第十三話 「流用母艦ホワイトローズ!壊滅TDF本部(後編)
「新兵!見張り交替だ。」
独房の見張りに着いていたアービンに声がかけられた。少尉の階級証を付けた男だ。
「イエス、サー!」
アービンは何も疑いを持たずその場を離れた。
少尉は独房の中に収容されているイエールに話しかけた。
「イエールだな・・・キミは何番目のイエールだい?私の知ってるのは五番目なんだがな・・・」
イエールは悲しげな顔を浮かべて言った。
「二番目です・・・」
少尉はニヤリと笑った。
「そうか。私の知ってるイエールは私の上官と、恋愛感情を持っていたが、キミもそうなのか?」
「・・・・・・」
イエールは黙ったままだ。
「それとゴルディバスに連絡は入れたのかい?心配しなくてもここの盗聴機は外してある、数分は気付かれない・・・」
イエールは首を横に振った。
「そうか・・・これを渡しておく。ゴルディバスに連絡を行う時はそれで私を呼び出せ、な〜に悪いようにはしない。」
少尉は偵察兵用の超小型通信機を渡した。
「何故このような物を・・・」
イエールが少尉に向かって言う。
「なに、ちょっとキミに転職の相談をね・・・」
少尉はそれだけ言うと去っていった。
格納庫では、結奈が機体の整備を行っていた。しかし、整備していたのはPTでも他のロボットでもなかった。
「・・・・V=クリスタルの伝導効率を考えると・・・・いやそうすると・・・新造した部品とのマッチングが・・・」
結奈は自作の図面と、コンピューターからプリントアウトした図面を並べて悩んでいた。彼女が今、整備していたのは七体のバーチャロイド、ライデンだった。以前、キカイオーを狙ってきたVR社の傭兵部隊の機体だ。
「ここの回路が・・・・Vコンバーターとの接点が・・・ダメね・・・そうすると照射効率が2,3%落ちる・・・」
熱心にライデンの図面を見ながら携帯端末のキーを叩く結奈。彼女の手によって七機のライデンは機体そのものは完全な形に復元されていた。
結奈は無傷の二機のライデンを参考に、PTの部品や撃破したギアの残骸を利用し損壊した五機のライデンを復元したのだ。修理の度合いだが、ちぎれた足は拾えばいい、破損した装甲は同じような素材から流用すれば問題無い。だが一機、完全に頭部が吹飛んだライデンがあった。
「いくら何でも、これは無理だ・・・コイツはパーツ取り用だな・・・」
本部の整備員の意見だった。頭部はPTや高性能ギアにとっては重要かつ複雑な部分であった。これはVRとて例外ではない。頭部は各種センサーやカメラの集合体である。極東には全くと言っていいほどVRの流通ルートは無い。即ち交換部品を入手する事が難しいのである。
「面白い・・・直してあげようじゃない・・・」
誰もがさじを投げたライデンに結奈は一人で挑んだ。そして彼女は偉業を成し遂げた。
「スゲエ・・・頭、新造するなんて・・・」
整備員達は驚愕した。塗装こそ施されていなかったが、彼女はライデンの頭部を各流用部品や自分で新たに部品を作る等して復元したのだ。
こうしてライデンはボディを完全に修復され、残すは組立終了後の調整を残すのみとなっていた。
彼女が今取り組んでいるのは、その調整作業だった。修理したり新造した部品が機体と馴染むかどうか調べていたのだ。
「よし・・・これなら・・・」
そんな時、格納庫に将輝が現われた。ズラリと並んだ七機のライデン達を見上げていた。
「直したんだ・・・ライデン。」
何気なく呟く。以前これらのライデン達と死闘を繰り広げたのを思い出していた。
「青いの・・・胸の辺り綺麗になってる。」
将輝は青いライデンの前に立って呟いた。戦死したリットーの青ライデンだ。ヴィレッタの狙撃により胸部が損壊した青ライデンだが、前のように綺麗なメタリックブルーの輝きを取り戻していた。
「ちょっと!貴方、今忙しいのよ!見学なら後日にしてくれない。」
結奈が将輝の存在に気付いて話しかけた。
「紐尾さ〜ん。ヴィレッタ大尉が呼んでますよ〜。俺はそれを伝えに来たんだ〜。」
「大尉が?」
結奈はしぶしぶ隊長室へと向かった。
「来たわね結奈さん・・・貴方に頼みがあるの。」
隊長室に入ってきた結奈が聞いたヴィレッタの第一声がそれだった。
「頼み?何かしら。」
「貴方、改造や流用、パワーアップ改良などは得意?」
結奈はニヤリと笑った。
「得意分野だわ・・・」
「それは良かった・・・。これから貴方にやって欲しい事がある・・・」
ヴィレッタはそう言うと、一枚の書類を結奈に手渡す。
「ふ〜ん・・・面白いわね・・・」
「一ヶ月で出来そう?」
ヴィレッタが問う。結奈は書類を脇に携えると微笑しながら答えた。
「三週間ね・・・私ならその期間で十分過ぎるわ・・・」
ヴィレッタは頷いた。
「よろしい。予算はそれに記してある分でお願い。人手は基地内の人間を好きに使って構わない。資材は本部にある分なら自由に使ってもいいわ。」
「解かったわ。早速作業に取り掛かるわ・・・」
結奈はそれだけ言うと格納庫へ戻ろうとせず、航宙艦ドックへと足を運んだ・・・・
「アルブレードの指揮官用?」
リュウセイがライに尋ねる。
「ああ・・・俺のゲシュペンストは紐尾君によって大破したからな。その代替機だ。どうもヒュッケバインには良い印象が無いんでな。」
ライはそう答えた。一瞬ライの目線が左手に映る。彼の左手は機械式の義手になっている。数年前、ヒュッケバインの暴走事故でライは左腕を失った。それ以来、彼はヒュッケバインを避けていた。
「ふ〜ん。で、どこが違うんだ?やっぱ、頭に角ついてんのか。それとも髑髏のマーク・・・」
ライはため息一つついて話し出した。
「見かけは殆ど変わらん。頭部がR−1にそっくりになったぐらいだ、通信機能の強化にな・・・。あとは出力の強化、胸部の装甲の増加・・・増えた重量をカバーするために背中の装甲を軽量化、それくらいだな。」
「なんでえ〜殆どかわらねえじゃん。」
「・・・・まあな、後は腕でカバーするさ・・・」
その頃、格納庫では結奈が整備員を集めていた。何か話し合う為のようだ。
「出来るんですか?チーフ・・・・」
「短期間でここまでできるかどうか・・・」
整備員達は結奈の提示した課題に疑問を投げかけていた。
「計算上は上手くいくわ・・・後は貴方達のやる気次第・・・・これはヴィレッタ大尉の要請でもあるわ。」
「う〜ん・・・・」
しばし沈黙の後、整備員の一人が口を開いた。
「やりましょう!どのみち選択肢は一つだ!」
それを聞いた結奈は満足そうに頷いた。
「決まりね・・・・」
結奈は立ちあがると、白衣を脱ぎ捨てた。その下からは真っ白なつなぎの作業服を着ていた。
「やるわよ!」
作業帽子を深く被り、結奈は工具を持って航宙艦ドックへ走った。
───そして、二週間後・・・・・
本部近くの演習場で、今日も将輝達は訓練を続けていた。この2週間、外敵の動きは殆ど無く、戦闘といっても宇宙悪魔帝国の偵察機が国境近辺を飛んでいたくらいで、それは全てゲッP−Xが迎撃しており、将輝達はその間に、集結したメンバーとの訓練や模擬戦を繰り返し、来るべき戦いに備えていた。
今日の訓練は、対ゴルディバスを想定したもので行われていた。仮想目標はレイカのディアナ17(セブンティーン)とユナのエルライン。高機動性と飛行能力が最大の武器であるこの二機を、ゴルディバスの主力兵器『クヴァール』と想定して行われていた。
「ホラホラ!もうおしまい?」
ディアナが空中からキックの連激をR−ガーダーに見舞う。胸の重機関砲以外満足な対空兵器の無いR−ガーダーには空中からの攻撃が一番辛い。ガードするのがやっとだ。
「どうしたの?クヴァールのプラズマ触手の攻撃はディアナのキックより、リーチが長いのよ!」
レイカが叱責する。
「ぢぐしょ〜!!」
将輝はコクピットで嘆く。ディアナのスピードは速く、R−ガーダーの大ぶりなパンチのスピードでは、ディアナを捉える事すら出来ない。
「それっ!」
何度目かのキックがR−ガーダーに突き刺さろうとしていた。将輝は装甲が分厚い腕を頭上にかざし防御しようとした。だが、後部座席の香田奈がいきなり操縦を自分に切り替えた。R−ガーダーは防御態勢を解き、無防備な姿をさらす。
「ね!ねーちゃん!何考えて・・・・」
将輝が後ろの姉に話しかけようと瞬間、ディアナのキックが炸裂する。激しい衝撃がコクピットを揺さぶる。だが、将輝がモニターに目をやると、ディアナの足をR-ガーダーがしっかりと掴んでいた。
「なに!!」
レイカはコクピットの中で叫んだ。振りほどこうにも、パワー、重量ともにR−ガーダーはディアナを上回っている。
「ね、ね〜ちゃん?」
将輝がびっくりした顔で香田奈に尋ねる。
「簡単よ。動きが速くて、当たらないなら〜。」
「当たらないなら?」
「止まったところを狙えばいいのよ。キックを当てるために必ず、一瞬動き止まるもの。」
将輝は驚いた。姉がそこまで見ていた事に。
「だったら、何で言ってくれなかったんだよ〜!!」
「言った所で、しょうちゃん素直に聞く?どうせ『そんな事できるか〜!』とか言うんでしょ♪」
ニッコリと笑顔でかえす姉。図星のため言い返せない弟。
「よ〜し!今日はここまで!」
R−ガンに乗ったヴィレッタから指示が出る。そこでディアナから手を離すR-ガーダー。他の機体も同様に模擬戦を終える。次々と本部に戻ろうとしていた。
「ふ〜・・・ヤレヤレ。」
レイカが服の袖で汗を拭う。するとディアナも同じ動作をする、ディアナは搭乗者の動きと同調するシステムで動いているからだ。だが・・・
「腹が減った〜・・・メシメシ〜」
ジュンペイが空腹なのか、キカイオーが腹を押さえていた。ちなみにキカイオーの操縦はPTと同じようなペダルとレバー、及び音声入力。つまりジュンペイの『腹が減った〜』という言葉にキカイオーが反応したわけだ。
「あ〜疲れたぜぇ・・・」
りきが力無く呟く。バンガイオーは模擬弾を全身に受け、真っ赤になっていた。フラフラ歩くバンガイオーを脇からツインザムとワイズダックが支える。
「俺はこれくらい、ヘッチャラだぜ!でもお腹空いたな〜。」
大地がぼやく。反対側の脇を固めるライードのワイズダックもそれには同意していた。
「まったくだ。早く戻ってメシにしようぜ!」
ライードのワイズダックは、ゴンザレス隊の機体と識別するため塗装が変更され、深い青色で塗られていた。
「私は熱いシャワーが先だな・・・」
ラファーガを人型にしていたサイモンが言う。女性陣がそれに賛同する。
「うんうん!そ〜だよね。」
エルラインの中でユナが笑顔で頷く。エルラインも模擬弾を受けて真っ赤だ。
「そ〜いや、紐尾の奴、訓練に参加しないで何処で油売ってんだ?」
ジュンペイが周りを見て言う。元々相性が悪いせいか、ジュンペイと結奈は仲が良くない。本部に世界征服ロボを持ち込んではいたが、右腕の修理が終わってからは、訓練に参加したことは一度も無い。
「整備で忙しいからじゃないですか?」
空が弁明するように言う。機械に強くない空はツインザムについて結奈に日頃から、世話になっていたからだ。
「あら?ジュンペイ君は、彼女が気になるの?」
アムリッタの赤いラファーガが、肘でキカイオーをこずく。
「喧嘩するほど仲がいい・・・って言うしね♪」
ハルマのディクセンも同じように反対側からこずく。
「そんなんじゃねえよ!!」
そう言い、ジュンペイはキカイオーを大股で歩かせた。
「全員聞いてくれ、悪いがそのまま航宙艦ドックまでついて来てくれ。大事な話がある。」
ヴィレッタのR−ガンから通信が入る。
「何ですか?大尉。」
ナカトが尋ねる。だが、ヴィレッタは答えずにR−ガンを全機の先頭に移動させ、先導した。
やがて航宙艦ドックまで来ると、ヴィレッタはハッチを開けた。そこには・・・・・
「なんだよこれは・・・・・!!」
「スゴイ!!」
「でけえぜ!!」
「大したシロモノだ・・・」
ドックには、白く塗られた大型の艦があった。
大きい、TDFの宇宙用巡洋艦を上回る大きさだった。目立つのは艦首で、恐らく機体射出カタパルトだろうが、三叉の矛のように先端が三つに分かれていた。
さらに艦の左舷、右舷にはそれぞれ三連装の大口径砲が取り付けられている、主砲だろう。さらに艦の中心部に階段状にニ連の旋回式のビーム砲、そして機銃が多数取りつけられていた。戦艦並の火力は有しているだろう。
艦の後部のエンジンブロックも大きかった。後部も三叉に分かれており左右中央とそれぞれ単独で大気圏離脱も可能そうな程強力そうなロケットが取りつけられていた。
艦の中央付近から四枚の翼のような物が大きく張り出しており、大気圏内飛行を可能にしていた。
ブリッジは艦の登頂部にあった。少々大型で、戦闘行為に不向きそうなブリッジではあったが、レーダーやセンサーの外部機器が目立つ高性能そうな物だった。
「ん?」
サイモンが何かに気付いた。
「アムリッタ、この艦のブリッジ、何処かで見たこと無いか?」
「そう言われてみれば・・・・TDF宇宙軍の情報収集艦にそっくりですね。・・・いえ!色が違いますけどそのままですよ!!」
アムリッタの一言に他の者も気がついた。次々と声を挙げる。
「あの大砲は、TDF陸軍の陸上戦艦の主砲『420ミリ砲』だ!」
トーマス伍長が叫ぶ。
「それだけじゃない!中心はともかく、左右のカタパルト!あれ、海軍の小型空母そのまま左右にくっつけてる!」
ハルマが言った。続けてナカト。
「あのエンジン・・・宇宙軍の巡洋艦の物、三つくっつけて形整えただけだ・・・」
「・・・・・」
全員しばし沈黙、その後一番先に口を開いた者がいた。まみだ・・・。
「つまり、寄せ集めの継ぎはぎ艦ですね。」
「・・・・・・・・(汗)」
誰も何も言わなかった。使えるものは何でもくっつけた、まるでプラモデルの改造のような艦がそこにはあった。
「説明しよう。これが我が部隊の母艦となる改造強襲戦艦ラズベリー改、正式名称『ホワイトローズ』だ。」
ヴィレッタが淡々と解説した。
「練習艦をどう改造したら、強襲艦になるんだよ・・・・」
ライードが呟く。
「げ、原型とどめてない・・・・」
ハルマが呆然と言う。確かに色は同じだが、今まで自分たちが運用していた練習艦の面影すら無くなっていた。
「後、一週間で完成する予定だ。完成次第我々はこれで撃って出る。」
ヴィレッタはホワイトローズを見上げて言った。
「現在、紐尾主任が中心となって完成を急いでいる。」
そこで空が手をポンと叩いた。
「あっ!紐尾さんが訓練に参加しなかったのはコレを造る為だったんですね!」
ヴィレッタが頷く。
「こんなバランスの悪い艦使えるのか?」
ジュンペイが言うと、いきなりキカイオーの頭部目掛けてスパナが飛んできた。しかもPTサイズのスパナが・・・
「あいて!!」
スパナがキカイオーに命中すると、ジュンペイは思わず声を挙げた。別にキカイオーならばこれくらいなんとも無いのだが、ジュンペイは反射的に声を出した。
「何しやがる!!」
キカイオーがスパナの飛んできた方向を見ると、頭にねじり鉢巻を付けて、PTサイズの金槌持った世界征服ロボがいた。よく見れば同じように鉢巻しめたアルブレードが数機、作業していた。
「私が造るものにバランスが悪いわけないでしょう。ちゃんと剛性やバランスを考えて造ってるのよ!」
その後、結奈が解説するには、ラズベリーの中心ブロックのみ使用し、後は既存のTDF艦や民間の旅客船、貨物船の部品を流用して、船体を構築していたらしい。
ラズベリーは練習艦だが、耐久性は巡洋艦以上であった。そこに許容量を稼ぐために、民間の旅客船と貨物船のブロックを繋ぎ合わせ、許容量を確保。次に剛性を上げるために宇宙戦艦のフレームを流用、これを巡洋艦のサブフレームと繋ぎ合せ船体を囲む。
外装と武装に関してはTDF戦闘艦の物をそのまま流用、攻撃力と防御力を確保。そしてエンジンはナカトの言った通り、巡洋艦の物を三つ載せた。これに補助エンジンとして駆逐艦の物を二つ組み込んでいる。
最後に情報収集艦のブリッジをそのまま流用し、さらに、ラズベリーのデーターを移植する事で能力を上げる。
「と、言うわけ。解かった?」
結奈が説明を終えて、作業に戻って行った。
「お前達に見せたかったのは以上だ。では解散!」
ヴィレッタが言う。皆その場から離れて行く。だが、黒いラファーガが一機、しばらくホワイトローズを見上げつづけていた。
「一週間後か・・・・。使えるな・・・・」
ラファーガのパイロットはニヤリと口元をゆがませた。
「何のようですか・・・」
独房内のイエールが以前現われた少尉に向かって静かに言う。
「言っただろう?転職の相談だと。」
イエールは黙ったままであった。
「以前渡した無線機でゴルディバスを呼べ。一週間後に来るようにな・・・・」
「・・・解かりました・・・・」
イエールは静かにそう言い、後は黙ったままであった。少尉は口元を歪ませ微笑んだ。
「よろしい。では私は客人を迎え入れる準備をしておこう・・・それと先方に失礼の無いように手土産も用意しなくてはな・・・」
少尉は、それだけ言い去っていった。
───そして六日後の夜・・・・
ヴィレッタは通信室に一人いた。相手は北京にいる本部の司令だ。
「ヴィレッタ大尉。君の提案通り、本部の機能は北京に移し終えた。」
モニターに映る司令はヴィレッタにそう告げた。以前ヴィレッタの提示した案が受け入れられたのだ。そして、その提案通り本部機能を北京に移し、司令も一足早く北京に向かったのだ。
「大尉、後はキミの働きに掛かっている。頼んだぞ!」
ヴィレッタは敬礼で返した。
「君には、明日を持って『TDF独立遊撃部隊オンディーヌ』隊長として着任してもらう。改造艦の艦長にはベイツ大佐についてもらうがいいかね?」
「ハッ!」
「次に、君は明日付けを持って少佐に昇進してもらう。遊撃部隊の隊長が尉官では示しが付くまい。それと君の言っていた連中だが、君の責任の範囲でなら好きに使え。」
「恐れ入ります。」
司令はヴィレッタを見て頷く。
「・・・イングラム少佐は多くの遺産を遺してくれた。それを頼んだぞ・・・・」
「了解しました・・・」
ヴィレッタは敬礼して通信を切った。その通信室の外で静かにそれを盗み聞きしている男がいた事にヴィレッタは気付いていなかった。
「イングラム少佐の遺産の一つ・・・『地球を守る最強の矛と盾』・・・矛の方は私が頂きましたよ大尉・・・・。」
男は胸のポケットから一枚のディスクを取り出して静かに笑った。
明朝、結奈の言った通り、改造艦『ホワイトローズ』は完成した。白く輝く艦首に対して艦尾のエンジン部は緑色で塗装されていた。三叉に解かれた艦首を花びらと見れば、確かに白い薔薇を連想させる気品に溢れた艦だった。
「継ぎはぎなのに、綺麗に仕上がってる・・・・」
「短期間でよくここまで造ったよ・・・」
皆、結奈の才能と整備員達の無言の努力に感心していた。その功労者達は既に次の仕事に取り掛かっていた。
「よく働くぜ・・・アイツラ。」
ゴンザレス軍曹が感心して言う。軍曹の目線の先には船に物資を運び込んでいる結奈の世界征服ロボとアルブレードだった。
「物資の搬入が終わったら、ワシ等の機体と、お嬢さん方の飛行機積んで終わりだな・・・」
ゴンザレスは格納庫に足を運ぼうとした。だがそんな時、基地内に警報が鳴り響いた。
「敵襲か!」
皆、格納庫の自分の機体に乗り込もうと走り出した。だが、その瞬間爆発が基地のあちこちで起こった。瞬く間に本部は炎に包まれて行く。格納庫も同様だ、炎に包まれて近寄る事が出来ない。
「早く火を消すんだ!防災システムはどうした!!」
ヴィレッタが本部の管制室で叫ぶ。本部の各部で火災と爆発が起こっていた、敵襲どころの騒ぎではない。
「ダメです!防災システム作動しません!!プログラムが指示を受け付けなくて!!」
オペレーターが悲痛な声を出す。
「何ですって!!」
すると、ヴィレッタは不意に背後に気配を感じた。殺気と憎悪に満ちた気がヴィレッタを包んだ。
「無駄ですよ・・・・システムは全て、私と彼女によって無効化されています大尉・・・いえ少佐。」
ヴィレッタが振り向くと、そこには拳銃を構えたナク少尉とイエールが立っていた。
「お前の仕業か・・・・」
ヴィレッタが怒りに満ちた顔でナクを睨んでいた。
「はい、そうです。二日くらい前から準備していました。いや〜彼女の能力はすばらしい!管理システムの目の届かない場所を易々と調べてくれましたから。」
ナクは隣のイエールに目をやる。ヴィレッタがイエールを睨むと彼女は悲しげな顔をして目をそむけた。
「あと、お客様はゴルディバスの方々です。丁重に御持て成ししなくてはいけません、何せ私の新しい就職先ですから!」
その言葉にヴィレッタは拳を握り締めた。
「裏切るのか・・・地球を・・・」
「はい!私の能力をもっと評価してくださる職場が見つかりましたので。それでは辞表をお受け取り下さい、お世話になりました。」
ナクはそのまま拳銃の引き金を引いた。乾いた銃声が管制室を包む。
「ヴィレッタ少佐ぁー!!」
オペレーターがヴィレッタに駆け寄る。ヴィレッタは腹部から血を流して倒れていた。別のオペレーターが拳銃を抜いて管制室のドアを開けるが、ナクとイエールの姿はもう無かった。
「医者だ!はやく医者を呼んでぇ!!」
オペレーターが叫んだ。
「ヴィレッタ隊長が撃たれた!?」
「あのロン毛エリートがゴルディバスに寝返ったぁ〜!?」
動揺を隠しきれないメンバー。だが今は消火活動を行う方が先だ。懸命に消火活動を行うメンバー達であったが、火の手が強く、格納庫には今だ近づけない。
「どうするの?」
空が泣きそうな顔で近くにいたジュンペイに詰め寄る。だが、ジュンペイには答えられない。
「作業用のアルブレードをコッチに回せないか?格納庫の消火を最優先に!!」
ライが無線に向かって叫ぶ。だが返事は返ってこない。
「ダメか!!」
ライが深刻そうな顔で受話器を戻す。
「やばいぜ!!紐尾さんがやられてる!!」
大地が叫ぶ。唯一戦闘可能だった結奈の世界征服ロボとユナのエルラインがゴルディバスを迎え撃っていたが、多勢に無勢、しかも赤い武者ロボットまでその中には存在していた。
ロボとエルラインは善戦していたが、赤い武者ロボットはまさに鬼神と呼ぶべき強さだった。
「うわあああ!!」
結奈が悲鳴を上げる。そして世界征服ロボが倒れ込む。武者ロボットが太刀を振るい、その一太刀で世界征服ロボの左腕が肩から切り落とされた。
「まずいぞ!ユナも押されてる!」
リュウセイが叫ぶ。エルラインは三体のクヴァールに囲まれ、触手の攻撃を受けていた。そこにいきなり黒いラファーガが姿を見せた。バグ=ナクのラファーガ・ステルスタイプだ。ライフルを構えてエルラインに乱射する。
「ほう・・・あれが我等に寝返ろうとする地球人か・・・・」
赤い武者ロボットのパイロット、シャドーレッドがエルラインに執拗に攻撃を仕掛けているラファーガを見て呟き、回線を開いた。
「イエール02よくやった。一緒にいるのが我々への参加を希望している男だな?いいだろう、参加を認める。」
シャドーレッドの声がナクの元へ返ってきた。ナクは満面の笑みを浮かべる。
「ありがとうございます!!」
ナクは笑顔で答える。そしてふと、攻撃の目線を反らすと、そこには懸命に消火を行う匕首姉弟の姿があった。
「ふふふ・・・君達には感謝するよ。だからお礼をしなくては・・・・」
ナクはラファーガのライフルを匕首姉弟に向けた。
「ここは・・・・?」
ベッドの上でヴィレッタは目を覚ました。腹部が痛む・・・胸から腹部にグルグルに巻かれた包帯が痛々しい。
「ダメですよ〜・・・・まだ〜・・・じっと・・・していないと〜・・・・」
ピンクの看護婦の格好をした少女がヴィレッタに近寄る。お嬢様軍団の一人、神宮寺詩織。別名『おっとりの詩織』だ。看護婦の資格を持っている彼女がヴィレッタの手当てをしていたのだ。
「ここは〜艦の〜・・・医務室です〜・・・急所は〜外れてましたし〜・・・弾丸も〜・・貫通してましたから〜・・・命に〜別状は〜無いですよ〜・・・」
ジュンペイや大地が聞いたらイライラしそうな超スローペースで彼女は語った。ヴィレッタは、自分の身体が大事無い事を理解すると、上着を羽織って立ちあがろうとした。
「ダメです〜。キズが広がって〜しまいますう〜」
「大丈夫よ・・・この位・・・うっ!・・・」
だが、腹部を押さえて倒れそうになるヴィレッタ。慌てて詩織が支える。
「くそっ・・・今のオンディーヌを指揮出来るのは私しか・・・・!!そうだわ・・」
ヴィレッタは手元にある携帯通信機に話しかけた。
「ライディース少尉ね。彼女達を・・・そう、許可は下りてるわ・・・今頼れるのは彼女だけ!お願い・・・機体は既に艦に・・・」
ヴィレッタはそこで意識を失った・・・
黒いラファーガが匕首姉弟に狙いを定める。
「さようなら・・・・私より優秀な人間など存在してはいけないんだよ・・・」
ライフルの銃口が鈍く輝く。そして今まさにライフルからビームが発射されようとした刹那、それは起こった。自分のラファーガ目掛けて迫る二本の光の柱を!!
「しまった!!」
とっさの出来事だったにも関わらず、ナクのラファーガは避けた。だが、ラファーガの両足は既に膝から下が失われていた。
「誰だ!!」
ナクは地上を睨みつけた。そこには自分に向けて光の柱を放った張本人がいた。
「そんな馬鹿な!!何故奴等が!!」
ナクのラファーガから両足を奪った張本人・・・赤いバーチャロイド『ライデン』が立っていた。
「TDF、オンディーヌ隊、全員に告げる!!」
赤いライデンから女性の声が響いた。
「我々、『元』第06VR連隊所属、特殊重戦隊SHBVDは、現時刻を持って解散消滅する!!」
赤ライデンの後ろから続々と黒ライデンが現われる。
「私、ミミー=サルペン准尉、以下五名は、現時刻を持って、TDF独立遊撃部隊オンディーヌに配属される!!そして、ヴィレッタ隊長の勅命により、私ミミー=サルペンがこれより部隊の指揮を取る!!以上!」
赤いライデンが燃え盛る本部を背に現われた。
「ほう・・・私以外に赤い機体に乗っている奴がいるとはな・・・・ジャーク将軍以外見たことが無い・・・・フフフ面白い!」
シャドーレッドは武者ロボットを赤ライデンの前に出した。対峙する赤い機体・・・・
「この『轟雷』が相手をしてやろう!!」
次回予告
燃え盛るTDF本部・・・裏切りの男、バグ=ナクの持つ『最強の矛』とは?
真紅の対決!!果たしてサルペンとシャドーレッドの対決はいかに?!
新たな仲間を加え、ホワイトローズは極東解放の為、一路進路を北海道へ!!
極寒の罠がオンディーヌ隊を襲う!そして迫り来る、宇宙悪魔帝国のマンモスビースト!
次回、サイバーロボット大戦 第十四話『極寒の罠!唸れ六甲山おろし!!』にコマンド入力!
次回も、ブン回しにすげえぜ!! 「次回も(男・野郎が)サービス♪サービス♪」