第十五話 強敵!最強怪人7人衆!
「ガルファーだけだと?」
「はい。 それが我が方が提示する技術/戦力提供の最大且つ最低限の条件です。」
新東京の某所。 秘密結社Qのアジトにてレイジとガデスは、目の前に座るタキシードの青年との交渉にあたっていた。
『新東京に存在する』と、言われているだけで如何なる公安組織も発見出来なかった秘密結社Qのアジトに、突如現れたタキシードの青年は、秘密結社Qへ戦力と技術提供にやってきたと告げた。
青年は『革命組織ジェネレーション・キル(GK)』の幹部で、『レイピア』と名乗った。
レイジやガデス達は知るよしもないが、彼は過去の時代『太正時代』にて当時の日本政府転覆を企てる組織『黒之巣会』へ力を貸し、ガルファー達を追い詰めた男であった。
彼は30世紀の未来からやってきた人間で、彼の所属するGKは、『歴史改変による世界制覇』をスローガンに掲げる組織である。
彼等GKの世界制覇の為の行動は、タイムマシンに代表される時間跳躍技術により、実働期間は十年ほどだが、歴史上からして見れば数百年にわたり行動していた。
だがGKは飛鳥時代に現れた謎の女性と、その子供とされる初代ガルファーとの戦いで深手を負い、この数年満足な行動が取れずにいた。 そしてそのダメージは大きく、彼等の時間跳躍技術は大きく制限を受け、特定の時代にしかタイムスリップできずにいた。
ある程度力が回復したGKは、まず『慣らし』として、大正時代と20世紀終盤に小規模の部隊を送りこんだ。 全ては自分達の力が回復したかどうか見定める為。
そこで彼らに予想外の事態が起きる。 2代目のガルファーが20世紀終盤に現れ斥候部隊を壊滅させてしまったのだ。
さらにガルファーは、如何なる理由かは知らないが大正時代に時間跳躍し、そこで『帝国華激団』と名乗る組織に協力。 同じように原因不明の時間跳躍にてこの時代に現れた24世紀の傭兵部隊『サイバーナイト』と、超能力に似た力を持つ21世紀序盤の少女二人と、20世紀終盤の男女のサイボーグ戦士。そして正体不明の3人のボディビルダーによって、送りこんだ部隊と提携を結んでやっていた黒之巣会は完膚なきまでに叩きのめされた。
その後、ガルファーはまた原因不明の力により、この時代に戻ってきた。 そしてこの時代の『正義』とされる組織・・・否、組織と言えないほどの少ない集まりに過ぎないのだが、そういった者達に協力していた。
「ふん・・・。まあお前達がなんだろうが、我々にとっては別にどうでも良い事だ。」
ガデスがふん・・・と鼻を鳴らす。
「ようするに、お前達では始末できないガルファーを我々に倒して欲しい。そう言う事だな?」
「はい。その通りです。その為に必要な経費・物資などはこちらで準備いたします。」
レイピアはそう頷いた。 自意識過剰なガデスの性格に気分を害した様子は見せず、あくまでもビジネスのように事務的に淡々と述べる。
『よかろう。 ガデス、レイジよ。そやつらに協力してやれ。』
ガデスとレイジの背後のレリーフから、総統Qの声が響く。 秘密結社Qでは総統Qが絶対の存在だ。 如何なる理由があれど、総統の言葉は絶対なのだ。
「ありがとうございます。 ではこちらの書類に確認事項がございますので、目を通していただき、不備が無ければサインを。」
レイピアが差し出した契約書のような書類に、ガデスはざっと目を通した後サインした。 その様子にレイピアは微笑を浮かべた。 にやけ笑いやほくそ笑みでななく、あくまでも契約成立に対してのビジネスマンのような笑みだった。
「一つ聞かせて欲しい。 随分資金や技術に余裕があるようだが、何故自分達でガルファーを叩かない?」
ずっと黙って経緯を眺めていたレイジが口を開いた。 目の前の得体の知れない組織を容易く信用して良い筈が無い。 元テロリストとして仲間に裏切られた過去を持つレイジはそう感じていた。
「人手不足・・・と言った言葉では信用が置けませんか?」
「できないな。もっと別の思惑があるんじゃないのか・・・と勘繰るの普通だろう?」
「そうですね。おっしゃる通り。 ですが、人手不足と言うのは事実ですよ。我々の組織は資金はあれど人材不足が弱点でしてね。なにぶん個人経営なので。」
レイピアは淡々と述べた。 感情は出さないビジネスマンのような言葉が余計にレイジに勘繰らせる。
『個人経営というならばこちらも同じだ。 何せ元が環境保護団体なのでな。』
レリーフから声の響く。 どうも秘密結社Qは、元々は市民団体だった様だ。
「我々のような組織は個人経営で無い方が少ないのでは?」
「まあいい・・・貰うものを貰えるならば、こちらとしても異論は無い。 どちらにしろガルファーも我々の敵なのだからな。」
「ありがとうございます。」
そう言って撤収の準備をはじめたレイピア。 用事を済ませ立ち去ろうとするレイピアにレイジは最後にこう言った。
「それにしても・・・あんた達の組織は随分とガルファーを恐れているんだな。」
「ええ・・・怖いですよ。」
レイピアはそれだけ言って帰っていった。 立ち去った後のテーブルには、レイジがレイピアにこっそりしかけた筈の発信機がどうどうとコーヒーカップの横に置いてあった。
「・・・して総統いかがなさるのですか?」
レイジは背後のレリーフに話しかけた。 まさか素直にレイピアの話に乗ってやろうとはとても思えないからだ。
『やつらが何を考えているかは解らん。 だがやつらの技術は実に興味がある。』
「では?」
『ここは素直にのってやろうではないか。 こちらとしても資金繰りが苦しいのは事実。 せいぜい高く売りつけてやろうではないか。』
総統Qの声は笑っている様だった。 恐らく素直に協力しておいて、こちら(秘密結社Q)が有能だとアピールし、信用を得ようと言うのだろう。 そして彼等の技術を奪うつもりなのだ。
『ガデス、レイジよ。やつらに提示する金額は、必要額の3割増にしておけ!』
「かしこまりました。」
その言葉にレイジは、総統が意外とお金に対して小心者なのだな・・・と、感じた。 やはり元が市民団体だったせいだろうか・・・
1週間後、事件は起きた。 新東京放送地区に突如として秘密結社Qが現れたのだ。
彼らは、この地区に集中して存在する数々のTV局のアンテナ群を突如破壊し始めたのだ。 目的は、関東近辺のTVを見ている人々を、ある一つの局に集中させる為。 これにより関東一帯のTV放送は唯一つ、『新東京TV』を残すのみとなった。
ちなみにレイジは、各局のアンテナを破壊する時・・・
「受信料払って欲しければ、もっとアニメを増やせ!」
「やい!最近不祥事が多すぎるぞ! 視聴者に変わって天罰を下す!!」
「水戸のご一行をフィルム撮影に戻せ!!」
「銀河刑事シリーズを復活させろ!!」
などなど・・・若干、個人的不満をぶつけていた模様。
破壊工作の後、アンテナの補修業者に扮したレイジ達秘密結社Qは、TV局の内部に易々と侵入。 局の主用箇所に近づいたところで、変装を解き一気に制圧してしまったのだ。
そして・・・この時、新東京TVには、社会見学でかもめ第3小学校3年生の子供達が訪れていたのだ・・・
「先生・・・。」
撮影スタジオ内に突如現れた秘密結社Qに対し、不安げに教師を見つめる生徒達。 泣きそうな・・・いや既に泣き出している子供をなだめる教師たち・・・。 彼らは無力であった・・・一部の生徒を除いて・・・
「まさか、こんな所に秘密結社Qが現れるなんて・・・」
秘密結社Qの目が届かない物陰にこっそり隠れていた何人かの子供の一人・・・新条咲江は呟いた。
「くるみに感謝しなさいよ。 くるみが楽屋にいた御陰でこうして捕まらずに済んだんだから。」
「・・・うん。 先生に内緒で高杜さんの楽屋に行こうって言ったの良かったね・・・」
「大声出さないほうがいい。僕達も見つかってしまう。」
「捺紀の言う通りですわ。 ここは静かに我慢です。」
隠れていたのはメタモルVの五人であった。 彼女達の一人、メタモルパープルこと高杜くるみは、有名な子役であり、今日も撮影の為にこの局を訪れていたのだ。
折角だから、くるみに会いに行こう・・・と、こっそり抜け出したのが幸を要した。 御陰で彼女達は秘密結社Qに拘束されずに済んだ。
「それにしても・・・秘密結社Qはこの局を占拠して何をするつもりなのでしょう?」
「解らないな・・・TV局という事は・・・人質を使って何かを全国に放送して、何かを要求するつもりなのか。」
ブルーこと佐山捺紀とブラック、南百合麗子が推測するが答えは出ない。
「それにしては人数が少ないと思わない?」
「そうだね・・・怪人も・・・いない。」
レッド、咲江の言葉は確かだ。 TV局一つを占拠するつもりなのに数が通常より少ない。しかも今回は戦闘員と幹部が一人いるだけで、怪人がいない。
「あれだけならさ、くるみ達だけでやっつけられるじゃない!! さっさと成長しようよ!」
ブレスを構え、成長変身しようとするくるみを捺紀が止める。
「まった! 敵が何を考えてるか解らない。ここは様子を見よう。」
「そうですわね。 ここは長官や御剣博士に連絡を・・・」
だが、くるみは聞かなかった。 静止を振りきりブレスを輝かせてしまった。 小学3年生の少女の姿は、成人女性のそれと変わらない姿へ・・・紫色のナース、メタモルパープルへと変化していった。
(ここで、アイツらをやっつければ長官だってくるみの事を・・・)
彼女は若干焦りのような感情を抱いていた。 それはどうしても大紋寺を自分へ振り向かせたい・・・と言う感情だ。 年上の男性への憧れの感情が色濃く出る時期なのかもしれない。 それはレッドの咲慧の口癖が「〜ってパパが言ってた」からも伺える。
「ああ!もう!仕方ないよ!みんないくよっ!!」
咲慧が、仕方なく決断を下す。こうなってしまっては仕方が無い。 全員が連鎖的に成長変身する。
年上への憧れは、メタモルV全員に通じる。 例えば捺紀のゴーグルは祖父の形見。麗子のメイド服は敬愛する老婆を真似た物だ。
だが、その感情はいささか子供過ぎた。 この場で成長するのはマイナスの効果しか生まなかった事を彼女達は、後に後悔する事になる。
「そこまでよっ!秘密結社Q!!」
完全に不意をついたつもりで現れるメタモルV。 彼女達はすかさず付近にいた戦闘員達に襲い掛かる。
一般人には強い戦闘員も、さしものメタモルあいてには分が悪い。 しかも今回はたいした数を連れてきていないのだ。 なんなくやられていく。 だが・・・
「そのセリフは我々のものかな?」
銀と黒の甲冑を身につけた幹部・・・レイジがニヤリと笑みを浮かべる。
「大人しくしてもらおうか? さもないとこの小学生と教師達の命は無いぞ?」
そう言うと、近くにいる教師と子供にスプレーのような物を付きつけるレイジ。
「何?それ?」
メタモルがレイジの手にしたものを見て拍子抜けする声を発する。 どう見ても人を脅迫するには説得力不足の物が握られているからだ。 これならば水鉄砲の方がよほど効果があるというものだ。(ちなみに秘密結社Qの装備品には水鉄砲も含まれているのも事実だが)
「これは、我が秘密結社Qが開発した新兵器『人間殺虫剤』だ!! どうだ?すごいだろ!」
『・・・・・・・・・』
だが、メタモルは耳を貸さず前進してくる。
「お!お前ら!信用してないな!? 本当だぞ! コイツを食らったら一たまりも無いんだぞ!」
メタモル返答無し。 歩みを止めない。
「あのさあ? それ本当に人倒せる道具? 殺虫剤って虫を殺すから『殺虫』剤だよね?」
パープルの言葉に一瞬返答に困るレイジ。 『効果がある』と言って渡されたはいい物の、実は一度も使っていないのだ。 額に冷や汗が流れる。
「う!嘘じゃないぞ! ホントだからな! コレを食らえばお前らだって(多分)一たまりも無いんだぞ!」
『多分』と言う言葉が追加された所を見ると、レイジ自身にも確証は無いのだろう。 半泣きの状態で必死に己の道具を肯定しようとしているのが哀れだ。
「多分って何よぉ〜」
ついにレイジの眼前まで迫るメタモルパープル。 他のメタモルも同意見に達した様だ。明かに疑いの眼差しを向けている。
「く!くそおっ!! ホントなんだぞ!コレでも食らえ!!」
半泣きのレイジの確証無しの一撃・・・・いやひと吹きがメタモルパープルに吹きかけられる。 淡い霧状の薬剤がパープルの顔面向けて放たれた。
「やっぱりハッタリじゃない!!覚悟しやがるですわ! 百叩きじゃ済ませられると思うな!」
ブラックが槍を構え、Q達に襲いかかる寸前それは起きた。
──ぱた
何も言わず殺虫剤を浴びたパープルは前のめりに倒れた。意識も失われており完全に昏倒している。
「ど・・・どうだぁぁぁ!!」
レイジ絶叫。 僅かな屈辱が瞬時に吹き飛ぶ。 恐怖の涙が歓喜へと変わる。 心の中で『やったぁぁ!!』とファンファーレが響く。
「そおら!お前も食らえ!!」
一瞬の事で、何の事が把握できなかったブラックが次の犠牲者となった。 レイジの殺虫剤は確実にブラックを仕留めた。 彼女はパープル同様昏倒した。
イヤッハァァッ!!と、Qの戦闘員達が活気付く。 形勢逆転・士気向上。とにかくQ達(特にレイジ)は、歓喜に満ち溢れている。
「おい。そこの戦闘員、お前の予備を借りるぞ。」
そう言って近くにいた戦闘員の殺虫剤を借りるレイジ。 二丁拳銃ならぬ二丁殺虫剤だ。 ニマ〜とする笑みが妖しい。
一瞬のうちに二人がやられたメタモル達は、とっさの判断ができずにいた。 完全にハッタリと思いこんでた自分達の迂闊さを後悔するが、既に流れは向こうにある。
「ここは、撤退しましょう。 二人を急いで・・・」
レッドが昏倒する二人に駆け寄ろうとする。 こうなっては最初にパープルがやられたのが痛い。 薬物による攻撃ならばパープルの特殊能力で、無効化する事ができるからだ。
「そうはさせるかっ!」
レイジがジャンプ一番、レッドに間合いを詰める。 レッドは近接戦を得意とするが、レイジの殺虫剤も近接専用の武器だ。飛びこんで一撃を浴びせるつもりだ。 その危険性に気付いたブルーが『逃げろ!』と言ったがもう遅い。
「人間殺虫剤を食らえっ!!」
両手に握られた殺虫剤は、正確にレッドを捉えた。一撃決まればレイジの勝ちだ。 レッドは悲鳴を上げて顔面を覆ったが、次には意識を失っていた。
「くっ・・・ブリザード・・」
ブルーが武器の銃剣を冷凍モードに切り替え発射しようとするが、発射速度と使いまわしの良さなら殺虫剤の方が上だ。 ブルーが狙いを定めるより早く殺虫剤を発射。ブルーを倒す。
「このおっ!」
残されたイエローが得物のハリセンを広げ、振り回す。 噴霧するスプレーならば風によって防げると考えたのだろう。 実際にメタモル一の腕力を持つ彼女が仰げば、高速道路の換気用プロペラなみの風力は出せる筈だ。
「考えたな・・・だが甘いっ!!」
ほぼ生身でもガルファーと渡り合えるほどの抜群の運動力を持つレイジだ。 彼女のハリセン攻撃をかわすと、スタジオ内という空間を最大限に利用する。 突然後ろを向いたと思えば、駆け出してスタジオの壁面に備え付けられた書き割りを足掛かりにして、ハリウッドスター顔負けの大ジャンプバク宙!! 一瞬で、イエローの頭上を飛び越える。 そして呆気に取られる彼女に向け、降下しながら「はあっ!」と、ガン=カタじみた動きで、殺虫剤を浴びせる。
「お・・・落ちながら戦うなんて・・・」
そう言い残してイエロー倒れる。 そして・・・レイジの足元には意識を失った5人のメタモル達。
「勝った・・・」
クウっ!!と、目頭を押さえるレイジ。 だが溢れ出る涙を止める事ができなかった。 秘密結社Qに参加して、はじめて得られた『正義』を倒しての勝利・・・・
小さな・・・そして僅かな勝利だとしても、レイジにはこの感情を押さえる事ができなかった。
「辛い・・・辛くて長い戦いだった・・・」
滝のような涙を流すレイジ。 その様子を人質となった子供達と教師は複雑な思いで眺めている。 この幹部と見られる青年は、なんと純なのだろうと。 悪の組織の幹部とは思えないほど人間的感情に満ち溢れた男ではないか・・・と。
まるで、メタモルVが悪の手先で、苦闘の末に打ち倒した正義の味方のような顔をしている。 人質となった自分達の状況を考えれば最悪だが、何故かそのような感情が湧き上がらなかった。
「よし・・・作戦としては予想外の成果だ。 こいつ等も利用させてもらうぞ!!」
溢れ出る涙を拭い。 メタモル達を拘束するように指示するレイジ。 メタモル達の襲撃は予想外だが、ここまでは作戦通りだ。 レイジは計画された作戦の第2段階へ移ろうとしていた。
「これより、『秘密のワイドショー作戦』を開始する!!」
その日の正午、関東一帯を中心として、日本全土は不可思議な状況に陥った。 どのチャンネルを廻しても番組を放送していないのだ。 関東以外の地方局もお昼の番組が送られてくる様子が無いので、臨時に地方局独自にお詫びの放送を流している始末だ。
だが、そんな中ただ一つ通常通りに放送している局があった。 それは新東京TVだ。
人々は何らかの放送事故と割り切り、お詫びの放送を見ても仕方が無い・・・と、新東京TVにチャンネルを切り替える。 そして・・・TVを見ている日本中の人々の殆どの目が新東京TVに移ったとき、それは起こった。
「わはははは!!! 我々は秘密結社Q! この世を支配する存在だ!!」
TVの画面に映し出されたのは、世間ではすっかり御馴染みとなった悪の組織、秘密結社Qの幹部レイジの姿であった。
なにやら幹部の顔が泣いた後の様に腫れぼったい気がするが、視聴者はそんな事を忘れてTVに見入っていた。 悪の組織の電波ジャックとは珍しいからだ。
「我々を邪魔する『正義』の連中ども!見ているか? ここまで準備するのは大変だったんだからな!必ず見てろよ!」
半ば懇願するような雰囲気があるが、TVの中でレイジは熱弁を振るう。
「いいか!正義ども!そして我が総統Qの偉大な思想を理解できない愚か者どもよ! これを見るがいい!!」
画面が切り替わった。 次に映し出されたのは、拘束され人質となった30名近くの小学生と引率の教師の姿だった。
「ふははは!! 本当ならそこらへんのTV局員とか芸能人を人質にする予定だったのだが、丁度良く社会見学の小学生どもがいてな。 こっちの方が見た目インパクトがあるから、変更した。」
素直に作戦行動の変更を公開するレイジ。 メタモルVを倒して気が大きくなっているのかもしれない。
「こやつらは我々の人質だ。 開放して欲しければ、聖魔装甲ガルファーと名乗る正義の奴一人で、え〜と・・・」いきなりカメラから目線を外し、なにやらカンペのような物を除きこむレイジ。 見れば額にびっしり汗をかいている。カメラに移される事に慣れていないのか?
「ま・・・舞浜だ! 舞浜の海水浴場まで今日の15時までに一人で来い!それが出来なければ人質は10分の遅れに付き100円づつ割増・・・じゃなかった、一人ずつ殺す!」
カンペを横目で覗きながら言われても説得力にかける気がするが、どうやら本気のようだ。
そして次に映し出されたのは、十字架に張付けにされたメタモルVの五人の姿だ。 これは見た目的にもインパクトがある。
「これが我々が本気だと言う証拠だ! こやつらは子供を救出にやって来ておきながら、我々の前に敗れ去った愚かな者どもだ!!」
十字架に張付けにされている正義の味方の姿・・・視覚的にこれほどインパクトのある描写は無い。 この瞬間、視聴者は秘密結社Qの恐ろしさを知る。 まさに情報の勝利。
「いいか! 15時だぞ! 忘れるなよガルファー!!」
そう言って、放送は終わった。 視聴者に残された者は、秘密結社Qへの怒りと悲しみ・・・そして恐怖であった。
「ふい〜緊張した〜。」
放送を終えたレイジの表情に安堵する。 まさか全国の御茶の間に自分の姿を映し出すとは思いもしなかった。 だが、これも使命の為・・・と割り切り汗を拭う。
「よしお前ら、ガキどもとメタモルを連れて移動するぞ。 ここにはもう用は無い。」
そう言うと、カメラを操作していたり、マイクや照明を持っていた戦闘員達が「Q〜」と言いながら、用具を片付け始めた。 そして、使い終わった用具やスタジオの清掃も忘れない。 レイジも自らモップを持って床掃除。 元々環境保護団体で、モラルの低下を訴えていただけの事はある。
使い終わったら片付けと掃除・・・以外とモラルのしっかりした悪の組織、それが秘密結社・・・Q!!!
そんな意外な一面を見せた事とは露知らず、思わずTV画面を拳で叩き割ろうとしたが、デジタルTVの高価さを思い出して踏みとどまった男が一人。 聖魔装甲ガルファーこと、備前長船である。
長船が今いる場所は、大紋寺が利用している元HUMA基地跡を修復した施設の一室。
HUMAの戦闘指揮官用の個室を長船は住居として利用していた。
この施設は、過去・・・と言っても数年前ほどだが、地球の平和を守っていたHUMAと言う組織の支部の一つだった。
だが悪の組織の攻勢によりHUMAは壊滅。 戦力を失ったこのHUMA基地を利用していた人々は施設を放棄して脱出。 そのまま放置されていた。
かもめ第3小学校の裏山の地下に存在していた事と一般人には秘密にされていた為、人々がこの場所に基地が存在している事は全く知らない。
それを利用して、地球にやってきた大紋寺が御剣博士の協力の元、この施設を再利用していた。
HUMAは既に壊滅しており、基地存在が極秘であった為、所有権を主張する者もいない。 非合法の地下組織として活躍する御剣博士達が利用するに非常に都合のいい施設だった。
放棄されてたとは言え、施設自体のダメージは少なかった。 動力炉や基地の管理システムは無事だったし、居住施設や保養施設等はほぼ無傷で残っていた。研究ブロックや生産工場等も半数近くが稼動できる状態だし、薬品や非常用の食料、備蓄の資材もたっぷりあった。
ただ、この基地に配備されていたとされる兵器や武器類は殆ど全部使用不能な状態であった。 例えば防御用のレーザー砲台や迎撃ミサイル、バリアー発生器すら備えられていたのに、それらは全滅していた。
戦闘機や装甲車、戦闘バイクに数百メートルに及ぶ巨大な機動母艦。それに巨大ロボットまで配備されていたが、それらも全て壊れていた。
恐らく基地を放棄したのはこれらの防衛用兵器が失われていた為だろう・・・と大紋寺は言っていた。
また、基地を管理運営する管理システムは無事だが、それは幾つか無事だったサブコンピューターを繋げる事で対応していた。 これは基地全体をすべて統括するメインコンピューターが壊れていた為による処置だった。
だが壊れていたのは兵器類とコンピューターだけで、兵器格納庫・艦艇ドックや司令室そのものは無事だった。
そこで、銀座の地下にあった24世紀の宇宙船『強襲揚陸艦ソードフィッシュ』をこの艦艇ドックに運び込み、そのメインコンピューターである「MICA」をこの基地の管理システムと連結させた。 これにより基地の機能は兵器類以外は、7割近く生きかえった。
こうして、長船達はこの基地施設後を本拠地として、より本格的な活動を行う事にした。
「まさに秘密基地!! 正義の味方の拠点にはもってこいじゃない!!」と、村正姉妹は狂喜していた。 機械技術に高い興味のある彼女達は、御剣博士の助手のような仕事をしながら、機械類の調査とテストに余念が無かった。
彼女達と、新しく加わったジャンク屋桜子と、彼女保有のメイドロボなみの協力もあり、ソードフィッシュに遺されていた24世紀&異星技術、大正時代の帝国華激団の遺品といえる装備の解析も始り、いよいよ・・・という時に、この事件は起きてしまったのだ。
「100%罠ね。 あからさますぎるわ」
基地の司令室で御剣博士は言いきった。
「何かしらの目的があって、長船君を指名している事は間違い無いわね。」
司令室に集まっていたのは、御剣博士・大紋寺激を初めとして、主だったメンバーが全員揃っていた。
宇宙探偵ディバンこと神塚ダイとパートナーのマリー。
超絶隣人ベラボーマンこと中村等。
賃貸英雄レンタヒーロー、やまだたろう。
ムーンライトレディ、彩月日和子・水無川綾・姫神麗子。
ドリル少女スパイラルなみと、現所有者ジャンク屋桜子。
指輪の戦士ジガ、柊巴。
そして・・・初顔合わせとなるメンバーが数人。 御剣博士が皆をまとめる以前から御剣博士の元で戦っていた、『機動刑事ライオット』こと天城雷。 『新世紀美少女戦隊モモヴァルス』ピーチレッド、猿渡麻央。ピーチブルー、犬山玲子。ピーチイエロー、姫路祥子である。
最後に、ガルファーこと備前長船と、村正姉妹である。
「俺が行く!! 秘密結社Qは俺が倒すべき敵だ!多数の敵と戦っている皆に負担はかけられない!」
ライオットこと雷が吼える。 この雷という青年、悪い人間ではない・・・いやむしろ好青年と言って良いのだが、いかんせん秘密結社Qがらみの事件には一人で突っ走る傾向がある。
単独での行動が多いのもそのせいだ。 御剣博士もその事を解っているのであえて単独での任務を与えている。
「せやけど、相手は長船はんを指名し取るンやろ? アンタがでてってもエエ結果にはならへんとおもうけどな?」
ついこ先日メンバーに加わったジャンク屋の桜子が眼鏡を輝かせて反論。
「商売と一緒や。アンタかてラーメン注文して炒飯が出てきたら怒るやろ?」
「そうですねえ。 ユーザーへの対応に担当者が不在で、代理が出ていっても嫌がられますからねぇ・・・最終的には『お前では話にならん』って・・・」
商売人である桜子に同調するのはベラボーマンこと中村だ。 営業と言う立場柄、人と接するのがメインだからだ。
「どちらにしろ・・・人質がいるんだ。迂闊な行動は取れないな。」
ディバンことダイの言葉に頷く者多数。
「でもさ! 咲慧ちゃん達も人質になってるんだよ!! どんな罠があるかは解らないけど早く助けなきゃ!!」
村正姉妹の妹の方・・・宮乃が訴える。
「落ちいて・・・むやみに突っ込んだって、敵の思うままよ。」
ジガこと巴が落ちつかせるように言うが、内心彼女も焦っている。
「でもさ・・・ここで考えたって、いい結果が出るわけじゃないんじゃない?」
そう言ったのは、司令室のイスに持たれかかっている少女。 ムーンライトレディの一人玲子だ。
「そうだな・・・。とにかく実行あるのみだ。 敵が何を考えてるか解らない以上。これ以上の論議は無意味だ。」
そう言って、指名された長船は立ちあがった。
「言ってくる。 時間も無いし・・・。とりあえず俺があえて罠に掛かってみる。 みんなはそれで対策を考えてくれ。」
そして司令室を出ていこうとする長船に、大紋寺が話し掛けた。 その顔は必死だ。
「すまんな・・・。本当ならば彼女達の責任者である俺が出ていくべきなのかも知れんが・・・」
「なら、彼女達を助けた後でそうしてくれ。 彼女達の迂闊な行動をいさめるのは貴方の仕事なんだしさ。」
長船はそう言って軽く微笑んだ後、バイクで出ていった。
「さて・・・では私は残って、MICAとモニターしてるから、みんなは長船君の後を追ってくれる?」
御剣博士の言葉に、雷がにやりと笑みを浮かべる。
「なるほど。彼に敵の目が集中している間に、俺達が咲慧ちゃん達を救出するんだな? よし燃えてきたぜ!」
パンッとこぶしを打ち合わせる雷。 他のメンバーも同様の表情を浮かべている。 一部を覗いて・・・
「ハイハイ、御剣はかせ〜、しつも〜ん。」
ムーンライトレディの一人、日和子が手を上げる。
「なに?ひよちゃん。」
「長船さんはバイクで行ったけど、私達どうやって舞浜まで行くの?」
───!!
その瞬間、その場の空気が消えた。 移動手段──確かにこの人数を運ぶ為の手段が・・・・
「・・・・お、俺と巴さんはバイクがあるけど・・・」
雷が焦る様に言う。
「わ・・私とやまだ君はいつも電車通勤でして・・・」
「俺のジムニー、旧型だから4人までで・・・」
「ウチ・・・軽トラやし・・・」
数分の沈黙・・・・
「あの〜御剣博士。 この基地に配備されてるホバー装甲車・・・使ってはいいかがでしょうか?」
重苦しい空気の中、なみがおずおずと発言する。
「装甲車!? そんな物があったのか? この基地の兵器はみんな壊れてた筈じゃ。」
ダイが尋ねると、なみがぼそぼそと言い出しにくそうに答えてくれた。 何でもこの基地に配備されていた物ではなく、ソードフィッシュの格納庫の中にあったものらしい。
ソードフィッシュの格納庫内の機材を調べている時に見つけたそうだ。
どうやらサイバーナイト達が使用している『バトルモジュール(パワードスーツ)』を装着した兵士を運搬する為の物らしい。それが使えるらしいのだ。
タイヤは無くホバー推進により移動し、並大抵の機関砲の攻撃にも耐えられる外装を持つ。 バトルモジュールを装着したままでも運転可能で、車両後部には1tを超える重量級バトルモジュール歩兵を数名積んで走る事が出来る代物だ。
それを用いれば、ココにいる全員を乗せて運ぶ事なぞ造作も無い。
「よし・・・それを使って行くぞ!!」
取りなおした様子で、皆は格納庫に走った。
「やれやれ・・・前途多難ね・・・」
ふう・・・と御剣博士が呟くと、司令室のスピーカーから若い女性の声がした。 ドックにあるソードフィッシュのメインコンピューター「MICA」だ。 彼女(?)を司令室と繋ぎ、この施設のメインコンピューターとして使用しているのだ。
「宜しいでしょうか御剣博士。」
「何かしら?」
「先程言われていた装甲車ですが、どなたが運転されるのですか。 基本的な運転方法は、この時代の自動車とは異なりますが。」
「・・・・・・・・・そうね。 どうするのかしら。」
博士はそう言っただけで、ゆっくりとコーヒーを口に運んだ。
長船は15時きっかりに、舞浜の海岸に現れていた。広い海岸で迷う事は無かった。 砂浜のど真ん中で、レイジ達秘密結社Qは、拘束した人質と十字架に張付けにしたメタモルVそっちのけで、ビーチパラソルを広げスイカ割りやビーチバレーを楽しんでいたからだ。
「・・・・・」
舞浜に近づくと、バイクに乗ったままガルファーに変身。 仲間と子供達の救出に心をたぎらせてきたのが、全くの無意味に思えてきた。
「おい・・・」
砂を踏みしめ、怒りに満ちた声を押し殺して言ったが、聞こえていない様子。 幹部のレイジなど目隠しをしたまま、金属バットを持ってふらふらしている。
(ムカッ!!)
そっちから呼び出しておき、あまつさえ時間まで指定しておきながら、なんだその態度・・・。 自他ともに『正義』を自認するガルファーだが、これで怒らない人間はいない。 見れば装甲は真っ赤だ。さらに一部一部がどす黒い。 ガルファーの装甲は感情によって機能が変化する。そして装甲の色は感情の状態を表す。 赤き装甲は『怒り』を示す。そして黒い色は『憎しみ』を。
つまり、今の長船の精神状態は『怒り』と『憎しみ』に傾いている。 これはガルファーにとって「正と邪」で二極するならば「邪」に近づいている。
この状態のガルファーは、変身時間とエネルギーの多量消耗を引き換えに攻撃力・・・特に打撃力と武器の威力を大幅に向上させる事が出来る。
村正姉妹は通常のガルファーとの識別のために、この黒いガルファーを『憎しみのオルガルファー』と名付けた。
ガルファーは腰を叩き、そこから武器を取り出す。 いつも使うのをためらう拳銃『ガルファーリボルバー』だ。 この銃は長船が持つ警察官の装備品『ニューナンブM60』拳銃が変化した物だ。
ガルファーを通じて拳銃にマイクロマシンが送られることで、ガルファーと一体化する。 そこから量子操作により拳銃とマイクロマシンの質量を操作、ガルファーのコンディションや戦闘状態に最適な武器へと変化させる。
すなわちガルファーが持てば、如何なる物体も武器へと変化させる事が出来るのだ。 ただ現在の長船はガルファーの能力を100%理解しているわけではないので、この量子操作も完全ではない。
その為、銃を作り出そうとすれば、変化させる質量の基になる物も銃でなくてはならない。 やろうと思えば全く別の武器・・・例えば銃から槍を作り出す事も可能らしいが、そこまでの量子操作は今の長船には不可能。 だから、元々の物体をそのまま模倣し強化させる事しか、今は出来ないのだ。
そして・・・このガルファーリボルバーの使用をいつも躊躇うのは、威力が小型の戦車砲なみ・・・と言う事もあるのだが、基になったニューナンブの欠点までそのまま受け継いでおり、命中力が悪く、貫通力が高すぎるのだ。
だが・・・今回は遠慮無しに発砲した。 1秒と経たない間に砂浜に水柱ならぬ砂柱が立つ。 吹き飛ばされるビーチパラソルとバレーのネットに紛れて、秘密結社Qの連中が吹き飛ばされる。 彼らは砂と粉々になったスイカの破片にまみれ、砂浜に突き刺さった。
「いきなり何しやがる!! コノヤロー!!」
半分砂に埋まったレイジが、はいだした途端に怒鳴った。 彼の顔は砂と数秒前までスイカであった物体の飛沫にまみれていた。
「やかましい!! そっちから呼び出しておいてなんだその態度は!! 正義の俺でもブチ切れるわ!!」
そう言って、再度銃を構えるガルファー。 この状況で発砲すれば間違い無くレイジ達を葬れる。
やれる時にやる・・・、悪に情けは無用だ。 あまつさえ子供を人質に取るような奴に遠慮などいるものか!!
「待っていろ!子供達! 今俺が助けてやるからなっ!!」
人質となった子供達の周辺に戦闘員の姿が見えない事を確認すると、今度はガルファーの左腕に新たな銃が現れた。 それは大型のオートマチック拳銃。 長船が地下ルートで手にいれたイスラエル軍用の自動拳銃「ジェリコ941」だ。別名「ベイビーイーグル」、世界最強の自動拳銃「デザートイーグル」の弟分と称されている拳銃だ。
それがガルファーの手に現れた次にはマイクロマシンの飛沫に覆われ・・・次には、見た事も無い拳銃に変貌する。
「新武器・・・ガルファーピストルだ。 弾丸は既に貫通力の低い奴を装填してある。こっちならリボルバーと違って、周辺に被害出さずにお前らだけを葬れる。」
「相変わらず・・・ネーミングセンスが無いな・・・貴様は。」
砂を叩いて立ち上がったレイジの言葉にガルファーは「ほっとけ」と言っただけだ。 依然銃口はレイジに向けられている。 ガルファーがその気になれば瞬時にレイジを撃ちぬける。
「我々が・・・意味もなくスイカ割りやビーチバレーにうつつを抜かしていたと思うのか? だとしたらお前は戦士としては優秀だが、策士としては素人だな。」
「なに?」と長船はガルファーのマスクの中で怪訝な顔をする。 対するレイジは「何故メタモルVが敗れたのか教えてやろう。」と言って、ガルファーに向け右手を突き出す。 反射的にガルファーも銃をレイジの顔面へ・・・
ビシィッ!!──まるでジョン=ウーの出演する映画のワンシーンのような光景だった。
互いに外す方が難しいと思える密着に近い距離で、互いの得物を相手の顔面に突きつけている。
本当に映画のワンシーンなら、非常に盛り上がる場面であろう。 ガルファーの銃口はレイジの顔面に。 そしてレイジの得物・・・人間殺虫剤はガルファーの顔面に・・・
拳銃と殺虫剤を突き合せたまま、微動だにしない二人・・・だが、銃と殺虫剤ではまるで絵にならない・・・
「お前・・・・本気か?」
半ば苛立ちを覚えているガルファー。装甲の色が徐々に赤い部分が消え、黒く変色してきている。よほど頭にきているようだ。 だがレイジはニヤッと笑みを浮かべる。
「本気さ・・・。これがただの殺虫スプレーに見えると思うか?」
(あぶなぁい!! それは人間殺虫剤ってスゴイ武器なんだ!! あの女性の正義の味方もそれにやられたんだ!!)
人質となった教師が叫んだ。 その言葉に恐らく嘘はないと、ガルファーは判断した。 でなければメタモルVが怪人も連れていないたかだが十人そこそこの秘密結社Qに敗れるはずがない。
そして教師は、その幹部一人にメタモルVが倒されたとも加えた。 ガルファーの装甲にほんの僅かだが陰りが差す。 どうやらレイジの武器は本物だ・・・と感じ僅かに狼狽しているのかもしれない。
くっ!・・・と、歯を噛み締めるが、次の瞬間何かに気付いた。 見るとたちまち装甲の色が元の銀色に戻っていく。
「やれるものならやってみろよ。」
ガルファーの言葉に一瞬、レイジは耳を疑う。 メタモルVを一撃で倒したこの人間殺虫剤を恐れていないのか・・・。 それとも何か考えが・・・・
一瞬躊躇するレイジだが、このチャンス逃してたまるか!とばかりに、ガルファー目掛けて殺虫剤を放つ!!
白い霧状の白剤が勢い良くガルファーの顔面に。
だが、ガルファー平然。 「!?」と、何度も吹きつけるレイジだが、ガルファーに効果は見られない。
「な!何故だ!? 何故効かない!!」
「あのさぁ・・・。俺マスク被ってんだけど・・・しかもフルフェイスの。」
確かに・・・顔面剥き出しのメタモルと違って、ガルファーは強固な装甲で表面を覆うタイプのヒーローである。 またこの手の外装系のヒーローに、防弾防毒は当たり前のように装備されている。
つまり・・・ガス系の攻撃は・・・殆ど効果がないといって良い。
「そ・・・そんな事は最初から解っていたわ!! わ・・わはははは!!」
レイジ高笑い。 後ろ手でポイ・・・と殺虫剤を捨てる。
「じゃ・・・そろそろ。」
ずいっと拳銃をレイジに向けるガルファー。 これ以上は時間の無駄だと判断。 引き金に指をかける。
「ま・・・待てっ! 人質がどうなっても良いのか?」
「バカヤロウが・・・。戦闘員の半数以上がまだ埋まってるじゃねえか! 人質見張る奴なんて何処にいる!?」
ふ・・・と、レイジが笑みを浮かべ、右手を軽く上に上げた。 何かの合図には間違いないが、何を意味しているのか・・・
「先程も言っただろう?我々が海岸で戯れていたの理由は、お前をじらす為だ。巌流島での武蔵の戦法を知らないのか?」
「なに?」
そう考えれば・・・と、長船はガルファーのマスクに残り変身時間とエネルギーの残量をチェックする。 すぐさま表示されたデータに長船はハメられた・・・と、後悔する。 オルガルファーに僅かな時間であっても変わってしまい、武器を使用したのがまずかった。 残り変身時間は20分程度・・・戦う為のエネルギーも半分以上減っている。 ジュウテイオーでも呼び出せば一瞬でエネルギー切れだ。
「そして・・・人質を見張る奴がいないだと? 甘いな・・・切り札は最後まで取っておくものだ。」
人質のすぐ傍から、バッ!!と、砂煙が立ちあがる。 もうもうとする砂煙の中、それは現れた。
頭からすっぽりローブを羽織った7人の人影を。
頭からローブに覆われているので、顔は見えない。 だが身長2m以上ある長身に人知れぬ雰囲気を感じさせた。 ガルファーはすぐに察した。こいつらはただの人間じゃない・・・と。
突如現れた7つの人影にガルファーが気を取られた瞬間を狙って、レイジは駆けだしてガルファーとの間合いを取る。いや・・・味方の傍に逃げたと言った方が正解か。
「みたか! こいつ等が我々の切り札『最強怪人七人衆』だ! さあ、人質を助けたければコイツらと戦えガルファー!!」
「はじまりましたか。 この日本を制圧しようと企んでいた過去の悪達が使用していた怪人達を強化復活・・・」
舞浜の海岸から遠くはなれた場所から、青年は望遠カメラを手にしながら呟いた。
その青年は、30世紀の悪の組織『革命組織ジェネレーション・キル』の幹部、レイピアであった。 流石に今回はタキシードは偵察には不向きなのか、黒塗りの特殊部隊のような格好をしている。
「あの怪人達は、ただの再生怪人ではない。 過去の失敗を教訓に、我々の技術を加え秘密結社Qが独自に改修・再設計を行った物・・・。 ただの強化品ではない。その怪人が持ちうる能力を限界ギリギリまで高めた『最強型』に相応しい・・・。」
レイピアはそう言うと、カメラ付きの携帯端末のような物を取りだし、起動させた。
「それも・・・我々が新たな力を得る為と・・・ガルファー、貴方の力を測るための計測器でもあるんですよ。」
そう言って携帯端末の画面を覗きこむ。 画面には七つの人型と対峙するガルファーの姿が。
「さあ・・・データの収集といきましょうか。 見せてもらいますよガルファー・・・貴方の力を。」
「最強怪人七人衆・・・・」
身構えるガルファー。 一度に7人も相手にしなくてはならないとは・・・。銃を収め、拳法に似た構えを取る。 もう余分なエネルギーはない。なるべくエネルギーの消費の少ない戦いをしなければ・・・
「仲間を呼ぼうなどと思うなよ? 仲間など呼んでみろ、こいつ等を殺すぞ。」
そう言って十字架に張付けにされ意識のないメタモル達に武器を突きつけるレイジ。 何処から持ってきたのか手にしているのは日本刀。 砂浜から這い出してきた戦闘員達も、ツルハシや木刀、中にはじょうろやナベの蓋まで手にしている。いささか迫力には欠けるが。
「では・・・ゆけっ!!ガルファーを倒すのだ7人衆!!」
レイジの檄と同時に、一人がローブを剥ぎとって襲いかかってきた! 一応人型を留めているものの全身を赤銅色で覆われ、身体のあちこちに発光帯を供えている。 顔面にも4つの発光帯がある為、まるで4つ目のようなイメージを持たせる。さらに背中から伸びるパイプのような触手を供えている。 いかなる能力を秘めているのか外見から予想も出来ない。
「我輩は、最強怪人の一人『ジゴクバースト』!! レイジ様、我輩にお任せください!!」
自信たっぷりに自己アピールする怪人ジゴクバースト。 さすが最強を名乗るだけはある。
ジゴクバーストは、背部から伸びた触手を手に握ると、それをガルファーに向けた。
バシュゥゥゥッ!!──触手の先から物凄い勢いで、それこそホースから水を撒き散らすような感じで、炎が吐き出された。
ザッ!と砂を蹴り避けるガルファー。 この怪人の武器はこの火炎放射か・・・おまけにホースのように自在に動かせるため、射角も自由だ。 厄介な相手だ・・・マスクの中で冷や汗を流す。
エネルギーが残り少ないのが辛い。 火炎攻撃が主体なら、装甲の色を青く変える事で水・氷系の属性を持つギガルファーに変身する事で対処できるから。 だが、エネルギーが残り少ないこの状況、極力形態変化は使いたくない。 砂浜を蹴り、火炎放射を避けつづけ、接近するチャンスを伺うしかない。
「いいぞ!ジゴクバースト!! よし!お前らも行けっ!!」
レイジがローブを羽織った残りの6人に呼びかけるが返事なし。しかも動く気配すら見せない。
「どうした? 今が千載一遇のチャンスなんだぞ!?」
「キュ・・Q〜・・・」
ローブの中からかき消されそうな小さい声。 その声はレイジにとって聞き馴染んだ声・・・
レイジは6人のうち一人に近づき、ローブを剥いだ。 そして中から現れた者を見て絶句。 ローブの中にいたのは、おなじみの秘密結社Q戦闘員・・・
「まさか・・・・」
嫌な予感がして他の連中のローブの中も覗きこむが・・・全て戦闘員だった。
「どうなってるんだコレは!? ほ!他の!!残りの6人の最強怪人はどうした!?」
慌てふためくレイジに、戦闘員の一人が携帯電話を差し出す。 受け取った電話を取るレイジの耳には秘書であるシャドーローズの聞こえてきた。
『レイジ様!? 申し訳ございません!』
「シャドーローズ!コレはどうなっている!? なんでジゴクバースト一体だけなんだ!? 残りの6体はどうした!?」
『申し訳ございません。 実は開発部署で予想外のトラブルが発生しまして・・・。 それで仕方なく逸早く出来たジゴクバーストのみを・・』
「予想外のトラブル? どうした?提供されたデータや資材に問題でもあったのか!?」
『それが・・・ジゴクバースト以外の開発陣が、新たな作戦で使用する予定の当組織開発のゲームのモニターに夢中になりまして・・・』
レイジ泣く。 その場にしゃがみこみただ・・・泣いた。 こんなんでいいのか・・・ウチ(秘密結社Q)の組織・・・
「だから・・・怪人担当と商品開発担当をごっちゃにするなと・・・」
ちなみに、別の作戦とは、秘密結社Qが開発したTVゲームを日本中に普及させ引き篭もりにしてしまうと言う、恐ろしい作戦である。
『それで・・・先程もう一体が完成しまして、すぐに現場に向かわせました。 レイジ様30分粘ってください!!』
「無茶言うなっ!! 30分あったらカタがつくぞ! 俺達がな・・・」
『大丈夫です!ジゴクバースト一体でも、ガルファーを倒せる力はある筈です!・・・・多分』
シャドーローズの声に自信がないのがはっきり聞き取れた。 この作戦、元々は最強クラスのの怪人7体掛かりで、ガルファーを仕留める予定だったのだ。 それが・・・TVゲームのせいで・・・レイジただ泣く。
「予算は3割増にしておいたはずだろうが・・・」
『レイジ様、昨日の夕食が豪華だった事をお忘れですか?』
何も言い返せないレイジ。 確かにレトルトカレー以外の夕食をとったのは久しぶりだった・・・
『出来れば、半日時間稼いでください!! そうすれば残り5体同時に出せます!!』
半日と言う言葉を強調させるシャドーローズの声が、レイジには「現場でどうにかして」としか聞こえなかった。
同時刻・・・・新東京駅のみどりの窓口に茶色の異形の姿があった。
「舞浜まで怪人一枚。」
次回予告
せっかくの作戦が台無しか!? 急げ怪人軍団! 舞浜行きの快速電車の時刻まであと僅か!!
そして・・・ガルファーついにエネルギー切れ!! 圧倒的な力持つ怪人軍団にガルファーついに力尽きる!
この窮地にサイバーヒーロー総力戦開始! 一対一のタイマンバトル! 頑張れヒーロー軍団!
海岸線の激闘! ディバン対ゴザイマンサザエ!! 裸足で駆け出す恐怖!!
昆虫王者決定戦! ジガ対タガメ男!! 正統派怪人の実力を見よ!!
戦場と化した学園! ムーンライトレディ対ミサイルジャガー!! 爆炎は月の光を覆い隠す!
御歳暮の逆襲! ベラボーマン対ニューメンソーメン!! 二対一の変則マッチ!? 本体はどっちだ!
台所の黒い影! レンタヒーロー対コクロコウロギン!! 害虫退治の時給は幾らだ!?
電池対原子力! スパイラルなみ対ウニアトム!! メイドは原子力発電に勝てるのか!?
次回、サイバーヒーロー作戦 第十六話 『メタモルV救出戦!! 激闘怪人軍団!』
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