第19話『倒せウニアトム! 恵フルバレッド(全弾丸)!!』



「やあっ!!」
スパイラルなみに扮した恵のドリルがウニアトムを貫こうと突き立てる。 だがウニアトムは強固な下腕部のサポーター状の厚い装甲でしっかりと受け止める。
 「流石に硬い・・・」
恵が顔をしかめる。 解っていた事だがウニアトムの装甲は非情に頑強だ。生半可な攻撃は通じない。 だが恵の役目はウニアトムを倒すことではない。あくまでも足止め。 後ろに待機しているムーンライトレディ3人の最強攻撃『デルタアタック』を確実に決める為の隙を作る事だ。
 恵は細かく足早に動きながらウニアトムの目を翻弄する。 パワーと装甲は圧倒的に向こうの方が上だがスピードと運動性なら自分の方が上。捕まれさえしなければ、どうにかなる。
 勿論ごまかしに過ぎないが、時間稼ぎと足止めには十分。 恵はウニアトムに視線を気取られないようにチラッとだけ後ろに目をやった。 既にムーンライトレディの3人はデルタアタックの前段階のために散開しつつある。
デルタアタックは、ムーンライトレディ3人が正三角形を描くように散開しなくてはならない。 アルテミスを軸にアクエリアスとミネルヴァがそれぞれ敵を包むように三角陣形へと移行する。
つまり、恵は三角の中心へウニアトムを誘導し、足止めする。 それでデルタアタックは完成する。 勿論技の完成直前に離脱する必要があるが、自分の足は速い、どうにでもなる。
 しかもウニアトムはこれまでの戦いで頭部と左肩の一部を損壊しており、全方位にばら撒く事ができる棘攻撃に一部死角が出来ている。 その死角を利用しアルテミスを誘導。 ミネルヴァとアクエリアスが配置についた時点でデルタアタックを発動させればコチラの勝ちだ。
 「いける・・・」
 目論見どおりウニアトムは三角の中心に移動しつつある。 恵は作戦が上手くいくのを感じていた。 ムーンライトレディの3人は恵自身が走り回る砂煙を利用して静かにだが確実に配置に付こうとしている。 コレなら勝ちはもらった。
 「なみ・・・貴方の代役務まりそう・・・」
 恵はさらなる誘導をかけようとペースを速めた。 ウニアトム目掛けて真正面から突っ込む。 勿論フェイントだ。真正面からの勝負は絶対不利なのは解りきっている。 素早さを利用してウニアトムの眼前で急制動し、真横からドリルを叩き込もうと言うのだ。 勿論これは恵の技ではない。先ほどなみが仕掛けた技を模倣しようと言うのだ。

 「む!」

正面から恵に警戒してか、ウニアトムが防御を取る。クロスアームブロック・・・両腕を顔の真正面でクロスさせる体勢・・・・恵は見えないように笑みを浮かべた。 
この防御スタイルは正面からの防御は確かに強いし、カウンターも決めやすい。 だがその反面、視界が狭まり小刻みに動かれた場合対処がしにくいと言う弱点がある。 重量級の相手に正面からぶつかるならまだしも、フットワークを駆使する軽量級の自分と対するには判断ミスと言うしかない。
(こいつ・・・学習機能ってもんが無いの? それとも私をなめきってるのか・・・)
恐らく後者だ。 自信過剰気味な性格がそれを裏打ちしていると恵は判断した。
 (なら、痛い目見せてやるっ!!)
 恵はドリルを真正面に突き出したままウニアトムの眼前で制動を掛け、突如ウニアトムの右へ回ろうとした。 クロスアームブロックで視界が狭いウニアトムに見えないように・・・
──ガシィッ!!!
突如恵の真正面に丸太のような太い何かが現れ、そのまま恵に襲い掛かった!!
「な・・・ミスった・・・・」
 恵はショックのあまり消えそうになる意識をコンピューターのフェイルセーフ機能をフルに使って繋ぎ止めた。
 恵を襲ったソレは、ウニアトムの太い腕。 ウニアトムのクロスアームブロックは防御ではなかった。恵の動きを読んだフェイントだ。 軽量級の恵が自分と戦うにはフットワークを生かすしかない。動きの面では確実に劣るウニアトムが有効打を与えるには自分の得意な間合いに持っていけば良い。 己が力を過剰に判断していると思わせてあえて視界の狭い防御を取ったのだ。 案の定、恵は自分が自意識過剰と判断してフットワークを生かした動きに出た。 そこを読んで腕を突き出したのだ。思惑通り恵は自らウニアトムの腕に入ってしまいカウンターとなった攻撃をモロに浴びた。 軽量級の恵にしてみれば溜まったものではない。
 
 「学習機能がないのはそっちの方だったな? 伊達に最強怪人を名乗っているわけではないアト~ム。」
笑みを浮かべ、恵ににじりよる。 動きが止まった恵を仕留めるのは簡単だ。掴んでしまえばコッチのもの。だが・・・
──ッ!!
 寸でのところで恵がドリルを振り上げ、ウニアトムの腕を弾いた。流石にドリルだけならパワーはある。
 「往生際の悪い・・・」
 弾かれた腕に代わり、踏みつけるように蹴りを繰り出すウニアトム。圧倒的重量差から繰り出される蹴りを恵は砂浜を転がるようにしてかわす。 相変わらず動きだけはいい。
こう捕まらないといい加減イライラしてくるものだが、流石に最強怪人を自認するだけあって取り乱さない。
自分の目の前で体勢を立て直し、ドリルを構え突っ込んでくる。 バカの一つ覚えの突進攻撃・・・
 「それしかないのか駄メイドめっ!!」
 僅かな怒りを覚え腕の装甲を盾に逆にこちらも正面からぶつかりに行く。 ガリガリと貫けないのを解っているのに空しい金属音を立てるドリルが腕の装甲を削るが、体重差がありすぎる数秒持ちこたえたものの空しく弾かれるメイド・・・
「もう遊びは終わりだ!! レイジ様に寿司を食べさせる為にも、もうこの辺で終わりにしようアト~ム!!」
 そう叫ぶとウニアトムはいきなり駆け出した。立ちはだかろうとドリル攻撃を執拗に仕掛ける恵を体重差を利用して跳ね飛ばすと、その大柄な体格からは信じられないくらい高くジャンプした。
 「貴様らの考えなどお見通しだアト~ムっ!!」
──ズズ~ンッ!!
 砂浜にまるで砲弾でも打ち込まれたかのような轟音と衝撃が襲った。 凄まじい砂煙が舞い上がり、周囲は十数秒に渡り視界を失う・・・
 そして・・・砂煙が風にかき消される後には砂浜に巨大なクレーター状の大穴が開き、その中心にウニアトムが笑みを浮かべて立っていた。

 「なっ!?」
 秘密結社Qの幹部レイジは目を疑った。 クレーターの中心にウニアトムがいるのは解る。 だがその周囲に弾き飛ばされ、半身を砂に埋もれ横たわるムーンライトレディの3人の姿があった・・・
 「どういうことだ・・・コレは・・・」
呆然と呟くレイジに、ウニアトムはニヤッと笑みを浮かべて答えた。
 「簡単な事でございますレイジ様。 こやつら3人が何か企んでいたので、それを事前に阻止しただけの事でございます。」
 「と、言うと・・・?」
 「ご覧くださいこの娘達を。 データによるとこの娘達3人は、3人揃う事で真価を発揮するタイプ。 そして3人揃う事で何やら大技を使えるらしいと。」
 「と言うことは・・・」
レイジの言葉に頷くウニアトム。
 「左様。先ほどからなにやら隠れて移動していたのは解っておりました。 恐らくその大技を使うための陣形を組んでいたのだと。 あの駄メイドが執拗に不利を承知で正面から攻撃しておったのは、それらを気付かせない為の陽動と足止め。」
 そう言って背後の恵に目線をやる。 そこには悔しさに拳を握り締める恵の姿が・・・
その様子からレイジは黙って笑みを浮かべ頷く。 もう口に出す必要もない。今の恵の表情が全てを物語っていた。 流石最強怪人・・・期待以上の力を見せてくれる。 先ほどからの戦いで、まともに戦えたのは悔しがっているメイド(ドリル付)以外は倒れているムーンライトレディの3人のみ。 勝機有り!!と、レイジは再度満足そうに頷いた。

 「くそう・・・」
一方の恵にしてみればこれほどの失態はない。 自ら陽動役を買って出たのに関らず、作戦は見事失敗。一撃必殺の力を持つムーンライトレディは倒れ、自分の戦う力は残り僅か・・・。 
 悔しさのあまり涙が出そうになる。 何のために瀕死のなみから代役を頼まれたのか・・・。悔しさと絶望感から逃げ出したくなる自分が惨めで仕方がなかった。
 「うわあああああ!!!」
 絶叫と共に駆け出した。 やけになってドリルを突き出し、ウニアトムに突っ込む。 なみの必殺技『スパイラルドライバー』を模倣し繰り出す。
だが、「無駄だっ!」の一声からくりだされる腕の一振りに弾かれる。 やけになって繰り出した攻撃には何の力も無い・・・
 「もう・・・」
がっくりとうなだれ、こんどこそ逃げ出そうと本気で頭に浮かんだ恵・・・

 「なに・・・やってるのよぉっ!!」
 悲壮感に包まれていた恵に突然声が投げかけられた。 恵が声のした方を振り向くと、そこにはゆっくりと起き上がるムーンライトレディ・アルテミス・・・日和子の姿があった。
 「見てみれば・・・さっきから中途半端な攻撃ばっかり!! ぜんぜんなみちゃんらしくないっ!!」
 アルテミスの怒りの視線に恵は何もいい出せなかった。
 「ちゃんと足止め頼んだから信じたのにぃ・・・もう綾ちゃんも麗子ちゃんも動けないからデルタアタック使えないじゃないの・・・」
 ダメージが大きいのか立ち上がるのがやっとのアルテミス。それでもキッと敵を見る目だけは死んでない。
 「今考えるのはメタモルVと子供達を助ける事でしょ・・・。がんばってよぉ・・・。 あ・・・あたしも怖いけど頑張ってるんだからぁ・・・」
 そう言って、アルテミスは砂浜に再度突っ伏した。 恵は思わず駆け寄り抱き起こした。
 「ひ・・・ひよちゃん!?(・・・で、いいんだっけ・・・)」
事前に教えられた仲間達の名前を思い起こしながら呼びかけた。 ちゃんとなみを演じるように・・・
 「頼んだわよ・・・メタモルと子供達を・・・」
アルテミスは恵を腕の中で意識を失った。 その瞬間、恵はなみの気持ちを思い出していた。
──何をやってるの私は・・・
 ──なみが私に託した意思はなに?
  ──メタモルVと子供達を助ける事でしょ?
 恵はやっと気付いた。 自分がなすべきことを。 そう・・・第一目的は何?なみの意思は何? それは仲間を助ける事。 子供達を助ける事。 
(私は・・・今の瞬間までスパイラルなみを模倣する事しか考えてなかった・・・。ウニアトムと戦う事だけしか頭になかった・・・)
ス・・・・ゆっくりと意識を失ったアルテミスを砂浜に横たえさせると、キッ!!と表情を引き締めウニアトムを睨んだ。
 (私は・・・自分を見失っていた。 なみが求めたのはスパイラルなみを模倣する事じゃない!人を助ける事!)
 そう言ってドリルを再び身構えた。
 (私は私なんだっ!!今の目的はなみの真似をすることじゃないっ!!)
 次の瞬間、恵はドリルを回転させウニアトムに突っ込んでいった。

 「いい加減にしろっ!! それ以外に出来る事は無いのかっ!!!」
 ウンザリしたのか、右手を突き出し真正面からドリルを鷲摑みにして受け止めるウニアトム。 強大な握力によって強引に回転を止められたドリルが過負荷から熱を上げる。
 「こんなものっ!!」
──ギリギリと指に力を込めるウニアトムの握力に恵のドリルが歪んでゆく。 そしてそのままドリルごと恵を持ち上げた。 歪んだドリルと回転を止められた反作用で恵の体が逆に回転してゆく・・・しかもドリルが歪んでいる為に恵の身体は不自然に振り回されていく。
回転数が速ければ速いほど恵の身体は自らの力で振り回される。

 「今だっ!!ドリルアームパージ(強制排除)!!」
バキンッ!!──そんな音がしたような気がした。 恵の右腕と化していたドリルが突如外れ、その勢いで恵はウニアトムから物凄い勢いで離れ飛んだ。
 ドシャンッ!! 何とか受身を取り砂浜に着地した恵。 その距離はウニアトムから数十メートルといったところか。
 「ここからよ・・・」
右腕を失いつつも恵はそう呟き、自身の背後を見た。 そこにはこの季節使われていない海の家等の海水浴場用の施設の数々・・・ 波打ち際近くで戦っていたのにここまで吹っ飛ばされたのだ。
(よし・・・目論見どおり)
恵はそう言って、その海の家へ向かって歩を進めた。
 「私には・・・私の戦い方がある・・・」


 「ふん。綺麗に吹っ飛んだな、あのメイド。」
レイジは吹っ飛び、姿が見えなくなった恵を見てそう言った。
 「少々勿体無かったが・・・まあいい。 あのダメージなら修理できる。あとで拾いにいけば済むことだ。」
 その言葉に、戦闘員と共に人質を見張っていた秘書の美女シャドーローズは怪訝な顔をする。
 「レイジ様?まだ諦めてないんですか?」
その問いにレイジは胸を張って返答する。
 「当然だろう? 職場に華を・・・と、言うと君に対してのセクハ・・・もとい侮辱とも捉えかねないが、ウチの組織に下働きが少ないのは事実だろう?」
 レイジの言葉は事実だった。 シャドーローズは「まあ・・・確かに」と少々不満そうにだが頷いた。
秘密結社Qの雑用全般を取り仕切っているのはシャドーローズだが、彼女にはレイジの秘書と言う役目があり、その他にも経理や人材のスカウトと、様々な仕事を兼任している。その為どうしても炊事洗濯等の生活全般業務が滞りがちになる。 大まかな事は戦闘員達が交代で行っているものの、彼らは戦闘行動が主でありそういったことは不得手な場合も多い。
 しかも唯一の女性といっていいシャドーローズは炊事がはっきりいって『ヘタ』の部類に属する。ヘタしたら戦闘員達の方が作った方が上手い場合さえある。 そのためにシャドーローズが炊事を担当すればたいがい秘密結社Qの食事はレトルトになる。
(余談だが、レトルトの食事が中心なのは予算の関係もあるのだが。)
 一応戦闘員や怪人達には衣食住を保障している秘密結社Qだが、その裏にはこう言った辛い現実があるのだ。
 事は食事だけにとどまらない。洗濯や掃除すら行き届かない場合すらあるのだ。(事実、戦闘員達の宿舎(タコ部屋)は汚い)
だからこそ!だからこそである!! ここであのスパイラルなみと言うメイドを手に入れることで、衣食住の内二つ『食』と『住』を改善しようと言う思惑があったのだ!!
「あのメイドを手に入れれば、我々は少なくとも人並みの食と住を手に入れられるのだぁ!!!」
 レイジの魂の言葉に、戦闘員達も「Q!Q!」と喝采を上げ同意する。 その光景に人質となっている子供達の引率である教師が「そこまで酷いのか・・・」と、一瞬同情した。
 「とにかくだ!あのメイドは後で拾いに行く! ウニアトム!!今のうちに戦闘不能となった連中全て片付けてやれいっ!! よし!お前らも手伝え!!」
レイジはウニアトムならびに戦闘員達に、戦闘不能となったサイバーヒーロー達にトドメをさせ!と命を与えた。 人質の監視に自分を含め2~3名だけ残し、残りの戦闘員の内7名を向かわせた。 その様子を見てガルファーを介抱していた村正姉妹が慌てて動けなくなったヒーロー達を装甲車に乗せようと懸命になっている。 彼女達を守ろうとダガメンダーがふらふらと立ち上がったが、彼女達を警護するように前に立っただけがやっとの様子。今この場でウニアトムと7名の戦闘員に襲われれば一溜まりもない。
そんなヒーロー達の哀れな光景にレイジは思わず顔を手で覆おう。 勝利を確信し、にやける表情を隠す為である。だが含み笑いだけはどうしても消せない。
 「くふふふふ・・・・・勝った・・・」
レイジにとっては嬉しすぎる誤算だった。 最強怪人7名のうち、5名は倒され1名は裏切ったとはいえ、サイバーヒーロー全員を倒せたことは十分すぎるほど帳尻が合う。このまま一気に攻勢をかければ勝利は確実。100%以上の勝利がレイジの前に現れている。これほど嬉しいことがあろうか!!
自分の目の前でゾンビを倒すことが得意な某警察の特殊部隊のような格好をした姉妹が、既に敗北を確定したかのように装甲車に次々とヒーロー達を乗せていく光景が見える。 なんとも情けない姿であろうか。 撤退を決めた彼女達を警護するタガメンダーの姿すら滑稽に見える。
 よし・・・と、レイジは目標を定めた。 まずは自分に恥をかかせた裏切り者の始末からだ!!
 「まずは裏切り者の始末からだ。 残りはそれからだ。」
レイジは自らも手を下そうと人質をシャドーローズに任せ、手近にあった木刀(シャドーローズが持ってきた)を手に、まるで軍刀を手にした古い軍人のように檄を飛ばそうとウニアトムたちと共に歩みだそうとした。
が・・・・

───カッ
 「光った?」
 自分達から遥かに離れた砂浜の向こうから、何かが光った気がした。 ほんの僅か遅れて「ドォォン!!」と言う音。 レイジはそれが砲声とソレに伴う発射光と気付いた時には遅すぎた。 時間にしてみれば一秒にすら満たないコンマ何秒かの時間。しかしそれだけの時間でも『遅すぎた』。 レイジが気付いた時にはタガメンダーに最も接近していた戦闘員一人が爆炎&砂煙と共に吹き飛んでいた。
「そこの戦闘員!伏せろォ!!」
とっさに身を伏せ、何が起きたのか解らず呆然と立っていた一人の戦闘員に叫んだが遅かった。 叫び終わる頃にはその戦闘員も次に発せられた轟音と共に消え去っていた。
「一体・・・なんだ・・・あいつら(サイバーヒーロー)の仲間か・・・」
考えられない事ではなかった。 データが正しければ自分達に敵対しているヒーローはここにいる連中だけではない。 これまで何度も自分達を邪魔した『機動刑事ライオット』と『新世紀美少女戦隊モモヴァルス』がいた筈だ。 連中がやってきた?
いや・・・違う。 レイジはこの考えをすぐに破棄した。なぜならライオットもモモヴァルスもこのような砲撃系の武装は持っていないはずであった。今まで散々戦っていたのだからそれは解っていた。 考えられるとしたら新東京の治安を守る警察の特殊武装勢力『特甲隊』であった。奴らなら大口径の火砲等の武装火器を保有していてもおかしくないが、奴らが新東京を外れてこの舞浜まで出てくるとは考えられない。
「では一体誰が・・・」
そうこうしている間に三発目が飛んできた。 とっさに身を伏せるレイジ達。先ほどからの攻撃から察するに歩兵が持てるサイズの火器とは考えられない。この威力からして砲兵が保有する野戦砲の類の火力だ。 ヒーローの援護に自衛隊でもやってきたか・・・?
──ドオオン!!
 着弾の距離は近かった。 丁度自分(レイジ)と人質の中間ぐらいの距離に放たれた。周囲が砂煙に覆われ何も見えなくなる。 しかも可能な限り人質に被害が出ないように撃ってきている。着弾観測も無しに恐るべき精度だ。
「くそっ!!なんなんだ・・・」
悪態をつくレイジ。 進撃しようにも次の砲撃が気になって迂闊に動けない。 そんな時だった。
──タッタッタ
 誰かが駆け出す音がした。 砂煙に覆われて周囲が見えないので誰が駆けているのか解らない。 その音にレイジは「迂闊だ!!」と叫んだ。
しかし返答は帰らない。 代わりに聞こえてきたのは「Q~!」と言うおなじみの戦闘員の声。 しかしいつもとニュアンスが違う。この声が悲鳴と気付くのにレイジは数秒を要した。
 「れ!レイジ様!!」
 続いて聞こえてきたのはシャドーローズな悲痛な声。 砂煙の中を匍匐前進で進むレイジが見たものは・・・

 「秘密結社Q!!! 人質は返してもらったぞ!!」
 晴れてきた砂煙から現れたその姿は、何処から持ってきたのかは知らないが大型のリヤカーを引っ張っているタガメンダーの姿であった。 そしてリヤカーの荷台には人質としていた子供達といまだ意識の戻らないメタモルVの姿であった。
 そしてリヤカーの背後には砂浜に倒れる人質を見張らせていた3人の戦闘員と力なく座り込んでいるシャドーローズの姿であった。
 「あ!テメ~、それウチ(秘密結社Q)の備品移動用のリヤカーじゃねえかっ!!」
とっさに出た言葉が備品の事。普通なら「貴様!いつの間に!!」とか言うのが常套句なのだが、貧乏所帯の秘密結社Q。 そうはならない所に魅力を感じた。
恐らく備品(スイカ割やらの道具やビーチ用のパラソル等)を運んできたリヤカー強奪し、そこに人質を乗せたのだろう。 タガメンダー1人で全員を移動させる為には正解といえた。

「先ほどの砲撃は、人質救出するための支援砲撃!! 正義に目覚めた今の私にはそれが解った! この隙に子供達を救えとの天の・・・いや、仲間の声に導かれたのだ!!」
 タガメンダーはキッ!とレイジ達を睨みつけ言い放った。 言葉も介さず、僅か3発の砲撃で意思を汲み取ったのだろう。 砂煙と砲声でレイジやウニアトムの動きを封じている隙に人質を救出せよと・・・
 まさに『正義』ならではの技といえよう。 傷つき消耗したタガメンダーといえど、僅か3名の戦闘員など奇襲攻撃を仕掛ければ、あっという間だ。
 「あとは『彼女』に任せるとしよう!! さらばだ!!」
そういい残して、1054馬力のパワーをフルに活かしてリヤカーを引っ張りその場を離れるタガメンダー。 車輪を転がすには不向きな砂浜でも1054馬力を駆使すればあっという間に牽引できる。 レイジ達が声を上げるまもなく瞬く間に砂浜から姿を消すタガメンダーと人質達。

 「おのれ・・・だが、貴様らには戦闘力など残っておるまい!! ──!? 『彼女』だと?」
 彼女と言う言葉に引っかかりを感じるレイジ。 一体誰の事だ?
 「レイジ様!! おふせください!!」
突如レイジの傍にウニアトムが駆け寄り、強引に伏せさせられた。 伏せたコンマ数秒後、砲弾が頭の上を通り過ぎるのを確かに感じた。
 「あ・・・あぶな・・・くそっ!!誰が撃ってやがる!!」
顔面砂まみれになりながらも悪態をつくレイジ。 自慢の黒のチャイナドレス状の衣装を砂まみれにしながらシャドーローズが匍匐でレイジによってきた。 手には双眼鏡が握られていた。
 「レイジ様、コレを・・・」
砂にまみれながらも双眼鏡を手渡すシャドーローズ。 受け取ったレイジが砲撃が放たれた方向を覗き見たそこには・・・・


 「くそっ!! 砲弾が上にそれた! 温まった砲身に冷却が追いつかない。」
 大砲を構えたメイド服の少女・・・恵は悪態をついた。 急場の武装で調整が完全ではなかったのがココに出た。
 そうとは知らないレイジ達は、先ほどからの戦闘や砲撃で出来た穴ぼこだらけの砂浜を塹壕代わりに身を隠して動こうとしない。 攻撃の手を休めるわけにはいかない。 こうなった己のカンと経験で砲撃を修正するしかない。
しかし、自分の支援砲撃は上手くいったようだ。 目論見どおり爆発と砂煙を煙幕代わりにしてタガメンダーが人質を救出してくれた。 邪魔はなくなった。今だ動けないほかのヒーロー達も村正姉妹が隙を見て装甲車へ避難させている・・・躊躇う事はない。今ココでまともに戦えるのは自分だけ。先手を取らなければ数に劣る自分の敗北は目に見えている。
 「次弾装填! APDSFSを選択!次弾も同じ!」
恵はそう言って、手にした長距離砲に砲弾を装填する・・・

 レイジの双眼鏡の先、そこには長い砲身をした長距離砲を構えたメイド服の女の姿・・・
長さ2m弱といった大砲を両腕でしっかり構え、長い砲身を安定させる為であろうか『08』と数字が振られた爪のような鋭い二つの突起を有した盾状の装甲版のような物体を地面に突き刺し、その上に砲身を乗せている。 先ほどからの砲撃はコレだったのか・・・と、レイジは呟いた。
 「しかし・・・・なんちゅう重武装だ・・・」
そこには先ほどまでのドリル少女とはうって変わったメイドがいた。 
ドリルと化していた右腕はいつのまにか人間と変わりない腕にすげ代わっていた。 そしてメイド服にまるで重武装の陸戦兵ごとき銃器と弾帯がぶら下げられていた。もうこれではドリル少女と言うよりは、重装メイドといったほうがしっくり来る姿であった。
 「正面からでは適わないと悟って、遠距離攻撃に切り替えたのでしょうか?」
シャドーローズの言葉にレイジは頷いた。 恐らくそうだ。先ほどまでの執拗なドリル攻撃はあくまでも足止めと陽動の為に行っていた。 その作戦が敗れた今となっては真正面からの攻撃は意味を成さないと踏んだのだ。 そこで先ほどのウニアトムの攻撃を利用し一度大きく間合いを取ったのだ。
恐らく間合いを取ったのは、今使用している火器を取りに行くためだ。 その時ついでに右腕も通常腕部に取り替えたのだろうとレイジは推測した。
 「しかし・・・一発で我々をココまで追い込むなんて・・・なんてAP(鉄鋼弾)なんでしょう・・・」
不安そうにレイジを見るシャドーローズ。残った戦闘員達も同じようなそぶりを見せる。
「落ち着け。さっき吹き飛んだのは止まっていた奴が狙われた。 次の砲撃はそれた、つまり奴の調整は完全じゃない。 それた砲撃を威嚇に利用されたに過ぎん。」
 そう言って、レイジは残った戦闘員とウニアトムに散会するように指示を出す。 戦闘力の無いシャドーローズは後方に下げさせる事も忘れない。
 「時間を与えてはこちらの不利になる。一気に攻めるぞ!!」
双眼鏡をのぞき見ながら、指と手の動きだけで細かく指示を出すレイジ。 ウニアトムと戦闘員、その手の動きに匍匐で動いて答える。
 「あのメイド・・・・撃ったらすぐに移動・・・。砲戦ってのを知ってるな・・・姿が見えない・・・けどな・・・」
そう呟き口元を緩ませるレイジ。
「いいか。 この砂浜は凹凸が少ない。 遮蔽物として利用できるのは、国道沿いまで下がった海の家ぐらいで、身を隠すには相当距離をとらなければ無い。 そこで、海の家以外で砲撃に適した部分は限られてる。 そこで予想される砲撃ポイントに準備射撃を加え、その後移動する。」
双眼鏡から覗き見て砂浜の状況はある程度わかる。 この起伏の少ない場所で身を隠す場所は水に潜るか、自分達とは反対側の国道沿いしかない。 だが水に潜れば砲撃は不可能。国道沿いまで戻るには時間がかかりすぎる。 馬鹿なやつめ・・・武装を取りにいった海の家付近は遮蔽物が多い。そこから砲撃すれば今よりもっと優位に事が進めたのに。
人質救出のためにあえて不利なポイントから砲撃したな・・・つくづく正義と言う奴は効率の悪い行動を取りたがるものだ・・・
「今双眼鏡で見渡して、砲撃に適したポイントはあそこと・・・あそこだ。」
人差し指で砂浜の一部を二箇所示すレイジ。 その二箇所にはコレまでの戦いでついた爆発や攻撃で窪んだクレーター状になっている。 身を隠す塹壕としてはうってつけだ。
「あの二箇所に準備射撃を加えるぞ。」
だがその言葉にシャドーローズが反論する。しかも凄く言い出しにくそうに・・・
「そうは申しましても・・・そんな曲射が出来るような飛び道具が何処に?」
「・・・・確か戦闘員用の対地ランチャーあったよな? あれ・・・持ってきてないのか?」
「あんな高い装備、おいそれと現場に出せるか・・・と、総統が仰って・・・今日は・・・」
嗚呼・・・貧乏所帯の辛い所。 流れが勝機ありと感じた矢先にこれかい!とレイジは心で泣く。
 「あ・・・そうだコレがあった。 コイツを代わりにしよう・・・」
そう言ってレイジが取り出したのは市販のロケット花火。 これも立派な秘密結社Qの攻撃用装備の一つである。 
「こいつなら曲射出来るし・・・はったりぐらいにはなる・・・かな?」
力の無い笑みを浮かべ、数人の戦闘員に3本ずつ手渡し、構えさせた。
「よし!ロケット花火の射撃後、コチラの間合いまで一気に進撃するぞ!!」
100円ショップで購入した安ライターで花火に火をつけるレイジ。 パヒュッ!!と言う音を上げ、20本近い数のロケット花火が、潜んでいるであろうメイド目掛けて放たれた。
 「よ~しっ!! GOっ!!」
レイジの号令の元、放たれたロケット花火のあとを追うようにレイジはウニアトムと戦闘員達と共に駆け出した。

 (はじまった・・・コレからが本番よ!)
レイジの予想は間違っていなかった。 ロケット花火が放たれた二ヶ所のうち、一ヶ所に恵は長距離砲を構えていたからだ。 ロケット花火が見えた瞬間、すぐに移動した。いつまでも同じ場所にいるのは砲戦にとっては命取り。すぐさまセカンドトレンチ(次の砲撃場所)へ移動する。 勿論移動中も砲撃の手は休めない。 動きながら撃つので、反動が大きい先ほどまでの鉄鋼弾は使えないが、かわりに曲射(山なりに撃つ射撃)が出来る曲射榴弾を装填し、砲身を上に向けて放つ。 恵は元々ドリル戦闘よりも、こういった射撃兵装を用いた戦いを得意としていた。 ドリルはあくまでもライバルであるなみと戦う為にあわせたに過ぎない。
(私はなみの真似をしながら戦う事しか考えてなかった・・・)
何発目かの砲撃の後、持ち前の身軽さと足の速さを駆使して砂浜を走り回る恵。 長距離砲を構えているので、その足取りは通常より遅い。 だが、戦闘員やウニアトムに比べれば雲泥の差だ。 それに僅かばかり嬉しさもあった。今までのDOLLファイトは非合法の為、閉鎖された空間でのみ戦ってきた。だが今は空間の制限無く動き回れ、自慢の火器を思う存分扱える歓喜に満ちていた。
(なみが求めたのは、子供達を救い、仲間を助ける事!! そして・・・私は私なんだ!!)
そう感じたからだ。 なみの真似をしても仲間を助けられない。 なりふり構ってられない!!自分は自分の戦い方がある!!
 それだから、ウニアトムの攻撃を利用して一度大きく間合いを取った。 万が一のためにと持ってきていた自分本来の腕と武装。
こっそり海の家に隠していたのをとりに行き、装備を整えた。 DOLLファイトでは使えなかった装備まで身につけた。
 「これが本来の私の戦い方なんだ!!」
 全身につけられるだけの火器を身に着けて、まさに「フルバレット(全弾丸)」と化した恵はさらに大きく一発放った。


 「くそっ!武装の割には、すばしっこい奴だ」
悪態をつくレイジ。 ウニアトム達には「絶えず動き回れ!」と指示を与えて走っているが、向こうのほうが足が速い。 
──ヒュンッ!!
 風を切る音がした。 瞬時に身をかわすレイジ。先ほどまで自分がいた場所に砲弾が通り過ぎた。
 「止まったらカモだ!!」
 動きを止める事無く駆け続けるレイジ達。 勿論ただ走り回っている訳ではない。地形とメイドの動きを読んで、戦闘員達に回りこませるようにと指示はしてある。
 「!?」
次の砲弾は先ほどまでと違っていた。 着弾した瞬間、地面が燃え広がったのだ。 焼威榴弾とか言う奴だ。 自分の目の前にいきなり炎が立ち上がったので動きを止める戦闘員が一人いた。
 「止まるんじゃない!!」
だが遅かった。 次の砲声がした時には「Q~!!」と言う悲鳴を上げて吹き飛ぶ戦闘員の姿があった。 残りの戦闘員は5人・・・
 「くそっ!!このまま各個撃破されてたまるか!!」
 「Q!!QQ!!」
苛立つレイジに一人の戦闘員が呼びかけてきた。 訳すると「レイジ様!見つけました!」と言っているようである。
 「死んでも離れるなぁ!!」
 その戦闘員は、数少ない火器である「花火バズーカ」を持っている。 ※花火バズーカとは、イベント等で打ち上げられる花火とその筒を手持ちの武器にした物である。
 戦闘員から放たれた花火がメイドの長距離砲に当たるのがレイジには見えた。 着弾の瞬間、彩り豊かな光と破裂音の中、メイドは長距離砲を手放してしまった。とっさに「08」と書かれた小型シールドで身を守っている。
 「Q!!QQQQQ!!!!」
訳すると「やった!足を止めました!!」となる。 確かに長距離砲を失ったメイドは、花火の破裂から身を守るのが精一杯のようだ。
 「近づいて仕留めろっ!!」
 その言葉に、戦闘員は「黄金ハンマー」と言う大型の木槌を持ってメイドに迫った。

───ドガガガガガッ!!!
 突然メイドに迫っていた戦闘員がまるでラッシュを浴びたボクサーのようにのたうった。 そして体の真正面から無数の穴が開き、そこから煙を吹いて倒れた。 戦闘員残り4人・・・
 突然の銃声。メイドは武器を失った長距離砲から、円盤型のマガジンを持つ機関銃に切り替えていた。先ほどの戦闘員はこれを食らったのだ。
 「コイツはまずいぞ! 全員一度距離をとれっ!!」
 レイジが叫んで、間合いを空けようとするが、向こうの反応の方が速い。 レイジ目掛けて機関銃を放ってくる。
 ──チッ
 レイジの左足を銃弾が掠めた。 当たっていはいないので怪我の方は大したことがないが、これでレイジは動けなくなった。 それを見てメイドが右手で機関銃を撃ちながら、左手でスカートの後ろをまさぐっている。 なんだろう・・・いやな予感がする。レイジは冷や汗を流す事しかできなかった。 そして・・・それは的中した。
ス・・・ メイドが取り出したのは棒状の先にラグビーボールのようなものが付いた武器。 レイジは顔面蒼白になった。 それはレイジも見たことがあった。対戦車用のグレネード弾を発射する使い捨ての武器「シュツルムファウスト」!!
「ちょっとおおおおお!!!!」
パシュッと発射されたグレネード弾。 そして・・・・
 「どひ~!!!」
まるで漫画の1シーンのように両手足延ばして、大の字で吹き飛ぶレイジであった。

 パシッィ!! マシンガンを腰に戻し、背中に下げていた二丁のバズーカ砲を両手にそれぞれ構え持つ恵。 近くにいた戦闘員をコレの一撃で吹き飛ばす。 レイジは先ほど倒した。 ウニアトムを除けば戦闘員は残り3人。
 「雑魚め! 残りはどいつよ!!」
 バズーカを乱射しながらも、細やかに動き相手との一定の距離を保つ恵。 数の上では圧倒的に不利だが、こちらの方が足は速いし火器の類ではこちらの方が圧倒的に上だ。
少数で大勢と戦うには、自分の得意な場所にもって行き、そこで分散した所で叩くのが基本だ。 勿論向こうもそれは判っているので、包囲して仕留めようと回り込んできた。だが、こちらが飛び道具を得意としていることに気付いていなかった。恐らくドリルによる正面攻撃は無理と悟って、遠距離に急に切り替えたので、射撃は不得手と感じていたのかもしれない。 それは間違いだ。むしろ射撃戦のほうが恵の得意とするところ。 なみに扮していたのが功を要したか。
む!取り回しの悪いバズーカの隙を狙ってか、軽量級のアメフト選手のように小刻みに動きながら接近する戦闘員が一人。 恵は左手のバズーカを捨て、腰に下げていたものを一つ手に取り、それを投げた。 それは球体に多数の円柱型の突起がついた物体。
放り投げると、それは空中で突起が弾け飛び爆発した。 手榴弾の類「クラッカー」だ。この一撃で戦闘員が一人吹き飛ぶ。残り2人・・・
 「こいつで吹き飛べっ!!」
残り二人の戦闘員は、一緒に行動している。まとめて倒すチャンス。 右足に括り付けたミサイルポッドの出番だ。 3発のミサイルが白煙を上げ発射され、近づいてくるミサイルに驚き逃げようとする戦闘員に襲い掛かった。 戦闘員全滅だ。
 「残すはっ!!!」
 弾切れとなったバズーカの一つと右足のミサイルポッドを排除、身軽になった恵は、もう一丁のバズーカを構え、自分の目線の先をにらみつけた。 そこには重量級ゆえ、他の戦闘員やレイジとは一歩遅れていたウニアトムであった。
 「第2ラウンドのゴングよ!!」
ゴング代わりか、バズーカをウニアトム目掛けて発射した。
だが弾速の遅いバズーカの砲弾をウニアトムは易々とかわす。 だがかわした直後に銃弾の雨が来た!! バズーカを放った後、すぐに恵はバズーカを捨て、マシンガンを構えて駆け出したのだ。 そしてウニアトムのよける場所を先読みしてマシンガンを放った。 思惑通りマシンガンの弾はウニアトムに命中だ。
しかし、元々防御力の高いウニアトム。 このぐらいでまいる事はない。

 「そんなヘナチョコ弾!1発ぐらいどおってことないアト~ム!!」
防御力の高さを自慢するように胸板を叩くウニアトム。 だが恵も諦めていない。そんな言葉を無視して撃ちまくる。
 「1発でダメなら・・・・100発当ててやるっ!!」
 足の速さと飛び道具の間合いの広さのみを頼りに恵はマシンガンを撃ちまくった!!


 「す・・・凄い。 あんなに速く走り回りながら弾をあてている・・・」
負傷したサイバーヒーロー全員をようやく装甲車に乗せ終えた村正姉妹の姉の方、彩が恵の戦いを見ながら驚いていた。 自分達も銃器を武器にするが、あそこまで駆け回りながら的確に相手に当て続ける攻撃が出来るとは思えないからだ。
 「だけど・・・だけど・・・奴は・・・」
そう。あれだけ銃弾を食らっても、ウニアトムのダメージは・・・。 勿論0という訳ではない、確実に蓄積しているのはココから見ても判る。
恵のマシンガンの銃弾は確実にウニアトムの外装を削っているが、致命傷とは言い切れない。 足の速さと飛び道具の間合いでウニアトムの間合いに入ることなく、攻撃を加えている。
傍目には、恵が一方的にウニアトムを攻めているように見えるが、じりじりとウニアトムが間合いをつめている。 もしウニアトムの間合いに入ってしまえば恵の勝利は無い。
「このままじゃ・・・なみちゃん・・・」

 「うおっ!!」
──ブンっ!!とウニアトムの腕が恵の頭を掠めた。 危ない・・・とっさに間合いを開く。相手が一歩前進すれば、こちらは3歩下がる。 神経をすり減らす攻防が続いた。ウニアトムがコチラのスピードに慣れてきだしたのだ。
 必死に間合いを開け、マシンガンを撃ち続ける。ダメージは蓄積している。だが決定打が無い。 加えて・・・・
 「ちくしょう・・・なんて硬さなの・・・」
クラッカーを投げ、ひるませたその隙に予備のマガジンと交換する。 もってきたマガジンもあと一つ。
 「反則かぁ!!コイツ(ウニアトム)はあっ!!」
それでも撃ち続けるしかない。 だが残弾は残り僅か・・・
 (このままじゃ・・・こっちの弾が先に尽きる・・・)
  (どうする・・・? 私にあと何が残されてる・・・何が・・・)
自問自答する恵。 だがマシンガンの残弾は少なく、クラッカーも尽き、他の火器は使い切った。 残すは腰に下げたもう一つの武器・・・・
 「これしかないっ!!」
──ダッ!!
 恵は後退をやめ、マシンガンを撃ちながら真正面から駆け出した。 その光景は誰が見ても無謀としか言いようが無かった。

 「やめてなみちゃん!! 防御力とパワーは向こうのほうが圧倒的に上なのよっ!!」
彩がほとんど悲鳴に近い声を上げた。
 言う通りだ。幾らダメージが蓄積しても、マシンガン以外さいたる武器の無い恵が真正面からぶつかっても勝ち目は無い!!

 (狙うは・・・・)
マシンガンの銃撃にバリバリと外装をはがされていくウニアトム。 しかし外装が幾ら被弾しようとウニアトム本体のダメージはほとんど0に等しいのだ。
 「捕まえたぞ!!」
ぐわっと腕を伸ばし、ついに恵を捕まえたウニアトム。 その内部メカニックを晒した姿はさながら人体模型か。
 「手こずらせてくれたな!! 握りつぶしてやるアト~ム!!」
がっちりと恵の胴を掴み、ギリギリと力を込めるウニアトム。
 「最後だアト~ム!!」

 「貴方がね。」
──??
 恵の言葉にウニアトムは一瞬理解が出来なかった。 恵は腕を振った・・・左腕にはマシンガン。そして右腕には灼熱に燃える手斧があった!!
 「わああああ!!!!」
恵絶叫!! これが恵に残された最後の武器、赤熱化した刃で相手を切り裂く灼熱の斧「ヒートホーク」!!
 この至近距離。 銃撃によって裂かれた外装。そしてさきほどなみによって砕かれた頭部装甲の裂け目。 そこ目掛けて恵の斧は喰らい付いた。

 「そ・・・そんな・・・最強怪人ウニアトムが・・・」
情けなく吹き飛ばされ、砂浜に叩きつけられたレイジは、戦闘不能となりシャドーローズに介抱されている戦闘員達と一緒に、泣きそうな声を上げた。
だが、彼の視線の先には両膝を付き各坐したまま動かないウニアトムの姿であった。 ウニアトムの頭部にはざっくりと眉間の近くまで食い込まれた赤く輝く斧が確かにあった。
 「き・・・来ます・・・レイジ様・・」
シャドーローズが怯えた声を出した。 ウニアトムに食い込んだ斧をそのままに、力を失ったウニアトムの腕から放たれたメイドが、キッ!!と、自分達を睨んでいた。
そして、残った最後の武装であろうマシンガンのマガジンを交換すると、ゆっくりとした歩みでこちらに向かってくるのが見えた。
 「こちらには・・・ヤツに対する手段は・・・ない・・」
とにかく逃げるしかない。 今ココで戦える者は誰一人としていない。 あのメイドのマシンガンで全員蜂の巣にされるのがオチだ。 数少ない望みは自分達を運んできた装甲バスを取りに行った戦闘員が戻ってくるの事だけだ。 しかし例え戻ってきたとしても、戦闘員一人と装甲バスの戦力であのメイドと戦える保証は無い。 せいぜい時間稼ぎがいいところだ。
 「に・・・逃げるぞ!! 今はとにかく逃げるしかない!!」
レイジはその場にいた全員に呼びかけた。 もう人質も最強怪人もいない。自分達の勝利は完全に0だ。 生き残る為には逃げるしかない。
 レイジの命に秘密結社Q達は痛む身体を揺り起こし、装甲バスが停まっていたであろう場所に向けて駆け出した。

 「逃がすかぁっ!! コッチにはまだお前達をしとめられるだけの弾はあるんだ!!」
 マシンガンを構える恵。 短~中距離用のマシンガンだが、フラフラしてまともに逃げる足も残っていないレイジ達を仕留めるのは簡単だ。
 「くたばれ!!」
そう、引き金を引こうとした瞬間。恵の身体は両脇から物凄い力で締め上げられ、持ち上がった!!
 「なっ!?」
信じられない光景だった。 振り返った恵が見たのは、正面の外装がほとんど脱落し、頭部に斧が突き刺さったまま、自分を締め上げるウニアトムだった!!

 「ほんと・・・惜しかったなぁ・・・アト~ム。 アレぐらいで倒したと思うな!!」
ほとんど執念としか言いようの無いウニアトムの力。 掴まれたまま、何度も何度も砂浜へ叩きつけられる恵。 何度目かの叩きつけにマシンガンのマガジンが外れてしまった。 銃に残っているのは装填してある一発のみ!!

 「・・・・テメエなんざぁ!!!」
何度目かの叩きつけられる直前、大きく振りかぶったウニアトムの一瞬に恵は大きく叫んだ。 そしてマシンガンの銃口をウニアトムの開いた口の中に叩きつけるように突っ込んだ!! いかに外装が強靭で、頭部が半壊していようと、人間を模している以上、口が中枢と繋がっている事は違いない。
 「一発あれば十分だぁぁぁぁっ!!!!!」
───ガオオオンっ!!!
 一発の鈍い銃声が鳴り響いた。 そして・・・・

 膝が崩れた。
  両腕から力が抜け垂れ下がった。
   全身から火花を上げた
    そして・・・軽い爆発音を上げ、煙を吹いたウニアトムは・・・二度と動く事はなかった。

 「はあはあ・・・・か・・・勝った・・・勝ったよ・・・なみ・・・」
ウニアトムを倒した恵も、数歩だけ歩いた後、マシンガンを手にしたままその場に蹲ってしまった。 もうなんの力も残っていないのであろう。 大きく頭がうなだれる。 そして・・・その衝撃で、頭部のカチューシャごと・・・黒髪のカツラもはずれ、恵本来の赤いショートヘアーが姿を現した。
 そこにはスパイラルなみと名乗ったドリル少女の姿は無く、ただボロボロになったメイド服を着た赤いショートヘアーの少女がマシンガンを持って座っているだけだった。
 「やっぱり・・・なみちゃんじゃなかったんだ・・・」
村正姉妹の妹の方、宮乃がカツラの外れた恵を見てそう呟いた。 おかしいとは思っていたのだ。『ドリル少女』をあれほど自称する彼女が、戦況が不利になったとはいえ、ああも簡単に自分の命ともいえるドリルを手放すとは思えなかったからだ。
 「お姉ちゃん・・・あの子誰なんだろう・・・」
宮乃は隣にいる姉に不安そうに尋ねた。 だが姉の彩は工具箱を持ってゆっくりと恵に歩みを進めた。
 「・・・彼女はなみちゃんよ・・・。 今は・・・それでいいじゃない。 彼女はあそこまでボロボロになって戦ってくれた、私達の仲間よ・・・違う?」
 姉の言葉に宮乃は「ウン!そうだね!」と、笑顔を作り姉と共に恵の元へ向かった。誰であろう、彼女は「スパイラルなみ」として『悪』と戦ってくれた。 今はそれだけで十分だ。 村正姉妹は長船ならそう答える・・・と思った。
やがて二人は意識を失っている(?)恵にカツラを被せなおすと、そのまま彼女を抱えて仲間が待っている装甲車へと向かった。
 彼女達は恵を装甲車へ乗せる際に周囲を見渡すと、いつのまにか秘密結社Qの姿が消えている事に気付いた。 恵が意識を失ったのを見てその隙に退散したんだろう。 まったく逃げ足だけは速い。 ボロボロになったウニアトムの残骸すら回収していない所を見ると、よほど切羽詰っていたのだろう。
 「・・・できれば、私達もアイツを回収したいところだけど・・・」
ウニアトムの残骸を見てそう思った。 貴重な情報源であるし、このままにしておくのは危険だ。 だが・・・
 「今の私達に・・・そんな余力・・・ないしね・・」
彩は悲しそうに呟き、装甲車の運転席に座った。 今はとにかく負傷したみんなを救う事が先決。 はやく基地につれて帰り治療しなければ・・・
ウニアトムの事は、後でライオットかモモヴァルスに頼めばいい。 秘密結社Qがらみなら新東京の治安組織である特甲隊も回収に動いてくれるだろう。
 そう考え、彩は装甲車を発車させた。 荷台や座席にボロボロになったサイバーヒーローたちを乗せて・・・
 そして・・・基地への帰途の中、彼女は考えた・・・このままじゃダメだと・・・

 (このままじゃダメだ・・・。今の私じゃみんなのサポートしか出来ない・・・)
それは妹の宮乃も同じだった。
 (力・・・。私達も力が要る・・・。せめて・・・長船さんを支えてあげるだけの力が・・・)


そして・・・海岸にはだれもいなくなった。
その夕暮れの海岸に両膝をついたまま動かず、放置されたウニアトムの残骸だけが残された。
だが、そのウニアトムの残骸に近寄る人影があった・・・
 
 「中枢部に直接的なダメージは無い・・・。動力と運動制御系が断裂されたにすぎない・・・」
 若い美男子がウニアトムに手をふれ、そう呟いた。 そして・・・男の片腕には特殊なカプセルが抱えられており、中は凍結処理された・・・・ガルファーのヘルメットがあった。
そう・・・この男は、秘密結社Qに資金提供し、ガルファーのデータを集めていた悪の秘密結社『ジェネレーション・キル』の一員、レイピアであった。
 彼はガルファーのヘルメットを手に入れた後、すぐには帰還せず、ずっとサイバーヒーローと秘密結社Qの戦いを見ていたのだ。

 「流石に最強怪人を自認するだけのモノです・・・。総統にいい土産が出来ましたね。」
その言葉を最後に、レイピアの姿は消えた。 まるで霞のように・・・
そして・・・ウニアトムの残骸も同じようにレイピアと共に消え去っていた。



 次回予告

 最強怪人を失った秘密結社Qだが、これでこりるような奴らじゃない!!
次なる奴らの目論見とは!?
 それはTVゲーム!! デジタル世代を釘付けにする秘密結社Qの恐るべき罠に、ムーンライトレディは絶対の危機を迎える!! どうするガルファー!?
 次回、サイバーヒーロー作戦 第20話 『恐怖のTVゲーム洗脳作戦!!』
 次回も恋愛ゲームがすげえぜ!!

 長船「ところで・・・恵ちゃんって、誰?」




 続く!