第2話   「SHBVDの女」


 (重装甲攻撃支援型VRライデン登場)



 基地は戦場と化していた。上空より舞い降りた七機のソラリスギアの突然の奇襲により、TDF極東本部は半数の施設が破壊され、連邦崩壊により激減し、ただでさえ数の少なくなっている配備されていたPTもすでに殆ど破壊され、残すは指揮官であるヴィレッタ大尉のヒュッケバインMK−U、リュウセイ少尉のスーパーロボット型PTグルンガスト弐式、最後はゲシュペンストMK−Uの僅か3機。しかもヴィレッタ大尉のヒュッケバインは最強武器であるチャクラムシューターの残弾がつき、グルンガストは右腕を失い、ゲシュペンストは全身に数多く被弾していた。無傷な機体など存在していなかった。対照的に敵のソラリスの白いギアは、僅か二機が破壊されたのみで、数的には5対3で、明らかに優勢だった。
 ゲシュペンストのパイロットはともかく、ヴィレッタやリュウセイは俗に言うエースパイロットと呼ばれる類に属する。ではここまで押されたのは敵の奇襲攻撃ということもあるが、最大の理由は機体の性能差だった。装甲の輝きや、装備している機関銃の集弾率から見て白いギアは新型らしかった。それに比べてこちらの主力はすでに旧式化しているゲシュペンストであった。ヴィレッタの腕ならば、多少の性能差は腕でカバーできるが、相手もどうやらかなりの手馴れだった。
 もちろん、単純にパイロットの能力から推測すればヴィレッタやリュウセイの方が上だ。しかし相手の腕も並のパイロットより上。となれば、勝負を決めるのは機体の性能と数。
 リュウセイは思った。これが試作型のグルンガストであれば・・・と。試作型と量産型、外観は全く同じでも、コストダウンと操縦性向上の為に試作機には搭載されていたT−LINKシステムそして念動フィールド。これらは量産型には無く、試作型では最強武器でもある計斗瞬獄剣も装備されてはいなかった。これと同じ事はヒュッケバインにも言え、試作機との総合的な戦力差はおよそ3倍から5倍と言われている。
 そんな絶望的な状況の中、それは突然起きた。敵が狙っていたモノが格納されている場所から銀色の姿を現した。それはゆっくりとだが、一歩一歩確実に大地を踏みしめていた。


 「R−ガーダーが動いている・・・・」
 その姿を見てヴィレッタの口から珍しく声が漏れる。普段冷静な彼女でも予想だにしていなかったに違いない。だが、彼女はすぐにいつもの冷静さを取り戻し、通信を開いた。
 「R−ガーダー!!誰が、乗っている!!それは調整がまだ十分じゃないのよ!!」
しかし、R−ガーダーからは何の反応も返ってこない。
 「通信機を切ってるのか?」
 何の反応も示さぬまま、R−ガーダーはゆっくりと前進を続けるだけだった。
 「通信チャンネル変更・・・・強制割り込み・・・・!!つながった!!」
 ヴィレッタは通信の周波を変え、R−ガーダーに何とか回線を繋いだ。
 「なっ!!」
 彼女は見た。R−ガーダーに乗っていたのはパイロット要員でもなければ、基地の関係者でもなかった。ヒュッケバインのコクピットのモニターに映し出されたのは、ジャージを着た少年と自分より少し年下のロングヘアーの女性だった。

 「何だ・・・こりゃあ!!」
 将輝はコクピットの中で声を挙げた。やっとのことで燃える格納庫の中から出られたと思ったら、外に出たら出たで、大変なことになっていた。ただの火災と思っていたら戦闘が行われていたのだから。
 「火災の原因は戦闘だったのか・・・」
 「あの機関銃と槍持った白いのが悪い奴みたいね?」
 「一方的に悪いって決め付けるのは良くないぜ。」
 だが、香田奈は首を横に振った。
 「決まってるわよ!なんかそう感じるの・・・・。それにあの白い奴のせいであたし達、死にそうになったのよ!」
 「
その通りだ!!
 いきなり二人のコクピットの中に女性の声が響いた。
 「なんだいきなり!!」
 「通信機・・・みたい・・・ホラ、右上のモニター。」
 言われた通りモニターを見るとそこにはショートカットの厳しい顔をした女性が映っていた。
 「貴方は?」
モニターに向かい話し掛ける将輝。
 「私はTDF極東本部、PT部隊隊長兼SRXチーム教官、『ヴィレッタ=バディム』大尉。キミ達は一体何者だ?何故、R−ガーダーに乗っている?」
 ヴィレッタの突然の質問にあたふたする将輝の代わりに香田奈が答えた。
 「私達はこの基地へ訓練校の試験を受けにきた高校生とその姉です。」
 「やはりそうか・・・ただの民間人か・・・」
 ヴィレッタは確信したように納得した。この時の将輝達は知らないが、ヴィレッタは戦闘中に新型機や試作機に偶然乗り込んでしまった民間人を数多く知っていた。その民間人の多くは数多くの訓練を行ってきた正規の軍人等より、高い戦果を残している。
 ヴィレッタは思った。彼等もそうなのか?と・・・。
 「敵の狙いは、そのR−ガーダーだ。悪いことは言わない、動かせるならすぐに非難しろ!!残念だが、今の我々には君達を援護できるだけの余裕は無い。」
 ヴィレッタの言う通りだった。
───ドカーン!!爆音を上げ、ついに最後のゲシュペンストが爆発した。残るはヒュッケバインとグルンガストのみとなった。
 「ちっ!オギノ曹長は?」
 ヴィレッタがゲシュペンストのパイロットの安否をリュウセイに尋ねる。だが、リュウセイは首を横に振った。どうやらコクピットに直撃だったらしい。
 「そう言う事だ!急いで逃げろ!!」
 だが、敵のギアは見逃さなかった。三機をヴィレッタとリュウセイに向けさせ、残りの二機をR−ガーダーへと向かわせた。被弾し弾薬のつきかけたヴィレッタ達の相手をするのは三機で十分と考えたのだろう。二機の白いギアがまっすぐR−ガーダーに向かってくる。
 「コッチヘ来た!!どうする・・・」
 将輝が僅かな時間迷ってる間に香田奈が叫んだ。
 「左のレバーのグリップのボタン押して!!」
 「え?」
 姉の言葉に一瞬迷う将輝。
 「いいから、早く!」
 言われた通り、ボタンを押す。すると、R−ガーダーの両足・・・人間で言うとすねの辺りから二つの青く輝く光の柱が現れた。両足合わせて四つの光は白いギアに吸い込まれた。
───チュドーン!!白いギアはたちまち爆発四散した。両足から放たれた光・・・高出力のビーム砲だった。
 「よしっ!!」
 「ね・ね〜ちゃん?」
 間髪入れず香田奈は弟に指示を出す。
 「くるわよ・・・・左のレバーで、武器選択・・・そうね、機銃で牽制。それから、モードを『格闘戦』へと切り替えて!武器は・・・腕の光線剣?え〜整備中!!こうなったら素手でやるしか!!」
 姉の指示に疑問を感じつつ、将輝は言われたまま武器のトリガーを引く。するとR−ガーダーの頭部、こめかみの辺りから機銃弾が発射された。いきなりの攻撃に一瞬、ギアがひるむ。その隙を将輝は見逃さなかった。だが・・・・
 「なんだぁ!!こいつ基本動作しか動作パターンに入ってねえ!!」
 機体の動作を格闘戦モードに切り替えたものの、R−ガーダーのコンピュータ−に入力された動作は基本的なものしか入力されていなかった。
 「こうなったら、どつくしかねえ!!」
 とりあえず将輝は限られた動作パターンの中で機体に身構えさせた。だが、相手の白いギアは既に体制を立て直しおり機関銃を捨てて、槍を構えていた。
 「思いきりのいいパイロットみたいね・・・。」
 「機関銃じゃコイツを倒せないって解かったんだろうぜ。」
 将輝達はR−ガーダーの頑強さを思い出していた。この機体の最大の武器はどうやら桁外れの防御力らしかったからだ。
 「でも・・・コイツの動きは限られてる。どうする・・・」
 だが、将輝は首を振った。
 「ええい!!考えたってしかたねえ!!無理矢理ぶん殴る!!」
 ドスドスと大きな足音を立てて将輝はR−ガーダーを白いギアに向けて突進させた。
 「くらえぇぇぇ!!」
 R−ガーダーの右腕が白いギアに向けて襲いかかった。強烈なストレートパンチが白いギアに突き刺さる。防御体制を取っていたギアは確かに防御していた。だが・・・・
───ドッカーン!!轟音を上げて吹き飛んだ。防御姿勢のおかげで致命傷ではないが、腕や胸の装甲がへしゃげていた。
 「なんちゅうパワーだ・・・・」
 殴った本人が一番驚いていた。まさかここまでの力があるとは思わなかったらしい。
 「こいつの取り柄は頑丈だけでなく、馬鹿力か・・・」
 パンチをくらった、ギアはふらふらと立ち上がったが、戦闘は誰が見ても無理そうだった。

 「ヴァンホーテン少尉!!」
 被弾したギアに向かって一体のギアがヴィレッタ達から離れ、将輝達が殴ったギアへ駆け寄った。
 「大丈夫ですか?少尉。」
 被弾したギアへ向かいもう一体が問い掛けた。すると弱弱しく声が返ってきた。どうやら無事らしい。
 「大丈夫・・・何とか・・ね。」
 被弾したギアのコクピットにいたヴァンホーテンと呼ばれた女性パイロットはそれだけ言うと気を失った。
 「少尉!!しっかり!!」」
 ヴィレッタに攻撃を仕掛けていたギアのパイロットは被弾した部下の様子をモニターで簡単に確認するとその奥に対峙しているR−ガーダーを見つめて呟いた・・・。
 「あれが・・・ニホンにしか存在しない『究極の力』なのか・・・?」
 そんな事を考えていると彼のコクピットに通信が入ってきた。
 「非常通信?こんな時になんだ?・・・・・。」
 彼はしばらく通信モニターを凝視した。すると・・・・。
 「あれは・・・あのデカブツは『究極の力』じゃ無いだと!!・・・チッ!」
 彼は通信を切り、残った部下に呼びかけた。
 「全機、撤退だ!!『究極の力』はTDFには無い!!繰り返す・・・」

 「あれ?あいつら帰っていくぞ。」
 退却していく白いギア達を見て将輝は少し拍子抜けした。あのまま攻め続ければ勝機はあったのにもかかわらずである。
 「どういう事なんだ・・・」
 「さあ?向こうにも理由があるみたい。それとこのロボットが『究極の力』じゃ無いって言ってたみたいだけど・・・」
 「なんだそりゃ?いつ聞いたんだねーちゃん。それと、手引書があるからってやたらコイツの操作に詳しかったけど、どうしてだい?」
 そこにボロボロのヒュッケバインに乗ったヴィレッタが話に割り込んだ。
 「それは私も聞きたい。とりあえずこっちの指示に従ってくれ。」

 戦闘終了後、結局TDF本部は、基地機能の半分以上が敵の奇襲により破壊された。規模が縮小されてたとはいえ、極東の守りを一任されている本部施設が僅か七機のギアによってここまでダメージを受けたのは前代未聞だった・・・。そして配備されているPTもヒュッケバイン、グルンガストを除き、全て破壊された。パイロット達も全員戦死し事実上、全滅寸前のありさまであった。
 匕首姉弟は、唯一無事だった予備の格納庫にR−ガーダーを置いてくると、ヴィレッタとリュウセイに連れられて、司令室へやってきた。尋問を受ける為である。いくら非常時とはいえ軍の機密を一民間人に過ぎない姉弟が動かしたのだからその処遇を決める為だ。
 「俺・・・どうなるんだ・・・」
 将輝は先行き不安でしょうがなかった。なりゆきで軍の機密を動かしたのだから不安にならない方がおかしい。R−ガーダーから降りた時、初めてまじかに見たヴィレッタの顔が非常に恐かったのが、今でも脳裏に焼き付いていた。
 「心配するな!ここの司令は話の解かる人だから、変な風にはならないって!!」
 心配そうな将輝を見て、リュウセイ=ダテと名乗った少尉が明るい顔で元気付けてくれたが、やはり気が晴れない。
 一方、香田奈の方は、平然な顔をしていた。何が起こっても恐くない・・・・といった感じだった。
 そして司令室で早速尋問が行われた。司令室には匕首姉弟と本部司令、ヴィレッタとリュウセイがいた。副指令を始めとする参謀クラスの人間の姿が見えないのは、司令の意向とヴィレッタの計らいらしい。
 その司令だが、高圧的な軍人を将輝はイメージしていたのだが、厳しいそうな雰囲気はしているものの毅然とした初老の紳士だった。
 「私がこの本部司令のビレット准将だ。まずは君達に多大な迷惑をかけた事を謝罪する。」
 そこで准将は頭を下げた。
 「さて・・・これからの君達の処遇についてだが、詳しい事情はヴィレッタ大尉から聞いた。」
 そこで准将はヴィレッタの方を向くとヴィレッタは軽く頷いた。
 「本来なら、君達は軍の機密を動かしたのだから機密保持の為、軍刑務所に入ってもらうのだが・・・」
 その台詞に顔を曇らせる将輝。だが、准将は言葉を続けた。
 「だが、この極東本部は見ての通り、先程の奇襲攻撃でほぼPT部隊は全滅だ。君達さえ良ければ、このままR−ガーダーのテストパイロットとしてこの極東本部にいては貰えないだろうか?私としては、これがベストの選択だと思うのだが・・・」
 だが、将輝は納得がいかなかった。
 「つまり、俺達に軍人になれ、と言う事ですか?」
 将輝の質問に准将は首を横に振った。
 「そうは言わない。あくまでも君達は民間からの協力者・・・つまり業務委託のようなものだ。強制はしないし、もちろん報酬も出す。引きうけてくれるというなら、少尉待遇で迎えよう。良ければ、GEOへの就職も斡旋しよう。お姉さんにはきらめき高校かひびきの高校で良ければ、教師としての赴任先を用意しよう。約束する。」
 しばらく考えてから将輝は姉の方を向いた、姉は黙って頷いた。まるで自分の考えが全て解かっているかのように・・・・
 「解かりました。協力しましょう。奴等には恨みもあるし、これ以上人が苦しむのは見たくない。レスキューとは少し道が外れたけど、これも人助けと信じよう。」
 その将輝の言葉に准将とヴィレッタは頷いた。
 「彼は了承してくれたが、お姉さんはどうかね?」
 「私の答えはしょうちゃんがしてくれましたわ。」
 香田奈はあっさりと答えた。まるでこうなる事が解かっていたような口ぶりだった。
 「よし決まった。よろしいかなヴィレッタ大尉?」
 ヴィレッタは頷き、香田奈に近づいた。
 「話は決まったから本題に入らせてもらうわ・・・・貴方が、R−ガーダーをああまで簡単に操れたのはT−LINKシステムのおかげね。」
 「T−LINKシステム?」
 将輝は首をかしげた。そこにリュウセイが割り込む。
 「念動力という特殊な力がある人間だけが扱える、簡単に言えば脳波に反応する装置なんだ。俺やヴィレッタ大尉が持つ力なんだが・・・・だけど何でお前じゃなくて姉さんの方なんだ?」
 リュウセイの疑問はヴィレッタが答えた。
 「半年くらい前に大規模なゲーム大会が開かれたのを覚えているか?」
 その言葉にリュウセイは頷いた。ゲーム大会というもの自分も覚えがあるからだ。
 「ええ、ネットワーク回線を利用したかなり本格的な恋愛シュミレーションゲームの大会ですね。俺も少しやったことが・・・・まさか!!」
 リュウセイは感づいた。自分の経験から察したのだ。
 「まさかそのゲーム大会がR−ガーダーのパイロット選考を兼ねていたんじゃ・・・」
 ヴィレッタは頷いた。
 「そう、でも彼女は優勝は逃がした・・・だから、第三候補まで落とされていたの。でもまさかここまで高い念動力があるとは思わなかった・・・」
 そう言いヴィレッタは胸元から一個の計器らしき機械を取り出した。それは携帯型の計測器だった。
 「R−ガーダーのコンピューターに念動力の測定結果があったのよ・・・弟君のほうにも僅かながら念動力があったけど、香田奈さんの方は考えられないけど、アヤ大尉に匹敵する数値を叩き出していたの・・・・」
 「アヤ大尉?」
 リュウセイが答えた。
 「俺達SRXチームのリーダーさ。」
 「へ〜」
 その話をヴィレッタがさえぎった。
 「それで香田奈さん。貴方は敵の通信を聞いたみたいだけど、恐らくT−LINKシステムのおかげだと思うけど、敵の言っていた『究極の力』とは・・・?」
───その時、基地内に警報が鳴り響いた。司令室に伝令役の兵士が飛び込んできた。
 「大変です!!現在、南海上から高速揚陸艦が急速接近中!!所属はVR社の部隊です!!」
 「VR社だと!!奴らがついにこの日本に!!」
 ヴィレッタの顔がこわばった。

 洋上を進む高速揚陸艦に積まれた七体の黒い機体、VR社の主力兵器バーチャロイド・・・
 その中で最強クラスの装甲と宇宙巡洋艦の主砲を流用した強力なレーザー砲備えた重バーチャロイド、『ライデン』。それが今日本に上陸しようとしていた。
 その七機の中で二機だけ違うカラーリングで塗装されていた。紅いライデン・・・そのコクピットの中で長い金髪の髪をポニーテールにした女性が座っていた。
 「極東・・・ニホン。ここに『究極の力』がある・・・。」
 VR社の特殊重戦隊、通称『SHBVD』。その若き女性士官、『ミミー=サルペン』准尉。
 彼女達は知らなかった・・・・。求める『究極の力』が考えられないくらい強力なものだという事に・・・

  

次回予告


 ついにTDFにVR社が迫る!その中で最強バーチャロイド、ライデンが将輝達に襲いかかる!
 戦いの中、意思を通じ合う将輝とサルペン。はたして彼女は敵か味方か。
 乱戦のさなか、両者の中に異次元からの侵略者ゴルディバス軍が現れる!!
 大ピンチの中、ついに『究極の力』がその姿を現す!!
 次回、サイバーロボット大戦第三話、『登場!!史上最強のロボット!その名はキカイオー!』

 次回も、もっとすげえぜ!!  「大ブレイク間違いなしさ!!」



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