第一話 『駄作と呼ばれた傑作』
統合暦199年・・・・・極東の島国、日本・・・・千葉県の太平洋側・・・つまり港。
その港には漁船でも客船でもない、この場に不釣合いな船舶が多数停泊していた・・・・
不釣合いな船・・・軍艦だ。そしてさらに大きな輸送艦と見られる船が一隻入港してきた。それを二人の男女がじっと見詰めていた。
「来ましたね・・・・6号機が。」
男の方が口を開いた。若い男だ、二十代前半といった所だろう。特注の軍服を少しぎこちなく着ている、軍に入って間もないのだろうか。肩に階級証が見える『少尉』だ。
「そうね・・・・」
となりに立っている女性が呟く。髪を短く刈ったショートが似合う美人だ。だが表情は冷たい、知的な雰囲気を漂わしている。
やがて輸送艦に向かってクレーンが伸びてきた、太く強固な重量物専用のクレーンだ。やがてクレーンから吊るされて一つのコンテナが運び出された。頑強そうなコンテナだ。
女性は運び出されようととしているコンテナをじっと見つめたままだ。そこに若い少尉が話し掛ける。
「しかし・・・どうして日本でテストするんスかね?確かこいつは旧中国の北京でテストしていたんじゃなかったかな?」
女性は静かに口を開いた。
「旧中国もそろそろヤバイのよ。アヴェやキスレブはともかく、DN社が狙いを付けているという情報もあるし、それに『教会』の連中の管轄範囲に近いしね・・・」
「キスレブやゲリラに新兵器流しているっていう連中スか。」
「そう・・・」
「やってられねえな。こっちはゴルディバスと宇宙悪魔帝国の相手で手一杯だっていうのに!」
少尉が少し声を荒げた。それを横目でちらっとだけ見た女性の視線は再びコンテナに向けられていた。コンテナは大きな重量物用の台車に載せられていた。そこに三体の巨人が現れた。
「よ〜し!!第3班運搬作業にかかれ!!」
コンテナの周辺にいた作業責任者らしき人物がメガホンで三体の巨人・・・ロボットに呼びかけた。
「了解!」
ロボットから声が帰ってきた。そして三体の内、一体の紫色に塗装されたロボットがゆっくりと台車を押し始めた。残りのロボットはコンテナの左右に付き、腰に下げていた銃身の長い銃を構えて歩き出した。女性は銀行か何かの現金輸送の護衛に見えて少しおかしかった。
「ゲシュペンストもまともに動くのもこいつ等含めてあと四機か・・・」
少尉がさびしげに呟いた。ゲシュペンストと呼ばれた紫色のロボット・・・・正式名称ゲシュペンストmk-U。連邦政府が開発したパーソナルトルーパーと呼ばれる機体、通称PT。ここ、TDF極東本部を中心に極東方面を中心に配備されていた。バランスとれた機体だが今では旧型になりつつあるが、連邦政府瓦解にともない新型機が望めず、現在でもOSの改良等を繰り返し第一線で使われている。
「残るはヴィレッタ大尉のヒュッケバインMK−Uと俺のグルンガスト弐式、そんで予備のゲシュペンストMK-Tが三機・・・・本部の守りがこれじゃなあ・・・・せめてR−1があれば・・・」
「リュウセイ少尉!」
女性がいきなり大きな声を出した。
「はいっ!!ヴィレッタ大尉!!」
リュウセイと呼ばれた少尉は慌てて背筋を伸ばす、上司の隣にいたという事を一瞬忘れていたようだ。
「現状を嘆いていてもしょうがない。現在の戦力で任務を遂行することが急務でしょう。」
ヴィレッタと呼ばれた大尉に言われリュウセイはもう一度姿勢を正し、敬礼した。
「あれが使い物になれば、少しは楽になるかも・・・・」
ヴィレッタは三機のゲシュペンストに運ばれて行くコンテナを見つめながらつぶやいた。
「本当に・・・使えればいいけど・・・・」
それだけ言うとヴィレッタはコンテナの行き先・・・TDF極東本部に向かって歩き出した。
「それからリュウセイ少尉。」
「はいっ!!」
「来週には補充として先行型のアルブレードが十機届くそうよ。」
ヴィレッタはリュウセイに向かって微笑した。
「解かりましたっ!!」
リュウセイはニヤッと笑みを浮かべてヴィレッタの後を追った。
「あれか?」
「はい、間違いありません。」
「新型か?TDFがか・・・生意気な。どこにそんな余力が残ってるんだ?」
「月のマオ・インダストリーはDN社とゴルディバスに壊滅させられたはずだろう?」
「支社がニホンのカガワシティーにあるそうです。そこに本拠を移したのでは?現在大きな戦闘が行われていないのはニホンだけですから。」
「カガワシティーか・・・厄介な所に・・・」
「セトナイ海は機動兵器を大量輸送できる程広くありませんから。」
「まあいい・・・今回の任務はあのコンテナの中身の奪取もしくは破壊だ。いいな!」
「了解・・」
「しかし・・・極東本部にラムズの姿が多数見うけられます。何でしょう?」
「かまわん。任務が最優先だ、ラムズなどほっておけ。むしろ戦力を分散させるいい材料だ。」
「そうですね・・・」
「よし、いくぞ!!」
「リュウセイ少尉。」
「はい。何ですか?大尉」
コンテナを格納庫に収めたのを確認したヴィレッタはリュウセイに声をかけた。
「何やら正面に多数民間人がいるようだが、何故か?」
「ああ、あれですか。今日はレスキュー訓練校の試験日なんですよ。」
「そう・・・でも何故ここで?」
「詳しいことは知らないですけど、この前のゴルディバス軍の襲撃で校舎が一部破壊されたので実施と適性試験が出来る設備があるのがココだけなんで。あ〜それと参謀長が言うには、民間人に対するサービスも兼ねているそうです。」
「サービスね・・・まあこのご時世じゃ、軍に風当たりが強いのも無理もないか。」
「そうスっよ。それに今レスキューはGEOの活躍で花形職ですから。」
「GEO?」
ヴィレッタは聞き覚えの無い組織の名前を記憶の中から探り出した。
「思い出した。最近設立した民間の救難救助組織ね。」
「そうです。」
リュウセイは頷いた。
「まあ、日本版○ンダー・○ードみたいなもんですよ!!あそこのディダクティって言うロボが中々格好良くて!!」
リュウセイは熱く語り出した。ロボットに関する話題がでたらこれである。
「救助用なんで武器が無いんですけど、こないだ暴走するリニアをガシッと受け止めてたトコが良くって!!、写真を・・・」
「・・・個人的感想に興味はないわ・・・・」
ヴィレッタは冷たくあしらった。その後ろでガクッとうな垂れるリュウセイ。
「さて、6号機の調整してくるから。」
今だうな垂れるリュウセイに目もくれず、ヴィレッタは格納庫に向けて歩き出した。
「はあ〜・・・・やっと終わった〜」
一人の黒ジャージ姿の少年が基地内の試験場にあてがわれている一室からやつれた感じに出てきた。
「後は野となれ山となれ〜」
少年は近くの椅子に腰掛け、ぐったりと首を後ろに倒した。ジャージの胸には名前が刺繍されていた。
彼の名は、『匕首 将輝(あいくち しょうてる)』この訓練校に志願し試験を受けにきた一介の高校生である。
「これで今後の俺のさだめが決まるんだ〜」
椅子に腰掛けたまま将輝は呟いた。
「(母さん、先輩・・・・合格したら、俺の今までの成果、見とめてくれるよな・・・)」
将輝はこの訓練校に入るために、高校入学以前から努力を続けていた。中学の時、事故で母親を失い、その悲しみを共有し、なおかつショックから立ち直らせてくれた同じ道場の先輩も、その数ヶ月後テロによって失った。
将輝はこれ以上の悲しみを他の人々にも会わせたくない一身で、レスキューの道に入る事を目標とした。
そして今日、それを決めるための試験をようやく終えた事になる。
「ひえっ!!」
いきなり、将輝の頬に冷たい物が当てられた、思わず声をあげる。
「ごくろうさま♪しょーちゃん。」
将輝が振り向くとそこには、ロングヘアーの美人が缶ジュースを持って立っていた。表情は明るい、へたなアイドルよりも美しい整った顔がそこにはあった。スタイルもいい、モデルといっても通用するだろう。近くにいた他の受験生や基地の職員が一心に視線を送っているのが解かる。
「何だよ・・・ねーちゃんか。びっくりしたぜ。」
将輝はその女性の持っていた缶ジュースを受け取りながら呟く。
「何だよは無いでしょ、しょーちゃん。」
女性は将輝の隣に腰掛けた。少しムッとした表情を見せる。
「わざわざ試験場まで連れて来てあげたのに。」
「それには感謝してます。香田奈ねーちゃん。」
香田奈と呼ばれた女性、将輝の姉である。職業は大学生で教師を目指して現在教育実習生として、将輝の高校で実習を行っている。そして将輝の悩みのタネでもある。
「そうそう、それでよろしい。」
「へ〜い。」
そう答えると、香田奈はニッコリと微笑んだ。
「しかし今まで良く頑張ってたわね。」
「まあな・・・・母さんと先輩の為でもあるからな・・・」
さびしげに呟く。それを見て少し表情を曇らせる香田奈。すると・・・
「よし!おねーちゃんが今まで頑張ったごほうびをあげよう!」
表情を先程とは打って変わって明るくした。
「ごほうび?」
将輝が疑問に思う声を出すと、香田奈はゆっくりと、隣に座る弟に顔を近づけ眼を閉じ唇を突き出した。
『おおおおおおおおおおお!!!!』
近くにいた男性陣から声が挙がる。将輝は思わず姉の顔を手で押さえにかかる。
「なにすんだよ!!!ね〜ちゃん!!」
「何って、ご褒美だけど?」
悪びれた様子を少しも見せずに香田奈は言う。
「子供じゃねえんだ!!止めてくれ!!」
「あたしから見れば、まだ子供よ。」
「そ〜いう意味じゃねえ!!」
「つまんない・・・・」
「まったく・・・・(ファーストキスが実の姉なんて洒落になんねえ・・・)」
少し荒れた呼吸を整えながら将輝は心の中で呟いた。いつもこれである、母親が亡くなってから、姉が母親代わりに将輝を育ててくれた。その為、いつまでも自分を子供扱いするのが彼の困り事の一つとなった。気持ちは嬉しいのだが、それではいつまでも姉に甘えてるばかりでは、自分のためにならない。自立心が宿らないのだ。その為高校卒業後は家から離れる事も含めて、この訓練校に志願したのだ。
「それはそうと、せっかくだからココ少し見学しない?ホラ、こんな機会滅多にないじゃない。」
「いいのかよ?ここ軍事施設だぜ・・・」
「いいから、いいから。」
渋る弟の手を引っ張り、香田奈は歩き出した。それを近くの所員達が黙って見送っていた。
「さっきのガキ、うらやましい・・・・」
そんな考えをよぎらせる輩もいた。だが、それを冷たい目で見送る者もいた。ヴィレッタだ。
「まったく、くだらない事を・・・・女性にうつつを抜かしている暇があるなら仕事をしろ・・・」
声には出していないものの、そんな所員達を冷酷な目で見ていた。
「ホワイトナイト全機、光学迷彩完了。」
「肉眼確認高度までは気付かれません。」
「よし、降下三十秒前。」
「TDFの新型は奥の格納庫のようです。」
「薄汚いラムズどもには過ぎたオモチャだ。」
「だといいがな・・・よし、降下!!」
雲の上に一隻の鯨を思わせる飛行する白い船があった。その船から七つの白いロボットが飛び降りた。スカイダイブにしては用意が周到だ。スポーツや娯楽ではない、これから始まる戦乱の発端となるダイブだ。
「何が起きた!!状況を報告しろ!!」
TDF極東本部はいきなりパニックに陥った。基地のあちこちから爆音が鳴り、火災が起こる。
基地の司令がオペレーターに向け声を上げる。
「解かりません!!いきなり空中から攻撃を受けました。」
オペレーターが悲鳴に近い声を出す。基地の司令室は各部署から悲痛な報告が飛びまわる。
「解かりました!!現在七機の人型機動兵器による奇襲を受けています!!」
「人型機動兵器だと!!照合できるか!」
「ダメです!!照合機種無し!PTでもVRでもありません!ですが、動力部からエーテル反応が見られます。」
「ギア・アーサーか!!」
「ですが、あの機体はアヴェでもキスレブでもありません!!」
基地司令はハッとした。思い当たることがあるようだ。
「ソラリスか・・・宇宙を主体にしている奴等が何故・・・」
「敵機、第七格納庫に向かっています。!」
「奴ら狙いは、6号機か・・・・」
司令の言葉の言葉にオペレーターの一人が呟く。
「テストパイロット殺しの機体か・・・・」
「あの駄作を狙ってるのか・・・・司令!!提案が。」
一人のオペレータが司令に声をかけた。
「何だ。」
「あの6号機は、今だまともに動かした者は誰もいません。」
「それで?」
「ここは、6号機を放棄して本部の安全を確保・・・・」
「ならん!!」
司令の一声に、オペレーターの声はかき消された。それぐらい大きな声だった。
「あの6号機はSRX計画のその場繋ぎの機体とはいえ、莫大な資金と時間を費やしたのだ。それに我々にはどんな機体でもいまのTDFには貴重な戦力なのだ。やすやすとくれてやる訳にはいかん!!」
とは言ったものの、司令の脳裏には6号機の放棄を本気で考えていた。現在の戦力では、持ちこたえるのが限界なのだから。
「何なの・・・・一体・・・・」
炎と煙に包まれた中を香田奈はさまよっていた。ここは何処なのだろう・・・基地の中を見学するつもりで歩き回っていた時、突然爆発が起こり、火と煙が襲いかかってきた。
「!!」
香田奈は足元に何か感触を感じた。人の体の感触だった。
「人が・・・・!!」
だが、それはもはや生命の糸の切れた焼けた肉に過ぎなかった。良く見ればあたりにあちこちに同じような光景が広がっていた。香田奈は吐きそうになるのを必死に押さえた。
「死んでたまるものですか・・・・あたしは生きる・・・しょうちゃんと生きて帰るの・・・」
香田奈は途中ではぐれた弟を煙で見えにくい中から探し出そうとしていた。だが、この状態では誰が見てもそれは不可能に思えた。だが・・・
「いた!!しょうちゃん!!」
肉親が持つ、絆からだろうか彼女は奇跡的に数ある死体とガレキの中から愛する弟を探し出しあてた。だがその肉体は呼吸はしていなかった。
「うそ!!息してない・・・・。」
だが、彼女は大学の教育課程で緊急時の応急処置方を思い出していた。彼女はこのときほど学校での教育を感謝した時は無かった。
「呼吸させなきゃ・・・」
香田奈は弟の鼻をつまみ、唇を重ね息を吹き込んだ。数回もすると彼の呼吸は回復した。
「!?」
将輝は意識を取り戻した。だが、彼が最初に目にしたものは自分に唇を重ねている姉の姿だった。
「ね・ね〜ちゃん!!なにやってんだよおおお!!」
彼は飛び起き思わず腕で自分の口をぬぐった。だが、そんな彼にかまわず香田奈は彼に抱きついた。
「良かったあああ!!死んじゃうと思ったあああ!!」
「止めろ!ね〜ちゃん。苦しい〜!!」
姉に抱き付かれ、思わずもがく将輝。
「あっ・・・でも少し気持ちいい・・・」
「ん?」
香田奈がその台詞を聞いて弟を見ると自分の胸に顔面を押し付けている弟の姿があった・・・・
「コラ・・・・・」
しばらくして頭にコブを作った将輝と香田奈は再び動き出した。だが、どこも煙と炎、そして爆発さえぎられまともに動くことは出来なかった。
「くそ・・・このままじゃ・・・」
「何か・・・何か・・・ココから出られる為に・・・」
すると彼等の前に何か鉄の柱が数本立っている場所に出てきた。
「柱?・・・・いや違う。足だ・・・ロボットの足だ。」
将輝が不自由な視界の中で良く見ると、柱と思っていたのはこの本部に配備されているPT・・・ゲシュペンストMK−Tの足だった。奥にはゲシュペンストとは違うロボットの足も見えた。
「しょうちゃん!これよ!」
「え?」
「これに乗ってココから出るのよ!」
「でも・・・動かし方は・・・ええい!生きて帰るにはコレしかねえ!ゲームに毛が生えたようなもんだ!なんとかなる!!」
「そうよ!その意気よ!」
無責任かつ根拠の無い台詞だったが、この姉弟にはもはや、なりふりをかまっている余裕は無かった。一刻も早くここから出なければ焼け死ぬか、煙に巻かれて窒息死するだけだ。
幸い、各ゲシュペンストの足元にはコクピットに上がるための昇降機が機体の数だけ置いてあった。二人は迷わず近くのゲシュペンストに向かって歩き出した。だがその時、何度目かの爆発が起こり、天井が崩れてきた。
「危ない!!」
将輝は姉をかばいながら、地に伏せた。頭上から大量のガレキが降ってくる。幸い・・・と言っていいのだろうか、ガレキは殆ど二人の上には落ちてこなかった。だが、代わりにガレキの洗礼を受けたのは立っていた三機のゲシュペンストだった。地震クラスの地響きを立てて崩れ倒れるゲシュペンスト。
「そんな・・・」
二人が乗り込もうとしていた三機のゲシュペンストはガレキの直撃を受け破損してしまった。頭部がへしゃげたり、腕が潰されたり・・・地面に力なく横たわっていた。しかも大量のガレキに埋まってしまった。
「これじゃもう・・・・」
泣きそうな声をあげようとした瞬間、将輝は気づいた。一番奥に何と無傷のまましっかりと二つの足で立っている機体を見つけた。二人はその機体に最後の望みを賭け近づいた。
「デカイ・・・・」
二人の第一印象はそれだった。大きい、隣に立っていたゲシュペンストより頭二つ分は大きかった。体躯もしっかりとしていた。ゲシュペンストがスマートで俊敏そうな空手家やボクシングの選手のようなイメージをする『騎士』的なデザインに対しこのロボットは無骨で、力強さを感じさせるレスラーやアメフト選手のような『闘士』的な姿をしていた、見ているだけで頼もしさを感じさせる、そう言った感じのロボットだった。
「こいつなら・・・」
将輝は望みを賭け近づこうとした、だがその時、爆発でもろくなっていた天井の一部が崩れ落ちてきた。
「!!」
ガレキを避ける為、再び伏せる二人。そしてガレキは残ったロボットに降り注いだ。だが・・・
「なんて奴だ・・・・」
ガレキに押しつぶされたと思っていたロボットだったが、その巨体は微動だにしていなかった。しかも傷一つ付いていなかった。
「こいつは一体・・・・・」
「頑丈なのが取り柄のロボットなのかしら?」
二人はじっとロボットを見詰めていたが、意を決し、ロボットに向け歩き出した。
「いける・・・コイツなら!!」
「でもどうやって乗るの?昇降機壊れちゃってるけど。」
「この手のロボにはコクピットからワイヤーが降りてくるんだけど・・・・あった。これだ。」
二人はロボットの足首に搭乗用のワイヤーのスイッチを見つけた。スイッチを押すと胸部の一部が開き、将輝の言った通り、ワイヤーが降りてきた。二人はそれに掴まりコクピットまでたどり着いた。
「おや?これ二人乗りなのかな。」
香田奈がコクピットを覗きこんで言った。確かに正規の操縦席の後ろにもう一つシートが備え付けられていた。
「いや・・・これは非常用の席みたいだな。なんか取って付けた感じだ。」
確かにそのシートは簡単に取りつけられる即席型の感じがしていた。パイプと支柱で前の席と繋げられていた。
「まあ丁度いいや、俺が動かしてみる。ねーちゃんは後ろの席に。」
二人はそれぞれ席についた。将輝は目の前の計器を見渡す。しかし無数の計器を前にどうすれば動くのか検討も付かない。
「せめてメインスイッチとハッチを閉める事がわかれば・・・・」
将輝はメインスイッチを探した。ハッチを閉めなければ、このまま煙に巻かれる事になるからだ。だが、どれがどのスイッチなのか解からずにいた。
「え〜とね、正面の透明カバーの付いた赤いボタンを押すの。」
「え?」
言われた通りカバーの付いた赤いスイッチを押すとコクピット内に光が宿った。
「それから、左のレバーの付け根にある一番前のスイッチがハッチを閉じるの、それと中央パネルの右の3番目を押して、エアコンだから。」
将輝は姉の言われるまま操作した。するとコクピットのハッチが閉まり、エアコンが作動しコクピット内の空気が清浄されてきた。
「ねーちゃん。どうして操作が解かるんだ?」
危機が一つ去ったところで将輝は後ろの姉に尋ねた。
「手引書見つけたの、なんか試験要項書と一緒に。シートに置いてあったのよ、どうやらこれからテストするみたいだったみたい、このロボット。」
「ふ〜ん・・・・てっ!これからテストって言うことは・・・こいつ新型あああ!!」
「そうみたい。」
将輝は頭を抱えた。事の重大さに気付いたからだ。
「軍の新型・・・・ということは軍の機密に乗ってんのか・・・俺。」
しかしそんな弟を香田奈はなんてない顔していた。
「別にいいじゃない。新型を人目につくようなトコに置いてる軍が悪いのよ。」
「あのねえ・・・」
「まっ!そのことは後で考えましょう。今は脱出が先よ!」
「解かった・・・・」
こうしてゆっくりと二人を乗せたロボットは動き出した。火に包まれた格納庫から・・・・
「くっ!性能差か・・・・」
また一機ゲシュペンストが爆発した。ヴィレッタはヒュッケバインMK-Uのコクピットで毒付いた。奇襲をかけて来た七機の白いギアによってすでに五機のPTが破壊されていた。完全に出遅れていた。この場合は自分のミスより、相手の用意周到さを評価すべきだろう。光学迷彩によりレーダーから完全に姿を消し、肉眼で確認できる距離まで無傷で敵は近づいていた。自分が出撃した時にはすでに手遅れに近い状態だった。
「(連邦時代のTDFならこんな無様な真似はしなかった・・・)」
ヴィレッタは心の中で呟く。自分が情けなかった、だが今はそんな自分を責める暇は無かった。敵の狙いは間違い無く、今日運ばれてきたコンテナの中身、6号機だ。これだけは死守しなければならない。
「うわあああああ!!」
通信機から断末の悲鳴が聞こえてきた。また一機ゲシュペンストが爆発。残りは自分とリュウセイのグルンガスト弐式と最後のゲシュペンスト。全滅は時間の問題だった。だが、本部と避難中の非戦闘員だけは守らなければ。
「喰らえ!!ブースト・ナックル!!」
リュウセイのグルンガストの右腕がロケットの様に発射された。不意を付かれたのか、一機の白いギアが腹を貫かれ爆発した。だが、右腕が本体に戻ってくる合間を残りのギアが機関砲を放ってくる。明らかに訓練された者の動きだ。リュウセイのグルガンストは直撃は避けられたもののパンチを連続で食らったボクサーの様にのたうった。
「くう!まだまだあ!!」
片腕を失ったグルンガストが立ちあがる。だが、白いギア達は間髪入れず機関砲を放ってくる。すかさずヴィレッタのヒュッケバインがアシストに入る。右腕から小型の円盤が射出された、チャクラムシューターだ。直撃を食らい一機のギアが爆発する。その隙にリュウセイが立ちあがる。
「すんません大尉・・・」
リュウセイは無線で謝ったが、ヴィレッタは答えなかった。そんな余裕は無かったからだ。それも、リュウセイのアシストに入ってしまったので本部の守りが一瞬手薄になった。そこを別のギアが攻撃を仕掛ける。最後のゲシュペンストが防戦するが、持ちこたえられそうになかった。
「このままでは・・・・・」
そんな中、最後のゲシュペンストから信じられない通信が入った。
「た、大尉!!6号機が動いてます!!」
「何!!そんな!!」
だが、ヴィレッタは見た。燃え盛る格納庫からガレキを押しのけながら出てくる6号機の姿を。
「6号機が・・・・R−ガーダーが・・・・動いている・・・・」
次回予告
ついに動き出したR−ガーダー。駄作と呼ばれた傑作は、はたしてソラリスのギア部隊を打ち倒すことが出きるのか?そして軍の機密を動かしてしまった匕首姉弟の運命は?
そして壊滅寸前のTDF極東本部に現れたDN社のVR部隊SHBVD。その若き女性士官ミミー=サルペン。彼女達の狙う日本にしかない究極の力とは?
次回 サイバーロボット大戦、第2話『SHBVDの女』
次回も「さらにすげえぜ!!!」(腹に力を入れて読むべし!)※みんなも真似して流行らせよう!!