第十六話 メタモルV救出戦!! 激闘怪人軍団!




  <前回のあらすじ>
 30世紀の悪の組織『ジェネレーション・キル』より、技術と資金を見返りにガルファー打倒を依頼された秘密結社Q。
 そこで、ガルファーをおびき出す為、新東京TVを占拠。偶然社会科見学に訪れていた、かもめ第3小学校の子供達を人質にとった。
 だが!同級生を救出する為秘密結社Qに立ち向かうメタモルV!!
 しかし秘密結社Qの幹部レイジの新兵器「人間殺虫剤」が炸裂! 見事メタモルVを苦戦の末撃退し、見せしめとして十字架に張付けにし、子供達同様人質する事に成功。
 子供達とメタモルVを救出する為、罠と承知で舞浜の海岸にやってきたガルファー。
そこでガルファーを待っていたのは、ジェネレーション・キルから想定額より3割増に請求した予算と提供された技術により生み出された『最強怪人7人衆』であった。
 だが相手は、強大な力を持つ正義の味方ガルファーである! しかも最強怪人7人衆は先に完成させたジゴクバーストのみ! 残りの6人は予想外のハプニングにより、完成が遅れていたのだ!! やむなくハッタリとして残りの6人は通常戦闘員による変装だったのだ!!
 レイジの秘書シャドーローズの気転により、次いで完成した怪人が急いで快速電車に乗りこむ!! 果たして・・・・最強怪人7人衆は間に合うのか!? 
 だが、レイジは諦めなかった。 策を編み、ガルファーをエネルギーを多量に消耗する『憎しみのオルガルファー』へと変身させ、戦う為のエネルギーを戦闘前に奪う事に成功!!
 がんばれレイジ! 勝利まであと一歩だ!!

 ・・・・・・・・何か違わない?


<本編開始>
 ジゴクバーストの火炎攻撃がガルファーに浴びせられる。 たちまち炎に包まれるガルファー。
ガルファーの装甲はマイクロマシンの集合体によって構成されており、装甲表面を瞬間的に変化させる事が可能だ。 装甲表面と内側に瞬間的に空気の層を作りだし熱から着用者を保護する事が出来る。 また表面を剥離する事で、気化蒸発を起こし炎その物を防ぐ事も。 剥離した表面装甲はすぐにマイクロマシンにより構成し復元する事も出来る。
 だが、ガルファーの一番分厚い第一次装甲の厚さは12ミリ程度。 瞬間剥離を連続する事は不可能だ。 つまり・・・これが出来るのは1〜2回が限度だ。 一度失った装甲を元に戻す為には、量子操作で何らかの質量をマイクロマシンに補給させないと・・・

 「くっ!!」
火炎を浴びたのは数秒にも満たない短い時間。 だが予想以上の火炎にガルファーの耐熱限界を超えそうになりかけた。 耐えきった装甲表面は薄く焦げて黒く変色している場所もある。 幾らマイクロマシンの力があれど自己修復には時間が掛かりそうだ。
 「まずいぜ・・・今度食らったらアウトだ。エネルギーも残り少ないし・・・」
 タダでさえエネルギーが残り少なく、防御の為にエネルギーを使ってしまった。 ここで自己修復にエネルギーを使えば変身していられる時間は多く見積もっても残り15分程度・・・
 勿論15分あれば、戦闘に決着を付けるには十分だ。 だが相手はジゴクバーストだけではない。 後ろには幹部のレイジや戦闘員達が控えている。
 先ほどのレイジ達のやり取りは聞こえていた。 どうやら残りの6体の怪人は何らかのハプニングにより到着が遅れている。 レイジ達のやり取りが事実なら、次の怪人が到着するまで30分掛かる。

 「となると・・・俺はこの場にいる全員を15分以内に決着をつけないとゲームオーバーか・・・」


当初は味方の増援を待つ・・・と言う考えだった。 ガルファー自身が囮となり、秘密結社Qの目を引きつけ、その隙に仲間が子供達とメタモルを救出するというもの。 当初はこの策を前提で動いていたのだ。
 だが、どうやらハプニングは秘密結社Qだけでなく、こちら側にもあったようだ。 つい先ほど御剣博士から連絡が会った。 移動手段のトラブルにより仲間達の到着が遅れているのだと。 やむを得ず、機動刑事ライオットとモモヴァルスが先行して向かってくれているらしいが、いつになるか解らないと・・・
 「事はそう都合良くいかないってか・・・」
 苦笑するガルファー。 この時代の仲間達は段取りが悪いと感じた。 悪い人間たちではない、むしろ人間味に溢れた好感が持てる人々だ。 だが寄り合い所帯の為か「組織」と言うか「チーム」で動く事を苦手をしている節がある。 元々各々の思惑で動いている人間たちを方向性が同じだけ・・・と言う事で集まっているのが裏目に出たか? イマイチ連携がなってない。
 今更ながら大正時代での仲間・・・「サイバーナイト」や「帝国華激団」の統制の取れたチームワークの優秀さが思い知らされる。 特に指揮官であるブレイドや大神の人身を把握する能力や作戦立案は尊敬に値する。
 彼らならば、こんな初歩的なヘマはしないだろう。 ブレイドならこうしたトラブルも起こりうると仮定して行動するだろう。
 (彼らがいれば、もっとこう・・・チームとして動く事が出来るんだろうな。)
 そう思うと、目の前の秘密結社Q達の方が戦闘集団としては優れている様にすら感じてくるから不思議だ。
 今の仲間達は戦闘力は申し分無いが、個々の戦闘力が突出しているので「チームプレー」と言う概念が最初から無いのだ・・・

 だが、現時点でそのような事を考えるのは無意味だ。 現状をどう打破するかを考えなければ。
最強怪人は目の前の一体のみ。 人質を見張っているのは10人程度の戦闘員と幹部のレイジだけ。 勝機はある。
 15分以内にジゴクバースト含めてこの場の秘密結社Qを倒し、子供達とメタモルを救出。 その後すぐにこの場を離脱しなければ、30分後にやってくる次の怪人になす術が無い。
 「こうなれば!!」
 頼る物は己の身とガルファーの力。 長船は捕まっている子供達の顔を見た。 皆悲しみと恐怖に打ち震えている。 すすり泣く声も聞こえる。 一刻も早くこの恐怖から開放させなければ、幼い心は耐えきれそうに無い。 長引けば例え助けられても、子供達の心に大きな後遺症を残しかねない。
 「君達の悲しみを力にするぞ!!」
次の瞬間、ガルファーの装甲が青く輝いた。 悲しみの感情を糧として敏捷さと運動力を向上させ、水/氷系の力を発揮する青きガルファー。 村正姉妹はこのガルファーを「悲しみのギガルファー」と呼んだ。



 「短期決戦に出ましたか。 単純な筋書きです。効果はありますがね。」
舞浜の海岸を望む高台の上で、ガルファー達の様子を伺っていたジェネレーション・キルの幹部レイピアは静かに呟いた。
 彼の口ぶりは、まるでガルファーの策を全て見抜いている様にも見えた。 否、事実見抜いている。
 「よいデータが取れそうですね。 マイクロマシンによる形状変化・・・次はどんな力を見せてくださるのでしょうか?楽しみです・・・」
 まるでTVの前でヒーローの活躍を胸をときめかせている子供のような表情のレイピアだった。
総帥よりこの任務を命じられた時は、地味な仕事だ・・・と、思っていたのだがどうしてどうして魅力ある任務だ。 こうして誰よりも早くガルファーの隠された力を目に出切る・・・。 本当にTVのヒーローの秘密を友人たちよりも早く知って自慢したくてウズウズする子供の感情だ。 胸がときめく・・・
 そんな時、彼の端末に反応が合った。 反応を見るとガルファーとは異なるエネルギー反応を見せている物体が4つ。 猛スピードで国道を疾走している。
 レイピアには正体はすぐに解った。 ガルファーの仲間だ。通信を傍受した訳ではないが、この状況をからすれば簡単に推測できる。
 このままだと十分と掛からず現場に到着するだろう。 仲間の戦闘力がどのようなものかは、データが不足しているのではっきりしないが、おおむねガルファーと同程度と推測してもいいだろう。 むしろ正確なデータが入手する前は、多少過大評価しておく方が、今後の作戦立案が遣り易い・・・と、考えるのがレイピアの持論だった。
  「ですが・・・今回の私の任務は、ガルファーの戦闘能力の採取でして、邪魔が入るのは宜しく無いのですよ。」
そう言って、手にしている携帯端末を覗きこむ。 画面にはガルファーの観測データが記されている。 そして・・・それを見てレイピアは汗を流しながら苦笑する。 何故なら観測したガルファーのデータは、彼の想像以上だったからだ。
 加えて、最初の数分から得られたデータは貴重だった。 ガルファーのパートナーを自認する村正姉妹が名付けた『憎しみのオルガルファー』と呼ばれる黒いガルファーの攻撃能力は、通常のガルファーの3倍近くだったからだ。
 そして、たった今観測したデータも。 それはジゴクバーストの攻撃に対しての防御反応。 一千℃を超える火炎にも耐えきり、着用者へのダメージを最小限に留める防護機能・・・
 レイピアは益々ガルファーへの関心を高めると同時に恐怖を感じた。 この状態で100%の力ではないのだ。 今のガルファーが初代の様に100%近くの力を発揮出来るようになったらどうなるのか・・・と。
 「ですから・・・限界まで戦って頂かないと・・・ね。」
レイピアは、4つの反応がある地区のすぐ側である事を確認すると、携帯電話のような通信機を取り出した。
 「爆田博士ですか? レイピアです。 早速ですが、これからお願いした通りに・・・ええ、そうです。」
レイピアが話している相手・・・それは、爆田軍団と呼ばれるマッドサイエンテイストが生み出した自立行動型ロボットによるテロ集団だ。 新田4丁目と呼ばれる地区を中心に破壊活動を行っている。
 「・・・その為の資金援助ですよ。 勿論、成功報酬は別に・・・。 そう・・・ロボットの外観を秘密結社Qの怪人に極力似せた物を・・・」
 レイピアが、と言うよりジェネレーション・キルが資金や技術提供を行っているのは秘密結社Qだけではない。
彼らは、この時代の様々な『悪』に秘密裏に接触し、資金や技術提供を条件に協力を要請していたのだ。 レイピアがいっていた『人手不足』と言うのは嘘ではなかったのだ。
 ジェネレーション・キルは資金力・技術力はあれど人材・戦力が乏しい・・・。初代ガルファーに組織を潰され、最近になってようやく活動を再開できた程度なのだ。
 そして・・・新たな活動の為の敵に対するに関するデータ収集は必須である。 そこでこうした『悪』と接触していたのだ。 ジェネレーション・キルにして見れば新兵器の実験やデータ収集も出来、自組織の戦力を回復させつつ、余計な戦力を減らす事も避けられる。
 確かに金は掛かるが、長い目で見れば十分元は取れる。
 それに『悪』には個人経営の連中が多い事もジェネレーション・キルには幸いした。 個人経営ならではの基盤の弱さ。それゆえ資金繰りに苦労している事もジェネレーション・キルが付け入る隙を与えさせた要因にもなり得た。

 爆田軍団もそう言った理由で資金と技術を提供した『悪』の一つであった。
勿論、目的はデータ収集だけではない。 爆田軍団が持つロボット技術を手に入れる為でもある。
 また爆田軍団は今まで接触した『悪』の中で最も規模が小さい。 大規模な戦闘行動には不向きだが、小規模な破壊活動ならば非常に有効な力を持つ。
 レイピアは、ガルファーへの増援が爆田軍団の活動範囲地域にごく近い事から、爆田軍団へ出撃を依頼した。 勿論その為の資金は提供するのも忘れない。 今のジェネレーション・キルにとって怖いのはこうした『悪』達から依頼を突っぱねられる事だ。
 向こうも『悪』であろうから、裏切る行為は十分に考えられる。 ならば裏切れないようにするしかない。 しかし戦力が回復しきってないジェネレーション・キルが出来る事は金を出す事だけだ。 こちらに金がある・・・つまり、利用価値があると思わせなければならない。
 そして・・・その行動は確実に成果を生んだ。 爆田博士は『新兵器のテストも兼ねるのに丁度良い』と言う理由で、新型のロボットを含めた部隊を出撃させると言ってきた。
 その反面、成功報酬を要求するのも忘れない。 レイピアは「いいですよ・・・」と答え了承した。 多少高くついても後で取り返す事はいつでも出来るのだから・・・


 そして・・・・数分後、事は起きた。
舞浜まで後少し・・・と言う場所でライオットとモモヴァルスの4人は思わぬ足止めを食らう事になる。 彼等の目の前に秘密結社Qの怪人『ゴキブリジャガー』に酷似した怪人が正体不明のロボット兵器を連れて現れたからだ。
 「こいつは!? 馬鹿な!コイツは以前ガルファー達が倒したはずだぞ! それにこのロボット達は・・・」
 だが、考えてもはじまらない。 敵が目の前にいるのだ。 戦わざるを得ない。
 「こいつ等・・・俺達を足止めする気か!」
ライオットの言葉にモモヴァルスの3人も同意する。
 「間違い無いわね! だとすると・・・」
 「ガルファーが危ない!」
 「もう!みんなは何をモタモタしてるのよ!!」


 同時刻、かもめ第3小学校近くの道路をよたつきながら走る奇怪な装甲車に乗った一団があった。
周囲の人々が目線を飛ばしてくる・・・不思議な物でも見るように・・・
確かに不思議なものだろう。 タイヤも無い装甲車が道路を走り、その荷台には奇怪な集団が乗っているのだから・・・
 「め・・・目線がキツイな。」
 レンタヒーローが苦笑する。 その気持ちは皆同じだった。同じように荷台に乗っているジガとディバンが無言で頷いた。
 「変身していて正解でしたね・・・こんな所、変身でもしてないと道交法違反で捕まりそうですからね。」
 ベラボーマンが苦笑いを隠せない。
 「仕方ないよ・・・。変身状態で顔が隠れてるのってわたし達だけだし・・・」
 ジガの言葉にディバンも頷いた。 幾ら正義の味方とは言え奇異の目に晒されるのは精神的にこたえる。
一行を乗せている装甲車を運転しているのは、村正姉妹の姉のほう『村正彩』だ。 運転方法が現代の自動車と異なっているが、機械に関するカン・・・と言うのか大まか把握できたので彼女がドライバーを務めることにした。
 そして、運転席にいるのは村正姉妹の妹の方『村正宮乃』とムーンライトレディの3人、ドリル少女スパイラルなみであった。 彼女達は素顔丸だしの為、あまり公衆の面前に顔を出すわけにはいかないからだ。
 幸い装甲車はバトルモジュール歩兵が運用する事を前提に作られているため、身体の小さい彼女達6人でも詰め込むことで何とか乗車できた。
 「せまい・・・」
 宮乃がぼやいた。 「これじゃ銃のチェックも出来ないよ・・・」とぼやく。 彼女は海外の警察の特殊部隊が着込む戦闘服のレプリカに身を包んでいた。 姉の彩も同様の格好だ。勿論銃器も持ってきている。
 「なみちゃん・・・ドリルこっちに向けないで・・・刺さりそう。」
 日和子の泣きそうな声になみが右手のドリルを天井に向ける。 人間だったら腕がだるくなりそうだ。
 「急ぎましょう。御剣博士から通信があって、ライオットさん達が足止め食らってるって。」
無線機を持った綾の言葉に車内がざわめいた。
 「別働隊がいたみたい。 ガルファーさんも罠にはまってエネルギーが・・・」
その言葉に彩は返答せずアクセルを踏みこんだ。 とにかく今は急ぐしかない。 間に合えば良いが・・・・



 「食らえっ!!ガルファーミストぉぉっ!!」
思いっきり広げたガルファーの右手から勢い良く濃い水蒸気が噴出す。 ジゴクバーストの身体を水蒸気が包みこむ。
 「氷結っ!!」
 ガルファーの叫びと同時に手のひらから青い輝きが放たれる。 青い光は撒かれた水蒸気をたちまち凍らせていく。 全身を水蒸気に包まれていたジゴクバーストの身体は自由を奪われていく・・・
 「この程度の冷気、我輩の業火の前には無力よ!!」
怯む事無くジゴクバーストの触手から轟炎を放った。 だがジゴクバーストが火炎を放った瞬間、小爆発が起きジゴクバーストを吹き飛ばした!!
 「な!なんだ!?何が起きた!?」
うろたえるレイジ。 吹き飛ばされたジゴクバーストは「なんのこれしき!」と立ち上がり火炎を再び放つが、放った途端にまたもや爆発が。
 ボン!ボボン!!── 火炎を放つたびに小爆発がジゴクバーストを襲う。 連鎖爆発の連続に翻弄されるジゴクバースト。 レイジも何が起きたのか理解できずうろたえるばかり。
 「これは・・・・んんっ!?」
レイジは足元に輝く物体がある事に気付き拾い上げた。 それは卓球のボールほどの大きさの氷の塊。
 改めてジゴクバーストを見ると、身体中に同じような氷が・・・
 「まさか・・・はっ!ジゴクバースト!火炎を止めろ!」
レイジが叫んだが、ジゴクバーストはまたも爆発に襲われる。
 「今更気付いた所でもう遅いぜ!!」
 叫んだのはガルファー。 波打ち際にしゃがみこみ、右手を海面に突っ込む。 そして、すっ・・・と引き上げると右手には槍が握られていた。 海水を氷結させて作った氷の槍だ。
 それを見た瞬間レイジは表情が凍りついた。 あんな物を食らえばジゴクバーストがどうなるか瞬時に理解出来たからだ。

 ジゴクバーストを襲った連続する小爆発。 その正体はガルファーが水蒸気を凍らせて作った氷の塊だ。 細かい氷の塊は、ジゴクバーストの超火炎を受けて一瞬で膨張して爆発したのだ。 気化を利用したジゴクバーストの火炎を逆利用したガルファーの攻撃だ。 なまじ火炎が強烈過ぎたのがジゴクバーストにとって裏目に出た。 ジゴクバーストにして見れば一瞬で無数の機雷の中へ飛び込んだような物。
 水ではなく、水蒸気にしたのはジゴクバーストの身体に満遍なく水分を与える為だ。 残り少ないエネルギーで敵を倒す為に、相手の力を利用したのだ。
 そして、手にした氷の槍。 ジゴクバーストの身体にでも刺されば、ジゴクバーストの体内の膨大な熱エネルギーによって、一気に爆発してしまう。
 そして・・・ガルファーは氷の槍を躊躇う事無く投げた。 狙いは小爆発の連続でダメージを受けたジゴクバーストのどてっぱら!!

 「我輩を見くびるな!!」
 ジゴクバーストの周囲がいきなり陽炎のようなものに覆われた。 次の瞬間には熱波のような物が周囲を包んだ。 ガルファーが投擲した槍もジゴクバーストに届く前に溶け崩れてしまった。
 「我輩の炎の温度を少し下げた。 ようは瞬間蒸発させなければこんな氷の塊なぞ、怖くも何とも無いわ!」
流石『最強』を自認する事はある。 適応能力にも優れている様だ。 状況を分析し的確な対処・・・今までの怪人には見られなかった事だ。
 だが、今のガルファーには喜ばしくない。 タダでさえエネルギーが浪費しているのに、形状変化を行ってしまった。 もう変身時間は10分を切った。 このまま長期戦・消耗戦になってしまえば明らかに不利。
 「上手く我輩の力を利用してくれたな・・・。礼代わりに今度は我輩の攻撃をお見せしよう。」
むっ?と、警戒するガルファーに向かい、火炎攻撃をぴたりと止め、接近戦を挑んできた。 得物の触手は今度は鞭のように振りかざしてくる。
 ヒュンッ!ヒュンッ!!と、触手を振りかざすジゴクバースト。 だが今のガルファーは運動力に優れた青きガルファー、華麗なステップとアクロバット体操じみた動きで華麗にかわす。
 「そらそらそら!!」
ヒュンッ!!と、触手を振りつづけるジゴクバースト。 確かに素早い鞭の攻撃だが避けられない早さではない。また手首の動きで鞭の軌道はある程度読める。相手の間合い入る事無くガルファーは避けつづける。
 パシャン──ガルファーの足元に水が刎ねる音。 攻撃を避けつづけるうちに波打ち際に追われている。
 「ふ・・・案外簡単に掛かったな。」
ジゴクバーストが笑みを浮かべたような口調で話した。 表情が掴めないので言葉のニュアンスで判断するしかないが、不敵に微笑んだような感じを与える。
 「その場へ貴様を追いやるのが目的だった・・・」
 「なんだと? 波打ち際へ追いやる事に何の意味がある?」
ガルファーは足元を見る。 足首が水に浸かっている。確かに足元が悪い事には違いないが、これぐらいで運動が阻害される事は無い。またマイクロマシンであるガルファーの装甲が錆びる事もありえないのだが。
 「ふ・・・」
そう言って得物の触手を構える。また業火を浴びせるような態勢だ。 だが前述の様にこの程度の足場なら運動が阻害される事は無い。 火炎攻撃以上の意味があるとは思えない。 少なくともガルファーや幹部であるレイジはそう思っていた。
 だが、次の瞬間、ガルファーは突然現れた猛烈な水蒸気に覆われた!!

 「ぐわああああああ!!!!!」

 絶叫が浜辺を包む。 水蒸気に覆われたのはほんの数秒。 だがそれだけでもガルファーを痛めつけるには十分過ぎた。
 バシャンッ!! 全身を白く結晶化した塩にまみれ、波打ち際に片膝を付くガルファー。 誰が見てもいつ倒れてもおかしく無いような状況だった。
 「う、ううう・・・・水蒸気爆発・・・しかも塩分入りとは・・・」
パリパリと、装甲のあちこちに貼りついた塩の結晶が剥がれ落ちていく。 同時にガルファーの装甲の表面も剥げていくような印象を与えていた。
 「どうだ? 貴様が先ほど我輩に対して行った攻撃の応用だ。 貴様が氷塊の機雷なら、こっちは海と言う場所を利用した爆弾だ。」
勝ち誇ったようなジゴクバーストの声。 ジゴクバーストが放った火炎はガルファー自身ではなく、足下の砂浜を狙ったのだった。
 砂浜・・・特にガルファーがいた波打ち際に業火を浴びせる事で、砂の中に含まれている海水を一瞬で気化爆発させたのだ。 しかも塩の融点は1400℃!! それを気化させたのだから、それがどれだけ高い温度になっているのかは想像を絶する。
 幾ら強固な装甲に包まれているガルファーと言えど、この爆発と1400℃以上の熱量を浴びせられたのだ。 無事である筈が無い!!!

 「か・・・あ、ああ・・・・」
もうもうと立ち上がる湯気の中でガルファーはうめき声を上げながらも立ちあがった。 倒れるわけにはいかなかった。子供達を助けなければならない使命感があったからだ。
 だが装甲内の長船は先ほどの攻撃で傷ついていた。 強固な装甲の直接蒸気に晒されるのは防ぎ、大火傷こそ負わなかったが、熱その物を完全に防げたわけではない、装甲内で長船は蒸し焼きのような状態に陥っていた。 爆発の衝撃と熱で意識が朦朧としていたが、気力で自分を支えていた。
すぐさまガルファーその物が、着用者をである長船を保護する為、緊急措置に入る。 生命維持の為の薬品注入や体温上昇を防ぐため装甲内の冷却を開始する。
 だが、長船は朦朧とする意識を必死で繋ぎとめ、それらの保護機能を全てカットした。 生命維持モードもエネルギーの消費に繋がる為だ。 この状態では長船が念じても変身が解除される事は無い。 必要最低限度の生命維持を確保する為マイクロマシンによる治癒と投薬を行う為だ。そうする事でガルファーは着用者を守ろうとしているのだ。 無論その為に必要なエネルギーを確保する為、ガルファーの戦闘機能を大幅にセーブされる。
 だが、現状が現状だ。目の前には強大な力を持つ最強怪人ジゴクバースト。 今ここで戦闘力を奪われる事は死を意味する。
 また多くの子供達が、助けを待っている。 長引けばそれだけ子供達の心の傷が大きくなる。 それだけは防がなければならない・・・

 「もう・・・エネルギーが殆ど無い・・・。が! 俺はそれでも戦わなければならないんだ!!」
既に変身時間のタイムリミットは5分を切った。 先ほどの水蒸気爆発から身を守る為にエネルギーを失ってしまったからだ。 装甲の自己修復力も効果が薄い・・・銀色である筈の装甲の色はくすんだ灰色になりかけている。 まるで剥げかけた銀メッキだ。
 ガルファーは足下の砂を一握り握った。 その場にいた全員が何をするんだ?という顔をする。

 『量子変換っ!!』

 バンッ!! そのような音がした気がした。 実際には音は無かったのだが、ガルファーが握った一握りの砂がいきなりはぜたような感じがした後、跡形も無く消えてしまったのだ。
 そして・・・ガルファーの装甲に僅かながら銀色の輝きが戻った。 だが装甲全体に行き渡ったダメージが回復した様子は無いが・・・
 「はは・・・やってみるもんだな。 僅かだけどエネルギーが・・・力が戻ったぜ。 けど・・・今の俺には、砂一握り分の量子変換が限度か・・・」
 呼吸を乱しながら長船は強がった。 ガルファーはあらゆる物体を量子レベルで変換、己の力として再構成する事ができるのだ。

 「ああ・・・なんて存在なんだ・・・ガルファーは・・・」
端末に映し出された今の光景に、レイピアは顔面蒼白になり思わずあとずさった。 それほどまで恐ろしい現象だった。
 大ピンチである筈のガルファーに、これだけの恐怖を浴びせられたレイピアは、底知れぬ恐ろしさに感じざるを得なかった。
 「物質の量子レベルの操作だと・・・。 確かに質量保存の法則には反していないが・・・そこまで出来るのか!」
 ガルファーの声も聞こえていた。「今は砂一握り分が限度」と。 それならばガルファーがフルに力を発揮したらどうなるのだ? どんなに打ちのめされようが、あらゆる質量物体を己の力へと再構成。 着用者を一撃で即死にでも追い込まない限り、どんなに傷ついても質量さえあれば元通り・・・。 いや、ガルファーに変身している状態ならばそれすら確実ではないかもしれない。 完全な不死はありえないが、少なくともガルファーとなっている状態では『死』はありえないかもしれない。 まるで神のごとき力を発揮するではないか!!
 「これは・・・貴重なデータだ。 なんて恐ろしい・・・そして、興味もある。 この力を我らが手にいれれば・・・」
 レイピアは観測を続ける事にした。 僅か十数分の間にこれだけのデータが得られるとは。 ますます彼はガルファーに興味を覚えた。
 「・・・・手にいれたい。 ガルファー・・・貴方の力を・・・。 何か着用者とガルファーの力を分離する方法は無いものか・・・」
 レイピアの頭はガルファーの力にすっかり魅せられていた。 まるでアイドルに心酔する熱狂的なFANのように・・・
 「これは・・・秘密結社Qにボーナスを出さなければならなくなりましたね・・・。」
意外と評価された組織。それが・・・・秘密結社Q!!


 僅かだが力が戻ったガルファーは、力を振り絞り装甲を青くした。だが完全に装甲全体を青く出来ない。あちこちが銀と青のまだらになっている。
 「全身の45%が限度か・・・上等だ!!」
ヘルメットに示された青への変化はその程度と、表示された。 もう全身へ行き渡らせる力も無いのだろう。 だがニヤッと笑みを浮かべ、左右の腕を顔の前で交差させた。
 「なにっ!!」
 プロレスで言うクロスアームブロックの態勢で、まっすぐにジゴクバーストへ駆け出すガルファーにジゴクバーストは思わず驚きの声を上げた。 そのような状態で真っ直ぐに向かおうと言うのか!と・・・
 だが、愚か者め!と、触手を迫るガルファーへ向ける。 自分から的になろうというのか・・・。そんな中途半端な形状変化で自分の攻撃を受けきれるものか!!
 「地獄へ落ちろ!!」
 触手から炎が吐かれた。 だがガルファーは避けない! 唯ひたすらに真っ直ぐに駆ける!!

バッ!!─── 自ら業火の中へ飛び込んだガルファー。 だがガルファーの目の前で、業火はまるで見えない傘で防がれたようにガルファーを避けるように弾けた。
 「どう言う事だ・・・」と、驚くジゴクバースト。 そしてその謎に気付いたとき、彼は腹部に冷気を感じた。 数千度の炎を操る自分が冷気を感じる? そんな馬鹿な!!
 だが・・・・事実だった。 彼の腹には真っ青なガルファーの右足が刺さっていたからだ。
 「ガルファぁぁぁ冷凍キッィィィクっ!!」
右足のジゴクバーストの腹に突き刺したままにガルファーは叫んだ。 ガルファーの四肢は・・・四肢だけは真っ青に染まっていた。

 ジゴクバーストの業火に耐えうるには、青きガルファーになるしかない。 だが消耗したガルファーでは全身の45%しか青く出来なかった。 そこでガルファーは両手足のみを青くしたのだ。胴体への防御をすっぱり捨てて・・・。
 ジゴクバーストの攻撃は青くした両腕で受けきり、同じく青くした両足を・・・最後のインパクトの直前に右足だけに青さを集中させ一気に叩きつけたのだ。

 「そ・・・そんな・・・」
断末魔の苦しみを味わうジゴクバースト。 突き刺された腹部から徐々に全身が凍り付いていく・・・ ガルファーは右足を引きぬくと、残った青さを左腕のみに集中させる。
 「ガルファー!冷凍チョッぉぉぉプっ!!」
 左手から放たれた蒼き空手チョップを凍りついたジゴクバーストの首筋に叩きこんだ。
 「崩れろ!」
 その名の通り、凍りついたジゴクバーストはビキビキと全身に亀裂を起こし、最後には多数の氷塊となって崩れ去った。

 勝った・・・と、一息付くも無くガルファーはレイジ達へ顔を向けた。 消耗しきっているがまだ変身時間は2分はある。 レイジはともかく、戦闘員を片付けるに力ぐらいある筈だ。
 「く!くるな!人質を殺すぞ!」
 すっかりうろたえたレイジが得物を手に叫ぶが、そんな行為に意味はないとレイジ自身が解っているようだ。 単なる時間稼ぎだ。 もうガルファーの変身時間は数分程度と予測している。 出来るだけ引き伸ばそうと言うのだろう。 だがガルファーはそんな事に構っている暇と時間は残っていない。 レイジの勧告を無視して、デコピンの要領で人差し指を弾く。 その指から放たれたのは小さな小さな青き力。 残りカスのような青の力をレイジに飛ばすガルファー。 次の瞬間レイジの表情がこわばる。 青の力が、レイジの日本刀の刀身のみを凍らせてしまったのだ。 そして・・・レイジが凍った刀身を確認しようと少し動かした途端・・・砕け落ちてしまった。
 わ〜!!と、わめくレイジ向けてガルファーが突っ込んできた。 もうレイジ達秘密結社Qに、ガルファーに対する戦闘力は殆ど無い。 とうっ!とジャンプし、キックの態勢に入ったガルファーにレイジ半泣き。

 だが・・・・展開はレイジ達に傾いた。

 「ぐはああ!!」
 悲鳴を上げたのはレイジではない。 ガルファーだった。 レイジ達向けて必殺キックの態勢に入っていたガルファー向けて、突然横合いから茶色い人影が襲いかかったのだ。
 そのまま浜辺へ叩きつけられるガルファー。 そして対照的に華麗に着地した茶色の人影・・・。 レイジはその正体に思わず涙を流していた。
 「コクロコオロギン!!!」
 着地した人影・・・それはレイジが待ちに待った最強怪人の一人、ゴキブリとコウロギの力を併せ持った『コクロコオロギン』であった。
 「お待たせしました! 我輩にお任せください!!」
 「危ない所を良く・・・。しかし随分早かったな?」
 確かに時間はあれから15分かそこいらで20分と経ってはいない。 到着には30分掛かると言われていたのに・・・。 幾ら快速電車を使ったとしても早過ぎるような・・・
 「実は運良く特急電車がありまして、そちらを使いました! あ・・・これが特急料金の領収書ですレイジ様!」
結構律儀な怪人である。 『悪』ならば踏み倒せよ・・・とは言わない組織、それが秘密結社Q!!
 「まあ何にせよ、間に合って良かった。 後数分早ければジゴクバーストも敗れずに済んだのだが・・・」
 「まあ・・・ジゴクバーストは我々7人の中では最も開発費用が安い男・・・即席にしては良くやったほうでは?」
仲間が敗れたと言うのに哀れみも見せないコクロコオロギン。 敗北した事で最強怪人の名を汚した存在と思われているのかもしれない。
 「よし・・・虫の怪人の貴様にこんな事を言うのは何だが・・・もうガルファーは虫の息だ。 貴様がトドメを刺せ!!」
 「お任せください!! 残りの5人の到着を待たずに倒して御覧に入れます!」
 「え?他の5人? 半日掛かるんじゃなかったのか?」
 「未完成とは言っても、最終調整のみとなっておりましたので、開発陣に臨時ボーナス払う事で多少前倒しになったようです。 我輩のテストが終了する間際に完成しました。もうこちらに向かっている途中なのでは?」

 「嫌な事聞いちまったな・・・・」
 倒れていたガルファーがよろよろと立ち上がる。 既に変身時間はオーバーした。 それでもガルファーを維持しているのは長船の気力だった。 ガルファー本体のエネルギーは機能維持の為殆ど機能していない。長船の気力をエネルギーに変換している程で、実の所立っているのでさえ不思議なのだ。
 もはやガルファーは戦闘力は残されていないに等しい。 ただの重い鎧に成り果てていた。
 「だが・・・戦ってやる・・・貴様らなんぞに・・・」
しかしそれはもはや強請でしかなかった。 目の前に襲いかかってきたコクロコオロギンに対して、ガルファーは身構える事すら難しくなっていた。


 「流石・・・ですね。 気力で変身状態を維持するとは。 だが・・・もっと追い詰めてもらわないと・・・それこそ死の一歩手前までね・・・」
 先ほどに比べ、幾分落ち着きを取り戻したレイピアは観測を続ける。 モニターの中ではなす術無くサンドバックの様に滅多打ち状態のガルファー。 殴っているコクロコオロギンは流石『悪』だけあって、躊躇いが無い。 その強固な太い腕でガルファーをアッパーで殴り飛ばした。
 ガルファーは、またしても砂浜に叩きつけられた。 だが、沈黙したのはほんの数秒。またしても立ち上がる。 その様子に豪を煮やしたのか、コクロコオロギンは両腕を頭上で組み合わせた。
 「さあ・・・どうします?ガルファー・・・」
 コクロコオロギンの一撃が振り下ろされた時、画面の中のガルファーは、レイピアの予想外の様相を見せた。
 突然、ガルファーが破裂したように見えたのだ。 自爆?レイピアは一瞬そう思ったが、すぐに考えを撤回した。 先ほどまでガルファーが立っていた場所に、上半身裸の青年が立っていた。 良くみれば下半身の着衣はガルファーの状態、彼は瞬間的にガルファーの外装を超高速で排除し、その排除した際のエネルギーをそのまま相手にぶつけたのだ。 つまり・・・ガルファーの外装その物を質量弾として発射したのだ。 吹き飛ばされたコクロコオロギンの腹部には、ガルファーのヘルメットが突き刺さっていた。
 だがその様子にレイピアは若干落胆した様だ。 予想外とは言え、期待したような凄い力ではなかったからだ。
 「ほう・・・スゴイな。そんな手も・・・だが、それ以上の策はもう無いでしょう。 現状ではこれが限界ですかね?」 レイピアはそう言って、通信機を取り出し通話をはじめた。 その相手は彼の上司であり、ジェネレーション・キルの総帥であった。 レイピアは現状でのガルファーの情報を包み隠さずありのまま報告し、ガルファーの力が現状ではこれが限界のようだと伝えた。
 それに対しての総帥の返答は、ガルファーの『新たな段階へのステップアップを待つ。』と言うものであった。 時間跳躍と言う技術を持つジェネレーション・キルにとって、時間の浪費はさほど苦にならない。 ぶっちゃけ彼らは『気が長い』のだ。
 「ですが、このままでは確実にガルファーは殺されますよ? 宜しいのですか?」
レイピアの問いに総帥は「それで殺されるようなならそれまでだった」と、答えた。 だがこの数十分の間に見せたガルファーの力は非常に興味深いとも付け加えた。 このままガルファーの力が失われるのは惜しい気もする・・・とも。
 「では、どうされます?」
数秒、総帥から返答は無い。何かを考えている様だ。 そして10秒と経たない間に総帥の返答はあった。 それは、「たった今ガルファーは外装を飛ばしたな?」と言うものであった。
 「はい。その通りです。・・・・解りました、なるべく原型の留めている物を回収します。」
それだけでレイピアは総帥の意図を掴んだ。 撤収の準備をはじめると同時に、着用している戦闘服のスイッチを入れた。 一瞬、周囲が陽炎のように揺らぎ、レイピアの姿が消えた。 そして・・・またゆらぎが起きると再び姿が見えるようになった。
 「光学迷彩の調子は良い様ですね。では・・・行って来ます。」
そう言ってレイピアは、手に拳銃のような物を持って、その場を離れた。 彼が回収すべきものとは・・・?


 「貴様ァァァ・・・往生際の悪いっ!!」
ガルファーの外装の高速排除により吹き飛ばされたコクロコオロギン。 ノックアウト同然の奴にここまで食い下がられると、哀れみを通り越して憎しみが沸いてくる。 腹に刺さったガルファーのヘルメットを引き抜き、憎しみの感情を込めて投げ捨てた。 バシャンッ!と、ヘルメットが波打ち際に打ちつけられた。
 「殺してやる! その無防備な身体をズタズタに引き裂いてくれるわっ!!」
 両腕の強固な爪をガチガチ鳴らし、ガルファーを睨むコクロコオロギン。 対するガルファー・・・半分変身が解けた長船は「へっ・・・」と薄ら笑いを浮かべる。
 ザッ!と砂を蹴り長船に突進するコクロコオロギン。流石コオロギの力があるだけ、足の力は強そうに見える。
 「来やがれっ!!」
叫ぶ長船。 ボロボロの状態でまだ吼える。 ギュッ!と右の拳を握り締める・・・
 「死ねェェェっ!!」
 長船に向かいジャンプし襲いかかるコクロコオロギン。 既に上半身の外装を失っている長船に術はないと思われた。 
 ガオンッ!!ガオンッ!!──浜辺に響く銃声。 空中で弾丸を避ける術は無い。まるでコクロコオロギンはパンチを浴びたボクサーの様にのたうった。
 長船の左手には拳銃が握られていた。 それも長船が警察官として使用している物ではない。地下ルートで手にいれたイスラエル軍の軍用拳銃。 世界最強の軍用拳銃の弟分と称される銃であるからして、その威力は並の拳銃を凌駕する。
 現に兄貴分とされる拳銃は、人間をベースとした生物兵器を葬った実績があるとされている。 その弟分でもそれなりの効果はある。 生物兵器と怪人は兵器として見るとかなり近い。 現用の武器でも倒せない事は無い。
 「へっ・・・なめんなよ。ガルファーの力がなくても貴様ぐらい・・・」
 悪態とも言える言葉を吐き、拳銃を撃ちつづける長船。 本当に威力のある銃らしい。コクロコオロギンに確実にダメージは与えている。 現にコクロコオロギンは立っているのが精一杯の状態。 弾が当たる度に身体を硬直化させて耐えているのが明らかに見て取れているからだ。
 だが、やられっぱなしと言う訳ではない。拳銃の弾切れを待っているのだ。 もう長船にはそれ以外武器と呼べるものが無いのが解っているから・・・

 そして・・・弾切れになる前に、決着は付いた。 発砲が止んだのだ。 勿論弾切れではない。 拳銃を持つ長船自身が再度浜辺に叩きつけられたからだ。
 既に気力だけで自分を支えていた長船には周りを見る余裕すら失われていた。 だから新たな敵の接近に気が付かなかった。
 長船が先ほど立っていた地点には、見た事も無い怪人が5人も立っていたのだ。
そう・・・・ついに恐れていた事が・・・最強怪人の残り5人がついに到着してしまったのだ!!


 「おお!ついに来たか! 随分早かったな!!」
既に勝利を確信しているレイジが満面の笑みで5人の怪人を迎える。
 「遅くなりまして申し訳ない。 ですが高速道路が意外と空いていたので助かりました。 あ・・・コレ領収書。」
 巨大なサザエの貝殻を背負った怪人がレイジに対して頭を垂れる。そして高速道路使用の為の領収書を手渡す。
 「しかしコクロコオロギン、貴様もだらしない。虫の息にここまでてこずるとはな。」
ジャガーの姿をした怪人が鼻で笑う。
 「左様。最強怪人の名が泣くぞ。」
タガメ型怪人が静かに語る。
 「やかましい!既に我輩の勝利は決まっていた。貴様たちの横槍が入らなければ華麗な勝利が手に入っていた!」
 「何にせよ。任務は既に達する寸前だな。」
白い繊維状の体を持つ不可思議な怪人が結論付ける。
 「油断はできないよ。僕達の任務はコイツを倒す事なんだから。」
屈強な肉体を持つ大男風の怪人が、外見に合わない少年のような澄んだ声を出す。

 「レイジ様! お待たせして申し訳ありませんでしたぁ。大丈夫ですか?」
次いで現れたのは、レイジの秘書である美女「シャドーローズ」。 手元の書類と時計を見渡し申し分けなさそうに謝る。
 「いや・・・お前のせいではない。 何にしても助かったぁ〜〜」
緊張が解けたのか、その場に座りこむレイジ。
 「総統も今回の事は悔いておりました。 レイジ様には今回の任が終わり次第、特別賞与として御寿司をご馳走するそうです。」
 「そいつは嬉しいなぁ・・・出来れば回ってる所以外の店が良いなぁ」


 だが、反対に長船は不幸の極みだ。 もう立ち上がるのさえ難しい。 精も根も尽き果てたとはこの事か・・・
 それでも彼は立ち上がろうとした。 それを察してか、彼の身体が浮き上がった。 怪人の一人が長船の首を掴んで持ち上げたのだ。
 「僕の名は最強怪人の一人『ウニアトム』。所見早々で悪いけど、貴様には死んでもらうよ。」
 「あ・・・ありきたりなセリフだな・・・あ・・悪ってのは・・・」
もう自分で発した声すら絶え絶えで聞こえていなかった。 戦おうにも力が入らない・・・
 「ふん。 じゃあそのありきたりなセリフを最後に死んでいけっ!」
 首を掴む力が強まった。 長船の目から光が失われていく・・・・

 「スパイラルドライバー!!!!」

 ウニアトムの足下の砂が突如盛り上がると同時に、少女の絶叫とドリルが飛び出してきた!!
砂の中から突如、ドリルを装着したメイド美少女が飛び出し、ウニアトムを襲った!!
足下からの突然の奇襲にウニアトムは回避の為に長船を放してしまった。 それこそがメイドの狙いだった。 彼女は左手でぐったりする長船を抱えると、すぐにその場から離れ間合いを取った。
 「ドリル少女スパイラルなみ、見っ参!!」
 なみはその場に長船を寝かせると、彼の身体をざっと調べた。 全身に多くの打撲と火傷。骨折も幾つかあり、体力を消耗しきっている。 命に別状は無さそうだが、早く手当てしなければ・・・
 「長船さん・・・遅くなって申し訳ありません。」
安心させるように、あえて笑顔をつくるなみだが、目には自責の念が見て取れた。
 「ば・・・ばっかやろ・・・う。」
長船は涙を流し、苦しみをこらえて笑みを浮かべた

 「邪魔しやがって! 貴様一人で何が出来る!!」
コクロコオロギンが怒りを露にするが・・・・
 「一人じゃないぜ。」
コクロコオロギンの声を遮る様に、彼の頭を飛び越えて白い人影が砂浜に着地した。 それは茶髪でゴーグルと強化スーツに身を包んだ若者。
 「正義のヒーローは、ガルファーだけじゃないぜ!!」
 「れ!レンタヒーロー!!」
6人の怪人の目の前に立ったのは、賃貸英雄レンタヒーロー!
 「ガルファーが戦闘不能になった今! 俺が代わって貴様らと戦ってやる!」
 レンタヒーローが6人の怪人の目の前で身構える。
 「へい、待てよ、やまだ。」
不意に声が掛けられた。 怪人達が声の主を見付けたとき、驚きを隠せなかった。

 『お前ばっかりにイイカッコはさせないぜ!!』

 その場には、指輪の戦士ジガ・宇宙探偵ディバン・超絶隣人ベラボーマン・ムーンライトレディが立っていた。
 サイバーヒーロー勢ぞろいだ!! 皆6人の怪人達をキッ!と睨みつけている。(ムーライトレディ・アルテミスこと日和子のみ「いや〜!!怖い〜」と泣いていたが)

 「き・・・貴様ら・・・」
勢ぞろいしたサイバーヒーロー達は、レイジと6人の怪人を睨みつけている。 その様子にレイジの顔から余裕と安堵が消え、再び緊張状態に戻された。

 「お前達が最強怪人と詠うなら、まずは我々と戦ってみろ。 ガルファーと戦うのはそれからでも遅くは無いだろう?」
 ディバンが挑発する様に言い放つと、怪人達は「面白い。」と、凄みのある笑みを浮かべる。 ディバンの提案に異論は無さそうだ。
 倒れて意識を失いかけている長船は、目に涙を浮かべ心の中で感謝した。 もう声を出す力も無かったからだ。
 (や・・・やまだ君、なみちゃん・・・巴さん、中村さん、神塚君・・・ひよちゃん、綾ちゃん、麗子ちゃん・・・みんなありがとう・・・)

 「お!長船さん!! 大丈夫!? 遅くなってゴメンね!!あたし達が装甲車の運転に戸惑わなきゃ・・・」
一歩遅れてやってきた村正姉妹が泣き顔で長船に駆け寄ってきた。
なみが、彼女達に長船の応急手当を説明すると、長船を彼女達に預け、怪人達の元へ歩み寄っていった。
 村正姉妹はすぐに長船の手当をはじめた。 泣きながら彼女達は到着が遅れた事を嘆いていた。
 「でも!もう大丈夫だからね! みんな来てくれたからね!!」
彩が思わず長船を抱きしめた。 その大きな胸に長船は何か・・・下心無しで心地よさを感じた。 そして泣きながら宮乃が手を握ってきて自分の顔に合わせた。 その感触にも安心感を憶えた。
 (あったかい・・・それだけじゃない・・・なんだろう?この安らぎ・・・昔・・・これと同じような感触を・・・)
 どうしても思い出せなかった。 だが・・・昔こうやって自分を心から受け入れてくれた人がいたことは確かに憶えていた。


 「ところで・・・・どうするんだ? すぐにでもはじめるのかい?」
ウニアトムが目の前に立つ、メイド少女・・・なみを睨みつけて言った。 先ほど自分に恥をかかせてくれたこのメイドに、返礼したい気分だったからだ。
 「そうですね・・・すぐにでもはじめましょうか。 でも・・・団体戦って訳にはいかないようですよ。」
なみは左手で自分の横をしめした。 そこには敵味方が既に誰に言われるまでも無く、自分達で対すべき相手を見据えていた。
 「となると、僕の相手は・・・」
ウニアトムはなみを指差す。 なみはニヤッと笑みを浮かべ頷く。
 「私としてはチームプレーより、シングルマッチ向けなんで。 この方がやりやすいですよ。」
なみは体格の差を感じさせないような口調で、相手であるウニアトムを睨みつけた。


 そして・・・なみ同様、他の者も対する相手と睨み合っている。
 レンタヒーローはコクロコオロギンと。
 ジガはタガメ型怪人『タガメ男』と。
 ディバンはサザエ型怪人『ゴザイマンサザエ』。
 ムーンライトレディは、ジャガー怪人『ミサイルジャガー』。
 ベラボーマンは、素麺型怪人『ニューメンソーメン』と。
最後に・・・なみとウニアトムが・・・・
 互いに火花を散らし合う。

 「みんな・・・勝てるかな?」
宮乃が心配そうにヒーロー達を見つめた。 長船の手を握る手にも力が入る。
 「大丈夫・・・正義は勝つよ・・・絶対。」
 (みんな・・・・死なないでくれ・・・・)
失いかけている意識の中、長船はそれだけを心の中で願った。



 サラァァー・・・・ レイピアの手の中で、砂流のように崩れ去り、消えて無くなるガルファーの右腕装甲。
 「やはり・・・着用者から離れると形状を維持できず自己崩壊するのですね。 やはりガルファー本体は彼が着用している手甲と手袋・・・と言う事ですか。」
光学迷彩により、周囲から完全に姿を消しているレイピア。 彼はサイバーヒーローと怪人達が睨み合っている現場のすぐ側で、誰に気付かれる事無く捜索に専念していた。
 彼が探している物・・・それは長船自ら吹き飛ばしたガルファーの上半身装甲。 だが周囲に飛び散ったガルファーの外装は、機密保持の為か、それとも単なるエネルギーの断絶か、原因は不明だがレイピアが発見した時には、多数がマイクロマシンの結合がほどけ、砂のように崩れ去りやがて消えてしまっていた。
 そして・・・原型を留めていた右腕の装甲もまた。手にした途端に崩れてしまった。
 「これではもう・・・」
 だがレイピアはみつけた。 波打ち際に半ばうずもれている『ソレ』を・・・・
 「これは・・・・!!」
みつけた。 完全に原型を留めている。 しかもまだ結合は解けていない!! 完全に限りなく近い状態の『ソレ』は、コクロコオロギン腹部に突き刺さり、投げ捨てたガルファーのヘルメット!!
 「よし・・・今度こそ」
レイピアは、手にした銃のような物をガルファーのヘルメット目掛けて発射した。 銃から放たれた光線はヘルメットを廻りの砂と海水ごと凍りつかせた。
 「総帥のお言葉通りなら、マイナス150度以下でマイクロマシンの循環が止まる筈だ・・・」
 レイピアが持っていたのは冷線銃。 あらゆる物体を瞬時に凍らせてしまう武器。 マイクロマシンの動きを阻害させる為、これを用いた。 ガルファー自身が先ほど物体を氷結させる能力があったので、この凍結行為も有効かどうはかは解らない。 だが本体から離れ力が弱まっているこのヘルメット部分だけなら、この冷線銃で十分にマイクロマシンの動きを防げるはずだ。
 ス・・・・持ち上げてもヘルメットは崩れない。 完全にマイクロマシンの動きを封じている。 レイピアの顔に笑みが浮かんだ。
 「やった・・・やりましたぞ総帥! ついに・・・ついにガルファーを手にいれたぞ!!」
レイピアの歓喜に満ちた声は、ヒーローと怪人軍団の喧騒に包まれて、誰も気づく事は無かった・・・



 次回予告

 ついにはじまるタイマンバトル!! 果たして我らがサイバーヒーローは最強怪人軍団に勝てるのか!?
 舞浜の海岸でレンタヒーローはコクロコオロギンに苦戦する!! 塩害に電池も錆びる!?
 ゴザイマンサザエに海中に引きずり込まれたディバン!! なれない水中戦に勝機は!?
 ミサイルジャガーの攻撃に学園は焦土と化す!? 火力の差を彼女達のチームプレーは埋められるか!?
 御歳暮の怨霊がサラリーマンであるベラボーマンを襲う!! 存在異議を否定された悲しみ!?
 タガメ男の瞳に写るはジガの素顔。 怪人の脳裏によぎるは悲しみの記憶!?
 圧倒的過ぎる原子力の10万馬力に、対するなみの最終手段が飛び出す! 2×2×3=の答えは必殺技!!
 果たして、レイジは寿司を食べる事が出来るのか!?

 次回、サイバーヒーロー作戦 第17話『捨て身の激闘!』
 次回も凄すぎるぜ!! そして・・・ガルファーのヘルメットを入手したジェネレーション・キルは・・・・