第十話 『好きとか嫌いとか』
「メシだぁ〜!!三ヶ月ぶりの外食だぁ〜!!」
神戸の街でりきが嬉しそうに言う。コロニー生まれのりきとまみにとって初めての地球は馴れないものかと、心配していたのだが、予想外に二人はタフだった。これも男星という異質なコロニーの為だろうか?
だが、二人は気にも止めなかった。上陸の許可が下りると、ナカト達が外食に出かけようと言い出したのを聞いて喜んで着いてきたのだ。
「さ〜て、何食うかな〜?」
ライードが歩きながら言った。やってきたのは、ナカト、ハルマ、ライード、イエールそして、りきとまみである。
「やっぱり、コウベなら神戸牛じゃないの?」
神戸牛・・・・つまり牛。ハルマの一言がりきとまみの目の色を変えさせた。
「そうだな〜。牛か・・・美味そうだな?」
ライードが呟く。
「ら、ライードの兄貴!その神戸牛ってのは美味いのか?」
「そりゃ〜有名なんだから美味いんだろ〜よ。」
根拠が無い。だが、普段質素過ぎる食生活を送ってきたりきには、食欲を掻き立てるのには十分だった。
「それじゃあ、焼肉かすき焼きかな?」
さすが日系のナカト、ステーキという言葉が出てこない。日本人に好む物を例えに挙げた。
「す、すき焼き!ああ・・・三年ぶりの言葉でい・・・・」
りきが陶酔した声を出す。
「決まりね。」
ハルマが言う。
「ところで、『すき焼き』ってナニ?」
「・・・・・・・・・・」
ハルマの何気ない言葉に全員黙り込んだ。
「え?どうしたの?牛肉料理だって事は解かるけど、何で黙るの?」
仲間を見まわすハルマにライードが肩を叩く。
「論より証拠!食えば解かる!!」
こうして一向は、神戸牛を取り扱うレストランに足を運んだ。だが・・・・
「・・・・・・・・」
ナカト
「・・・・・・・・」
ライード
「・・・・・・・・」
イエール
「・・・・・・・・(涙)」
りき
「・・・・・・・・高い。」
まみ
「そう?」
ハルマ。
この女の金銭感覚は・・・・・という考えが全員の頭をよぎった。
「わたしが奢ろうか?」
この一言が、彼女の今月の危機を生んだ。
「ありがてぇ!!感謝するぜぇ!ハルマのねえちゃん!」
こうしてりきは念願の『すき焼き』を食すことができた・・・・・
───数刻後。
「結局、軍票使ったのか〜。」
ライードがハルマに向かって言う。ハルマはムスッとした表情を崩さなかった。
「あんなに食べるからよ!!りき君はともかく、ライード!貴方が一番食べたのよ!!」
「わりいとは思ってるよ〜。給料日に返すからよ〜怒るな。」
そんなやりとりをよそに、りきはとっても幸せそうな顔をしていた。
「美味しかったわね、兄さん。ハルマさんに感謝しないと。」
まみの言葉に激しく頷くりき。そしてハルマの両手を握り、涙を流しながら言った。
「ハルマのねーちゃん!今日はアンタが観音様にみえるぜぇ!ありがとうよ!!」
濁流の涙を流すりきを見てハルマは苦笑する。まさかここまで飢えていたとは・・・
「ど、どういたしまして・・・・」
ハルマが困った顔をしていると、いきなり背後から声をかけられた。
「やっと見つけた〜。お久しぶり。」
ハルマ達が振りかえる。そこには合計二十三人の少女がいた。しかもみんな可愛い、美少女軍団だ。
ナカト達はその内何人かは見覚えがあった。そう宇宙で自分たちを助けてくれた少女達だ。さすがに今は装甲を身につけておらず普段着だ。
「支部に行っても、外出したって言うからあちこち探しちゃった。」
一見見ると、ロングヘアーに見えそうな程長いポニーテールの少女が話しかけた。ナカトはその少女には面識は無かったが、声には聞き覚えがあった。
「キミは確か・・・あの白いロボットに乗っていた・・・」
少女は『うん!』と笑顔で頷いた。
「あたし、『神楽坂優奈(かぐらざか ゆうな)!みんなは『ユナ』って呼ぶの!』
「ああ・・あの時僕のディクセンと握手したのはキミか。」
ナカトは思い出した。それを聞いてユナは赤くなった。
「ア〜ンタ、ロボットで手握ったくらいで、な〜に赤くなってのよ!」
紫の胸元が大きく開いたスーツを着た女性が冷やかす。十代半ばから後半の少女が多い中でその女性だけは二十歳前後の様だった。ナカトはその女性にも見覚えがあった。バニーガールの格好をしてディクセンの尻をゴルフクラブで殴った女だった。履いているヒールのせいか身長がナカトより高く見える。
「あ、バニーガールのひと・・・・・・おお!!」
女性がいきなりナカトの耳を引っ張った。そして大声で怒鳴る。
「何度言わせんのよ〜!!ア・タ・シ・は『六本木の舞』〜!!」
耳元で怒鳴られナカトの耳がキンキンする。
「この間、言った事撤回するわ!」
舞はそっぽを向いてしまった。
「それより、我々に何か用事があったのでは?」
ハルマが少女達に問う。それを薄紫の髪をした少女『リア』が答えた。どうやら彼女がリーダー格の様だ。
「ええ、実はこの神戸にある人物をTDFの技術者としてスカウトに来たの。それで貴方達にも同行してもらいたいんです。」
「技術者?」
ライードが尋ねる。リアは頷く。
「ええ、極東本部に、ある脅威的過ぎるロボットがあるんです。それに加えて、世界各地のTDF残存戦力を極東に集結させているんです。その為様々なロボットが乱立することになる・・・・」
リアが深刻そうに言うのをライードが口を挟む。
「それで優秀なエンジニアが必要な訳か・・・確かに俺達のディクセンや・・・」
「わたし達のバンガイオーを整備・維持するのは特殊な人で無ければ無理ですもの。」
まみが呟く。リアは頷く。
「そうゆう事・・・今はまだ言えないけど私達は『ある方』から依頼でTDFの戦力・・・というより『純粋に地球を守る事』を目的とした人材や機動兵器をこの地球圏から探しているの・・・」
そこでライードは納得した、何故ユナ達が自分たちを助けてくれたのかを。
「なるほど・・・俺達も選ばれたって訳か・・・」
「ええ、でも本心を言うと貴方達じゃなくてディクセンの方なんだけど。」
舞が口を挟んだ。だが、ライードはその皮肉を笑い飛ばしていた。
「違えねえや。」
「なあなあ!!あのナウクリアマンに似たヒイロウもねーちゃん達に選ばれたのか?」
りきが顔を高揚させて話に割り込む。だがリアは首を傾げた。
「ナウクリアマン?」
「あ〜・・・あ〜・・・ぱる〜し〜おん・・さんの〜事〜です〜ね〜」
ピンクハウス系の可愛い服をきた少女が、ゆ〜っくりと答えた。どうやら彼女は『パルシオン』と言っているらしい。
「あ?パルシオン?私達より早くに選ばれて、いろいろとやってくれてるみたいだけど・・・彼が何か?」
その言葉を聞いてりきはまるで自分が誉められたかのように舞いあがった。
「うおぅ!!さすがヒイロウはやる事が、はえぇぜぇ!!」
感激するりきを無視してリアは話を続けた。
「話が途切れたけど、つまりその天才的技術者をぜひとも・・・というより何が何でも欲しい訳よ。」
そう言ってリアはハルマに紙のファイルを手渡す。そこには調査書と記されていた。
「この少女が・・・技術者?」
ハルマの見た調査書には片目を髪で隠した知的な風貌を漂わせている一人の少女の写真が添付されていた。
「ねえ、知ってる?今日朝早く、あそこの基地に宇宙船が来たんだって!」
「ああ!かなり壊れてたんだってな・・・宇宙からの難民降ろしていたらしいぜ・・・」
「俺、朝練ん時に見た!白い宇宙船だったんだ〜。」
私立きらめき高校・・・・県内でも有数の名門進学校としても知られる優良校である。この学校は各界に優秀な人材を普及する事で有名だった。勉学は元よりスポーツでもその評価は高く、どちらかと言うと『個人の能力』を評価する学校であった。
その学校の休み時間、生徒達の本日の話題は、宇宙船がやってきた事で持ちきりであった。TDFの神戸支部には機動兵器こそ配備されてはいたが、宇宙船は無かったからである。勿論地球とコロニー間を結ぶ民間シャトルは普及していたものの、今は戦時中で、滅多に宇宙に行き来は出来ない上に、日本には宇宙港は東京湾と鹿児島、それと北海道沖合いにしか無いからだ。神戸に宇宙船が来る事は滅多に無い。
「な〜、虹野〜朝のジョギングん時、基地に見た事無い青いロボットいたけど、アレが宇宙船に積まれてヤツかな〜。」
芝生に寝転んでいたショートカットの少女が隣に座る虹野というの女の子に話しかける。
「私、見てないから何とも言えないけど・・・そうじゃない?私ロボットにはあまり興味ないから・・・」
「WHAY?ロボット?」
その二人の会話に近くを通りかかった髪を上で結んだ少女が割り込んだ。
「ロボット・・・アレはビューティフルじゃナイね。芸術性のかけらもナイ、ただの人殺しの機械ネ!!」
妙に変な英語交じりで話す少女に二人は呆気に取られた。
「今日・・・宇宙船が来たらしいですよ。」
眼鏡をかけた少女が図書室で向かいに座るロングヘアーの少女に語り掛ける。
「そう。きっと宇宙から逃げてきたんだわ・・・」
「いいえ・・・どうやらTDFの軍艦らしいんです。みんな見た事無い青いロボットがその艦に乗っていた・・・てっ、騒いでいましたから・・・・」
眼鏡の少女はそう言って本を開く。
「それでロボットの本を見ているの?」
ロングヘアーの少女が眼鏡の子の本を覗き込んで言う。本はPTに関する名鑑らしかった。すると眼鏡の子は少し微笑んだ。
「ええ・・・優美ちゃんに頼まれて・・・お兄さんが偶然写真に撮れたらしいから、何てロボットか調べて欲しいんですって、頼まれて・・・」
そう言い、眼鏡の子は一枚の写真を取り出した。そこには確かにディクセンが映っていた。
「せんぱ〜い!解かりました〜?」
「ちょっと!早乙女!ホント〜にそのロボットの写真あるんでしょうね〜」
図書室にポニーテールの少女とやたら騒がしい少女が入ってきた。
「だいじょ〜ぶ!お兄ちゃんが撮ったの横取りしてきたんだモン!」
「優美ちゃんも朝比奈さんも、図書室では静かにしてください・・・」
眼鏡の子に注意され、二人は頭を下げた。
「あ?ゴメ〜ン。それよりロボット見せて!」
朝比奈と呼ばれた少女は眼鏡の子が持っていたディクセンの写真を手に取る。
「へ〜カッコイイじゃ〜ん。何て名前?」
「それを今調べているんですが・・・この本には載っていなくて・・・」
眼鏡の子はすまなさそうに言った。
「アラ・・・このロボット、肩に何か書いてるわよ。」
ロングヘアーの少女が朝比奈に向かって言う。
「ホントだ!何々・・・『FX-004S』?なんだコリャ?」
「優美解かったぁ〜!形式番号だ〜!」
優美と名乗った少女が言った。その通りである。
「Xと言う事は・・・試作機かしら・・・?」
眼鏡をかけた少女が言う。その通りだ。
「詳しいわね〜。如月ぃ〜。」
「この本に書いてありました・・・」
如月と呼ばれた少女は照れながら、答えた。
「FX−004S・・・・ゲッP-Xやキカイオーじゃない・・・」
全員が振りかえる。そこには内気そうな少女が雑誌を持って立っていた。
「メグ。」
ロングヘアーの少女がメグという少女に話しかけるが、それより早く朝比奈が前に出る。
「美樹原!ナニ?ゲッPとかキカイなんとかって?」
「ゲッP−Xとキカイオー・・・・」
美樹原はおずおずと持っていた雑誌を差し出した。それは高校生には馴染みの薄い雑誌だった。朝比奈が受け取りページを開くと、そこにはキカイオーがライデンを相手にしている所とゲッP−Xがビースト軍団相手に戦っている写真が掲載されていた。
「な〜んか、時代遅れって雰囲気のロボット〜。」
朝比奈の第一印象はそうだった。リュウセイが聞いたら激怒しそうな台詞だった。
「やれやれ・・・・」
ロングヘアーの少女が窓からふと校庭を見ると、自分達と同世代くらいの少女の集団が校内に入ってくるのが見えた。良く見れば三人だけ男子である。だが少女にはその男子が着ている服装に注目していた、その男子はナカトとライードであった。
「軍人さん・・・?」
「ここがそうか・・・・」
ナカトが言うと、リアが頷く。
「なんか注目されてんな!」
ライードが笑いながら言う。確かにここの生徒から痛いほどの視線を感じていた。
「仕方ないわよ。私達は部外者なんですから。それにこの格好じゃあね。」
ハルマは自分達の服装を見て言う。自分やライード、ナカトは軍服。りきとまみは民間警察の服装のまま。ユナ達は制服を着ていたが他校生であるし、リアと舞にいたっては私服のままである。それにこの人数、注目するな・・・という方が無理である。
「ここの先生なんかには話を通しているんですか?」
まみが尋ねる。
「いいえ。」
リアがそっけなく言う。
「それじゃ無断侵入みたいなものじゃない!」
ハルマが言うとリアが振りかえる。
「まともに話を聞いてくれるとは思えない。だから貴方達を連れて来たの。」
リアが話し終わると同時に教師達が駆け寄ってきた。
「出番よ。お願い・・」
教師が自分たちに話し掛けようとした時、ハルマが軍の身分証明書を見せた。
「TDFです。特命により、この校内のある人物と面会したい。そこをどいてもらえるかな?」
教師たちは一発で道を開けた。
「感心しました。さすがエリート士官。」
リアが拍手する。ハルマはあまり乗り気ではなかったように、ため息を一つついた。
「さて、お目当ての方の所へ参りますかな?」
一向は堂々と校舎へ入って行った。
「大変だ!TDFの軍人が校内に入ってきた!誰か探しているらしいぜ!」
図書室に男子生徒が飛び込んできた。驚く生徒達。
「本当なの?お兄ちゃん。」
早乙女が言う。
「ああ、間違い無い。なんか大勢可愛い子連れて校内をかぎまわってるらしいぜ!」
「それってアンタの事じゃな〜い?早乙女〜。ホラこの写真撮ったのがばれて〜。口封じに来たんじゃないの〜」
朝比奈がニヤッと笑いながら言う。青ざめる早乙女兄。するといきなり図書室の扉が開いた、そこにはハルマとライードが立っていた。
「どうだ?いるか?」
「う〜ん・・・」
図書室内を見渡す二人。生徒達の目が一斉に二人に注目される。
「ん?」
ハルマは一人の男子生徒が頭を抱えて震えているのを見て近づいた。
「ちょっと・・・」
「うわあああ!ごめんなさいぃ!」
生徒は土下座して謝り始めた。ハルマはきょとんとしている。そしてふと顔をあげると、長机の上に置いてあるPT名鑑とディクセンの写真に気付いた。
「これは・・・ディクセン。どこでこの写真を?」
すると男子生徒はハルマの足元で泣きながら土下座し何度も頭を下げた。
「ごめんなさい!ごめんなさい!悪気はなかったんです〜ぅぅ・・」
ハルマは察した。恐らく軍の新型を写真に撮ったことがばれたとでも思っているのだろう。思わず微笑するハルマ。
そんな男子生徒を無視してハルマは集まっていた女子生徒の方を向いた。
「私はTDF宇宙軍少尉、ハルマ=フロックハート。君達に協力を要請する。」
「協力・・・?」
女子生徒は怯えた様子でハルマを見ていた。無理も無いが・・・
「そうだ。この生徒を今、何処にいるか、知らないか?」
ハルマは一人の少女の写真を見せた。覗き込む女子生徒達・・・そして一言。
「紐尾さん・・・?」
「校内が騒がしいわね・・・・何なのかしら?」
薄暗い研究室の中で片目の髪で隠した少女が呟いた。
「TDFの軍人が校内で人を探しているらしいですよ部長。」
一人の女子生徒が言う。その時、いきなり扉が開かれた。薄暗い部屋に光が差し込む。
「写真部でも無いのに暗い部屋ね・・・」
そこにはリアがいた。さらに言うと全員そろっていた。
「どなた?だいたい察しはつくけど・・・」
少女は振りかえりもせず言う。
「『紐尾結奈(ひもおゆいな)』さんね?私達はTDFの依頼で貴方をスカウトに来たの。」
「ふふふふ・・・・あそこに宇宙悪魔帝国のジャークでさえ倒せなかったTDFの新型がいるのか・・・」
通常とは異なる空間で金色の装飾をつけた男が神戸の街を見ていた。
「大気圏を突入できる能力を有していたとはな・・・面白い!貴様はこの『アレクシム』様が地獄へ送ってくれる!行くぞガムダよ!」
アレクシムの背後には巨大な遺跡のような宮殿に太い手足を生やし、胴体の中心にある一つの巨大な目がついたロボットが立っていた。
「お断りするわ。」
結奈をスカウトすべく説得するリアだが、返ってきた言葉はそれだった。
「何故?貴方も今の地球圏がどうなっているのか解かってるのでしょう?」
リアが食い下がる。だが結奈は取り合わない、さらにリアを子馬鹿にした様子を見せている。端からTDFに協力しようという気は無いらしい。
「先程から聞いていれば、貴方達は地球圏の平和を求めて戦っているらしいけど、私の目標と反する愚かな思想ね・・・」
手を軽く挙げ首を左右に振る。完全に人を舐めきっている。プライドが高いというレベルではない、自分以外の人間は対等に見ようとしない者の姿だった。そんな彼女の態度に腹を立てて既にライードに押さえられている舞がいた。
「これ以上の問答は無用ね・・・・」
リアは静かに立ちあがった。
「今日は引き揚げるわ。でも気が変わったらいつでもTDFに連絡を頂戴。また来るわ・・・・」
リアは結奈に背を向けて部屋から出た。
「なんなのよ〜アイツ〜!!」
部室棟から出た一行の第一声が舞のカンキリ声だった。そうとう怒っていた。
「高慢ちきで〜!!自分以外の人間なんてど〜でもイイって感じ〜!!」
「確かに!ライードの兄貴、ありゃぁ、悪党の目だったぜぇ!」
りきが舞に同意するように言う。
「舞ちゃん、そっくりだったね〜。」
「なによ〜ユナ〜!あたしがあんな小娘と似てるってぇ〜!!」
ユナと舞の追いかけっこが始まる。だが、その二人を無視して一行は近くの芝生へ座り込んだ。
「ど〜するよ。あの様子じゃあ協力してくれそうに無いぜ。」
ライードがリア達に話し掛ける。だが、お嬢様軍団の何人かは結奈に良い感じを持っておらず、仲間にするのを止めようと言い出す者も現れていた。
「でも・・・巽テクノドーム以外でキカイオーを整備できそうなのは、彼女以外考えられない・・・」
リアが呆然と呟く。その声にハルマが話しかけた。
「キカイオー?」
リアは頷いた。
「ええ・・・この前、協力してくれる事になったロボットよ・・・中止されているTDFの『SRX計画』と並んで我々の戦力の中心になるロボット・・・」
「そんなに凄いロボットなの?」
「ええ・・・たった一機でDN社の傭兵部隊を全滅させたわ・・・しかも無傷で。」
「そんなに凄いのに何故彼女の協力が必要なの?」
ハルマが問い詰めるとリアはため息を一つついて話し出した。
「構造が・・・・と、言っても心臓部ね。その心臓部の整備が出来る人材がいないのよ・・・調整ぐらいは出来るけどね。造った博士が亡くなって、理解できる人が限られてるのよ・・・・」
「それで彼女の力が・・・・」
リアは頷いた。
「彼女の天才とも言える頭脳とその技術者としての腕があれば、今は完全に覚醒していないキカイオーを完全に出来るかもしれなかったから・・・」
そんな時、校舎に警報が鳴り響いた。
「なんだ?」
ナカトが辺りを見渡すと、街の方から火が上がっていた。
「あれは・・・・ゴルディバス!!」
リアが叫んだ。街にはまるで太古のレンガの宮殿が動いているように見えていた。
「あれはゴルディバス軍の『巨人宮殿ガムダ』!どうしてこんな所に・・・」
「とにかく基地に戻ろう!リアさん達は生徒達を安全な場所に!!」
ナカトが叫んだ。
「解かったわ!」
するとまばゆい光と共にリア達は装甲に身を纏っていた。
「よし!アタイに任せな!!」
長髪の子がナカト達の前に出た。本名『拳母瀬里加(ころも せりか)』通称『ハイスピード・セリカ』だ。
「おおっ!!」
あっという間に彼女の装甲はゴーカードのような形に変形した。
「乗れ!基地まであっという間だぜ!」
ナカト達はセリカの装甲に無理矢理乗った。小さいカートに六人はキツイ。ライードがりきとまみを背中に担いでいたものの、半ば曲乗りのような格好になっていた。だが、セリカは少しも臆していなかった。
「よ〜し!エンジン全開でいくぜ!!」
「ひえええ!!!」
ナカト達の悲鳴を残してセリカはものすごい勢いで走っていった。
「ナカトさん達はセリカに任せて、いくわよ!」
リアが皆に言った。そしてお嬢様軍団は校内中へ散った。
「皆さん、非常事態です。現在、市内は交戦状態にあります。急いで近くのシェルターに避難してください。」
校内にアナウンスが響く。結奈が部室から外を見ると、町中をガムダが暴れまわっていた。すると彼女は驚きもせずに、口元を緩めた。
「アレも、私の領域を侵犯するなんてイイ度胸じゃない・・・・丁度良いわ。」
そう呟くと、彼女は白衣を纏い、机に置いてあった腕時計を手に取ると、廊下を駆け出した。避難するためではない、彼女の行き先は学校用の屋内プールだった。
「私の科学力を試すまたと無い機会・・・・このテストが良好なら、私の野望は一気に達成される・・・」
先生や他の生徒の制止も振り切り彼女は、屋内プールの入り口にたどり着いた。そこであらかじめ持っていた特殊ナイフを取り出した。彼女が作った特殊合金製のナイフで通常のナイフとは比べ物にならない切れ味を誇る。さらにレーザー発振装置を備え、一種のレーザーナイフと化す。
「えい!」
彼女は鍵の掛かった扉に向かってナイフをニ、三回振る。勿論彼女は実験以外でナイフを使った事は無い、ただ振りまわしているだけである。だがナイフの素人である彼女の前で、ドアは鍵ごと易々と簡単に切り裂かれてしまった。
「いくわ・・・」
彼女は切り裂いたドアをくぐり、プールへと侵入した・・・・
「燃えろ〜!燃えろ〜!」
ガムダは街に向かって胴体の巨大な目から赤い光線を放つ。まるでホースから出した水で地面に字でも書くように光線は向きを変えながら周囲を燃やして行く。
「楽しいな!よ〜く燃える・・・さあ、早く出て来い、TDFの新型!」
遠目に見えるTDF基地を挑発するようにガムダは街を蹂躙していた。
「あたし達の町が・・・・」
「みんな・・・燃えちゃう!」
「くそ〜!あの化け物!」
高校のシェルターに避難しようとしている生徒達は泣きそうな顔で燃える町を見ていた。その燃える町をガムダは我が物顔で歩き、壊し、光線を放つ。
「旧西暦の震災にも負けなかった神戸の街が・・・・」
「みんな燃やされちゃうよ〜!」
旧西暦、この神戸の街は前代未聞の震災に襲われ、廃墟と化した時があった。だが、それを市民の手で見事に復活させたのだ。その時の悪夢が今、一体の宮殿ロボットによって蘇ろうとしていた・・・
「誰か・・・何とかして・・・」
その時、生徒達は校庭の隅にある屋内プールから物凄い音が聞えてきたのを耳にした。見れば、プールの天井がまるでドーム球場のように開いて行った。
「来なさい!ロボォ〜!!」
結奈はプールサイドで、腕時計に向かって叫んだ。すると、まるでプール中心ががモーゼの十戒の如く二つに割れ、水が中心へ流れ落ちて行く。そしてその中央から青色の人型のロボットがせりあがって来た。
結奈は口元を緩ませ、眼前の巨大ロボットにむかって叫んだ。
「ついに実戦テストができる・・・見てなさい、学校の馬鹿ども!私の科学力のすばらしさを思い知らしてあげるわ!」
次回予告
まるで、某魔神のように現れた、巨大ロボット。果たして結奈は愛する(?)学校を守りぬけるのか!
暴れまわるガムダ!そこに現れる予想だに出来なかった三人の強力な助っ人登場!!
ゴルディバス軍に対するため、一路ジュンペイは神戸へ!果たして空を飛べるのか、キカイオー?
強敵ガムダに、ファイアートマホークが炸裂する!・・・誰の武器?
次回、サイバーロボット大戦 第十一話 『激突!熱血男子高校生・対・冷血女子高生!』・・・え?
次回も、水と油にすげえぜ!! 「あの鬼之下で待っています。」