第十二話  「流用母艦ホワイトローズ!壊滅TDF本部!(前編)」




 一機の大型輸送機が飛んでいた。TDFが保有する輸送機だ、並のPTクラスの機体なら一度に六機・・・ニ小隊運ぶ事が出来る。
 輸送機には三機の戦闘機、一機のワイズダックそして、女性の姿を模した人型ロボットが運ばれていた。
 「もう着くわよ、極東本部に。」
 輸送機の操縦桿を握る女性が後ろを振り返る。そこには数人の男女・・・空軍の制服を着た者が三人、陸軍の制服を着た者が四人座っていた。
 「やっと、輸送機の狭いシートから開放されるのか・・・」
 空軍の制服を着た眼鏡の男が呟く。隣に座っている褐色の肌の女性も頷く。
 「まっ・・・生きて来れただけでも儲けものだがな・・・」
 一番後ろに座っている巨漢の四十男が呟く。陸軍の制服をだらしなく着込んでいる。
 「お嬢さん・・・なんで俺達を助けたんだ・・・俺ちゃ脱走兵みたいなものだぜ。」
 陸軍の制服を着た褐色の肌の黒淵眼鏡の伍長が操縦桿を握る女性に話しかけた。
 女性は前に向いたまま言った。
 「貴方達が軍を離反したのはどうして?」
 反対に尋ねられた。その問いにいかにも新兵とした雰囲気の陸軍の青年二等兵が答えた。
 「正義の為です!!」
 すると、空軍の制服を着た男がクスッと笑ったが、馬鹿にする者はいなかった。女性はそれを聞き満足そうに頷いた。
 「合格。貴方達が軍の命じるまま、あのまま村落掃討を行っていたら私は助けなかったわ。」
 その言葉に陸軍の四人は黙り込んだ。
 陸軍の四人・・・TDF陸軍南アジア方面戦略機動大隊所属、第88小隊。通称『ゴンザレス隊』・・・彼等は任務のため南アジア近辺でDN社のVR部隊と交戦中だった。だが、現地司令官は戦局の悪化に大量虐殺兵器の使用を本部の承諾無しで行おうとしていた。
 確かに虐殺兵器を使えば戦局を打破できるかもしれなかったが、それは近隣の民間人をも巻き込む手段を選ばない虐殺行為だった。彼等ゴンザレス小隊はそれに異を唱え、任務の途中で軍を離反したのだ。
 だが、確かに虐殺行為は阻止できたものの、突如現れたゴルディバス軍に彼等は壊滅寸前に追い込まれた。そこをこの女性に助けられたのだ。
 「少佐殿も同じような事情かい?」
 陸軍の顔にキズのある一等兵が尋ねる。少佐と呼ばれた空軍の眼鏡の男は軽く微笑み頷いた。
 「まあな・・・」
 空軍少佐はそれだけを短く言った。
 「しかし、俺を付け狙っていた正義の味方が、まさか俺を助けるなんてな・・・」
 少佐は小さく呟いた。この少佐は『ある事情』でこの女性に戦いを挑まれた事があった。その時は女性が実力を出さなかったので引き分けになったが、その後パルシオンまで現れた。二人は少佐に『警告』するために現れたのだが少佐は、それらを振りきった。その後、少佐の所属する基地はゴルディバスに襲われた。少佐は懸命に戦ったが、力及ばず敗れた。そこを生き残った二人の部下共に女性に助けられた。
 「なあ、お嬢さん、アンタ何者なんだい・・・」
 少佐は尋ねた。女性は笑って答えた。
 「正義の味方よ!」

 女性は言いきった。そして輸送機の目の前にはTDF極東本部が見えていた。
 「さあ!貴方達の新しい戦場よ!!」
 
 「来たわね・・・・定刻通り。さすが天宮さんだわ。」
 滑走路に立つヴィレッタは着陸しようとしている輸送機を見上げていた。
 「来たんですか?レイカさん。」
 隣に立つリアが聞くと、ヴィレッタは頷く。リア達は神戸の事件が片付くとすぐにナカト達を連れて本部に戻ってきたのだ。その証拠に航宙艦ドックにラズベリーが収められていた。
 そして二人の見ている前で輸送機が着陸した。それを見て三人ほど男女がヴィレッタに駆け寄ってきた。将輝と香田奈そしてリュウセイだ。
 「遅れてすいません、大尉。」
 リュウセイが謝る。だがヴィレッタは気にはしていないようだった。目線は匕首姉弟に向けられていた、二人はリュウセイと同じSRXチームのジャケットとパンツを着用していた。香田奈はスカートだが・・・
 「似合うじゃない。」
 リアが言った。将輝は照れくさそうに頭を描いた。ジャケットにはリュウセイと同じように名前がマーキングしてある他、『SRX−R=G』と描かれていた。肩には階級証もついているちなみに指令との約束通り階級は『少尉』であった・・・でも香田奈は『中尉』であったが・・・。
 「香田奈さん、中尉待遇なの?」
 香田奈の階級証を見て、リアが尋ねる。それにヴィレッタが答える。
 「元々候補でもあったし、それに・・・」
 「それに?」
ヴィレッタは珍しく顔を隠して言った。
 「・・・姉が弟と同階級じゃあ、格好がつかないから・・・」
 「いいの?それひいきじゃないかしら・・・・」
ヴィレッタは答えなかった。リアもそれ以上詮索しようとは思わなかった。そうこうしている内に、輸送機から乗っていた人間が降りてきた。先頭は身体にぴったりとフィットした白いボディスーツを着た黒髪の女性だった。
 いつのまにかヴィレッタの回りにはユナやナカト達が・・・とにかくみんな集まっていた。
 「あ〜!!レイカちゃんだ〜!!レイカちゃ〜ん!!」
 ユナが先頭の女性に大声で話しかける。レイカと呼ばれた女性はにっこりと微笑み、こちらに近づいてきた。
 そして次々と空軍と陸軍のメンバーが降りてきた。
 「空軍と陸軍の奴等か・・・、生き残った連中か・・・」
 ライードが呟く。隣でハルマも頷く。
 レイカはヴィレッタの前で止まり、右手を差し出す。ヴィレッタはその手をしっかりと握った。微かに身体が震えていた。
 「天宮さん・・・よく・・無事で・・・ありがとう・・・」
 ヴィレッタは珍しく感激していた。それをレイカは無言のままだったが、握ぎり返していた手が語っていた。
 「集められました戦力は・・・彼等だけでした・・・力になれるでしょうか?」
 「十分よ・・・」
 「あの〜、お取り込み中申し訳無いのですが・・・」
 空軍の女性中尉が話に割り込む。慌てて平時の状態に戻る二人。
 「よろしくてよ・・・何かしら?」
 ヴィレッタは咳払い一つして、中尉の方へ向く。見れば輸送機から降りた軍人全員が並んでいた。
 「TDF南半球条約機構大隊第7航空中隊所属『サイモン=ハーバード』少佐、以下二名。只今到着しました。」
サイモンと名乗った眼鏡の少佐はヴィレッタに向け敬礼した。
 「同じく同中隊副長、アムリッタ中尉。」
褐色の肌の女性が名乗る。
 「同部隊、ナク少尉です・・・」
 赤毛でオールバックの長髪の痩身男が同じように敬礼した。ヴィレッタはその男に面識があった。
 (あいつが・・・・匕首香田奈・・・)
ナクと名乗った男の目線が自分から近くに立っている香田奈に向けられている事はヴィレッタは感づいていた。
 (この男・・・まだ、引きずっているのか?)
 ヴィレッタはナクを見て、そう考えていた。
 「元TDF南アジア方面戦略機動大隊、第88小隊小隊長『ゴンザレス』軍曹以下三名到着!」
巨漢の四十男が太い声で報告した。
 「同小隊、『トーマス』伍長。」
褐色の黒淵眼鏡の男が言う。
 「同小隊、『ヘルマン』上等兵・・・・」
ニットの帽子を被った白人の男がつぶやくように言う。
 「同小隊、『リッキー』一等兵だ!」
照準用ヘッドセットを被ったままの顔にキズのある男がヴィレッタを上官とも思わない口調で言う。
 「同小隊、『アービン』二等兵です!サー!」
いかにも生真面目そうな青年が緊張しながら敬礼していた。
 一通り、着任報告を終えたのを確認したヴィレッタは自分も同じように敬礼した。
 「私は本部のPT部隊隊長、『ヴィレッタ=バディム』大尉だ。貴公達はこれより、私の指揮下に入ってもらう。依存は無いな?」
 「俺より階級が下なのにかい?」
サイモンが話しかける。
 「何か不満か?」
ヴィレッタが尋ねるが、サイモンは黙って首を横に振った。
 「いいえ。問題無い、よろしく頼む。」
だが、そこにリッキーが割り込む。明らかにヴィレッタを馬鹿にしたかのな目で見ている。
 「俺達は不満があるぜ!」
 「何故だ。」
 ヴィレッタが冷たく鋭い目でリッキーを見ていた。一瞬たじろぐリッキー。
 「俺達は軍から離れた身だぜ!言って見れば善意の協力者って所だぜ!アンタの指揮下に入る義務はねえな。」
 食い下がるリッキーにヴィレッタは軽く言い放った。
 「お前達の反逆行為についての罪状は撤回してある。つまりお前達はまだ軍人のままという事だ・・・私の指揮に入る義務がある・・・」
 そのまま背を向けて立ち去ろうとするヴィレッタ。
 「おい!ちょっと待ちやがれ!お高くとまりやがってぇ〜!!」
 リッキーがヴィレッタの肩を掴んだその瞬間、周囲に乾いた音が響いた。
───パシーンッ!!リッキーの顔をヴィレッタが裏拳で叩いた。軽く叩いただけでリッキーの身体は2・3mは飛んだ。
 「言っておく、今後私に逆らうな・・・以上だ。」
 そう言い放ちヴィレッタは立ち去った。
 「うははは!!お前の負けだ、リッキー!相手が悪かったな!!」
 ゴンザレス軍曹が笑い飛ばしていた。倒れたリッキーをアービンが助け起こす。
 「お前も噂ぐらいは聞いてるだろう?あの大尉殿がTDFの女豹『スレイヤーのヴィレッタ』だ!」
 ゴンザレス軍曹の一言にリッキーはおろか、空軍のメンバーも青ざめた。
 「あ・・・あれがTDFきってのエースで別名『氷河の女』と噂されたヴィレッタ大尉なのか・・・」
 「必要ならば・・・仲間をも撃つっていう・・・」
 アービンが背を向けて去っていくヴィレッタをまるで怪物でも見るかのような恐怖に怯えた目で見ていた。

 「ライ、話ってなんだ?」
 リュウセイは格納庫に向かおうとしていた所をライに呼びとめられた。自分に話したい事があるらしい。
 「ああ、北京で合流する予定だったラズベリーに積み込むはずだった機体が先程届いてな・・・」
 「R−1が直ったのか!?」
期待する目で見るリュウセイにライは首を横に振る。
 「いや、まだだ。直ったのは大尉のR−ガンだけだ、それにパワード装備が付いていない。」
 「そうか・・・」
残念がるリュウセイ。ライは話を続ける。
 「それでだ、量産型の弐式では限界だ、という報告を受けてな。追加増産されたアルブレードと一緒に特別に『グルンガスト』を持ってきた。お前が使うといい・・・」
 「ぐ、グルンガストぉ!!本当か!ライ!!」
リュウセイがライの両肩を強く掴む。リュウセイはとびきり嬉しそうだった。
 「本当に、グルンガストなんだな?ファイナルビームと計都羅候剣は装備されてるんだな?」
ライは頷く。それを見たリュウセイは満面の笑みを浮かべて格納庫へ走り出した。
 「やれやれ・・・」
 ライは一人呟いた。
 グルンガスト・・・PTの中で最も初期に開発されたヒュッケバインと同期に造られた可変式のスーパーロボットである。初期の機体だけあってT−LINKシステムは搭載されていないが、その戦闘力は量産型である弐式を遥かに上回る。弐式の変形機構が飛行形態のみに対して、初代グルンガストは、水陸両用形態である戦車形態への変形も可能である。
 最強の武器である『計都羅候剣・暗剣殺』は一撃で戦艦を切り裂いた、と噂されている程の威力を誇っている。
 だが、その高性能さ故、コスト高騰で量産化は見送られ僅か三機が造られたにすぎない。後継機である弐式も優れた機体ではあるが、総合的な戦闘力は劣っていると言えよう。
 PTパイロットの間では、同じ弐式でも、T−LINKシステムを積んだ試作機や、コストダウンを前提にした先行量産機・・・生産はされたが行方の知れない参式を押しのけてでも、乗ってみたいとされる垂涎の的であった。

 「ナク少尉、少しいいか?」
 基地の通路を歩いていたナク少尉をヴィレッタが呼びとめた。ナクは足を止め振り向く。
 「なんでしょうか?大尉殿。」
 「話がある・・・ついて来い。」
 ヴィレッタはナクを連れて格納庫にやってきた。階段を昇り、丁度格納庫の隅にある格納庫用の管制室へ入った。
 「見えるか?あれがR−ガーダーの完成機だ・・・」
 「解かりますよ・・・適性検査で見ましたよ。もっともあの時はフレームと一部の内部機構しか出来あがっていなかったですがね・・・」
 ナクはそっけなく言った。
 「単刀直入に聞く。まだ根に持っているなら、パイロットを辞めろ。」
 「何の事です?」
 ナクがあっさりと言い、ヴィレッタへ顔を向ける。だが、ナクは一瞬だがヴィレッタの眼光に臆した。それ程鋭く冷たい目だった。
 「ふざけるな・・・先程、匕首香田奈中尉に対する視線、嫉妬と憎悪に満ちていた・・・」
ヴィレッタの小さいが氷河のように凍てつく声に、ナクは肩を落とし、息を一つついた。
 「お見通しですか・・・。確かに、念動力の素質に優れ、パイロットとしても優秀、あの機体の第二候補にまで上げられていた私を差し置いて、あんな民間の出向してきた女にR−ガーダーの椅子を奪われたんですからね・・・」

 ナクは淡々と話し出した。この男・・・本名『バグ=ナク』二十三歳。士官学校を第三位という優秀な成績で卒業。TDF空軍の将来を嘱望されていたエリートだった。
 士官学校卒業後、南半球条約機構部隊に所属。連邦崩壊に伴う内戦で高い戦果を残した優秀なパイロットでもある。そんな彼に転機が訪れた、次期SRX計画の予備パイロットの候補に彼は選ばれたのだった。
 TDFの中でもSRX計画のパイロットは、ずば抜けて優秀か、生まれもった素質と才能のみが評価される超エリートパイロットの証であった。昔から人一倍プライドと自己顕示欲が強かった彼は、候補生に選ばれた事を非常に喜んでいた。
 「(私の優秀さを、偉大さを他の士官とは違う事を見せつけてやれる!!)」
 彼はそう思っていた。SRX計画のパイロットに必要なのは、優秀さもさる事ながら『念動力』という素質が必要であった。『生まれもった素質と才能』とは念動力の事であったのだ。つまり優れた念動力を持つことがSRX計画には優秀さの証であった。事実、計画以前からテストに立ち会っていた民間人『アヤ=コバヤシ』は計画が軍に組み込まれると同時に、大尉に任官されSRXの指揮権すら与えられたのだ。
 「優秀な私だ!きっと高い念動力があるに違いない!」
 彼はそう思っていた。だが現実には、彼は数いる候補生の中でトップの念動力を見せたが、SRXパイロットとしては満足のいく結果は出せなかった。だが、能力が完全に開花していないだけで素質はあった。そのまま彼は最終候補としてそのまま計画に参加する事となった。
 「ふふふ・・・測定結果は不満だが、やはり私は優秀なのだな!コバヤシ博士も私に高い関心をよせている。ふふふ・・・」
 だが、そこで彼には予想外の出来事が起こった。ヴィレッタ=バディム大尉の登場である。彼女は当初からSRX計画に携わりのあった、故『イングラム=プリスケン』少佐の正式な後継者であった。少佐の遺した委任状と上層部からの正式な任命書を持ってきた彼女は、SRX計画に大幅な変更を加えた。その変更こそが『R-ガーダー』であった。
 「現在の予備パイロット候補生ではこの機体は操れない!!」
 ヴィレッタのこの一言により、残り少なくなっていた候補生の数は更に激減した。だがナクは残っていた。
 「この大尉もいいことを言う。つまり真に優秀な人間が予備などではなくあの機体のパイロットになれるのか・・・」
 だが、ここでまた予想外の出来事が起こる。イングラム少佐の遺したレポートを基に新たな候補者を民間から探し出そうと言う事態が起きたのだ!ナクには考えられない事態だった・・・だが、マオ・インダストリーを始め、各企業に太いコネクションを持っていたヴィレッタは、候補者選出の為のゲーム大会を実施した。
 結果・・・・事実、実用に耐えうる念動力者が選出された。このゲーム大会の優勝者だ。これにより、ナクは第二候補に落とされた。さらに追い討ちをかけるように準優勝者も高い念動力を有していた、それが『匕首香田奈』だった。香田奈は高い念動力を有していたが、実用には一歩及ばない為、香田奈は第三候補とされた。
 
 「あの時はショックでしたよ・・・R−ガーダーのパイロットは私で決まりと思っていましたから・・・」
 ナクは素っ気無く言う。
 「まさか、あの後第一候補者が事故死するとはねえ・・・」
 ナクの言った事は事実だった。大会のすぐ後、優勝者が謎の事故死を遂げたのだ。その為第二候補のナクがR−ガーダーのパイロットに任命されるのは誰が見ても確実だった・・・だが!
 「それをあの二人に・・・香田奈中尉に奪われた、と言いたいのか?」
 ヴィレッタが冷たい目で言い放つ。ビクッと身体を振るわせるナク。図星のようだ。
 「あの二人は優秀だ。再測定した結果、念動力はお前を超えていた。しかもあの扱いにくいR−ガーダーを苦もなく操って、訓練も無しに実戦を経験した。これでは誰が見てもお前ではなく、二人を選ぶ。違うか?」
 ナクは黙り込んだ。見れば拳が震えていた。
 「わだかまりや劣等感を捨てろとは言わない。だが、これは軍の決定だ。それが不満なら軍を去れ・・・」
 ヴィレッタはそう言った後、管制室から出ていこうとした。だが、ドアに手をかけた時一言だけ言った。
 「これからは香田奈はお前の上官だ。それを忘れるな・・・」
 ヴィレッタは去っていった・・・・。一人残されたナクは小さく呟いた。
 「あの・・・女が・・・上官・・・私より・・・何処が・・優れているというんだ・・・」

 「見ろよ〜!!コイツが俺のツインザムVだぜ〜!!カッコイイだろ〜!!」
格納庫に子供の声が響く。大地だ。彼は航空機形態で格納庫に眠っている愛機をりきとリュウセイに紹介していた。
 「隣の青い姉ちゃんの飛行機と合体してロボットになるんだぜ〜!!」
 子供らしく意味のない自慢話をしていた。だがりきとリュウセイはイヤな顔一つせず目を輝かせていた。
 「おめえの合体するのかぁ!すげぇぜぇい!二人乗りってトコはバンガイオーと同じなんだがなぁ!」
 「りきのバンガイオーも凄いんだろ!あのミサイルの量!!半端じゃないぞ!」
 大地が近くのケージに入っているバンガイオーを見上げて言った。バンガイオーは整備員の手によってミサイルが充填されていた。
 「まあな!!一対多を前提に造ったロボットだからな!!集団戦なら無敵だぜぇい!!」
 りきが笑いながら自分の機体を自慢する。
 「しかしロボット博物館みたいで、俺は嬉しいぜ!!」
リュウセイがカメラ片手に喜んでいた。生粋のスーパーロボット好きの血が騒いでいた。
 「そ〜いやぁ、リュウセイの兄貴のロボットはどれでい?」
 りきが尋ねる。大地も問う。
 「ライさんがグルンガストって言うロボット持ってきたって言ったからソレ?」
 リュウセイは白い歯を見せて笑って答えた。
 「おう!これから見に行くところだ!!」
そしてグルンガストはすぐに見つかった。一番置くのケージに格納されていたのだ。
 「おお〜!!これが栄光の初代グルンガスト〜!!」
リュウセイがグルンガストを見上げて叫んだ。りきも大地も同じように見上げる。そこには今までリュウセイが搭乗していた弐式と良く似た黒いロボットが立っていた。
 「黒いんだ・・・グルンガストって。」
 大地が何気なく言った。弐式は青色だったからだ。
 「そうだな!三機造られたっていうから三機とも色違いなのかも!」
 リュウセイはにこやかに言った、黒色も嫌いではなかったからだ。
 そこに空軍のアムリッタがやってきた。嬉しそうにグルンガストを見上げる三人に話しかけてきた。
 「あら、楽しそうね?どうしたの。」
アムリッタが三人に話しかける。リュウセイが嬉しそうに答えた。
 「はい!俺にグルンガストが回されてきたのが嬉しくて!!」
 笑顔でリュウセイが答えたので、アムリッタもグルンガストを見上げる。
 「いいわねえ・・・グルンガストかあ・・」
 「そうでしょ!そうでしょ!」
リュウセイが笑顔で何度も頷く。
 「いいわねえ・・・EXかあ、これ滅多にお目に掛かれないのよね〜」
 「そうでしょ!そうでしょ!・・・・・?えっEX?」
きょとんとしたリュウセイがアムリッタに尋ねる。
 「そうよ、コレEX。
グルンガストEX・・・どうしたの?」
リュウセイは改めてグルンガストを見上げた。黒い機体が黙って立っている。だが、良く見れば今まで自分が乗っていた弐式と色が違うだけで型は全く同じだった。
 
「ライ〜!!」
リュウセイは大声を上げて走り出した。りきと大地、アムリッタは呆然と立っていた。
 「どうしたのかな?リュウセイさん・・・」
 「さあ?」
 そんな時、格納庫にサイモンが姿を見せた。
 「ここにいたのか、アムリッタ。」
 「何ですか、少佐?」
 「話がある。ヴィレッタ大尉の指示も踏まえてな・・・」
 サイモンは真剣な顔して言った。

 サイモンはアムリッタを連れ、ヴィレッタのいる隊長室へやってきた。そこでヴィレッタはサイモンに書類を突き出した。
 「事実なの・・・」
 「ええ・・・間違いなく。」
 ヴィレッタが突き出した書類・・・それはラズベリーのクルーに関するものだった。
 「では、彼女は・・・」
 ヴィレッタがサイモンをじっと見つめる。サイモンの目に間違いはなかった。
 「ゴルディバスの送り込んだ『有機型人型兵器』です。間違いなく!!」
そこで部屋の扉がノックされた。ヴィレッタが入れ、と言うとジュンペイが現われた。
 「ヴィレッタさん、呼んだかい?」
ヴィレッタは頷くとサイモンに見せた書類をジュンペイにも見せた。
 「ん〜・・・俺、こ〜ゆう書類苦手なんだよな〜。」
 ぶつぶつ言いながらも、書類を見るジュンペイ。すると、ジュンペイはいきなり顔色を変え叫んだ。
 「あ〜!!コイツは!!じっちゃんの仇の一人!!」
 それを見てヴィレッタは確信した。
 「ナカト候補生とハルマ少尉を呼んでくれ・・・」

 「呼び出し?なんだろう・・・」
 格納庫でディクセンの整備をしていたナカトとハルマの二人は急にヴィレッタに呼び出され、隊長室にやってきた。
 「二人に話があるの・・・」
 ヴィレッタは今までになく真剣な顔つきだった。部屋にはサイモン、アムリッタそしてジュンペイもいた。皆真剣な眼差しで二人を見ていた。
 「まず、ナカト候補生は本日付をもって少尉に任官される。」
 「了解。」
 「では本題に入ろう・・・単刀直入に言うわ。貴方達の仲間であるイエール候補生・・・彼女はゴルディバスのスパイよ。」
 「!!」
 ナカトとハルマは絶句した。いきなりの事で言葉が出ない。察して、サイモンがナカトの肩に手をやった。
 「紛れもない事実だ。これを見ろ、キカイオーと少佐の機体のカメラからプリントアウトしたものだ。」
 出された書類にはイエールが映っていた。服装や髪型が違うが間違いなくイエールだった。
 「そんな・・・」
 ナカトが呆然としていた。ハルマなど目に涙を浮かべていた。
 「信じられないだろうが、ジュンペイの祖父殿である轟博士を殺害、そして空軍基地を破壊に追い込んだ工作員と同じ、ゴルディバスの造った人造人間だ。」
 ヴィレッタは冷たく言うと、手もとの受話器を取った。
 「私だ。ゴンザレス隊に繋げ。宇宙軍のイエール候補生を至急逮捕しろとな。抵抗するなら射殺も許可すると伝えろ。」
 そして十数分後・・・・格納庫でナカトのディクセンの整備をしていたイエールはゴンザレス隊によって逮捕された。彼女は逮捕の容疑を素直に受け入れ一切抵抗しなかったという。

 イエール逮捕の話題は本部中に知れ渡った。ゴルディバスの造った人造人間だと言う事が解かり、激怒する者(例:ジュンペイ)、悲しむ者(例:ナカト・ハルマ・ライード・まみ)、動揺する者(例:りき・お嬢様軍団)が、続出した。面識の少ない将輝や大地、リュウセイ等はショックが少なかったが、それでも少なからず衝撃を与えた事は事実だった。そしてサイモン少佐の報告から、この出来事はヴィレッタにある決意をさせるのであった。

 「撃って出るだと、正気か大尉!!」
基地指令の第一声はそれだった。ヴィレッタは以前サイモンが所属していた基地がイエールの手引きによってゴルディバスに壊滅させられた実例を挙げ、既に本部がゴルディバスの標的になっていると、進言したのだ。
 その為本部機能をまだ無事な支部のある北京に移し、比較的被害の少ない日本を敵の狙いから反らそうと言うのだ。敵の狙いがTDF並びにキカイオーにあるならば、これはベストの選択と言える。幸い、増産された量産型アルブレードの数が日本列島を防衛するには十分な数が揃った事も理由の一つであった。
 「しかし・・・大尉。撃って出るといってもどうする気だ?あの廃艦寸前のラズベリーでは、全ての機体を積み込むなど不可能だぞ・・・」
 指令の問いにヴィレッタは答えた。
 「その点には問題ありません。ニヶ月・・・いや一ヶ月、時間をください。限られた予算内で何とかしてみます。その間に本部機能を北京に移せば・・・。」
 だが、基地指令は即答を避けた。このような重要な計画を安請け合いする訳にはいかなかったからだ。
 「一週間・・・いや三日、時間をくれ大尉。」
 「解かりました。では私は独自に準備を進めさせていただきます。イングラム少佐の遺した地球防衛計画、第一段階、TDF独立遊撃部隊『オンディーヌ』を!!」



次回予告

 ついに始動したヴィレッタの計画とは!?ゴルディバス軍の標的と化した本部の運命は!?
 そしてついに新たな艦『ホワイト・ローズ』が出港する!!だが、そこに予期せぬ野心が襲いかかる!
 果たして、どうなるTDF!そして香田奈に憎悪を抱く男がついに牙を剥く!あやうし匕首姉弟!
 その混乱の最中、凶弾に倒れるヴィレッタ!指揮官不在のメンバーに現われた救世主とは!?

 次回、サイバーロボット大戦十三話 『流用母艦ホワイトローズ!壊滅TDF本部(後編)』に端子接続!(英語読みしないでね)
 次回も物凄く真面目にすげえぜ!!  「嘘じゃないよ最後まで読んでごらん・・・責任は持たないね。」



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