第18話『決着、最強怪人』


 <前回までのあらすじ>

 30世紀の悪の組織『革命組織ジェネレーション・キル(以降GK)』の依頼によりガルファー討伐を依頼された秘密結社Q。
 秘密結社Qは、GKより提供された技術と予算を用い、『火炎怪人ジゴクバースト』『コウロギ&ゴキブリ合成怪人コクロコオロギン』『サザエ怪人ゴザイマンサザエ』『ミサイル獣人ミサイルジャガー』『麺類の怨霊ニューメンソーメン』『タガメ怪人タガメ男』『原子力の申し子ウニアトム』の7人の最強怪人を造り出した。

 秘密結社Qの若き幹部レイジの策によって、TV局に社会化見学中の小学生一クラスと教師、そしてそれを助けようとして逆にレイジの前に敗れ去ったメタモルVが人質となった。
 「助け出したくば舞浜までガルファー一人で来い」と、罠と知りながら一人立ち向かうガルファーだったが、レイジの罠、そして最強怪人の強さの前に、最強怪人の一人『ジゴクバースト』を倒したところで力尽きた。
 体力気力、そしてエネルギーを消耗し、変身する能力さえ尽き、絶体絶命のガルファーに、仲間達が駆けつけた。
 そして、サイバーヒーロー達と最強怪人たちの戦いが始まった。
 
 レンタヒーローはコクロコオロギンと・・・
 宇宙探偵ディバンはゴザイマンサザエに。
 ムーンライトレディはミサイルジャガー
 ジガはタガメ男と。
 ベラボーマンはニューメンソーメン。
最後にスパイラルなみはリーダー格のウニアトムとの戦いに挑む!!
 ・・・・・が、さすが最強怪人と言うだけの事はあり、ヒーローたちは大苦戦!!
 硬い表皮と油ぎった身体を持つコクロコオロギンにはレンタヒーローの技が通用しない!
 磯を味方につけたゴザイマンサザエの武器にディバンは防戦一方!
 ミサイルジャガーの非道さにムーンライトレディの怒りが燃える!
 正道を突き進むタガメ男が突如暴走!ジガの前に現れた謎の少女はいったい・・・?
 2体の怪人の合体だったニューメンソーメンに突如2対1の戦いになり苦戦するベラボーマン!
 そして・・・ウニアトムの強力過ぎる原子力パワーの前に、なみとその仲間達は成す術なし! なみがとった捨て身の大技の結末は・・・

 「ってな所で今回のお話は始まるダス。」
と、謎のボディビルダーの一人、イダテン氏のコメント。
 「アニキ〜、あっしたち助太刀に入らなくていいですかい?
 謎のボディビルダー、アドン&サムソンの言葉にイダテンは・・・
 「仕方ないダス! オーナーが「今度はどこぞのショッピングモールがゾンビに占拠されたから、また稼ぎ時だ」とか言って、オラ達解雇して日本離れちゃったから、また食い扶持確保しなきゃならないんダスゥ〜!!」(号泣)
 「だからぁ・・・御剣博士んトコで厄介になりやしょうよぉ・・・アニキ。」
 「そうすっよ・・・宇宙船も置かしてもらえるし・・・」
 そう言うアドン&サムソンは脂肪分ゼロのカロリースティックを味気なさそうにかじりながら訴えていた。
3人がいるのは、古都鎌倉の山の中・・・。 神隠し(魔物に襲われる)の影響ですっかり人が近寄らなくなった山の中で3人は、所有(強奪してきた盗品)している小型宇宙船を根城にする生活を強いられていた。
 以前は東京浅草の地下深く、帝国華激団の基地跡を根城にし、それなりの生活を送れていた。
だが3人を雇っていてくれた武器商人が海外へ出て行ってしまった。 また基地跡の水道と電気の源であった宇宙船ソードフィッシュを長船たちが運び出してしまった為、地下基地跡での生活が出来なくなってしまったのだ。
 長船たちは、ソードフィッシュはメタモルV長官である大紋寺が利用しているHUMA基地跡へ移送する際に引っ越したらどうだ?と、薦めてくれたがイダテン達は断った。
 イダテン達の上司(?)であるインド仏教三大神の一人であるブラフマーに『影から彼らを助けるように』と厳命されていると言う理由からで。
 「つまりオラ達は、黄門様を助ける風車の矢七みたいなモンダスよ。」
と、かっこつけたはいい物の、この世界の物価の高さに、オーナーから退職金にと渡された金銭はあっという間に底を付いてしまった。
 結果・・・こうした世捨て人じみた山篭り生活を強いられていたのだ。 そのおかげで日々の食い扶持を確保するのが精一杯と言う有様で、本来の役目であるサイバーヒーロー達の支援が何一つ出来ていないのが現状であった。

 「とにかく!今は自分達が生き残ることを考えるダス! 大事の前の小事! 向こうに何人もいるんだから大丈夫ダスよ! さあバイトの時間ダス!」
 そう言って3人はいそいそと出かける準備を始めた。 彼らの辞書に『自己犠牲の精神』と言う正義らしい文字はなかった・・・



 「どうした!もう終わりか!?」
コクロコオロギンが自慢の太い腕を振りかざし迫ってくる・・・。 レンタヒーローは身構えつつも動かない。 見定めているのだ。 厚い表皮に覆われ、脂ぎっているコクロコオロギンには自分の技は満足に通用しない。 チャンスは一度、気を逃せば勝機はない。
 「(狙いは・・・・あのわき腹の裂け目!!)」
レンタヒーローはHDDの奥でコクロコオロギンを睨み続けていた。 彼の視線の先にはコクロコオロギンの左わき腹につけられた裂け傷が。
 レンタヒーローは知らなかったが、そここそガルファーが最後の最後にはなった一撃の跡。 硬い表皮に覆われたコクロコオロギンを倒すにはそこを狙うしかない。
 目の前には助走をつけこちらに腕を振りかざし迫るコクロコオロギン。 もう少し・・・もう少し腕を振り上げろ・・・
 レンタヒーローは心の中で呟き続けた。 今ではダメだ・・・もう少し・・・と。 そして・・・来た!
クッ・・・・レンタヒーローを腕の射程に収めたのか、コクロコオロギンが腕の振りを広げた。 そこには僅かだが脇腹への隙が出来る。
 クワッ!!───目を見開いた。 チャンスは今だっ!!
火器攻撃が俺にはない!? 馬鹿にするな。火器の類なんかなくてもそれに変わる技や武器はあるんだ。 今それをお前に見せてやる。
 「フラッシュ・フォース!!」
ダンッ!! レンタヒーローは右腕を思い切り地面にたたきつけた。 次の瞬間、叩き付けた拳を基点として、砂浜に稲妻が地を走る! その稲妻はまっすぐコクロコオロギン向けて突き進む。
 「ガアアアア!!!」
レンタヒーロー向け攻撃態勢に入っていたコクロコオロギンにこの稲妻を避ける手だてはない。 稲妻をモロに浴び全身に電流が走りもだえ苦しむ。

 「そ・・・そんな・・・奴に火器・・・が?」
信じられない事だった。 データによるとレンタヒーローには火器の類は一切なかったはずだ。 それゆえ絶対の自信を持って奴に挑んだ。 だが今のは・・・間違いなく飛び道具の類・・・奴にそんな武器が・・
電撃を浴びプスプスと体のあちこちからいやな匂いと共に煙を上げながらコクロコオロギンは自分に起きた出来事が信じられなかった。
 だが現実にレンタヒーローから放たれた攻撃は自分をここまで追い込んだ。

フラッシュフォース・・・火器の無いレンタヒーローの唯一といっても良い飛び道具にして必殺技の一つ。 レンタヒーローのスーツの動力は電気。 そしてこのフラッシュフォースは電気エネルギーを拳に集約させ相手に放つ技だ。 射程は長く高い威力を誇るが、電池の消耗が激しいと言うリスクも存在する。

 「聞け!コクロコオロギン!」
電撃のダメージから抜けられないコクロコオロギンに向け、レンタヒーローは凛と叫んだ。
 「いかなる理由があろうと、子供達を人質にするなど・・・許されんっ!」
スウ・・・レンタヒーローの右腕をまるで刀を鞘から引き抜くような仕草をすると・・・レンタヒーローの右手は光り輝く電気の剣となった。 そして電気の剣を輝かせコクロコオロギンの脇腹向け空手チョップの要領で振りかざす!
 「ソード・・・・フィニッシュっ!!!」
ズバッ!!──輝く電気の剣はコクロコオロギンの脇腹から上半身と下半身が綺麗に真っ二つに裂かれた。 コクロコオロギンがそれを自覚するにはコンマ数秒の時間を要した。
 「そ!そんな・・・!! この我輩が!秘密結社Qの最強怪人の一人たる我輩がぁぁぁ!!」
ドカァァァンッ!! 舞浜の海岸に爆音と共に火柱が上がった・・・

 「やったぁぁ!!」
舞浜の海岸に人質となった子供達と倒れた長船を介抱している村正姉妹が声を上げた。 まずは一勝だ!
 逆に表情を一変させうろたえるレイジ達秘密結社Q・・・。
 「そ!そんなぁ・・・」
 「レイジ様、これは・・・ピンチと見てよろしいでしょうかね?」
そんなレイジ達をよそに、村正姉妹の妹のほう、宮内がレンタヒーローめがけて何かを投げた。 レンタヒーローは受け取ったものを見る。 彼の手には新品の単三乾電池が。
 「やまださん! 急いで交換を!」
宮内の言葉にレンタヒーローは頷いてスーツの電池を交換する。 ピイインとHDDに表示されるエネルギーメーターが回復する。
 「よし・・・。 さあ!次はお前達だ!!」
回復したレンタヒーローがレイジ達に向けて叫んだ。



 レンタヒーローが勝利を治めた浜辺からやや離れた場所にある磯部。 そこでは宇宙探偵ディバンとサザエ型怪人ゴザイマンサザエの戦いが続いていた。
 磯の力を味方につけたゴザイマンサザエに苦戦するディバンだったが、鋼鉄のリボンでゴザイマンサザエを絡め取り、浜に叩きつけていた。
 「ル〜ルル、ルルッル〜♪ これで勝ったつもりか? 食らえ、つぼ焼きファイヤー!!」
絡めとられながらも、背中の巨大の貝の突起から火炎を噴射するゴザイマンサザエ。 コンバットスーツで全身を覆われているディバンでもこれはたまらない。
 「ぐわっ!」
炎のゼロ距離噴射に思わず怯むディバン。 だが放さない。炎に耐えながらゴザイマンサザエを押さえ続ける。
 「無駄な事を。 トドメを刺してくれる!!」
そう言うと、ゴザイマンサザエは突如身体をその巨大な貝の中に全て収めてしまった。 ディバンの目の前には人一人と同サイズの巨大なサザエがある。
 「いくぞ・・・」
まるで含み笑いしたかのような声がしたと思うと、巨大な貝はその無数の突起から炎を吹き上げ回転しながら宙に浮き上がった。
 「それえっ! 舞浜海岸炎のメリーゴーランドだ!!」
浮き上がり回転速度を速めるゴザイマンサザエ。 鋼鉄のリボンで締め上げているディバンもまるで飼い犬に引きづられている飼い主のように・・・・
 「それいっ!」
 「うわああああ!!」
回転速度を高めればそれだけ大きく振り回されるディバン。 メリーゴーランドとは良く名づけたものだ。 まさにその通りに振り回されている。
 「ははは!それだけでは終わらんぞ!」
今度は、身体を収納した場所から轟炎を噴射する。 まるでロケットのように飛行速度を増し周囲を飛び回る。
 「くたばれっ!」
ひきづられ、振り回されるディバンをいいように磯部に何度も叩きつける。 その衝撃にディバンはリボンを手放してしまい、磯辺の岩に激突してしまった。
 「うう・・・」
よろよろと立ち上がるが、それめがけてゴザイマンサザエが、某亀型怪獣よろしく回転しながら飛び掛り体当たり! またしても磯辺に叩きつけられるディバン。
 「うはははは!! どうだどうだどうだ!!」
磯辺の上を何度も飛び回り、体当たり攻撃を繰り返すゴザイマンサザエ。 既にディバンのコンバットスーツはボロボロだ。
 「ふふふ・・・次でお前の最後だ。」
 勝利を確信し、ディバンに向け、最後の体当たりを敢行するゴザイマンサザエ。 思い切り噴射速度を高めたこの一撃! 食らえばディバンもおしまいだ。
 「ふはははは!! しね〜い!」
迫りくる炎を上げる巨大なサザエ! だがディバンは逃げない。 もはや逃げる力も無いのか・・・そうではない!
 
 「いまだっ!」
激突する寸前、ディバンはゴザイマンサザエの一撃を紙一重で避けた。 目標を失ったゴザイマンサザエはそのまま磯辺に叩きつけられた。
 ゴオオン──ものすごい音を立て、磯をえぐるようにしてようやく止まったゴザイマンサザエ。 その衝撃に目を回したのか、収納していた身体を外に出し頭を押さえていた。
 「くう・・・やるではないか。 だがこの程度で私がやられるとおもっているのか?」
だが、返答は予想もしなかった言葉であった。
 「勿論さ。 お前は既にやられているんだよ。」
 「なんだと?」
 「周りを見てみな。」
ディバンに言われるがまま周囲を見渡すゴザイマンサザエは、『!!』と言葉を失った。
周りは確かに自分のホームグランドである磯。 それは間違いない。 だが周囲からはごつごつとした岩が転がり海水が・・・水が無い。
 「し・・・潮が・・・」
 「そうさ・・・潮の満ち干きさ・・・俺はコレをまっていたのさ!!」
しまった・・・ゴザイマンサザエは自分の迂闊さを呪った。 自分の強さは磯があってこそ、だがその磯が無くなれば・・・自分の力は半減してしまう。
 「さあ、どうする? 今度は今までみたいに波や海草は使えないぜ!」
 「ふざけるな! 磯の力が無くとも貴様を倒すにはコレで十分だ!」
再び身体を収納し炎を吹き上げはじめるゴザイマンサザエ。 だがその炎には前のような勢いが無い。 明らかに動揺している証拠だ。
 ディバンはレーザー点棒を構えた。勝機ありと・・・
 「死ねぇぇぇっ!!」
 炎を吹き上げ、ディバンの頭上から襲い掛かるゴザイマンサザエ。 だがゴザイマンサザエは知らなかった。その台詞とその『飛び』は幾多の特撮系怪人たちがヒーローにトドメを刺されるための『お約束』の飛びと台詞と言う事に・・・
 そして・・・ことはお約束通りになった。
 「ディバンクラッシュ!!」
空中から殆ど自然落下に近い状態のゴザイマンサザエを、ディバンの輝く剣は殻ごと一刀両断した。
 「ぶぁかなぁぁぁぁっ!!」
これまたお約束な台詞を吐いてゴザイマンサザエは爆発した。 そして・・・ぬんっ!と、浜辺と爆発をバックにこれまたヒーローとしてのお約束的な勝利のポーズを決めるディバンであった。

 「よし・・・みんなが心配だ。 戻ろう!モトアルファっ!!」
勝利したディバンはすぐに自分のバイクを呼び出す。 まだ戦いは終わっていない。



 半ば廃墟と化した舞浜のとある高校。 最強怪人の一人『ミサイルジャガー』の攻撃により、自慢の屋内プールも美しいキャンパスも見る影も無い。 ただ理不尽な暴力の前に破壊されてしまった。
 ムーンライトレディの3人は、目の前で口元を下品にゆがめて笑みを浮かべる漆黒のジャガー怪人に怒りと嫌悪感を覚えていた。
 だが、彼女達の怒りの目線に、ミサイルジャガーは何も感じてはいない。ただへラヘラとした罪悪感のかけらも見せない。 まるでたちの悪いチンピラか今風の不良少年だ。自分のしたことに何の疑問も罪悪感も感じない欲求を満たすためだけに行動する。
 それが一層の悪意となって彼女達を覆う。 目の前の怪人にはモラルや人間性というものが感じられない。 今までの悪の怪人には悪とはいえある程度のモラル等の『美学』と言うものが感じられた。
だがミサイルジャガーにはそれが無い。 前述したとおりに今風の不良がそのまま怪人の力を手に入れ、その力に喜び浮かれているような雰囲気があった。
 だが・・・そういった者の末路は決まっている。

 「くははは!! こうか?こうか?」
右腕のカギ爪を腕の内部に収納し、代わりに姿を見せたのはどう見ても銃口そのもの。 ミサイルジャガーのその銃口から放たれたのは銃弾でも砲弾でもない。 小型のミサイルだ。 ミサイルジャガーは笑いながらミサイルを撃ちまくっていた。 狙いなど定めてはいない。ただ単に面白がってミサイルをばら撒いてムーンライトレディが慌てるのを見て楽しんでいるだけなのだ。
 だがムーンライトレディの3人は臆す様子を見せなかった。 恐怖心より目の前に怪人に対しての怒りと嫌悪感がそれを上回っていたからだ。
 それは怖がりのムーンライトレディ・アルテミスこと日和子ですら、怖がらずまっすぐミサイルジャガーを睨みつけている。
 ここで怖がったりしたら、それこそミサイルジャガーの望むところだ。
 彼女達は身にまとうバトルドレスが持つ防御力を信じてじっと耐え忍んでいた。
 「ほう・・・おもしろいじゃねえか。 たいていの奴は今のでビビんのによぉ。」
だが、彼女達はキッ!とミサイルジャガーを睨みつけて、一言も悲鳴の類は発しない。 その態度がミサイルジャガーを苛立たせた。
 「つまんねぇ・・・おめーら!つまんねぇよぉっ!少しはビビれよ!!」
苛立ってガンガン撃ちまくるミサイルジャガー。 だが感情が乱れた攻撃はムーンライトレディにかすりもしない。
 「ケッたくそ悪りぃっ!」
 ついに苛立ちが限界にきたのか、バッ!とその場から駆け出した。 ジャガーの改造人間だけあって瞬発力はたいしたものだ。 あっという間に間合いが縮まる。
 「この距離ならはずさね!!」
駆け出しながら右手と両腰に装備された砲門から小型のミサイル乱射する。 盲目撃ちに近い状態だが勢いと破壊力はある。 それにミサイルの効果は着弾後の爆発破片効果にある。正確に着弾しなくとも、近距離で爆発すればその衝撃と破片でムーンライトレディにダメージは与えられる。
 ゴオオオン───
 凄まじい地響きと爆炎が周囲を覆う。 並大抵の奴ならばひとたまりも無いであろう。 ミサイルジャガーは流れる土煙を見ながら口元を緩めていた。
 が・・・・
 「何ぃ!?テメ・・・」
 キイイイン・・・・・
 土煙の中から甲高い音と共に現れたのは、地面に片膝をつき、両腕で胸の前でクロスさせ防御姿勢を取るムーンライトレディ・アルテミスの姿。 彼女のバトルドレスの両肩の一部が展開し、そこを中心に3つの光球が彼女の周りを回転しながらガードしていた。
 「ふざけんじゃねえ・・・・ふざけんじゃねえよっ!テメー!!」
怒りをあらわに・・・自分の思い通りにならずに大きく声を荒げるミサイルジャガー。 右手から更にミサイルを放つがアルテミスの光球に全て阻まれている。 それがミサイルジャガーを一層不機嫌にさせた。
 「殺す!マジムカついた!! テメー女と思って遠慮してやりゃ頭に乗ってるんじゃねえ!」
怒声をあげ、その場に跪き、アルテミスめがけて頭を垂れるミサイルジャガー。 怒りが頂点に達してるのに土下座・・・?
 否、ミサイルジャガーの背中には自分の背丈とほぼ同じ大きさの大型ミサイルが装備されている。 これがミサイルジャガーの最強にして最終兵器だ。
 一発しか撃てないうえ、相手に頭を垂れるような姿勢を取らざるを得なくなるため、ミサイルジャガー本人は使うのを拒んでいた。
 だが今回ばかりは別だ。 こんな小娘どもに馬鹿にされ黙っているわけにはいかない。 粉々に吹き飛ばしてやらなければ気がすまない。
 「コイツはおれ自身も今だ試したこの無い最強武器だ・・・どれだけの威力があるのかもわからねえ・・・楽しみだぜ。」
 ニヤッと笑みを浮かべ舌を舐める。
 「くたばりやがれ!!小娘ども!」
シュゴオオオ!!! 軍事基地の弾道ミサイル発射を思わせる白煙を上げ、背中から大型ミサイルが発射された。 狙いは真正面にいるムーンライトレディ!

 ばっ!──ムーンライトレディはアルテミスをその場に残し、アクエリアスとミネルヴァが左右に飛んだ。
散会して攻撃を回避すると言う作戦か・・・
 「馬鹿め!そいつは熱探知ミサイルでもあるんだ。 幾ら分散してもオメーラ一人のうち誰かは確実に殺れる!!」
 ミサイルジャガーの言葉通り、まっすぐ飛んでいたミサイルは急に向きを変えた。 真正面のアクエリアスではなく、散会したため自分の一番近くを移動していたアクエリアスに標的を絞ったようだ。 同時に散会したミネルヴァに比べ運動力が劣っているのを機械は確実に感じ取ったのだろう。 ミサイルはアクエリアスに迫る。 だが、ムーンライトレディの中でも・・・否、サイバーヒーローの中で屈指の理系的頭脳を持つ彼女にハイテク兵器をぶつける事の愚かさをミサイルジャガーには解っていなかった・・・

 「熱感知誘導ミサイル・・・目標物体の熱を感知して追尾・・・ロックオンにはオーソドックスなレーザー式を・・・」
 自らに脅威が迫りつつあるのに冷静に分析するアクエリアス。 彼女は急に立ち止まると、ミサイルに真っ向から向かい合った。力ずくで受け止めようとでも言うのか・・・。 理系の彼女にはそんな力押しな戦法は頭に無い。
 「ブルーフォッグシャドー!!」
アクエリアスは両腕を大きく広げ叫んだ。 すると彼女の周囲にリング状の青い光輪が現れる。 それは彼女の身を守るバリアーとなった。
 「ちっ!またバリアーか! だがな、俺のミサイルはそんなチャチなバリアーなんて屁でもねえ!」
叫ぶミサイルジャガー。 ミサイルをバリアーで防いでおいてから武器の無くなった自分を攻めようとでも言うのか?とあざ笑う。 だがアクエリアスはバリアーで身を包みながら次の行動で出る。
 「ダイアモンドカッター・・・・連射っ!!」
彼女は両手を左右連続して突き出し、氷の刃を連続発射する。 その氷の刃は自ら張ったバリアーに触れ次々と砕け散る・・・
 「バカか?何を考えて・・・なっ!?」
ミサイルジャガーはアクエリアスの行動に面食らった。 彼女にまっすぐ突き刺さると思われたミサイルが突如向きを変えたのだ。 まるでいきなり目の前からアクエリアスが消え去ったかのように。
 「なっ!? どういうこった!!」
 驚愕するミサイルジャガーにアクエリアスはニヤッと笑みを浮かべた。
 「熱追尾・・・だから・・・私の周囲の温度を下げたの。 目標からSETされた熱源が無くなれば・・・ミサイルは次の熱源にむかうわよね。」
 その言葉にハッ!とするミサイルジャガー。 その視線の先にはミネルヴァがいた。すると、ミサイルは今度はミネルヴァの方へ突き進んでいく。
 「ヴァーニング・・・サラマンダー!!」
ミネルヴァは先ほどアクエリアスが行ったと同じように、自分の周囲に火炎攻撃を仕掛ける。 ミネルヴァの周囲は炎に晒され、ミネルヴァの体温を覆い隠す。ミサイルは熱源を見失い。またしても進路を変えた。
 「こうなると・・・一番近い熱源は? 誰かしらね?」
ミネルヴァが意地の悪い笑みを浮かべる。 その言葉にミサイルジャガーは顔から血の気が引く。 一番近い人間体の熱源・・・それは、自分だ!!
 ミサイルは次の熱源・・・発射した本人めがけて突き進んでくる。 そしてミサイルジャガーは自分がミサイルのターゲットとなった事を感じた。
 「バカめ! ならミサイルを次の熱源まで誘導してやれば済む事じゃねえか!」
 そう言ってミサイルジャガーは、ミサイルに背を向け駆け出した。 その先にはアルテミスがいた。 アルテミスにミサイルを誘導しようというのだ。 狙い通りミサイルはミサイルジャガーとアクエリアスを直線状に追ってくる。
 「あの小娘にミサイルを誘導したら、俺は全力で離脱させてもらう! ジャガーの瞬発力を持つ俺には寸でで回避する事なんてたやしぃんだよっ!」
 そう言ってアルテミス目掛けて突っ込んでくるミサイルジャガー。 もうアルテミスは手が届く距離だ。
 「くたばれ小娘ぇっ!!」
バシイぃぃぃンッ!!───
 それはまるでコメディショーのような光景であった。 まるでコメディアンが目の前の透明なガラスに気づかず突っ込んで衝突するような・・・
 ミサイルジャガーは一瞬自分に何が起きたのか理解できなかった。 眼前にアルテミスを捕らえ、その頭上を飛び越えようとしたその刹那、壁に叩きつけられたような衝撃を味わった。
 「な・・・なんだ・・・」
痛む頭を押さえながら自分の状況を確認したミサイルジャガーは、己に何が起きたのか理解した。 それは透明なエネルギーで出来たピラミッドの中に閉じ込められている自分を!!
 「ま・・・まさか! この目の前のピンクの小娘がその場から動かなかったのは、このピラミッドに俺を閉じ込めるため・・・」
 その言葉に、アルテミスが「そうなの?ねえ〜アクエリアス、ミネルヴァ〜」と向けた声を出す。 その両者の問いにアクエリアスとミネルヴァが勝ち誇ったように頷いて答えた。
 「その通り。散会したのは別に貴方の攻撃を避けるためだけじゃない。」
 「そ、全てはデルタスパークのための予備動作ね。 アンタの攻撃でこれ以上モノ壊されたらたまったもんじゃないし。」
 
 デルタスパーク・・・ムーンライトレディの最強攻撃である。 3人がそれぞれ3方に散り、敵を中心に正三角形の陣形を組む。 そして高密度のエネルギー結界に封じ込め、その内部で充満した3人のエネルギーによって敵を殲滅する・・・それがデルタスパークである。
 またエネルギー結界に封じ込めるため、爆発の衝撃も結界内に押さえられ周辺の被害も出ないと言う。
 3人の取った戦法は、アルテミスを始点にアクエリアスとミネルヴァが散会し、デルタスパークのフォーメーションに誘い込もうと言うものだった。 アルテミスを始点にしたのは彼女が一番運動力に劣るからだ。 そして怖がりだが人を惹きつける魅力のあるアルテミスを囮にすることで、アクエリアスとミネルヴァの行動を悟られないようにするためだ。

 「そして・・・貴方のミサイルはと言うと・・・」
アクエリアスが言うと、ミサイルジャガーは後ろを振り返り、この世のものとは思えないほどの恐怖の声を上げた。 己のミサイルが自分目掛けて飛んでくる。自分もミサイルも結界の中にあり逃れる事はできない!
 「沢山の物を壊した報いを受けるがいいわ! 自分の力でね!!」
アルテミスが叫ぶと同時に、結界内に大爆発が起こった。 デルタスパークと大型ミサイルの相乗効果! ミサイルジャガーは怨嗟の声も上げる事も断末魔の悲鳴を上げる事もできず、結界内部で爆発消滅した・・・。 破壊の力の酔った愚か者のには相応しい最後だったのかもしれない。



 舞浜大橋の傍の川原で、黄色のリボン一本でタガメ男の動きを封じている赤い制服を着た女子高生・・・
その隙に転身を完了したジガは、女子高生に駆け寄った。 その様子に女子高生は笑みを浮かべた。
 「見れば見るほど・・・ファクトやブルズアイの改造人間に良く似てる・・・。」
 「だから、私は改造人間じゃないんだって・・・。 そんな事よりも貴方は・・?HUMAの生き残り・・・って年齢が低すぎるか・・」
 苦笑するジガ。 どうして誰も彼も私を改造人間としか見ないんだろう・・・確かに目の前のタガメ男は改造人間らしいが、似た雰囲気はあるがここまで酷くはないと思うジガであった。
 「私のことは後、とにかくこのタガメみたいな改造人間をやっけつけなきゃ!!」
そう言ってタガメ男を更に締め上げる。 リボンから電撃でも放たれているのだろうか、タガメ男は悲鳴を上げて苦しんでいる。
 「まって!この怪人・・・いや!この人には人間だった時の記憶が残ってるの! なんとか助けてあげたいの!」
 そう言って少女に訴える。
 「身体は無理でも・・・心は元に戻るかも・・・。現にこの怪人、ものすごく人間らしいもの!!」
 先ほどからの戦いでジガはそう断言できた。 怪人有らずとも人間でさえココまで正々堂々とした者は少ない。 少なくとも昨今の人間に比べたら、この怪人のほうがよほど人間らしさを感じられた。
 「罠じゃないの・・・って、言いたいけど、貴方が言うなら間違いなさそうね。 改造人間同士のシンパシー・・・共感って奴?」
 ジガは黙って頷いた。 自分は改造人間ではないが、近い種類である事は確かだ。この怪人から感じる人間味は本物と感じ取っていた。
 「けど、どうやって元に戻すつもり? 昔の私の仲間になら、テレパスとかで記憶探ってからどうにかするって事もできたけど、貴方そんな事できるの?」
 昔の仲間といった時、少女が一瞬悲しげな表情をした。 先ほど聞いた事もない組織の名前を出したところを見るとつらい過去があるのだろう。
 「この怪人・・・どうやら私に似た人との記憶が残ってるの。 それがきっかけになれば・・・」
そう言ったものの、ジガにはどうすれば見当もつかなかった。 この少女がタガメ男をいつまで封じていられるのか解らない。 早くしなければ・・・
 (私にもこの子の仲間みたいな力や雛乃姉さんみたいな力があれば・・・)
 ジガは心の中でそう思った。 ジガの姉・・・柊雛乃には一種の霊媒師のような力がある。その力を用いて礼と会話したり除霊したりする。 残念ながら自分にはそんな力は一欠けらも無い。 あるのは退魔の力を用いたこの遺業への変身能力だけだ。
 「ウオオオオオ!!」
 突然タガメ男が絶叫を上げた。 自慢の1054馬力の力を用いて強引に少女のリボンからの脱出を図ろうとしているのだ。
 その様子に少女は顔を引き締め、グッと腕の力を強めた。 その瞬間、リボンから放たれる電撃のようなものの力が増したようだ。タガメ男はまた再び苦しみだす。が、何とか脱出しようと腕に力をこめている。
 「手が無いみたいね。なら!」
少女はそう言って、左手でリボンを握り締めたまま、残った右手をタガメ男に突き出し、手のひらを開く。 するとそこからエネルギー弾が発射され、動けないタガメ男目掛けて容赦ない攻撃を浴びせる。
 (慣れてる・・・すごい。 この子・・・私とは比べ物にならないぐらいの場数を踏んでる・・・って!)
 バッ!!とタガメ男と少女の間に割ってはいるジガ。
 「待って! これ以上やったら死んじゃう!」
 「甘いわよ! コイツをほっといたら全く関係の無い人々を襲うのよ! 助ける手立てが無いのなら、倒すしかないの! そこをどいて!」
 「だめ! 怪人なら・・・改造人間なら誰でも彼でも殺すの!? そんなのダメだ! 上手くいえないけど・・・この怪人だけは絶対に違う!!」
 「改造人間同士庇い合いたいのは解るわよ! 私だって助けられるなら助けたい! でも・・・改造人間は助けられないの! 私はそれを身をもって知ってる! だから・・・殺すしかないの!秘密結社Qが第2のファクトやブルズアイのようになったら・・・あの二人の死が・・・」
 そう悲しげな顔をしてリボンの力を強める。ジガが割って入っているためエネルギー弾を使うのを止めたが、その分のエネルギーをリボンに回している。 タガメ男が先ほどより苦しみを上げ、腕から力が抜けているのが解る。
 「!!」
 次の瞬間、少女は信じられないものを見た。 ジガが変身をといたのだ。生身の身体をさらし、タガメ男を庇うように少女の前に大きく手を広げて立ちふさがる。
 「そんな事ない!絶対助けられる!! 私はできれば誰も傷つけたくない・・・退けるだけでもいいと思ってる! 甘い考えなのは承知の上・・・。でもダメなんだ!みんな仲良くしなきゃダメなんだぁ!」
 ほとんど泣き叫ぶように訴えるジガ・・・転身と解いたので柊巴は、頭をぶんぶん振って少女の言葉を否定した。
 「貴方の気持ちは解るわよ!でも・・・私はもう誰も巻き添えにしたくない!家族を危険に合わせたくないから戦ってきたの! 非常に徹しなければ守れるものも守れない!!」
 少女も知らず知らず涙を目に浮かんでいた。 恐らく少女もできればタガメ男を助けたい。 だが彼女は巴が知らないほどの戦いを積んで、それ以上の悲しみを見てきたのだろう。 だからタガメ男を倒すしかないと容赦ない攻撃を浴びせているのだ。
 「家族を守りたいのは私だって同じ! 雛乃姉さんや要芽姉さん・・・瀬芦里姉さん・・・高嶺に海に空矢・・・柊の家のみんなは私が・・・」
 
 「か・・・かな・・・要芽ぇ・・・」
───ッ!!
 巴と少女をその瞬間、信じられないもの見るような目をしてタガメ男を見た。 タガメ男の口から女性の言葉が出たのだから。 しかも巴にとっては実の姉の名前だ。
 「ひ・・・ひいいらぎ・・・かな・・かな・・要芽・・・」
 「姉さんの名前を・・・」
ソレを聞いた瞬間、巴はタガメ男に駆け寄っていた。 そしてタガメ男の両肩に手を載せ目らしき部分をじってと見つめた。
 「貴方・・・確か画家志望の学生だったって言ってたよね!! もしかして・・・もしかして貴方は!!」
巴には思い当たる部分があった。 柊家の次女・・・自分の姉の要芽が今どうして『氷の弁護士』と呼ばれるほどの表情や感情を出さない人間になってしまったのかを。
 「姉さんは・・・姉さんは10年前、家から空矢が一人沖縄に修行に出されたのを悲しんでいた・・・海は感情あらわにしてたけど、姉さんは人知れず悲しんで寂しがっていた・・・」
 いつの間にか、少女はリボンをタガメ男から解いていた。 何故ならタガメ男に抵抗の意思が見えなくなっていたからだ。 実際自分の目の前の巴をじっと見ているだけで動かない。
 「姉さんは身を切られる位悲しんでいた・・・だから、心の隙間を埋めように・・・心の拠り所を見つける為に犬を拾ってきて、空矢って名付けようとしたり・・・そして・・・」
 いつの間にか巴は泣いていた。涙を流しながらタガメ男の肩に置く手の力が強くなっている・・・
 「そして・・・空矢に似た雰囲気の男性を恋人にした事・・・。でも・・でもでも!犬は病気で死んじゃった・・・そして恋人だった男性は・・・事故で・・・だから姉さんは愛を捨てて感情を見せないように・・・」

 ぽん──巴のタガメ男の肩に乗せた手に手が重ねられた。硬くごつごつした異形の手・・・。タガメ男の手だ。だがその手は暖かく力加減にも優しさが感じられる・・・人間の手の感触がした。
 「確かに事故にあった・・・だけど運ばれた病院は秘密結社Qの手の者が入っていた。 秘密結社Qは最強怪人を作り出すためのベースとなるべき優秀な人間を探していたんだ。」
 「!?」
その言葉はタガメ男から発せられていた。 まるで知り合いに語りかけるように・・・
 「そして私は、その手の者によって事故死したと処理されてしまった。 その後・・・秘密裏に秘密結社Qのアジトで私は・・・このような姿に改造させられた。」
その言葉に巴を目を見開いた。 まさかとは思ったが、自分の予感が当たってしまった。この目の前の怪人はかつて、姉の・・・
 「久しぶりだな・・・要芽の妹さん。 まさか君がこんな姿にされて初めて会話する人間とは・・・なんか運命じみたものを感じるな。」
 「やっぱり・・・姉さんの・・・」
巴は思わずタガメ男に抱きついていた。 記憶が戻ったのだ。 助かる手段は無いといわれていた改造人間の呪縛を解き放ったのだ。 その嬉しさから巴は泣きながらタガメ男を抱きしめていた。
 「君の言葉がなければ・・・恐らく元に戻らなかった。 ふ・・・秘密結社Qめ。身体精神ともに優秀な人間を拉致した喜んでいたが、ソレが裏目に出たか・・・」
 そう言ってぽんぽんと巴の背中を叩く。 もう泣くな・・・と言っているのだ。
 「君の言葉はずっと届いていたありがとう・・・」
 「ううん!もういいよ! でも、良かった・・・良かったよぉ・・・元に戻って・・・」
そう言って巴はずっと泣いていた。 その様子に少女は手にしたリボンを仕舞い込むと、巴とタガメ男に背を向け、その場を立ち去ろうとした。
 「あ・・・待って! ありがとう・・・助けてくれて。」
 「私からも礼を言わせてくれ。 私が記憶が戻ったのは君のおかげでもある。」
すると少女はフ・・・と微笑して首を横に振った。
 「いいえ、その怪人・・・いえお姉さんの恋人を救ったのは貴方達自信・・・私は何も・・・」
そう言って振り返りもせず背を見せ歩き出した。
 「ねえ・・・仲間になって! 貴方ほどの人が味方についてくれれば秘密結社Qなんて!」
巴の言葉に少女は首を横に振り断った。
 「私は・・・仲間にはなれない。 私に関わるのは止めておいて、巻き込まれるから・・・」
 「せめて・・・名前だけでも!」
すると少女は振り返り、笑みを浮かべて口を開いた。
 「マリカ・・・。 神崎マリカ。」
 それだけ言って、少女・・・マリカは立ち去った。
 「ありがとうマリカちゃん! 仲間にはなれないといったけど! 私達、お友達にはなれるよ!!」
巴の言葉にマリカは満足そうに頷いた。



 「くくく・・・苦しメ〜ン」
廃墟となり打ち捨てられた遊園地で、素麺怪人ニューメンソーメン。否!二体に分離したニューメーンとソーメーンの攻撃により、ベラボーマンは苦戦を強いられていた。
 麺類で身体を構成されているこの2体には、ベラボーマンの打撃攻撃がまるで有効打となりえないのだ。
そして、二体の同時攻撃によりベラボーマンは麺により、首と胴を同時に締め上げられているのだ。 身体をゴムのように伸び縮みできるベラボーマンだが、胴体は伸縮させる事ができないし、首は伸ばしたところで締め上げには無力だ。
 「このまま窒息させてやる〜メ〜ン。」
 「そう・・・ですね。私の本職は会社員。 お歳暮に素麺を送った事はありますよ・・・。だから貴方達とは少しは関わりはあると言っていいでしょう・・・」
 苦しみながらも、軽口を叩くベラボーマン。 右手で首にしまった麺を解こうと必死にもがく。
 「ですが・・・このまま殺されるわけにはいきません!!」
バッ!と、両腕を真上に伸ばすベラボーマン。 伸びた腕は頭上にあるジェットコースターの線路を掴む。 そして両足をスプリング状に変化させ、思い切り飛び上がった。
 「ベラボージャンプッ!!」
瞬時に飛び上がるベラボーマン。 急に飛び上がれたせいで、ニューメーンとソーメーンは引きずられ、そのまま激突させられてしまった。
 「ぐわ!」
 「痛いメ〜ン」
 その拍子にベラボーマンを拘束していた麺を解いてしまった。
 「今だ!」
 拘束の解けたベラボーマンは一旦線路の上に避難した。 乱れた呼吸を整えるためだ。
 (しかし・・・どうやって戦いますかね? まさに糠に釘、暖簾に腕押しですよ・・・)
ベラボーマンの攻撃は伸縮する手足と頭部による攻撃がメインだ。 武器や火器の類は全く無い。 いや、一応魚雷や爆雷というべき物を装備しているが、コレは水中用の武器で地上では使用できないのだ。
 (彼ら・・いや彼女らの攻撃はあの全身の麺による締め上げや打撃が中心・・・まさに全身鞭といったところですか・・・。これは別の誰かに代わってもらった方が良かったですかね?)
 そう言いながらも、何か戦う手段を考えるベラボーマンだったが、敵はそんな余裕を与えてくれない。 直ぐに体勢を取り戻し、ベラボーマン同様ジャンプし、線路の上に飛び乗ってきた。勿論ベラボーマンを挟み撃ちにしている事も忘れない。
 (はてさて・・・どう戦いますかね・・・)
 苦戦は必至。 挟み撃ちは通じないと踏んだのか、二人並んで攻撃を仕掛けてくるニューメーンソーメン。 シュバシュバと手の麺を伸ばし、ベラボーマンに襲い掛かる。
 くっ・・・と、間合いを取りつつ機会をうかがうベラボーマン。 次々と飛んでくる麺を持ち前のジャンプ力で何とか回避する。 間合いの広い攻撃はベラボーマンも専売特許だが、2対1では分が悪い。 ピョンピョンとコースターの線路の上を飛び回り逃げ回るしかない。
 だが、ベラボーマンは逃げ続けているうちに何かに気づいた。 
 (はて・・・先ほどの攻撃比べて勢いと伸びが落ちているような・・・)
 そう、先ほどまでとはニューメンソーメンの攻撃に勢いが若干落ちているようなのだ。 このコースターの線路上に飛び乗ったときから確かに先ほどまでの勢いがない。 有利であるにもかかわらず挟み撃ちをやめ、並んで攻撃を仕掛けていることからも・・・
 (並んで・・・一体一体の攻撃のロスをなくすための波状攻撃狙いと思ってましたが・・・違いますね・・・何故?)
 ニューメンソーメンの攻撃は、体全体の麺を延ばす攻撃がメインだ。 その為リーチが広いという利点はあるが、一発一発の攻撃動作が長く、一発放った後の隙も大きい。 それを並んで時間差で仕掛けることによってロスをなくそうという作戦と思っていた。 勢いが低くなっているのはロスタイム短縮かと踏んでいた。 だが理由はそうではないとベラボーマンは感じ始めていた。
 (これは・・・一度試してみますか!!)
 突如ジャンプをやめ、その場に踏みとどまったベラボーマン。 チャンスとばかりにニューメーンの麺が延びてくる。 先ほどよりもスピードがある。勢いを戻したようだ。
 「今だっ!」
ギリギリのタイミングで後ろへ飛ぶ。 突如として目標を失ったニューメーンの麺はその勢いを失うことなくコースターのレールに突っ込み・・・そして絡みついた。
 
 「し!しまったメ〜ン!!」
ベラボーマンの罠にはまったことを悟るニューメーン。 このレール上で攻撃の勢いを弱めたのは、格子状で隙間だらけのコースターに自分の麺が絡みつくことを恐れたからだ。 それが今この時点で露になってしまった。
 絡み付いた麺を引き戻そうと引っ張るが、勢い良く延ばした麺は線路に深く絡みつきなかなかほどけない。
 「やはりそうでしたか!これで私にも勝機はあります!!」
 動けないニューメーンに向け駆け出すベラボーマン。 だが相方のソーメーンが黙っているわけは無い。 動けないニューメーンを守ろうと前にでてベラボーマン向け麺を放つ。 だがそれもベラボーマンは狙っていた。
 「同じ手は二度も通じません!!」
放たれた麺を避けずにあえて真正面から受け止めた。否・・・わざと腕に絡ませたといったほうが正しいか。
 「先ほどの挟み撃ちでわかりました。 貴方がたは二体一対・・・二つで100%の力が出る。 一人だけでは・・・・その力は50%もないっ!」
 そう叫び、力任せに強引にニューメーンを引っ張り、その場で振り回し始めた。
 「ベラボースイングッ!!」
 腕力自体は他のヒーローたちに比べ大きく勝っているわけではないベラボーマンだが伸縮性と柔軟性に富む四肢と体は、ニューメーンをまるでハンマー投げのように振り回す。
 「これで決めますっ! ベラボー投げぇっ!!」
 振り回したニューメーンをそのままレール上めがけて放り投げる。 もちろん闇雲に投げたわけではない。狙った場所はいまだ麺が絡まり動けないソーメーンだ。
 だだんっ!!───レールの上に叩きつけられたニューメーンはその場に動けないソーメーンにぶつかり、そしてその長い麺が災いしてお互いに絡まりあう。 合体しても絡み合うことの無いこの二人だが、レール上ということが災いした。麺同士がレールに遠心力によって巻き付き、互いの自由を完全に奪ってしまった。
 「本来は水中用の武器なんですが・・・」
そう言ってベラボーマンは腰からラグビーボール状の物体を取り出した。 赤く塗られたそれは、ベラボーマンが水中戦で使用する爆雷。勿論水中用の武器とはいえ、その威力は陸上でも十分に通用する。
 「食らえっ!!」
 動けない二体にめがけ、ベラボーマンは爆雷を投擲した。 そして・・・・

 『メ!メ〜ン!!!』
 断末魔の叫び声を上げ、二対の麺怪人は爆雷の炎に包まれた。
メラメラと燃え崩れる二対の麺怪人に向け、ベラボーマンは静かに手を合わせた。 別に信心深いわけでもないし、自分のしたことに罪悪感があるわけではない。 この怪人を生み出したのは人間の業だ。それを感じて手を合わせたのだ。
 「生まれ変わる事があるのであれば・・・今度こそ美味しく人に食べられる存在であってください。 私も食べ物は残さないように心掛けますから・・・」
 偽善だな・・・。そう思いながら、ベラボーマンは麺怪人であった者達に背を向け駆け出した。



 「12万パワー!!スパイラルドライバー!!」
カッ!!──12万パワーの光の矢と化したなみが一直線にウニアトム目掛けて突っ込む。 通常の12倍の威力とスピードを誇るこの攻撃!あたれば必殺!
 「うわあああああ!!」
 矢と化したなみはついにウニアトムを捉えた!! フェンスに張り付けになっていた他のDOLL達も、針を引き抜きながらその瞬間を確かに見ていた。 なみの二対のドリルがウニアトムに突き刺さる瞬間を・・・・

──ドガァァァァン!!!
 まるで爆弾でも破裂したかのような轟音と地響きと土煙・・・。 恵をはじめとしたDOLL達はなみの勝利を確信していた。 幾ら10万馬力を誇るウニアトムと言えど、自分のパワー以上の攻撃を受けたのだ。一たまりもないはず・・・
 そして・・・モヤモヤとした土煙が消え去った時、そこに二人の人影が・・・
 「な・・・なみ?」
恵が恐る恐る呼びかけた。 彼女の目には一定の距離を保って互いに背を向け合い、まっすぐ立っているウニアトムと技の余韻からか片膝をついたままのなみであった。

──パタ・・・・
 膝をついていたなみが何も言わず横に倒れた。 見れば全身から小さな火花を散らし、黒いオイルがまるで血のように身体のあちこちから流れ出ていた。 自慢のエプロンドレス・・・メイド服も過負荷からか、あちこち焼け焦げ場所によっては千切れ飛んでいる。
そして・・・肝心のウニアトムは・・・
 「惜しかったな・・・もう少しだったのに。」
 倒れたなみに向け振り返り、ニヤリと笑みを浮かべた。
バカンッ!! 小さな破裂音。 ウニアトムの右肩の装甲と頭部右側スパイク状の頭髪が砕け散った・・・
 なみが放った渾身の一撃がかわされた・・・。 
 「本当に惜しかったな・・・。だが僕は健在だ!」
 勝ち誇るウニアトム。 その光景に言葉を失うDOLL達・・・

 「そ・・そんな・・・なみ・・」
恵が瞳を濡らしながら、力なくつぶやいた。 だが現実だ。なみは倒れたまま動かない・・・
敗北・・・
 「や・・・やっぱり・・・私達ではダメなの・・・」
 DOLLの一人、レイコが力なくつぶやいた。
 「なんだかんだいって理由をつけたところで・・・」
サファイヤがこぶしを握り締めた。
 「非合法の闇の世界の私達が・・・光の当たる世界で・・・正義のために戦おうなんて・・・」
 レイコとサファイアが悲しげにつぶやく・・・紅猫はただシクシクと泣いている・・・

 「所詮、愛玩目的と違法賭博が主目的の貴様達が、僕達に歯向かおうとする事自体が間違っているんだ!」
勝ち誇るウニアトムの言葉にDOLL達は何も言い返せない。 やはりダメなのか・・・・闇の世界に生きてきた自分達が正義と言う舞台に立つのは間違ってたのか・・・
 自分達は所詮、所有者の慰み物と金銭獲得だけの『物』でしかないのか・・・
 「ふ・・・貴様達を始末した後、我が秘密結社Qの専属メイドとして使ってやろうかと思ったが・・・」
そうあざ笑うように蔑んだ目線をDOLL達に向けるウニアトム。
 「そんなスクラップ持ち帰ったところで邪魔になるだけだ。 何分粗大ごみの回収は金が掛かるんでな。ウチ(秘密結社Q)は何分火の車の家計なのでな。」
 そうはき捨て、背を向けて立ち去るウニアトム。 損傷し動く事すらままならないなみ達はもう敵ではないと判断したのだろう。 レイジ達が心配なのだろう、足早にその場を去り、元いた舞浜の海岸へ戻っていった。
倒れて動かないなみ以外のDOLL達は黙って見ているしか出来なかった。


 「く・・・悔しいな・・・アレだけ言われて何も出来なかったなんて・・・」
レイコがうつむいたまま涙を流していた。
 「しょ・・・所詮・・・私達の力は・・・表の世界では通用しないって事なの・・・そんなのって・・・」
サファイヤが剣を杖によろよろと立ち上がりながら歯を食いしばっていた。 プライドの高い彼女でもあれだけの力の差を見せ付けられては立つ瀬がなかった。
 「そんなこと・・・ありません!」
突如発せられた言葉に全員が目を見張った。
 「私達は・・・ただの『物』じゃありません。 確かにご主人様たちの欲望を満たす為に生まれた存在であっても・・・。私達は『自分』と言う確固たる意思があるんです! そして・・・そんな私達が光指す場所へ出る事を望んだのも自分の意思! ただの物・・・ロボットならそんな事思いません!」
 立っていた・・・全身から火花を上げ、オイルを漏らし・・・ボロボロになったメイド服をさらしながらも、なみが立っていたのだ。
 「ご主人様が、安心して過ごせる世界を作るために・・・ご主人様が快適に過ごせる環境を整えるのがメイドの仕事! これも・・立派なメイドの仕事です。 その為に・・・私は・・・」
 立っている事すらおぼつかないなみ。いつ倒れてもおかしくない。 とっさに恵が駆け寄り肩を貸す。
 「ありがとう・・・恵さん・・・」
 「か!かんちがいしないでよ! あなたを倒すのは私! それがこんな所で倒れるなんて許さないんだから!」
顔を赤らめながらも強がりを言う恵。 その様子になみはニコッと笑みを浮かべた。 だがなみは急に表情を変え口から黒いオイルを吐いた。 人間で言うならダメージのあまり吐血したといった所だ。
 「もうしゃべんないで!すぐにドリル堂へ・・・」
恵がなみを抱え上げ移動しようとするが、なみが「待って・・・」とドリルで制する。
 「何言ってんのよ!今ですら負荷限界超えてるのよ!今すぐにでも応急処置しとかなきゃなんないのに。」
恵の言うとおりだった。 なみの身体は既に通常のDOLLでは機能停止していてもおかしくないダメージと負荷を負っているのだ。違法改造のお陰で既製品以上の耐久性を有している為なんとか持っている状態なのだ。 人間で言えば一刻も早く救命処置が必要な状態と同じだった。
すぐに他のDOLL達が自分達用のリペア(修復)機能を使って応急処置をなみに施し始めたが、それでもいつまで持つか解らない。
 「き・・・聞いてください恵さん・・・。戦って解った・・・あのウニアトムと言う怪人はとてつもなく強い・・・ですが、我々の力の及ばない相手じゃありません・・・」
 確かになみの一撃は致命傷ではないが、ウニアトムにダメージを与えた。 恵をはじめた他のDOLL達の攻撃も間違いなく『通じた』。力の差は大きいが勝てない・・・戦えない相手ではない。
 「だから・・・今奴を叩けば・・・他の皆さんの力を借りれば必ず勝てます。 見た目はああして平気な様子でしたが、私達との戦いで中身にはかなりの負担が掛かってるはずです・・・ですから・・・」
 「だったらもういいじゃない!! 他の連中に任せてあなたは休むの!!でなきゃ本当にスクラップよ!!」
恵が涙を流しながら訴えた。 だがなみは首を横に振った。
 「ダメです・・・。ウニアトムをただ倒すだけなら、他の方々でも何とかなるでしょう・・・でもこの戦いはそれだけじゃないんです・・・」
 「どういうこと・・・」
 「桜子さんから聞いてると思いますが・・・今でも舞浜の海岸では多くの子供達と・・・私達の仲間であるメタモルVの皆さんが人質になってるんです・・・」
 確かに恵達は桜子からなみの応援を要請された際に、そういった事情は聞いていた。 だが、それがいまのなみとどう関係するというのだ。 今のなみには一刻も早く修理が必要なのに。
 「ウニアトムを・・・倒すだけなら・・・子供達を助けるだけなら・・・私抜きでも何とかなる・・・いや出来るでしょう・・・でも・・・もし私がこんな目にあったとメタモルの子達が知ったら・・・」
 「そんな事関係ないじゃない!! そのメタモルって連中だって戦いって事は承知してるんでしょう!? 戦えば傷つくし、ボロボロになることだって百も承知よ!」
だがなみは首を振った。そればかりか荒い呼吸(?)の中、優しく・・・悲しい目を恵達に見せた。
 「ダメなんです・・・。メタモルの子達が人質になったのは彼女達の独断専行が原因・・・。恐らく自分達の行動を苦に思っているはずです・・・。 そこへ私がこんな目にあったと知れば・・・自分自身を追い込む程に苦しむに違いありません・・・」
そう言って軽く微笑むなみ。 その表情はとてもロボットと思えないほど人間らしい。
 「ああ見えて・・・彼女達は中身は小学生の女の子達なんです・・・まだ成長段階で・・・とても傷つきやすい・・・繊細で・・・優しい心根の美しい愛すべき子供達なんです・・・。 こんな非合法の闇の世界で生きてきた私を仲間として受け入れてくれた・・・いい子達なんです。 私はあの子達を悲しませたくない・・・」
 「あなた・・・そこまで・・・」
恵は「バカよあなた・・・おおバカ者よ・・・」と涙を流しながら呟いた。
 「でも・・・その身体じゃもう戦うなんて無理よ!」
レイコがなみの身体に応急処置を続けながら叫んだ。 確かになみの身体は限界を超えている。
 「だから・・・だから・・・恵さん、貴方に頼みが・・・頼みがあるんです!!」
最後の力を振り絞って、なみは体を起こし恵を見つめ叫んだ。
 「私の代わりに・・・貴方に・・・スパイラルなみになってほしいんです!!」




 「はあっ!!」
レンタヒーローの鋭い蹴りが戦闘員に炸裂した。 Q〜と情けない声を上げすっ飛ぶ秘密結社Qの戦闘員。 最強怪人ならイザ知らず、なみの戦闘員がレンタヒーローの敵う訳はない。 舞浜の海岸に次々と横たわる戦闘員達。その様子に秘密結社Qの若き幹部であるレイジは足が震えだすのを必死にこらえていた。
 「さあ!もう戦闘員も残り少ないぞ!いい加減に降参して子供達とメタモルVを解放しろ!今なら見逃してやってもいいんだぞ!」
バッ!!とレイジ達に向けて身構えるレンタヒーロー。 コクロコオロギンとの戦闘で少なからず損耗している筈なのだが、幸いといってスーツのエネルギーだけは満タンだ。自身の体力とスーツの耐久性を無視すればまだ十分に戦える。
 後ろから応援団よろしく村正姉妹が「いけいけ〜!」と喝采を飛ばす。 少なくとも後ろから見ている状態ではレンタヒーローはまだ戦える状態にある。最強怪人軍団がいないこの場でレンタヒーローと五部に渡り合える存在はレイジしかいない。 この場に他のサイバーヒーロー達が合流すれば状況はより有利になる。
 一方のレイジも状況の不利さは解っていた。 だが諦めた訳ではない。確かに現状は不利だが現在ここで脅威になっているのはレンタヒーローただ一人。あとは戦闘不能のガルファーに、その取り巻き小娘二人。それにこちらには人質もいる。 現状は不利だが、状況としては優勢と見ていい。
 「シャドーローズ、人質を見ていろ。」
 レイジは残った戦闘員達を後方に下げ、人質の守りに集中させるように指示した。
 「レイジ様は?」
 「ここいるので脅威なのはレンタヒーローのみ。 しかも奴はコクロコオロギンとの戦いで消耗している。スーツのエネルギーは満タンでも中身はそうはいくまい。」
そう言って前に出るレイジ。 それを見てレンタヒーローは表情を引き締め身構えた。ついに幹部じきじきに来るか・・・と。 だがレンタヒーローにとっては好機だ。今ここで自分と五部に戦える存在はこの若い幹部のみ。あとはどうにでもなる。人質がいるので迂闊な事はできないが、少なくとも自分がレイジと戦っている間に他の連中が合流すれば逆転できる。
 「私を見くびるなよフリーター・・・社会人の厳しさを教えてやる・・・」
 当のレイジもその辺りは百も承知だ。だが自分がレンタヒーローを倒せばこっちが有利だ。また最強怪人の誰か一人でもコチラに合流すれば確実に逆転できる。 レイジ達『悪』は味方がやられても心が痛む事はないが、向こう・・・『正義』はそうはいかない。 味方がやられれば心が痛むし悲しみもする。戦力がダウンすることも間違いがない。
 逆に味方を失った悲しみを怒りに変えて力を増す事も考えられるが、今の状態ではそうはなるまい。
 「よし!シャドーローズ!得物をよこせ!!」
意気揚々とシャドーローズに向け武器を催促するレイジ。 それに答えてシャドーローズは何か言い出しにくそうな表情でおずおずと武器を差し出した。 ・・・・・それは一本の木製バット(軟式用)であった。
 「・・・折れる・・・すぐ折れる・・・なんで・・・?俺の刀は!?」
泣きそうな顔で訴えるレイジ。 軟式用の木製バットでどうレンタヒーローと渡り合えというのだ。
 「それが・・・」
 非常にまずそうなシャドーローズが差し出したレイジの愛刀(なまくらがたな)、鞘から引き抜いたその刀身は・・・見事に錆びていた。
 「塩害・・・です・・・。びっくりするほど塩害です。 こうも短時間で錆びるとは・・・さすが安物。居合い練習用の模造刀でもこうはいきませんよ。」
 その瞬間、レイジの脳裏に覆面ドイツ忍者が『明鏡止水の心得』を説法する姿が浮かんだ。
 「これで斬れってのか・・・。模造刀の方がまだマシだ! 他にないのか!?」
だがレイジは言い出した後で気づいた。 戦闘員用の武器の中でも、このなまくらがたなが一番マシな部類に入る事を。 他の戦闘員が手にしているものといえば、銃火器と爆弾、薬類を除けばスコップや鉄パイプ、竹刀ぐらいしかなかった・・・
 「こうなったら何でもいい!!今使えるものみんなよこせ!それで戦う!!」
 反泣きのレイジ。 すぐさま使えそうな物をかたっぱしから脇に刺しレンタヒーローに挑みかかった。

 「来るかっ!」
突進してくるレイジに向け身構えるレンタヒーロー。 
 「鍋のふた!ブーメランッ!!」
 レイジが投擲すれば、近所の金物屋で買った鍋のふた(定価180円相当)でも、オリンピックの円盤投げ競技並みの威力が!!
──かん
無かった。威力無かった。 乾いた音を立てて、鍋のふたはレンタヒーローの腕のプロテクターにはじかれた。
 「貴様やるな! 俺の知ってる新聞記者はその場で拾った宝石店の宝石を投げつけてゾンビを倒したというのに!」

 「・・・・・・・・で?」
 唖然とするレンタヒーロー。

 「食らえっ!ロケット花火!!」
 ビール瓶を発射台代わりにロケット花火(市販品)をレンタヒーロー目掛けて発射。
ぴゅーと飛んでいくが・・・・あらぬ方向へ飛び、ぱちゃんと海へ落ちた。
 「海にゴミ捨てるなよ・・・あ、お前悪か。」

 「竹刀アタック!!」←市販品(近所の武道店購入)
ぱき──折れた。
 「水鉄砲!!」←(近所の駄菓子屋で購入)
ぴゅー──プロテクター濡れただけ。
 「ピコピコハンマぁぁぁぁぁっ!!」←(近所の玩具店で購入)
大きく振りかぶりジャンプしてレンタヒーローに叩きつけるレイジ!!
 「光になってしまえぇぇぇ(無理)」
ぴこん!──いい音はしたね。

 「もういいか?」
コブシをポキポキ鳴らしながらレイジににじり寄るレンタヒーロー。 レイジ半泣き。
 「あのさあ・・・幹部って、普通怪人より強いんじゃないのか?」
 「TVの見すぎだ!!」(いろんな意味で説得力アリ)

 「こうなったら・・・・うおおお!!」
素手できた!! レイジについに素手で戦いを挑んだ!! しかし並の奴より腕っ節はあるとはいえレイジは所詮生身の人間。 強化スーツを纏ったレンタヒーロー相手には分が悪い・・・
 「ぐはっ!!」
レイジの強烈な正拳突きをまともに腹部に喰らいレンタヒーローがうめきを上げた。
 「とりゃあ!!」
続いて鋭いローキック!! 体制の崩れたレンタヒーローの下半身に見事炸裂し、その場に崩れるように倒れるレンタヒーロー。
 「・・・お前、素手の方が強いじゃねえか・・・」
レンタヒーローが苦しみながらレイジを睨む。 先ほどまでの醜態は芝居だったというのか・・・と、油断していた自分の不甲斐なさを憎むレンタヒーロー。
 だがレイジ本人はと言うと・・・
 「効いた・・・・・なんだ、効くんじゃん。」
数秒沈黙・・・・・
 「勝てる!!」
ビシィッ!とガッツポーズ。
 「よっしゃ!きやがれ!!」
勝機アリと俄然強気になるレイジ。 レイジが油断ならぬ相手と見てレンタヒーローも先ほどまでの相手を小馬鹿にした態度を改め睨みつけてきた。それはレイジを倒すべき敵として認識した証であった。
 
 ブロロロ・・・・その緊迫した場面に突然のバイク音。見ればバイクにまたがったディバンが舞浜の海岸に戻ってきたのだ。
とうっ!!と、裂帛の気合と共にバイクの上からジャンプ! しゅたっ!とレンタヒーローの隣に着地した。
 「待たせたな! あのサザエの怪人は倒した!」
 「そうか!だが気をつけろ!あの幹部はかなり強いぞ! あの格闘能力は相当なものだ!」
レンタヒーローがそう言うとディバンはレーザー点棒を取り出し身構える。
 「となると肉体改造・・・もしくはあの鎧がパワーを増幅していると!?」
 「間違いない!油断するな!!」
 「ああ!」

 (やられちゃったの・・・ゴザイマンサザエ・・・・やべえな・・・しかも勘違いされてるよ・・・この鎧、ただの鎧なんだけど・・・)
表情は崩さす内心冷や汗交じりのレイジ。 一人ならまだしも二人がかりとなると・・・素手ではきつい。
 (先にダメージの大きいレンタヒーロー狙って・・・それからディバンを・・・あの装甲どうやって打つかな・・・得物ほしいな・・・)
と、勝利への方策に頭をよぎらせていると・・・

 バシャンッ!! ──海の中から何かが飛び出してきた。
 「ベラボー参上!! 皆さんお待たせしました。あの麺怪人は倒しましたよ!」
 ベラボーマンが二人へ駆け寄ってきた。 互いの無事に頷きあうヒーロー3人。
それに対しレイジは・・・・

 (え〜と、3人はちょっと・・・得物があれば何とかなるが・・・)
そう言って、その場に落ちていた戦闘員用の鉄パイプを足でこっそり引き寄せるレイジ。 すでに素手で勝てる状況ではない。
 (この鉄パイプでレンタヒーローは仕留められるかも・・・でもディバンにつうじっかなぁ・・・固そうだし。 それにベラボーマン軟体って言うからなぁ・・・突いて倒すか? やっべこの鉄パイプ先曲がってるよ・・・どうすっかな・・・)

 「ただいまー!!勝ったよー!!」
 「お待たせしましたー!!」
 「楽勝よ楽勝♪」
浜辺からムーンライトレディの3人が笑顔で駆け寄ってきた。 既に合流している他の3人に笑顔でVサインを見せる。

からん─── ←鉄パイプが落ちた音。
 (6対1ぃぃっ!? おいおいあいつら最強って言ってたよな最強って! なのに中学生の娘3人に負けたのかよ! でかい口叩きやがって!! どう〜すんだよこの状況・・・)
 既にレイジの頭からは勝利のための策から、逃げ出すためのへの策へと切り替えが始まっていた。

 「みんな!お待たせ〜!!」
 異形な姿ながら、明るい声を出し手を振って駆け寄ってくる者がいた。 柊巴が変身したジガだ。 戦いが済んだ後変身を解いていたのだが、レイジ達と対するために再び変身して戻ってきたのだ。
 あちこちダメージが見えるが元気そうだ。
 (7対1・・・ええと、トラック止めてるの、300m先の駐車場だったな・・・。 あ、あの駐車場コインパーキングだったな、車輪止め掛かってるよ・・・料金払ってる間に追いつかれちまうな・・・どうやって時間稼ぐかなぁ・・・)
悟られまいと、近くにいる戦闘員に身振り手振りで『そこのお前、先行って、トラックもって来い! 今すぐにだ!』と、伝える。 ついでに小銭入れをこっそり投げる事も忘れない。

 「助っ人連れてきたの!!」
ジガの言葉にレイジは目を疑った。 ジガの後ろにタガメ男が立っていたのだ。

 「タガメー!!お前何やってんだよー!!!」
サイバーヒーロー達よりも早く叫ぶレイジ。 思わず声が出てしまったがもう遅い。

 「もう私はタガメ男ではない!! 貴様達の洗脳から解かれた私はもうタガメ男ではない!!」
レイジに向かい叫ぶタガメ男。
 「私は今日から、『正義超人タガメンダー』として、貴様達の野望を打ち砕いてくれる!!」
タガメ男改め正義超人タガメンダーは高らかに宣言した。

 「そうなのか!? じゃあ今日からよろしく頼む!!」
そう言ってディバンを初めとして次々にサイバーヒーローたちがタガメンダーに手を差し出し固い握手を交わす。


 「疑えー!! ちったあ疑えよぉ!!」
叫ぶレイジ。 だが正義を自称する連中はまるで信じて疑わない。 素顔が見える者たちの目はとっても澄んでいた。
 「見るなー!!そんな澄んだ目をするなー!! これだから正義は・・・(マジ本音)」
レイジ号泣。 恐らくあの連中からは自分はとてつもなく汚く見えてるに違いない。それが無性に悲しかった。
 思わずタガメンダーに無防備に近づき涙ながらに訴えた。
 「なあ!嘘だと言ってくれ! さ、作戦だよな?味方のふりして相手の油断を誘う作戦だよな? お前最強怪人の中でも一番頭のいい奴と聞いた!そうだと言ってくれ〜!!」
 だが返答はタガメンダーの強烈な平手打ちで帰ってきた。おかげで無防備な状態だったレイジは無様に吹っ飛んだ。

 「この・・・裏切り者がっ!!」
 「違うな・・・表返ったのだ!」
タガメンダーの言葉にはやたら説得力があった。 どうやらなまじ知能の高い人間をベースに改造した事が裏目に出てしまったようだ。
 8対1・・・・どうあがいても勝ち目は無い。 頭の中で和装のメガネをかけた高校教師の言葉がよぎる。つまり・・・絶望的と言うことである。 この状態では人質も恐らくあまり意味を成さない。 人質を解放する事を条件に身の安全を図りつつ撤退する・・・恐らくそれがベストな選択だろうとレイジは思った。

 「諦めろ。最強怪人とやらは皆倒された。」
ディバンがレイジをにらみつけながら言った。
 「貴方達に勝ち目は無い。 おとなしく子供達とメタモルを解放しなさい。」
ベラボーマンがレイジの背後の人質の子供達を見つめながら言った。

 「誰が皆倒されたって?」
背後から声がした。 サイバーヒーロー達が振り返ったその刹那! 熱風と共に何かが突っ込んできた!!
 「ぐはっ!!」
 「うわあああ!!!」
ディバンとベラボーマンが吹き飛ばされた。 不意をつかれたとはいえ、この二人が天にも届くかという勢いで飛ばされ浜辺に叩きつけられた。
 残ったメンバーが見れば、そこにはショルダータックルの体勢からゆっくりと上体を起こし、レイジの前に頭をたれる怪人の姿であった。

 「ウニアトムぅぅぅっ!!」
号泣しウニアトムに擦りよるレイジ。 嬉しかった・・・一体だけとはいえ戻ってきてくれたのが、しかも7体の最強怪人の中でもリーダー格のウニアトムが。 頭部と右肩をやられているようだが、戦闘には支障はなさそうだ。 ボディにはダメージらしいダメージは見当たらない。
 「よく・・・よく戻ってきてくれた! お前が相手してたメイドさんはどうした?倒したのか?」
 「ハハっ!レイジ様。 あの不良品メイドロボなど僕の敵ではありませんでしたわ。 途中思わぬ邪魔は入りましたが、所詮メイドはメイド。僕の原子力10万馬力の前に無様に火花を上げて倒れてしまいました!!」
 「そうか・・・少し惜しい気もしたが、よくやった!! さて戻ってきた早々で悪いが現在非常に分が悪い。人質を利用して撤収するのでお前にはその時間稼ぎをやってもらいたいのだが、できるか?」
 レイジの言葉にウニアトムはニヤッと笑みを浮かべた。
 「時間稼ぎ? とんでもない。 今からこやつら全員打ち倒してご覧に入れます。」
 「な!?無茶を言うな!あいつら全員お前が相手するというのか?頼もしいのはいいが8対1で勝ち目があるのか?」
フン!と鼻息も高く頷くウニアトム。 さも当然といった様子だ。
 「レイジ様、正確には6対1でございます。 あのように二人は今の一撃で戦闘不能でありましょう?」
ウニアトムが示したとおり、ディバンとベラボーマンはウニアトムの強烈なショルダータックルの一撃から立ち直れず、未だ浜辺に突っ伏していた。 不意打ちとはいえ恐るべき威力である。
 「凄いぞウニアトム!! よしゆけっ!!」
 「ははっ!お任せください。」

 「神塚さん!中村さん!!」
ジガがすぐに二人に駆け寄る。 ジガの呼びかけに突っ伏した二人は全く答えようとしない。完全に気を失っているようだ。
 「おい!来るぞ!!」
レンタヒーローが叫んだ。 見ればウニアトムが猛ダッシュでこちらに突っ込んでくる。先ほど浴びせたタックルをもう一度浴びせようとするのか。
 「く・・・。日和子ちゃん!綾ちゃん!麗子ちゃんは二人をお願い! 村正さん達とで、一緒に動けない3人を守って!! やまだ君とタガメンダーさんと私でアイツの相手をする!」
 ジガがそう叫び、ウニアトム目掛けて駆け出そうとする。 動けないディバンとベラボーマンを託されたムーンライトレディの日和子が泣きそうな顔でジガを見つめた。
 「ねえ・・・さっきアイツがなみちゃんを倒したって嘘だよね・・・。なみちゃんが・・・やられるわけ無いよね?」
ジガは答えられなかった。 恐らく真実だろうと半ば感じていたからだ。 ディバンとベラボーマンを一撃で倒したウニアトム・・・。そんな怪物相手では恐らくなみは・・・
 「馬鹿ね!そんなの聞くまでも・・・・」
ムーンライトレディの麗子が途中まで声を上げ、そして急にしおれたように声のトーンを下げた。 この場にいない・・・それがウニアトムの言葉が真実だという事をはっきりさせていた。
 「とにかく今は二人を運びましょう!」
 ムーンライトレディの綾があえて話をそらした。 今考えるべきはなみの安否ではない。 そんな事は後で考えればいい今はあのウニアトムを何とかしなければいけないのだ。
 ムーンライトレディの3人は重いディバンとベラボーマンを引きずりながら、なるべくウニアトムから遠ざけようとする。 その間、ジガ・レンタヒーロー・タガメンダーはウニアトムの前に立ちふさがった。

 「ふ・・・貴様裏切り者がどういう目にあうか解っているのだろうな?」
ウニアトムが眼前のタガメンダーに対し口元をゆがませて言う。 そのニュアンスには明らかに怒りが込められている。
 「当然だ。 『秘密結社Q 九の掟』は覚えている。」
 タガメンダーは頷いた。
 「なら、言ってみろ。 九の掟を!」

 「九の掟・・・」
 ジガとレンタヒーローが冷や汗を流しながら呟いた。 悪には決して守らなければならない掟が存在する・・・それを破ったものは、理由が何であれ死が待っている。 そうしなければ悪の秩序を守れないからだ。
 どんな恐ろしい掟なのだろう・・・二人は固唾を飲んで見守った。
 「一、悪の限りを尽くすべし」
  「一、一人十殺を心掛けるべし」
   「一、負けるべからず」
    「一、脱走、逃亡を許さず」
     「一、幹部を敬うべし」
      「一、質素を旨とすべし」
       「一、お菓子は300円まで」
        「一、正義のヒーローは嫌い」
         「一、おまえの母ちゃんでべそ」
 『以上っ!!』
ウニアトムとタガメンダーが声をそろえて秘密結社Qの掟を合唱するように見事に同時に言い放った。
 「タガメ男! 貴様はそのうち3つも掟を破っている! その代償、死を持って償ってもらう!」
 「私は既に秘密結社Qの怪人ではない! その掟に縛られるいわれは無い! だからそう易々とこの命くれてやるわけにはいかない!」
 そして両者真っ向からガッチリと組み合う力比べだ!!
 「パワーなら僕の方が上だと言う事を忘れたか!!」
ギリギリと間接をきしませながらウニアトムが叫ぶ。
 「確かにパワーだけならな! だが正義に目覚めた超人のパワーは無限大だ!眠れるパワーを呼び起こして貴様を倒す!!」
 互いに一歩も引かずに押し合う・・・いや、僅かずつだがタガメンダーの方が押され気味だ。 やはりパワーの差は大きい。
 「貴様のパワーは1054馬力。だが僕のパワーは10万馬力! 100倍近い差をどうやって埋めるつもりだ?」
流石の水のギャング、タガメの力を持つタガメンダーでも原子力の申し子の異名を持つウニアトムとのパワーの差は大きすぎる。 ズルズルと押されている。
 「力の差を埋める方法? ・・・幾らでもあるさ。例えば・・・」
するとタガメ男は、急に力を抜き、自ら後ろへ倒れこんだ。 急な脱力にウニアトムの姿勢が大きく崩れる。 その勢いを利用しウニアトムの腹部目掛けて足を叩きつけ、大きく後方へ放り投げた!! 柔道の巴投げだ!!
 「押してダメなら引いてみろってな!巴さんっ!!」
 タガメンダーが叫ぶ! その声に放り投げられたウニアトム目掛けてジガが飛び、キックの体勢に入り、無防備に背中を見せるウニアトム目掛け右足から突っ込む!!
 「とりゃあああ!!!」
ジガのキックがウニアトムの背中に炸裂した!! まるで弓矢のように身体をしなさせるウニアトム。
 「やまだくん!!」
ジガの声に今度はレンタヒーローが突進してくる。ジガにより蹴り飛ばされたウニアトム目掛けて渾身の右ストレートを放つ!!
 ──ドガアアアン!! まるでコンクリートの壁に何かが衝突したような轟音と衝撃が周囲を襲う!!

 「やったあっ!!」
ムーンライトレディの3人が喝采をあげる。 見事なコンビーネションアタックだ! コレを受けて無事でいられるはずが無い!! 誰もがそう思っていた。
 「ぐわああ!!」
 悲鳴を上げたのはレンタヒーローだった。 右手を押さえてうずくまり苦しがっている。見れば右腕のプロテクターがおおきく破損している。
 「やまださん!!」
綾が悲鳴に近い声をあげ、とっさに駆け寄ろうとする。
 「待って綾ちゃん!巴さんも!!」
 麗子が声を上げた。 先ほどカウンターのキックを浴びせたジガが右足を押さえてうずくまっている。
 「綾ちゃんはやまださんを! 私は巴さんをっ!! 日和子!あんたはここで神塚さんと中村さんを守りなさい!!」
麗子と綾がスグに飛び出し、それぞれ二人へと駆け寄る。
 「どういう事よ・・・。完全に決まったと思ったのに・・・」
 ジガに肩を貸しながら麗子はウニアトムを睨んだ。 ウニアトムは何事も無かったかのように立ち上がった。 身体についた砂埃をわざとらしくはたいているのは憎たらしかった。

 「ふん。なぜあのメイドが敗れたのか解っていない様だな? 僕の装甲もパワーも貴様達とは雲泥の差!あの程度の攻撃ではビクともせんわ!」
 恐るべき耐久力と防御力・・・そしてパワー。 10馬力は伊達ではないと言う事か・・・。
 「勝てる!勝てるぞ! やっと勝てる!!う・・うおおお!!」
シャドーローズと手を握り合いながら嬉し涙を流すレイジ。 シャドーローズもウンウンと頷いている。 残った戦闘員達も嬉しそうにQ〜Q〜と喝采を上げている。
 「いけ〜!ウニアトム〜!! 止めを刺してしまえ!!」
完全にこっちのペースと見てレイジが叫ぶ。 それに答えてウニアトムはニヤっと笑みを浮かべ頷いた。 腕を振り上げてヒーロー達に襲い掛かってきた。

 「くっ!このままじゃ・・・」
負傷し満足に動けないジガを抱えながら麗子は腕から火炎弾を放ちながらウニアトムを牽制する。 こっちは全力でやってるのに足止めすら危うい。
 「巴さんしっかり・・・くっ、持久戦になったら完全に不利・・・」
幸いなのは相手が一人と言うことだ。 自分が引き付けている間に綾はどうにかレンタヒーローを避難させている。 今ここでウニアトムと戦えるのは自分達ムーンライトレディとタガメンダーだけだ。
 タガメンダーがどうにか真正面からぶつかり合ってくれているが、真っ向勝負では分が悪すぎる。
 「タガメンダー!!どうにか巴さんを退避させるだけの時間を稼いで!! そうすれば私たち3人でどうにか!」
 麗子がウニアトムの棘攻撃を避けながら叫んだ。 タガメンダーはただ頷いた。返答する余裕すらないのだろう。
 (巴さんを退避させたら・・・日和子と綾ちゃんとでデルタアタックに全てをかけるしかないわね。)
 デルタアタック・・・それさえ決まれば、ウニアトムとて一溜まりも無いはず・・・ぐったりするジガを抱えて必死で駆ける。
目の前にはいつの間にか村正姉妹が装甲車を用意していた。自分達をここまで運んできた装甲車だ。 恐らく動けないガルファー達を退避させるために持ってきたのだろう。 実に用意がいい。
 既に装甲車の荷台に動けないメンバー達を乗せているのが見える。 自分駆け寄ってきたときには綾がレンタヒーローを荷台に乗せているところだった。
 「巴さんお願い!! それにしても・・・誰か応援にこれないの!? ライオットとモモヴァルスは?」
ジガを村正姉妹に預けながら、麗子が叫んだ。 だが村正姉妹の姉、彩は首を横に振った。敵の足止めが激しくとても来れそうに無いと・・・
 「くう・・・戦力が足りないわ・・・。 タガメンダーだっていつまで持つか・・・。 デルタアタックさえ決まれば逆転できるのに・・・」
綾が悔しそうに拳を握り締める。 日和子は「もうだめ〜!」と、ただ泣いているだけ。
 「こうなったら・・・綾ちゃん、日和子。 捨て身で行くわよ!!奴の間合い限界ギリギリまで近づいて・・・デルタアタックよ!」
 「それしかなさそうね・・・。相手の攻撃が早いか、こっちのデルタアタックのチャージが早いか賭けね?」
 「いや〜!!怖い〜!!出来ないよ〜!!」
 「やるのよ!でなきゃここで全滅よ!!」
麗子がハッパをかけ、日和子を半ば引きずるように駆けた。 もう手が残っていなかった・・・これを外せば勝利は無い。

 「む?ほう・・・まだやるのか? とっとと逃げ出せばいいものを・・・」
こちらに向かって駆け出すムーンライトレディに気づいたのか、タガメンダーと殴り合っているウニアトムは不敵な笑みを浮かべた。
 「当たり前だ!正義は決して諦めない!!」
そう言って頭からウニアトムにぶつかるタガメンダー。 だが通じない、ウェートが違いすぎるのだ。
 「いい度胸だ・・・だが、そうは問屋が卸さんぞ!!」
 そう言って片手でタガメンダーの頭をつかむとそのまま力任せに放り投げた。 100倍力の差があるからこそできる荒業! 思いっきり浜辺に叩きつけられるタガメンダー。
 「なにや策があると見たが・・・そうはさせん!」
近づいてくるムーンライトレディ目掛け前傾姿勢をとるウニアトム。 先ほどのタックルではない。頭部と肩に装備された針を全方位に撒き散らす攻撃だ! なみとの戦いで破損し死角は存在するが、ムーンライトレディを足止めし、間合いに入れないようにするのは簡単だ。

 「きゃあっ!!」
 次々に飛んでくる針に身を伏せてるのがやっとのムーンライトレディの3人。 これではデルタアタックの間合いに入れない。
 「これじゃ近づけない・・・」
麗子が悲痛な声を上げる。
 「よしんば近づいたとしても・・・この攻撃を3人全員がかいくぐれるとは限らないし・・・」
綾の意見はもっともだ。 デルタアタックは3人全員が相手と一定の距離を保って放たなければならない技だ。 つまり3人一度に間合いに入る必要があるのだ。 誰か一人でも欠けても駄目なのだ。 かいくぐって近づいたとしても、足並みが揃わなければ相手に各個撃破されてしまう。 接近戦は相手の最も得意とするところなのだから。
 「タガメンダーも限界そうだし・・・誰かあいつの注意すら引いてくれたら・・・」
そんな麗子の呟きに応える者がいた。

 「その役目・・・私がやるわ!」
 ムーンライトレディたちが後ろを振り返ったそこには・・・

 「ば!ばかな!貴様は僕が倒したはずだ!!」
ウニアトムが思わず驚きの声を上げる。 よほど驚いたのか針攻撃を止めてしまった。

 「チャンスッ!!!」
声の持ち主が大きくジャンプした、あっという間にウニアトムの頭上へ間合いをつめる。
 「コンドルキィィィークッ!!」
 まるでコンドルが大きく翼を広げ眼下の獲物に襲い掛かるように、両手を大きく広げた人影は、ウニアトムの顔面へ落下式の両膝蹴りを浴びせた。 「ぐう・・・」とよろめくウニアトム。胴体は強固でも顔面はそれほどでもないようだ。
 「ドリル少女スパイラルなみ・・・見参っ!!」
 地面に降り立った人影・・・それは右手に強固なドリルを装着したメイド少女だった。

 「なみちゃん!無事だったんだ!!」
 日和子が嬉しそうな声を上げる。 その問いになみは黙って頷いた。
 良かった良かった!と喜びをあらわにする日和子に、負傷から動けないメンバー達までなみの登場に活気付いてきたのか、痛む身体を無理やり動かし、装甲車の荷台から降りてきた。
 「ふ・・・はっぱ正義はそう簡単に負けないって事か・・・」
 レンタヒーローが痛む右手を押さえながら笑顔を作る。
 「・・・なみちゃんが頑張ってるのに、私達が休んでいるわけにはいかなくなっちゃたね。」
 ジガが片足を引きずりながら、懸命に身体を動かそうとしている。 それに呼応したように気を失っていたディバンとベラボーマンまでふらふらと意識を取り戻しつつあり、タガメンダーがゆっくりと立ち上がってきた。
 仲間の無事がこれだけの力を与えたのだ。
その様子になみは希望と同時に不安も感じ始めた・・・
 (すごい・・・なみの登場でこれだけの力が・・・・けど・・・本当にやれるの・・・?)

 「・・・・?」
 そんななみの不安を感じ取ったのが村正姉妹だった。 先ほどの攻撃といい、味方が活気付いているのに何か不安を抱えているようなそぶりを僅かにのぞかせるなみの微妙な変化を感じ取っていた。
 「お姉ちゃん・・・あのなみちゃんちょっと変じゃない・・・?」
宮内が姉の彩にそっと耳打ちする。
 「そうね・・・なみちゃんがあんな膝蹴りなんて技出すかしら・・・。それに微妙にいつもと違うような・・・」
 「でしょ・・・。それにさっきの膝蹴りのときチラッと見えたんだけど、なみちゃんって下着は白よね?」
 「?、へんなこと聞くわね・・・。確かに白のショーツだけど、どうかしたの?」
 「あのね・・・なみちゃんのスカートの下に・・・ブルマーが見えたような気がしたの・・・」


 (なみ・・・私は貴方が戻ってくるまでスパイラルなみを演じてみせる! だから・・・貴方は死ぬんじゃないわよ!)
なみ・・・いや、なみの姿をしたメイド少女はウニアトム目掛けて駆け出した。右手のドリルを轟かせて!
 (貴方を倒すのは私なんだから! それまで絶対に!! この恵がスパイラルなみを演じてみせる!!)
そう・・・ここにいるなみはなみではない。 なみの格好をした恵であった。 恵はドリルで果敢にウニアトムに戦いを挑みながら、思い出していた。 なみから託された思いを・・・・


 数十分前・・・・ウニアトムの攻撃の前に敗れたなみは、戦闘不能の自分に代わって恵に『スパイラルなみ』になってほしいと頼んだ。 今時分がいなくなれば、繊細で傷つきやすいメタモルの子供達を悲しませ苦しめてしまう。
 そうさせないためになみは恵に自分のドリルとメイド服を託したのだ。 幸いなみと恵は、メーカーは違えど同時開発の競合機種であり、ある程度の部品互換性も有していた。 顔つきも似ているといえば似ている。 自分の影武者を頼むには恵しかいなかった。
 「む・・・無理よ・・・幾ら同時開発の機種でも、貴方と私ではドリル以外は、戦法から身のこなしまでまるで違う・・・無理よ・・・」
 躊躇う恵になみは懇願した。 今、託せるのは貴方しかいないと・・・。それになみのライバルを自認する恵ならばなみの戦闘スタイルを知り尽くしている。 戦闘方法をマスターするのはすぐに出切る筈だと・・・・
 「さあ・・・このドリルとメイド服を受け取ってください・・・お願い・・・あの子達を悲しませたくない・・・」
 恵は頷き、自身のセーラー服を脱ぎ始めた。 そして・・・

 (頭髪はカツラでごまかせた・・・・レイコの衣装ユニットが役に立ったわね・・・。ドリルの規格も共通・・・稼動に問題は無い・・・)
恵はなみから託されたメイド服を身につけ、ドリルを装着した。 見るものが見なければ恵とは気付かれないはずだ。
 幸い恵もドリルの扱いに関してはなみと同等の実力はある。 なみの言ったとおり、スパイラルなみの戦闘方法は模倣できそうだ。
しかも今のところ、仲間達からも別人だとはばれてはいない。 少なくともメタモルVにさえばれなければいいのだ。 そう考えると少し気分が軽くなった。
 (やれそうだ・・・。他の面子に気付かれないのなら・・・。いや!やるしかない!)



 次回予告

 なみに扮した恵! 果たして気付かれる事なくなみを演じきることが出来るのか!?
 強敵、ウニアトムを倒す策はあるのか!? ついに決着のとき!!
 そして・・・・ガルファーのヘルメットを手に入れたジェネレーション・キルの計画が動き出す!! 悪の戦士生誕の儀式が今始まる!

 次回、サイバーヒーロー作戦 第19話『倒せウニアトム! 恵フルバレッド(全弾丸)!!』
 次回も一斉発射がすげえぜ!!