第九話   「大気圏突入戦! 流星超人パルシオン参上!!」



 「美味い・・・軍隊のメシってのはマズイって聞いてたのに美味いじゃねえか。」
オオトロライスバーガーを口一杯に頬張っているりきは嬉しそうに言った。
 「ぼくもこんな美味い物を食べたのは久しぶりなんだ・・・」
 ナカトも同じような顔をする。
 「彼女達に感謝しなくちゃね。」
 オペレータの一人『チェンミン』という中国系の少女が微笑みながら言う。イエールもハルマも相槌を打つ。
 「まだ、たくさんあるようでしたから、避難民の皆さんにも十分行き届いているみたいですよ。」
 イエールが言う。この食料はユナ達が搬入してくれた物資の一部だった。軍の携帯食やレーションに飽きていた新兵やナカト達のような外出があまり許されない候補生には滅多にないご馳走だ。
 「さ〜すが、『お嬢様』ってこと?い〜モン食ってるぜ。俺にもくれよ。」
 格納庫のバンガイオーのコクピットからライードが顔を出して手を出す。この時、バンガイオーはラズベリーの格納庫にディクセンと肩を並べて立っていた。大きさはディクセンと差は無い。
 ハルマが待機所から一つ持ってライードのところへ飛んだ。
 「お嬢様?」
 バーガーを手渡したハルマが疑問系で尋ねる。
 「だってよ〜『お嬢様仮面ポリリーナ』って名乗ったんだぜ?口に出すくらいなんだから、お嬢様じゃないのか?」
 「確かに・・・私が会ったピンクの装甲付けた子はそんな感じだった・・・」
 ハルマはディクセンの眼前にいた、随分ゆっくり喋る子を思い出していた。
 「でもコレ、ジャンクフードに近いみたいだけどお嬢様が食べるものかな〜。」
 チェンミンがバーガーを手に取り言った。確かに包装紙からしてジャンクフードを思わせる食べ物だった。
 「お嬢様ねえ・・・」
 ナカトはバニーガールの格好をした『六本木の舞』と名乗った女性を思い出していた。
 「とても、お嬢様には見えなかったけどな・・・」
 ナカトはそう呟き、同じくユナ達から供給されたパック式の緑茶でバーガーを流し込んだ。日系のナカトには馴染める味だ。
 「なんにせよ!美味いモノくれたんだ。感謝するぜぇい。」
 りきはパンパンになったお腹を押さえていった。
 「それはそうと、バンガイオーの調査は終わったの?ライード。」
 ハルマはりきをよそにバンガイオーのコクピットで整備にいそしむライードに話しかけた。
 「おう〜。今終わったぜ。りきの父ちゃんがくれた資料が良かったんでな〜。」
 コクピットからライードが待機所に戻ってきた。作業服が何故か虹色に輝いていた。

・・・・コロニー男星を制圧していたSF虎巣喪組の支部は壊滅した。どうやら戦闘員はチンピラのサブだけであって、残りは妙な建設会社と無人兵器だけだった。サブを倒した後、大した・・・というかまったく抵抗を受けずにコロニーを開放する事に成功した。
 虎巣喪組からコロニーを開放した事が感謝され、ラズベリーのクルーは大歓迎で男星に迎えられた。そして、避難民の希望もあり、半数以上を男星に降ろした。男星の代表者は喜んで難民を受け入れてくれた。
 「随分、簡単に受け入れてくれたな・・・」
 艦長は少し呆気にとられた様子で練習艦から降りて行く避難民を見て呟いた。普通、難民の受け入れは何処でも嫌がられるものなのだが。その疑問はりきが答えた。
 「このコロニーの人間は、
義理人情に熱いからよ!」
 「それだけかね?」
 
「おうよ!艦長さん。」
 りきは自信満々で言い放った。
 その後、SF虎巣喪組の本拠地が地球にある事を、ラズベリーのクルーは正体不明の
『謎の情報屋M子さん』からを手に入れ、これにより「打倒SF虎巣喪組」を掲げる、りきとまみの意思もあり、軍の指揮下に入る事を条件に、ラズベリーに同行する事となった。
 「私達は虎巣喪組以外の敵とも戦うが、それでもいいかね?」
 艦長から注意を受け、その時に敵が虎巣喪組だけでなく、ゴルディバスやソラリスといった勢力とも戦う・・・という事を聞かされると、りきは怒りに震えて叫んだ。
 
「なぁんてぇこぉったぁ!!宇宙のダニどもは他にもいやがったのか!!」
 「う、宇宙のダニ・・・・・」
 艦長はりきに押されていた。そんな事は露知らず、りきは俄然燃えていた。
 「見てろ〜!!俺が宇宙のダニどもをぜぇんぶぅ、皆殺しにしてやるぜい!!」
 「・・・・・」
 りきの異常なまでのやる気に艦長は、多少の不安を覚えた。
 バンガイオーの参加が決まった所で、父親である牧士博士から、バンガイオーの運用する為の資料と物資、そして予備弾薬等がラズベリーに運び込まれた。そして短い停泊を終え、ラズベリーは地球に向けて出港した。

 「で、どうだったの?バンガイオー。」
ハルマは作業を終え、バーガーを頬張るライードに尋ねた。整備員の数が絶対的に足りないため、ライードとワイズダック要員がバンガイオーの整備に当たっていた。
 「ああ・・・スーパーロボットってのは始めて見たが、何とかなるぜ。ディクセンやワイズダックとまるで違う構造なんで苦労したぜ。」
 「そうなの・・・じゃあ地球に戻るまで迂闊に壊せないわね・・・」
 ハルマが静かに言う。だが、ライードは明るくハルマに向かって言った。
 「大丈夫だって!さっき資料がイイって言っただろう?問題ね〜よ!さすがに整備には時間が掛かるがな!」
 「バンガイオーって、そんなに皆さんの青いロボと違うモノなんですか?」
 先程から黙っていた、まみがライードに尋ねる。
 「ああ、だが心配ねえな。耐久性がディクセンより遥かに上だ。火力もワイズダックの十数倍はある。どうやらバンガイオーは、『一対多』を前提に開発された機体みたいだ。」
 「一対多?」
全員がライードに向け言う。ライードは頷く。
 ライードの話によると、バンガイオーは一機でSF虎巣喪組と戦う事を目的として設計されていた。その為、武装は銃器とミサイルを中心に構成されている。したがって四肢以外に戦闘に使用できる武器は無い。飛び道具中心の遠距離戦専用機らしかった。
 「その為、火器の連射速度がえらく速い・・・」
 ライードはバンガイオーの銃はライフルではないかと思っていたが、その正体はマシンガン以上の連射性を持った多目的速射砲らしかった。
 「多目的速射砲!?」
 ハルマが詰め寄る。
 「ああ・・・使っているりきとまみには、解かってるだろうが、バンガイオーには追尾式のミサイルと兆弾効果の高いバウンド弾・・とでも言うのかな?その2種類の弾丸が一つのライフルから発射出来るようになってる。」
 「へ〜一つのライフルから2種類の弾か・・・」
 ナカトが感心する。
 「内一つはミサイルとはね・・・」
 ハルマが飽きれたように座り込む。
 「ミサイルが弾丸の様に連続発射できる銃・・・なんてロボットなの・・・」
 「ついでに言うと、全身にミサイルベイが有った・・・・補給が大変だったぜ・・・」
 その言葉にりきとまみ以外全員が驚いた。
 「全身にミサイル〜!?」
 「凄かったぜぇ〜、首から足首にかけて、小型誘導ミサイルの発射官がビッシリ・・・・同じ数だけバウンド弾の銃口もあった。」
  「歩く、火薬庫・・・・」
 チェンミンが呆然とする。だが彼女の例えはほぼ間違い無い。
 「そんな量のミサイル、何処に詰まってるのよ・・・」
 ハルマはライードに尋ねる。ライードは平然と言った。
 「機体内で生産してるみたいだな・・・・。補給したのはライフルと、初弾分だけだったし、さ〜すがスーパーロボってトコだな!」
 ライードは豪快に笑い飛ばした。他の連中はただただ、驚くばかりだった。
 「まったく・・・凄いのか、非常識なのか・・・何で動いてるのよ?バンガイオーって・・・」
 
「サラダ油だ。」
 「え?」
 「だから、『サラダ油』。間違いなくバンガイオーはサラダ油を燃料に動いてる。俺の作業着が光ってるだろう?コレ、サラダ油が付いたの。」
 「・・・・・・・・・」
 全員黙り込んだ。乗っているりきとまみも今になって始めて知ったらしい。
 「ど、どうりで・・・あんなに沢山のサラダ油を搬入したのか、解かった・・・今・・・」
 ハルマは消えそうなか細い声で言った。バンガイオー関係の物資を男星から搬入した時、業務用のサラダ油を大量に運び込んでいるのを見ていたからだ。
 「それだけじゃあ無い。牧士博士の資料によると装甲は
『鉄』らしい。」
 ライードはバンガイオーの資料ファイルを見せて言った。
 「鉄?そんなの当たり前・・・?・・・・・まさか!!」
 ハルマは何かに気付いたらしい。ライードは察して頷く。
 「そう、超合金でも別物質でも無い。ただの鉄鉱石・・・つまり『鉄』だ!」
 その言葉にりきが吠えた。
 「おやじぃ!!もっとすげぇ金属使えってぇんだぁ!!」

 「捕捉しました。例の軍艦です、ジャーク将軍。」
 赤い宇宙船のブリッジで老兵がジャークに報告する。
 「ウム・・・何とか間に合ったな。」
 「奴等は地球に降りるようですね。」
 老兵が言う。
 「間違い無いだろう・・・地球のTDFと合流するつもりだろうが、そうはさせん!」
 ジャークが振りかえると、そこには三人のパイロットが立っていた。ジャークはパイロット達に呼びかけた。
 「我々はこれよりTDFの艦に攻撃を仕掛ける。だが、地球の引力には十分、注意するように。何故ならザッキュンといえど、大気の摩擦熱には耐えられないからだ。」
 そこでザッキュンはニヤリと笑う。
 「だが、それは敵も同じ事だ。ここでケリを付ける気でいくぞ!!」
 そのすぐ後、七機のザッキュンがラズベリーに向かって飛んだ。

 「艦長、あと三十分で大気圏突入コースに入ります。」
 オペレーター席に戻ったチェンミンが言う。
 「よし・・・何事とも無ければ良いがな。」
 艦長は呟く。
 「イボンヌ君。大気圏突入は大丈夫かね?」
 艦長は操舵席に座る金髪の女性に話しかける。彼女はこの艦で数少ない正規兵の一人『イボンヌ少尉』だ。彼女はこの艦の操舵手を務めていた。
 「はい、大丈夫です。前に一度巡洋艦で経験していますから。」
 「そうか、では任せる。」
 その頃、格納庫では万一に備えてナカト達は機体のコクピットで待機していた。
 「ナカトのに〜ちゃん。大気圏突入って、そんなに大変なのか?」
 無線でりきがナカトに尋ねる。
 「ああ、下手したらこの艦が燃えて無くなるからな。」
 「まあ、大変よ、兄さん。」
 まみが言う。その台詞にハルマが軽く笑う。
 「そうね。大気の摩擦熱は約千八百度なんだから。」
 「おお!千八百度!!なんてぇ温度だ!バンガイオーが熔けちまうぜ!」
 「それどころか、
蒸発しちゃうわよ。」
 
「蒸発・・・うちのママを思い出しちまうぜぇ。」
 「そうね、兄さん。」
 その台詞にハルマとナカトは黙り込んだ。だが心の中で呟いた。
 「(一体何があったんだ・・・・)」
 そうとう酷い家庭事象かは知らないが、なんとなく解かるような気はした・・・とナカトとハルマには思えた。
 「(不憫な・・・・)」
 そんな中、艦内に警報が鳴り響いた。敵襲だ!!

 「ゆけ!あの白い船を殲滅しろ。」
 ジャークは赤いザッキュンを駆り、果敢に攻め立てる。後続の量産型のザッキュンもそれに続く。
 「どうした?早く出て来いTDFの新型!」
 弾幕の雨を無駄の無い動きで交わすジャークの赤いザッキュン。
 「将軍!出てきました、TDFの青いヤツです!」
 部下から通信が入る。ジャークは白い船から四機の機動兵器が出てきたのを確認していた。内二機は間違い無くディクセンだ。
 「ほう・・・完全武装で、出てきたか。私を過大評価してくれているようだな・・・面白い!」
 ジャークの言った通り、ディクセンは今までとは違い完全な姿で現れていた。背中のフィクサーキャノンは勿論の事、機体を守るように上、左、右と小型の推進器付きの砲塔が浮かんでいた。これはナカトやハルマ達が遠隔操作で攻撃する半自動攻撃防御両用兵器『A−サテライト』と呼ばれるビット兵器であった。ディクセン型機動兵器・・・『特務機兵』と後に呼称される機動兵器の中でも、『FX−004S』型のみに装備された特殊兵器である。
 「TDFの青いヤツ。今度こそケリをつけてくれる!!」
 赤いザッキュンはナカトのディクセンに向けて突進した・・・・
 
「てめぇが、ココのボスなんだな!!そうなんだな!?」
 絶叫と共に問答無用で大量のミサイルが、赤いザッキュンに降り注いだ。撃ったのは間違い無くバンガイオーだ。
 「な、何だ?コイツは・・・TDFには見えないが・・・・」
 かろうじて避けたものの、五・六発程食らってしまった赤いザッキュン。肩のシールドがもはや役には立たない。ジャークはシールドを排除した。
 「SF虎巣喪組のロボットに似ているが・・・スイカのマーク?あの辺境コロニーの防衛組織か何かか?」
間違ってはいない。
 「ええい!虎巣喪組め!金さえ出せば、ソラリスだけでなく誰にでも兵器を売るのか!!」
どんな相手にも平等に接する・・・ビジネスの基本。料金さえ頂ければ、それは大切なお客様。だが・・・この場合はチョット違う気がする。
 バンガイオーは虎巣喪組のデータを流用したロボット。似ているのは仕方が無い。だが、真相を知らないジャーク将軍には、男星の防衛組織が虎巣喪組から購入した、と見られても仕方が無いのだが・・・
 「モラウン!コイツの相手はお前達に任せる!」
 ジャークは後続のザッキュンにバンガイオーの相手を任せ、自分はディクセンに飛んだ。

 「ジャークか!!」
ナカトはライフルを単発モードで発射していた。乱射して当たる相手では無い事を自覚していたからだ。
 赤いザッキュンが機関銃を乱射して突っ込んでくる。だが、ナカトは左腕のシールドを使う事はしなかった、相手の攻撃はこちらに接近するための牽制に過ぎないからだ。
ザッキュンは足がない分ディクセンより小さい。そのベーゴマのようなボディを生かしての細やかな空間機動性が最大の武器だ。ジャークのザッキュンはそれが輪をかけて速い、だがスピードならディクセンも負けてはいない。
 ザッキュンの最大の弱点は機体が小さいために武器の積載量が少なく、機体の機動性を生かす為装備している武器も取りまわしの良い、小型で軽量な物が多い。すなわち攻撃力が弱いのだ。
 「ディクセンの装甲はマシンガンくらいなら!!」
 ナカトはマシンガンの攻撃を当たるのを覚悟して、フィクサーキャノンを構えた。
 「いっけぇぇぇ!!」
 フィクサーキャノンからビームが発射された。だが、ビームの直線状に赤いザッキュンはいなかった。
 「なに!!」
 ナカトは己の技量の無さを思い知らされた。自分のすぐ真下に赤いザッキュンのピンクの目が見えたからだ。
 既に赤いザッキュンは機関銃を捨て、斧を構えていた。ザッキュンの格闘用武器『ザキュトマホーク』だ。斜め下に振りかぶり、一気にディクセンのわき腹めがけて斧が迫る。
 「ナカト君!!」
 ハルマの赤いディクセンがシールドを前面に出して、ザッキュンに体当たりした。スチールダッシュだ。体当たりを浴びたザッキュンは、吹き飛ばされ動きが一瞬止まる。
 「今だ!」
 態勢を立て直したナカトはその隙にレーザーサーベルを構えて突進した。
 「うわぁぁぁぁ!!」
 ディクセンのサーベルが次々とザッキュンに襲いかかる。縦に斬り、横に斬り、斜めに斬り、タックルを浴びせて相手の態勢を崩しさらに斬る。連続斬りだ。
 「お前なんかぁぁぁ!!」
 腰に下げてあったライフルを片手で持ち撃つ、撃つ、撃つ最後に両手で構えてさらに撃つ。
 既にシールドを失っていたザッキュンにこの連激に耐えられなかった。機体のあちこちから火花を散らす。
 
 「何というロボットだ!!」
 損傷の激しい赤いザッキュンは、もはや戦闘には耐えられないまでのダメージを負っていた。
 「モラウン!後は任せる。」
 ジャークは急いで後退する。だが、ナカトとハルマがこの絶好の機会を逃がすはずが無かった。

 「逃がすものか!!」
 「ここまで来て帰させない!!ライード、艦を任せたわよ。」
 青と赤のディクセンがジャークの後を追う。艦の近くで支援攻撃に徹していたライードのワイズダックが慌てて回線を開く。
 「おい!深追いするな!地球の引力に掴まるぞ!!おい、ハルマ!ナカト!」
 二人は聞く耳持たず、突っ込んで行った。既にラズベリーは大気圏態勢を取っているのにも関わらずにである。
 「四人を呼び戻せ!!もう大気圏突入だぞ!」
 艦長が叫ぶ。だが、ワイズダック以外の機体は徐々に地球の引力圏に引かれつつあった。
 「時間が無い・・・最悪にはワイズダックだけでも収容しろ・・・」
 艦長が命令した。

 「ザッキュンは?」
 ディクセンに撃墜寸前まで追い込まれたジャークは何とか母艦にたどり着いた。ブリッジに戻ったジャークは残りのザッキュンの様子を老兵に聞いた。
 「はい、残りのザッキュンは四機です。」
 モニターには、バンガイオーとディクセンを牽制しているザッキュンが映っていた。
 「地球の引力に引かれているな・・・・」
 「はい、残り三分と言ったところですね。」
 「限界領域まで引きつけさけろ。」
 「了解。」

 「まずいな・・・三機とも重力に引かれているぞ。」
 ラズベリーのモニターにはディクセンとバンガイオーが地球に引かれつつあった。もちろん戻ろうとしていたが、上面をザッキュンに押さえられていた。
 「艦長・・・このままでは当艦も・・・」
 「やむをえない。ワイズダックを収容しろ。大気圏突入準備だ。」
 艦長が苦渋に満ちた顔で判断した。
 「艦長!九時の方向から未確認飛行物体接近!」
 「なに!?」
艦長はモニターを見た。そこにはディクセン達に向けて、まっすぐ飛んで行く銀と赤の身体をした一人の巨人だった。
 「なんだ!あの巨人は・・・・」



 ナカト達も巨人は確認していた。謎の巨人はまっすぐこちらに向かってきていた。
 「敵の増援か・・・」
 ナカトの予想は外れた。巨人は大きな槍を何処からとも無く取り出すと、それをザッキュンに向けて投げた。爆発するザッキュン。
 「味方なの・・・?」
 ハルマが呆然と呟く。予想外の敵の出現にザッキュン達も驚いているようだ。巨人はもう一機のザッキュンに飛び掛って行った。
 「あの技は・・・?!」
 ハルマが呟く。後ろ蹴り・・正拳・・裏拳・・手刀・・肘撃ち・・最後に飛びあがるようなアッパーカット・・・と流れるような動作がザッキュンに炸裂する。
 
「宇宙空手だぁ!!」
 りきがいきなり叫んだ。かなり興奮していた。
 「す・凄ぇぇぜぇ!!宇宙のヒイロウは本当にいたんだぁ!!」
 「でも兄さん。あのヒーローさんは似ていますが『ナウクリアマン』ではありませんよ?」
 まみがツッコむ。確かに巨人はりきの憧れるヒーローに似てはいたが、別の存在だった。
 「だったら、仲間かなんかにちがいねぇ!あと手から光線ぐれぇ出してくれれば、さいこぅだぜぇ!」
 りきは興奮しきっていた。そして巨人はりきのリクエストに答えるかのように両手を拝むように合わせた。
 「お!出るのか!でるんだなぁ!!」
 りきが叫ぶ。そして巨人の合わせた両手から、虹色の光線がほとばしる。そして光線を食らい爆発するザッキュン。
 「やったぜい!ヒイロウの勝利だぜぃ!!」
喜びもつかの間・・・・・すでにナカト達の二機のディクセンとバンガイオー、そして最後のザッキュンは地球の引力に引かれ、赤く染まりつつあった。こうなればディクセンの出力ではどうにもならない。

 「モラウンは?」
 ジャークは尋ねる。唯一生き残ったザッキュンはすでに赤く染まり地球に落ちていた。
 「すでに回収距離を越えています。もう無理です。」
 「そうか・・・」
 ジャークは静かに言った。
 
「ジャ!ジャーク将軍!助けて、助けてください!!減速できません!!」
 落ちるザッキュンからパイロットの悲痛な叫びがブリッジに響く。
 「モラウン・・・残念だが、ザッキュンに大気圏突入能力は無い・・・・」
 拳を握り締め、悔しそうに言うジャ−ク。
 「だが、無駄死にではないぞ・・・TDFの新型と妙な人型兵器を一掃出きるのだからな・・・」
 「しょ!しょ〜ぐ〜ん!!」
 それがパイロットの最後の言葉になった。彼のザッキュンは大気との摩擦で燃え尽きて行った。
 「離脱しろ・・・・」
 ジャークの赤い宇宙船は、地球軌道上から何処かへ去って行った・・・・

 一方、ディクセン・バンガイオーにも同じように大気との摩擦に真っ赤になっていた。
 「なにかないのか・・・なにか・・・」
 必死でマニュアルはめくるナカト、ハルマも同様だ。そんな時二人の頭に声が聞こえてきた。」
 (聞こえるか・・・少年よ・・・・聞こえるか・・・少女よ・・・)
 頭に直接呼びかけられていた。
 「て、テレパシーとでも言うのか!貴方は誰だ!」
 ナカトは叫ぶ。声はすぐに返ってきた。
 (それは後だ・・・いいか、二人とも良く聞くのだ。ディクセンには元々大気圏突入能力が備わっている。)
 「本当?訓練では習わなかったわよ!」
 ハルマが叫ぶ。
 (事実だ・・・この機能は急遽取り付けられたものだからな・・・こんな時の為に・・・いいか、まずA−サテライトのバリアーを前面に展開しろ・・・それからシールドもだ・・・・)
 二人は言われた通りにした。ビットが機体の前面にバリアーを展開した、そして左腕を前にかざす。
 (次に股間の回路B−13を起動させるのだ・・・最後に左腕の回路S−27を開放しろそれで大丈夫だ・・・)
 二人は言われた二つの回路を起動させたすると、ディクセンの股のハッチが一部開き、そこからすごい勢いでガスが噴き出し機体を包み込む。最後に左腕の盾から何かフィルムのような物が広がり、機体の正面を覆う。
 「凄い・・・機体の表面温度が下がった。こんな機能があったなんて・・・」
 ナカトは驚く。ふとモニターを見ると、ハルマのディクセンも同じようにしていた。
 「そうだ!バンガイオーは!?」
 ナカトは通信を開こうとするが、大気圏突入中は無線が通じない。するとまた声が聞こえてきた。
 (心配いらない・・・・彼等にも大気圏突入能力はある・・・無事だ。キミたちの艦もだ・・・)
 やがてナカトの正面に青い空が広がった。地球の空だ・・・・・
 ナカトは焼け爛れたシールドを排除しおもいっきり手足を広げた。人間で言うスカイダイブのように・・・ハルマもそれに習う。バンガイオーはそのままの態勢で空を飛んでいた。どうやら大気圏内飛行能力があるようだ。
 「これが・・・地球・・・」
 りきとまみは、始めてみる地球の青さに驚いていた。そしてライフルを腰に下げると前方を降下中の二機のディクセンの手を掴む。ディクセンには飛行能力は無いからだ。
 「綺麗・・・・これが海なんですね・・・」
 キラキラ光る海に心を奪われるまみ。
 (そうだ・・・この美しい地球を守るのだ・・・・)
 声が聞こえる。四人は周りを見渡す。するとバンガイオーの後方に巨人が飛んでいた。
 「貴方は一体・・・?」
 「ヒイロウなんだよな!」
 ハルマとりきが尋ねる。すると巨人は笑ったようなそぶりを見せた。
 (私の名は『パルシオン』・・・・また会う事もあるだろう・・・さらばだ・・・)
 「デュワッ!」
 最後の掛け声のような声だけ耳に聞えた。パルシオンはそのまま空の彼方へ消えて行った。
 
「ありがと〜う!!パルシオ〜ン!!」
 りきは空に向かい手を振った。すると変わってラズベリーが姿を現した。パルシオンが言った通り、無事だった。
 「りき、頼む。」
 ナカトはりきに向かって言う。バンガイオーは二機のディクセンを抱えてラズベリーに飛んだ・・・
 
「また、一歩平和に近づいたな!」
 その様子を見て、謎のヒイロウ『ナウクリアマン』が高らかに言った。

 「ディクセン両機、ならびバンガイオー収容完了しました。四人とも無事です。」
 「そうか。良かった。」
 艦長は安堵の息をついた。
 「しかし、艦長。予定降下地点とは違うところに降りてしまいましたね。ここは北京ではありません。」
 当初、ラズベリーは北京で合流が予定されていたTDFの部隊と接触した後、極東本部に向かう予定であった。
 「そうだな・・・ここはニホンか・・・合流予定を無視して戻ってしまったな。」
 「そうですね・・・ここはニホンの何処なんですか?」
 イボンヌが尋ねる。
 「セトナイ海・・・コウベシティーの側ね・・・・」
 チェンミンが地図を見て言う。
 「コウベか・・・TDFの支部があったな。連絡を入れて停泊しよう・・・本部とも近いしな。半舷休息くらいなら問題無いだろう。」
 それを聞いてオペレータ達がはしゃいだ。連戦続きで滅多に休息が取れなかったからだ。
 「了解!進路、TDF神戸支部。」
 ラズベリーは瀬戸内海上空を進んだ・・・・・

 「ん?機械反応・・・・上空から?」
 薄暗い部屋の中、コンピューターを始め、様々な機械が散乱しているまるで大学の研究室のような部屋で、片目を髪で隠し、セーラー服の上に白衣を着た少女が、ある機械のセンサーの反応に気付いた。
 「この反応は・・・TDFね・・・」
 少女は部屋から出た、そこは高校の部室棟の部屋の一つだった。少女は機械を持って階段を駆け上がって屋上に出た。そこは少女のお気に入りの場所だった。
 「間違い無いわ・・・TDFね。あそこの支部に向かう気ね・・・・」
 そこで少女は何故か口元を緩ませていた。
 「ふふふふ・・・・・はははは・・・・」
 少女は笑い出した。
 「私の領空を侵犯するとは、イイ度胸じゃない・・・・」



 
 

次回予告


 神戸の街で一人の少女の野望が渦巻く!!世界を牛耳る事を夢見る少女『紐尾結奈』操る巨大ロボットがTDFに襲いかかる!果たして彼女は敵か味方か?!
 そして同じく神戸に現れる巨大遺跡ロボ『ガムダ』が街を蹂躙する。はたして神戸の街の運命は!?
 ハルマに襲いかかる「すき焼き」の恐怖とは!?
 次回 サイバーロボット大戦 第十話『好きとか嫌いとか』に、あの木の下で待っています。
 次回もラブにすげえぜ!!   『一目亡霊って信じます?』 


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