第十四話 「メイド対貴族! ムーンライトレディ登場」




 「獣皇合体!!」
ガルファーに変身した長船の叫びに呼応し、6体の獣皇はその姿を変え、一つとなる。
 「合体武人、ジュテイオー!!!」
 眩い光をたたえ、50mを超える巨大なロボットがその姿を現す。 その姿には見る者に人間には無い圧倒的な力を感じさせる。
 そう・・・人間には無い力を・・・・

 「すご〜い!!」
 「かっこいい〜♪」
ジュウテイオーの足元で村正姉妹が満面の笑みを浮かべ拍手喝采。 メカニックに非常に強い関心を示すこの姉妹。 未知のテクノロジーの塊とも言え、尚且つヒーロー然としたジュウテイオーの姿にすっかり有頂天。
 「じゃあ早速ワイヤー掴んでね、長船君。」
 同じようにジュウテイオーの足元からメガホンで呼びかけたのは、白衣を着た30代前半の女性。 そう・・・長船達のような『正義』と称される人物を束ね、個人レベルでの活動しか出来なかった彼らを「組織」として纏めている・・・『御剣亜里沙』博士。

 長船から連絡を受けた御剣博士は、早速長船の案内の元、東京銀座の地下に主だったメンバーを連れ、やってきた。
 まさか大都会である東京の地下に、こんな巨大空洞と24世紀の宇宙船が保存されていたとは皆驚きを隠せなかったようだ。
 「まさか大正時代に24世紀の傭兵部隊の宇宙船とはねぇ・・・この目で見るまで信じられなかったッスよ・・」
現代の若者らしい率直な意見を述べたのは、茶髪の若者・・・賃貸英雄・レンタヒーローこと「やまだ たろう」だ。
 最初に連れてこられた時、半信半疑であったらしいのだが、実際見ると、その存在感に圧倒された様だ。
 「いやはや・・・ですが地球人の作った物って言うのは、安心できると言うか馴染みやすい感じがしますねぇ。」
眼鏡をかけ、紺色のスーツを着たいかにも普通なサラリーマンが、宇宙船を見つめ言う。 彼は「中村等」。中堅保険会社に勤める営業マンだが、有事の際には超絶隣人ベラボーマンに変身する。
 彼の変身能力は宇宙人から渡されたもので、その際彼は変身能力を託した宇宙人のUFOが、ただの丼のおばけにしか見えなかったので、スペースシャトルに近い形状を持つ、傭兵部隊の宇宙船に、地球人の常識の範疇に入った感じに安心感を憶えていた。
 「宇宙の乗り物がみんな妙な形とは思わないでくれよ。 俺のディオラスは、まだ地球人に馴染める形だぜ。」
 宇宙探偵ディバンこと、「神塚ダイ」が苦笑する。 彼は宇宙探偵連盟から派遣された宇宙探偵だ。 壊滅した銀河連邦警察に代わり、地球を守る為に派遣されて来たのだ。
 彼の宇宙船であり拠点でもある超次元母艦ディオラスは、特撮ヒーローが乗りこむようなデザインをしている。

 「よし・・・じゃあ・・・・」
ジュウテイオーから、長船の声がした。 ジュウテイオーの手・・・亀型獣皇マンネンと熊型獣皇ツキノワの頭部が宇宙船から伸ばされたワイヤーを咥える様に掴んだ。
 ──グッ。  ジュウテイオーの手に力が入る。 そして綱引きの様にワイヤーを引くジュウテイオー。
そして・・・少しづつだが宇宙船が動き始めた。
 この地下大空洞に納められた時に使用されたと思われる重量物運搬用のレールに乗せられた宇宙船は、レールに沿って動き始めた。
 
 「ジュウテイオーをこんな事に使うとはなぁ・・・」
ジュウテイオーのコクピットの中で、ガルファーに変身した長船はヘルメットのみ変身を解除した。
最近の戦闘の積み重ねで、ガルファーに慣れて来て、このような部分解除も出来る様になってきた。
 当初は大型の重機を利用して宇宙船を牽引する予定だったのだが、大型の重機を搬入出来る程の入り口がどうしても地下空洞に存在しなかったのだ。
 そこで、場所を選ばず召喚可能な獣皇を用いて運搬する事になった。 獣皇が巨大化できることを予め長船は御剣博士達に説明してあったのだ。
 だが、ここでもアクシデントが起きる。 宇宙船のあまりの大きさと重さに、幾らレールが敷かれているとはいえ、獣皇でも牽引する事が出来なかったのだ。
 それは獣皇の中でも特に力に長けた熊型ツキノワとゴリラ型ライモーを持ってしても無理だった。 そこで獣皇を合体させ、ジュウテイオーで牽引すると言う形をとったのだ。

 ワイヤーを引きながらジュウテイオーはゆっくりと地下大空洞を進む。 これから地下大空洞の出口・・・どうやら東京湾まで伸びているらしい。 そこから天井の一部を突き破って湾内に移動させる。
 そして、東京湾内を移動し、大紋寺が利用する地下基地に運び込む予定になっている。
 「天上を突き破るって・・・大丈夫なんですか?」
中村が心配そうに尋ねると、御剣博士は「大丈夫よ」と頷いた。 大空洞の終着点・・・どうやら帝国華激団の空中戦艦ミカサの発進口の一部が残っているらしい。 東京湾の未開発地区である為、少々穴を空けようが大丈夫・・・と言う事らしい。
 「しかし・・・あの大紋寺さんの基地に、この宇宙船が格納できるスペースがあるなんて驚きですね。」
宮乃が御剣博士に尋ねる。 メタモルV達の長官である大紋寺が地下基地を持っている事は知っていたが、毎日カップ焼きソバばかり食べているほど金欠の大紋寺に、それだけの基地を運営していく力があるとは思えないからだ。
 「ああ・・・あの基地ね。大紋寺さんが一から作った物じゃないわよ。 壊滅したHUMAの基地を修復して使ってるのよ。 」
 御剣博士がそう教えてくれた。 HUMAと言う言葉が出てきた時、一瞬御剣博士の顔に陰りが見えたのには宮乃は気付かなかった。

 「ここから海まで運んで・・・未開発地区に出たら、衛星軌道で待機しているディオラスの牽引ビームで引き上げて・・・」
 御剣博士が順調に移動しつつある宇宙船を見ながら言う。
 「そしたら、ジュウテイオーで海の中を運んで、そのまま大紋寺さんの基地の地下ゲートにいれるんですね!」
彩が妙に嬉しそうな顔をする。 彼女にして見れば未知のテクノロジーの塊である宇宙船を早く設備の整った場所で思う様いじりまわしたいのだ。
 その様子に御剣博士は苦笑を隠せない。
 「そう言えば、その肝心の大紋寺さんは?メタモルの3人も来てないみたいですけど・・・」
中村が尋ねると、御剣博士は「ああ・・・」と言う顔をした。
 「大紋寺さんなら、赴任先の学校よ。 どうやらメタモルが5人揃ったみたいなのよ。」
 「おお!それはありがたいッスよ。 これでメタモルV復活ですね!! あの北海道に行った子が帰ってきたんですか?」
 「いえ・・・新しい2代目レッドとブルーの子の復帰だそうよ。 大方・・・また反論できないような状況を作り出したんでしょうけど・・・」
その言葉に皆がいや〜な顔を隠せなかった。 事情を知らない村正姉妹だけがきょとんとしている。
 「どう言う事です?」
彩がやまだに尋ねると、彼は肩をすくめて答えてくれた。
 「わざと敵を引き寄せて、戦わざるを得ないようにするんだよ・・・あの人・・・」
 それを聞いて、村正姉妹どころか、通信機で聞いていたガルファーも唖然とし、ジュウテイオーがワイヤーを落としそうになった。
 「な・・・なんちゅう・・・」
 「無茶させるな・・・って言ってるんだけどね・・・。 『コッチ(宇宙連邦警察)の問題だからな!』とか言って聞いてくれないんだよ・・・」
 やまだもそうだが、中村も御剣博士も頷いていた。
 「だ・・・大丈夫なのかな?」
 彩が不安げに言う。
 「念の為・・・巴さんに様子を見てくるように頼んであるけど・・・」
そう言えば、巴はこの場に来てはいないのにはそう言った事情があったようだ。

 そんな時、御剣博士の携帯電話が鳴った。 相手は今しがた話をした巴だった。
 「巴さん? 定時連絡には早いけど、何かあったの?」
電話から聞こえる巴の言葉に御剣博士は顔をしかめた。
 「ええ・・・またやったの大紋寺さん・・・いえ、コッチの話。 それでメタモルは5人揃ったのね?」
どうやら、無事にメタモルVは5人揃ったらしい。 方法は・・・いささか問題があるような口ぶりだが。
 「と、言う事は今は戦闘中? そう・・・大丈夫だと思うけどピンチには助けてあげてくれない?」
すると次の瞬間、御剣博士の口から誰もが想定し得ない言葉が飛び出した。
 「ええっ!!?? アドニス一派と戦ってるのが、ドリル付けたメイドぉ!?」
今度こそジュウテイオーはワイヤーを落とした。 そして・・・その日、東京銀座では地下から謎の轟音が響いたが、地下工事だと思い大事には至らなかった。 人々は、それが50m近い大きさを持つ巨大ロボットがずっこけた時の音とは思いもしなかっただろう・・・
 そして・・・かもめ第三小学校の校庭でも・・・通常考えられない出来事が起こっていた。


 この世には、ありえないことが起きる。
 通常の人間では考えもしないような出来事が起きる。
 今の世に悪の組織や宇宙人・異次元人・悪の科学者に魔物・・・こんな事が起きている。
 だが・・・今、新条咲慧(10才)が変身したメタモルレッド(外見年齢17才)の目の前で行われている出来事は、正義対悪と言う図式では、到底ありえない光景であった。
 「あの〜長官、どうしましょうか・・・」
メタモルレッドが困った様に尋ねる。 ついに5人揃い、必殺技であるカラードジェネシスの発動条件も揃った。 負ける要素は何処にも見つからない。 後は目の前のアドニス一派の一人、「メカ貴族ダンディー男爵」を倒すのみ!と言う所まで来ているのだ。
 だが・・・そのダンディー男爵は、目の前の右腕部にドリルを装着したメイドと睨み合っている・・・
 「確か、私達の任務ってさ〜『宇宙人と地球人の接触を防ぐ』って事だったよね〜?」
メタモルイエローが苦笑いする。 確かに彼女の言う通りメタモルVの任務は、不法に地球にやってきた宇宙人を摘発する事であるが、同時に地球人との接触も断つこともやらなければならない。
 つまり・・・『地球人にメタモルVと宇宙人の存在を悟られてはいけない』のだ。
勿論、協力関係にある御剣博士たちには正体を知らせてあるが、それは彼女達も表立って正体を知られては危険な立場にあるからに過ぎない。
 『秘密の共有化』を条件に特例的措置で協力してもらっているだけの関係だ。

 「むう・・・これはマズイな。」
長官であるシャトナーも判断に困る状況の様だ。 しかし、この状況、利用しない手は無い。
 「よし・・・いつもの様に後で記憶を消去する。 今はこの状況利用するぞ。」
 「え?どう言う事?」
イエローが尋ねると、復帰したばかりのブルーが答える。
 「つまり、あのメカ貴族とメイドをぶつけて疲弊した所を狙うのよ。」
 「OK!漁夫の利を狙うわけね。」
ブラックの言葉にレッドが頷いた。
 「ちょっとずるい気もするけど、その分私達はカラードジェネシスに専念できるわ。」
 『了解よ、リーダー!!』

 一方、当事者とも言えるダンディー男爵と対峙するのは、見た目17〜18のメイド少女(ドリル付き)である。
 「いけ〜!なみ〜!! これでガッポガッポ稼ぐんや〜!!」
なみの後ろで、現所有者と言える桜子が激を飛ばす。 すると不安げな顔を隠せない。
 「あの〜、桜子さぁん。本当に戦わなきゃ駄目なんですかぁ?」
 「当たり前や! 何の為に夕べ徹夜で戦闘パーツ付け直したと思うとるんや〜!!」
 「あううぅぅ・・・」
 登場シーンの勇ましさはどこへやら・・・。 なみは既に涙目だ。 だがしかし、既にダンディー男爵の方はやる気だ。 杖を振りかざし、なみに襲いかかってきた。

 ビュンッ!!──ダンディー男爵の杖が空を切る。振りかざした杖は、なみの胸元をかすめたに過ぎなかった。
紙一重の反射神経と言って言いのだろうか・・・。DOLLファイトと言う非合法のバトルゲームで培った戦闘技能が、なみを救った。

 「避けた!?」
ダンディー男爵ではなく、シャトナーが驚いていた。 資料によればダンディー男爵は元々文官。 その為戦闘力は対した事はない。 だがサイボーグ化された身体は、通常の地球人とは比較にならない戦闘力を有していることは確かだ。
 その攻撃をただのメイド少女(ドリル付き)が避けたのだ。 それだけではない。 ダンディー男爵の杖攻撃をまるで子供の児戯のごとくスイスイとかわしているのだ。 あきらかに戦い慣れした動きであった。
 「うん? 長官、あのメイド・・・人間じゃあねえですわよ。」
メタモルブラックが、何かに感づいた様だ。
 「あのメイド・・・アンドロイドか、その類の奴ですわ。」
 ブラックの言葉は間違いない。 彼女は頭部の「ハット様」と言う存在の能力を利用して、ある程度の透視能力を持つのだ。
 そして・・・その結果、なみがDOLLと言うアンドロイド・・・正確には家政婦用メイド型ロボットである事を見ぬいた。 そして確固たる証拠が右腕の『ドリル』。 某勇者特急のドリル特急が変形したロボットの装備した物に酷似したドリルが右腕の下腕部そのものと化している。
 「だけどぉ、家庭用のメイドがなんであんなに戦い慣れしてるワケ?」
イエローの言葉も最もだ。 だが元々小学生である彼女たちが、非合法であるDOLLファイトと言う賭け試合を知るはずが無い。
 
 「おのれ・・・ちょこまかと・・・」
ダンディー男爵の攻撃を軽やかにエプロンドレスをひるがえしながら避けるメイド少女(ドリル付き)。 流石に機械の身体だけあって息切れは起こしていないが、精神的な苛立ちは隠せない。
 だが、反面なみの方は、落ち着き払っている。 ロボットと言えど感情はある。だがダンディー男爵とは正反対に冷静に攻撃パターンを把握していた。
 「・・・一見、凄そうな攻撃に見えるけど、動き自体に無駄が多いし、杖だって闇雲に振りまわしているだけ・・・」
 なみにとってDOLLファイト以外の戦いはこれが初めてであった。 違法行為とは言えDOLLファイトは競技に過ぎない。実戦とも言える戦闘行動はこれが初陣となる。
 だが、なみが今まで培ってきた戦闘データが、この実戦でも通用している事を、なみ自身が驚いていた。
怖い相手に見えたが、決して力の及ばない相手ではない。 むしろ今まで自分が行ってきたDOLLファイトの対戦相手のほうが、ダンディー男爵よりも戦闘行動に特化しているように思えてきた。
 現在の所有者である桜子が、「電池駆動のフリーターでも相手に出来る」と言ったのを実感できた。
 「こうなれば・・・」
ダンディー男爵は、今までの杖攻撃を急に止め、一度なみとの間合いを取った。 ザッ!と軽く地面を踏みしめると、彼の口元が赤く輝く。
 「我が主君、アドニス皇帝より強化して頂いた新たな力を見よ!!」
ボッ!!── ダンディー男爵の口から赤い光線が・・・正確には粒子ビームが放たれる。 なみが危険を感じ取り回避が遅れていれば、間違い無くその美しい人間顔負けの脚線美が損なわれていただろう。
 「これは・・・!?」
なみが驚く様に焼け焦げた地面を見ていた。 その様子に高らかに笑うダンディー男爵。
 「どうだ!これが新しき力、『マウスアロー』だ。 もはや貴様に勝ち目はない!! ぬわっははは!!」
勝利を確信するダンディー男爵。 しかしなみのAIは冷静だ。 ビーム兵器は初体験だが飛び道具への対処は経験していた。
 (火力自体は・・・対した事無い・・・めぐみさんのザ○マシンガンの方がよほど命中制度がある・・・。 それにスピードも紅猫さんやレイカさんに比べたらそれ程の物じゃ・・・)
 黙ってじっくりと戦闘力を分析するなみ。 同じメカニックの肉体を持つ物同士なのに、ダンディー男爵となみでは踏んできた場数が違いすぎた。
 高貴な生まれと言う事で全てを見下し、下のものを従わせる優越感に浸ってきたダンディー男爵。
 反してなみは逆に人間に奉仕する事を全てとして生まれてきた。 従う事が自分の全てである。
二人の立場は正反対。 使う者と使われる者・・・身分に天と地の差がある・・・。 しかもなみの本来のオーナーは、実社会でも決して裕福とは言えないフリーターの青年。 その生活レベルは高くは無い。
 そんな環境でもなみは幸せだった。 人間に奉仕する事がロボットの真情の喜び・・・それだけではない愛や友情を与えられていたからだ。
 下にいることで見えてくる物や得られる物がある。 それは人や仲間との繋がり・・・それこそなみの強さだった。これだけは、見下す事と、アドニスにへつらうだけのダンディー男爵には無い部分だ。
 
 「マウスアロー!!」
再びビームが放たれた。 その攻撃はなみの足元ばかりを狙っていた。 元々なみを直接狙うつもりは無いようだ。 恐らく威嚇が目的なのかもしれない。
 自分の力を見せつけ、足元を狙い肉体的ダメージを与えて屈服させる・・・・その意図がなみには見え見えだった。
 「どうした! この力に恐れを成したか地球の使用人よ!! 敗れたとしても安心しろ!我が主君アドニス皇帝陛下の居城の使用人として使ってやるわ!!」
 「私の主人は・・・・私を愛してくださったあの方だけです。 そして・・・あの方の子を宿した桜子さんです。」
 そう言うとなみは、バっとジャンプし一度間合いを開けた。
 「今更、他の方に仕えると言う事は考えられません!!」
 そう言い放つと、なみは右手のドリルを構えた。 なみの象徴とも言えるドリルが甲高い音を上げて螺旋を描き始めた。
 「貴方の戦闘力は分析できました。 貴方では私には勝てません!!」
 「なんだと使用人!!」
 「人を見下し、最初からこちらに本気で攻撃をしかける気の無い攻撃なんて・・・私には通じません! そう・・・人を見下す事でしか優越感に浸れない貴方なんかに!!」
 この言葉にダンディー男爵は怒った。 地球人の戦闘力などたかが知れていると最初から踏んでいた。 その証拠に数々の宇宙人や異世界人の侵攻を受けているのがその証拠とも言えたからだ。
 「おのれ・・・平民以下の使用人の分際で!!」
 「いや!そのメイドさんの言う通りだ!!」
突如会話に割り込むシャトナー。
 ビッ!!と、ダンディー男爵を指差し、睨みつけた。
 「貴様達アドニス王家が母星を追われた原因を忘れたか!! 貴様達が民衆を見下し、圧制を強いてきたからに他ならん!!」
 「グッ・・・っ。 シャトナー・・・貴様・・・」
そう、彼らアドニス一派が母星であるアドニス星を追われたのは、圧制から来る民主クーデターが原因だ。 なみの言う通り、見下す事しかしなかったからこそ起きた事である。
 「貴様は、その見下す立場に母星を追われ、そしてこの地球でも、その見下す者に倒されるのだ!!」

 「私は・・・本当はもう戦いたくないんです。 ですが・・・桜子さんの為!生まれてくるご主人様の為に私は戦います!! 貴方も誇りがあるのなら、貴方の信じる方の為に本気で戦ってみたらどうですか!!」
 なみの右腕の螺旋がもはや目に追えないスピードで回っている。 それはなみが本気になった証拠。
 「スパイラルなみ・・・行きますっ!!」
なみが今までの逃げ一辺倒とは打って変わり、攻撃に転じた。 右手のドリルが唸りを上げてダンディー男爵に襲いかかる!!
 「やあぁぁぁっ!!」
 銀の螺旋がダンディー男爵の胴を叩く・・・が、貫通には至らない。 装甲が強固過ぎるのだ。 だがダメージが無い訳ではない。 猛回転のドリルはダンディー男爵の胴体パーツを確実にえぐっている。
 「おのれっ!!」
ダンディー男爵が杖を振るいなみを引き離す。 一度間合いを取り体制を立て直す。
 「良かろう・・・本気を見せてやろうではないか!!」
 言葉が終わるか終わらないかの間際で、マウスアローを発射するダンディー男爵。 赤い光がなみに迫る。
ヂッ・・・・
 マウスアローはなみの胸元を掠めた。 白いエプロンドレスが焼け焦げ、下から白いブラジャーが僅かに顔を覗かせる。
 それを見てなみは不敵に微笑んだ。 今の攻撃は確実になみを仕留める気で放ったものだ。 ようやくダンディー男爵はなみを対当する敵として認識したのだ。
 「次は外さん・・・」
 怒りを含んだダンディー男爵の声。 まるで舌なめずりするように赤い機械の口が輝く・・・
 「一つ御教えします。 獲物を前に舌なめずりは三流のやる事です。」
なみの声は第2ラウンドのゴングとなった。 再びマウスアローがなみを襲う。 なみは蓄積されたデータから確実な回避パターンを選択して実行に移す。
 「オーダーメイドのエプロンドレスを台無しにした報いを受けてもらいますよ。」
 「知れた事かっ!!」
 次々に飛び交う赤い矢・・・メイン武装がドリルのなみは巧みに回避していたものの、自分の間合いに入れない。
 
 「長官!あのままではあのメイドさんが!!」
ブルーが苦戦するなみを手助けしようと飛び出そうとした。 それをレッドが制する。
 「大丈夫・・・あのメイドさんは負けないわ。良く見て・・・」
 レッドの言葉通り、ブルーはなみの動きを凝視する・・・。 そして驚いた。なみは、ダンディー男爵の攻撃を全て先読みしているような動きをしているのだ。
 確かに第3者から見れば避けるのが精一杯・・・といった状況だが、なみ自身の顔には余裕すら見られる。
 「まさか・・・ダンディー男爵の動きを分析してるの?」
 ブルーの言葉にレッドは頷いた。 恐らく間違い無いだろう。なみのAIはこの短期間でダンディー男爵の攻撃パターンを分析し、最適な回避パターンを作り出しているのだ。 とても家庭用メイドとして作られたとは思えない学習機能の凄まじさだ。
 「レッド・・・貴方はそこまで見ていたの・・・」
ブルーは同時に、この2代目レッドが先代に勝るとも劣らないリーダーとしての素質を持っている事にも驚いていた。

 「むぅ・・・どうして当らん!! たかが使用人に!!」
ついに苛立ちを爆発させたダンディー男爵。 自分の本気の攻撃を目の前のメイド少女(ドリル付き)は、まるで全て解っているかのようにかわすのだ。
 「メイドを甘く見ないでください。 メイドには状況判断の鋭さと高い学習機能が不可欠なんです。 ご主人様により良いご奉仕をする為に。」
 そう・・・一流のメイドにはそれが出来なくてはならない。 なみに言わせれば、「ご主人様の体調やご機嫌に合わせた最適な服装や御食事を用意する」事らしい。
 つまり、仕えるべき人物の欲する事を素早く的確に用意する事が出来なくてはならないのだ。
その為、メイド型DOLLには高速で物事を判断する能力を有しているのだ。 加えてなみのAIはDOLLファイト用に戦闘用AIを増設してある。
 またAIだけでなく、身体の部品も戦闘用に合わせたセッティングが施してある。 見掛けはただのメイドでも、中身はそこいらの軍用アンドロイドに匹敵するような性能を叩き出している。 事実、なみは某国の王族護衛用の戦闘用アンドロイドと五部以上に渡り合った事もあるのだ。
 「たあぁぁっ!!」
ダンディー男爵の攻撃をジャンプ一番で避けると、そのままダンディー男爵の頭上へ右手のドリルを叩きつけた! ドリルは刺突掘削攻撃だけと誰が決めた・・・。なみは強固なドリルその物が回転させること無く凶器になりうる事を知っていたからできた攻撃だ。
 「ぐあああああ!!」
 脳天にドリルを叩きつけられ、悶え苦しむダンディー男爵。 あまりの衝撃に杖を落してしまったほどだ。

 「うん?」
レッドが何かに感づく。 頭部を殴られたダンディー男爵であったが、思ったほどダメージが少ない。 それどころかチカチカと帽子に取りつけられたメーターのような物が動いている。
 加えて、さきほどなみにえぐられた筈の胸の損傷も癒えているような・・・。部品を派手に撒き散らした割には、ダンディー男爵の動きは最初から殆ど変化が無い。
 「どう言う事・・・?」

 それはなみも感じていた。 ここまではあきらかに自分が優勢の筈。 だが幾ら攻撃を与えようとダンディー男爵にさいたるダメージは見られない。
 「どう言う事なの・・・?」
 どうやら、なみの表情の変化にダンディー男爵が感づいた様だ。 高らかに声を上げた。
 「わははは!! どうやら気付いた様だな!! 我の強さの秘密に!!」
一度間合いを取り、高らかに笑うダンディー男爵。
 「我のこの帽子!! アドニス皇帝に永遠の忠誠を誓う事を条件に授かった、この『忠誠の帽子』!! これにより我は無限に体力を回復させる事が出来るのだ!! わははは!我に物理的攻撃は無意味よ!!」
 そう、笑いながら自慢の帽子を指し示すダンディー男爵。 そう・・・勝利を確信したかのように。
 「私のリペア機能は限界がある・・・それを無限に行えるなんて・・・」
ここで初めて冷や汗を流すなみ。 ここで初めて自分が未知の相手に対しているのが実感できた。(注:なみはアンドロイドですが汗も涙も流せます。またトイレにも行く。)

 「つまり・・・精神的な攻撃には無力と言う事・・・?」
ずっと観察していたレッドが呟いた。 物理攻撃に対して圧倒的に耐性を持つダンディー男爵。 その彼を倒すには精神的な攻撃をぶつける他無い。
 「カラードジェネシス・・・」
 レッドは皆を見た。 全員が頷いた。シャトナーも異論を挟む事は無い。無言で頷いた。
 「次にアイツが隙を見せたら・・・いくよっ!みんな!!」
 『ええっ!!』

 だが、そうはいかないのが桜子であった。 ずっと傍観者でいたがメタモルVの様子に顔色を変えた。
「あかん・・・アイツら必殺技みたいなのやろうとしとる・・・それじゃ銭にならへん・・・なみぃっ!!手段は選ばん! なんとしても倒すんや!!」

 「無駄無駄!! 使用人!貴様に我は倒せん!!」
 「貴方が無限に回復できるのはその帽子のおかげ・・・ならっ!!」
なみは、突如真っ直ぐにダンディー男爵目掛けて駆け出した。 回避行動も何も無い、一直線に駆け出す。
 冷静ななみにしては無謀とも言える行動だ。 桜子の言葉に触発されたか・・・・もてる脚力を駆使してなみは猛スピードでダンディー男爵に迫る。
 「バカめ!! 良い的だ!!」
 向こうから真っ直ぐに来るのなら、戦闘力が高いとは言えない男爵でも攻撃をぶち当てる事は容易だ。 ダンディー男爵は「トドメだっ!」とマウスアローを放った!!

 「なにぃっ!?」
その瞬間、その場にいた全員は目を見張った。 ダンディー男爵から放たれた光線は、メイド少女(ドリル付き)の眼前で拡散してしまった!!まるで、なみの目の前に見えない傘でも張られたように・・・
 そしてその傘の正体は!!
 「たぁぁぁぁ!!」
ダンディー男爵の赤い光を弾き飛ばすなみ。 彼女は右腕を突き出しドリルを高速回転させていた。 男爵の光線は全てドリルによって弾かれていたのだ!!
 「ドリルでビームを弾いた!?」
驚愕するダンディー男爵。 これぞドリル少女の真骨頂!!
 「やはりご主人様は正しかった・・・『ドリルこそ最強の兵器。ドリルの前にはミサイルも光学兵器も無力』と・・・」
まさか、光線をドリルで弾くとは想像もしなかったダンディー男爵。 あまりの事に攻撃を止めてしまう。 そこをなみは見逃さない。 速度を維持したままダンディー男爵の懐に飛びこんだ。 だが、幾らダメージを負わせようと、ダンディー男爵の回復能力の前には徒労に過ぎないのだが・・・

 「スパイラルドライバー!!!」
 なみは必殺技、「スパイラルドライバー」を繰り出す。 その攻撃は高速回転させたドリルを勢い良く相手に突き刺しえぐるだけ単純な技だ。 だが単純だけに威力も大きい。 通常は相手の胴を狙うのだが、なみが狙ったのは胴ではなく、ダンディー男爵の額だった。
 ギャリギャリギャリィィィッ!!!──物凄い炸裂音が響く。 なみのドリルがダンディー男爵の無限の回復を司る忠誠の帽子のメーター部分を貫き、そのままえぐっているのだ。 その凄まじさは苦しむダンディー男爵の様子からして相当な物だ。
 「その帽子が無ければ、貴方の戦闘力は激減します! さあ、覚悟してください!!」
頭部を押さえ苦しむダンディー男爵になみは一度間合いを開き、今一度必殺技の態勢に入った。 これが決まれば、幾らダンディー男爵と言えど・・・
 だが、その機会は永遠に失われた。 何故なら・・・

 「今だレッド! カラードジェネシスだ。 GO!!」
シャトナーが好奇!!と、ばかりにビッ!!と、男爵を指差し命を飛ばす。 そしてメタモル達の反応も素早かった。 そう・・・なみが再度必殺技を放ち、桜子が口を挟む余裕がないほどに・・・
 「悪をいさめる六つの力!」
レッドが両手を頭上でクロスさせ叫ぶ。 そしてそれに呼応し他のメタモル達も準備に入った。
 「青き力は拘束の力! ブルーパワー!!」
ブルーが右腕を突き出し、青い輝きを放つ。
 「黄色き力は誘惑の力! イエローパワー!!」
続きイエローが両手から黄色の輝きを。
 「黒き力は破壊の力! ブラックパワー!!」
 「紫の力は癒しの力! パープルパワー!!」
ブラック・パープルも同様に自分達の色の輝きを放つ。 そして4人から放たれた輝きは、まるで意思を持っているかのように正確にレッドの背中に突き刺さる。 そしてレッドの背中に天使の羽・・・エンジェルウイングが淡い輝きと共に現れる。
 「赤き力は希望の力! レッドパワー!!」
 「そして!!」
 『無色の力は反省の力!それすなわちあなたの良心!』
5人が声をそろえて叫ぶとレッドの両手に眩いばかりの輝きが。
 「カラード!ジェネシス!!」
 レッドの突き出された両手から放たれた輝きは、まっすぐダンディー男爵を包み込んだ。 その輝きは攻撃的な鋭い印象はまるで与えず、何もかも包み込むような淡く柔らかい輝き・・・
 「嗚呼・・・この色は・・・」
 輝きの中、ダンディー男爵は荒れんだ心が消え去っていくような感情に包まれ、自然に瞳になみだが溢れてきた。
 「父上・・・」


 「わ・・・私は何と言う過ちを犯してしまったのだ・・・シャトナー殿、罪を・・・償わせてほしい。」
 まるで先程までと打って変わった印象を与えるダンディー男爵。 その殊勝な態度は、気品に溢れた男爵を思い起こさせる・・・
 「うむ・・・」
 そう言って、シャトナーに両手を差し出したダンディー男爵。 
 「これがカラードジェネシス・・・凄いまるで別人だわ・・・」
初めてカラードジェネシスを使ったレッドは、その威力に驚くばかりであった。
 「うむ。カラードジェネシスは、相手の良心を呼び覚まし善人にしてしまうという攻撃だ。」
シャトナーが、そう説明してくれた。 メタモルVはあくまでも銀河連邦警察に属している。 警察機構なので軍隊の様に殺傷させずに捕らえる事が目的なのだ。
 「ま!これでOKね!」
 イエローがウインク一つ。
 「ま・・良かったって事で!」

 「ちっとも良く無いわ〜!!」
突如として、メタモル達に投げつけられる怒声。 声の主は勿論桜子だ。 その隣には破れたエプロンドレスの胸元を左手で隠すなみも・・・。
 「どないしてくれるんや!! 折角の飯の種が・・・! あの程度の破片じゃ対した稼ぎにならへんやないか!」
見れば作業服のポケットに、詰めるだけダンディー男爵の損壊して飛び散った部品が。
 「長官・・・この人・・・」
 パープルが困惑する表情を向けると、シャトナーが前に出る。
 「任せろ・・・ハァッ!!」
 シャトナーが桜子目掛けて、頭部の触覚(?)から輝きを放つ。 シャトナーの能力の一つで「ボルト流記憶消去」だ。 これによりメタモルVに関する事のみの記憶を任意の相手から消してしまうのだ。
 「うわっ・・・」
その瞬間に、記憶は失われた筈である。 証拠を残さない為にもシャトナーは、桜子の作業服に詰めこまれたダンディー男爵の部品を抜き取ろうと、手を差し出した。 だが・・・
ガシッぃ!! 差し出されたシャトナーの手を桜子は握った。 一瞬驚くシャトナー。そして、これが桜子の反射的行動でないと言う事にも気付かされた・・・
 「ウチを甘くみんといて。 そのぐらいの対処はしてきとるんや・・・」
そう言って、眼鏡を輝かせる桜子。
 「この眼鏡には・・・一種の対閃光防御が出来るように施しているんや・・・そしてなみの瞳にも同様の処置を・・」
そう言って、シャトナーの手を振り払った。
 「こう見えてもウチは裏社会にもネットワークがあるんや・・・。アンタが宇宙刑事シャトナーッちゅうこともな。昨日調べたんやで・・・」
 桜子の言葉にシャトナーが声を失う。 この女性はどこまで知っているのだろうと・・・
 「昨日、内閣のデータベースに侵入して調べた。 内閣特務室っちゅう連中が、色々とチーム作っとんや。 改造人間や超能力者に対するためのな・・・。そん中に宇宙人対応のチームもあるんや。」

 桜子の口からは、内閣特務室という日本政府直属の調査チームが組織されているらしい。 しかしその存在は殆ど公にされていない。 何故ならばその調査チームが調べているのは、改造人間や超能力者などの通常では考えられない存在に対する為だからだ。
 その中でも対宇宙人の存在を目的とするチームもあり、そのチームが第1目標として調べていたのがシャトナーだった。
 事実、シャトナーは数ヶ月前、初代メタモルレッドが健在の時に、その内閣特務室の人間に重要人物としてマークされていた事もあったからだ。
 だが、特務室の調査員はシャトナーに接触する事は無かった。 影からシャトナーを徹底調査していたのにも関わらず。
 それは、調査の結果シャトナーが二極化するならば地球を守る『正義』側である事がおおよそ判明していた為と、特務室が他に全力を捧げなければならない出来事が起きたからだ。
 それは日本政府転覆を企てる大規模なテロ組織と、それに対していた正体不明の改造人間と3名の少女からなる超能力者の調査。 
 行動目的が『正義』と明確。それならば改造人間や超能力少女達に比べたら、シャトナーは放っておいても構わない存在と判断されたのだろう。
 結果として、テロ組織は日本政府転覆を果たす事無く壊滅した。 そして・・・組織を打ち破った改造人間は行方不明。 3人の超能力少女達は、協力者である男子高校生を残して二人が死亡し、一人は政府の保護下に入った。
 一応の決着を付けた特務室は事後処理に追われ、シャトナーの存在は殆ど忘れ去られた。 だが、特務室にはしっかりとシャトナー・・・大紋寺激に関する詳細なデータが残されていた。

 「ウチはそのデータを見て昨日徹夜で準備したんや! 生まれてくる子供の為にも、ウチにはまとまった金が必要なんや!!その為になみを戦闘状態にして、今日に備えたちゅうに・・・」
ワナワナと身体を震わせる桜子。 そしてキッ!とシャトナーを涙目で睨みつける。

 「(改造人間に超能力少女・・・ああ、乱君と神埼君達か・・・)」
シャトナーは桜子の言葉に、何かを思い出していた。 そう・・・シャトナーもその内閣特務室より先に、その改造人間と超能力少女達と接触していたのだ。 御剣博士に協力していたシャトナーは更なる協力者を求めて、『正義』側の人間を求めていたからだ。
 だが、「サンダー」と名乗る改造人間の青年と、「念動」「瞬間移動」「テレパス」と言う超能力を持った少女達は、テロ組織による巻き添えを警戒して、参加を断わっていた。 今にして見れば無理にでも引きとめていれば、そんな結果にはならなかっただろう・・・と言う後悔の念が過っていた。

 「おい!聞いてんのか!? こうなったらアンタの正体世間にバラしてでも銭を・・・」
半ばヤケになった桜子。 「おちついてください〜」と、押さえるなみをも振りほどく様に・・・
 「アンタの情報を欲しがるろくでもない人間はゴマンとおるからな!!」
もはや脅迫のレベル。 このまま放っておけば、『悪』側に情報を売りかねない。
 なにしろ『悪』側は、『正義』と違って資金が潤沢な所がヤケに多いからだ。 シャトナーの情報ならば、どこの組織も喜んで買うだろう。
 「いくでなみ! さっきのメカ男爵締め上げて、奴の主人にコイツの情報を・・・」
そう言って、既に逮捕されているダンディー男爵の胸倉を掴もうと手を伸ばす桜子。 そこへ・・・

 「待って!!」
突如乱入する声。 未なが声のした方向へ向けば、そこにはコートを羽織った胸の大きい女性が。 柊巴である。御剣博士の依頼により、メタモル達を見守りシャトナーの暴走を押さえるように、ここへやって来ていたのだ。
 「お話は聞きました。 貴方も・・・愛する者の為に戦っているのですね。」
 じっと桜子を見つめる巴。 彼女の戦う意義は『愛する者を守る』。 それゆえ生まれてくる子供のために躍起になる桜子に自分に通じる物があると感じたのだ。
 「勘違いせんといて!! 見たところアンタも『正義』側の人間みたいやけどウチはアンタみたいに『正義』の為になみをつこうとる訳や無い! ただ単に金が欲しいだけなんや!!」
 そう言って、巴から視線を反らす桜子。 ひょっとしたら真っ直ぐで純粋な心を持った巴に、己の趣味と金儲けの為だけに非合法の世界に足を突っ込み、そのせいで愛する男を遠ざけられた自分が薄汚れた存在に感じたからなのかもしれない。
 「アンタ・・・見たトコ、ええところのお嬢さんみたいやけど・・・アンタには解らんやろうな! ウチみたいなメカいじりしか取り得の無い女が一人でやっていくには、汚い裏の世界も利用するしかなかったんや!」
 いつのまにか桜子は涙を流していた。 愛する者の為・平和を守る為・地球を救う為・・・と、純に己を意義をしっかりと持ち、輝かしくも見えるメタモルVや巴の姿に比べ、自分はなんて汚いのだろう・・・と。

 「(この人・・・ひょっとしてカラードジェネシスの余波でも浴びたのかな?)」
 メタモルレッドはそう思った。 桜子が生きてきた世界の詳しい事は解らずとも、おおよそまっとうな世界ではない事は解った。 最初、逆切れかと思ったが、涙をポロポロ流し感情に訴える姿に先程のダンディー男爵の姿に通じる物を感じた。
 「(辛いんだ・・・。ずっと一人で・・・。一人だったから、お腹の赤ちゃんが余計に愛しいんだ。だからあんなに必死に・・・)」
 そう感じたレッドは、シャトナーに話し掛けた。
 「長官。この人・・・私達の仲間にできませんか?」
レッドの言葉にシャトナーが軽く驚いた。
 「ああ?しかしなぁ・・・」
 「この方のメカニックに関する知識は、十二分に我々の役に立つと思います。 それにそのなみ・・・さんですか?彼女の戦闘力は非常に高い物がある。戦力に数えても宜しいのでは?」
 すかさずブルーがフォローを入れる。 メタモルブルーの特殊能力は『操縦技術』。その為メカニックに関する知識を有するのだ。
 「だけどぉ? この人、お金が欲しいんじゃないのぉ? 長官にそんな御金あるとは〜思えないけど?」
イエローがすかさず突っ込む。彼女の言葉は最もだ。 桜子が何より求めているのは『金』。子供を養う為の生活資金だ。
 詳細は知らないが、各宇宙のローン会社に借金があり、欠席分の生徒の給食まで日々の食事に投入。月末には同僚に工面して欲しいとねだるまでの金欠主義まっしぐらのシャトナーに、人を雇う余裕があるとは思えない。

 「その事なら100%完璧・・・とまではいかなくても、なんとか出来ますよ。」
巴の言葉に全員が驚いた。 メンバー達の活動はあくまでも悪を倒し平和を守る『正義』である。 極一部の例を除いて、その行動は無料奉仕。 勿論必要経費などは御剣博士から出される物の、ボランティア同然である事は間違い無い。
 「御剣博士が、なみさんを戦闘参加を条件にお金を出してくれるそうですよ。 なみさんは・・・ええと、ロボットだから、桜子さんの所有物と言う扱いになりますから・・・まあレンタル料ってとこですか?」
 巴が携帯電話のディスプレイを見ながら説明した。 どうやら短い時間でおおよその事情を把握した巴が連絡を付けたのであろう。 少しでも戦力が欲しい御剣博士は、例え金のためであっても『正義』側についてくれるなら誘え・・・と、メールしてあった。
 「私達も・・・合法とまでもいかなくても・・・、まあ闇賭博よりは良識的だと思うよ?」
 巴が苦笑しながら桜子に右手を差し出した。

 「・・・・・」
ためらう桜子を、なみがそっと後ろから抱きしめた。その顔は慈愛に溢れている。 とてもロボットとは思えない柔らかな表情であった・・・
 「桜子さん・・・。いつまでも闇屋みたいな事続けられません。 ご主人様はそれで・・・。ですからここは・・・」
 そんななみの手を握る桜子。
 「ええんか・・・なみ。 正義の為・・・と言えば聞こえはええけど、この人ら結局はおまえに『戦え』って言うとるんやで・・・それに、改造されたアンタは非合法には変わりないんや・・・」
 「それでも・・・日のあたる場所に出られるんですよ。 DOLLファイトは何処まで行っても闇の世界。個人的な欲望だけの世界なんです。でも・・・こんな汚れた私にでも日のあたる場所で力を振るわせて下さる方々がおられるんです。」
 「なみ・・・」
 「汚れた世界の私が日のあたる場所で人様の為に戦えるんです! 人に奉仕してこそのメイド!」
 なみの言葉に桜子は目を閉じて微笑した。
 「せやな・・・。元はといえば、ウチがあの人を闇の世界に引きこんだ・・・。 その闇の世界がウチの幸せを奪った・・・。所詮人は闇の世界では生きれへん。 これは贖罪かもしれへん・・・。 ウチは・・・罪を償わなければならんのや・・・」
 そう言って、桜子は巴の手を握り返した。 うっすらと涙を浮かべて。
 「よろしゅーたのんます。 ウチがどれだけ力になれるかわからへんけど、なみ共々御世話になります。」
 「ありがとう・・・」

 その後、巴とシャトナーは、宇宙船の移送作業を終えた御剣博士の元へ、メタモルVと桜子となみを連れていった。
 5人揃ったメタモルVにはそのままシャトナーに預け、桜子となみに関しては、なみの戦闘参加と桜子の技術的サポートを条件に業務契約と言う形をとった。
 これは裏社会大きなネットワークを持っていた桜子の力を借りる為の措置でもあった。 御剣博士達の活動は表立っては非合法に類する為、こういった地下ネットワークの構築は不可欠であった。
 こうして、新たな仲間を加える事に成功し、微々たる物ながら着々と力を蓄えつつあった・・・

 だが、今回のお話はこれで終りではなかった。

 「ふう〜すっかり遅くなっちゃったよぉ・・・」
町の海岸沿いの国道を、大型バイクが疾走する(法廷速度ギリギリで)。 
 柊巴である。新たな仲間とのやり取りなどですっかり日が暮れてしまったのだ。 急いで帰らないと・・・家では皆がお腹を空かせているに違いない。
 「夕飯どうしようかな・・・?」
 まるで買い物帰りの主婦のような考えを過らせる巴。 末弟である空矢が家に戻ってきて以来こういった家事全般の負担は少なくなっているが、すべてを空矢に押し付ける訳にもいかなかった。
 「遅くなったお詫びに今日は鍋物でも・・・」
そう考えていた矢先である。 巴の頭にキンッ!キンッ!と、まるで針金でも弾いたような感覚が走る。
 「こんな時に・・・」
指輪の戦士となり、魔の者に対しある種の感知能力を得た巴。 周囲に魔物が存在する事を知覚していた。
 「海岸の近く・・・?」
 巴は本能的に魔物の居場所を察知した。 周囲に他の交通車両が無い事を確認すると、バイクを今以上のスピードで走らせた。
 やがて目的の場所に近づくにつれて彼女は町の異変に気づいていた。
 「霧・・・・いや・・・ただの霧じゃない。」
それは町全体が、うっすらとした霧に覆われている事であった。 そして・・・町中の人々が道端に倒れている光景が・・・
 彼女は、バイクを止め近くに倒れている子供に近づき身体を調べた。 熟帰りと思わしきその子供は、安らかな寝息を立てている。 ただそれだけであった。
 「これは・・・?」
 他にも倒れている人間を調べて見るも、先の子供同様寝息を立てて熟睡しているだけであった。
 一体何が・・・? 恐らくこの様子ならば、町中の人間たちが眠らされているのであろう。 それだけならば大きい被害は無い。 だがこのままにしておくのは大変危険だ。 この場が閑静な住宅地で、交通量が少ない場所であるのが不幸中の幸いだ。 見渡しても大きな事故は起きていない。
 だが、この状態が他の地域に広がり続けば、とんでもない事態を引き起こしてしまう。
 「恐らく・・・魔の者の仕業・・・」
そう確信していた。 でなければ自分も眠らされている筈であろうからだ。秘密結社Qやアドニス一派のような科学技術系の『悪』ではない。 魔術や魔法・呪術を使う『悪』だ。
 「と・・・なれば、『くらやみ乙女』の勢力!!」
 現在敵対している『悪』側の組織は確認しているだけで5つ。 そのうちで魔と言えば、散発的な行動のクロウを除けば、くらやみ乙女と呼ばれる勢力しかない。

 『くらやみ乙女』は数ヶ月前に、この世界に侵攻を開始した異世界・・・ファンタジー小説などに登場する世界の勢力らしい。 突如この世界に対し侵攻を開始したが、御剣博士達が確認したのは一度だけ姿を見せた首領である『くらやみ乙女』と名乗る女性と、長身で屈強な肉体を持つ白い鎧に見を固めた男の幹部が一人だけ。 あとはコウモリやらクラゲやらの変異体のような異生物のみ。
 どうやら他の勢力に比べ、大規模な戦力投入が出来ないのか、それとも最初から数が無いのかは不明だが、散発的なゲリラ的行動に留まっている。
 だが、戦闘力は十二分に有しており、また魔法や呪術と言った超自然現象的攻撃に科学技術系とは一味も違う力を見せた。いずれにしても放置できない存在だ。

 「この霧も魔術の類・・・。だから退魔の力を持つ私は平気なんだ。」
そう言っているうちにだんだんと相手の居場所がハッキリしてきた。 巴の目線の先には、この町で唯一の教会と外人墓地。
 恐らく、『悪』はそこだ! 彼女はバイクに乗ったまま指輪の力を使う。
 「纏身っ!!」
 全身の細胞と血液が沸騰するような感覚の後、彼女の姿は妖魔撃滅の力を持つ異形・・・指輪の戦士ジガへと姿を変える。
 
 「(君を乱君に会わせてやりたかったな。 君の苦悩を分かち合えたかもしれない。)」
ジガとなった巴の脳裏に、昼間シャトナーが言った言葉が浮かんできた。
 桜子の言葉で、仲間に出来なかった超能力少女と改造人間の事を思い出したシャトナーは、そう巴に語っていた。
 異形と化す力を自分の意思とは関わり無く手に入れ、苦悩する巴にシャトナーは、同じような悩みを持つ改造人間の青年の事を語った。
 ジガは魔力や呪術によって変異するが、変異後の肉体は実の所、改造人間と差ほど変わり無い。 何らかの解呪が無いと一生ジガのままなのだ。 それは肉体を改造され、異形の肉体と人外の力を得た改造人間と共通する物がある。
 その青年は悪によって、放電能力を持つ改造人間『サンダー』にされてしまったと言う。
経緯はどうであれ、巴の良き理解者になりえるとシャトナーは思っていたらしい。

 「(どんな人だったのかな・・・? 良い友達になれそうだったかも・・・)」
そんな事を考えながら、教会へ向かうジガ。 彼女はジガの戦闘力には満足していたが、その外観と能力には嫌悪に近い感情を持っていた。 できれば・・・戦わずに相手と分かち合える能力・・・。 そう、メタモルVのカラードジェネシスのような・・・
 そして、外観も彼女達のような可愛らしいものが良かったな・・・とも思っていた。

 そんな時彼女は感じた。もう一つ・・・否、三つの気配に。
 その三つの気配はもう一方とは対照的に親近感を感じる明るいイメージを与えていた。
 「これは・・・?」
そして・・・彼女が現場に到着した時、彼女は見た。 そのイメージの正体に・・・

 「ダイアモンドカッター!!」
 「バーニングサラマンダー!!」
 「ムーンライトシャワー!!」
外人墓地の中・・・3mちかい大きさを持つアンモナイト型怪人・・・そんな異生物相手に、3人の中学生ぐらいの少女達3人が戦っていた。
 ピンクや青・赤を基調としたそれぞれ異なるプロテクター型スーツに身を包んだ3人の少女・・・
光・氷・炎を代表とする攻撃により、アンモナイト怪人は苦しめられていた。

 「彼女達も・・・なの?」
巴は物陰に潜みながら様子をうかがっていた。 そしてある種の羨望の眼差しも・・・
 何故なら彼女達の戦闘形態と思わしきスーツも、女の子らしい可愛らしいものだったからだ。
 やがて、彼女達はアンモナイト怪人向けて、最後の一撃に出ようとしていた。

 「デルタ!アタッぁぁクッ!!」
 3人がそれぞれ正三角形をかたどる陣形を取り、光線を放つ。 そして・・・その光線はピラミッド状のバリアーとなり、バリアー内でアンモナイト怪人は爆発四散した・・・


 「はあはあ・・・・勝てた・・・」
青を基調としたスーツを身に付けた少女、「水無神綾(みなかみ あや)」こと、「ムーンライトレディ・アクエリアス」が息を切らせていた。既に肩で息をしているほど疲弊している。
 「待って! まだ何かいるわよ!!」
赤を基調としたロングヘアーの少女、「姫神麗子(ひがみ れいこ)」・「ムーンライトレディ・ミネルバ」が何者かの気配に気付き、警戒心を緩めない。 だが、その身体は憔悴しきっている。
 「いやだぁぁぁ!! これ以上こないでぇぇ!」
と、泣き喚くのが一応リーダーの「彩月日和子(いろつき ひよこ)」・「ムーンライトレディ・アクエリアス」である。
 「もう!しっかりしなさい!ここで倒れたら今までの苦労が水の泡よ!」
そう叱咤激励するのが、彼女達の周囲を飛んでいる赤いオウム「ニケ」である。彼女達の御目付け役と言った所か。
 この3人の少女達こそ、異世界からの侵略者であるくらやみ乙女に人知れず対していた、光の洗礼を受けた少女戦士「ムーンライトレディ」である。
 彼女達は、『光の洗礼』と言う異世界人を見る事が出きる能力を有していた為、やむなく変身し、ムーンライトレディとして戦っていたのだ。

 「来るわっ!!」
ミネルバが外人墓地の入り口を睨みつけ身構える。 アクエリアスもヨタヨタとしながらも防御の姿勢をとる。 泣きっぱなしなのはアルテミスだけだ。
 薄い霧が立ちこめる中、彼女達の前に黒い人型が現れる。 それは巴が変身したジガだった。
 「ま!魔物め!!」
 「くっ!こんな人に近い奴がまだいたなんて!」
 「うわ〜ん!!もういや〜!!」
するとジガは、はあ〜と、肩を落とした。 その様子は「またか・・・」と言う意思が見て取れる。

 「勘違いしないでね。私魔物じゃないから。 むしろそっちと戦ってる方だから。」
いかついジガの外見で警戒心を解かない3人に対して極めて優しく話しかけるジガ。
 「あ・・・霧が晴れてきた。これで街の人達も元に戻るね。」
そう言って、3人に近づくと同時に変身を解く。 こうする事で敵ではないという事をしめしたかったのだ。 反面これで信じて貰えなかったらどうしよう・・・と言う不安もあったが。
 3人の目の前で、改造人間風の存在が、やさしい雰囲気を持つ長身の女性に姿を変えたことで、3人は構えだけはといてくれた。
 「貴方達・・・くらやみ乙女と戦ってるなら、『正義』ね?」
巴の言葉にオウムのニケが驚いた。
 「なんで貴方がくらやみ乙女の事を知ってるの?」
 「あ!可愛い♪いいなあそんな可愛いの連れてて。」
ニケを見てニッコリと微笑む巴。 彼女は動物には目が無いのだ。
 「答えて!ムーンライトレディでもない貴方が何故?」
詰め寄る様に巴の眼前に浮かぶニケ。 巴は間近で見られてニッコリ。
 「そりゃあ、私も『正義』だもん。 私の仲間達がもう何度も戦ってる。」
そう言って、巴は3人の前に出ると右手を差し出した。
 「詳しい話は後でしよう。 クスッ・・・可愛い友達がまた増えた♪」


 次回予告

  ガルファーの敵対する組織『ジェネレーション・キル』が動き出した!!
 恐るべき超技術の数々をこの時代の『悪』の組織達に提供した!! 果たしてやつらの目的とは!?
 そして・・・秘密結社Qの卑劣(かもしれない)罠に、メタモルVと多数の子供達が拉致されてしまったぞ!
 子供達を救う為には、ガルファーだけで秘密結社Qの怪人軍団と戦えという!
 油断するなガルファー!これは罠だ!

 次回、サイバーヒーロー作戦 第十五話 『強敵!最強怪人7人衆!』に震撼せよ!!

 長船「いよいよヒーローらしい展開になってきたな!! 腕が鳴るぜ!」
 宮乃「あたしもがんばっちゃう!!このマシンピストル(本物)で!!」
 長船「銃器不法所持で逮捕されたいか・・・」
 彩「この軍用スパークショットなら法には触れないわよ。」
 長船「・・・・・(涙)」



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