた!多種様々な機械を身体中に取り付けた大型雪男ビーストが!
「出やがったな!」
ジンが雪男ビーストを見て叫ぶ。ケイは鎌を構えなおし、雪男ビーストに挑もうとしたその時、雪男ビーストの足元に人が駆け寄ってきた。雪笠を被った小さな男の子だ。
男の子は雪男ビーストの前に立った。そして雪男ビーストを守るようにゲッP−Xに向かって叫んだ。
「やめて!カンタローは、いい雪男なんだ!」
男の子を見て、リキが思わず呟く。
「た、太郎君・・・」
「太郎君て・・・誰だ?」
ジンが呟く。
「太郎君!危ない!下がるんだ!!」
ケイが男の子に向かって叫ぶ。だが、男の子は下がろうとしない。
「カンタローは操られているだけなんだ!お願い、カンタローを助けてあげて!!」
懸命に叫ぶ男の子。だがその背後で、雪男ビーストの目が赤く輝いた。そして次の瞬間!!
「わあああ!!」
男の子が悲鳴を上げる。雪男ビーストの目から赤い光線が男の子を襲った!爆風に煽られ、吹飛ばされる男の子・・・そして男の子はそれから動かなかった・・・
「太郎くーーーん!!!」
ケイが叫んだ!!だが返事は返ってこない・・・
リキが拳を震わせて叫んだ。
「くっそう!こうなったら、太郎君の弔い合戦や!!」
「だから・・・太郎君って、誰なんだ!!」
ジンの疑問の言葉に返事は無かった・・・・・
「北海道到着しました。艦長。」
ホワイトローズのオペレータとなったチェンミンが報告する。
「むう・・・これは予想以上に酷いな。」
艦長のベイツ大佐がモニターに映し出される景色を見て呟く。一面銀世界・・・と言えば響きは良いが、人も動物も建物も、何もかも凍りついた死の世界だった。
「酷い・・・・」
操舵手のイボンヌがあまりの酷さに呟く。
「ゲッP−Xの居場所は解かるか?」
艦長がチェンミンに尋ねる。
「激しい寒波によって、通信機器が妨げられています。今の状態では無理です。」
「よし、肉眼によって確認しよう、機動兵器部隊発進だ。」
「了解。」
チェンミンがパイロットたちに発進を要請した。
「さみ〜よ〜・・・・」
「何でこんな寒い所に来なきゃならないんだ〜」
パイロット待機室は、何故か畳敷きの和室と化していた。その中心、何故かコタツが置かれており、そのコタツにジュンペイとりき、大地、リュウセイが入ってミカンを食べながらぼやいていた。精神年齢が近いせいか、純粋な日本人からの共感か、この四人は特に仲が良かった。
「あ〜日本人の冬はコタツでミカンだよな〜」
ジュンペイが呟く。リュウセイは巽博士からもらったキカイオーの模型をいじりながら同意する。典型的日本風な冬の光景だった。
「なんで待機室がこうなんだ?」
畳に馴れてないサイモンは、何故かある座椅子に座って呟いた。それには部下のアムリッタも頷く。彼女も畳が馴れていないのか、何故か置いてあるマッサージチェアに座っていた。
「そうですよね。この艦、軍艦のくせにやけに居住性が良いんですよね。」
本当はそうである。軍艦は、艦の戦闘力を重視する為に、居住性など二の次、三の次とされるのが普通である。だが、ホワイトローズは『これ、本当に軍艦か?客船の間違いじゃないのか?』と誰かが言ったくらい快適な乗り心地だった。
「許容量稼ぐのに客船使ってるからじゃない?」
ハルマが言う。彼女は部屋の隅にあるソファーに腰掛けていた。その言葉はあながち間違いではない。
「そうかもな・・・でもいいんじゃないか?お嬢様も乗ってるんだから、豪華じゃないと!」
ライードが笑いながら言う。順応性が高いのか、彼はイグサの匂いを楽しみながら寝転んでいた。
「そうだな・・・」
サイモンが呟き、ふと窓の外から甲板を見る。激しい寒波で甲板が凍り付いていた。
「甲板が凍ってる・・・発進が大変そうだな・・・え?」
サイモンは甲板を見つめ呟いてる途中で何かに気付いた。凍りついた甲板上に人が見えたのだ。
「整備員か・・・?違う・・・アレは・・・・」
サイモンが見た人・・・・お嬢様軍団の一人、佐々木緑、別名『氷のミドリ』だ。自称『赤心スケート拳法』という謎の体術を使う彼女だが、普段はアイススケートを得意とするお嬢様だ。
その彼女が装甲に身を包んで、凍りついた甲板をスケートリンク代わりに滑っていた。
「何考えてんだよ・・・アイツ・・・・」
ミドリの華麗な滑りに見入られながらも、半ば飽きれたように呟くサイモン。
丁度その頃、待機室とは別の場所・・・・何故かある『大浴場』に将輝はいた。ちなみにホワイトローズの浴場は基となった旅客船の物を改造して組み込んだものだ。しかもレイカの要望で特殊入浴剤入り。
この時間帯、入浴しようと思う人間はいない。よって将輝の貸しきり状態だった。
「やっぱ、でかい風呂はいいよな〜。個室のユニットバスじゃ足伸ばせないからな〜」
将輝は風呂好きだった。寒い場所にいるからこそ、将輝は自由待機が出ると真っ先にここに来たのだ。
「個室の風呂なんて・・・いつ、ねーちゃんに巻き込まれるとも限らないからな・・・
それが本心。以前将輝は、無理矢理香田奈に風呂に引き込まれ、この年齢で姉と一緒に入浴したという、誰にも言えない・・・言えるはず無い、恥ずかしい記憶があった。
そんなのんびり入浴を楽しんでいる将輝の元に、いきなり香田奈が駆け込んできた。
「ね!ね〜ちゃん!なんだよ、いきなり!!」
思わず下半身を手で隠す将輝。だが香田奈は構わず浴室に乗り込んできた。そして将輝の腕を掴んだ。
「出撃!!」
「え?」
「いいから!急ぐの!!」
香田奈は湯船から将輝を引きずり出すと、パイロットスーツをさし出す。
「早く着る!遅れてるわよ!」
「ちょっ、ちょっと待って・・・体拭かせて・・・」
将輝が言葉を言い終える前に香田奈は両手にタオルを持っていた。
「まさか・・・・」
将輝は青ざめる。彼は知っていた姉のとったこの構えを・・・
「うりゃあああ!!」
香田奈は両手を開き上腕を頭部の横へ持ってくる。丁度ゴリラがドラミングする時の構えに似ていた。そして、それは起きた!
「やーめーてー・・・・」
将輝の悲痛な叫び・・・これぞ香田奈がまだ幼い頃の将輝や妹を入浴後、風邪をひかないようにと編み出した、妙技『無呼吸ふきあげ』である!
解説・・・・無呼吸ふきあげとは、タイミングもテクニックも何も無い、ただ闇雲に相手の濡れた体を両手のタオルで無呼吸で連続ラッシュパンチのごとく拭くという恐ろしい技である!
「終わった・・・」
香田奈が一息つく。そこには完全に体の隅々まで姉にふきあげられた将輝の姿があった・・・
数分後・・・凍てつく寒波の中、オンディーヌ隊のロボット達は出撃した。ゲッP−Xと宇宙悪魔帝国を探し出すため。
一方、肝心のゲッP−Xは、雪男ビーストとの戦いも佳境に差し掛かっていた。
まっすぐ突っ込んでくる雪男ビースト!真正面から迎え撃つX−1!
「秘儀!Xリムーブッ!!!」
ケイが叫び、ゲッPと雪男ビーストがぶつかり合う!そして一瞬の後、両者は背を向けていた。
───バカンッ!雪男ビーストを覆っていた、数多くの機械や外装が一瞬のうちに弾け飛ぶ。そしてその後には白い体毛に覆われた、温和な顔の雪男がきょとんとして無傷で立っていた。
「!?」
雪男は何かに気付いた。雪の中で横たわる男の子だ。雪男は男の子の亡骸を優しく巨大な手で包み込むと、そのままゲッPに背を向けて、山の方へ去っていく。
「カンタローは、元に戻れて幸せやったんやろうか・・・」
リキが去っていくカンタローを見つめながら言う。
「さあな・・・。でも!こんな酷い事をする、宇宙悪魔帝国を俺は許さん!!」
ケイが怒りに震えながら言う。
「さいなら・・・カンタロー・・・」
リキが涙ぐみながら呟いた。
「いないね〜そのゲッP−Xっていうロボット・・・」
吹雪が吹き荒れる中で大地が空に向かって言う。現在、捜索の為に皆で手分けして探しているのだ。寒波で通信機器が役に立たず、肉眼での確認しか残されていなかったからだ。
「そうね〜。でも戦ってるんだから、火の手が出ててもおかしくないんだけど・・・」
「おっ!姉ちゃん、頭いいじゃん!!」
大地が誉める。
「出撃前にライさんに教えてもらってたのよ。」
「ふ〜ん」
ふと大地が回りを見る。すると、一瞬だが、火が見えた。
「姉ちゃん!あそこだ!!」
大地がツインザムの手を火が見えた方向に示す。すると巨大な山の洞窟にゲッP−Xが入り込む所が見えた。
「大地!行くわよ!!」
「お〜!!」
ツインザムは分離して、ゲッPの後を追った。
「コイツが、北海道に氷河期をもたらした張本人か!!」
洞窟の最深部に、それはいた。巨大な宇宙ビーストだった。ざっと見てもゲッPの五倍はある巨体を有していた。マンモスビースト・・・それが『北海道氷河期作戦』の要であり、正体だった。
「食らえ!エックス・ビィィィムッ!!」
マンモスビーストに向けてゲッPの腹部から青い光線がほとばしる!!巨体ゆえ回避は出来ないようだが装甲が厚く致命傷にならない。
お返しにマンモスビーストは鼻から強力なブリザードを放った!たちまち凍りつくゲッP。そこを狙って突進してくるマンモスビースト!!
「しまったあ!」
強烈な体当たりを浴び、洞窟の岩盤に叩きつけられるゲッP。そこへ今度は鼻を巻きつけてきた。身動きの取れないゲッPを思いきり放り投げる。
「うわああ!!」
洞窟の外まで放り出される、そして洞窟からマンモスビーストは姿を現し、背中のハッチを開く。そこからサルのような小さな人型兵器とトマトのような頭をして体がタコの兵器が姿をみせた。
これぞ宇宙悪魔帝国の下っ端中の下っ端、『踵兄弟』が操る『モンタロービースト』と『タマタロービースト』である。ちなみにマンモスビーストはお情けで与えられたもの。
サル型のモンタロービーストが倒れたゲッPに迫る。サルのくせに目つきが悪く、文鳥のくちばしのような口をしている。愛嬌は無いが、憎たらしさはある。後続のタマタロービーストも同様だ、同じような目つき、同じようなくちばし、頭が真っ赤なトマトなのに(へたまで付いてる)体はタコ・・・つまり大昔の火星人のようで趣味が悪い事この上ない。
そんな奴等がゲッPに迫ってくる。だが、いきなり上空からミサイルが降ってきた。マンモスビーストではない。
「なんだ?」
ケイが上を見上げる。そこには上半身が青く、下半身が赤いロボットが肩からミサイルを発射していた。
「あれは・・・一体・・・?」
ジンが呟く。それはツイザムVのもう一つの形態、空をメインパイロットした『ツインザム2』だ。ツインザムはゲッPをかばうように大地に降り立った。
「ゲッP−Xの方ですね?この変なのは私達が何とかします!皆さんはあのマンモスを!」
空がゲッPに向かって言う。
「よ〜し!任せたでえ。ケイヤ兄い!ここはワイがやっつける!太郎君のカタキばとらんと!」
リキが叫ぶ。ケイは無言で頷いた。
「オープーン!ゲッPィィ!!」
リキの声でゲッPは分離した。
「チェンジ!Xー3や〜!」
リキの声で三機のメカが先ほどとは違う順列で並び、そして合体!!パワー重視の陸戦形態『X−3』だ。それを見て大地が目を輝かせる。
「すっげえ!見ろよ姉ちゃん!俺達みたいに合体したぜ!!」
「本当・・・あたし達より一人多いんだ・・・」
空が呟く。
X−3に合体したゲッPがマンモスビーストに向けて、突進する。そして豪快なパンチ!パンチ!パンチ!
「どやっ!浪速の根性みせたる〜!!」
今度は背中の大砲を構える。
「X大砲!はっしゃ〜!!」
強力な砲弾が次々とマンモスビーストに直撃する。
「とどめや!!」
地面にどっしりと四股を踏むように足を踏み降ろすゲッP。そして背中の大砲の砲身の先を開く。
「必殺!六甲山おろしじゃ〜!!どうりゃぁぁぁ!!」
ゲッPの背中から猛烈な勢いの竜巻が噴き出した!マンモスビーストも負けじと鼻から吹雪を噴き出すが、ゲッPの方が上だった。マンモスビーストの吹雪は押し返され、ゲッPの竜巻が巨大なマンモスビーストを包み込み、宙に高く浮かび上がらせた。
そして、竜巻が止むと同時に落下してきた。地響きを立てて地面に激突するマンモスビースト。最後には大爆発・・・・
爆発の煙はキノコ雲に似た感じだったが、違う点は傘の部分がモンタローとタマタローと同じ顔で涙を流していた所だ・・・・・
そして個別に攻撃を仕掛けてきたモンタローとタマタローもツインザムによって簡単に撃破されていた。
こうして、宇宙悪魔帝国の『北海道氷河期作戦』は失敗に終わった・・・・。
空から事情を説明されたゲッP−Xの三人はそのままオンディーヌに加わる事を了承してくれた。
夕焼けを見上げながら、ホワイトローズの甲板に立っていた三人は、花束を持っていた。それは・・・
「それにしても・・・太郎君て、誰だったんだろう?」
ケイが言う。
「なんや、ケイヤ兄いの知合いとちゃうんか?」
リキが素っ気無く言う。
「だって、お前が『太郎君』って・・・」
ケイが反論する。そんな二人を無視してジンが眼下に広がる山々に向かって花束を投げた。
「太郎君・・・安らかに眠るんだぜ・・・」
大空にジンの投げた花束が散った。
その頃、爆発四散したマンモスビーストの頭部の残骸から、何者かが這い出してきた。宇宙悪魔帝国の下っ端『踵兄弟』だ。全身タイツに身を包み、モンタローやタマタローに似た顔をしている。
彼等は一輪車を取り出した。
「ええ〜い、ゲッP−Xめ、おぼえていらっしゃ〜い・・・」
一人が一輪車に乗って、駆け出した。
「お兄様・・・待って、待ってくださ〜い・・・」
後ろの弟も一輪車に乗った。
「ふぉふぉ〜い・・・」
「ほいさ〜・・・・」
以下略
意味不明の奇声を上げ、彼等は夕日の中へと去っていった・・・・
だが数分後・・・・
「ひえ〜!!」
「お、お兄様〜!!」
彼等の目の前に、一機のPTが姿をあらわした。ヴィレッタの愛機『R−ガン』だ。
コクピットが開く、胸から腹部にかけて包帯が巻かれて痛々しい姿だったが、ヴィレッタは顔色一つ変えず踵兄弟に拳銃を付きつけた。
「お前等に聞きたい事がある・・・」
次回予告
何故か情報を持っていた踵兄弟から、聞き出した宇宙悪魔帝国とゴルディバスの前線基地目指して一路ホワイトローズは、砂漠の国『アヴェ』へと向かう!
だが、そこに待っていたのは宇宙悪魔帝国の新型ビースト『ギュフー』!!ザッキュンとは違う所をまざまざと見せつけられる我がオンディーヌ隊の運命は!?
だが、そこに現われた黒い般若を思わせるギアと片目の赤いギア!彼等の正体は?
そしてゴンザレス隊が森で幼い少女を助けるため、怪獣退治だぁ〜!!
次回、サイバーロボット大戦 第十五話『般若のギア・・・記憶を失った男』 キミん家にもグラーフいる?
次回もゼノギアスにすげえぜ!! 「貴方は秘境だわ!」