第三話 「登場!史上最強のロボット!!その名はキカイオー!!」
VR社・・・・連邦政府時代は、地球とコロニー等の宇宙間での通信ネットワークを一手に引きうける通信を主とする総合企業だった・・・・。
だが、VR社は月面で『遺跡』を発見した・・・・。『遺跡』には現在のテクノロジーでは考えられない技術、オーバーテクノロジーがあった。この超技術が先史文明の残した『遺産』なのか、外宇宙から飛来した『贈り物』なのかは解からない・・・・。だが、VR社・・・いや人類にはそれは最たる問題では無かった。どんなものであれ、それが使えればよいのだから。
そして遺跡から発見された謎の情報サーキット『V=クリスタル』。そしてVクリスタルから得られた技術を利用して作られた装置、『V=コンバーター』を主動力としてVR社は人型の機動兵器を完成させた。それが『バーチャロイド』だった。
VR社は連邦崩壊の混乱を利用し、月の遺跡ならびに得られたオーバーテクノロジーを独占した。そして彼等はそれらを利用し私設軍隊を設立し月と周辺コロニー、そして旧オーストラリアを制圧し、企業国家としての立場を固めた。もちろん月を始めとする宇宙居住者の住む宇宙にもTDFの部隊は配備されていた、だが、旧式と化したPTでは、最新鋭の技術と未知のテクノロジーが融合したVRには太刀打ち出来なかったのだ。
そのVRの中でも最強クラスの戦力を持つ重量級VR『ライデン』。それが今、TDF極東本部に上陸しようとしていた。
「ライデン七機・・・・半端な戦力では無い・・・・。」
司令室のモニターで湾岸に停泊した揚陸艇から黒いVRがゆっくりとこの本部に向かって歩いているのをヴィレッタは冷たい顔で見ていた。
「奇襲を仕掛けてこないところを見ると、交渉の余地はありそうね・・・」
ヴィレッタの考えを読んだように香田奈が呟く。その言葉にヴィレッタは無言で頷く。
「大方、降伏勧告でもしようって腹じゃないか?」
リュウセイが悔しそうにモニターのライデンを見て呟く。彼の意見は正しかった、現在本部施設は半数近くが破壊されており、防衛兵器であるハズのPTも僅か三機が現存しているだけで、しかも二機は損傷していて、ヴィレッタの腕でも、七機のライデンと渡り合えるかどうか解からない。
「とりあえず、出るぞ。何もしないわけにはいかない。」
ヴィレッタはそれだけ言うと近くの受話器を取った。
「私だ。・・・・そうか、何とか動けるか。弾薬庫も無事だったか・・・、それと・・・」
ヴィレッタは受話器を置くと、将輝達に声をかけた。
「行くぞ。今は相手の出方を見よう・・・」
将輝達はヴィレッタに連れられ、R−ガーダーが格納してある予備の格納庫のハンガーにやってきた。格納庫では無事だった整備兵達が、三機のPTに群がり必死で整備していた。
「首尾は?」
ヴィレッタは油汚れた作業服を着た整備兵に話し掛けた。
「R−ガーダーは問題無いです。すぐにでも出られます、ただ・・時間が無かったので後部座席はデータ収集用の非常用のままです。」
「パイロットスーツがいるな・・・」
ヴィレッタは匕首姉弟の事を考えてそう思った。このままでは彼等は私服のままで戦闘に出なければならないからだ。
「ヒュッケバインとグルンガストは応急処置が完全じゃありません。被弾した装甲もアップリケアーマーで誤魔化しているだけです。幸い・・・予備が残っていましたのでグルンガストの右腕は新品を取り付けておきました。弾薬の方は補充できましたけど、チャクラムシューターの修理は無理でした・・・」
整備員はすまなさそうにヴィレッタに謝った。そこに将輝と香田奈がやってきた。
「こっちへ・・・」
ヴィレッタはハンガーの隅にあるパイロット用の更衣室に二人をつれ込んだ。そこで、ヴィレッタはそこに置いてあった数あるロッカーの一つから二つのヘルメットと男女それぞれ一組のPTパイロット用のスーツを取り出し、それぞれを将輝と香田奈に手渡した。
「とりあえず今回はそれを着て機体に搭乗して。その格好では弟君はなんとかなっても、香田奈さんのほうがね・・・」
それを見て思わずリュウセイは微笑した。普段氷のようなヴィレッタが他人の心配をする事が珍しかったからだ。
「香田奈さんの方は私のスペアだけど、とりあえず我慢して。」
「はい。サイズ合うかな?」
手渡された黒と赤のパイロットスーツを広げながら香田奈はヴィレッタの身体を上から下まで簡単に見渡した。
「?」
ヴィレッタが不思議に思っていると香田奈はニッコリと微笑んだ。
「失礼。大丈夫みたい、身長同じくらいですから。それと3サイズも。」
それを聞いてヴィレッタも軽く微笑んだ。リュウセイは何がサッパリ?という顔をしていた。
「弟君は?」
将輝は同じようにスーツを広げてサイズを確認していた。ヴィレッタのスーツと同じような黒と赤のデザインだった。
「これを着ていた人は背が高いんですね。下半身が合うかな?」
広げたスーツを見て、リュウセイはギョッ!とした。そのスーツの肩のマークに見覚えがあったからだ。リュウセイはヴィレッタに耳打ちした。
「(いいんですか?あれは少佐の・・・・)」
だが、ヴィレッタは何も言わなかった。将輝に手渡されたパイロットスーツ、その肩には『SRXー0・R=GUN』と書かれており、その下には『INGRAM=P』と書かれていた。勿論、将輝はこのスーツの持ち主の事など知る由もなかった。
「すぐに着替えてくれ、出撃を急ぐのでな。」
そう言って、ヴィレッタとリュウセイは更衣室から出ていった。残された将輝は急いで衣服を脱ぎ出した・・・だが!!
「ちょっと、しょうちゃん。やっぱり下着も脱ぐのかな?」
───ブッ!!!将輝が見たのは下着だけの姉の姿だった。思わず後ろを向く。
「どうしたの?」
顔を真っ赤にして後ろを向いている弟に近づく香田奈。
「ね!ね〜ちゃん!!何考えてんだ!!!」
相変わらず後ろを向いたままの将輝が叫ぶ。その言葉を不思議に思う香田奈。
「何って、やっぱり全部脱いだ上に着るのかな?って・・・」
「そうだろうけど・・・」
そこでブンブンと首を横に振る将輝。
「そうじゃねえ!!俺も男なんだからあ・・・・・」
叫びながら振りかえる将輝。すると・・・・・
「・・・・・・・・・」
───ボッ!! 将輝は見てしまった。十数年ぶりに・・・・・
(そういや・・・あの時は小学生だったからな・・・)
そう!将輝は見てしまった。全裸の姉の姿を・・・。
「??・・・・照れてるの?しょうちゃん。」
将輝は答えなかった。図星である。すぐに後ろを向き、いそいそと自分の着衣を脱ぎ始める。そんな弟を見て姉の一言。
「か〜わいい!!」
思わず後ろから抱きつく香田奈。
「わ〜!!裸で抱きつくな〜!!!」
暴れる将輝を後ろからしっかりと抱きしめている香田奈。彼女にしてみればウブな弟を少しからかっているだけなのだが・・・それが通用しない人もいた。それは・・・
───バタン!!いきなり更衣室の戸が空けられた。
「遅いぞ!!何をしている!!・・・・・・てっ・・・・・」
ヴィレッタの目に映ったのは、全裸の姉と弟が抱き合っているシーンであった・・・・・。さすがのヴィレッタも一瞬凍りつく・・・・・そして。
「急げよ・・・・・」
その一言を残してヴィレッタは前よりさらにさらに冷たい顔をして出ていった。
「わ〜!!違うんだあ〜!!」
叫ぶ将輝。数刻の後、パイロットスーツに着替え、肩をがっくりと落とした将輝とヴィレッタから借りたスーツを隙も無く着込んだ香田奈を乗せたR−ガーダーが格納庫から発進した。
TDFの広大な敷地の中で一番広い滑走路に七体のバーチャロイド・ライデンがゆっくりとゆっくりと歩いていた。重量級ゆえ足が遅いのは当たり前だったが、通常ライデンは足裏からのホバーで移動するのだが、七機のライデンは二本の足で歩いていた。まるでワザと、ゆっくりしているかのように見えた。
彼等は待っていた、TDFを・・・。
「大尉、出てきましたよ。」
無線機から若い男の声がした。大尉と呼ばれた中年の男は正面のモニターを見た、そこには紺色の精悍な顔をしたロボット、青と黄色の塗装の勇ましい姿をしたロボット、最後に自分の乗機の二倍近い身長と体躯をした銀色と青に塗装されたロボットが出てきた。
「アイツか・・・・『究極の力』って奴は・・・・」
大尉はR−ガーダーを見て呟いた。だが、大尉はR−ガーダーを見て少し落胆した。
「本当にそうなのか?・・・・ただデカイだけって気がするが・・・まあいい。回線開け!!」
大尉は叫んだ。
極東本部の滑走路で三機のPTと七機のVRは一定の距離を保ったまま、相対時していた。それは古来の武将同士のいくさの前の雰囲気に似ていた。鎧兜ではなく鋼鉄の巨人に身を包んで。
「んん?」
将輝が呟く。それは一機のライデンが一歩前に出たからだ。他のライデンと違い黒ではなく鮮やかな青で塗装されていた。武装も違う、他の機体は大ぶりなバズーカ砲を装備しているのに対し、この青ライデンは重そうな回転式重機関砲・・・・ガトリングガンを装備していた。
「あれが指揮官機か・・・・」
将輝が呟くと後ろの香田奈が話し掛けた。
「メタリックブルーの綺麗な色・・・・黒のふちどりが凄く似合ってる。あの指揮官センスいいわあ・・・でも後ろにいる赤いのもいいわね・・・頭の型が少し他のと違うから、エースよ多分・・・通常の3倍速いのよ。絶対!!」
「ねえちゃん、何言ってんだ?」
そんな匕首姉弟のやり取りを知ってか知らずか、ヴィレッタのヒュッケバインも一歩前に出る。相対するヒュッケバインと青ライデン。しばらく沈黙が続き、先に行動を起こしたのは青ライデンだった。ヴィレッタのコクピットに回線がつながったのだ。相手は勿論青ライデンの大尉だ。
「我々はVRA所属第06VR連隊、特殊重戦隊、通称SHBVD隊長、リットー大尉だ。」
ヒュッケバインのコクピットに豪快な声の中年男性の姿が映し出されていた。ヴィレッタも返信する。
「こちらはTDF極東本部PT部隊隊長、ヴィレッタ大尉。」
ヴィレッタは短くそれだけを言った。するとリットー大尉はヒューと口笛を鳴らした。
「大尉同士とは奇遇だな。しかもこんな美人さんとはなあ。おたくの隊がうらやましいぜ。」
ヴィレッタは表情を変えなかった。いつものポーカーフェイスで口を開いた。
「用件は?私を口説く為にバーチャロイドに乗ってきたのではないのだろう?」
「おっと・・・そうだったな。アンタが美人過ぎて忘れちまうトコだったぜ。単刀直入に言うぜ。『究極の力』を渡してもらおうか?」
「『究極の力』だと・・・」
ヴィレッタは表情を変えなかったが、内心で迷っていた。そんなものは最初からTDFには無い。
「(香田奈がT−LINKで傍受したソラリスのギアのパイロットもそんな事を・・・)」
だが、リットー大尉はヴィレッタが考える時間を与えなかった。
「どうする?その新型がそうなんだろう?ソイツが先刻ソラリスの連中と交戦した事は知ってるんだ。」
「・・・・・」
ヴィレッタは黙ったままだった。
「宇宙最強勢力のソラリス連中が奇襲を仕掛ける程だ。間違い無い。それにここで我々と一戦交えるか?たった三機で。」
「三機では無い。まもなく我々に増援が来る。」
ヴィレッタの言葉はあながち嘘ではない。確かに増援として北京からRマシンの量産機であるアルブレードが十機送られてくるハズなのだ・・・・来週の話だが。
「増援ってのはコイツの事かい?おい!」
青ライデンの後ろから一機のライデンが何かを持っていた。
「あれは!!」
ライデンが持っていたのは紛れも無くアルブレードの頭だった。
「アルブレードが・・・・」
リュウセイは拳がわずかながらに震えていた。アルブレードはリュウセイの愛機『R−1』に酷似していた、リュウセイにはまるでR−1が破壊されたかのように感じていた。
「ここにくる途中で運んでるのを見つけたのさ。目的のモノと思ってな。」
「・・・・・」
後が無くなった。ここは戦うしかない、とヴィレッタは覚悟を決めた。
「どうやら、交渉決裂のようだな・・・行くぞ!!」
青ライデンを中心に七機のライデンが突っ込んできた。すかさずライフルを連射するヴィレッタ。だが、フォトンライフルを食らってもライデンは致命傷受けない。装甲が硬すぎるのだ。
「くそっ!!硬い!!」
ヴィレッタは毒づく。そこに距離を詰めてきた青ライデンがタックルを浴びせる。衝撃がヴィレッタを襲う、背中のスラスターの一部が作動しない。機動力がガクンと落ちる。
二機のライデンがそれぞれ左右に蛇行しながら突進してきた。バズーカの雨がグルンガストを襲う。決定的な遠距離武器を持たないグルンガストでは思うような反撃が出来ない。完全に敵の間合いだった。
「くそう・・・装甲が・・・」
応急処置した装甲がことごとく剥がれていく。青の表皮がみるみる剥がれ、内部メカが内臓のように露出する。
「究極の力ってのはなんなんだ!!」
「アタシが知るか!!上の命令なんだ!!アンタのデカイのじゃないのかい!!」
「ソラリスの連中は違うって言ってたぜ!!」
「そんなの信じられるか!!」
将輝が言い争っていたのは赤いライデンの女性パイロットとだった。飛び道具では不利、と姉に悟られ三機のライデン相手に大立ちまわりであった。
右腕で一機掴んで、左足で一機踏んづけていた。ライデンが遠距離戦用のVRであることはコンピューターに登録されていたので迷わず接近戦を挑んでいた。
「しょうちゃん。あとニ発くらいしか装甲が持たないわよ!」
R−ガーダーは防御力とパワーが取り柄の機体、だからといって不死身ではない。ただでさえ、動きが鈍いうえに動作が基本動作しか入力されていない。それにパイロットは素人である。ライデン最強の武器のレーザー砲を何発も食らっている。ライデンのパイロットはレーザーを食らっても致命傷を受けないR−ガーダーに最初は驚き、戦意を喪失していた。掴まれた機体と踏まれた機体がそれである。だが、赤いライデンだけは違っていた。
「ワタシは新兵とは違う!!」
赤いライデンの女性パイロットはエースだった。接触回線でお互いの会話は出来ていた。片腕片足が使えない今、彼女を倒す事は至難かと思われた。その時・・・・・・
「何だ・・・・このエネルギー反応は・・・・・」
将輝は驚いた。いきなりR−ガーダーの計器が何かに反応した。凄まじいエネルギー反応がR−ガーダーだけでなく、ヴィレッタやリュウセイにもライデン達にも察知していた。
「何なんだ・・・これは・・・」
全員の計器に考えられないくらいの反応していた。
「何処から出ている・・・何処から・・・?上・・・?」
全員が頭上を見上げた。そこには紫と赤い流星がまっすぐエネルギー反応のする方向へと飛んで行った。
エネルギー反応はTDF本部ではなく、見当違いと思われる市街地へと向かって放たれていた。
リットー大尉は瞬時に判断した。それはヴィレッタも同じだった。
『あのエネルギー反応へ向かえ!!そこに究極の力が!!』
ヴィレッタとリットーは同時に叫んだ。その言葉に全員が迷い無く従った。逆らう理由はどこにも無かったからだ。
「行くぞ!!」
三機のPTと七機のVRは一斉に市街地へ走った。
紫と赤い彗星が向かった市街地。そこで流星は姿をあらわした。紫色はその姿を異形の怪物へと変えた、紫色の細長い風鈴・・・クラゲのような触手を傘の足元から無数に伸ばしていた。
赤い彗星の正体はロボットだった。巨大な肩当を付け、頭部には金色のクワガタをつけ、真っ赤な鎧武者のような姿を現していた。赤い武者ロボットは出刃包丁と思える程巨大な刃渡りの剣を振りまわしていた。
それを白髪の老人が深刻そうな顔で見上げていた。
「クッ・・・ゴホッ!」
老人は激しく咳き込んだ・・・・膝を突いてしゃがみ込んだ。
「奴ら・・・キカイオーを狙ってきおったか・・・」
「じっちゃん!!」
学生服を着た少年が老人に駆け寄った。
「ゴホ・・・ジュンペイ、キカイオーに乗れ・・・・」
「キカイオー?」
ジュンペイと呼ばれた少年は祖父に聞き返す。
「そうだ・・・ワシが、この地下で密かに作り上げた最強無敵のロボットだ・・・・」
「解かった!!俺、キカイオーに乗るよ!!」
ジュンペイは自宅へ走った。
「近いぞ!!」
ヴィレッタは機動性の落ちたヒュッケバインを懸命に操りながら走った。グルンガストもR−ガーダーもそれに続く。
「先を越されてたまるか!!アレと手にするのは我々だ!!」
リットーもライデンの中で叫ぶ。スピードの遅いライデンだが、全速力で走った。
その時、彼等は見た!!
「な、何だ・・・・アレ・・・」
「す、スゴイ、エネルギーだ・・・・」
「うおぉぉぉ!!カッコイイイ!!!!」
最後のはリュウセイ。
彼等は見たのだ。エネルギーの正体を!!究極の力を!!
地下から徐々に姿を現す巨体・・・・黒鉄の姿を・・・・
「いくぜ!!キカイオー!!」
キカイオーのコクピットでジュンペイは吠えた!!
ついに姿を現した、鋼鉄巨神!その名はキカイオー!!
次回予告
ついに鋼鉄巨神がその姿を現した!!超次元のパワーを全身にみなぎらせゴルディバスの野望を打ち砕け!!
そのキカイオーを狙うVR社のライデン部隊。ジュンペイは七機のライデンを相手にどう戦うのか?
将輝は、香田奈は、ジュンペイを仲間にする事が出来るのか?
そしてキカイオーを狙う刺客が日本を襲う!!
次回、サイバーロボット大戦。第四話『激突!!キカイオー対ライデン』をお楽しみに!!
次回も、やたらとすげえぜ!! 「キカイオーは無敵だぜ!!」