第13話『ドリルとメイドと赤と青』
薄汚い畳敷きの6畳一間の部屋がある。 そして万年床と化した布団の中で、大紋寺激は夢を見ていた。
──無罪放免になったものの、雇った弁護士から祝いの席で半殺し。 そんな日々がようやく終わったと思えば、裁判でプライベートな部分が世間様に暴露され、好奇の目で見られる日が続く・・・・
耐えられません・・・ほんまの話。 こんな俺に夢と愛をくれ・・・
そんな所で、大紋寺はけたたましい目覚し時計のベル音に半ば助けられる様に、嫌な夢から脱出した。 しかし、ここ最近のストレスから嫌な夢であってももう少し眠っていたかった・・・
『オキロー!!!』
目覚まし時計の一つから、本来ハトが出るであろう場所から、ロケットパンチが射出された。 圧縮空気により十二分に加速力を得た硬質ゴムに覆われた拳は、大紋寺の顔面を正確に捉えた。
「ぶるらぁぁぁぁっ!!」
恐らく、既製品のゴムスタンガン並の威力を誇るであろう一撃。 その威力はヘビー級ボクサーのパンチに匹敵する。
『オハヨウジョンソン。 気分ハ、ドウダ?』
トースターから無機質な声が放たれる。 強烈な一撃を食らい、別の意味でもう一度眠りにつこうとしていた大紋寺は覚醒を余儀なくされた。
「あ〜・・・最高の朝だよ。」
トランクスとランニングシャツと言う姿で、大紋寺はあからさまに不機嫌な声でトースターに答えた。 万年床から這い出し、トイレと洗面所に向かう。 それを確認する様に自動的に電子レンジが動き出し、ポットから某MS-06型MSじみた機動音あげ、モノアイならぬ電源ランプが妖しく輝く。
トイレと洗顔を済ませた大紋寺がちゃぶ台を見れば、扇風機とホットプレート・・・そして旧型ノートパソコンが、超電磁波をたぎらせ空中で合体する様子が見えた。 大紋寺は気にもしない。いつもの朝の光景なのだ。
そうこうしている内に、食器洗い機と合体したポットがホバー推進でゴミを撒き散らしながらちゃぶ台にやってくれば、ちゃぶ台の上にミルクの入ったコップを置く。 続いて奇妙な合体劇を見せた、3つの合体家電は、空母のカタパルトよろしく目玉焼きを射出する。
最後にキャタピラで自立自走が可能なトースターは適度に焼けたトーストを放つ。 大紋寺はそれらを手馴れた様子でキャッチすると、朝食を始めた。
『ユックリ、カミカミ急イデ、食ベロ。 学校ガオ前ヲ待ッテイル。』
トースターの無機質な声が響く。 大紋寺は無愛想にトーストにかぶりつく。
『ウメーデ、ゴザイマショ?』
「へえへえ。ウメーでございますよ。」
あらかた食事を終えた大紋寺に、ポットがコーヒーカップを差し出す。
『コーヒーデキタゾ。飲ミヤガレ。』
「まったく・・・・」
そうぼやきながらコーヒーを啜る大紋寺。 独身男性としては、自動的に朝食やコーヒーの仕度をしてくれるこれらの奇妙な家電製品は嬉しい所だが、どうにも何かが違う・・・
「先生、奥様を迎えられた方がよろしいのでは・・・」
早朝に、学校内にある大紋寺の私室に呼び出されたメタモルの3人。 その中で麗子が、あまりの散らかり様に、やれやれ・・・と言った感じで簡単に片付けをしながら言った。
「男の人の部屋って・・・みんなこんな感じなのかな?」
もえ子がゴミ袋を取り出しながら呟く。 まさか早朝から呼び出されたのは、部屋の掃除を手伝わせるためか?と、思われてしまっているに違いない。
「くるみがなってあげようか?お嫁さん。」
何気なくくるみが言うが、冗談と捉えられたらしく、さらりと笑って回避されたのが、くるみには面白くなかった。
「お仕事が忙しいのは理解できますけど、学校の一室を間借りしているのですから、せめてお掃除だけでもきちんとしていないと・・・」
麗子が箒を持って言うと、大紋字は頭を掻いた。
「そうなんだがなぁ・・・。俺の給料じゃあ、A級のメイドロボなんて買えやしないしなぁ・・・」
「・・・・あ、これ?」
ちょうどTVでCMをやっていた。 もえ子がTVを見れば、そこにはメイド服を来た女性型ロボットの姿が・・・
「最近流行ってるよねぇ・・・。くるみの所属事務所でも事務とか雑用に使ってるもん。 来栖川製の奴。」
くるみがTVに映るメイド服のロボットを見て言う。 だがTVのロボットは来栖川製ではなかったが。
「殆ど人間と変わりない外観ですわねぇ・・・。お父様の会社でも使ってますけど、時々本当に人間と間違える時がありますもの。」
麗子が感心する様に言うと、大紋寺は羨ましい・・・と、聞こえない様に呟いた。
メイドロボは、本来はホームヘルパー・ハウスキーパー等、生活補助目的で開発された物。 だが、最近では、人工知能の高度化により、人間に近い思考や感情を持つため、労務・雑務など人間に代わる労働力して用いられたり、身寄りの少ない孤独な人々への愛玩目的など、その用途は多種に渡る。 その為新たな産業として期待されている。
「欲しいんだけどさぁ・・・。外車一台くらいの値段がするんだよな・・・」
大紋寺がぼやく。
「その代わりがコレ・・・って訳? 先生。」
くるみがポットや合体した家電を示すと頷く大紋寺。
「長船君が、『俺は一人暮らしには慣れてる』って、村正君たちが作った物を譲ってくれたんだわ。」
そう・・・これらは既製品ではなく、案の定、村正姉妹が作った改造家電であった。 以前の物と比べて、多少は家電としての能力は向上しているが・・・はやり疑問が残る作りである事には違いない。
もしかして、長船はこれらの事に気付いていたから、俺に譲ったのでは?と言う考えが大紋寺の脳裏を過る。
「ところでさ。 その長船さん達は?」
くるみの言葉に大紋寺は頷いた。
「ああ。彼らなら東京・・・銀座に向かった。 何でも調べたい事があるらしい。」
「銀座に何があるんですの?」
「うむ・・・なんでも魔物に関して事らしい。 銀座に手がかりがあるかもしれないと・・・」
「ふ〜ん。 それでさ先生。 くるみ達を呼び出した理由ってのは?」
その言葉に大紋寺は、一通の書類を取り出した。 どうやら転校生に関わる書類の様だ。
「・・・みんな知っての通り、アドニス星系の王族一派が、民主クーデターによる母星を追われたのは話したな?」
「クーデターって?」
「貧乏人が一斉決起して、金持ちを倒すことだ。」
「それで・・・どうなるの?」
「どうにもならない。 みんな普通になるだけだ。」
だが、大紋寺は言葉を続ける。
「ところがだ・・・。母星を追われたアドニス一党は、この地球を新たな自分達の城にしようとしている。そこで我々の任務は、アドニス一派と地球人との接触を断つ事だ。」
「ようは!いつものようにやっつけちゃえって事ね!」
「まあ、そう言う事だ。 そこで・・・メタモルVをより攻撃的にする必要が出てきたわけだ。 アドニス一党の戦力はマジカル星人の比ではない。」
「具体的には・・・どうするんですの?」
「うむ。 新しいリーダーを迎える。 これに休職中のブルーも復帰すれば。」
「新しい・・・リーダー?」
「ねえねえ!くるみがやってあげようか?リーダー!」
「リーダーは、あくまでもカラード特性で決まる。」
「捺紀・・・戻ってきますかね・・・」
「佐山君の事は俺も心配だが・・・俺は彼女を信じている。」
「ところで、その新しいリーダーってのは?」
「うむ! カラード特性・・・は燃える『赤』!! その少女の名はぁぁっ!!」
その頃、長船は村正姉妹を伴って、東京は銀座の真っ只中に来ていた。
午前中の静かな中、まだ開いていない店舗や飲食店、会社へ急ぐビジネスマンの姿が目立った。
「午前中に銀ブラ(銀座でブラブラする事)するなんて、デートみたい・・・」
長船の隣を歩いている彩が顔を赤らめて言う。
「お姉ちゃんずるい! 抜け駆け無しだよ!!」
そう言って宮乃が長船の腕に抱きつく。
「お前達・・・ここへ何しに来たか解ってるのか?」
腕にしがみつく宮乃に苦笑しながら長船はぼやく。
「解ってますよ・・・その・・・帝国華激団ですか? それを調べに来たんですよね?」
彩の言葉に長船は頷く。 そう・・・何故、こんなに悪の組織が跳梁跋扈しているのか? 封じた筈の魔物が蔓延っているのか? 一体、過去何があったのか・・・それを調べる為に帝国華激団の本部があった銀座へ来たのだ。
「大帝国劇場・・・そこに本部があるんだ。」
そう・・・帝国華激団は銀座の南端に存在する劇場に擬態している。見た目は普通の劇場だが、外壁は非常に強固で、対侵入者用の迎撃設備なども整っている。 劇場と砦の力を併せ持つ、凄まじい建造物。 少なくとも長船はそう思っていた。 あの時代、あの劇場ほど帝都を守る城として相応しい物はないと思っていた。
「ここの交差点を曲がれば・・・・」
・・・・無かった。
劇場なんてものは存在していなかった。 そこには端正なビルが立ち並んでおり、デパートなどの大型店舗に囲まれたビル街に過ぎなかった。
「やはり無いか・・・」
解っていたつもりなのに、何故か心に重くのしかかるこの感情はなんだ・・・
半年に満たない期間とは言え、心の知れた仲間達と過ごした『家』が無くなっているのは、さびしい物を感じた。
「だが・・・本部の施設は地下にあるんだ。 なにか手がかりがある筈だ!」
そう言って、長船はビルに駆けより、ビルの外周・・・裏側・・・マンホールに至るまでくまなく調べた。 途中怪しい目を向ける者や迷惑そうに話掛ける者もいたが、警察手帳を見せて黙らせた。 そんな必死な姿の長船を村正姉妹は黙って見守るしかなかった。 自分達には帝国華激団がどういうものなのかは解らない。 長船が手がかりを見つけない事には手伝いようが無いのだ。
たっぷり2時間はかけただろうか? 何一つ手がかりがつかめず、うなだれる長船に彩がジュースを手渡した。
「ダメなんですか?」
「ああ・・・まるで痕跡が残ってない・・・非常用の脱出口のあった場所まで探したのに・・・」
そう言ってジュースをあおる様に飲む長船。 深い事情を知らない姉妹には長船の気持ちは理解できない。 だが・・・なんとしても見つけなければならないと言う事だけは理解していた。
「その・・・帝国華激団の基地は・・・銀座にしかないんですか? 帝都の平和を守ってるって言うなら、他の場所にも・・・」
「!!!」
その言葉に、長船の目が輝いた。 「そうだ・・・浅草! 浅草花屋敷!!あそこには支部があった!」と、立ち上がった。 記憶が確かなら、花やしき支部と銀座本部は地下鉄道で繋がっていた筈なのだ!
「そうだよ・・・ありがとう!思い出したよ!!」
そう言って、彩の手を握る長船。 その急な事に彩は顔を真っ赤にする。
「じゃあ、さっさと行こうよ。」
ブスっとむくれた宮乃が手を引っ張った。
「ダ・・・ダンディー・・・」
かもめ第3小学校の校庭に、ボロボロの姿を晒したメカ人間の姿があった。
「メカ貴族ダンディー男爵。 貴様もここまでだな。」
白い全身タイツの大男、大紋時激こと宇宙刑事シャトナーがニヤリと笑みを浮かべていた。
彼の前にはメタモルの三人・・・いや・・・一人増えている。 真っ赤なバレリーナのような衣装を身につけた女性の姿が!!
「おのれ・・・まさか、地球の童(わらべ)を代理刑事にしていたとは・・・」
メカ貴族と呼ばれたメカ人間は、苦しそうにうめいた。 そして彼の眼前には真っ赤なバレリーナ風の女性の姿。
「くそっ! ここは一端引くしかない・・・ダンディー!!」
そう言うと、メカ人間は煙幕を貼って逃げていった。
「メタモルVよ。今回の戦いはまあまあだった。 う〜ん、まあまあだ。」
その言葉など聞いていないように、赤いバレリーナの女性は、自分の顔や身体をぺたぺたと触りまくっていた。
「これが成長・・・夢じゃないんだよね・・・」
そう言って、改めて自分の腕に輝くブレスレッドを見つめた。
彼女の名は、新城咲江(しんじょう さきえ)。 大紋時曰くカラード特性『レッド』を持つ稀に見る逸材だという。 そして・・・彼女は2代目リーダー「メタモルレッド」となったのだ。
「ふふん!イイ感じじゃないリーダー♪」
メタモルイエローがウインクして微笑みかけた。 だが・・・それとは対照的な視線を向けるものもいた。
「新しいリーダーだって・・・? そんなの・・・僕は認めない。」
一見すると、少年のようないでたちの、頭にゴーグルを乗せた少女が建物の影から呟いた。 そして・・・その握り締められた拳は震えていた。
「あった・・・・」
すっかり日が暮れようとしている浅草の片隅で、長船は目的の物をついに発見した。
「さすが浅草だ。 開発が銀座ほど進んでいなかったのが幸いしたか・・・」
長船が発見したのは、銭湯の隅にある離れの赤錆びた鉄扉であった。 それも・・・いつ取り壊されてもおかしく無いようなボロボロの離れの・・・
「この離れが・・・」
宮乃が言うと長船は頷いた。
「ああ・・・帝国華激団花やしき支部の緊急用出入り口だ。 風組の連中から場所聞いてて良かった。他の入り口のあった場所はみんな開発で潰されちまってたから・・・」
「ふうん・・・じゃあ、よっと・・・」
宮乃が針金を鍵穴に突っ込むと、またしても数秒ほどで扉の鍵は開いた。 こうした技術は彼女達の専売特許だ。
ゴゴゴ・・・・と言う重い扉が開かれ、そこから冷たく湿った空気が吐き出された。 長く閉ざされていた帝国華激団への入り口が開かれたのだ。
「いよいよだな・・・」
長船達は薄暗い入り口に向かって進んでいった。
しばらく進んでると、本格的な入り口が見えた。 入り口には「帝国陸軍」の文字が見える事から間違いは無いようだ。
「結構、深い場所まで来たね・・・地下四階って所かな?」
宮乃が言うと、長船は笑みを浮かべた。
「そんなモンじゃないさ。 浅草には翔鯨丸って言う飛行船のドックがあるんだ。もっと深い場所まで行く場合があるぞ。」
「じゃあ、このヘルメット持ってきて正解だったね。 工事用のライトを改造して、数倍明るくて10倍長持ち♪」
彩が工事現場で用いるライト付きのヘルメットを示して言う。 宮乃も長船も同様の物を被っている。 ようやくまともな改造品が出てきたか・・・と、長船は苦笑していた。
20分ほど進んだろうか・・・・ようやく、それらしい空間に出た。 そこは周囲をコンクリートで覆われ、無機質な配管や鉄骨が見え隠れする超巨大な空間だった。
「これが・・・翔鯨丸って言う飛行船のドック?」
宮乃が言うと、長船は首を横に振った。
「そんな筈は無い・・・・翔鯨丸はここまで大きくは無いぞ・・・それに・・・あれだけ歩いたのに花やしき支部がまるで無い・・・どう言う事だ。」
そう・・・広すぎる。そして・・・天井までの高さがありすぎる・・・・。 その広さはまるで野球場がすっぽり入るほどだ。
「長船さん・・・」
彩が不安そうに長船を見る。 だが長船も困惑を隠せない。
「花やしき支部にこんな広さがあったのか・・・?」
「ねえ・・・長船さん。ちょっと見た感じ、造船所のドックに似てるんだけど・・・やたら大きいけど。」
彩の言葉は、確かにそう思わせる雰囲気はあった。 ただ・・・巨大過ぎると言う点は除いてだが。
「どうなってるんだ?」
と言う長船が周囲を見渡すと、このライトでも照らしきれない程巨大な暗闇の先に青白い光が見えた。
「長船さん!!あっちに光が!」
その言葉に長船は示された方向を見た。 確かに青白い光が見える。
「まさか!花やしき支部・・・帝国華激団の施設が生きているのか!!」
長船はたまらず駆け出した。 村正姉妹も後に続く。 そして・・・光の先には小さな扉が! 光はそこから漏れていたのだ。
「ここかっ!」
バンッ!!と、思いきり長船は扉をあけた。
───ンゴゴゴ・・・・・
「う・・・ウエルカ〜ム。」
「・・・・・・」
そこには、妙な空気が流れていた。 広さとしては小学校の教室一つ分と言った所か。 その中に、黒いローブを着た男が四人いた。
一人は不気味な雰囲気を漂わせる覆面の男だが・・・・残りの三人は、ローブを羽織っただけで上半身裸の屈強な肉体を持つ男たちであった・・・・
ぱしっ──「あん。」
長船の軽いビンタが、その筋肉男の一人に妙な声をあげさせた。 見ればギラギラと長船の勾玉が輝いていた。
「何をしているこんな所でぇぇっ!! なあイダテンっ!!」
筋肉男の一人・・・それは紛れも無く、長船が大正時代で出会った仲間の一人。 自ら天界からの使者と名乗った男。 イダテンその人であった。 長船はイダテンの胸倉を掴んで詰め寄った。
「全く!! 感動の再会も合ったもんじゃねえ!」
「お・・オラはジョーイ=デマイオ。 単なる武器商人のアルバイトダス・・・」
「しっかりイダテンじゃねえか! そこの二人もアドンとサムソンだろ? なあ!!」
黒いローブを剥ぐと、そこにはイダテンの舎弟、アドン&サムソンの姿が。
「こんな所で何をしている・・・・返答いかんによってはぁぁ・・・」
プルプルと震えながら、拳銃を突き出す長船。 とにかく今は聞きたい事が山ほどある。 この程度の感情の高ぶりで抑えているのが不思議なくらいだ。
「・・・・・・・」
拳銃を付きつけている長船に覆面の男が近づき、イダテンにぼそぼそと何かを耳打ちした。
「お・・オーナーは、『ちゃちな銃を使ってるな』と、言ってるダス。」
「は?」
もう一度、イダテンに耳打ちする男。それにふんふんと頷くイダテン。
「オーナーは、『いい物があるぜ』と、言ってるダス。」
すると、オーナーと呼ばれた男は、「ウエルカム。」と言い、羽織っていたローブを広げた。 そこには各種様々な銃器があった!
気分を落ち着けた長船は、イダテン達からコーヒーを勧められ、話を聞いた。 見ればこの部屋。地下施設の割には電気も水道通っており、様々な家具も一通り揃っている、まさに『隠れ家』と言った風合いだ。
「ここは、帝国陸軍の施設だったんダス。 戦後米軍も利用したダス。」
へえ〜と、感心する村正姉妹をよそに長船は「正確には、帝国華激団風組の非常用待機スペースだ。」と、付け加えた。 壁に貼ってあった錆びたパネルにそう書いてあったのだ。
「しかし・・・お前達は、そのオーナーさんの元でアルバイトだと?」
頷くイダテン一同。
「そうダス。 この時代にきて早々に、行き倒れになっていた所をオーナーに助けられて、そのままアルバイトさせてもらってたんダス。」
イダテン達がどうやってタイムワープしてきたのか不明なままだが、今はそれより情報が優先だ。 その事に関しては後で効けばいいと長船は思っていた。 それ以前に感情が昂ぶり過ぎている今の長船には、そんな事を聞く・・・と言う事が頭から欠如している。
「で・・・売り物が銃器類と?」
引く付いた笑顔で長船が尋ねる。
「そうダス! 何せこの時代の日本は物騒だから、武装しないと! あ・・・コレ、オーナーのアメリカンジョークね。」
HAHAと笑うイダテン一同。 どこがアメリカンジョークだ。 ただのオヤジギャグじゃねえか・・・と言う言葉を長船は飲みこんだ。
「何せ、日本はポリス・・・国家権力がうるさいダスから、こうした地下に潜伏して、地下ルートでしか販売できないんダスよ。」
警察官の目の前でそれを言うか・・・と、長船は言い出したいのをこらえた。 とにかく今は情報が最優先だから・・・
「なあ・・・地下ルートって、こう言う実際に地下で販売するって意味じゃないぞ・・・」
「え、マジ!?」
「いや、マジ。」
イダテンは慌ててオーナーの顔を見る。
「オーナー!意味が違うって!!」
すると、オーナーまたもボソボソ。 どうやら「う〜ん、君は減俸だ。」と、言った様。
気付くの遅すぎ。
「それはさておき・・・・パンパカパ〜ン♪お客さん第1号〜♪」
ぱちぱちと拍手される長船。 そして首にメダルをかけられた。その何処かの洋館から拾ってきたと言う大鷲のレリーフが。
「あのなあ・・・俺は警官だぞ! 目の前でこんな物買うと思うのかっ!!」
「あたしコレ。」
「ねえ〜反動の小さいライアットガン無い?」
買っていた・・・・
村正姉妹が。 二人はオーナーが広げた銃器類に魅入り、あれだこれだと、注文を付け、気にいった銃器を手にとっていた。
「パイソンは私には大きいな・・・。ヴェレッタがいいかな? あ、コレ軍用のスパークショットでしょ!」
そう言って、拳銃やら電気銃を手にする彩。 これにしっかりと軍用のアーミーナイフを押さえている。
「お姉ちゃんそれ? ねえ〜オーナー、ライアットない〜? それと連射が効く奴がいいな。」
宮乃は、ポンプアクションのショットガンと、マシンピストルを持ち出す。
その様子にオーナーはボソボソ声で、「おいおいお嬢ちゃん、象でも倒す気かい?」と笑っていた。
「買ってるダスな。」
「・・・・・・」
泣く長船。 これだから日本の治安が・・・・と、泣いていた。 そんな長船にオーナーが肩を叩いた。
「なんです?」
オーナーは、長船に向けて一丁の拳銃を差し出した。 それはずっしりと重いイスラエル軍の軍用拳銃だった。
「じぇ、ジェリコ941ぃ?・・・あのデザートイーグルの弟分じゃねえか・・・」
震えた手で拳銃を掴む長船。 軍用拳銃の割には何故か長船にはしっくりと馴染んだ。
ジェリコ941とは、名銃と名高いチェコのCz75を参考に開発されたマルチ口径銃。
あらかじめ交換用の銃身と弾倉が用意されており、これらを交換することで9mmx19と40S&W、41AE弾の3つの弾丸が使用できる。 また砂漠と言う苛酷な環境での使用を前提としている為、構造が簡単で整備が容易。 様々な環境で戦わなければならない長船にとっては、まさにうってつけ。
世界最強の自動拳銃デザートイーグルは、この銃を改良した物。象すら一撃で倒せる威力を持つ。 ちなみに某国家の警察の特殊部隊が愛用し、生体兵器を一撃で葬ったとも言われている。
余談だが、村正姉妹が愛用していた防護服や改造エアガンの数々は、その特殊部隊を真似たレプリカである。 そして・・・ついに本物を手にしてしまったのだ・・・無許可で。
「どうして・・・・」
「オーナーは、『そんなチャチな拳銃じゃこの先辛いだろう?』と、言ってるダス。」
反論できない。 確かに日本警察採用のニューナンブM60は、世界でも稀に見る『ダメ拳銃』の烙印を押されている銃なのだ。 そんな物が、この先敵対する悪に対抗できるか難しい。
「だからって・・・ジェリコはないだろ・・・せめて、チーフスペシャルかS&Wぐらいで・・・」
「甘いダス!!」
ビシッィと、指を付きつけられる長船。
「そんなヌガーの如く甘い考えでは、この先『悪』と、戦えないダス! 平和を守るためには力がいるんダス! 力無き正義は無力っ!!」
力強いイダテン節が炸裂する。 長船としては合点がいかないが、確かに力は必要だ。 渡されたジェリコをホルスターにおさめた。 何故か、凄くしっくり来るのが怖かった。
さらに村正姉妹は小型のハンドガンを二丁追加し、使い捨てのロケットランチャーを手にいれた。 どこででも戦争を起こせる装備の充実だ。
そして・・・ファッションレプリカらしき、防護服まで着込んでいた。 背中には『R.P.D』と・・・
「アレも売り物?」
「中古品だ。」
良く見ると切り傷や弾痕を塞いだ後が・・・
「弾痕?」
「あ?ああ・・・アレだ。 リアル志向のレプリカだ」
どうやら本物らしい。 入手経路は・・・聞くまい。 本人達は、その青いコスチュームがいたく気に入った様子だ。 オーナーは「沢山買ってもらったから、安くしとく。そしてオマケだ。」と、緊急スプレーと緑色のハーブを幾つかくれた。
「さて・・・」
ハイ。と、イダテンが長船に向けて手を出す。 何の事かと尋ねれば・・・
「御代ダス。」
商売上手め・・・と、渋々財布を開ける長船。 しかし・・・これだけの銃器類。 持ち合わせがあるわけはない。
「ウチは等価交換で支払いOK・・・と、オーナーが言ってるダス。」
と、言って長船の腰に下げた砂金袋を指差す。
何故知ってやがる・・・と、顔をしかめる長船。 仕方なく渋々、適量の砂金で支払った。 オーナーは満足そうに頷き、「御釣りが出るぜ」と言い、御釣り代わりに予備の弾丸をもう数カートンくれた。
「こんなに買ってくれたのは、ヨーロッパで出会った、アメリカのエージェントの兄ちゃんだけだったぜ。」
ああ、そうかい!と、吐き捨てる長船。
「ところで・・・この部屋、電気も水道も生きてるみたいだが、どこから盗んでるんだ?」
その言葉にイダテンは怒った。
「失礼な!電気も水道も盗電や盗水じゃないダス! きちんと、この先の宇宙船から引っ張ってるんダス!」
「!!」
イダテンの何気なく言った言葉に長船は目を見張った。 明らかに表情が違う。
「う・・・宇宙船だと・・・まさかそれは・・・」
「ああ・・・ソードフィッシュダスよ。 ソイツから電気引っ張ってるんダス。 オーナーが苦労したって・・・」
次の言葉は出なかった。 今しがた自分が売った拳銃・・・イスラエル軍用自動拳銃ジェリコ941が、自分の眼前にあった。
「案内しろっ!! 今すぐだっ!!」
「ちぇ・・・ロクなパーツがあらへん・・・。なみ〜、そっちはどうや?」
「いえ・・・転売・修理可能な部品類は見当たりません。」
とある住宅街。 その住宅街にはとても似合わない光景があった。 何せ閑静な住宅街のど真ん中に、無数のロボットの残骸が散らばり、その残骸を作業服を着たメガネの女性と、エプロンドレス・・・俗称メイド服を着た少女が漁っていたのだから。
「桜子さん。これなんてどうでしょう? 新型の加速チップですよ。」
メイド少女が、左腕で差し出したのはコンピューターの回路の一部の様だ。 桜子と呼ばれたメガネの女性は、ふんふんと見定めてから「このジャンクじゃあ、コレぐらいが妥当か・・・」と言って、チップを籠に放りこむ。
「かあ〜! 『正義』の連中め!気前良く壊しおってからに〜! ウチ等ジャンク屋が町の美化を理由に回収業務引きうけた意味ないやんけ!」
桜子が髪を掻き毟る様にわめく。 それを見てメイド少女がまあまあ・・・と、なだめる。 見ればそのメイド少女の右腕は『ドリル』だった。
「あの・・・桜子さん。 他のジャンクも回収しないと、町民の方々にご迷惑が・・・それに町から回収料が出ませんよ・・・」
「わあ〜とるっ! くそ・・・あの新組合長にダマされた!『何がコレ儲かりますよ』や!!ここまで破壊されとったら、リサイクルできへん!回収料だけじゃ赤字や赤字!」
桜子がわめき散らす。 それでも渋々トラックで、あちこちにばら撒かれた残骸を回収する。 メイド少女も御手伝い。
「あの新組合長・・・憶えとれ・・・自分とこは、えらいイイモン回収できたくせに・・・」
「何を回収されたんですか?」
「『王道ではない』とか言う金色の人型ロボットの右腕や。殆ど無傷だったらしいで。 それに組合長の仲間も、ソイツの本体と同型らしい赤と青のロボットも入手したらしいで。 ホンマ悔しいわ!」
この桜子という女性・・・まだ二十歳そこいらの年齢にも関わらず、ジャンクショップ『ドリル堂』を経営している。 またメカニックとしての腕前も確かな物がある。 ただ・・・ドリルに対し非常に極端な愛着を持つという性癖があるが。
そして、このメイド少女。彼女は人間ではない。 DOLL(ドール)と言う最新型の人型のメイドロボットで、名前は『なみ』。 本来は家政婦用として開発されたもの。 ちなみに彼女は、メーカーが腕部パーツの耐久テストに用いた物が流れてきた新古品だった。 その為右腕が欠損していたのだが、この桜子が代用品として土木作業用ドリルアームを装着してしまったのだ。
「全く・・・しっかり稼がなあかん時期になのに・・・」
桜子は、自分のお腹をさすりながら呟いた。 そしてなみも桜子が何故コレほど御金に執着するのかは解っていた。 今のうちに稼がないと、やがて彼女は働く事が出来なくなる体になるからだ。
「ご主人様さえいれば・・・」
なみはその言葉を飲みこんだ。 それは今の桜子には禁句だったと言う事を思い出したから。
(今の私のご主人は桜子さん・・・私がご主人様が帰るまで、桜子さんを守るんだ・・・)
なみはロボットとは思えない思考をめぐらせていた。
彼女・・・なみは、数奇な出会いからフリーターの青年に購入された。 TVCMを見てなみに一目惚れした青年は、ドリルアームが装着された状態でも、彼女を愛し、まるで人間のように接した。
そして青年は、桜子の勧めで、なみの通常型腕部を手にいれる資金を稼ぐ為、DOLLを用いた非合法の格闘競技会『ドールファイト』になみを参戦させた。 フリーターの青年が、高価なDOLLの部品を購入する為には、これしか方法がなかったのだ。
そこで資金を得たなみは、戦闘はおろか、青年と身体を重ねる事も出来るまでに改良が進んだ。 そして、戦いを通じて他のDOLL達と、拳ならぬドリルを交えた友情を育んだ。
だが・・・どんなに愛されても、なみは機械である。 人間と機械は決して結ばれる事はない。
そして・・・青年は、ふとした事からドリル堂の女主人、桜子と身体を重ねるようになっていた。 その事に対してなみは決して不満を口にしない。 最初から報われない愛だと言う事が解っていたから・・・自分はメイド以上になってはいけないのだ・・・
その後・・・桜子の身体には、青年の子供が宿った。 機械ばかり相手にしていた桜子にとっては、青年ははじめて真剣に愛せた人物なのだ。 だが・・・青年が桜子と生活を共にしようとする矢先、事は起こった。
DOLLファイトは非合法。 どんな理由があろうとも法は法。それに反した者は罰せられる。
どこからか情報が漏れたのだろう・・・当局の一斉検挙。非合法のDOLL部品の使用、違法賭博の現行犯で青年は・・・
桜子は沈んだ。 青年をこの道へ誘ったのは自分だ・・・。自分の行いが自分の幸せを奪ったのだと・・・
そんな彼女を支えたのがなみだった。 ユーザーを失ったなみは、桜子の元へ身を寄せていた。 書類上はどうであれ、青年と桜子が『夫婦』になる事は確定していたおり、所有権は妻となる桜子に移譲される。 ならばユーザーとなった桜子を支えるのはメイドである自分の務めと・・・
「私と言う存在が、ご主人様と桜子さんを引き合わせたんです・・・そして桜子さんがいなければ、私はご主人様に出会うことは出来ませんでした。 だから・・・自分がご主人様の幸せを奪ったなんて言わないでください・・・そんな事、ご主人様は望んでいない筈です。 待ちましょう・・・二人でご主人様の帰る日を・・」
「桜子さん。この所ジャンクの発生、減っていますね。」
「せやろ? どうにも稼ぎが悪い。 こうも『悪』が増えとるのにどう言うことやろ?」
「『悪』と呼ばれる方々に機械が少ないんでしょうか?」
「そうかもしれへん・・・。建物とかの施設関連やったら解体業者の管轄やから・・・ウチらは残骸処理だけやし・・・」
桜子はトラックを運転しながらぼやいた。
彼女達ジャンク屋は、ジャンクやリサイクルパーツを売買する事で生計を立てている。 それは家電、パソコンなどの電子製品だけでなく、自動車やバイクなどと多岐にわたる。
最近は、『悪』によって人々の行動力が低くなり、生産能力が減少している。 その為リサイクルパーツが重要視され、ジャンク屋は繁盛していた。
また、『正義』との戦いに敗れた『悪』の残骸を、国から依託され回収する事で、国は少ない経費で処理を行い、ジャンク屋はその『悪』の残骸を新たな資源に生まれ変わらせる事によって、利益を得る。
この行為は、利益ばかりか、社会的信頼も得る事も出来る。 だが・・・最近は、この法則が崩れてきているのだ。
それというのも、『悪』が機械で占められた存在が少なくなっていたからだ。 最近はどうも宇宙人や魔物と言った「機械」ではなく「生物」だからだ。
こう言った連中は、倒されると蒸発したり腐敗して、すぐに消えてしまう。 多少匂いが残るが、すぐに消え去る為、機械の『悪』に比べて、汚染や残骸等の周辺被害が少ない為、後処理が楽だし、復旧作業も容易に出来るからだ。
だが、そう言った後処理で利益を得ていたジャンク屋達にとっては、辛い事だった。 建造物などの処理は解体業者の専門だし、生物系の『悪』は、残っていても自分達には手出しできない。
「どうにか・・・対処を考えんと・・・この『爆田軍団』って連中の残務処理だけや・・・」
桜子が回収したロボット達は、爆田軍団と呼ばれる怪ロボット軍団であった。 小規模な部隊であった為か、『レンタヒーロー』と名乗る青年がたった一人で撃退したと言う。 そして戦闘終了後に残務処理として桜子が町から呼び出されたのだ。
「ったく、あの電池野郎が、ハデに壊してくれよってからに・・・」
「他にも機械の『悪』がいてくださると良いんですけど・・・」
そうこう考えている時、桜子となみのトラックは、ある小学校の前を通りかかろうとしていた。
そんな時だった。 何気なくトラックの窓を開けていた桜子の耳に、爆発音と怒声が聞こえてきた。
「メカ貴族ダンディー男爵!貴様もここまでだな!」
その言葉に桜子は敏感に反応した。 急にブレーキを踏み、トラックを停止させた。
「さ!桜子さん! そんなにしたら、お腹の赤ちゃんが!」
「ええから! はよ降り!」
そう言って、心配するなみをよそに、桜子は小学校へ入っていった。 止む無くなみも続く。
そして、彼女達が見たのは、ボロボロになったメカ貴族ダンディー男爵と4人になったメタモルVの姿であった。
「・・・あの方たちも『正義』・・・ですよね。」
なみがメタモルVを見て呟いた。 だが桜子の目線はメタモルではなく、メカ貴族ダンディー男爵の方であった。
「貴様を銀河保護条例に従い、逮捕する!!」
宇宙刑事シャトナーが捕らえようとするが、ダンディー男爵は煙幕を張って逃げていった・・・
だが、桜子はシャトナーが言った言葉を聞き逃さなかった。
「銀河条約・・・って事は、宇宙人のメカやなぁ・・・」
爛々とした目をしている桜子に、なみは「桜子さん・・・怖い・・・」と、引いていた。
やがて、メタモルもシャトナーも引き上げていった。 二人がいる事も知らず、変身を解いたメタモル達が小学生に変貌した事になみは驚いていたが、桜子にはそんな物目に入らなかった。 誰もいなくなった所で、戦いの現場をまるで警察の鑑識のような目で物色していた。
「・・・あったでぇ♪」
まるで、真新しいオモチャを買ってもらった子供のような満面の笑みを浮かべる桜子。 彼女の腕の中には、幾つかの機械部品が・・・
それは勿論、今の戦闘で破損した、メカ貴族ダンディー男爵の身体を構成している部品類であった。
「みてみい、なみぃ! このレンズ!外郭との継ぎ目が全く無い! それにこの外装の一部ぅ・・一見、金属みたいやけど、こんなに柔軟性がある! こいつは掘りだしモンや! 凄い御宝やで!」
嬉々とする桜子。 なみはかける事が見つからない。 まあ桜子が喜んでいるのだろうから、良い事なのだろうと解釈した。 事実、彼女の目から見ても、それらの部品類は「詳細不能」と言う物であったし・・・
そして・・・回収したジャンクを売り出した結果、桜子が予想した通り、ダンディー男爵の部品は、たったあれだけの量にも関わらず、非常に高値で買い取られた。 それは爆田軍団のロボットのジャンクに比べて10倍近い金額で、桜子に言わせれば、「DOLLファイト4、5回分の金額」だそうだ。
宇宙人の部品と言う事で、様々な研究機関が高値で引き取ってくれたのだ。 桜子はニンマリと笑みを浮かべた。
「なあ、なみ。 たったあれだけの部品でコレだけの値が付いたんや。 もっとあったら爆田軍団とは比べ物にならんくらいの値になるで。」
ドリル堂に戻った桜子は、なみにまるで獲物を狙う肉食獣のような目を向けた。メガネが爛々と輝いているし・・・
「・・・た、確かに・・・」
「そこでや・・・あのメタモルVっちゅう連中、見張っとけば、おのずとあのメカ貴族、また現れるんちゃうか?」
そう言いながら、ゴソゴソとなにか工具類を取り出す桜子。 その様子に何かイヤな物を感じるなみ。
「あんな電池駆動のフリーターでも戦えるっちゅう事は、DOLLでもいけるんちゃう?」
妖しく輝く桜子のメガネ。 工具類を手に、まるで女性を襲おうとしている痴漢の様に、なみににじるよる桜子。
「貴族にはメイドが付き物やろ? さあ、なみぃ・・・お腹の子供の為や。 脱いで・・・」
「ほ・・・本気ですか? 桜子さん・・・」
冷や汗を流し、壁に貼りつくなみ。 その表情はこわばっている。
「はよ脱ぎ・・・アイツぶっ倒して、ぎょ〜さん稼ご・・・。そしたらあの人の保釈金も払えるし、ええ弁護士も付けてやれる・・・」
「ご・・・ご主人様のためですかぁ?」
「せや・・・はよ脱ぎ。 あの人と子供の為に・・・今一度・・・。それにあの人おらんのに、そんなH用のパーツ付けっとても意味無いやろ・・・」
「こ・・・このパーツは、桜子さんが付けたんじゃないですかぁ! 夜寂しいからってぇ・・・」
「もうええんや・・・さ、はよ脱ぎ。」
そして・・・路地裏のジャンク屋、ドリル堂から美少女のか細い悲鳴が響いた・・・
「これは・・・」
イダテンに案内され、長船が見たのは間違い無く24世紀の傭兵部隊、通称『サイバーナイト』達の母船。 強襲揚陸艦ソードフィッシュのグレーの300m近い船体であった。
東京の地下深くの帝国華激団の物と推測される謎の大空洞の一角に、ソードフィシュは、以前長船が大正時代で見掛けた時と同じ姿で鎮座していた。 この大空洞の中でもこの区画だけ、周囲を強固な隔壁で覆われ、ざっと見渡してもサッカーの公式戦が出来そうなぐらいの広さがある。
「間違い無い・・・どう見てもソードフィッシュを隠すためのものだ・・・」
長船はそう確信した。 そうでなければ、あの巨大過ぎる空洞の中に、ここだけ仕切る必然性が無いからだ。
船体の廻りを金属製のやぐらで囲まれ、船体後部にパイプのような物が取って付けられていた以外は、何も変わらない姿であった。
船体の各部に補修した後や弾痕などがある姿に、この船が第一線で活躍していた戦闘艦であった事の証明。 それがこうしている姿は、何か悲しげな雰囲気がした。
「ほらね。 水道と電気はここから引っ張ったんダス。 オーナーがこの船を封じていたこの区画から、配電盤みたいなの見つけて、そこから拝借してるんダス。」
そう言って、イダテンが壁の隅を指差す。 そこにはソードフィッシュから何本かコードが繋がっており、この船を封じているこの区画の壁と繋がっている。
「どうりで、この区画だけは電気が生きてるんだな・・・」
そう・・・この区画だけは、イダテン達がスイッチをいれると照明がついたのだ。 ソードフィッシュから電力を得ているのだろう。 流石にこの地下空洞全体を賄えるほどの電力はない。恐らくソードフィッシュを封じているこの区画のみを重要視しているようだ。
その証拠に、この区画に入る直前。分厚すぎるほどの隔壁に道が閉ざされていた。 イダテンを雇ったオーナーは、この隔壁の隅に非常用の出入り口を見つけ、そこに持参していた電源を繋いで、そこだけ開放して内部に侵入。 このソードフィッシュを見つけたそうだ。
「その非常口だけでも、複雑なセキュリティとトラップが仕掛けられてて、入るのに1週間掛かったダス。」
その後、雇い入れたイダテン達から、この宇宙船が仲間の物であると説明され、物色を取り止め、電気と水だけを拝借しているそうだ。
オーナーに言わせれば、日本での活動拠点と寝泊りする場所が得られれば良かっただけであって、未知のテクノロジーの塊であるソードフィッシュは、都合良く電気と水を確保できる物としか映っていなかったそうだ。
「手間を掛けた甲斐があるシロモノだったぜ」と、オーナーは笑っていた。
「中には入れたの?」
尋ねるとオーナーは首を振った。 入り口らしき物は幾つか見つけたか、強固に封じられセキリュティも隔壁の非常口とは全く違う物だ・・・と答えた。
「そうでしょうね・・・。このパイプも配電盤に繋がってるコード類も、この船とは技術体系が全然違うもの。 あきらかに『どうにか』付けた感じが拭えない物。 よく何十年も持ったわね・・・」
彩がソードフィッシュを観察して、そう冷静に言った。 だがその反面、顔は輝いている。 見れば宮乃など、じっとしていられないらしく、やぐら使って、あちこちに登りあれこれ観察していた。
「長船さん!お姉ちゃん! この船、生きてるよ!!外部メンテハッチみたいなの見付けた!」
船体後部を調べていた彩がそう叫んだ。 それはそうであろう。でなければイダテン達が電源を利用できるわけが無い。
「恐らく、あの外へ通じてるパイプからソードフィッシュに恒久的に燃料が流れる様にしてあるんだ。 エンジンの超伝導体さえ無事なら、少なくとも動力だけは生きてる筈だ。」
船体後部へ繋がるただ取って付けたようなパイプ。 そこから燃料タンク・・・もしくは動力系統に直接燃料を流せる様にしてあるのだ。
「この船の燃料って?」
彩が尋ねると、長船は「水だ」・・・と答えた。 彩が「核融合?」と聞くと長船は首を横に振って否定。 「モノポールエンジン・・・単一磁極粒子を用いた、あらゆる物質を陽子崩壊させてエネルギーに変換する、熱核反応炉だよ。 この時代じゃあSFの域を出ないがね。」と、苦笑した。 長船も詳しい事は知らない。大正時代にソードフィッシュのクルーから、そう教わった程度の知識なのだ。
「保存状況さえ良ければ、エンジンの超伝導体は200年以上持つ・・・と、クルーは言っていた・・・。なら、この封印状態さえ確かなら、この船は生き返る事は出来る。最低でも・・・MICAさえ無事なら!」
長船はやぐらを登り、搭乗ハッチに手を掛けた。 村正姉妹とイダテン達も続く。
「この状態は、明らかにソードフィッシュを封印し、保存させている! なら!この状態にしたのは何らかの意味がある筈なんだ!」
そう言って、ハッチに手を掛けるがびくともしない。 オーナーが船内に入れなかったのはセキュリティが強固なせいだった事を思い出した。
「くそ・・・」
歯を噛み締める長船。 そこに彩が「代わってください」と言って割り込み、搭乗ハッチ横にあるパスワードなどを打ちこむパネルを覗きこんだ。
「・・・・いけるかも」
彩の言葉に長船は「本当かい!」と詰め寄った。 彩に言わせれば、この手のセキュリティは殆ど万国共通らしい。 24世紀の技術だろうと、技術体系が違うだけで基本的には同じような物・・・と推測した。 宮乃も同意見だ。 船体に使われている素材などを見てみても、確かに未知の金属だが、使われてる技術は今のものと同じような部分が多いと言う。 ビスなどの物も、素材が違うが形も使われ方も同じだと・・・
「別に宇宙人の物って訳じゃないし、同じ地球人の物なら・・・」
そう言って、ポンポンとスイッチ類を押していく。 どうやら非常用の電源は確保されてるらしい。 パネルに光がともった。
「言語も同じ・・・これなら!」
ディスプレイに表示された文字を見て、彩はやれる!と確信した。 その様子を見て、長船はこの時だけでも彼女達をパートナーにして良かったと思った。 自分ならこうも手際良くいかないだろう。 恐らくガルファーの力を使い、マイクロマシンの力で無理矢理・・・と言った所だ。 そう思うと苦笑するしかない。
「パスワード入力? やっぱりあったか・・・よし!」
ディスプレイに表示されたのは、「パスワードを入力せよ」と言う物だった。 彩に言わせれば、これさえクリアーできれば中に入れるとのことだった。 勿論パスワードなど知るはずも無い。 彩は携帯型端末を取り出すと、パネルの一部を外し、端末のコード類を直接端末に繋ぎ始めた。 その様子を見て長船は、スパイで通用するな・・・と、感じた。 恐らく彼女のサポートがあれば、今後機械関係で困る事は無いだろう。
「・・・一度改変されてる?」
彩が口走った言葉に長船は「どう言う事だ?」と尋ねた。 どうやら本来のパスワードから、新たにパスワードを設定しなおしたらしい。 その内容だけが、この船のメインのコンピューターに接続しないと得られない・・・と、彩は悔しそうに言った。 だが、長船には何か感づく物があった。 本来のパスワードから改変された・・・それは改変する必要に迫られて・・・つまり、この船を管理している人達が何らかの理由で、この船から離れなくてはいけないから・・・その間、この船を他者に使わせないため・・・
「改変されたのは、日付は解るかい?」
「え?それは・・・解りませんけど、状況から推測して、この封印状態にした直後くらいかな?」
彩の言葉に長船は確信した。 パスワードを改変したのは、この船を封印する必要に迫られた為だ。 その間、この船の存在を知る者以外に使わせないために・・・
長船は彩に、パスワードを入力してくれと言った。 困惑する彩だが、長船を信じパネルに向き合う。
「いいかい・・・俺の推測が正しければ、パスワードは・・・」
一瞬黙り込む長船。 躊躇しているのかもしれない。だが、意を決した。 恐らく間違い無い筈だ。
「『勝利のポーズ 決めッ』だ。」
プシュー!!と言う音と同時に、重い金属製のドアは開いた。 何十年ぶりに強襲揚陸艦ソードフィッシュは、内部に人を招き入れたのだ。
「はあ〜♪ これが24世紀の宇宙船の内部〜♪」
村正姉妹がうっとりするような顔で船内を眺めていていた。 長船にしてみれば一月ぶり程度だが、この船にしてみれば何十年ぶりだろう。
「何も変わってない・・・コマンダー・・・」
長船は思わず、この船の副官・・・否、艦長代理であったブレイドの事を思い出していた。 常に冷静で部下を思いやる・・・指揮官の御手本のような男の事を。
「ブリッジに行くぞ! MICA・・・MICAさえ無事ならっ!!」
祈るような思いで長船は駆け出した。 船内図は把握している。迷う筈が無い。 村正姉妹とイダテン達も後に続く。
駆け出している時に、宮乃が「MICAって?」と、聞くと、長船は「この船の人工知能だ。」と答えた。 そう・・・船内に誰もいなくなっても・・・コンピューターであるMICAだけは別だ。 MICAさえ無事なら、一体何が起きたのか解る筈なのだ。
「はやり・・・誰もいないか・・・」
ソードフィッシュのブリッジには、幾つかの非常灯が点いている以外は沈黙していた。 気落ちしている長船とは違い、村正姉妹は別の意味で落胆していた。
彼女達はブリッジと聞いて、SF映画やアニメに登場する宇宙戦艦のようなブリッジを予想していたのだが、現実にはジャンボジェット等の操縦席をだだっ広くしたような雰囲気に、拍子抜けした。 勿論宇宙戦闘艦らしく、艦長席らしいシートがブリッジ後部に備え付けられているし、メーターやモニター、レーダー類は把握しやすい様になっているが、アニメに登場するような雰囲気とは異なっていた。 外観からソードフィッシュがスペースシャトルに似ていたのでもしかして・・・と、思っていたのだが、こうまで予想と違うと、ちと拍子抜けする。
「MICA! 答えてくれ!MICA! 俺だ!備前長船だっ!!非常電源が生きてるなら、お前も起きてる筈だろう!?」
長船は沈黙したままのブリッジで叫んだ。 だが何の返答もない・・・やはり非常電源だけではMICAは起動していないのか・・・
「くそっ!メインエンジンが壊れてても、サブエンジンは全部無事だった筈だ!! ジャンプジェネレーターからも動力系にエネルギーを回せる筈だっ! くそっ!どれだっ!?」
闇雲に手元のコンソールを叩く長船。 だが、機械はどれも反応しない。
そんな時だった
ビインッ!!──ブリッジの一部に光がともった。 そして次々に計器類に光が宿る・・・・
「!?」
見れば、彩がキャプテンシートに座り、あちこち計器を操作している。 呆気に取られている長船やイダテンを無視して、彩は専門用語らしい言葉で宮乃に指示を送る。 指示を受けた宮乃はてきぱきとオペレーター席に座り計器類を操作していく・・・
「メインエンジンは・・・二基ともダメなの・・・。サブは・・・あっ!長船さんが言ったとおり生きてる。 でも・・・出力が足りないなぁ・・・」
彩がキャプテンシートのモニターに表示された図面を見てそう言った。
「サブの4基をスターター代わりにして、ジャンプジェネレーターを動力代わりにしようよ。別に空飛ばすわけじゃないし。基地として使うならそれで十分だよ。燃料だけは満タンだしね♪」
宮乃の意見に彩は頷いた。
「そうね。あ・・・船体下部のVTOLエンジンは生きてる♪ これの出力を併用すれば船内の機能は生き返る。」
長船には、二人が何を話しているのか解らない。 どうやら二人は、この短時間でブリッジコントロールを把握してしまった様だ。
「おまえ等・・・どうやって?」
すると、彩が何か、本のような物を長船に見せた。 それは・・・・タイプライターと手書きの紙のマニュアルだった。 文字にやたらカタカナが多いのは大正時代に書かれた物だからだろう。
「ソードフィッシュの・・・ブリッジコントロール用のマニュアル!? 最低限度の操作方法が書いてある!?これは・・・」
「キャプテンシートのバケットに入っていたの・・・。 とても解りやすく・・・。」
「コレを見て操作したのか・・・。にしても、どう言う事だ?ソードフィッシュのマニュアルが紙で・・・しかも大正の言葉で・・・」
長船は、ページを捲りつづけている内に、最後のページで手を止めた。 身体を小刻みに震わせて最後のページを凝視している。
「?」と、思った彩が覗きこめば、そこには『未来の仲間に希望を託す』と書かれていた・・・
「・・・・・・・・私は・・・強襲揚陸艦ソードフィッシュ・・・人工知性−Machine-Inteligence-for-Conbat Advice・・・・通称:MICA・・・」
灯りが灯ったブリッジ内が生き返ると同時に、どこからか若い女性の声が聞こえてきた。 村正姉妹が少しキョロキョロしたが、すぐに何の事かを把握した。
「・・・・お久しぶりです。 長船さん。 それと・・・イダテンさん、アドンさん、サムソンさん。 初めての方が3名ほどいらっしゃいますね。 はじめまして、私はこの船の人工知性MICAです。」
「あ・・・はじめまして、村正彩です。 こっちは妹の宮乃。 長船さんのパートナーです。」
二人が正面モニターに向け頭を下げた。 その様子に長船は苦笑した。 すると、イダテン達がむせび泣いていた。
「おお・・・・オラ達まで覚えていてくれてるとは!うれしいダスッ! あ・・・この方は、オラ達のアルバイト先のオーナーダス。」
気付けばオーナーまでいっしょに来ていた。 オーナーはHAHAと笑いながら会釈する。 相手がコンピューターでは商売にならないだろうから、挨拶は軽めだ。
「とにかくMICA、一体全体どうなっているんだ? 何故ソードフィッシュがこんな地下に封印されているんだ? それにあの地下空洞、翔鯨丸用にしては広すぎるし、本部や花やしき支部の痕跡がまるでない!」
矢継ぎ早に質問を繰り返す長船。 とにかく知りたい事ばかりだ。 勿論人間なら、「質問は一つづつにしてくれ」と言うだろう。 だがMICAは、コンピューターだ。 その返答の答えはすぐに出せた。
「その質問にお答えするには、まず貴方がたにメッセージを聞いていただく必要があります。」
「メッセージ? 誰の?」
「花小路伯爵からのメッセージです。 帝国華激団全滅に、政府が決定した帝都大消滅の直前に作られたメッセージです。」
その言葉に長船の表情が変わった。
「ちょ!ちょっと待ってくれ!! 今、帝国華激団全滅と言ったな!!」
「はい。帝国華激団花組は、大正12年2月某日、降魔本拠地、通称『聖魔城』攻略作戦で全滅しました。」
その言葉に長船はあやうく気を失いそうになった。
帝国華激団全滅!! 現代に魔物が存在しているのは、帝国華激団が敗北したからだ!!
「事の始まりは、黒之巣会幹部、『葵叉丹』による降魔復活によります。」
「あの流し目兄ちゃんか・・・生きてやがったんダスか・・・」
MICAは、事の詳細を語り出した。 その内容は正確すぎて、大正時代の出来事を知らない村正姉妹やオーナーの表情まで曇らせた。 特に実際、大正時代で運命を共にした仲間達の最後を語られる長船は沈痛な面持ちだった。
MICAの話を要約すると以下のようになる。
──大正12年、葵叉丹は降魔を復活させ、新たに帝都侵攻を開始した。 そもそも叉丹が黒之巣会に組していたのは、歴史に葬られ、東京湾に沈んだ魔の土地『大和』、そして降魔本拠『聖魔城』復活にあった。
黒之巣会首領、天海の力を利用し、帝都に封じられた魔の力を復活させ、降魔を呼び寄せる・・・それが叉丹の目的であった。
新たな脅威、降魔に対し、帝国華激団は新型霊子甲冑『神武』を持って、これに対抗。 数度による帝都防衛に成功する。
だが、ここで思わぬアクシデントが発生する。 帝国華激団副司令「藤枝あやめ」少佐の造反である。
ここで造反と言う言葉を使うのは正確ではない。 だが便宜上、そうさせていただく。 詳細はどうであれ、藤枝副司令が降魔側に付いたのは、紛れもない事実であるからだ。
正確には、藤枝副司令が、上級降魔「殺女」であった事だ。
葵叉丹ならびに降魔に接触した為か、詳細は不明だが、藤枝副司令は軍内部でも最高機密『魔神器』と称される、魔を封じる古の祭器を帝劇本部より強奪。 その後、上級降魔『殺女』へと変貌を遂げた。
魔神器を入手した叉丹は、これを用い大正12年2月に、『大和』ならびに『聖魔城』を復活せしめた。
これに対し、帝国華激団は、最終兵器『聖龍計画・空中戦艦ミカサ』を発進。 聖魔城へ帝国華激団花組を突入させた。
聖魔城攻略戦において、花組は上級降魔ならびに殺女・葵叉丹の撃退に成功したものの、隊長大神一郎少尉以下、花組隊員全員の殉職を確認。 真偽は不明だが全員が、相打ちに近い状態であったと言う報告あり。
聖魔城最終兵器『霊子砲』発射に対し、ミカサ艦長兼帝劇司令米田中将は、聖魔城への特攻を敢行。 これにより聖魔城および霊子砲沈黙。 大和も東京湾に沈んだ。
だが、残存降魔の大攻勢による帝都攻撃により、帝国華激団月組・風組・夢組壊滅。 サイバーナイト並びに帝国陸海軍も太刀打ちできず敗北。
この降魔の大攻勢に対し、対抗手段を失った政府は、緊急非常処置として、帝都全ての蒸気機関を暴走。 大規模な水蒸気爆発による『帝都大消滅』を実行。 これにより帝都東京と引き換えに、降魔の約98%が消滅。 一応の決着を見る事となる。
その後の事は、長船達にも容易に予想できた。 降魔は倒したものの、結局全滅させる事は出来なかった。 勿論表立って行動するだけの力が残っていなかったのは明らかだが、いつ行動を再起してもおかしくない状況である。 人々は見えぬ『魔』の恐怖に取りつかれたままである。 そんな人々の恐怖心に付けこんで、『悪』が跋扈する事は容易な事である。
また、人々に『魔』に対する抑止力や抵抗力を失ってしまった事も原因の一つだ。 花組隊員『真宮寺さくら』が殉職した為に、魔を封じる『破邪の血統』が途絶え、魔に対する最終手段すら存在しなくなってしまったからだ。
それからHUMAが現れるまで、人々は恐怖に怯える日々が続いたのだ・・・
「解った・・・ありがとうMICA。 この大空洞も理由がわかった。 その空中戦艦ミカサのドックだったんだな・・・」
「そうです。 勿論、ここは氷山の一角にしかすぎませんが。」
そう言って、MICAはミカサの図面を見せてくれた。 全長8000mもの巨大戦艦。 これだけの物を用いても倒す事が出来なかった『魔』・・・長船の心に重い物があった。
「じゃあ、頼めるかい? その・・・花小路伯爵のメッセージを・・・」
「はい。 では、再生します。」
MICAの言葉が終わると同時に、正面モニターに、初老の紳士の姿が映った。 場所は・・・どうやらソードフィッシュのブリッジらしい。 長船にとっては懐かしい顔・・・帝劇の最大の支援者、花小路伯爵の姿だ。
「・・・このメッセージが数十年も長持ちするとは驚きだ・・・。 この記録をMICA君に記録してもらえば、失われる事はまず無いだろう・・・」
どうやら、緊張しているのだろう。 記録映像自体には慣れているのだろうが、これほど緊張しているところを見ると、よほどの事らしい。
「この映像を見ている者が、我々の仲間・・・意思を継いでくれると硬く信じて、このメッセージを残す事にする。 ソードフィッシュのメンバーの仮説が正しければ、長船君たちが自分のあるべき時代に戻った事を信じる・・・、出来ればこの映像を見ている者が長船君たちであって欲しい・・・」
その言葉に、長船は「伯爵・・・」と、拳を握り締めていた。
「数時間前、帝国華激団ならびに花組が全滅したとの報告が入った。 降魔本拠は落ちたものの、主と帰るべき家を失った生き残りの降魔達が帝都に大攻勢をしかけている。 花組を失った我々にはもう打つ手は残されていない。 これにより政府は、帝都中の蒸気機関を暴走させて帝都ごとヤツラを葬る気だ。 だが・・・ここで帝都を消滅させても、降魔を全滅させる事は恐らく出来まい。」
映像の伯爵は悲しげに首を垂れた。
「恐らく降魔は生き残る。そして、必ず近いうちに魔は動き出すだろう。 帝都を消滅させても、それは所詮一時しのぎにしかすぎん。」
「つい先程、サイバーナイト・・・ブレイド君たちも全滅したと知らせがあった。 霊力の無い彼等もここまで持ちこたえたと、称えてやりたい。 だが・・・最後まで生き残る事、元の時代に戻ることに執着していた彼等の事を考えると・・・・不憫でならない・・・神を信じない彼らだが・・・せめて・・・冥福を祈る事はさせてくれ。」
そう言って、伯爵は静かに手を合わせた。 無神論のサイバーナイト達に祈りが通じる事は無いだろう。 だが、彼らを思う気持ちだけでも・・・と、伯爵は手を合わせた。
「もう、ここが帝劇が陥落する事は間違い無いだろう。 そこで我々は、政府とは関係無く独断で最後の足掻きを行う。」
そう言うと、モニターから伯爵の姿が消え、ソードフィッシュの廻りに沢山の帝劇関係者やソードフィッシュの残存クルー達が慌しく作業している姿が見える。 そして・・・ソードフィッシュの船腹ハッチから、何かを大量に運び入れている様子が映る。
「我々は最後まで帝都と共に戦うつもりだ。 だが敗北するだろう。その為に、未来の仲間達に我々・・・華激団やサイバーナイトの全てを受け継いで欲しい! 未来に全てを託す為に!」
また画面が切り替わる。 そこはソードフィッシュの倉庫スペースだ。 中にはぎっしりと資料や武器・・・霊子甲冑『光武』『神武』が積みこまれていた。
「我々が魔に対するための戦ってきた記録や資料を積めるだけ積んだ! 未来で、これらがどれだけ役に立つか解らない。だが、我々が戦ったと言う証にはなる。これが・・・我々の最後の足掻きだ!」
そう言うと、また伯爵の顔に戻った。
「これから、このソードフィッシュをシリウス鋼の隔壁で永久封印する。 さらに地下最下層の上水道からソードフィッシュのエンジンへ恒久的に水を流し込める様にしておいた。 かなりの確立で、この船は生き残る事が出来るだろう。」
そう言って、伯爵は決意を固めた厳しい目でこちらを見つめていた。
「どれだけ未来になるか解らない。 だが!決して人間は魔に屈してはならない! 脈々と受け継がれてきた人々の歴史を・・・幸せを・・・そして希望を絶やしてはならないのだ!!」
「最後になる・・・このメッセージを受け取った者達よ! どうか立ち上がってくれ!! 希望を・・・未来への希望を絶やさないでくれ!!」
「映像は以上です。」
MICAの言葉に、長船は黙って立ち上がった。
「彩、この船の通信装置は使えるかい?」
「え? ええ・・・使えるけど・・・」
「御剣博士に連絡を取ってくれ・・・。大いなる遺産を受け取りに来てくれと・・・」
長船は涙を流していた。そして大声で叫んだ。
「メッセージは確かに受け取りました!! 受け継ぎます!!貴方がたの意思を!」
そう言って、先程まで伯爵が映っていたモニターに敬礼する長船。 その敬礼は警察のではなく、陸軍式のものであった・・・
「成長・・・。なんて清々しいの! 今まで悩んでいたのが嘘みたい!!」
青い婦警・・・・決してミ○スカポリスではないが・・・それっぽい衣装を見に付けた女性が、パワーアップしたメカ貴族ダンディー男爵の前に立ちはだっていた。
彼女の名は『メタモルブルー』。 休職中であった『佐山捺紀』が変身した姿だ。 パトライト付きの肩当に記された「02」の文字が、彼女がサブリーダーである事を現している。
「佐山捺紀・・・メタモルブルー!本日現時刻を持って、職務に復帰します!!」
明るい笑顔と、引き締まった言葉が彼女の生真面目さを表している。 その言葉にメタモルレッドが微笑みで返礼する。
「リーダーとして認める!! 宜しくね!ブルー!!」
5人揃った・・・・メタモルV。 最後まで復帰を拒みつづけた捺紀であった。 初代レッドを負傷引退させた事に責任を感じ、成長する事を・・・戦う事を拒みつづけた。
だが、2代目リーダーである咲恵は、彼女を説得しつづけた。 他にブルーは存在しないと! そして・・・彼女を倒してでも復帰してもらうと、体当たりの説得を続けたのだ。
そして・・・アドニス一派の家臣、メカ農民グミーンに、咲恵が襲われそうになったとき、彼女はとっさに返還しようとした、ブルーの武器『サーベルガン』を用い、咲江を救った。
その事が彼女の頑な心の壁を壊した。 自分はやはりメタモルVだと・・・
そして・・・新たに強化され、小学校にやってきたダンディー男爵の前で、彼女はブレスを掲げたのであった。
5人揃えば、怖い者は何も無い!とばかりに、ダンディー男爵の前に立ちはだかる5人。 そして・・・以前、ガルファーやディバンを交えての変則戦隊ポージングも、今回に至っては・・・
「メタモルレッド!」 「メタモルブルー!」 「メタモルイエロー!」 「メタモルブラック!」 「メタモルパープル!」
「地球を守る成長ヒロイン!! 我等、秘密戦隊!」
『メタモルVっ!!』
と、5人揃ってVサイン。 バックの色付きの煙幕が良く似合う。
さしもの、ダンディー男爵も茫然と見惚れるばかり・・・
「ぜ・・・全員見てしまった・・・」
「ねえ!カラードジェネシスってのをやろうよ!」
「ダメよリーダー。 カラードジェネシスは、相手が弱ってないと使えないのよ。」
ブルーがそう言うと、イエローがウインク一つ♪
「そう言う事。 まずは正攻法ね♪」
「よおし・・・」
レッドが剣を構え、ダンディー男爵に向かい合う。 対するダンディー男爵も杖を身構える。 強化された身体に自信があるのか、大またで間合いを積めようとする。
「地球の童どもよ・・・我が当主、アドニス様の御力により、強化された私を以前の様に思っていると、痛い目をみるぞよ!」
「そか! ほなら、よほどええメカつこうとんやね♪」
「当然だ! 私は貴族!安物は使わん・・・って誰だ!?」
ダンディー男爵が声のした方に振り向く。 そこにはニヤニヤと笑みを浮かべ、電卓を持ったメガネを掛けた女性の姿が。
「アンタの身体・・・エエ値で売れたんよ♪ せやから・・・ウチと、ウチの子供のメシの種になってんか?」
そう・・・まるでダンディー男爵を値踏みするような目で見つめる。 その女性はドリル堂、女主人の桜子の姿であった。
「貴様ぁ!貴族の身体を売り物にしようと言うのか!? あきんどの分際で!」
「あきんどやから、アンタの価値が解るんや! アンタ・・・自分が思うとる以上に高値なんやで! それこそアンタ一人でウチの年収軽く超えるで!」
その言葉にワナワナと身体を震わせるダンディー男爵。
「言わせておけば・・・貴様が我に買われると言うならまだしも! 貴様のような平民が、我を買うだと・・・」
許せんっ!!と、ばかりに杖を振り上げるダンディー男爵。 危ないっ!とメタモルVが駆け寄ろうとするが・・・
「こんといて!」
桜子一喝! その目は本気だ。
「お嬢ちゃん達には解らんと思うけどな、ウチが・・・ウチと子供が食べていくには、コイツが必要なんや!何としても売り飛ばすっ!!」
その真剣な目つきに5人揃ったメタモルVですら圧倒される。 たかが女性一人にこれほどの力があろうとは・・・
「貴様・・・どうしても、我を売り飛ばすと言うのか?」
「せや! アンタの身体・・・決して安う無い!無駄にはせえへん!」
「貴族を馬鹿にするにも程が・・・」
ダンディー男爵の口が赤く光る・・・ダンディー男爵の武器『マウスアロー』の発射態勢だ。 だが桜子臆す事無い。
「馬鹿になんかしてへん! ウチは真剣や! そや・・・アンタ貴族や言うたな? ほならウチと一勝負せえへんか? 決闘は貴族のたしなみやろ?」
「決闘だと?」
「そや! ウチが買ったらアンタの身体はウチの物。 アンタが買ったら・・・ウチの事好きにしてもええ。これでええやろ?」
無茶だっ!というメタモル達の言葉に耳を貸さず、桜子は腕につけていた軍手をダンディー男爵に投げつける。 決闘の合図のつもりらしい。
「面白い・・・あきんどが我に決闘を挑むとは・・・貴様の身体なぞに興味は無いが・・・身分の差と言う物を教えてやるわ!」
成立やな・・・桜子は笑みを浮かべた。
「決闘の方法は? 貴様に決めさせてやる。」
勝った気でいるのか余裕のダンディー男爵。 すると桜子、ニヤッと笑った。
「余裕やね・・・ええで、勝負の方法は、ガ○ダムファイトじゃなかった・・・DOLLファイトっ!」
その言葉に困惑するダンディー男爵。 それを無視して桜子は右手の指を高らかに鳴らした。
「出やぁ!なみぃぃっ!出番やでぇぇぇっ!!」
ズゴゴゴ・・・・と、小学校のグラウンドに地響きが響く。 そして、校庭の一部がモコ・・・と盛りあがったと思うと、土の中から土煙の竜巻が現れた。
「な!なんだっ!!」
驚くダンディー男爵。 土煙の中、桜子だけが笑っていた。「貴族のアンタにぴったりの相手やで」と・・・
「銀の螺旋に思いを込めて・・・」
土煙の中から、少女の声がした。 良く見ればロングヘアーの美しい少女のシルエットが・・・
「唸れ、正義の大回転!」
甲高い金属系の回転音が耳を裂く。 やがて土煙が晴れると、鋭い切っ先を持つドリルが見えた・・・しかしおかしい、そのドリルは少女・・・メイド服を着た少女の右腕に・・・
「ドリル少女、スパイラルなみ!ご期待通りに只今参上っ!!」
ダンディー男爵はおろか、メタモルVもシャトナーすら目を見張っている。 彼等の目の前にいるのは右腕に光り輝くドリルを有したメイド少女だったのだ!!
「さあ!いきますよっ!!」
次回予告
メイドVS貴族!! 使われる者と使う者との対決! 果たして勝敗はどっちに!? そしてメタモルVは、カラードジェネシスを使えるのか?
一方、長船は帝劇とサイバーナイトの遺志を継ぐべく、ソードフィッシュの移送作業だ! でも、動かない宇宙船をどうやって動かす? それは・・・アレしかない!!
さらに、怪生物軍団に新たなヒロインが立ち向かう! 月に変わっての御仕置きだ!?
次回、サイバーヒーロー作戦第十四話 「メイド対貴族! ムーンライトレディ登場」に月からメッセージ。
長船「ドジっ娘の月・・・メガネっ娘の水・・・強気少女の火か・・・昔・・・流行ったよなぁ。」
麗子「何か言いたそうね」 綾「私もそう思います」 日代子「え?なにが?」
長船「セーラー服じゃないだけ・・・」
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