第四話    「激突!!キカイオー対ライデン」



 市街地に現れた紫の異形のモンスター、赤い武者ロボット。それに呼応するかのように現れた謎の巨大ロボット。大きさはPTとVRとそう差は無い。だが、それでもPTより大きく見えるのは全体のフォルムのせいだろう、細身のPTや四角柱で構成されたデザインのVRに比べてそのロボットは太い円柱で構成されており見た目だけでも強そうに見えた重量感溢れるロボットだった。背中には大きな赤い翼を背負い、胸には金色の星と三日月を模した装飾を付け、肘と膝にも金色の突起のようなモノが取りつけられている以外は飾り気は全く無い。シンプルかつ実戦的なロボットだった。
 だが、そのロボットの本質は外見だけではなかった。
 「こ・こいつのエネルギー反応は・・・・」
 「冗談だろ・・・・」
まだ、目的地からほど遠いというのにそのロボットから発せられるエネルギーの反応は各機のセンサーの反応値を軽く振りきる程凄まじかった。
 「この時点でSRXの反応を超えている・・・・」
 信じられない顔をするヴィレッタ。
 「最大出力だったらどれくらいになるのよ・・・・」
 ヴィレッタのそんな反応をよそに別の意味で興奮している男がいた・・・・
 「うお〜!!カッコイイ〜イイ〜!!あんなスゴイの見たことねええ〜!!」
 リュウセイだ。すっかり興奮していた、元来のスーパーロボットマニアの血が騒いで騒いで仕方が無い様子だった。そんな様子をモニターで見ていた将輝は不謹慎とは思いながらヴィレッタに通信を繋いだ。
 「あの〜。リュウセイ少尉なんか言ってますけど〜。」
 しかしヴィレッタは何とも動じない。
 「いつもの事よ。気にしないで。」
 それだけ言い、通信を切った。将輝は疑問に思いつつR−ガーダーを走らせ続けた。その先には紫の怪物と赤い武者ロボがキカイオーと戦っていた。

 「キカイオー、ついに動き出したか・・・・」
 今まさに戦おうとしているキカイオーを遠くの高台から一人の女性が見つめていた。女性と言うには若い、十代後半・・・高校生くらいのポニーテールの少女がキカイオーをじっと見つめていた。
 「轟ジュンペイ・・・あなたの戦い、この『天堂レイカ』が見届ける!!」

 「ロケットブロー!!」
キカイオーの両腕がその名のようにロケットの如く飛び出した。両腕が紫の怪物に炸裂する。
 「キカイオー!!キッ〜クッ!!」
飛びあがったキカイオーが上空から強烈な飛び蹴りを放つ。怪物は吹っ飛び地面に倒れる。
 「何と!クヴァールがあそこまで、一方的に!」
 赤い武者ロボのパイロットが驚く。まさかここまでとは思っていなかったらしい。
 「これは・・・予想外だ・・・・」
 少し思案する。それを横目に倒れたクヴァールをキカイオーが掴んでいた。
 「だいっ!せんっぷう!!」
 掴んだクヴァールを片手で振りまわし始めたキカイオー。軽そうに見えるクヴァールだが、大きさは有にキカイオーの倍はあるのにも関わらずである。底知れぬ怪力だ。
 「投げぇぇぇぇ!!」
大旋風投げ・・・・キカイオーの必殺技の一つ。掴んだ相手を振り回し放り投げる豪快な大技。並大抵の相手でこれに絶えられるモノいない・・・・。投げられたクヴァールは凄まじい地響きを立てて地面に落下。そのまま爆発した。
 「キカイオー、完成していたか!これではこちらに勝ち目は無い・・・!」
 武者ロボは悟ったのか、手榴弾を手前に投げて逃げて行った。それを見てコクピットのジュンペイは大声でモニターに映る祖父に向け叫んだ。
 「じっちゃん!!キカイオーは、本当に無敵なんだね!!」
 モニターの祖父は苦しそうに咳き込みながらジュンペイに語り掛ける。
 「そうとも・・・よいかジュンペイ・・・人間は弱くはかない・・・・だからお前はキカイオーに乗り込み、無敵の超人となるのだ・・・!!」
 「じっちゃん!?」
 「お前の両親を事故で死なせたのは、このワシだ・・・そしてワシが死ねばお前は一人ぼっちになってしまう・・・だが、キカイオーがあれば、きっと・・・」
 通信はそこで途切れた。ジュンペイはモニターに向かい絶叫する。
 「じっちゃん!!じっちゃーん!!」
 叫べど返事は返ってこない。ジュンペイはキカイオーを自宅へと進ませようとした時、キカイオーの背中に衝撃を感じた。もちろんキカイオーには蚊とも思わないダメージであるが、ジュンペイの動きを止めさせるには十分だった。
 「何だ?!」
 キカイオーが振りかえる。そこには七機のライデンがキカイオーへ向け疾走してきていた。VR社のライデン部隊SHBVDである。彼等は街の被害を察して迂回してきた将輝達より早くキカイオーにたどり着いたのだ。
 「何だ?軍隊か?なら・・・」
 通信を開こうとしたジュンペイをよそに、ライデン達は次々とバズーカを放ってきた。砲弾の雨がキカイオーに襲いかかる。
 「くそっ!!問答無用か?このままじゃ、じっちゃんや町の人達が・・・」
 砲弾にさらされながらジュンペイは毒づいた。街が戦場と化せばキカイオーや自分は無事でも、祖父や他の人々が危険にさらされる。
 そんな時、キカイオーのコクピットに男の声が聞こえてきた、祖父の声ではない。どうやらライデン達が呼びかけてきたのをキカイオーが自動的に捉えたらしい。
 「やっと繋がったか・・・。俺はVRA所属、特殊重戦隊SHBVDのリットー大尉だ!そちらの姓名と所属は何処だ!!」
 コクピットのモニターに中年男の顔が映った。一方的にこちらに向け叫んでいる。ジュンペイはこう言った大人が嫌いだった。
 「俺は轟ジュンペイだ!!所属はねえ!」
 「何!民間人だと!!民間人がどうしてそんな機体に乗っている!!」
 「これは俺のじっちゃんが造ったキカイオーだ!!じっちゃんが造った無敵のロボットだ!!」
 「じっちゃん?・・・祖父の事か・・・」
 「それより、何で攻撃する。ここには避難してない人達がまだ多くいるんだぞ!!」
 リットーは答えなかった。変わりにバズーカの砲弾が飛んできた。だが、砲弾はキカイオーとはまるで別の方に着弾した。
 「今のは脅しだ。我々の目的は『究極の力』・・・つまりお前のロボットだ!!」
 「キカイオーだと!!」
 「お前がそのロボットを我々に渡せば、我々は無条件で引き揚げよう。だが、断れば直ちに攻撃を開始する!!」
 ジュンペイは決断に迫られた。キカイオーに乗ってまだ数時間も経っていないのに、こんな大きな事に巻き込まれるとは思わなかった。
 「どうする!!返答無き場合は我々は貴様を総力を持って攻撃する!抵抗は無駄だ!いくら貴様のロボットが強かろうが操縦している貴様は素人だ。プロの我々にかなうと思っているのか!」
 「一つ聞いて良いか?」
 「何だ?」
 「キカイオーを手に入れて、どうするつもりなんだ?アンタ達は。」
 その問いに、リットーはさも当然と答えた。
 「簡単だ、我がVR社の本社に送り徹底的に調査解明する。そして量産が可能であればそれを我がVRAに組み込む。」
 リットーの答えにジュンペイは微かに拳を振るわせた。
 「宇宙最強の勢力のソラリスやゴルディバスが必死になって狙っている程のモノだ。我がVR社が手に入れれば、地球圏を制圧する事も造作も無い!」
 キカイオーの中でジュンペイは身体を震わせていた。よく見れば歯を食いしばっている。
 「そんな事の為に・・・戦争の道具にする為に・・・キカイオーが欲しいってのか・・・・」
 
『ふざけるんじゃねえええ!!!』
 ジュンペイは絶叫した。その声に反応してかキカイオーまで拳を握り締めて怒りに身体を震わせていた。リットー達にはまるでキカイオーが意思を持っているかのように見えた。
 「キカイオーはじっちゃんが俺を思って造った、愛の証だ!それを戦争の道具に使われてたまるか!!」
 「我々と戦うというのか・・・いいだろう!敵は一機だ、包囲して殲滅しろ!!動力部さえ無事ならそれで構わん!」
 「やかましい!!キカイオーは無敵だ!!」
 キカイオーの周りを七機のライデンが一定の距離を保ちつつ包囲し始めた、全機が武器を構えている、包囲が完成次第、攻撃を仕掛ける気らしい。
 「全機撃て!!」
 ライデンの砲弾がキカイオーに次々と浴びせられる。爆音と煙がキカイオーを包み込む。
 「撃ち方、止め!残骸を確認する。」
 リットーは全機に命じた。一体のライデンが爆炎の為に発生した煙の中に入っていった。その中には粉々に破壊されたキカイオーがあるはずだった。
 「楽な仕事だったな・・・・」
 リットーは懐からタバコを取り出すと一本口に咥えた。後はTDFのPT部隊が到着する前にここから離脱すればいいだけだった。
 「しっかし・・・TDFの指揮官、イイ女だったな・・・サルペンに見習わせてやりたかったぜ・・・」
 そんな事を考えていたが、煙の中から一向に部下のライデンが姿を見せない。火力が強すぎた為に手間取っているのだろうか?するとようやく部下のライデンが姿を見せた。
 「遅いぞ!!」
 部下のライデンに向け叱責するリットー。だが・・・
 「大尉、様子が変です!」
 赤いライデンのサルペンが叫んだ。煙の中から現れたライデンは両足が地に付いていなかった。
 「何!!」
 部下のライデンはそのまま糸の切れたマリオネットのように力無く地面に倒れ伏した。よく見ればライデンの後頭部には何かにかなり強く掴まれた跡がはっきりと付いていた。
 「軍曹!!」
 倒れたライデンに叫ぶリット−。
 「一体何が・・・」
 煙の中からライデンを倒したモノが姿を現した。それは紛れも無くキカイオーだった。
 「そんなバカな・・・あの攻撃くらって無傷なんて・・・」
 その通り、キカイオーは無傷だった。装甲に傷一つ付いていなかった。
 するといきなりキカイオーの腹部が開いた。その奥から何かがのぞいている。リットーは気が付き叫んだ。
 「避けろぉぉ!!」
 遅かった。キカイオーの腹部から発射されたのはミサイル・・・キカイオーボンバーだった。とっさの出来事に対処できなかった一機が犠牲となった。直撃を浴び頭部が吹き飛びその場に突っ伏した。
 「化け物か・・・・」
 残った五機のライデンは急いで距離を取る。もう一度攻撃を浴びせるつもりらしい、だがジュンペイもバカではない、距離を取られまいと足の裏のキャタピラと背部のロケットを使い疾走する。
 「キカイオーハリケーン!!」
 キカイオーの顔から物凄い勢いの風が噴出した。竜巻のように渦を巻いて、一機のライデンに襲いかかった。総重量32.5tのライデンが紙のように宙に浮き、まるで洗濯機の中に放り込まれたように機体がグルグルと回転し始めた。このライデンのパイロットは生きた心地がしなかったに違いない。このような事態など通常起こり得ないのだから。
 やがて轟音を上げライデンは地面へ叩きつけられた。それほど高くは持ちあがってはいなかったが、回転を加えられていた為に相当な威力になっていた。着地の衝撃に機体が耐えられず、頑強な筈のライデンはまるで地面に落としたプラモデルのようにバラバラになってしまった。ライデンを設計したVR社の技術者もまさか竜巻に吸い込まれるなどという事態は想定していなかったに違いない。
 「なんて奴だ・・・」
 リットーの顔に冷たいモノが流れる。
 「レーザーを浴びせろ!!いくら装甲が厚くても地球の機械であることには変わりない!!恐れるな!!」
 そう部下に言い聞かせたものの、実は自分が一番恐れていた。長い間傭兵をやってきていたが、こんな相手と戦うとは思っても見なかった。恐怖と相手からの威圧感で手に汗が滲んでいた。
 「いいか!対VRモード解除!一般攻撃モードに切り替えろ!並の攻撃が通用する相手と思うな!」
 「(考えが遅いのよ・・・・)」
 リットーの指示に無言でぼやくサルペン。だが、指示に反し彼女はモードを切り替えなかった。なぜならVRにとって『一般攻撃モード』とは、対VRモードとは異なり、機体の全出力を回してレーザー照射を行う。強力な攻撃が可能な分、電力消費も膨大でライデン単体では一度に一回しか射撃できない。失敗の許されないリスクの大きい攻撃手段だった。
 「それが効かなかった場合、どうするのよ・・・・この状況考えれば、私達の方が不利じゃない。」
 彼女の読みは当たった。焦ったパイロットの一人がキカイオーにレーザーを放った。通常の四倍以上の破壊力を持ったレーザーがキカイオーに直撃する。だが、渾身の攻撃はこの鋼鉄巨神には無意味だった。
 「ば、バカな・・・・そんな事が・・・・」
 レーザーを放ったパイロットが涙目で今にも泣き出しそうな声を挙げた。キカイオーは無傷だった。ライデンの最強攻撃も露と消えた。
 「あ、アイツには・・・何やっても無意味だ・・・勝てない・・・勝てっこない・・・・」
 パイロット達は顔面蒼白になった。もはや操縦桿を握る気力も失せていた。指揮官であるリットーとサルペンを除いて・・・
 「ここまで力の差があるとはな・・・・」
 「偉いさんが手に入れたくなる理由・・・解かりますね。」
 次の手を考えていたリットー達に向け、キカイオーが片手を上げた。右腕の拳がまっすぐライデン達に向けられている。
 「!?」


 次の瞬間、右腕がロケットの様に飛び出した。ロケットブローだ。拳は近くにいたライデンに襲いかかった、何とか避けたものの完全には避けそこない、そのライデンは両足を持って行かれ行動不能になった。
 「残り三機・・・・このペースなら向こうが有利・・・」
 圧倒的力を持ったキカイオーを前にサルペンは撤退を考えていた。その時、隣の青ライデンが武装のガトリングガンをキカイオーの背後に向けた。その先には市街地がある。
 「大尉!それは!?」
 サルペンの言葉を無視し、リットーの青ライデンは銃口の先を変えない。それはキカイオーに対する無言の警告だった・・・・。キカイオーを渡さなければ、避難の完了していない民間人を市街地ごと破壊すると言う意味を持っていた。身長17・9mのライデンが持つガトリングガンの口径は小型戦車の主砲に匹敵する、それを連射されては市街地は壊滅する。
 「大尉!いくらなんでも民間人を逆手に取るなんて!!」
 「我々の任務はあのロボットを、『究極の力』を手に入れることだ!!その為にはいかなる犠牲を払っても構わん!!これは命令だ!サルペン准尉。」
 上官の命令は軍人にとって絶対である。だが、サルペンは納得がいかなかった、任務を果たす為とはいえこんな人道外れる行為はサルペンは兵士である前に人間として許せなかった。
 「止めてください!!この場は撤退すべきです!!全滅の危険を犯してまで戦う必要は無いです!!」
 「甘いな・・・お前が典型的エリートお嬢様って言われるのが解かる。」
 リットーは取り合わなかった。依然銃を市街地へ向けたままだ。
 「・・・・・」
 サルペンは無言で自分のライデンの武装である二股の銃・・・フラットランチャーを青ライデンに向けた。
 「何のつもりだ准尉・・・」
 「このまま民間人を巻き込む戦いを続けるならば・・・・」
 サルペンは一瞬沈黙した後に口を開いた。
 「貴方を撃ちます!!」
 それは不可能では無かった。青ライデンは通常のライデンに比べて出力強化の為、機体のバランスを保つ為に装甲が通常のままである。カスタマイズされたサルペン機に比べて、パワーは上回るものの防御に関しては並だ。しかもサルペン機が装備しているのは初速の遅い実弾式バズーカでは無く、光学兵器のダブルビームガンであるフラットランチャーだ、この至近距離で青ライデンを撃ちぬくのはたやすい。
 「准尉・・・本気か?」
 「本気です。」
 青と赤・・・・二機のライデンがにらみ合っていた。唯一残された黒と灰色に塗装されたライデンのパイロットは、それを黙って見ていた。どうやら口を挟むつもりは無いらしい。
 
 「奴等、仲間割れをしているのか?」
 キカイオーのコクピットでジュンペイは呟いた。絶好の攻撃のチャンスだが動くわけにはいかなかった。依然青ライデンの銃口は市街地を向いており、黒と灰色のライデンがじっと自分を捕捉したままであったからだ。
 「ちくしょう・・・こんな所でグズグズしてる暇はないってのによお!!」
 ジュンペイがイライラしながら歯を食いしばっていたその時、市街地の方から妙な音が聞こえてきた。ロボットの足音でも戦車のキャタピラ音でもない。
 「何だ?んん、レーダーに反応・・・ヘリコプター?」
 ジュンペイが後部を映し出すモニターを見ると、四機の大型の輸送ヘリが近づいてきた。
 「あれは・・・・」
 輸送ヘリはキカイオーから少し離れた地点で空中に静止した。そしてそのヘリの機体の中央から、ワイヤーに吊られた人型のロボットが姿を見せた。
 「あのロボットは・・・・・」
 同じように残りのヘリからもロボットが姿を見せた。ただ、最後のヘリから現れたのは巨大なドリル戦車ではあったが。
 ヘリから下ろされたロボットは青と白を基調に塗装されたロボットだった。かなり無骨な姿で歩行速度もかなり遅かった。しかも一機は腕の関節がかなり簡略化されていた。しかも身体のあちこちに『安全第一』と描かれており、誰が見ても戦闘には不向きそうなロボット達だった。
 「何だ奴等は?TDFの援軍には見えないが・・・・・」
 リットーが謎のロボット達に気を取られた一瞬、事は起きた。
──チュドン!!小さな爆発音を立てて、青ライデンの胸部から火柱が立った。
 「た、大尉!?」
 サルペンにも黒ライデンにも恐らくジュンペイにも何が起こったのか理解できなかった。青ライデンは胸部から煙を吹きながら力無く倒れた。コクピットに直撃だった。おそらく当の本人であるリットーにも何が起きたのか解からぬままであったに違いない。
 「何が一体・・・?」
 サルペンが周りを見渡す、一瞬キカイオーが攻撃したのかと思ったが、キカイオーも首をあちこちに見まわしていた。少なくとも攻撃したのはキカイオーでは無かった。
 「あれは!!」
 サルペンはようやく理解できた。謎のロボット達の先頭にグルンガスト弐式とR−ガーダーを銃座代わりにして、長距離用の大型ライフルを構えたヒュッケバインがいた。
 「奴が・・・・この距離を撃ったの・・・?!」
 サルペンは驚愕した。TDFにこれだけの射撃が出来るパイロットがいるとは思ってもいなかったのだ。リットーの青ライデンとヒュッケバインとの距離はざっと2.5kmは離れていた。人間の身長に計算しなおしても250mである。この距離をあのヒュッケバインはコクピットを狙って撃ったのだ。
 「恐るべきパイロットね・・・」

 ヒュッケバインが持っていたのはR−1用のブーステッドライフルだった。チャクラムシューターの修理が間に合わなかった為に、本部に残っていたR−1の予備ライフルをその代替武装として持ってきていたのだった。ただしR−1用に調整されたライフルであったので、ヒュッケバインでは反動が強すぎて撃つことが出来なかった。そこで銃身を固定するためにグルンガストを銃座代わりに、反動に耐えるためにR−ガーダーをストックと台座にしてライフルを放ったのである。
 半ばGEOのロボットを囮に使うようなことになってしまったが、彼等にはその事を含めての報酬を支払うつもりだった。
 「何とか・・・間に合ったようね・・・・」
 青ライデンを狙撃したヴィレッタは久々に自分が大汗をかいているのに気がつき苦笑した。倒れた青ライデンに銃をつきつけていた赤ライデンは銃を下げ、じっとこっちを見ている。近くにいた黒と灰色のライデンも同様だ。キカイオーの方は無防備にライデンに背を向けてこちらに歩いてきた。だが、ヴィレッタにはキカイオーの行動は無用心とは思わなかった。なぜなら赤ライデンと黒ライデンにはもう攻撃を仕掛ける様子は見られなかった。第一、僅か二機のライデンではキカイオーを倒す事はもう不可能だと言う事が解かっていたからだ。
 「アンタ達、TDFか?」
 キカイオーがヴィレッタに話し掛けてきた。ヴィレッタはヒュッケバインの首を頷かせた。
 「丁度良かった!じっちゃんを助けてくれ!!あのVRなんとかが邪魔しやがってさあ・・」
 キカイオーが後方のライデンを指差した。その問いにヴィレッタはまた頷いた。ヴィレッタは無線で後方のGEOに被災者の救助を第一に、と告げた。
  「そうだ!さっき助けてくれたのはアンタ達だな。礼を言うぜ!俺は轟ジュンペイ!アンタは?」
 「私はTDF極東本部PT部隊隊長、ヴィレッタ=バディム大尉・・・キミは轟君と言ったな?」
 ヴィレッタの問いにジュンペイはオウ!と答えた。
 「キミはもしや・・・あの轟博士のご子息か?」
 「父さんを知っているのか!!」
 ヴィレッタはあまりの声の大きさに一瞬驚いたがすぐに元に戻った。
 「ロボット工学をかじった事のある人間で知らない者はいない・・・そうか、そのロボットは轟博士の造られた物か・・・」
 ヴィレッタは改めてキカイオーを見つめた。PTでもVRでもギアでもない・・・重厚さと力強さを兼ね備え、正しき者には正義と希望を、悪しき者には絶望と破滅を呼ぶ、一つ限りの芸術品。
 「スーパーロボットとはこれのようなモノを言うのだろうな・・・・」
 ヴィレッタはキカイオー見て、つい口に出てしまったが気にはしなかった。敵に回せばライデン達のように恐ろしい目に会う恐怖の対象だが、味方につければコレほど頼りになるロボットはそういない。ヴィレッタはそう思った。そんな時、ヴィレッタに通信が入った。相手は赤ライデンだった。
 赤ライデンはこちらに近づいてきた、そしてヒュッケバインの前まで来ると持っていたフラットランチャーをヒュッケバインへと投げ捨て、上体を反らして自分の頭上に肩からレーザーを放った。一度放ったレーザーの再チャージには時間が掛かる。降伏の証だった。

 「私はVRA所属第06VR連隊、特殊重戦隊SHBVD、ミミー=サルペン准尉です。」
 赤ライデンから降りてきた赤いパイロットスーツを着た金髪の女性はヴィレッタの前で敬礼した。
 「TDF極東本部、PT部隊隊長、ヴィレッタ=バディム大尉だ。」
 同じようにヒュッケバインから降りてきたヴィレッタも敬礼する、最低限の礼儀だ。
 「残念だが、我がSHBVDはここに降伏を宣言する。だが、部下の安全は保証してもらいたい。」
 ヴィレッタは頷いた。
 「それは、保証する。」
 ヴィレッタの言葉にサルペンは満足そうに微笑んだ。
 「ヴィレッタ大尉、聞いてよろしいか?」
 「何です?」
 「貴方達が狙撃する直前に現れたロボット達は何者です?TDFには見えなかったが。」
 その問いにヴィレッタは少し苦笑して答えた。
 「あれは、我々が緊急で雇ったGEO・・・民間救助組織です。」
 「民間救助組織!?」
 サルペンは面食らった。
 「恥ずかしいのですが、我々は先刻ソラリスの奇襲攻撃を受け、人命救助に裂く人員まで欠如していたありさまでして・・・やむをえず民間に救助を委託したのです。結果的に彼等を囮に使うような真似をしてしまいましたが・・・」
 「道理で・・・戦闘用には見えない機体でしたから・・・・」
 サルペンは納得した。だが、いくら危険がつきものの救助組織でも、民間人を囮に使うような事をしたヴィレッタにはサルペンは声には出さなかったものの、どうしても許せなかった。
 「(これじゃ、リットー大尉がやっていた事と同じじゃない!!何て女なの!!)」
 だが、降伏した身では声に出すわけにはいかなかった。拳が微かに震えていた。
 だが、彼女はヴィレッタが通称『氷河の女』とか『スレイヤー(皆殺し)のヴィレッタ』と呼ばれている事を知らない。目的のためなら手段は選ばないヴィレッタの行動は優等生的なサルペンとは対照的な存在だった。
 「今度はこちらが質問してもよろしいか?」
 「どうぞ・・・」
 ヴィレッタはサルペンの口調に怒りが混じっていたのを感じていたが、構わず質問した。
 「何故、揚陸艇に逃げなかった?そうすれば降伏などせずに済んだものを。」
 すると、サルペンは苦笑し首を横に振った。
 「リットー大尉が戦死した時点で逃げ出してるわよ、連中は・・・上の命令でね。私達、傭兵なんて会社にしてみれば、ただの消耗品だもの。任務が失敗した以上、揚陸艇まで失いたくないんでしょう。それにリットー大尉が戦死する直前まであの黒いロボットのデータが収集出来たんだからライデン七機潰したくらいどうとも思っていないわよ・・・」
 そう悲しげに言うとサルペンはキカイオーを見上げた。すると、キカイオーからジュンペイが降りてきた。
 「貴方がこのロボットのパイロットね・・・」
 ジュンペイは頷いた。サルペンはジュンペイに向けてにっこりと微笑んだ。ジュンペイは一瞬、心臓が高鳴り、顔を赤くした。それを見てまた微笑むサルペン。そしてジュンペイに向けて口を開いた。
 「ほんと・・・キカイオーは無敵ね・・・・」



次回予告



 ついに我等(?)のキカイオーが目覚めた!この鋼鉄巨神の躍動が全世界に波乱を呼び込む!!
 出番が少なくてもひがむな主人公!ねーちゃんは今回出番が無かったぞ!!(笑)
 次回はついにサイバーロボット大戦、第二のスーパーロボットの登場だ!!モニターの前のチビッ子も大きなお友達も部屋を明るくして見よう!!次の敵は『宇宙悪魔帝国』だ!!強いぞ、恐いぞ!!
 でも、大丈夫!!今度のロボットもとっても強い正義の味方だ!!
 次回、サイバーロボット大戦第5話。 『無敵!!ゲッP−X、発進!!』 お楽しみに!!
 次回も、むっちゃ、すげえぜ!!  「え?ゲッPーXなんてゲーム知らない?中古屋さんで探してみよう」


  

戻る